説明

ナノファイバー混繊糸

【課題】ナノファイバー単繊維の分散性が良好であり、ワイピング性能およびスクラッチ性能に優れた布帛を得ることのできるナノファイバー混繊糸を提供する。
【解決手段】2種類以上のポリエステル長繊維からなる混繊糸であり、それらのポリエステル長繊維の単繊維径がいずれも50〜900nmであるナノファイバー混繊糸。ポリエステル長繊維の少なくとも1種類がポリプロピレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートであることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバー単繊維の分散性が良好であり、ワイピング性能およびスクラッチ性能に優れた布帛を得ることのできるナノファイバー混繊糸に関するものである。
【背景技術】
【0002】
単繊維径が数マイクロメートルの極細繊維(マイクロファイバー)は、比表面積の大きさや空隙の細かさを背景とし、研磨布やワイピングクロスとして広く用いられている。これらのマイクロファイバーを容易に製造する手法としては、易溶解性ポリマーからなる海成分中に難溶解性ポリマーからなる島成分を含有する海島型複合繊維や、難溶解性ポリマーが易溶解性ポリマーで仕切られた割繊型複合繊維を利用する方法が広く知られている(特許文献1、2参照。)。これらの方法は、一度、上記の海島型複合繊維または割繊型複合繊維を巻き取った後、得られた複合繊維もしくはその複合繊維からなる布帛製品を、溶解剤に浸漬させることにより易溶解性ポリマーを除去し、難溶解性ポリマーからなるマイクロファイバーを得ることが可能となる技術である。
【0003】
近年では、さらに繊細な肌触りやソフト感を追求して単繊維径1マイクロメートル未満となる超極細繊維(ナノファイバー)が提案されている。ナノファイバーは、繊維径のスケールダウンによる極限のソフト化のほか、単繊維群の比表面積の飛躍的な増加や、空隙の微分散化によるナノサイズ特有の効果も示唆されていることから、マイクロファイバー以上の展開可能性を秘めており、早期の研究・開発・安定的製造が求められている。
【0004】
ナノファイバーを製造する方法の一つとしては、エレクトロスピニング法が提案されている。エレクトロスピニング法とは、樹脂を溶質として含有する溶液に電圧を印加しながら電界中に放出することによりナノファイバーを取り出す方法である(特許文献3参照。)。しかしながら、この方法では、放出されたナノファイバーを長繊維として採取することが難しいため、その用途はフィルター等の不織布に限定されてしまうほか、繊維径や配置の制御も困難であるという課題があった。また、この方法では、高電圧が必要であることや、溶媒が常に揮散した状態になることから、感電、中毒および引火というような危険が伴うという問題もあった。
【0005】
また、ナノファイバーを製造するその他の方法としては、ポリマーブレンド技術とポリマー溶解除去技術の組み合わせによる方法が提案されている(特許文献4参照。)。この方法により製造されるナノファイバーは、短繊維ではあるが集合体を成しているため、長繊維として織物や編物のような布帛製品とすることも可能である。しかしながら、この方法の場合、ナノファイバーの単繊維径制御が困難であることや、短繊維の集合体であるゆえに強度が低く、フィブリル化や脱落により耐磨耗性が低く、布帛製品として実用的でないという課題があった。
【0006】
上記の従来技術で問題となっている耐久性と品質の劣位を克服し、織物や編物にまで適用しうる長繊維ナノファイバー開発の手段として、近年では海島型複合紡糸技術の深化が盛んに行われている。
【0007】
その一例として、易溶解性ポリマーとして、5−ナトリウムスルホイソフタル酸とポリエチレングリコールを共重合したポリエステルを用い、さらに海島型複合単繊維中での島成分配置を規定することにより、生産性の高いナノファイバーの製造方法が提案されている(特許文献5、6参照。)。しかしながら、これらの従来技術に例示されているナノファイバーは、比表面積の高さから単繊維同士が凝集を起こし、結果として単繊維群としてでしか振舞うことができず、ナノファイバーとしての特性を十分に発揮することができないという課題があった。
【0008】
上記の課題を解決するための方法として、ナノファイバーに高収縮糸を混繊することにより、ナノファイバー単繊維群に膨らみを生じさせ、単繊維の分散性を向上させる方法が提案されている(特許文献7参照。)。確かに、この方法により、単繊維群としての比表面積が大幅に増大するとともに、単繊維群の空隙が増加し、ソフト性が向上する。しかしながら、この方法の場合、高収縮糸が太繊度であることから、ナノファイバー特有のソフト感が一部損なわれ、また太繊度である高収縮糸が部分的に糸条表面に露出し、ワイピングクロスとして用いた際に被研磨物に傷(スクラッチ)をつけてしまうことがあるという課題があった。加えて、高収縮糸としてイソフタル酸等を共重合したポリエチレンテレフタレートを用いることから、海成分ポリマーのアルカリ溶解時に高収縮糸も溶け出してしまい、強度が大幅に低下し、製品としての使用に耐えないものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2005−163234号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特公昭48−28005号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2007−303015号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2004−162244号公報(特許請求の範囲)
