説明

ナノファイバ製造装置、および、ナノファイバ製造装置のメンテナンス方法

【課題】電線に煩わされずに流出体のメンテナンス作業が可能なナノファイバ製造装置の提供。
【解決手段】ナノファイバ製造装置100の構造的な基礎となる基礎体101と、基礎体101に対し着脱可能に取り付けられる流出体115と、流出体115と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極121と、流出体115と帯電電極121との間に所定の電圧を印加する帯電電源122と、基礎体101に取り付けられ、流出体115が基礎体101に対して取り付けられた状態で流出体115と電気的に接続される供給電極102と、流出体115と帯電電極121との間に所定の電圧を印加するため、供給電極102に電気的に接続される電線103とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、静電延伸現象によりサブミクロンオーダーの細さである繊維(ナノファイバ)を製造するナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造装置のメンテナンス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂などから成り、サブミクロンスケールやナノスケールの直径を有するナノファイバと称される糸状(繊維状)物質を製造する方法として、静電延伸現象(エレクトロスピニング)を用いた方法が知られている。
【0003】
この静電延伸現象とは、溶媒中に樹脂などの溶質を分散または溶解させた原料液を空間中にノズルなどにより流出(噴射)させるとともに、原料液に電荷を付与して帯電させ、空間を飛行中の原料液を電気的に延伸させることにより、ナノファイバを得る方法である。
【0004】
より具体的に静電延伸現象を説明すると次のようになる。すなわち、帯電され空間中に流出された原料液は、空間を飛行中に徐々に溶媒が蒸発していく。これにより、飛行中の原料液の体積は、徐々に減少していくが、原料液に付与された電荷は、原料液に留まる。この結果として、空間を飛行中の原料液は、電荷密度が徐々に上昇することとなる。そして、溶媒は、継続して蒸発し続けるため、原料液の電荷密度がさらに高まり、原料液の中に発生する反発方向のクーロン力が原料液の表面張力より勝った時点で原料液が爆発的に線状に延伸される現象が生じる。これが静電延伸現象である。この静電延伸現象が、空間において次々と幾何級数的に発生することで、直径がサブミクロンからナノオーダーの樹脂から成るナノファイバが製造される。
【0005】
以上のような静電延伸現象を用いてナノファイバを製造する場合、特許文献1に記載の発明のように、マトリクス状に並べられた小径の孔から原料液を空間中に流出させた後、紐形状で空間中を飛翔する原料液に静電延伸現象を発生させてナノファイバを製造することが行われている。
【0006】
このようなナノファイバ製造装置により品質の高い(例えば直径が細い)ナノファイバを製造するために、流出体に設けられる流出孔の孔径を細くする場合がある。また、使用する原料液の粘度によっては、流出体から想定外に原料液が漏れるいわゆる液だれを抑止するため、流出孔の孔径を細くする場合がある。
【0007】
一方、原料液に含まれる溶質は、ナノファイバを構成する基材となる物質であるため、固化するものであり、当該溶質が流出孔を詰まらせることが多々ある。特に、ナノファイバの繊維径など品質を向上させるために流出孔の孔径が細くするほど、目詰まりが発生する可能性が高くなる。
【0008】
このような流出孔の目詰まりを放置すると、空間中に流出する原料液の量が減少し、ナノファイバの生産効率が低下する。また、堆積させてナノファイバを収集する場合、堆積厚さにムラが発生する場合がある。
【0009】
そこで、特許文献2には、原料液を通常より強く加圧して、流出孔から定期的に噴射することにより、目詰まりを防止する技術が記載されている。
【0010】
しかしながら、上記の技術などでは、目詰まりを完全に防止することは困難であるため、原料液を流出させる流出体を定期的にナノファイバ製造装置本体から取り外して洗浄するメンテナンス作業が行われている。また、製造するナノファイバの種類によっては、流出体を流出孔の孔径や流出孔の数が異なる流出体に交換する作業も発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−190090号公報
【特許文献2】特開2008−179906号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
