説明

ナノワイヤ構造体およびその製造方法

【課題】ターンオン電界の低減、電流密度の向上、電子放出の均一化を達成できるナノワイヤ構造体およびその製造方法を提供する。
【解決手段】酸化ガリウム単結晶基板上に、NiまたはPtからなる触媒層を形成し、前記触媒層上でトリメチルガリウムおよびアンモニアをCVD法により850〜1000℃の温度範囲で反応させ、径が5nm〜200nm、長さが5μm〜50μmのワイヤ状の形態をした窒化ガリウムナノワイヤを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノワイヤ構造体およびその製造方法に関するものであり、詳しくは、ターンオン電界の低減、電流密度の向上、電子放出の均一化を達成したナノワイヤ構造体およびその製造方法に関するものである。本発明のナノワイヤ構造体は、次世代平面ディスプレイとして開発が進められているフィールドエミッションディスプレイ(FED)用の電子源等にとくに有用である。
【背景技術】
【0002】
従来、FEDは金属やシリコンを微細加工技術により円錐状に先鋭化した素子を電子源として用いていたが、製造コストや大画面化で問題があった。最近になって、カーボンナノチューブ(CNT)がFEDの電子源として優れた特性を有することが確認され、CNTを電子源とするFEDも試作されるようになった。CNTを用いた電界放出電子源は、通常の熱電子源に比べ、加熱の必要がなく省エネ、高い電流密度、放出電子のエネルギー幅が狭いなど、高輝度の焦束電子の発生を揃えており、FEDのみならず真空マイクロエレクトロニクスの重要な電子源としての応用も図られている。しかしながら、CNTは寿命、耐久性に問題があり、長時間の使用できない欠点があった。
【0003】
一方、金属、シリコン、CNT以外の電子源として窒化ガリウム(GaN)も検討されている(例えば非特許文献1参照)。GaNのナノワイヤから電子放出も確認されているが、非特許文献1に記載された技術の場合、GaNナノワイヤはSi基板上に作製されているため、放出した電子を蛍光体に照射したときなど発生する光を基板側から取り出せない。また、導電性基板として使うには抵抗も高いという問題もあった。これに対し、サファイアや石英などの透明な基板上にGaNナノワイヤを作製させることもできるが、この場合、基板は絶縁体であり、透明電極が必要になり、プロセスコストがかかるといった問題点があった。
【非特許文献1】Y.Inoue et al, phys. Stat. Sol. (c)4 (2007) 2366-2370.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、金属、シリコン、カーボン系材料にかわる電子源として電子親和力が比較的小さく、化学的および機械的に安定であることから電界電子放出材料として適し、ターンオン電界の低減、電流密度の向上、電子放出の均一化を達成できるナノワイヤ構造体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、以下のとおりである。
1.酸化ガリウム単結晶基板上に、径が5nm〜200nm、長さが5μm〜50μmのワイヤ状の形態をした窒化ガリウムナノワイヤを形成してなるナノワイヤ構造体。
2.前記窒化ガリウムナノワイヤを形成する前記酸化ガリウム単結晶基板の結晶方位が、(100)面であることを特徴とする前記1に記載のナノワイヤ構造体。
3.電圧印加によりターンオン電界強度が3〜4V/μmの電子放出特性を有するエミッタに用いられることを特徴とする前記1または2に記載のナノワイヤ構造体。
4.電圧印加により前記窒化ガリウムナノワイヤ全体から均一に電界放射することを特徴とする前記1〜3のいずれかに記載のナノワイヤ構造体。
5.酸化ガリウム単結晶基板上に、NiまたはPtからなる触媒層を形成し、前記触媒層上でトリメチルガリウムおよびアンモニアをCVD法により850〜1000℃の温度範囲で反応させ、径が5nm〜200nm、長さが5μm〜50μmのワイヤ状の形態をした窒化ガリウムナノワイヤを形成することを特徴とするナノワイヤ構造体の製造方法。
6.前記触媒層の厚さが2nm〜5nmであることを特徴とする前記5に記載のナノワイヤ構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、酸化ガリウム単結晶基板上に径が5nm〜200nm、長さが5μm〜50μmのワイヤ状の形態をした窒化ガリウムナノワイヤを形成することで、金属、シリコン、カーボン系材料にかわる電子源として電子親和力が比較的小さく、化学的および機械的に安定であることから電界電子放出材料として適し、ターンオン電界の低減、電流密度の向上、電子放出の均一化を達成したナノワイヤ構造体およびその製造方法を提供することができる。
とくに、本発明のナノワイヤ構造体は、非特許文献1におけるSi基板を用いた場合に比べ、ターンオン電界強度を低減させることができた。これは、電界電子放出特性の向上に効果があるだけでなく、GaNナノワイヤをデバイス化する際、酸化ガリウムは透明導電性基板であるため、電極作製などの製造プロセス、および発光効率の観点からも効果があると考えられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0008】
(酸化ガリウム単結晶基板)
