説明

ナノファイバー混繊糸

【課題】繊維および繊維製品形状やポリマーに制約が無く、耐久性と品質の劣位を克服し、さらに形態安定性と開繊性にも優れた広く応用展開可能なナノファイバー混繊糸を提供する。
【解決手段】ナノファイバー混繊糸は、平均単繊維直径が900nm以下のポリエステル樹脂ナノファイバーと平均単繊維直径が50nm以上900nm以下のフッ素樹脂ナノファイバーからなるナノファイバー混繊糸である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来には無かった開繊性の優れたナノファイバー混繊糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単繊維直径が数マイクロメートルの極細繊維(マイクロファイバー)は、布帛にした際に繊細かつソフト感のある風合いを呈するため、スエード調布帛やワイピングクロスとして広く用いられている。特に、マイクロファイバーを容易に製造する手法としては、易溶解性ポリマーからなる海成分中に難溶解性の島成分を含有する海島型複合繊維や、難溶解性のマイクロファイバーが易溶解性ポリマーで仕切られた割繊型複合繊維の利用が広く知られている(特許文献1および2参照。)。これらの手法は一度、複合繊維として巻き取った後、溶解剤に複合繊維もしくは布帛製品を浸漬させることにより易溶解性ポリマーを除去し、難溶解性のマイクロファイバーを得ることが可能となる技術である。
【0003】
近年では、さらに繊細な肌触りやソフト感を追求して単繊維直径が1マイクロメートル以下となる超極細繊維(ナノファイバー)が提案されている。ナノファイバーは、繊維直径のスケールダウンによる極限のソフト化のほか、単繊維群の比表面積や空隙率が飛躍的に増加することによるナノサイズ特有の効果も示唆されていることから、マイクロファイバー以上の展開可能性を秘めており、早期の研究、開発および安定的製造が求められている。
【0004】
ナノファイバーを製造する方法の一つとしては、エレクトロスピニング(ESP)法が提案されている。ESP法とは、樹脂を溶質として含有する溶液に電圧を印加しながら電界中に放出することにより、ナノファイバーを取り出す製法(特許文献3参照。)である。しかしながら、このESP法では、放出されたナノファイバーは長繊維として採取することが難しいため、用途はフィルター等の不織布に限定されてしまうほか、繊維径や配置の制御も困難であることから、衣料用途には適さないという課題があった。また、このESP法では、高電圧が必要であることや、溶媒が常に揮散した状態になることから、感電、中毒および引火と等の危険が伴うという問題もあった。
【0005】
ナノファイバーを製造するその他の方法としては、ポリマーブレンド技術とポリマー溶解除去技術の組み合わせによる、バンドル状ナノファイバーの製造方法が提案されている(特許文献4参照。)。この提案により製造されるナノファイバー自体は短繊維ではあるが、短繊維からなる集合体を成しているため長繊維状糸条として織物や編物のような布帛製品とすることも可能である。しかしながら、この提案では、ナノファイバーおよび集合体の長繊維状糸条径の制御が困難であることや、短繊維の集合体であるゆえに強度が低く、フィブリル化や脱落により耐磨耗性が低く、布帛製品として実用的でないという課題があった。
【0006】
上記の従来技術で問題となっている耐久性と品質の劣位を克服し、織物や編物にまで適用しうる長繊維ナノファイバー開発の手段として、近年では海島型複合紡糸技術の深化が盛んに行われている。
【0007】
ここで、長繊維ナノファイバーを得るための方法として、海島型複合繊維を用いる方法がある。すなわち、易溶解ポリマー(海成分)として5−ナトリウムスルホイソフタル酸とポリエチレングリコール共重合ポリエステルを用い、さらに海島型複合繊維中での島成分配置を規定することにより、生産性の高いナノファイバーを製造する方法が提案されている(特許文献5および6参照。)。しかしながら、これらの提案に代表される従来技術に例示されている海島型複合繊維はいずれも海島型複合繊維の単繊維繊度が太く、海島型複合繊維自体を安定的に製造することを重視しているが、海島型複合繊維の単繊維繊度が太い海島型複合繊維においては、ナノファイバーからなる糸条群の品質バラツキが大きくなることや、ナノファイバーに関する既知の技術では海島型複合繊維の生産性と、布帛の品質を両立するのは困難であった。
【0008】
また、ナノファイバーを単独で使用すると単繊維繊度が非常に小さいため、ナノファイバーからなる糸条としての剛性が低く、布帛形状とした場合に形態安定性が悪く取り扱いにくいという課題があった。さらに、ナノファイバー単独からなる糸条では、表面活性が高くなるため凝集を起こしやすく、ナノファイバーとしての特性を十分に発揮することが出来なかった。
【0009】
