ナノ物質集積体の製造方法、ナノ物質集積体およびそれを用いたデバイス、ならびにナノ物質の構造解析方法
【課題】ナノ物質の集積体を、低コストで、制御する条件やエネルギーが少ない簡便なプロセスで、かつ再現性よく製造することが可能なナノ物質集積体の製造方法である。
【解決手段】タンパク質、ナノ物質を溶媒中に共存させた状態で結晶化させて、タンパク質の結晶の細孔中にナノ物質を集積化してナノ物質集積体を得るナノ物質集積体の製造方法である。
【解決手段】タンパク質、ナノ物質を溶媒中に共存させた状態で結晶化させて、タンパク質の結晶の細孔中にナノ物質を集積化してナノ物質集積体を得るナノ物質集積体の製造方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ物質集積体の製造方法、ナノ物質集積体およびそれを用いたデバイス、ならびにそのナノ物質集積体を用いたナノ物質の構造解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子等のナノ物質の集積体には、バルク材料ではみられない特性が発現することから、新規デバイスへの期待をもって、微粒子を高次元に配列する研究が従来から盛んに行われている。特に、微粒子の3次元集積体をフォトニック結晶として利用する研究開発が盛んに行われている。フォトニック結晶とは、光の波長と同程度の長さ(格子を形成する微粒子間距離)で屈折率が周期的に変化する物質の内部において、ある特定波長の光が屈折、回折等により存在しなくなるという禁制波長の出現を利用するものであり、このような禁制波長の出現がちょうど半導体結晶における電子遷移禁制帯の形成と類似であることから命名された術語である。
【0003】
微粒子等のナノ物質の集積体を製造することに関する技術としては、例えば、以下に示すようなものが知られている。
(1)微粒子溶液の中にゲル化剤を含ませ、微粒子が3次元規則配列構造をとった後にゲル化させ、微粒子の3次元規則配列構造をマトリックス中に固定する方法(特許文献1参照)。
(2)重力により積み上げていく方法。
(3)液体中で電界の力を利用する方法(非特許文献1参照)。
(4)微粒子表面間の斥力によって規則的な構造を形成していく方法(特許文献2参照)。
(5)特に微粒子表面間の斥力によって微粒子を配列する方法に関し、微粒子間蒸気圧および表面張力を異にする2種以上の液体混合物からなる媒質中に微粒子を分散させ、微粒子分散液を基板表面上に流延し、格子配列した液膜を形成する微粒子薄膜を形成する方法(特許文献3参照)。
(6)微粒子の懸濁液中に基板を浸漬し、これを引き上げて基板上に微粒子単層膜を移流集積する方法。
(7)微粒子溶液を平行な面間の比較的狭い間隙に挿入し、微粒子のブラウン運動の振動数より大きく、振幅が平行な2面間の間隙とほぼ同じになるようにステッピングモータと直線並進装置を利用して制御して、微粒子集積体を得る方法(特許文献4参照)。
(8)微粒子を選択的に配列するため自己組織化単分子膜をテンプレートとして利用する方法。この方法では、基板上に作製した自己組織化単分子膜(SAM:Self assembled monolayer)をテンプレートに用いることにより、SAM表面官能基の親水性、疎水性、化学反応性、ゼータ電位、分子認識現象等を利用し、微粒子の精密配置を実現する(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−226891号公報
【特許文献2】特開平7−116502号公報
【特許文献3】特許第2905712号公報
【特許文献4】特許第2693844号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T.Matsue,N.Matsumoto and I.Uchida,Electrochimica Acta,vol.42,p.3251−3256(1997)
【非特許文献2】増田佳丈,金属,vol.76,p.284−292(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上述べたように、微粒子等のナノ物質の集積体を得るためには、これまでの技術では、非現実的な長時間を必要とし、システムやプロセスが複雑にならざるを得ず、制御すべき条件も多く、再現性や制御性に大きな問題があった。また、フォトニック材料の屈折率、誘電率および磁化率を制御するためには、半導体結晶や遷移金属等のような高屈折率で高誘電率を兼ね備えた物質からなる微粒子や様々な粒径を持つ微粒子への集積化技術の適応が必要とされる。このように、微粒子等のナノ物質の集積化は多くの課題が残されており、その方策の実現が望まれている状況にある。
【0007】
本発明は、ナノ物質の集積体を、低コストで、制御する条件やエネルギーが少ない簡便なプロセスで、かつ再現性よく製造することが可能なナノ物質集積体の製造方法、ナノ物質集積体およびそれを用いたデバイス、ならびにそのナノ物質集積体を用いたナノ物質の構造解析方法である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、タンパク質、ナノ物質を溶媒中に共存させた状態で結晶化させて、前記タンパク質の結晶の細孔中に前記ナノ物質を集積化してナノ物質集積体を得るナノ物質集積体の製造方法である。
【0009】
また、前記ナノ物質集積体の製造方法において、前記溶媒中に、前記タンパク質の溶解度を調整するタンパク質溶解度調整剤をさらに共存させることが好ましい。
【0010】
また、前記ナノ物質集積体の製造方法において、前記ナノ物質が、金属微粒子および生体分子のうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記ナノ物質集積体の製造方法で得られるナノ物質集積体を含む、ナノ物質集積体およびそれを用いたデバイスである。
【0012】
さらに、本発明は、前記ナノ物質集積体の製造方法で得られるナノ物質集積体を用いる、ナノ物質の構造解析方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、ナノ物質の集積体を、低コストで、制御する条件やエネルギーが少ない簡便なプロセスで、かつ再現性よく製造することが可能なナノ物質集積体の製造方法を提供する。
【0014】
また、そのようにして得られたナノ物質集積体を用いることにより、タンパク質とナノ物質との組み合わせによる新規なデバイスの開発にもつながると考えられる。
【0015】
また、そのようにして得られたナノ物質集積体を用いることにより、ナノ物質の新規な構造解析方法が可能になると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH3のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図2】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH4のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図3】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH5のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図4】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH6のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図5】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH7のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図6】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH8のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図7】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH9のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図8】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH11のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図9】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH3のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図10】図9の結晶部分を拡大した図である。
