ナノファイバ
【課題】自己強度性を有し、より一層細繊維化された3次元分岐型ナノファイバ及び該ナノファイバを含むフィルタ及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子を含水酢酸溶液に溶解し、調湿条件下にエレクトロスピニング法により製造した3次元分岐型ナノファイバ、及び該ナノファイバで中性能フィルタの表面を被覆したフィルタ。
【解決手段】水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子を含水酢酸溶液に溶解し、調湿条件下にエレクトロスピニング法により製造した3次元分岐型ナノファイバ、及び該ナノファイバで中性能フィルタの表面を被覆したフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスピニング法で作製される平均繊維径が200nm以下の枝分かれした三次元構造を有するナノファイバ及びその製造方法、並びに該ナノファイバを使用するフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノオーダーの高分子の微細ファイバを作製する方法として、従来からエレクトロスピニング法が知られている。エレクトロスピニング法によれば、ナノオーダー径の繊維体を比較的簡単に作製することができ、作製された繊維体は、生物学的な培地、医療分野における止血材、電池のセパレータなど、種々の分野での応用が期待されている。
【0003】
特にこのナノファイバをフィルタ材に使用すると、スリップフローと呼ばれる効果で圧力損失を非常に低く抑えることができることから(非特許文献1)、ナノファイバを利用した種々の高性能フィルタ類が開発されている。
【0004】
特許文献1では、平均直径が1〜500nmの熱可塑性ポリマーからなるナノファイバを分散媒中に分散させたナノファイバ分散液を、支持体に付着させた後、該分散媒を除去することにより、支持体表面および/または内部にナノファイバを均一に付着させる方法が開示されている。
特許文献2で、このようにして得られるナノファイバ構造体の機械的強度を向上させるため、静電噴霧の条件を調整し、ナノファイバ同士或いはナノファイバと支持体の間を連結させる方法が開示されている。
【0005】
一方、ナノファイバの素材として生体適合性を有する天然高分子が注目されている。
特許文献3では、キトサンとセリシンの複合体を含む50〜500nmのファイバが開示され、その生体親和性と生体に対する安全性から、特に医療用機能性ファイバとして用いられている。
天然高分子のなかでもキトサンは、生体適合性だけでなく抗菌性を備え、より機能的な用途への適用が期待されている。
特許文献4では、繊維径が40〜100nmのキトサンファイバ及びその安定的製造方法が開示されている。しかしながら、平均繊維径が40nm以下のファイバの作製については開示されていない。特許文献4を含め、これまでに、数本もしくは少量の40nmのファイバが偶発的に作製されることがあっても、平均直径を40nm以下にすることは報告されていない。
【0006】
キトサンのように、水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子からなるナノファイバは、新しい機能性素材として注目されているが、夫々の用途における機能性を十分生かすためには、より一層の細繊維化と自己強度性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−330639号公報
【特許文献2】特開2010−121221号公報
【特許文献3】特開2008−163520号公報
【特許文献4】特開2008−308780号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kristine Graham et. al. "Plymeric Nanofibers in Air Filtration Applications" Presented at the Fifteenth Annual Technical Conference & Expo of the American Filtration & Separations Society, Galveston, April 9-12,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子からなり、自己強度性を有し、より一層細繊維化された3次元分岐型ナノファイバ及び該3次元分岐型ナノファイバを含むフィルタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、エレクトロスピニング法による高分子繊維の作成に際し、高分子としてナイロンを用い、特定条件下では、驚くべきことに微細な3次元の網目構造に自己組織化したケージ状構造体が生成することを見出し、特許出願(特願2009−205013号)した。
その過程で、種々の高分子で試したところ、水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子を用いれば、ナイロンのケージ状構造体とは異なるが、一部自己組織化して強度に優れ、非常に微細な3次元分岐型ナノファイバが得られることを突き止め、本発明に至った。
【0011】
本発明の3次元分岐型ナノファイバは、ファイバに枝分かれ部を有し、これらの枝部分によりナノファイバが互いに絡み合った構造(図1の写真参照)となっており、従来のナノファイバ同士が交絡して形成される三次元構造体とは、構造が異なる。
本発明における「枝分かれ部」とは、ファイバが3本分岐している部分を指し、従来のナノファイバ同士が交絡して形成されるファイバが4本分岐している部分や、3本分岐部でも、ナノファイバ同士が接合し1本が他の2本をあわせた太さとなっている分岐部は、本発明における「枝分かれ部」には含めない。
【0012】
分岐型ナノファイバについては、本発明者らが特定の条件下で複数の繊維間に平面的に形成されることを見出し特許出願している(特開2007−154336号公報)が、本発明の分岐型ナノファイバは、三次元的に成長している点、分岐型ナノファイバを保持する複数の繊維が形成されない点で先行発明の分岐型ナノファイバと区別できる。
【0013】
更に、本発明の3次元分岐型ナノファイバは、ES法の条件を限定することにより得られる、平均繊維径が1〜40nmの極微細径のファイバである。
本発明における平均繊維径とは、形成された3次元分岐型ナノファイバ層の表面を電子顕微鏡写真にて、ナノファイバが100本以上写しこまれる倍率で撮影し、画面に写っているファイバから乱数表などを利用して無作為に100本抽出し、その中間部の直径を測定し、それらを算術平均して求められる数値である。
