説明

ナノ粒子を含む三元熱電材料及びその製造方法

【課題】高い性能指数を有し、高い変換効率を有する熱電デバイスを提供する。
【解決手段】三元主族マトリックス材料とその中に分散された第2族又は第12族金属酸化物のナノ粒子及び/又はナノ包接物とを含む熱電材料。ナノ粒子の存在下で還元金属前駆体と酸化金属前駆体とを反応させることを含む、熱電材料の製造方法。好ましい一実施態様において、三元主族マトリックス材料はそれぞれ、テルル、アンチモン及びビスマスである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、三元主族マトリックス材料とナノ粒子及び/又はナノ包接物を含む熱電材料と、当該熱電材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱勾配から電気エネルギーを得るために熱電材料及びデバイスを利用することができる。現在の熱電材料は、式ZT=Sγ/κ×Tにより定義できる熱電変換効率が限られている。上式のZT、すなわち性能指数は、ゼーベック係数S、電気伝導率γ及び熱伝導率κを含む材料の巨視的な輸送パラメーターに関係する。
【0003】
熱電変換効率を高めるために、ゼーベック係数及び電気伝導率を増加させると同時に熱伝導率を減少させることができる。3つのパラメーターS、γ及びκは相互に関連しているため、ZTを増加させることは困難である。例えば、特定の材料のドーピングによって、電気伝導率が増加する一方でゼーベック係数が減少し、熱伝導率が増加することがある。従って、従来の材料よりも改善されたZTを有する材料が当該技術分野で必要とされている。当該技術分野では、ゼーベック係数及び電気伝導率を増加又は維持すると同時に熱伝導率を低下させることにより熱電変換を増加させることも必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱電コンポジット材料用の熱電ナノ粒子及び材料を製造するためにナノ構造材料を利用できる。しかしながら、かかるナノ構造材料は、製造するのが困難で費用がかかることがあり、また、コンポジット材料を形成するために加工するのが困難なことがある。従来の熱電ナノ構造材料及びそれらの製造方法は高い熱電変換効率を提供することができない。さらに、従来の熱電ナノ粒子の製造方法は、費用効果が高くなく、スケーラブルでなく、従来の熱電ナノ粒子及び熱電コンポジット材料に関する技術的問題を解消する改善された特性を有する熱電コンポジットを生じない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一実施態様において、本発明は、三元マトリックス材料及びナノ粒子包接物(nano-particle inclusions)を含む熱電材料を包含する。ナノ粒子の代表例としては、式MO及び/又はM(ここで、Mは酸化状態2+の第2族又は第12族元素である)により表される物質の粒子が挙げられる。マトリックス材料は三元主族又はカルコゲナイド半導体材料であり、当該三元主族又はカルコゲナイド半導体材料は好ましくは元素Bi、Sb及びTeを含み、好ましくは式(BiSb)Teにより表されるものである。他の例では、半導体マトリックス材料は、テルル化ビスマスとさらなる元素(例えば、電気伝導率の増加をもたらす元素)の合金、あるいはバルクで明らかな熱電効果を示す他の材料であることができる。本発明の例としては、高い変換効率を有する熱電デバイスで使用できる高い性能指数を有する熱電材料が挙げられる。
【0006】
本発明の別の実施態様は、熱電材料の製造方法を包含する。当該方法は、金属前駆体をナノ粒子の存在下で1又は2種以上の他の金属前駆体と混合することを含む。金属前駆体の混合物は、1又は2種以上の還元金属と1又は2種以上の酸化金属を含んでもよい。還元金属と酸化金属の混合によって、ナノ粒子が中に分散している主族金属の三元混合物が形成される。
本発明及び本発明に伴う多くの利点についてのより完全な理解は、以下の詳細な説明を添付の図面と関連して参照することでよりよく理解されることになるから、容易に得られるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】図1には、熱電材料が(BiSb)Teであり、ナノ粒子がZnOである本発明の一実施態様のゼーベック係数及び電気伝導率が記載されている。
【図2】図2には、本発明の一実施態様の熱電材料の熱伝導率が記載されている。
【図3】図3は、本発明の1つの例に従う改良された熱電材料を使用した熱電デバイスの構成を示す。
【図4】図4は、熱電ユニカップルを示す。
【図5A】図5Aは、本発明の実施態様における、熱電材料の形成に関わる合成ステップのフロー図を示す。
【図5B】図5Bは、本発明の実施態様における、熱電材料の形成に関わる合成ステップのフロー図を示す。
【図6】図6は、(BiSb)TeマトリックスとZnOナノ粒子を含む本発明の熱電材料のSEMを示す。
【図7】図7は、(BiSb)TeマトリックスとZnOナノ粒子を含む本発明の熱電材料におけるZnのEDSマッピングを示す。
【図8】図8は、(BiSb)TeマトリックスとZnOナノ粒子を含む本発明の熱電材料におけるOのEDSマッピングを示す。
【図9】図9は、(BiSb)TeマトリックスとZnOナノ粒子を含む本発明の熱電材料におけるBiのEDSマッピングを示す。
【図10】図10は、(BiSb)TeマトリックスとZnOナノ粒子を含む本発明の熱電材料におけるTeのEDSマッピングを示す。
