ナノ構造複合体被覆型構造物及びその製造方法
【課題】 任意形状の固体基材表面がシリカで被覆されている構造物、更にその被覆層中に金属イオン、金属ナノ粒子、有機色素分子が含まれている構造物、及びこれら構造物の簡便且つ効率的な製造方法を提供すること。
【解決手段】 ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを含有する溶液中に固体基材を浸漬させた後取り出し、該固体基材の表面にポリマー層を形成させる工程(1)と、前記で得られたポリマー層を有する固体基材と、シリカソース液とを接触して、固体基材表面のポリマー層中にシリカを析出させ、ナノ構造複合体を形成させる工程(2)と、を有することを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物の製造方法及び該製法で得られる、固体基材の表面が、ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーとシリカとを含有するナノ構造複合体で被覆されていることを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物。
【解決手段】 ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを含有する溶液中に固体基材を浸漬させた後取り出し、該固体基材の表面にポリマー層を形成させる工程(1)と、前記で得られたポリマー層を有する固体基材と、シリカソース液とを接触して、固体基材表面のポリマー層中にシリカを析出させ、ナノ構造複合体を形成させる工程(2)と、を有することを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物の製造方法及び該製法で得られる、固体基材の表面が、ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーとシリカとを含有するナノ構造複合体で被覆されていることを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意形状の固体基材表面がポリエチレンイミン骨格を有するポリマーとシリカとがナノメートルオーダーで複合化されてなるナノ構造複合体(複合ナノファイバーまたは複合ナノ粒子)で緻密に被覆されていることを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物、及び該構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
珪素は地殻上で酸素に次ぐ第二番目を誇る豊富な存在であり、自然界の石英、水晶、オパール、雲母、珪藻などはよく知られている珪素の酸化物である。規則的な空間構造やパターン構造を有するシリカ材料の創製は、材料科学分野において大きな研究課題であり、これに関する技術開発が飛躍的に進歩している。
【0003】
シリカ材料にある種の構造を発現させるための方法としては、分子組織体をテンプレート(鋳型)として用い、その組織体周辺でシリカを固定化する方法が、該分野において広く用いられている。このテンプレートには、界面活性剤(例えば、非特許文献1参照。)、ブロックポリマー(例えば、非特許文献2参照。)、ウイルス、バクテリア(例えば、非特許文献3参照。)などが使用されており、これらをテンプレートとして合成されるナノ空洞を有するシリカ、例えば、MCM−41(メソポーラス)シリーズの材料は、触媒、電子材料、ナノフィルター、バイオ工学などへの応用が可能となり、それの応用開発は世界的な規模で行われている。特に、これらメソポーラス材料に関しては、より精密な構造の制御へ向けた研究がなされており、空洞の大きさ、並び方、あるいは球状のシリカ中での空洞制御などが検討されている。
【0004】
一方、このようなナノ空洞の制御と並行して、シリカそのものの形状をナノからミクロンさらにはマクロスケールまでに制御する技術が注目されている。これは生態系でのバイオシリカに啓発されたことに一因がある(例えば、非特許文献4参照。)。自然界のバイオシリカとしては、珪藻類を取りあげることができる。珪藻類は、その体形をシリカで構成し、その上に複雑かつ精密な形状とパターンとを有する。生き物の細胞膜上でのシリカの構築には、タンパク質、またはポリペプチドが関わる(例えば、非特許文献5参照。)が、これらは、シリカを析出並びに固定化する反応の触媒として作用したり、シリカ形状成長の足場を提供したりする。このような生体系バイオシリカの形成において、欠かせない化学構造の一つが長鎖ポリアミンである。ポリアミンは、ペプチド構造に組み込まれることで働くか、または独自に一定分子量のポリアミンとしてポリペプチドと共に働くものである(例えば、非特許文献6参照。)。
【0005】
上記したように、ポリアミンの存在下で、例えば、珪酸、珪酸ナトリウムまたはアルコキシシラン等のシリカソースを、室温でシリカゲルとして固定化できることは、ここ数年広く知られるようになった。しかし、それらは通常ポリアミンを水中溶解させ、その水溶液中でのシリカソースのゾルゲル反応により行われるものであるため、シリカゲルが形成できても、それらの多くはシリカゲルの形状を制御することはできず、規則的な構造を有するシリカゲルの実現は困難であった。
【0006】
上記の方法とは異なり、本発明者らは、2級アミンで構成された直鎖状ポリエチレンイミンが水性媒体中で発現する特異な分子会合体をシリカ析出の反応場として用いることにより、シリカナノファイバーに代表されるさまざまな複雑形状を有するシリカ含有ナノ構造体およびその製造法を見いだした(特許文献1〜4参照。)。これらの発明では、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水中にて自発的に会合させた後、その会合体液中にアルコキシシラン類のシラン化合物を混合させると、そのシラン類が選択的にポリマー会合体表面で加水分解的に縮合され、ポリマーとシリカとが複合したナノ構造体が生成することを見出したことにより完成した発明である。このプロセスはシリカ系ナノ構造体の構造制御に高効率であるが、あくまでも溶液中にシリカのナノ材料を析出させることであった。
【0007】
バイオシリカの啓発による技術開発にはもう一つ重要な領域がある。それは、固体材料表面にシリカ皮膜を形成させることである。バイオシリカから模倣する基本方法には、いずれも触媒として機能するポリアミン類を基材表面に吸着または化学結合で固定させ、その上でシリカを析出させることしかない。例えば、金の表面にラジカル重合開始能を有する分子残基を固定し、これにアミノ基を有するラジカル重合性モノマー(例えば、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)をラジカル重合させ、多数のポリ(N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)を金表面にブラシ状に形成させた後、該アミンポリマーブラシ上でアルコキシシランの加水分解縮合反応を進行させることによりシリカとポリマーとの複合体から成る皮膜が得られることが報告されている(例えば、非特許文献7参照。)。これにより得られる複合膜表面はフラットな構造ではなく、シリカ粒子が無秩序に集合して形成される凹凸構造であり、精巧にパターン形成されたものではなかった。また、例えば、ポリアミンとして、ポリ(L−リシン)を用い、銅板を陽極、平面状インジウムティンオキサイド(ITO)を陰極にし、その両極間にポリ(L−リシン)水溶液を加え、電極から電場印加することで、ポリ(L−リシン)を陰極のITOに吸着させた後、そのITOをケイ酸溶液に浸漬し、ITO表面にシリカを析出させることが報告されている(例えば、非特許文献8参照。)。この方法で得られたITO表面のシリカは基本的に鱗片状構造を示すが、均一な膜は得られず、従って、わずかの特定場所だけは緻密な鱗片構造であり、全体的にはただ鱗片状シリカがバラバラと存在する状態であった。その他、ポリ(L−リシン)、ポリ(L−リシン−チロシン)、ポリ(アリールアミン)塩酸塩など塩基性ポリマー溶液にガラス棒を浸漬し、表面に吸着させた後、そのガラス棒をケイ酸水溶液に浸漬し、ガラス棒表面にシリカを析出させることが報告されている(例えば、非特許文献9参照。)。この方法で得たガラス棒表面には、粗いシリカ皮膜ができるものの、ナノ構造を形成していることを示す特徴は全くなく、シリカが塗られた程度のレベルであった。
【0008】
上記のように、ポリアミン類を基材表面に固定し、その上にシリカを析出させることはできても、構造が制御されたシリカで被覆することは未だにできてない。さらに、基材としては、金属とガラスとが用いられているが、プラスチック表面に規則的かつ複雑な構造を有するシリカ皮膜構築例はない。したがって、任意形状の固体表面に複雑なナノ構造複合体が構築された構造物およびその製法の開発は非常に挑戦的な課題である。
【0009】
【非特許文献1】C.T.Kresge et al.,Nature,1992,359,p.710
【非特許文献2】A.Monnier et al.,Science,1993,261,p.1299
【非特許文献3】S.A.Davis et al.,Nature,1997,385,p.420
【非特許文献4】W.E.G.Muller Ed.,Silicon Biomineralizattion:Biology−Biotechnology−Molecular Biology−Biotechnology,2003,Springer
【非特許文献5】N.Kroger et al.,Science,1999,286,p.1129
【非特許文献6】N.Kroger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2000,97,p.14133
【非特許文献7】Don Jin Kim et al.,Langmure,2004年,第20巻,7904−7906頁
【非特許文献8】D.D. Glawe et al., Langmure,2005年,第21巻,717720頁
【非特許文献9】S. D. Pogula et al.,Langmure,2007年,第23巻,66776683頁
【特許文献1】特開2005−264421号公報
【特許文献2】特開2005−336440号公報
【特許文献3】特開2006−063097号公報
【特許文献4】特開2007−051056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、任意形状の固体基材表面がシリカで被覆されている構造物、特には、有機物であるポリマーと無機物であるシリカとがナノメートルオーダーで複合化されてなるナノ構造複合体が基材表面全体に広がり、それが基材を完全に被覆するほどの皮膜として基材上に複雑構造のナノ界面を形成しているナノ構造複合体被覆型構造物、更にそのナノ構造複合体中に金属イオン、金属ナノ粒子、有機色素分子が含まれている構造物、及びこれら構造物の簡便且つ効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは既に、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが水性媒体中で自己組織化的に成長する結晶性会合体を反応場にし、溶液中でその会合体表面にてアルコキシシランを加水分解的に縮合させ、シリカを析出させることで、形状変化に富んだ複雑なナノシリカ構造体およびそれらの製法を提供した(前記特許文献1〜4参照。)。この技術の基本原理は、溶液中でポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの結晶性会合体を自発的に生長させることであり、一旦結晶性会合体ができたら、後は単に該結晶性会合体の分散液中にシリカソースを混合して、結晶性会合体表面上だけでのシリカの析出を自然に任せることになる(いわゆる、ゾルゲル反応)。溶液中でのポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの結晶性会合体の生長を、任意形状の固体基材の表面にて進行させ、基材上にポリマーの結晶性会合体の層が形成できれば、その固体基材上にシリカとポリマーとが複合化された新しい界面を有するナノ構造物を構築することができると考えられる。この作業モデルをさらに拡張すれば、固体基材上に形成させる層がポリマーの結晶性会合体ではなく、ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの非結晶性の分子会合体からなる安定な層であっても、同様に目的のシリカとポリマーとが複合化された新しいナノ界面を構築することができると考えられる。
【0012】
従って、上記課題解決の根本的な問題は、如何に固体基材の表面にポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの自己組織化会合体の安定な層(皮膜)を形成させるかだけになる。ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの重要な特徴は、塩基性であること、そして極めて高い極性を有することである。従って、ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーは金属基材、ガラス基材、無機金属酸化物基材、極性表面を有するプラスチック基材、セルロース基材など多くの電子受容体基材類や、ルイス酸性基材類、酸性基材類、極性基材類、水素結合性基材類等の様々な表面と強い相互作用力(吸着力)を有する。本発明者らは、ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーのこの特徴を生かし、任意形状の固体基材表面と一定濃度、一定温度のポリエチレンイミン骨格含有ポリマーとの分子溶液と接触(浸漬)させることにより、溶液中の該ポリマーが固体基材表面に吸引され、結果的には該ポリマーの分子会合体からなる層が、固体基材表面の接触させた部分の全面に渡り容易に形成できることを見出した。更にこのようにして得られたポリマー層で被覆された固体基材をシリカソース液中に浸漬させることで、固体基材を複雑なナノ構造を有するシリカ/ポリマー複合体で被覆させることができる事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、任意形状の固体基材がナノ構造複合体によって被覆されているナノ構造複合体被覆型構造物であって、該ナノ構造複合体がポリエチレンイミン骨格を有するポリマーとシリカとがナノメートルオーダーで複合化されてなる複合体であることを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物、及びその製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、上記ナノ構造複合体中に金属イオン、金属ナノ粒子又は有機色素分子が含まれていることを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物、及びその製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のナノ構造複合体被覆型構造物は、任意形状の金属、ガラス、無機金属酸化物、プラスチック、セルロースなどの固体基材表面に、ポリマーとシリカとを含有する複合体が形成されているものであり、該構造物自体は、複雑な平面、曲面、棒状、管状等のいずれの形態であってもよく、また、管内、管外、容器内、容器外のいずれにも限定的または包括的に被覆させることができる。また、被覆するナノ構造複合体は、ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー溶液と固体基材との接触によって該基材上に形成されるポリマー層をテンプレートとすることから、固体基材表面の一部のみを選択して被覆することも容易である。構造物の大小にかかわらず、その表面にはナノ構造複合体が形成されていることから、単位面積あたりの表面積(比表面積)は極めて大きくなる。また、固体基材表面のナノ構造複合体は基本的にシリカであるため、シリカに関連する応用技術分野で好適に用いることが可能である。更には、該複合体中に、金属イオン、金属ナノ粒子、又は有機色素分子などの様々な機能性パーツを組み込むことも容易であるから、それらの機能を発現させて利用する様々なデバイスへ利用することができる。具体的には、触媒付与型マイクロリアクター、酵素固定装置、物質の分離精製装置、チップ、センサー、フォトニックデバイス構築、絶縁体または半導体構築、殺菌/滅菌デバイス構築、各種マイクロ電池構築、超親水/超疎水界面構築、液晶表示材料部材等として用いることができ、また、プラスチックの耐熱性、難燃性、耐摩耗性及び耐溶剤性改良技術への応用や、基材表面の屈折率調整技術などの、産業上幅広い分野への応用展開が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の構造物は、固体基材(X)の表面がポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)とシリカ(B)とを含有するナノ構造複合体(Y)によって被覆されたものである。さらに、本発明の構造物は、該ナノ構造複合体部分に、金属イオン、金属ナノ粒子、又は有機色素分子が含まれることを特徴とする構造物をも提供する。従って、本発明の構造物は、固体基材、ポリマー、シリカ、金属イオン、金属ナノ粒子、有機色素分子等により構成される。本発明において、ナノ構造複合体(Y)とは、ポリマー(A)とシリカ(B)、更に必要に応じて併用される金属イオン、金属ナノ粒子、有機色素分子等が、ナノメートルオーダーで複合化され、それがファイバー状・粒子状等の一定の形状を有する有機無機複合体のことを示すものである。また、金属ナノ粒子は後述するように、金属微粒子がナノメートルオーダーの大きさで存在しているものを示すものであって、必ずしも完全な球形である必要はないが、便宜上「粒子」と記載するものである。以下、本発明を詳細に述べる。
【0017】
[固体基材]