【特許文献5】特開2007−100243号公報(特許請求の範囲)
【特許文献6】特開2007−100253号公報(特許請求の範囲)
【特許文献7】特開2007−262610号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の課題を克服し、ナノファイバー単繊維の分散性が良好であり、ワイピング性能およびスクラッチ性能に優れた布帛を得ることのできるナノファイバー混繊糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の目的を達成せんとするものであり、本発明のナノファイバー混繊糸は、2種類以上のポリエステル長繊維からなる混繊糸であり、前記ポリエステル長繊維の単繊維径がいずれも50〜900nmであることを特徴とするナノファイバー混繊糸である。
【0012】
本発明のナノファイバー混繊糸の好ましい態様によれば、前記のポリエステル長繊維の少なくとも1種類は、ポリプロピレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートからなる長繊維である。
【0013】
本発明のナノファイバー混繊糸の好ましい態様によれば、前記のナノファイバー混繊糸の20%伸長時の伸長弾性率は70%以上である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ナノファイバー単繊維の分散性が良好であり、ワイピング性能およびスクラッチ性能に優れた布帛を提供しうるナノファイバー混繊糸を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のナノファイバー混繊糸は、2種類以上のポリエステル長繊維からなる混繊糸である。本発明のナノファイバー混繊糸を構成する2種類以上のポリエステル長繊維は、それらの単繊維径がいずれも50〜900nmであることが必要である。
【0016】
ポリエステル長繊維の単繊維径を900nm以下とすることにより、比表面積増大に伴う高摩擦力および高吸着効果により、ワイピング性能が大幅に向上する。また、本発明のナノファイバー混繊糸は、ナノファイバー同士の混繊糸であることから、単繊維および単繊維からなる単繊維群ともにソフト性に優れ、既存の太繊度糸を含む混繊糸では成し得なかったスクラッチ性能を達成することができる。さらに優れたワイピング性能およびスクラッチ性能を得るためには、単繊維径が800nm以下であることが好ましい。
【0017】
一方、ポリエステル長繊維の単繊維径を50nm以上とすることにより、ナノファイバー単繊維の強力を維持し、耐磨耗性に優れたナノファイバー混繊糸とすることができる。耐磨耗性を向上させることにより、ワイピング時に脱落したナノファイバー単繊維が砥粒や研磨屑と凝集してできる異物の発生を抑制でき、スクラッチを低減することが可能となる。より好ましい単繊維径は100nm以上である。
【0018】
本発明のナノファイバー混繊糸を構成する2種類以上のポリエステル長繊維は、ナノファイバー混繊糸の単位長さあたりに含まれるそれぞれのポリエステル長繊維の糸長が異なっていることが好ましい。それぞれのポリエステル長繊維が糸長差を有することにより、糸長の長いポリエステル長繊維に弛みや膨らみが生じ、その単繊維に分散効果が発現する。この単繊維の分散により、単繊維群としての比表面積が大幅に増大し、ワイピング性能が向上するとともに、単繊維群のソフト性の増加により優れたスクラッチ性能を達成することができる。
【0019】
糸長差は、5〜100%であることが好ましい。糸長差を5%以上とすることにより、単繊維に分散効果を発現させることができる。糸長差は、より好ましくは10%以上である。一方、糸長差を100%以下とすることにより、単繊維群および単繊維の過剰な弛みを抑制し、解舒性に優れ、また耐磨耗性に優れた繊維とすることができる。糸長差は、より好ましくは80%以下である。ここで、糸長差は、下記式を用いて算出される値である。
(L−L)/L×100
:最も長いポリエステル長繊維の長さ
:最も短いポリエステル長繊維の長さ
(ただし、L、Lは、ナノファイバー混繊糸を任意の箇所で10cmにカットした中に含まれるそれぞれのポリエステル長繊維について、単繊維の長さを50点以上測定した平均値を示す。)
上記の糸長差を得る方法としては、例えば、混繊時に一方の繊維を過剰に供給する方法や、収縮性の異なる繊維を混繊し、収縮処理を施す方法などがある。中でも、収縮性の異なる繊維を混繊する方法は、単繊維の分散効果に優れ、且つコストと生産性の観点から容易に混繊でき好適である。
