説明

ナノワイヤ太陽電池及びその製造方法

【課題】実用的な電力を得ることができると共に、励起子を有効に回収することができる太陽電池及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ナノワイヤ太陽電池1は、半導体基板2と、pn接合を構成する複数のナノワイヤ状の半導体4,5と、半導体4,5の間隙に充填された透明絶縁性材料6と、半導体4,5の端部を被覆する電極7と、半導体5と透明絶縁性材料6及び電極7との間に設けられたパッシベーション層10とを備える。ナノワイヤ太陽電池1は、半導体基板2の表面の一部を非晶質膜3で被覆し、非晶質膜3から露出している半導体基板2の表面に複数のナノワイヤ状の半導体4,5を形成し、半導体5の表面にパッシベーション層10を形成し、半導体4,5の間隙に透明絶縁性材料6を充填し、半導体4,5の端部を被覆する電極7を形成することにより製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノワイヤ状の半導体を備えるナノワイヤ太陽電池及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、太陽電池としては、基板面に平行な平面状のpn接合面を備えるものが知られている。近年、前記従来一般的であった太陽電池に対して、ナノワイヤ、ナノロッド等と呼ばれるナノオーダーの径を備える微細な線状の半導体を備える太陽電池(以下、ナノワイヤ太陽電池と記載する)が知られている。
【0003】
また、前記ナノワイヤ太陽電池において、pn接合面に凹凸を設けることにより光電変換効率を向上させる技術が提案されている。前記pn接合面に凹凸を設けたナノワイヤ太陽電池によれば、該pn接合面の面積が受光面積よりも大きくなるため、再結合で失われるキャリア等を低減する効果が得られ、光電変換効率が向上するとされている。
【0004】
例えば、金の微粒子を触媒として、p型Si半導体をナノワイヤ状に成長させた後、該p−型Si半導体上に、その形状に沿ってi型Si半導体層及びn型Si半導体層を形成したナノワイヤ太陽電池が提案されている(例えば非特許文献1,2参照)。
【0005】
前記非特許文献1,2記載のナノワイヤ太陽電池は、p型Si半導体のナノワイヤをコアとして、その上にシェルとしてのi型Si半導体層及びn型Si半導体層が積層されたコアシェル構造を備えており、受光面積よりも大きなpn接合面を備えている。しかし、前記ナノワイヤ太陽電池は、形成される前記ナノワイヤが1本だけに過ぎないので、実用的な電力を得る装置を製造することができないという問題がある。
【0006】
また、前記ナノワイヤ太陽電池は、前記ナノワイヤの成長に金等の触媒を用いるため、成長中に触媒金属元素が不純物として該ナノワイヤ中に取り込まれる虞がある。取り込まれた触媒金属元素は、前記半導体としての前記ナノワイヤ内で深い準位を形成し、非発光性の再結合を促すために、前記ナノワイヤ太陽電池の光電変換効率を悪化させる。
【0007】
さらに、前記ナノワイヤ太陽電池は、シェルとしてのi型Si半導体層及びn型Si半導体層を形成するときに、エピタキシャル成長できるまで温度を上げることができないために、i型Si半導体層及びn型Si半導体層が多結晶化するという問題がある。前記問題は、エピタキシャル成長する温度までに加熱すると、コアとしてのp型Si半導体層のナノワイヤ中に前記触媒金属が完全に取り込まれてしまうことによるものである。前記低温で成長させる結果として、前記シェルとしてのi型Si半導体層及びn型Si半導体層は結晶粒界を含む構造となり、該結晶粒界に存在する多数のダングリングボンドが励起子の再結合を促すため、十分な光電変換効率を得ることができない。
【0008】
また、p型Si半導体をナノワイヤ状に成長させた後、該p−型Si半導体上に、その形状に沿ってn型Si半導体層を形成したナノワイヤ太陽電池が提案されている(例えば特許文献1参照)。前記太陽電池では、縮退ドープド多結晶質シリコン膜で被覆したガラス基板上に、ナノポーラス酸化アルミニウムからなる多孔質テンプレート層を設け、該多孔質テンプレート層から前記p−型Si半導体を成長させている。
