説明

ナノファイバ

【課題】油性成分が高配合されているにもかかわらず、油性成分に起因するべたつき感が低減したナノファイバを提供すること。
【解決手段】本発明のナノファイバ10は、水溶性高分子から構成され、かつ中空部13を有し、中空部13に油性成分14が含まれている。このナノファイバ10は、細径部12と太径部11とを有し、該太径部11に中空部13を有していることが好適である。太径部11及び細径部12の双方に中空部13を有し、太径部11の中空部13と細径部12の中空部13とが連通していることも好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノファイバ及びその製造方法に関する。また本発明はナノファイバシートに関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性高分子を基材とするナノファイバに関する技術としては、例えば特許文献1に記載のものが知られている。このナノファイバは、水溶性高分子を水などの溶媒に溶解した溶液を用い、電解紡糸法によって製造されるものである。この溶液には乳化成分、安定化成分、殺菌成分、保湿成分等の機能性成分を添加してもよいと、同文献には記載されている。前記溶液に、かかる機能性成分が添加された場合には、該機能性成分がナノファイバ中に含まれることになる。
【0003】
ナノファイバに機能性成分を含有させることに関しては、特許文献2に記載の技術も知られている。同文献には、高分子化合物のナノファイバからなる網目状構造体に、化粧料や化粧料成分を保持させることが記載されている。化粧料等は、ナノファイバ内に内包される。保持の方法としては、ナノファイバを構成する高分子化合物が含まれている溶液に化粧料等を混ぜて、電界紡糸する方法が採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/031620号パンフレット
【特許文献2】特開2008−179629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記の各特許文献に記載のナノファイバでは、前記の機能性成分や化粧料等が繊維の表面にも存在しているので、それに起因してナノファイバがべとついた感触を呈しやすい。また、機能性成分等をナノファイバに高配合することには限りがある。また機能性成分が繊維表面にあることから、劣化や変性が起こり、そのことに起因して保存性能が劣ることが予想される。
【0006】
したがって本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し、機能性成分の劣化が抑制され、該機能性成分の高濃度で配合されたドライなナノファイバを提供することにある。また、中空部に存在する機能性成分を外側の水溶性高分子を溶解することで肌へ除放し得るナノファイバを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、水溶性高分子から構成され、かつ中空部を有するナノファイバであって、該中空部に油性成分が含まれているナノファイバを提供するものである。
【0008】
また本発明は、前記のナノファイバシートの好適な製造方法であって、
水溶性高分子が水相に溶解しており、かつ油相中に油性成分が含まれているO/Wエマルションを用い、電解紡糸法によって紡糸を行うナノファイバの製造方法を提供するものである。
【0009】
また本発明は、前記のナノファイバシートの別の好適な製造方法であって、
水溶性高分子が水に溶解してなる第1液と、油性成分を含む第2液とを用い、
電界紡糸法を行うためのキャピラリとして二重管構造のものを用い、該キャピラリの芯部に第2液を流し、かつ鞘部に第1液を流して電界紡糸法を行うナノファイバの製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、油性成分が高配合されているにもかかわらず、油性成分に起因するナノファイバ表面の油性成分が低減し、保存性に優れたナノファイバが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1(a)ないし(c)は、本発明のナノファイバの断面構造を示す模式図である。
【図2】図2は、電界紡糸法を行うために用いられる好適な装置を示す模式図である。
【図3】図3は、図2に示す装置におけるキャピラリの構造を拡大して示す模式図である。
【図4】図4(a)は、実施例1で得られたナノファイバシートの走査型電子顕微鏡像であり、図4(b)は、実施例1で得られたナノファイバシートの蛍光顕微鏡像である。
【図5】図5(a)は実施例2で得られたナノファイバシートの反射電子線像であり、図5(b)及び(c)は実施例2で得られたナノファイバシートのケイ素及び炭素の分布を示すX線元素分析像である。
