説明

ナノ物質含有成形体及びその製造方法

【課題】導電性、透明性、成形体との密着性及び外観に優れた多孔性のナノ物質含有膜が積層されたナノ物質含有成形体及びその製造方法を提供する。
【解決手段】成形体(Z)の少なくとも一つの表面に、空孔部が充填材(Y)で充填された、バインダー成分(a)及びナノ物質(b)を含有する多孔性のナノ物質含有膜(X)が積層されたナノ物質含有成形体、成形体(Z)の少なくとも一つの表面に、硬化性単量体組成物の硬化物の層、及び空孔部が充填材(Y)で充填され、バインダー成分(a)及びナノ物質(b)を含有する多孔性のナノ物質含有膜(X)の層、が順次積層されたナノ物質含有成形体及びそれらの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノ物質含有成形体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な産業分野において、ナノメートルサイズを有するナノ物質を取り扱うナノテクノロジーが注目されている。
このような状況において、ナノ物質を他の材料とナノメートルレベルで複合化させた、従来にない新しい優れた機能を持った材料の開発が行われている。
また、基材の表面に有する1つの層構造をサブミクロンレベルで制御することによって、基材の表面に種々の機能を付与する技術についても開発が行われている。この技術の中で、多孔質構造形成技術やハニカム構造形成技術は撥水性、撥油性、防曇性、反射防止性、防汚性等の機能を付与する技術として注目されている。
【0003】
ナノ物質の中でも、特にナノ炭素材料やナノサイズの金属微粒子は、物性及び機能の点で材料が通常有する特性とは大きく異なる特性を有する。そのため、樹脂等の改質を目指した、ナノ炭素材料やナノサイズの金属微粒子と、樹脂等の構造材料との複合化に関する研究開発も盛んに実施されている。
しかしながら、ナノ物質は、通常、その表面状態が不安定で、樹脂や溶剤との複合化の際に凝集したり、構造体形成時の構造コントロールが十分できていなかったりするために、ナノ物質が有する特有の性能を十分に発揮できていないという問題がある。そのため、ナノ炭素材料やナノサイズの金属微粒子を物理的に処理又は化学的に表面修飾することにより、ナノ炭素材料やナノサイズの金属微粒子を溶剤や樹脂に均一に分散又は溶解させる試みが実施されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、良好な導電性及び外観を有する塗膜の形成が可能な、導電性ポリマー(a)、溶媒(b)、及びカーボンナノチューブ(c)を含有するカーボンナノチューブ含有組成物が提案されている。
また、特許文献2には、導電性を有し、透明性が良好な塗膜又は硬化膜の形成が可能な、ナノ物質(a)、(メタ)アクリル系重合体(b)及び溶媒(c)を含有するナノ物質含有組成物が提案されている。
更に特許文献3には、成形体の表面に、カーボンナノチューブ(a)、導電性ポリマー(b)、溶媒(c)及び高分子化合物(f)を含有するカーボンナノチューブ含有組成物の塗膜が積層された、導電性、透明性及び外観が良好な成形体が提案されている。
【0005】
また、基材の表面に各種機能を付与する方法の別法である、サブミクロンサイズの多孔質構造形成技術やハニカム構造形成技術としては、例えば、特許文献4には、複数の溶媒を使用してハニカム構造形成用材料を自己組織化によりハニカム状に配列する複数の穴を有するハニカム構造体を形成させる方法が提案されている。
【0006】
更に、非特許文献1には、水に不溶な溶媒に溶解したポリイオンコンプレックスの溶液にカーボンナノチューブを分散させたものを高湿度下でキャストして得られる、ハニカム構造を有するカーボンナノチューブ含有フィルムが開示されている。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜4及び非特許文献1のナノ物質含有組成物から得られる塗膜又は硬化膜はいずれも成形体の表面に積層した場合、成形体との密着性が充分ではなく、剥離し易いという問題を有している。また、特許文献4及び非特許文献1のハニカム構造体は一般的にはその凹凸構造から白濁した外観であり、透明材料への適応は難しい状況にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2004/039893号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2006/028200号パンフレット
【特許文献3】特開2006−45383号公報
【特許文献4】国際公開第2006/090579号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「カーボンナノチューブ・脂質複合体によるハニカム構造形成」、藤ヶ谷、外2名、第56回高分子年次大会予稿集、2007年、p.1024
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、導電性、透明性、成形体との密着性及び外観に優れた多孔性のナノ物質含有膜が積層されたナノ物質含有成形体及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の要旨とするところは、成形体(Z)の少なくとも一つの表面に、ナノ物質(b)を含むバインダー成分(a)からなる多孔性の膜(X)が積層された成形体において、多孔性の膜(X)の空孔部が充填材(Y)で充填されているナノ物質含有成形体、を第1の発明とする。
【0012】
また、本発明の要旨とするところは、成形体(Z)の少なくとも一つの表面に、硬化性単量体組成物が硬化した層、及びナノ物質(b)を含むバインダー成分(a)からなる多孔性の膜(X)が順次積層された成形体において、多孔性の膜(X)の空孔部が充填材(Y)で充填されているナノ物質含有成形体、を第2の発明とする。
【0013】
更に、本発明の要旨とするところは、転写用基材の表面に、水及びアルコールを含む混合溶剤(c)にバインダー成分(a)としてメタクリル酸エステル系重合体(a−1)が溶解され、ナノ物質(b)が分散されたメタクリル酸エステル系重合体(a−1)の溶液を含むナノ物質含有組成物(x)を塗工した後に、常温で放置又は加熱処理して混合溶剤(c)を揮発させることによって、転写用基材の表面にメタクリル酸エステル系重合体(a−1)及びナノ物質(b)を含有する多孔性のナノ物質含有膜(X)が積層された転写材を製造する転写材製造工程と、ナノ物質含有膜(X)中の空孔部に充填材(Y)として成形体(Z)を構成する化合物と同じ化合物を充填すると共に転写材のナノ物質含有膜(X)の表面に密着して成形体(Z)を形成する空孔部充填及び成形体製造工程と、転写材が積層された成形体(Z)から転写用基材を剥離する転写用基材剥離工程とを含むナノ物質含有成形体の製造方法を第3の発明とする。
【0014】
また、本発明の要旨とするところは、転写用基材の表面に、水及びアルコールを含む混合溶剤(c)にバインダー成分(a)としてメタクリル酸エステル系重合体(a−1)が溶解され、ナノ物質(b)が分散されたメタクリル酸エステル系重合体(a−1)の溶液を含むナノ物質含有組成物(x)を塗工した後に、常温で放置又は加熱処理して混合溶剤(c)を揮発させることによって、転写用基材の表面にメタクリル酸エステル系重合体(a−1)及びナノ物質(b)を含有する多孔性のナノ物質含有膜(X)が積層された転写材を製造する転写材製造工程と、ナノ物質含有膜(X)中の空孔部に充填材(Y)の原料として硬化性単量体組成物を充填すると共に転写材のナノ物質含有膜(X)の表面に密着して硬化性単量体組成物の塗布層を形成した後に硬化性単量体組成物の塗布層の表面に成形体(Z)を積層する空孔部充填及び成形体積層工程と、硬化性単量体組成物の塗布層を硬化させて硬化性単量体組成物の硬化層を得る硬化層形成工程と、転写材及び硬化性単量体組成物の硬化層が積層された成形体(Z)から転写用基材を剥離する転写用基材剥離工程とを含むナノ物質含有成形体の製造方法を第4の発明とする。
【0015】
更に、本発明の要旨とするところは、第3の発明において、転写材製造工程の後又は転写材剥離工程の後にナノ物質含有塗膜(X)を洗浄液(f)で洗浄する洗浄工程を含むナノ物質含有成形体の製造方法を第5の発明とする。
【0016】
また、本発明の要旨とするところは、第4の発明において、転写材製造工程の後又は転写材剥離工程の後にナノ物質含有塗膜(X)を洗浄液(f)で洗浄する洗浄工程を含むナノ物質含有成形体の製造方法を第6の発明とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明のナノ物質含有成形体は優れた導電性、透明性、成形体との密着性及び外観に優れた多孔性のナノ物質含有膜が成形体表面に形成され、長期間にわたり維持することができ、また、簡便な方法で製造できることから、半導体、電器電子部品等の工業用包装材料;半導体製造のクリーンルーム等で用いられる透明導電性樹脂板;オーバーヘッドプロジェクター用フィルム、電子写真記録材料等向けのスライドフィルム等の帯電防止フィルム;透明導電性フィルム;オーディオテープ、ビデオテープ、コンピュータ用テープ、フロッピィディスク等の磁気記録用帯電防止テープ;電子デバイスのLSI配線;フィールド・エミッション・ディスプレイ(FED)の電子銃(源);電極;水素貯蔵剤;透明タッチパネル、エレクトロルミネッセンスディスプレイ、液晶ディスプレイ等のフラットパネルディスプレイの入力又は表示デバイス表面のディスプレイ保護板、前面板、帯電防止材、透明電極、透明電極フィルム又は有機エレクトロルミネッセンス素子を形成する発光材料;バッファ材料、電子輸送材料、正孔輸送材料及び蛍光材料;及び熱転写シート、転写シート、熱転写受像シート、受像シート等の各種シートとして好適である。
【発明を実施するための形態】
【0018】

成形体(Z)