本発明において使用する固体基材(X)としては、後述するポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)が吸着できるものであれば特に限定されず、例えば、ガラス、金属、金属酸化物などの無機材料系基材、樹脂(プラスチック)、セルロースなどの有機材料系基材等、更にはガラス、金属、金属酸化物表面をエッチング処理した基材、樹脂基材の表面をプラズマ処理、オゾン処理した基材などを使用できる。
【0018】
無機材料系ガラス基材としては、特に限定することではないが、例えば、耐熱ガラス(ホウケイ酸ガラス)、ソーダライムガラス、クリスタルガラス、鉛や砒素を含まない光学ガラスなどのガラスを好適に用いることができる。ガラス基材の使用においては、必要に応じ、表面を水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液でエッチングして用いることができる。
【0019】
無機材料系金属基材としては特に限定しないが、例えば、鉄、銅、アルミ、ステンレス、亜鉛、銀、金、白金、またはこれらの合金などからなる基材を好適に用いることができる。
【0020】
無機材料系金属酸化物基材としては、特に限定することではないが、例えば、ITO(インジウムティンオキシド)、酸化スズ、酸化銅、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナなどを好適に用いることができる。
【0021】
樹脂基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカボナート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニール、ポリエチレンアルコール、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、セルロースなどの各種ポリマーの加工品を用いることができる。各種ポリマーの使用においては、必要に応じ、表面をプラズマまたはオゾン処理したものであっても、硫酸またはアルカリ等で処理したものであっても良い。
【0022】
固体基材(X)の形状については、特に限定されるものではなく、平面状若しくは曲面状板、またはフィルムでも良い。特に、複雑形状加工品の管状チューブ、管状チューブのらせん体、マイクロチューブ;また、任意形状の(例えば、球形、四角形、三角形、円柱形等)容器;また、任意形状の(例えば、円柱形、四角形、三角形等)棒または繊維状態の固体基材でも好適に用いることができる。
【0023】
[ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)]
本発明において、固体基材(X)上に形成するポリマー層には、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)を用いることを必須とする。該ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)としては、線状、星状、櫛状構造の単独重合体であっても、他の繰り返し単位を有する共重合体であっても良い。共重合体の場合には、該ポリマー(A)中のポリエチレンイミン骨格(a)のモル比が20%以上であることが、安定なポリマー層を形成できる点から好ましく、該ポリエチレンイミン骨格(a)の繰り返し単位数が10以上である、ブロック共重合体であることがより好ましい。
【0024】
前記ポリエチレンイミン骨格(a)としては、分岐状または直鎖状のいずれでも良いが、結晶性会合体形成能が高い直鎖状ポリエチレンイミン骨格であることがより好ましい。また単独重合体であっても共重合体であっても、ポリエチレンイミン骨格部分に相当する分子量が500〜1,000,000の範囲であると、安定なポリマー層を基材(X)上に形成することができる点から好ましい。これらポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)は市販品または本発明者らがすでに開示した合成法(前記特許文献1〜4参照。)により得ることができる。
【0025】
後述するように、前記ポリマー(A)は様々な溶液に溶解して用いることができるが、この時、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)以外に、該ポリマー(A)と相溶するその他のポリマーと混合して用いることができる。その他のポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリプロピレンイミンなどを挙げることができる。これらのその他のポリマーを用いることにより、得られる構造物中の表面にあるナノ構造複合体層の厚み等を容易に調整することが可能となる。
【0026】
[シリカ(B)]
本発明で得られる構造物の基材表面は、ポリマーとシリカとからなるナノ構造複合体であることが大きな特徴である。シリカ(B)形成に必要なシリカソースとしては、例えば、アルコキシシラン類、水ガラス、ヘキサフルオロシリコンアンモニウム等を用いることができる。
【0027】
アルコキシシラン類としては、テトラメトキシシラン、メトキシシラン縮合体のオリゴマー、テトラエトキシシラン、エトキシシラン縮合体のオリゴマーを好適に用いることができる。さらに、アルキル置換アルコキシシラン類の、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン等、更に、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等を、単一で、又は混合して用いることができる。
【0028】
また、上記シリカソースに、他のアルコキシ金属化合物を混合して用いることもできる。例えば、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、または水性媒体中安定なチタニウムビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド水溶液、チタニウムビス(ラクテート)の水溶液、チタニウムビス(ラクテート)のプロパノール/水混合液、チタニウム(エチルアセトアセテート)ジイソプロポオキシド、硫酸チタン、ヘキサフルオロチタンアンモニウム等を用いることができる。
【0029】
[金属イオン(C)]
本発明の構造体における基材表面は、前述のポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)とシリカ(B)とからなるナノ構造複合体(Y)で被覆されている。このナノ構造複合体(Y)中には金属イオン(C)を安定に取り込むことができ、従って、金属イオン(C)を含むナノ構造複合体被覆型構造物を得ることができる。
【0030】
前記ポリマー(A)中のポリエチレンイミン骨格(a)は金属イオン(C)に対して強い配位能力を有するため、金属イオン(C)は該骨格中のエチレンイミン単位と配位結合して金属イオン錯体を形成する。該金属イオン錯体は金属イオン(C)がエチレンイミン単位に配位されることにより得られるものであり、イオン結合等の過程と異なり、該金属イオン(C)がカチオンでも、またはアニオンでも、エチレンイミン単位への配位により錯体を形成することができる。従って、金属イオン(C)の金属種は、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位と配位結合できるものであれば制限されず、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、半金属、ランタン系金属、ポリオキソメタレート類の金属化合物等のいずれでも良く、単独種であっても複数種が混合されていても良い。
【0031】
上記アルカリ金属としては、Li,Na,K,Cs等が挙げられ、該アルカリ金属のイオンの対アニオンとしては、Cl,Br,I,NO3,SO4,PO4,ClO4,PF6,BF4,F3CSO3などが挙げられる。
【0032】
アルカリ土類金属としては、Mg,Ba,Ca等が挙げられる。
【0033】
遷移金属系の金属イオンとしては、それが遷移金属カチオン(Mn+)であっても、または遷移金属が酸素との結合からなる酸根アニオン(MOxn−)、またはハロゲン類結合からなるアニオン(MLxn−)であっても、好適に用いることができる。なお、本明細書において遷移金属とは、周期表第3族のSc,Y、及び、第4〜12族で第4〜6周期にある遷移金属元素を指す。
【0034】
遷移金属カチオンとしては、各種の遷移金属のカチオン(Mn+)、例えば、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Y,Zr,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Cd,W,Os,Ir,Pt,Au,Hgの一価、二価、三価または四価のカチオンなどが挙げられる。これら金属カチオンの対アニオンは、Cl,NO3,SO4、またはポリオキソメタレート類アニオン、あるいはカルボン酸類の有機アニオンのいずれであってもよい。ただし、Ag,Au,Ptなど、エチレンイミン骨格により還元されやすいものは、pHを酸性条件にする等、還元反応を抑制してイオン錯体を調製することが好ましい。
【0035】
また遷移金属アニオンとしては、各種の遷移金属アニオン(MOxn−)、例えば、MnO4,MoO4,ReO4,WO3,RuO4,CoO4,CrO4,VO3,NiO4,UO2のアニオン等が挙げられる。
【0036】
本発明における金属イオン(C)としては、前記遷移金属アニオンが、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位に配位した金属カチオンを介してシリカ(B)中に固定された、ポリオキソメタレート類の金属化合物の形態であってもよい。該ポリオキソメタレート類の具体例としては、遷移金属カチオンと組み合わせられたモリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジン酸塩類等をあげることができる。
【0037】
さらに、各種の金属が含まれたアニオン(MLxn−)、例えば、AuCl4,PtCl6,RhCl4,ReF6,NiF6,CuF6,RuCl6,In2Cl6等、金属がハロゲンに配位されたアニオンもイオン錯体形成に好適に用いることができる。
【0038】
また、半金属系イオンとしては、Al,Ga,In,Tl,Ge,Sn,Pb,Sb,Biのイオンが挙げられ、なかでもAl,Ga,In,Sn,Pb,Tlのイオンが好ましい。
【0039】
ランタン系金属イオンとしては、例えば、La,Eu,Gd,Yb,Euなどの3価のカチオンが挙げられる。
【0040】
[金属ナノ粒子(D)]
上記した通り、本発明では金属イオン(C)を構造体中のナノ構造複合体(Y)中に取り込むことができる。従って、これらの金属イオン(C)のなかでも、還元反応により還元されやすい金属イオンは、金属ナノ粒子(D)に変換させることで、該複合体(Y)中に金属ナノ粒子(D)を含有させることができる。
【0041】
金属ナノ粒子(D)の金属種としては、例えば、銅、銀、金、白金、パラジウム、マンガン、ニッケル、ロジウム、コバルト、ルテニウム、レニウム、モリブデン、鉄等が挙げられ、複合体(Y)中の金属ナノ粒子(D)は一種であっても、二種以上であってもよい。これら金属種の中でも、特に、銀、金、白金、パラジウムは、その金属イオンがエチレンイミン単位に配位された後、室温または加熱状態で自発的に還元されるため特に好ましい。
【0042】
複合体(Y)中の金属ナノ粒子(D)の大きさは、1〜20nmの範囲に制御できる。また、金属ナノ粒子(D)は、ポリマー(A)とシリカ(B)とのナノ構造複合体(Y)の内部、または外表面に固定することができる。
【0043】
[有機色素分子(E)]
本発明において、構造物を被覆するナノ構造複合体(Y)中のポリエチレンイミン骨格(a)はアミノ基、ヒドロキシ基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基を有する化合物と、水素結合及び/又は静電気引力により、物理的な結合構造を構成することができる。従って、これらの官能基を有する有機色素分子(E)を該複合体(Y)中に含有させることが可能である。
【0044】
前記有機色素分子(E)としては、単官能酸性化合物、または二官能以上の多官能酸性化合物を好適に用いることができる。
【0045】
具体的には、例えば、テトラフェニルポルフィリンテトラカルボン酸、ピレンジカルボン酸などの芳香族酸類、ナフタレンジスルホン酸、ピレンジスルホン酸、ピレンテトラスルホン酸、アンスラキノンジスルホン酸、テトラフェニルポルフィリンテトラスルホン酸、フタロシアニンテトラスルホン酸、ピペス(PIPES)などの芳香族または脂肪族のスルホン酸類、acid yellow,acid blue,acid red,direct blue,direct yellow,direct red系列のアゾ系染料等を挙げることができる。また、キサンテン骨格を有する色素、例えば、ローダミン、エリスロシン、エオシン系列の色素を用いることができる。
【0046】
[ポリマー(A)とシリカ(B)とを含有するナノ構造複合体(Y)]
ポリマー(A)とシリカ(B)とを含有するナノ構造複合体(Y)は、基本的にはポリマー(A)とシリカ(B)との複合ナノファイバー(y1)または複合ナノ粒子(y2)の集合体であり、その集合体が基材表面全体を覆った状態を構成しながら、様々なパターンまたはモルフォロジーを形成する。例えば、複合ナノファバー(y1)が固体基材上の全面に該ファイバーの長軸が略垂直方向を向いて生えているような芝状(ナノ芝)またはファイバーの長軸が比較的長く、そのため若干垂直方向よりも倒れる傾向を有する田んぼ状(ナノ田んぼ)、複合ナノファイバー(y1)が基材上全面で横倒れているような畳状(ナノ畳)、複合ナノファイバー(y1)又は複合ナノ粒子(y2)が基材上の全面でネットワークを形成しているスポンジ状(ナノスポンジ)など、多様多種の階層構造を構成することができる。
【0047】
上記ナノ芝状またはナノ田んぼ状、ナノ畳状、ナノスポンジ状等の高次構造における、基本ユニットの複合ナノファイバー(y1)の太さは10〜100nmの範囲である。ナノ芝状、ナノ田んぼ状における複合ナノファイバー(y1)の長さ(長軸方向)は50nm〜10μm範囲に制御することができる。
【0048】
また、固体基材上でネットワークを形成する場合、即ち、被覆層全体にわたって三次元の網目構造を構築している場合には、基本構造が前記複合ナノファイバー(y1)のみからなるものであっても、複合ナノ粒子(y2)のみからなるものであっても、あるいは両者が組み合わさって形成されていても良い。この時、複合ナノ粒子(y2)の平均粒子径としては20nm以下に制御することが好ましい。
【0049】
固体基材上を被覆する際の基板からの厚みは、複合ナノファイバー(y1)及び/又は複合ナノ粒子(y2)の集合体構造とも関連するが、概ね50nm〜20μm範囲で変化させることができる。ナノ芝状では、複合ナノファイバー(y1)が真っすぐ立ち伸びる傾向が強く、ファイバーの長さが基本的に厚みを構成し、一本一本のファイバーの長さはかなり揃った状態であることが特徴である。ナノ田んぼ状では、複合ナノファイバー(y2)が斜めに伸びる傾向が強く、被覆層の厚みはファイバーの長さよりは小さい。また、ナノ田んぼ状の層の厚さは、複合ナノファイバー(y2)の横倒れの重なり状態で決定されることが特徴である。ナノスポンジ状の層の厚さは複合ナノファイバー(y2)が規則性を有する複雑な絡みで盛り上がる度合いにより決まることが特徴である。ネットワークを形成している場合には、その重なり状態、複合ナノファイバー(y1)と複合ナノ粒子(y2)との存在割合等によって厚みが決定される。
【0050】
ナノ構造複合体(Y)中、ポリマー(A)の成分は5〜30質量%で調整可能である。ポリマー(A)成分の含有量を変えることで、集合体構造(高次構造)を変えることもできる。
【0051】
また、該ナノ構造複合体(Y)中に金属イオン(C)、金属ナノ粒子(D)又は有機色素分子(E)を含有させる場合には、その種類によって高次構造を制御することも可能である。この場合においても、基本ユニットは前記したような複合ナノファイバー(y1)及び/複合ナノ粒子(y2)であり、これらが、組み合わさって複雑形状を形成する。
【0052】
金属イオン(C)を取り込む際の該金属イオン(C)取り込み量としては、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位1当量に対し、1/4〜1/200当量の範囲で調製することが好ましく、この比率を変えることによって、被覆層の厚みを変化させることができる。また、この時の被覆層は金属種に応じた発色をすることもある。
【0053】
金属ナノ粒子(D)を取り込む際の該金属ナノ粒子(D)取り込み量としては、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位1当量に対し、1/4〜1/200当量の範囲で調製することが好ましく、この比率を変えることによって、被覆層の厚みを変化させることができる。また、この時の被覆層は金属種に応じた発色をすることもある。
【0054】
有機色素分子(E)を取り込む際の該有機色素分子(E)取り込み量としては、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位1当量に対し、1/2〜1/1200当量の範囲で調製することが好ましく、この比率を変化させることにより、被覆層の厚みや形状パターンを変えることもできる。
【0055】
また、ナノ構造複合体(Y)には、金属イオン(C)、金属ナノ粒子(D)及び有機色素分子(E)の2種以上を同時に取り込ませることもできる。
【0056】
[ナノ構造複合体被覆型構造物の製造方法]