上記の問題を解決するための方法として、ポリマーブレンド技術とマイクロファイバー製造技術を組み合わせた方法が提案されている(特許文献7参照。)。この提案によれば、ナノファイバーの繊細な肌触りやソフト感が得られ、マイクロファイバーによって布帛形態を維持しつつ、静電反発によってナノファイバーの開繊性を改善することにより実用レベルの布帛を得ることができる。しかしながら、この提案では、マイクロファイバーが入っていることからナノファイバー特有のソフト感が一部損なわれ、繊維素材として用いられるポリエステルとポリアミドでは、静電反発による開繊性も不十分であった。
【0010】
上記の事情から、耐久性と品質の劣位を克服し、さらに形態安定性と開繊性、吸湿特性にも優れた広く応用展開可能なナノファイバーが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−163234号公報
【特許文献2】特公昭48−28005号公報
【特許文献3】特開2007−303015号公報
【特許文献4】特開2004−162244号公報
【特許文献5】特開2007−100243号公報
【特許文献6】特開2007−100253号公報
【特許文献7】特開2005−23466号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで本発明の目的は、上記の課題を克服し、耐久性と品質の劣位を克服し、さらに形態安定性と開繊性、吸湿特性にも優れた広く応用展開可能なナノファイバー混繊糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的は、平均単繊維直径が900nm以下のポリエステル樹脂ナノファイバーとフッ素樹脂ナノファイバーからなるナノファイバー混繊糸により達成することができる。
【0014】
すなわち、本発明のナノファイバー混繊糸は、ポリエステル樹脂ナノファイバーとフッ素樹脂ナノファイバーからなるナノファイバー混繊糸であって、それぞれの平均単繊維直径がいずれも50nm以上900nm以下であることを特徴とするナノファイバー混繊糸である。
【0015】
本発明のナノファイバー混繊糸の好ましい態様によれば、前記のフッ素樹脂ナノファイバーの混繊比率は4〜40質量%である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、耐久性と品質の劣位を克服し、さらに形態安定性と開繊性、吸湿特性にも優れた広く応用展開可能なナノファイバー混繊糸を得ることができる。
【0017】
具体的に、品質については、繊度を細くすることによって繊維長手方向の太さ斑を少なくし、短繊維の集合体で構成されている長繊維状ナノファイバーでは低強度や毛羽立ちの問題を克服することができる。また、吸湿特性については、後述のとおり、ナノファイバー化とすることにより比表面積が飛躍的に大きくなり、さらに開繊性が向上していることでも毛細管現象などの物理現象で吸湿特性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のナノファイバー混繊糸は、ポリエステル樹脂ナノファイバーとフッ素樹脂ナノファイバーからなるナノファイバー混繊糸であって、それぞれの平均単繊維直径はいずれも900nm以下である。
【0019】
本発明で用いられるポリエステル樹脂としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸、更にはテレフタル酸、イソフタル酸、および2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸を主たる酸成分とし、エチレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、およびアルキレングリコール成分から選ばれた少なくとも一種のグリコールを主たるグリコール成分とするポリエステルのほか、脂肪族ポリエステル樹脂であるポリ乳酸も対象とする。さらに、上記以外の第3成分が共重合された共重合ポリエステルを使用することもできる。特に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合成分としたポリエステル樹脂やポリ乳酸はアルカリ水溶液に対する溶解性や分解性が高いため、海成分ポリマーとして用いるのに好適である。
【0020】
また、本発明で用いられるフッ素樹脂は、フッ素を含むオレフィン樹脂であり、完全フッ素化樹脂としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE:四フッ化エチレン樹脂)、部分フッ素化樹脂として、ポリクロロトリフルオロエチレン(三フッ素化樹脂:PCTFE、CTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)およびポリフッ化ビニル(PVF)、フッ素化樹脂共重合体として、パーフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)およびエチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)が挙げられる。その中でも、溶融成形可能なフッ素樹脂のうち、PFA、FEPおよびETFEから選ばれるフッ素樹脂が好ましく、さらにはETFEが好ましく用いられる。
【0021】
本発明で用いられるフッ素樹脂のMFRは12〜35が好ましく、融点は250〜270℃であることが好ましい。