なお、途中に枝分かれ部が存在する場合、枝分かれ部までを一本のファイバとし、該枝分かれ部から分岐したファイバは、別個のファイバとして計測する。
【0014】
ES法によってナノファイバを形成させる基材の繊維径は、上記平均繊維径には含めない。また、ES法の条件によっては、繊維径が300nm以上の極太ファイバが形成されることがあるが、これらの極太ファイバは、上記平均繊維径には含めない。
繊維径が300nm以上の極太ファイバが、ファイバ全体の5%以内であればナノファイバの機能に関し、ほとんど影響がない。
なお、図1に示されている太い繊維はろ材の繊維であり、本発明における3次元分岐型ナノファイバではない。そのため平均繊維径の算出には無関係である。
【0015】
本発明で使用される水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド(ナイロン系)、ポリカーボネート、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリ(メタ)クリレート、ポリ酢酸ビニル、PVA,PVBなどのポリビニルアルコール類、酢酸セルロース、プルランなどの多糖類、キトサン、ポリ乳酸、タンパク質、ポリアルキレンオキシド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(エステル‐コ‐グリコール)ポリマーが例示される。
【0016】
本発明で使用される溶媒としては、水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子を溶解する溶媒であれば種類を問わず、酸性水溶液が用いられるが、安全性の点から、炭酸や酢酸が好ましい。
酢酸を使用する場合は、含水率の少ない濃酢酸を使用する方が好ましい。
【0017】
エレクトロスピニング法により、本発明の枝分かれした構造体を形成するためには、相対湿度30%以下とし、シリンジと回転ドラム電極との距離を5〜25cm、印加電圧を15〜20kV、シリンジからの高分子溶液の吐出量を0.5〜1ml/hとすることが必要である。
シリンジと電極との距離が25cmを超えると、細すぎて実用的でなく、5cm未満では、液滴が充分分散されないままドラムに付着してしまい操作自体が不可能となる。
印加電圧が5kV未満では繊維がドラムに届かず操作自体が不可能となる。
【0018】
さらに、本発明によれば、相対湿度、高分子溶液を調整することにより、従来法では得られなかった平均繊維径が1〜40nmの枝分れしたナノファイバを得ることができる(図1(c)の写真参照)。
【0019】
本発明の3次元分岐型ナノファイバをフィルタとして利用するには、ガラス繊維ろ材などの既存の中性能フィルタ、あるいは合成樹脂製の不織布の表面に、直接3次元分岐型ナノフィルタを形成、被覆することが好ましい。フィルタや不織布等の基材の表面に、直接分岐型ナノフィルタを形成、被覆するには、回転ドラム電極の表面に基材を貼り付け、ドラム電極を回転させながら、対向するノズル電極より高分子溶液を吐出させればよい。
【0020】
本発明は、以下の構成からなる。
(1)水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子からなる、平均繊維径が200nm以下の枝分かれした3次元分岐型ナノファイバ。
(2)平均繊維径が1〜40nmであることを特徴とする(1)の3次元分岐型ナノファイバ。
(3)(1)又は(2)の3次元分岐型ナノファイバが、多孔質支持体の表面にコーティングされていることを特徴とするフィルタ。
(4)PF値が100以上の(3)のフィルタ。
(5)高分子を濃酢酸に溶解させ、相対湿度30%以下の雰囲気で、ES法により微細化することを特徴とする(1)の3次元分岐型ナノファイバの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エレクトロスピニング法を特定条件下で実施することにより、従来知られていたナノファイバと異なり、枝分かれ部を有し、枝部分によりナノファイバが互いに絡み合った構造なので、繊維径が細いにも拘らず、構造体としての強度を有し、従来知られていたナノファイバと比べ、より一層微細な平均繊維径からなる3次元分岐型ナノファイバ及びその製造方法を提供することができる。
素材としてキトサンを使用すれば、キトサン自体が、生体適合性、抗菌性を有するので、再生医療の基材としての利用、またフィルタとして使用する場合には、高性能空気清浄機、マスク用フィルタとして有用である。
該キトサンナノファイバは、以下のような用途に使用可能である。
(1) 抗菌性を有する低圧力損失・高効率のフィルタ を提供できる。
(2) 病院等の医療施設、製薬工場、介護施設など特に菌の繁殖を抑える必要のある施設への空気清浄フィルタとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1のポリビニルアルコールナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図2】実施例2のポリビニルブチラールナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図3】実施例3の酢酸セルロースナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図4】実施例4のキトサンナノファイバの走査型顕微鏡写真(a:5000倍、b:20000倍)
【図5】実施例5のプルランナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図6】実施例6のポリアクリル酸ナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図7】実施例7のポリアミドナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図8】実施例8のポリビニルピロリドンナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図9】実施例9のポリビニルアルコールナノファイバの走査型顕微鏡写真(a:5000倍、b:20000倍)
【図10】実施例10のキトサンナノファイバの走査型顕微鏡写真(a:300倍、b:5000倍、c:20000倍)
【図11】実施例10のフィルタの圧力損失とES時間との関係を示すグラフ
【図12】実施例10フィルタの捕集効率とES時間との関係を示すグラフ
【図13】実施例10のフィルタのPF値とES時間との関係を示すグラフ
【図14】実施例10のキトサンナノファイバの繊維径と湿度の関係を示すグラフ
【図15】実施例10のフィルタの圧力損失と湿度との関係を示すグラフ
【図16】実施例10のフィルタの捕集効率と湿度との関係を示すグラフ
