説明

ナノ微粒子の機能性インクのインクジェット印刷

インクを基材に塗布するための装置は、少なくともそのノズルの一部が電気導電性であるインク出口を規定するノズルを含む。第一の電源は、出口ノズルに第一の電位を印加する。1つ以上の補助電極は出口ノズル近傍に配置され、第二の電源は補助電極に第二の電位を印加する。この装置は、ノズルから基材上の標的区域に対してインクを放出させるためのピエゾ電動アクチュエータまたは熱アクチュエータを含み、当該インクは液体ビヒクルおよびそのビヒクル中に分散された色素粒子を含む。少なくとも色素粒子は、典型的には印加電位のために帯電する。1つの実施形態において、補助電極はノズルにより形成される電極周辺で同軸上に配置される。他の実施形態において、補助電極はノズルの向こう側で、ノズルにより形成される電極と同じ共通軸上に配置される。ノズル、補助電極の配置、ならびに第一および第二の電位の値は、色素粒子が標的区域内に濃縮され、それによって、インク中の色素粒子の濃度よりも高い濃度を有する色素粒子の分量が標的区域内に沈着するよう選択される。本発明は、インクを基材に塗布する方法に及ぶ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の背景)
本発明は、ナノ粒子を含むインクのインクジェット印刷の方法に関し、および当該方法を実施するための印刷装置に関する。
【0002】
本方法および装置は、具体的には、これに限る訳ではないが、高密度の相互接続性(interconnecting)粒子および小さいフィーチャーサイズ(feature size)の印刷パターンが要求されるエレクトロニクス用途のための機能性インク印刷に好ましい。
【背景技術】
【0003】
機能性インクの印刷は電子分野で長い伝統を有する。例えば、プリント回路基板上に相互接続および抵抗器をスクリーン印刷するために、色素ベースのインクが用いられる。これらの用途に用いられる圧膜インクは、ビヒクルおよび銀や炭素の色素をそれぞれ含み、その色素粒子はナノメーター範囲の寸法を有し得る。より最近の開発では、回路の受動部品だけでなく能動部品を印刷することを目指している。1つの例として、本願の出願人による国際特許出願第2004/068536号のプリント・ナノ微粒子シリコンの開示があり、それは太陽電池およびトランジスタのような装置における半導体層を提供する。
【0004】
伝統的に、機能材料の大部分は、従来の印刷技術、例えばスクリーン印刷およびフレキソ印刷により印刷されるが、その両方とも印刷される設計それぞれのマスター・パターン(例えば、スクリーンまたは印刷プレート)の作製を要求する。使用における柔軟性および高い空間精度のために、デジタル印刷法、例えばインクジェット印刷が適用されるべきであるということは一般的には望ましいとされている。しかしながら、インクジェットノズルの目詰まりを防止するために、インクジェット印刷では、粒子が比較的分散された液体および低粘度のインクが要求される。このことは、プリントパターンの所要の機能性を達成するために高密度の粒子が基材上の特定の位置に導かれなければならない電子分野での特定の用途に関して、この方法を望ましくないものとする。
【0005】
小さいフィーチャーサイズ・パターンの形成に関して、印刷構造に機能的特性を与えるナノ粒子を含む溶液のインクジェット印刷が知られている。最も一般的な用途は、インク中に分散された伝導性ナノ粒子、例えば銀ナノ粒子を用いた、回路のための導電性トレース(conductive trace)のインクジェット印刷である。そのような用途において、低抵抗性は、分散剤の除去およびそれに続くナノ粒子の焼結の効果を伴う熱処理により得られる。機能的層堆積(functional layer deposition)におけるより最近の開発としては、ナノ微粒子の透明導電性酸化物のインクジェット印刷があり、その印刷構造および粒子パッキングは、乾燥過程での電磁波照射を用いた処理により制御される。
【0006】
ナノ粒子を含有するインクを含む機能性インクからなるインクジェット印刷構造におけるパターニングの正確性を高めるための他の方法としては、電気流体力学ジェット印刷があり、Jang-Ung Park et al (Nature, Vol 6 (2007) p. 782)により記載される。この場合、印刷構造の解像度は、ノズルから放出される液滴を形成させ、その運動を制御するインクジェット装置のマイクロキャピラリーノズルに印加される静電界により高められる。しかしながら、電気流体力学ジェット印刷は、印刷構造における粒子の密集度または配置に対して効果がなく、所望の特性を達成するために後処理が必要である。