【0009】
前記特許文献1記載のナノワイヤ太陽電池は、p型Si半導体のナノワイヤをコアとして、その上にシェルとしてのn型Si半導体層が積層されたコアシェル構造を備えており、受光面積よりも大きなpn接合面を備えている。しかし、前記ナノワイヤ太陽電池は、前記テンプレート層の細孔を利用して前記p型Si半導体のナノワイヤを形成してから下部接点を形成するため、該下部接点は金属または透明電極に限定され、単結晶半導体材料を用いることができない。
【0010】
また、前記p型Si半導体のナノワイヤは、金属触媒を用いるVLS法により形成されるものであり、金属触媒がナノワイヤの両端に残っているために、半導体を接合して下部接点とすることができない。この場合、VLS成長後に金属触媒をエッチングで除去したり、電気化学的堆積法でナノワイヤを形成することなどによって、触媒金属を残さないナノワイヤを形成することはできる。しかし、前記ナノワイヤ太陽電池では、その後のエピタキシャル成長によって面状の単結晶半導体からなる下部接点を形成することはできない。
【0011】
さらに、前記ナノワイヤ太陽電池では、前記多孔質テンプレート層が基板上に位置していて、基板が下部接点を提供することは記載されているが、エピタキシャル成長の必要性については記載されていない。前記VLS法によれば、基板/ナノワイヤ界面に金属材料が残るという問題がある。また、前記電気化学的堆積法等によれば、基板/ナノワイヤ界面に金属材料は残らないが、基板とナノワイヤとが方位を維持したまま結晶として連続する保証はない。
【0012】
また、ステンレス鋼からなる金属箔基板の上にTaN層を備え、該TaN層上にp型Si半導体のナノワイヤと、該p−型Si半導体上に、その形状に沿ってn型Si半導体層を形成したナノワイヤ太陽電池が提案されている(例えば非特許文献3参照)。前記p型Si半導体のナノワイヤは、前記TaN層上に金属触媒を用いるVLS法により形成されるものである。しかし、前記VLS法によれば、前述のように金属触媒がナノワイヤの両端に残っているという問題がある。
【0013】
さらに、上述の太陽電池では、いずれも実用的な電力を得ることができず、例えば前記非特許文献3記載の太陽電池の場合、Vocが0.13V、Iscが3mA/cm、FFが0.28、ηが0.06%に過ぎないという不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開2008−53730号公報
【非特許文献】
【0015】
【非特許文献1】B.Tian, X.Zheng, T.J.Kempa, Y.Fang, N.Yu, G.Yu, J.Huang and C.M.Lieber, "CoaXial Silicon nanowaires as solar cells and nanoelectronic power sources", Nature 449, 885-890 (2007)
【非特許文献2】G.Zheng, W.Lu, S.Jin and C.M.Lieber, "Synthesis and Fabrication of High-Performance n-Type Silicon Nanowire Transistors", Adv.Mater. 16, 1890-1893 (2004)
【非特許文献3】L.Tsakalakos, J.Balch, J.Fronheiser, B.A.KoreVaar, O.Sulima and J.Rand, "Silicon nanowire solar cells", APPLIED PHYSICS LETTERS 91, 233117 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、かかる不都合を解消して、多数のナノワイヤ状の半導体をアレイ状に配置した装置を構成することができ、実用的な電力を得ることができると共に、励起子を有効に回収することができる太陽電池及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
