説明

ナノ粒子を担持した触媒を用いたグリセリン酸及びタルトロン酸の製造方法

【課題】 ターンオーバーフリークエンシー、選択性、及び収量の点で優れた触媒、及び該触媒を用いた、グリセリンの液相酸化反応によるグリセリン酸及びタルトロン酸を製造する方法を提供する。
【解決手段】 酸素を酸化剤としてグリセリンの液相酸化反応によりタルトロン酸及びグリセリン酸を製造方法において、担体として二酸化チタンを用い、これに金とパラジウムの2成分からなるナノ粒子を担持させた触媒を用いるものであって、特に、塩化金酸水溶液と塩化パラジウムの塩酸溶液の混合溶液に、pH値が弱酸性または中性になるようにアルカリ金属塩を混合して中和処理を行い、中和処理後に酸化チタンを分散することにより金属錯体を酸化チタンの表面上に電気的親和力により吸着させた触媒を用いるのが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン担体上へ金とパラジウムの2成分からなるナノ粒子を担持した触媒を用いた、グリセリンの液相酸化反応によるグリセリン酸及びタルトロン酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グリセリンは、化学式Cであらわされる有機化合物であり、石鹸を製造する際などに油脂類とアルカリ剤の反応によりに副生する。近年は地球温暖化の緩和策の一つとして導入が促進されているカーボンニュートラルなバイオディーゼル燃料の製造の際にも大量に副生成物として製造されるので、その有効利用方法が課題となっている。
グリセリンは保湿効果を持つので、そのまま化粧品類などの成分の一つとして利用することも可能であるが、上記のバイオディーゼル燃料のように大量に余剰資源として生成してくる場合においては、化学的変換による有効利用方法の開発が必須である。
【0003】
現在グリセリンを化学的に変換して有効利用するための有力な方法は、次の5つにまとめることができる。
(1)燃焼して熱エネルギー源としての利用、(2)分解ガス化して水素の製造や燃料電池等で利用、(3)水素と反応させてOH基を還元してプロパンジオール等を製造して利用、(4)脱水反応で分子内の脱水を行い、アクロレイン等を製造して有効利用、(5)酸素に代表される酸化剤と反応させOH基を酸化し、カルボン酸類、ケトン類、アルデヒド類を製造する方法、などがよく知られて、盛んに研究開発が行われている。
【0004】
本発明は、上記の(5)の、グリセリンを酸化剤と反応させてOH基を酸化することにより、グリセリン酸、タルトロン酸に代表される酸化生成物を得る方法に関するものである。生成物であるグリセリン酸は、用途として、化粧品、メッキ浴、防蝕剤、生分解性樹脂、セリン合成原料、脱臭剤、インクジェット用インクなどの用途が期待されている高付加価値生成物である。タルトロン酸は、洗剤用ビルダー、中和剤、ポリマー原料、角質溶解化粧料、メソキサル酸合成中間体、酸素補足剤、試薬等の用途が期待されている高付加価値生成物である。また、キュウリに含まれているタルトロン酸は、炭水化物が体内で脂肪に変わるのを抑制する作用があるのでダイエットに効果があるといわれている。
【0005】
グリセリンのOH基の酸化により、グリセリン酸及び/又はタルトロン酸を製造する方法については種々の報告がされている。
例えば、特許文献1においては、グリセリン、グリセリン酸又はグリセリン酸塩を所定の触媒組成物の存在下に酸化剤により接触酸化するタルトロン酸塩の製造方法に関し、パラジウムを触媒第1成分とし、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、セレン及びテルルからなる群より選ばれる一種以上の元素を触媒第2成分とし、白金及び希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の元素を触媒第3成分とし、触媒第1成分及び触媒第2成分、触媒第1成分及び触媒第3成分、触媒第1成分、触媒第2成分及び触媒第3成分、又は触媒第1成分単独のいずれかを、活性炭、カーボンブラック、炭酸カルシウム又はシリカからなる担体に担持した触媒が効果的であるとされている。
【0006】
特許文献2においては、グリセリン又はグリセリン酸をpH6.9以下で酸化剤により接触酸化するタルトロン酸の製造方法に関し、白金を触媒第1成分とし、スズ、鉛、アンチモン、ビスマス、セレン及びテルルからなる群より選ばれる一種以上の元素を触媒第2成分とし、希土類元素からなる群より選ばれる一種以上の元素を触媒第3成分とし、触媒第1成分及び触媒第2成分、触媒第1成分及び触媒第3成分、触媒第1成分、触媒第2成分及び触媒第3成分、又は触媒第1成分単独のいずれかを、活性炭、カーボンブラック、アルミナ又はシリカからなる担体に担持してなる担持触媒が効果的であるとされている。
【0007】
非特許文献1、2においては、パウダー状および粒状のチャコールを担体としてプラチナ(Pt)とビスマス(Bi)を触媒活性成分として担持して調製した触媒を用いて、酸素を酸化剤として用いるグリセリンの酸化反応を、流通法およびバッチ法で行い、ジヒドロキシアセトンを主生成物として製造する方法が効果的であるとされている。
【0008】