【0020】
本発明のナノファイバー混繊糸を形成するポリエステルとしては、繊維形成性を有するポリエステルであればいずれでもよく、また共重合ポリエステルでもよい。特に、溶融紡糸により容易に繊維化することができ、繊維としての物性に優れているという観点から、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETということがある。)、ポリプロピレンテレフタレート(以下、PPTということがある。)、ポリブチレンテレフタレート(以下、PBTということがある。)およびその共重合ポリエステルが好適であり、中でも、ポリプロピレンテレフタレートとポリブチレンテレフタレートが好ましく用いられる。
【0021】
また、上記のポリエステルには、艶消し剤、難燃剤、滑剤、抗酸化剤、着色顔料等として、無機微粒子や有機化合物およびカーボンブラックを必要に応じて添加することができる。
【0022】
本発明のナノファイバー混繊糸を構成する2種類以上のポリエステル長繊維は、異なる組成のポリエステルからなる長繊維の組み合わせであってもよいし、固有粘度や収縮率などの異なる、同一組成のポリエステルからなる長繊維を組み合わせてもよい。
次に、ポリエステル長繊維の組み合わせの例を、列挙する。例えば、低収縮性のPETからなる長繊維と高収縮性を有する共重合PETからなる長繊維を組み合わせることにより、収縮処理により糸長差が発現し、ナノファイバー単繊維の分散性に優れた混繊糸を容易に形成することができる。前記のPETが他のポリエステルであってもよく、また前記の共重合PETが低温および/または低延伸倍率などの方法により高収縮性を付与したホモポリエステルでもよい。
【0023】
中でも、ポリエステル長繊維の少なくとも1種類に、ストレッチ性を有するPPTまたはPBTからなる長繊維を用いることが好ましく、高収縮性を付与したPPTまたはPBTからなる長繊維に、他のポリエステル、例えばPETからなる長繊維を混繊し、収縮処理を施すことにより、PETからなる長繊維に弛みおよび膨らみが発現した混繊糸となる。これにより、曲げや捩れのような弱い外部応力に対して、PPTまたはPBTからなる長繊維側は、ストレッチ性により、また、PETからなる長繊維側は弛みにより外部応力を吸収することができ、非常にソフト性に優れ、スクラッチ性能に優れたナノファイバー混繊糸を得ることができる。一方、擦過や引っ張りのような強い外部応力に対しては、PETからなる長繊維の弛みが伸びきることにより、PETからなる長繊維の持つ優れた強力により、形態安定性と耐磨耗性に優れたナノファイバー混繊糸となる。前記の糸長差を得るためには、沸騰水収縮率の差が5〜50%であるポリエステル長繊維を組み合わせることが好ましい。
【0024】
本発明のナノファイバー混繊糸を構成する2種類以上のポリエステル長繊維は、いずれもフィラメント数が3000本以上であることが好ましい。フィラメント数が3000本以上とすることにより、混繊時に、多数のフィラメント同士が互いに密に混繊することができるため、優れた分散効果を得ることが可能となる。より好ましくは6000本以上であり、さらにこのましくは10000本以上である。
【0025】
また、ナノファイバー混繊糸を構成するポリエステル長繊維はそれぞれ20質量%以上含まれていることが好ましい。混繊比率を20質量%以上とすることにより、それぞれのポリエステル長繊維の特長を発現することができる。より好ましい混繊比率は30質量%以上である。
【0026】
本発明のナノファイバー混繊糸は2種類以上のポリエステル長繊維からなるが、前記混繊比率に従い、ポリエステル長繊維の種類は2〜5種類が好ましく、より好ましくは2〜3種類である。
【0027】
本発明のナノファイバー混繊糸は、20%伸長時の伸長弾性率が70%以上であることが好ましい。伸長弾性率を70%以上とすることにより、ストレッチ性に起因する優れたソフト性を発現し、スクラッチ性能に優れた繊維となる。20%伸長時の伸長弾性率は、より好ましくは80%以上である。
【0028】
本発明のナノファイバー混繊糸を構成するナノファイバーは、製糸安定性および品質の観点から、海島型複合繊維を前駆体として用いることが好ましい。また、ナノファイバー混繊糸は、その海島型複合繊維の状態で混繊し、次いで海成分を除去する脱海処理を施すことにより製造することができる。海島型複合繊維の脱海処理後にナノファイバー同士を混繊すると、工程通過性悪化による収率低下や毛羽等の品質異常が発生しやすいが、海島型複合繊維の状態で混繊し脱海処理することにより、前記品質異常を抑制することができる。
【0029】
海島型複合繊維の海成分および島成分のポリマーの組み合わせは、脱海処理に用いる溶解剤への溶解速度差ができるだけ大きくなるようにすることが重要であり、島成分ポリマーが溶解剤に全く溶解しない、または、海成分の溶解速度を島成分の溶解速度に対して5倍以上とすることが好ましい。溶解速度差を5倍以上とすることにより、海成分の溶解除去がスムーズに実行され、海島型複合単繊維の表面/芯部での島成分溶解剤接触時間差が少なくなるため、単繊維径バラツキが小さなナノファイバー混繊糸を得ることができる。より好ましい溶解速度差は、20倍以上である。
