説明

ナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法

【課題】空間中に流出する原料液の形状を安定して調整し、ばらつきの少ない高品質のナノファイバを製造する。
【解決手段】原料液300を沿わせて案内する案内体111と、案内体の案内面部112に原料液を供給する供給体115と、案内面部112に沿って流れる原料液300を案内体111に押しつける気体流を吹き出す第一吐出体131と、案内体111と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極121と、案内体111と帯電電極121との間に所定の電圧を印加する帯電電源122とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、静電延伸現象によりサブミクロンオーダーやナノオーダーの細さである繊維(ナノファイバ)を製造するナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂などから成り、サブミクロンスケールやナノスケールの直径を有する糸状(繊維状)物質を製造する方法として、静電延伸現象(エレクトロスピニング)を用いた方法が知られている。
【0003】
この静電延伸現象とは、溶媒中に樹脂などの溶質を分散または溶解させた原料液を空間中にノズルなどにより流出(噴射)させるとともに、原料液に電荷を付与して帯電させ、空間を飛行中の原料液を電気的に延伸させることにより、ナノファイバを得る方法である。
【0004】
より具体的に静電延伸現象を説明すると次のようになる。すなわち、帯電され空間中に流出された原料液は、空間を飛行中に徐々に溶媒が蒸発していく。これにより、飛行中の原料液の体積は、徐々に減少していくが、原料液に付与された電荷は、原料液に留まる。この結果として、空間を飛行中の原料液は、電荷密度が徐々に上昇することとなる。そして、溶媒は、継続して蒸発し続けるため、原料液の電荷密度がさらに高まり、原料液の中に発生する反発方向のクーロン力が原料液の表面張力より勝った時点で原料液が爆発的に線状に延伸される現象が生じる。これが静電延伸現象である。この静電延伸現象が、空間において次々と幾何級数的に発生することで、直径がサブミクロンオーダーやナノオーダーの樹脂から成るナノファイバが製造される。
【0005】
以上のような静電延伸現象を用いて産業的にナノファイバを製造する場合、ナノファイバの品質が安定していることが望まれる。例えば、製造されるナノファイバが細く、かつ、一度に製造されるナノファイバの繊維径のばらつきをできる限り抑制し、経時的にもばらつきがないことが好ましい。また、ナノファイバを堆積させて不織布を製造する場合は、製造されるナノファイバの空間的なばらつきをできる限り無くし、不織布の膜厚のばらつきを抑制できることが好ましい。
【0006】
特許文献1には、二流体ノズルの中心のノズルから原料液を流出させ、周囲のノズルから気体流を吐出することで、空間中に流出する原料液を細かく分散させることにより静電延伸現象を促進させて、一様な品質の不織布が得られる技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−525669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、二流体ノズルを用いてナノファイバを製造する場合、ノズルから流出した原料液が細切れの原料液の粒に分散する際に、原料液の粒の形状にばらつきが生じ、帯電量にばらつきが発生する懸念がある。中には、十分に帯電できないような大きさの原料液の粒も発生することが懸念される。このような状態になると、製造されるナノファイバの品質が安定しない。
【0009】
そこで、本願発明者は、鋭意研究と実験の結果、ノズル先端から下方に向かって原料液が紡錘状の形状になることによって、曲率半径の極めて小さな尖った部分ができる現象、いわゆるテーラーコーンが発生することによって、原料液の尖った部分へ電荷が集中し、静電延伸現象が促進されることを見いだすに至った。更に、このテーラーコーンの形状を維持することによって、原料液の尖った部分に継続して電荷が集中し、原料液へのほぼ均一な帯電状態を維持することができることを見いだすに至った。つまり、二流体ノズルを用いると、テーラーコーンが発生することなく原料液が分散するため、分散により細切れになった原料液の粒の形状が一定ではないため、原料液の粒の曲率半径が変動し、これにより帯電状態が変動し、ナノファイバの品質が安定しないと考えられる。
【0010】
そしてさらに、実験と研究とを進めた結果、テーラーコーンの形状によって、原料液に電荷が集中する度合いが変化することを見いだすに至った。
【0011】
