説明

ナノヘテロ構造イオン伝導体およびその製造方法

【課題】ナノ構造を有し、酸素イオン伝導性に優れたイオン伝導体を提供すること。
【解決手段】酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に、酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料のうちの他方の無機成分が、球状、柱状およびジャイロイド状からなる群から選択される形状で、三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を有していることを特徴とするナノヘテロ構造イオン伝導体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノヘテロ構造を有するイオン伝導体、その製造方法、およびそれからなる燃料電池用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素イオン伝導体は、酸素イオン(酸化物イオン、O2−)をキャリアーとする伝導体であり、燃料電池やガスセンサーの固体電解質や燃料電池の電極材などに使用されている。このような固体電解質や電極材の酸素イオン伝導性は、燃料電池やガスセンサーの性能を大きく左右するため、酸素イオン伝導性に優れたイオン伝導体が求められている。
【0003】
Solid State Ionics、2007年、第178巻、67頁〜76頁(非特許文献1)には、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)とアルミナとを交互に積層した多層型イオン伝導体が開示されている。この多層型イオン伝導体においては、CSZ層とアルミナ層がナノスケールで交互に積層されているため、バルクのCSZからなるイオン伝導体に比べて高い酸素イオン伝導性が得られている。
【0004】
しかしながら、非特許文献1に記載の多層型イオン伝導体は、CSZ層とアルミナ層を交互に積層する必要があるため、その製造プロセスが煩雑であった。また、スパッタリング法や分子線エピタキシャル法(MBE法)、化学気相蒸着法(CVD法)などによる積層においては、各層を構成する金属の種類が製膜できるものに限定され、また、組成を精密に制御することも困難であった。さらに、非特許文献1に記載の多層型イオン伝導体の酸素イオン伝導度は、575℃で10−2S/cm程度であり、必ずしも十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A.Petersら、Solid State Ionics、2007年、第178巻、67頁〜76頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、ナノ構造を有し、酸素イオン伝導性に優れたイオン伝導体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、ブロックコポリマーを構成する第一ポリマーブロック成分と酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体のうちの一方の無機前駆体と、第二ポリマーブロック成分と酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体のうちの他方の無機前駆体とをそれぞれ組み合わせて用いることにより、ブロックコポリマーの自己組織化を利用してナノ相分離構造体を形成せしめ且つ前記無機前駆体をそれぞれ酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料に変換せしめると共にブロックコポリマーを除去することによって、酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に他方の無機成分が三次元的にナノスケールの周期性をもって配置したナノヘテロ構造を有するイオン伝導体が得られ、さらに、このナノヘテロ構造イオン伝導体が酸素イオン伝導性に優れたものであることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体の製造方法は、
互いに混和しない少なくとも第一ポリマーブロック成分と第二ポリマーブロック成分とが結合してなるブロックコポリマーと、酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体のうちの他方である第二無機前駆体と、を溶媒に溶解して原料溶液を調製する第一の工程と、
少なくとも、前記第一無機前駆体が導入された前記第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と、前記第二無機前駆体が導入された前記第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相と、が自己組織化により規則的に配置したナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理と、前記酸素イオン伝導性材料前駆体および前記酸素イオン非伝導性材料前駆体をそれぞれ酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料に変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とを含み、前記酸素イオン伝導性材料と前記酸素イオン非伝導性材料とからなるナノヘテロ構造イオン伝導体を得る第二の工程と、
を含むことを特徴とする方法である。
【0009】
本発明に用いる前記第一無機前駆体と前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差は2(cal/cm1/2以下であることが好ましく、前記第二無機前駆体と前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差は2(cal/cm1/2以下であることが好ましい。
【0010】