本発明に使用される成形体(Z)を形成するために使用される原料としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の合成樹脂が挙げられる。
【0019】
熱可塑性樹脂の具体例としては、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、アクリロニトリル−スチレン樹脂(AS樹脂)、ポリ塩化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリアセタール、ウレタン樹脂、スチレン−アクリル共重合体及びポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンが挙げられる。
【0020】
熱硬化性樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂及びシリコーン樹脂が挙げられる。
本発明においては、成形体(Z)としては、必要に応じて、上記の各種樹脂のブレンド物、上記の各種樹脂成分を含む共重合体又は上記の各種樹脂の複合体若しくは積層体を使用することができる。
【0021】
本発明においては、成形体(Z)の透明性、耐衝撃性及び易成形性の点でアクリル樹脂が好ましい。
上記アクリル樹脂としては、ポリメチルメタクリレート、メタクリル酸メチル単位を主構成成分とする共重合体、ポリスチレン、スチレン−メチルメタクリレート共重合体が好ましく、透明性、耐候性及び後述する硬化性単量体組成物の硬化物との密着性の点で、ポリメチルメタクリレート、メタクリル酸メチル単位を主構成成分とする共重合体、スチレン−メチルメタクリレート共重合体等のアクリル系樹脂が好ましい。
本発明においては、成形体(Z)中に着色剤や光拡散剤等が含有されるものを使用することができる。
本発明においては、成形体(Z)の形態としては、フィルム、シート、発泡体、各種の立体形状を有する成形体等の各種の形態が挙げられる。
【0022】
成形体(Z)を形成する方法としては、後述するナノ物質含有膜(X)との接着性及びナノ物質含有膜(X)の中の空孔部に充填される充填材(Y)として成形体(Z)に使用される合成樹脂を使用する場合の充填性の点で、例えば、熱可塑性樹脂を加熱溶融させた溶融物を鋳型に流し込んだ後に冷却して成形体(Z)を形成する方法、熱可塑性樹脂を溶媒に溶解、膨潤又は分散させた組成物を鋳型に流し込んだ後に溶媒を除去又は重合して成形体(Z)を形成する方法、熱可塑性樹脂の原料として使用する単量体及び必要に応じて単量体の部分重合体を含有する重合性原料を鋳型に流し込んだ後に重合性原料を重合して成形体(Z)を形成する方法並びに熱硬化性樹脂の原料である硬化性原料を鋳型に流し込んだ後に硬化性原料を硬化して成形体(Z)を形成する方法が好ましい。
【0023】
熱可塑性樹脂を溶媒に溶解、膨潤又は分散させた組成物を鋳型に流し込んだ後に溶媒を除去又は重合して成形体(Z)を形成する方法では、ナノ物質含有膜(X)の中の空孔部に充填される充填材(Y)として成形体(Z)に使用される合成樹脂を使用する場合の充填性及び均質な成形体(Z)の形成性の点で、熱可塑性樹脂樹脂を溶媒に溶解する方法が好ましい。
熱可塑性樹脂を溶解するための溶媒としては、例えば、熱可塑性樹脂がアクリル樹脂の場合には、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、四塩化炭素、二塩化エチレン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド等の有機溶剤及び成形体(Z)の原料として使用される単量体である(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
尚、本発明においては、「(メタ)アクリ」は「アクリ」又は「メタクリ」を示す。
【0024】
熱可塑性樹脂の原料として使用する単量体及び必要に応じて単量体の部分重合体を含有する重合性原料を鋳型に流し込んだ後に重合性原料を重合して成形体(Z)を形成する方法において、例えば成形体(Z)としてアクリル樹脂を使用する場合、使用する単量体の具体例としては(メタ)アクリル酸エステルを主成分とする単量体又は単量体混合物が挙げられる。
【0025】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル及び(メタ)アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライドが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0026】
本発明において、上記(メタ)アクリル酸エステルと併用することができる他のビニル単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、スチレン、メチルスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、N−ビニルカプロラクタム及びN−ビニルピロリドンが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0027】
前記の重合性原料には必要に応じて連鎖移動剤を添加することができる。
連鎖移動剤としては通常のラジカル重合に用いられるものが挙げられる。連鎖移動剤の具体例としては、炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸、チオフェノール等のメルカプタン系連鎖移動剤が挙げられ、n−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等のアルキル鎖の短いメルカプタンが好ましい。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0028】
前記の重合性原料にはアゾ化合物、有機過酸化物等のラジカル重合開始剤を添加することが好ましい。
【0029】
アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイドが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
また、有機過酸化物を使用する場合、例えば、有機過酸化物とアミン類を組み合わせたレドックス系重合開始剤を使用することができる。
【0030】
また、重合性原料を活性エネルギー線により重合させる場合には、ベンゾイン、ベンゾインエチルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン等の光重合開始剤を用いることができる。
光重合開始剤の具体例としては、市販品として、「イルガキュア184」(日本チバガイギー(株)製、商品名)、「イルガキュア907」(日本チバガイギー(株)製、商品名)、「ダロキュア1173」(メルク・ジャパン(株)製、商品名)及び「エザキュアKIP100F」(日本シーベルヘグナー(株)製、商品名)が挙げられる。
【0031】
本発明においては、熱可塑性樹脂の原料として単量体及び単量体の部分重合体を含有する重合性原料を使用する場合の、部分重合体の重合率としては35重量%以下のものが好ましい。
【0032】

充填材(Y)

本発明で使用される充填材(Y)は、後述するナノ物質含有膜(X)の中に存在する空孔部に充填される化合物である。
充填材(Y)としては、ナノ物質含有膜(X)の中に存在する空孔部に充填できるものであれば特に限定されないが、空孔部への充填性及びナノ物質含有膜(X)との密着性の点で、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等の合成樹脂が挙げられる。
合成樹脂としては成形体(Z)を形成するために使用される原料と同様の合成樹脂を挙げることができる。これらの中で、本発明のナノ物質含有成形体の透明性、耐衝撃性及び成形性の点でアクリル樹脂が好ましい。
また、本発明においては、充填材(Y)としては、成形体(Z)とナノ物質含有膜(X)との密着性の点で、成形体(Z)を形成するために使用される合成樹脂と同じ合成樹脂又は後述する成形体(Z)とナノ物質含有膜(X)との間に形成することができる硬化性単量体組成物の硬化層と同じ硬化物が好ましい。
【0033】
ナノ物質含有膜(X)の中に存在する空孔部への充填材(Y)の充填方法としては、例えば、前述した成形体(Z)を形成する方法によって成形体(Z)を形成すると同時に成形体(Z)を形成するための原料をナノ物質含有膜(X)の中に存在する空孔部に充填することによりナノ物質含有膜(X)の中に存在する空孔部に充填材(Y)を充填した状態とすることができる。
【0034】

ナノ物質含有膜(X)

本発明において、ナノ物質含有膜(X)は多孔性で、バインダー成分(a)及びナノ物質(b)を含有し、空孔部が前述した充填材(Y)で充填されたものである。
【0035】
ナノ物質含有膜(X)の構造としては、例えば、下記の(イ)又は(ロ)の多孔質膜の構造が挙げられるが、ナノ物質(b)の構造制御の点で、(ロ)の構造が好ましい。
(イ)バインダー成分(a)の膜に独立した細孔を形成することにより得られた多孔質膜。
(ロ)バインダー成分(a)の微粒子が数珠状に連結した状態及び分岐した状態から選ばれる少なくとも1種の状態で形成された多孔質膜。
【0036】
上記の(ロ)の多孔質膜におけるバインダー成分(a)の微粒子の平均粒子径としては0.01〜10μmが好ましく、0.05〜1μmがより好ましい。平均粒子径を上記の範囲内とすることにより、得られる多孔質膜を均質に形成することができ、ナノ物質(b)の構造制御による特性向上効果を良好とすることができる傾向にある。
例えば、ナノ物質(b)としてカーボンナノチューブを用いた場合、少量の添加でナノ物質含有膜(X)の導電性が向上し、外観も良好に維持することができる傾向にある。また、ナノ物質含有膜(X)中の空孔部が充填材(Y)で充填された場合、アンカー効果により、成形体(Z)表面にナノ物質含有膜(X)が良好に保持される。
【0037】
ナノ物質含有膜(X)中の空孔部の形状としては、例えば、ハニカム構造のような同一多角形による規則的形状及び不均質なマクロ孔を有する連続形状が挙げられる。
【0038】
ナノ物質含有膜(X)の構造が、(イ)バインダー成分(a)の膜に独立した細孔を形成することにより得られた多孔質膜、における空孔部の平均孔径としては0.01〜50μmが好ましく0.05〜30μmがより好ましい。
【0039】
ナノ物質含有膜(X)の構造が、(ロ)バインダー成分(a)の微粒子が数珠状に連結した状態及び分岐した状態から選ばれる少なくとも1種の状態で形成された多孔質膜、における、微粒子の連結により形成される連結構造部、即ち空孔部、の幅は0.02〜20μmが好ましく、0.05〜10μmがより好ましい。
空孔部の平均孔径が上記のいずれかの範囲の場合、例えば、ナノ物質(b)としてカーボンナノチューブを用いた場合には、少量のカーボンナノチューブの添加でナノ物質含有膜(X)の導電性が向上し、透過率も良好に維持されると共に成形体(Z)との密着性が良好となる傾向にある。
【0040】
ナノ物質含有膜(X)の厚みとしては、ナノ物質含有膜(X)中の後述するナノ物質(b)の特性を十分発揮させる点で、0.01〜50μmが好ましく、0.05〜20μmがより好ましい。特に、ナノ物質(b)として、カーボンナノチューブを用いる場合、ナノ物質含有膜(X)の厚みを上記範囲内とすることにより十分な透明性を維持することができ、帯電防止層、静電層及び電磁波シールド層として好適に使用できる。
【0041】
ナノ物質含有膜(X)の形成方法としては、例えば、転写用基材の表面にナノ物質含有膜(X)を形成するための原料となる、後述するナノ物質含有組成物(x)を塗工した後に常温で放置又は加熱処理してナノ物質含有組成物(x)中の混合溶剤(c)を揮発させることにより形成する方法が挙げられる。
【0042】
ナノ物質含有組成物(x)の塗工方法としては、例えば、グラビアコーター、ロールコーター、カーテンフローコーター、スピンコーター、バーコーター、リバースコーター、キスコーター、ファンテンコーター、ロッドコーター、エアドクターコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、キャストコーター、スクリーンコーター等の塗布装置を用いた塗布方法、エアスプレー、エアレススプレー等のスプレーコーティング方法、浸漬塗工法及び刷毛塗り塗工法が挙げられる。
【0043】
ナノ物質含有組成物(x)を塗工して得られる塗膜の乾燥方法としては、常温で放置する方法及び加熱処理する方法が挙げられるが、下記の理由から加熱処理する方法が好ましい。
ナノ物質含有組成物(x)を塗工して得られる塗膜を加熱処理することにより多孔性のナノ物質含有膜(X)の構造を制御することが可能であり、また、多孔性のナノ物質含有膜(X)の中に残留する混合溶剤(c)の量をより低下できるため、ナノ物質(b)の特性をより効率的に発現することができる。特にナノ物質(b)として、カーボンナノチューブを用いる場合、導電性を更に向上することができる。
【0044】
上記の加熱処理における加熱温度としては、例えば混合溶剤(c)が揮発する温度以上で、転写用基材が変化しない温度であればよく、20〜300℃が好ましく、40〜250℃がより好ましい。加熱温度が300℃以下で、バインダー成分(a)自体の分解を抑制し、本発明のナノ物質含有成形体の外観及び強度を良好とすることができる傾向にある。
【0045】