ところが、従来のナノファイバ製造装置においては、ナノファイバ製造装置から流出体を取り外す場合、流出体に電圧を印加するための電線を流出体から取り外す構造が採用されている。この構造の場合、流出体から取り外された電線の端部は、どこにも固定されない自由な状態で放置されており、他の作業の邪魔になるなどの課題がある。
【0013】
また、流出孔の一部が目詰まりしたために、製造されるナノファイバの品質にムラが発生する場合や、導電性を備えた原料液など大型のタンクから原料液を連続的に供給できない場合などは、流出体の清掃や原料液の追加などの流出体の整備のために、ナノファイバ製造装置の操業を停止する必要がある。
【0014】
本願発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、電線に煩わされずにメンテナンス作業が可能な、ナノファイバ製造装置、および、ナノファイバ製造装置のメンテナンス方法の提供を目的とする。
【0015】
また、ナノファイバを製造する操業中に、流出体の整備を行うことのできるナノファイバ製造装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために、本願発明にかかるナノファイバ製造装置は、原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、当該ナノファイバ製造装置の構造的な基礎となる基礎体と、原料液を定められた方向にのみ流出させる流出体であって、前記基礎体に対し着脱可能に取り付けられる流出体と、前記流出体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と、前記流出体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加する帯電電源と、前記基礎体に取り付けられ、前記流出体が前記基礎体に対して取り付けられた状態で前記流出体と電気的に接続される供給電極と、前記流出体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加するため、前記供給電極に電気的に接続される電線とを備えることを特徴とする。
【0017】
これにより、電線は、基礎体に取り付けられ、メンテナンス時には取り外されない供給電極に取り付けられているため、流出体をメンテナンスするために基礎体から取り外した場合でも、電線の端部が自由になることはない。従って、電線の端部に煩わされること無くメンテナンス作業を進めることが可能となる。
【0018】
また、前記供給電極は、前記流出体を前記基礎体に取り付けるための保持部を備えてもよい。
【0019】
これによれば、供給電極が流出体を保持するため、流出体の重みにより供給電極と流出体とが強く接続し、接続部分において高い電気伝導性を確保することが可能となる。
【0020】
前記保持部は、少なくとも一端が開放される溝が設けられ、前記流出体は、前記溝と係合する係合部を備えてもよい。
【0021】
これによれば、溝の開放端から係合部を挿入し、流出体をスライドさせることによって、流出体を所定の位置に配置することができるため、メンテナンス作業の効率を高めることが可能となる。
【0022】
また、前記流出体は、第一流出体と第二流出体とを備え、前記供給電極は、前記第一流出体と電気的に接続される第一供給電極と、前記第二流出体と電気的に接続される第二供給電極とを備え、前記第一供給電極と前記第二供給電極とは、前記帯電電極に対し並列に接続されてもよい。
【0023】
このように、ナノファイバ製造装置が複数の流出体を備えている場合、第一流出体から原料液を流出させてナノファイバを製造している操業中において、第二流出体への原料液の供給を停止し、第二流出体を取り外して、電圧が印加されている状態を解除することができる。従って、ナノファイバ製造装置の操業を維持しながら流出体の整備や交換を行うことが可能となる。
【0024】
特に、連続的に流出体に供給することができない導電性を有する原料液の場合、一方の流出体でナノファイバを製造している操業中に、貯留槽に原料液が充填された流出体と、貯留槽に原料液が乏しくなった(またはなくなった)流出体とを交換することができ、連続してナノファイバを製造し続けることができる。
【0025】
上記目的を達成するために、本願発明にかかるナノファイバ製造方法は、原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置の構造的な基礎となる基礎体に取り付けられる第一流出体から原料液が流出する際に、前記基礎体に前記第一流出体と並んで取り付けられる第二流出体を前記基礎体から取り外すことにより、前記基礎体に取り付けられ、前記第二流出体に電荷を供給する第二供給電極と前記第二流出体とを電気的に分離し、整備された前記第二流出体、または、第三流出体を前記基礎体に取り付けることにより、前記第二供給電極と電気的に接続することを特徴とする。
【0026】