かかる目的を達成するために、本発明は、半導体基板と、該半導体基板上に成長されpn接合を構成する複数のナノワイヤ状の半導体とを備えるナノワイヤ太陽電池であって、該複数のナノワイヤ状の半導体の間隙に充填された透明絶縁性材料と、該透明絶縁性材料に連接して該複数のナノワイヤ状の半導体の該半導体基板と反対側の端部を被覆すると共に該複数のナノワイヤ状の半導体に接続された電極と、該複数のナノワイヤ状の半導体の表面に沿って該複数のナノワイヤ状の半導体と該透明絶縁性材料及び該電極との間に設けられ電子の再結合を防止するパッシベーション層とを備えることを特徴とする。
【0018】
前記構成を備える本発明のナノワイヤ太陽電池によれば、前記透明絶縁性材料を備えることにより、前記ナノワイヤ状の半導体と、該ナノワイヤ状の半導体に接続される電極との接触界面の面積を減らすことができるので、光起電力によって生じた電流経路上の欠陥の数を低減することができる。この結果、界面の欠陥に起因した再結合サイトを容易に飽和させて光電変換効率を向上させることができ、実用的な電力を得ることができる。
【0019】
また、本発明のナノワイヤ太陽電池は、さらに、前記ナノワイヤ状の半導体の表面に沿って、電子の再結合を防止するパッシベーション層を備えるので、該ナノワイヤ状の半導体の表面側に引き寄せられた電子の表面再結合を防止して、励起子を有効に回収することができる。
【0020】
また、本発明のナノワイヤ太陽電池は、前記半導体基板と前記ナノワイヤ状の半導体とが単一の単結晶からなることが好ましい。前記半導体基板と前記ナノワイヤ状の半導体とが単一の単結晶からなることにより、触媒金属による汚染、ナノワイヤ状の半導体内部の結晶粒界等の欠陥、該半導体基板と該ナノワイヤ状の半導体との界面の欠陥等を排除することができる。従って、前記半導体基板と前記ナノワイヤ状の半導体とが単一の単結晶からなる本発明のナノワイヤ太陽電池によれば、単位面積当たりの電気抵抗を低下させて光電変換効率をさらに向上させることができる。
【0021】
本発明のナノワイヤ太陽電池は、半導体基板の表面の一部を非晶質膜で被覆する工程と、該非晶質膜から露出している該半導体基板の表面に、該半導体基板と同一材料からなる結晶をエピタキシャル成長させて複数のナノワイヤ状の半導体を形成する工程と、該複数のナノワイヤ状の半導体の表面に、該ナノワイヤ状の半導体とタイプ1のヘテロ接合を形成する結晶をエピタキシャル成長させて励起子の再結合を防止するパッシベーション層を形成する工程と、該複数のナノワイヤ状の半導体の間隙に透明絶縁性材料を充填する工程と、該透明絶縁性材料に連接して該複数のナノワイヤ状の半導体の該半導体基板と反対側の端部を被覆すると共に該複数のナノワイヤ状の半導体に接続された電極を形成する工程とを備える製造方法により有利に製造することができる。
【0022】
前記製造方法では、前記非晶質膜に対してリソグラフやナノインプリントの手法を用いることにより、半導体基板を露出させる部分を自由に制御することができる。また、前記ナノワイヤ状の半導体の成長方向と基板の方位を適切に選ぶことにより、半導体基板切出しの誤差を除き、該半導体基板に完全に垂直なナノワイヤ状の半導体を得ることができる。さらに、前記製造方法では、エピタキシャル成長の成長条件を途中で変更することにより、前記ナノワイヤ状の半導体を横方向にもエピタキシャルに成長させることができる。
【0023】
従って、前記製造方法によれば、多数のナノワイヤ状の半導体を高密度のアレイ状に配置した装置を構成することができ、光吸収効率を向上することができる。
【0024】
また、前記製造方法では、前記複数のナノワイヤ状の半導体を透明絶縁性材料に埋設した後、該透明絶縁性材料の一部を除去して該複数のナノワイヤ状の半導体の先端を露出させることにより、該複数のナノワイヤ状の半導体の間隙に該透明絶縁性材料を充填する工程を備えることが好ましい。前記製造方法によれば、前記工程により、前記複数のナノワイヤ状の半導体の間隙に前記透明絶縁性材料を容易に充填することができる。
【0025】