本願発明は、上記知見に基づきなされたものであり、テーラーコーンと同視できる原料液の形状を積極的に形成することができると共に、当該原料液の形状を安定させることができ、製造されるナノファイバの品質の向上と安定化を両立することのできるナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本願発明にかかるナノファイバ製造装置は、原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、原料液を沿わせて案内する案内面部と、前記案内面部の一端に位置し、前記案内面部に沿って流れる原料液を空間中に流出させる端縁部とを備える案内体と、前記案内体の前記案内面部に原料液を供給する供給口が設けられる供給体と、前記案内面部に沿って流れる原料液を前記案内体に押しつける気体流を吹き出す第一吐出口が設けられる第一吐出体と、前記案内体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と、前記案内体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加する帯電電源とを備えることを特徴とする。
【0013】
これによれば、案内面部に沿って流れる原料液が第一吐出口から吐出される空気流によって押しつけられ、原料液が薄く引き延ばされる。そして前記状態で、原料液が端縁部から空間中に流出するため、原料液は端縁部の形状に対応した膜形状となる。この空間中における膜形状がいわゆるテーラーコーンのかわりとなり、原料液の尖った部分に電荷が集中し、原料液を高い電荷密度にすることが可能となる。なお、膜形状の原料液は、静電延伸現象によって、複数の紐状の原料液に分解され、さらに紐状の原料液に静電延伸現象が繰り返し発生することでナノファイバが製造される。膜形状の原料液が薄いと、紐状の原料液が細くなるため、製造されるナノファイバは細くなる。また、膜形状の原料液が薄いと、電荷が集中しやすく、原料液をより高い電荷密度にすることができるため、静電延伸現象が繰り返し発生し、製造されるナノファイバは細くなる。
【0014】
以上の様に、当該発明によれば、原料液を安定した状態で高い電荷密度とすることができ、細いナノファイバを製造することが可能となる。また、テーラーコーンのように偶然にゆだねることなくテーラーコーンのかわりとなる膜形状を積極的に調整できる為、経時的にも安定した状態で高い品質のナノファイバを製造することが可能となる。また、ナノファイバの品質の空間的なばらつきを抑制することも可能となる。
【0015】
また、前記案内面部、および、前記端縁部は、環形状であってもよい。
【0016】
これによれば、空間中に形成される膜形状の原料液を、流出方向と交差する方向に端部がない無端状態とすることができる。つまり、端縁部から流出する原料液が肉厚の薄い筒状となる。従って、流出方向と交差する方向に紐状に分解される原料液に特異な部分が無くなり、品質にばらつきのないナノファイバを製造することが可能となる。
【0017】
さらに、前記案内体から空間中に流出した直後の原料液の形状を調整する気体流を吹き出す第二吐出口が設けられる第二吐出体を備えてもかまわない。
【0018】
これによれば、案内面部と交差する方向の端縁部の形状に沿って膜状の原料液が広がり、膜状の原料液の厚みが厚くなることを抑止することが可能となる。
【0019】
また、前記端縁部は、尖った稜線部を備える形状であってもよい。
【0020】
これによれば、原料液を稜線から流出させることができるため、原料液が端縁部によって広がり、膜状の原料液の厚みが厚くなることを抑制できる。
【0021】
また、上記目的を達成するために、本願発明にかかるナノファイバ製造方法は、原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、供給体に設けられる供給口から供給される原料液を案内体に設けられる案内面部に沿わせて案内し、第一吐出体に設けられる第一吐出口から吐出される気体流により、前記案内面部に沿って流れる原料液を前記案内体に押しつけると共に、前記案内面部の一端に位置する端縁部から前記案内面部に沿って流れる原料液を空間中に流出させ、前記案内体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と、前記案内体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加する帯電電源とにより、原料液を帯電させることを特徴としている。
【0022】
これによれば、案内面部に沿って流れる原料液が第一吐出口から吐出される空気流によって押しつけられ、原料液が薄く引き延ばされる。そして前記状態で、原料液が端縁部から空間中に流出するため、原料液は端縁部の形状に対応した膜形状となる。この空間中における膜形状がいわゆるテーラーコーンのかわりとなり、原料液に電荷が集中し、原料液を高い電荷密度にすることが可能となる。なお、膜形状の原料液は、静電延伸現象によって、複数の紐状の原料液に分解され、さらに紐状の原料液に静電延伸現象が繰り返し発生することでナノファイバが製造される。膜形状の原料液が薄いと、紐状の原料液が細くなるため、製造されるナノファイバは細くなる。また、膜形状の原料液が薄いと、電荷が集中しやすく、原料液を高い電荷密度にすることができるため、静電延伸現象が繰り返し発生し、製造されるナノファイバは細くなる。