これによれば、第一流出体から原料液を流出させてナノファイバを製造している操業中において、第二流出体への原料液の供給を停止し、第二流出体を取り外して、電圧が印加されている状態を解除することができる。従って、ナノファイバ製造装置の操業を維持しながら流出体の整備や交換を行うことが可能となる。
【0027】
上記目的を達成するために、本願発明にかかるナノファイバ製造装置のメンテナンス方法は、原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置のメンテナンス方法であって、当該ナノファイバ製造装置の構造的な基礎となる基礎体から原料液を空間中に流出させる流出体を取り外すことにより、前記基礎体に取り付けられ、前記流出体に電荷を供給する供給電極と前記流出体とを電気的に分離し、取り外された前記流出体を洗浄し、洗浄された前記流出体を前記基礎体に取り付けることにより、前記供給電極と電気的に接続することを特徴とする。
【0028】
これにより、基礎体に取り付けられ、メンテナンス時には取り外されない供給電極に電線を取り付けた状態で、流出体を洗浄することができる。従って、電線の端部に煩わされること無くメンテナンス作業を進めることが可能となる。
【発明の効果】
【0029】
本願発明によれば、端部が自由になった電線に煩わされること無く、メンテナンスを行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】図1は、ナノファイバ製造装置を示す斜示図である。
【図2】図2は、流出体を切り欠いて示す斜示図である。
【図3】図3は、流出体と帯電電極との配置関係の別態様を模式的に示す平面図である。
【図4】図4は、供給電極とその周縁部を示す斜示図である。
【図5】図5は、電線が接続された状態の供給電源と、供給電源と分離状態の流出体の係合部を示す斜示図である。
【図6】図6は、供給電源と、係合部との別態様を示す斜示図である。
【図7】図7は、他の態様に係る供給電極と流出体とを示す斜示図である。
【図8】図8は、別態様のナノファイバ製造装置を基礎体の一部を切り欠いて示す斜視図である。
【図9】図9は、ナノファイバ製造装置を基礎体の一部を切り欠いて示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本願発明にかかるナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造装置のメンテナンス方法を、図面を参照しつつ説明する。
【0032】
図1は、ナノファイバ製造装置を示す斜示図である。
【0033】
同図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、原料液300(図2参照)を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造する装置であって、基礎体101と、流出体115と、帯電電極121と、帯電電源122と、供給電極102と、電線103とを備えている。また本実施の形態の場合、ナノファイバ製造装置100は、さらに、誘引手段104と、供給手段107と、収集手段128と、移送手段129とを備えている。
【0034】
基礎体101は、ナノファイバ製造装置100の構造的な基礎となる部材である。本実施の形態の場合、基礎体101は、剛性のある構造材を組み合わせて形成される枠体である。なお、基礎体101は、ナノファイバ製造装置100の各部材を載置しうる基台や、各部材を収容する筐体などでもかまわない。
【0035】
図2は、流出体を切り欠いて示す斜示図である。
【0036】
流出体115は、原料液300の圧力(重力も含む場合がある)により原料液300を空間中に流出させるための部材であり、流出孔118と、貯留槽113とを備えている。また、流出体115は、流出する原料液300に電荷を供給する電極としても機能しており、原料液300と接触する部分の少なくとも一部は導電性を備えた部材で形成される。本実施の形態の場合、流出体115全体が金属で形成されている。なお、金属の種類は導電性を備えておれば、特に限定されるものではなく、黄銅やステンレス鋼など任意の材料を選定しうる。
【0037】
本実施の形態の場合、流出体115は、側面視三角形の筒状の部材であり、流出体115の長さ方向に延びて配置される二つの側壁は、表面はなめらかであり、下方に向かうほど相互の間隔が狭くなるような配置となっている。このように、流出体の表面がなめらかな表面を備えており、できる限り特異な部分を少なくすることが好ましい。これにより、イオン風の発生を抑制することができるからである。また、流出孔118が配置される部分をできる限り狭くしておくことで、流出孔118の近傍に電荷を集中させやすく、原料液300に効率的に電荷を供給することができる。
【0038】