非特許文献3においては、金、プラチナ、パラジウムを活性金属として複合的に組み合わせて炭素担体に担持して用いることにより、グリセリン酸とタルトロン酸を合わせた収率、選択率を高めたと報告している。反応条件はグリセリンのモル数の500分の1モル数の金属原子となるように触媒量を決めて、反応を開始し、反応温度摂氏50度または摂氏30度で実施しており、ターンオーバーフリークエンシー(触媒金属原子基準の触媒回転速度、TOF)は1時間に一原子当たり約1000〜1800回、グリセリン酸とタルトロン酸を合わせた選択率約70〜97%の結果を得ている。
【0009】
非特許文献4においては、炭素担体に担持された金、パラジウムの複合触媒について検討が行われ、グリセリン転化率が50%の段階でのグリセリン酸への選択率が80〜84%であると示されている。その際の担持されている貴金属全量を基準として計算されたターンオーバーフリークエンシーは1秒間に一原子あたり0.6〜1.6回(1時間に換算して、2160〜5760回)であるとされている。
【0010】
非特許文献5においては、カーボンブラックや活性炭を担体として、活性金属成分として金(Au)やプラチナ(Pt)を担持した触媒が示され、反応温度摂氏60度にて反応を行い、原料であるグリセリンの転化率が50%到達時点でのグリセリン酸の選択率が33〜53%、ジヒドロキシアセトンの選択率が15〜27%という反応結果を得ている。
【0011】
非特許文献6においては、チタニア上に金のみで構成されるナノ粒子を担持した基本構造を持つ各種調製手法により調製された触媒を用いてのグリセリンの酸化について述べられ、反応条件や触媒を選ぶことにより、原料グリセリンの転化率が最大で約100%、グリセリン酸とタルトロン酸を合わせた選択率が最大85%程度になることが示されている。金属原子あたりのターンオーバーフリークエンシーは最大1時間当たり1090回とされている。
【0012】
非特許文献7においては、析出沈殿法を用いて金のナノ粒子触媒を製造する際に塩化金酸を溶解した水溶液を水酸化ナトリウム溶液で中和してpH値を調節し、そのpH値の影響について調べた結果が述べられており、pH10以上のアルカリ性条件では効果的に金のナノ粒子触媒の製造を行うことが難しいことが明らかにされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平6−279352号公報
【特許文献2】特開平8−151345号公報
【特許文献3】特開2004−181357号公報
【特許文献4】特開2005−330225号公報
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Applied Catalysis A:General, Volume 105,Issue 2,15 November 1993,Pages 147-158
【非特許文献2】Applied Catalysis A:General Volume 96,Issue 2,26 March 1993,Pages 217-228
【非特許文献3】Catalysis Today102-103 (2005)203-212
【非特許文献4】Journal of Catalysis 250 (2007)264-273
【非特許文献5】Applied Catalysis B: Environmental 70(2007)637-643
【非特許文献6】Applied Catalysis A:General 311(2006)185-192
【非特許文献7】坪田年 博士論文 (1998年、京都大学)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述の特許文献1、2及び非特許文献1〜5に示されているとおり、グリセリンの液相酸化反応により、グリセリン酸及び/又はタルトロン酸を製造する方法において用いられる触媒は、炭素系の担体を用いて、これに、白金、パラジウム或いは金などの貴金属を単独又は組み合わせて担持させたものが主であるが、そのターンオーバーフリークエンシーは充分とはいえず、例えば、非特許文献4に記載の金とパラジウムを担持させた複合触媒を用いた場合でも、触媒に含有される活性金属原子あたりのターンオーバーフリークエンシーは、最大1秒あたり1.6回(一時間あたりに換算すると5760回)であるとされている。
なお、触媒のターンオーバーフリークエンシー(TOF)は以下のように定義する。
TOF=(酸化反応により消費された原料のモル数÷触媒中に含有されるAuとPdを足したモル数)÷反応時間(秒、時間)
一方、担体に二酸化チタンを用い、金原子を担持させた触媒も報告されている(上記非特許文献6等)が、その金属原子あたりのターンオーバーフリークエンシーは、最大1時間あたり1090回と、極めて少ない。
【0016】
触媒を用いた酸化反応においては、触媒のターンオーバーフリークエンシー、選択性、及び収量の点で優れた触媒を選択することが重要な課題であり、特に、金及びパラジウムなどの高価な貴金属を用いる場合には、触媒のターンオーバーフリークエンシーが重要である。
【0017】
本発明は、こうした従来技術を鑑みてなされたものであって、これまでとは異なる方法により製造された、ターンオーバーフリークエンシー、選択性、及び収量の点で優れた触媒、及び該触媒を用いた、グリセリンの液相酸化反応によるグリセリン酸及びタルトロン酸を製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、炭素系以外の担体上に、金とパラジウムの2成分からなるナノ粒子を担持させた担持触媒を用いることを検討した。