【0030】
島成分を構成するポリエステルとしては、脱海処理時の強度低下を抑制できるという観点から、耐溶解性や耐分解性に優れたホモポリエステルを用いることが好適である。
【0031】
一方、海成分を構成するポリマーとしては、島成分を構成するポリエステルよりも溶解性や分解性の高い化学的性質を有するという点から、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ナトリウムスルホイソフタル酸やポリエチレングリコールなどを共重合成分とした共重合ポリエステル、ポリ乳酸、熱可塑性PVA系樹脂および熱可塑性セルロース系樹脂などを用いることが好ましい。
【0032】
海成分を溶解する溶剤としては、海成分がポリエチレン、ポリプロピレンおよびポリスチレンの場合は、トルエンやトリクロロエチレンなどの有機溶剤が用いられ、また海成分が共重合ポリエステルやポリ乳酸の場合は、水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液を用いることができる。また、海成分が熱可塑性PVA系樹脂や熱可塑性セルロース系樹脂などの場合は、熱水を用いて海成分を溶解することができる。中でも、製糸性および脱海処理の容易性を両立できることから、海成分としては共重合ポリエステルやポリ乳酸が好適である。
【0033】
本発明のナノファイバー混繊糸を構成するポリエステル長繊維は、いずれも海島型複合繊維を前駆体とすることが好ましい。海島型複合繊維の混繊糸の海成分を脱海処理する際、構成する海島型複合繊維の中で、最も長い脱海完了時間に合わせて脱海処理を行うが、それぞれの海島型複合繊維の脱海完了時間差を20%以下とすることが好ましい。それぞれの海島型複合繊維の脱海完了時間差を20%以下とすることにより、島成分の溶解を抑制することができ、繊維径バラツキが小さく、高強度なナノファイバー混繊糸を得ることができる。一方、脱海完了時間差が20%を超える、または混繊成分が単独糸であると、島成分の溶解が進行し、繊維径バラツキが大きく、著しく強度の低下した混繊糸となってしまう。より好ましい脱海完了時間差は、10%以下である。ここで、脱海完了時間差は、下記式を用いて算出される値である。
(t−t)/t×100
:最も長い脱海完了時間
:最も短い脱海完了時間
(ただし、本発明においては、海島型複合繊維の海成分比率に1.1倍を乗じた減量率になる時間を以って脱海完了時間とする。)
本発明において用いられる海島型複合繊維の単繊維繊度は、1.5dtex以下であることが好ましい。海島型複合繊維の単繊維繊度を1.5dtex以下とすると、海島型複合繊維の状態で混繊する際、それぞれの繊維を緻密に混繊することができ、ナノファイバーとしたときの単繊維の分散効果が高くなる。加えて、海島型複合単繊維の表面/芯部での冷却斑を低減できるとともに、海島型複合繊維の比表面積が大きくなり海成分溶解速度が速くなることにより、海島型複合単繊維の表面/芯部での島成分の溶解剤接触時間差が少なくなるため、単繊維径バラツキが小さく、高強度なナノファイバー混繊糸を得ることができる。さらに、ナノファイバー単繊維の分散効果が高く、繊維径バラツキが少なく、強度低下が少ないナノファイバー混繊糸を得るためには、単繊維繊度が1.0dtex以下であることが好ましく、かつ製糸安定性を保持するためには単繊維繊度が0.3dtex以上であることが好ましい。
【0034】
本発明で用いられる海島型複合繊維における単繊維中の島数は、30〜400島の範囲であることが好ましい。島数を30島以上にすると、島成分を隙間なく海成分中に配置させることが可能となるため、海島型複合繊維の形態安定性およびナノファイバーの生産性が高くなる。また、島数を400島以下とすることにより、島成分融着欠点を回避させることが可能であり、さらに海成分溶解除去時に海島型複合単繊維の表面/芯部での溶解剤接触時間差が少なくなるため、繊維径バラツキが小さく高強度なナノファイバー混繊糸を得ることが可能となる。島数のより好ましい範囲は、60〜300島である。
【0035】
本発明の海島型複合繊維の島成分比率は、50〜90質量%の範囲であることが好ましい。島成分比率を90質量%以下とすることにより、島成分同士の融着を防ぐことができ、高強度かつ高品質な布帛を得ることができる。また、島成分比率が50質量%以上であれば、海成分溶解除去時間を短縮することが可能であり、かつナノファイバーの生産性も高い。島成分比率のより好ましい範囲は、55〜80質量%である。
【0036】
次に、本発明のナノファイバー混繊糸を得るための好ましい製造方法について述べる。
【0037】
本発明のナノファイバーは、海島型複合繊維を前駆体として用いることが好ましい。海島型複合繊維は、吐出されたポリマーを未延伸糸として一旦巻き取った後に延伸する二工程法のほか、紡糸および延伸工程を連続して行う直接紡糸延伸法や高速製糸法など、いずれのプロセスにおいても製造することができる。二工程法で製糸する場合、ホットロール−ホットロール延伸や熱ピンを用いた延伸のほか、あらゆる公知の延伸方法を用いることができる。延伸工程での熱セット温度は低収縮性の繊維を得るためには120〜200℃とすることが好ましく、高収縮性の繊維を得るためには90〜120℃とすることが好ましい。
