説明

ナノ材料の観察試料作製装置及び作製方法

【課題】 ナノ材料が基板上に固定化された観察試料を良好な状態に作製することが可能な観察試料作製装置及び作製方法を提供する。
【解決手段】 静電噴霧用ノズル20内部のナノ材料分散液13と観察基板10との間に電圧を印加し、分散液13の静電噴霧、乾燥、及びナノ材料の静電付着によって基板10上にナノ材料を固定化して観察試料を作製する。また、導電性のグリッド部11と支持膜12とを有する観察基板10に対し、基板10の下方に基準電極81を設けるとともに、基板10のグリッド部11に静電噴霧用の電圧と同一の極性のバイアス電圧を印加して、ナノ材料の基板10上での固定化位置の調整を行う。これにより、良好な状態のナノ材料の観察試料を作製することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ材料が溶媒中に分散された分散液を静電噴霧してナノ材料を観察基板上に固定化することで、ナノ材料を観察するための観察試料を作製する観察試料作製装置、及び観察試料作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジーの発展に伴い、多種多様なナノ材料が創製されている。ナノ材料では、その極微小なサイズなどの効果によって、通常のバルク体の材料にはない新たな特性が現れることから、様々な分野、用途での活用が期待されている。
【0003】
上記したナノ材料は、バルク材料とは異なり、非常に小さいためにそのハンドリングが難しく、また、複数のナノ材料が凝集して凝集体を形成しやすいという性質がある。このため、ナノ材料は多くの場合、溶媒中にナノ材料が分散されたナノ材料分散液の状態で取り扱われる。また、このようなナノ材料の利用方法の一例として、バルク材料の基板上にナノ材料を固定化する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】国際公開WO2004/074172号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ナノ材料を直接的に観察する手段として、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)、及び透過型電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)が用いられている。特に、ナノ材料のサイズが徐々に小さくなりつつある状況において、高い分解能で観察することが可能なTEMによるナノ材料の観察のニーズが高まっている。また、ナノ材料のTEM観察では、一般に、メッシュ状に形成された導電性のグリッド部と、グリッド部の開口に設けられたナノ材料支持用の薄膜とを有する観察基板を用い、この観察基板の支持膜上にナノ材料を固定化することでTEM観察用の観察試料とする方法が用いられている。
【0005】
ここで、観察対象のナノ材料を観察基板の支持膜上に固定化する方法としては、ナノ材料が分散されたナノ材料分散液を基板表面に塗布する方法がある。しかしながら、この方法では、ナノ材料分散液を塗布した後に、その溶媒を乾燥させる工程においてナノ材料が凝集してしまうという問題がある。このようにナノ材料が凝集体を形成した場合、個々のナノ材料の形状、大きさ等を観察することができない。
【0006】
また、ナノ材料を観察基板上に固定化する他の方法として、基板に対してナノ材料分散液を噴霧する静電噴霧法が考えられる(特許文献1)。この静電噴霧法では、ナノ材料分散液を充填したキャピラリ状のノズルに高電圧を印加し、ノズル先端の分散液噴霧口から基板に向けて帯電した分散液の液滴を噴霧して、基板表面にナノ材料を固定化する。しかしながら、本願発明者が静電噴霧法を用いたTEM観察試料の作製について検討したところ、ノズルから噴霧される帯電したナノ材料は、観察基板において支持膜よりも導電性のグリッド部に付着しやすいことがわかった。この場合、TEM観察に用いられる支持膜上にナノ材料が充分に固定化されず、良好な状態の観察試料を得ることができない。
【0007】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、ナノ材料が基板上に固定化され、ナノ材料の観察に用いられる観察試料を、良好な状態に作製することが可能な観察試料作製装置、及び観察試料作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的を達成するために、本発明による観察試料作製装置は、ナノ材料を観察基板上に固定化して観察試料を作製する作製装置であって、(1)ナノ材料が溶媒中に分散されたナノ材料分散液を内部に蓄えることが可能な筒状構造を有し、その先端部にナノ材料分散液を静電噴霧するための分散液噴霧口が設けられたノズル本体を含む静電噴霧用ノズルと、(2)1または複数の開口を有するメッシュ状に形成された導電性のグリッド部、及びグリッド部の開口に設けられて観察対象のナノ材料が固定化されるナノ材料支持膜を有する観察基板について、静電噴霧用ノズルの分散液噴霧口に対向するように観察基板を支持する基板支持手段と、(3)観察基板に対して静電噴霧用ノズルとは反対側に観察基板から離間するように配置され、基準電位と電気的に接続される基準電極と、(4)ナノ材料分散液と基準電極との間に、静電噴霧用の電圧を印加する噴霧電圧印加手段と、(5)観察基板のグリッド部と基準電極との間に、静電噴霧用の電圧と同一の極性であって、観察基板上でのナノ材料の固定化位置を調整するために用いられるバイアス電圧を印加する調整電圧印加手段とを備えることを特徴とする。
【0009】
また、本発明による観察試料作製方法は、ナノ材料を観察基板上に固定化して観察試料を作製する作製方法であって、(a)ナノ材料が溶媒中に分散されたナノ材料分散液を内部に蓄えることが可能な筒状構造を有し、その先端部にナノ材料分散液を静電噴霧するための分散液噴霧口が設けられたノズル本体を含む静電噴霧用ノズルを用い、ノズル本体の内部にナノ材料分散液を導入する分散液導入ステップと、(b)1または複数の開口を有するメッシュ状に形成された導電性のグリッド部、及びグリッド部の開口に設けられて観察対象のナノ材料が固定化されるナノ材料支持膜を有する観察基板について、静電噴霧用ノズルの分散液噴霧口に対向するように観察基板を設置する基板設置ステップと、(c)観察基板に対して静電噴霧用ノズルとは反対側に観察基板から離間するように配置され、基準電位と電気的に接続される基準電極に対して、ナノ材料分散液と基準電極との間に、静電噴霧用の電圧を印加する噴霧電圧印加ステップと、(d)観察基板のグリッド部と基準電極との間に、静電噴霧用の電圧と同一の極性であって、観察基板上でのナノ材料の固定化位置を調整するために用いられるバイアス電圧を印加する調整電圧印加ステップと、(e)静電噴霧用ノズルの分散液噴霧口から観察基板へとナノ材料分散液を静電噴霧し、ナノ材料を観察基板の表面に静電付着させることで、観察基板上にナノ材料を固定化して観察試料を作製する試料作製ステップとを備えることを特徴とする。
【0010】
上記した観察試料作製装置及び作製方法においては、静電噴霧用ノズルの内部に充填されたナノ材料分散液と基板との間に所定の電圧を印加し、分散液の静電噴霧、乾燥、及びナノ材料の静電付着によって観察基板上にナノ材料を固定化することで、ナノ材料の観察試料を作製している。このような構成では、ナノ材料分散液を基板表面に塗布する方法等に比べて、観察基板上でのナノ材料の凝集を抑制することができる。
【0011】
さらに、このようなナノ材料の固定化において、導電性のグリッド部と支持膜とを有する観察基板に対し、観察基板を直接に基準電位(例えば接地電位)とするのではなく、基板に対してノズルとは反対側に別に基準電極(例えば接地電極)を設ける。そして、観察基板のグリッド部に静電噴霧用の電圧と同一極性のバイアス電圧を印加して、ノズルから基板へと向かうナノ材料の軌道、及び基板上での固定化位置の調整を行っている。これにより、ナノ材料がグリッド部に付着することを抑制して、グリッド間の支持膜上に充分にナノ材料を固定化することができ、良好な状態の観察試料を作製することが可能となる。
