説明

ナノ粒子分散液、その製造方法、及びその製造システム並びにその製造プログラム

【課題】ナノ粒子の再凝集を抑えて分散状態を良好に維持する分散液を提供する。
【解決手段】本発明の1つのナノ粒子分散液のナノ粒子分散液の製造システム100は、カップリング剤とナノ粒子とを水又は第1有機溶媒中に分散させた分散液を、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とによりその分散液を乾燥して前述のナノ粒子を粉末化する乾燥装置10と、攪拌機30aと湿式粉砕機30bとの間を循環させることにより、乾燥装置10によって粉末化されたナノ粒子を第2有機溶媒中に分散させる分散装置30とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子分散液、その製造方法、及びその製造システム並びにその製造プログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
日々、様々な高機能性粒子が開発されている中、ナノ粒子の液中における分散状態の良し悪しは、各種素材の均質化、あるいは各種製品の高い信頼性へとつながる重要な役割を担うことになる。これまで、ナノ粒子の液中分散を改善するための試みが各種の装置を利用して行われてきた。従来から知られている代表的な分散装置としては、湿式ジェットミル、ビーズミル、あるいは超音波発生装置が挙げられる。
【0003】
例えば、インクジェット記録用インク組成物を製造するにあたり、いわゆる混合スラリーを循環式ビーズミルに導入することによってインクジェット用インクの調製に用いる顔料を分散させる技術が開示されている(特許文献1を参照)。また、他の循環式ビーズミルの例として、これから分散させようとするタンクに加えて循環用のタンクを備え、ビーズミルから出た液を収容するタンクを三方弁によって選択可能にした循環式ビーズミルも提案されている(特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−188626号公報
【特許文献2】特開2000−112155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前述のいずれの従来技術も、例えば、カーボンブラックのような凝集性の非常に高いナノ粒子に対する十分な解決手段とは言えない。他方、単に分散性を高めるということのみに拘泥するのではなく、ナノ粒子の持つ凝集性を適切に制御する技術を提供することも重要な技術課題といえる。したがって、現状よりもさらにその分散性を高めた分散液を得ると同時に、ナノ粒子の再凝集を抑えて分散状態を良好に維持することが産業界において強く求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、今後、各種の技術分野においてその重要性が益々高まるであろうナノ粒子の分散状態の向上と、ナノ粒子の分散技術として、ナノ粒子の分散性を高めるとともに、再凝集を抑えて分散状態を良好に維持する分散液の製造技術の発展に大きく貢献するものである。
【0007】
上述のとおり、これまでナノ粒子の液中分散のために循環式ビーズミルが用いられてきたが、発明者らは、ナノ粒子が微細かつ均一に分散された良質な分散液を得るには十分とはいえないと判断した。そこで、ナノ粒子を効果的に微細化して分散させるとともに、ナノ粒子の再凝集を抑えて分散状態を良好に維持する多種多様な装置の検討が鋭意行われた結果、発明者らは、循環式ビーズミルに導入する前段階工程においてナノ粒子の粉末を得る特定の手段を採用することにより、上述の技術課題が解決され得ることと知見した。本発明は上述のような知見に基づいて創出された。
【0008】
本発明の1つのナノ粒子分散液の製造システムは、カップリング剤とナノ粒子とを水又は第1有機溶媒中に分散させた分散液を、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とによりその分散液を乾燥して前述のナノ粒子を粉末化する乾燥装置と、湿式粉砕機と攪拌機との間を循環させることにより、前述の乾燥装置によって粉末化されたそのナノ粒子を第2有機溶媒中に分散させる分散装置とを備える。
【0009】
このナノ粒子分散液の製造システムによれば、まず、カップリング剤とナノ粒子とを水又は第1有機溶媒中に分散させた分散液が、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とを有する乾燥装置によって乾燥され、かつ乾燥過程において形成された凝集物が解きほぐされつつ乾燥が進行することにより粉末化する。加えて、この乾燥過程において、ナノ粒子の表面はカップリング剤との結合、化学吸着、又は物理吸着などの反応が生じて、ナノ粒子表面がカップリング剤で実質的に覆われることになる。そのため、そのような粉末化されたナノ粒子を、さらに湿式粉砕機と攪拌機との間を循環させる分散装置において第2有機溶媒中に分散させる際にも、第2有機溶媒中にナノ粒子が微細に分散されるとともに、分散されたナノ粒子が再凝集することを抑えて分散状態が維持されたナノ粒子分散液が得られる。