本発明の構造物の製造方法は、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)の溶液、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)と金属イオン(C)との混合溶液、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)と有機色素分子(E)との混合溶液、またはポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)と金属イオン(C)と有機色素分子(E)との混合溶液を固体基材(X)の表面に接触させた後、該基材(X)を取り出し、基材(X)の表面にポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)と、併用された金属イオン(C)及び/又は有機色素分子(D)とからなるポリマー層が吸着した基材を得る工程(1)と、前記ポリマー層が吸着した基材とシリカソース液(B’)とを接触させて、基材表面に吸着したポリマー層中のポリエチレンイミン骨格(a)が有する触媒機能により、シリカ(B)がその上に析出して、ナノ構造複合体(Y)を形成すると共に基材を被覆する工程(2)、とを有する製造方法である。この手法により固体基材(X)の表面にポリマー(A)とシリカ(B)とからなるナノ界面、ポリマー(A)/金属イオン(C)/シリカ(B)からなるナノ界面、ポリマー(A)/有機色素分子(E)/シリカ(B)からなるナノ界面の被覆層を容易に形成することができる。
【0057】
工程(1)において使用するポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)は前述のポリマーを使用できる。また、該ポリマー(A)の溶液を得る際に使用可能な溶媒としては、該ポリマー(A)が溶解するものであれば特に制限されず、例えば、水、メタノールやエタノールなどの有機溶剤、あるいはこれらの混合溶媒などを適宜使用できる。
【0058】
溶液中における該ポリマー(A)の濃度としては、固体基材(X)上にポリマー層を形成できる濃度であれば良いが、所望のパターン形成や、基材表面へ吸着するポリマー密度を高くする場合には、0.5質量%〜50質量%の範囲であることが好ましく、5質量%〜50質量%の範囲であるとより好ましい。
【0059】
ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)の溶液中には、該溶剤に可溶でポリマー(A)と相溶可能な前述のその他のポリマーを混合することもできる。その他のポリマーの混合量としては、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)の濃度より高くても低くても良い。
【0060】
金属イオン(C)を含有するナノ構造複合体(Y)からなる被覆層を形成させる場合には、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)の溶液中に、当該金属イオン(C)を混合する。該金属イオン(C)の濃度はポリエチレンイミン骨格(a)中のエチレンイミン単位の1/4当量以下で調整することが好ましい。
【0061】
また、有機色素分子(E)を含有するナノ構造複合体(Y)からなる被覆層を形成させる場合には、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)の溶液中に当該有機色素分子(E)を混合する。該有機色素分子(E)の濃度はポリエチレンイミン骨格(a)中のエチレンイミン単位の1/2当量以下で調整することが好ましい。
【0062】
また、工程(1)においてポリマー層を作製するには、固体基材(X)をポリマー(A)の溶液と接触させる。接触法としては、所望の固体基材(X)をポリマー(A)の溶液に浸漬することが好適である。
【0063】
浸漬法では、基材状態により、基材(非容器状)を溶液中に入れる、または溶液を基材(容器状)中に入れる方式で、基材と溶液を接触させることができる。浸漬の際、ポリマー(A)の溶液の温度は加熱状態であることが好ましく、概ね50〜90℃の温度であれば好適である。固体基材(X)をポリマー(A)の溶液と接触させる時間は特に制限されず、基材(X)の材質に合わせて、数秒から1時間で選択することが好ましい。基材の材質がポリエチレンイミンと強い結合能力を有する場合、例えば、ガラス、金属などでは数秒〜数分でよく、基材の材質がポリエチレンイミンと結合能力が弱い場合は数十分から1時間でも良い。
【0064】
固体基材(X)とポリマー(A)の溶液を接触した後、該基材をポリマー(A)の溶液から取り出し、室温(25℃前後)に放置すると、自発的にポリマー(A)の集合体層が該基材(X)の表面に形成される。あるいは、該基材(X)をポリマー(A)の溶液から取り出してから、ただちに4〜30℃の蒸留水中、または室温〜氷点下温度のアンモニア水溶液中に入れることにより、自発的なポリマー(A)の集合体層を形成させても良い。
【0065】
固体基材(X)の表面とポリマー(A)の溶液との接触方法では、例えば、スピンコータ、バーコータ、アプリケータなどによる塗布の他、ジェットプリンタによるプリントや印刷などの方法も使用できる。特に、微細なパターン状に接触させる場合には、ジェットプリンタよる方法が好適である。
【0066】
工程(2)においては、工程(1)において形成したポリマー層とシリカソース液(B’)とを接触させ、ポリマー層表面にシリカ(B)を析出し、ポリマー(A)とシリカ(B)とのナノ構造複合体(Y)を形成させる。ポリマー層に金属イオン(C)及び/又は有機色素分子(E)が含まれる場合でも、同様な方法でシリカ(B)を析出させ、目的のナノ構造複合体(Y)を形成させることができる。
【0067】
この時用いる、シリカソース液(B’)としては、前述した各種のシリカソースの水溶液や、アルコール類溶剤、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの水性有機溶剤溶液、またはこれらと水との混合溶剤溶液を用いることができる。また、pH値が9〜11の範囲に調整した水ガラス水溶液も用いることができる。用いるシリカソース液(B’)には、シリカ以外の金属アルコキシドを混合することもできる。
【0068】
また、シリカソースとしてのアルコキシシラン類化合物は、無溶剤のバルク液のままでも使用可能である。
【0069】
ポリマー層が吸着した固体基材をシリカソース液(B’)と接触させる方法としては、浸漬法を好ましく用いることができる。浸漬する時間は5〜60分であれば十分であるが、必要に応じ時間を更に長くすることもできる。シリカソース液(B’)の温度は室温でもよく、加熱状態でも良い。加熱の場合、シリカ(B)を固体基材(X)の表面にて規則的に析出させるため、温度を70℃以下に設定することが望ましい。
【0070】
シリカソースの種類、濃度などの選定により、析出されるシリカ(B)とポリマー(A)とのナノ構造複合体(Y)の構造を調整することができ、目的に応じて、シリカソースの種類や濃度を適宜に選定することが好ましい。
【0071】
ポリエチレンイミンは貴金属イオン、例えば、金、白金、銀、パラジウムなどを金属ナノ粒子に還元することができる。従って、上記工程で得られた、ナノ構造複合体(Y)によって被覆された構造物を、当該貴金属イオンの水溶液と接触させる工程(3)を経ることにより、該貴金属イオンをナノ構造複合体(Y)中で金属ナノ粒子(D)に変換させることができ、金属ナノ粒子(D)を有するナノ構造複合体被覆型構造物を得ることができる。
【0072】
前記工程(3)において貴金属イオンの水溶液と接触させる方法は浸漬法を好ましく用いることができる。貴金属イオンの水溶液としては、塩化金酸、塩化金酸ナトリウム、塩化白金酸、塩化白金酸ナトリウム、硝酸銀等の水溶液を好適に用いることができ、貴金属イオンの水溶液濃度としては0.1〜5モル%であることが好ましい。
【0073】
貴金属イオンの水溶液の温度は特に限定されず、室温〜90℃の範囲であれば良いが、還元反応を促進するためであれば、50〜90℃の加熱された水溶液を用いることが好ましい。また、構造物を金属イオンの水溶液中に浸漬する時間は0.5〜3時間であればよく、加熱された水溶液に浸漬する場合は30分程度で十分である。
【0074】
ポリエチレンイミン単独では還元されにくい金属イオンの場合には、前記で得られた金属イオン(C)を有する構造物中の当該金属イオン(C)を、還元剤、特に低分子量の還元剤溶液または水素ガスと接触させる工程(4)を併用して、該金属イオン(C)を還元することにより、当該金属ナノ粒子(D)を含有するナノ構造複合体被覆型構造物を得ることができる。
【0075】
この時使用できる還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、アルデヒド、ヒドラジン、水素化硼素ナトリウム、水素化硼素アンモニウム、水素などが例として挙げられる。還元剤を用いて金属イオンを還元する際には、その反応は水性媒体中で行うことができ、金属イオン(C)が含まれた構造物を還元剤溶液中に浸漬する方法、または水素ガス雰囲気中放置させる方法を用いることができる。この時、還元剤水溶液の温度は室温〜90℃以下の範囲であればよく、また還元剤の濃度としては1〜5モル%であることが好ましい。
【0076】
工程(4)に適応できる金属イオン(C)の金属種としては、特に限定されないが、還元反応が速やかに進行する点から、銅、マンガン、クロム、ニッケル、錫、バナジウム、パラジウムであることが好ましい。
【0077】
被覆型構造物を還元剤水溶液に浸漬する際、還元剤水溶液温度は室温または90℃以下の加熱状態でも好適であり、還元剤の濃度は1〜5%程度で十分である。
【0078】
前述の方法で得られた様々な構造物は、室温(25℃)〜60℃程度に放置することにより、溶剤や水を除去して、前記した様々な用途に用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、特に断わりがない限り、「%」は「質量%」を表わす。
【0080】
[走査電子顕微鏡によるナノ構造体の形状分析]
単離乾燥したナノ構造体を両面テープにてサンプル支持台に固定し、それをキーエンス製表面観察装置VE−9800にて観察した。
【0081】
合成例1
<直鎖状のポリエチレンイミン(L−PEI)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量50,000,平均重合度5,000,Aldrich社製)3gを、5モル/Lの塩酸15mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末を1H−NMR(重水、日本電子株式会社製、AL300、300MHz)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH3)と2.3ppm(CH2)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0082】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿したポリマー会合体粉末を濾過し、そのポリマー会合体粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の結晶粉末をデシケータ中で室温乾燥し、線状のポリエチレンイミン(L−PEI)を得た。収量は2.2g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、L−PEIの重合度は加水分解前の5,000と同様である。
【0083】
合成例2
<ベンゼン環中心の星状ポリエチレンイミン(B−PEI)合成>
Jin,J.Mater.Chem.,13,672−675(2003)に示された方法に従い、前駆体ポリマーであるベンゼン環中心に6本のポリメチルオキサゾリンのアームが結合した星状ポリメチルオキサゾリンの合成を次の通り行った。
【0084】
磁気攪拌子がセットされたスリ口試験管中に、重合開始剤としてヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼン0.021g(0.033mmol)を入れ、試験管の口に三方コックをつけた後、真空状態にしてから窒素置換を行った。窒素気流下で三方コックの導入口からシリンジを用いて2−メチル−2−オキサゾリン2.0ml(24mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド4.0mlを順次加えた。試験管をオイルバス上で60℃まで加熱し、30分間保ったところ、混合液は透明になった。透明混合液をさらに100℃まで加熱し、その温度で20時間攪拌して、前駆体ポリマーを得た。この混合液の1H−NMR測定から、モノマーの転化率は98モル%、収量は1.8gであった。この転化率によりポリマーの平均重合度を見積もったところ、各アームの平均重合度は115であった。また、GPCによる分子量測定では、ポリマーの質量平均分子量は22,700であり、分子量分布は1.6であった。
【0085】
この前駆体ポリマーを用い、上記合成例1と同様な方法によりポリメチルオキサゾリンを加水分解し、6本のポリエチレンイミンがベンゼン環コアに結合した星状ポリエチレンイミンB−PEIを得た。1H−NMR(TMS外部標準、重水中)測定の結果、加水分解前の前駆体ポリマーの側鎖メチルに由来した1.98ppmのピークは完全に消失したことが確認された。
【0086】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿した結晶粉末を濾過し、その結晶粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の結晶粉末をデシケータ中で室温(25℃)乾燥し、6本のポリエチレンイミンがベンゼン環コアに結合した星状ポリエチレンイミン(B−PEI)を得た。収量は1.3g(結晶水含有)であった。
【0087】
合成例3
<ポルフィリン中心の星状ポリエチレンイミン(P−PEI)合成>
Jin et al.,J.Porphyrin&Phthalocyanine,3,60−64(1999);Jin、Macromol.Chem.Phys.,204,403−409(2003)に示された方法により、前駆体ポリマーであるポルフィリン中心星型ポリメチルオキサゾリンの合成を次の通り行った。
【0088】
三方コック付の50mlの二口フラスコをアルゴンガスで置換した後、0.0352gのテトラ(p−ヨードメチルフェニル)ポルフィリン(TIMPP)、8.0mlのN,N−ジメチルアセトアミドを加えて、室温で撹拌し、TIMPPを完全に溶解させた。この溶液にポルフィリンに対し、1280倍モル数に相当する2−メチル−2−オキサゾリン3.4ml(3.27g)を加えてから、反応液の温度を100℃にし、24時間撹拌した。反応液温度を室温に下げてから、10mlのメタノールを加えた後、混合液を減圧濃縮した。残留物を15mlのメタノール中に溶解し、その溶液を100mlのテトラヒドロフランに注ぎ、重合体を沈殿させた。同一方法で、重合体を再沈殿させ、吸引ろ過後、得られた重合体をP2O5が置かれたデシケータに入れ、1時間アスピレータで吸引乾燥した。さらに、真空ポンプにて減圧し、真空下24時間乾燥して前駆体ポリマー(TPMO−P)を得た。収量は3.05g、収率は92.3%であった。
【0089】
得られた前駆体ポリマー(TPMO−P)のGPC(HLC−8000,東ソー株式会社製)による数平均分子量は28,000で、分子量分布は1.56であった。また、1H−NMRにより、重合体アームにおけるエチレンプロトンと重合体中心におけるポルフィリンのピロル環プロトンとの積分比を計算した処、各アームの平均重合度は290であった。従って、1H−NMRによる数平均分子量は99,900と推定された。1H−NMRによる数平均分子量値がGPCでの数平均分子量値を大きく上回ることは、星型高分子における一般的特徴であることに一致する。
【0090】
この前駆体ポリマーを用い、上記合成例1と同様の方法によりポリメチルオキサゾリンを加水分解し、4本のポリエチレンイミンがポルフィリン中心に結合された星状ポリエチレンイミン(P−PEI)を得た。1H−NMR(TMS外部標準、重水中)測定の結果、加水分解前の前駆体ポリマーの側鎖メチルに由来した1.98ppmのピークは完全に消失した。
【0091】
実施例1−1〜1−4
[ガラス管内壁がポリマー/シリカのナノ構造複合体で被覆された構造物]
上記合成例1で得たポリマーL−PEIを蒸留水中に加え、90℃まで加熱し、4%の水溶液を調製した。ソーダライム材質のガラス管(内径1mm、長さ5cm)とシリンジをゴム管で連結し、該ガラス管中に一定目安のところまで前記加温したポリマー水溶液を吸い取ってから、30秒間静置した後、該ポリマー水溶液をシリンジの押し力で排出した。この操作でガラス管内壁にL−PEIポリマー層が形成された。該ガラス管を室温にて5分間静置したのち、ガラス管を表1記載の各種シリカソース液中に30分間浸けた。ガラス管を取り出し、ガラス管内壁をエタノールで洗浄した後、それを室温で乾燥した。この作業後、ガラス管に薄青色の反射色が見えた。
【0092】
上記過程を経て得られたガラス管末端を少々潰し、その破片をSEMにて観察した。図1〜4には異なるシリカソース液で作製したガラス管内壁表面のSEM写真の結果を示した。いずれの場合でも、内壁には、ナノファイバーをユニット構造とする緻密な配列膜が形成した。なお、比較として、ポリマー層なしのガラス管をシリカソース液に浸けてみたが、何も観察できなかった。
【0093】
【表1】
【0094】
表1の脚注
MS51:テトラメトキシシランの4量体(コルコート社製)
MS53: テトラメトキシシランの6量体(コルコート社製)
【0095】
実施例2−1〜2−3
[ガラス管内壁がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
実施例1において、ソーダライム材質のガラス管(内径1mm、長さ5cm)の代わりにソーダライム材質のガラス管(内径6mm、長さ5cm)を用いる以外は、実施例1と同様にしてガラス内壁を被覆した構造物を得た。
【0096】
上記過程を経て得られたガラス管末端を少々潰し、その破片をSEMにて観察した。図5〜7には異なるシリカソース液で作製したガラス管内壁表面のSEM写真の結果を示した。いずれの場合でも、内壁には、ナノファイバーをユニット構造とする緻密な配列膜が形成した。
【0097】
【表2】
【0098】
表2の脚注