【0012】
このような観察試料は、例えば上記したナノ材料のTEM観察用の観察試料として好適に用いることができる。また、観察対象となるナノ材料としては、大きさ100nm以下の材料(例えば直径100nm以下のナノ粒子)を用いることが好ましい。
【0013】
上記構成において、作製装置は、基準電極から離間して配置され、観察基板のグリッド部と電気的に接続されて、調整電圧印加手段からのバイアス電圧をグリッド部に印加するためのバイアス電極を備えることが好ましい。同様に、作製方法は、調整電圧印加ステップにおいて、基準電極から離間して配置され、観察基板のグリッド部と電気的に接続されたバイアス電極を介して、バイアス電圧をグリッド部に印加することが好ましい。これにより、導電性のグリッド部に対して固定化位置調整用のバイアス電圧を好適に印加することができる。
【0014】
また、この場合、作製装置は、基準電極と、バイアス電極と、基準電極及びバイアス電極の間に設けられた絶縁層とが一体化されて構成された電圧印加用治具を備えることとしても良い。同様に、作製方法は、調整電圧印加ステップにおいて、基準電極と、バイアス電極と、基準電極及びバイアス電極の間に設けられた絶縁層とが一体化されて構成された電圧印加用治具を用いることとしても良い。このような構成では、観察基板に対する基準電極及びバイアス電極の設置、接続、及びそれらのハンドリングが容易となる。
【0015】
また、上記の電極構成において、基準電極は、観察基板のナノ材料支持膜に対向する位置を含むように配置されるとともに、バイアス電極は、ナノ材料支持膜から基準電極が見通せるように設けられていることが好ましい。これにより、バイアス電圧の印加によるナノ材料の固定化位置の調整を、好適に実現することができる。
【0016】
また、観察基板のグリッド部と基準電極との間に印加される固定化位置調整用のバイアス電圧の設定値については、その絶対値(電圧の大きさ)が5V〜50Vの範囲内となるように設定された電圧であることが好ましい。これにより、ナノ材料分散液のノズルから基板への静電噴霧と、ナノ材料の軌道及び基板上での固定化位置の調整とを好適に両立することができる。
【0017】
また、作製装置は、静電噴霧用ノズルの分散液噴霧口から観察基板へとナノ材料分散液を静電噴霧する際に、噴霧された個々の液滴内に1個または0個のナノ材料が含まれる条件となるように、噴霧電圧印加手段によって印加される静電噴霧用の電圧を制御する電圧制御手段を備えることが好ましい。同様に、作製方法は、試料作製ステップにおいて、噴霧された個々の液滴内に1個または0個のナノ材料が含まれる条件下で、静電噴霧用ノズルの分散液噴霧口から観察基板へとナノ材料分散液を静電噴霧することが好ましい。
【0018】
このように、噴霧された個々の液滴に多くとも1個のナノ材料が含まれるように分散液の静電噴霧を行うことにより、溶媒が乾燥する過程において液滴内にあるナノ材料が凝集体を形成してしまうことが防止される。これにより、観察基板のナノ材料支持膜上において、充分に分散した状態でナノ材料を好適に固定化することが可能となる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の観察試料作製装置、及び作製方法によれば、ノズルの内部に充填されたナノ材料分散液と基板との間に電圧を印加し、分散液の静電噴霧、及びナノ材料の静電付着によって観察基板上にナノ材料を固定化して観察試料を作製するとともに、導電性のグリッド部と支持膜とを有する観察基板に対し、ノズルとは反対側に基準電極を設け、グリッド部に静電噴霧用の電圧と同一極性のバイアス電圧を印加して、ナノ材料の固定化位置の調整を行うことにより、ナノ材料がグリッド部に付着することを抑制して、良好な状態のナノ材料の観察試料を作製することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面とともに本発明によるナノ材料の観察試料作製装置、及び観察試料作製方法の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面の寸法比率は、説明のものと必ずしも一致していない。
【0021】
図1は、本発明による観察試料作製装置の第1実施形態の構成を概略的に示すブロック図である。本実施形態による観察試料作製装置1Aは、ナノ材料が溶媒中に分散されたナノ材料分散液を用い、分散液を静電噴霧して観察基板の表面にナノ材料を固定化することで、ナノ材料の観察試料を作製する装置である。ここで、固定化処理及び試料作製の対象となるナノ材料としては、大きさ100nm以下の微小材料(例えば直径100nm以下のナノ粒子)を用いることが好ましい。このような微小材料では、通常のバルク材料とは異なる物性(光学的特性、電気的特性、物理的特性等)が現れる。
【0022】
また、ナノ材料を固定化する観察基板としては、図2の平面図に観察基板10の構成の一例を示すように、1または複数の開口を有するメッシュ状に形成された導電性のグリッド部11と、グリッド部11の開口に設けられて観察対象のナノ材料が固定化されるナノ材料支持膜12とを有する観察基板10が用いられる。
【0023】
図2に示した例では、円形のグリッド部11のメッシュ構造において2次元マトリクス状に複数の開口が設けられており、そのそれぞれに対して支持膜12が形成されている。このような観察基板10は、例えばTEM観察用の観察基板として好適に用いることが可能である。このような構成において、グリッド部11としては、例えば銅などの金属製のグリッドを用いることができる。また、ナノ材料支持膜12としては、例えば樹脂などの薄膜を用いることができる。
【0024】
図1に示す観察試料作製装置1Aは、静電噴霧用ノズル20と、観察基板10を載置する基板ステージ30と、噴霧電圧印加装置40と、調整電圧印加装置41と、試料作製制御装置45とを備えて構成されている。このような構成において、ノズル20からステージ30上の基板10へと向かう図中の上下方向が、本作製装置1Aにおけるナノ材料の噴霧軸となっている。図1においては、観察基板10は水平方向に配置されており、上記した噴霧軸は基板10の表面に対して垂直方向となっている。
【0025】
静電噴霧用ノズル20は、ナノ材料が溶媒中に分散されたナノ材料分散液13を静電噴霧するためのものであり、ナノ材料分散液13を内部に蓄えることが可能な筒状構造を有するノズル本体21を有して構成されている。本実施形態においては、ノズル20は、ノズル本体21の筒状構造の長手軸(ノズルの中心軸)がナノ材料の噴霧軸と一致した状態で設置されている。また、ノズル本体21の両端の開口22、23のうちの一方の開口、図1では下端部に設けられた開口22は、基板10に対して分散液13を静電噴霧するための分散液噴霧口となっている。なお、このようにノズル本体21を有する構成のノズル20は、例えば、ガラス材料のガラスキャピラリを用いて作製することができる。
【0026】
ナノ材料分散液13が充填された静電噴霧用ノズル20に対し、ナノ材料の固定化の対象物である観察基板10は、ノズル20の下方に位置する基板ステージ30上に、ノズル20の分散液噴霧口22に対向するように載置されている。基板ステージ30は、静電噴霧用ノズル20に対して所定の状態で観察基板10を支持する基板支持手段である。
【0027】
基板ステージ30としては、基板10の設置位置の調整等を行う必要がある場合には、X、Y方向(水平方向)に移動可能なXYステージ、あるいはX、Y方向(水平方向)及びZ方向(垂直方向)に移動可能なXYZステージを用いることができる。この場合、図1に示すように、基板ステージ30に対して、ステージを駆動制御するためのステージ駆動装置35が設けられる。基板10の位置の調整が不要な場合、あるいは基板10の位置の調整をノズル20の位置の調整によって行う場合等には、基板ステージ30として固定ステージを用いても良い。この場合には、ステージ駆動装置35は不要である。
