説明

ナノ多孔性/メゾ多孔性パラジウム触媒

本発明は、ナノ多孔性又はメゾ多孔性パラジウム及びイオン交換電解質を包含する触媒系、該触媒系及び触媒を製造する方法、及び該触媒又は触媒系を用いる有機及び/又は無機分子を酸化又は還元する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ多孔性(nanoporous)又はメゾ多孔性(mesoporous)パラジウム及びイオン交換電解質を包含する触媒を包含する触媒系に関する。本発明は、ナノ多孔性又はメゾ多孔性パラジウム及び1以上の追加成分を包含する多成分触媒をも提供する。また、触媒系及び触媒を製造する方法、及び該触媒又は触媒系を用いて有機及び/又は無機分子を酸化又は還元する方法をも提供する。更に本発明は、該触媒又は該触媒系を包含する電極にも関し、及び触媒、触媒系又は電極を包含する燃料電池又はセンサーにも関する。
【背景技術】
【0002】
過去数十年間にわたって燃料電池及びセンサーの開発には多くの関心があった。燃料電池及びセンサーの開発は、H、小さい有機分子及び炭化水素の酸化用及びOの還元用の触媒の使用に大いに左右される。H2、小さい有機分子及び炭化水素等のような分子の酸化のための触媒は典型的には分散した形態における貴金属である。酸素の還元のために、最も活性の触媒は、炭素に担持されたPtCr球形又はキュウボ−オクタヘドラル(cubo-octahedral)粒子から構成されたものであると考えられているが(非特許文献1)、純粋な水素については最も活性の触媒は炭素に担持されたPt球形又はキュウボ−オクタヘドラル粒子である。レフォーメート(若干の一酸化炭素を含む水素)の酸化には、好ましい触媒は炭素粒子に担持されたPtRu又はPtMo球形又はキュウボ−オクタヘドラル粒子から構成されたものであるが(T.R.Ralph and M.P.Hogarth, Platinum Metals Review, 2002, 46, (3), 117-135)、メタノール及び同様に小さい有機化合物の酸化には好ましい触媒は炭素粒子に担持されていない又は担持された小粒子の形態のPtRu合金である(T.R.Ralph and M.P.Hogarth, Platinum Metals Review, 2002, 46, (4), 146-164)。
【非特許文献1】T.R.Ralph and M.P.Hogarth, Platinum Metals Review, 2002, 46, (1), 3-14
【0003】
現在の技術内において、典型的な電極は、イオン交換膜電解質と基質との間に位置する白金ベース(Pt)の電極触媒(electrocatalyst)層を有する気体拡散基質からなる。電極触媒は、スクリーン印刷、フレクソグラフ印刷、グラビア印刷、噴霧又はロール及びカレンダリングのような技術を用いて気体拡散基質上又はイオン交換膜電解質上に沈着させることができる。電極触媒層は典型的には5〜20μm厚みであり、層は通常膜に触媒基質をホットプレスして、又は触媒膜の場合には気体拡散基質を膜に圧縮して共に結合させる(T.R.Ralph and M.P.Hogarth, Platinum Metals Review, 2002, 46, (1), 3-14)。
【0004】
低温重合体電解質燃料電池(PEMFC)用又は電気化学センサー用の触媒は実際上全て白金を主触媒成分として場合によって他の種と合金として用いる。パラジウムは合金成分として考えられてきたが、現在の製造方法に基づくパラジウム含有白金触媒の性能は極めて貧弱でPtRu触媒として同一速度で機能するために300mV余分の過電圧を必要とする。その結果、このようなパラジウム触媒は燃料電池又はセンサー用の電極触媒として用いるのに通常は適当ではない。
【0005】
これら従来の場合において、触媒は完全に密なナノ粒子の形態で存在する−即ち、球形又はキュウボ−オクタヘドラル形態学の直径が約1nm〜10nmの範囲の粒子で、電導性であるが触媒的に不活性な担体(例えばカーボン)上に多分沈着している。これらの粒子が小さいことは容積に対して高い表面積を有するために必要である。この代りの構造は完全に密でないが、メゾ多孔性又はナノ多孔性構造を有する触媒材料が含まれる。このような材料は範囲の形態を有し得る−例えば球形、円筒形、フィルム形−が、主粒子径は触媒として現在用いられる完全に密な粒子よりかなり大きいが、完全に密であるよりは、多孔性であり、従って容積割合に対して高い表面積を有することができる。ナノ多孔性又はメゾ多孔性材料を製造する方法の例には、表面活性剤又はメゾ多孔性シリコンのような鋳型(templates)を用いることが含まれる。他の例には、ゾル−ゲル合成ルートの使用、マイクロエマルジョンの使用又は金属−有機化学蒸着(MOCVD)の使用が含まれる。
【0006】
本発明に記載するように、ある特定の形態のパラジウム及びパラジウム含有触媒について及び特定のタイプの電解質と接触して、これらの触媒の性能は、標準的アプローチを用いて製造したパラジウムを含む触媒系及び/又はパラジウム含有触媒との比較で予測できるよりは著しく高い。
【0007】
ここに記載する本発明の第1の観点は、ナノ多孔性又はメゾ多孔性パラジウムを包含する触媒及びイオン交換電解質を包含する触媒系を提供する。
【0008】
本発明に記載するように触媒は、ナノ多孔性又はメゾ多孔性形態を有するパラジウムを包含するバルク材料として存在する。触媒の大きな比表面積に貢献するのはこれらの孔である。孔の大きさは直径が約0.75nm〜約50nm、好ましくは約0.75〜約20nm、及び特には約1〜約10nm直径の範囲にあり得る。孔を隔てる距離は同様の範囲に続く。
【0009】
第1の観点の触媒系は、パラジウム含有触媒を含む系について従来報告されたものと比較して改良された性能を提供する。
【0010】
他のパラジウム含有触媒系に比較して本発明の触媒系の活性の改良は触媒上における吸着酸素含有種の形成の変化に関連すると仮定される。この吸着特性の変更は触媒のナノ多孔性又はメゾ多孔性構造とイオン交換電解質との間の相互作用の結果であり得る。
【0011】