バインダー成分(a)

バインダー成分(a)はナノ物質(b)のバインダー成分及び多孔質膜形成成分としてナノ物質含有膜(X)中に含有されている。
バインダー成分(a)としては、例えば、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)が挙げられる。
メタクリル酸エステル系重合体(a−1)の具体例としては、メタクリル酸エステル単位を含有する重合体が挙げられる。
メタクリル酸エステル単位を構成するための原料であるメタクリル酸エステルとしては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸トリデシル、メタクリル酸ステアリル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸イソボルニル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル、メタクリル酸ジメチルアミノエチル、メタクリル酸ジエチルアミノエチル、メタクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メトキシエチル、メタクリル酸エトキシエチル及びメタクリル酸1,4−ブタンジオールが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
これらの中で、メタクリル酸エステルとしては、ナノ物質含有膜(X)における多孔質構造の形成性の点で、メタクリル酸メチル及びメタクリル酸エチルが好ましい。
メタクリル酸エステルとしてメタクリル酸メチル及びメタクリル酸エチルの少なくとも1種を使用する場合には、メタクリル酸エステルのメタクリル酸メチル及びメタクリル酸エチルの少なくとも1種の含有量としては50〜100質量%が好ましく、70〜100質量%がより好ましい。
【0046】
本発明においては、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)中にメタクリル酸エステルと共重合可能な他の重合性単量体単位を含有することができる。
メタクリル酸エステルと共重合可能な他の重合性単量体単位を構成するための原料である他の重合性単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル等のアクリル酸エステル、スチレン、メチルスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、N−ビニルカプロラクタム及びN−ビニルピロリドンが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0047】
メタクリル酸エステル系重合体(a−1)の質量平均分子量としては、ナノ物質含有膜(X)の多孔質形成性の点で、5,000〜3,000,000が好ましく、10,000〜1,000,000がより好ましい。
【0048】
メタクリル酸エステル系重合体(a−1)を得るための重合法としては、例えば、懸濁重合法、乳化重合法、溶液重合法及び塊状重合法が挙げられる。また、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)を得るための重合形式としては、例えば、ラジカル重合形式、アニオン重合形式及びカチオン重合形式が挙げられる。
【0049】
ラジカル重合形式の重合に用いる重合開始剤としては、例えば、アゾ化合物、有機過酸化物等のラジカル重合開始剤、及び過硫酸塩、過ホウ酸塩、過炭酸塩等の水溶性無機化合物、又はこれらと水溶性還元剤とを組み合わせたレドックス系重合開始剤若しくは過酸化水素やヒドロキシパーオキサイドと還元剤とを組み合わせたレドックス系重合開始剤が挙げられる。
アゾ化合物の具体例としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩及び2,2’−アゾビス{2−メチル−N−[2−(1−ヒドロキシブチル)]−プロピオンアミド}が挙げられる。
有機過酸化物の具体例としては、ベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイドが挙げられる。
【0050】
メタクリル酸エステル系重合体(a−1)を得るための溶液重合法に用いる重合溶剤としては、メタクリル酸エステル、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)及び必要に応じて他の重合性単量体が溶解する溶剤であればよく、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、クロロホルム、四塩化炭素、二塩化エチレン、酢酸エチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド及びジメチルスルホキシドが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0051】
アニオン重合法によるメタクリル酸エステル系重合体(a−1)の製造方法としては、例えば、特公平6−89,054号公報及び特開平3−263,412号公報に開示されているようなアニオン重合法及び配位アニオン重合法による製造方法が挙げられる。
【0052】
メタクリル酸エステル系重合体(a−1)を得るための重合に際しては、必要に応じて、例えば、分散剤、乳化剤、連鎖移動剤、染料、顔料等の着色剤、可塑剤、離型剤及び紫外線吸収剤等の光安定剤を添加することができる。
【0053】

ナノ物質(b)

本発明で使用されるナノ物質(b)としてはナノサイズの大きさを有する物質が挙げられる。
ナノ物質(b)としては、例えば、ナノ炭素材料、ナノサイズの、金属微粒子、金属酸化物微粒子等の無機微粒子及びナノサイズの重合体微粒子が挙げられるが、これらの中でナノ炭素材料及びナノサイズの無機微粒子が好ましい。また、ナノサイズの無機微粒子としてはナノサイズの金属酸化物微粒子が好ましい。
【0054】
ナノ炭素材料としては、例えば、フラーレン、金属内包フラーレン、玉葱状フラーレン、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン、カーボンナノファイバー、ピーポッド、カーボンナノ粒子及びグラフェンが挙げられ、実用性の点でカーボンナノチューブが好ましい。
【0055】
カーボンナノチューブとしては、例えば、厚さ数原子層のグラファイト状炭素原子面を丸めた円筒状のものや前記円筒状のものが複数個入れ子構造になったもので、外径がナノメーターサイズのものが挙げられる。
カーボンナノチューブの具体例としては、単層カーボンナノチューブ、単層カーボンナノチューブが同心円状に重なった多層カーボンナノチューブ、これらがコイル状になったコイル状カーボンナノチューブ及び底の空いたコップを積み重ねたような形状のカップスタック型カーボンナノチューブが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
これらの中で、各種機能を十分に発現できる点で、単層カーボンナノチューブ及び多層カーボンナノチューブが好ましい。
【0056】
カーボンナノチューブの製造方法としては、例えば、二酸化炭素の接触水素還元法、アーク放電法、レーザー蒸発法、化学気相成長法(CVD法)、気相成長法及び一酸化炭素を高温高圧下で鉄触媒と共に反応させて気相で成長させるHiPco法が挙げられる。
【0057】
本発明で使用されるカーボンナノチューブとしては、洗浄法、遠心分離法、ろ過法、酸化法、クロマトグラフ法等の各種精製法によって高純度化されているものが好ましい。
また、カーボンナノチューブとしては、例えば、ボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等のボール型混練装置を用いて粉砕されたもの及び化学的又は物理的処理によって短く切断されたものを使用することができる。
【0058】
カーボンナノチューブの市販品としては、例えば、下記のものが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
(1)米国カーボンナノテクノロジーズ社製:カーボンナノチューブ、HiPco単層カーボンナノチューブ及び二層カーボンナノチューブ
(2)韓国イルジンナノテク社製:SWNT及びMWNT
(3)韓国CNT社製:C−100及びC−200(商品名)
(4)中国シンセンナノテクポート社製:カーボンナノチューブ
(5)ベルギーナノシル社製:NC7000、NC1100及びNC2100(商品名)
【0059】
金属微粒子としては、Au、Ag、Pd、Pt、Cu、Ni、Co、Fe、Mn、Ru、Rh、Os、Ir等の粒子が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0060】
金属酸化物微粒子としては、例えば、Ti、Al、Zr、Si、Ge、B、Li、Na、Fe、Ga、Mg、P、Sb、Sn、Ta、V、Cu、Be、Sc、Cr、Mn、Co、Zn、As、Y、W、Ce、In等の金属の酸化物の微粒子又は2種以上の金属の酸化物を含有する複合金属酸化物微粒子が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
これらの中で、複合金属酸化物微粒子が好ましい。
【0061】
複合金属酸化物微粒子としては、例えば、TiO−SiO、TiO−ZrO−SiO、TiO−SnO−ZrO−SiO、TiO−CeO−SiO、TiO−Fe−SiO、TiO−SnO−WO−ZrO−SiO、TiO−WO−ZrO−SiO、TiO−V−SiO、Sb−SiO、TiO−SnO−SiO、TiO−Fe−SiO、TiO−V−SiO、SnO−SiO、ZrO−SiO、SeO−SiO及びIn−SnOが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0062】
ナノサイズの金属酸化物微粒子は、通常、ゾル−ゲル法等の公知の合成法で製造できる。また、ナノサイズの金属酸化物微粒子は、粉体又は分散媒に分散されたコロイド状態の市販品として入手できる。
ナノサイズの金属酸化物微粒子を分散させる分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール等のモノアルコール;エチレングリコール等の多価アルコール;エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、メトキシプロパノール等の多価アルコール誘導体;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール等のケトン化合物;及び2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート等のビニル単量体が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0063】
ナノサイズの金属酸化物微粒子の一次粒子の質量平均粒子径としては1〜300nmが好ましく、1〜150nmがより好ましい。
【0064】
ナノ物質含有組成物(x)