さらに、前記製造方法では、前記パッシベーション層を形成した後、該パッシベーション層の表面に該パッシベーション層を大気から遮断する保護被覆層を形成する工程を備えることが好ましい。前記製造方法では、前記保護層を形成することにより、製造工程中において前記パッシベーション層が大気と接触して酸化されることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明のナノワイヤ太陽電池の一構成例の構造を示す説明的断面図。
【図2】本発明のナノワイヤ太陽電池における電圧と電流密度との関係(I−V曲線)を示すグラフ。
【図3】本発明のナノワイヤ太陽電池における外部量子効率と照射光の波長との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0027】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。
【0028】
まず、図1を参照して本実施形態のナノワイヤ太陽電池1について説明する。ナノワイヤ太陽電池1は、InP(111)A基板2上に形成された非晶質SiO被膜3と、非晶質SiO被膜3から露出するInP(111)A基板2上に形成された形成されたナノワイヤ状のp型InP半導体4とを備える。ナノワイヤ状のp型InP半導体4は、その表面形状に沿ってn型InP半導体5を備え、p型InP半導体4とn型InP半導体5との間には、図示しないi型InP半導体を備えている。ここで、ナノワイヤ太陽電池1は、p型InP半導体4をコアとし、前記i型InP半導体及びn型InP半導体5をシェルとするコアシェル構造を備えている。
【0029】
ナノワイヤ太陽電池1は、複数のナノワイヤ状のp型InP半導体4、前記i型InP半導体及びn型InP半導体5の間隙に充填された透明絶縁性材料6を備えると共に、透明絶縁性材料6上に連接する透明電極7を備えている。透明電極7は、ナノワイヤ状のp型InP半導体4、前記i型InP半導体及びn型InP半導体5のInP(111)A基板2と反対側の端部を被覆すると共に、p型InP半導体4、前記i型InP半導体及びn型InP半導体5に接続されている。
【0030】
透明絶縁性材料6としては、例えば、BCB樹脂(bis-benzocyclobutene、ダウ・ケミカル社製)からなるものを挙げることができる。また、透明電極7としては、例えば、インジウム−錫酸化物(ITO)等からなるものを挙げることができる。
【0031】
また、ナノワイヤ太陽電池1は、透明電極7上に形成された集電極8と、InP(111)A基板2の非晶質SiO被膜3と反対側の面に設けられた裏面電極9とを備えている。集電極8としては、例えば、AgとNiとを順に蒸着してなるもの挙げることができる。また、裏面電極9としては、例えば、AuZn合金を蒸着してなるもの挙げることができる。
【0032】
そして、ナノワイヤ太陽電池1は、ナノワイヤ状のp型InP半導体4、前記i型InP半導体及びn型InP半導体5の表面に沿って、n型InP半導体5と、透明絶縁性材料6及び透明電極7との間にパッシベーション層10を備えている。パッシベーション層10としては、p型InP半導体4とn型InP半導体5とのpn接合よりもバンドギャップが大きく、InPに対してタイプ1のヘテロ接合を形成する材料を用いることができる。前記タイプ1のヘテロ接合を形成する材料として、本実施形態では、AlPまたはAlInPを用いることができる。また、半導体4,5がGaASである場合には、前記タイプ1のヘテロ接合を形成する材料として、AlP、AlInP、AlAsまたはAlGaASを用いることができる。
【0033】
パッシベーション層10は、その表面に保護被覆層として図示しない表面キャップ層を備えている。表面キャップ層としては、n型InP半導体を用いることができ、製造工程中にパッシベーション層10が大気と接触することによるAlの酸化を防止することができる。
【0034】
尚、材料A,Bからなるヘテロ接合において、材料Aの真空準位に対する仕事関数をqχ、バンドギャップエネルギをEgとし、材料Bの真空準位に対する仕事関数をqχ、バンドギャップエネルギをEgとすると、伝導帯の高さC及び価電子帯の高さVは次式で示される。