さらに、本発明に用いる前記第一ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第一ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことが好ましい。また、前記第二ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第二ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことが好ましい。
【0011】
本発明にかかる前記第二の工程における変換処理としては、酸化ガス雰囲気中で前記酸素イオン伝導性材料前駆体および前記酸素イオン非伝導性材料前駆体を熱処理することによって、それぞれ酸化物からなる酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料に変換せしめる処理であることが好ましい。
【0012】
本発明に用いる前記ブロックコポリマーが、ポリスチレン成分、ポリイソプレン成分およびポリブタジエン成分からなる群から選択される少なくとも1種の第一ポリマーブロック成分と、ポリメチルメタクリレート成分、ポリエチレンオキシド成分、ポリビニルピリジン成分およびポリアクリル酸成分からなる群から選択される少なくとも1種の第二ポリマーブロック成分とが結合してなるものである場合、
前記第一無機前駆体としては、フェニル基、炭素数5以上の長鎖炭化水素鎖、シクロオクタテトラエン環、シクロペンタジエニル環、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも1つの構造を備える、有機金属化合物および有機半金属化合物のうちの少なくとも1種が好ましく、
前記第二無機前駆体としては、金属または半金属の塩、金属または半金属を含む炭素数1〜4のアルコキシド、および金属または半金属のアセチルアセトナート錯体からなる群から選択される少なくとも1種が好ましい。
【0013】
また、このような本発明の製造方法によって得ることができるようになった本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体は、酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に、酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料のうちの他方の無機成分が、球状、柱状およびジャイロイド状からなる群から選択される形状で、三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を有していることを特徴とするものである。
【0014】
本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体において、前記酸素イオン伝導性材料としては、トリウム系酸化物、ジルコニウム系酸化物、ビスマス系複合酸化物、セリウム系酸化物、ペロブスカイト型ランタン−コバルト系複合酸化物およびペロブスカイト型ランタン−ガリウム系複合酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の酸化物が好ましく、前記酸素イオン非伝導性材料としては、ストロンチウム−チタン系複合酸化物、アルミニウム系酸化物およびKNiF型ランタン−コバルト系複合酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の酸化物が好ましい。
【0015】
本発明の固体酸化物形燃料電池用固体電解質、燃料電池用電極材、およびガスセンサーは、このような本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体からなるものである。
【0016】
なお、前記本発明の方法によって前記本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体が得られるようになる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、先ず、互いに混和しないAおよびBの2種類のポリマーブロック成分が結合してなるブロックコポリマーは、ガラス転移点以上の温度で熱処理することでA相とB相とが空間的に分離したナノ相分離構造を構成する(自己組織化)。その際、ポリマーブロック成分の分子量比によって一般的に相分離構造は変化する。具体的には、A:Bの分子量比が1:1からずれるにしたがい、二つの連続相が絡み合ったようなジャイロイド状構造、柱状構造、さらに球状構造へと変化してゆく。なお、図1は、ブロックコポリマーから生成されるナノ相分離構造を示す模式図であり、左から、ジャイロイド状構造(a)、柱状構造(b)、球状構造(c)をそれぞれ示しており、右側の構造ほど一般的にAの割合が高い。
【0017】
本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体の製造方法においては、先ず、上記のブロックコポリマーの自己組織化を利用して、複数の無機前駆体を三次元的にナノスケールの周期性をもって配置させる。すなわち、互いに混和しない複数のポリマーブロック成分からなるブロックコポリマーは、前述のように自己組織化によりナノスケールで相分離する。その際、本発明においては、ブロックコポリマーを構成する第一ポリマーブロック成分と酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、第二ポリマーブロック成分と酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体のうちの他方である第二無機前駆体とをそれぞれ組み合わせて用い、さらには、前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第二無機前駆体とを組み合わせて用いることが好ましい。これにより、第一無機前駆体および第二無機前駆体はそれぞれ第一ポリマーブロック成分中および第二ポリマーブロック成分中に十分に導入された状態でブロックコポリマーの自己組織化と共にナノ相分離構造を構成し、ナノ相分離構造を所定の構造とすることによって前記無機前駆体は三次元的にナノスケールの周期性をもって配置される。
