説明

ナノ構造物およびナノ構造物の製造方法

【課題】基板にナノ構造体を成長させた後の処理を工夫することにより、基板にナノ構造体を強固に接合することが可能となる。
【解決手段】ナノ構造物100は、基板(第1基板110a)と、基板(第1基板110a)の表面に、表面に対して垂直方向に延伸するようにナノ構造体122が複数形成されたナノ構造層120と、基板(第1基板110a)から基板(第1基板110a)を構成する物質が、ナノ構造層120の基板110(110a)側に形成された空隙130aに延出し、ナノ構造層120と基板(第1基板110a)とを接合する接合部130と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造物およびナノ構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カーボンナノチューブ、カーボンナノウォール、シリコンワイヤ、GaN(窒化ガリウム)等のナノメートル(nm)サイズ(数nmから数十nm程度)の微細形状を有するナノ構造体は、従来の材料が有する特性を飛躍的に向上させた特性を備えていたり、従来の材料にはない特性を備えている。このため、ナノ構造体は、電磁波吸収材料、電池の電極材料、触媒材料、半導体材料、電子放出素子材料、光学材料、強度補強材料等の次世代の機能材料として期待されている。
【0003】
例えば、上述したナノ構造体としてのカーボンナノチューブを製造する技術として、基板の表面に触媒を担持させておき、触媒を熱処理した後に、凸部および凹部からなる3次元構造パターンを形成して、凸部のみ選択的に触媒を残存させ、残存させた触媒上にカーボンナノチューブを成長させることで、基板上にカーボンナノチューブで構成されたナノ構造体を形成する技術が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0004】
また、ナノ構造体のGaNを製造する技術として、基板上に触媒層を蒸着させ、続いて触媒層をエッチングすることで触媒のナノピッチのパターンを形成し、その後、MOCVD(Metal Organic CVD)で触媒上にGaN結晶を成長させる技術が開示されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−192367号公報
【特許文献2】特開2008−34482号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1や特許文献2に記載された技術を利用して、基板面にナノ構造体を成長させると、基板とナノ構造体との接合面積は、基板と、ナノ構造体との接合面(ナノ構造体の延伸方向に直交する断面)の面積分しかなく、平方ナノメートルサイズと小さい。したがって、基板と個々のナノ構造体とを強固に接合することができず、基板からナノ構造体が剥離しやすいという問題があった。
【0007】
そこで本発明は、このような課題に鑑み、基板にナノ構造体を成長させた後の処理を工夫することにより、基板にナノ構造体を強固に接合することが可能なナノ構造物およびナノ構造物の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のナノ構造物は、基板と、基板の表面に、表面に対して垂直方向に延伸するようにナノ構造体が複数形成されたナノ構造層と、基板から基板を構成する物質が、ナノ構造層の基板側に形成された空隙に延出し、ナノ構造層と基板とを接合する接合部と、を備えたことを特徴とする。
【0009】
上記ナノ構造体は、C、Si、GaN、GaAs、InP、InNの群から選択される化合物で構成されてもよい。
【0010】
上記ナノ構造体は、カーボンナノウォール、カーボンナノチューブ、シリコンワイヤの群から選択されるいずれかであってもよい。
【0011】
上記課題を解決するために、本発明のナノ構造物の製造方法は、基板の表面に対して垂直方向に延伸するように、複数のナノ構造体を基板の表面に成長させてナノ構造層を成膜する工程と、基板を加熱して溶融し、基板から当該基板を構成する物質を、ナノ構造層の基板側に形成された空隙に延出させ、ナノ構造層と基板とを接合する工程と、を含むことを特徴とする。
【0012】
上記接合する工程は、レーザを照射して基板を加熱してもよい。
【0013】
上記レーザの波長は、基板およびナノ構造体が吸収する波長であってもよい。
【0014】
上記レーザの波長は、基板が吸収し、かつ、ナノ構造体を透過する波長であってもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、基板にナノ構造体を成長させた後の処理を工夫することにより、基板にナノ構造体を強固に接合することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】ナノ構造物の概略的な構造を説明するための説明図である。
【図2】カーボンナノウォールの概略的な構造を説明するための説明図である。
【図3】ナノ構造物の製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートである。