【図11】図11は、(BiSb)TeマトリックスとZnOナノ粒子を含む本発明の熱電材料におけるSbのEDSマッピングを示す。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図面を参照すると、同じ参照番号は、複数の図面にわたって、同一又は対応する部分を指す。
本発明は、三元主族マトリックス材料とナノ粒子及び/又はナノ包接物(nanoinclusions)を含む熱電材料を包含する。ナノ粒子の代表例としては、式MO及び/又はM(ここで、Mは酸化状態2+又は金属形態の第2族又は第12族元素である)により表される物質の粒子が挙げられる。マトリックス材料は三元主族又はカルコゲナイド半導体材料であり、当該三元主族又はカルコゲナイド半導体材料は好ましくは元素Bi、Sb及びTeを含み、好ましくは式(BiSb)Teにより表されるものである。半導体マトリックス材料は、テルル化ビスマスとさらなる元素(例えば、電気伝導率の増加をもたらす元素)の合金、あるいはバルクで明らかな熱電効果を示す他の材料であることができる。熱電材料としては、高い性能指数を有し、高い変換効率を有する熱電デバイスで使用できる材料が挙げられる。
【0009】
本発明は、さらに、熱電材料の製造方法を包含する。当該方法は、1又は2種以上の金属前駆体の還元を、ナノ粒子の存在下で、1又は2種以上の他の金属前駆体により実施することを含む。当該方法は、容易に入手可能で、必要に応じて水に安定な、金属、金属化合物及び反応物を含む水性媒体中で実施することができる。
【0010】
「バルク熱電材料」という用語は、均一なバルク形態で明らかな熱電挙動を示す材料を指す。かかる材料は、熱電材料に含まれることがある。特に断らない限り、用語「熱電材料」は、本発明の一実施態様に従う熱電材料を指すために使用する。かかる熱電材料は代表的なものであり、特許請求の範囲により規定されている本発明の範囲を制限するために使用されるべきでない。
【0011】
「セラミック」という用語は、無機の非金属材料、典型的には電気絶縁体又は半導体、例えば金属元素と非金属元素との間で形成された化合物、例えばアルミニウムと酸素との間で形成された化合物(例えば、アルミナAl)、カルシウムと酸素との間で形成された化合物(例えば酸化カルシウムCaO)などを指す。セラミックとしては、ケイ素と窒素との間で形成された化合物(例えば、窒化ケイ素Si)、ケイ素と酸素との間で形成された化合物(シリカSiO)、ケイ素と炭素との間で形成された化合物(例えば、炭化ケイ素)なども挙げられる。本明細書において、セラミックという用語はガラスを指すこともある。セラミックという用語は、焼成プロセスによって形成された材料に限定されない。セラミックは、例えばシリカ(酸化ケイ素)ベースのマトリックス材料などとして本明細書に記載の様々な例示的な例で使用できる。しかし、他の酸化物、窒化物、酸窒化物、炭化物、ケイ化物、ホウ化物などの他の電気絶縁性又は低熱伝導性材料を使用できることが理解されるべきである。
【0012】
「ナノ粒子」という用語は、1〜200nmの粒径を有する粒子を識別するために使用する。
「ナノ包接物」は、マトリックス材料全体に分散されたナノ粒子である。本発明においては、ナノ包接物は、熱電マトリックス全体に分散されたセラミックナノ粒子を指す。
【0013】
「ドーパント」は、半導体材料の電気的特性を変えるために半導体材料に添加又は混合される材料である。ドーパントとしては、半導体構造に負の電荷を加えるn型ドーパントと半導体構造に正の電荷を加えるp型ドーパントが挙げられる。ドーパントとしては、例えばSbなどの金属、及び金属複合体又はメタ前駆体、例えばアンチモン塩及び有機金属アンチモン塩などが挙げられる。
本明細書において使用する「半導体」という用語は、ドープされた半導体を包含する。三元半導体は、少なくとも3種の主な金属を含み、半導体特性を示すバルク構造を有する材料である。
【0014】
本発明の熱電材料の三元半導体マトリックス材料は、必要とされる所望の動作温度範囲に基づいて選択できる。半導体マトリックス材料としては、テルル化ビスマスアンチモン及びその合金、ビスマス−アンチモン−テルル化合物(ビスマス−アンチモン−テルル合金又はテルル化ビスマスアンチモンと呼ばれることもある)、及び、しばしば金属ドープ三元テルル化物とよばれる他の三元テルル化物が挙げられる。半導体マトリックス材料は、必要に応じて、少量、例えば半導体マトリックス材料の総質量に基づいて50質量%未満の量の、任意の半導体セレン化物又はテルル化物を含んでもよい。
【0015】
本発明の一実施態様において、熱電材料は、別の金属がドープされた三元半導体マトリックス材料を含む。ドーピング金属は、好ましくは電気伝導性金属である。ドーピング金属は、金属の三元混合物の3種の金属のうちの一つとして存在しても、あるいは半導体マトリックス材料の大部分を構成する3種の金属に加えて存在してもよい。
【0016】
ナノ粒子を含む熱電材料は、半導体マトリックス材料のバルク試料の性能指数と比較して改善された熱電性能指数を提供することができる。この向上は、低い熱伝導率、高い電気伝導率及び高いゼーベック係数の組み合わせによるものであろう。
【0017】