【0007】
特定の用途において、一般に粒子、特にナノ粒子からなる塗布層の機能性は、これらの粒子の相互接続ネットワークにより与えられる。そのような層の密集を達成するために、電気泳動塗装(electrophoretic deposition)の改変が、Tuckにより発光ディスプレイの分野に関する英国特許第2355338号において開示された。この文献は、印加電界による、バインダー材料の希釈溶液から粒子の強制的な堆積を教示する。溶液中のバインダー量は、溶媒の蒸発後に堆積物が微細ウェルの底の適所に留まるよう慎重に計算される。他の通常の電気泳動塗装技術におけるように、溶液のバッチからコーティングに用いられ、処理の間に液体流のパターンを形成させ、または制御するものはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際特許出願第2004/068536号
【特許文献2】英国特許第2355338号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Jang-Ung Park et al (Nature, Vol 6 (2007) p. 782)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(発明の要約)
本発明によれば、インクを基材に塗布する方法が提供され、前記方法は、
液体ビヒクルおよびビヒクル中に分散された少なくとも帯電した色素粒子を含むインクを調製すること;
インク用の出口ノズルに第一の電位を印加すること;
出口ノズル近傍に配置された1つ以上の補助電極に少なくとも第二の電位を印加すること;および
インクの液滴を出口ノズルから基材上の標的区域(target zone)に対して放出することを含み、
出口ノズルおよび1つ以上の補助電極の配置、ならびに第一および第二の電位の値は、色素粒子が標的区域内に濃縮され、それによって、インク中の色素粒子の濃度よりも高い濃度を有する色素粒子の分量が標的領域内に沈着するよう選択されることを特徴とする。
【0011】
色素粒子は、永久電荷を有していてもよいし、または誘導電荷を有していてもよい。後者の場合、粒子における電荷は印加電位により誘導され得る。
【0012】
本方法は、好ましくは、印加電位を利用して塗布過程の間に色素の電気泳動運動を引き起こし、色素粒子を標的区域内に濃縮するために設計される。
【0013】
本方法は、好ましくは、印加電位を利用してインクの液体ビヒクルに対して電気流体力学的な力を発生させ、液体ビヒクルを標的区域から離れて分散させるためにさらに設計される。
【0014】
出口ノズル近傍に配置される1つ以上の補助電極は、ノズルにより形成される電極周辺で同軸上に配置されてよい。
【0015】
基材は、インクの液滴がノズルから標的区域に対して放出される間、規定の電位に維持され得る。
【0016】
好ましくは、基材は接地電位または地電位に維持される。
【0017】
好ましくは、出口ノズルと1つ以上の補助電極との間の電位差は、少なくとも出口ノズルと基材との間の電位差と同じ大きさである。
【0018】
本発明の好ましい実施形態において、出口ノズルと1つ以上の補助電極との間の電位差は、1〜100Vの範囲内にある。
【0019】
本方法は、少なくとも1つの補助電極を、基材の裏側で、ノズルにより形成される電極と同じ共通軸上に配置することを含み得る。
【0020】
本方法の1つの実施形態において、基材(substrate)を支える付加的な基板(base plate)は、規定の電位で維持される。
【0021】
好ましくは、基板は接地電位または地電位で維持される。
【0022】
1つの実施形態において、基板は基材の裏側に配置される、すなわち基材はノズルと基板の間に置かれる。
【0023】
別の実施形態において、基板は基材とノズルの間に置かれる。
【0024】
少なくとも1つの補助電極が基材の裏側に配置される場合、ノズルおよび基材の裏側の少なくとも1つの補助電極は、基材に対して相対的に可動式であってよく、ノズルと前記少なくとも1つの補助電極の移動は同期される。
【0025】
別の実施形態において、基板における複数の電極および対応する穴は、固定された絶対位置で維持される。