【図4】ナノ構造物の製造方法の処理の流れを説明するための説明図である。
【図5】接合部を説明するための説明図である。
【図6】シートプラズマCVD装置でナノ構造層を成膜した基板の電子顕微鏡写真を示す図である。
【図7】ナノ構造層が成膜された基板にパルスレーザ照射した場合と、パルスレーザ照射をしない場合とにおけるナノ構造層の剥離試験の結果を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。かかる実施形態に示す寸法、材料、その他具体的な数値等は、発明の理解を容易とするための例示にすぎず、特に断る場合を除き、本発明を限定するものではない。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能、構成を有する要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略し、また本発明に直接関係のない要素は図示を省略する。
【0018】
(ナノ構造物100)
図1は、本実施形態にかかるナノ構造物の概略的な構造を説明するための説明図である。図1に示すように、ナノ構造物100は、第1基板110aと、第2基板110bと、ナノ構造層120と、接合部130とを含んで構成される。なお第1基板110aと第2基板110bは、あわせて基板110を構成する。
【0019】
第1基板110aは、例えば、シリコン(Si)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコン(Zr)、ニオブ(Nb)、アルミニウム(Al)等で構成される。第1基板110aの材質に限定はないが、後述するナノ構造体122がカーボンナノウォール(カーボンナノフレーク、カーボンナノフラワーと呼ぶ場合もある)やカーボンナノチューブ等の炭素(C)で構成される化合物である場合、シリコン(Si)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、ジルコン(Zr)、ニオブ(Nb)等の炭化物を形成しやすい元素を含んで構成されるとよい。ここでは、半導体材料として広く利用されているSiで構成された第1基板110aを例に挙げて説明する。
【0020】
第2基板110bは、第1基板110aの下部に積層され、例えば、アルカリガラスやソーダガラスで構成される。第1基板110aおよび第2基板110bの厚み(図1中、Z軸方向の高さ)に限定はないが、例えば、第2基板110bと比較して、第1基板110aの厚みを極めて薄く(例えば、薄膜状)してもよい。
【0021】
ナノ構造層120は、第1基板110aの上部表面に、表面に対して垂直方向(図1中Z軸方向)に延伸するようにナノ構造体122が複数形成された層である。ナノ構造層120の高さは制限されないが、例えば、0.01μm〜1000μm程度になることが多い。なお、ナノ構造層120は、第1基板110aの表面に対して実質的に垂直方向に延伸していればよく、垂直方向を0°としたとき、±10°程度傾いていてもよい。
【0022】
ナノ構造体122は、延伸方向(図1中、Z軸方向)に直交する方向(図1中、X軸方向)の厚みLがナノメートルサイズ(ナノメートルオーダ)の化合物である。ここで、ナノメートルサイズとは数nmから数十nm程度のことを示す。
【0023】
ナノ構造体122は、例えば、C、Si、GaN、GaAs、InP、InNの群から選択される化合物で構成される。具体的に説明すると、ナノ構造体122は、カーボンナノウォール、カーボンナノチューブ、シリコンワイヤ、GaN、GaAs、InP、InNの群から選択される化合物である。
【0024】
ナノ構造体122としてカーボンナノウォールや、カーボンナノチューブ等のナノカーボン材料を採用することで、ナノ構造物100をリチウム電池の電極材料とすることができる。また、ナノ構造体122としてGaN、InN等の窒化物半導体を採用することにより、LED(Light Emitting Diode)やレーザに利用することができ、また、これらのナノ構造体122をSiで構成された基板110に成膜することで、ナノ構造体122を他のデバイスとともにシリコン基板上に搭載することができる。
【0025】
ここでは、ナノ構造体122として、カーボンナノウォールを例に挙げて説明する。図2は、カーボンナノウォールの概略的な構造を説明するための説明図である。カーボンナノウォールは、図2(a)に示すようなグラフェンシート(図2(a)中、炭素原子(C)を白丸で示す)が、図2(b)に示すように、第1基板110aの表面上に、当該表面に対して垂直方向(図2(b)中、Z軸方向)に成長したものである。ナノ構造層120が成膜される際、第1基板110aとナノ構造層120との界面には、グラファイト層もしくはアモルファスカーボン層が形成される。ここで、上述したように第1基板110aは、炭化物を形成しやすい元素(ここでは、Si)を含んで構成されるため、第1基板110aとグラファイト層の界面において、グラファイト層が第1基板110aの表面を構成するSi中に溶出する事象、および、グラファイト層に第1基板110aを構成するSiが熱拡散する事象、のいずれかの事象、または両方の事象が生じ得る。そして、カーボンナノウォールは、グラファイト層もしくはアモルファスカーボン層を介して、第1基板110aの表面に垂直方向に延伸するように複数形成される。