本発明の発光素子における基板は、酸化ガリウム(β−Ga23)単結晶を用いる。β−Ga23単結晶は、フローティングゾーン(FZ法)や引上げ(CZ法)などで作製されるが、るつぼを用いないFZ法で作製する方法が高品質の単結晶が得られるので好ましい。FZ法で得られた単結晶を切断、研磨して表面を鏡面にし、例えば厚さ0.4mmほどのウエハとする。このときの結晶方位は研磨が容易で製造しやすい(100)面とするのがよい。FZ法で作製したβ−Ga23単結晶は、無色透明であり、光学的透過率はおよそ80%ほどであり、光吸収端はおよそ260nmである。β−Ga23単結晶は、添加元素なしでも作製する雰囲気による酸素欠損から発生した電子がキャリアとなって導電性を有するが、さらに導電性を向上させるために、Si、Ge、SnおよびAlから選択された少なくとも一種の元素を添加してなることが好ましい。これらドーピングする元素量は、β−Ga23単結晶に対し、20〜100ppmが好ましい。
【0009】
(窒化ガリウムナノワイヤの形成)
本発明における窒化ガリウムナノワイヤは、Vapor-Liquid-Solid(VLS)成長により形成するのが適している。この成長モードは、成長速度が非常に早いので、高アスペクト比を得るのに適した作製方法であると言える。
具体的には、本発明における窒化ガリウムナノワイヤは、酸化ガリウム単結晶基板上に、NiまたはPtからなる触媒層を形成し、前記触媒層上でトリメチルガリウムおよびアンモニアをCVD法により850〜1000℃の温度範囲で反応させる工程を経て製造することができる。
【0010】
NiまたはPtからなる触媒層の形成方法としては、一般的な真空蒸着法、スパッタリング、イオンプレーティング法を採用することができる。
窒化ガリウムナノワイヤの径を細くし、かつアスペクト比を高め、電界電子放出特性を向上させるといった観点から、触媒層の厚さは、という理由から、2nm〜5nmであることが好ましい。
【0011】
次に、触媒層上でトリメチルガリウム(TMG)およびアンモニアをCVD法により850〜1000℃、好ましくは880〜920℃の温度範囲で反応させ、本発明における窒化ガリウムナノワイヤを形成する。上記温度以外のCVD法の条件として、例えばTMGのキャリアガスとしてH2を使用し、成長圧力として1〜10Torr等の条件が好適である。
なお、前記温度が850℃未満であると、窒化ガリウムナノワイヤの径が大きくなり、逆に1000℃を超えると、窒化ガリウムナノワイヤが成長しなくなり、好ましくない。
【0012】
窒化ガリウムナノワイヤの密度は、触媒層の種類(Ni,Pt)、および厚さを変えることで制御できる。
また、窒化ガリウムナノワイヤの径および長さは、触媒層の種類および厚さを調整することで制御できる。
【0013】
このようにして製造される本発明のナノワイヤ構造体は、酸化ガリウム単結晶基板上に、径が5nm〜200nm、長さが5μm〜50μm、さらに具体的には径が10〜100nm、長さが10μm〜50μmのワイヤ状の形態をした窒化ガリウムナノワイヤが形成されてなる。窒化ガリウムナノワイヤは、アスペクト比が高いほうが好ましく、例えばアスペクト比(長さ/径)は、100〜1000、好ましくは250〜800である。また、窒化ガリウムナノワイヤの密度は、1012〜1014本/mm2が好ましい。
【0014】
本発明のナノワイヤ構造体は、ターンオン電界強度を低減させることができ、電圧印加によるターンオン電界強度が3〜4V/μmの電子放出特性を有するエミッタに好適に用いられる。また、本発明のナノワイヤ構造体は、電圧印加により窒化ガリウムナノワイヤ全体から均一に電界放射される特性を有する。
【実施例】
【0015】
以下、本発明のナノワイヤ構造体の電界電子放出特性について、従来のSi基板を用いた場合と比較しながら、以下の実施例で説明する。なお本発明は、以下の例に制限されるものではない。
【0016】
実施例1
無添加のβ−Ga23単結晶を育成しウエハ状に加工した。単結晶育成は、酸化ガリウム粉末(純度4N)を原料とし、静水圧プレスで成形した成形体を大気中1600℃、10時間で焼結し、この焼結体を原料棒としてFZ装置を用いて単結晶育成を行った。成長速度は7.5mm/hとし、雰囲気ガスにはドライエアを用いた。装置としては、市販の光FZ装置(キャノンマシナリー社製商品名iAce)を用いた。作製した単結晶を切断し、CMP(化学機械)研磨により厚さ0.4mmのウエハ状に加工した。この場合の研磨面の結晶方位は(100)面であり、透過率はおよそ80%、抵抗率は1.43×10-1Ωcmである。
【0017】
得られた酸化ガリウム単結晶基板上に、Ptを触媒として電子ビーム蒸着法によりおよそ5nmの触媒層を形成した。
【0018】
続いて、形成した触媒層上でトリメチルガリウムおよびアンモニアをCVD法により反応させた。このときの条件は、キャリアガスには水素を用い、チェンバ内圧力:5Torr、基板表面温度:900℃、反応時間:60分とした。
【0019】
このようにして得られた窒化ガリウムナノワイヤのSEM写真を図1に示す。
実施例1における窒化ガリウムナノワイヤの径は、5〜20nm、長さは5〜10μmであり、ワイヤ状の形状をなし、平均密度は5×1012本/mm2であった。
【0020】
次に、実施例1のナノワイヤ構造体を用いて電界電子放出特性の測定を行った。測定装置の概要を図2に示す。