【0026】
さらなる実施形態において、ノズルと補助電極が固定された位置で維持され、基材はそれに対して相対的に移動する。
【0027】
好ましくは、補助電極の電位は、荷電ナノ粒子をノズルの電位よりもさらに引き付けるよう維持される。
【0028】
好ましい実施形態において、補助電極とノズルの電位の比は、補助電極近傍の基板における穴の半径とノズルの半径の比よりも大きく保たれる。
【0029】
さらに本発明によれば、インクを基材に塗布するための装置が提供され、前記装置は、
インクの出口を規定するノズルであって、少なくともそのノズルの一部が電気導電性であるノズル;
出口ノズルに第一の電位を印加するための第一の電源;
出口ノズル近傍に配置された1つ以上の補助電極;
前記1つ以上の補助電極に第二の電位を印加するための第二の電源;および
液体ビヒクルおよびビヒクル中に分散された少なくとも帯電した色素粒子を含むインクを、ノズルから基材上の標的区域に対して放出させるための手段を含み、
ノズルおよび1つ以上の補助電極の配置、ならびに第一および第二の電位の値は、色素粒子が標的区域内に濃縮され、それによって、インク中の色素粒子の濃度よりも高い濃度を有する色素粒子の分量が標的領域内に沈着するよう選択されることを特徴とする。
【0030】
1つの実施形態において、出口ノズル近傍に配置される1つ以上の補助電極は、ノズルにより形成される電極周辺で同軸上に配置され得る。
【0031】
電源は、出口ノズルと1つ以上の補助電極との間の電位差が、少なくとも出口ノズルと基材との間の電位差と同じ大きさとなるよう維持するために配置され得る。
【0032】
好ましくは、電源は、出口ノズルと1つ以上の補助電極との間の電位を1〜100Vの範囲内に維持するために配置される。
【0033】
他の実施形態において、少なくとも1つの補助電極はノズルの向こう側に配置されてよく、すなわち、基材は、ノズルにより形成される電極と同じ共通軸上で、ノズルと基板の間に置かれ、それにより、基材は使用時にノズルと前記少なくとも1つの補助電極との間にあり得る。
【0034】
装置は、基材を支えるために配置された基板を含み、前記基板は規定の電位で維持される。
【0035】
電源は、荷電ナノ粒子をノズルの電位よりもさらに引き付ける補助電極の電位を維持するために配置されてよい。
【0036】
好ましくは、電源は、補助電極とノズルの電位の比を、補助電極近傍の基板における穴の半径とノズルの半径の比より大きく保つために配置される。
【0037】
本発明は、非線形または不均一な収束電界(focusing electric field)の印加により達成される電気泳動効果および電気流体力学効果の組み合わせによる、インクジェット印刷の間の色素粒子の分離および密集方法に関する。そのような過程の2つの最終的な目的は、第1には高パッキング密度の粒子による小領域の印刷を可能にすること、および第2には小さいフィーチャーサイズによる高解像度パターンを作り出すことである。特定の用途は、相互接続性半導体ナノ粒子の緻密層を要求する電子部品および回路の印刷のためのものである。本明細書中で開示されるように、本発明の実施形態は、所望の電界を形成させるために要求される印刷システムの特定の態様をさらに含む。これらは2つの好ましい実施形態を参酌して説明される。
【0038】
この用途の目的のために、インクには2つの成分、すなわち小さい粒子からなる色素と、バインダー、溶媒および、いずれかの他の適切な液体または可溶性添加物、例えば界面活性剤、湿潤剤もしくは乾燥剤で構成される液体であるビヒクルとを含むものが考えられる。好ましくは、色素粒子は、1nm〜1ミクロンの間の特徴的なサイズを有するナノ粒子であるが、より大きな粒子が用いられてもよい。インクジェット印刷において、色素は、凝塊形成を伴わずビヒクル中に一様に分散されるべきであること、およびインクの粘性は印刷ノズルの詰まりを予防するために比較的低粘度であるべきことが、一般に認められている。
【発明の効果】
【0039】