【0018】
さらに、本発明においては、前記酸素イオン伝導性材料前駆体および前記酸素イオン非伝導性材料前駆体をそれぞれ酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料に変換せしめると共にブロックコポリマーを除去することによって、ナノ相分離構造の形状に応じて酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に他方の無機成分が所定の形状で三次元的に特定のナノスケールの周期性をもって配置されたナノヘテロ構造を有するイオン伝導体が得られる。なお、本発明においては、前記第一無機前駆体および前記第二無機前駆体と第一ポリマーブロック成分および第二ポリマーブロック成分とをそれぞれ組み合わせて用いており、さらには、これらの溶解度パラメータの差がそれぞれ2(cal/cm1/2以下であることが好ましい。これにより、各ポリマーブロック成分に対する各無機前駆体の導入量が十分に多くなり、そのため前記酸素イオン伝導性材料前駆体および前記酸素イオン非伝導性材料前駆体をそれぞれ酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料に変換せしめると共にブロックコポリマーを除去してもナノスケールの三次元的周期構造が十分に維持されると本発明者らは推察する。
【0019】
なお、本発明における「溶解度パラメータ」とは、ヒルデブラントによって導入された正則溶液論により定義されたいわゆる「SP値」であり、以下の式:
溶解度パラメータδ[(cal/cm1/2]=(ΔE/V)1/2
(式中、ΔEはモル蒸発エネルギー[cal]、Vはモル体積[cm]を示す。)
に基づいて求められる値である。
【0020】
また、本発明における「繰り返し構造の一単位の長さの平均値」とは、一方の無機成分からなるマトリックス中に配置されている他方の無機成分の隣接するもの同士の中心間の距離の平均値であり、いわゆる周期構造の間隔(d)に相当する。係る周期構造の間隔(d)は、以下のように小角X線回折により求められる。また、本発明に係る球状、柱状またはジャイロイド状といった構造についても、以下のように小角X線回折により測定される特徴的な回折パターンにより規定することができる。
【0021】
すなわち、小角X線回折により、球状、柱状、ジャイロイド状などの形状の構造体がマトリックス中に周期的に配置した擬似結晶格子の特徴的な格子面からのBragg反射が観察される。その際、周期構造が形成されていると回折ピークが観察され、それら回折スペクトルの大きさ(q=2π/d)の比から、球状、柱状、ジャイロイド状などの構造を特定することができる。また、係る回折ピークのピーク位置から、Braggの式(nλ=2dsinθ;λはX線波長、θは回折角を示す。)により、周期構造の間隔(d)を求めることができる。以下の表1に、各構造とピーク位置の回折スペクトルの大きさ(q)の比の関係を示す。なお、表1に示すようなピークが全て確認される必要はなく、観察されたピークから構造が特定できればよい。
【0022】
【表1】

【0023】
また、本発明に係る球状、柱状、ジャイロイド状といった構造を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて特定することも可能であり、それによってその形状や周期性を判別・評価することができる。さらに、様々な方向からの観察や三次元トモグラフィーを用いることによって、三次元性をより詳しく判別することも可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に他方の無機成分が三次元的にナノスケールの周期性をもって配置したナノヘテロ構造を有する、酸素イオン伝導性に優れたイオン伝導体を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】A−B型ブロックコポリマーから生成されるナノ相分離構造を示す模式図である。
【図2】実施例1で得られたナノヘテロ構造イオン伝導体の透過型電子顕微鏡写真である。
【図3】実施例2で得られたナノヘテロ構造イオン伝導体の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0027】
先ず、本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体について説明する。本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体は、酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に、酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料のうちの他方の無機成分が、球状、柱状およびジャイロイド状からなる群から選択される形状で、三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nm(より好ましくは1nm〜50nm、特に好ましくは1〜30nm)である三次元的周期構造を有しているものである。
【0028】
このような本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体は、従来の製造方法では実現することができなかった構造を有するものであり、酸素イオン伝導性材料と酸素イオン非伝導性材料との組み合わせについて、それらの配置、組成、構造スケールなどを様々に制御したナノヘテロ構造を有するものとして得ることが可能である。そのため、本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体によれば、従来のナノ構造イオン伝導体以上の界面増大効果、ナノサイズ効果、耐久性などの飛躍的な向上が発揮され、結果として高い酸素イオン伝導性を示すようになる。
【0029】