【図6】図6は、実施例3で得られたナノファイバシートの走査型電子顕微鏡像である。
【図7】図7は、実施例4で得られたナノファイバシートの走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき図面を参照しながら説明する。本発明のナノファイバは、その太さを円相当直径で表した場合、一般に10〜3000nm、特に10〜1000nmのものである。ナノファイバの太さは、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)観察によって、10000倍に拡大して観察し、その二次元画像から欠陥(ナノ繊維の塊、ナノ繊維の交差部分、ポリマー液滴)を除き、繊維を任意に10本選び出し、繊維の長手方向に直交する線を引き、繊維径を直接読み取ることで測定することができる。ナノファイバの長さは本発明において臨界的でなく、ナノファイバの製造方法や、ナノファイバの具体的な用途に応じて、適切な長さのものを用いることができる。
【0013】
ナノファイバは、水溶性高分子化合物を原料とするものである。本明細書において「水溶性高分子化合物」とは、1気圧・23℃の環境下において、高分子化合物1g秤量したのちに、10gのイオン交換水に浸漬し、24時間経過後、浸漬した高分子化合物の0.5g以上が溶解する性質を有する高分子化合物をいう。
【0014】
水溶性高分子化合物としては、例えばプルラン、ヒアルロン酸、コンドロイチン硫酸、ポリ−γ−グルタミン酸、変性コーンスターチ、β−グルカン、グルコオリゴ糖、ヘパリン、ケラト硫酸等のムコ多糖、セルロース、ペクチン、キシラン、リグニン、グルコマンナン、ガラクツロン、サイリウムシードガム、タマリンド種子ガム、アラビアガム、トラガントガム、大豆水溶性多糖、アルギン酸、カラギーナン、ラミナラン、寒天(アガロース)、フコイダン、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の天然高分子、部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリル酸ナトリウム等の合成高分子などが挙げられる。これらの水溶性高分子化合物は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの水溶性高分子化合物のうち、ナノファイバの調製が容易である観点から、プルラン、部分鹸化ポリビニルアルコール、低鹸化ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエチレンオキサイド等の合成高分子を用いることが好ましい。
【0015】
ナノファイバは中空部を有している。この中空部は、後述する油性成分を保持可能な微小空間になっている。図1(a)ないし(c)には、中空部を有するナノファイバの断面形状の例が示されている。
【0016】
図1(a)に示すナノファイバ10は、太径部11と細径部12とを有している。太径部11と細径部12とは、ナノファイバ10の延びる方向に沿って交互に位置している。太径部11は、その内部に微小空間からなる中空部13を有している。この中空部13には、上述のとおり油性成分14が保持されている。一方、細径部12には中実になっており、中空部は有していない。
【0017】
図1(a)においては、ナノファイバ10の延びる方向に沿った太径部11及び細径部12の長さがほぼ同じに表されているが、太径部11及び細径部12の長さはこれに限られない。後述する電界紡糸法に従い本発明のナノファイバ10を製造する場合には、後述の第1液と第2液との配合割合に応じて、太径部11の長さと細径部12の長さの比は異なってくる。また、図1(a)においては、太径部11の断面は略楕円形の形状をしているが、太径部11の断面形状はこれに限られない。また、各太径部11の断面形状や太さは同じでもよく、あるいは異なっていてもよい。細径部12に関しては、その太さが一様に表されているが、太径部11よりも細いことを条件として、細径部12の太さは一様になっていなくてもよい。また、各細径部12の太さは同じでもよく、又は異なっていてもよい。
【0018】
図1(b)に示すナノファイバ10も、図1(a)に示すナノファイバと同様に、太径部11と細径部12とを有している。本実施形態のナノファイバ10が、図1(a)に示すナノファイバと異なる点は、細径部の構造である。図1(a)に示すナノファイバにおける細径部は中実であったのに対して、本実施形態のナノファイバ10における細径部12は管状になっており、中空部15を有している。太径部11の中空部13と同様に、細径部12の中空部15にも油性成分14が保持されている。太径部11の中空部13と、それに隣り合う細径部12の中空部15とは連通している。尤も、ナノファイバ10のすべての部位において太径部11の中空部13と、それに隣り合う細径部12の中空部15とが連通している必要はない。