【0028】
本実施形態の作製装置1Aでは、観察基板10と、基板ステージ30との間に治具80が介在している。すなわち、基板ステージ30上に治具80が載置され、さらにこの治具80上に基板10が配置されることで、観察基板10が支持されている。また、治具80は、基板ステージ30側から基板10側に向けて基準電極81、絶縁層82、及びバイアス電極83がこの順で積層され、観察基板10のグリッド部11に対してバイアス電圧を印加するために用いられる電圧印加用治具として構成されている。
【0029】
基準電極81は、電圧印加用治具80のうちで基板ステージ30側の部分を構成しており、観察基板10に対して静電噴霧用ノズル20とは反対側に、基板10から所定距離で離間する(電気的に離れる)ように配置されている。また、基準電極81は所定の基準電位と電気的に接続されている。なお、図1の例においては、基準電位は接地電位とされており、これによって基準電極81は接地電極となっている。
【0030】
バイアス電極83は、電圧印加用治具80のうちで観察基板10側(ノズル20側)の部分を構成しており、グリッド部11の外周部分を構成する環状の枠部(図2参照)に接して基板10を支持している。これにより、バイアス電極83は、基板10のグリッド部11と電気的に接続されている。また、基準電極81及びバイアス電極83の間には絶縁層82が設けられており、これらの基準電極81、絶縁層82、及びバイアス電極83が一体化されることで治具80が構成されている。また、バイアス電極83は、絶縁層82によって基準電極81から離間して(電気的に離れて)配置されている。
【0031】
このような構成において、基準電極81は、観察基板10のナノ材料支持膜12に対向する位置を含み、基板10の全体に対向するように形成されている。一方、絶縁層82及びバイアス電極83は、上記したようにグリッド部11の枠部において基板10を支持するように構成されており、環状の枠部よりも内側で支持膜12に対向する領域は、絶縁層82及びバイアス電極83を除いた開口部85となっている。これにより、治具80は、観察基板10の支持膜12から基準電極81が見通せるように構成されている。
【0032】
観察基板10の下方にあって接地電位に接続されている基準電極81に対し、静電噴霧用ノズル20のノズル本体21の内部には、その上端部の開口23側に電極25が分散液13に電気的に接続された状態で設けられている。また、この電極25に対して、噴霧電圧印加装置40が接続されている。これにより、噴霧電圧印加装置40から電極25を介してナノ材料分散液13に所定の電圧が印加されることによって、ノズル20内の分散液13と、接地電位の基準電極81との間に静電噴霧用の電圧が印加される。
【0033】
また、基準電極81から離間して配置され、観察基板10のグリッド部11と電気的に接続されたバイアス電極83に対して、調整電圧印加装置41が接続されている。これにより、調整電圧印加装置41から電極83を介して基板10のグリッド部11に所定の電圧が印加されることによって、基板10のグリッド部11と、接地電位の基準電極81との間にバイアス電圧が印加される。このバイアス電圧は、静電噴霧用の電圧と同一の極性の電圧であり、基板10上でのナノ材料の固定化位置を調整するために用いられる。
【0034】
ノズル20、基板ステージ30、電圧印加用治具80、及び電圧印加装置40、41を含む作製装置1Aに対し、試料作製制御装置45が設けられている。制御装置45は、作製装置1Aの各部の動作を制御することで、基板10を用いたナノ材料の観察試料の作製条件、及び試料作製の実行を制御する。特に、この制御装置45は、具体的な試料作製条件に応じて、噴霧電圧印加装置40によって分散液13に印加される静電噴霧用の電圧、及び調整電圧印加装置41によって基板10のグリッド部11に印加されるバイアス電圧を制御する電圧制御手段としての機能を有する。なお、電圧印加装置40、41による電圧の印加については、操作者によって手動で制御する構成としても良い。
【0035】
また、図1に示した構成では、試料作製制御装置45に対し、表示装置46、及び入力装置47が接続されている。表示装置46は、操作者に対して試料作製処理の設定条件、処理状況、あるいは処理結果等についての必要な情報を表示する際に用いられる。また、入力装置47は、試料作製処理についての必要な情報の入力に用いられる。
【0036】
図1に示した作製装置1Aを用いて実行される本発明による観察試料作製方法について説明する。この作製方法では、まず、観察試料作製を行うナノ材料が溶媒中に分散されたナノ材料分散液を用意し、静電噴霧用ノズル20に対して、ノズル本体21の内部に分散液13を導入する(分散液導入ステップ)。この分散液13の導入は、後述するように、作製装置1Aの具体的な構成等に応じてノズル本体21の上端部の開口23から、あるいは下端部の開口である分散液噴霧口22から行われる。
【0037】
また、ナノ材料分散液13に対して、観察試料作製用の基板となる観察基板10を用意する。観察基板10としては、上記したようにグリッド部11とナノ材料支持膜12とを有する構成の基板が用いられる。そして、この基板10を電圧印加用治具80上に載置するとともに、治具80及び基板10を基板ステージ30上に、ノズル20の噴霧口22に対向するように設置する(基板設置ステップ)。なお、基板10の設置については、分散液13のノズル20への導入の前に、あらかじめ基板10を設置しておいても良い。
【0038】
次に、制御装置45によって噴霧電圧印加装置40及び調整電圧印加装置41を駆動制御し、ナノ材料の試料作製において必要な電圧の印加を行う。すなわち、噴霧電圧印加装置40を駆動制御し、基板10の下方にあって接地電位の基準電極81に対して、ノズル20内のナノ材料分散液13に静電噴霧用の電圧を印加する(噴霧電圧印加ステップ)。また、調整電圧印加装置41を駆動制御し、接地電位の基準電極81に対して、バイアス電極83を介して基板10のグリッド部11にバイアス電圧を印加する(調整電圧印加ステップ)。この固定化位置調整用のバイアス電圧は、上記したように静電噴霧用の電圧と同一の極性であって、それよりも絶対値が小さい所定の電圧に設定される。
【0039】
このように各電圧が印加された状態でノズル20の噴霧口22から観察基板10へと分散液13を静電噴霧し、ノズル20から噴霧されたナノ材料分散液13の個々の液滴について、液滴に含まれる溶媒を噴霧の雰囲気中で乾燥させる。そして、分散液13に含まれるナノ材料を溶媒が乾燥した状態で基板10の表面に静電付着させることで、基板10上にナノ材料を固定化して観察試料を作製する(試料作製ステップ)。
【0040】
ナノ材料の観察試料作製におけるナノ材料の固定化条件について、さらに説明する。図3は、本発明による観察試料作製方法の一実施形態について概略的に示す図である。ノズル20の内部に充填される分散液13では、上記したように、ナノ材料18が溶媒17中に分散された状態となっている。また、図3に示す例では、基準電極81は接地電位に接続されるとともに、観察基板10のグリッド部11には固定化位置調整用のバイアス電圧(図3の例では正のバイアス電圧)が印加されている。
【0041】
このような状態で、ノズル20内の分散液13に対して静電噴霧用の電圧(図3の例では正の電圧)を印加すると、ノズル20の先端部の分散液噴霧口22から下方の基板10に向けて、円錐状の液面を有するテーラーコーン14が形成される。さらに、分散液13は、このテーラーコーン14の先端から細いジェット流15を介して、多数の帯電した微液滴16(図3の例では正に帯電した微小な液滴)となる。
【0042】