本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体を構成する酸素イオン伝導性材料としては、酸素イオン伝導性を示す無機成分であれば特に制限はないが、例えば、トリウム系酸化物(酸化トリウムなど)、ジルコニウム系酸化物(ジルコニア、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、カルシア安定化ジルコニア(CSZ)、スカンジア安定化ジルコニアなど)、ビスマス系複合酸化物(ビスマス−イットリウム複合酸化物など)、セリウム系酸化物(イッテルビウムをドープしたストロンチウム−セリウム複合酸化物、ガドリニウムをドープしたセリウム酸化物、およびサマリウムをドープしたセリウム酸化物など)、ペロブスカイト型ランタン−コバルト系複合酸化物(La0.6Sr0.4CoOなど)、ペロブスカイト型ランタン−ガリウム系複合酸化物(LaSrGaMg系複合酸化物など)が好ましい。これらの酸素イオン伝導性材料は、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0030】
また、本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体を構成する酸素イオン非伝導性材料としては、酸素イオン伝導性を示さない無機成分であれば特に制限はないが、例えば、ストロンチウム−チタン系複合酸化物(チタン酸ストロンチウム(STO)など)、アルミニウム系酸化物(アルミナなど)、KNiF型ランタン−コバルト系複合酸化物(LaSrCoOなど)が好ましい。これらの酸素イオン非伝導性材料も、1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0031】
次に、このような本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体の製造方法について説明する。本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体の製造方法は、
互いに混和しない少なくとも第一ポリマーブロック成分と第二ポリマーブロック成分とが結合してなるブロックコポリマーと、酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体のうちの他方である第二無機前駆体と、を溶媒に溶解して原料溶液を調製する第一の工程と、
少なくとも、前記第一無機前駆体が導入された前記第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と、前記第二無機前駆体が導入された前記第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相と、が自己組織化により規則的に配置したナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理と、前記酸素イオン伝導性材料前駆体および前記酸素イオン非伝導性材料前駆体をそれぞれ酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料に変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とを含み、前記酸素イオン伝導性材料と前記酸素イオン非伝導性材料とからなるナノヘテロ構造イオン伝導体を得る第二の工程と、
を含む方法である。以下に、それぞれの工程を説明する。
【0032】
[第一の工程:原料溶液調製工程]
係る工程は、以下に説明するブロックコポリマーと以下に説明する無機前駆体とを溶媒に溶解して原料溶液を調製する工程である。
【0033】
本発明で用いられるブロックコポリマーは、少なくとも第一ポリマーブロック成分と第二ポリマーブロック成分とが結合してなるものである。このようなブロックコポリマーの具体例として、繰り返し単位aを有するポリマーブロック成分A(第一ポリマーブロック成分)と、繰り返し単位bを有するポリマーブロック成分B(第二ポリマーブロック成分)と、が末端同士で結合した、−(aa…aa)−(bb…bb)−という構造をもつA−B型、A−B−A型のブロックコポリマーがある。また、1種類以上のポリマーブロック成分が中心から放射状に伸びたスター型や、ブロックコポリマーの主鎖に他のポリマー成分がぶらさがった形でもよい。
【0034】
本発明で用いられるブロックコポリマーを構成するポリマーブロック成分は、互いに混和しないものであれば、その種類に特に限定はない。したがって、本発明で用いられるブロックコポリマーは、極性がそれぞれ異なるポリマーブロック成分からなるものが好ましい。係るブロックコポリマーの具体例としては、ポリスチレン−ポリメチルメタクリレート(PS−b−PMMA)、ポリスチレン−ポリエチレンオキシド(PS−b−PEO)、ポリスチレン−ポリビニルピリジン(PS−b−PVP)、ポリスチレン−ポリフェロセニルジメチルシラン(PS−b−PFS)、ポリイソプレン−ポリエチレンオキシド(PI−b−PEO)、ポリブタジエン−ポリエチレンオキシド(PB−b−PEO)、ポリエチルエチレン−ポリエチレンオキシド(PEE−b−PEO)、ポリブタジエン−ポリビニルピリジン(PB−b−PVP)、ポリイソプレン−ポリメチルメタクリレート(PI−b−PMMA)、ポリスチレン−ポリアクリル酸(PS−b−PAA)、ポリブタジエン−ポリメチルメタクリレート(PB−b−PMMA)などが挙げられる。中でも、ポリマーブロック成分の極性の差が大きいほど導入する前駆体も極性の差が大きいものを用いることができるため、それぞれのポリマーブロック成分に前駆体を導入し易くなるという観点から、PS−b−PVP、PS−b−PEO、PS−b−PAAなどが好ましい。
【0035】
ブロックコポリマーおよびそれを構成する各ポリマーブロック成分の分子量は、製造するナノヘテロ構造イオン伝導体の構造スケール(球や柱などのサイズや間隔)や配置に応じて適宜選択すればよい。例えば、数平均分子量が100〜1000万(より好ましくは1000〜100万)であるブロックコポリマーを用いることが好ましく、数平均分子量が小さいほど構造スケールは小さくなる傾向にある。また、各ポリマーブロック成分の数平均分子量に関しては、各ポリマーブロック成分の分子量比などを調整することにより、後述するナノ相分離構造体の形成工程において自己組織化により得られるナノ相分離構造を所望の構造とすることができ、ひいては、無機成分を所望の形態で配列した構造をもつナノヘテロ構造を有するイオン伝導体が得られるようになる。また、後述する熱処理(焼成)または光照射により容易に分解されるブロックコポリマーや、溶媒により容易に除去されるブロックコポリマーを用いることが好ましい。