熱電材料に関する性能指数Zは、ゼーベック係数(S)、電気伝導率(σ)及び熱伝導率(κ)によりZ=Sσ/γとして定義される。Zは温度によって変化するため、代わりの無次元性能指数はZTである。典型的な均一なバルク熱電材料の場合、例えばテルル化ビスマスとアンチモンとの合金などでは、ZTは1以下である。この性能指数は、S及び/又はσを増加させ、及び/又はκを減少させることによって、改善することができる。しかしながら、均一なバルク材料では、熱伝導率と電気伝導率とはしばしば相関しているため、電気伝導率が増加すると熱伝導率も増加し、これら両方の増加は、性能指数において相殺する傾向がある。
【0018】
特定のコア−シェル粒子の制限された寸法に起因する量子閉じ込め効果は、本発明の熱電材料の性能指数をさらに向上させることができる。本発明に係る熱電材料は、従って、さらに、コア−シェル粒子を含んでもよい。かかるコア−シェル粒子は、例えば、引用によりその内容全体を本明細書に援用する米国特許出願公開第2008/00087314号明細書に記載されている。
【0019】
本発明の熱電材料は、例えばコア−シェル粒子のシェルのような、相互接続している半導体ネットワーク(又は他の電気伝導体、例えば金属など)によって、高い電気伝導率(σ)を有することができる。必要に応じて、熱電材料は、量子閉じ込め効果により生じるフェルミ準位付近の状態密度の増加によって、高い値のゼーベック係数(S)を有することができる。同時に、熱電材料は、例えばマトリックス材料と比べてコア材料の熱伝導率がより低いために、マトリックス材料のバルク均一試料と比較して小さい値の熱伝導度κを有することができる。ナノ粒子及び/又はナノ包接物によるフォノン散乱の増加と、おそらくは例えば材料中に存在する相又は結晶転移などの境界によって、熱伝導率をさらに減少させることができる。そのため、ナノ包接物又は他の包接物を含むナノコンポジット熱電材料は、材料のバルク試料よりも高い性能指数ZTを有することができる。
従来の熱電材料は、典型的には、バルクで1未満の無次元性能指数ZTを有し、任意のかかる材料を、本発明の例において、材料として使用することができる。
【0020】
図1は、三元半導体材料が(BiSb)Teであり、ナノ粒子がZnOである本発明の一実施態様のゼーベック係数及び電気伝導率を示す。図1に記載されている熱電材料は、400℃及び100MPaで4時間の焼結にかけられたものである。図1は150℃を超える温度でゼーベック係数の望ましい低下を示している。同時に、電気伝導率は、温度上昇に伴って下向きの傾向で減少する。本発明の熱電材料はこのように150℃超でゼーベック係数の急激な減少と温度上昇に伴う電気伝導率の減少傾向を示す材料を提供する。
【0021】
図2は、本発明の熱電材料の熱伝導率を示す。図2で説明する三元半導体材料は式(BiSb)Teにより表されるものである。熱電材料中に存在するナノ粒子はZnOである。熱電材料は、析出物を400℃及び100MPaで4時間焼結することにより作製されたものである。図2に示されている本発明の熱電材料の熱伝導率は温度上昇に伴って増加する。
【0022】
一実施態様において、熱電材料は、ナノ粒子の周りに配置された三元半導体マトリックス材料のナノ構造ネットワークを含む。例えば、三元半導体マトリックスはビスマス、テルル及びアンチモンの合金、及び/又はバルクで無次元性能指数
【0023】
【数1】

【0024】
を有する他の材料であることができる。ナノ粒子は、好ましくは、低い値の熱伝導率を有し、例えば、電気絶縁体又は貧電気伝導体であることができる。第2の材料のバルク試料がバルク試料で有用な(あるいは明らかな)熱電効果を示す必要はないという点で、ナノ粒子が熱電材料又は半導体材料である必要はない。
【0025】
例えば、三元半導体マトリックスは、ナノ構造ネットワークであることができる。ナノ構造ネットワークは、ナノワイヤ(例えばナノワイヤを含む相互接続ネットワークで)を含むことができる。相互接続ネットワークは三次元的であることができる。例としては、セラミックマトリックス中に六方晶又は立方晶半導体ナノワイヤ又はナノメッシュのアレイを含むナノ構造バルク熱電材料が挙げられる。
【0026】
ナノ構造体は、ナノメートル(又はナノスケール)の範囲内、例えば約0.5〜1000nm、例えば2〜20nmの範囲内のフィーチャーサイズ(例えば、ナノワイヤ又はナノ粒子の直径など)を有する粒子又は他の構造体を含んでもよい。全ての範囲は、示した上限及び下限を含む。本明細書で使用するメソスケール、メソポア、メソポーラスなどの用語は、5nm〜100nmの範囲内のフィーチャーサイズを有する構造を指す。具体的な空間的構成及び製造方法は、ここで使用される用語メソスケールによって暗示されていない。従って、メソポーラス材料は、5nm〜100nmの範囲内の直径を有する、秩序化した又はランダムに分布していてもよいポアを含むのに対して、ナノポーラス材料は0.5〜1000nmの範囲内の直径を有するポアを含む。
【0027】
ナノ粒子は、好ましくは、式MO(ここで、Mは第2族又は第12族元素(すなわちBe、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Zn、Cd及び/又はHg)である)により表される組成物から製造された粒子である。ナノ粒子は、好ましくは、均質性を有するものであり、及び/又は、必要に応じて組成が異なる材料の外層を含む。
【0028】
本発明の好ましい実施態様において、ナノ粒子は、単峰型の粒度分布を有する。本発明の他の実施態様において、ナノ粒子は、多峰型の粒度分布を有する。ナノ粒子は、そのため、第1の平均粒径を有する第1のナノ粒子と第2の平均粒径を有する第2のナノ粒子を含んでよい。第1の粒子の粒径と第2の粒子の粒径は、0.1〜5倍、0.5〜2.5倍、1〜1.5倍異なっていてもよい。ここで、上記範囲の上限は、より大きい方の粒子の粒径を得るためにより小さい方の粒子の粒径に乗算しなくてはならない乗数を表す。上記範囲の下限は、直径がより小さい方の粒子の粒径を得るために直径がより大きい方の粒子の粒径に乗算される乗数を表す。