炭素系以外の担体上に、金及びパラジウムを担持させた担持触媒については、グリセリンの液相酸化反応以外においては、既に報告されている。
例えば、特許文献3においては、液相反応用金微粒子触媒における金微粒子の剥離を抑制し、より耐久性に優れた実用的触媒を提供するために、液相反応において金微粒子を担持した触媒を使用する際に、Ru,Rh,Pd,Os,Ir及びPtから選ばれる少なくとも1種をAuに対して原子比0.001〜0.2の範囲で含有させる方法が有効であるとされているが、この特許文献においては、1価または多価アルコールを原料にして反応を行うことが可能であるとされており、例示として物質名を網羅的に列挙しているのみで、グリセリンを原料に用いた反応に関して効果的であるか否かは何ら明らかにされていない。また、該文献に示された剥離抑制方法が効果的であるのは生成物がカルボン酸エステル類の場合であり、そのほかのカルボン酸やカルボン酸塩の製造時に関しては何ら検討が行われていない。
また、触媒の担体としては、チタニアを含む各種担体が列挙されているが、特に、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Nb、Sn、Pb、La及びCeの少なくとも1種とSiとを含む無機酸化物担体が好ましいとされ、実施例で示されている触媒の担体には、チタン含有酸化ケイ素(SiO)を用いている。しかしながら、SiOは、本発明で使用するアルカリ性の反応溶液中では溶解して反応に悪影響を及ぼしたり、反応溶液中での長時間の耐久性が低下したりするので、SiOを含まない担体を用いることが望ましい。
【0019】
また、特許文献4においては、アルコール類を分子状酸素を用いて酸化してカルボン酸及び/又はその塩を製造するに際し、耐久性の高い触媒を用いた工業的に実施可能な製造方法として、チタン及び/又はジルコニウムを含む担体に金を含む粒子を担持した触媒の存在下に水媒体中にて分子状酸素で酸化する方法が有効とされている。しかしながら、アルコール類について有効であるとされているにもかかわらず、アルコール類全体についての網羅的かつ詳細な実験的検討が行われておらず、有効に適用できるアルコール類は限られており、特にグリセリンの酸化反応については有効であるか否かの検討は何ら行われていない。
【0020】
本発明者らは、触媒の存在下、酸素を酸化剤としてグリセリンの液相酸化反応によりタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法において、担持触媒についてさらなる検討を重ねた結果、担体として二酸化チタンを用い、これに金とパラジウムの2成分からなるナノ粒子を担持させた触媒が、ターンオーバーフリークエンシーの大きい触媒であって、特に、塩化金酸水溶液と塩化パラジウムの塩酸溶液の混合溶液に、pH値が弱酸性または中性になるようにアルカリ金属塩を混合して中和処理を行い、中和処理後に酸化チタンを分散することにより金属錯体を酸化チタンの表面上に電気的親和力により吸着させたものが好ましいという知見を得た。
【0021】
本発明はこれらの知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
〈1〉触媒の存在下、酸素を酸化剤とし、グリセリンの液相酸化反応によりタルトロン酸及びグリセリン酸を製造する方法であって、水溶性アルカリ金属塩を添加剤として用いるとともに、前記触媒として、酸化チタン担体上へ金とパラジウムの2成分からなるナノ粒子を担持させた触媒を用いることを特徴とするタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
〈2〉前記触媒が、塩化金酸水溶液とハロゲン化パラジウムの塩酸溶液の混合溶液に、pH値が弱酸性または中性になるようにアルカリ金属塩を混合して中和処理を行い、中和処理後に酸化チタンを分散することにより金属錯体を酸化チタンの表面上に電気的親和力により吸着させることにより得られたものであることを特徴とする〈1〉に記載のタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
〈3〉前記中和処理に用いるアルカリ金属塩が、水酸化ナトリウムである〈2〉に記載のタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
〈4〉前記中和処理後の弱酸性ないし中性の溶液のpH値が、6.0〜7.0であることを特徴とする〈2〉又は〈3〉に記載のタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
〈5〉前記酸化チタン担体上に担持されているナノ粒子の直径が、0.5〜50nmであることを特徴とする〈1〉〜〈4〉のいずれかに記載のタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
〈6〉前記酸化チタンとして、ルチル型、アナターゼ型、ルチル型とアナターゼ型の混合のいずれかから選ばれた酸化チタンを用いることを特徴とする〈1〉〜〈5〉のいずれかに記載のタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