【0038】
本発明のナノファイバー混繊糸は、脱海処理前の海島型複合繊維の状態で予め混繊することが好ましい。混繊方法としては、紡糸と同時に混繊する紡糸混繊でもよく、それぞれの海島型複合繊維を別々に引き取った後に混繊する後混繊でもよい。後混繊としては、インターレースやタスラン加工などの空気混繊方法が好適である。収縮性の異なる繊維の組み合わせであれば、インターレースが特に好適である。交絡数としては10〜60個/mが好ましい態様である。
【0039】
得られた海島型複合繊維の混繊糸を、溶解剤を用いて脱海処理し、次いで、熱水や熱風を用いて収縮処理を施すことにより、ナノファイバー混繊糸を得ることができる。その際、溶解剤は、海成分により異なるが、環境負荷を低減する観点から、アルカリ水溶液などの水溶液系のものを用いることが好ましい。また、収縮処理は、混繊後のいずれのタイミングで行ってもよいが、脱海処理と同時または脱海処理の後に行うことにより、効果的にナノファイバー単繊維を分散することができ好適である。
【0040】
このような製造方法により、単繊維の分散性に優れたナノファイバー混繊糸が得られるのである。
【0041】
本発明のナノファイバー混繊糸から得られる織物や編物といった布帛はハードディスクやシリコンウエハ等の基板の研磨布や電子機器やガラス等のワイピングクロスとして好適に用いられる。
【実施例】
【0042】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。実施例中の物性値は、次の方法で測定したものである。
【0043】
(1)固有粘度
純度98%以上のo−クロロフェノール(OCP)10mL中に試料ポリマーを0.8g溶かし、25℃の温度でオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηを下記の式により求め、固有粘度を算出した。これを3点測定し、その平均値を用いた。
η=η/η=(t×d)/(t×d
固有粘度=0.0242η+0.2634
ここで、η:ポリマー溶液の粘度、η:OCPの粘度、t:溶液の落下時間(秒)、d:溶液の密度(g/cm)、t:OCPの落下時間(秒)、d:OCPの密度(g/cm)。
【0044】
(2)ポリエステル長繊維の単繊維径
ポリエステル長繊維の単繊維径は、単繊維群の横断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、同一横断面内で無作為抽出した300本以上の単繊維径を測定した。これを少なくとも5カ所以上の単繊維群で行い、合計1500本以上の単繊維径を測定し、その平均値により求めた。これらの測定位置は、得られる繊維製品の均一性を保証する観点から、繊維の長手方向に10m以上離して行うことが好ましい。
【0045】
(3)ポリエステル長繊維の糸長差
ナノファイバー混繊糸を任意の箇所で10cmにカットし、その中に含まれるそれぞれのポリエステル長繊維について、単繊維の長さを少なくとも50点測定し、その平均値を糸長L、Lとした。得られたL、Lから下記式によって糸長差を算出した。
(L−L)/L×100
:最も長いポリエステル長繊維の長さ
:最も短いポリエステル長繊維の長さ。
【0046】
(4)伸長弾性率
JIS L1013(2010年)の伸長弾性率8.9B法を、伸長率を20%とし伸長弾性率を測定した。
【0047】
(5)脱海処理後の沸騰水収縮率
海島型複合繊維を収縮が発現しない温度で脱海処理した後、JIS L 1013(2010年)8.18.1B法に規定されている熱水寸法変化率に準拠して測定した。
【0048】
(6)ワイピング性能
海島型複合繊維の混繊糸を用い、タテ糸密度とヨコ糸密度が等しく、トータルのカバーファクター(CF)が1900〜2100になるように、ゾッキ織物を作製した。
トータルCF=タテのCF+ヨコのCF
タテのCF =タテ糸繊度(dtex)1/2×タテ糸密度(本/2.54cm)
ヨコのCF =ヨコ糸繊度(dtex)1/2×ヨコ糸密度(本/2.54cm)
引き続き、80℃の温度の2質量%の水酸化ナトリウム水溶液を用いて脱海処理し、次いで98℃の温度の沸騰水に浸漬した後、乾燥させた。ガラス板にシリコーンコンパウンド(東レダウコーニング製SC−554)を均一に塗布したものを拭取り試料とし、得られた織物を用いて拭取りテストを行った。拭取り後のガラス板について検査者5人が目視判定し、拭き残しがほとんどない(4点)、拭き残しが若干しかない(3点)、拭き残しが見られる(2点)、多くの拭き残しが見られる(1点)の4段階でワイピング性能を評価して、各検査者の平均値によって下記のとおり評価した。小数点第2位以下は四捨五入した。「○○」の3.5点以上および「○」の3.5点未満2.7点以上を合格とした。
○○:3.5点以上
○ :3.5点未満2.7点以上
× :2.7点未満。
【0049】
(7)スクラッチ性能