【0026】
図1に戻って、カーボンナノウォールの厚みLと、各カーボンナノウォール間の距離Sについて説明すると、カーボンナノウォールの基板110と平行な方向(図1中、X軸方向)の厚みLは、数nmから数十nm程度であり、カーボンナノウォール間の図1中、X軸方向の距離Sも、数nmから数十nm程度である。
【0027】
なお、カーボンナノウォールは自己組織化機能を有しているため、ナノメートルサイズの構造を組織化するための何らの処理を施さずとも、第1基板110aの表面上に容易にナノ構造層120を成長させることができる。またカーボンナノウォールの成長過程において、何らの処理を施さずとも、複数のカーボンナノウォールの間に、ナノメートルサイズの空隙130aが形成される。
【0028】
接合部130は、第1基板110aから第1基板110aを構成する物質が、ナノ構造層120の第1基板110a側に形成された空隙130aに延出したものであり、ナノ構造層120と第1基板110aとを接合する。具体的に説明すると、第1基板110aから第1基板110aを構成する物質が延出することによって、第1基板110aを構成する物質で空隙130aを占有し、ナノ構造体122それぞれを第1基板110aに接合する。接合部130については、後に詳述する。
【0029】
続いて、上述したようなナノ構造物100の製造方法について説明する。
【0030】
(ナノ構造物100の製造方法)
図3は、本実施形態にかかるナノ構造物100の製造方法の処理の流れを説明するためのフローチャートであり、図4は、本実施形態にかかるナノ構造物100の製造方法の処理の流れを説明するための説明図である。図3に示すように、ナノ構造物100の製造方法は、基板製造工程S200と、成膜工程S202と、接合工程S204とを含む。以下、基板製造工程S200、成膜工程S202、接合工程S204について詳述する。
【0031】
(基板製造工程S200)
基板製造工程S200は、図4(a)に示すように、第2基板110bに、当該第2基板110bとは異なる物質で構成された第1基板110aを積層して、基板110を製造する工程である。
【0032】
(成膜工程S202)
成膜工程S202は、図4(b)に示すように、プラズマCVD(Chemical Vapor Deposition)装置、MOCVD(Metal Organic CVD)装置等を利用して、下部に第2基板110bが積層された第1基板110aの上部表面に、垂直方向(図4中、Z軸方向)に延伸するように複数のナノ構造体122を成膜する工程、すなわちナノ構造層120を成膜する工程である。
【0033】
上述したようにカーボンナノウォールは、自己組織化機能を有しているため、プラズマCVD装置で基板110に、ナノ構造体122としてのカーボンナノウォールを成膜するだけで、複数のナノ構造体122の間にナノメートルサイズの空隙130aを形成しながら、ナノ構造体122が基板110の表面に対して垂直方向(図4中、Z軸方向)に延伸するように成長する。
【0034】
(接合工程S204)
接合工程S204は、図4(c)に示すように、ナノ構造層120の第1基板110a側に形成された空隙130aに接合部130を形成することで、ナノ構造体122それぞれを第1基板110aに接合する工程である。
【0035】
具体的に説明すると、成膜工程S202においてナノ構造層120が成膜された第1基板110aを加熱して、第1基板110aを溶融する。そうすると、溶融した、第1基板110aを構成する物質が、毛細管現象によって空隙130aに延出し、空隙130aが第1基板110aを構成する物質で占有され、接合部130が形成される。
【0036】
図5は、接合部130を説明するための説明図である。図5に示すように、接合部130は、第1基板110aを構成する物質で構成され、空隙130aを占有する。これにより、ナノ構造体122は、第1基板110aとの接合面のみならず、ナノ構造体122の延伸方向と直交する方向からも支持されることになり、接合部130が無い従来のナノ構造物と比較して、ナノ構造体122と第1基板110aとの接合面積を大きくすることができる。したがって、ナノ構造体122と第1基板110aとの接合を強固にすることが可能となる。
【0037】
また、図5に示すように、ナノ構造体122が第1基板110aに対して傾いて(図5中、XZ平面における断面がV字のように)延伸している場合、このナノ構造体122間の空隙130aを占有する接合部130bにおける第1基板110aの表面と平行な面(図5中XY平面)の面積は、第1基板110aから遠ざかるにつれて大きくなる。そうすると、ナノ構造体122と第1基板110aとの、第1基板110aの表面に対して垂直な方向(図5中Z軸方向)の接合力を大きくすることが可能となる。
【0038】