好ましい特徴において、パラジウム触媒は、ナノ多孔性又はメゾ多孔性パラジウムを1以上の追加成分と共に包含して多成分触媒を形成する。この多成分触媒は、パラジウムに加えて、1、2、3、4又はそれ以上の成分を包含し得る。好ましくは追加成分は遷移金属(例えば貴金属)又は遷移金属の混合物であり得る。好ましくは追加成分は、パラジウムと合金できる。或いはこれらはパラジウムとの混合物として存在できる。追加成分は、白金、金、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、銀、ニッケル、銅、コバルト、鉄、クロム、鉛、バナジウム又はタングステンから選んだ1以上であり得る。或いは、この成分は非金属、例えば、炭素、窒素、酸素、硫黄、セレン、テルル、燐であり得る。好ましくは、追加成分は白金及び/又は金である。
【0012】
触媒は、2成分合金又は混合物として、例えばPdPt又はPdAu、三成分合金又は混合物として、例えばPdPtRu、PdPtIr、PdPtAu、四成分合金又は混合物として、例えばPdPtRuIr、PdPtRuOs及び/又は五成分合金又は混合物として、例えばPdPtRuIrOs、提供することが好ましい。触媒は1以上の二、三、四、五成分合金又は混合物を含むことができる。
【0013】
他の成分に対して存在するパラジウムの量は、原子百分率で約10%から約100%まで変り得る。存在するパラジウムの量は触媒系の利用目的によって左右される。パラジウムが主成分である場合には、その含量は極めて高い(100At%に近い)。触媒系の活性に非パラジウム成分の高い量が必要な場合には、パラジウムの量は低くでき、例えば約20At%以下のレベル、例えば約10At%である。
【0014】
ナノ多孔性又はメゾ多孔性パラジウムを包含する触媒は、鋳型剤(templating agent)の存在下で金属先駆体を固体化(solidification)させることによって調製できる。
【0015】
鋳型剤は、多数の異なる化合物又は化合物の系の一つであり得る。例えば、鋳型剤は次のものを含む。
【0016】
(a) 非イオン表面活性剤であり、及び適当な条件で液体結晶性相を形成する鋳型。この液体結晶性相は触媒の沈積を指示し、従って触媒はこの液体結晶性相のキャスト(cast)を表す。
【0017】
(b) 反応体のマイクロエマルジョンの形成をもたらし、次いで反応を受けて触媒の相互連結したナノ多孔性又はメゾ多孔性構造を製造する適当な表面活性剤の使用。例えば、同一の水−表面活性剤割合で二つの油中水マイクロエマルジョン、一方はHPdClを含有するもの及び他方は水酸化ヒドラジンを含有するものを混合することによる、メゾ多孔性パラジウムの合成。
【0018】
(c) 触媒材料の酸化物が「ゾル−ゲル」反応で製造されるような適当な表面活性剤及び条件の使用。P−123及びBrijTM56のような両親媒性ポリ(アルキレンオキサイド)ブロックコポリマーはネットワーク形成金属種を組織するための非水性溶液において構造指示剤として作用することができる。生成するメゾ多孔性金属酸化物は更に還元して金属系にすることができる。
【0019】
(d) 「硬い(hard)」鋳型−即ちそれ自体が固体メゾ多孔性又はナノ多孔性材料である鋳型。メゾ多孔性シリカ及びナノ多孔性アルミナのような予め形成したナノ−又はメゾ多孔性固体の空隙は、金属含有先駆体で含浸される。それに続くこれらの先駆体の固体化及び「硬い」鋳型の除去によってナノ−又はメゾ−多孔性触媒がもたらされる。この「硬い」鋳型は前述のアプローチ(a−c)を用いて製造できるし、適当な供給者から購入することもできる。
【0020】
固体化方法は金属先駆体を、固体であって、鋳型剤の不存在下でそれ自体自己支持性であり得る化学種に変換する。この固体化法の後、鋳型剤を例えば系から鋳型を洗浄して除く。
【0021】
固体化法は、先駆体の化学的変換、例えば金属先駆体の酸化又は還元、又は前の酸化状態を変化することなく金属先駆体の回りの調整種の変化を含むことができる。
【0022】
還元法は、当該技術で知られている任意の方法によって実施することができる。例えば(a)電気化学的還元−電極表面で金属先駆体を対応する金属に還元するような適当な範囲に電極の電気化学的電位を保つ;又は(b)化学的還元−金属先駆体を対応する金属に還元する化学的還元剤の添加である。適当な化学還元剤は、例えば、亜鉛、鉄、カルシウム又はマグネシウムである。或いは、ホルムアルデヒド溶液、蟻酸溶液、又は水素化硼素溶液のような液体還元剤、又は水素、ホルムアルデヒド又はボランのような気体状還元剤を用いることができる。
【0023】
酸化法は、当該技術で知られている任意の方法によって実施することができる。例えば、(a)電気化学的酸化−金属先駆体が酸化され不溶性化合物を形成するような適当な範囲に電極の電気化学的電位を保つ;又は(b)化学的酸化−金属先駆体を不溶性化合物に酸化する化学的酸化剤の添加である。適当な化学的酸化剤は、過酸化水素又は過酸化物塩;パーボレート、パーマンガネート、クロメート又はクロレートを含む溶液;又はオゾン、塩素又は酸素のような気体状酸化剤を含む。
【0024】
金属先駆体の凝固を生じる他のアプローチは、不溶性化学種の形成を含む。一つの例では、pHを変化して金属酸化物又は水酸化物の沈殿を生じる化合物の添加を含む。pHを変化させるために用いることができる化合物は、酸性物質又は塩基性物質、特に強酸又は強塩基性物質、例えば硫酸、硝酸又は塩酸又はアルカリ金属水酸化物である。
【0025】
本発明の目的のための金属先駆体は鋳型剤を含む溶液に高い溶解度を示すべきである。このような先駆体は、クロロ錯体(例えば金属塩化物)又は他のハライド錯体、又はアミノ(NH)、アクア(HO)、スルフィト(SO)、又はシアノ(CN)配位錯体、又は上記配位子の1以上の混合物を含む錯体であることができる。これらの錯体は特に水性系で用いるのが特に好ましい。非水性溶剤に可溶の錯体は、アセチルアセトネート又はヘキサフロロアセチルアセトネート、1,10−フェナンスロリン及びその誘導体、1,5−シクロオクタジエン及びその誘導体、又はエチレンジアミン及びその誘導体を含む錯体が含まれる。
【0026】