【0010】
また、本発明の1つのナノ粒子分散液の製造方法は、カップリング剤とナノ粒子とを水又は第1有機溶媒中に分散させた分散液を、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とによりその分散液を乾燥して前述のナノ粒子を粉末化する乾燥工程と、その乾燥工程の後に、粉末化されたそのナノ粒子を第2有機溶媒中に導入し、湿式粉砕機と攪拌機の間を循環させることにより、前述の第2有機溶媒中にそのナノ粒子を分散させる分散工程とを含む。
【0011】
このナノ粒子分散液の製造方法によれば、まず、カップリング剤とナノ粒子とを水又は第1有機溶媒中に分散させた分散液が、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とを有する乾燥工程によって乾燥され、かつ乾燥過程において形成された凝集物が解きほぐされつつ乾燥が進行することにより粉末化する。加えて、この乾燥過程において、ナノ粒子の表面はカップリング剤との結合、化学吸着、又は物理吸着などの反応が生じて、ナノ粒子表面がカップリング剤で実質的に覆われることになる。そのため、そのような粉末化されたナノ粒子を、さらに湿式粉砕機と攪拌機との間を循環させる分散工程において第2有機溶媒中に分散させることにより、第2有機溶媒中に分散させる際にも、第2有機溶媒中にナノ粒子が微細に分散されるとともに、分散されたナノ粒子が再凝集することを抑えて分散状態が維持されたナノ粒子分散液が得られる。
【0012】
また、本発明の1つのナノ粒子分散液は、フィニルトリエトキシシラン(PTES)と結合、化学吸着、又は物理吸着する表面を有するとともに平均凝集粒子径が20nm以上150nm以下のカーボンブラックが、N−メチルー2−ピロリドン(NMP)中に分散されている液である。
【0013】
このナノ粒子分散液は、ナノ粒子が良好に分散されるとともに、再凝集が抑えられて分散状態が良好に維持された分散液である。従って、このナノ粒子分散液は、各種素材の均質化、あるいは各種製品の高い信頼性に大きく貢献する。
【0014】
また、本発明の1つのナノ粒子分散液の製造プログラムは、カップリング剤とナノ粒子とを水又は第1有機溶媒中に分散させた分散液を、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とによりその分散液を乾燥して前述のナノ粒子を粉末化する乾燥ステップと、その乾燥ステップの後に、粉末化されたそのナノ粒子を第2有機溶媒中に導入し、湿式粉砕機と攪拌機の間を循環させることにより、前述の2有機溶媒中にそのナノ粒子を分散させる分散ステップとを含む。
【0015】
本発明の1つのナノ粒子分散液の製造プログラムによれば、まず、カップリング剤とナノ粒子とを水又は第1有機溶媒中に分散させた分散液が、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とを有する乾燥ステップによって乾燥され、かつ乾燥ステップにおいて形成された凝集物が解きほぐされつつ乾燥が進行することにより粉末化する。加えて、この乾燥ステップにおいて、ナノ粒子の表面はカップリング剤との結合、化学吸着、又は物理吸着などの反応が生じて、ナノ粒子表面がカップリング剤で実質的に覆われることになる。そのため、そのような粉末化されたナノ粒子を、さらに湿式粉砕機と攪拌機との間を循環させる分散ステップにおいて第2有機溶媒中に分散させる際にも、第2有機溶媒中にナノ粒子が微細に分散されるとともに、分散されたナノ粒子が再凝集することを抑えて分散状態が維持されたナノ粒子分散液が得られる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の1つのナノ粒子分散液の製造システムによれば、まず、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とを有する乾燥装置によって乾燥され、かつ乾燥過程において形成された凝集物が解きほぐされつつ乾燥が進行することにより粉末化されたナノ粒子が形成される。そして、そのナノ粒子表面のカップリング剤との結合、化学吸着、又は物理吸着などの反応が生じて、ナノ粒子表面がカップリング剤で実質的に覆われることになる。その後、そのような粉末化されたナノ粒子を、さらに湿式粉砕機と攪拌機との間を循環させる分散装置において第2有機溶媒中に分散させることにより、第2有機溶媒中に分散させる際にも、第2有機溶媒中にナノ粒子が微細に分散されるとともに、分散されたナノ粒子が再凝集することを抑えて分散状態が維持されたナノ粒子分散液が得られる。
【0017】