【0023】
以上の様に、当該発明によれば、原料液を安定した状態で高い電荷密度とすることができ、細いナノファイバを製造することが可能となる。また、テーラーコーンのように偶然にゆだねることなくテーラーコーンのかわりとなる膜形状を積極的に調整できる為、経時的にも安定した状態で高い品質のナノファイバを製造することが可能となる。また、ナノファイバの品質の空間的なばらつきを抑制することも可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本願発明によれば、薄い膜状に原料液を形成することができ、当該形状をある程度制御することが可能となる。従って、高品質のナノファイバを空間的、かつ、時間的に安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ナノファイバ製造装置を示す斜示図である。
【図2】放出手段を断面で示す平面図である。
【図3】第一吐出体を取り外した放出手段の一部を切り欠いて示す斜示図である。
【図4】第二吐出体がない場合の放出手段と帯電手段と誘引手段との関係を示す図である。
【図5】放出手段の別態様を示す斜示図である。
【図6】他の実施の形態にかかるナノファイバ製造装置を示す斜示図である。
【図7】他の実施の形態にかかる放出手段の先端部を断面で示す斜示図である。
【図8】放出手段の別態様を示す斜示図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、本願発明の実施の形態に係るナノファイバ製造装置、ナノファイバ製造方法を、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
(実施の形態1)
図1は、ナノファイバ製造装置を示す斜示図である。
【0028】
同図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、原料液300を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバ301を製造する装置であって、放出手段101と、誘引手段104と、収集手段128と、原料供給手段107、気体流発生手段108と、帯電手段102とを備えている。
【0029】
図2は、放出手段を断面で示す平面図である。
【0030】
図3は、第一吐出体を取り外した放出手段の一部を切り欠いて示す斜示図である。
【0031】
これらの図に示すように、放出手段101は、原料液300を帯電させると共に、帯電した原料液300を空間中に放出する装置であって、供給体115と、案内体111と、第一吐出体131と、第二吐出体132とを備えている。
【0032】
供給体115は、図1に示すように、原料供給手段107に接続され、原料供給手段107から供給される原料液300を案内体111に対して供給する部材であり、原料液を流出させる供給口151を備えている。
【0033】
本実施の形態の場合、供給体115は、断面三角形の中空の筒状であり、内部に原料液を貯留する貯留槽114を備えている。また、供給体115は、細長いスリット状の供給口151が下部に設けられており、原料供給手段107から供給される原料液300を内部に形成される貯留槽114に貯留し、原料液300の圧力(重力も含む場合がある)により案内体111に原料液300供給している。
【0034】
なお、原料供給手段107は、原料液300を貯留するタンクと、原料液300を搬送することのできるポンプと、原料液300を案内する案内管とで構成される装置等を例示することができる。
【0035】
案内体111は、原料液300を沿わせて案内する案内面部112と、案内面部112の一端に位置し、案内面部112に沿って流れる原料液300を空間中に流出させる端縁部113とを備えている。案内体111は、第一吐出口133から吐出される気体流により原料液300が押しつけられる力に抗するための部材である。本実施の形態の場合、案内体111は、断面三角形の棒状の部材であり、当該部材の外周面の一面に対応する部分が案内面部112として機能している。従って案内面部112は、細長い矩形の板状となっている。また、端縁部113は、案内体111における三角形の断面の頂点に該当する部分であり、尖った稜線部を備えている。
【0036】
このように、端縁部113が尖った稜線部を備えることにより、案内面部112に沿って流れる原料液300がその粘性によって端縁部113に沿って広がる現象を抑制することができ、空間中に流出する膜状の原料液300の厚みを薄くすることが可能となる。
【0037】
また、案内体111は、流出する原料液300に電荷を供給する電極としても機能しており、原料液300と接触する部分の少なくとも一部は、導電性を備えた部材で形成される。本実施の形態の場合、案内体111は、供給体115と一体に形成されており、案内体111と供給体115との全体が金属で形成されている。なお、金属の種類は導電性を備えておれば、特に限定されるものではなく、黄銅やステンレス鋼など任意の材料を選定しうる。