本発明において、触媒はイオン交換電解質と接触して置かれる。イオン交換電解質は好ましくは固定したアニオン性位置を有するカチオン交換材料である。より好ましくはイオン交換電解質は、過弗素化バックボーンに生えたスルフォン酸基のようなペンダント酸性基を有する過弗素化重合体電解質である。このような過弗素化重合体電解質の例には、NafionTM(デュポン)、AciplexTM(アサヒケミカルインダストリ)、FlemionTM(アサヒガラスカンパニ)又はBAMTM(Ballard)が含まれる。
【0027】
本発明の目的に用い得る他のカチオン交換電解質は、炭化水素重合体バックボーンにスルフォン酸基又はフォスフォン酸基のようなペンダント酸性基をもつ電解質である。このような電解質の例は、ポリアミド/イミドのスルフォン化又はフォスフォン化形態(Kerimid、TorlonTM);ポリクロロトリフロロエチレン、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリイミド、又はポリフェニレンスルフィド、又はその誘導体が含まれる。
【0028】
イオン交換電解質は選択された固相(solid-state)無機プロトン導体、誘導体化した(derivatised)ジルコニウムフォスフォネート、固定化し及び誘導体化したKeggin及びDawson酸(例えばフォスフォモリブデン(phosphomolybdic)酸);又はperovskite−タイプの酸化物プロトン導性セラミックスのようなホットプロトン導体として提供されることもできる。
【0029】
イオン交換電解質は、各種の形態の固体として提供され得る(バルク電解質)。例えばシートとして提供できる。或いは、イオン交換電解質は液体形態(液体アイオノマー)で提供でき、これは適当な処理方法の後固体電解質を形成できる。例えば、液体アイオノマーは、若干の適当な溶媒に溶解したイオン交換電解質材料からなることができ、又はイオン交換電解質であり得る。或いは、液体アイオノマーは該イオン交換電解質の化学先駆体であることができる。液体アイオノマーを固体イオン交換電解質に変換する適当な方法は、溶媒の蒸発、液体の温度の変更、照射への露出、交差結合又は重合の開始又は当該技術で既知の方法であり得る。
【0030】
特に好ましいイオン交換電解質は、ポリテトラフロロエチレンバックボーン及びスルフォネートイオン基末端の規則的間隔の長いポリフロロビニルエーテルペンダント側鎖からなる過弗化イオン交換重合体である。ここで提供される触媒系の一例は、従ってNafionTMと接触するナノ多孔性又はメゾ多孔性パラジウムを包含する触媒である。
【0031】
本発明の第2の観点は、ナノ多孔性又はメゾ多孔性パラジウムを包含する触媒がイオン交換電解質と接触して置かれ、触媒が電解質とイオン接触する触媒系の製造方法を提供する。
【0032】
このイオン接触は次の1以上から生じ得る。
【0033】
a) 単純な機械力、
b) 電解質に触媒を結合する接着剤の使用、
c) 触媒の多孔性構造に浸透し、及び適当な処理の後に触媒に隣接する電解質のバルク相を形成する電解質の液体アイオノマー形態の使用、又は
d) 触媒の多孔性構造に浸透し、及び適当な処理の後にバルク電解質の試料に結合する液体アイオノマーの使用。この液体アイオノマーはバルク電解質の可溶性形態であることができ、又は異なるイオン交換電解質の液体アイオノマー形態であることができる。
【0034】
本発明の第3の観点は、ナノ多孔性又はメゾ多孔性パラジウム及び白金、金、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、銀、ニッケル、銅、コバルト、鉄、クロム、鉛、バナジウム、タングステン、炭素、窒素、酸素、硫黄、セレン、テルル又は燐の一以上を包含する多成分触媒を提供する。好ましくは、多成分触媒は、白金、金、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、銀、ニッケル、銅、コバルト、鉄、クロム、鉛、バナジウム又はタングステンのような一以上の遷移(貴)金属、より好ましくは白金及び/又は金を包含する。
【0035】
多成分触媒は、パラジウム及び一以上の追加の成分、好ましくは合金として、の混合物として提供される。触媒は、好ましくは2成分合金又はその混合物、例えばPdPt又はPdAu、三成分合金又はその混合物、PdPtRu、PdPtLr、PdPtAu、四成分合金又はその混合物、例えばPdPtRuLr、PdPtRuOs及び/又は五成分合金又はその混合物、例えばPdPtRuLrOsとして提供される。多成分合金は、2、3、4又は5成分合金又は混合物の一以上を包含し得る。
【0036】
触媒は、10%〜100%原子パーセント、好ましくは20%〜100%原子パーセントを包含する。
【0037】
本発明の第4の観点は、本発明の第3の観点による多成分触媒系の製造方法を提供する。この方法は、鋳型剤の存在下における一以上の金属先駆体の凝固及び次いで該鋳型剤の除去を包含する。
【0038】
鋳型剤は多数の異なる化合物又は化合物の系の一つであり得る。例えば、鋳型剤は次のものを含み得る。
【0039】
e) 非イオン活性剤であり、及び適当な条件下で液体結晶性相を形成する鋳型。この液体結晶性相は触媒の沈積を指示し、及び次いで触媒は該液体結晶性相のキャストを表す;
f) 反応体のマイクロエマルジョンの形成をもたらす適当な表面活性剤系の使用、これは次いで反応を受けて触媒の相互連絡ナノ多孔性又はメゾ多孔性構造を生じる。例えば、一方はHPdClを含み及び他方は水酸化ヒドラジンを含む、同一の水−表面活性剤割合の2つの油中水マイクロエマルジョンの混合によるメゾ多孔性パラジウムの合成;
g) 触媒材料の酸化物が「ゾル−ゲル」反応で製造されるような条件及び適当な表面活性剤の使用。P−123及びBrijTM56のような両親媒性ポリ(アルキレンオキサイド)ブロック共重合体はネットワーク形成金属種組織用の非水性溶液中の構造指示剤として作用する。生成メゾ多孔性金属酸化物は更に還元されて金属系となり得る;
h) 「硬い」鋳型−即ちそれ自体が固体のメゾ多孔性又はナノ多孔性材料である鋳型。メゾ多孔性シリカ及びナノ多孔性アルミナのような予め形成されたナノ−又はメゾ多孔性固体の空所は金属含有先駆体で含浸される。これら先駆体の続く凝固及び「硬い」鋳型の除去はナノ−又はメゾ−多孔性触媒をもたらす。このような「硬い」鋳型は前述のアプローチ(a−c)を用いて製造できるか又は適当な供給者から購入できる。