本発明において、ナノ物質含有組成物(x)はナノ物質含有膜(X)を形成させるための原料となるもので、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)及びナノ物質(b)を含有する。
ナノ物質含有組成物(x)を使用することにより、ナノ物質(b)の構造制御及び連続構造形成が可能となり、少量のナノ物質(b)の添加でナノ物質(b)の持つ機能を効果的に発現できるナノ物質含有膜(X)を形成させることができる。
【0065】
本発明においては、ナノ物質含有組成物(x)としては、例えば、水及びアルコールを含む混合溶剤(c)にメタクリル酸エステル系重合体(a−1)を溶解した溶液中にナノ物質(b)を分散させたものが挙げられる。
【0066】
ナノ物質含有組成物(x)中に、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)を溶解させる溶剤として水及びアルコールを含む混合溶剤(c)を含有させることにより、ナノ物質含有組成物(x)を乾燥させるだけでナノ物質含有膜(X)を形成することができる。
ナノ物質含有組成物(x)を乾燥させてナノ物質含有膜(X)が得られるメカニズムは明確には解明されていないが、以下のようなメカニズムが推測される。
即ち、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)が混合溶剤(c)に溶解したナノ物質含有組成物(x)から混合溶剤(c)の一部が揮発して混合溶剤(c)の組成がメタクリル酸エステル系重合体(a−1)に対する溶解性が低い組成に変化する。この溶剤組成の変化によりメタクリル酸エステル系重合体(a−1)が析出し、ミクロ相分離により連続構造を形成する。このメタクリル酸エステル系重合体(a−1)連続構造形成における微粒子の凝集力により連続構造中にナノ物質(b)を取り込んだ多孔性のナノ物質含有膜(X)が形成される。
【0067】
また、本発明においては、ナノ物質含有組成物(x)中のナノ物質(b)の分散性を向上させるために、ナノ物質含有組成物(x)中に分散剤(d)を含有することができる。
更に、本発明においては、ナノ物質含有膜(X)と成形体(Z)又は硬化性単量体組成物の硬化層との密着性及びナノ物質含有膜(X)の強度を向上させるために、ナノ物質含有組成物(x)中に高分子化合物(e)を含有することができる。
【0068】
ナノ物質含有組成物(x)中のメタクリル酸エステル系重合体(a−1)の含有量としては、混合溶剤(c)へのメタクリル酸エステル系重合体(a−1)の溶解性及びナノ物質含有膜(X)の形成性の点で、混合溶剤(c)100質量部に対して0.05〜20質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましい。メタクリル酸エステル系重合体(a−1)の含有量が0.05質量部以上で良好なナノ物質含有膜(X)が形成できる傾向にあり、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)の含有量が20質量部以下で、混合溶剤(c)へのメタクリル酸エステル系重合体(a−1)の溶解性が良好となる、又はナノ物質含有組成物(x)の粘度が高くなり過ぎず、取り扱い性が良好となる傾向にある。
【0069】
ナノ物質(b)としてナノ炭素材料を使用する場合のナノ物質含有組成物(x)中のナノ炭素材料の含有量としては、ナノ物質含有組成物(x)中のナノ炭素材料の分散性の点で、混合溶剤(c)100質量部に対して0.001〜5質量部が好ましく、0.005〜1質量部がより好ましい。尚、ナノ炭素材料の含有量が5質量部を超えても性能の大きな向上は見られない傾向にある。
また、ナノ炭素材料の含有量としては、ナノ物質含有膜(X)の導電性及び透明性の点で、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)と分散剤(d)の合計量100質量部に対して0.05〜30質量部が好ましく、1.0〜20質量部がより好ましい。尚、ナノ炭素材料の含有量が30質量部を超えても性能の大きな向上は見られない傾向にある。
【0070】
ナノ物質(b)としてナノサイズの無機微粒子を使用する場合のナノサイズの無機微粒子の含有量としては、ナノ物質含有組成物(x)中のナノサイズの無機微粒子の分散性の点で、混合溶剤(c)100質量部に対して0.001〜20質量部が好ましく、0.005〜10質量部がより好ましい。尚、ナノサイズの無機微粒子の含有量が20質量部を超えても性能の大きな向上は見られない傾向にある。
また、ナノサイズの無機微粒子の含有量としては、ナノ物質含有膜(X)の導電性及び透明性の点で、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)と分散剤(d)の合計量100質量部に対して0.05〜150質量部が好ましく、1.0〜100質量部がより好ましい。尚、ナノサイズの無機微粒子の含有量が150質量部を超えても性能の大きな向上は見られない傾向にある。
【0071】
本発明においては、ナノ物質含有組成物(x)中に、必要に応じて、可塑剤、塗面調整剤、流動性調整剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、保存安定剤、接着助剤、増粘剤等の公知の添加剤及びナノ物質(b)以外の他の導電性物質を含有させることができる。
【0072】
ナノ物質含有組成物(x)の製造方法としては、例えば、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)、ナノ物質(b)及び混合溶剤(c)を一括で混合する方法、並びに混合溶剤(c)中にメタクリル酸エステル系重合体(a−1)を溶解した溶液と、混合溶剤(c)中にナノ物質(b)を分散させた分散液とを混合する方法が挙げられる。
【0073】
混合溶剤(c)中にメタクリル酸エステル系重合体(a−1)を溶解させる際には、混合溶剤(c)へのメタクリル酸エステル系重合体(a−1)の溶解性向上の点で、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)の溶解温度としては35〜100℃が好ましく、45〜95℃がより好ましい。
【0074】
ナノ物質(b)を混合溶剤(c)中に分散させた分散液の調製方法としては、例えば、混合溶剤(c)に分散剤(d)を所定量溶解させた後にナノ物質(b)を加えて撹拌又は混練する方法が挙げられる。
上記の撹拌又は混練装置としては、例えば、超音波発振機、ホモジナイザー、スパイラルミキサー、プラネタリーミキサー、ディスパーサー及びハイブリットミキサーが挙げられる。これらの中で、超音波照射とホモジナイザーとを併用した超音波ホモジナイザーが好ましい。
【0075】
ナノ物質(b)を混合溶剤(c)中に分散させる際の超音波照射処理の条件は特に限定されず、ナノ物質(b)を分散剤(d)の溶解溶液中に均一に分散させるだけの十分な超音波の強度及び処理時間があればよい。
ナノ物質(b)を混合溶剤(c)中に分散させる際の超音波照射処理の条件としては、例えば、超音波発振機における定格出力としては超音波発振機の単位面積当たり0.1〜500ワット/cmが好ましく、0.3〜300ワット/cmがより好ましい。また、発振周波数としては10〜200kHzが好ましく、20〜100kHzがより好ましい。更に、超音波照射処理の時間としては1分〜48時間が好ましく、5分〜48時間がより好ましい。また、超音波照射処理を行う際のナノ物質(b)の分散液の温度としては、分散性向上の点で、60℃以下が好ましく、40℃以下がより好ましい。
本発明においては、上記の超音波照射処理の後に更にボールミル、振動ミル、サンドミル、ロールミル等のボール型混練装置を用いて更に混合溶剤(c)中のナノ物質(b)の分散を強化することができる。
【0076】

混合溶剤(c)

混合溶剤(c)は水及びアルコールを含む。
アルコールとしては、例えば、水に溶解するものが挙げられる。
アルコールの具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、3−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−ペンタノール、n−ヘキサノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチルブチノール、ベンジルアルコール、フルフリルアルコール、テトラヒドロフルフリルアルコール等のモノアルコール;及びエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、メトキシメトキシエタノール、プロピレングリコールモノエチルエーテル、グリセリルモノアセテート等の多価アルコール誘導体が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
上記アルコールの中で、モノアルコールが好ましく、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、3−ブタノール、t−ブタノール、1−ペンタノール、3−メチル−1−ブタノール、2−ペンタノール、n−ヘキサノール及び4−メチル−2−ペンタノールがより好ましく、エタノール及びイソプロパノールが特に好ましい。
【0077】
混合溶剤(c)中の水とアルコールの含有比率(水/アルコール)としてはメタクリル酸エステル系重合体(a−1)を溶解できる比率であればよいが、メタクリル酸エステル系重合体(b)の溶解性及び多孔性のナノ物質含有膜(X)の形成性の点で、50/50〜5/95(質量比)が好ましく、40/60〜10/90(質量比)がより好ましい。
【0078】
本発明においては、混合溶剤(c)中に必要に応じて他の溶剤を含有することができる。
他の溶剤としては、水及びアルコールに溶解し、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)が溶解するものが挙げられる。
他の溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノメチルアセテート、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、ベンゼン、トルエン及びキシレンが挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0079】
混合溶剤(c)中の他の溶剤の含有量としては、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)の溶解性、ナノ物質(b)の分散性及びナノ物質含有膜(X)の形成性の点で、水及びアルコールの合計量100質量部に対して0.01〜20質量部が好ましく、0.05〜10質量部がより好ましい。
【0080】

分散剤(d)