【0035】
C=qχ−qχ
V=(Eg−qχ)−(Eg−qχ
このとき、C×V<0となるものを前記タイプ1のヘテロ接合という。
【0036】
次に、図1に示すナノワイヤ太陽電池1の製造方法について説明する。
【0037】
まず、p型の半導体基板であるInP(111)A基板2を洗浄し、SiOターゲットを備えたRFスパッタ装置を用いて、InP(111)A基板2表面に非晶質SiO被膜3を約30nmの厚さに成膜する。
【0038】
次に、非晶質SiO被膜3上にポジレジストを塗布し、EB描画装置にInP(111)A基板2をセットし、該ポジレジストにパターンを描画する。前記パターンは、例えば、直径100nmの円形孔を400nmピッチで三角格子状に配列させたものとする。
【0039】
前記描画後、レジストを現像して、50倍に希釈したBHF溶液にInP(111)A基板2を浸漬し、円形孔のSiOをエッチング除去する。そして、前記エッチング後、前記レジストを除去する。
【0040】
次に、非晶質SiO被膜3が形成されたInP(111)A基板2をMOVPE装置にセットし、チャンバーを真空排気した後にHガスに置換し、全圧が0.1atmで安定するように流量と排気速度とを調整する。
【0041】
次に、TBP(tertialybutylphospline)とキャリアガス(H)との混合ガス(全圧:0.1atm、TBP分圧:1.1×10−4atm)を流しながら、基板温度が630℃になるまで昇温する。そして、基板温度が630℃に達した後、流通ガスをTMI(trimetylindium)とDEZ(dietylzinc)とTBPとキャリアガスとの混合ガスに切替え、該混合ガスを反応室に導入して、p型InP半導体4をナノワイヤ状にエピタキシャル成長させる。全圧は0.1atmのままとし、TMIの分圧が3×10−6atm、DEZの分圧が1×10−6atm、TBPの分圧が5.5×10−5atmになるように各有機金属ガスの流量を調整する。10分後に流通ガスをTBPとキャリアガスとの混合ガス(全圧:0.1atm、TBP分圧:1.1×10−4atm)に切替え、p型InP半導体4のエピタキシャル成長を終了する。
【0042】
次に、TBPとキャリアガスとの混合ガスを流通したまま、基板温度を630℃から550℃にまで低下させる。基板温度が550℃に到達した後、流通ガスをTMIとTBPとSiHとキャリアガスとの混合ガスに切替え、該混合ガスを反応室に10分間導入して、p型InP半導体4の表面に、n型InP半導体5をエピタキシャル成長させる。全圧は0.1atmのままとし、TMIの分圧が3×10−6atm、SiHの分圧が1×10−6atm、TBPの分圧が1.1×10−4atmになるように各有機金属ガスの流量を調整する。10分後に流通ガスをTBPとキャリアガスとの混合ガス(全圧:0.1atm、TBP分圧:1.1×10−4atm)に切替え、n型InP半導体5のエピタキシャル成長を終了する。
【0043】
次に、基板温度を550℃に保持したまま、流通ガスをTMA(trimethylaluminum)とTMIとTBPとSiHとキャリアガスとの混合ガスに切替える。そして、前記混合ガスを反応室に2分間導入して、n型InP半導体5の表面に、n型AlInPパッシベーション層10をエピタキシャル成長させる。全圧は0.1atmのままとし、TMAの分圧が3.3×10−7atm、TMIの分圧が3×10−6atm、SiHの分圧が1×10−6atm、TBPの分圧が1.1×10−4atmになるように各有機金属ガスの流量を調整する。2分後に流通ガスをTBPとキャリアガスとの混合ガス(全圧:0.1atm、TBP分圧:1×10−4atm)に切替え、n型AlInPパッシベーション層10のエピタキシャル成長を終了する。
【0044】