これにより、ナノ材料分散液13の帯電した液滴16が、正電位のノズル20から接地電位の基準電極81、及び基準電極81の上方にあってグリッド部11にバイアス電圧が印加された基板10に向けて静電噴霧される(噴霧ステップ)。また、この分散液13の静電噴霧は、図3に示すように、好ましくは、噴霧された個々の液滴16内に1個または0個のナノ材料18が含まれる条件下で行われる。この場合、ノズル20の先端部から生成される液滴16は、ナノ材料18を1個含む液滴、またはナノ材料18を含まない溶媒17のみの液滴となる。
【0043】
ノズル20の噴霧口22から噴霧された分散液13の個々の液滴16は、ノズル20から基板10に到達するまでの噴霧の雰囲気中において、液滴16に含まれる溶媒17が乾燥し、ナノ材料18のみが残った状態となる(乾燥ステップ)。そして、溶媒17が乾燥した状態の正帯電したナノ材料18を基板10の表面に静電付着させることで、基板10上にナノ材料18が分散し、点在した状態で固定化される(固定化ステップ)。
【0044】
また、このような分散液13の静電噴霧及びナノ材料18の静電付着において、グリッド部11に印加されたバイアス電圧の作用によって、ノズル20と、観察基板10及び基準電極81との間での電気力線の方向、及び帯電したナノ材料18の軌道が制御される。これにより、基板10上でのナノ材料の固定化位置が調整され、ナノ材料18がグリッド部11の間の支持膜12上に良好に固定化される。
【0045】
上記実施形態によるナノ材料の観察試料作製装置、及び観察試料作製方法の効果について説明する。
【0046】
図1及び図3に示した観察試料作製装置1A及び作製方法においては、静電噴霧用ノズル20の内部に充填されたナノ材料分散液13と基板10との間に所定の電圧を印加し、分散液13の静電噴霧、乾燥、及びナノ材料18の静電付着によって観察基板10上にナノ材料を固定化することでナノ材料の観察試料を作製している。このような構成では、例えば分散液13を基板表面に塗布する方法等に比べて、基板10上でのナノ材料18の凝集を抑制することができる。
【0047】
さらに、このようなナノ材料18の固定化において、導電性のグリッド部11と支持膜12とを有する観察基板10に対し、基板10を直接に基準電位(例えば接地電位)とするのではなく、基板10に対してノズル20とは反対側に別に基準電極81を設ける。そして、基板10のグリッド部11に静電噴霧用の電圧と同一極性のバイアス電圧を印加して、ノズル20から基板10へと向かうナノ材料の軌道、及び基板10上での固定化位置の調整を行っている。
【0048】
これにより、ナノ材料がグリッド部11に付着することを抑制して、グリッド間でナノ材料の観察に用いられる支持膜12上に充分にナノ材料を固定化することができ、良好な状態のナノ材料の観察試料を作製することが可能となる。このような観察試料は、例えばナノ材料のTEM観察用の観察試料として好適に用いることができる。
【0049】
上記したナノ材料の固定化位置の調整について、図4を参照して説明する。基板10のグリッド部11が基準電極81に接続されて接地電位となっている場合、図4(a)中に矢印線によって模式的に示すように、ノズル20から基板10への電気力線が導電性のグリッド部11のエッジに集中する。このとき、帯電したナノ材料18は電気力線に沿ってグリッド部11上に多く静電付着され、観察に用いられる支持膜12上にはナノ材料18は充分には固定化されない。
【0050】
これに対して、基準電極81を観察基板10の下方に離間して配置し、基板10のグリッド部11にバイアス電圧を印加した場合、図4(b)に示すように、電気力線は支持膜12を通して、下方の基準電極81へと向かうようになる。この状態では、帯電したナノ材料18は電気力線に沿って支持膜12上に付着することとなり、これによって良好な状態のナノ材料の観察試料が得られる。
【0051】
ここで、ナノ材料が固定化される観察基板10としては、具体的には様々な構成のものを用いて良い。一般には、上記したように、1または複数の開口を有するメッシュ状の導電性のグリッド部11、及びグリッド部11の開口に設けられた支持膜12を有する基板を用いれば良い。そのような基板としては、一般的なTEM観察用の金属メッシュ基板の一例として、銅製のグリッド部11を有し、直径が3mmφ、厚さが25μm、メッシュ幅が30μm、メッシュの1ピッチの間隔が150μmの基板が挙げられる。
【0052】
また、観察基板10のグリッド部11と基準電極81との間に印加される固定化位置調整用のバイアス電圧の設定値については、その絶対値(電圧の大きさ)を5V〜50Vの範囲内となるように設定することが好ましい。これにより、ナノ材料分散液13のノズル20から基板10への静電噴霧と、ナノ材料の軌道及び基板10上での固定化位置の調整とを好適に両立することができる。
【0053】
具体的には、バイアス電圧が低過ぎると、ナノ材料の固定化位置の調整の効果を充分に得ることができない。このような点から、バイアス電圧を5V以上に設定することが好ましい。また、バイアス電圧が高過ぎると、静電的な反発によって帯電したナノ材料が基板10に近づき難くなり、基板10上へのナノ材料の固定化を好適に行うことができなくなる。このような点から、バイアス電圧を50V以下に設定することが好ましい。
【0054】
また、基板10のグリッド部11へのバイアス電圧の印加については、図1に示した構成では、基準電極81から離間して配置され、基板10のグリッド部11と電気的に接続されたバイアス電極83を設け、この電極83を介して調整電圧印加装置41からのバイアス電圧をグリッド部11に印加する構成としている。これにより、導電性のグリッド部11に対して固定化位置調整用のバイアス電圧を好適に印加することができる。ただし、このようなバイアス電圧の印加については、調整電圧印加装置41から直接にグリッド部11に電圧を印加する構成としても良い。
【0055】
また、上記のように基準電極81に加えてバイアス電極83を設ける場合、図1に示したように、基準電極81と、バイアス電極83と、電極間の絶縁層82とが一体化されて構成された電圧印加用治具80を用いることが好ましい。このような構成では、観察基板10に対する基準電極81及びバイアス電極83の設置、接続等が容易となる。
【0056】
また、このように治具80を用いる構成は、各電極81、83及び観察基板10などのハンドリングの点でも有効である。例えば、上記で例示した直径3mmφの金属メッシュ基板を観察基板10として用いる場合、このような基板は機械的に強くないため、グリッド部11にバイアス電圧を印加するための電気的な接触を持たせることが難しい。これに対して、上記構成を有する電圧印加用治具80を用いることにより、充分な機械的強度を確保して、観察基板10の支持及びグリッド部11へのバイアス電圧の印加を好適に実現することができる。
【0057】
また、図1に示した構成では、基板10の支持膜12に対向する位置を含むように基準電極81を配置するとともに、絶縁層82及びバイアス電極83に開口部85を設け、支持膜12から基準電極81が見通せる構成としている。これにより、グリッド部11へのバイアス電圧の印加による電気力線、ナノ材料の軌道の制御(図4参照)、及び基板10上でのナノ材料の固定化位置の調整を好適に実現することができる。例えば、直径3mmφの金属メッシュ基板を観察基板10とする場合、基板10で橋渡しできる幅2mm程度の隙間を開口部85とすることができる。また、このような構成は、試料作製処理の終了後に観察基板10をピンセット等で回収することが可能な点でも有効である。
【0058】
また、試料作製の具体的な条件については、図3に示した例では、ノズル20から基板10への分散液13の静電噴霧について、個々の液滴16内に1個または0個のナノ材料18が含まれる条件下で分散液13の噴霧を行っている。このように、噴霧された個々の液滴に多くとも1個のナノ材料が含まれるように分散液13の噴霧を行うことにより、溶媒17が乾燥する過程で液滴16内にあるナノ材料18が凝集体を形成してしまうことが防止される。これにより、観察基板10のナノ材料支持膜12上において、充分に分散した状態でナノ材料を好適に固定化することが可能となる。