【0029】
半導体マトリックス材料中に分散されたたナノ粒子は、さまざまな形態、例えば、形状のものであることができる。一実施態様において、ナノ粒子は、Wadellの式(P=(B1/3(6V2/3)/A)(式中、Vはナノ粒子の体積であり、Aは粒子の表面積である)に従って求められる球状度を有する本質的に球形である。ナノ粒子の球状度は好ましくは0.95〜0.99であり、例えば0.90〜0.99に及んでもよい。ナノ粒子は、例えば、楕円体、四面体、立方体又は他の多面体の形状などの不規則な形状であってもよい。
【0030】
本発明の別の実施態様において、ナノ粒子は、物理的又は化学的処理により表面処理される。物理的処理としては、例えば、平滑化又は粗面化処理が挙げられる。平滑化は、ナノ粒子の表面を処理により平滑化されるように研削粒子の存在下でキャリア流体中のナノ粒子のスラリーを形成することによって行うことができる。かかる処理は、より大きい球状度を有するナノ粒子を生成させるために同様に使用できる。表面処理としては、高強度放電、例えばコロナにより形成される高強度放電又はナノ粒子をプラズマに接触させることによるなどの高強度放電によってナノ粒子を処理することが挙げられる。
【0031】
本発明の他の実施態様において、熱電材料及び/又は半導体マトリックス材料は、ナノ粒子に加えて、1又は2種以上の充填材を含むことができる。充填材の例としては、伝導率を増加させる及び/又は減少させる材料、例えば安定な固体材料、金属、セラミック、カーボン、ポリマー又はそれらの組み合わせなどが挙げられる。充填材としては、空気又はボイド(例えば、空気入り半導体マトリックス、例えば、中空シェル又は複数のボイドを有するフォーム状半導体マトリックス)も挙げられる。
【0032】
本発明の一実施態様に従う1つの例の熱電デバイスは、第1の電気接点、第2の電気接点、第1の電気接点と第2の電気接点との間の電気経路内に位置する熱電材料を含む。熱電材料は、マトリックス材料中に分散ナノ粒子を含む。
【0033】
図3は、本発明の一実施例に従う改善された熱電材料を使用した熱電デバイスの構成を示す。
当該デバイスは、熱源10、第1の電気伝導層12、第1の熱電材料14、第2の熱電材料16、第1の電気接点18、第2の電気接点20、ヒートシンク22、及び電気リード線26を通じて熱電デバイスに接続された抵抗負荷24を含む。熱源(T>T)により熱が与えられた場合、電流は図3に示されている方向に生じる。従って、この熱電デバイスは、熱入力から電気出力を生成するゼーベック熱電デバイスである。
【0034】
この例では、第1の熱電材料はn型半導体を含み、第2の熱電材料はp型半導体を含む。第1の熱電材料及び/又は第2の熱電材料は、例えばMOナノ粒子などのナノ包接物を含む熱電ナノコンポジットを構成する。第1の熱電材料がナノ粒子を含む一例では、半導体マトリックス材料はn型半導体を含むことができ、第2の熱電材料がナノ粒子を含む一例では、半導体マトリックス材料はp型半導体を含むことができる。
【0035】
ペルチェ加熱又は冷却を得るために類似の構成を使用できる。ペルチェ加熱又は冷却では、デバイス中に温度勾配を生成するように第1の電気接点と第2の電気接点の間に電圧が印加される。簡潔さのため、本明細書は、ゼーベック効果(熱入力から電気が得られる)について説明するが、一般的に、例えば性能指数ZTなどの同じ考慮事項は、ペルチェデバイス用途にも同様に適用される。
【0036】
性能指数の改善は、熱電材料を含む熱電デバイスの性能に影響を及ぼすことができる。典型的な熱電デバイスは、典型的には熱伝導性p型(P)半導体と熱伝導性n型(N)半導体の複数の対である幾つかのユニカップルから構築される。これらのユニカップルは、電気的に直列に及び熱的に並列に接続される。理論的には、電気エネルギーへの熱エネルギーの最大変換効率は次式。
【0037】
【数2】

【0038】
(式中、Tave=(T+T)/2は平均温度であり、Zは性能指数であり、Z=Sσ/κと定義される)により与えられる。性能指数Zは、材料の巨視的な輸送パラメーター、すなわちゼーベック係数(S)、電気伝導率(σ)及び熱伝導率(κ)に依存する。大きい性能指数は、大きなゼーベック係数、高い電気伝導率、低い熱伝導率を有する熱電材料により提供される。
【0039】
図4には熱電デバイスが示されている、この場合に、熱電ユニカップルは、熱源と熱連絡するように配置できる第1のセラミック層40、金属層42、それぞれ、44のようなニッケル電気パッド、第1及び第2の電気接点52及び54を有する第1及び第2の熱電材料46及び48、並びにヒートシンクと熱連絡して配置することができる第2のセラミック層56を含む。熱電材料は、各々、半導体マトリックス材料を含み、当該半導体マトリックス材料中に複数のナノ粒子又はナノ包接物が存在し、複数のナノ粒子又はナノ包接物はこの図で概略的に示されているように伝導ネットワークを形成している。
【0040】
図4には、熱電レッグUEを通してホットリザーバUからコールドリザーバUへの熱の伝達についての熱抵抗を含むユニカップルに対応する熱回路66を示す。UE=L/σA(Lはレッグの長さであり、Aは断面積であり、σは熱伝導率である)である。U及びUは、セラミックプレートの熱抵抗と、熱い側からコールドリザーバへの熱伝達係数を含む。