〈7〉前記添加剤として使用する水溶性アルカリ金属塩が、水酸化ナトリウムであることを特徴とする〈1〉〜〈6〉のいずれかに記載のタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
〈8〉グリセリンの液相酸化反応によるタルトロン酸及びグリセリン酸の製造用触媒の製造方法であって、
塩化金酸水溶液とハロゲンパラジウムの塩酸溶液の混合溶液に、pH値が弱酸性または中性になるようにアルカリ金属塩を混合して中和処理し、中和処理後に酸化チタンを分散することにより金属錯体を酸化チタンの表面上に電気的親和力により吸着させ、得られた沈殿物を洗浄、乾燥及び焼成して、酸化チタン担体上へ金とパラジウムの2成分からなるナノ粒子を担持した触媒とすることを特徴とする触媒の製造方法。
〈9〉前記中和処理に用いるアルカリ金属塩が、水酸化ナトリウムであることを特徴とする〈8〉に記載の触媒の製造方法。
〈10〉前記中和処理後の弱酸性ないし中性の溶液のpH値が、6.0〜7.0であることを特徴とする〈8〉又は〈9〉に記載の触媒の製造方法。
〈11〉前記酸化チタン担体上に担持されているナノ粒子の直径が、0.5〜50nmであることを特徴とする〈8〉〜〈10〉のいずれかに記載の触媒の製造方法。
〈12〉前記酸化チタンとして、ルチル型、アナターゼ型、ルチル型とアナターゼ型の混合のいずれかから選ばれた酸化チタンを用いることを特徴とする〈8〉〜〈11〉のいずれかに記載の触媒の製造方法。
〈13〉得られた触媒を還元処理することを特徴とする〈8〉〜〈12〉のいずれかに記載の触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の方法は、ターンオーバーフリークエンシー、選択性、及び収量の点で優れた触媒を用いることにより、グリセリンから、高効率で、タルトロン酸及びグリセリン酸を製造することができる。特に、本発明の方法で製造された触媒は、そのターンオーバーフリークエンシーが約6500回以上であって、従来のものに比較して極めて優れている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例で得られた触媒CのTEM観察(×28,000)結果を示す図
【図2】実施例で得られた触媒CのTEMの高倍率観察(×330,000)結果を示す図
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の詳細について述べる。
本発明の方法で得られる触媒は、金とパラジウムの両者を必須成分として含有するナノ粒子が、酸化チタン担体に複合化された状態にある複合無機物質である。ナノ粒子のサイズは、好ましくは直径0.5〜50nmであり、特に好ましくは1〜20nmである。
【0025】
微小な粒子サイズの金属ナノ粒子を酸化チタン担体に複合化させる好ましい方法として、析出沈殿法が広く知られている。該方法は、担持させる金属元素を含む水溶性化合物を溶解した水溶液を適切なpHに調整したのちに担体を添加して、担体上にナノ粒子状の金属の沈殿物を析出させた後、焼成することにより、目的とする触媒を得る方法である。
本発明のように、2種の元素を担持させる場合、両者を同時に担持させる方法と、いずれか一方を担持させた後、他方を担持させる方法とがあるが、本発明では、酸化チタン担体に複合化された状態にある複合無機物質を得るために、前者の同時担持法が用いられる。
【0026】
本発明では、金属元素を含有する水溶液として、塩化金酸水溶液及びハロゲン化パラジウムの塩酸溶液を用いるものであり、両者の混合溶液に、pH値が弱酸性または中性になるようにアルカリ金属塩を混合して中和処理を行い、中和処理後に酸化チタンを分散することにより、担持させることを特徴としている。
この方法をさらに詳しく述べると、原料としては塩化金酸およびハロゲン化パラジウムを用い、塩酸で酸性に調節した水溶液に両成分を同時に溶解して塩酸酸性の金、パラジウム含有水溶液を調製する。この際用いるハロゲン化パラジウムとして特に好ましいものは塩化パラジウムである。その水溶液にアルカリ金属塩を添加してpH値を徐々に高めていく。この際に特に適したアルカリ金属塩の一例として水酸化ナトリウムが挙げられる。そして、pH値が弱酸性〜中性になると溶液中の金属において塩化物イオンから水酸化物イオンへと配位子交換が起こり金属錯体が負に帯電した状態になる。そこで、水溶液中で表面が正に帯電している酸化チタンを混合すると電気的親和力で金属錯体が酸化チタンの表面に吸着する。
【0027】
本発明の担持方法は、前述のとおりであるが、前記特許文献3、4等に記載されているように、塩化金酸水溶液をpH10前後に調節した後、この溶液にテトラアンミンパラジウム水酸塩水溶液を加え、これに担体を分散させる方法では、塩化パラジウム(5g入り15000円、和光純薬工業カタログ)に比較して数倍高価(5g入り82700円、Sigma−Aldrichカタログ)な前駆体試薬を用いる必要があることが欠点の一つとしてあげられる。また、公知の手法である酸化チタンを担体として用いる金のみを析出させる析出沈殿法においては、適したpH値が7前後であり、pH値が10以上となるような条件では効果的に金が析出せずに十分な活性のナノ粒子触媒が製造できないことが公知となっており(非特許文献7)、本発明の方法では金の析出に適した値に近いpH値で金属ナノ粒子の析出を行うことができる利点もある。