【図11】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH4のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図12】図11の結晶部分を拡大した図である。
【図13】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH5のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図14】図13の結晶部分を拡大した図である。
【図15】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH6のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図16】図15の結晶部分を拡大した図である。
【図17】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH7のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図18】図17の結晶部分を拡大した図である。
【図19】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH8のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図20】図19の結晶部分を拡大した図である。
【図21】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH9のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図22】図21の結晶部分を拡大した図である。
【図23】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH11のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図24】図23の結晶部分を拡大した図である。
【図25】金微粒子の高次元集積化リゾチーム結晶の可視紫外スペクトルを示す図である。矢印は金微粒子の表面プラズモン共鳴の位置を示す。
【図26】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH7のバッファ100mM、銀微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図27】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH8のバッファ100mM、銀微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図28】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH9のバッファ100mM、銀微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図29】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH6のバッファ100mM、白金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図30】図29の結晶部分を拡大した図である。
【図31】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH7のバッファ100mM、白金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図32】図31の結晶部分を拡大した図である。
【図33】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH8のバッファ100mM、白金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図34】図33の結晶部分を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0018】
タンパク質の結晶は無機化合物や有機化合物の結晶とは大きく異なり、その体積の50%以上が水で占められており、タンパク質の構造を保持するのに必要な水分子も多数存在する。本発明者らは、この水で占められている空間(タンパク質の種類にもよるが、通常、1nm〜100nm程度の大きさの細孔)にナノ物質を占有させ、ナノ物質を高次元に集積化してナノ物質集積体を得る方法を開発した。すなわち、本発明の実施形態に係る方法は、タンパク質の結晶をテンプレートとし、自己組織化で結晶の細孔中にナノ物質を取り込ませて、結晶内にナノ物質を高次元に集積化するナノ物質の高次元集積化方法である。
【0019】
本発明の実施形態に係る方法は、ナノ物質の集積体を、簡単な装置で、低コストで、制御する条件やエネルギーが少なく、複雑なものを必要としない簡便なプロセスで、かつ再現性よく製造することが可能な技術である。本方法は、様々な物質よりなるナノ物質や様々な径を持つナノ物質の系に適応可能である。
【0020】
本発明の実施形態に係る方法は、タンパク質、ナノ物質を溶媒中に共存させた状態で結晶化させて、タンパク質の結晶の細孔中にナノ物質を集積化してナノ物質集積体を得るものである。具体的には、例えば、次の手順による。
(1)タンパク質の結晶化条件において安定なナノ物質を調製する。
(2)タンパク質とナノ物質を結晶化条件の環境で共存させる。
(3)タンパク質の結晶をテンプレートとし、自己組織化で結晶の細孔中にナノ物質を取り込ませて、結晶内にナノ物質を高次元に集積化した結晶を成長させる。
【0021】
上記の手順について以下詳細に述べる。
【0022】
(1)タンパク質の結晶化条件において安定なナノ物質を調製する。
後述するように、結晶化溶液にはタンパク質溶解度調整剤等が添加され、高塩濃度になる場合が多い。そこで、高塩濃度の溶液中でも安定して溶解または分散する微粒子や生体分子等のナノ物質を調製することが好ましい。例えば、微粒子の場合は、安定化剤により安定化された安定化微粒子等の安定化ナノ物質が挙げられ、クエン酸安定化微粒子、シュウ酸安定化微粒子等のカルボン酸安定化微粒子、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)安定化微粒子、オレイン酸安定化微粒子等の界面活性剤安定化微粒子、ポリビニルピロリドン(PVP)安定化微粒子、ポリビニルピリジン安定化微粒子等の高分子化合物安定化微粒子等が挙げられる。
【0023】
安定化微粒子等の安定化ナノ物質は、例えば、還元法、レーザーアブレーション法等の方法により得ることができる。
【0024】
本実施形態において用いられるナノ物質とは、ナノオーダのサイズの物質であればよく、特に制限はないが、例えば、ナノサイズの微粒子、生体分子、ソフトマター等が挙げられる。また、ナノサイズとは通常、1nm〜1000nmのものをいう。
【0025】
微粒子としては、金属微粒子、非金属微粒子、高分子微粒子等が挙げられる。タンパク質の結晶化条件において安定なものとするために、上記の通り、微粒子の表面を安定化剤により安定化してもよい。
【0026】
金属微粒子としては、典型金属、遷移金属の微粒子であれば特に制限はないが、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sc、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Hf、Ta、W、Au、Ag、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Re、ランタノイド、アクチノイド等の遷移金属、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi等が挙げられる。遷移金属の中では、Au、Ag、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Mo、W、Ta及びNbであることがより好ましく、Au、Ag及び白金族(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)等の貴金属であることが酸化されにくいこと等の点からさらに好ましく、Au、Ptが特に好ましい。また、GaAs、GaTe、CdSe等の複合金属の微粒子であってもよい。