なお、流出体115は、上記実施の形態のような断面V字型のものばかりでなく、例えば断面形状が矩形(全体形状が箱形)や、円管形状のものなど、任意の形状を採用することが可能である。
【0039】
流出孔118は、原料液300を空間中に流出させる孔であり、流出体115に複数個設けられている。また、流出孔118は、所定の間隔で流出体115の長さ方向に一次元的に並んで配置されている。
【0040】
流出孔118の孔長や孔径は、特に限定されるものではなく、原料液300の粘度などにより適した形状を選定すれば良い。具体的には、孔長は、0.1mm以上、5mm以下の範囲から選定されるのが好ましい。孔径は、0.1mm以上、2mm以下の範囲から選定されるのが好ましい。また、流出孔118の形状は、円筒形状に限定されるわけではなく、任意の形状を選定しうる。特に開口部の形状は、円形に限定されるわけではなく、三角形や四角形などの多角形、星形など内側に突出する部分のある形状などでもかまわない。
【0041】
このように、流出孔118は、細長い場合が多く、目詰まりが生じた場合は、洗浄により目詰まりを解消する必要がある。
【0042】
貯留槽113は、流出体115の内部に形成され、供給手段107(図1参照)から供給される原料液300を貯留するタンクである。また、貯留槽113は、複数の流出孔118に接続され、流出孔118に同時に原料液300を供給するものとなっている。本実施の形態の場合、貯留槽113は、流出体115に一つ設けられており、流出体115の一端部から他端部にわたって広く設けられ、全ての流出孔118と接続されている。
【0043】
以上のように貯留槽113は、原料液300を流出孔118の近傍で一時的に貯留し、複数の流出孔118に均等な圧力で原料液300を供給する機能を備えており、これにより、各流出孔118から均等な状態で原料液300を流出させることが可能となる。従って、製造されるナノファイバの品質の空間的なムラを抑制することが可能となる。
【0044】
移送手段129は、流出体115と、収集手段128とを相対的に移動させる装置である。本実施の形態の場合、流出体115は固定されており、収集手段128のみを移動するものとなっている。具体的に移送手段は、長尺の収集手段128を巻き取りながらロールから引き出し、堆積するナノファイバと共に収集手段128を搬送するものとなっている。
【0045】
帯電電極121は、流出体115と所定の間隔を隔てて配置され、自身が流出体115に対し高い電圧もしくは低い電圧となることで、流出体115に電荷を誘導するための導電性を備える部材である。
【0046】
本実施の形態の場合、帯電電極121は、ナノファイバを誘引する誘引手段104としても機能しており、流出体115の先端部と対向する位置に配置されており、帯電電源122を介して接地されている。一方、流出体115は接地されている。従って、帯電電極121に所定の電位を印加することで、流出体115と帯電電極121との間には前記電位に対応する電圧が発生する。そして、帯電電極121に正の電位が印加されると流出体115には、負の電荷が誘導され、帯電電極121に負の電位が印加されると流出体には、正の電荷が誘導される。
【0047】
帯電電源122は、流出体115と帯電電極121との間に高電圧を印加することのできる電源である。帯電電源122は、本実施の形態では直流電源が採用されるが、交流電源でもよい場合がある。また、帯電電源122は、5KV以上の出力が得られるものが好ましい。これは、流出体115と誘引電極として機能する帯電電極121との間の空間で原料液300が静電延伸現象によりナノファイバに変化しなければならないため、流出体115と帯電電極121との間は十分な間隔が必要となる。このような状態で、流出体115に電荷を誘導し、原料液300を帯電させるためには、少なくとも5KV程度の電圧が必要と考えられるからである。なお、ナノファイバ製造装置100を通常に操業する場合には、流出体115と帯電電極121との間に20KV程度の電圧を印加するため、帯電電源122は、50KVまで出力できるものが好ましい。これにより20KV程度の電圧を出力する際の安定性が向上するからである。
【0048】
なお、帯電電源122は、流出体115に接続されるものでもかまわない。この場合、帯電電極121が接地されることで、流出体115と帯電電極121との間に電圧を印加することが可能となる。つまり、帯電電源122は、接地されており、流出体115も接地されているので、帯電電源122は、アースを介して流出体115と帯電電極121とに接続されている。従って、アースの位置はいずれでもかまわない。また、帯電電源122は、アースを介することなく、直接流出体115と帯電電極121とのそれぞれに直接接続するものでもかまわない。
【0049】