【0028】
本発明において用いる酸化チタンは特に限定されず、ルチル型、アナターゼ型、ルチル-アナターゼ混合型、ブルカイト型など市販品や自家合成するなどして容易に入手可能な種々の酸化チタンが使用可能である。
【0029】
触媒は粉末状、ビーズ状、ペレット状などが触媒反応に適した形状として知られているが、いずれの形態でも反応に有効に働くので、反応器の大きさ、形状に応じて適切な状態のものを選択して使用することが出来る。触媒は焼成により得られたものを、何の後処理も行わずにそのまま用いても効率的に反応が進行するが、水素や水素化ホウ素ナトリウムなどの還元剤と反応させ触媒金属を還元する処理を行った後にグリセリンの酸化反応に供することも可能である。
【0030】
次いで、本発明におけるグリセリンの液相酸化反応について述べる。
本発明の方法は、前述の触媒の存在を用い、酸素を酸化剤とし、グリセリンの液相酸化反応により、タルトロン酸及びグリセリン酸を得る方法である。
なお、反応の際に、タルトロン酸及びグリセリン酸の両物質が同時に生成しても、液体クロマトグラフィー技術を応用したカラム分離法などにより容易に高純度で精製できるので、それぞれが単独で高純度で生成しても、同時に生成して混合物になったとしても、高付加価値生成物が効率よく得られるので特に問題はない。
【0031】
原料であるグリセリンは、通常容易に入手可能な化学原料や試薬のみならず、バイオディーゼル燃料や石鹸の製造の際に生じる副生成物なども使用可能である。バイオディーゼル燃料や石鹸の製造の際に混入する不純物成分は出来る限り除去することが望ましいが、多少の残留成分は反応には影響しない。グリセリンの濃度はいかなる濃度でも効率的に反応を進行させることが可能であるが、高濃度のグリセリンにおいては粘度が高いために取り扱い性が良くないので、水で希釈し流動性を高めて取り扱い性を向上させた状態で使用する方が好ましい。その濃度は、0.1〜50重量%、好ましくは1〜10重量%である。
【0032】
原料のグリセリンに対して、添加される前述の触媒の量については、触媒の反応活性が高いのでいかなる量でも効率的に反応が進行するが、バッチ式反応器の場合について例示すれば、好ましくは反応用原料溶液(希釈後のグリセリン溶液)100mLに対して1.0mg〜5.0gであり、特に好ましくは10mg〜1.0gである。前記の触媒量を用いると10分〜5時間程度の反応時間内に生成物が十分な転化率で得られるので、効率的なグリセリン酸およびタルトロン酸の製造が可能になる。
【0033】
また、本発明の方法においては、反応の際、反応を促進するためにアルカリ金属塩を反応原料に溶解させることが必要である。好ましいアルカリ金属塩の例として、アルカリ金属の水酸化物塩、アルカリ金属の炭酸塩、アルカリ金属の硝酸塩などが例示されるが、特に好ましく用いることが出来る化合物は水酸化ナトリウムである。また、リン含有化合物の添加は一切不要であるので、反応後の廃液処理等が容易である。
添加されるアルカリ金属塩の量は、反応がアルカリ性の下で進行するように、適宜調節され、いかなる添加量でも効果的に反応が進行するが、通常、希釈液中に含有される原料であるグリセリンに対して、モル比でグリセリンに対して0.1倍〜10倍程度の添加量が好ましく、特に好ましくはモル比でグリセリンに対して1倍〜5倍である。
【0034】
反応に用いる酸化剤は、酸素含有ガスを用いる。酸素のみでも使用できるし、空気や不活性ガスとの混合ガスでも良い。本発明の方法は、酸素のみを酸化剤とするので、公知文献において酸化反応の際に混合する例が多い還元剤としての水素の混合が不要であり、かつ、過酸化水素や有機ハイドロパーオキサイド類などコストのかかる酸化剤が不要になる利点がある。反応時の酸素の圧力はいかなる圧力でも反応が効率的に進行するが、好ましくは0.1MPa〜10MPa、特に好ましくは0.3MPa〜2.0MPaの範囲である。
【0035】
反応温度は、0℃〜100℃の範囲内で好ましく進行する。0℃を下回ると反応速度の低下や反応に用いる水溶液の凍結等が起こりやすくなり、100℃を上回ると水溶液の水分が蒸発しやすくなり、反応圧の急激な上昇などによる危険性が高まったり、酸化反応が過度に進行しすぎることにより副生成物の増加やCOまで完全酸化されたりするなどの弊害が生じる場合が多い。特に好ましい反応温度は30℃〜80℃である。
【0036】
上述した本発明の液相酸化反応は、公知である各種の反応器の形式を用いることが出来るが、好ましい反応器の例を2つ示す。
第一に、液相のバッチ式反応器である。反応器は加圧された酸素の圧力を安全に保持し、また、反応原料や触媒、酸素に接触する内表面が反応に影響せず、反応溶液の塩基性条件下でも腐食、溶出等が起こりにくいことが重要であるので、ステンレス製、または耐圧加工を施したガラス製反応器が好ましい反応器として例示される。反応器には密封状態を保持したまま反応溶液や触媒を効率的に撹拌するための撹拌翼が付属していることが好ましい。撹拌翼を用いて、反応中の触媒を含む溶液を撹拌する際には毎分350回転以上の撹拌速度が好ましく、特に好ましくは毎分500回転以上である。高速で撹拌することにより、反応原料と触媒表面が効率的に接触する、さらに、気体である酸素ガスが溶液中に効率的に溶け込んで、触媒上の反応活性点に作用しやすくなるなどの利点が生じる。撹拌翼の形状はプロペラ型や、平型など公知の各種形状を好ましく用いることができる。撹拌翼の大きさも特に限定されないが、反応容器の直径に比して幅が50〜80%程度、高さが幅に対して20〜200%程度の大きさが好ましい。また、バッチ式(回分式)反応器を用いた場合における反応時間は、いかなる反応時間でも効率的に反応が進行し、生成物を得ることが出来るが、時間が特に長すぎる場合には原料の過剰な酸化による二酸化炭素までの完全酸化や分解反応が起こりやすいので、1分〜24時間程度が好ましく、特に好ましくは、10分〜5時間である。