【0038】
第一吐出体131は、図1に示すように、気体流発生手段108に接続され、気体流発生手段108から供給される気体流を吐出する部材であり、案内面部112に沿って流れる原料液300を案内体111に押しつける気体流を吹き出す第一吐出口133が設けられる部材である。
【0039】
本実施の形態の場合、第一吐出体131は、細長い板状の案内面部112に沿って流れる原料液300の全体にわたって案内体111に押しつける気体流を吐出するため、案内面部112に沿った長い形状となっている。第一吐出口133は、供給口151と同じ長さの細長いスリット状となっている。また、供給体115の一部は、第一吐出体131として機能しており、第一吐出口133は、供給体115と第一吐出体131に囲まれて形成されている。これにより、断面三角形状の供給体115の形状に沿って、斜め方向から案内体111に原料液300を押し付けるように気体流を吐出することが可能となる。
【0040】
なお、気体流発生手段108は、空気などの気体を圧縮するコンプレッサーと、気体を圧送するための圧送管とで構成される装置などを例示することができる。
【0041】
第二吐出体132は、案内体111から空間中に流出した直後の原料液300の形状を調整する気体流を吹き出す第二吐出口134が設けられる部材であり、案内体111に対し第一吐出体131とは反対側に配置され、案内体111から空間中に流出する原料液300の形状を調整する気体流を吐出するための部材である。
【0042】
本実施の形態の場合、第二吐出体132は、細長い板状の案内面部112の端縁部113から流出する原料液300の全体にわたって第一吐出口133から吐出する気体流と共に膜状の原料液300の形状を薄い状態に保つ気体流を吐出するため、案内体111に沿った長い形状となっており、第二吐出口134は、第一吐出口133と同じ長さの細長いスリット状となっている。第二吐出体132は、第一吐出体131と連通状態となっており、気体流発生手段108から供給される気体流が第一吐出体131を経て供給されるものとなっている。また、供給体115の一部、および、案内体111の一部は、第二吐出体132としても機能しており、第二吐出口134は、案内体111と第二吐出体132に囲まれて形成されている。これにより、断面三角形状の供給体115(斜めに形成された案内体111)の形状に沿って、斜め方向から端縁部113を通過した原料液300を支えるように気体流が流れることとなる。つまり、端縁部113を通過した原料液300が第一吐出口133から吐出される気体流に押し付けられても案内面部112の延長線上に流出するように、反対側から押し支える気体流が流れる。
【0043】
誘引手段104は、空間中で製造されたナノファイバ301を収集手段128に誘引するための装置である。誘引手段104は、気体流を用いてナノファイバ301を所定の位置に誘引する方式(気体流方式)や、空間を飛翔しているナノファイバ301が帯電していることを利用して、電界を発生させてナノファイバ301を所定の位置に誘引する方式(電界方式)を採用することができ、また、気体流方式と電界方式を併有するものでもかまわない。
【0044】
本実施の形態の場合誘引手段104は、図1に示すように、放出手段101と所定距離離れた位置に放出手段101よりも長い誘引電極143を備えている。誘引電極143は、誘引電源141と接続されて所定の電位が印加される導電性の部材であり、誘引電極143から発生する電界によりナノファイバ301を誘引する。また、誘引手段104は、吸引手段142を備えている。吸引手段142は、誘引電極143の厚さ方向に多数設けられた貫通孔から気体を吸い込んで気体流を発生させ、ナノファイバ301を所定の位置に誘引する装置である。
【0045】
収集手段128は、空間中で製造されたナノファイバ301を収集する装置である。本実施の形態の場合、収集手段128は、被堆積部材126と、移送手段129とを備えている。
【0046】
被堆積部材126は、放出手段101から放出された原料液300が静電延伸現象により変化したナノファイバ301を堆積させて収集する部材である。
【0047】
本実施の形態の場合、被堆積部材126は、誘引手段104により発生する気体流が通過する網状のシートであり、被堆積部材126から堆積したナノファイバ301を容易にはがせるように表面にテフロン(登録商標)コートが施されている。
【0048】
移送手段129は、放出手段101と、被堆積部材126とを相対的に移動させる装置である。本実施の形態の場合、供給体115は固定されており、被堆積部材126のみを移動するものとなっている。具体的に移送手段129は、長尺の被堆積部材126を巻き取りながらロール127から引き出し、堆積するナノファイバ301と共に被堆積部材126を移動させることができるものとなっている。
【0049】