また、図3に示すように、流出体115と帯電電極121とが近い距離に配置され、帯電電極121に引き寄せられそうになる原料液300やナノファイバが気体流(同図中矢印)等により飛翔方向が変更され、帯電電極121に引き寄せられず他の場所に放出される場合、帯電電源122は、5KV未満の出力しか得られないものでもかまわない。これは、流出体115と帯電電極121とが近接しているため、比較的低い電圧でも原料液300を十分に帯電させることができるためである。
【0050】
図4は、供給電極とその周縁部を示す斜示図である。
【0051】
図5は、電線が接続された状態の供給電極と、供給電極と分離状態の流出体の係合部を示す斜示図である。
【0052】
これらの図に示すように供給電極102は、基礎体101に取り付けられ、流出体115が基礎体101に対して取り付けられた状態で流出体115と電気的に接続される導電性の部材である。供給電極102は、流出体115に電荷を供給し、その流出体115を介して原料液300に電荷を供給する機能を担っている。
【0053】
本実施の形態の場合、供給電極102は、流出体115を基礎体101に取り付けるための保持部124を備えており、保持部124には、一端が開放される溝125が設けられている。供給電極102の保持部124に設けられている溝125は、いわゆるアリ溝と称される溝125であり、溝の底面に向かって(同図中上向き)徐々に溝の幅が広がる形状となっている。
【0054】
一方、流出体115に設けられる係合部151は、溝125に対し溝125の長さ方向には挿脱自在であり、溝125に挿入した状態では溝125の長さ方向と直交する方向には抜脱できないレール部152を備えている。つまり、レール部152は、溝125の形状と対応する形状となっている。また、係合部151は、流出体115と一体となっており、導電性の高い金属で形成されている。
【0055】
以上から、供給電極102の溝125に係合部151のレール部152を挿入すれば、供給電極102は、流出体115を保持することが可能となる。また、供給電極102は、基礎体101に取り付けられているため、流出体115が供給電極102に保持された状態は、流出体115が基礎体101に対し着脱可能に取り付けられた状態となる。また、供給電極102と係合部151とは、ともに導電性を備えているため、供給電極102と係合部151とが係合すると、供給電極102は、係合部151を介して流出体115と電気的に接続される。
【0056】
また、本実施の形態の場合は、供給電極102が流出体115をつり下げた状態で保持するため、流出体115の重量により溝125とレール部152とが強く接触し、接触抵抗を低減させて高い導電性を確保することが可能となる。
【0057】
電線103は、流出体115と帯電電極121との間に所定の電圧を印加するため、供給電極102に電気的に接続される導電性の線材である。本実施の形態の場合、電線103は、絶縁性の樹脂で被覆されており、基礎体101に沿って配線していても、基礎体101との間で絶縁が破壊されるものではない。
【0058】
誘引手段104は、空間中で製造されたナノファイバを収集手段128に誘引するための装置である。誘引手段104は、気体流を用いてナノファイバを所定の位置に誘引する方式(気体流方式)や、空間を飛翔しているナノファイバが帯電していることを利用して、電界を発生させてナノファイバを所定の位置に誘引する方式(電界方式)を採用することができ、また、気体流方式と電界方式を併有するものでもかまわない。
【0059】
本実施の形態の場合、誘引手段104は、図1に示すように、流出体115と所定距離離れた位置に流出体115よりも長く幅の広い板状の帯電電極121が誘引電極としても機能している。帯電電極121は、誘引電源としても機能する帯電電源122と接続されて所定の電位が印加される導電性の部材であり、帯電電極121から発生する電界により流出体115に電荷を発生させると共に、ナノファイバを帯電電極121の方向に誘引する。また、誘引手段104は、吸引手段142を備えている。吸引手段142は、帯電電極121の厚さ方向に多数設けられた貫通孔から気体を吸い込んで気体流を発生させ、ナノファイバを所定の位置に誘引する装置である。
【0060】
収集手段128は、空間中で製造されたナノファイバを収集する装置である。本実施の形態の場合、収集手段128は、被堆積部材126と、移送手段129とを備えている。
【0061】
被堆積部材126は、流出体115から流出した原料液300が静電延伸現象により変化したナノファイバを堆積させて収集する部材である。
【0062】
本実施の形態の場合、被堆積部材126は、誘引手段104により発生する気体流が通過する網状のシートであり、被堆積部材126から堆積したナノファイバを容易にはがせるように表面にシリコンでコーティングが施されている。
【0063】