本発明においては、分散剤(d)を混合溶剤(c)中に含有させることによりナノ物質含有組成物(x)におけるナノ物質(b)の長期間の分散安定性を良好とすることができる傾向にあり、好ましい。
分散剤(d)としては、例えば、界面活性剤及び高分子分散剤が挙げられる。
界面活性剤としては、たとえば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン系界面活性剤及びフッ素系界面活性剤が挙げられる。
【0081】
アニオン系界面活性剤の具体例としては、アルキルスルホン酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルカルボン酸、アルキルナフタレンスルホン酸、α−オレフィンスルホン酸、ジアルキルスルホコハク酸、α−スルホン化脂肪酸、N−メチル−N−オレイルタウリン、石油スルホン酸、アルキル硫酸、硫酸化油脂、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル硫酸、アルキルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテルリン酸、ナフタレンスルホン酸ホルムアルデヒド縮合物及びこれらの塩が挙げられる。
【0082】
カチオン系界面活性剤の具体例としては、第一脂肪族アミン、第二脂肪族アミン、第三脂肪族アミン、テトラアルキルアンモニウム塩、トリアルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルピリジニウム塩、2−アルキル−1−アルキル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウム塩、N,N−ジアルキルモルホリニウム塩、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミド及びその塩、ポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物及びその塩並びにポリエチレンポリアミン脂肪酸アミドの尿素縮合物の第四級アンモニウム塩が挙げられる。
【0083】
両性界面活性剤の具体例としては、N,N−ジメチル−N−アルキル−N−カルボキシメチルアンモニウムベタイン、N,N,N−トリアルキル−N−スルホアルキレンアンモニウムベタイン、N,N−ジアルキル−N,N−ビスポリオキシエチレンアンモニウム硫酸エステルベタイン、2−アルキル−1−カルボキシメチル−1−ヒドロキシエチルイミダゾリニウムベタイン等のベタイン類;及びN,N−ジアルキルアミノアルキレンカルボン酸塩等のアミノカルボン酸類が挙げられる。
【0084】
非イオン系界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリスチリルフェニルエーテル、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸部分エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン化ヒマシ油、脂肪酸ジエタノールアミド、ポリオキシエチレンアルキルアミン、トリエタノールアミン脂肪酸部分エステル及びトリアルキルアミンオキサイドが挙げられる。
【0085】
フッ素系界面活性剤の具体例としては、フルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸及びパーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールが挙げられる。
【0086】
上記の界面活性剤におけるアルキル基としては、ナノ物質(b)の分散性及び分散安定性の点で、炭素数1〜24のアルキル基が好ましく、炭素数3〜18のアルキル基がより好ましい。
界面活性剤は単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0087】
高分子分散剤の具体例としては、ナノ物質(b)としてカーボンナノチューブを用いる場合、例えば、特開2006−225,632号公報に記載の極性基を含む(メタ)アクリル系重合体及び導電性ポリマーが挙げられ、カーボンナノチューブの分散性及びナノ物質含有膜(X)の導電性の点で、導電性ポリマーがより好ましい。
【0088】
導電性ポリマーとしては、例えば、フェニレンビニレン、ビニレン、チエニレン、ピロリレン、フェニレン、イミノフェニレン、イソチアナフテン、フリレン及びカルバゾリレン単位を繰り返し単位として含むπ共役系高分子化合物が挙げられる。
導電性ポリマーとしては、混合溶剤(c)へのメタクリル酸エステル系重合体(a−1)の溶解性の点で、水溶性導電性ポリマーが好ましい。
【0089】
水溶性導電性ポリマーとしては、例えば、π共役系高分子化合物中の窒素原子上に酸性基又は酸性基で置換されたアルキル基若しくはエーテル結合を含むアルキル基を有する導電性ポリマーが挙げられる。
水溶性導電性ポリマーとしては、ナノ物質(b)としてカーボンナノチューブを用いる場合、例えば、国際公開第2004/039,893号パンフレットに記載のスルホン酸基及びカルボキシル基を有する水溶性導電性ポリマーから選ばれる少なくとも1種がカーボンナノチューブの分散性及びナノ物質含有膜(X)の導電性の点で、より好ましい。また、水溶性導電性ポリマーはナノ物質(b)として複合金属酸化物微粒子を用いる場合にも分散剤(d)として好適である。
また、水溶性導電性ポリマーとして、ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフェートを用いることができる。ポリエチレンジオキシチオフェンポリスチレンスルフェートはポリマー骨格にスルホン酸基は導入されていないが、ドーパントとしてポリスチレンスルホン酸が付与されている構造を有している。
【0090】
分散剤(d)の含有量としては、ナノ物質含有組成物(x)中のナノ物質(b)の分散性並びにナノ物質含有膜(X)の導電性及び透明性の点で、混合溶剤(c)100質量部に対して0.05〜20質量部が好ましく、0.1〜10質量部がより好ましい。尚、分散剤(d)の含有量が20質量部を超えても性能の大きな向上は見られない傾向にある。
【0091】

高分子化合物(e)

高分子化合物(e)としては、例えば、メタクリル酸エステル系重合体(a−1)及び分散剤(d)以外の高分子化合物で、水及びアルコールに溶解するもの又は水及びアルコールに分散してエマルションを形成することができるものが挙げられる。
高分子化合物(e)の具体例としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール等のポリビニルアルコール;ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩等のポリ(メタ)アクリル酸又はその塩;ポリアクリルアミド、ポリ(N−t−ブチル)アクリルアミド等のポリアクリルアミド、ポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホン酸及びそのナトリウム塩、セルロース、アルキド樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリブタジエン、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、ユリア樹脂、ポリイミド、マレイン酸樹脂、ポリカーボネート、酢酸ビニル樹脂、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリスチレン、アクリル−スチレン共重合樹脂、酢酸ビニル−アクリル共重合樹脂、ポリエステル、スチレン−マレイン酸共重合樹脂、フッ素樹脂及びこれらの共重合体が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0092】
高分子化合物(e)の含有量としては、ナノ物質含有組成物(x)中のメタクリル酸エステル系重合体(a−1)及び高分子化合物(e)の溶解性、ナノ物質含有組成物(x)中のナノ物質(b)の分散性並びにナノ物質含有膜(X)の形成性の点で、混合溶剤(c)100質量部に対して0.01〜10質量部が好ましく、0.05〜5質量部がより好ましい。
【0093】

他の導電性物質

他の導電性物質としては、炭素繊維、導電性カーボンブラック、黒鉛等の炭素系物質;SnO、ZnO等の金属酸化物;銀、ニッケル、銅等の金属;及び対称型又は非対称型のインドール誘導体の三量体等又はそのド−ピング物が挙げられ、混合溶剤(c)への分散性及び得られるナノ物質含有成形体の導電性の点で、インドール誘導体の三量体又はそのド−ピング物が好ましい。
【0094】

ナノ物質含有成形体

本発明のナノ物質含有成形体は、成形体(Z)の少なくとも一つの表面に、空孔部が充填材(Y)で充填されたナノ物質含有膜(X)が積層された構造、又は成形体(Z)の少なくとも一つの表面に、硬化性単量体組成物の硬化物の層、並びに空孔部が充填材(Y)で充填されたナノ物質含有膜(X)、が順次積層された構造を有する。
【0095】
本発明においては、ナノ物質含有成形体の空孔部が充填材(Y)で充填されているナノ物質含有膜(X)の上に、必要に応じて機能層を設けることができる。
機能層としては、例えば、反射防止層、ガスバリア層、電磁波シールド層、赤外線カット層、帯電防止層、拡散層、接着層、剥離層及びハードコート層が挙げられる。
【0096】
本発明のナノ物質含有成形体の製造方法としては、例えば、以下の二つの方法が挙げられる。
第1の製造方法としては、転写用基材の表面にナノ物質含有組成物(x)を塗工した後に、常温で放置又は加熱処理して混合溶剤(c)を揮発させることによって、転写用基材の表面にナノ物質含有膜(X)が積層された転写材を製造する転写材製造工程と、ナノ物質含有膜(X)中の空孔部に充填材(Y)として成形体(Z)を構成する化合物と同じ化合物を充填すると共に転写材のナノ物質含有膜(X)の表面に密着して成形体(Z)を形成する空孔部充填及び成形体製造工程と、転写材が積層された成形体(Z)から転写用基材を剥離する転写用基材剥離工程とを含むナノ物質含有成形体の製造方法が挙げられる。
【0097】
第2の製造方法としては、転写用基材の表面にナノ物質含有組成物(x)を塗工した後に、常温で放置又は加熱処理して混合溶剤(c)を揮発させることによって、転写用基材の表面にナノ物質含有膜(X)が積層された転写材を製造する転写材製造工程と、ナノ物質含有膜(X)中の空孔部に充填材(Y)の原料として硬化性単量体組成物を充填すると共に転写材のナノ物質含有膜(X)の表面に密着して硬化性単量体組成物の塗布層を形成した後に硬化性単量体組成物の塗布層の表面に成形体(Z)を積層する空孔部充填及び成形体積層工程と、硬化性単量体組成物の塗布層を硬化させて硬化性単量体組成物の硬化層を得る硬化層形成工程と、転写材及び硬化性単量体組成物の硬化層が積層された成形体(Z)から転写用基材を剥離する転写用基材剥離工程とを含むナノ物質含有成形体の製造方法が挙げられる。
【0098】