図2において、陰極としてのステンレス製の土台101上に試料10(実施例1のナノワイヤ構造体)を設置し、土台101と陽極102との距離を0.9mmとした。陽極102上に蛍光板103を設置し、さらにその上にITO透明電極付きガラス板104を設置した。なお、陽極102の厚さは0.2mmである。
7.6×10-8Torrの真空下、0〜2.8kVの電圧範囲で5V刻みで電流計105により電流値を測定した。その結果を図3(a)に示す。図3(a)から分かるように、1.3kVにおいて電界電子放出を確認し、1.5kVにおいて前記ITO透明電極付きガラス板104を介した蛍光板103からの発光を肉眼で確認した。2.0kVおよび2.8kV印加時の蛍光板103からの発光の様子を図3(b)に示した。図3(a)の電流−電圧特性から、電流密度約32μA/cm2、ターンオン電界強度約3V/μmで電界電子放出が得られたことがわかる。 また、試料全体から比較的均一性が高く電界電子放出しているのが確認された。
【0021】
比較例1
実施例1において、酸化ガリウム単結晶基板の替わりに、Si基板を用いたこと以外は、実施例1を繰り返し、電界電子放出特性を測定した。図4(a)は、Si基板上に作製した窒化ガリウムナノワイヤの光学顕微鏡写真であり、(b)はSEM写真である((b)の上図は上面からの写真であり、下図は断面方向からみた写真である)。直径20〜100nm、長さ約20μmの窒化ガリウムナノワイヤが形成されているのが観察された。
比較例1のナノワイヤ構造体の電界電子放出特性を実施例1と同様な方法で測定した結果、図5に示すように、陽極間距離0.8mmとし、5×10-5Torrの真空下で、3.2kVあたりから電流が流れ始めており、電界強度としては約4V/μmであることがわかった。この値は、実施例1のナノワイヤ構造体のターンオン電界強度である約3V/μmに比べると高い結果となっており、酸化ガリウム単結晶基板上に窒化ガリウムナノワイヤを形成してなるナノワイヤ構造体の電界電子放出特性の方が良好であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明のナノワイヤ構造体は、次世代平面ディスプレイとして開発が進められているフィールドエミッションディスプレイ(FED)用の電子源等にとくに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例1で形成した窒化ガリウムナノワイヤのSEM写真である。
【図2】実施例1で用いた電界電子放出特性の測定装置の概要を説明する図である。
【図3】(a)は実施例1のナノワイヤ構造体の電界電子放出特性を示すグラフであり、(b)は、2.0kVおよび2.8kV印加時の蛍光板からの発光の様子を示す写真である。
【図4】(a)は、比較例1のSi基板上に作製した窒化ガリウムナノワイヤの光学顕微鏡写真であり、(b)はSEM写真である。
【図5】比較例1のナノワイヤ構造体の電界電子放出特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0024】
10 試料
101 土台
102 陽極
103 蛍光板
104 ITO透明電極付きガラス板
105 電流計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ガリウム単結晶基板上に、径が5nm〜200nm、長さが5μm〜50μmのワイヤ状の形態をした窒化ガリウムナノワイヤを形成してなるナノワイヤ構造体。
【請求項2】
前記窒化ガリウムナノワイヤを形成する前記酸化ガリウム単結晶基板の結晶方位が、(100)面であることを特徴とする請求項1に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項3】
電圧印加によりターンオン電界強度が3〜4V/μmの電子放出特性を有するエミッタに用いられることを特徴とする請求項1または2に記載のナノワイヤ構造体。
【請求項4】
電圧印加により前記窒化ガリウムナノワイヤ全体から均一に電界放射することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のナノワイヤ構造体。
【請求項5】
酸化ガリウム単結晶基板上に、NiまたはPtからなる触媒層を形成し、前記触媒層上でトリメチルガリウムおよびアンモニアをCVD法により850〜1000℃の温度範囲で反応させ、径が5nm〜200nm、長さが5μm〜50μmのワイヤ状の形態をした窒化ガリウムナノワイヤを形成することを特徴とするナノワイヤ構造体の製造方法。
【請求項6】
前記触媒層の厚さが2nm〜5nmであることを特徴とする請求項5に記載のナノワイヤ構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−6670(P2010−6670A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170618(P2008−170618)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(304023318)国立大学法人静岡大学 (416)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】