【0037】
第二に、流通式反応器が挙げられる。触媒充填層に触媒を充填させ、温度を一定に保つためにヒーターでの加熱や熱媒の循環などを行い、反応器の一方から、アルカリ金属塩を溶解した反応原料水溶液と酸素含有ガスを供給し、もう一方の出口から、触媒と接触し反応が終了した反応後の溶液とガスが排出される。この方法はグリセリン酸とタルトロン酸を連続的に生産する場合に特に適した手法であり、大量生産、大量合成に向いた方法である。この場合は、触媒の粒子が微粉末状の場合には水分を含んで固まるなどして反応管の閉塞等の危険性が高まるため、あらかじめビーズ状、ペレット状に成形等を行った粒子を用い、ガスと液が効率よく管内を流通できるようにすることが好ましい。流通式反応器を用いた場合は原料流速と触媒量によって定められる接触時間(反応管中の触媒充填部分のの体積(mL)÷原料溶液の流速(mL/分))がいかなる範囲においても効率的に反応が進行するが、1秒〜2時間程度の範囲が好ましく、特に好ましくは10秒〜30分である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0039】
(実施例1:触媒の調製方法)
0.085gの塩化パラジウムを30mLの濃塩酸に溶解し橙色透明な塩化パラジウムの塩酸溶液(溶液A)を得た。溶液Aをイオン交換水で1Lに希釈した後、pH測定電極で溶液のpHを確認しながら水酸化ナトリウムを加えてpH=2に調整してから0.107gの塩化金酸を加え黄褐色の混合溶液(溶液B)を得た。前記の溶解量はAuとPdがそれぞれ1重量%、合計2重量%になるように計算された仕込み量である。この溶液Bを70℃に加熱し撹拌羽根で撹拌しながら、水酸化ナトリウム(NaOH)の水溶液(濃度=1.0および0.1モル/L)を徐々に添加して、pH=6.3に調整した後、酸化チタン粉末(日本アエロジル製P25)5.0gを投入し温度を70℃に保ったまま1時間撹拌を続けた。その後、遠心分離で沈殿を分離し、イオン交換水で5回洗浄を行った。分離後の上澄み液は初回より無色透明であり、パラジウム成分が上澄み液中に残留していないことが確認できた。沈殿を室温、減圧下で充分に乾燥させた後に焼成炉を用いて空気中において400℃で4時間加熱し焼成処理を行った。その後、薄片状に固まった粉末を反応に適した粒子サイズにメノウ乳鉢で粉砕しふるい分けを行った。これを触媒Aとする。同様に、原料の塩化金酸と塩化パラジウムの溶解量を適宜変化させて、原料の仕込み量において、金の使用量が1.3重量%、パラジウムの使用量が0.7重量%の触媒(触媒B)、同じく、原料の仕込み量において、金の使用量が1.8重量%、パラジウムの使用量が0.2重量%の触媒(触媒C)をそれぞれ調製した。
【0040】
(実施例2:グリセリンの酸化反応)
グリセリン原料は市販の試薬のグリセリン(和光純薬製)を用いた。グリセリン27.6gを全量が1Lになるように蒸留水で希釈して0.3mol/Lの溶液を得た。反応容器は耐圧硝子工業株式会社製のステンレス製の耐圧容器で、内径50mm、深さ170mmのものを用いた。前述のグリセリンの希釈溶液を100mL、メスシリンダーで量り取り、反応容器に入れ、アルカリ成分として水酸化ナトリウムを4.8g溶解した。この水酸化ナトリウムの添加量は、原料のグリセリンのモル数に対して4倍量に相当する量である。
そこに、実施例1に記述した触媒粉末において、ふるい分け後の粉末のサイズが120メッシュ以下のものを0.05g分散させ、テフロン(登録商標)パッキンを用いて容器を密封した。酸素ガスで容器内を十分に置換し、室温での初期酸素圧1.0MPaとした。反応温度である60℃の温水を満たした恒温槽に反応容器を浸して反応を行った。その後、容器内の温度が目標温度に達した時点を反応開始時とみなした。撹拌は反応容器に付属の撹拌羽根で行い、回転数は毎分750回であった。所定の時間経過後、反応容器を氷水に浸して、急激に温度を低下させるとともに、弁を開放し内部の酸素圧を大気圧まで低下させて反応を停止した。
【0041】
(実施例3:反応生成物の分析)
生成物は、硫酸で中和処理を行い生成物である有機酸類のナトリウム塩を有機酸状態に戻した後に、10倍に希釈し分析に適した濃度にして、液体クロマトグラフィー装置を用いて分析を行った。分析用カラムはICSep COREGEL-107H(東京化成工業(株))で、移動相として、市販の10%硫酸をさらに200倍に希釈し濃度を0.018規定とした希硫酸溶液を用いた。カラム温度は50℃、移動相流速は毎分0.4mLとした。物質の同定と定量は、市販の高純度試薬を標準物質として作成した検量線を用いて行った。
【0042】
(実施例4:反応結果)