【図17】実施例10のフィルタの平均繊維径と捕集効率との関係を示すグラフ
【図18】実施例10のフィルタのPF値と湿度との関係を示すグラフ
【図19】実施例10のフィルタと従来フィルタとを対比したグラフ
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0023】
ポリビニルアルコールナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
ポリビニルアルコール(和光純薬製 重合度1500)を純水に10wt%混合し、3時間60℃で攪拌し、水溶液を作成し、ついで該水溶液と酢酸(和光純薬製)とを1:1で混合・攪拌しファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:10kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたポリビニルアルコールの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図1に示す。
【実施例2】
【0024】
ポリビニルブチラールナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
ポリビニルブチラール(和光純薬製 重合度1500)をエタノールに10wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、水溶液を作成し、ついで該水溶液と酢酸(和光純薬製)とを1:1で混合・攪拌しファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:10kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたポリビニルブチラールの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図2に示す。
【実施例3】
【0025】
酢酸セルロースナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
酢酸セルロース(アルドリッチ製 分子量30000Mw、29.8%アセテート)を、アセトンとDMAcを2:1で混合した溶液に15wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、溶液を作成し、ついで該溶液と酢酸(和光純薬製)とを1:1で混合・攪拌しファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:10kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られた酢酸セルロースの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図3に示す。
【実施例4】
【0026】
キトサンナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
キトサン(和光純薬製(キトサン300) 脱アセチル化度:約80%)を、純水と酢酸を1:9で混合した酢酸水溶液にキトサンを1wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、溶液を作成し、ファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:13.5kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたキトサンの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図4に示す。
【実施例5】
【0027】
プルランナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
プルラン(林原製)を、純水に20wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、溶液を作成し、ファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:10kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたプルランの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図5に示す。
【実施例6】
【0028】
ポリアクリル酸ナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
ポリアクリル酸(アルドリッチ製、分子量250,000Mw)を、純水に30wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、ついで該溶液と酢酸(和光純薬製)とを1:1で混合・攪拌しファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:13.5kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたポリアクリル酸の分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図6に示す。
【実施例7】
【0029】
ポリアミドナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
ナイロン6(東レ製)を、蟻酸に15wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、ファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:20kV
・ スプレー距離:15cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたポリアミドの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図7に示す。
【実施例8】
【0030】
ポリビニルピロリドンナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
ポリビニルピロリドン(東京化成製、分子量630,000Mw)を、エタノールに30wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、ファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:10kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたポリビニルピロリドンの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図8に示す。