【0036】
本発明で用いられる酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体は、それぞれ前述した酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料を後述する変換処理によって形成できる無機前駆体であれば特に制限はない。具体的には、前記酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料を構成する金属または半金属の塩(例えば、炭酸塩、硝酸塩、リン酸塩、硫酸塩、酢酸塩、塩化物、有機酸塩(アクリル酸塩など))、前記金属または前記半金属を含む炭素数1〜4のアルコキシド(例えば、メトキシド、エトキシド、プロポキシド、ブトキシド)、前記金属または前記半金属の錯体(例えば、アセチルアセトナート錯体)、前記金属または前記半金属を含む有機金属化合物または有機半金属化合物(例えば、フェニル基、炭素数5以上の長鎖炭化水素鎖、シクロオクタテトラエン環、シクロペンタジエニル環、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも1種の構造を備えるもの)が好ましい。このような酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体は、目的とするナノヘテロ構造イオン伝導体を構成する酸素イオン伝導性材料と酸素イオン非伝導性材料との組み合わせに応じて、且つ、それらが前述の諸条件を満たすように1種または2種以上を適宜選択して使用される。
【0037】
本発明で用いられる溶媒としては、用いるブロックコポリマーと第一および第二無機前駆体とを溶解できるものであればよく、特に限定されないが、例えば、アセトン、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、クロロホルム、ベンゼンなどが挙げられる。このような溶媒は、1種を単独で用いてもよく、また2種以上を混合して用いてもよい。
【0038】
なお、本明細書において、「溶解」とは、物質(溶質)が溶媒に溶けて均一混合物(溶液)となる現象であって、溶解後、溶質の少なくとも一部がイオンとなる場合、溶質がイオンに解離せず分子状で存在している場合、分子やイオンが会合して存在している場合、などが含まれる。
【0039】
本発明においては、前記第一ポリマーブロック成分と前記酸素イオン伝導性材料前駆体および前記酸素イオン非伝導性材料前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分と前記前駆体のうちの他方である第二無機前駆体とをそれぞれ組み合わせて用い、さらには、前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第二無機前駆体とを組み合わせて用いることが好ましい。このような条件を満たす第一無機前駆体と第二無機前駆体とを組み合わせて用いることにより、後述するナノ相分離構造体を形成する工程において、第一ポリマーブロック成分中に第一無機前駆体が、第二ポリマーブロック成分中に第二無機前駆体がそれぞれ十分に導入された状態でブロックコポリマーの自己組織化と共にナノ相分離構造が構成され、前記無機前駆体は三次元的にナノスケールの周期性をもって配置される。
【0040】
本発明に用いる前記第一ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第一ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことが好ましい。また、前記第二ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第二ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことが好ましい。さらに、これらの両方の条件を満たすことがより好ましい。
【0041】
さらに、本発明において用いる前記第一無機前駆体は前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2超であることが好ましい。また、前記第二無機前駆体は前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2超であることが好ましい。さらに、これらの両方の条件を満たすことがより好ましい。
【0042】
このような条件を満たす第一無機前駆体と第二無機前駆体とを組み合わせて用いることにより、後述するナノ相分離構造体を形成する工程において、第一ポリマーブロック成分中に不純物として第二無機前駆体の一部が、また、第二ポリマーブロック成分中に不純物として第一無機前駆体の一部が導入されてしまうことがより確実に防止される傾向にあり、得られるナノヘテロ構造イオン伝導体におけるマトリックスを構成する無機成分の純度および/またはマトリックス中に配置される無機成分の純度がより向上する傾向にある。
【0043】
このような条件を満たす第一および第二ポリマーブロック成分と第一および第二無機前駆体との組み合わせとしては、第一ポリマーブロック成分がポリスチレン成分、ポリイソプレン成分およびポリブタジエン成分からなる群から選択される少なくとも1種の極性の小さいポリマーブロック成分であり、第二ポリマーブロック成分がポリメチルメタクリレート成分、ポリエチレンオキシド成分、ポリビニルピリジン成分およびポリアクリル酸成分からなる群から選択される少なくとも1種の極性の大きいポリマーブロック成分であり、第一無機前駆体が前記有機金属化合物および前記有機半金属化合物からなる群から選択される少なくとも1種の極性の小さい無機前駆体であり、第二無機前駆体が前記金属または前記半金属の塩、前記金属または前記半金属を含む炭素数1〜4のアルコキシド、ならびに前記金属または前記半金属のアセチルアセトナート錯体からなる群から選択される少なくとも1種の極性の大きい無機前駆体である組み合わせが好ましい。