【0041】
本発明の熱電材料の半導体マトリックス材料は、組成に関して実質的に均一である。ナノ粒子は、好ましくは、半導体マトリックス材料中に均一に分散されている。ナノ粒子は、均一に分散された場合に、熱電材料中にナノ粒子及び/又はナノ包接物の外観に関して実質的に均一である熱電材料を形成する。半導体マトリックス材料中のナノ粒子の均一分散は、エネルギー分散型X線分光法(例えば、EDX、EDAX、EDS)により確認することができる。同様に、熱電材料中のZnのコントラスト解像度によって、熱電材料中にナノ粒子の凝集体が存在しないか又は熱電材料中にナノ粒子の凝集体の最小数があることを確認する(図7〜11を参照)。
【0042】
本発明の一実施態様において、熱電材料は、半導体マトリックス材料中にナノ粒子を分散させることにより、及び/又は半導体マトリックス材料中で包接物を変更又は誘発することにより製造される。ナノ粒子は、好ましくは、湿式化学法(例えば材料の水性及び/又は有機溶液又は懸濁液を用いる)を使用して半導体マトリックス材料中に分散される。
【0043】
好ましい一実施態様において、熱電材料の合成は、水性媒体中のみで、有機溶剤及び/又は有機添加剤、例えば界面活性剤及び/又は分散剤などの実質的に非存在下で行われる。
【0044】
本発明の好ましい一実施態様において、還元金属前駆体は、例えばテルル化物などのメタライドは、金属、例えばテルルを、半導体マトリックス材料の任意の他の成分と混合する前に形成される。テルル化物は、負電荷が金属中心上にあるTe金属の複合体である。テルル化物は、金属、例えばテルル金属を還元剤と反応させて中間材料、例えばNaTeBH及び/又はNaTeH(すなわち、水素化テルルナトリウム)などを形成することにより形成することができる。他の実施態様において、テルル金属以外のテルル前駆体を還元剤と反応させてテルル化物を形成することができる。他のテルル前駆体としては、テルルの酸化物、ハロゲン化物、カルコゲナイド、水酸化物及び/又はアルコキシドが挙げられる。本発明の好ましい一実施態様において、アルカリ性水性条件下でテルル金属粉末を還元剤と反応させてテルル化物を形成する。例えば、テルル金属をアルカリ性の媒体、例えば水(塩基、例えばNaOHなどと混合することによりアルカリ性pHに調節)中に懸濁させる。次に、還元剤をテルル金属及び/又はテルル前駆体と混合する。
【0045】
好ましくは、還元剤をテルル金属及び/又はテルル前駆体に加えてテルル化物を形成する。還元剤は、好ましくは水素化ホウ素ナトリウムである。本発明の他の実施態様において、テルル前駆体を、例えばヒドラジン、水素ガス、ハロゲン化リチウムアルミニウム、水素化ホウ素リチウム、水素化ナトリウムなどの任意の還元剤により還元させることによって形成される。テルル化物を形成するための還元は、好ましくは、周囲条件での還元剤による還元又は還元剤との反応を受けにくい水性分散媒体中で実施される。
【0046】
メタライド、例えばテルル化物を、ビスマス及び/又はアンチモン化合物(それぞれ+1以上の酸化状態を有する)の水性分散液又は溶液と混合することが特に好ましい。本発明のこの実施態様において、テルル化物は、ビスマス/アンチモン材料を還元するように作用して、テルルをベースとするビスマス/アンチモン含有半導体マトリックス材料を形成する。この還元は、望ましい熱伝導率と熱電特性を有する堅牢な半導体マトリックス材料を形成するために、「ナノ粒子」の存在下で実施することができる。
【0047】
本発明の特定の実施態様において、テルル金属粉末(又は他の金属粉末)、水、及び例えば水酸化ナトリウムなどのアルカリ剤だけを含有する反応混合物から好ましくは成る水性媒体中にテルル金属粉末を懸濁させる。還元剤、例えば水素化ホウ素ナトリウムなどを、不活性ガス雰囲気下で反応混合物と混合する。得られた懸濁液を周囲温度で混合する。好ましくは、テルル金属懸濁液を、還元剤と混合する前に冷却する。テルル金属粉末に還元剤を混合することにより、発熱反応が起こって、この反応により析出物が形成され、水素ガスが発生する。
【0048】
本発明の最も好ましい一実施態様において、熱電マトリックス材料は、三元半導体マトリックス材料を構成する元素のうちの1又は2種以上を形成するように1又は2種以上の酸化状態の高い前駆体を還元することにより形成される。さらに好ましくは、還元は、半導体マトリックス材料の各成分が還元中に存在するように行われる。最も好ましくは、半導体マトリックス材料の各成分は還元中に存在し、さらに、ナノ粒子が存在する。本発明のこの実施態様において、+1以上の酸化状態を有する金属複合体の還元は単一工程で、例えば単一の反応器内でメタライドと金属複合体の全てを混合することにより実施される。
【0049】
テルル化物の形成とは別に、三元半導体材料のその他の成分の1、2又は複数種の前駆体(例えば+1以上の酸化状態を有する金属の錯体)を含む前駆体混合物を組み合わせてアルカリ性水性媒体中の懸濁液又は溶液を形成することにより、第2及び必要に応じて第3などの前駆体混合物を形成する。前駆体混合物は、好ましくは、三元半導体マトリックスのその他の材料の全ての前駆体を含み、望ましくは、不活性雰囲気で脱気され保存される。好ましくは、前駆体は、アルコキシド及びカルボキシレート化合物、例えばクエン酸ビスマス及び酒石酸アンチモンカリウムなどを含む。前駆体は、半導体マトリックス材料の望ましい組成に対応するモル比で使用できる。好ましくは、前駆体混合物は、ナノ粒子を含み、より好ましくは熱電材料のナノ粒子の全量を前駆体混合物中に含む。