一般に、これらの考慮すべき事項は、個々の粒子間の電荷の輸送を可能にするために高度に凝塊化されていなければならない電子材料の印刷層の特徴とは適合しないものである。それ故、バインダー材料の焼結または熱分解などのさらなる処理工程が、粒子間の良好な接合を得るために要求される。粒子が印刷過程で接合され、大部分のビヒクルから分離できれば、後の工程を避けることができ、そのような装置は直接的に印刷可能である。本発明の方法および装置では、色素に運動を与えるための電気泳動と液滴の液相を分散するための電気流体力学との組み合わせにより、これが達成される。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】同軸管を含む、本発明に関するインクジェットノズルの第1の態様の概略断面図である。
【図2】単一の管および関係する針電極を含む、本発明に関するインクジェットノズルの第2の態様の概略断面図である。
【図3】本発明の原理を利用して形成されたトランジスタ試験構造物の略図である。
【図4】本発明の方法により作製されたトランジスタのソース−ドレイン特性を、本発明の方法によらずに作製された別の類似のトランジスタと比較するグラフである。
【図5】本発明に関するインクジェット印刷装置の実施形態の簡略化した略図である。
【図6】本発明の原理に従いノズルに印加された電位を用いた、および従来法による、フィルター紙に対してノズルから塗布された、シリコン・ナノ粒子を含むインク液滴の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
(実施形態の説明)
上記のように、電気泳動塗布および電気流体力学インクジェット印刷の両方とも知られているが、同一過程でのその両方の組合せは直観的に相反するものであり、これ達成することは自明なことではない。本方法の鍵となる重要な点は、色素粒子が規定の電荷を保持し、およびビヒクルが逆の電荷を有するか又は中性を維持しなければならないことである。これらの電荷は、永久のものであってもよいし、または印刷過程の間にもしくは印字ヘッドへの供給の間に電位が印加されることによって誘導されるものであってもよい。
【0042】
粒子とビヒクルの両方が荷電された場合、印加電界は粒子と液体の双方の絶対的な運動を引き起こし得る。粒子は荷電されているが、ビヒクルが荷電されてない場合は、液体ビヒクルは電界による影響を受けないが、固形物質は力をなおも経験するであろう。しかしながら、両方の場合とも、2つの成分の相対的な運動は生じ、特定の領域内での色素の濃縮を伴い得る。好ましくは、粒子の濃縮は、液滴の中央で、インクジェットノズルの軸と同じ方向に直接的に並ぶべきである。これが生じるためには、電界はノズルと基材との間の空間に放射成分(radial component)を有するべきである。このように、電界は、粒子により保持される荷電に依存して、液滴が基材に近づくにつれ発散するか、または収束するかのいずれかであろう。この状況が達成され得る方法は、以下の好ましい実施形態を参酌して説明される。
【0043】
図1において、インクジェットノズル構造物を含む本発明による装置の第一の実施形態が概略的に示される。この装置は、インクジェット印刷の分野の当業者には周知の熱またはピエゾ電動技術を利用し得るノズルからインクを放出させるための手段を含む(この図では示されない)。液体ビヒクル10およびナノ微粒子の色素12からなるインクは、基材14に対して印刷されるべきものである。色素ナノ粒子は、規定の電荷を保持すべきであり、この例の目的に関して電荷は負である。液体ビヒクルは、中性であってもよいし、または正の電荷を保持していてもよく、この場合ではそれは正である。電荷は、インクの固有の電荷分離の結果によるものであってもよく、または2つの同軸を有する電動管16および18のうちの第一の内側の管16に印加された電位Vの印加により誘導されたものであってもよい。管16は、電極としての役割を果たし、その下端でインクを基材に放出するためのノズル20を規定する。
【0044】
電位Vはナノ粒子の電荷と反対のものであり、この例の目的のために正とする。基材14が等電位平面を形成するとした場合、それは好ましくは接地電位である。これは、通常、基材がそれ自体導電性であるか、または導電性の担体上にマウントされた薄い誘電体を含む場合のものである。薄い絶縁基材に関して、多くの確立された方法を、低電位を維持するために用いることができる。
【0045】
ノズル20の下端より下に延びる第2の外側の同軸管18は電位Vで維持され、ウェーネルト電極として役立つ。電位Vは荷電ナノ粒子に対して反発するものでなければならず、この場合では負である。この実施形態のさらなる改良において、複数のそのような同軸電極を、電界を規定するためにさらに用いることができるであろう。あるいは、前記電極の1つは、他の電極と同軸であり、基材とノズル20との間に配置された穴を有する平板の形態をとることができるであろう。