なお、移送手段129は、被堆積部材126を移動させるばかりではなく、放出手段101を被堆積部材126に対して移動させるものでもかまわない、また、移送手段129は、被堆積部材126を一定方向に移動させると共に、放出手段101を往復動させるなど、任意の動作状態を採用することができる。
【0050】
帯電手段102は、静電延伸現象が発生するように、原料液300に電荷を付与して帯電させる装置である。本実施の形態の場合、帯電手段102は、帯電電極121と帯電電源122とを備えている。
【0051】
帯電電極121は、図2に示すように、案内体111と所定の間隔を隔てて配置され、自身が案内体111に対し高い電圧もしくは低い電圧となることで、案内体111に電荷を誘導するための導電性を備える部材である。本実施の形態の場合、第一吐出体131の先端縁が帯電電極121として機能しており、案内体111の案内面部112と平行に配置されている。帯電電極121は、接地されており、案内体111に正の電圧が印加されると帯電電極121には、負の電荷が誘導され、案内体111に負の電圧が印加されると帯電電極121には、正の電荷が誘導される。
【0052】
本実施の形態のように、案内体111と帯電電極121とが比較的近接した位置に配置されることで、案内体111と帯電電極121との間の電圧を、案内体111と帯電電極121とを近接させないで配置させた場合と比べて低く設定しても、十分に原料液300を帯電させる事が可能となる。また、帯電した原料液300が帯電電極121の方向に誘引され、帯電電極121に向かって飛翔しようとするが、案内体111と帯電電極121(第一吐出体131)との間に流れる気体流に飛翔方向が変更されるため、原料液300が帯電電極121に付着することを回避できる。
【0053】
帯電電源122は、案内体111に高電圧を印加することのできる電源である。帯電電源122は、一般には、直流電源が好ましい。特に、発生させるナノファイバ301の帯電極性に影響を受けないような場合、生成したナノファイバ301の帯電を利用して、逆極性の電位を印加した電極でナノファイバ301を誘引するような場合には、直流電源を採用することが好ましい。
【0054】
本実施の形態のように、帯電電源122の一方電極を接地電位とし、帯電電極121を接地するものとすれば、比較的大型の帯電電極121を接地状態とすることができ、安全性の向上に寄与することが可能となる。
【0055】
なお、帯電電極121に電源を接続して帯電電極121を高電圧に維持し、案内体111を接地することで原料液300に電荷を付与してもよい。また、帯電電極121と案内体111とのいずれも接地しないような接続状態であってもかまわない。
【0056】
次に、上記構成のナノファイバ製造装置100を用いたナノファイバ301の製造方法を説明する。
【0057】
まず、原料供給手段107により供給体115に原料液300を供給する。以上により、供給体115の貯留槽114に原料液300が満たされる。
【0058】
ここで、ナノファイバ301を構成する樹脂であって、原料液300に溶解、または、分散する溶質としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリ−m−フェニレンテレフタレート、ポリ−p−フェニレンイソフタレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン−アクリレート共重合体、ポリアクリロニトリル、ポリアクリロニトリル−メタクリレート共重合体、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステルカーボネート、ポリアミド、アラミド、ポリイミド、ポリカプロラクトン、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、コラーゲン、ポリヒドロキシ酪酸、ポリ酢酸ビニル、ポリペプチド等およびこれらの共重合体等の高分子物質を例示できる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明は上記樹脂に限定されるものではない。
【0059】
原料液300に使用される溶媒としては、揮発性のある有機溶剤などを例示することができる。具体的に例示すると、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジベンジルアルコール、1,3−ジオキソラン、1,4−ジオキサン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチル−n−ヘキシルケトン、メチル−n−プロピルケトン、ジイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトン、ヘキサフルオロアセトン、フェノール、ギ酸、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジプロピル、塩化メチル、塩化エチル、塩化メチレン、クロロホルム、o−クロロトルエン、p−クロロトルエン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、トリクロロエタン、ジクロロプロパン、ジブロモエタン、ジブロモプロパン、臭化メチル、臭化エチル、臭化プロピル、酢酸、ベンゼン、トルエン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロヘキサノン、シクロペンタン、o−キシレン、p−キシレン、m−キシレン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシド、ピリジン、水等を挙示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明に用いられる原料液300は上記溶媒を採用することに限定されるものではない。