移送手段129は、流出体115と、被堆積部材126とを相対的に移動させる装置である。本実施の形態の場合、流出体115は基礎体101に固定されており、被堆積部材126のみを移動するものとなっている。具体的に移送手段129は、長尺の被堆積部材126を巻き取りながらロールから引き出し、堆積するナノファイバと共に被堆積部材126を移動させることができるものとなっている。
【0064】
なお、移送手段129は、被堆積部材126を移動させるばかりではなく、流出体115を被堆積部材126に対して移動させるものでもかまわない。この場合、流出体115は可動状態で基礎体101に取り付けられることとなる。また、移送手段129は、被堆積部材126を一定方向に移動させると共に、流出体115を往復動させるなど、任意の動作状態を採用することができる。
【0065】
供給手段107は、図1に示すように、流出体115に原料液300を供給する装置であり、原料液300を大量に貯留する容器と、原料液300を所定の圧力で搬送するポンプと、原料液300を案内する案内管とを備えている。
【0066】
次に、上記構成のナノファイバ製造装置100のメンテナンス方法を説明する。
【0067】
ここで、ナノファイバを構成する樹脂であって、原料液300に溶解、または、分散する溶質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体等の高分子物質を例示できる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記樹脂に限定されるものではない。
【0068】
原料液300に使用される溶媒としては、揮発性のある有機溶剤などを例示することができる。具体的に例示すると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を挙示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明に用いられる原料液300は上記溶媒を採用することに限定されるものではない。
【0069】
さらに、原料液300に無機質固体材料を添加してもよい。当該無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、製造されるナノファイバの耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。当該酸化物としては、Al23、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B23、P25、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb23、As23、CeO2、V25、Cr23、MnO、Fe23、CoO、NiO、Y23、Lu23、Yb23、HfO2、Nb25等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明の原料液300に添加される物質は、上記添加剤に限定されるものではない。
【0070】
原料液300における溶媒と溶質との混合比率は、選定される溶媒の種類と溶質の種類とにより異なるが、溶媒量は、約60重量%から98重量%の間が望ましい。好適には溶質が5〜30%となる。
【0071】
ナノファイバ製造装置100の操業を停止した後、基礎体101から流出体115を取り外す(取り外し工程)。取り外しは、流出体115を水平方向にスライドさせることにより、供給電極102と係合部151との係合関係が解除され、供給電極102と流出体115とが物理的に分離するとともに、電気的な接続状態が解除される。
【0072】
基礎体101から流出体115を取り外した状態において、供給電極102は基礎体101に取り付けられており、電線103は供給電極102に接続されている。従って、電線103が邪魔となって、メンテナンス作業に支障が出ることが無い。
【0073】
次に、取り外された流出体115を溶剤などを用いて洗浄する(洗浄工程)。
【0074】
次に、洗浄された流出体115を基礎体101に取り付ける(取り付け工程)。取り付けは、流出体115を供給電極102の近傍に配置した後、流出体115を水平方向にスライドさせることにより、供給電極102と係合部151とが係合する。この状態で、供給電極102により流出体115が保持されるとともに、電気的に接続された状態となる。
【0075】
上記構成のナノファイバ製造装置100によれば、基礎体101に対する流出体115の着脱が容易であり、当該着脱により電気的な接続の確保と解除とを実現することができる。さらに、電線103の端部が自由となってメンテナンス作業の邪魔になることもないため、きわめて容易にメンテナンス作業を進めることが可能となる。
【0076】