【0044】
また、前記第一無機前駆体および前記第二無機前駆体のうちの少なくとも一方(より好ましくは両方)は、用いる溶媒との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下であることが好ましい。このような条件を満たす第一無機前駆体および/または第二無機前駆体を用いることにより、溶媒に無機前駆体がより確実に溶解し、後述するナノ相分離構造体を形成する工程においてポリマーブロック成分中に無機前駆体がより確実に導入される傾向にある。
【0045】
さらに、得られる原料溶液における溶質(ブロックコポリマー、第一無機前駆体および第二無機前駆体)の割合は特に限定されないが、原料溶液の全量を100質量%としたときに、溶質の合計量を0.1〜30質量%程度とすることが好ましく、0.5〜10質量%とすることがより好ましい。また、ブロックコポリマーに対する第一および第二無機前駆体の使用量を調整することにより、各ポリマーブロック成分に導入される各無機前駆体の量が調整されるため、得られるナノヘテロ構造イオン伝導体における酸素イオン伝導性材料と酸素イオン非伝導性材料との比率やこれらの構造スケール(球や柱などのサイズや間隔)などを所望の程度とすることができる。
【0046】
[第二の工程:ナノヘテロ構造イオン伝導体形成工程]
この工程は、以下に詳述する相分離処理と変換処理と除去処理とを含み、酸素イオン伝導性材料と酸素イオン非伝導性材料とからなるナノヘテロ構造イオン伝導体を調製する工程である。
【0047】
先ず、前記第一の工程において調製された原料溶液は、ブロックコポリマー、酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体を含むものであるが、本発明においては、前記第一ポリマーブロック成分と酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分と前記前駆体のうちの他方である第二無機前駆体とをそれぞれ組み合わせて用い、さらには、前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第一無機前駆体と、前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下である第二無機前駆体とを組み合わせて用いることが好ましい。これにより、第一無機前駆体および第二無機前駆体はそれぞれ第一ポリマーブロック成分中および第二ポリマーブロック成分中に十分に導入された状態で存在する。そのため、ブロックコポリマーの自己組織化によりナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理により、第一無機前駆体が導入された第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と第二無機前駆体が導入された第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相とが規則的に配置し、前記無機前駆体は三次元的にナノスケールの周期性をもって配置される。
【0048】
このような相分離処理としては、特に限定されないが、用いるブロックコポリマーのガラス転移点以上の温度で熱処理することにより、ブロックコポリマーは自己組織化され、相分離構造が得られる。
【0049】
次に、本発明においては、相分離処理により形成されたナノ相分離構造体に対して、前記酸素イオン伝導性材料前駆体および前記酸素イオン非伝導性材料前駆体をそれぞれ酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料に変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とが施される。係る変換処理により前記酸素イオン伝導性材料前駆体および前記酸素イオン非伝導性材料前駆体をそれぞれ酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料に変換せしめると共に、係る除去処理によりブロックコポリマーを除去することによって、ナノ相分離構造の種類(形状)に応じて酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に他方の無機成分が球状、柱状またはジャイロイド状といった形状で三次元的に特定のナノスケールの周期性をもって配置された本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体が得られる。
【0050】
このような変換処理としては、前記無機前駆体が前記無機成分に変換される温度以上で加熱して無機成分に変換する工程であってもよいし、前記無機前駆体を加水分解するとともに脱水縮合させて無機成分に変換する工程であってもよい。
【0051】
また、除去処理としては、ブロックコポリマーが分解する温度以上で熱処理(焼成)することによってブロックコポリマーを分解する工程であってもよいが、溶媒によりブロックコポリマーを溶解して除去する工程や、紫外線などの光照射によりブロックコポリマーを分解する工程であってもよい。
【0052】
さらに、本発明における前記第二の工程においては、前記第一の工程において調製された原料溶液に対してブロックコポリマーが分解する温度以上で熱処理(焼成)を施すことによって、前記相分離処理、前記変換処理および前記除去処理を一度の熱処理で行うことができる。このように一度の熱処理により前記相分離処理、前記変換処理および前記除去処理を完結させるためには、用いるブロックコポリマーや無機前駆体の種類によっても異なるが、300〜1200℃(より好ましくは400〜900℃)で0.1〜50時間程度の熱処理を施すことが好ましい。
【0053】