【0060】
さらに、原料液300に無機質固体材料を添加してもよい。当該無機質固体材料としては、酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、珪化物、弗化物、硫化物等を挙げることができるが、製造されるナノファイバ301の耐熱性、加工性などの観点から酸化物を用いることが好ましい。当該酸化物としては、Al23、SiO2、TiO2、Li2O、Na2O、MgO、CaO、SrO、BaO、B23、P25、SnO2、ZrO2、K2O、Cs2O、ZnO、Sb23、As23、CeO2、V25、Cr23、MnO、Fe23、CoO、NiO、Y23、Lu23、Yb23、HfO2、Nb25等を例示することができる。また、上記より選ばれる一種でもよく、また、複数種類が混在してもかまわない。なお、上記は例示であり、本願発明の原料液300に添加される物質は、上記添加剤に限定されるものではない。
【0061】
原料液300における溶媒と溶質との混合比率は、選定される溶媒の種類と溶質の種類とにより異なるが、溶媒量は、約60重量%から98重量%の間が望ましい。好適には溶質が5〜30%となる。
【0062】
次に、供給体115に設けられる供給口151から供給される原料液300を案内体111に設けられる案内面部112に沿わせて案内する(案内工程)。
【0063】
一方、第一吐出体131に設けられる第一吐出口133から吐出される気体流により、案内面部112に沿って流れる原料液300を案内体111に押しつける(押付工程)。
【0064】
以上により、原料液300は、案内体111と気体流により圧縮され、案内面部112の表面で薄い膜状となる。
【0065】
さらに、帯電電源122により案内体111を供給体115を介して正または負の高電圧とする。これにより帯電電極121と対向する案内体111の端縁部113に電荷が集中し、当該電荷が案内面部112に沿って流れる原料液300に転移し、原料液300が帯電する(帯電工程)。
【0066】
ここで、案内体111と第一吐出口133から吐出される気体流により薄い膜状となった原料液300に電荷が付与されるため、高い電荷密度で原料液300を帯電させる事が可能となる。
【0067】
次に、案内面部112の一端に位置する端縁部113から案内面部112に沿って流れる原料液300を空間中に流出させる(流出工程)。
【0068】
本実施の形態では、原料液300に対し第一吐出口133と反対側に配置される第二吐出口134から吐出される気体流により空間中に流出した直後の原料液300の形状が薄い膜状のまま空間中に流出するため、原料液300の高い電荷密度状態を維持することが可能となる。
【0069】
ここで、案内体111の端縁部113から流出する原料液300は、端縁部113から垂れ下がる膜形状となる。この膜状の原料液300は、空間中を飛行するに従い高い電荷密度により、上下方向に延びる細い複数の紐状(縄のれん状)の原料液300に変化する。そして、紐状の原料液300にそれぞれ静電延伸現象が作用することによりナノファイバ301が製造される(ナノファイバ製造工程)。
【0070】
ここで、原料液300は、薄い膜状態から紐状態に変化するため、原料液300は非常に細い状態で空間中を飛翔する。一方、原料液300は、強い帯電状態(高い電荷密度)で流出しているため、静電延伸が何次にもわたって発生し、線径の細く高品質なナノファイバ301が大量に製造される。
【0071】
この状態において、被堆積部材126の背方に配置される誘引手段104により、ナノファイバ301が被堆積部材126に誘引される(誘引工程)。
【0072】
以上により、ナノファイバ301は被堆積部材126上に堆積する。被堆積部材126は、移送手段129によりゆっくり移送されているため、ナノファイバ301も移送方向に延びた長尺の帯状部材として回収される(収集工程)。
【0073】
以上のような構成のナノファイバ製造装置100を用い、以上のナノファイバ製造方法を実施することによって、品質の高いナノファイバ301を空間的にムラが発生することなく均一に安定した状態で製造することが可能となる。
【0074】
なお、本願発明は、上記実施の形態に限定されるわけではない。
【0075】