【0022】
上記の熱可塑性樹脂ポリエステル樹脂とフッ素樹脂には、酸化チタンなどの艶消し剤、難燃剤、滑剤、抗酸化剤、着色顔料等として無機微粒子や有機化合物、カーボンブラックを必要に応じて添加することができる。
【0023】
本発明のナノファイバー混繊糸の製造には、溶解剤に対し易溶解性樹脂の海成分ポリマーと難溶解性樹脂の島成分ポリマーからなる海島型複合繊維を前駆体として用いる。両成分ポリマーは互いに非相溶であり、脱海処理時の溶解速度差ができるだけ大きな組み合わせで製糸することが重要である。詳しくは、海成分ポリマーの溶解速度を島成分ポリマーの溶解速度に対して5〜300倍とすることが好ましい。島成分ポリマーが溶解剤に全く溶解しない場合は溶解速度差を5〜300倍とすることで、海成分ポリマーの溶解除去がスムーズに実行され、海島型複合繊維単糸の表面/芯部での島成分ポリマーへの溶解剤接触時間差が少なくなるため、島繊維直径バラツキが小さなナノファイバー単繊維群を得ることができる。溶解速度差のより好ましい範囲は、20〜280倍である。
【0024】
海成分ポリマーの溶解剤がアルカリ水溶液の場合は、海成分ポリマーが共重合ポリエステル樹脂かつ島成分ポリマーがホモポリエステル樹脂、および海成分ポリマーが脂肪族ポリエステル樹脂かつ島成分が芳香族ジカルボン酸からなるポリエステル樹脂などの組み合わせが好適である。
【0025】
本発明においては、ナノファイバー混繊糸の前駆体である海島型複合繊維の海成分ポリマーの中に、フッ素樹脂ナノファイバーの前駆体を用いることが好ましい。このフッ素樹脂ナノファイバーの前駆体は、共重合ポリエステル樹脂または脂肪族ポリエステル樹脂と組み合わせることが好ましい。
【0026】
ここで、ナノファイバー混繊糸の前駆体である海島型複合繊維の海成分ポリマーで易溶解性ポリマーがマトリックス、難溶解性ポリマー(フッ素樹脂)がドメインとなり、そのドメインサイズを制御することが重要である。ここで、ドメインサイズは、海島型複合繊維の横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)観察し、直径換算で評価したものである。前駆体中でのドメインサイズによりナノファイバーの直径がほぼ決定されるため、ドメインサイズは本発明のナノファイバー混繊糸を構成するナノファイバーの直径に準じて設計される。このため、アロイ化するポリマーの混練が非常に重要であり、本発明では混練押出機や静止混練器等によって高混練することが好ましい。単純なチップブレンドでは混練が不足するため、本発明のようなサイズでドメインを分散させることは困難である。
【0027】
具体的に混練を行う際の目安としては、組み合わせるポリマーにもよるが、混練押出機を用いる場合は、2軸押出混練機を用いることが好ましく、静止混練器を用いる場合は、その分割数は多い方が好ましく、例えば100万以上とすることが好ましい。
【0028】
また、ドメインを数十nmサイズで超微分散させるには、ポリマーの組み合わせも重要である。
【0029】
ドメイン(ナノファイバー断面に相当)を円形で超微分散させるためには、ドメインポリマーとマトリックスポリマーは非相溶であることが好ましい。しかしながら、単なる非相溶ポリマーの組み合わせではドメインポリマーが十分超微分散化し難い。
【0030】
そのため、ドメインポリマーとマトリックスポリマーの溶融粘度が重要である。ドメインを形成するポリマーの溶融粘度の方を低く設定すると、剪断力によるドメインポリマーの変形が起こりやすいため、ドメインポリマーの微分散化が進みやすくナノファイバー化の観点からは好ましい態様である。ただし、ドメインポリマーを過度に低粘度にするとマトリックス化しやすくなり、繊維全体に対するブレンド比を高くできないため、ドメインポリマーの溶融粘度はマトリックスポリマーの溶融粘度の1/10以上とすることが好ましい。
【0031】
また、本発明においては、ドメインポリマーとマトリックスポリマーのポリマー同士の融点差が20℃以下であると、特に押出混練機を用いた混練の際、押出混練機中での融解状況に差を生じにくいため高効率混練しやすく、好ましい態様である。
【0032】
また、熱分解や熱劣化し易いポリマーを1成分に用いる際は、混練や紡糸温度を低く抑える必要があるが、これにも有利となるのである。ここで、非晶性ポリマーを用いる場合は、非晶性ポリマーには融点が存在しないため、ガラス転移温度やビカット軟化温度あるいは熱変形温度でこれに代える。
【0033】
本発明では、溶剤に対する溶解性の異なる易溶解性ポリマー(マトリックスポリマー)と難溶解性ポリマー(ドメインポリマー)をアロイ化してポリマーアロイ溶融体となし、これを海島型複合繊維の海成分ポリマーとして用いることができる。易溶解性ポリマーは、溶解剤がアルカリ水溶液の場合は、共重合ポリエステル樹脂や脂肪族ポリエステル樹脂などとの組み合わせが好適である。
【0034】