また、このような熱処理は、酸化ガス雰囲気(例えば、空気など)中で行なうことが好ましい。このように酸化ガス雰囲気中で前記酸素イオン伝導性材料前駆体および前記酸素イオン非伝導性材料前駆体を熱処理することによって、前記金属または前記半金属の酸化物からなる酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料に変換することができる。なお、このような酸化ガス雰囲気中での熱処理の条件は特に制限されないが、300〜1200℃(より好ましくは400〜900℃)で0.1〜50時間程度の処理が好ましい。
【0054】
本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体の製造方法においては、前記第一の工程の後に、前記原料溶液を熱処理容器に装入して前記第二の工程を施してもよいし、あるいは、前記原料溶液を基材の表面に塗布した後、前記第二の工程を施してもよい。後者の方法によれば、基材の表面に膜状のナノヘテロ構造イオン伝導体を直接形成することができる。用いる基材の種類に特に限定はなく、得られるナノヘテロ構造イオン伝導体の用途などに応じて適宜選択すればよい。また、原料溶液の塗布方法としては、ハケ塗り、スプレー法、ディッピング法、スピン法、カーテンフロー法などが用いられる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1)
ブロックコポリマーとしてポリスチレン−b−ポリ(4−ビニルピリジン)(PS−b−P4VP、PS成分の数平均分子量:40×10、P4VP成分の数平均分子量:18×10)0.1gと、酸素イオン伝導性材料前駆体であるYSZ前駆体(Y前駆体およびZr前駆体)としてアセチルアセトナートイットリウム(Y(acac))0.184gおよびアセチルアセトナートジルコニウム(Zr(acac))0.123gと、酸素イオン非伝導性材料前駆体であるSTO前駆体(Sr前駆体およびTi前駆体)としてステアリン酸ストロンチウム(Sr(C1735COO))0.301gおよびシクロペンタジエニルチタニウムクロリド(Ti(CPD)Cl)0.135gとを10mLのトルエンに溶解し、原料溶液を得た。
【0057】
次に、得られた原料溶液を熱処理容器に入れ、空気気流下、800℃で6時間熱処理することによって無機構造体(0.4cm×0.3cm×4cm)を得た。
【0058】
得られた無機構造体を透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したところ、図2に示すように、酸素イオン非伝導性材料であるSTO(チタン酸ストロンチウム)マトリックス中に酸素イオン伝導性材料である柱状のYSZ(イットリア安定化ジルコニア)が三次元的且つ周期的に配置しているナノヘテロ構造体であることが確認された。
【0059】
また、得られた無機構造体について小角X線回折測定装置(リガク社製、商品名:NANO−Viewer)を用いて小角X線回折パターンを測定したところ、周期構造の間隔(d)は19.4nmであり、柱状構造に特徴的な回折ピークパターン(ピーク位置の回折スペクトルの大きさ(q)の比)が確認された。
【0060】
さらに、得られた無機構造体の表面に白金電極を形成し、JIS R1661に準拠して交流4端子法により600℃で抵抗率を測定した。この抵抗率から酸素イオン伝導度(600℃)を求めたところ、0.26S/cmであった。
【0061】
(実施例2)
ブロックコポリマーとしてPS成分の数平均分子量が50×10であり、P4VP成分の数平均分子量が13×10であるPS−b−P4VPを0.1g使用し、酸素イオン伝導性材料前駆体としてCSZ前駆体(Ca前駆体およびZr前駆体)であるアセチルアセトナートカルシウム(Ca(acac))0.111gおよびアセチルアセトナートジルコニウム(Zr(acac))0.123gを使用し、酸素イオン非伝導性材料前駆体としてアルミナ前駆体であるアルミニウムフェノキサイド((PhO)Al)0.145gを使用した以外は、実施例1と同様にして無機構造体(0.4cm×0.3cm×4cm)を作製した。
【0062】
得られた無機構造体を実施例1と同様に透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて観察したところ、図3に示すように、酸素イオン非伝導性材料であるAlマトリックス中に酸素イオン伝導性材料である球状のCSZ(カルシア安定化ジルコニア)が三次元的且つ周期的に配置しているナノヘテロ構造体であることが確認された。
【0063】
また、得られた無機構造体について実施例1と同様に小角X線回折パターンを測定したところ、周期構造の間隔(d)は20.1nmであり、球状構造に特徴的な回折ピークパターン(ピーク位置の回折スペクトルの大きさ(q)の比)が確認された。
【0064】
さらに、得られた無機構造体の酸素イオン伝導度を実施例1と同様に600℃で測定したところ、0.18S/cmであった。
【0065】
(比較例1)
酸素イオン伝導性材料であるLa0.6Sr0.4CoO粉末と酸素イオン非伝導性材料であるLaSrCoO粉末との混合物(質量比=50:50)をディスク形状に成形し、空気気流下、1300℃で60時間焼成した。その後、この成形体の表面を研磨し、さらに、空気気流下、500℃で4時間焼成した。
【0066】
得られた成形体の酸素イオン伝導度を実施例1と同様に600℃で測定したところ、0.003S/cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0067】
以上説明したように、本発明によれば、酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に他方の無機成分が所定の形状で三次元的に所定のナノスケールで周期的に配置しているナノヘテロ構造を有するイオン伝導体を得ることが可能となる。
【0068】
そして、このような本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体は、従来の製造方法では実現することができなかった構造を有するものであり、酸素イオン伝導性材料と酸素イオン非伝導性材料との組み合わせについて、それらの配置、組成、構造スケールなどを様々に制御したナノヘテロ構造体として得ることが可能である。
【0069】