【0046】
図1の右半分は、そのような状況で生じる電位および電界を示す。ノズル20の直下では、印加電位Vにより生じた電界Eがノズル20の軸に沿って整列され、基材の方向を向いており、したがってノズルから出る液体インクまたはその内部の色素ナノ粒子のいずれの軌道に対しても影響がない。しかしながら、中心をわずかに外れた物質については、印加電位Vにより生じた放射状に広がる電界Eの交軸成分の影響のために、粒子はノズル軸方向への電気泳動ドリフトを経験する。高い分散性の電界を達成するために、VとVとの間の電位差は、少なくともVと基材との間の電位差と同じ距離の場合に同程度の大きさでなければならない。液体ビヒクルが反対の電荷を有する場合、それは放射状に外側への電気流体力学ドリフトを経験する。この正味の結果は、元のインク混合物におけるものより、ビヒクルに対する粒子の非常に高い比(またはバインダーに対する粒子の比)を示す、ノズルの真下での粒子の濃縮である。
【0047】
したがって、要約すれば、同軸の電極16および18に反対の電位を印加することで、非一様な電界が形成され、それが印刷領域の中心へ放射状に内向きに色素粒子を導き、色素粒子を電気泳動により濃縮しつつ、同時に液体ビヒクルを印刷領域の中心から離して外向きに導く。実施例で記載されるように、粒子の強い電気泳動運動を達成するために、マイクロあたりボルトオーダーの電界が要求される。結果として、VおよびVの典型的な値は、1〜100Vの範囲となるであろうし、好ましくは5〜50Vの範囲にある。
【0048】
図2で示される第2の実施形態において、ノズル20を規定する単一の管16だけがインクジェット印刷装置に用いられ、電界の収束作用(focusing action)の幾何学的配置は、基材14のすぐ裏側の針電極24の存在により達成される。さらに、管16はそれに印加された電位Vを有する一方で、針電極24はそれに印加された電位Vを有する。針電極の電位Vは、ノズルの電位Vより荷電ナノ粒子をもさらに引きつけるものでなければならない。
【0049】
この実施形態では、電界が基材14越しに貫通する必要がある。従って、比較的薄い誘電体基板が好ましい。針電極24は単一の構成部品であってよく、ガントリーに乗せられ、ノズル16を含むプリントヘッドの位置を追従するための機械的手段により移動されてよい。あるいは、複数のそのような電極を固定された位置の穴に取り付け、それらの電位を電気的に変えることがでるであろう。さらなる変更には、電極およびノズルの位置を固定された状態に維持し、基材を動かすことがある。そのような場合すべてにおいて、随意のバックプレーン(back plane)26を、基材を支えその位置を規定するのと同時に、印刷されるべき位置で電界の収束を増大させるために用いることができるであろう。あるいは、薄い基材の場合には、バックプレーンは、基材とノズルとの間に随意に配置することができるであろう。示されるように、バックプレーンは半径rの穴を伴って形成され、針電極24の先端はその穴の中心に、または中心付近に配置される。
【0050】
示される場合では、正電荷のビヒクル10中の負電荷の色素粒子12のため、電位VおよびVは正であり、VはVより大きいことが好ましく、またバックプレーン26は接地電位で維持される。第一の実施形態におけるように、形成される電界の効果は、発散性の電界Eの横断成分により生じる、粒子の印刷領域中心部への内向きの電気泳動ドリフトであり、かつ液相に対する外向きの電気流体力学的な力である。以下の実施例に記載されるように、この実施形態は、バックプレーンの電位よりも大きい又はそれと等しいすべてのV電位に関して想定されるように機能するであろうが、第二の電極は、その電極の大きさ(V)の第一の電極の大きさ(V)に対する比が、その穴の半径(r)のノズル半径(r)に対する比よりも大きい場合に、より大きな効果を示すであろう。実際には、この比はV/V > 2 r/rであろう。
【0051】