【0019】
図1(c)に示すナノファイバ10は、図1(a)及び(b)に示すナノファイバとは異なり、太径部を有していない。このナノファイバ10は、その長さ方向の全域にわたって外径及び内径がほぼ一定である管状の形態をしており、筒状の中空部13が、長さ方向の全域にわたって形成されている。中空部13は、ナノファイバ10の長さ方向の全域にわたって連続して形成されていてもよく、あるいは不連続に形成されていてもよい。
【0020】
前記の各実施形態のナノファイバ10によれば、中空部13に油性成分14を貯留できるので、ナノファイバ10に油性成分14を高配合することができる。図1(b)及び(c)に示す実施形態のナノファイバ10においては、その長さ方向の全域にわたって中空部13が形成されているので、油性成分14を一層高配合することができる。しかも、ナノファイバ10の表面には油性成分14は実質的に存在していないか、又は存在していたとしてもその量はごく微量なので、油性成分14に起因する油性成分がナノファイバ10の表面に生じにくい。つまり常温(5〜35℃)で液体である油性成分を使用した場合でも、シートのドライ感を維持したまま、該油性成分を高配合することが可能である。
【0021】
油性成分は、それ単独で用いてもよく、あるいは油性成分が有機溶媒に溶解した溶液の状態で用いてもよい。したがって、油性成分は、それ単独で中空部13に貯留されていてもよく、あるいは油性成分を有機溶媒に溶解してなる溶液が、中空部13に貯留されていてもよい。
【0022】
上述のとおり、本発明のナノファイバ10によれば、従来のナノファイバよりも油性成分を高配合することができる。例えば油性成分の配合割合を、好ましくは0.5〜95質量%、より好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは20〜90質量%とすることができる。一方、ナノファイバ10における水溶性高分子の割合は、好ましくは5〜99.5質量%、より好ましくは10〜90質量%、更に好ましくは10〜80質量%とすることができる。ナノファイバ10における水溶性高分子及び油性成分の配合割合は、一定量のナノファイバシートを水に溶解させた後、遠心分離することで測定することができる。
【0023】
油性成分としては、ナノファイバ10の具体的用途に応じて種々のものを用いることができる。ナノファイバ10を、例えば、保湿シート、化粧シート、医療用シートの用途に用いる場合には、油性成分として、溶媒として使用するスクワランやオリーブオイル、シリコーンオイル、マカデミアナッツ油、セチル−1,3−ジメチルブチルエーテルに、有効成分として一般的に化粧品や医療用に使用されるビタミンEやカミツレエキス、バラエキス等の油溶性成分を添加し調製したものを用いることができる。
【0024】
本発明のナノファイバ10は、これを含むシート状の形態で好適に用いられる。本発明のナノファイバ10を含むシート(以下、このシートを「ナノファイバシート」という。)は、本発明のナノファイバ10のみから構成されていてもよく、他の繊維を含んでいてもよい。他の繊維としては、本発明のナノファイバ10以外のナノファイバや、一般的な天然繊維や合成繊維を用いることができる。また、本発明のナノファイバ10を含む繊維シートに、他の一層以上の繊維シート及び/又はフィルムを積層してなる積層シートも、本発明のナノファイバシートに包含される。
【0025】
ナノファイバシートにおいて、ナノファイバは、それらの交点において結合しているか、又はナノファイバどうしが絡み合っている。それによって、ナノファイバシートは、それ単独でシート状の形態を保持することが可能となる。ナノファイバどうしが結合しているか、あるいは絡み合っているかは、ナノファイバシートの製造方法によって相違する。
【0026】
ナノファイバシートの厚みは、その具体的な用途に応じて適切な範囲が設定される。ナノファイバシートを、例えばヒトの肌に貼付するために用いる場合には、その厚みを50nm〜1mm、特に500nm〜500μmに設定することが好ましい。ナノファイバ層11の厚みは、接触式の膜厚計ミツトヨ社製ライトマチックVL−50Aを使用することによって測定することができる。
【0027】