上記(6)項で準備した織物を幅4cmのテープ状とし、1次粒子径1〜10nmの単結晶ダイヤモンド粒子がクラスター平均径100nmでクラスター化した遊離砥粒スラリーを用いて3.5インチアルミニウム基板の研磨を行った。研磨条件は基板回転数300rpm、テープ走行速度5cm/分、研磨時間10秒間とした。研磨後の基板表面に関し、光学表面分析計を用いて深さ2nm以上の溝をスクラッチとした。基板5枚の両面についてスクラッチ数を計測し、その個数の平均値でスクラッチ性能を3段階評価した。なお、スクラッチ性能は値が小さい方が優れている。「○○」の50個未満および「○」の50個以上100個未満を合格とした。
○○:50個未満
○ :50個以上100個未満
× :100個以上。
【0050】
(実施例1)
島成分として固有粘度0.71のPETを用い、海成分として固有粘度0.55の5−ナトリウムスルホイソフタル酸7.3質量%を共重合したPETを用いて、島数が127島で、ホール数が112の海島型複合用紡糸口金を用いて、島成分比率70質量%、紡糸温度290℃、巻取速度1500m/分の条件で溶融紡糸を行ない未延伸糸を得た。続いて、得られた未延伸糸を巻取速度500m/分、予熱温度90℃、熱セット温度160℃の条件で延伸し、75dtex−112フィラメントの海島型複合繊維(繊維1)を得た。
【0051】
一方、島成分を固有粘度1.14のPPTとしたこと以外は、繊維1と同様に溶融紡糸を行った。得られた未延伸糸を、巻取速度500m/分、延伸温度90℃、熱セット温度100℃の条件で延伸し、75dtex−112フィラメントの海島型複合繊維(繊維2)を得た。得られた繊維1と繊維2の脱海完了時間差は、8%であった。
【0052】
得られた繊維1と繊維2をインターレースによって混繊した後、80℃の温度の2質量%水酸化ナトリウム水溶液に浸漬することにより海成分の溶解除去および仮収縮処理を行い、次いで98℃の温度の沸騰水に浸漬および乾燥することにより収縮を完了させた。得られたナノファイバー混繊糸は、繊維1の繊維径が550nmであり、繊維2の繊維径が580nmであり、糸長差は10%であり、20%伸長時の伸長弾性率は86%であった。得られたナノファイバー混繊糸は、非常に単繊維の分散性に優れており、得られたナノファイバー混繊糸からなる織物はワイピング性能およびスクラッチ性能ともに優れており、製品として用いるのに十分な性能を有していた。結果を表1に示す。
【0053】
(実施例2)
繊維1および繊維2の島成分比率を80質量%としたこと以外は、実施例1と同様に紡糸し、延伸を行い、それぞれ140dtex−112フィラメントの海島型複合繊維(繊維3と繊維4)を得た。得られた繊維3と繊維4の脱海完了時間差は、5%であった。
【0054】
得られた繊維3と繊維4を実施例1と同様に混繊し、脱海および収縮処理を行った。得られたナノファイバー混繊糸は、繊維3の繊維径が800nmであり、繊維4の繊維径が850nmであり、糸長差は11%であり、20%伸長時の伸長弾性率は88%であった。得られたナノファイバー混繊糸は、実施例1と同様に単繊維の分散性に優れており、得られたナノファイバー混繊糸からなる織物はワイピング性能およびスクラッチ性能ともに優れていた。結果を表1に示す。
【0055】
(実施例3)
繊維1および繊維2の島成分比率を30質量%としたこと以外は、実施例1と同様に紡糸し、延伸を行い、それぞれ44dtex−112フィラメントの海島型複合繊維(繊維5と繊維6)を得た。得られた繊維5と繊維6の脱海完了時間差は4%であった。
【0056】
得られた繊維5と繊維6を実施例1と同様に混繊し、脱海および収縮処理を行った。得られたナノファイバー混繊糸は、繊維5の繊維径が280nmであり、繊維6の繊維径が290nmであり、糸長差は10%であり、20%伸長時の伸長弾性率は85%であった。得られたナノファイバー混繊糸は、実施例1と同様に単繊維の分散性に優れており、得られたナノファイバー混繊糸からなる織物は、ワイピング性能およびスクラッチ性能ともに優れていた。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例4)
実施例3で作製された繊維6を4本合糸した後、実施例2で作製された繊維3と実施例1と同様に混繊し、脱海処理および収縮処理を行った。繊維3と繊維6の脱海完了時間差は15%であった。得られたナノファイバー混繊糸は繊維3の繊維径が800nmであり、繊維6の繊維径が290nmであり、糸長差は10%であり、20%伸長時の伸長弾性率は74%であった。得られたナノファイバー混繊糸は、実施例1と同様に単繊維の分散性に優れており、得られたナノファイバー混繊糸からなる織物は、ワイピング性能に優れていた。一方、脱海完了時間差が実施例1対比大きいことから、一部繊維の脱落によりスクラッチ性能が実施例1に1歩及ばないものの、製品としての使用に十分なものであった。結果を表1に示す。
【0058】
(実施例5)