TMOS:テトラメトキシシラン
【0099】
実施例3
[ガラス管内壁がポリマー/ポルフィリン/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
4.5mgのテトラ(スルフォネートフェニル)ポルフィリンを2gの蒸留水中に溶解させ、その液中に60mgのL−PEIを加え、90℃に加熱し、混合溶液を調製した。該溶液中のポリマーの(CH2CH2NH)ユニットとポリフィリンとのモル比は300/1となる。この溶液を上記実施例1と同様な方法でガラス管(内径6mm、長さ5cm)中に吸い取り、30秒静置した後溶液を押し出した。該ガラス管を室温で5分間静置した後、MS−51/水/イソプロピールアルコール(0.2/3/3体積比)の混合液中に20分間浸けた。ガラス管を取り出し、ガラス管内壁をエタノールで洗浄した後、それを室温で乾燥した。この作業後、ガラス管に薄紫色のポルフィリン由来の色が見えた。
【0100】
該ガラス管を蛍光顕微鏡(Olympus BX−60,オリンパス株式会社製)にて観察したところ、強い赤色の蛍光が現れた。この赤色蛍光はポルフィリン残基が被覆層中に取り込まれたことに由来する。上記過程を経て得られたガラス管末端を少々潰し、その破片をSEMにて観察した。その結果を図8に示した。写真イメージから、幅100nm前後の帯状のナノファイバーで被覆されていることを確認した。
【0101】
実施例4−1〜4−4
[ガラス管内壁がポリマー/銅イオン/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
一定量の硝酸銅を蒸留水中溶解させ、濃度0.014モル%のCu(NO3)2水溶液を調製した。一定量の該水溶液中に60mgのポリマー(L−PEI)を加え、(CH2CH2NH)/Cuのモル比が50/1,100/1,200/1,600/1となる混合液を調製した。これらの混合溶液を90℃にて加熱し、上記実施例3と同様な方法で、ガラス管内部表面をナノ構造複合体で被覆した。
【0102】
上記過程を経て得られたガラス管末端を少々潰し、その破片をSEMにて観察した。図9〜12にその結果を示した。図13には、(CH2CH2NH)/Cuモル比により形成された被覆層のみの写真を示した。(CH2CH2NH)/Cuモル比が増大する(銅イオン含有量減少)につれて、被覆層の厚みが200nmから約1000nm増大していくことを確認した。
【0103】
【表3】
【0104】
表3の脚注:
IPA:イソプロピールアルコール
【0105】
実施例5
[ガラス管内壁がポリマー/金ナノ粒子/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
実施例1−1で作製した構造物であるガラス管を2mLのNaAuCl4・2H2Oの水溶液(1%)中に浸けて、80℃で1時間加熱した。ガラス管を取り出し、蒸留水、エタノール順に洗浄した後、室温で乾燥した。これで得たガラス管には薄いワインレッド色が現れた。このワインレッド色はガラス管内壁を被覆する層中に金ナノ粒子の存在を示すプラズモン吸収に由来する。反射スペクトル(日立製作所株式会社製、UV−3500)からも520nmをピークトップとする金ナノ粒子由来のプラズモン吸収が観測された。このことから、数ナノ大きさの金ナノ粒子が被覆層中に生成したことがわかる。
【0106】
図14には、金ナノ粒子が内部に含まれた構造物のSEM写真を示した。金ナノ粒子が被覆層中に生成しても、ナノ構造複合体の基本ユニットであるナノファイバーには構造変化が起こらないことが確認できた。
【0107】
実施例6
[ポリスチレン試験管内壁がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
市販のポリスチレン試験管(16×100mm,10mL容積)に6mLの濃硫酸を加え、室温にて3時間シェーカで掻き混ぜた。濃硫酸液を取り出した後、蒸留水とメタノールで試験管を洗浄した。乾燥させた試験管中に6mLの3%のL−PEIの水溶液(80℃)を加えてから、30秒後水溶液を全部取り出し、試験管を室温で5分間静置させた。その後、試験管中に、6mLのシリカソースの混合液(MS51/蒸留水/IPA=0.5/3/3体積比)を加え、室温で20分静置した。液を取り出し、エタノールで試験管内部を洗浄し、室温にて乾燥させ、構造物を得た。得られた構造物の破片を用い、内壁部のSEM観察を行った。図15には破片表面とポリスチレンと被覆層とから構成された界面部(横方面)の写真を示した。
【0108】
実施例7
[ポリスチレン棒表面がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
太さが約1.8mmのポリスチレン棒を濃硫酸液中に3時間浸けた後、水、メタノールで表面を洗浄し、室温で5分間乾燥した。その後、ポリスチレン棒を4%のL−PEIの水溶液(80℃液)に浸け、30秒間静置した。棒を取り出し、室温にて5分間静置させた後、シリカソースの混合液(MS51/蒸留水/IPA=0.5/3/3体積比)につけた後、室温で20分静置した。棒を液中から取り出し、エタノールで表面を洗浄し、室温にて乾燥させ棒状の構造物を得た。得られた棒の表面をSEMで観察した。図16には棒表面を被覆したナノファイバーの構造写真を示した。図から、棒表面全体がナノファイバーを基本ユニットとするナノ構造複合体で覆われていることを確認した。
【0109】
実施例8
[ポリスチレン板表面がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
2×2cmのポスチレン板を濃硫酸液中に3時間浸けた後、水、メタノールで表面を洗浄し、室温で5分間乾燥した。その後、ポリスチレン板を4%のL−PEIの水溶液(80℃)に浸け、30秒間静置した。板を取り出し、室温にて5分間静置させた後、シリカソースの混合液(MS51/水/IPA=0.5/3/3体積比)につけた後、室温で20分静置した。板を液中から取り出し、エタノールで表面を洗浄し、室温にて乾燥させて板状の構造物を得た。得られた板の表面をSEMで観察した。図17は板表面を被覆したナノファイバーの構造写真である。板表面は風に流れる稲穂の様な「ナノ田んぼ」であることを確認した。
【0110】
実施例9
[銅板表面がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
1×1cmサイズの銅板を4%のL−PEIの水溶液(80℃液)に浸け、30秒間静置した。板を取り出し、室温にて5分間静置させた後、シリカソースの混合液(MS51/水/IPA=0.5/3/3)につけた後、室温で20分静置した。板を液中から取り出し、エタノールで表面を洗浄し、室温にて乾燥させて板状の構造物を得た。得られた板の表面をSEMで観察した。図18には銅板表面がナノファイバーを基本ユニットとするナノ構造複合体で覆われていることを確認した。低倍率写真から、表面に粒はあるものの、被覆層全体はナノファイバーで構成されていることを確認した。
【0111】
実施例10
[ガラス管内壁が星型ポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
実施例1−1において、内径6mmのガラス管を用い、ポリマーとしては合成例2で得られたB−PEIを用いて、更にシリカソース液として(TMOS/蒸留水=1/1体積比)を用いる以外は、実施例1−1と同様にして構造物を得た。得られたガラス管末端を少々潰し、その破片の表面をSEMで観察した。図19にはガラス管内壁の表面写真を示した。SEM観察写真から、高密度のナノファイバーがガラス管内壁に生え並んでいることを確認した。
【0112】
実施例11
[ガラス管内壁がポルフィリン星型ポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
実施例10において、ポリマーとして合成例3で得られたP−PEIを用いる以外は実施例10と同様にして、構造物を得た。得られたガラス管末端を少々潰し、その破片の表面をSEMで観察した。図20にはガラス管内壁の表面写真を示した。SEM観察写真から、生え並んだナノファイバー先が丸めの粒子状になっていることを確認した。
【0113】
実施例12
[ガラス板表面がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
2×2cmのソーダライムガラス板を4%のL−PEIの水溶液(80℃液)に浸け、30秒間静置した。板を取り出し、室温にて5分間静置させた後、シリカソースの混合液(MS51/蒸留水/IPA =0.5/3/3体積比)中に、室温で20分浸けた。板を液中から取り出し、エタノールで表面を洗浄し、室温にて乾燥させて構造物を得た。得られた板の表面をSEMで観察した。図21には板表面を被覆したナノ構造複合体の基本ユニットがナノファイバーであることを示す構造写真を示した。この写真から、板表面のナノ構造複合体は水平線的広がりのネットワークを形成していることを確認した。
【0114】
実施例13
[ガラス管内壁がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
市販の多分岐ポリエチレンイミン(SP200,日本触媒株式会社製)を蒸留水中に加え、4%の水溶液を調製した。ソーダライム材質のガラス管(内径6mm、長さ5cm)とシリンジをゴム管で連結し、該当ガラス管中に一定目安のところまで前記ポリマー水溶液吸い取ってから、30秒間静置した後、該ポリマー水溶液をシリンジの押し力で排出した。この操作でガラス管内壁にポリマーの吸着層が形成した。該ガラス管を室温にて5分間静置したのち、シリカソース溶液(TMOS/蒸留水=1/1体積比)中に30分間浸けた。ガラス管を取り出し、ガラス管内壁をエタノールで洗浄した後、それを室温で乾燥して構造物を得た。得られたガラス管末端を少々潰し、その破片の表面をSEMで観察した。図22にはガラス管内壁の表面写真を示した。SEM観察写真から、ガラス管内壁全体には約20nmのナノ粒子が緻密に広がってネットワークを形成していることを確認した。
【0115】
実施例14
[ガラス管内壁がポリマー/銅ナノ粒子/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
実施例4−1で得た銅イオンを含むナノ構造複合体で内壁を被覆されたガラス管を、6mLの1%の水素化ホウ素アンモニウム水溶液中に浸け、室温下3時間静置し、銅イオンの還元反応を行った。サンプル管を蒸留水、エタノール液中で洗浄した後、拡散反射分光器にて吸収スペクチルを測定した。銅イオン状態での630nm吸収は消失し、替わりに590nmに銅ナノ粒子由来のプラズモン吸収が現れた。このことは銅イオンが銅ナノ粒子に変換され、ガラス管内壁を被覆する複合体中に該銅ナノ粒子が含まれたことを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】実施例1−1で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:横方向からの写真(ガラスと複合体との界面) c:拡大図(ナノファイバーの観測)
【図2】実施例1−2で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの○部分拡大図 c:bの□部分拡大図
【図3】実施例1−3で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:横方向からの写真(ガラスと複合体との界面) c:拡大図(真下からの観測、複合体の表面) d:cの拡大図
【図4】実施例1−4で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:横方向からの写真(ガラスと複合体との界面) c:拡大図(ナノファイバーの観測)
【図5】実施例2−1で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの拡大図 c:bの拡大図 d:複合体表面の拡大図
【図6】実施例2−2で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:横方向からの写真(ガラスと複合体との界面) c:横方向の拡大図 d:cの表面部分の拡大図
【図7】実施例2−3で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:表面の拡大図 c:横方向の拡大図 d:cの一部分の拡大図
【図8】実施例3で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:cの一部分の拡大図
【図9】実施例4−1で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:横方向の拡大図
【図10】実施例4−2で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:横方向の拡大図
【図11】実施例4−3で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:横方向の拡大図
【図12】実施例4−4で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:横方向の拡大図
【図13】実施例4で得た構造物の横方向の走査型電子顕微鏡写真である。(CH2CH2NH)/Cu=50/1(a),100/1(b),200/1(c),600/1(d)
【図14】実施例5で得た構造物の実物の写真と走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図
【図15】実施例6で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:横方向の拡大図
【図16】実施例7で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:棒の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:cの拡大図
【図17】実施例8で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:板の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図
【図18】実施例9で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:板の写真 b:aの○部分の拡大図 c:bの拡大図
【図19】実施例10で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:表面の写真 b:aの拡大図 c:横方向の拡大図 d:cの拡大図
【図20】実施例11で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:表面の写真 b:aの拡大図 c:bの拡大図
【図21】実施例12で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:表面の写真 b:aの拡大図 c:bの拡大図 d:cの拡大図
【図22】実施例13で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:表面の写真 b:aの拡大図 c:bの拡大図
【技術分野】
【0001】
本発明は、任意形状の固体基材表面がポリエチレンイミン骨格を有するポリマーとシリカとがナノメートルオーダーで複合化されてなるナノ構造複合体(複合ナノファイバーまたは複合ナノ粒子)で緻密に被覆されていることを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物、及び該構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
珪素は地殻上で酸素に次ぐ第二番目を誇る豊富な存在であり、自然界の石英、水晶、オパール、雲母、珪藻などはよく知られている珪素の酸化物である。規則的な空間構造やパターン構造を有するシリカ材料の創製は、材料科学分野において大きな研究課題であり、これに関する技術開発が飛躍的に進歩している。
【0003】
シリカ材料にある種の構造を発現させるための方法としては、分子組織体をテンプレート(鋳型)として用い、その組織体周辺でシリカを固定化する方法が、該分野において広く用いられている。このテンプレートには、界面活性剤(例えば、非特許文献1参照。)、ブロックポリマー(例えば、非特許文献2参照。)、ウイルス、バクテリア(例えば、非特許文献3参照。)などが使用されており、これらをテンプレートとして合成されるナノ空洞を有するシリカ、例えば、MCM−41(メソポーラス)シリーズの材料は、触媒、電子材料、ナノフィルター、バイオ工学などへの応用が可能となり、それの応用開発は世界的な規模で行われている。特に、これらメソポーラス材料に関しては、より精密な構造の制御へ向けた研究がなされており、空洞の大きさ、並び方、あるいは球状のシリカ中での空洞制御などが検討されている。
【0004】
一方、このようなナノ空洞の制御と並行して、シリカそのものの形状をナノからミクロンさらにはマクロスケールまでに制御する技術が注目されている。これは生態系でのバイオシリカに啓発されたことに一因がある(例えば、非特許文献4参照。)。自然界のバイオシリカとしては、珪藻類を取りあげることができる。珪藻類は、その体形をシリカで構成し、その上に複雑かつ精密な形状とパターンとを有する。生き物の細胞膜上でのシリカの構築には、タンパク質、またはポリペプチドが関わる(例えば、非特許文献5参照。)が、これらは、シリカを析出並びに固定化する反応の触媒として作用したり、シリカ形状成長の足場を提供したりする。このような生体系バイオシリカの形成において、欠かせない化学構造の一つが長鎖ポリアミンである。ポリアミンは、ペプチド構造に組み込まれることで働くか、または独自に一定分子量のポリアミンとしてポリペプチドと共に働くものである(例えば、非特許文献6参照。)。
【0005】