【0050】
前駆体混合物と還元金属混合物(メタライド、例えばテルル化物)との混合は、前駆体の還元、例えば、金属複合体、例えばクエン酸ビスマス及び酒石酸アンチモンカリウム化合物などの還元をもたらす。この還元は、テルル化物、及び、必要に応じて、テルル化物と還元金属混合物中に存在する残留量の還元剤と、ビスマス及びアンチモン前駆体との反応によりもたらされる。副生成物としては、塩及び可溶性有機化合物、例えばクエン酸、酒石酸などが挙げられる。還元金属混合物と前駆体混合物との反応はナノ粒子の存在下で実施される。得られた反応混合物を周囲温度及び/又は約50℃までの高温で反応させる。
【0051】
前駆体混合物を還元金属前駆体と混合する前に、いかなる析出物も及び/又は未反応のテルル金属を分離するために、還元金属前駆体を、望ましくは、濾過し、デカントし、及び/又は洗浄する。
【0052】
第1及び第2の前駆体混合物の還元反応により形成された半導体マトリックス材料は、還元金属による前駆体の還元によって、固体材料として析出する。副生成物、例えばクエン酸、酒石酸及び塩などは、得られた析出物をデカントし、水又はアルカリ性洗浄剤、例えば極性有機物質及び塩基、例えば水酸化アンモニウムなどを含む水性組成物などにより洗浄することによって、反応混合物から除去できる。半導体マトリックス材料は、必要に応じて、沈降及び/又は遠心沈降により上澄み液からさらに分離される。洗浄し、収集し、必要に応じて乾燥させた析出物をさらに精製するために、例えば水性アルコール及び/又はアルカリ水溶液による抽出工程を実施する。好ましくは、抽出及び洗浄は、不活性雰囲気下でソックスレー抽出装置により少なくとも部分的に実施される。
【0053】
本発明の好ましい一実施態様において、第1の還元金属、前駆体混合物及び/又はそれから誘導されたいかなる反応混合物中にも懸濁又は分散剤は存在しない。
【0054】
洗浄され、抽出された半導体材料を、その後、乾燥(例えば乾燥窒素又は不活性ガスの流れの下で、さらに好ましくは超音波処理の作用の下で)させる。望ましい粒径を得るために、得られた自由流動性粉末を篩分けする任意選択的な工程を実施してもよい。好ましくは、篩分けは、50ミクロン、好ましくは35ミクロンの篩いを通過する自由流動性粉末を得るために実施される。
【0055】
得られた篩分けされた材料を、酸素の不在下で、500℃以下、好ましくは450℃、400℃、350℃又は300℃以下の温度で焼結させる。焼結は、半導体マトリックス材料に化学的及び/又は物理的変化を引き起こすことができ、それにより、構造がアニールされ及び/又は結晶構造の配向若しくは再配向が起こる。焼結前に粉末を所望の形にプレスすることができる。
【0056】
得られた焼結された材料は、金属物体の外観を有し、表面酸化を受けるものの空気中で安定である。1,000〜200,000S/mの電気伝導率を有する光沢がある脆い金属様材料が得られる。
【0057】
図5A及び図5Bは、本発明の熱電材料の製造方法の高レベルフロー図を示す。本発明の方法を、本発明の一実施態様において熱電材料の形成に関わる合成ステップのフロー図を示す図5Aを参照して説明する。図5Aにおいて、還元も酸化もされていない元素状金属はMとして記されている。還元された金属及び酸化された金属はそれぞれM及びMとして表されている。還元金属及び酸化金属は、それぞれ−1、−2、−3、−4及び+1、+2、+3、+4である酸化状態を有することができる。
【0058】
図5A及び図5Bのフローチャートは、ナノ粒子を含む三元カルコゲナイド半導体マトリックス材料に基づく熱電材料の合成を示す。三元半導体マトリックス材料は、少なくとも3種の元素、すなわち、M、M及びMを含むとして記載されている。本発明の好ましい一実施態様において、金属M、MとMの各々は、周期表の第13、14、15及び/又は16族の主族金属である。本発明の特に好ましい一実施態様において、金属M、M及びMは、それぞれ、テルル、アンチモン及びビスマスである。本発明の他の実施態様において、本発明の熱電材料を製造するために使用される工程は、図5及び6中のフロー図で示されている工程のいずれかにおいて、金属M、M及びMとともに、例えばアルカリ土類金属及び遷移金属などのさらなる金属を含む場合がある。
【0059】
一実施態様において、第1の金属Mを還元して還元金属組成物を形成する。本発明の一実施態様において、金属Mは、水性分散媒中に懸濁される。水性分散媒は、好ましくは、水と、例えばNaOHなどのアルカリ剤のみを含み、有機溶剤、界面活性剤及び/又は分散剤を含まないアルカリ性水性マトリックスである。金属Mは、少量の対応する酸化された相当物を含むことがある。例えば、金属Mは、表面酸化層を有していても良い金属粉末、すなわち金属粒子の形態で使用できる。かかる金属粉末は、それにも関わらずMと記載される。なぜなら、金属粉末は、その本来の元素状の未酸化及び/又は未還元形態にある(例えば金属原子の大部分がゼロの酸化状態を有する金属状態にある)金属から主に構成されるからである。好ましくは、金属Mの少なくとも80モル%、90モル%又は95モル%は、水性アルカリ性分散媒中に懸濁された場合に、その金属状の酸化されていない及び/又は還元されていない状態にある。アルカリ性分散媒中への金属Mの分散は、好ましくは、M金属と水又はアルカリ剤との間の反応をもたらさない。好ましくは、分散は、還元及び/又は分散の間に酸素が存在しないような不活性雰囲気下で実施される。