【0027】
非金属微粒子としては、有機色素、有機顔料等の有機化合物、無機顔料等の無機化合物等の微粒子が挙げられる。
【0028】
高分子微粒子としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ラテックス等の微粒子が挙げられる。
【0029】
ナノ物質としての生体分子としては、例えば、それ自体では結晶化が困難な膜タンパク質、タンパク質、核酸、タンパク質・核酸複合体等が挙げられる。
【0030】
ナノ物質としてのソフトマターとしては、例えば、エマルジョン、ナノゲル等が挙げられる。
【0031】
金属微粒子の製造方法としては、水等の液体中で金属プレート表面をレーザー照射またはマイクロ波照射によりアブレーションするSF−LAS法(Surfactant−free laser ablation in solution)、界面活性剤を添加した水等の液体中で金属プレート表面をレーザー照射またはマイクロ波照射によりアブレーションするSC−LAS法(Surfactant−controlled laser ablation in solution)、化学的に還元する方法、溶液中で放電する方法等が挙げられ、特に制限はない。金属微粒子に界面活性剤等を添加することにより、金属微粒子を安定化させることができ、製造において操作が容易となる等のため、好ましい。
【0032】
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性の界面活性剤を使用することができる。通常は、界面活性剤の溶解度、溶媒中の金属微粒子の安定化力等の点からドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が使用される。
【0033】
微粒子の平均粒径としては、微粒子の結晶化溶液中での高い分散性が望ましい等の点から、1000nm以下であればよいが、1nm〜100nmの範囲であることがより好ましく、5nm〜20nmであることがさらに好ましい。微粒子の平均粒径が1nmより小さいと、操作が煩雑になる可能性がある。なお、微粒子の平均粒径は、例えば、大塚電子製の光散乱測定装置(DLS−7000型)等を用いて測定することができる。
【0034】
(2)タンパク質とナノ物質を結晶化条件の環境で共存させる。
タンパク質の結晶化条件の溶液に上記ナノ粒子を共存させ、結晶化溶液を調製する。タンパク質とナノ物質の存在比、結晶化溶液のpH等を調整することにより、結晶中へのナノ物質の取り込み量等を制御することができる。
【0035】
結晶化して結晶中の細孔を提供するタンパク質としては、例えば、リゾチーム、ウシ血清アルブミン(BSA)、アミラーゼ等が挙げられる。入手しやすい、結晶化しやすい等の点から、リゾチーム、BSAが好ましい。
【0036】
結晶化に使用される溶媒としては、タンパク質を溶解させ、かつナノ物質を溶解またはできるだけ均一に分散させるものであればよく、特に制限はないが、水や一般的な有機溶媒を使用することができる。水としては、特に制限はなく、例えば、水道水、地下水、イオン交換水等の純水、超純水等が挙げられるが、結晶化を促進させるためには不純物が少ない方がよく、通常はイオン交換水等の純水、超純水が用いられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の直鎖飽和炭化水素系溶媒;シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素系溶媒;アセトニトリル等を用いることができる。この中で、適用範囲が広いことから水、アルコール系溶媒が好ましく、水がより好ましい。
【0037】
結晶化溶液中のタンパク質およびナノ物質の濃度は、タンパク質の結晶化のしやすさ、ナノ物質の細孔への取り込まれやすさ、結晶化温度、タンパク質溶解度調整剤等に応じて決めればよく、特に制限はない。結晶化溶液中のタンパク質の濃度は、例えば、0.1mM〜100mMの範囲であり、ナノ物質の濃度は、例えば、1pM〜100mMの範囲である。
【0038】
結晶化溶液のpHは、特に制限はないが、pHを変えることにより、タンパク質結晶の形を変えることができる。それに伴って、ナノ物質が取り込まれる領域も変化する。例えば、細孔を提供するタンパク質としてリゾチームを用いた場合、pHが6以下になると、{110}セクタが大きくなり、pHが7以上になると{101}セクタが大きくなる。このとき、ナノ物質として金属微粒子を用いると、金属微粒子は{101}セクタに取り込まれるため、pHによってナノ物質が取り込まれる領域の大きさが変わることになる。
【0039】
タンパク質を結晶化しやすくするために、結晶化溶液中のタンパク質の溶解度を調整するタンパク質溶解度調整剤をさらに共存させることが好ましい。タンパク質溶解度調整剤としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム等の無機塩、ポリエチレングリコール(PEG)、エタノール等のアルコール類、NP40(polyoxyethylene(9)octylphenylether)等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0040】
結晶化溶液中のタンパク質溶解度調整剤の濃度は、使用するタンパク質の結晶化のしやすさ、結晶化溶液中の濃度、結晶化温度(保温温度)等に応じて決めればよく、特に制限はない。例えば、1mM〜1000mMの範囲である。
【0041】
(3)タンパク質の結晶をテンプレートとし、自己組織化で結晶の細孔中にナノ物質を取り込ませて、結晶内にナノ物質を高次元に集積化した結晶を成長させる。
タンパク質の結晶化の場合、例えば、ハンギング・ドロップ(hanging drop)法やシッティング・ドロップ(sitting drop)法等の蒸気拡散法、バッチ法等を用いることができる。これにより、タンパク質の結晶中において水等で占められている空間(細孔)にナノ物質を占有させて、ナノ物質を結晶中に高次元集積化する。
【0042】
hanging drop法とは、タンパク質およびナノ物質を含んだ結晶化溶液の液滴をカバーガラス等に付着させて吊り下げ、その100倍程度の容量のリザーバ溶液に対して密閉系で蒸気平衡化させる方法である。
【0043】
sitting drop法とは、タンパク質およびナノ物質を含んだ結晶化溶液の液滴をくぼみに静置させ、その100倍程度の容量のリザーバ溶液に対して密閉系で蒸気平衡化させる方法である。
【0044】
リザーバ溶液としては、タンパク質およびナノ物質を除いて結晶化溶液と同じ組成または最終到達目標の組成のものを用いればよい。
【0045】
結晶化の温度は、使用するタンパク質の結晶化のしやすさ、タンパク質およびナノ物質の結晶化溶液中の濃度、タンパク質溶解度調整剤の濃度等に応じて決めればよく、使用するタンパク質およびナノ物質等が分解されない温度であれば特に制限はない。例えば、0℃〜90℃の範囲である。
【0046】
結晶化させるための時間は、使用するタンパク質の結晶化のしやすさ、タンパク質およびナノ物質の結晶化溶液中の濃度、タンパク質溶解度調整剤の濃度等に応じて決めればよく、特に制限はない。例えば、60分〜100時間程度である。
【0047】
本実施形態に係るナノ物質集積体の製造方法で得られるナノ物質集積体は、フォトニック材料としてフォトニックデバイスに用いたり、半導体等のデバイスに用いることができる。
【0048】
後述する実施例において、金、銀、白金の金属微粒子がタンパク質の結晶の細孔中に集積化されたことが示すように、本実施形態に係る方法は、様々な物質からなるナノ物質でも同様のプロセスで集積化できる技術である。また、金、銀、白金それぞれの微粒子集団における粒径のばらつきにもかかわらず微粒子が集積化されたことが示すように、本方法においては、微粒子の集積化に対する粒径の自由度は大きい。そこで、フォトニック材料等の物性制御の際に必要とされる様々な物質からなるナノ物質や様々な大きさを持つナノ物質への集積化技術が本方法によって可能となる。また、本方法によれば、タンパク質の結晶中にナノ物質を集積化するため、微粒子等のナノ物質が密度の高いものであっても、ナノ物質の沈降やナノ物質同士の二次凝集が起こりにくくなり、ナノ物質の分散安定性に優れたナノ物質集積体が得られる。ナノ粒子の原料やその径の許容範囲が大きいことが大きな特徴である。