一定の割合で縮尺されていない簡略化した概略線図である図5は、本発明によるインクジェット印刷装置の1つの実施形態の主要な構成部品を示す。図5において、容器40は、上記のように液体ビヒクル10およびナノ微粒子の色素12を含むインク42の量を含む。容器40とつながって、図1に関連して上記のように同軸の導電性の外側の管18により囲まれた導電性の内側の管16の下端で規定されるノズル20がある。内側の管16の内部には、導体48を介して制御回路46と連結されたピエゾ電動アクチュエータまたは熱アクチュエータ44がある。当業者には既知の方法で短い電気パルス(brief electrical pulse)がアクチュエータ44に伝えられ、アクチュエータは瞬時に変形するか(ピエゾ電気アクチュエータの場合)またはインクの液体ビヒクル10を少量加熱し揮発させ(熱アクチュエータの場合)、こうして、インクの液滴50を管16の開放端で規定されるノズル20から放出させる。
【0052】
図5の拡大した詳細図においてよく見出せるように、液体ビヒクル10中の色素ナノ粒子12の分布は実質的に一様であり、このように、ノズルから出た際の液滴50内のナノ粒子の分布は実質的に一様である。しかしながら、各電源から管16および18のそれぞれに印加された電位VおよびVにより生じる電界の効果のため、色素ナノ粒子12は、落下する液滴52で示されるように、落ちるにつれ液滴の中心に向かって電気液動的に濃縮される。
【0053】
実施例1
予備的な実例において、電気泳動をインクジェット印刷過程に含める効果を、図3で示されるようなトランジスタ試験構造物に対して、手で、塗布される別々の液滴を用いて模擬実験を行った。その構造物は、ポリメチルメタクリラートを含む基材30上に形成され、薄い誘電体層38に対して積層されたソース電極32、ドレイン電極34およびゲート電極36を有する電界効果トランジスタ(FET)の形態であった。
【0054】
トランジスタ構造物を作り出すために、バインダーを含まない希薄な低粘度のインクを、3回蒸留した水中にシリコン・ナノ粒子を分散させることにより作製した。シリコン・ナノ粒子は、表題「Method of Producing Stable Oxygen Terminated Semiconducting Nanoparticles」の南アフリカ特許出願第2008/02727号に記載の処理に従って粉末化することにより作り出した。粒子の電荷を決定するために、3ボルトの電位差をソース電極とドレイン電極の間に印加した。正極の方向への粒子の電気泳動ドリフトは、粒子の電荷が負であったことを示した。
【0055】
粒子の密集化または濃縮は、20Vの正のバイアスをゲート電極に印加することにより達成され、同様の方法で、ゲート絶縁体36が薄い誘電体基板14の代わりをして、上記の第二の態様の針電極に印加することにより達成された。電位は、液滴が完全に乾くまで維持された。比較として、同じインクの同様の構造物に対する塗布を、電界なしで行った。
【0056】
図4は、異なる印加ゲート電位に関する2つのトランジスタ(すなわち、塗布の間に電位を印加するか、または印加しない他は同じ作製トランジスタ)のソース−ドレイン特性を示す。下の曲線は、電位の印加を伴わない作製トランジスタのものであり、上の曲線は本発明の方法に従った作製トランジスタのものである。
【0057】
第一の重要な違いは、密集したナノ粒子を含むトランジスタにおけるドレイン−ソース電流は、印加電界を伴わない堆積された層における対応電流よりも1万倍超大きいことである。第二には、類似の増大が、ゲート・バイアスの印加により切り替わるソース−ドレイン電流に見られた。
【0058】
実施例2
上記の第二の実施態様の巨視的な模擬実験を、液滴塗布の間の電気泳動効果および電気流体力学効果を調べるために組み立てた。この模擬実験では、図2の単一の管16を表す23ゲージ(0.6mm)のブラント・スチールニードル(blunt steel needle)を、接地電位に保たれた固体アルミニウム・バックプレートの上1.5mmの距離に置いた。この配置は、付属の針電極24と接地電位の基板26の電位Vを固定することに等しい。従って、結果的に得られる電界は、ノズル軸に沿って一様であり、ノズル半径よりも大きな放射距離で広がり、このように、図2で示される電界パターンよりも図1で示される電界パターンに実際には酷似することとなる。
【0059】