ポリマーアロイ中では、ドメインポリマーとマトリックスポリマーが非相溶であるため、ドメインポリマー同士は凝集した方が熱力学的に安定である。しかしながら、ドメインポリマーを無理に超微分散化するために、このポリマーアロイでは通常の分散径の大きいポリマーブレンドに比べ、非常に不安定なポリマー界面が多くなっている。このため、このポリマーアロイを単純に紡糸すると、不安定なポリマー界面が多いため、口金からポリマーを吐出した直後に大きくポリマー流が膨らむ、いわゆるバラス現象が発生し、ポリマーアロイ表面の不安定化による曳糸性不良が発生し、糸の太細斑が過大となるだけでなく、紡糸そのものが不能となる場合がある。すなわち、超微分散ポリマーアロイの負の効果である。
【0035】
このような問題を回避するため、ポリマーを口金から吐出する際の、口金孔壁とポリマーとの間の剪断応力を低くすることが好ましい。そのためには、口金孔径は大きく、口金孔長は短くする傾向であることが好ましいが、過度にこれを行うと口金孔でのポリマーの計量性が低下し、繊度斑や紡糸性悪化が発生してしまうため、吐出孔より上部にポリマー計量部を有する口金を用いることが好ましい。
【0036】
また、溶融紡糸での曳糸性や紡糸安定性を十分確保する観点から、口金面温度はマトリックスポリマーの融点+25℃以上とすることが好ましい。
【0037】
上記したように、本発明で用いられる超微分散化したポリマーアロイを海成分として紡糸する際は、紡糸口金設計が重要であるが、紡糸糸条の冷却条件も重要である。上記したようにポリマーアロイは非常に不安定な溶融流体であるため、口金から吐出した後に速やかに冷却固化させることが好ましい。このため、口金から冷却開始までの距離は1〜40cmとすることが好ましい。ここで、冷却開始とは紡糸糸条の積極的な冷却が開始される位置のことを意味するが、実際の溶融紡糸装置ではチムニー上端部でこれに代えることができる。
【0038】
紡糸速度は、紡糸過程でのドラフトを高くする観点から高速紡糸ほど好ましい。紡糸ドラフトは、得られるナノファイバー直径を小さくする観点から、100以上とすることが好ましい。
【0039】
また、ポリマーアロイを海成分に用いた海島型複合繊維には延伸・熱処理を施すことが好ましいが、延伸の際の予熱温度はドメインポリマーのガラス転移温度(Tg)以上の温度することにより、糸斑を小さくすることができる。
【0040】
本発明においては、上記のようなポリマーの組み合わせと、紡糸・延伸条件の最適化を行うことにより、マトリックスポリマーが数十nmに超微分散化し、しかも糸斑の小さなポリマーアロイを海成分とした海島型複合繊維を得ることを可能にするものである。本発明によれば、このようにして得られた前駆体を用いることにより、ある断面だけでなく長手方向のどの断面をとっても単繊維繊度ばらつきの小さなナノファイバーを得ることができる。
【0041】
ポリマーアロイ中では、ドメインポリマーとマトリックスポリマーの質量比率は、マトリックスポリマーよりドメインポリマーが少なくなっていることが好ましく、ドメイン/マトリックス比(質量比)は20/80〜40/60が好ましい。
【0042】
また、本発明のナノファイバー混繊糸においては、フッ素樹脂ナノファイバーの混繊比率が4〜40質量%であることが好ましい。
【0043】
この範囲であれば、ナノファイバーとしての性能を維持し、開繊性の優れたナノファイバー混繊糸を得ることができる。フッ素樹脂ナノファイバーの混繊比率は、より好ましくは8〜16質量%である。
【0044】
本発明のナノファイバー混繊糸は、ポリエステルナノファイバーとフッ素樹脂ナノファイバーが均一に混ざり合っていることが好ましい。それを示す指標としては、例えば、ナノファイバー混繊糸を四酸化ルテニウム(RuO)などにより電子染色してTEM観察するとポリエステルナノファイバーのコントラストが濃くなり、フッ素ナノファイバーは薄く観察することができる。ここで、均一に混ざり合っていると濃い部分と薄い部分が全体的に観察することができ、ポリエステルナノファイバーのみの集合部分が40μmよりも小さいことが確認できる。これを観察できることで均一に混ざり合っているとする。
【0045】
また、本発明では、帯電系列が異なっている樹脂同士の混繊であることから静電反発を利用し、開繊性の優れたナノファイバー混繊糸となるのである。ここで、帯電性は帯電列(繊維などの電気的絶縁体の帯電符号に関する法則)により評価することができる。帯電は表面現象であるため、試料差や表面粗さ、測定法や環境条件によって影響を受けるが、古くから報告されている再現性のよい帯電列が「繊維便覧:第二版」(繊維学会編、丸善株式会社)等に記載されている。これによると、二つの物質の組み合わせで、電子供与性の強い側鎖を持つ高分子が正極に帯電し、電子受容性の強い側鎖を持つ高分子が負極に帯電することが記載されている。従って、帯電列内でより離れている物質ほど帯電性は異なっているのである。帯電性が異なるポリマーからなる繊維を近接させると、電気的反発による開繊性に優れ、しなやかでソフト感に優れる従来では考えられない風合いのナノファイバー混繊糸を得ることができるのである。また、この開繊効果によりナノファイバーの特性も飛躍的に向上するのである。
【0046】
また、本発明のナノファイバー混繊糸を構成するナノファイバーは、平均単繊維繊度が従来の超極細糸の1/100〜1/100000以下であるため、比表面積が飛躍的に大きくなるという特徴がある。このため、通常の超極細糸程度では見られなかったナノファイバー特有の性質を示す。