【0040】
凝固方法は、金属先駆体を固体であり鋳型剤の不在下で自己支持性である化学種に変換する。この凝固方法の後、鋳型剤は例えば鋳型を系から洗い流すことによって除かれる。
【0041】
凝固方法は、例えば金属先駆体の酸化又は還元による先駆体の化学変換、又は形式的酸化状態を変化することなく金属先駆体の回りの配位種の変化を含み得る。
【0042】
凝固法は、先駆体の化学的変換、例えば金属先駆体の酸化又は還元、又は前の酸化状態を変化することなく金属先駆体の回りの調整種の変化を含むことができる。
【0043】
還元法は、当該技術で知られている任意の方法によって実施することができる。例えば(a)電気化学的還元−電極表面で金属先駆体を対応する金属に還元するような適当な範囲に電極の電気化学的電位を保つ;又は(b)化学的還元−金属先駆体を対応する金属に還元する化学的還元剤の添加による。適当な化学的還元剤は、例えば、亜鉛、鉄、カルシウム又はマグネシウムである。或いは、ホルムアルデヒド溶液、蟻酸溶液、又は水素化硼素溶液のような液体還元剤、又は水素、ホルムアルデヒド又はボランのような気体状還元剤を用いることができる。
【0044】
酸化法は、当該技術で知られている任意の方法によって実施することができる。例えば、(a)電気化学的酸化−金属先駆体が酸化され不溶性化合物を形成するような適当な範囲に電極の電気化学的電位を保つ;又は(b)化学的酸化−金属先駆体を不溶性化合物に酸化する化学的酸化剤の添加による。適当な化学添加剤は、過酸化水素又は過酸化物塩を含む溶液;パーボレート、パーマンガネート、クロメート又はクロレート;又はオゾン、塩素又は酸素のような気体状酸化剤を含む。
【0045】
金属先駆体の凝固を生じる他のアプローチは、不溶性化学種の形成を含む。一つの例では、pHを変化して金属酸化物又は水酸化物の沈殿を生じる化合物の添加を含む。pHを変化させるために用いることができる化合物は、酸性物質又は塩基性物質、特に強酸又は強塩基性物質、例えば硫酸、硝酸又は塩酸又はアルカリ金属水酸化物である。
【0046】
本発明の目的のための金属先駆体は、鋳型剤を含む溶液に高い溶解度を示すべきである。このような先駆体は、クロロ錯体(例えば金属塩化物)又は他のハライド錯体、又はアミノ(NH)、アクア(HO)、スルフィト(SO)又はシアノ(CN)配位錯体、又は上記配位子の1以上の混合物を含む錯体であり得る。これらの錯体は水性系に用いるのが特に好ましい。非水性溶媒に可溶な錯体には、アセチルアセトネート又はヘキサフロロアセチルアセトネート、1,10−フェナンスロリン及びその誘導体、1,5−シクロオクタジエン及びその誘導体、又はエチレンジアミン及びその誘導体を含む錯体が含まれる。
【0047】
本発明の第5の観点は、有機及び/又は無機分子を酸化又は還元する方法であって、該分子を第1の観点の触媒系又は第3の観点の触媒と接触させることを包含する方法を提供する。
【0048】
有機分子は、1〜約12炭素原子、好ましくは1〜6炭素原子、より好ましくは1〜4炭素原子を包含することが好ましい。例えば、有機分子は、メタノール、蟻酸、フォルメート、メチルフォルメート、(CHO)CHO、又は(CHO)CH又はフォルムアルデヒド、及びパラフォルムアルデヒドのようなC1分子、エタノール、1,2−エタン−ジオールのようなC2−脂肪族アルコール又は部分酸化C2化合物例えばエチレングリコール;高級アルキルアルコール及び関連化合物又はその酸化生成物、例えば、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール等から選ぶことができる。有機分子は糖、例えばグルコース、フラクトース、又はスクロースであることもできる。
【0049】
第5の観点の方法による有機及び/又は無機分子の酸化は、反応体が好ましくは燃料電池用の燃料である燃料電池における触媒系の使用を可能にする。
【0050】
酸化用の好ましい燃料は、有機分子又は有機分子の混合物であることができる。或いは、燃料は無機分子、例えば水素又はヒドラジンであることができる。有機分子及び無機分子の混合物も有用であり得る。
【0051】
第1の観点の触媒系は、代りにセンサーにおける測定要素として提供されることもあり得る。センサーは、上に開示した有機分子及び/又は無機分子の検出に用いることができる。
【0052】
更に、適当な分析体(analytes)は、通常は完全に酸化されない、及び通常は燃料として適しない化合物であり得る。このような適当な分析体は、尿素、チオ尿素、アミノ酸、ペプチド、タンパク質又は炭水化物を含み得る。
【0053】
ここに記載する触媒又は触媒系は、酸化剤例えば酸素又は過酸化水素を還元するためにも用い得る。酸化剤は、例えば燃料電池用の反応体として又は測定すべき分析体として用いることができる。
【0054】
本発明の第6の観点は、第1観点の触媒系及び/又は第3観点の触媒を包含する電極を提供する。この電極は電気化学電池において、例えば燃料電池又はセンサーにおける使用に用いることができる。
【0055】
本発明の第7の観点は、第1観点の触媒系、第3観点の触媒又は第6観点の電極を包含する燃料電池又はセンサーを提供する。好ましくは、燃料電池又はセンサーは第6観点の電極を包含する。
【0056】
特に、燃料電池又はセンサーの一対の電極の両者又は一方は、第1観点の触媒系及び/又は第3観点の触媒を包含することができる。更なる電極も存在し得ることも認識されるであろう。電極の両者は、互いにイオン的接触であって電子的接触でないように電解質において作らなければならない。例えば、電解質が(燃料電池では一般的である)シートである場合には、電極はシートの反対側に置かれる。この例では、配置は一方の電極から他方の電極に移動するイオンの移動距離が最小になるように用いられる。
【0057】
センサーの配置は、上述の燃料電池に類似する。センサーは有機又は無機分子の存在又は濃度を検出するために用いることができる。センサーの構造は、例えば電解質を介して互いにイオン性接触する2つの種電極を包含することができ、少なくとも一つが本発明の触媒系を包含する。余分の電極も存在することができ、安定な参照電位を提供するための参照電極として作用する。
【0058】