次に、流通ガスをTMIとTBPとSiHとキャリアガスとの混合ガスに切替え、該混合ガスを反応室に1分間導入して、n型AlInPパッシベーション層10の表面に、n型InP表面キャップ層(図示せず)をエピタキシャル成長させる。全圧は0.1atmのままとし、TMIの分圧が3×10−6atm、SiHの分圧が1×10−6atm、TBPの分圧が1.1×10−4atmになるように各有機金属ガスの流量を調整する。1分後に流通ガスをTBPとキャリアガスとの混合ガス(全圧:0.1atm、TBP分圧:1×10−4atm)に切替え、n型InP表面キャップ層のエピタキシャル成長を終了する。
【0045】
n型InP表面キャップ層を形成することにより、製造工程中において、n型AlInPパッシベーション層10を大気から遮断して、n型AlInPパッシベーション層10中のAlが大気により酸化されることを防止することができる。
【0046】
n型InP表面キャップ層のエピタキシャル成長終了後、TBPとキャリアガスとの混合ガス(全圧:0.1atm、TBP分圧:1.1×10−4atm)を流通しながら冷却し、InP(111)A基板2を取り出す。
【0047】
このようにすることにより、p型InP半導体4をコアとし、n型InP半導体5をシェルとするコアシェル構造を備えるナノワイヤー状の半導体が得られる。尚、p型InP半導体4、n型InP半導体5をエピタキシャル成長させると、円柱状ではなく六角柱になることがある。この場合、前記ナノワイヤー状の半導体の直径は、断面の六角形に対する内接円の直径とする。
【0048】
次に、p型InP半導体4、n型InP半導体5をナノワイヤ状にエピタキシャル成長させたInP(111)A基板2のp型InP半導体4、n型InP半導体5側に、BCB樹脂(ダウ・ケミカル社製)をスピンコートによって塗布する。次に、不活性ガス雰囲気下、250℃の温度に1時間保持するアニール処理を施して、BCB樹脂を硬化させ、硬化したBCB樹脂からなる透明絶縁材料6を形成する。
【0049】
次に、CFとOとの混合ガスを用いたRIE処理によって、過剰に塗布されたBCB樹脂をエッチングし、前記ナノワイヤ状の半導体4,5の先端を150nmだけ露出させる。次に、ITOターゲットを備えたRFスパッタ装置を用いて、透明絶縁材料6上にITOからなる透明電極7を製膜する。透明電極7は、透明絶縁材料6に連接すると共に、前記ナノワイヤ状の半導体4,5を被覆して、半導体4,5に接続されている。
【0050】
次に、InP(111)A基板2の非晶質SiO被膜3と反対側の面にAuZn合金を蒸着し、400℃の温度に2分間保持するアニール処理を施して、裏面電極9を形成する。そして、ITOからなる透明電極7の表面の一部に、AgとNiとを順に蒸着し、集電極8を形成することにより、ナノワイヤ太陽電池1を得る。
【0051】
次に、p型InP半導体4をコアとし、n型InP半導体5をシェルとするコアシェル構造を備えるナノワイヤー状の半導体を、高さ1000nm、直径250nmとしたナノワイヤ太陽電池1(実施例)の性能を評価した。性能の評価は、前記ナノワイヤ太陽電池1に対して、AM1.5に相当する疑似太陽光を照射し、そのI−V曲線を得ることにより行った。前記ナノワイヤ太陽電池1の性能を表1に、前記I−V曲線を図2に示す。
【0052】
また、光照射によって生じた電子(励起子)の回収程度を示す指標として、照射光の光子数と出力された電子数の比で示される外部量子効率と照射光の波長との関係を測定した。結果を図3に示す。
【0053】
次に、パッシベーション層10及び前記表面キャップ層を全く形成しなかった以外は、本実施形態と全く同一にして形成したナノワイヤ太陽電池(比較例)の性能を、ナノワイヤ太陽電池1(実施例)と全く同一にして評価した。前記比較例のナノワイヤ太陽電池の性能を表1に、前記I−V曲線を図2に示す。
【0054】
また、前記比較例のナノワイヤ太陽電池について、外部量子効率と照射光の波長との関係を測定した。結果を図3に示す。
【0055】
【表1】

【0056】
表1及び図2から、パッシベーション層10を備える本実施形態のナノワイヤ太陽電池1によれば、パッシベーション層10を備えない比較例のナノワイヤ太陽電池に比較して、変換効率を2倍以上改善でき、実用的な電力を得ることができることが明らかである。
【0057】