【0047】
ナノファイバー特有の性質としては、例えば、吸着特性の大幅な向上が挙げられる。実際に、水蒸気の吸着、すなわち吸湿性能の場合、通常のポリエステルは吸湿の性能を示すΔMRが0.2%程度であるのに対して、2%に達する場合もあった。吸湿性能は、衣料用途では快適性の点から非常に重要な特性であり、本発明ではナノファイバー混繊糸としてΔMRが2%以上とすることが好ましい。
【0048】
さらに、本発明のナノファイバー混繊糸の前駆体である海島型複合繊維の単繊維繊度は、1.5dtex以下であることが好ましい。海島型複合繊維の単繊維繊度を1.5dtex以下とすることにより、比表面積が大きくなり海成分溶解速度が速くなるとともに、海島型複合繊維単糸の表面/芯部での島成分ポリマーの溶解剤接触時間差が少なくなるため、溶解後の島繊維直径のバラツキが小さく、高強度なナノファイバー糸条群を得ることができる。さらに繊維径バラツキが少なく、強度低下が少ないナノファイバー糸条群を得るためには、海島型複合繊維の単繊維繊度が1.0dtex以下であることが好ましく、かつ製糸安定性を保持するためには海島型複合繊維の単繊維繊度が0.3dtex以上であることが好ましい。
【0049】
また、本発明で言うナノファイバーとは、平均単繊維直径が50nm以上900nm以下の繊維をいうものであり、それが集合したものをナノファイバー糸条群という。本発明において、ナノファイバーの平均単繊維直径は900nm以下とする必要がある。平均単繊維直径を900nmとすることで、既存の合成繊維では成し得なかった繊細な肌触りやソフト感が得られるほか、比表面積増大に伴う高摩擦力、高吸着効果や、布帛にした際の高い機密性、保温性および吸水拡散性など、ナノファイバー特有の効果を得ることが可能となる。さらに、高いソフト感やナノファイバー特有の効果を得るためには、平均単繊維直径は800nm以下であることが好ましく、平均単繊維直径はより好ましくは600nm以下である。かつ、ナノファイバー単繊維のフィブリル化を抑制するためには平均単繊維直径は50nm以上である。また、フッ素ナノファイバーの平均単繊維直径は250nm以下が好ましく、より好ましくは100nm以下である。
【0050】
ナノファイバー単繊維の平均単繊維直径は、横断面を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察し、同一横断面内で無作為抽出した300本以上の単繊維直径を測定するが、これを少なくとも5カ所以上で行い、合計1500本以上の単繊維直径を測定し平均することで求めることができる。これらの測定位置は、ナノファイバー単繊維群から得られる繊維製品の均一性を保証する観点から、ナノファイバー単繊維群長として互いに10m以上離して行う。
【0051】
本発明のナノファイバー混繊糸の前駆体である海島型複合繊維における海島型複合繊維単糸中の島数は、30〜200島の範囲であることが好ましい。島数を30島以上にすると、島成分を隙間なく海成分中に配置させることが可能となるため、海島型複合繊維の形態安定性およびナノファイバーの生産性が高くなる。また、島数を200島以下とすることで、島成分融着欠点を回避させることが可能であり、さらに海成分溶解除去時に海島型複合繊維単糸の表面/芯部での溶解剤接触時間差が少なくなることで、繊維径バラツキが小さく、高強度なナノファイバー単繊維群を得ることが可能となる。海島型複合繊維単糸中の島数のより好ましい範囲は、50〜180島であり、さらに好ましくは80〜150島である。
【0052】
本発明においては、ナノファイバー混繊糸の前駆体である海島型複合繊維の海/島複合比を20/80〜80/20の範囲にすることが好ましい。ここで言う複合比とは、両成分の体積比であり、それぞれ質量を比重で割ることで算出される。海成分を20%以上とすることで、島成分同士の融着を防ぐことができるため脱海性に優れ、高強度かつ高品質な布帛を得ることができる。また、海成分が80%以下であれば、海成分溶解除去時間を短縮することが可能であり、かつナノファイバー単糸群の生産性も高い。
【0053】
本発明のナノファイバー混繊糸の前駆体である海島型複合繊維を脱海することにより、短繊維状のフッ素ナノファイバーと長繊維のポリエステルナノファイバーの混繊糸を得ることができ、さらに短繊維状のフッ素ナノファイバーが長繊維のポリエステルナノファイバーの周りに効率的に配置された状態のナノファイバー混繊糸を得ることができる。
【0054】
次に、本発明のナノファイバー混繊糸の好ましい製造方法について述べる。
【0055】
本発明のナノファイバー混繊糸の前駆体である海島型複合繊維の海成分には前述に記載のポリマーアロイを用い、島成分としてポリエステルを用いることが出来る。この海成分に用いられるポリマーアロイは、あらかじめ2軸混練機などで混練したものを用いても良く、紡糸機内で前述の静止混練器で混練しても良い。
【0056】