【0049】
また、従来の集積化技術は、微粒子溶液のゲル化、電界力、微粒子分散液を基板表面上への流延による液膜形成、移流集積法、強制振動による集積化、単分子膜SAMの利用等、特殊な技術や集積を制御するエネルギーを必要とする。本方法の集積化技術は、簡単な装置で、低コストで、制御する条件やエネルギーが少なく、複雑なものを必要としない簡便なプロセスで、かつ再現性よく、3次元のナノ物質の集積体を、製造することが可能な技術であり、ナノ物質と生体高分子との組み合わせによる新しいデバイスの開発にもつながると考えられる。
【0050】
本実施形態に係るナノ物質集積体の製造方法で得られるナノ物質集積体は、ナノ物質の構造解析に用いることができる。
【0051】
微粒子等のナノ物質の構造解析法として、電子顕微鏡を用いたTEM、SEM等が用いられることが多い。しかし、これらの方法では、ナノ物質の構成原子、分子までの情報を得ることは難しい。そこで、例えば、本方法による「タンパク質+ナノ物質」結晶のX線回折の散乱像等を測定すれば、「タンパク質+ナノ物質」回折散乱像より、既知の「タンパク質」からの回折散乱像を差し引けば、未知の「ナノ物質」からの回折散乱像を得ることができ、ナノ物質の構成原子、分子の解像度において、ナノ物質の構造に関する知見を得る新規な解析法が可能になる。すなわち、本方法による「タンパク質+ナノ物質」結晶の任意の分析手法による分析値より、既知の「タンパク質」からの分析値を差し引けば、未知の「ナノ物質」からの分析値を得ることができ、ナノ物質の構造に関する知見を得ることができる。
【0052】
ナノ物質の構造解析に用いることができる分析手法としては、特に制限はないが、X線回折、小角X線散乱、中性子散乱等が挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
<実施例1>
(1)金微粒子、銀微粒子、白金微粒子の調製
結晶化溶液には塩やPEG等のタンパク質溶解度調整剤が添加され、高塩濃度になる場合が多い。そこで、高塩濃度の溶液中でも分散する金属微粒子として、金微粒子の場合について検討した。安定化剤が添加されていない金微粒子、クエン酸安定化金微粒子、SDS安定化金微粒子、PVP安定化金微粒子等の高塩濃度溶液中の分散性を検討した結果、PVP(粘性特性値K:30)で安定化された金微粒子(以下、PVP金微粒子とする。)の分散性がもっとも優れていることがわかった。PVP金微粒子の合成法は、まず0.1mMのHAuCl4の溶液10mLに111mgのPVPを溶解する。これに0.1mMの濃度のNaBH4を0.1mL添加し、12時間、撹拌子で撹拌しながら25℃で放置する。遠心機を用いて金微粒子の沈殿と、純水中への再分散による金微粒子の洗浄とを3回繰り返した。さらにこれを径が0.45μmのフィルタに通して、PVP金微粒子を得た。
【0055】
また同様にして、銀微粒子、白金微粒子を調製した。合成法はHAuCl4の代わりにAgNO3とHPtCl4を用いた以外は、金微粒子の場合と同様の方法によった。
【0056】
(2)リゾチーム単体の結晶化
結晶化させるタンパク質としてリゾチームを用い、下記のリゾチーム単体の結晶化条件の下、pHを変えて、sitting drop法にて結晶成長を行い、その後、結晶の析出状態を立体顕微鏡(倍率100倍)で観察した(図1〜8)。その結果、結晶系は正方晶であり、pHが6以下のときは{001}セクタが大きくなることにより細長い結晶に、pHが7以上のときは{101}セクタが大きくなることにより丸い結晶になることがわかった。
[溶液組成]
pH3,4,5,6,7,8,9,11(50mM)
NaCl(300mM)
0.7mMのリゾチーム
溶媒:イオン交換水
[リザーバ溶液組成]
pH3,4,5,6,7,8,9,11(50mM)
NaCl(300mM)
溶媒:イオン交換水
[保温温度]
4℃
【0057】
(3)リゾチームを用いた金微粒子の高次元集積化
(2)の結果を踏まえ、1.05mMのリゾチームの過飽和溶液にPVP金微粒子を加え、sitting drop法にて下記の条件で保温後、結晶の析出状態を立体顕微鏡で観察した。
[溶液組成]
pH3,4,5,6,7,8,9,11(50mM)
NaCl(300mM)
0.7mMのリゾチーム
溶媒:イオン交換水
[リザーバ溶液組成]
pH3,4,5,6,7,8,9,11(50mM)
NaCl(300mM)
溶媒:イオン交換水
[保温温度]
4℃
【0058】
その結果を図9〜24に示す。どのpHでも金微粒子はリゾチームの結晶に取り込まれた。また、{101}セクタに金微粒子が取り込まれていることがわかった。
【0059】
(4)金微粒子の高次元集積化リゾチーム結晶の可視紫外スペクトルの測定
金微粒子の高次元集積化リゾチーム結晶を金微粒子の入っていないリゾチーム結晶化用母液で2回洗浄し、そのまま光学セルに入れ、可視紫外吸収スペクトルを測定した(図25)。その結果、520nmに金微粒子の表面プラズモン共鳴が観測された。また、表面プラズモン共鳴の赤方偏移は観測されなかったことから、金微粒子はリゾチーム結晶中においても分散した状態で取り込まれていることがわかった。
【0060】
(5)リゾチームを用いた銀微粒子の高次元集積化
(2)の結果を踏まえ、1.05mMのリゾチームの過飽和溶液にPVP銀微粒子を加え、sitting drop法にて下記の条件で保温後、結晶の析出状態を立体顕微鏡で観察した。
[溶液組成]
pH7,8,9(50mM)
NaCl(300mM)
0.7mMのリゾチーム
溶媒:イオン交換水
[リザーバ溶液組成]
pH7,8,9(50mM)
NaCl(300mM)
溶媒:イオン交換水
[保温温度]
4℃
【0061】
その結果を図26〜28に示す。どのpHでも銀微粒子はリゾチームの結晶に取り込まれた。金微粒子の場合と同様に、{101}セクタに銀微粒子が取り込まれていることがわかった。
【0062】
(6)リゾチームを用いた白金微粒子の高次元集積化
(2)の結果を踏まえ、1.05mMのリゾチームの過飽和溶液にPVP白金微粒子を加え、sitting drop法にて下記の条件で保温後、結晶の析出状態を立体顕微鏡で観察した。
[溶液組成]
pH6,7,8(50mM)
NaCl(300mM)
0.7mMのリゾチーム
溶媒:イオン交換水
[リザーバ溶液組成]
pH6,7,8(50mM)
NaCl(300mM)
溶媒:イオン交換水
[保温温度]
4℃
【0063】
その結果を図29〜34に示す。どのpHでも白金微粒子はリゾチームの結晶に取り込まれた。金微粒子の場合と同様に、{101}セクタに白金微粒子が取り込まれていることがわかった。
【0064】
このように、ナノ物質の集積体を、低コストで、制御する条件やエネルギーが少ない簡便なプロセスで、かつ再現性よく製造することができた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ物質集積体の製造方法、ナノ物質集積体およびそれを用いたデバイス、ならびにそのナノ物質集積体を用いたナノ物質の構造解析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微粒子等のナノ物質の集積体には、バルク材料ではみられない特性が発現することから、新規デバイスへの期待をもって、微粒子を高次元に配列する研究が従来から盛んに行われている。特に、微粒子の3次元集積体をフォトニック結晶として利用する研究開発が盛んに行われている。フォトニック結晶とは、光の波長と同程度の長さ(格子を形成する微粒子間距離)で屈折率が周期的に変化する物質の内部において、ある特定波長の光が屈折、回折等により存在しなくなるという禁制波長の出現を利用するものであり、このような禁制波長の出現がちょうど半導体結晶における電子遷移禁制帯の形成と類似であることから命名された術語である。
【0003】
微粒子等のナノ物質の集積体を製造することに関する技術としては、例えば、以下に示すようなものが知られている。
(1)微粒子溶液の中にゲル化剤を含ませ、微粒子が3次元規則配列構造をとった後にゲル化させ、微粒子の3次元規則配列構造をマトリックス中に固定する方法(特許文献1参照)。