本発明の第8の観点は、試料中の有機及び/又は無機分子を検出する方法を提供し、該試料と第7観点で定義したセンサーとを接触させ及び分子の酸化又は還元による電流を検出することを包含する。
【0059】
本発明の観点のそれぞれの全ての好ましい特徴は全て他の観点に準用される。
【0060】
本発明は、各種の方法で実施でき、多くの特定の具体例に基づいて、図面を参照しながら、本発明を説明する。
【実施例】
【0061】
ナノ多孔性又はメゾ多孔性パラジウム含有触媒を製造する例の方法は次に記載する通りである。
例1: 液晶相を形成してメゾ多孔性パラジウムを調製する非イオン表面活性剤を用いる電気化学的還元法
電気メッキ混合物は、12重量%の(NHPdCl、47重量%のオクタエチレングリコールモノヘキサデシルエーテル(C16EO)、2重量%のヘプタン及び39重量%の脱イオン水からなる。この混合物は、渦ミキサーを用いて均質混合物が形成されるまで激しく振り混ぜながら3回の加熱−冷却サイクル(温度限度20及び80℃)に服した。次いで混合物を室温に一夜放置した。飽和銀/塩化銀(Ag/AgCl)と共に大面積白金対電極を用いた通常の3-電極システムを用いて電気沈着を実施した。電気メッキ混合物から金フィルム上に+0.16VvsAg/AgClで電気化学沈着によってメゾ多孔性パラジウムフィルムが製造された。パラジウムフィルムの厚さは沈着中に通過する全荷電を記録して制御した。典型的な沈着荷電は20Ccm-2である。沈着に続き、パラジウムフィルムはアセトン及び脱イオン水で繰返し濯いで不純物(表面活性剤、電解質及び有機溶媒)を除いた。
【0062】
金箔上に沈着したフィルムの低解像度SEM画像は、円滑、緻密及び均質表面を示す。高解像度SEM画像は図1Aに示すように、リーフ状積層体の均質モルフォロジー特性を示す。図1(A)の挿入部はメゾ多孔性フィルムのTEM画像を示す。予期したナノ構造は約3nmの孔直径及び約6nmの孔中心−孔中心分離で明確にみえる。アンダーポテンシャルCuストリッピング技術を用いて測定したフィルムの比電気化学表面積(Chierchie, T., Mayer, C., Electrochim. Acta 33, 341(1998))は約40m2-1である。この4.82×10−3の表面積/容積比に対応する値は、鋳型フィルムの六角形ナノ構造に一致する。
【0063】
例2: メゾ多孔性Pd63Pt37合金を調製するために液晶相を形成する非イオン界面活性剤を用いる電気化学的還元法:
メゾ多孔性Pd63Pt37合金材料を12重量%NaPdCl、14重量%HPtCl、26重量%HO、2重量%ヘプタン、47重量%表面活性剤C16EOからなる混合物から電気メッキした。混合物を、vortexミキサーを用いて均質混合物が形成されるまで激しく振蕩しながら3回加熱−冷却サイクル(温度限界20及び80℃)に付した。次いで混合物を室温で一夜放置した。飽和銀/塩化銀(Ag/AgCl)と共に大領域白金対向電極を用いる通常の3電極系システムを用いて電着を行った。パラジウム合金メゾ多孔性フィルムを0.06V対Ag/AgClの電位で金フィルム上に沈着した。沈着後、フィルムをアセトン及び脱イオン水中で繰返し濯ぎ、不純物(表面活性剤、電解質及び有機溶媒)を除いた。
【0064】
例3: メゾ多孔性PtPdRuOs合金を製造するために液晶相を形成する非イオン界面活性剤を用いる化学還元法:
0.364gのNaPdCl(アルドリッチ)、0.50gのHPtCl6.xO(アルドリッチ)、0.202gのRuCl3.xO(アルドリッチ)、0.30gのNaOsCl6.xO(アルドリッチ)、1.265gの水、1.88gのオクタエチレン グリコール モノヘキサデシル エーテル非イオン性界面活性剤(C16EO8、Fluka)を含む混合物をボルテックス(vortex)ミキサーを用い激しく振蕩して均質に混合し、室温で12時間放置する前に3加熱−冷却サイクル(温度限界20及び80℃)に付した。金属亜鉛(Aldrich)の片を反応体混合物に加えると、4級触媒が沈殿し、混合物の水性領域に存在する金属塩を化学的に還元した。この還元法を続けて、混合物が完全に黒くなるまで室温に放置した。黒い沈殿は、アセトン、塩酸、水及びアセトンで続いて洗浄した。回収した製品は次いでオーブンで80℃で乾燥した。
【0065】
図2は、PtPdRuOs合金の高解析スキャニング電子顕微鏡写真像(A)、PtPdRuOsナノ粒子の透過電子顕微鏡写真(TEM)像(B)、及び良く発達した多孔性構造を示す単一PtPdRuOs粒子のTEM像(C)、凝集したPtPdRuOsナノ粒子の電子回折パターン(D)を示す。
【0066】
例4: メゾ多孔性パラジウムを製造する硬いテンプレートを用いる化学的還元法
「硬い」テンプレートを用いるメゾ多孔性パラジウムのテンプレート合成を次のように行った:1モルdm-3Pd(NH)Cl(Aldrich)の水溶液の5gを1gのカ焼メゾ多孔性シリカSBA-12粉末中に含浸させた。100℃で完全に乾燥した後、含浸を3回繰り返した。次いでPd(NH)Clで含浸させたSBA-12試料を2のフリットディスク(fritted disks)でガラス管反応器に移した。温度を20℃から300℃に1℃/分で上げ、次いで300℃に2時間維持して、パラジウム化合物を管を通して流れるHを用いてPdに還元した。管反応器を室温に冷却した後、生成した試料を空気に露出した。SBA−12を溶解するために、Pd/SBA−12試料を3モルdm-3HF溶液を2時間消化した。
【0067】
黒い生成物を遠心濾過し、蒸留水で洗浄し及び約60℃において真空炉で乾燥した。
【0068】
例5: メゾ多孔性パラジウムを製造するため硬いテンプレートを用いる化学的還元法
