説明

ナノ粒子の製造方法、ナノ粒子およびナノ粒子製造装置

【課題】エネルギー効率に優れ、ナノ粒子を低コストで製造可能なナノ粒子の製造方法およびその製造方法に好適なナノ粒子製造装置を提供する。
【解決手段】ナノ粒子の原料となる原料ガスおよび非反応性のプラズマ生成ガスの混合ガスをプラズマ生成手段(11)に供給しプラズマジェットを生成する工程と、冷却可能な壁面を備え、圧力調整可能な密封可能なチャンバー(14)の内部を非反応性雰囲気あるいは酸素ガスを含む雰囲気で満たし、プラズマジェットを噴出させ、急冷することによりナノ粒子を生成させる工程とを有することを特徴とするナノ粒子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PVD法を用いた気相法によるナノ粒子の製造方法の改良およびその実施に好適なナノ粒子製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径が数nm〜100nm程度のナノ粒子は、比表面積がきわめて大きいことや量子サイズ効果により、バルク材料とは異なる性質を有する上、近年容易に製造できるようになったことから、様々な分野で工業材料として注目を集めている。ナノ粒子の製造については、目的や材料に応じて様々な方法が開発されているが、そのような方法の一つが、気相中で原料ガスを加熱し、原子やラジカルに解離した原料を下流の低温領域で凝集させることによりナノ粒子を製造する気相法である。原料ガスの加熱にはレーザー照射や熱プラズマが利用されており、粒径の小さなナノ粒子が得られる、適用範囲が広い、製造条件の制御により様々な組成のナノ粒子を製造できる等の利点を有している。
【0003】
気相法によるナノ粒子製造装置としては、反応チャンバー中の原料ガスの経路を横切るように光ビームを照射する光学要素を備えたもの(例えば、特許文献1参照)、外壁にICPコイルが巻き取られ、内部にチューブが挿入される反応器を含むシリコンナノ粒子製造装置(特許文献2参照)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−505233号公報
【特許文献2】特開2010−185854号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、2記載のナノ粒子製造装置では、原料ガスによるレーザー光や高周波電力の吸収率が低いため、エネルギー効率が低く、製造コストの上昇を招くという問題があった。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、エネルギー効率に優れ、ナノ粒子を低コストで製造可能なナノ粒子の製造方法およびその製造方法に好適なナノ粒子製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的に沿う本発明の第1の態様は、ナノ粒子の原料となる原料ガスおよび非反応性のプラズマ生成ガスの混合ガス、または原料ガス、酸素を含むガス、および非反応性のプラズマ生成ガスの混合ガスを用いてプラズマジェットを生成する工程と、冷却可能な壁面を備え、かつ圧力調整が可能なチャンバーの内部を非反応性雰囲気あるいは酸素ガスを含む雰囲気で満たし、前記プラズマジェットを噴出させ、急冷することによりナノ粒子を生成させる工程とを有することを特徴とするナノ粒子の製造方法を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0008】
本発明の第1の態様に係るナノ粒子の製造方法において、前記製造されるナノ粒子が、金属ナノ粒子および金属酸化物ナノ粒子のいずれかであってもよく、さらに、前記金属がケイ素(Si)であってもよい。
【0009】
本発明の第1の態様に係るナノ粒子の製造方法において、Siナノ粒子または酸化ケイ素(SiO)ナノ粒子を製造する場合、前記原料ガスが、SiHCl、SiHClおよびSiClからなる群より選択される1または複数を含んでいることが好ましい。
【0010】
本発明の第1の態様に係るナノ粒子の製造方法において、前記非反応性のプラズマ生成ガスが、ヘリウムおよびアルゴンのいずれかであることが好ましい。
【0011】
本発明の第2の態様は、ナノ粒子の原料となる原料ガスおよび非反応性のプラズマ生成ガスの供給を受けプラズマジェットを生成するプラズマ生成手段と、前記プラズマ生成手段に前記原料ガスを供給する原料供給手段と、前記プラズマ生成手段の下流側に接続され、冷却可能な壁面を備え、かつ圧力調節が可能なチャンバーとを有することを特徴とするナノ粒子製造装置を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0012】
本発明の第3の態様は、本発明の第1の態様に係るナノ粒子の製造方法を用いて製造されたことを特徴とするナノ粒子を提供することにより上記課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明のナノ粒子の製造方法およびナノ粒子製造装置では、原料ガスを含むガス混合物を用いて直接プラズマジェットを生成させるため、プラズマの生成のために投入されるエネルギーの利用効率を向上できる。そのため、ナノ粒子の製造コストを低減できると共に、省エネルギーの観点からも優れている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施の形態に係るナノ粒子製造装置の概略説明図である。
【図2】同ナノ粒子製造装置に用いられるプラズマトーチの概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