実施例1に示した仕込み重量において、金の含有率が触媒全体の1重量%、パラジウムの含有率が触媒全体の1重量%となる触媒(触媒A)においては、原料グリセリンの転化率(消費率)が29.5%であり、主目的生成物であるグリセリン酸とタルトロン酸を合わせた選択率が88.1%と高い値を示した。これは原料が無駄なく目的生成物に変換されていることを示す反応結果である。
同じく、原料の仕込み量において、金の使用量が1.3重量%、パラジウムの使用量が0.7重量%の触媒(触媒B)を用いた場合においては、原料グリセリンの転化率が54.1%であり、主目的生成物であるグリセリン酸とタルトロン酸を合わせた選択率が87.2%と同様に高い値を示した。
同じく、原料の仕込み量において、金の使用量が1.8重量%、パラジウムの使用量が0.2重量%の触媒(触媒C)を用いた場合においては、原料グリセリンの転化率が78.3%であり、主目的生成物であるグリセリン酸とタルトロン酸を合わせた選択率が85.5%と同様に高い値を示した。
【0043】
ターンオーバーフリークエンシーを最も活性の高かった触媒Cに関して算出した。反応原料が0.3モル/リットルの濃度で100mL使用したので0.03モル、50mgの触媒中に触媒金属成分がAu0.0005g、Pdが0.0001g合わせて、3.6×10−6モルである。反応時間は1時間であるのでターンオーバーフリークエンシーは1時間当たり約6576回、1秒当たりに換算すると約1.8回であった。これは非特許文献4に示されているAu−Pd触媒における反応速度よりも14%以上と大幅に優れているので、本発明の方法の優秀性が明らかになった。
【0044】
(実施例5:触媒の還元処理及び該触媒を用いたグリセリンの酸化反応結果)
実施例2に示した反応において、触媒Aを反応容器に投入する前に還元処理を行った。
還元処理の方法は、触媒粉末をイオン交換水に分散し、充分に撹拌操作を行いながら水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)の粉末を徐々に溶解し、触媒の色が変化したことを確認したのちに濾過、洗浄、乾燥処理を行った。
得られた触媒を、実施例2と同様して反応に供した。
仕込み重量において、金の含有率が触媒全体の1重量%、パラジウムの含有率が触媒全体の1重量%となる触媒Aにおいては、原料グリセリンの転化率(消費率)が46.9%と、還元処理前の触媒を用いた結果(29.5%)よりも向上し、主目的生成物であるグリセリン酸とタルトロン酸を合わせた選択率が90.3%と向上した。
この結果は、還元処理が触媒性能を向上させる場合があることを示す一例である。
【0045】
(実施例6:触媒の電子顕微鏡による観察)
透過電子顕微鏡(TOPCON EM−002B型 120kV)を用いて、実施例4の実験で該触媒粉末のなかで最もグリセリンの転化率が高かった触媒Cを観察したところ、3〜14ナノメートル程度のAu−Pdナノ粒子が酸化チタンの表面上に高分散状態で存在し、半球型(ドーム型)の形状で析出している像が観察され、特に10ナノメートル前後のサイズの粒子が最も多く観察された。また、撮影した画像内には金属粒子サイズが20〜30ナノメートル以上の異常に大きい金属粒子の存在は確認されなかった。このことより、本発明の方法を用いることにより、本反応に適したAu−Pdの金属ナノ粒子を効果的に製造することが出来たことが明らかになった。
図1、図2にTEM撮影結果を示す。図1(×28,000)中、20〜100ナノメートルの長方形や楕円形のうすい灰色の不定形の粒子は酸化チタンの担体を示している。3〜14ナノメートルの濃い灰色〜黒の粒子がAu−Pdナノ粒子を示している。図2は高倍率撮影(×330,000)を行い、粒子の形状をより詳細に観察した結果であり、図中の左上近辺に見える矢印で示された直径5ナノメートル前後の金属ナノ粒子が酸化チタン上に担持されていることを示す像である。
【0046】
(実施例7:金とパラジウムの金属含有率の分析)
ICP発光分析法を用いて触媒に含有されている金とパラジウムの質量を定量分析した。その結果は触媒AにおいてはAu=0.62重量%(以下本項は全て重量%)、Pd=1.2%、触媒BにおいてはAu=0.71%、Pd=0.79%、触媒CにおいてはAu=0.97%、Pd=0.22%であった。
【0047】
(比較例1:金のみを含有する触媒の製造)
パラジウムを使用せず、金だけを用いて実施例1と全く同様に触媒の調製を行った。実施例7と全く同様に金属含有率の測定を行ったところ、金属の含有率はAu=0.91重量%であった。
その触媒を用いて実施例2および3に示した手順で反応および生成物の分析を行った。
その結果、原料グリセリンの転化率は86.6%と高いが、主目的生成物であるグリセリン酸とタルトロン酸を合わせた選択率が76.0%と低下した。これは不要な生成物が多量に生成するので、貴重な原料が十分に有効利用されていないことを示す反応結果である。
【0048】
(比較例2:パラジウムのみを含有する触媒の製造)
金を使用せず、パラジウムだけを用いて実施例1と全く同様に触媒の調製を行った。実施例7と全く同様に金属含有率の測定を行ったところ、金属の含有率はPd=1.7重量%であった。
その触媒を用いて実施例2および3に示した手順で反応および生成物の分析を行った。
その結果、原料グリセリンの転化率は1.5%と大幅に低下した。主目的生成物であるグリセリン酸とタルトロン酸を合わせた選択率は約100%と高い値であったが、反応速度が非常に遅く効率が悪いので、実用的に実施するには適さないことを示す反応結果である。