この方法では、シリカ粉末を硬いテンプレートとして用い、及びパラジウムを流動床反応器内に有機金属化合物として供給し、金属−有機化学蒸着(MOCVD)技術(Jean-Cyrille Hierso, Roselyne Feurer, and Philippe Kalck, Chem. Mater. 2000, 12, 390-399)を用いた。4グラムのシリカ粉末(100及び200μmの間で篩い分け)を25μmの開口部を有するステンレススチールメッシュ上に先駆体錯体(4gの(η3−アリル)(ヘキサフロロアセチルアセトナト)パラジウム)を支える焼結ガラスフリット(多孔度5)を支持した。反応器を0.1トールに排気し、この圧力に1時間保ってシリカ粉末を反応器壁の二重覆いを通して通過するエチレングリコールによって100℃に加熱した。この時間の後、シリカ粉末を110℃(沈着温度)に加熱し、反応器の底部にヘリウム(ヘリウム流:86mL分-1)を添加して反応器内部の圧力を30トールにあげた。この圧力を測定して流動床を通るガス速度を粉末の最小バブル速度を約4倍にした。次いで反応器の底部を80℃に加熱して錯体をヘリウム流内に昇華し、及び水素流を流動床の直前に導入した。2.5時間後に、加熱を止め、反応器を室温に冷却させた。圧力は大気圧に戻し、及びシリカ粉末を回収した。Pd/シリカ試料を3モルのdm-3HF溶液で2時間洗浄した。黒色生成物を遠心分離機で濾過し、蒸留水で洗浄し、約60℃で真空炉内で乾燥した。
【0069】
例6: メゾ多孔性パラジウムを製造するためにゾル−ゲルルートを用いる化学的還元法
1gのP−123(BASF)トリブロック共重合体を、30分間撹拌しながら10gのブタノールに溶解した。この溶液に0.005モルdm-3PdClを30分間激しく撹拌しながら加えた。生成するゾル溶液を空気中で60℃において開放皿中で1週間ゲル化した。次いで老成したゲル試料を空気中で500℃において焼成してブロック共重合体表面活性剤種を除いた。生成した酸化パラジウムを冷却後に2つのフリットディスクを有するガラス管反応器に移した。パラジウム化合物を管を通して流れるHで還元しながら温度を20℃から300℃に1C/分で上げ、次いで300℃に2時間保った。管反応器を室温に冷却した後、生成する試料を空気中に露出した。
【0070】
例7: メゾ多孔性パラジウムを製造するためマイクロエマルジョンルートを用いる化学還元法
金属塩を含有するマイクロエマルジョンを、1モルdm-3のHPdClをヘキサン中の0.2モルdm-3BrijTM76に加えてエマルジョン中2/1HO/表面活性剤の割合を得た。これらの条件でパラジウム塩の最終濃度はマイクロエマルジョン中約5x10−3モルdm-3である。同様に、還元剤を含むマイクロエマルジョンを、水酸化ヒドラジンの水溶液をヘキサン中0.2モルdm-3BrijTM76溶液に加えて調製した。添加したヒドラジンの量を調整してマイクロエマルジョン中濃度0.05モルdm-3を得た。2つのマイクロエマルジョンの混合でパラジウムナノクラスターのコロイド懸濁液を得る。
【0071】
黒色懸濁液を遠心力下で濾過し、次いでエタノール及び水で洗浄した。最終的に固体生成物を80℃で乾燥した。
【0072】
次に、電極集合体を製造する例の方法を記載する。次の通りである。
【0073】
例8: 直接機械的組立て
電着したメゾ多孔性パラジウム又はパラジウム含有フィルム(例えば上記の方法1又は2で調製した)を有する導電性電極をNafionTM膜に押付て直接接触させた。界面が形成される前の少量の可溶性NafionTM溶液の電極表面への使用及びそれに続く120℃での硬化は、界面の長期間安定性を助ける。
【0074】
例9: メゾ多孔性電極膜集合体のインクルート製造
薄い触媒層フィルムにメゾ多孔性Pd、5重量%可溶化NafionTM(デュポン社から供給)、脱イオン(DI)水、(NH(孔形成添加剤)及びイソプロパノールからなるインキを噴霧した。メゾ多孔性パラジウム触媒のNafionTMに対する割合は3:1である。生成インキは次いでエアブラッシングによってXC−72炭素被覆カーボン紙に噴霧して電極を製造した。カーボン紙上のインクが乾燥した後、余分のNafionTMイソプロパノール溶液を電極の表面に噴霧した。膜電極集合体は、NafionTM117膜上に140℃及び200気圧で1.5分間ホットプレスして調製した。
【0075】
例10: 触媒層を製造するためのDecalアプローチ
(4)に記載したインクを調製して、ptfeデカル(decal)ブランクに均一に塗布した。適用したインクが乾燥した後、薄膜をptfeデカルブランクから160−200℃及び5−9MPaで150秒に亘ってホットプレスによってNafionTM115膜のNa形態に移した。デカルブランクを除いた後、親水性フィルム/NafionTM膜集合体を約1時間軽沸騰0.5MのH2SO4溶液に浸漬してプロトン化形態にイオン交換した。
【0076】
例11: フィルム電極のNafionTM浸漬
エチレングリコール(10重量%)、ptfe懸濁液(10重量%ptfe、T30、デュポン)及びメゾ多孔性パラジウムを含むインクを調製した。超音波浴中で機械的混合及び撹拌した後、混合物をカーボン紙/XC72Rカーボン拡散層上にブラッシュ掛けした。混合物を80℃で炉で乾燥し、次いで360℃で20分間焼結した。電極を冷却させ、アルコール溶液中5重量%NafionTM(Aldrich)でブラッシュ掛けし、この溶液を電極フィルムの内部孔内に室温で10分間拡散させ、続いて空気中で80℃で乾燥して残留脂肪族アルコールを除いた。次いで電極を160−200℃及び5−9MPaで150秒間NafionTM117膜上にホットプレスした。
【0077】
電極集合体の成果の例の結果。
例12: イオン交換電解質と接触する触媒含有メゾ多孔性又はナノ多孔性パラジウムの優れた性能
この例は、メゾ多孔性又はナノ多孔性触媒がイオン交換膜と接触すると、システムの活性がこれらの別個の観点(メゾ/ナノ多孔性及びイオン交換電解質)のいずれかが存在しない場合にみられるより大きいことを示す。メゾ多孔性パラジウム電極は例1に示すように製造され、例8に示すように組立てられた。図3において、水性電解質(0.1モルdm−3HClO)及び交換膜(NafionTM)の両者においてメゾ多孔性及び多結晶性パラジウム電極の両者におけるメタノール酸化が示されている。電流は触媒の全表面積について正常化されている。水性電解質(0.1モルdm-3HCl)が用いられた場合(点線)、触媒組織とは無関係にメタノール酸化の間類似の応答がみられる。−即ち、負に進むスキャンの間における電位のシフトにも拘らず、正に進むスキャンの間に高電位における低レベルに迅速に衰退する鋭いアノードピーク及び同様のピークがみられる。前進及び後進アノードピークは極めて近い。