実施例3で作製された繊維5を4本合糸した後、実施例2で作製された繊維4と実施例1と同様に混繊し、脱海および収縮処理を行った。繊維4と繊維5の脱海完了時間差は18%であった。得られたナノファイバー混繊糸は繊維4の繊維径が850nmであり、繊維5の繊維径が280nmであり、糸長差は11%、20%伸長時の伸長弾性率は89%であった。得られたナノファイバー混繊糸は、実施例1と同様に単繊維の分散性に優れており、得られたナノファイバー混繊糸からなる織物は、ワイピング性能に優れていた。一方、脱海完了時間差が実施例1対比大きいことから、一部繊維の脱落によりスクラッチ性能が実施例1に1歩及ばないものの、製品としての使用に十分なものであった。結果を表1に示す。
【0059】
(比較例1)
繊維1および繊維2の島数を70島とし、ホール数を9とし、島成分比率を80質量%としたこと以外は、実施例1と同様に紡糸し、延伸を行い、ともに44dtex−9フィラメントの海島型複合繊維(繊維7と繊維8)を得た。得られた繊維7と繊維8の脱海完了時間差は4%であった。
【0060】
得られた繊維7と繊維8を実施例1と同様に混繊し、脱海処理および収縮処理を行った。得られたナノファイバー混繊糸は、繊維7の繊維径が2140nmであり、繊維8の繊維径が2240nmであり、糸長差は10%であり、20%伸長時の伸長弾性率は86%であった。得られたナノファイバー混繊糸は、単繊維の一部が分散していたが、得られたナノファイバー混繊糸からなる織物は、単繊維径が太いため、ワイピング性能およびスクラッチ性能ともに劣っていた。結果を表1に示す。
【0061】
(比較例2)
繊維2を海島型複合繊維ではなく、固有粘度1.14のPPT単独繊維としたこと以外は、実施例1と同様に紡糸し延伸を行い、56dtex−24フィラメントの単独繊維(繊維9)を得た。得られた繊維9を、実施例1で作製した繊維1と組み合わせ、実施例1と同様に混繊し、脱海処理および収縮処理を行った。得られたナノファイバーを含む混繊糸は、繊維1の繊維径が550nmであり、繊維9の繊維径が13900nmであり、糸長差は11%であり、20%伸長時の伸長弾性率は88%であった。得られたナノファイバーを含む混繊糸は分散性には優れていたが、得られたナノファイバー混繊糸からなる織物はソフト性が低く、繊維9の一部が表面に露出していることからワイピング性能およびスクラッチ性能に劣っていた。結果を表1に示す。
【0062】
(比較例3,4)
実施例1で作製された繊維1および繊維2を、それぞれ単独で脱海処理および収縮処理を行い、ナノファイバーを得た。得られたナノファイバーは、いずれも単繊維が分散しておらず、得られたナノファイバーからなる織物は、ワイピング性能およびスクラッチ性能に劣るものであった。結果を表1に示す。
【0063】
【表1】

【0064】
(実施例6)
繊維2の島成分を固有粘度0.88のPBTとしたこと以外は、実施例1と同様に紡糸し、延伸を行い、75dtex−112フィラメントの海島型複合繊維(繊維10)を得た。得られた繊維10を、実施例1で作製された繊維1と組み合わせ、実施例1と同様に混繊し、脱海処理および収縮処理を行った。繊維1と繊維10の脱海完了時間差は3%であった。得られたナノファイバー混繊糸は繊維1の繊維径が550nmであり、繊維10の繊維径が570nmであり、糸長差は7%であり、20%伸長時の伸長弾性率は58%であった。得られたナノファイバー混繊糸および得られたナノファイバー混繊糸からなる織物は、単繊維の分散性およびソフト性が実施例1対比低めであることから、ワイピング性能およびスクラッチ性能が実施例1に1歩及ばないものの、製品としての使用に十分なものであった。結果を表2に示す。
【0065】
(実施例7)
繊維1の島成分を固有粘度0.88のPBTとしたこと以外は、実施例1と同様に紡糸し、延伸を行い、75dtex−112フィラメントの海島型複合繊維(繊維11)を得た。得られた繊維11を実施例1で作製した繊維2と組み合わせ、実施例1と同様に混繊し、脱海処理および収縮処理を行った。得られた繊維2と繊維11の脱海完了時間差は4%であった。得られたナノファイバー混繊糸は繊維2の繊維径が580nmであり、繊維11の繊維径が550nmであり、糸長差は10%であり、20%伸長時の伸長弾性率は91%であった。得られたナノファイバー混繊糸は、実施例1と同様に単繊維の分散性に優れており、得られたナノファイバー混繊糸からなる織物は、ワイピング性能とスクラッチ性能ともに優れていた。結果を表2に示す。
【0066】
(実施例8)
繊維1の島成分を固有粘度1.14のPPTとしたこと以外は、実施例1と同様に紡糸し、延伸を行い、75dtex−112フィラメントの海島型複合繊維(繊維12)を得た。得られた繊維12を実施例6で作製した繊維10と組み合わせ、実施例1と同様に混繊し、脱海処理および収縮処理を行った。得られた繊維10と繊維12の脱海完了時間差は2%であった。得られたナノファイバー混繊糸は繊維10の繊維径が570nmであり、繊維12の繊維径が550nmであり、糸長差は5%であり、20%伸長時の伸長弾性率は67%であった。得られたナノファイバー混繊糸およびそのナノファイバー混繊糸からなる織物は、単繊維の分散性およびソフト性が実施例1対比低めであることから、ワイピング性能およびスクラッチ性能が実施例1に1歩及ばないものの、製品としての使用に十分なものであった。結果を表2に示す。
【0067】
(実施例9)