本発明のナノファイバー混繊糸の前駆体である海島型複合繊維の製造方法として、海島型複合紡糸法を適用することが好ましい。海島型複合紡糸法を適用することで、ポリマーの口金からの単孔吐出量を多くすることができるため、紡糸ドラフトが小さくなり製糸性が安定する。海島型複合紡糸に用いる口金は、品質および操業安定的にナノファイバーを紡糸することが可能であれば、公知のいずれの内部構造のものであってもよい。
【0057】
本発明のナノファイバー混繊糸の前駆体である海島型複合繊維は、吐出されたポリマーを未延伸糸として一旦巻き取った後に延伸する二工程法のほか、紡糸および延伸工程を連続して行う直接紡糸延伸法や高速製糸法など、いずれのプロセスにおいても製造できる。また、高速製糸法における紡糸速度の範囲は特に規定しないため、半延伸糸として巻き取った後に延伸する工程でもよい。さらに、必要に応じて仮撚りなどの糸加工を行うこともできる。
【0058】
本発明のナノファイバー混繊糸の前駆体である海島型複合繊維を操業・品質安定的に製糸するにあたり、吐出されたポリマーの冷却固化を厳密に制御することが好ましい。細繊度化に伴い吐出ポリマー量を抑制すると、ポリマーの細化および冷却固化が吐出後すぐに開始されることとなるため、従来技術で想定される冷却方法では長手方向の糸斑の多い海島型複合繊維しか得られない。また、固化した繊維による随伴気流が増大し、紡糸張力が大きくなるため、製糸性を改善する方法が必要となる。
【0059】
これらを解決する方法として、冷却開始点を口金面から20〜120mmおよび口金吐出面から給油位置までの距離を1300mm以下にすることが好ましい。冷却開始点が20mm以上であれば冷却風による口金の面温度低下を抑制することができるため、口金孔詰まりや複合異常、吐出斑という問題を回避することができる。また、冷却開始点を120mm以下とすることで、長手方向での糸斑の少ない高品質な海島型複合繊維を得ることができる。冷却開始点のより好ましい範囲は25〜90mmである。空冷装置は横吹き出しタイプでも製糸可能だが、繊維の長手方向糸斑を抑制するために、環状型吹き出しタイプを使用することが好ましい。
【0060】
また、冷却風による口金面温度低下を抑制するため、冷却風の温度を管理したり、口金周辺部に加熱器を設置したり、紡糸温度を高く設定することで口金面温度を適正に保つことが好ましい。紡糸温度は、高融点側のポリマー融点よりも20℃以上高め、かつポリマーの劣化を抑制するために高融点側のポリマー融点より50℃以下で設定することが好ましい。
【0061】
また、口金吐出面から給油位置までの距離を好ましくは1300mm以下とすることにより、冷却風による糸条揺れ幅を抑え、繊維長手方向での糸斑を改善できるほか、糸条の収束に至るまでの随伴気流を抑制できるため紡糸張力を低減でき、毛羽や糸切れの少ない安定した製糸性が得やすい。海島型複合繊維の紡糸工程における給油位置のより好ましい範囲は、1000mm以上1200mm以下である。
【0062】
海島型複合繊維を二工程法で製糸する場合、ホットロール−ホットロール延伸や熱ピンを用いた延伸の他、あらゆる公知の延伸方法を用いることができる。また、用途に応じて交絡や仮撚りを加えながら延伸してもよい。毛羽発生や両成分の剥離などの複合異常を抑制するために、延伸糸の残留伸度は20〜40%となるように延伸することが好ましい。
【0063】
紡糸形態の具体例を、次に記載する。溶解速度差が5〜300倍であるポリマー2成分を海/島複合比(体積比)10/90〜50/50となるように溶融し、紡糸温度を高融点側のポリマー融点よりも20〜50℃高めに設定する。二工程法の場合、吐出された複合ポリマーの冷却開始点20〜120mm、給油位置を口金吐出面から1300mm以下に設定して海島型複合繊維を一旦未延伸糸として巻き取り、得られた未延伸糸をホットロール−ホットロール延伸にて残留伸度20〜40%となるように延伸する。直接紡糸延伸法の場合は冷却開始点20〜120mm、給油位置を口金吐出面から1300mm以下に設定して、海島型複合繊維を一旦巻き取ることなく、ホットローラー−ホットローラー間を介して延伸を行う。このときも海島型複合繊維の残留伸度が20〜40%となるように設定することが好ましい。高速製糸法の場合も、冷却開始点20〜120mm、給油位置を口金吐出面から1300mm以下に設定し、残留伸度20〜40%となるように巻取速度を設定して海島型複合繊維を巻き取る。
【0064】
このようにして得られた海島型複合繊維からマトリックスポリマーである易溶解ポリマーを溶剤で溶出することにより、ナノファイバー混繊糸を得るのであるが、その際、溶剤としては水溶液系のものを用いることが環境負荷を低減する観点から好ましい。具体的には、アルカリ水溶液を用いることが好ましい。
【0065】
このような製造方法により、繊維長が数十μmから場合によってはcmオーダー以上のフッ素樹脂ナノファイバーがところどころ接着したり絡み合ったりしている紡績糸形状のフッ素樹脂ナノファイバー群とポリエステル樹脂ナノファイバー群が混合されたナノファイバー混繊糸が得られるのである。
【実施例】
【0066】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。実施例中の特性値は、次の方法で測定した。なお、各特性値は特段記載がない限り、3点測定し、その平均を特性値とした。