【実施例9】
【0031】
ポリビニルアルコールナノファイバの作成方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
ポリビニルアルコール(和光純薬製、重合度1500)を純水に10wt%混合し、3時間、60℃で攪拌して水溶液とし、ついで該水溶液と炭酸水とを1:1で混合・攪拌しファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作成)
・ 電圧:10kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたポリビニルアルコールの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図9に示す。
【実施例10】
【0032】
キトサンナノファイバフィルタの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料)
・和光純薬製 キトサン
・和光純薬製 濃酢酸
(試料調製)
酢酸を調製して濃酢酸水溶液をとし、これにキトサン試薬を添加して、室温で12時間攪拌して溶解させ、ファイバ材料溶液とした。
(キトサンナノファイバの作製)
以下のエレクトロスピニング条件で、ファイバを作製した。
・ 電圧:13.5kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 基板:北越紀州製紙製ガラス繊維ろ材H718(JIS比色法90%グレード)
・ 湿度:15%〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたキトサンの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図10に示す。
【0033】
上記の製法で得られたフィルタを使用して性能試験を行った。
吐出量を0.1 ml/h、0.5 ml/h 、1.0ml/h、作製時における湿度を20%、25%、28%、40%でES法によりキトサンナノファイバを北越紀州製紙製ガラス繊維ろ材H718(JIS比色法90%グレード)の表面に形成、被覆させて得られたフィルタの圧力損失とES時間(吐出時間)との関係を図11のグラフに示す。
図2から明らかなように、フィルタの圧力損失を100Pa以下に抑えるためには、ES時間を3時間未満にする必要がある。
【0034】
上記性能試験の結果を、捕集効率とES時間との関係で示したのが図12のグラフである。
同図から、捕集効率はES時間1時間前後で飽和することがわかる。また、湿度が低いほど捕集効率が良いことがわかる。
【0035】
上記性能試験の結果を、PF値とES時間との関係で示したのが図13のグラフである。
同図から、PF値はES時間1時間前後で最大値を示すことがわかる。とくに、フィルタとしてはPF値100を超える特性を得られ、従来になく高性能であることが示されている。
【0036】
上記性能試験の結果を、ファイバ径と湿度との関係で示したのが図14のグラフである。
同図から、本実験のファイバは湿度にかかわらず、平均直径が50nm未満であることが示されている。
【0037】
上記性能試験の結果を、圧力損失と湿度との関係で示したのが図15のグラフである。
同図から、本実験のフィルタは湿度にかかわらず、圧力損失50Pa未満であり、従来になく高性能であることが示されている。これは、既存のHEPAフィルタの5分の1以下の圧力損失である。
【0038】
上記性能試験の結果を、捕集効率と湿度との関係で示したのが図16のグラフである。
同図から、相対湿度30%未満の条件で、捕集効率90%を超えるフィルタが作製可能であることが示されている。
【0039】
フィルタの平均繊維径と捕集効率の関係で示したのが図17のグラフである。
同図から、平均40nm未満のファイバ径で、捕集効率90%を超えるフィルタが作製可能であることが示されている。
【0040】
上記性能試験の結果を、PF値と湿度との関係で示したのが図18のグラフである。同図から、湿度の調整により、PF値100を超えるファイバを作製可能であることが示されている。
【0041】
上記性能試験の結果と従来フィルタとを対比したのが図19のグラフである。同図から、従来のHEPAフィルタ、ULPAフィルタ、PTFEフィルタよりも、本発明のフィルタが低透過率、かつ低圧力損失であり、従来になく高性能であることが示されている。
【0042】
(キトサンナノファイバの抗菌性)
キトサンナノファイバの抗菌性試験について、以下の検体により、JIS Z 2801:2000「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」 5.2 プラスチック製品などの試験方法 似準じて試験を行った。
検体1:北越紀州製紙製ガラス繊維ろ材H710(JIS比色法65%グレード)にキトサンを塗布
検体2:北越紀州製紙製ガラス繊維ろ材H718(JIS比色法90%グレード)にキトサンを塗布
検体3:北越紀州製紙製ガラス繊維ろ材H718(JIS比色法90%グレード)無加工
測定結果を表1に、試験に用いた試験片、フィルム及び菌液の概要を表2に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレクトロスピニング法で作製される平均繊維径が200nm以下の枝分かれした三次元構造を有するナノファイバ及びその製造方法、並びに該ナノファイバを使用するフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノオーダーの高分子の微細ファイバを作製する方法として、従来からエレクトロスピニング法が知られている。エレクトロスピニング法によれば、ナノオーダー径の繊維体を比較的簡単に作製することができ、作製された繊維体は、生物学的な培地、医療分野における止血材、電池のセパレータなど、種々の分野での応用が期待されている。
【0003】
特にこのナノファイバをフィルタ材に使用すると、スリップフローと呼ばれる効果で圧力損失を非常に低く抑えることができることから(非特許文献1)、ナノファイバを利用した種々の高性能フィルタ類が開発されている。
【0004】
特許文献1では、平均直径が1〜500nmの熱可塑性ポリマーからなるナノファイバを分散媒中に分散させたナノファイバ分散液を、支持体に付着させた後、該分散媒を除去することにより、支持体表面および/または内部にナノファイバを均一に付着させる方法が開示されている。