然しながら、電極としてNafionTMが用いられると、応答は用いたパラジウムの組織に依存する。多結晶性パラジウム電極では、メタノールの酸化は約0.75Vで始まり、電流減退に続く鋭いアノードピークが正に進むスキャン中にみられ、HClO中の多結晶性パラジウムと同様の応答がみられる。逆のスキャンの間のみ小さい電極ピークが生じる。対照的に、メゾ多孔性パラジウム電極では、メタノール酸化のオンセット電位は約150mVだけ負にシフトする。これは成果の重要な改良を示す。更に、メタノール酸化速度(即ち、酸化電流の大きさ)は、メゾ多孔性触媒が用いられる場合、多結晶性パラジウムについてより約5倍大きい。メタノール酸化速度はメゾ多孔性パラジウムで高く、電流高原は0.85〜1.30Vを超えてみられる。このような高原は2mVs-1の低スキャンボルタモグラム(voltamograms)で明白であり、電極反応は高い過電位で拡散制御されていることを強く示唆する。従って、触媒活性の重要な向上は固体重合体電極と接触してメゾ多孔性パラジウムが用いられる場合にみられる。
【0078】
例13: イオン交換電解質と接触するメゾ多孔性又はナノ多孔性パラジウムを包含する触媒を用いる或る範囲の有機種の酸化
この例は、イオン交換膜と接触するメゾ多孔性/ナノ多孔性パラジウム包含触媒の各種有機化合物の酸化に対する性能及び他の化合物をナノ多孔性/メゾ多孔性パラジウム触媒に添加した場合に得られる活性に対する効果を示す。結果は図4に示されている。ナノ多孔性/メゾ多孔性パラジウム触媒は例1に従って調製された。ナノ多孔性/メゾ多孔性PdPtRuは、若干のRuClをテンプレート(templating)溶液に加えたほかは例2に従って製造された。PdPtRuOsは、若干のRuCl3をテンプレート溶液に加えたほかは例3に記載した方法に従って製造した。全ての場合に電極集合体は(上記の)「直接機械的アッセンブリ」法を用いて製造した。用いたイオン交換電極はNafionTM117膜であった。
【0079】
図4(a)において、メゾ多孔性パラジウム/Nafion系の性能を燃料電池及びセンサーにおける関心の三種の有機化合物:メタノール、フォルムアルデヒド及び蟻酸について調べた。この種の複合電極におけるフォルムアルデヒド及び蟻酸の酸化についてのみ調べた。フォルムアルデヒド及び蟻酸の酸化についてそれぞれ制限電流の着手電位は約0.80及び0.30Vである。従って、複合体電極はフォルムアルデヒド及び蟻酸センサーに適用できる。上記の着手電位の差異は、センサー電極がフォルムアルデヒド及び蟻酸の検出に高選択性を有することを示唆する。全ての場合に拡散制限電流又は電流プラトーは、酸化速度が反応体の触媒への移動の速度によって制限されることになることを示していることが見出された。蟻酸の酸化が起こる低電位(反応は約0Vで始まる)及び拡散制限電流が起こる(0.3V)例外的に低い電位は、蟻酸が燃料電池操作に関連のある電位でCOに分解し得ることを示している。従ってメゾ多孔性パラジウムはイオン交換電解質に基づく蟻酸燃料電池用の高性能アノード電気触媒である。メゾ多孔性パラジウム/Nafion触媒系は、図4(a)における他のトレースに示されるようにフォルムアルデヒド及びメタノールの酸化にも活性である。これらの他の燃料の両者について制限電流も観察された。これらの制限電流は、異なる移動特性及び検討した種のそれぞれの濃度により蟻酸とは異なる値である。
【0080】
図4(b)において、ナノ多孔性/メゾ多孔性パラジウム触媒と他の化合物との組合せのメタノールの酸化に対する有利な効果を説明する。全ての場合において、活性の高原で示されるように、拡散制限電流が適当な高電位で得られる。これは、反応速度ではなくメタノールが触媒表面に到達できる速度によって成果が制限されることを示している。白金及びルテニウムがパラジウムと合金された場合に、メゾ多孔性パラジウム及びメゾ多孔性PdPtRuの間のオンセット電位の−220mVシフトに示されるように触媒の活性が極めて増大する。オスミウムが更に合金元素として添加された場合、オンセット電位は更に−150mV移動して活性の更に重要な改良を示す。第4級PtRuPdOs/イオン交換電解質触媒系は、メタノール酸化反応における市販で得られるPtRu触媒より活性であるようにみえる。
【0081】
例14: 直接メタノール燃料電池内に包含される触媒系
メタノールの酸化のためのPtRuPdOs/イオン交換電解質触媒系の能力の証拠が、図5において、メゾ多孔性Pd27Pt38Ru23Os12/Nafion触媒系の性能が温度の関数として示されている。温度を20℃から60℃に上げるとオンセット電位が−100mVのシフトを導く。更に、高い温度がイオン交換電解質におけるメタノールの質量移送特性を改良するように、温度を上昇すると制限電流が増加する。図5の表示された挿入は、触媒の質量活性である。0.3Vにおいて30Ag−1以上の活性が60℃で達成できる。
【0082】
例15: メタノールセンサーの調製
拡散制限電流及び活性反応体の濃度の間の線状関係によって、ナノ多孔性/メゾ多孔性パラジウム触媒系をメタノールセンサーとして直接使用することができる。このタイプのセンサーは水性電解質の必要性を避けられる。センサーは触媒系と触媒系上の未知濃度のメタノールを含む分析体を通過する方法を合体する。メタノールの濃度における変化に対する制限電流の応答は電解質への供給溶液からのメタノールの吸収等温によって定められる。メタノールはポリテトラフルオロエチレン骨格よりは膜の微小空間で溶解し易い。メタノールの微小空間への吸収が優勢になるとラングミュール吸収等温(Langmuir sorption isotherm)が期待される。供給溶液のメタノール濃度に対する制限電流の依存性は次の式で表すことができる。
【0083】
=(Imax kc)/(1+kc) (1)
式中、Id及びImaxは、膜におけるメタノール濃度c及びメタノールの最大濃度における拡散制限電流である。kはラングミュール親和性定数である。従って、パラメーターImax及びkが特定の形状において既知であれば、制限した電流を測定し、式(1)をcについて解けば、水中における未知のメタノール濃度を計算することができる。
【0084】