本発明のナノファイバシートは、例えばヒトの皮膚、非ヒト哺乳類の皮膚や歯、枝や葉などの植物表面などに付着させて用いることができる。この場合、ナノファイバシート又は付着の対象物の表面を水や水を含む水性液などの液状物で湿潤させた状態下に、ナノファイバシートを対象物表面に当接させる。これによって、表面張力の作用でナノファイバシートが対象物の表面に良好に密着する。更に、液状物の作用によって、ナノファイバを構成する水溶性高分子が液状物に溶解する。この溶解によって、ナノファイバにおける中空部13が崩壊して、その内部に貯留されている油性成分が流れ出る。流れ出た油性成分は、ヒトの皮膚等の対象物の表面を被覆し、かつ該対象物の内部に浸透する。例えば油性成分として植物エキスを用い、かつナノファイバシートをヒトの皮膚に付着させた場合には、中空部13の崩壊によってナノファイバから流れ出た油性成分が、皮膚の表面を被覆し、かつ皮膚の内部に浸透して、該油性成分に由来する効能が発現する。
【0028】
対象物の表面又はナノファイバシートの表面を湿潤状態にするためには、例えば各種の液状物を該表面に塗布又は噴霧すればよい。塗布又は噴霧される液状物としては、水を含み、かつ5000mPa・s程度以下の粘性を有する物質が用いられる。そのような液状物としては、例えば水、水溶液及び水分散液等が挙げられる。また、O/WエマルションやW/Oエマルション等の乳化液、増粘剤で増粘された水性液なども挙げられる。具体的には、ナノファイバシートをヒトの皮膚に付着させる場合には、対象物である皮膚の表面を湿潤させるための液体として、化粧水や化粧クリームを用いることができる。
【0029】
液状物の塗布又は噴霧によって対象物の表面又はナノファイバシートの表面を湿潤状態にする程度は、該液状物の表面張力が十分に発現し、かつ水溶性高分子化合物が溶解する程度の少量で十分である。具体的には、ナノファイバシートの大きさにもよるが、その大きさが例えば3cm×3cmの正方形の場合、0.01ml程度の量の液状物を対象物の表面に存在させることで、ナノファイバシートを容易に該表面に付着させることができる。また、ナノファイバ10に含まれる水溶性高分子を溶解させて、中空部13を崩壊させることができる。
【0030】
前記のナノファイバシートは例えば図2に示すように、電界紡糸法(エレクトロスピニング法、ESD)を用いて好適に製造される。同図に示す電界紡糸法を実施するための装置30は、シリンジ31、高電圧源32、導電性コレクタ33を備える。シリンジ31は、シリンダ31a、ピストン31b及びキャピラリ31cを備えている。キャピラリ31cの内径は10〜1000μm程度である。シリンダ31a内には、ナノファイバの原料となる原料液が充填されている。高電圧源32は、例えば10〜30kVの直流電圧源である。高電圧源32の正極はシリンジ31における原料液と導通している。高電圧源32の負極は接地されている。導電性コレクタ33は、例えば金属製の板であり、接地されている。シリンジ31におけるキャピラリ31cの先端と導電性コレクタ33との間の距離は、例えば30〜300mm程度に設定されている。キャピラリ31cからの原料液の吐出量は、好ましくは0.1〜10ml/h、更に好ましくは0.1〜4ml/hとすることができる。図2に示す装置30は、大気中で運転することができる。運転環境に特に制限はなく、温度20〜40℃、湿度10〜50%RHとすることができる。
【0031】
前記の中空部13を有するナノファイバ10を首尾よく製造するためには、前記の原料液の調製が重要である。図1(a)及び(b)に示す実施形態のナノファイバ10を得る場合には、この原料液は第1液及び第2液を混合することで得られる。第1液は、水溶性高分子が水に溶解してなる水溶液である。第2液は、水相中に油性成分が含まれているO/Wエマルションである。両者を混合することで、水溶性高分子が水相に溶解しており、かつ油相中に油性成分が含まれているO/Wエマルションが調製される。このO/Wエマルションを原料液として用い、かつ上述した電界紡糸法を行うことで、目的とする形態を有するナノファイバ10及びナノファイバシートが得られる。
【0032】
第1液における水溶性高分子の濃度は、3〜30質量%、特に10〜25質量%とすることが、原料液の粘度を好適にすることができる点から好ましい。第1液は、水又は水に少量の水溶性有機溶媒が混合された水性液を加熱した状態で、又は非加熱の状態で、水溶性高分子を添加して、攪拌混合することで得られる。
【0033】
一方、第2液は、公知の乳化方法を採用することで得られる。そのような乳化方法としては、例えば自然乳化、転相乳化、強制乳化などの方法を採用することができる。乳化においては、水相と、油性成分を含む油相との質量比を、水相:油相=51:49〜99:1、特に51:49〜85:15とすることが、乳化を首尾良く行い得る点から好ましい。同様の理由により、乳化に用いられる乳化剤の使用量は、第1液と第2液の混合質量に対して0.001〜20質量%、特に0.004〜7質量%とすることが好ましい。
【0034】