特許文献2で、このようにして得られるナノファイバ構造体の機械的強度を向上させるため、静電噴霧の条件を調整し、ナノファイバ同士或いはナノファイバと支持体の間を連結させる方法が開示されている。
【0005】
一方、ナノファイバの素材として生体適合性を有する天然高分子が注目されている。
特許文献3では、キトサンとセリシンの複合体を含む50〜500nmのファイバが開示され、その生体親和性と生体に対する安全性から、特に医療用機能性ファイバとして用いられている。
天然高分子のなかでもキトサンは、生体適合性だけでなく抗菌性を備え、より機能的な用途への適用が期待されている。
特許文献4では、繊維径が40〜100nmのキトサンファイバ及びその安定的製造方法が開示されている。しかしながら、平均繊維径が40nm以下のファイバの作製については開示されていない。特許文献4を含め、これまでに、数本もしくは少量の40nmのファイバが偶発的に作製されることがあっても、平均直径を40nm以下にすることは報告されていない。
【0006】
キトサンのように、水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子からなるナノファイバは、新しい機能性素材として注目されているが、夫々の用途における機能性を十分生かすためには、より一層の細繊維化と自己強度性が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2005−330639号公報
【特許文献2】特開2010−121221号公報
【特許文献3】特開2008−163520号公報
【特許文献4】特開2008−308780号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Kristine Graham et. al. "Plymeric Nanofibers in Air Filtration Applications" Presented at the Fifteenth Annual Technical Conference & Expo of the American Filtration & Separations Society, Galveston, April 9-12,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子からなり、自己強度性を有し、より一層細繊維化された3次元分岐型ナノファイバ及び該3次元分岐型ナノファイバを含むフィルタ及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、エレクトロスピニング法による高分子繊維の作成に際し、高分子としてナイロンを用い、特定条件下では、驚くべきことに微細な3次元の網目構造に自己組織化したケージ状構造体が生成することを見出し、特許出願(特願2009−205013号)した。
その過程で、種々の高分子で試したところ、水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子を用いれば、ナイロンのケージ状構造体とは異なるが、一部自己組織化して強度に優れ、非常に微細な3次元分岐型ナノファイバが得られることを突き止め、本発明に至った。
【0011】
本発明の3次元分岐型ナノファイバは、ファイバに枝分かれ部を有し、これらの枝部分によりナノファイバが互いに絡み合った構造(図1の写真参照)となっており、従来のナノファイバ同士が交絡して形成される三次元構造体とは、構造が異なる。
本発明における「枝分かれ部」とは、ファイバが3本分岐している部分を指し、従来のナノファイバ同士が交絡して形成されるファイバが4本分岐している部分や、3本分岐部でも、ナノファイバ同士が接合し1本が他の2本をあわせた太さとなっている分岐部は、本発明における「枝分かれ部」には含めない。
【0012】
分岐型ナノファイバについては、本発明者らが特定の条件下で複数の繊維間に平面的に形成されることを見出し特許出願している(特開2007−154336号公報)が、本発明の分岐型ナノファイバは、三次元的に成長している点、分岐型ナノファイバを保持する複数の繊維が形成されない点で先行発明の分岐型ナノファイバと区別できる。
【0013】
更に、本発明の3次元分岐型ナノファイバは、ES法の条件を限定することにより得られる、平均繊維径が1〜40nmの極微細径のファイバである。
本発明における平均繊維径とは、形成された3次元分岐型ナノファイバ層の表面を電子顕微鏡写真にて、ナノファイバが100本以上写しこまれる倍率で撮影し、画面に写っているファイバから乱数表などを利用して無作為に100本抽出し、その中間部の直径を測定し、それらを算術平均して求められる数値である。
なお、途中に枝分かれ部が存在する場合、枝分かれ部までを一本のファイバとし、該枝分かれ部から分岐したファイバは、別個のファイバとして計測する。
【0014】
ES法によってナノファイバを形成させる基材の繊維径は、上記平均繊維径には含めない。また、ES法の条件によっては、繊維径が300nm以上の極太ファイバが形成されることがあるが、これらの極太ファイバは、上記平均繊維径には含めない。
繊維径が300nm以上の極太ファイバが、ファイバ全体の5%以内であればナノファイバの機能に関し、ほとんど影響がない。
なお、図1に示されている太い繊維はろ材の繊維であり、本発明における3次元分岐型ナノファイバではない。そのため平均繊維径の算出には無関係である。
【0015】
本発明で使用される水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子としては、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアミド(ナイロン系)、ポリカーボネート、ポリアクリルアミド、ポリアクリレート、ポリ(メタ)クリレート、ポリ酢酸ビニル、PVA,PVBなどのポリビニルアルコール類、酢酸セルロース、プルランなどの多糖類、キトサン、ポリ乳酸、タンパク質、ポリアルキレンオキシド、ポリウレタン、ポリウレア、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリ(エステル‐コ‐グリコール)ポリマーが例示される。
【0016】
本発明で使用される溶媒としては、水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子を溶解する溶媒であれば種類を問わず、酸性水溶液が用いられるが、安全性の点から、炭酸や酢酸が好ましい。
酢酸を使用する場合は、含水率の少ない濃酢酸を使用する方が好ましい。
【0017】
エレクトロスピニング法により、本発明の枝分かれした構造体を形成するためには、相対湿度30%以下とし、シリンジと回転ドラム電極との距離を5〜25cm、印加電圧を15〜20kV、シリンジからの高分子溶液の吐出量を0.5〜1ml/hとすることが必要である。