図6に示されているのは、メゾ多孔性パラジウム触媒/NafionTM膜触媒系における制限電流対メタノール濃度(水中)のプロットである。この触媒系は例13に用いたものと同一である。制限電流は水中メタノール濃度につれて増大し、水中メタノールの約2モルdm−3で最大に達する。図6の曲線に適合して98.5%の信頼性でImax=3.36μA及びk=2.0を与える。従って、このシステムは、制限電流を測定し、上に示したImax及びkの値を用い、cについて式(1)を解いて、未知の水中メタノール濃度を測定するために用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】は、20Ccm-2の荷電で4時間Ag/AgClに対して0.16Vで金箔上に電気化学的に沈着したパラジウムメゾ多孔性フィルムのSEM画像及びTEM画像(inset)を示す図。
【図2】は、液晶相から化学的に調製したPtPdRuOs合金の高解像度走査型電子顕微鏡写真画像(A)、PtPdRuOsナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真(TEM)画像(B)、単一PtPdRuOs粒子のTEM画像(C)、集合したPtPdRuOsナノ粒子の電子回折図形(D)を示す図。
【図3】は、0.1モルdm-3HClO+1モルdm-3メタノール(点線)及び20℃で(dE/dt:50mVs-1)水中1モルdm-3メタノールで平衡化したNafionTM膜(実線)におけるメゾ多孔性(a)及び多結晶性(b)パラジウムディスク微小電極についての環状ボルタモグラム(voltammograms)を示す図。
【図4】は、水中1モルdm-3CHOHで平衡化したNafionTM膜上のメゾ多孔性パラジウム、メゾ多孔性PdPtRu及びメゾ多孔性PtPdRuOs触媒からなる微小電極用の定常状態ボルタモグラム(a);及び水中0.15モルdm-3HCOOH及び水中0.20モルdm-3HCHOで平衡化したNafionTM膜上のメゾ多孔性パラジウム用のもの(b)。
【図5】は、各種温度で水中1モルdm-3メタノールで平衡化したNafion膜上のメゾ多孔性PtPdRuOs触媒を含む微小電極用の5mVs-1で測定した定常状態ボルタモグラム。挿入:20及び60℃における4元合金のマス活性度の電圧依存性。ポジティブゴーイングスキャンで採取したデータ。
【図6】は、メゾ多孔性パラジウム触媒/NafionTM膜触媒系について制限電流対メタノール濃度(水中)を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ多孔性又はメゾ多孔性パラジウム及びイオン交換電解質を包含する触媒を包含する触媒系。
【請求項2】
触媒は、白金、金、レニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、銀、ニッケル、銅、コバルト、鉄、クロム、鉛、バナジウム又はタングステンの1以上を更に包含する請求項1に記載の触媒系。
【請求項3】
触媒は、Pd、PdPt、PdAu、PdPtRu、PdPtIr、PdPtAu、PdPtRuIr、PdPtRuOs又はPdPtRuIrOsである請求項1又は2に記載の触媒系。
【請求項4】
イオン交換電解質は、カチオン交換電解質である請求項1〜3のいずれかに記載の触媒系。
【請求項5】
ナノ多孔性又はメゾ多孔性パラジウム及び白金、金、ルテニウム、ロジウム、オスミウム、イリジウム、銀、ニッケル、銅、コバルト、鉄、クロム、鉛、バナジウム、タングステン、炭素、窒素、酸素、硫黄、セレン、テルル又は燐の1以上を包含する多成分触媒。
【請求項6】
1以上の金属先駆体を鋳型剤の存在下で凝固させ、次いで該鋳型剤を除くことを包含する請求項5に記載の触媒の製造方法。
【請求項7】
無機及び/又は有機分子を酸化又は還元する方法において、該分子を請求項1〜4のいずれかに記載の触媒系又は請求項5に記載の触媒と接触させることを包含する方法。
【請求項8】
有機分子は1〜12炭素原子を有する請求項7に記載の方法。
【請求項9】
有機分子はメタノールである請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれかに記載の触媒系又は請求項5に記載の触媒の、有機及び/又は無機分子の酸化又は還元のための使用。
【請求項11】
触媒をイオン交換電解質と接触させることを包含する請求項1〜4のいずれかに記載の触媒系の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれかに記載の触媒系又は請求項5に記載の触媒を包含する電極。
【請求項13】
請求項12に記載の電極を包含する燃料電池。
【請求項14】
請求項12に記載の電極を包含するセンサー。
【請求項15】
試料を請求項14に記載のセンサーと接触させ、分子の酸化又は還元による電流を検出することを包含する試料中の有機及び/又は無機分子を検出する方法。
【請求項16】
例の1以上に関連してここに実質的に記載した触媒系又は触媒。
【請求項17】
例の1以上に関連してここに実質的に記載した方法。
【請求項18】
例の1以上に関連してここに実質的に記載した使用。
【請求項19】
例の1以上に関連してここに実質的に記載した電極。
【請求項20】
例の1以上に関連してここに実質的に記載した燃料電池又はセンサー。
【請求項21】
例の1以上に関連してここに実質的に記載した方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2007−522921(P2007−522921A)
【公表日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−548373(P2006−548373)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【国際出願番号】PCT/GB2005/000002
【国際公開番号】WO2005/067082
【国際公開日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(506233302)アイシー・イノベーションズ・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】