転写用基材

本発明で使用される転写用基材としては、例えば、フィルム、シート、発泡体、多孔質膜等の合成樹脂製成形体、木材、紙材、セラミックス、繊維、不織布、炭素繊維シート、炭素繊維紙、ガラス板、ステンレス板及びこれらの積層体が挙げられる。
【0099】
また、本発明においては、転写用基材として型を用いることができる。
型としては、例えば、注型重合用の鋳型及び成形用型が挙げられる。
鋳型が2枚の表面平滑な板状物を使用する場合、本発明のナノ物質含有成形体の表面が平滑な板状積層体を得ることができる。この場合、ナノ物質含有膜(X)は片方の型のみに形成してもよく、両方の型に形成してもよい。
【0100】
上記の合成樹脂製成形体に使用される合成樹脂としては、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、AS樹脂、アクリル樹脂、ポリブタジエン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリフッ化ビニリデン、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリアラミド、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルニトリル、ポリアミドイミド、ポリエーテルサルホン、ポリサルホン、ポリエーテルイミド及びウレタン樹脂が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0101】
本発明においては、転写用基材とナノ物質含有膜(X)の剥離性を向上させるために、ナノ物質含有膜(X)と接触する転写用基材の表面に剥離層を設けることができる。
【0102】

転写材製造工程

本発明において転写材製造工程は転写用基材の表面にナノ物質含有膜(X)が積層された転写材を製造する工程である。
転写材は、転写用基材の表面にナノ物質含有組成物(x)を塗工した後に、ナノ物質含有組成物(x)中の混合溶剤(c)を揮発させることにより製造することができる。
混合溶剤(c)の揮発方法としては、常温で放置する方法及び加熱処理する方法が挙げられる。
【0103】

空孔部充填及び成形体製造工程

本発明において空孔部充填及び成形体製造工程は、転写材のナノ物質含有膜(X)の表面に密着してナノ物質含有膜(X)中の空孔部に充填材(Y)として成形体(Z)を構成する化合物と同じ化合物を充填すると共に成形体(Z)を形成する工程である。
転写材のナノ物質含有膜(X)の表面に密着して成形体(Z)を形成する方法としては、例えば、転写材のナノ物質含有膜(X)の表面に成形体(Z)を形成するための原料である、溶媒に溶解した熱可塑性樹脂若しくは重合性原料又は熱可塑性樹脂の溶融物を塗布又は流し込み、次いで、溶媒を除去若しくは重合するか、又は冷却する方法が挙げられる。この際に、成形体(Z)を形成するための原料も併せてナノ物質含有膜(X)中の空孔部に充填材(Y)として充填される。
前記の転写材として型を使用する場合では、注型重合用の鋳型を使用し、重合性原料を型内に注入して重合させるキャスト重合法が好ましく、連続的キャスト重合法がより好ましい。
【0104】
キャスト重合法としては、例えば、注型重合用のガラス型の内表面に、ナノ物質含有組成物(x)を塗工して乾燥させることにより、ナノ物質含有膜(X)を形成し、次いで、ガラス型内に重合性原料を流し込んで重合させる方法が挙げられる。
上記のガラス型は、例えば、2枚のガラス板の間に、軟質ポリ塩化ビニル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体等の材質のガスケットを挟み込み、次いで2枚のガラス板をクランプ等で固定することにより得ることができる。
【0105】
連続的キャスト重合法の場合は、例えば、特公昭46−41,602号公報に記載されている装置を用いた、2枚のスチールベルトの間の空間を型として使用することができる。
連続的キャスト重合法においては、予め、スチールベルト表面にナノ物質含有組成物(x)を塗工して乾燥させてナノ物質含有膜(X)を形成する。また、スチールベルト表面にあらかじめ凹凸等の意匠を付与しておけば、表面に意匠性を有するナノ物質含有膜(X)を形成することができる。更に、例えば、表面に凹凸を有する、ナノ物質含有組成物(x)に溶解又は膨潤しないフィルムをスチールベルトに貼り付け、その凹凸面にナノ物質含有組成物(x)を塗工し、乾燥させてナノ物質含有膜(X)を形成させることができる。
【0106】

空孔部充填及び成形体積層工程

本発明において空孔部充填及び成形体積層工程は、転写材上のナノ物質含有膜(X)の表面に密着してナノ物質含有膜(X)中の空孔部に充填材(Y)の原料として硬化性単量体組成物を充填すると共に硬化性単量体組成物の塗布層を形成した後に硬化性単量体組成物の塗布層の表面に成形体(Z)を積層する工程である。
まず、転写材のナノ物質含有膜(X)の表面に密着して硬化性単量体組成物の塗布層を形成する。
次いで、硬化性単量体組成物の塗布層が表面に形成された転写材を、成形体(Z)の表面に硬化性単量体組成物の塗布層が接触するように貼り合わせ、成形体(Z)の表面に硬化性単量体組成物の塗布層及び硬化性単量体組成物が空孔部に充填材(Y)として充填されたナノ物質含有膜(X)が順次積層された積層体が形成される。
硬化性単量体組成物の塗布層が表面に形成された転写材を成形体(Z)の表面に貼付ける方法としては、例えば、成形体(Z)又は転写材のナノ物質含有膜(X)の側の表面に硬化性単量体組成物を塗布した後にゴムロールで圧着する方法が挙げられる。上記の方法において、貼り合わせる際のエアーの巻き込みを防ぐためには、成形体(Z)の表面に過剰量の硬化性単量体組成物を塗布した後、フィルムを介してゴムロールで過剰な硬化性単量体組成物をしごき出しながら貼り付ける方法が好ましい。
【0107】

硬化層形成工程

硬化層形成工程は硬化性単量体組成物の塗布層を硬化させて硬化性単量体組成物の硬化層を形成する工程である。
硬化性単量体組成物の塗布層を硬化させる方法としては、例えば、活性エネルギー線硬化法及び熱硬化法が挙げられ、必要に応じて両方の硬化法を併用することができる。
活性エネルギー線により硬化させる場合、例えば、紫外線ランプ等の光照射源を使用し、硬化に十分な照度を照射することにより硬化することができる。
紫外線ランプとしては、例えば、高圧水銀灯、メタルハライドランプ及び蛍光紫外線ランプが挙げられる。
紫外線硬化法としては、例えば、転写材又は成形体(Z)を介して1段階で硬化させる一段硬化法及び転写材又は成形体(Z)を介して硬化させ、更に転写用基材剥離工程で転写用基材を剥離した後に紫外線を照射して2段の硬化を行う方法等の多段硬化法が挙げられる。
熱硬化法により硬化させる場合、例えば、加熱炉、温水シャワー等を使用し、転写材、空孔部に充填材(Y)が充填されたナノ物質含有膜(X)の層及び成形体(Z)が変化せず、硬化に十分な温度で硬化させることができる。
【0108】

硬化性単量体組成物

硬化性単量体組成物としては、電子線、放射線、紫外線等の活性エネルギー線の照射及び熱の少なくとも1種で硬化する単量体を含有する組成物であればよく、例えば、(メタ)アクリル酸誘導体、アルコキシシラン及びアルキルアルコキシシランから選ばれる少なくとも1種の単量体を含有する組成物が挙げられる。
(メタ)アクリル酸誘導体の具体例としては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、重合性基を2つ以上有する(メタ)アクリル系単量体及びこれらの単量体の重合体を含有する重合性単量体溶液が挙げられる。
【0109】
(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸i−ブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸エチルトリメチルアンモニウムクロライド、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル及び(メタ)アクリル酸1,4−ブタンジオールが挙げられる。
【0110】
重合性基を2つ以上有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、下記の(α)〜(δ)の化合物が挙げられる。
(α)多価アルコール1モルに対し2モル以上の(メタ)アクリル酸又はそれらの誘導体を反応して得られるエステル化物。
(β)多価アルコール、多価カルボン酸又はその無水物及び(メタ)アクリル酸又はそれらの誘導体とから得られる1分子中に2個以上の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する線状のエステル化物。
(γ)ポリイソシアネートの3量化体1モル当たり、活性水素を有する(メタ)アクリル系単量体を3モル以上反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート。
(δ)トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸のジ又はトリ(メタ)アクリレート等のポリ[(メタ)アクリロイルオキシエチル]イソシアヌレート。
(ε)エポキシポリアクリレート。
(ζ)ウレタンポリアクリレート。
【0111】
(α)の化合物の具体例としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート及びトリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0112】
(β)の化合物における、多価カルボン酸又はその無水物、多価アルコール及び(メタ)アクリル酸の組合せ(多価カルボン酸又はその無水物/多価アルコール/(メタ)アクリル酸)の具体例としては、マロン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、マロン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、コハク酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、アジピン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、グルタル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、セバシン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、フマル酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸、イタコン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールエタン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/トリメチロールプロパン/(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸/グリセリン/(メタ)アクリル酸及び無水マレイン酸/ペンタエリスリトール/(メタ)アクリル酸が挙げられる。
【0113】
(γ)の化合物におけるポリイソシアネートの3量化体を得るためのポリイソシアネートとしては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、イソホロンジイソシアネート及びトリメチルヘキサメチレンジイソシアネートが挙げられる。
【0114】
(γ)の化合物における活性水素を有する(メタ)アクリル系単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシ−3−メトキシプロピル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシ(メタ)アクリルアミド、1,2,3−プロパントリオール−1,3−ジ(メタ)アクリレート及び3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0115】
本発明においては、硬化性単量体組成物中の単量体として前記の(メタ)アクリル酸誘導体以外に他の単量体を含んでいてもよい。
他の単量体としては、例えば、スチレン、メチルスチレン、ブロモスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン、酢酸ビニル、N−ビニルカプロラクタム及びN−ビニルピロリドンが挙げられる。
前記の硬化性単量体組成物中の各種単量体は単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
【0116】
本発明において、硬化性単量体組成物としては紫外線硬化性単量体組成物が好ましい。
上記の紫外線硬化性単量体組成物としては、生産性の点で、分子中に少なくとも2個の(メタ)アクリロイルオキシ基を有する単量体及び光開始剤を含有する紫外線硬化性組成物が好ましい。
【0117】
上記の光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトイン、ブチロイン、トルオイン、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;及び2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等のリン化合物が挙げられる。
【0118】
また、硬化性単量体組成物として熱硬化系の硬化性組成物を使用する場合には、前記の単量体及び熱重合開始剤からなる熱硬化性単量体組成物が挙げられる。
上記の熱重合開始剤としては、例えば、アゾ化合物、有機過酸化物等のラジカル重合開始剤が挙げられる。
アゾ化合物としては、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)及び2,2’−アゾビス(2,4−ジメチル−4−メトキシバレロニトリル)が挙げられる。
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド及びラウロイルパーオキサイドが挙げられる。また、有機過酸化物を使用する場合、例えば、有機過酸化物とアミン類を組み合わせたレドックス系の重合開始剤を用いることができる。
【0119】
硬化性単量体組成物中の光重合開始剤又は熱重合開始剤の添加量としては、硬化性の点で、硬化性単量体の合計量100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、硬化物の良好な色調を維持する点で、10質量部以下が好ましい。
【0120】
本発明においては、硬化性単量体組成物中に、必要に応じてレベリング剤、導電性無機微粒子、導電性を有さない無機微粒子、紫外線吸収剤、HALS等の光安定剤等の各種添加剤を添加することができる。各種添加剤の添加量としては、硬化性単量体組成物の硬化物の透明性の点で、硬化性単量体組成物中に10質量%以下が好ましい。
【0121】