乳化剤としては、各種の界面活性剤を用いることができる。特に、ポリエチレングリコールモノアルキレート、ポリエチレングリコールジアルキレート、エチレングリコールジアルキレート、ポリオキシエチレン硬化ひまし油などの非イオン界面活性剤を用いることが、肌への刺激を小さくできる点から好ましい。
【0035】
転相乳化によって第2液を調製する場合には、油性成分を含む油相に乳化剤を添加して所定温度に加熱しておく。そこへ所定温度に加熱された水相を徐々に加えながら攪拌することで転相を起こさせて、O/Wエマルションを得る。
【0036】
このようにして得られたO/Wエマルションからなる原料液においては、水相の質量比が55〜98質量%、特に60〜97質量%であることが好ましく、油相の質量比が2〜45質量%、特に3〜40質量%であることが好ましい。
【0037】
前記のO/Wエマルションからなる原料液を用い、電界紡糸法を行うことで、図1(a)及び(b)に示す構造のナノファイバ10が得られる。この理由は次のとおりであると、本発明者らは考えている。すなわち、溶液が吐出されると揮発成分である水を多く含む水溶性高分子溶液からなる相が最外層に存在しやすくなり、溶媒揮発の少ない油成分からなる相が内部に存在しやすくなるためである。
【0038】
図1(c)に示す構造のナノファイバ10を製造する場合には、水溶性高分子が水に溶解してなる水溶液からなる第1液と、油性成分からなるか又は油性成分が有機溶媒に溶解してなる第2液とを用いる。そして、図2に示す装置におけるキャピラリ31cとして、図3に示すように内管40及び外管41を備えた二重管構造のものを用い、芯部に第2液を流し、かつ鞘部に第1液を流して電界紡糸法を行えばよい。この場合、第1液の吐出量と第2液の吐出量を適切にバランスさせることで、目的とする構造のナノファイバを首尾良く得ることができる。
【0039】
以上、本発明をその好ましい実施形態に基づき説明したが、本発明は前記実施形態に制限されない。例えば前記実施形態においては、ナノファイバの製造方法として、電界紡糸法を採用した場合を例にとり説明したが、ナノファイバの製造方法はこれに限られない。
【0040】
また、図2に示す電界紡糸法においては、形成されたナノファイバが板状の導電性コレクタ33上に堆積されるが、これに代えて導電性の回転ドラムを用い、回転する該ドラムの周面にナノファイバを堆積させるようにしてもよい。
【0041】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。しかしながら本発明の範囲は、かかる実施例に制限されない。特に断らない限り、「%」は「質量%」を意味する。
【0042】
〔実施例1〕
(1)第1液の調製
水溶性高分子としてプルラン(林原商事製)を用いた。これを水に溶解させて濃度20%の水溶液を得た。これを第1液として用いた。第1液は80℃に加熱しておいた。
【0043】
(2)第2液の調製
油性成分としてカミツレエキスとセチル−1,3−ジメチルブチルエーテル(花王(株)製のASE166K)の混合物を用いた。この溶液におけるカミツレエキスの濃度は4.20%であった。この溶液に、非イオン界面活性剤であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(花王(株)製エマノーン(登録商標)CH60)を添加した。この非イオン界面活性剤の濃度は0.3%であった。この溶液0.95mlを80℃に加熱し、そこへ80℃に加熱した4.00mlの水を徐々に添加して混合して転相乳化させた。これによってO/Wエマルションからなる第2液を得た。
【0044】
(3)原料液の調製
第1液と第2液とを質量比で3:1の割合で混合して攪拌し、O/Wエマルションからなる原料液を得た。この原料液における各成分の濃度は、プルラン15.00%、水80.20%、油性成分4.78%、非イオン界面活性剤0.013%であった。
【0045】
(4)電界紡糸法
前記で得られた原料液を用い、図2に示す装置によって電界紡糸法を行い、導電性コレクタ33の表面に配置されたポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:25μm)の表面にナノファイバシートを形成した。電界紡糸法の条件は以下のとおりとした。
・印加電圧:25kV
・キャピラリ−コレクタ間距離:185mm
・原料液吐出量:1ml/h
・環境:25℃、50%RH
【0046】
(5)評価
得られたナノファイバシートにおける各成分の割合は、プルランが75.82%、油性成分が24.11%、界面活性剤が0.07%であった。このナノファイバシートの厚みをライトマチックVL−50A((株)ミツトヨ)で測定したところ30μmであった。また、このナノファイバシートの走査型電子顕微鏡像を図4(a)に示す。更に、第2液に油性の蛍光剤(ナイルレッド)を添加して同条件で電界紡糸法を行い得られたナノファイバシートの蛍光顕微鏡像を図4(b)に示す。図4(b)中、黒い部分が、蛍光剤が存在している部分である。