バインダーを含まない希薄な低粘度のインクを、3回蒸留した水中にシリコン・ナノ粒子を分散させることにより作製した。シリコン・ナノ粒子は、表題「Method of Producing Stable Oxygen Terminated Semiconducting Nanoparticles」の南アフリカ特許出願第2008/02727号に記載の処理に従って、p型シリコンウエハを粉末化することにより作り出した。弱い吸着性の基材、例えば通常のオフィス紙に対して、この系で塗布されるサイズの液滴は、数十分間液体として残り、インク中の成分物質の再分布を可能にする。したがって、基材上の静止液体中のシリコン・ナノ粒子の電気泳動運動というよりはむしろ液滴が塗布された場合の材料の分布を調べるために、高い吸着性のろ紙を基材物質として用いた。
【0060】
塗布の間の、針への1.5kVの負電位の印加は、液体ビヒクルに対する電気流体力学作用と液体に対して相対的なシリコン・ナノ粒子の電気泳動的運動の両方を誘導した。これらの両方の効果は、印加電位を用いて及び用いずに塗布された乾燥後のインク液滴の写真である図6で分かる。電界の印加を行わなかった液滴(1)は大きく、塗布された物質は一様に広がっている。電位を針に印加した場合では、水ビヒクル、従って液滴は基材に付着し、針先端でより小さな液滴の形成を導く。しかしながら、さらに重要なことには、電界の放射成分は、塗布の間に液滴中の粒子の電気泳動運動をもたらし、液滴の中心での個体物質の濃縮(2)という結果となる。
【0061】
模擬実験の規模の大きさのために、2つの実施形態で必要とされる電位と比べて、大きな電位を針に印加することが必要である。両方の実施例において、粒子の電気泳動運動に必要とされる通常の電界強度は、1kV/mmのオーダーである。2つの実施形態の実際の規模に縮尺した場合、VとVとの間、地表との間の電位差は共に1V〜100Vの範囲内、および好ましくは5V〜50Vの範囲内が必要とされるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを基材に塗布する方法であって、
液体ビヒクルおよび前記ビヒクル中に分散された少なくとも帯電した色素粒子を含むインクを調製すること;
インク用の出口ノズルに第一の電位を印加すること;
出口ノズル近傍に配置された1つ以上の補助電極に少なくとも第二の電位を印加すること;および
インクの液滴を出口ノズルから基材上の標的区域に対して放出させることを含む方法であり、
出口ノズルおよび1つ以上の補助電極の配置、ならびに第一および第二の電位の値は、色素粒子が標的区域内に濃縮され、それによって、インク中の色素粒子の濃度よりも高い濃度を有する色素粒子の分量が標的領域内に沈着するよう選択されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
色素粒子が永久電荷を有する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
色素粒子が誘導電荷を有する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
印加電位を利用して塗布過程の間に色素の電気泳動運動を引き起こし、色素粒子を標的区域内に濃縮するために設計される、請求項1〜3のいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
印加電位を利用して液体流体力学的な力をインクの液体ビヒクルに対して生じさせ、液体ビヒクルを標的区域から分散させるために設計される、請求項1〜4のいずれか一項記載の方法。
【請求項6】
出口ノズル近傍に配置された1つ以上の補助電極が、ノズルにより形成される電極周辺で同軸上に配置される、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項7】
基材が、インクの液滴がノズルから標的区域に対して放出される間、規定の電気で維持される、請求項1〜6のいずれか一項記載の方法。
【請求項8】
基材が接地電位または地電位で維持される、請求項7記載の方法。
【請求項9】
出口ノズルと1つ以上の補助電極との間の電位差が、少なくとも出口ノズルと基材との間の電位差と同じ大きさである、請求項1〜8のいずれか一項記載の方法。
【請求項10】
出口ノズルと1つ以上の補助電極との間の電位差が1〜100Vの範囲内にある、請求項9記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1つ以上の補助電極を、基材の裏側で、ノズルにより形成される電極と同じ共通軸上に配置することを含む、請求項1〜5のいずれか一項記載の方法。
【請求項12】
基材を支えるための基板を備え、前記基板が規定の電位で維持される、請求項11記載の方法。