なお、本願発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、図6に示すように、ナノファイバ製造装置100は、供給電極102とは別体に、基礎体101に固定されるつり下げレール116を備え、供給電極102は、弾性を備えたスプリング端子130を備えていてもよい。一方、流出体115の係合部151は、フック153と、押圧子154とを備えていてもよい。
【0077】
この場合、供給電極102に対し、図中の矢印の方向に係合部151をスライドさせることにより、スプリング端子130と押圧子154とが接触し、供給電極102と流出体115との電気的な接続状態が確保できる。また、係合部151を逆にスライドさせれば、接続状態を解除することができる。
【0078】
また、図7に示すように、供給電極102は、鉤状の保持部124を備え、流出体115は、保持部124と係合する円柱状の係合部151を備えるものでもよい。このような構成を採用すれば、供給電極102の保持部124に係合部151を引っかけるように係合することで、供給電極102は、流出体115をつり下げ状態で保持することが可能となる。また、保持部124と係合部151との接触により、供給電極102と流出体115とを導通させることができる。
【0079】
また、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて実現される別の実施の形態を本願発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本願発明の主旨、すなわち、特許請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本願発明に含まれる。
【0080】
図8は、別態様のナノファイバ製造装置を基礎体の一部を切り欠いて示す斜視図である。
【0081】
同図に示すナノファイバ製造装置100は、流出体115として、第一流出体161と第二流出体162とを備え、供給電極102として、第一流出体161と電気的に接続される第一供給電極163と、第二流出体162と電気的に接続される第二供給電極164とを備えている。
【0082】
第一供給電極163と第二供給電極164とは、帯電電極121に対し並列に接続されている。つまり、第一流出体161と第一供給電極163との接続を解除しても、第二流出体162と帯電電極121との間の電圧に影響がなく、第二流出体162と第二供給電極164との接続を解除しても、第一流出体161と帯電電極121との間の電圧に影響がないように第一供給電極163、および、第二供給電極164と電線103とが接続されている。
【0083】
なお、図8に示す構成では、第一供給電極163と第二供給電極164とは、帯電電極121に対し並列に対向配置され、アースおよび帯電電源122を経由して帯電電極121に対し並列に接続されているが、当該接続態様に限定されるわけではない。例えば、第一供給電極163と第二供給電極164とが帯電電源122に直接並列に接続されていても良い。この場合、帯電電源122と帯電電極121との間は、直接接続されていても、アースを介して接続されていてもよい。
【0084】
第一流出体161、および、第二流出体162は、内部に原料液300を貯留する大型の貯留槽113(図示せず)を備えており、貯留槽113に充填された原料液300を流出孔118から流出するものとなっている。
【0085】
図9は、ナノファイバ製造装置を基礎体の一部を切り欠いて示す斜視図である。
【0086】
同図に示すように、第一流出体161から原料液300を流出させてナノファイバ301を製造している操業中において、第二流出体162を基礎体101から取り外すと同時に、第二流出体162に印加されている電圧を解除することができる。
【0087】
なお、第二流出体162を基礎体101に着脱する際には、アーク放電を回避しうる速度で第二流出体162を動かすことが望ましい。当該内容は第一流出体161も同様である。
【0088】
以上によれば、ナノファイバ製造装置100の操業を維持、すなわち、第一流出体161から原料液300を流出させてナノファイバ301を製造しながら第二流出体162の整備を行い、再び第二流出体162を取り付けることが可能となる。さらに、第三流出体(図示せず)を別途準備しておき、第二流出体162と第三流出体とを交換することが可能となる。
【0089】
特に、原料液300が導電性を備えている場合、大型の供給手段107から連続的に原料液300を流出体115に供給し続けることが困難である。以上のような状況であっても上記ナノファイバ製造装置100を用い、比較的大量の原料液300を保持しうる貯留槽113を備えた第一流出体161や第二流出体162とを用いれば、一方の流出体115から原料液300を流出している間に他方の流出体115の貯留槽113に原料液300を充填することが可能となり、導電性を有する原料液300を用いて連続的にナノファイバ301を製造し続けることが可能となる。