(2)重力により積み上げていく方法。
(3)液体中で電界の力を利用する方法(非特許文献1参照)。
(4)微粒子表面間の斥力によって規則的な構造を形成していく方法(特許文献2参照)。
(5)特に微粒子表面間の斥力によって微粒子を配列する方法に関し、微粒子間蒸気圧および表面張力を異にする2種以上の液体混合物からなる媒質中に微粒子を分散させ、微粒子分散液を基板表面上に流延し、格子配列した液膜を形成する微粒子薄膜を形成する方法(特許文献3参照)。
(6)微粒子の懸濁液中に基板を浸漬し、これを引き上げて基板上に微粒子単層膜を移流集積する方法。
(7)微粒子溶液を平行な面間の比較的狭い間隙に挿入し、微粒子のブラウン運動の振動数より大きく、振幅が平行な2面間の間隙とほぼ同じになるようにステッピングモータと直線並進装置を利用して制御して、微粒子集積体を得る方法(特許文献4参照)。
(8)微粒子を選択的に配列するため自己組織化単分子膜をテンプレートとして利用する方法。この方法では、基板上に作製した自己組織化単分子膜(SAM:Self assembled monolayer)をテンプレートに用いることにより、SAM表面官能基の親水性、疎水性、化学反応性、ゼータ電位、分子認識現象等を利用し、微粒子の精密配置を実現する(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−226891号公報
【特許文献2】特開平7−116502号公報
【特許文献3】特許第2905712号公報
【特許文献4】特許第2693844号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T.Matsue,N.Matsumoto and I.Uchida,Electrochimica Acta,vol.42,p.3251−3256(1997)
【非特許文献2】増田佳丈,金属,vol.76,p.284−292(2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上述べたように、微粒子等のナノ物質の集積体を得るためには、これまでの技術では、非現実的な長時間を必要とし、システムやプロセスが複雑にならざるを得ず、制御すべき条件も多く、再現性や制御性に大きな問題があった。また、フォトニック材料の屈折率、誘電率および磁化率を制御するためには、半導体結晶や遷移金属等のような高屈折率で高誘電率を兼ね備えた物質からなる微粒子や様々な粒径を持つ微粒子への集積化技術の適応が必要とされる。このように、微粒子等のナノ物質の集積化は多くの課題が残されており、その方策の実現が望まれている状況にある。
【0007】
本発明は、ナノ物質の集積体を、低コストで、制御する条件やエネルギーが少ない簡便なプロセスで、かつ再現性よく製造することが可能なナノ物質集積体の製造方法、ナノ物質集積体およびそれを用いたデバイス、ならびにそのナノ物質集積体を用いたナノ物質の構造解析方法である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、タンパク質、ナノ物質を溶媒中に共存させた状態で結晶化させて、前記タンパク質の結晶の細孔中に前記ナノ物質を集積化してナノ物質集積体を得るナノ物質集積体の製造方法である。
【0009】
また、前記ナノ物質集積体の製造方法において、前記溶媒中に、前記タンパク質の溶解度を調整するタンパク質溶解度調整剤をさらに共存させることが好ましい。
【0010】
また、前記ナノ物質集積体の製造方法において、前記ナノ物質が、金属微粒子および生体分子のうちの少なくとも1つであることが好ましい。
【0011】
また、本発明は、前記ナノ物質集積体の製造方法で得られるナノ物質集積体を含む、ナノ物質集積体およびそれを用いたデバイスである。
【0012】
さらに、本発明は、前記ナノ物質集積体の製造方法で得られるナノ物質集積体を用いる、ナノ物質の構造解析方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明では、ナノ物質の集積体を、低コストで、制御する条件やエネルギーが少ない簡便なプロセスで、かつ再現性よく製造することが可能なナノ物質集積体の製造方法を提供する。
【0014】
また、そのようにして得られたナノ物質集積体を用いることにより、タンパク質とナノ物質との組み合わせによる新規なデバイスの開発にもつながると考えられる。
【0015】
また、そのようにして得られたナノ物質集積体を用いることにより、ナノ物質の新規な構造解析方法が可能になると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH3のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図2】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH4のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図3】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH5のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図4】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH6のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図5】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH7のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図6】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH8のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図7】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH9のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図8】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH11のバッファ100mMの結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図9】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH3のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図10】図9の結晶部分を拡大した図である。
【図11】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH4のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図12】図11の結晶部分を拡大した図である。
【図13】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH5のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図14】図13の結晶部分を拡大した図である。
【図15】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH6のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図16】図15の結晶部分を拡大した図である。
【図17】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH7のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図18】図17の結晶部分を拡大した図である。
【図19】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH8のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図20】図19の結晶部分を拡大した図である。