上記したように、ポリアミンの存在下で、例えば、珪酸、珪酸ナトリウムまたはアルコキシシラン等のシリカソースを、室温でシリカゲルとして固定化できることは、ここ数年広く知られるようになった。しかし、それらは通常ポリアミンを水中溶解させ、その水溶液中でのシリカソースのゾルゲル反応により行われるものであるため、シリカゲルが形成できても、それらの多くはシリカゲルの形状を制御することはできず、規則的な構造を有するシリカゲルの実現は困難であった。
【0006】
上記の方法とは異なり、本発明者らは、2級アミンで構成された直鎖状ポリエチレンイミンが水性媒体中で発現する特異な分子会合体をシリカ析出の反応場として用いることにより、シリカナノファイバーに代表されるさまざまな複雑形状を有するシリカ含有ナノ構造体およびその製造法を見いだした(特許文献1〜4参照。)。これらの発明では、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーを水中にて自発的に会合させた後、その会合体液中にアルコキシシラン類のシラン化合物を混合させると、そのシラン類が選択的にポリマー会合体表面で加水分解的に縮合され、ポリマーとシリカとが複合したナノ構造体が生成することを見出したことにより完成した発明である。このプロセスはシリカ系ナノ構造体の構造制御に高効率であるが、あくまでも溶液中にシリカのナノ材料を析出させることであった。
【0007】
バイオシリカの啓発による技術開発にはもう一つ重要な領域がある。それは、固体材料表面にシリカ皮膜を形成させることである。バイオシリカから模倣する基本方法には、いずれも触媒として機能するポリアミン類を基材表面に吸着または化学結合で固定させ、その上でシリカを析出させることしかない。例えば、金の表面にラジカル重合開始能を有する分子残基を固定し、これにアミノ基を有するラジカル重合性モノマー(例えば、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)をラジカル重合させ、多数のポリ(N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート)を金表面にブラシ状に形成させた後、該アミンポリマーブラシ上でアルコキシシランの加水分解縮合反応を進行させることによりシリカとポリマーとの複合体から成る皮膜が得られることが報告されている(例えば、非特許文献7参照。)。これにより得られる複合膜表面はフラットな構造ではなく、シリカ粒子が無秩序に集合して形成される凹凸構造であり、精巧にパターン形成されたものではなかった。また、例えば、ポリアミンとして、ポリ(L−リシン)を用い、銅板を陽極、平面状インジウムティンオキサイド(ITO)を陰極にし、その両極間にポリ(L−リシン)水溶液を加え、電極から電場印加することで、ポリ(L−リシン)を陰極のITOに吸着させた後、そのITOをケイ酸溶液に浸漬し、ITO表面にシリカを析出させることが報告されている(例えば、非特許文献8参照。)。この方法で得られたITO表面のシリカは基本的に鱗片状構造を示すが、均一な膜は得られず、従って、わずかの特定場所だけは緻密な鱗片構造であり、全体的にはただ鱗片状シリカがバラバラと存在する状態であった。その他、ポリ(L−リシン)、ポリ(L−リシン−チロシン)、ポリ(アリールアミン)塩酸塩など塩基性ポリマー溶液にガラス棒を浸漬し、表面に吸着させた後、そのガラス棒をケイ酸水溶液に浸漬し、ガラス棒表面にシリカを析出させることが報告されている(例えば、非特許文献9参照。)。この方法で得たガラス棒表面には、粗いシリカ皮膜ができるものの、ナノ構造を形成していることを示す特徴は全くなく、シリカが塗られた程度のレベルであった。
【0008】
上記のように、ポリアミン類を基材表面に固定し、その上にシリカを析出させることはできても、構造が制御されたシリカで被覆することは未だにできてない。さらに、基材としては、金属とガラスとが用いられているが、プラスチック表面に規則的かつ複雑な構造を有するシリカ皮膜構築例はない。したがって、任意形状の固体表面に複雑なナノ構造複合体が構築された構造物およびその製法の開発は非常に挑戦的な課題である。
【0009】
【非特許文献1】C.T.Kresge et al.,Nature,1992,359,p.710
【非特許文献2】A.Monnier et al.,Science,1993,261,p.1299
【非特許文献3】S.A.Davis et al.,Nature,1997,385,p.420
【非特許文献4】W.E.G.Muller Ed.,Silicon Biomineralizattion:Biology−Biotechnology−Molecular Biology−Biotechnology,2003,Springer
【非特許文献5】N.Kroger et al.,Science,1999,286,p.1129
【非特許文献6】N.Kroger et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,2000,97,p.14133
【非特許文献7】Don Jin Kim et al.,Langmure,2004年,第20巻,7904−7906頁
【非特許文献8】D.D. Glawe et al., Langmure,2005年,第21巻,717720頁
【非特許文献9】S. D. Pogula et al.,Langmure,2007年,第23巻,66776683頁
【特許文献1】特開2005−264421号公報
【特許文献2】特開2005−336440号公報
【特許文献3】特開2006−063097号公報
【特許文献4】特開2007−051056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、任意形状の固体基材表面がシリカで被覆されている構造物、特には、有機物であるポリマーと無機物であるシリカとがナノメートルオーダーで複合化されてなるナノ構造複合体が基材表面全体に広がり、それが基材を完全に被覆するほどの皮膜として基材上に複雑構造のナノ界面を形成しているナノ構造複合体被覆型構造物、更にそのナノ構造複合体中に金属イオン、金属ナノ粒子、有機色素分子が含まれている構造物、及びこれら構造物の簡便且つ効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは既に、直鎖状ポリエチレンイミン骨格を有するポリマーが水性媒体中で自己組織化的に成長する結晶性会合体を反応場にし、溶液中でその会合体表面にてアルコキシシランを加水分解的に縮合させ、シリカを析出させることで、形状変化に富んだ複雑なナノシリカ構造体およびそれらの製法を提供した(前記特許文献1〜4参照。)。この技術の基本原理は、溶液中でポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの結晶性会合体を自発的に生長させることであり、一旦結晶性会合体ができたら、後は単に該結晶性会合体の分散液中にシリカソースを混合して、結晶性会合体表面上だけでのシリカの析出を自然に任せることになる(いわゆる、ゾルゲル反応)。溶液中でのポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの結晶性会合体の生長を、任意形状の固体基材の表面にて進行させ、基材上にポリマーの結晶性会合体の層が形成できれば、その固体基材上にシリカとポリマーとが複合化された新しい界面を有するナノ構造物を構築することができると考えられる。この作業モデルをさらに拡張すれば、固体基材上に形成させる層がポリマーの結晶性会合体ではなく、ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの非結晶性の分子会合体からなる安定な層であっても、同様に目的のシリカとポリマーとが複合化された新しいナノ界面を構築することができると考えられる。
【0012】
従って、上記課題解決の根本的な問題は、如何に固体基材の表面にポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの自己組織化会合体の安定な層(皮膜)を形成させるかだけになる。ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーの重要な特徴は、塩基性であること、そして極めて高い極性を有することである。従って、ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーは金属基材、ガラス基材、無機金属酸化物基材、極性表面を有するプラスチック基材、セルロース基材など多くの電子受容体基材類や、ルイス酸性基材類、酸性基材類、極性基材類、水素結合性基材類等の様々な表面と強い相互作用力(吸着力)を有する。本発明者らは、ポリエチレンイミン骨格含有ポリマーのこの特徴を生かし、任意形状の固体基材表面と一定濃度、一定温度のポリエチレンイミン骨格含有ポリマーとの分子溶液と接触(浸漬)させることにより、溶液中の該ポリマーが固体基材表面に吸引され、結果的には該ポリマーの分子会合体からなる層が、固体基材表面の接触させた部分の全面に渡り容易に形成できることを見出した。更にこのようにして得られたポリマー層で被覆された固体基材をシリカソース液中に浸漬させることで、固体基材を複雑なナノ構造を有するシリカ/ポリマー複合体で被覆させることができる事を見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、任意形状の固体基材がナノ構造複合体によって被覆されているナノ構造複合体被覆型構造物であって、該ナノ構造複合体がポリエチレンイミン骨格を有するポリマーとシリカとがナノメートルオーダーで複合化されてなる複合体であることを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物、及びその製造方法を提供するものである。
【0014】
また、本発明は、上記ナノ構造複合体中に金属イオン、金属ナノ粒子又は有機色素分子が含まれていることを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物、及びその製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明のナノ構造複合体被覆型構造物は、任意形状の金属、ガラス、無機金属酸化物、プラスチック、セルロースなどの固体基材表面に、ポリマーとシリカとを含有する複合体が形成されているものであり、該構造物自体は、複雑な平面、曲面、棒状、管状等のいずれの形態であってもよく、また、管内、管外、容器内、容器外のいずれにも限定的または包括的に被覆させることができる。また、被覆するナノ構造複合体は、ポリエチレンイミン骨格を有するポリマー溶液と固体基材との接触によって該基材上に形成されるポリマー層をテンプレートとすることから、固体基材表面の一部のみを選択して被覆することも容易である。構造物の大小にかかわらず、その表面にはナノ構造複合体が形成されていることから、単位面積あたりの表面積(比表面積)は極めて大きくなる。また、固体基材表面のナノ構造複合体は基本的にシリカであるため、シリカに関連する応用技術分野で好適に用いることが可能である。更には、該複合体中に、金属イオン、金属ナノ粒子、又は有機色素分子などの様々な機能性パーツを組み込むことも容易であるから、それらの機能を発現させて利用する様々なデバイスへ利用することができる。具体的には、触媒付与型マイクロリアクター、酵素固定装置、物質の分離精製装置、チップ、センサー、フォトニックデバイス構築、絶縁体または半導体構築、殺菌/滅菌デバイス構築、各種マイクロ電池構築、超親水/超疎水界面構築、液晶表示材料部材等として用いることができ、また、プラスチックの耐熱性、難燃性、耐摩耗性及び耐溶剤性改良技術への応用や、基材表面の屈折率調整技術などの、産業上幅広い分野への応用展開が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の構造物は、固体基材(X)の表面がポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)とシリカ(B)とを含有するナノ構造複合体(Y)によって被覆されたものである。さらに、本発明の構造物は、該ナノ構造複合体部分に、金属イオン、金属ナノ粒子、又は有機色素分子が含まれることを特徴とする構造物をも提供する。従って、本発明の構造物は、固体基材、ポリマー、シリカ、金属イオン、金属ナノ粒子、有機色素分子等により構成される。本発明において、ナノ構造複合体(Y)とは、ポリマー(A)とシリカ(B)、更に必要に応じて併用される金属イオン、金属ナノ粒子、有機色素分子等が、ナノメートルオーダーで複合化され、それがファイバー状・粒子状等の一定の形状を有する有機無機複合体のことを示すものである。また、金属ナノ粒子は後述するように、金属微粒子がナノメートルオーダーの大きさで存在しているものを示すものであって、必ずしも完全な球形である必要はないが、便宜上「粒子」と記載するものである。以下、本発明を詳細に述べる。
【0017】
[固体基材]
本発明において使用する固体基材(X)としては、後述するポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)が吸着できるものであれば特に限定されず、例えば、ガラス、金属、金属酸化物などの無機材料系基材、樹脂(プラスチック)、セルロースなどの有機材料系基材等、更にはガラス、金属、金属酸化物表面をエッチング処理した基材、樹脂基材の表面をプラズマ処理、オゾン処理した基材などを使用できる。
【0018】
無機材料系ガラス基材としては、特に限定することではないが、例えば、耐熱ガラス(ホウケイ酸ガラス)、ソーダライムガラス、クリスタルガラス、鉛や砒素を含まない光学ガラスなどのガラスを好適に用いることができる。ガラス基材の使用においては、必要に応じ、表面を水酸化ナトリウムなどのアルカリ溶液でエッチングして用いることができる。
【0019】
無機材料系金属基材としては特に限定しないが、例えば、鉄、銅、アルミ、ステンレス、亜鉛、銀、金、白金、またはこれらの合金などからなる基材を好適に用いることができる。
【0020】
無機材料系金属酸化物基材としては、特に限定することではないが、例えば、ITO(インジウムティンオキシド)、酸化スズ、酸化銅、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナなどを好適に用いることができる。
【0021】
樹脂基材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカボナート、ポリエステル、ポリスチレン、ポリメタクリレート、ポリ塩化ビニール、ポリエチレンアルコール、ポリイミド、ポリアミド、ポリウレタン、エポキシ樹脂、セルロースなどの各種ポリマーの加工品を用いることができる。各種ポリマーの使用においては、必要に応じ、表面をプラズマまたはオゾン処理したものであっても、硫酸またはアルカリ等で処理したものであっても良い。
【0022】
固体基材(X)の形状については、特に限定されるものではなく、平面状若しくは曲面状板、またはフィルムでも良い。特に、複雑形状加工品の管状チューブ、管状チューブのらせん体、マイクロチューブ;また、任意形状の(例えば、球形、四角形、三角形、円柱形等)容器;また、任意形状の(例えば、円柱形、四角形、三角形等)棒または繊維状態の固体基材でも好適に用いることができる。
【0023】
[ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)]
本発明において、固体基材(X)上に形成するポリマー層には、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)を用いることを必須とする。該ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)としては、線状、星状、櫛状構造の単独重合体であっても、他の繰り返し単位を有する共重合体であっても良い。共重合体の場合には、該ポリマー(A)中のポリエチレンイミン骨格(a)のモル比が20%以上であることが、安定なポリマー層を形成できる点から好ましく、該ポリエチレンイミン骨格(a)の繰り返し単位数が10以上である、ブロック共重合体であることがより好ましい。
【0024】
前記ポリエチレンイミン骨格(a)としては、分岐状または直鎖状のいずれでも良いが、結晶性会合体形成能が高い直鎖状ポリエチレンイミン骨格であることがより好ましい。また単独重合体であっても共重合体であっても、ポリエチレンイミン骨格部分に相当する分子量が500〜1,000,000の範囲であると、安定なポリマー層を基材(X)上に形成することができる点から好ましい。これらポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)は市販品または本発明者らがすでに開示した合成法(前記特許文献1〜4参照。)により得ることができる。
【0025】
後述するように、前記ポリマー(A)は様々な溶液に溶解して用いることができるが、この時、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)以外に、該ポリマー(A)と相溶するその他のポリマーと混合して用いることができる。その他のポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリヒドロキシエチルアクリレート、ポリメチルオキサゾリン、ポリエチルオキサゾリン、ポリプロピレンイミンなどを挙げることができる。これらのその他のポリマーを用いることにより、得られる構造物中の表面にあるナノ構造複合体層の厚み等を容易に調整することが可能となる。
【0026】
[シリカ(B)]
本発明で得られる構造物の基材表面は、ポリマーとシリカとからなるナノ構造複合体であることが大きな特徴である。シリカ(B)形成に必要なシリカソースとしては、例えば、アルコキシシラン類、水ガラス、ヘキサフルオロシリコンアンモニウム等を用いることができる。
【0027】