【0067】
(1)ポリマーの固有粘度(IV)
純度98%以上のO−クロロフェノール(OCP)10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃の温度でオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηrを下記の式(1)により求め、下記の式(2)により固有粘度(IV)を算出した。
ηr=η/η0=(t×d)/(t0×d0)・・・(1)
[ここで、η:試料ポリマー溶液の粘度、η0:OCPの粘度、t:溶液の落下時間(秒)、d:溶液の密度(g/cm)、t0:OCPの落下時間(秒)、d0:OCPの密度(g/cm)をそれぞれ表す。]
固有粘度(IV)=0.0242ηr+0.2634・・・(2)
(2)メルトフローレート(MFR)
ASTM D3159に準じて測定した。
【0068】
(3)製糸安定性
各実施例についての製糸を行い、1千万m辺りの糸切れ回数から海島型複合繊維の製糸安定性を3段階評価した。○○と○は合格で、×は不合格である。
○○:0.8回/千万m未満
○ :0.8回/千万m以上、2.0回/千万m未満
× :2.0回/千万m以上。
【0069】
(4)TEMによる繊維横断面観察
繊維の横断面方向に超薄切片を切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM装置:日立社製H−7100FA型)で繊維横断面を観察した。
【0070】
(5)ナノファイバーの数平均による単繊維繊度と単繊維直径
単繊維繊度の平均値は、次のようにして求める。すなわち、TEM装置による繊維横断面写真を画像処理ソフト(WINROOF)を用いて、単繊維直径および単繊維繊度を計算し、それの単純な平均値を求めた。これを「数平均による単繊維繊度」とした。このとき、平均に用いるナノファイバー数は同一横断面内で無作為抽出した300本以上の単繊維直径を測定したが、これをナノファイバー集合体長として互いに10m以上離れた5カ所で行い、合計1500本以上の単繊維直径を用いて計算した。
【0071】
(6)SEM観察
繊維に白金−パラジウム合金を蒸着し、走査型電子顕微鏡(SEM装置:ニコン製ESEM−2700)で繊維側面を観察した。
【0072】
(7)長手方向の糸斑(ウースター斑)
ツェルベガーウースター社製ウースターテスターUT−4CXを用い、下記の条件で繊度変動チャート(Diagram Mass)を得ると同時に、ハーフInertモードで平均偏差率(U%)を測定した。
・給糸速度:200m/分
・測定糸長:200m
・ツイスター:S撚 12000rpm
・ディスクテンション強さ:10%
U%の値が1.3未満であれば、糸斑の少ない製品であると判断した。
【0073】
(8)繊維の力学特性
ナノファイバー混繊糸は10mの質量を、また海島型複合繊維は100mの質量をそれぞれn=5回測定し、これの平均値からナノファイバー混繊糸の総繊度と、海島型複合繊維の総繊度(dtex)を求めた。そして、室温(25℃)で、初期試料長=200mm、引っ張り速度=200mm/分とし、JIS L1013(2010年版)に示される条件で荷重−伸長曲線を求めた。次に、破断時の荷重値を初期の繊度で割り、それを強度とし、破断時の伸びを初期試料長で割り伸度として強伸度曲線を求めた。
【0074】
(9)布帛評価
海島型複合繊維を用いて経密度100本/2.54cm、緯密度95本/2.54cmのゾッキ織物を作製し、95℃の温度で精練した。引き続き、1質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて海成分を溶解除去し、染色工程を経て最終セットを行った。減量率は、強度の項目と同一の式により算出した。得られた布帛について、熟練した検査者(5人)の触感によって布帛の表面均一性、ソフト感、染色均一性を相対評価した。また、鏡の表面に付着した多数の指紋を拭き取り、その拭き取り性も官能評価した。各項目について、非常に良い(4点)、良い(3点)、あまり良くない(2点)、悪い(1点)の4段階で官能評価してその合計値(最高点は16点)を算出し、各検査者の合計値の平均値にて下記のとおり評価をした。○○と○は合格で、×は不合格である。
○○:12点以上
○ :12点未満8点以上
× :8点未満
(10)吸湿性(ΔMR)
脱海後の筒編みサンプルを秤量瓶に1〜2g程度はかり取り、110℃の温度に2時間保ち乾燥させ重量を測定し(W0)、次に対象物質である筒編みサンプルを温度20℃、相対湿度65%に24時間保持した後重量を測定する(W65)。そして、これを温度30℃、相対湿度90%に24時間保持した後重量を測定する(W90)。そして、次の式にしたがい計算を行う。
・MR65=[(W65−W0)/W0]×100% ・・・(1)
・MR90=[(W90−W0)/W0]×100% ・・・(2)
・ΔMR=MR90−MR65 ・・・(3)。
【0075】
(11)開繊性