【図21】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH9のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図22】図21の結晶部分を拡大した図である。
【図23】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH11のバッファ100mM、金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図24】図23の結晶部分を拡大した図である。
【図25】金微粒子の高次元集積化リゾチーム結晶の可視紫外スペクトルを示す図である。矢印は金微粒子の表面プラズモン共鳴の位置を示す。
【図26】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH7のバッファ100mM、銀微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図27】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH8のバッファ100mM、銀微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図28】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH9のバッファ100mM、銀微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図29】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH6のバッファ100mM、白金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図30】図29の結晶部分を拡大した図である。
【図31】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH7のバッファ100mM、白金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図32】図31の結晶部分を拡大した図である。
【図33】本発明の実施例における、リゾチーム濃度1.05mM、NaCl濃度300mM、pH8のバッファ100mM、白金微粒子を共存させた結晶化溶液を用い、保持温度4℃で得られたリゾチーム結晶の顕微鏡写真を示す図である。
【図34】図33の結晶部分を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0018】
タンパク質の結晶は無機化合物や有機化合物の結晶とは大きく異なり、その体積の50%以上が水で占められており、タンパク質の構造を保持するのに必要な水分子も多数存在する。本発明者らは、この水で占められている空間(タンパク質の種類にもよるが、通常、1nm〜100nm程度の大きさの細孔)にナノ物質を占有させ、ナノ物質を高次元に集積化してナノ物質集積体を得る方法を開発した。すなわち、本発明の実施形態に係る方法は、タンパク質の結晶をテンプレートとし、自己組織化で結晶の細孔中にナノ物質を取り込ませて、結晶内にナノ物質を高次元に集積化するナノ物質の高次元集積化方法である。
【0019】
本発明の実施形態に係る方法は、ナノ物質の集積体を、簡単な装置で、低コストで、制御する条件やエネルギーが少なく、複雑なものを必要としない簡便なプロセスで、かつ再現性よく製造することが可能な技術である。本方法は、様々な物質よりなるナノ物質や様々な径を持つナノ物質の系に適応可能である。
【0020】
本発明の実施形態に係る方法は、タンパク質、ナノ物質を溶媒中に共存させた状態で結晶化させて、タンパク質の結晶の細孔中にナノ物質を集積化してナノ物質集積体を得るものである。具体的には、例えば、次の手順による。
(1)タンパク質の結晶化条件において安定なナノ物質を調製する。
(2)タンパク質とナノ物質を結晶化条件の環境で共存させる。
(3)タンパク質の結晶をテンプレートとし、自己組織化で結晶の細孔中にナノ物質を取り込ませて、結晶内にナノ物質を高次元に集積化した結晶を成長させる。
【0021】
上記の手順について以下詳細に述べる。
【0022】
(1)タンパク質の結晶化条件において安定なナノ物質を調製する。
後述するように、結晶化溶液にはタンパク質溶解度調整剤等が添加され、高塩濃度になる場合が多い。そこで、高塩濃度の溶液中でも安定して溶解または分散する微粒子や生体分子等のナノ物質を調製することが好ましい。例えば、微粒子の場合は、安定化剤により安定化された安定化微粒子等の安定化ナノ物質が挙げられ、クエン酸安定化微粒子、シュウ酸安定化微粒子等のカルボン酸安定化微粒子、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)安定化微粒子、オレイン酸安定化微粒子等の界面活性剤安定化微粒子、ポリビニルピロリドン(PVP)安定化微粒子、ポリビニルピリジン安定化微粒子等の高分子化合物安定化微粒子等が挙げられる。
【0023】
安定化微粒子等の安定化ナノ物質は、例えば、還元法、レーザーアブレーション法等の方法により得ることができる。
【0024】
本実施形態において用いられるナノ物質とは、ナノオーダのサイズの物質であればよく、特に制限はないが、例えば、ナノサイズの微粒子、生体分子、ソフトマター等が挙げられる。また、ナノサイズとは通常、1nm〜1000nmのものをいう。
【0025】
微粒子としては、金属微粒子、非金属微粒子、高分子微粒子等が挙げられる。タンパク質の結晶化条件において安定なものとするために、上記の通り、微粒子の表面を安定化剤により安定化してもよい。
【0026】
金属微粒子としては、典型金属、遷移金属の微粒子であれば特に制限はないが、例えば、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Sc、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Hf、Ta、W、Au、Ag、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Re、ランタノイド、アクチノイド等の遷移金属、Zn、Cd、Hg、Al、Ga、In、Tl、Si、Ge、Sn、Pb、As、Sb、Bi等が挙げられる。遷移金属の中では、Au、Ag、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Cu、Fe、Ni、Co、Cr、Mn、Mo、W、Ta及びNbであることがより好ましく、Au、Ag及び白金族(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt)等の貴金属であることが酸化されにくいこと等の点からさらに好ましく、Au、Ptが特に好ましい。また、GaAs、GaTe、CdSe等の複合金属の微粒子であってもよい。
【0027】
非金属微粒子としては、有機色素、有機顔料等の有機化合物、無機顔料等の無機化合物等の微粒子が挙げられる。
【0028】
高分子微粒子としては、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ラテックス等の微粒子が挙げられる。
【0029】
ナノ物質としての生体分子としては、例えば、それ自体では結晶化が困難な膜タンパク質、タンパク質、核酸、タンパク質・核酸複合体等が挙げられる。
【0030】
ナノ物質としてのソフトマターとしては、例えば、エマルジョン、ナノゲル等が挙げられる。
【0031】
金属微粒子の製造方法としては、水等の液体中で金属プレート表面をレーザー照射またはマイクロ波照射によりアブレーションするSF−LAS法(Surfactant−free laser ablation in solution)、界面活性剤を添加した水等の液体中で金属プレート表面をレーザー照射またはマイクロ波照射によりアブレーションするSC−LAS法(Surfactant−controlled laser ablation in solution)、化学的に還元する方法、溶液中で放電する方法等が挙げられ、特に制限はない。金属微粒子に界面活性剤等を添加することにより、金属微粒子を安定化させることができ、製造において操作が容易となる等のため、好ましい。
【0032】