【請求項13】
基板が接地電位または地電位で維持される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
基板が基材の裏側に配置され、前記基材がノズルと基板との間に配置される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
基板が基材とノズルの間に配置される、請求項12または13に記載の方法。
【請求項16】
ノズルおよび基材の裏側の少なくとも1つの補助電極が、基材に対して相対的に可動式であり、ノズルおよび前記少なくとも1つの補助電極の移動が、同期されている、請求項11記載の方法。
【請求項17】
複数の電極および対応する穴が、固定された絶対位置で維持される、請求項11記載の方法。
【請求項18】
ノズルおよび補助電極が固定された位置で維持され、基材はそれに対して相対的に移動する、請求項11記載の方法。
【請求項19】
補助電極の電位が、ノズルの電位よりも荷電ナノ粒子をさらに引き付けるよう維持される、請求項12〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
補助電極とノズルの電位の比が、補助電極近傍の基板における穴の半径とノズルの半径の比よりも大きく保たれる、請求項19記載の方法。
【請求項21】
インクを基材に塗布するための装置であって、
インクの出口を規定するノズルであって、少なくともそのノズルの一部が電気導電性であるノズル;
出口ノズルに第一の電位を印加するための第一の電源;
出口ノズル近傍に配置された1つ以上の補助電極;
前記1つ以上の補助電極に第二の電位を印加するための第二の電源;および
液体ビヒクルおよび前記ビヒクル中に分散された少なくとも帯電した色素粒子を含むインクを、ノズルから基材上の標的区域に対して放出させるための手段を含む装置であり、
ノズルおよび1つ以上の補助電極の配置、ならびに第一および第二の電位の値は、色素粒子が標的区域内に濃縮され、それによって、インク中の色素粒子の濃度よりも高い濃度を有する色素粒子の分量が標的区域内に沈着するよう選択されることを特徴とする、装置。
【請求項22】
出口ノズル近傍に配置された1つ以上の補助電極が、ノズルにより形成される電極周辺で同軸上に配置されたものである、請求項21記載の装置。
【請求項23】
電源が、少なくとも出口ノズルと基材との間の電位差と同じ大きさの出口ノズルと1つ以上の補助電極との間の電位差を維持するために配置されたものである、請求項22記載の装置。
【請求項24】
電源が、出口ノズルと1つ以上の補助電極との間の電位差を1〜100Vの範囲内に維持するために配置されたものである、請求項23記載の装置。
【請求項25】
ノズルにより形成される電極と同じ共通軸上で、ノズルの向こう側に配置された少なくとも1つの補助電極を含み、使用に際して基材がノズルと前記少なくとも1つの補助電極の間にあることを特徴とする、請求項21記載の装置。
【請求項26】
基材を支えるために配置された基板を含み、当該基板は規定の電位で維持されることを特徴とする、請求項25記載の装置。
【請求項27】
電源が、ノズルの電位よりも荷電ナノ粒子をさらに引き付けるよう補助電極の電位を維持するために配置される、請求項26記載の装置。
【請求項28】
電源が、補助電極とノズルとの電位の比を、補助電極近傍の基板における穴の半径とノズルの半径との比より大きく保つために配置される、請求項27記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2011−525153(P2011−525153A)
【公表日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−512259(P2011−512259)
【出願日】平成21年6月2日(2009.6.2)
【国際出願番号】PCT/IB2009/052317
【国際公開番号】WO2009/147619
【国際公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【出願人】(504425406)ユニバーシティ・オブ・ケープ・タウン (9)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITY OF CAPE TOWN
【Fターム(参考)】