アルコキシシラン類としては、テトラメトキシシラン、メトキシシラン縮合体のオリゴマー、テトラエトキシシラン、エトキシシラン縮合体のオリゴマーを好適に用いることができる。さらに、アルキル置換アルコキシシラン類の、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、iso−プロピルトリメトキシシラン、iso−プロピルトリエトキシシラン等、更に、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトトリエトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリメトキシシラン、p−クロロメチルフェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン等を、単一で、又は混合して用いることができる。
【0028】
また、上記シリカソースに、他のアルコキシ金属化合物を混合して用いることもできる。例えば、テトラブトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、または水性媒体中安定なチタニウムビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド水溶液、チタニウムビス(ラクテート)の水溶液、チタニウムビス(ラクテート)のプロパノール/水混合液、チタニウム(エチルアセトアセテート)ジイソプロポオキシド、硫酸チタン、ヘキサフルオロチタンアンモニウム等を用いることができる。
【0029】
[金属イオン(C)]
本発明の構造体における基材表面は、前述のポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)とシリカ(B)とからなるナノ構造複合体(Y)で被覆されている。このナノ構造複合体(Y)中には金属イオン(C)を安定に取り込むことができ、従って、金属イオン(C)を含むナノ構造複合体被覆型構造物を得ることができる。
【0030】
前記ポリマー(A)中のポリエチレンイミン骨格(a)は金属イオン(C)に対して強い配位能力を有するため、金属イオン(C)は該骨格中のエチレンイミン単位と配位結合して金属イオン錯体を形成する。該金属イオン錯体は金属イオン(C)がエチレンイミン単位に配位されることにより得られるものであり、イオン結合等の過程と異なり、該金属イオン(C)がカチオンでも、またはアニオンでも、エチレンイミン単位への配位により錯体を形成することができる。従って、金属イオン(C)の金属種は、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位と配位結合できるものであれば制限されず、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属、半金属、ランタン系金属、ポリオキソメタレート類の金属化合物等のいずれでも良く、単独種であっても複数種が混合されていても良い。
【0031】
上記アルカリ金属としては、Li,Na,K,Cs等が挙げられ、該アルカリ金属のイオンの対アニオンとしては、Cl,Br,I,NO3,SO4,PO4,ClO4,PF6,BF4,F3CSO3などが挙げられる。
【0032】
アルカリ土類金属としては、Mg,Ba,Ca等が挙げられる。
【0033】
遷移金属系の金属イオンとしては、それが遷移金属カチオン(Mn+)であっても、または遷移金属が酸素との結合からなる酸根アニオン(MOxn−)、またはハロゲン類結合からなるアニオン(MLxn−)であっても、好適に用いることができる。なお、本明細書において遷移金属とは、周期表第3族のSc,Y、及び、第4〜12族で第4〜6周期にある遷移金属元素を指す。
【0034】
遷移金属カチオンとしては、各種の遷移金属のカチオン(Mn+)、例えば、Ti,V,Cr,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Y,Zr,Mo,Ru,Rh,Pd,Ag,Cd,W,Os,Ir,Pt,Au,Hgの一価、二価、三価または四価のカチオンなどが挙げられる。これら金属カチオンの対アニオンは、Cl,NO3,SO4、またはポリオキソメタレート類アニオン、あるいはカルボン酸類の有機アニオンのいずれであってもよい。ただし、Ag,Au,Ptなど、エチレンイミン骨格により還元されやすいものは、pHを酸性条件にする等、還元反応を抑制してイオン錯体を調製することが好ましい。
【0035】
また遷移金属アニオンとしては、各種の遷移金属アニオン(MOxn−)、例えば、MnO4,MoO4,ReO4,WO3,RuO4,CoO4,CrO4,VO3,NiO4,UO2のアニオン等が挙げられる。
【0036】
本発明における金属イオン(C)としては、前記遷移金属アニオンが、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位に配位した金属カチオンを介してシリカ(B)中に固定された、ポリオキソメタレート類の金属化合物の形態であってもよい。該ポリオキソメタレート類の具体例としては、遷移金属カチオンと組み合わせられたモリブデン酸塩、タングステン酸塩、バナジン酸塩類等をあげることができる。
【0037】
さらに、各種の金属が含まれたアニオン(MLxn−)、例えば、AuCl4,PtCl6,RhCl4,ReF6,NiF6,CuF6,RuCl6,In2Cl6等、金属がハロゲンに配位されたアニオンもイオン錯体形成に好適に用いることができる。
【0038】
また、半金属系イオンとしては、Al,Ga,In,Tl,Ge,Sn,Pb,Sb,Biのイオンが挙げられ、なかでもAl,Ga,In,Sn,Pb,Tlのイオンが好ましい。
【0039】
ランタン系金属イオンとしては、例えば、La,Eu,Gd,Yb,Euなどの3価のカチオンが挙げられる。
【0040】
[金属ナノ粒子(D)]
上記した通り、本発明では金属イオン(C)を構造体中のナノ構造複合体(Y)中に取り込むことができる。従って、これらの金属イオン(C)のなかでも、還元反応により還元されやすい金属イオンは、金属ナノ粒子(D)に変換させることで、該複合体(Y)中に金属ナノ粒子(D)を含有させることができる。
【0041】
金属ナノ粒子(D)の金属種としては、例えば、銅、銀、金、白金、パラジウム、マンガン、ニッケル、ロジウム、コバルト、ルテニウム、レニウム、モリブデン、鉄等が挙げられ、複合体(Y)中の金属ナノ粒子(D)は一種であっても、二種以上であってもよい。これら金属種の中でも、特に、銀、金、白金、パラジウムは、その金属イオンがエチレンイミン単位に配位された後、室温または加熱状態で自発的に還元されるため特に好ましい。
【0042】
複合体(Y)中の金属ナノ粒子(D)の大きさは、1〜20nmの範囲に制御できる。また、金属ナノ粒子(D)は、ポリマー(A)とシリカ(B)とのナノ構造複合体(Y)の内部、または外表面に固定することができる。
【0043】
[有機色素分子(E)]
本発明において、構造物を被覆するナノ構造複合体(Y)中のポリエチレンイミン骨格(a)はアミノ基、ヒドロキシ基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基を有する化合物と、水素結合及び/又は静電気引力により、物理的な結合構造を構成することができる。従って、これらの官能基を有する有機色素分子(E)を該複合体(Y)中に含有させることが可能である。
【0044】
前記有機色素分子(E)としては、単官能酸性化合物、または二官能以上の多官能酸性化合物を好適に用いることができる。
【0045】
具体的には、例えば、テトラフェニルポルフィリンテトラカルボン酸、ピレンジカルボン酸などの芳香族酸類、ナフタレンジスルホン酸、ピレンジスルホン酸、ピレンテトラスルホン酸、アンスラキノンジスルホン酸、テトラフェニルポルフィリンテトラスルホン酸、フタロシアニンテトラスルホン酸、ピペス(PIPES)などの芳香族または脂肪族のスルホン酸類、acid yellow,acid blue,acid red,direct blue,direct yellow,direct red系列のアゾ系染料等を挙げることができる。また、キサンテン骨格を有する色素、例えば、ローダミン、エリスロシン、エオシン系列の色素を用いることができる。
【0046】
[ポリマー(A)とシリカ(B)とを含有するナノ構造複合体(Y)]
ポリマー(A)とシリカ(B)とを含有するナノ構造複合体(Y)は、基本的にはポリマー(A)とシリカ(B)との複合ナノファイバー(y1)または複合ナノ粒子(y2)の集合体であり、その集合体が基材表面全体を覆った状態を構成しながら、様々なパターンまたはモルフォロジーを形成する。例えば、複合ナノファバー(y1)が固体基材上の全面に該ファイバーの長軸が略垂直方向を向いて生えているような芝状(ナノ芝)またはファイバーの長軸が比較的長く、そのため若干垂直方向よりも倒れる傾向を有する田んぼ状(ナノ田んぼ)、複合ナノファイバー(y1)が基材上全面で横倒れているような畳状(ナノ畳)、複合ナノファイバー(y1)又は複合ナノ粒子(y2)が基材上の全面でネットワークを形成しているスポンジ状(ナノスポンジ)など、多様多種の階層構造を構成することができる。
【0047】
上記ナノ芝状またはナノ田んぼ状、ナノ畳状、ナノスポンジ状等の高次構造における、基本ユニットの複合ナノファイバー(y1)の太さは10〜100nmの範囲である。ナノ芝状、ナノ田んぼ状における複合ナノファイバー(y1)の長さ(長軸方向)は50nm〜10μm範囲に制御することができる。
【0048】
また、固体基材上でネットワークを形成する場合、即ち、被覆層全体にわたって三次元の網目構造を構築している場合には、基本構造が前記複合ナノファイバー(y1)のみからなるものであっても、複合ナノ粒子(y2)のみからなるものであっても、あるいは両者が組み合わさって形成されていても良い。この時、複合ナノ粒子(y2)の平均粒子径としては20nm以下に制御することが好ましい。
【0049】
固体基材上を被覆する際の基板からの厚みは、複合ナノファイバー(y1)及び/又は複合ナノ粒子(y2)の集合体構造とも関連するが、概ね50nm〜20μm範囲で変化させることができる。ナノ芝状では、複合ナノファイバー(y1)が真っすぐ立ち伸びる傾向が強く、ファイバーの長さが基本的に厚みを構成し、一本一本のファイバーの長さはかなり揃った状態であることが特徴である。ナノ田んぼ状では、複合ナノファイバー(y2)が斜めに伸びる傾向が強く、被覆層の厚みはファイバーの長さよりは小さい。また、ナノ田んぼ状の層の厚さは、複合ナノファイバー(y2)の横倒れの重なり状態で決定されることが特徴である。ナノスポンジ状の層の厚さは複合ナノファイバー(y2)が規則性を有する複雑な絡みで盛り上がる度合いにより決まることが特徴である。ネットワークを形成している場合には、その重なり状態、複合ナノファイバー(y1)と複合ナノ粒子(y2)との存在割合等によって厚みが決定される。
【0050】
ナノ構造複合体(Y)中、ポリマー(A)の成分は5〜30質量%で調整可能である。ポリマー(A)成分の含有量を変えることで、集合体構造(高次構造)を変えることもできる。
【0051】
また、該ナノ構造複合体(Y)中に金属イオン(C)、金属ナノ粒子(D)又は有機色素分子(E)を含有させる場合には、その種類によって高次構造を制御することも可能である。この場合においても、基本ユニットは前記したような複合ナノファイバー(y1)及び/複合ナノ粒子(y2)であり、これらが、組み合わさって複雑形状を形成する。
【0052】
金属イオン(C)を取り込む際の該金属イオン(C)取り込み量としては、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位1当量に対し、1/4〜1/200当量の範囲で調製することが好ましく、この比率を変えることによって、被覆層の厚みを変化させることができる。また、この時の被覆層は金属種に応じた発色をすることもある。
【0053】
金属ナノ粒子(D)を取り込む際の該金属ナノ粒子(D)取り込み量としては、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位1当量に対し、1/4〜1/200当量の範囲で調製することが好ましく、この比率を変えることによって、被覆層の厚みを変化させることができる。また、この時の被覆層は金属種に応じた発色をすることもある。
【0054】
有機色素分子(E)を取り込む際の該有機色素分子(E)取り込み量としては、ポリマー(A)中のエチレンイミン単位1当量に対し、1/2〜1/1200当量の範囲で調製することが好ましく、この比率を変化させることにより、被覆層の厚みや形状パターンを変えることもできる。
【0055】
また、ナノ構造複合体(Y)には、金属イオン(C)、金属ナノ粒子(D)及び有機色素分子(E)の2種以上を同時に取り込ませることもできる。
【0056】
[ナノ構造複合体被覆型構造物の製造方法]
本発明の構造物の製造方法は、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)の溶液、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)と金属イオン(C)との混合溶液、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)と有機色素分子(E)との混合溶液、またはポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)と金属イオン(C)と有機色素分子(E)との混合溶液を固体基材(X)の表面に接触させた後、該基材(X)を取り出し、基材(X)の表面にポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)と、併用された金属イオン(C)及び/又は有機色素分子(D)とからなるポリマー層が吸着した基材を得る工程(1)と、前記ポリマー層が吸着した基材とシリカソース液(B’)とを接触させて、基材表面に吸着したポリマー層中のポリエチレンイミン骨格(a)が有する触媒機能により、シリカ(B)がその上に析出して、ナノ構造複合体(Y)を形成すると共に基材を被覆する工程(2)、とを有する製造方法である。この手法により固体基材(X)の表面にポリマー(A)とシリカ(B)とからなるナノ界面、ポリマー(A)/金属イオン(C)/シリカ(B)からなるナノ界面、ポリマー(A)/有機色素分子(E)/シリカ(B)からなるナノ界面の被覆層を容易に形成することができる。
【0057】
工程(1)において使用するポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)は前述のポリマーを使用できる。また、該ポリマー(A)の溶液を得る際に使用可能な溶媒としては、該ポリマー(A)が溶解するものであれば特に制限されず、例えば、水、メタノールやエタノールなどの有機溶剤、あるいはこれらの混合溶媒などを適宜使用できる。
【0058】
溶液中における該ポリマー(A)の濃度としては、固体基材(X)上にポリマー層を形成できる濃度であれば良いが、所望のパターン形成や、基材表面へ吸着するポリマー密度を高くする場合には、0.5質量%〜50質量%の範囲であることが好ましく、5質量%〜50質量%の範囲であるとより好ましい。
【0059】
ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)の溶液中には、該溶剤に可溶でポリマー(A)と相溶可能な前述のその他のポリマーを混合することもできる。その他のポリマーの混合量としては、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)の濃度より高くても低くても良い。
【0060】
金属イオン(C)を含有するナノ構造複合体(Y)からなる被覆層を形成させる場合には、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)の溶液中に、当該金属イオン(C)を混合する。該金属イオン(C)の濃度はポリエチレンイミン骨格(a)中のエチレンイミン単位の1/4当量以下で調整することが好ましい。
【0061】
また、有機色素分子(E)を含有するナノ構造複合体(Y)からなる被覆層を形成させる場合には、ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)の溶液中に当該有機色素分子(E)を混合する。該有機色素分子(E)の濃度はポリエチレンイミン骨格(a)中のエチレンイミン単位の1/2当量以下で調整することが好ましい。
【0062】
また、工程(1)においてポリマー層を作製するには、固体基材(X)をポリマー(A)の溶液と接触させる。接触法としては、所望の固体基材(X)をポリマー(A)の溶液に浸漬することが好適である。
【0063】
浸漬法では、基材状態により、基材(非容器状)を溶液中に入れる、または溶液を基材(容器状)中に入れる方式で、基材と溶液を接触させることができる。浸漬の際、ポリマー(A)の溶液の温度は加熱状態であることが好ましく、概ね50〜90℃の温度であれば好適である。固体基材(X)をポリマー(A)の溶液と接触させる時間は特に制限されず、基材(X)の材質に合わせて、数秒から1時間で選択することが好ましい。基材の材質がポリエチレンイミンと強い結合能力を有する場合、例えば、ガラス、金属などでは数秒〜数分でよく、基材の材質がポリエチレンイミンと結合能力が弱い場合は数十分から1時間でも良い。
【0064】
固体基材(X)とポリマー(A)の溶液を接触した後、該基材をポリマー(A)の溶液から取り出し、室温(25℃前後)に放置すると、自発的にポリマー(A)の集合体層が該基材(X)の表面に形成される。あるいは、該基材(X)をポリマー(A)の溶液から取り出してから、ただちに4〜30℃の蒸留水中、または室温〜氷点下温度のアンモニア水溶液中に入れることにより、自発的なポリマー(A)の集合体層を形成させても良い。
【0065】
固体基材(X)の表面とポリマー(A)の溶液との接触方法では、例えば、スピンコータ、バーコータ、アプリケータなどによる塗布の他、ジェットプリンタによるプリントや印刷などの方法も使用できる。特に、微細なパターン状に接触させる場合には、ジェットプリンタよる方法が好適である。
【0066】