【0047】
図4(a)から明らかなように、本実施例で得られたナノファイバシートにおけるナノファイバは、太径部及び細径部を有することが判る。また図4(b)から明らかなように、太径部に中空部を有し、該中空部に油性成分が貯留されていることが判る。つまり本実施例のナノファイバは、図1(a)に示す構造のものであることが判る。
【0048】
〔実施例2〕
(1)第1液の調製
実施例1と同様とした。
(2)第2液の調製
油性成分としてシリコーンオイルを用いた。このシリコーンオイルに、非イオン界面活性剤であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(花王(株)製エマノーン(登録商標)CH60)を添加した。この非イオン界面活性剤の濃度は0.3%であった。このシリコーンオイル0.95mlを80℃に加熱し、そこへ80℃に加熱した4.00mlの水を徐々に添加して混合して転相乳化させた。これによってO/Wエマルションからなる第2液を得た。
(3)原料液の調製
第1液と第2液とを質量比で3:1の割合で混合して攪拌し、O/Wエマルションからなる原料液を得た。この原料液における各成分の濃度は、プルラン15%、水80.2%、油性成分4.787%、非イオン界面活性剤0.013%であった。
(4)電界紡糸法
実施例1と同様とした。
(5)評価
得られたナノファイバシートにおける各成分の割合は、プルランが75.82%、油性成分が24.11%、界面活性剤が0.07%であった。このナノファイバシートの厚みをライトマチックVL−50A((株)ミツトヨ)で測定したところ30μmであった。また、このナノファイバシートの反射電子線像を図5(a)に示す。更に、図5(a)に示す観察視野におけるケイ素及び炭素の分布をEDXによって分析した。その結果を図5(b)及び(c)に示す。図5(a)から明らかなように、本実施例で得られたナノファイバシートにおけるナノファイバは、太径部及び細径部を有することが判る。また図5(b)及び(c)から明らかなように、太径部に中空部を有し、該中空部に油性成分が貯留されていることが判る。つまり本実施例のナノファイバは、図1(a)に示す構造のものであることが判る。
【0049】
〔実施例3〕
(1)第1液の調製
実施例1と同様とした。
(2)第2液の調製
油性成分としてカミツレエキスを用いた。この溶液に、非イオン界面活性剤であるポリオキシエチレン硬化ヒマシ油(花王(株)製エマノーン(登録商標)CH60)を添加した。この非イオン界面活性剤の濃度は0.3%であった。この溶液1.72mlを80℃に加熱し、そこへ80℃に加熱した2.06mlの水を徐々に添加して混合して転相乳化させた。これによってO/Wエマルションからなる第2液を得た。
(3)原料液の調製
第1液と第2液とを質量比で81:19の割合で混合して攪拌し、O/Wエマルションからなる原料液を得た。この原料液における各成分の濃度は、プルラン16.22%、水75.16%、油性成分8.59%、非イオン界面活性剤0.03%であった。これ以外は実施例1と同様にしたナノファイバシートを得た。得られたナノファイバシートにおける各成分の割合は、プルランが65.3%、油性成分が34.58%、界面活性剤が0.12%であった。このナノファイバシートの厚みをライトマチックVL−50A((株)ミツトヨ)で測定したところ30μmであった。また、このナノファイバシートの走査型電子鏡像を図6に示す。同図から明らかなように、本実施例で得られたナノファイバシートにおけるナノファイバは、太径部及び細径部を有することが判る。このナノファイバは、図4(a)に示すナノファイバよりも、油性成分の配合割合が高く、かつ隣り合う太径部の間隔が狭いので、細径部にも中空部が形成され、該中空部にも油性成分が含まれていると考えられる。
【0050】
〔実施例4〕
水溶性高分子としてプルラン(林原商事製)を用い、これを水に溶解させ濃度20%の水溶液を得た。これを第1液として用いた。第2液として、油性成分としてのカミツレエキスを用いた。これらの液を用い、図2に示す装置30によって電界紡糸法を行った。この装置30におけるキャピラリ31cとして、図3に示す構造のものを用いた。このキャピラリ31cにおける芯部には第2液を流し、鞘部には第1液を流した。電界紡糸法の条件は以下のとおりとした。これら以外は実施例1と同様にしてナノファイバシートを得た。
・印加電圧:25kV
・キャピラリ−コレクタ間距離:220mm
・第1液吐出量:0.1ml/h