シリンジと電極との距離が25cmを超えると、細すぎて実用的でなく、5cm未満では、液滴が充分分散されないままドラムに付着してしまい操作自体が不可能となる。
印加電圧が5kV未満では繊維がドラムに届かず操作自体が不可能となる。
【0018】
さらに、本発明によれば、相対湿度、高分子溶液を調整することにより、従来法では得られなかった平均繊維径が1〜40nmの枝分れしたナノファイバを得ることができる(図1(c)の写真参照)。
【0019】
本発明の3次元分岐型ナノファイバをフィルタとして利用するには、ガラス繊維ろ材などの既存の中性能フィルタ、あるいは合成樹脂製の不織布の表面に、直接3次元分岐型ナノフィルタを形成、被覆することが好ましい。フィルタや不織布等の基材の表面に、直接分岐型ナノフィルタを形成、被覆するには、回転ドラム電極の表面に基材を貼り付け、ドラム電極を回転させながら、対向するノズル電極より高分子溶液を吐出させればよい。
【0020】
本発明は、以下の構成からなる。
(1)水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子からなる、平均繊維径が200nm以下の枝分かれした3次元分岐型ナノファイバ。
(2)平均繊維径が1〜40nmであることを特徴とする(1)の3次元分岐型ナノファイバ。
(3)(1)又は(2)の3次元分岐型ナノファイバが、多孔質支持体の表面にコーティングされていることを特徴とするフィルタ。
(4)PF値が100以上の(3)のフィルタ。
(5)高分子を濃酢酸に溶解させ、相対湿度30%以下の雰囲気で、ES法により微細化することを特徴とする(1)の3次元分岐型ナノファイバの製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、エレクトロスピニング法を特定条件下で実施することにより、従来知られていたナノファイバと異なり、枝分かれ部を有し、枝部分によりナノファイバが互いに絡み合った構造なので、繊維径が細いにも拘らず、構造体としての強度を有し、従来知られていたナノファイバと比べ、より一層微細な平均繊維径からなる3次元分岐型ナノファイバ及びその製造方法を提供することができる。
素材としてキトサンを使用すれば、キトサン自体が、生体適合性、抗菌性を有するので、再生医療の基材としての利用、またフィルタとして使用する場合には、高性能空気清浄機、マスク用フィルタとして有用である。
該キトサンナノファイバは、以下のような用途に使用可能である。
(1) 抗菌性を有する低圧力損失・高効率のフィルタ を提供できる。
(2) 病院等の医療施設、製薬工場、介護施設など特に菌の繁殖を抑える必要のある施設への空気清浄フィルタとして使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】実施例1のポリビニルアルコールナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図2】実施例2のポリビニルブチラールナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図3】実施例3の酢酸セルロースナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図4】実施例4のキトサンナノファイバの走査型顕微鏡写真(a:5000倍、b:20000倍)
【図5】実施例5のプルランナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図6】実施例6のポリアクリル酸ナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図7】実施例7のポリアミドナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図8】実施例8のポリビニルピロリドンナノファイバの走査型顕微鏡写真
【図9】実施例9のポリビニルアルコールナノファイバの走査型顕微鏡写真(a:5000倍、b:20000倍)
【図10】実施例10のキトサンナノファイバの走査型顕微鏡写真(a:300倍、b:5000倍、c:20000倍)
【図11】実施例10のフィルタの圧力損失とES時間との関係を示すグラフ
【図12】実施例10フィルタの捕集効率とES時間との関係を示すグラフ
【図13】実施例10のフィルタのPF値とES時間との関係を示すグラフ
【図14】実施例10のキトサンナノファイバの繊維径と湿度の関係を示すグラフ
【図15】実施例10のフィルタの圧力損失と湿度との関係を示すグラフ
【図16】実施例10のフィルタの捕集効率と湿度との関係を示すグラフ
【図17】実施例10のフィルタの平均繊維径と捕集効率との関係を示すグラフ
【図18】実施例10のフィルタのPF値と湿度との関係を示すグラフ
【図19】実施例10のフィルタと従来フィルタとを対比したグラフ
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0023】
ポリビニルアルコールナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
ポリビニルアルコール(和光純薬製 重合度1500)を純水に10wt%混合し、3時間60℃で攪拌し、水溶液を作成し、ついで該水溶液と酢酸(和光純薬製)とを1:1で混合・攪拌しファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:10kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたポリビニルアルコールの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図1に示す。
【実施例2】
【0024】
ポリビニルブチラールナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
ポリビニルブチラール(和光純薬製 重合度1500)をエタノールに10wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、水溶液を作成し、ついで該水溶液と酢酸(和光純薬製)とを1:1で混合・攪拌しファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:10kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたポリビニルブチラールの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図2に示す。
【実施例3】
【0025】