図1に示すように、本発明の一実施の形態に係るナノ粒子製造装置10は、ナノ粒子の原料となる原料ガスおよび非反応性のプラズマ生成ガスの供給を受けプラズマジェットを生成するプラズマトーチ(プラズマ生成手段の一例)11と、プラズマトーチ11に原料ガスを供給する原料ガス供給管(原料供給手段の一例)12と、プラズマトーチ11の下流側に接続され、冷却可能な壁面を備えた密封可能なチャンバー15とを有している。
【0016】
プラズマトーチ11の構造の一例を図2に示す。プラズマトーチ11は、原料ガス混合物に高電界強度で直流電圧を印加し、アーク放電によりプラズマジェットを生成するために用いられ、プラズマジェットの進行方向(下流側)に向かって断面の直径が減少するように形成された先端部を有する円筒状の外側電極11aと、外側電極11aの中心の同心軸上に配置された内側電極11bとを有している。外側電極11aの上流側には原料ガス供給管12が接続されており、原料ガスおよびプラズマ生成ガスのガス混合物の供給を受ける。外側電極11aおよび内側電極11bには、直流電源13が接続されており、印加された直流電圧によりアーク放電が起こり、プラズマを生成する。外側電極11には冷却水用のジャケットが形成されており、冷却水を循環させることにより、外側電極11aの加熱を防止している。
【0017】
原料ガスの圧力および流量をモニタするために、原料ガス供給管12には、流量計21および圧力計22が取り付けられている。原料ガスをボンベから供給する場合には、ボンベからの二次圧および流量は、ボンベに取り付けられたレギュレータにより調節可能であるが、図示しないニードルバルブ等の圧力および流量調節手段を別途設けてもよい。
【0018】
チャンバー14の材質、大きさおよび形状については特に制限されず、プラズマトーチ11の大きさ、ナノ粒子の粒径、製造量等に応じて適宜決定される。チャンバー14には、壁面の温度を調節するための図示しない冷却手段が設けられている。冷却手段の具体例としては、外側に設けられた放熱フィンおよび冷却ファン、水冷用ジャケット、ペルチェ素子等が挙げられる。
【0019】
原料ガス供給管12を介してプラズマトーチ11に供給した原料ガスやプラズマ生成ガスに直流電圧を印加し、プラズマジェット16を生成させる。電源13からプラズマトーチ12に印加される直流電圧は、プラズマジェット16を生成させるために必要かつ十分な値となるよう、原料ガスの種類、供給速度、圧力、製造されるナノ粒子の種類、粒径等に応じて適宜調節される。
【0020】
原料ガスとしては、ナノ粒子の構成元素を含み、反応条件下で、より好ましくは常温常圧下でも気体である任意の物質を用いることができる。例えば、シリコン(Si)ナノ粒子の製造においては、シラン(SiH)、ジシラン(Si)、ジクロロシラン(SiHCl)、テトラクロロシラン(SiCl)、トリクロロシラン(SiHCl)等を原料ガスとして用いることができるが、安全性や入手の容易さ等の観点から、ジクロロシラン、テトラクロロシランやトリクロロシランが好ましく用いられる。これらの原料ガスは単独で用いてもよいが、任意の2種類以上のガスを任意の割合で混合して用いてもよい。また、原料ガスとしてハロシラン系の化合物を用いる場合、生成する塩素等のハロゲンをハロゲン化水素としてトラップするためや、生成された微粒子の酸化を防ぐために水素ガス等を混合して用いてもよい。
【0021】
原料ガス以外に、安定したプラズマを生成させるために、アルゴン等のプラズマ生成ガスを同時に供給する。複数種類のガスをプラズマトーチ11に供給する場合、複数の供給管から個別に供給してもよいが、原料ガス供給管12の手前に図示しない混合器を設け、所定の割合(分圧)をなるようあらかじめ混合した混合ガスを原料ガス供給管12からプラズマトーチ11に供給してもよい。
【0022】
複数種類のガスをプラズマトーチ11に供給する場合、複数の供給管から個別に供給してもよいが、原料ガス供給管12の手前に(図示しない)混合器を設け、所定の割合(分圧)をなるようあらかじめ混合した混合ガスを原料ガス供給管15から反応器11に供給してもよい。この場合において、複数のガスのそれぞれについて、流量計、圧力計、および図示しない圧力/流量調節手段を独立して設けてもよい。
【0023】
原料は高温のプラズマジェット16中で加熱および励起され、原子またはラジカル状に解離し、次いでそれらが凝集して、核を形成する。プラズマジェット16に乗ってプラズマトーチ11から、非反応性雰囲気あるいは酸素ガスを含む雰囲気で満たされたチャンバー14に導かれた核を中心として凝集が進行し、所定の粒径、組成を有するナノ粒子17が形成される。
【0024】
このようにして得られたナノ粒子17は、コレクター15上に回収される。ナノ粒子17の粒径、粒径分布等は、プラズマジェット16中での原料の滞留時間や、チャンバー14内の温度勾配、チャンバー中のガス圧等に依存する。原料の滞留時間については、原料ガス供給管12における原料ガスの圧力および流量を調節することにより制御でき、チャンバー14内の温度勾配については、チャンバー14の壁面の温度を制御することにより制御できる。さらに、排気量の制御によりチャンバー中のガス圧を制御できる。このとき、反応器11の器壁をできるだけ冷却(好ましくは、室温〜100℃)しておいた方が、生成された微粒子の付着を低減できて都合がよい。
【0025】