【0049】
(比較例3:撹拌の回転速度が不足している場合)
実施例に示した条件において、触媒量を10倍に増加させ0.5gとして、撹拌回転数を毎分300回転としたほかは全く同様に反応を行った。触媒量を10倍にして大量に用いているにもかかわらず、原料の転化率は14.4%と大きく低下し、タルトロン酸とグリセリン酸を合わせた選択率も40.6%と大きく低下した。この結果は好ましくない条件である遅い撹拌速度により、反応の効率が大きく低下したことを示す結果である。
【0050】
(比較例4:水溶性のアルカリ金属塩を添加しない場合)
実施例1の触媒Cを用いて、反応容器中に水酸化ナトリウムを添加しなかった以外は全く同様に、実施例2および3に示した手順で反応および生成物の分析を行った。
その結果、原料グリセリンの転化率は0%と全く反応が進行しないという結果が得られたので、水酸化ナトリウムのような水溶性のアルカリ金属塩の添加が必要不可欠であることが明らかになった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
触媒の存在下、酸素を酸化剤とし、グリセリンの液相酸化反応によりタルトロン酸及びグリセリン酸を製造する方法であって、水溶性アルカリ金属塩を添加剤として用いるとともに、前記触媒として、酸化チタン担体上へ金とパラジウムの2成分からなるナノ粒子を担持させた触媒を用いることを特徴とするタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
【請求項2】
前記触媒が、塩化金酸水溶液とハロゲン化パラジウムの塩酸溶液の混合溶液に、pH値が弱酸性または中性になるようにアルカリ金属塩を混合して中和処理を行い、中和処理後に酸化チタンを分散することにより金属錯体を酸化チタンの表面上に電気的親和力により吸着させることにより得られたものであることを特徴とする請求項1に記載のタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
【請求項3】
前記中和処理に用いるアルカリ金属塩が、水酸化ナトリウムである請求項2に記載のタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
【請求項4】
前記中和処理後の弱酸性ないし中性の溶液のpH値が、6.0〜7.0であることを特徴とする請求項2又は3に記載のタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
【請求項5】
前記酸化チタン担体上に担持されているナノ粒子の直径が、0.5〜50nmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
【請求項6】
前記酸化チタンとして、ルチル型、アナターゼ型、ルチル型とアナターゼ型の混合のいずれかから選ばれた酸化チタンを用いることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
【請求項7】
前記添加剤として使用する水溶性アルカリ金属塩が、水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のタルトロン酸及びグリセリン酸の製造方法。
【請求項8】
グリセリンの液相酸化反応によるタルトロン酸及びグリセリン酸の製造用触媒の製造方法であって、
塩化金酸水溶液とハロゲン化パラジウムの塩酸溶液の混合溶液に、pH値が弱酸性または中性になるようにアルカリ金属塩を混合して中和処理し、中和処理後に酸化チタンを分散することにより金属錯体を酸化チタンの表面上に電気的親和力により吸着させ、得られた沈殿物を洗浄、乾燥及び焼成して、酸化チタン担体上へ金とパラジウムの2成分からなるナノ粒子を担持した触媒とすることを特徴とする触媒の製造方法。
【請求項9】
前記中和処理に用いるアルカリ金属塩が、水酸化ナトリウムであることを特徴とする請求項8に記載の触媒の製造方法。
【請求項10】
前記中和処理後の弱酸性ないし中性の溶液のpH値が、6.0〜7.0であることを特徴とする請求項8又は9に記載の触媒の製造方法。
【請求項11】
前記酸化チタン担体上に担持されているナノ粒子の直径が、0.5〜50nmであることを特徴とする請求項8〜10のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項12】
前記酸化チタンとして、ルチル型、アナターゼ型、ルチル型とアナターゼ型の混合のいずれかから選ばれた酸化チタンを用いることを特徴とする請求項8〜11のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。
【請求項13】
得られた触媒を還元処理することを特徴とする請求項8〜12のいずれか1項に記載の触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−153658(P2012−153658A)
【公開日】平成24年8月16日(2012.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14663(P2011−14663)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】