【0059】
また、上記の作製方法では、ノズル20から噴霧された分散液13の個々の液滴16について、噴霧の雰囲気中で液滴16に含まれる溶媒17を乾燥させ、溶媒が乾燥した状態でナノ材料18を基板10の表面に静電付着させることで基板10上にナノ材料を固定化している。これにより、ノズル20から噴霧された個々の液滴に含まれるナノ材料を、観察基板10の表面に好適に固定化することができる。
【0060】
このようなナノ材料の固定化での噴霧条件、乾燥条件、及び固定化条件は、静電噴霧用ノズル20の構成、形状、サイズ、分散液13でのナノ材料の濃度、ノズル20と基板10との間の距離、分散液13に印加される静電噴霧用の電圧の値、バイアス電圧の値、及びノズル20から噴霧される液滴径などの条件を適切に設定、調整することで実現することが可能である。また、静電噴霧用の電圧及びバイアス電圧については、上記したように電圧制御手段として機能する制御装置45によって印加電圧を制御することで、上記した条件を実現する構成としても良い。
【0061】
また、上記構成の観察試料作製装置1Aを用いたナノ材料の観察試料の作製処理の具体的な条件については、上記した例に限らず、様々な条件で作製処理を行うことが可能である。例えば、ノズル20から噴霧される液滴に含まれるナノ材料については、2個以上のナノ材料が含まれる条件で分散液の静電噴霧を行っても良い。このような条件は、要求されている基板上でのナノ材料の固定化条件などに応じて適宜設定することが好ましい。
【0062】
図5は、図1に示した作製装置1Aに用いられる電圧印加用治具80の構成の具体的な一例を示す図であり、図5(a)は平面図、図5(b)はI−I矢印断面図である。本構成例の治具80は、基準電極81として機能するSi基板上にガラス基板からなる絶縁層82、及びバイアス電極であるITO電極83を積層することで構成されている。
【0063】
また、絶縁層82及びバイアス電極83は図中の左右にそれぞれ設けられており、その間は開口部85となる溝状構造となっている。このように、治具80の開口部85については、例えば溝状構造、孔状構造など、具体的には様々な構成を用いて良い。また、左右のバイアス電極83に対して銅箔テープからなる共通の電圧供給電極86が接続されており、この電極86及び端子87を介してバイアス電極83にバイアス電圧が供給される。なお、図5においては、治具80上に観察基板10を載置した状態を図示している。
【0064】
ここで、ノズル20から基板10への分散液13の噴霧については、噴霧の雰囲気を調整、制御する必要がある場合には、図6に模式的に示すように、ノズル20及び基板ステージ30等を収容する噴霧室60を設ける構成としても良い。この場合、噴霧室60内において、ナノ材料の試料作製処理を行う際の雰囲気となる気体の種類、あるいはその圧力等を適切に設定することができる。図6(b)では、具体的な構成例として、噴霧室60に対して減圧ポンプ66を接続した構成を示している。
【0065】
なお、図6(a)に示す構成では、噴霧室60の前面の扉61に観察窓62を設けるとともに、この観察窓62をフレネルレンズなどの拡大鏡によって構成している。このような構成では、噴霧室60の内部で実行される試料作製処理についての観察、確認が容易となる。また、図6(b)に示す構成では、試料作製処理の観察等のため、コールドライト光源67を用いた照明68を噴霧室60の内部に設けている。また、噴霧室60内において、ノズル20と基板10との間に静電噴霧の実行/不実行を切り換えるスプレーシャッタ65を設ける構成としても良い。
【0066】
図1に示した作製装置1Aにおいて分散液の噴霧に用いられる静電噴霧用ノズル20の構成について説明する。ノズル20としては、上記したように、ガラスキャピラリ等を用いた筒状のノズル本体21を有する構成を好適に用いることができる。また、このノズル20のノズル本体21については、その筒状構造の先端部における内径が50μm以下であることが好ましい。
【0067】
このように、ノズル本体21の内径、及び噴霧口22でのノズル口径を充分に小さくすることにより、例えば直径100nm以下のナノ材料の静電噴霧に好適なサブミクロンオーダーの微液滴を形成するなど、ノズル20から噴霧される分散液13の微液滴を充分に小さくして、液滴内でのナノ材料の凝集を確実に抑制することが可能となる。また、このようなノズル本体21の先端部における内径については、20μm以下とすることがさらに好ましい。また、ノズル20の作製技術(例えばガラスの加工技術)等を考慮すると、ノズル本体21の先端部における内径は、3μm以上であることが好ましい。
【0068】
また、ノズル20の構成の他の例として、筒状のノズル本体の内部に芯構造が設けられた構成を用いることができる。図7は、静電噴霧用ノズル20の一変形例の先端部の構成を拡大して示す図であり、図7(a)はノズル20の先端部を側面側からみた斜視図、図7(b)はノズル20の断面図である。本変形例では、ノズル本体21の内部にロッド状の芯構造24が配置されている。また、芯構造24は、ノズル本体21の内壁に接した状態で長手軸の方向に沿って延びるように設けられている。このような芯構造24は、例えば、ノズル本体21の内壁に対して融着によって固定される。
【0069】
このような構成では、図7(b)において矢印で示すように、毛細管現象によって分散液13がノズル本体21の内壁と芯構造24との隙間に入り込もうとする。その結果、分散液13がノズル本体21の先端部まで確実に供給される。この芯構造24については、ノズル本体21の長手方向に沿って噴霧口22を含む所定範囲で延びる(例えば、ノズル本体21の全長にわたって延びる)ように設けることが好ましい。また、このようなノズル20は、例えば、ガラスキャピラリ及びガラスロッドを用いて作製することができる。
【0070】
芯構造24を有するノズル20では、ノズル本体21の先端部を細径とした場合でも、ノズル本体21の内壁と芯構造24との間での毛細管現象により、噴霧口22がある先端部まで分散液13が確実に供給される。これにより、ノズル本体21の内部での固形物または気泡などによるノズル詰まりの発生が防止される。また、分散液13でのナノ材料濃度を低くすることなく、効率的にナノ材料の試料作製処理を実行することができる。
【0071】
すなわち、芯構造24を設けた構成では、ノズル20の先端部で溶媒の乾燥が発生した場合でも、芯構造24を伝って溶媒が先端部まで自然供給され、分散液13の液面が保持される。また、このようにノズル20の先端部での溶媒の乾燥が抑制されることにより、ノズル詰まりの原因となる固形物の発生が防止される。また、ノズル本体21の内部に気泡が発生した場合でも、芯構造24を伝って溶媒が気泡を回り込んでノズル20の先端部まで自然供給されるので、気泡によるノズル詰まりの発生が防止される。
【0072】
また、分散液13の静電噴霧について考えると、図3に示すように、分散液13と基板10との間に電圧が印加されることで、噴霧口22の下方でテーラーコーン14の液面、及びジェット流15が形成され、多数の帯電した微液滴16が生成されて分散液13が噴霧される。このとき、ジェット流15及び液滴16の大きさは、基板10への静電力と、ノズル20への表面張力との影響を受ける。これに対して、芯構造24を有するノズル20では、基板10への静電力と、ノズル20への表面張力とに加えて、芯構造24による毛細管力が、表面張力と同様にノズル20へと向かう力として作用する。これにより、芯構造24がない場合よりもジェット流15及び液滴16の大きさが小さくなる。
【0073】