界面活性剤としては、アニオン系、カチオン系、ノニオン系、両性の界面活性剤を使用することができる。通常は、界面活性剤の溶解度、溶媒中の金属微粒子の安定化力等の点からドデシル硫酸ナトリウム(SDS)が使用される。
【0033】
微粒子の平均粒径としては、微粒子の結晶化溶液中での高い分散性が望ましい等の点から、1000nm以下であればよいが、1nm〜100nmの範囲であることがより好ましく、5nm〜20nmであることがさらに好ましい。微粒子の平均粒径が1nmより小さいと、操作が煩雑になる可能性がある。なお、微粒子の平均粒径は、例えば、大塚電子製の光散乱測定装置(DLS−7000型)等を用いて測定することができる。
【0034】
(2)タンパク質とナノ物質を結晶化条件の環境で共存させる。
タンパク質の結晶化条件の溶液に上記ナノ粒子を共存させ、結晶化溶液を調製する。タンパク質とナノ物質の存在比、結晶化溶液のpH等を調整することにより、結晶中へのナノ物質の取り込み量等を制御することができる。
【0035】
結晶化して結晶中の細孔を提供するタンパク質としては、例えば、リゾチーム、ウシ血清アルブミン(BSA)、アミラーゼ等が挙げられる。入手しやすい、結晶化しやすい等の点から、リゾチーム、BSAが好ましい。
【0036】
結晶化に使用される溶媒としては、タンパク質を溶解させ、かつナノ物質を溶解またはできるだけ均一に分散させるものであればよく、特に制限はないが、水や一般的な有機溶媒を使用することができる。水としては、特に制限はなく、例えば、水道水、地下水、イオン交換水等の純水、超純水等が挙げられるが、結晶化を促進させるためには不純物が少ない方がよく、通常はイオン交換水等の純水、超純水が用いられる。有機溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系溶媒;ベンゼン、トルエン等の芳香族系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒;n−ヘキサン、n−ヘプタン等の直鎖飽和炭化水素系溶媒;シクロヘキサン等の環状飽和炭化水素系溶媒;アセトニトリル等を用いることができる。この中で、適用範囲が広いことから水、アルコール系溶媒が好ましく、水がより好ましい。
【0037】
結晶化溶液中のタンパク質およびナノ物質の濃度は、タンパク質の結晶化のしやすさ、ナノ物質の細孔への取り込まれやすさ、結晶化温度、タンパク質溶解度調整剤等に応じて決めればよく、特に制限はない。結晶化溶液中のタンパク質の濃度は、例えば、0.1mM〜100mMの範囲であり、ナノ物質の濃度は、例えば、1pM〜100mMの範囲である。
【0038】
結晶化溶液のpHは、特に制限はないが、pHを変えることにより、タンパク質結晶の形を変えることができる。それに伴って、ナノ物質が取り込まれる領域も変化する。例えば、細孔を提供するタンパク質としてリゾチームを用いた場合、pHが6以下になると、{110}セクタが大きくなり、pHが7以上になると{101}セクタが大きくなる。このとき、ナノ物質として金属微粒子を用いると、金属微粒子は{101}セクタに取り込まれるため、pHによってナノ物質が取り込まれる領域の大きさが変わることになる。
【0039】
タンパク質を結晶化しやすくするために、結晶化溶液中のタンパク質の溶解度を調整するタンパク質溶解度調整剤をさらに共存させることが好ましい。タンパク質溶解度調整剤としては、例えば、塩化ナトリウム、硫酸アンモニウム等の無機塩、ポリエチレングリコール(PEG)、エタノール等のアルコール類、NP40(polyoxyethylene(9)octylphenylether)等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0040】
結晶化溶液中のタンパク質溶解度調整剤の濃度は、使用するタンパク質の結晶化のしやすさ、結晶化溶液中の濃度、結晶化温度(保温温度)等に応じて決めればよく、特に制限はない。例えば、1mM〜1000mMの範囲である。
【0041】
(3)タンパク質の結晶をテンプレートとし、自己組織化で結晶の細孔中にナノ物質を取り込ませて、結晶内にナノ物質を高次元に集積化した結晶を成長させる。
タンパク質の結晶化の場合、例えば、ハンギング・ドロップ(hanging drop)法やシッティング・ドロップ(sitting drop)法等の蒸気拡散法、バッチ法等を用いることができる。これにより、タンパク質の結晶中において水等で占められている空間(細孔)にナノ物質を占有させて、ナノ物質を結晶中に高次元集積化する。
【0042】
hanging drop法とは、タンパク質およびナノ物質を含んだ結晶化溶液の液滴をカバーガラス等に付着させて吊り下げ、その100倍程度の容量のリザーバ溶液に対して密閉系で蒸気平衡化させる方法である。
【0043】
sitting drop法とは、タンパク質およびナノ物質を含んだ結晶化溶液の液滴をくぼみに静置させ、その100倍程度の容量のリザーバ溶液に対して密閉系で蒸気平衡化させる方法である。
【0044】
リザーバ溶液としては、タンパク質およびナノ物質を除いて結晶化溶液と同じ組成または最終到達目標の組成のものを用いればよい。
【0045】
結晶化の温度は、使用するタンパク質の結晶化のしやすさ、タンパク質およびナノ物質の結晶化溶液中の濃度、タンパク質溶解度調整剤の濃度等に応じて決めればよく、使用するタンパク質およびナノ物質等が分解されない温度であれば特に制限はない。例えば、0℃〜90℃の範囲である。
【0046】
結晶化させるための時間は、使用するタンパク質の結晶化のしやすさ、タンパク質およびナノ物質の結晶化溶液中の濃度、タンパク質溶解度調整剤の濃度等に応じて決めればよく、特に制限はない。例えば、60分〜100時間程度である。
【0047】
本実施形態に係るナノ物質集積体の製造方法で得られるナノ物質集積体は、フォトニック材料としてフォトニックデバイスに用いたり、半導体等のデバイスに用いることができる。
【0048】
後述する実施例において、金、銀、白金の金属微粒子がタンパク質の結晶の細孔中に集積化されたことが示すように、本実施形態に係る方法は、様々な物質からなるナノ物質でも同様のプロセスで集積化できる技術である。また、金、銀、白金それぞれの微粒子集団における粒径のばらつきにもかかわらず微粒子が集積化されたことが示すように、本方法においては、微粒子の集積化に対する粒径の自由度は大きい。そこで、フォトニック材料等の物性制御の際に必要とされる様々な物質からなるナノ物質や様々な大きさを持つナノ物質への集積化技術が本方法によって可能となる。また、本方法によれば、タンパク質の結晶中にナノ物質を集積化するため、微粒子等のナノ物質が密度の高いものであっても、ナノ物質の沈降やナノ物質同士の二次凝集が起こりにくくなり、ナノ物質の分散安定性に優れたナノ物質集積体が得られる。ナノ粒子の原料やその径の許容範囲が大きいことが大きな特徴である。
【0049】
また、従来の集積化技術は、微粒子溶液のゲル化、電界力、微粒子分散液を基板表面上への流延による液膜形成、移流集積法、強制振動による集積化、単分子膜SAMの利用等、特殊な技術や集積を制御するエネルギーを必要とする。本方法の集積化技術は、簡単な装置で、低コストで、制御する条件やエネルギーが少なく、複雑なものを必要としない簡便なプロセスで、かつ再現性よく、3次元のナノ物質の集積体を、製造することが可能な技術であり、ナノ物質と生体高分子との組み合わせによる新しいデバイスの開発にもつながると考えられる。
【0050】
本実施形態に係るナノ物質集積体の製造方法で得られるナノ物質集積体は、ナノ物質の構造解析に用いることができる。
【0051】
微粒子等のナノ物質の構造解析法として、電子顕微鏡を用いたTEM、SEM等が用いられることが多い。しかし、これらの方法では、ナノ物質の構成原子、分子までの情報を得ることは難しい。そこで、例えば、本方法による「タンパク質+ナノ物質」結晶のX線回折の散乱像等を測定すれば、「タンパク質+ナノ物質」回折散乱像より、既知の「タンパク質」からの回折散乱像を差し引けば、未知の「ナノ物質」からの回折散乱像を得ることができ、ナノ物質の構成原子、分子の解像度において、ナノ物質の構造に関する知見を得る新規な解析法が可能になる。すなわち、本方法による「タンパク質+ナノ物質」結晶の任意の分析手法による分析値より、既知の「タンパク質」からの分析値を差し引けば、未知の「ナノ物質」からの分析値を得ることができ、ナノ物質の構造に関する知見を得ることができる。
【0052】