例えば図4に示すように、帯電電極121は、案内体111から比較的遠い位置に配置してもかまわない。また、このような態様のナノファイバ製造装置100とした場合、帯電電極121は、誘引電極143としても機能し、帯電電源122は、誘引電源141として機能することとなる。つまり、帯電手段102と電界方式の誘引手段104とを一つの装置で実現するものでもかまわない。
【0076】
また、図5に示すように、放出手段101は、板状の案内体111と、円筒状の供給体115であって、案内体111の長さ方向に一列に並べて配置された供給体115と、案内体111の長さ方向に延びる細長いスリット状の第一吐出口133を備える第一吐出体131を備えるものでもかまわない。
【0077】
この場合でも、供給体115の供給口151から吐出される原料液300は、案内体111に供給され案内面部112に沿って流れる。第一吐出体131の第一吐出口133から吹き出す気体流は、案内面部112に沿って流れる原料液300を案内体111に押しつける。押しつけられて膜状となった原料液300は、案内体111の端縁部113から空間中に流出する。
【0078】
以上によって、上記と同様の作用効果を奏することが可能である。またこの場合、複数の供給体115から供給される原料液300の量にばらつきがあったとしても、原料液300が気体流により薄くのばされるため、これらのばらつきは無視できる程度に抑制することが可能となる。
【0079】
(実施の形態2)
次に、本願発明にかかるナノファイバ製造装置100の他の実施の形態を説明する。
【0080】
図6は、他の実施の形態にかかるナノファイバ製造装置を示す斜示図である。
【0081】
同図に示すように、ナノファイバ製造装置100は、原料液300を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバ301を製造する装置であって、放出手段101と、誘引手段104と、原料供給手段107、気体流発生手段108と、帯電手段102とを備えている。
【0082】
なお、放出手段101以外は、上記実施の形態と同様であるためここでの説明は省略する。
【0083】
図7は、放出手段の先端部を断面で示す斜示図である。
【0084】
同図に示すように、放出手段101は、原料液300を帯電させると共に、帯電した原料液300を円筒状に放出する装置であって、放出手段101の中心軸に沿って配置される棒状の第二吐出体132と、第二吐出体132の周りを所定距離隔てて囲むように配置される二重管状の供給体115と、供給体115の内側管に延設される案内体111と、供給体115の周りを所定距離隔てて囲むように配置される管状の第一吐出体131とを備えている。
【0085】
供給体115は、原料供給手段107に接続され、原料供給手段107から供給される原料液300を案内体111に対して供給する二重管状の部材であり、案内体111に対し原料液300を供給する円環状の供給口151を備えている。
【0086】
案内体111は、原料液300を沿わせて案内する円筒状の案内面部112と、案内面部112の一端に位置し、案内面部112に沿って流れる原料液300を空間中に流出させる円環状の端縁部113とを備えている。案内体111は、第一吐出口133から円筒状に吐出される気体流により原料液300が押しつけられる力に抗するための部材である。
【0087】
第一吐出体131は、供給体115を囲む円筒状の部材であり、円筒状の案内面部112に沿って円筒状に流れる原料液300を案内体111に押しつける円筒状の気体流を吐出するための円環状の第一吐出口133を備えている。
【0088】
第二吐出体132は、案内体111から空間中に流出した直後の円筒状の原料液300の形状を調整する気体流を吹き出す円環状の第二吐出口134が設けられる部材であり、放出手段101の中心軸に配置される棒状の部材である。
【0089】
以上の様に、案内面部112を円筒形状とし、案内面部112を取り囲むように供給体115から原料液300を供給すると共に、案内面部112に向かって第一吐出体131の第一吐出口133から案内面部112を取り囲むように気体流を吹き付けることによって、原料液300は薄い肉厚の円筒状となって案内面部112の表面を流れることとなる。そして、円環状の端縁部113から空間中に原料液300は、肉厚の薄い円筒形状のままで流出する。つまり、原料液300は、流出方向と交差する方向に端部がない無端状態となって空間中に流出する。
【0090】
一方、案内体111と帯電電極121と間には高電圧が印加されており、原料液300は高い電荷密度で帯電している。
【0091】
従って、円周方向に均等に原料液300が紐状に分解され、効率よく静電延伸現象が発生し、円周方向に均等な品質のナノファイバ301が製造される。
【0092】