ここで、上述したように第1基板110aが炭化物を形成しやすい元素を含んで構成されることで、接合工程S204において第1基板110aの表面に、第1基板110aを構成する元素の炭化物(ここでは、SiC)が形成される。第1基板110aを構成する元素の炭化物(SiC)と第1基板110a(ここでは、Si)とは、第1基板110a(Si)と炭素(C)との濡れ性と比較して、濡れ性がよいため、第1基板110aを容易に空隙130aに延出させる(空隙130a内を上昇させる)ことが可能となる。
【0039】
なお、上述した第1基板110aの加熱は、第1基板110aを溶融させて空隙130aに延出できれば、どのような方法でもよいが、好ましくは、カーボンナノウォールが成膜された第1基板110aにCW(Continuous Wave)レーザを照射する方法(レーザアニール)であり、より好ましくは、カーボンナノウォールが成膜された第1基板110aにパルスレーザを照射する方法(レーザアニール)である。ここで、レーザは、YAGレーザ、YLFレーザ、エキシマレーザ等様々なレーザを採用することができる。レーザを照射する際には大気雰囲気であっても、真空であってもよい。また、レーザの波長は、193〜2200nm(紫外線波長から近赤外線波長)が好ましいが、第1基板110aとナノ構造体122の種類によって適宜変更する。レーザの波長の検討については、後に詳述する。
【0040】
ここで、ナノ構造層120が成膜された第1基板110aにパルスレーザを照射する方法を採用する場合、パルスレーザを繰り返し、ナノ構造層120が成膜された第1基板110aに照射することで、第1基板110aの溶融程度を制御することができ、接合部130の延出高さ等を制御することが可能となる。
【0041】
以上説明したように、ナノ構造物100の製造方法によれば、ナノ構造層120が成膜された基板110を加熱するだけといった簡易な処理で、基板110(第1基板110a)を構成する物質を、ナノ構造体122の第1基板110a側の空隙130aに延出させて、空隙130aを、第1基板110aを構成する物質で占有することができる。そうすると、ナノ構造体122は、第1基板110aとの接合面のみならず、ナノ構造体122の延伸方向と直交する方向からも支持されることになり、第1基板110aにナノ構造体122を強固に接合することができる。したがって、第1基板110aからナノ構造体122が容易に剥離してしまうという事態を回避することが可能となる。
【0042】
(レーザの波長と、基板の材質およびナノ構造体の材質との検討)
続いて、上記接合工程S204において照射するレーザの波長について説明する。
【0043】
(1.第1基板110aの融点が、ナノ構造体122の融点または分解温度よりも低い場合)
例えば、第1基板110aがアルミニウム(Al:融点660℃)であり、ナノ構造体122がシリコンナノワイヤ(Si:融点1412℃)である場合、レーザの波長をAlおよびSiが吸収する波長(1127nm以下、例えば523nm)とする。そうすると、ナノ構造体122が溶融または分解される前に、第1基板110aを溶融することが可能となる。また、ナノ構造体122から第1基板110aに伝熱されることになり、効率的に第1基板110aを溶融することができる。
【0044】
このように、レーザの波長を、第1基板110aおよびナノ構造体122が吸収する波長とすることで、第1基板110aの融点が、ナノ構造体122の融点または分解温度よりも低い場合、第1基板110aのみを効率よく溶融することが可能となる。
【0045】
また、第1基板110aの融点が、ナノ構造体122の融点または分解温度よりも低い例として、第1基板110aがSiであり、ナノ構造体122がカーボンナノウォールやカーボンナノチューブである構成も挙げられる。
【0046】
(2.第1基板110aの融点が、ナノ構造体122の融点または分解温度よりも高い場合)
例えば、第1基板110aがシリコン(Si:融点1412℃)であり、ナノ構造体122が窒化ガリウム(GaN:分解温度800℃程度)である場合、レーザの波長をGaNが吸収せず、Siが吸収する波長(365nm以上1127nm未満、例えば523nm)とする。そうすると、レーザは、ナノ構造体122を透過し、第1基板110aに吸収され、第1基板110aのみを溶融することが可能となる。なお、半導体における最大の吸収波長λ(nm)は、以下の数式(1)を用いて、半導体のバンドギャップEg(eV)から算出することができる。
λ(nm)=1240/Eg(eV)
…数式(1)
【0047】
このように、レーザの波長を、第1基板110aが吸収し、かつ、ナノ構造体122を透過する波長とすることで、第1基板110aの融点が、ナノ構造体122の融点または分解温度よりも高い場合であっても、第1基板110aのみを溶融することが可能となる。
【0048】
(実施例)
基板110(実施例では、基板110は、第1基板110aのみで構成した)としてSiを用い、シートプラズマCVD装置で、ナノ構造体122としてのカーボンナノウォールで構成されたナノ構造層120を成膜した。そして、波長527nmのYLFレーザを用いて、エネルギー密度を、1000mJcm−2、1200mJcm−2、1300mJcm−2とし、真空中で、ナノ構造層120が成膜された基板110にパルスレーザ照射(レーザアニール)を行い、ナノ構造物100を得た。