ナノ物質の構造解析に用いることができる分析手法としては、特に制限はないが、X線回折、小角X線散乱、中性子散乱等が挙げられる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0054】
<実施例1>
(1)金微粒子、銀微粒子、白金微粒子の調製
結晶化溶液には塩やPEG等のタンパク質溶解度調整剤が添加され、高塩濃度になる場合が多い。そこで、高塩濃度の溶液中でも分散する金属微粒子として、金微粒子の場合について検討した。安定化剤が添加されていない金微粒子、クエン酸安定化金微粒子、SDS安定化金微粒子、PVP安定化金微粒子等の高塩濃度溶液中の分散性を検討した結果、PVP(粘性特性値K:30)で安定化された金微粒子(以下、PVP金微粒子とする。)の分散性がもっとも優れていることがわかった。PVP金微粒子の合成法は、まず0.1mMのHAuCl4の溶液10mLに111mgのPVPを溶解する。これに0.1mMの濃度のNaBH4を0.1mL添加し、12時間、撹拌子で撹拌しながら25℃で放置する。遠心機を用いて金微粒子の沈殿と、純水中への再分散による金微粒子の洗浄とを3回繰り返した。さらにこれを径が0.45μmのフィルタに通して、PVP金微粒子を得た。
【0055】
また同様にして、銀微粒子、白金微粒子を調製した。合成法はHAuCl4の代わりにAgNO3とHPtCl4を用いた以外は、金微粒子の場合と同様の方法によった。
【0056】
(2)リゾチーム単体の結晶化
結晶化させるタンパク質としてリゾチームを用い、下記のリゾチーム単体の結晶化条件の下、pHを変えて、sitting drop法にて結晶成長を行い、その後、結晶の析出状態を立体顕微鏡(倍率100倍)で観察した(図1〜8)。その結果、結晶系は正方晶であり、pHが6以下のときは{001}セクタが大きくなることにより細長い結晶に、pHが7以上のときは{101}セクタが大きくなることにより丸い結晶になることがわかった。
[溶液組成]
pH3,4,5,6,7,8,9,11(50mM)
NaCl(300mM)
0.7mMのリゾチーム
溶媒:イオン交換水
[リザーバ溶液組成]
pH3,4,5,6,7,8,9,11(50mM)
NaCl(300mM)
溶媒:イオン交換水
[保温温度]
4℃
【0057】
(3)リゾチームを用いた金微粒子の高次元集積化
(2)の結果を踏まえ、1.05mMのリゾチームの過飽和溶液にPVP金微粒子を加え、sitting drop法にて下記の条件で保温後、結晶の析出状態を立体顕微鏡で観察した。
[溶液組成]
pH3,4,5,6,7,8,9,11(50mM)
NaCl(300mM)
0.7mMのリゾチーム
溶媒:イオン交換水
[リザーバ溶液組成]
pH3,4,5,6,7,8,9,11(50mM)
NaCl(300mM)
溶媒:イオン交換水
[保温温度]
4℃
【0058】
その結果を図9〜24に示す。どのpHでも金微粒子はリゾチームの結晶に取り込まれた。また、{101}セクタに金微粒子が取り込まれていることがわかった。
【0059】
(4)金微粒子の高次元集積化リゾチーム結晶の可視紫外スペクトルの測定
金微粒子の高次元集積化リゾチーム結晶を金微粒子の入っていないリゾチーム結晶化用母液で2回洗浄し、そのまま光学セルに入れ、可視紫外吸収スペクトルを測定した(図25)。その結果、520nmに金微粒子の表面プラズモン共鳴が観測された。また、表面プラズモン共鳴の赤方偏移は観測されなかったことから、金微粒子はリゾチーム結晶中においても分散した状態で取り込まれていることがわかった。
【0060】
(5)リゾチームを用いた銀微粒子の高次元集積化
(2)の結果を踏まえ、1.05mMのリゾチームの過飽和溶液にPVP銀微粒子を加え、sitting drop法にて下記の条件で保温後、結晶の析出状態を立体顕微鏡で観察した。
[溶液組成]
pH7,8,9(50mM)
NaCl(300mM)
0.7mMのリゾチーム
溶媒:イオン交換水
[リザーバ溶液組成]
pH7,8,9(50mM)
NaCl(300mM)
溶媒:イオン交換水
[保温温度]
4℃
【0061】
その結果を図26〜28に示す。どのpHでも銀微粒子はリゾチームの結晶に取り込まれた。金微粒子の場合と同様に、{101}セクタに銀微粒子が取り込まれていることがわかった。
【0062】
(6)リゾチームを用いた白金微粒子の高次元集積化
(2)の結果を踏まえ、1.05mMのリゾチームの過飽和溶液にPVP白金微粒子を加え、sitting drop法にて下記の条件で保温後、結晶の析出状態を立体顕微鏡で観察した。
[溶液組成]
pH6,7,8(50mM)
NaCl(300mM)
0.7mMのリゾチーム
溶媒:イオン交換水
[リザーバ溶液組成]
pH6,7,8(50mM)
NaCl(300mM)
溶媒:イオン交換水
[保温温度]
4℃
【0063】
その結果を図29〜34に示す。どのpHでも白金微粒子はリゾチームの結晶に取り込まれた。金微粒子の場合と同様に、{101}セクタに白金微粒子が取り込まれていることがわかった。
【0064】
このように、ナノ物質の集積体を、低コストで、制御する条件やエネルギーが少ない簡便なプロセスで、かつ再現性よく製造することができた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質、ナノ物質を溶媒中に共存させた状態で結晶化させて、前記タンパク質の結晶の細孔中に前記ナノ物質を集積化してナノ物質集積体を得ることを特徴とするナノ物質集積体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ物質集積体の製造方法であって、
前記溶媒中に、前記タンパク質の溶解度を調整するタンパク質溶解度調整剤をさらに共存させることを特徴とするナノ物質集積体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のナノ物質集積体の製造方法であって、
前記ナノ物質が、金属微粒子および生体分子のうちの少なくとも1つであることを特徴とするナノ物質集積体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノ物質集積体の製造方法で得られるナノ物質集積体を含むことを特徴とするナノ物質集積体およびそれを用いたデバイス。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノ物質集積体の製造方法で得られるナノ物質集積体を用いることを特徴とするナノ物質の構造解析方法。
【請求項1】
タンパク質、ナノ物質を溶媒中に共存させた状態で結晶化させて、前記タンパク質の結晶の細孔中に前記ナノ物質を集積化してナノ物質集積体を得ることを特徴とするナノ物質集積体の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のナノ物質集積体の製造方法であって、
前記溶媒中に、前記タンパク質の溶解度を調整するタンパク質溶解度調整剤をさらに共存させることを特徴とするナノ物質集積体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のナノ物質集積体の製造方法であって、
前記ナノ物質が、金属微粒子および生体分子のうちの少なくとも1つであることを特徴とするナノ物質集積体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノ物質集積体の製造方法で得られるナノ物質集積体を含むことを特徴とするナノ物質集積体およびそれを用いたデバイス。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のナノ物質集積体の製造方法で得られるナノ物質集積体を用いることを特徴とするナノ物質の構造解析方法。
【図25】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【公開番号】特開2011−31333(P2011−31333A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−179345(P2009−179345)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(598014814)株式会社コンポン研究所 (24)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(598014814)株式会社コンポン研究所 (24)
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