【0060】
後の工程において、還元剤をM水性分散液と混合する。還元剤は、M金属の全部を、全体的に負電荷、すなわち、Mに還元するのに十分な量で混合される。本発明の文脈において、還元金属Mは、複合体、例えばHMX(式中、Xは対イオン、例えばNaなどである)などの形態で存在し得る金属である。金属粉末を還元剤と混合することによって形成された生成物は、図5A及び図5BにおいてMと示されている還元金属粉末である。こうして形成された還元金属組成物は、好ましくは、還元工程の間に形成されたいかなる析出物Mからも還元金属を分離するために上澄み液のデカンテーションによりいかなる析出物からも単離される。上記のように、M金属の還元は、好ましくは、アルカリ性分散媒中で実施される。
【0061】
還元金属Mは、必要に応じて、ナノ粒子と混合される。金属Mが完全に還元された形態になり、いかなる析出物からも濾過して取り出された後に、還元金属Mにナノ粒子を加えるか又はナノ粒子を還元金属Mと混合してもよい。代わりに、ナノ粒子は、還元剤の添加前にMの分散液中に存在してもよく、あるいは、ナノ粒子は、M金属の分散液に還元剤と同時に加えられてもよい。好ましくは、ナノ粒子は、還元金属及び還元剤がナノ粒子を還元しない条件下でのみ、還元金属と混合される。ナノ粒子は、本明細書に記載のナノ粒子材料のいずれであってもよい。本発明の一実施態様において、ナノ粒子は、アルカリ性又はわずかにアルカリ性である水性分散液の形態でM分散液に加えられる。
【0062】
熱電材料の製造方法のさらなる工程において、還元金属Mと必要に応じてナノ粒子を含む分散液は、三元半導体マトリックス材料を形成する金属を含み、好ましくはナノ粒子を含む、その他の金属又は化合物のうちの1又は2種以上の分散液と混合される。還元型M分散体は、金属M及び/又はMに独立に加えられてもよい。本発明の好ましい一実施態様において、M及びMが+1以上の酸化状態を有する化合物として存在する金属M及びMの両方の水性分散体を含む混合物に還元金属Mが加えられる。図5A及び図5Bに記載されている本発明の好ましい一実施態様において、金属M及びMはそれぞれ酸化形、すなわち、M及びMである。還元金属分散体Mを、M及びMの両方を含む単一の水性分散体に好ましくは加えることができる。好ましくは、金属M及びMの全金属が酸化状態で存在する。Mとして示される酸化状態において、コア金属は+1、+2、+3又は+4の酸化状態にあるか、又は前記酸化状態の混合体であることができる。還元金属Mは、所望の三元半導体マトリックス材料の化学量論に対応するモル量で、M及びMの水性分散体に加えられる。例えば、所望の半導体マトリックス材料が式(M(Mにより表されるものである場合には、3モル当量のMが金属M及びMの各2モル当量と独立又は同時に混合される。
【0063】
金属M及びMは、M及びMと比べて同一であっても又は異なっていてもよい配位子(L)の錯体である。配位子は、金属M及び/又はMに共有結合又はイオン結合することができる。本発明の別の実施態様において、配位子Lは、共有結合及び/又はイオン結合し、さらにルイス酸/塩基錯体中で供与結合としてM及び/又はMの金属中心に配位する。
【0064】
好ましくは、M及びM金属を含む前駆体組成物のうちの一方又は全てがナノ粒子を含む。本発明の別の実施態様において、ナノ粒子は、LM及び/又はLM金属錯体との反応前にメタライドと混合される。
【0065】
ナノ粒子の存在下で酸化金属M及びMを還元金属Mと混合することで、ナノ粒子が中に分散している析出した三元半導体マトリックスが形成される。この形態では、三元半導体マトリックスは、アルカリ性であり、かつ、還元金属Mによる金属M及び/又はMの還元の副生成物を含む水性媒体中に懸濁されている。副生成物は、析出物を、例えば遠心分離により、溶液から沈降させ、上澄み液をデカントすることにより除去される。このように形成された析出物を、水、アルカリ性媒体及び/又は極性有機溶剤でさらに洗浄する。このように形成された熱電材料の洗浄及び単離は、金属M、M及び/又はMのいずれのいかなる再酸化も避けるために、不活性雰囲気中で実施される。
【0066】
還元により形成された析出物は、一般的に、微粉末状である。この粉末は、しかし、均一な粒径を有するものでないことがある。析出物を、例えば、不活性ガス流にさらすことにより周囲温度で、真空下で、及び/又は加熱によって、乾燥させる。乾燥した析出物を、次に、好ましくは、大きな及び/又は凝集した析出した材料を析出物の微粉末から分離する篩分け工程にかける。このように篩分けされた析出物を、次に、プレス成形し、高温で焼結して、熱電材料を形成する。
【0067】
金属Mを還元する工程、水性媒体中に金属M及び/又はMを懸濁させる工程、並びに酸化金属M及びMを金属Mの還元形により還元する工程は、好ましくは、有機溶剤及び/又は界面活性剤の実質的に不存在下で、水性アルカリ性媒体中で行われる。これらの工程は、金属M、M及びMのいずれも周囲の酸素により酸化されないように、不活性雰囲気の下で好ましくは実施される。
【実施例】
【0068】
実施例1:無酸素環境中で、5.9054gのTe粉末を103mLの水中で6.3151gの水素化ホウ素ナトリウムと15時間反応させた。
再び、無酸素環境中で、6.5mLの水と5.5mLの28%水酸化アンモニウム中に溶解された9.0153gの酒石酸アンチモンカリウム及び1.5395gのクエン酸ビスマスの溶液を480mLの水に加えた。酸化亜鉛ナノ粒子の水溶液を添加しながら反応溶液を激しく撹拌した。