なお、本願発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、供給体115は、スリット状の供給口151ではなく、図8に示すように、隔壁で隔てられた複数個の供給口151を並べて備えるものでもかまわない。スリット状の供給口151の場合、特に供給口151の長さが長くなると、気体流の力により原料液300が押される力が、供給口151の長さ方向の中央部では強く、端部では弱くなる現象が起こることがある。このような現象が発生すると、原料液300が左右に移動し、空間中に流出する原料液300の厚さが供給口151の長さ方向の中央部と両端部で異なる状況が発生する可能性がある。また、スリット状の供給口151の場合には、加工精度が十分確保できない場合もあり、原料液300の厚さが均一に制御することが困難となる。そこで、供給体115の供給口151を複数の小さな開口とすることで、供給体115の長さ方向の中央部と端部での原料液300の供給量を調節して、空間中に流れ出る原料液300の厚みを均一とすることができる。
【0093】
なお、供給口151の形状は、半円形に限定されず、矩形、円形、三角形状でもかまわない。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本願発明は、ナノファイバの製造やナノファイバを用いた紡糸、不織布の製造に利用可能である。
【符号の説明】
【0095】
100 ナノファイバ製造装置
101 放出手段
102 帯電手段
104 誘引手段
107 原料供給手段
108 気体流発生手段
111 案内体
112 案内面部
113 端縁部
114 貯留槽
115 供給体
121 帯電電極
122 帯電電源
126 被堆積部材
127 ロール
128 収集手段
129 移送手段
131 第一吐出体
132 第二吐出体
133 第一吐出口
134 第二吐出口
141 誘引電源
142 吸引手段
143 誘引電極
151 供給口
300 原料液
301 ナノファイバ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造装置であって、
原料液を沿わせて案内する案内面部と、前記案内面部の一端に位置し、前記案内面部に沿って流れる原料液を空間中に流出させる端縁部とを備える案内体と、
前記案内体の前記案内面部に原料液を供給する供給口が設けられる供給体と、
前記案内面部に沿って流れる原料液を前記案内体に押しつける気体流を吹き出す第一吐出口が設けられる第一吐出体と、
前記案内体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と、
前記案内体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加する帯電電源と
を備えるナノファイバ製造装置。
【請求項2】
前記供給体の一部が前記第一吐出体として機能し、前記供給体の一部と前記第一吐出体とにより前記第一吐出口か形成される
請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項3】
さらに、
前記案内体から空間中に流出した直後の原料液の形状を調整する気体流を吹き出す第二吐出口が設けられる第二吐出体を備える
請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項4】
前記供給体の一部が前記第二吐出体として機能し、前記供給体の一部と前記第二吐出体とにより前記第二吐出口か形成される
請求項3に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項5】
前記案内面部、および、前記端縁部は、環形状である
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項6】
前記端縁部は、尖った稜線部を備える形状である
請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項7】
さらに、
空間中で製造されるナノファイバを収集する収集手段と、
前記収集手段にナノファイバを誘引する誘引手段と
を備える請求項1に記載のナノファイバ製造装置。
【請求項8】
原料液を空間中で電気的に延伸させて、ナノファイバを製造するナノファイバ製造方法であって、
供給体に設けられる供給口から供給される原料液を案内体に設けられる案内面部に沿わせて案内し、
第一吐出体に設けられる第一吐出口から吐出される気体流により、前記案内面部に沿って流れる原料液を前記案内体に押しつけると共に、
前記案内面部の一端に位置する端縁部から前記案内面部に沿って流れる原料液を空間中に流出させ、
前記案内体と所定の間隔を隔てて配置される帯電電極と、前記案内体と前記帯電電極との間に所定の電圧を印加する帯電電源とにより、原料液を帯電させる
ナノファイバ製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−219875(P2011−219875A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86550(P2010−86550)
【出願日】平成22年4月2日(2010.4.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】