このようなナノヘテロ構造を有するイオン伝導体は、従来のナノ構造イオン伝導体以上の界面増大効果、ナノサイズ効果、耐久性などの飛躍的な向上が発揮され、結果として高い酸素イオン伝導性を有するものとなる。したがって、本発明のナノヘテロ構造イオン伝導体は、固体酸化物形燃料電池やガスセンサーの固体電解質、燃料電池の電極材などとして有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料のうちの一方の無機成分からなるマトリックス中に、酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料のうちの他方の無機成分が、球状、柱状およびジャイロイド状からなる群から選択される形状で、三次元的且つ周期的に配置しており、繰り返し構造の一単位の長さの平均値が1nm〜100nmである三次元的周期構造を有していることを特徴とするナノヘテロ構造イオン伝導体。
【請求項2】
前記酸素イオン伝導性材料が、トリウム系酸化物、ジルコニウム系酸化物、ビスマス系複合酸化物、セリウム系酸化物、ペロブスカイト型ランタン−コバルト系複合酸化物およびペロブスカイト型ランタン−ガリウム系複合酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の酸化物であり、
前記酸素イオン非伝導性材料が、ストロンチウム−チタン系複合酸化物、アルミニウム系酸化物およびKNiF型ランタン−コバルト系複合酸化物からなる群から選択される少なくとも1種の酸化物である、
ことを特徴とする請求項1に記載のナノヘテロ構造イオン伝導体。
【請求項3】
請求項1または2に記載のナノヘテロ構造イオン伝導体からなることを特徴とする固体酸化物形燃料電池用固体電解質。
【請求項4】
請求項1または2に記載のナノヘテロ構造イオン伝導体からなることを特徴とする燃料電池用電極材。
【請求項5】
請求項1または2に記載のナノヘテロ構造イオン伝導体からなることを特徴とするガスセンサー。
【請求項6】
互いに混和しない少なくとも第一ポリマーブロック成分と第二ポリマーブロック成分とが結合してなるブロックコポリマーと、酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体のうちの一方である第一無機前駆体と、酸素イオン伝導性材料前駆体および酸素イオン非伝導性材料前駆体のうちの他方である第二無機前駆体と、を溶媒に溶解して原料溶液を調製する第一の工程と、
少なくとも、前記第一無機前駆体が導入された前記第一ポリマーブロック成分からなる第一ポリマー相と、前記第二無機前駆体が導入された前記第二ポリマーブロック成分からなる第二ポリマー相と、が自己組織化により規則的に配置したナノ相分離構造体を形成せしめる相分離処理と、前記酸素イオン伝導性材料前駆体および前記酸素イオン非伝導性材料前駆体をそれぞれ酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料に変換せしめる変換処理と、前記ナノ相分離構造体から前記ブロックコポリマーを除去する除去処理とを含み、前記酸素イオン伝導性材料と前記酸素イオン非伝導性材料とからなるナノヘテロ構造イオン伝導体を得る第二の工程と、
を含むことを特徴とするナノヘテロ構造イオン伝導体の製造方法。
【請求項7】
前記第一無機前駆体と前記第一ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下であり、前記第二無機前駆体と前記第二ポリマーブロック成分との溶解度パラメータの差が2(cal/cm1/2以下であることを特徴とする請求項6に記載のナノヘテロ構造イオン伝導体の製造方法。
【請求項8】
前記第一ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第一ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことを特徴とする請求項6または7に記載のナノヘテロ構造イオン伝導体の製造方法。
【請求項9】
前記第二ポリマーブロック成分と前記第二無機前駆体との溶解度パラメータの差は、前記第二ポリマーブロック成分と前記第一無機前駆体との溶解度パラメータの差よりも小さいことを特徴とする請求項6〜8のうちのいずれか一項に記載のナノヘテロ構造イオン伝導体の製造方法。
【請求項10】
前記第二の工程における変換処理が、酸化ガス雰囲気中で前記酸素イオン伝導性材料前駆体および前記酸素イオン非伝導性材料前駆体を熱処理することによって、それぞれ酸化物からなる酸素イオン伝導性材料および酸素イオン非伝導性材料に変換せしめるものであることを特徴とする請求項6〜9のうちのいずれか一項に記載のナノヘテロ構造イオン伝導体の製造方法。
【請求項11】
前記ブロックコポリマーが、ポリスチレン成分、ポリイソプレン成分およびポリブタジエン成分からなる群から選択される少なくとも1種の第一ポリマーブロック成分と、ポリメチルメタクリレート成分、ポリエチレンオキシド成分、ポリビニルピリジン成分およびポリアクリル酸成分からなる群から選択される少なくとも1種の第二ポリマーブロック成分とが結合してなるものであり、
前記第一無機前駆体が、フェニル基、炭素数5以上の長鎖炭化水素鎖、シクロオクタテトラエン環、シクロペンタジエニル環、およびアミノ基からなる群から選択される少なくとも1つの構造を備える、有機金属化合物および有機半金属化合物のうちの少なくとも1種であり、
前記第二無機前駆体が、金属または半金属の塩、金属または半金属を含む炭素数1〜4のアルコキシド、および金属または半金属のアセチルアセトナート錯体からなる群から選択される少なくとも1種である、
ことを特徴とする請求項6〜10のうちのいずれか一項に記載のナノヘテロ構造イオン伝導体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−65438(P2013−65438A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−202939(P2011−202939)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】