反応溶液をフリットガラスフィルター(まだ無酸素)に通して濾過し、激しく撹拌されているアンチモン/ビスマス/酸化亜鉛溶液中に入れた。溶液をさらに20分間撹拌し、常に無酸素環境下に保った。溶液を、即座に遠心分離して固体析出物を単離するか、あるいは、沈降、デカント、次いで遠心分離して固体析出物を単離した。この析出物を、副生成物が除去されるまで、水、メタノール及び水酸化アンモニウムの溶液により洗浄した。
次に、析出物をメタノールで洗浄し、超音波処理にかけながら不活性ガス流下で乾燥させた。この乾燥粉末を、真空下で、100℃で15分間、200℃で20分間、最後に300℃で20分間加熱した。得られた粉末を、次に、385〜450℃の温度で、100MPaで1〜10時間のいずれかでホットプレス焼結させて熱電材料を形成した。
【0069】
図6は、本発明の熱電材料の走査型電子顕微鏡像を示す。図7〜11は、ZnOナノ粒子を含む式(BiSb)Teの本発明の熱電材料のSEM−EDS(走査型電子顕微鏡エネルギー分散型X線分光法)プロファイルを示す。SEM−EDSプロファイルは、マトリックス材料(すなわち、Bi、Sb及びTe)とナノ粒子を構成する原子(すなわち、Zn及びO)の両方の原子が熱電材料中に均一に分散されていることを示している。
【0070】
明らかに、本発明の多くの改良及び変更が上記の教示に照らして可能である。従って、添付の特許請求の範囲内で、本明細書で具体的に記載したもの以外に本発明を実施できることが理解されるべきである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
三元主族半導体材料、及び
式MO(ここで、Mは第2族元素及び第12族元素からなる群から選ばれる少なくとも1種の元素である)により表される金属酸化物のナノ粒子、
を含み、前記ナノ粒子が三元主族半導体材料のマトリックス中に分散されている、熱電組成物。
【請求項2】
前記半導体材料が、Bi、Te及びSbを含む、請求項1に記載の熱電組成物。
【請求項3】
前記半導体材料が(BiSb)Teを含む、請求項1に記載の熱電組成物。
【請求項4】
前記半導体材料が、当該半導体材料の総質量に基づいて少なくとも50質量%の量の(BiSb)Teを含む、請求項1に記載の熱電組成物。
【請求項5】
前記半導体材料が(BiSb)Teを含み、ナノ粒子がZnOナノ粒子である、請求項1に記載の熱電組成物。
【請求項6】
前記半導体材料が、当該半導体材料の総質量に基づいて少なくとも50質量%の量の(BiSb)Teを含み、前記ナノ粒子の総質量に基づいて前記ナノ粒子の少なくとも50質量%がZnOの粒子である、請求項1に記載の熱電組成物。
【請求項7】
還元化合物の形態にある少なくとも1種の金属を酸化化合物の形態にある少なくとも1種の金属と混合することを含み、
前記混合が、主族金属の少なくとも3種の異なる金属化合物を混合することを含み、
前記混合が、式MO(ここで、Mは周期表の第2族又は第12族元素である)により表される物質のナノ粒子の存在下で水中で実施される、熱電材料の製造方法。
【請求項8】
前記混合前に、金属粉末の形態にある金属を1又は2種以上の還元剤と水中で反応させることにより少なくとも1種の還元金属化合物を形成することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記混合により形成された析出物を、水溶液及び有機溶液からなる群から選ばれる少なくとも1つにより洗浄することをさらに含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
洗浄された析出物を乾燥させ、次に、
当該洗浄された析出物をプレス成形し、
洗浄されプレス成形された析出物を焼結して、ナノ粒子を含む焼結三元熱電材料を形成すること、
をさらに含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
還元金属化合物が、テルル金属を水性アルカリ性媒体中で水素化ホウ素ナトリウムと反応させることにより形成される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
2種の異なる酸化金属化合物を含む水性組成物を還元金属化合物と混合することを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記酸化金属化合物は、ハロゲン化物、アルコキシド、カルボン酸塩またはそれらの混合物のうちの少なくとも一つの形態である、請求項12に記載の方法。

【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図1】
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【図2】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−256863(P2012−256863A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−101009(P2012−101009)
【出願日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【出願人】(507342261)トヨタ モーター エンジニアリング アンド マニュファクチャリング ノース アメリカ,インコーポレイティド (135)
【Fターム(参考)】