転写用基材剥離工程

転写用基材剥離工程は、転写材が積層された成形体(Z)又は転写材及び硬化性単量体組成物の硬化層が積層された成形体(Z)から転写用基材を剥離する工程で、この工程を経た後に本発明のナノ物質含有成形体が得られる。
【0122】

ナノ物質含有成形体

本発明のナノ物質含有成形体は、成形体の少なくとも1つの表面に、空孔部が充填材(Y)で充填されたナノ物質含有膜(X)が積層されたもの、又は成形体の少なくとも1つの表面に、硬化性単量体組成物の硬化物の層及び空孔部が充填材(Y)で充填されたナノ物質含有膜(X)が順次積層されたものである。
【0123】
本発明においては、分散剤(d)を含有するナノ物質含有組成物(x)を使用する場合には、ナノ物質含有膜(X)を洗浄液(f)で洗浄することにより、ナノ物質含有膜(X)中の分散剤(d)を除去することができる。特に分散剤(d)として導電性ポリマーを使用する場合、洗浄液(f)での洗浄により、ナノ物質含有成形体の外観、透明性及び色調が改善されるので好ましい。
洗浄液(f)による多孔性のナノ物質含有膜(X)の洗浄時期としては、例えば、転写用基材の表面にナノ物質含有組成物(x)を塗工し、次いで乾燥させた後の洗浄又は転写用基材をナノ物質含有膜(X)の表面から剥離した後の洗浄が挙げられる。
【0124】

洗浄液(f)

洗浄液(f)としては、分散剤(d)を溶解し、ナノ物質含有膜(X)を犯さないものであれば、特に限定されない。
洗浄液(f)としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、エチルイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;エチレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールモノ−n−プロピルエーテル等のエチレングリコール類;プロピレングリコール、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル、プロピレングリコールブチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル等のプロピレングリコール類;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド類;N−メチルピロリドン、N−エチルピロリドン等のピロリドン類;ジメチルスルオキシド、γ−ブチロラクトン、乳酸メチル、乳酸エチル、β−メトキシイソ酪酸メチル、α−ヒドロキシイソ酪酸メチル等のヒドロキシエステル類;及びアニリン、N−メチルアニリン等のアニリン類が挙げられる。これらは単独で、又は2種以上を併用して使用できる。
分散剤(d)として水溶性導電性ポリマーを用いる場合には、洗浄液(f)としては、水溶性導電性ポリマーの溶解性の点で、水及び含水有機溶剤が好ましい。
【0125】
洗浄液(f)によるナノ物質含有膜(X)の洗浄方法としては、例えば、転写材を洗浄液(f)に浸漬した後に数分〜数時間の振とうを実施する方法及びナノ物質含有膜(X)の表面に洗浄液(f)をシャワーリングする方法が挙げられる。
洗浄液(f)の温度としては、例えば、室温〜150℃が挙げられ、20〜100℃が好ましい。洗浄液(f)の温度が150℃以下でナノ物質含有膜(X)の分解又は溶解及び多孔質構造の破壊を抑制でき、ナノ物質含有成形体の導電性及び外観を良好に維持できる傾向にある。
【実施例】
【0126】
以下、実施例により本発明を説明する。尚、以下において「部」及び「%」はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。また、得られたナノ物質含有成形体について以下に示す評価を実施した。
【0127】
(1)初期表面抵抗値及び密着試験後表面抵抗値
初期表面抵抗値及び密着試験後表面抵抗値の測定は25℃及び50%RHの条件下で行った。測定には、表面抵抗値が108Ω/□以上の場合は、三菱化学(株)社製ハイレスタ―UP(商品名)を用いた二重リング法を採用した。また、表面抵抗値が108Ω/□未満の場合は、三菱化学(株)社製ロレスタ―GP(商品名、各電極間距離:5mm)を用いた四探針法を採用した。
【0128】
(2)全光線透過率及びヘイズ
全光線透過率及びヘイズはHAZEMETER NDH2000(日本電色工業(株)社製、商品名)により測定した。
【0129】
(3)多孔質構造の有無
共焦点レーザー顕微鏡(カールツァイス社製、LSM5 PASCAL Axioplan 2 imaging)を用い、下記条件でナノ物質含有成形体の表面のナノ物質含有膜の、1,000倍の倍率の画像を得た。
この条件での1画像あたりの光学厚さは300nm程度であった。
得られた画像の拡張フォーカス像を作成し、多孔質構造の有無について評価した。
<条件>
レンズ:100倍油浸レンズ(開口数1.4、Plan−APOCHROMAT)
屈折率調整液:屈折率1.518の屈折率調整液(カールツァイス社製、Immersol 518F)
レーザー:波長458nmのアルゴンレーザー
垂直方向の走査:ナノ物質含有膜の表面〜ナノ物質含有膜と成形体との界面
画像の大きさ:100μm□
画像取得厚さ:約3μm
画像取得ピッチ:0.1μm
<評価基準>
○:ナノ物質を含有した多孔質構造が形成されていた。
×:ナノ物質を含有した多孔質構造が形成されていなかった。
【0130】
(4)ナノ物質含有膜の密着度
ナノ物質含有膜の表面を、エタノールを染込ませたキムワイプで50mmの距離を30回往復してふき取り、ふき取り後のナノ物質含有膜の表面抵抗値(密着試験後表面抵抗値)を測定し、初期表面抵抗値からの変化の有無により密着度を評価した。
<評価基準>
○:ふき取りにより、表面抵抗値に変化が無かった。
×:ふき取りにより、表面抵抗値が悪化した。
【0131】
[製造例1]分散剤(d1)の合成
2−アミノアニソール−4−スルホン酸100mmolを4mol/Lのトリエチルアミン水溶液に加え、25℃で撹拌しながら溶解させ、これにパーオキソ二硫酸アンモニウム100mmolの水溶液を滴下した。滴下終了後、25℃で12時間撹拌した後に反応生成物を濾別し、洗浄した後、乾燥し、分散剤(d1)としてポリ(2−スルホ−5−メトキシ−1,4−イミノフェニレン)15gを得た。
【0132】
[調製例1]ナノ物質含有組成物(x1)の調製
(1)メタクリル酸エステル系重合体(a−1−1)溶液の調製
乳化重合により合成した、GPCによる質量平均分子量280,000のポリメタクリル酸メチル3部を、イオン交換水19.4部及びイソプロピルアルコール(以下、「IPA」という)77.6部の混合溶剤中で60℃に加温、撹拌し、溶解させて、メタクリル酸エステル系重合体(a−1−1)の溶液を得た。
(2)ナノ物質(b1)分散液の調製
分散剤(d1)2部をイオン交換水98部に溶解した水溶液に、多層カーボンナノチューブ(ナノシル社製NC−7000)(以下、「MWNT」という)0.4部を室温にて添加して、氷冷下、超音波ホモジナイザー(SONIC社製、vibra cell、20kHz)を用いて1時間処理し、ナノ物質(b1)分散液を得た。
(3)分散剤(d1)水溶液の調製
分散剤(d1)5部をイオン交換水95部中に添加し、溶解させて、分散剤(d1)水溶液を得た。
(4)ナノ物質含有組成物(x1)の調製
上記で作成した、メタクリル酸エステル系重合体(a−1−1)の溶液、ナノ物質(b1)分散液、IPA及びイオン交換水を表1に示す組成で混合し、60℃で30分撹拌した後、室温にて冷却して、IPAとイオン交換水の組成比が70/30の混合溶剤(c1)を含有するナノ物質含有組成物(x1)を得た。
【0133】
【表1】