また、芯構造24は、ノズル本体21の内径に対して0.1倍〜0.2倍の範囲内にある直径を有することが好ましい。この場合、ノズル本体21内での分散液13の流路と芯構造24とを好適に両立して、先端部の噴霧口22まで毛細管現象によって分散液13を好適に供給することができる。例えばノズル本体21の内径が20μmである場合、芯構造24の直径を2μm〜4μmの範囲内で設定することが好ましい。
【0074】
また、静電噴霧用ノズル20の具体的な構成については、上記した構成例では、噴霧口22を構成するノズル本体21の先端面が長手軸に垂直な面となっているが、図8(a)の斜視図、及び図9(a)の断面図にノズル20の他の変形例の先端部の構成を示すように、ノズル本体21が、その筒状構造の長手軸に対して噴霧口22が鋭角をなすように所定角度θで傾いた鋭角形状に形成されている構成としても良い。
【0075】
このように、ノズル本体21を鋭角形状とした場合、その先端部分においてノズル本体21の内径よりも細い流路が形成され、かつ、先端部分に静電噴霧用の高電場が集中することとなる。これにより、噴霧時に形成される分散液13の液滴をさらに小さくすることができる。また、このような鋭角形状において、ノズル本体21の長手軸に対して噴霧口22がなす角度θ(ノズル本体21の側面と先端面とがなす角度、図9(a)参照)については、45°〜70°の範囲内で傾き角度θを設定することが好ましい。
【0076】
また、上記構成において、ノズル本体21内部の芯構造24は、図8(a)に示すように、噴霧口22における鋭角の先端側に位置して鋭角形状の先端から上方に延びるように設けられていることが好ましい。これにより、ノズル本体21の内部において、分散液13の流路の先端となる鋭角形状の先端部分まで分散液13を確実に供給することが可能となる。ただし、このような芯構造24については、例えばノズル本体21の鋭角の先端から所定距離だけずれた位置に設けるなど、具体的には様々な構成を用いて良い。
【0077】
また、このようにノズル本体21が鋭角形状に形成されている場合、図9(b)に示すように、ナノ材料の噴霧軸に対してノズル本体21の長手軸が鋭角形状の先端側に設置角度βで傾いた状態となるようにノズル20を設置して、基板10への分散液13の静電噴霧を行う構成としても良い。このような構成では、ノズル本体21の楕円形の噴霧口22の開口面積が大きくなった場合でも、基板10からみた噴霧口22の面積を小さくして、噴霧時に形成される分散液の微液滴を確実に小さくすることができる。
【0078】
この場合、ノズル20の設置角度βについては、ノズル本体21の鋭角形状の角度θに対して、θ/4〜3θ/4の範囲内で設置角度βを設定することが好ましく、特に、β=θ/2とすることが好ましい。また、ノズル本体21の噴霧口22の開口面積の増大等が問題とならない場合には、図9(a)に示したようにβ=0°として、ナノ材料の噴霧軸と、ノズル本体21の長手軸とが一致した構成としても良い。
【0079】
また、ノズル本体21を鋭角形状とする構成については、図8(b)に示すように、芯構造24が設けられていない構成のノズル20(図1参照)においても、同様に適用することが可能である。このような構成においても、鋭角形状の効果によって噴霧時に形成される分散液13の液滴をさらに小さくすることができる。また、ナノ材料の噴霧軸に対してノズル本体21を傾けて配置する構成についても、同様に、芯構造24が設けられていない構成のノズル20に対して適用することが可能である。
【0080】
図10は、静電噴霧用ノズル20の構成の具体的な一例を示す図である。本構成例によるノズル20は、筒状のガラスキャピラリをノズル本体21、ガラスキャピラリの内部に内壁に接した状態で設けられたガラスロッドを芯構造24とし、その一端部をガラス加工で細径化することによって形成されたものである。また、筒状のノズル本体21の両端の開口22、23のうち、細径化された一端側の開口22が分散液噴霧口となっている。
【0081】
図10(a)に示すノズル20において、上端部の開口23側の部分は一定の径を有する太径部となっている。また下端部の分散液噴霧口22側の部分は先端に向かって径が減少する細径部となっている。また、上方の太径部の形状(図10(b)参照)は、具体的には例えば、太径部の長さがl1=60mm、ノズル本体21の外径がa1=1mm、内径がb1=0.6mm、芯構造24の直径がc1=0.1mmである。
【0082】
一方、下方の細径部の形状(図10(c)参照)は、具体的には例えば、細径部の長さがl2=5mm、その下端部でのノズル本体21の外径がa2=20μm、内径がb2=12μm、芯構造24の直径がc2=2μmである。例えば、濃度0.1%で平均粒径が50nmの酸化チタンの水分散液を分散液13とした場合、先端部でのノズル内径が12μmのノズル20を用い、ノズル20と基板10との距離を20mmとし、分散液13に印加する静電噴霧用の電圧を1400Vとした条件において、ナノ材料の固定化処理を良好に実行することができる。なお、ノズル20と基板10との距離については、一般には5mm〜30mmの範囲内の距離に設定することが好ましい。また、静電噴霧用の電圧については、5000V以下の電圧に設定することが好ましい。
【0083】
静電噴霧用ノズル20へのナノ材料分散液13の導入について説明する。筒状のノズル本体21の内部への分散液13の導入は、上述したように、作製装置1Aの具体的な構成等に応じてノズル本体21の上端部の開口23から、あるいは下端部の噴霧口22から行われる。特に、この分散液13の導入については、ノズル本体21に対して下方の噴霧口22から分散液13を導入することが好ましい。この場合、ノズル本体21の内部において、噴霧口22がある先端部まで分散液13を確実に供給することが可能となる。また、ノズル20に対して、微量の分散液13を簡便に充填することができる。
【0084】
ノズル20へのナノ材料分散液13の導入方法の具体例、及びノズル20の変形例について、図11を用いて説明する。図11は、静電噴霧用ノズルの構成の変形例を示す図である。本構成例によるノズル20は、ノズル本体21に加えて、さらにノズルホルダ26を有して構成されている。ここで、図11(a)は、ノズル本体21をホルダ26に取り付ける前の状態を、図11(b)は、ノズル本体21をホルダ26に取り付けて静電噴霧用ノズル20を構成した状態をそれぞれ示している。
【0085】
ノズルホルダ26は、ノズル本体21の開口23に対して接続され、ノズル本体21を支持している。具体的には、本構成例のホルダ26には、ノズル本体固定部27と、電圧供給端子28と、負圧導入口29とが設けられている。本体固定部27はホルダ26の下部に凹状に形成されており、図11(b)に示すように、ノズル本体21は、固定部27に上端部を挿入することでホルダ26に固定される。これにより、このノズルホルダ26は、ノズル本体21に対して着脱可能に構成されている。また、電圧供給端子28は金属ワイヤなどからなる電極25(図1参照)に接続されており、噴霧電圧印加装置40は、この端子28を介して、電極25及び分散液13に静電噴霧用の電圧を供給する。
【0086】
負圧導入口29は、筒状のノズル本体21の内部に負圧を与えるためのものであり、上記したように分散液噴霧口22から分散液13をノズル本体21の内部に導入する際に用いられる。この負圧導入口29は、ノズル本体21をホルダ26に固定した状態で、ノズル本体21の内部と空間的に接続されている。
【0087】
このようなホルダ26を用いた分散液13の導入方法では、まず、ノズル本体21の先端部を容器内の分散液13に浸す。そして、負圧導入口29からノズル本体21の内部を減圧して負圧とすることにより、ノズル本体21内において噴霧口22側から分散液13の液面が上昇する。これにより、ノズル20に対して必要な分散液13が噴霧口22から充填されるとともに電極25に分散液13が接触した状態となる。このような構成のノズル20では、噴霧口22側から分散液13を導入した場合、分散液13がノズル本体21の内部のみに充填され、ホルダ26の洗浄等の作業が不要となるという利点がある。