酢酸セルロースナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
酢酸セルロース(アルドリッチ製 分子量30000Mw、29.8%アセテート)を、アセトンとDMAcを2:1で混合した溶液に15wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、溶液を作成し、ついで該溶液と酢酸(和光純薬製)とを1:1で混合・攪拌しファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:10kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られた酢酸セルロースの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図3に示す。
【実施例4】
【0026】
キトサンナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
キトサン(和光純薬製(キトサン300) 脱アセチル化度:約80%)を、純水と酢酸を1:9で混合した酢酸水溶液にキトサンを1wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、溶液を作成し、ファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:13.5kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたキトサンの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図4に示す。
【実施例5】
【0027】
プルランナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
プルラン(林原製)を、純水に20wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、溶液を作成し、ファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:10kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたプルランの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図5に示す。
【実施例6】
【0028】
ポリアクリル酸ナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
ポリアクリル酸(アルドリッチ製、分子量250,000Mw)を、純水に30wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、ついで該溶液と酢酸(和光純薬製)とを1:1で混合・攪拌しファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:13.5kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたポリアクリル酸の分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図6に示す。
【実施例7】
【0029】
ポリアミドナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
ナイロン6(東レ製)を、蟻酸に15wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、ファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:20kV
・ スプレー距離:15cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたポリアミドの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図7に示す。
【実施例8】
【0030】
ポリビニルピロリドンナノファイバの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
ポリビニルピロリドン(東京化成製、分子量630,000Mw)を、エタノールに30wt%混合し、12時間25℃で攪拌し、ファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作製)
・ 電圧:10kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたポリビニルピロリドンの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図8に示す。
【実施例9】
【0031】
ポリビニルアルコールナノファイバの作成方法を以下に示す。
(ファイバ材料の調製)
ポリビニルアルコール(和光純薬製、重合度1500)を純水に10wt%混合し、3時間、60℃で攪拌して水溶液とし、ついで該水溶液と炭酸水とを1:1で混合・攪拌しファイバ材料溶液とした。
(分岐型ファイバの作成)
・ 電圧:10kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1 ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 湿度:15〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたポリビニルアルコールの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図9に示す。
【実施例10】
【0032】
キトサンナノファイバフィルタの作製方法を以下に示す。
(ファイバ材料)
・和光純薬製 キトサン
・和光純薬製 濃酢酸
(試料調製)
酢酸を調製して濃酢酸水溶液をとし、これにキトサン試薬を添加して、室温で12時間攪拌して溶解させ、ファイバ材料溶液とした。
(キトサンナノファイバの作製)
以下のエレクトロスピニング条件で、ファイバを作製した。
・ 電圧:13.5kV
・ スプレー距離:10cm
・ 吐出速度:0.5〜1ml/h
・ 電極:回転ドラム
・ 基板:北越紀州製紙製ガラス繊維ろ材H718(JIS比色法90%グレード)
・ 湿度:15%〜60%
・ 吐出時間:1分〜30時間
得られたキトサンの分岐型ナノファイバの顕微鏡写真を図10に示す。
【0033】
上記の製法で得られたフィルタを使用して性能試験を行った。