・第2液吐出量:2ml/h
・環境:25℃、50%RH
【0051】
得られたナノファイバシートにおける各成分の割合は、プルランが80%、油性成分が20%であった。このナノファイバシートの厚みをライトマチックVL−50A((株)ミツトヨ)で測定したところ30μmであった。また、このナノファイバシートの走査型電子鏡像を図7に示す。同図から明らかなように、本実施例で得られたナノファイバシートにおけるナノファイバは、図1(c)に示す構造のものであることが判る。
【0052】
〔比較例1〕
濃度15%のプルラン溶液中へカミツレエキスを投入し、プルラン16.22%、水75.17%、油性成分8.59%にてスターラーで攪拌したがカミツレエキスとプルラン溶液が分離してしまい均一な溶液を得ることができず、エレクトロスピニング法を行うことができなかった。
【0053】
〔比較例2〕
実施例1の方法で調製した溶液を、シャーレ上に滴下し乾燥させ、30μmのキャストフィルムを得た。
【0054】
〔比較例3〕
実施例2の方法で調製した溶液を、シャーレ上に滴下し乾燥させ、30μmのキャストフィルムを得た。
【0055】
〔比較例4〕
実施例3の方法で調製した溶液を、シャーレ上に滴下し乾燥させ、30μmのキャストフィルムを得た。
【0056】
〔使用感の評価〕
実施例1ないし4で得られたナノファイバシート及び比較例2ないし4で得られたキャストフィルムについて、株式会社DHC製の油とり紙による油性成分吸収の有無を目視で観察した。具体的には、これらのシートにあぶらとり紙を押しつけ、次いで剥がした後の色の変化を目視で観察した。また、これらのシートをヒトの皮膚に付着させたときの溶解性を評価した。それらの結果を以下の表1に示す。評価方法は以下に示すとおりである。
【0057】
〔油とり紙による油性成分吸収の有無〕
約3cmに切り出したシート表面に、株式会社DHC製あぶらとり紙をあてた後に剥がし、あぶらとり紙の色の変化を目視で確認した。
【0058】
〔ヒトの皮膚に付着させたときの溶解性〕
肌上に0.03gの化粧水を滴下し約20mmφに塗り拡げた後、15mmに切り出したシートを乗せた直後の該シートの溶解性を目視で確認し、下記の基準で評価を行った。
○:直ちに溶解し、ピンセットで掴むことができない
×:一部溶解するがシート状で残っている箇所があり、ピンセットで掴むことができる
【0059】
【表1】

【0060】
表1に示す結果から明らかなように、各実施例のナノファイバシートは、油性成分が繊維表面に露出していないためべたつき感が低減したものであり、かつ水に接触することで容易に溶解して、油性成分が流れ出すものであることが判る。
【符号の説明】
【0061】
10 ナノファイバ
11 太径部
12 細径部
13 中空部
14 油性成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水溶性高分子から構成され、かつ中空部を有するナノファイバであって、該中空部に油性成分が含まれているナノファイバ。
【請求項2】
前記中空部に含まれる油性成分が常温で液体である請求項1記載のナノファイバ。
【請求項3】
太径部と細径部とを有し、該太径部に前記中空部を有している請求項1又は2記載のナノファイバ。
【請求項4】
太径部と細径部とを有し、該太径部及び該細径部の双方に前記中空部を有し、該太径部の中空部と該細径部の中空部とが連通している請求項1又は2記載のナノファイバ。
【請求項5】
外径及び内径がほぼ一定である管状の形態をしている請求項1又は2記載のナノファイバ。
【請求項6】
請求項1ないし5のいずれか一項に記載のナノファイバを含んで構成されるナノファイバシート。
【請求項7】
請求項1記載のナノファイバの製造方法であって、
水溶性高分子が水相に溶解しており、かつ油相中に油性成分が含まれているO/Wエマルションを用い、電解紡糸法によって紡糸を行うナノファイバの製造方法。
【請求項8】
請求項1記載のナノファイバの製造方法であって、
水溶性高分子が水に溶解してなる第1液と、油性成分を含む第2液とを用い、
電界紡糸法を行うためのキャピラリとして二重管構造のものを用い、該キャピラリの芯部に第2液を流し、かつ鞘部に第1液を流して電界紡糸法を行うナノファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−12714(P2012−12714A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148076(P2010−148076)
【出願日】平成22年6月29日(2010.6.29)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】