繊維2の島成分を固有粘度0.67のイソフタル酸7.1モル%およびビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物4.4モル%を共重合したPETとしたこと以外は、実施例1と同様に紡糸し延伸を行い、75dtex−112フィラメントの海島型複合繊維(繊維13)を得た。得られた繊維13を実施例1で作製した繊維1と組み合わせ、実施例1と同様に混繊し、脱海処理および収縮処理を行った。得られた繊維1と繊維13の脱海完了時間差は6%であった。得られたナノファイバー混繊糸は繊維1の繊維径が550nmであり、繊維13の繊維径が590nmであり、糸長差は15%であり、20%伸長時の伸長弾性率は34%であった。得られたナノファイバー混繊糸は、実施例1と同様に単繊維の分散性に優れており、得られたナノファイバー混繊糸からなる織物は、ワイピング性能に優れていた。一方、ソフト性が実施例1対比低いことから、スクラッチ性能が実施例1に1歩及ばないものの、製品としての使用に十分なものであった。結果を表2に示す。
【0068】
(実施例10)
繊維2の島成分を固有粘度0.71のPETとしたこと以外は、実施例1と同様に紡糸し延伸を行い、75dtex−112フィラメントの海島型複合繊維(繊維14)を得た。得られた繊維14を実施例1で作製した繊維1と組み合わせ、実施例1と同様に混繊し、脱海処理および収縮処理を行った。得られた繊維1と繊維14の脱海完了時間差は4%であった。得られたナノファイバー混繊糸は繊維1の繊維径が550nmであり、繊維14の繊維径が570nmであり、糸長差は7%であり、20%伸長時の伸長弾性率は35%であった。得られたナノファイバー混繊糸および該ナノファイバー混繊糸からなる織物は、単繊維の分散性およびソフト性が実施例1対比低めであることから、ワイピング性能およびスクラッチ性能が実施例1に1歩及ばないものの、製品としての使用に十分なものであった。結果を表2に示す。
【0069】
(実施例11)
実施例1で作製された繊維2と実施例8で作製された繊維12を組み合わせ、実施例1と同様に混繊し、脱海および収縮処理を行った。得られた繊維2と繊維12の脱海完了時間差は3%であった。得られたナノファイバー混繊糸は繊維2の繊維径が580nmであり、繊維12の繊維径が550nmであり、糸長差は8%であり、20%伸長時の伸長弾性率は93%であった。得られたナノファイバー混繊糸およびそのナノファイバー混繊糸からなる織物は、単繊維の分散性が実施例1対比低めであることから、ワイピング性能が実施例1に1歩及ばないもののスクラッチ性能に優れており、製品としての使用に十分なものであった。結果を表2に示す。
【0070】
(比較例5)
繊維2を海島型複合繊維ではなく、固有粘度0.67のイソフタル酸7.1モル%およびビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物4.4モル%を共重合したPET単独繊維としたこと以外は、実施例1と同様に紡糸し延伸を行い、40dtex−12フィラメントの単独繊維(繊維15)を得た。得られた繊維15を実施例1で作製された繊維1と組み合わせ、実施例1と同様に混繊し、脱海処理および収縮処理を行った。得られたナノファイバーを含む混繊糸は繊維1の繊維径が550nmであり、繊維15の繊維径が14900nmであり、糸長差は16%であり、20%伸長時の伸長弾性率は31%であった。得られたナノファイバーを含む混繊糸は、単繊維の分散性には優れていたが、得られたナノファイバーを含む混繊糸からなる織物は、ソフト性が低く、また、繊維15の一部が表面に露出していることからワイピング性能およびスクラッチ性能に劣り、また、共重合PETがアルカリ処理によりダメージを受けており、製品としての使用に耐えうるものではなかった。結果を表2に示す。
【0071】
【表2】

【0072】
(実施例12)
実施例1で作製された繊維1および繊維2と実施例7で作製された繊維11を組み合わせ、実施例1と同様に混繊し、脱海および収縮処理を行った。得られた繊維1と繊維2と繊維11の脱海完了時間差は4%であった。得られたナノファイバー混繊糸は繊維1の繊維径が550nmであり、繊維2の繊維径が570nmであり、繊維11の繊維径が580nmであり、糸長差は10%であり、20%伸長時の伸長弾性率は84%であった。得られたナノファイバー混繊糸は、実施例1と同様に単繊維の分散性に優れており、得られたナノファイバー混繊糸からなる織物は、ワイピング性能とスクラッチ性能ともに優れていた。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
2種類以上のポリエステル長繊維からなる混繊糸であり、前記ポリエステル長繊維の単繊維径がいずれも50〜900nmであることを特徴とするナノファイバー混繊糸。
【請求項2】
ポリエステル長繊維の少なくとも1種類がポリプロピレンテレフタレートまたはポリブチレンテレフタレートからなる長繊維であることを特徴とする請求項1記載のナノファイバー混繊糸。
【請求項3】
20%伸長時の伸長弾性率が70%以上であることを特徴とする請求項1または2記載のナノファイバー混繊糸。