吐出量を0.1 ml/h、0.5 ml/h 、1.0ml/h、作製時における湿度を20%、25%、28%、40%でES法によりキトサンナノファイバを北越紀州製紙製ガラス繊維ろ材H718(JIS比色法90%グレード)の表面に形成、被覆させて得られたフィルタの圧力損失とES時間(吐出時間)との関係を図11のグラフに示す。
図2から明らかなように、フィルタの圧力損失を100Pa以下に抑えるためには、ES時間を3時間未満にする必要がある。
【0034】
上記性能試験の結果を、捕集効率とES時間との関係で示したのが図12のグラフである。
同図から、捕集効率はES時間1時間前後で飽和することがわかる。また、湿度が低いほど捕集効率が良いことがわかる。
【0035】
上記性能試験の結果を、PF値とES時間との関係で示したのが図13のグラフである。
同図から、PF値はES時間1時間前後で最大値を示すことがわかる。とくに、フィルタとしてはPF値100を超える特性を得られ、従来になく高性能であることが示されている。
【0036】
上記性能試験の結果を、ファイバ径と湿度との関係で示したのが図14のグラフである。
同図から、本実験のファイバは湿度にかかわらず、平均直径が50nm未満であることが示されている。
【0037】
上記性能試験の結果を、圧力損失と湿度との関係で示したのが図15のグラフである。
同図から、本実験のフィルタは湿度にかかわらず、圧力損失50Pa未満であり、従来になく高性能であることが示されている。これは、既存のHEPAフィルタの5分の1以下の圧力損失である。
【0038】
上記性能試験の結果を、捕集効率と湿度との関係で示したのが図16のグラフである。
同図から、相対湿度30%未満の条件で、捕集効率90%を超えるフィルタが作製可能であることが示されている。
【0039】
フィルタの平均繊維径と捕集効率の関係で示したのが図17のグラフである。
同図から、平均40nm未満のファイバ径で、捕集効率90%を超えるフィルタが作製可能であることが示されている。
【0040】
上記性能試験の結果を、PF値と湿度との関係で示したのが図18のグラフである。同図から、湿度の調整により、PF値100を超えるファイバを作製可能であることが示されている。
【0041】
上記性能試験の結果と従来フィルタとを対比したのが図19のグラフである。同図から、従来のHEPAフィルタ、ULPAフィルタ、PTFEフィルタよりも、本発明のフィルタが低透過率、かつ低圧力損失であり、従来になく高性能であることが示されている。
【0042】
(キトサンナノファイバの抗菌性)
キトサンナノファイバの抗菌性試験について、以下の検体により、JIS Z 2801:2000「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」 5.2 プラスチック製品などの試験方法 似準じて試験を行った。
検体1:北越紀州製紙製ガラス繊維ろ材H710(JIS比色法65%グレード)にキトサンを塗布
検体2:北越紀州製紙製ガラス繊維ろ材H718(JIS比色法90%グレード)にキトサンを塗布
検体3:北越紀州製紙製ガラス繊維ろ材H718(JIS比色法90%グレード)無加工
測定結果を表1に、試験に用いた試験片、フィルム及び菌液の概要を表2に示す。
【0043】
【表1】
【0044】
【表2】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子からなり、平均繊維径が200nm以下の3次元分岐型ナノファイバ。
【請求項2】
水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子がポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、酢酸セルロース、キトサン、プルラン、ポリアクリル酸、ポリアミド、ポリビニルピロリドンから選ばれる1種以上である請求項1記載の3次元分岐型ナノファイバ。
【請求項3】
平均繊維径が1〜40nmであることを特徴とする請求項1又は2記載の3次元分岐型ナノファイバ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の3次元分岐型ナノファイバが、繊維シート、不織布、若しくは多孔質支持体のいずれかの表面にコーティングされていることを特徴とするフィルタ。
【請求項5】
PF値が100以上の請求項4記載のフィルタ。
【請求項6】
水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子を酸性水溶液に溶解させ、相対湿度30%以下の雰囲気で、ES法により微細化することを特徴とする請求項1記載の3次元分岐型ナノファイバの製造方法。
【請求項1】
水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子からなり、平均繊維径が200nm以下の3次元分岐型ナノファイバ。
【請求項2】
水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子がポリビニルアルコール、ポリビニルブチラール、酢酸セルロース、キトサン、プルラン、ポリアクリル酸、ポリアミド、ポリビニルピロリドンから選ばれる1種以上である請求項1記載の3次元分岐型ナノファイバ。
【請求項3】
平均繊維径が1〜40nmであることを特徴とする請求項1又は2記載の3次元分岐型ナノファイバ。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の3次元分岐型ナノファイバが、繊維シート、不織布、若しくは多孔質支持体のいずれかの表面にコーティングされていることを特徴とするフィルタ。
【請求項5】
PF値が100以上の請求項4記載のフィルタ。
【請求項6】
水酸基、カルボニル基及びエーテル基から選ばれる1種以上の官能基を含む高分子を酸性水溶液に溶解させ、相対湿度30%以下の雰囲気で、ES法により微細化することを特徴とする請求項1記載の3次元分岐型ナノファイバの製造方法。
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−82566(P2012−82566A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−199210(P2011−199210)
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(502435454)株式会社SNT (33)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年9月13日(2011.9.13)
【出願人】(502435454)株式会社SNT (33)
【出願人】(000111085)ニッタ株式会社 (588)
【Fターム(参考)】
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