【0088】
図12は、本発明による観察試料作製装置の第2実施形態の構成を概略的に示すブロック図である。本実施形態による作製装置1Bの構成は、観察基板10を載置する基板ステージ30、電圧印加用治具80、ステージ駆動装置35、噴霧電圧印加装置40、及び調整電圧印加装置41については、図1に示した作製装置1Aの構成と同様である。また、本実施形態では、静電噴霧用ノズル20として、ノズル本体21及び芯構造24を有する構成を例示している。ただし、本構成においても、図1と同様に芯構造24を除く構成のノズル20を用いることも可能である。
【0089】
図12に示す観察試料作製装置1Bでは、ノズル本体21の内部にある分散液13に対して、凝集したナノ材料を分散させるための光分散用レーザ光を照射する光分散用レーザ光源50が設けられている。このような構成では、溶媒中に分散されたナノ材料が分散液13において静電噴霧前に凝集してしまった場合でも、光分散用レーザ光を照射することで分散液13の溶媒中でナノ材料を再分散させることができる(光分散ステップ)。
【0090】
したがって、ナノ材料が溶媒中に充分に分散した状態で分散液13を静電噴霧することが可能となり、基板10上に固定化されるナノ材料の凝集を、さらに確実に抑制することができる。なお、このようなレーザ光の照射によるナノ材料の分散処理については、ナノ材料分散液13をノズル20に充填する前の段階で、所定の容器に準備された分散液13にレーザ光を照射して分散処理を行う構成としても良い。
【0091】
分散液13中でのナノ材料の光分散に用いられるレーザ光としては、例えば波長350nm〜1100nmのパルスレーザ光を好適に用いることができる。この場合のレーザ光強度は、レーザ光の照射波長、あるいは対象とするナノ材料分散液13の吸光特性などによって異なるが、例えばナノ秒オーダーのパルスレーザ光で、照射強度を0.01〜50J/cm・pulseに設定することが好ましい。具体的な光分散用レーザ光源50としては、例えばYAGパルスレーザ光源(波長1064nm、532nm、355nm)を用いることができる。
【0092】
また、図12の作製装置1Bでは、帯電したナノ材料の通過領域においてナノ材料の凝集状態を光学的にモニタする凝集状態モニタ部55が設けられている。このような構成では、ノズル20から噴霧され雰囲気中で溶媒が乾燥されるナノ材料に対して、ノズル20の噴霧口22と基板10との間で凝集状態のモニタを光学的に行うことにより、基板10上に固定化されるナノ材料の凝集状態を試料作製処理の実行中にリアルタイムで評価することが可能となる(凝集状態モニタステップ)。
【0093】
具体的には、図12に示す構成例では、凝集状態モニタ部55は、ナノ材料の通過領域に対してモニタ光を照射するモニタ用光源56と、モニタ光によって発生するナノ材料からの散乱光及び蛍光の少なくとも一方を検出する光検出装置57とを有して構成されている。これにより、ノズル20から噴霧されて基板10へと向かう帯電したナノ材料の凝集状態を、その通過領域において好適にモニタすることができる。
【0094】
さらに、図12に示す構成例では、光検出装置57によるナノ材料からの光の検出結果を示す検出信号が解析装置58に入力されており、この解析装置58においてナノ材料の凝集状態の評価が行われる。そして、電圧制御手段として機能する試料作製制御装置45は、解析装置58から入力された凝集状態のモニタ結果を参照し、電圧印加装置40によって分散液13と基板10との間に印加される静電噴霧用の電圧を制御する(電圧制御ステップ)。これにより、分散液13の静電噴霧の条件を好適かつ自動的にフィードバック制御することができる。なお、このような静電噴霧用の電圧の制御については、操作者がモニタ結果を参照しながら手動で行う構成としても良い。
【0095】
ナノ材料の凝集状態のモニタに用いられるモニタ光としては、例えば波長400nm〜700nmの連続光を好適に用いることができる。また、モニタ用光源56としては、ノズル20から噴霧されたナノ材料の通過領域に対してモニタ光を集光照射することが可能な光源を用いることが好ましい。そのような光源としては、レーザ光源、半導体レーザ光源、及びLED光源などが挙げられる。
【0096】
ナノ材料からの散乱光については、前方散乱光、側方散乱光、または後方散乱光、あるいはそれらを組み合わせて測定を行うことが好ましい。特に、大きさが数10nm程度のナノ材料の場合には、後方散乱光を測定することで凝集状態を好適にモニタすることができる。また、大きさが10nm以下のナノ材料の場合には、ナノ材料の量子効果に基づいて発生する蛍光を測定することで凝集状態を好適にモニタすることができる。また、凝集状態のモニタにおいては、濃度が非常に薄くナノ材料が良好な分散状態にあると考えられる分散液を用いて参照データを事前に取得しておき、この参照データと実際の測定データとを比較してナノ材料の凝集状態を評価することが好ましい。
【0097】
例えば、ナノ材料からの前方散乱光を用いた凝集状態のモニタでは、ナノ材料が良好な分散状態にある場合には、ナノ材料の通過に伴って離散的に観測される前方散乱光の信号強度は、参照データにおける強度と同程度となる。一方、ナノ材料が凝集状態にある場合には、凝集体の形成によって粒子径が大きくなるため、参照データに比べて前方散乱光の信号強度が増加する。また、ナノ材料からの側方散乱光または後方散乱光を用いた凝集状態のモニタでは、ナノ材料が良好な分散状態にある場合には、側方、後方散乱光の信号強度は、参照データと同程度となる。一方、ナノ材料が凝集状態にある場合には、凝集体の形成により、参照データに比べて側方、後方散乱光の信号強度が減少する。
【0098】
また、ナノ材料からの蛍光を用いた凝集状態のモニタでは、ナノ材料が良好な分散状態にある場合には、離散的に観測される蛍光の信号強度は、参照データと同程度となる。一方、ナノ材料が凝集状態にある場合には、凝集体が形成されることでナノ材料の量子効果が消失してしまうため、参照データに比べて蛍光の信号強度が減少、あるいは消失する。このように、ノズル20から基板10へのナノ材料の通過領域に対してモニタ光を照射して、ナノ材料で発生する散乱光または蛍光を測定することにより、ナノ材料の分散状態、凝集状態を光学的に、かつ試料作製処理の実行中にモニタすることができる。
【0099】
また、ナノ材料が凝集状態にあると判断された場合には、電圧印加装置40によって分散液13に印加される静電噴霧用の電圧の値を調整することにより、良好な分散状態を保持しつつ、試料作製処理を実行することが可能となる。例えば、分散液13への印加電圧が高過ぎるために噴霧される液滴が大きくなり、その結果としてナノ材料の凝集が生じていると判断される場合には、静電噴霧自体が停止しない範囲内において印加電圧を低くすることで、試料作製処理の条件を調整することができる。
【0100】
本発明による観察試料作製装置、及び観察試料作製方法は、上記実施形態及び構成例に限られるものではなく、様々な変形が可能である。例えば、静電噴霧用ノズルの構成、あるいは電圧印加用治具の構成等については、具体的には上記した構成例以外にも様々な構成を用いて良い。また、例えば、基板のグリッド部へのバイアス電圧の印加については、電圧印加用治具以外の構成で電圧の印加を行っても良い。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、ナノ材料の観察に用いられる観察試料を、良好な状態に作製することが可能な観察試料作製装置、及び観察試料作製方法として利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】観察試料作製装置の第1実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】観察基板の構成の一例を示す平面図である。