【0090】
なお、上記記載は本願発明を限定するものでは無い。例えば、第一流出体161、および、第二流出体162は、供給手段107に接続されていてもかまわない。
【0091】
また、原料液300の貯留槽113への充填作業や、流出体115の洗浄なども整備に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本願発明は、ナノファイバの製造やナノファイバを用いた紡糸、不織布の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0093】
100 ナノファイバ製造装置
101 基礎体
102 供給電極
103 電線
104 誘引手段
107 供給手段
113 貯留槽
115 流出体
116 つり下げレール
118 流出孔
121 帯電電極
122 帯電電源
124 保持部
125 溝
126 被堆積部材
128 収集手段
129 移送手段
130 スプリング端子
142 吸引手段
151 係合部
152 レール部
153 フック
154 押圧子
300 原料液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、
当該ナノファイバ製造装置の構造的な基礎となる基礎体と、
原料液を定められた方向にのみ流出させる流出体であって、前記基礎体に対し着脱可能に取り付けられる流出体と、
前記流出体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と、
前記流出体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加する帯電電源と、
前記基礎体に取り付けられ、前記流出体が前記基礎体に対して取り付けられた状態で前記流出体と電気的に接続される供給電極と、
前記流出体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加するため、前記供給電極に電気的に接続される電線と
を備えるナノファイバ製造装置。
【請求項2】
前記供給電極は、
前記流出体を前記基礎体に取り付けるための保持部を備える
請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項3】
前記保持部は、
少なくとも一端が開放される溝が設けられ、
前記流出体は、前記溝と係合する係合部を備える
請求項2に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項4】
前記流出体は、第一流出体と第二流出体とを備え、
前記供給電極は、前記第一流出体と電気的に接続される第一供給電極と、前記第二流出体と電気的に接続される第二供給電極とを備え、
前記第一供給電極と前記第二供給電極とは、前記帯電電極に対し並列に接続される
請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項5】
原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、
ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置の構造的な基礎となる基礎体に取り付けられる第一流出体から原料液が流出する際に、前記基礎体に前記第一流出体と並んで取り付けられる第二流出体を前記基礎体から取り外すことにより、前記基礎体に取り付けられ、前記第二流出体に電荷を供給する第二供給電極と前記第二流出体とを電気的に分離し、
整備された前記第二流出体、または、第三流出体を前記基礎体に取り付けることにより、前記第二供給電極と電気的に接続する
ナノファイバ製造方法。
【請求項6】
原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置のメンテナンス方法であって、
当該ナノファイバ製造装置の構造的な基礎となる基礎体から原料液を空間中に流出させる流出体を取り外すことにより、前記基礎体に取り付けられ、前記流出体に電荷を供給する供給電極と前記流出体とを電気的に分離し、
取り外された前記流出体を洗浄し、
洗浄された前記流出体を前記基礎体に取り付けることにより、前記供給電極と電気的に接続する
ナノファイバ製造装置のメンテナンス方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−236544(P2011−236544A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89568(P2011−89568)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】