【0134】
(比較調製例1)ナノ物質含有組成物(x2)の調製
(1)ポリビニルピロリドン溶液の調製
ポリメタクリル酸メチル3部の代わりにポリビニルピロリドン(以下、「PVP」という)(五協産業(株)製、K−15(商品名))3部を使用する以外は調製例1と同様にしてPVPの溶液を得た。
(2)ナノ物質含有組成物(x2)の調製
メタクリル酸エステル系重合体(a−1−1)の溶液の代わりに、上記で作成したPVPの溶液を使用する以外は調製例1と同様にして、IPAとイオン交換水の組成比が70/30の混合溶剤(c1)を含有するナノ物質含有組成物(x2)を得た。
【0135】
[調製例2]成形体(Z1)用原料の調製
乳化重合により合成した、GPCによる質量平均分子量280,000のポリメタクリル酸メチル30部をテトラヒドロフラン70部中で60℃に加温、撹拌し、溶解させて、成形体(Z1)用原料を得た。
【0136】
[調製例3]硬化性単量体組成物(1)の調製
1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(新中村化学工業(株)製、商品名:NKエステル A−HD−N)48部、ペンタエリスリトールトリアクリレート(東亞合成(株)製、商品名:M305)8部、6官能ウレタンアクリレートオリゴマー(新中村化学工業(株)製、商品名:NKオリゴ U6HA)24部及びメタクリル酸メチル20部を混合した後、光重合開始剤(チバスペシャルティケミカルズ製、商品名:イルガキュア184)1.5部を添加、溶解させ、硬化性単量体組成物(1)を得た。
【0137】
[製造例2]転写材1の作製
調製例1で得たナノ物質含有組成物(x1)をポリエチレンテレフタレートフィルム(以下、「PETフィルム」という)(厚さ188μm、幅10cm及び長さ15cm、東洋紡績(株)製)の表面に滴下し、バーコーター法(バーコーター:No.5、想定膜厚:0.1μm)により塗布し、80℃で2分間乾燥して混合溶剤(c1)を揮発させ、フィルム状のナノ物質含有膜(X1)を有する転写材1を作製した。
【0138】
[製造例3]転写材2の作製
製造例2で得られた転写材1と同様の転写材を流水で1分間洗浄して分散剤(d1)を除去した後、80℃で10分間乾燥して混合溶剤(c1)を揮発させ、フィルム状のナノ物質含有膜を有する転写材2を作製した。
【0139】
[比較製造例1]転写材3の作製
比較調製例1で得たナノ物質含有組成物(x2)をPETフィルム(厚さ188μm、幅10cm及び長さ15cm、東洋紡績(株)製)の表面に滴下し、バーコーター法(バーコーター:No.5、想定膜厚:0.1μm)により塗布し、80℃で2分間乾燥させた。得られたフィルムを流水で1分間洗浄して分散剤(d1)を除去した後、80℃で10分間乾燥して混合溶剤(c1)を揮発させ、フィルム状のナノ物質含有膜(X2)を有する転写材3を作製した。
【0140】
[実施例1]
製造例2で得た転写材1のナノ物質含有膜の表面に、調製例2で得た成形体(Z1)用原料5mlを塗布した後に50℃で1時間乾燥させて、転写材1のナノ物質含有膜(X1)の表面に成形体(Z1)としてポリメタクリル酸メチルのキャストフィルムを形成した。
得られた転写材1とポリメタクリル酸メチルのキャストフィルムとの積層体からPETフィルムを剥離した後、水洗により分散剤(d1)を除去し、表面にナノ物質含有膜(X1)を有するナノ物質含有成形体(1)を得た。得られたナノ物質含有成形体(1)についての評価結果を表2に示す。
【0141】
【表2】

【0142】
[実施例2]
製造例3で得た転写材2を使用し、水洗による分散剤(d1)の除去を実施しない以外は実施例1と同様にして表面にナノ物質含有膜(X1)を有するナノ物質含有成形体(2)を得た。得られたナノ物質含有成形体(2)についての評価結果を表2に示す。
【0143】
[実施例3]
ポリメタクリル酸メチルのシート(以下、「アクリルシート」という)(厚さ3mm、幅5cm及び長さ10cm、三菱レイヨン(株)製)の表面に、調製例3で得た硬化性単量体組成物(1)を滴下し、その上に転写材1のナノ物質含有膜(X1)が接触するように配置し、ゴムロームにてしごき、硬化性単量体組成物(1)の厚さを10μmに設定した。次いで、ベルトコンベアー型高圧水銀灯((株)オーク製作所製、紫外線照射装置、製品名:ハンディーUV−1200、QRU−2161型)にて、約1,000mJ/cmの紫外線を照射し、硬化性単量体組成物(1)を硬化させた後に、PETフィルムを剥離し、水洗により分散剤(d1)を除去し、表面にナノ物質含有膜(X1)を有するナノ物質含有成形体(3)を得た。得られたナノ物質含有成形体(3)についての評価結果を表2に示す。
【0144】
[実施例4]
製造例3で得た転写材2を使用し、水洗による分散剤(d1)の除去を実施しない以外は実施例3と同様にして表面にナノ物質含有膜(X1)を有するナノ物質含有成形体(4)を得た。得られたナノ物質含有成形体(4)についての評価結果を表2に示す。
【0145】
[比較例1]
調製例1で得たナノ物質含有組成物(x1)をアクリルシートの表面に滴下し、バーコーター法(バーコーター:No.5、想定膜厚:0.1μm)により塗布し、80℃で2分間乾燥させた。得られたナノ物質含有膜(X1)が積層された積層シートを流水で1分間洗浄し、分散剤(d)を除去した後、80℃で10分間乾燥して、表面にナノ物質含有膜(X1)を有するナノ物質含有成形体(5)を得た。得られたナノ物質含有成形体(5)についての評価結果を表2に示す。
【0146】
[比較例2]
比較製造例1で得た転写材3のナノ物質含有膜(X2)を使用する以外は実施例2と同様にして表面にナノ物質含有膜(X2)を有するナノ物質含有成形体(6)を得た。得られたナノ物質含有成形体(6)についての評価結果を表2に示す。
【0147】
[比較例3]
比較製造例1で得た転写材3のナノ物質含有膜(X2)を使用する以外は実施例3と同様にして表面にナノ物質含有膜(X2)を有するナノ物質含有成形体(7)を得た。得られたナノ物質含有成形体(7)についての評価結果を表2に示す。
【0148】
ナノ物質含有膜の空孔部が充填材で充填されている実施例1〜4では、ナノ物質含有膜の空孔部が充填材で充填されていない比較例1に比べ、成形体との密着度が大きく、ナノ物質含有成形体の初期表面抵抗値は良好であり、ナノ物質含有成形体のヘイズが小さい。
また、空孔部を有するナノ物質含有膜を使用した実施例1〜4では、空孔部を有さないナノ物質含有膜を使用した比較例2及び3に比べ、初期表面抵抗値が良好である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形体(Z)の少なくとも一つの表面に、ナノ物質(b)を含むバインダー成分(a)からなる多孔性の膜(X)が積層された成形体において、多孔性の膜(X)の空孔部が充填材(Y)で充填されているナノ物質含有成形体。
【請求項2】
成形体(Z)の少なくとも一つの表面に、硬化性単量体組成物が硬化した層、及びナノ物質(b)を含むバインダー成分(a)からなる多孔性の膜(X)が順次積層された成形体において、多孔性の膜(X)の空孔部が充填材(Y)で充填されているナノ物質含有成形体。
【請求項3】
バインダー成分(a)がメタクリル酸エステル系重合体(a−1)である請求項1又は2に記載のナノ物質含有成形体。
【請求項4】
転写用基材の表面に、水及びアルコールを含む混合溶剤(c)にバインダー成分(a)としてメタクリル酸エステル系重合体(a−1)が溶解され、ナノ物質(b)が分散されたメタクリル酸エステル系重合体(a−1)の溶液を含むナノ物質含有組成物(x)を塗工した後に、常温で放置又は加熱処理して混合溶剤(c)を揮発させることによって、転写用基材の表面にメタクリル酸エステル系重合体(a−1)及びナノ物質(b)を含有する多孔性のナノ物質含有膜(X)が積層された転写材を製造する転写材製造工程と、ナノ物質含有膜(X)中の空孔部に充填材(Y)として成形体(Z)を構成する化合物と同じ化合物を充填すると共に転写材のナノ物質含有膜(X)の表面に密着して成形体(Z)を形成する空孔部充填及び成形体製造工程と、転写材が積層された成形体(Z)から転写用基材を剥離する転写用基材剥離工程とを含むナノ物質含有成形体の製造方法。
【請求項5】
転写用基材の表面に、水及びアルコールを含む混合溶剤(c)にバインダー成分(a)としてメタクリル酸エステル系重合体(a−1)が溶解され、ナノ物質(b)が分散されたメタクリル酸エステル系重合体(a−1)の溶液を含むナノ物質含有組成物(x)を塗工した後に、常温で放置又は加熱処理して混合溶剤(c)を揮発させることによって、転写用基材の表面にメタクリル酸エステル系重合体(a−1)及びナノ物質(b)を含有する多孔性のナノ物質含有膜(X)が積層された転写材を製造する転写材製造工程と、ナノ物質含有膜(X)中の空孔部に充填材(Y)の原料として硬化性単量体組成物を充填すると共に転写材のナノ物質含有膜(X)の表面に密着して硬化性単量体組成物の塗布層を形成した後に硬化性単量体組成物の塗布層の表面に成形体(Z)を積層する空孔部充填及び成形体積層工程と、硬化性単量体組成物の塗布層を硬化させて硬化性単量体組成物の硬化層を得る硬化層形成工程と、転写材及び硬化性単量体組成物の硬化層が積層された成形体(Z)から転写用基材を剥離する転写用基材剥離工程とを含むナノ物質含有成形体の製造方法。
【請求項6】
ナノ物質含有組成物(x)が、ナノ物質(b)を水及びアルコールを含む混合溶剤(c)に分散することが可能な分散剤(d)を含有するものである請求項4又は5に記載のナノ物質含有成形体の製造方法。
【請求項7】
請求項4又は5に記載のナノ物質含有成形体の製造方法において、転写材製造工程の後又は転写材剥離工程の後にナノ物質含有塗膜(X)を洗浄液(f)で洗浄する洗浄工程を含む製造方法。

【公開番号】特開2011−31591(P2011−31591A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−183124(P2009−183124)
【出願日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】