工程(2)においては、工程(1)において形成したポリマー層とシリカソース液(B’)とを接触させ、ポリマー層表面にシリカ(B)を析出し、ポリマー(A)とシリカ(B)とのナノ構造複合体(Y)を形成させる。ポリマー層に金属イオン(C)及び/又は有機色素分子(E)が含まれる場合でも、同様な方法でシリカ(B)を析出させ、目的のナノ構造複合体(Y)を形成させることができる。
【0067】
この時用いる、シリカソース液(B’)としては、前述した各種のシリカソースの水溶液や、アルコール類溶剤、例えば、メタノール、エタノール、プロパノールなどの水性有機溶剤溶液、またはこれらと水との混合溶剤溶液を用いることができる。また、pH値が9〜11の範囲に調整した水ガラス水溶液も用いることができる。用いるシリカソース液(B’)には、シリカ以外の金属アルコキシドを混合することもできる。
【0068】
また、シリカソースとしてのアルコキシシラン類化合物は、無溶剤のバルク液のままでも使用可能である。
【0069】
ポリマー層が吸着した固体基材をシリカソース液(B’)と接触させる方法としては、浸漬法を好ましく用いることができる。浸漬する時間は5〜60分であれば十分であるが、必要に応じ時間を更に長くすることもできる。シリカソース液(B’)の温度は室温でもよく、加熱状態でも良い。加熱の場合、シリカ(B)を固体基材(X)の表面にて規則的に析出させるため、温度を70℃以下に設定することが望ましい。
【0070】
シリカソースの種類、濃度などの選定により、析出されるシリカ(B)とポリマー(A)とのナノ構造複合体(Y)の構造を調整することができ、目的に応じて、シリカソースの種類や濃度を適宜に選定することが好ましい。
【0071】
ポリエチレンイミンは貴金属イオン、例えば、金、白金、銀、パラジウムなどを金属ナノ粒子に還元することができる。従って、上記工程で得られた、ナノ構造複合体(Y)によって被覆された構造物を、当該貴金属イオンの水溶液と接触させる工程(3)を経ることにより、該貴金属イオンをナノ構造複合体(Y)中で金属ナノ粒子(D)に変換させることができ、金属ナノ粒子(D)を有するナノ構造複合体被覆型構造物を得ることができる。
【0072】
前記工程(3)において貴金属イオンの水溶液と接触させる方法は浸漬法を好ましく用いることができる。貴金属イオンの水溶液としては、塩化金酸、塩化金酸ナトリウム、塩化白金酸、塩化白金酸ナトリウム、硝酸銀等の水溶液を好適に用いることができ、貴金属イオンの水溶液濃度としては0.1〜5モル%であることが好ましい。
【0073】
貴金属イオンの水溶液の温度は特に限定されず、室温〜90℃の範囲であれば良いが、還元反応を促進するためであれば、50〜90℃の加熱された水溶液を用いることが好ましい。また、構造物を金属イオンの水溶液中に浸漬する時間は0.5〜3時間であればよく、加熱された水溶液に浸漬する場合は30分程度で十分である。
【0074】
ポリエチレンイミン単独では還元されにくい金属イオンの場合には、前記で得られた金属イオン(C)を有する構造物中の当該金属イオン(C)を、還元剤、特に低分子量の還元剤溶液または水素ガスと接触させる工程(4)を併用して、該金属イオン(C)を還元することにより、当該金属ナノ粒子(D)を含有するナノ構造複合体被覆型構造物を得ることができる。
【0075】
この時使用できる還元剤としては、例えば、アスコルビン酸、アルデヒド、ヒドラジン、水素化硼素ナトリウム、水素化硼素アンモニウム、水素などが例として挙げられる。還元剤を用いて金属イオンを還元する際には、その反応は水性媒体中で行うことができ、金属イオン(C)が含まれた構造物を還元剤溶液中に浸漬する方法、または水素ガス雰囲気中放置させる方法を用いることができる。この時、還元剤水溶液の温度は室温〜90℃以下の範囲であればよく、また還元剤の濃度としては1〜5モル%であることが好ましい。
【0076】
工程(4)に適応できる金属イオン(C)の金属種としては、特に限定されないが、還元反応が速やかに進行する点から、銅、マンガン、クロム、ニッケル、錫、バナジウム、パラジウムであることが好ましい。
【0077】
被覆型構造物を還元剤水溶液に浸漬する際、還元剤水溶液温度は室温または90℃以下の加熱状態でも好適であり、還元剤の濃度は1〜5%程度で十分である。
【0078】
前述の方法で得られた様々な構造物は、室温(25℃)〜60℃程度に放置することにより、溶剤や水を除去して、前記した様々な用途に用いることができる。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。なお、特に断わりがない限り、「%」は「質量%」を表わす。
【0080】
[走査電子顕微鏡によるナノ構造体の形状分析]
単離乾燥したナノ構造体を両面テープにてサンプル支持台に固定し、それをキーエンス製表面観察装置VE−9800にて観察した。
【0081】
合成例1
<直鎖状のポリエチレンイミン(L−PEI)の合成>
市販のポリエチルオキサゾリン(数平均分子量50,000,平均重合度5,000,Aldrich社製)3gを、5モル/Lの塩酸15mLに溶解させた。その溶液をオイルバスにて90℃に加熱し、その温度で10時間攪拌した。反応液にアセトン50mLを加え、ポリマーを完全に沈殿させ、それを濾過し、メタノールで3回洗浄し、白色のポリエチレンイミンの粉末を得た。得られた粉末を1H−NMR(重水、日本電子株式会社製、AL300、300MHz)にて同定したところ、ポリエチルオキサゾリンの側鎖エチル基に由来したピーク1.2ppm(CH3)と2.3ppm(CH2)が完全に消失していることが確認された。即ち、ポリエチルオキサゾリンが完全に加水分解され、ポリエチレンイミンに変換されたことが示された。
【0082】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿したポリマー会合体粉末を濾過し、そのポリマー会合体粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の結晶粉末をデシケータ中で室温乾燥し、線状のポリエチレンイミン(L−PEI)を得た。収量は2.2g(結晶水含有)であった。ポリオキサゾリンの加水分解により得られるポリエチレンイミンは、側鎖だけが反応し、主鎖には変化がない。従って、L−PEIの重合度は加水分解前の5,000と同様である。
【0083】
合成例2
<ベンゼン環中心の星状ポリエチレンイミン(B−PEI)合成>
Jin,J.Mater.Chem.,13,672−675(2003)に示された方法に従い、前駆体ポリマーであるベンゼン環中心に6本のポリメチルオキサゾリンのアームが結合した星状ポリメチルオキサゾリンの合成を次の通り行った。
【0084】
磁気攪拌子がセットされたスリ口試験管中に、重合開始剤としてヘキサキス(ブロモメチル)ベンゼン0.021g(0.033mmol)を入れ、試験管の口に三方コックをつけた後、真空状態にしてから窒素置換を行った。窒素気流下で三方コックの導入口からシリンジを用いて2−メチル−2−オキサゾリン2.0ml(24mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド4.0mlを順次加えた。試験管をオイルバス上で60℃まで加熱し、30分間保ったところ、混合液は透明になった。透明混合液をさらに100℃まで加熱し、その温度で20時間攪拌して、前駆体ポリマーを得た。この混合液の1H−NMR測定から、モノマーの転化率は98モル%、収量は1.8gであった。この転化率によりポリマーの平均重合度を見積もったところ、各アームの平均重合度は115であった。また、GPCによる分子量測定では、ポリマーの質量平均分子量は22,700であり、分子量分布は1.6であった。
【0085】
この前駆体ポリマーを用い、上記合成例1と同様な方法によりポリメチルオキサゾリンを加水分解し、6本のポリエチレンイミンがベンゼン環コアに結合した星状ポリエチレンイミンB−PEIを得た。1H−NMR(TMS外部標準、重水中)測定の結果、加水分解前の前駆体ポリマーの側鎖メチルに由来した1.98ppmのピークは完全に消失したことが確認された。
【0086】
その粉末を5mLの蒸留水に溶解し、攪拌しながら、その溶液に15%のアンモニア水50mLを滴下した。その混合液を一晩放置した後、沈殿した結晶粉末を濾過し、その結晶粉末を冷水で3回洗浄した。洗浄後の結晶粉末をデシケータ中で室温(25℃)乾燥し、6本のポリエチレンイミンがベンゼン環コアに結合した星状ポリエチレンイミン(B−PEI)を得た。収量は1.3g(結晶水含有)であった。
【0087】
合成例3
<ポルフィリン中心の星状ポリエチレンイミン(P−PEI)合成>
Jin et al.,J.Porphyrin&Phthalocyanine,3,60−64(1999);Jin、Macromol.Chem.Phys.,204,403−409(2003)に示された方法により、前駆体ポリマーであるポルフィリン中心星型ポリメチルオキサゾリンの合成を次の通り行った。
【0088】
三方コック付の50mlの二口フラスコをアルゴンガスで置換した後、0.0352gのテトラ(p−ヨードメチルフェニル)ポルフィリン(TIMPP)、8.0mlのN,N−ジメチルアセトアミドを加えて、室温で撹拌し、TIMPPを完全に溶解させた。この溶液にポルフィリンに対し、1280倍モル数に相当する2−メチル−2−オキサゾリン3.4ml(3.27g)を加えてから、反応液の温度を100℃にし、24時間撹拌した。反応液温度を室温に下げてから、10mlのメタノールを加えた後、混合液を減圧濃縮した。残留物を15mlのメタノール中に溶解し、その溶液を100mlのテトラヒドロフランに注ぎ、重合体を沈殿させた。同一方法で、重合体を再沈殿させ、吸引ろ過後、得られた重合体をP2O5が置かれたデシケータに入れ、1時間アスピレータで吸引乾燥した。さらに、真空ポンプにて減圧し、真空下24時間乾燥して前駆体ポリマー(TPMO−P)を得た。収量は3.05g、収率は92.3%であった。
【0089】
得られた前駆体ポリマー(TPMO−P)のGPC(HLC−8000,東ソー株式会社製)による数平均分子量は28,000で、分子量分布は1.56であった。また、1H−NMRにより、重合体アームにおけるエチレンプロトンと重合体中心におけるポルフィリンのピロル環プロトンとの積分比を計算した処、各アームの平均重合度は290であった。従って、1H−NMRによる数平均分子量は99,900と推定された。1H−NMRによる数平均分子量値がGPCでの数平均分子量値を大きく上回ることは、星型高分子における一般的特徴であることに一致する。
【0090】
この前駆体ポリマーを用い、上記合成例1と同様の方法によりポリメチルオキサゾリンを加水分解し、4本のポリエチレンイミンがポルフィリン中心に結合された星状ポリエチレンイミン(P−PEI)を得た。1H−NMR(TMS外部標準、重水中)測定の結果、加水分解前の前駆体ポリマーの側鎖メチルに由来した1.98ppmのピークは完全に消失した。
【0091】
実施例1−1〜1−4
[ガラス管内壁がポリマー/シリカのナノ構造複合体で被覆された構造物]
上記合成例1で得たポリマーL−PEIを蒸留水中に加え、90℃まで加熱し、4%の水溶液を調製した。ソーダライム材質のガラス管(内径1mm、長さ5cm)とシリンジをゴム管で連結し、該ガラス管中に一定目安のところまで前記加温したポリマー水溶液を吸い取ってから、30秒間静置した後、該ポリマー水溶液をシリンジの押し力で排出した。この操作でガラス管内壁にL−PEIポリマー層が形成された。該ガラス管を室温にて5分間静置したのち、ガラス管を表1記載の各種シリカソース液中に30分間浸けた。ガラス管を取り出し、ガラス管内壁をエタノールで洗浄した後、それを室温で乾燥した。この作業後、ガラス管に薄青色の反射色が見えた。
【0092】
上記過程を経て得られたガラス管末端を少々潰し、その破片をSEMにて観察した。図1〜4には異なるシリカソース液で作製したガラス管内壁表面のSEM写真の結果を示した。いずれの場合でも、内壁には、ナノファイバーをユニット構造とする緻密な配列膜が形成した。なお、比較として、ポリマー層なしのガラス管をシリカソース液に浸けてみたが、何も観察できなかった。
【0093】
【表1】
【0094】
表1の脚注
MS51:テトラメトキシシランの4量体(コルコート社製)
MS53: テトラメトキシシランの6量体(コルコート社製)
【0095】
実施例2−1〜2−3
[ガラス管内壁がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
実施例1において、ソーダライム材質のガラス管(内径1mm、長さ5cm)の代わりにソーダライム材質のガラス管(内径6mm、長さ5cm)を用いる以外は、実施例1と同様にしてガラス内壁を被覆した構造物を得た。
【0096】
上記過程を経て得られたガラス管末端を少々潰し、その破片をSEMにて観察した。図5〜7には異なるシリカソース液で作製したガラス管内壁表面のSEM写真の結果を示した。いずれの場合でも、内壁には、ナノファイバーをユニット構造とする緻密な配列膜が形成した。
【0097】
【表2】
【0098】
表2の脚注
TMOS:テトラメトキシシラン
【0099】
実施例3
[ガラス管内壁がポリマー/ポルフィリン/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
4.5mgのテトラ(スルフォネートフェニル)ポルフィリンを2gの蒸留水中に溶解させ、その液中に60mgのL−PEIを加え、90℃に加熱し、混合溶液を調製した。該溶液中のポリマーの(CH2CH2NH)ユニットとポリフィリンとのモル比は300/1となる。この溶液を上記実施例1と同様な方法でガラス管(内径6mm、長さ5cm)中に吸い取り、30秒静置した後溶液を押し出した。該ガラス管を室温で5分間静置した後、MS−51/水/イソプロピールアルコール(0.2/3/3体積比)の混合液中に20分間浸けた。ガラス管を取り出し、ガラス管内壁をエタノールで洗浄した後、それを室温で乾燥した。この作業後、ガラス管に薄紫色のポルフィリン由来の色が見えた。
【0100】
該ガラス管を蛍光顕微鏡(Olympus BX−60,オリンパス株式会社製)にて観察したところ、強い赤色の蛍光が現れた。この赤色蛍光はポルフィリン残基が被覆層中に取り込まれたことに由来する。上記過程を経て得られたガラス管末端を少々潰し、その破片をSEMにて観察した。その結果を図8に示した。写真イメージから、幅100nm前後の帯状のナノファイバーで被覆されていることを確認した。
【0101】
実施例4−1〜4−4
[ガラス管内壁がポリマー/銅イオン/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
一定量の硝酸銅を蒸留水中溶解させ、濃度0.014モル%のCu(NO3)2水溶液を調製した。一定量の該水溶液中に60mgのポリマー(L−PEI)を加え、(CH2CH2NH)/Cuのモル比が50/1,100/1,200/1,600/1となる混合液を調製した。これらの混合溶液を90℃にて加熱し、上記実施例3と同様な方法で、ガラス管内部表面をナノ構造複合体で被覆した。
【0102】
上記過程を経て得られたガラス管末端を少々潰し、その破片をSEMにて観察した。図9〜12にその結果を示した。図13には、(CH2CH2NH)/Cuモル比により形成された被覆層のみの写真を示した。(CH2CH2NH)/Cuモル比が増大する(銅イオン含有量減少)につれて、被覆層の厚みが200nmから約1000nm増大していくことを確認した。
【0103】
【表3】
【0104】
表3の脚注:
IPA:イソプロピールアルコール
【0105】
実施例5
[ガラス管内壁がポリマー/金ナノ粒子/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
実施例1−1で作製した構造物であるガラス管を2mLのNaAuCl4・2H2Oの水溶液(1%)中に浸けて、80℃で1時間加熱した。ガラス管を取り出し、蒸留水、エタノール順に洗浄した後、室温で乾燥した。これで得たガラス管には薄いワインレッド色が現れた。このワインレッド色はガラス管内壁を被覆する層中に金ナノ粒子の存在を示すプラズモン吸収に由来する。反射スペクトル(日立製作所株式会社製、UV−3500)からも520nmをピークトップとする金ナノ粒子由来のプラズモン吸収が観測された。このことから、数ナノ大きさの金ナノ粒子が被覆層中に生成したことがわかる。
【0106】
図14には、金ナノ粒子が内部に含まれた構造物のSEM写真を示した。金ナノ粒子が被覆層中に生成しても、ナノ構造複合体の基本ユニットであるナノファイバーには構造変化が起こらないことが確認できた。
【0107】
実施例6
[ポリスチレン試験管内壁がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
市販のポリスチレン試験管(16×100mm,10mL容積)に6mLの濃硫酸を加え、室温にて3時間シェーカで掻き混ぜた。濃硫酸液を取り出した後、蒸留水とメタノールで試験管を洗浄した。乾燥させた試験管中に6mLの3%のL−PEIの水溶液(80℃)を加えてから、30秒後水溶液を全部取り出し、試験管を室温で5分間静置させた。その後、試験管中に、6mLのシリカソースの混合液(MS51/蒸留水/IPA=0.5/3/3体積比)を加え、室温で20分静置した。液を取り出し、エタノールで試験管内部を洗浄し、室温にて乾燥させ、構造物を得た。得られた構造物の破片を用い、内壁部のSEM観察を行った。図15には破片表面とポリスチレンと被覆層とから構成された界面部(横方面)の写真を示した。
【0108】
実施例7
[ポリスチレン棒表面がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
太さが約1.8mmのポリスチレン棒を濃硫酸液中に3時間浸けた後、水、メタノールで表面を洗浄し、室温で5分間乾燥した。その後、ポリスチレン棒を4%のL−PEIの水溶液(80℃液)に浸け、30秒間静置した。棒を取り出し、室温にて5分間静置させた後、シリカソースの混合液(MS51/蒸留水/IPA=0.5/3/3体積比)につけた後、室温で20分静置した。棒を液中から取り出し、エタノールで表面を洗浄し、室温にて乾燥させ棒状の構造物を得た。得られた棒の表面をSEMで観察した。図16には棒表面を被覆したナノファイバーの構造写真を示した。図から、棒表面全体がナノファイバーを基本ユニットとするナノ構造複合体で覆われていることを確認した。