なお、図1に示すように、チャンバー14の下流側に内部圧力やチャンバー14内の気流の速度を制御するための排気管19を設け、真空ポンプ20(図示しない圧力調節手段が設けられている。)を設けることにより、それらを制御することもできる。また、チャンバー14の内部圧力や気流の流速をモニタするための流量計21aおよび圧力計22aが設けられている。なお、ナノ粒子17の排出およびそれによる環境汚染を防ぐため、排気管19にはナノ粒子17をトラップするためのフィルター18を設けることが好ましい。
【0026】
なお、本実施の形態に係るナノ粒子製造装置では、直流電源を用いたアーク放電式プラズマトーチを用いているが、高周波加熱式プラズマトーチを用いてもよい。また、ナノ粒子製造装置は、コレクターとして、図1に示すようなプレート以外に、バグフィルター等の捕集装置を備えていてもよい。また、プラズマトーチ11およびチャンバー14は図1のように必ずしも垂直に配置されている必要はなく、例えば、水平に配置されていてもよい。
【実施例】
【0027】
実施例1:Siナノ粒子の製造
図1に示すような構造を有するナノ粒子製造装置を用い、原料ガスとしてSiCl、非反応性のプラズマ生成ガスとしてArを用い、両者の混合比を1:10(v/v)、供給圧力を4.2kgf/cm(0.4118793MPa)、電源電圧30V、電流200Aの条件で実験を行った。このとき、ナノ粒子製造装置のチャンバー内は、0.8気圧のアルゴン雰囲気とし、製造された微粒子の大きさを制御するため、原料ガス圧を制御できるように真空ポンプとガスフローメーターを設置しておいた。コレクターはプラズマジェットの投影面を全てカバーするように位置および大きさを設定したが、プラズマジェットが直接到達しないように、プラズマトーチの先端から500mm以上の距離を置いて設置しておいた。
【0028】
その結果、平均粒径が55nmのSi微粒子が得られた。
あらかじめチャンバー内の圧力を1.5気圧にしておくと平均粒径が100nmのSi微粒子が得られた。
【0029】
なお、電流を500Aにした場合でも、平均粒径がほぼ同じ52nmの大きさのシリコン微粒子が得られた。
【0030】
さらに、このとき、あらかじめチャンバー内の雰囲気を1気圧の空気にしておくと、生成されるSi微粒子が酸化され、平均粒径がほぼ同じ大きさのシリカ(SiO)微粒子が得られた。
【0031】
実施例2:SiOナノ粒子の製造
プラズマ生成ガスとして用いるArに、酸素を混合し、プラズマ生成時のガス比がSiCl:O:Arを1:1:10(v/v/v)の割合になるように注入し、ナノ粒子製造装置内を0.8気圧の空気雰囲気とした以外は実施例1と同様の条件下で実験を行い、平均粒径が60nmのSiOナノ粒子が製造できることを確認した。
【符号の説明】
【0032】
10 ナノ粒子製造装置
11 プラズマトーチ
11a 外側電極
11b 中心電極
12 原料ガス供給管
13 電源
14 チャンバー
15 コレクター
16 プラズマジェット
17 ナノ粒子
18 フィルター
19 排気管
20 真空ポンプ
21、21a 流量計
22、22a 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ粒子の原料となる原料ガスおよび非反応性のプラズマ生成ガスの混合ガス、または原料ガス、酸素を含むガス、および非反応性のプラズマ生成ガスの混合ガスを用いてプラズマジェットを生成する工程と、
冷却可能な壁面を備え、かつ圧力調整が可能なチャンバーの内部を非反応性雰囲気あるいは酸素ガスを含む雰囲気で満たし、前記プラズマジェットを噴出させ、急冷することによりナノ粒子を生成させる工程とを有することを特徴とするナノ粒子の製造方法。
【請求項2】
前記製造されるナノ粒子が、金属ナノ粒子および金属酸化物ナノ粒子のいずれかであることを特徴とする請求項1記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記金属がケイ素(Si)であることを特徴とする請求項2記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
前記原料ガスが、SiHCl、SiHClおよびSiClからなる群より選択される1または複数を含むことを特徴とする請求項3記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項5】
前記非反応性のプラズマ生成ガスが、ヘリウムまたはアルゴンのいずれかであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載のナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
ナノ粒子の原料となる原料ガスおよび非反応性のプラズマ生成ガスの供給を受けプラズマジェットを生成するプラズマ生成手段と、
前記プラズマ生成手段に前記原料ガスや非反応性のプラズマ生成ガスを供給するガス供給手段と、
前記プラズマ生成手段の下流側に接続され、冷却可能な壁面を備え、かつ圧力調整が可能なチャンバーとを有することを特徴とするナノ粒子製造装置。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項記載のナノ粒子の製造方法を用いて製造されたことを特徴とするナノ粒子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−130826(P2012−130826A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−282491(P2010−282491)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(304028346)国立大学法人 香川大学 (285)
【Fターム(参考)】