布帛評価に用いた布帛の繊維表面をSEM観察し、3段階で定性評価し、繊維断面の電子染色後のTEM観察によってポリエステル樹脂ナノファイバー部分の観察で総合評価した。○○と△は合格で、×は不合格である。
○:凝集がなく、ポリエステル樹脂ナノファイバーのみの集合部分が10μm以下。
△:凝集がなく、ポリエステル樹脂ナノファイバーのみの集合部分が40μm以下。
×:凝集があり、ポリエステル樹脂ナノファイバーのみの集合部分が40μm以上。
【0076】
(実施例1)
固有粘度(IV)が0.59のポリ−L−乳酸を易溶解性成分(マトリックス)として用い、フッ素樹脂としてメルトフローレート(MFR)が35g/10分のダイキン工業株式会社製“ネオフロン”(登録商標)EP−506を難溶解性成分(ドメイン)として用い、これらの両成分を質量混合比80/20にして事前に2軸混練機を用いてポリマーアロイ溶融体を作成し、これを海島型複合繊維の海成分ポリマーとした。これとは別に、固有粘度(IV)が0.71のポリエチレンテレフタレートを、島成分ポリマーとして準備した。このように準備した海成分ポリマーと島成分ポリマーを、それぞれ300℃の温度で溶融後、ポンプによる計量を行い、紡糸温度298℃で紡糸口金に流入させた。質量複合比は、海成分ポリマー/島成分ポリマー=20/80とした。島数127島、ホール数112の海島型複合用紡糸口金(島数×海島型複合繊維の単糸数=14224)に流入させた各ポリマーは、口金内部で合流し、海成分ポリマー中に島成分ポリマーが包含された複合形態を形成し、口金から吐出された。口金から吐出された糸条は、空冷装置により冷却、油剤付与後、ワインダーにより1500m/分の速度で巻き取り、総繊度175dtex−112フィラメントの未延伸糸として巻き取った。このとき、冷却開始点は口金面から30mmに設定し、さらに給油位置を850mmとすることにより長手方向の繊度斑の抑制と製糸性の安定を図った。
【0077】
続いて、得られた未延伸糸を300m/分の速度で延伸装置に送糸し、延伸温度92℃、残留伸度35%、倍率1.763倍で延伸した後、130℃の温度で熱セットし、総繊度66dtex−112フィラメント(単糸繊度:0.59dtex)の海島型複合繊維延伸糸を得た。海島型複合繊維延伸糸の評価結果を、表2に示す。また、本実施例1により得られた海島型複合繊維延伸糸は長手糸斑の評価であるU%は0.4と良好で、製糸性と原糸品質ともに良好であった。
【0078】
さらに、このようにして得られた海島型複合繊維延伸糸を、80℃の温度の質量1%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することにより海成分(易溶解性成分)のポリ−L−乳酸を溶解除去し、ポリエステルナノファイバーとフッ素樹脂ナノファイバーからなるナノファイバー混繊糸を得た。得られたポリエステル樹脂ナノファイバー単繊維群(連続長繊維の集合体)のナノファイバーの平均単繊維径は590nmで、フッ素樹脂ナノファイバー単繊維群(短繊維の集合体)のナノファイバーの平均単繊維径は72nmあった。得られたナノファイバー混繊糸は、強度が3.3cN/dtexで布帛品質ともに製品として用いるのに十分な性能を有していた。
【0079】
(実施例2〜8)および(比較例1)
表1に示すようにしたこと以外は、実施例1と同様に行った。実施例2〜8は優れた開繊性であり、耐久性と品質のすぐれたナノファイバー混繊糸が得られた。
【0080】
比較例1は、布帛評価において、ソフト感で劣り、拭き取り性も不良であった。
【0081】
具体的に、実施例2と3は混繊比を変更するため、実施例2は、海成分ポリマーの質量混合比を、実施例3は、海成分ポリマーの質量混合比と海島型複合繊維の質量複合比率を変更した。実施例4と5および比較例1は、フィラメント数と海成分ポリマーの質量混合比および海島型複合繊維の質量複合比率を変更した。実施例6は、フィラメント数と海成分ポリマーの質量混合比を変更した。実施例7は、ポリエステルナノファイバー径を小さくするためと混繊比を変更するため、海成分ポリマーの質量混合比と海島型複合繊維の質量複合比率を変更した。実施例8は、ポリエステルナノファイバー径を小さくするため、海島型複合繊維の質量複合比率を変更した。海島型複合繊維延伸糸の評価結果を、表2に示す。
【0082】
(実施例9)
ポリエステルナノファイバー集合体とフッ素樹脂ナノファイバー集合体を別々に得た後、エアー混繊などの公知の混繊技術を用い混繊を行い、ナノファイバー混繊糸を得た。しかしながら、開繊性を確認するとナノファイバーが凝集しており、TEM観察においてもポリエステルナノファイバーのみの集合部分が40μm以上であり、ポリエステルナノファイバーとフッ素樹脂ナノファイバーが十分に混繊された状態では無かった。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂ナノファイバーとフッ素樹脂ナノファイバーからなるナノファイバー混繊糸であって、それぞれの平均単繊維直径がいずれも50nm以上900nm以下であることを特徴とするナノファイバー混繊糸。
【請求項2】
フッ素樹脂ナノファイバーの混繊比率が4〜40質量%であることを特徴とする請求項1記載のナノファイバー混繊糸。