また、図3から、パッシベーション層10を備える本実施形態のナノワイヤ太陽電池1によれば、パッシベーション層10を備えない比較例のナノワイヤ太陽電池に比較して、外部量子効率が2倍以上となっており、光励起された電子(励起子)を効率よく回収できることが明らかである。
【0058】
尚、本実施形態では、InP(111)A基板2上に前記ナノワイヤ状の半導体4,5を成長させ、透明絶縁性材料6上にITOからなる透明電極7を製膜するようにしている。しかし、本実施形態のInP(111)A基板2に代えて、n型InGaPあるいはp型InGaP等の透明電極を基板として、該基板上に前記ナノワイヤ状の半導体4,5を成長させるようにしてもよい。この場合には、透明絶縁性材料6上には、ITOからなる透明電極7に代えて、金属電極をスパッタ等により製膜する。このようにするときには、前記透明電極からなる基板側から受光する太陽電池とすることができる。
【0059】
また、p型InGaP等の透明電極を基板として、該基板上に前記ナノワイヤ状の半導体4,5を成長させる場合、透明絶縁性材料6上には、本実施形態と同様にITOからなる透明電極7を成膜してもよい。
【符号の説明】
【0060】
1,11…ナノワイヤ太陽電池、 2…InP(111)A基板、 3…非晶質SiO被膜、 4…p型InP半導体、 5…n型InP半導体、 6…透明絶縁性材料、 10…パッシベーション層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、該半導体基板上に成長されpn接合を構成する複数のナノワイヤ状の半導体とを備えるナノワイヤ太陽電池であって、
該複数のナノワイヤ状の半導体の間隙に充填された透明絶縁性材料と、
該透明絶縁性材料に連接して該複数のナノワイヤ状の半導体の該半導体基板と反対側の端部を被覆すると共に該複数のナノワイヤ状の半導体に接続された電極と、
該複数のナノワイヤ状の半導体の表面に沿って該複数のナノワイヤ状の半導体と該透明絶縁性材料及び該電極との間に設けられ電子の再結合を防止するパッシベーション層とを備えることを特徴とするナノワイヤ太陽電池。
【請求項2】
請求項1記載のナノワイヤ太陽電池において、前記半導体基板と前記ナノワイヤ状の半導体とが単一の単結晶からなることを特徴とするナノワイヤ太陽電池。
【請求項3】
半導体基板の表面の一部を非晶質膜で被覆する工程と、
該非晶質膜から露出している該半導体基板の表面に、該半導体基板と同一材料からなる結晶をエピタキシャル成長させて複数のナノワイヤ状の半導体を形成する工程と、
該複数のナノワイヤ状の半導体の表面に、該ナノワイヤ状の半導体とタイプ1のヘテロ接合を形成する結晶をエピタキシャル成長させて励起子の再結合を防止するパッシベーション層を形成する工程と、
該複数のナノワイヤ状の半導体の間隙に透明絶縁性材料を充填する工程と、
該透明絶縁性材料に連接して該複数のナノワイヤ状の半導体の該半導体基板と反対側の端部を被覆すると共に該複数のナノワイヤ状の半導体に接続された電極を形成する工程とを備えることを特徴とするナノワイヤ太陽電池の製造方法。
【請求項4】
請求項3記載のナノワイヤ太陽電池の製造方法において、前記複数のナノワイヤ状の半導体を透明絶縁性材料に埋設した後、該透明絶縁性材料の一部を除去して該複数のナノワイヤ状の半導体の先端を露出させることにより、該複数のナノワイヤ状の半導体の間隙に該透明絶縁性材料を充填する工程を備えることを特徴とするナノワイヤ太陽電池の製造方法。
【請求項5】
請求項3または請求項4記載のナノワイヤ太陽電池の製造方法において、前記パッシベーション層を形成した後、該パッシベーション層の表面に該パッシベーション層を大気から遮断する保護被覆層を形成する工程を備えることを特徴とするナノワイヤ太陽電池の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−138804(P2011−138804A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−295806(P2009−295806)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】