【0109】
実施例8
[ポリスチレン板表面がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
2×2cmのポスチレン板を濃硫酸液中に3時間浸けた後、水、メタノールで表面を洗浄し、室温で5分間乾燥した。その後、ポリスチレン板を4%のL−PEIの水溶液(80℃)に浸け、30秒間静置した。板を取り出し、室温にて5分間静置させた後、シリカソースの混合液(MS51/水/IPA=0.5/3/3体積比)につけた後、室温で20分静置した。板を液中から取り出し、エタノールで表面を洗浄し、室温にて乾燥させて板状の構造物を得た。得られた板の表面をSEMで観察した。図17は板表面を被覆したナノファイバーの構造写真である。板表面は風に流れる稲穂の様な「ナノ田んぼ」であることを確認した。
【0110】
実施例9
[銅板表面がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
1×1cmサイズの銅板を4%のL−PEIの水溶液(80℃液)に浸け、30秒間静置した。板を取り出し、室温にて5分間静置させた後、シリカソースの混合液(MS51/水/IPA=0.5/3/3)につけた後、室温で20分静置した。板を液中から取り出し、エタノールで表面を洗浄し、室温にて乾燥させて板状の構造物を得た。得られた板の表面をSEMで観察した。図18には銅板表面がナノファイバーを基本ユニットとするナノ構造複合体で覆われていることを確認した。低倍率写真から、表面に粒はあるものの、被覆層全体はナノファイバーで構成されていることを確認した。
【0111】
実施例10
[ガラス管内壁が星型ポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
実施例1−1において、内径6mmのガラス管を用い、ポリマーとしては合成例2で得られたB−PEIを用いて、更にシリカソース液として(TMOS/蒸留水=1/1体積比)を用いる以外は、実施例1−1と同様にして構造物を得た。得られたガラス管末端を少々潰し、その破片の表面をSEMで観察した。図19にはガラス管内壁の表面写真を示した。SEM観察写真から、高密度のナノファイバーがガラス管内壁に生え並んでいることを確認した。
【0112】
実施例11
[ガラス管内壁がポルフィリン星型ポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
実施例10において、ポリマーとして合成例3で得られたP−PEIを用いる以外は実施例10と同様にして、構造物を得た。得られたガラス管末端を少々潰し、その破片の表面をSEMで観察した。図20にはガラス管内壁の表面写真を示した。SEM観察写真から、生え並んだナノファイバー先が丸めの粒子状になっていることを確認した。
【0113】
実施例12
[ガラス板表面がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
2×2cmのソーダライムガラス板を4%のL−PEIの水溶液(80℃液)に浸け、30秒間静置した。板を取り出し、室温にて5分間静置させた後、シリカソースの混合液(MS51/蒸留水/IPA =0.5/3/3体積比)中に、室温で20分浸けた。板を液中から取り出し、エタノールで表面を洗浄し、室温にて乾燥させて構造物を得た。得られた板の表面をSEMで観察した。図21には板表面を被覆したナノ構造複合体の基本ユニットがナノファイバーであることを示す構造写真を示した。この写真から、板表面のナノ構造複合体は水平線的広がりのネットワークを形成していることを確認した。
【0114】
実施例13
[ガラス管内壁がポリマー/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
市販の多分岐ポリエチレンイミン(SP200,日本触媒株式会社製)を蒸留水中に加え、4%の水溶液を調製した。ソーダライム材質のガラス管(内径6mm、長さ5cm)とシリンジをゴム管で連結し、該当ガラス管中に一定目安のところまで前記ポリマー水溶液吸い取ってから、30秒間静置した後、該ポリマー水溶液をシリンジの押し力で排出した。この操作でガラス管内壁にポリマーの吸着層が形成した。該ガラス管を室温にて5分間静置したのち、シリカソース溶液(TMOS/蒸留水=1/1体積比)中に30分間浸けた。ガラス管を取り出し、ガラス管内壁をエタノールで洗浄した後、それを室温で乾燥して構造物を得た。得られたガラス管末端を少々潰し、その破片の表面をSEMで観察した。図22にはガラス管内壁の表面写真を示した。SEM観察写真から、ガラス管内壁全体には約20nmのナノ粒子が緻密に広がってネットワークを形成していることを確認した。
【0115】
実施例14
[ガラス管内壁がポリマー/銅ナノ粒子/シリカ ナノ構造複合体で被覆された構造物]
実施例4−1で得た銅イオンを含むナノ構造複合体で内壁を被覆されたガラス管を、6mLの1%の水素化ホウ素アンモニウム水溶液中に浸け、室温下3時間静置し、銅イオンの還元反応を行った。サンプル管を蒸留水、エタノール液中で洗浄した後、拡散反射分光器にて吸収スペクチルを測定した。銅イオン状態での630nm吸収は消失し、替わりに590nmに銅ナノ粒子由来のプラズモン吸収が現れた。このことは銅イオンが銅ナノ粒子に変換され、ガラス管内壁を被覆する複合体中に該銅ナノ粒子が含まれたことを示唆する。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】実施例1−1で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:横方向からの写真(ガラスと複合体との界面) c:拡大図(ナノファイバーの観測)
【図2】実施例1−2で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの○部分拡大図 c:bの□部分拡大図
【図3】実施例1−3で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:横方向からの写真(ガラスと複合体との界面) c:拡大図(真下からの観測、複合体の表面) d:cの拡大図
【図4】実施例1−4で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:横方向からの写真(ガラスと複合体との界面) c:拡大図(ナノファイバーの観測)
【図5】実施例2−1で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの拡大図 c:bの拡大図 d:複合体表面の拡大図
【図6】実施例2−2で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:横方向からの写真(ガラスと複合体との界面) c:横方向の拡大図 d:cの表面部分の拡大図
【図7】実施例2−3で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:表面の拡大図 c:横方向の拡大図 d:cの一部分の拡大図
【図8】実施例3で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:cの一部分の拡大図
【図9】実施例4−1で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:横方向の拡大図
【図10】実施例4−2で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:横方向の拡大図
【図11】実施例4−3で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:横方向の拡大図
【図12】実施例4−4で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:横方向の拡大図
【図13】実施例4で得た構造物の横方向の走査型電子顕微鏡写真である。(CH2CH2NH)/Cu=50/1(a),100/1(b),200/1(c),600/1(d)
【図14】実施例5で得た構造物の実物の写真と走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図
【図15】実施例6で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:ガラス管破片の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:横方向の拡大図
【図16】実施例7で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:棒の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図 d:cの拡大図
【図17】実施例8で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:板の写真 b:aの表面の拡大図 c:bの拡大図
【図18】実施例9で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:板の写真 b:aの○部分の拡大図 c:bの拡大図
【図19】実施例10で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:表面の写真 b:aの拡大図 c:横方向の拡大図 d:cの拡大図
【図20】実施例11で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:表面の写真 b:aの拡大図 c:bの拡大図
【図21】実施例12で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:表面の写真 b:aの拡大図 c:bの拡大図 d:cの拡大図
【図22】実施例13で得た構造物の走査型電子顕微鏡写真である。a:表面の写真 b:aの拡大図 c:bの拡大図
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体基材(X)の表面がナノ構造複合体(Y)で被覆されているナノ構造複合体被覆型構造物であって、該ナノ構造複合体(Y)がポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)とシリカ(B)とを含有することを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物。
【請求項2】
前記ナノ構造複合体(Y)中に更に金属イオン(C)が含まれている請求項1記載のナノ構造複合体被覆型構造物。
【請求項3】
前記ナノ構造複合体(Y)中に更に金属ナノ粒子(D)が含まれている請求項1記載のナノ構造複合体被覆型構造物。
【請求項4】
前記ナノ構造複合体(Y)中に更に有機色素分子(E)が含まれている請求項1記載のナノ構造複合体被覆型構造物。
【請求項5】
前記ナノ構造複合体(Y)が複合ナノファイバー(y1)を基本ユニットとし、該複合ナノファイバーの長軸が固体基材(X)の表面に対して略垂直の方向を向いている請求項1〜4の何れか1項記載のナノ構造複合体被覆型構造物。
【請求項6】
前記ナノ構造複合体(Y)が複合ナノ粒子(y2)を基本ユニットとし、該複合ナノ粒子(y2)がネットワークを形成して固体基材(Y)を被覆する請求項1〜4の何れか1項記載のナノ構造複合体被覆型構造物。
【請求項7】
ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)を含有する溶液中に固体基材(X)を浸漬させた後取り出し、該固体基材(X)の表面にポリマー層を形成させる工程(1)と、
前記で得られたポリマー層を有する固体基材(X)と、シリカソース液(B’)とを接触して、固体基材(X)表面のポリマー層中にシリカ(B)を析出させ、ナノ構造複合体(Y)を形成させる工程(2)と、
を有することを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物の製造方法。
【請求項8】
請求項7で得られるナノ構造複合体被覆型構造物を、更に金、銀及び白金からなる群から選ばれる貴金属のイオン水溶液中に浸漬させることにより、該貴金属イオンをナノ構造複合体(Y)中に浸透させ、該ナノ構造複合体(Y)中のポリエチレンイミン骨格(a)による自発還元作用により、当該貴金属の金属ナノ粒子(D)とすることを特徴とする、金属ナノ粒子が含まれたナノ構造複合体被覆型構造物の製造方法。
【請求項9】
ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)と金属イオン(C)とを含有する溶液中に固体基材(X)を浸漬させた後取り出し、該固体基材(X)の表面に金属イオン(C)を含有するポリマー層を形成させる工程(1)と、
前記で得られたポリマー層を有する固体基材(X)と、シリカソース液(B’)とを接触して、固体基材(X)表面の該ポリマー層中にシリカ(B)を析出させ、金属イオンを含むナノ構造複合体(Y)を形成させる工程(2)と、
を有することを特徴とする金属イオンが含まれたナノ構造複合体被覆型構造物の製造方法。
【請求項10】
請求項9で得られる金属イオンを含むナノ構造複合体被覆型構造物を、更に還元剤溶液中に浸漬させ、ナノ構造複合体(Y)中の金属イオンを還元し、当該金属ナノ粒子に変換させることを特徴とする金属ナノ粒子が含まれたナノ構造複合体被覆型構造物の製造方法。
【請求項1】
固体基材(X)の表面がナノ構造複合体(Y)で被覆されているナノ構造複合体被覆型構造物であって、該ナノ構造複合体(Y)がポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)とシリカ(B)とを含有することを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物。
【請求項2】
前記ナノ構造複合体(Y)中に更に金属イオン(C)が含まれている請求項1記載のナノ構造複合体被覆型構造物。
【請求項3】
前記ナノ構造複合体(Y)中に更に金属ナノ粒子(D)が含まれている請求項1記載のナノ構造複合体被覆型構造物。
【請求項4】
前記ナノ構造複合体(Y)中に更に有機色素分子(E)が含まれている請求項1記載のナノ構造複合体被覆型構造物。
【請求項5】
前記ナノ構造複合体(Y)が複合ナノファイバー(y1)を基本ユニットとし、該複合ナノファイバーの長軸が固体基材(X)の表面に対して略垂直の方向を向いている請求項1〜4の何れか1項記載のナノ構造複合体被覆型構造物。
【請求項6】
前記ナノ構造複合体(Y)が複合ナノ粒子(y2)を基本ユニットとし、該複合ナノ粒子(y2)がネットワークを形成して固体基材(Y)を被覆する請求項1〜4の何れか1項記載のナノ構造複合体被覆型構造物。
【請求項7】
ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)を含有する溶液中に固体基材(X)を浸漬させた後取り出し、該固体基材(X)の表面にポリマー層を形成させる工程(1)と、
前記で得られたポリマー層を有する固体基材(X)と、シリカソース液(B’)とを接触して、固体基材(X)表面のポリマー層中にシリカ(B)を析出させ、ナノ構造複合体(Y)を形成させる工程(2)と、
を有することを特徴とするナノ構造複合体被覆型構造物の製造方法。
【請求項8】
請求項7で得られるナノ構造複合体被覆型構造物を、更に金、銀及び白金からなる群から選ばれる貴金属のイオン水溶液中に浸漬させることにより、該貴金属イオンをナノ構造複合体(Y)中に浸透させ、該ナノ構造複合体(Y)中のポリエチレンイミン骨格(a)による自発還元作用により、当該貴金属の金属ナノ粒子(D)とすることを特徴とする、金属ナノ粒子が含まれたナノ構造複合体被覆型構造物の製造方法。
【請求項9】
ポリエチレンイミン骨格(a)を有するポリマー(A)と金属イオン(C)とを含有する溶液中に固体基材(X)を浸漬させた後取り出し、該固体基材(X)の表面に金属イオン(C)を含有するポリマー層を形成させる工程(1)と、
前記で得られたポリマー層を有する固体基材(X)と、シリカソース液(B’)とを接触して、固体基材(X)表面の該ポリマー層中にシリカ(B)を析出させ、金属イオンを含むナノ構造複合体(Y)を形成させる工程(2)と、
を有することを特徴とする金属イオンが含まれたナノ構造複合体被覆型構造物の製造方法。
【請求項10】
請求項9で得られる金属イオンを含むナノ構造複合体被覆型構造物を、更に還元剤溶液中に浸漬させ、ナノ構造複合体(Y)中の金属イオンを還元し、当該金属ナノ粒子に変換させることを特徴とする金属ナノ粒子が含まれたナノ構造複合体被覆型構造物の製造方法。
【図4】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図18】
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図5】
【図8】
【図9】
【図10】
【図18】
【図1】
【図2】
【図3】
【図6】
【図7】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
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【図16】
【図17】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2009−57263(P2009−57263A)
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−227627(P2007−227627)
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月3日(2007.9.3)
【出願人】(000173751)財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】
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