【0049】
図6は、シートプラズマCVD装置でナノ構造層120を成膜した基板110の電子顕微鏡写真を示す図である。図6を参照すると、基板110の表面に対して垂直方向に延伸するように、基板110表面にカーボンナノウォールが複数形成されたことが分かる。
【0050】
図7は、ナノ構造層120が成膜された基板110にパルスレーザ照射した場合と、パルスレーザ照射をしない場合とにおけるナノ構造層120の剥離試験の結果を説明するための説明図である。剥離試験として、ナノ構造層120に粘着テープを貼り、その後、その粘着テープを剥がすこととした。
【0051】
図7を参照すると、エネルギー密度を1300mJcm−2としてパルスレーザを照射した箇所において、剥離試験を行った結果、ナノ構造層120が剥離していないことが分かった(ナノ構造層120がカーボンナノウォールで構成されるため、黒で示される)。一方、エネルギー密度を1000mJcm−2、1200mJcm−2としてパルスレーザを照射した箇所、および、パルスレーザを照射しない箇所において、剥離試験を行った結果、ナノ構造層120が剥離する(図7中、グレーで示す)ことが分かった。
【0052】
この結果を踏まえると、エネルギー密度を1000mJcm−2、1200mJcm−2としてパルスレーザを照射した箇所は、レーザの照射が足りなかったと考えられ、基板110が十分に溶融せず、ナノ構造層120が基板110に強固に接合されなかったと考察される。
【0053】
このように、レーザを適切に照射することで、基板110にナノ構造層120を強固に接合することができることが分かった。
【0054】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0055】
例えば、上述した実施形態では、基板110が、第1基板110aと第2基板110bとの2層で構成される場合を例に挙げて説明したが、これに限定されず、1層であっても、3層以上であってもよい。いずれにせよ、ナノ構造層120が成膜された基板から、基板を構成する物質を延出させ、空隙130aを、基板を構成する物質で占有させればよい。
【0056】
また、上述した実施形態では、ナノ構造体122のとして、カーボンナノウォール、カーボンナノチューブ、シリコンワイヤ、GaN、GaAs、InP、InNを例に挙げて説明したが、BN、BCN、MS(Mは、Mo、W、Nb等の金属)で形成されたナノチューブであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、ナノ構造物およびナノ構造物の製造方法に利用することができる。
【符号の説明】
【0058】
100 …ナノ構造物
110 …基板
110a …第1基板
110b …第2基板
120 …ナノ構造層
122 …ナノ構造体
130 …接合部
130a …空隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の表面に、該表面に対して垂直方向に延伸するようにナノ構造体が複数形成されたナノ構造層と、
前記基板から該基板を構成する物質が、前記ナノ構造層の前記基板側に形成された空隙に延出し、該ナノ構造層と該基板とを接合する接合部と、
を備えたことを特徴とするナノ構造物。
【請求項2】
前記ナノ構造体は、C、Si、GaN、GaAs、InP、InNの群から選択される化合物で構成されることを特徴とする請求項1に記載のナノ構造物。
【請求項3】
前記ナノ構造体は、カーボンナノウォール、カーボンナノチューブ、シリコンワイヤの群から選択されるいずれかであることを特徴とする請求項1に記載のナノ構造物。
【請求項4】
基板の表面に対して垂直方向に延伸するように、複数のナノ構造体を該基板の表面に成長させてナノ構造層を成膜する工程と、
前記基板を加熱して溶融し、該基板から当該基板を構成する物質を、前記ナノ構造層の該基板側に形成された空隙に延出させ、該ナノ構造層と該基板とを接合する工程と、
を含むことを特徴とするナノ構造物の製造方法。
【請求項5】
前記接合する工程は、レーザを照射して前記基板を加熱することを特徴とする請求項4に記載のナノ構造物の製造方法。
【請求項6】
前記レーザの波長は、前記基板および前記ナノ構造体が吸収する波長であることを特徴とする請求項5に記載のナノ構造物の製造方法。
【請求項7】
前記レーザの波長は、前記基板が吸収し、かつ、前記ナノ構造体を透過する波長であることを特徴とする請求項5に記載のナノ構造物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2013−103286(P2013−103286A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−247429(P2011−247429)
【出願日】平成23年11月11日(2011.11.11)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】