【図3】観察試料作製方法の一実施形態を概略的に示す図である。
【図4】観察基板上でのナノ材料の固定化位置について示す図である。
【図5】電圧印加用治具の構成の具体的な一例を示す図である。
【図6】ノズル及び基板ステージを噴霧室に収容する構成について示す図である。
【図7】静電噴霧用ノズルの一変形例の先端部の構成を拡大して示す図である。
【図8】静電噴霧用ノズルの他の変形例の先端部の構成を示す図である。
【図9】静電噴霧用ノズルの他の変形例の先端部の構成を示す図である。
【図10】静電噴霧用ノズルの構成の具体的な一例を示す図である。
【図11】静電噴霧用ノズルの構成の変形例を示す図である。
【図12】観察試料作製装置の第2実施形態の構成を示すブロック図である。
【符号の説明】
【0103】
1A、1B…観察試料作製装置、10…観察基板、11…導電性のグリッド部、12…ナノ材料支持膜、13…ナノ材料分散液、14…テーラーコーン、15…ジェット流、16…液滴、17…溶媒、18…ナノ材料、
20…静電噴霧用ノズル、21…ノズル本体、22…分散液噴霧口、23…開口、24…芯構造、25…電極、26…ノズルホルダ、27…ノズル本体固定部、28…電圧供給端子、29…負圧導入口、30…基板ステージ、35…ステージ駆動装置、40…噴霧電圧印加装置、41…調整電圧印加装置、45…試料作製制御装置、46…表示装置、47…入力装置、
50…光分散用レーザ光源、55…凝集状態モニタ部、56…モニタ用光源、57…光検出装置、58…解析装置、
80…電圧印加用治具、81…基準電極(接地電極)、82…絶縁層、83…バイアス電極、85…開口部、86…電圧供給電極、87…電圧供給端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ材料を観察基板上に固定化して観察試料を作製する作製装置であって、
ナノ材料が溶媒中に分散されたナノ材料分散液を内部に蓄えることが可能な筒状構造を有し、その先端部に前記ナノ材料分散液を静電噴霧するための分散液噴霧口が設けられたノズル本体を含む静電噴霧用ノズルと、
1または複数の開口を有するメッシュ状に形成された導電性のグリッド部、及び前記グリッド部の前記開口に設けられて観察対象の前記ナノ材料が固定化されるナノ材料支持膜を有する観察基板について、前記静電噴霧用ノズルの前記分散液噴霧口に対向するように前記観察基板を支持する基板支持手段と、
前記観察基板に対して前記静電噴霧用ノズルとは反対側に前記観察基板から離間するように配置され、基準電位と電気的に接続される基準電極と、
前記ナノ材料分散液と前記基準電極との間に、静電噴霧用の電圧を印加する噴霧電圧印加手段と、
前記観察基板の前記グリッド部と前記基準電極との間に、前記静電噴霧用の電圧と同一の極性であって、前記観察基板上での前記ナノ材料の固定化位置を調整するために用いられるバイアス電圧を印加する調整電圧印加手段と
を備えることを特徴とする観察試料作製装置。
【請求項2】
前記基準電極から離間して配置され、前記観察基板の前記グリッド部と電気的に接続されて、前記調整電圧印加手段からの前記バイアス電圧を前記グリッド部に印加するためのバイアス電極を備えることを特徴とする請求項1記載の観察試料作製装置。
【請求項3】
前記基準電極と、前記バイアス電極と、前記基準電極及び前記バイアス電極の間に設けられた絶縁層とが一体化されて構成された電圧印加用治具を備えることを特徴とする請求項2記載の観察試料作製装置。
【請求項4】
前記基準電極は、前記観察基板の前記ナノ材料支持膜に対向する位置を含むように配置されるとともに、
前記バイアス電極は、前記ナノ材料支持膜から前記基準電極が見通せるように設けられていることを特徴とする請求項2または3記載の観察試料作製装置。
【請求項5】
前記バイアス電圧は、その絶対値が5V〜50Vの範囲内となるように設定された電圧であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載の観察試料作製装置。
【請求項6】
前記静電噴霧用ノズルの前記分散液噴霧口から前記観察基板へと前記ナノ材料分散液を静電噴霧する際に、噴霧された個々の液滴内に1個または0個のナノ材料が含まれる条件となるように、前記噴霧電圧印加手段によって印加される前記静電噴霧用の電圧を制御する電圧制御手段を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項記載の観察試料作製装置。
【請求項7】
ナノ材料を観察基板上に固定化して観察試料を作製する作製方法であって、
ナノ材料が溶媒中に分散されたナノ材料分散液を内部に蓄えることが可能な筒状構造を有し、その先端部に前記ナノ材料分散液を静電噴霧するための分散液噴霧口が設けられたノズル本体を含む静電噴霧用ノズルを用い、前記ノズル本体の内部に前記ナノ材料分散液を導入する分散液導入ステップと、
1または複数の開口を有するメッシュ状に形成された導電性のグリッド部、及び前記グリッド部の前記開口に設けられて観察対象の前記ナノ材料が固定化されるナノ材料支持膜を有する観察基板について、前記静電噴霧用ノズルの前記分散液噴霧口に対向するように前記観察基板を設置する基板設置ステップと、
前記観察基板に対して前記静電噴霧用ノズルとは反対側に前記観察基板から離間するように配置され、基準電位と電気的に接続される基準電極に対し、前記ナノ材料分散液と前記基準電極との間に、静電噴霧用の電圧を印加する噴霧電圧印加ステップと、
前記観察基板の前記グリッド部と前記基準電極との間に、前記静電噴霧用の電圧と同一の極性であって、前記観察基板上での前記ナノ材料の固定化位置を調整するために用いられるバイアス電圧を印加する調整電圧印加ステップと、
前記静電噴霧用ノズルの前記分散液噴霧口から前記観察基板へと前記ナノ材料分散液を静電噴霧し、前記ナノ材料を前記観察基板の表面に静電付着させることで、前記観察基板上に前記ナノ材料を固定化して観察試料を作製する試料作製ステップと
を備えることを特徴とする観察試料作製方法。
【請求項8】
前記調整電圧印加ステップにおいて、前記基準電極から離間して配置され、前記観察基板の前記グリッド部と電気的に接続されたバイアス電極を介して、前記バイアス電圧を前記グリッド部に印加することを特徴とする請求項7記載の観察試料作製方法。
【請求項9】
前記調整電圧印加ステップにおいて、前記基準電極と、前記バイアス電極と、前記基準電極及び前記バイアス電極の間に設けられた絶縁層とが一体化されて構成された電圧印加用治具を用いることを特徴とする請求項8記載の観察試料作製方法。
【請求項10】
前記基準電極は、前記観察基板の前記ナノ材料支持膜に対向する位置を含むように配置されるとともに、
前記バイアス電極は、前記ナノ材料支持膜から前記基準電極が見通せるように設けられていることを特徴とする請求項8または9記載の観察試料作製方法。
【請求項11】
前記バイアス電圧は、その絶対値が5V〜50Vの範囲内となるように設定された電圧であることを特徴とする請求項7〜10のいずれか一項記載の観察試料作製方法。
【請求項12】
前記試料作製ステップにおいて、噴霧された個々の液滴内に1個または0個のナノ材料が含まれる条件下で、前記静電噴霧用ノズルの前記分散液噴霧口から前記観察基板へと前記ナノ材料分散液を静電噴霧することを特徴とする請求項7〜11のいずれか一項記載の観察試料作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−186332(P2009−186332A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−26847(P2008−26847)
【出願日】平成20年2月6日(2008.2.6)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】