また、本発明の1つのナノ粒子分散液の製造方法によれば、まず、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とを有する乾燥工程によって乾燥され、かつ乾燥過程において形成された凝集物が解きほぐされつつ乾燥が進行することにより粉末化されたナノ粒子が形成される。そして、そのナノ粒子表面のカップリング剤との結合、化学吸着、又は物理吸着などの反応が生じて、ナノ粒子表面がカップリング剤で実質的に覆われることになる。その後、そのような粉末化されたナノ粒子を、さらに湿式粉砕機と攪拌機との間を循環させる分散工程において第2有機溶媒中に分散させることにより、第2有機溶媒中に分散させる際にも、第2有機溶媒中にナノ粒子が微細に分散されるとともに、分散されたナノ粒子が再凝集することを抑えて分散状態が維持されたナノ粒子分散液が得られる。
【0018】
また、本発明の1つのナノ粒子分散液は、ナノ粒子が良好に分散されるとともに、再凝集が抑えられて分散状態が良好に維持された分散液である。従って、このナノ粒子分散液は、各種素材の均質化、あるいは各種製品の高い信頼性に大きく貢献する。
【0019】
また、本発明の1つのナノ粒子分散液の製造プログラムによれば、まず、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とを有する乾燥ステップによって乾燥され、かつ乾燥過程において形成された凝集物が解きほぐされつつ乾燥が進行することにより粉末化されたナノ粒子が形成される。そして、そのナノ粒子表面のカップリング剤との結合、化学吸着、又は物理吸着などの反応が生じて、ナノ粒子表面がカップリング剤で実質的に覆われることになる。その後、そのような粉末化されたナノ粒子を、さらに湿式粉砕機と攪拌機との間を循環させる分散ステップにおいて第2有機溶媒中に分散させることにより、第2有機溶媒中に分散させる際にも、第2有機溶媒中にナノ粒子が微細に分散されるとともに、分散されたナノ粒子が再凝集することを抑えて分散状態が維持されたナノ粒子分散液が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態におけるナノ粒子分散液の製造システムの構成を示す説明図である。
【図2】本発明の第1の実施形態におけるナノ粒子分散液の製造システムの一部(前工程)の構成を示す説明図である。
【図3】本発明の第1の実施形態におけるナノ粒子分散液の製造システムの一部(後工程)の構成を示す説明図である。
【図4】本発明の第1の実施形態における乾燥工程での分散液の乾燥とナノ粒子の粉末化の過程を示す模式図である。
【図5】本発明の第1の実施形態におけるナノ粒子分散液中のナノ粒子のTEM(透過電子顕微鏡)像を示す写真である。
【図6】本発明の第1の実施形態におけるナノ粒子分散液の製造フローチャートである。
【図7】比較例1におけるナノ粒子分散液中のナノ粒子のTEM(透過電子顕微鏡)像を示す写真である。
【図8】比較例2におけるナノ粒子分散液中のナノ粒子のTEM(透過電子顕微鏡)像を示す写真である。
【図9】比較例3におけるナノ粒子分散液中のナノ粒子のTEM(透過電子顕微鏡)像を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素のそれぞれは、必ずしも互いの縮尺比を保って示されてはいない。また、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0022】
<第1の実施形態>
図1は、本実施形態におけるナノ粒子分散液の製造システム100の構成を概略的に示す説明図である。また、図2は、本発実施形態におけるナノ粒子分散液の製造システム100の一部(前工程)の構成を概略的に示す説明図である。さらに、図3は、本実施形態におけるナノ粒子分散液の製造システム100の一部(後工程)の構成を概略的に示す説明図である。なお、説明の便宜のため、図1乃至図3のそれぞれの一部が断面図として描かれている。また、図2及び図3では、各装置、各機器、又は各制御部とコンピューター60との接続が省略されている。
【0023】
図1乃至図3に示すように、本実施形態のナノ粒子分散液の製造システム100は、大きく2つに分類される。1つは、前工程と呼ばれる乾燥工程の装置群であり、他の1つは、後工程と呼ばれる分散工程の装置群である。前工程の装置群は、カップリング剤とナノ粒子とを水又は第1有機溶媒中に分散させた分散液を、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とによりその分散液を乾燥して前述のナノ粒子を粉末化する乾燥装置10を含む。また、後工程の装置群は、粉末化されたそのナノ粒子を第2有機溶媒中に導入し、攪拌機30aと湿式粉砕機30bとの間を循環させることにより、前述の第2有機溶媒中にそのナノ粒子を分散させる分散装置30から構成される。以下に、それぞれの工程について具体的に説明する。
【0024】
まず、図1及び図2に示すように、本実施形態の乾燥装置10は、主として、乾燥部11、分級部16、排出部17、分散液供給口12a、加熱気体供給口12b、温度制御部18a,18b、及び乾燥部内攪拌ローター駆動部19とを備える。
【0025】
ここで、乾燥装置10は、主として、乾燥部11、分散液供給口12a、加熱気体供給口12b、乾燥部11内で回転する図示しないローター、及び媒体ボール13とを備える。また、分級部16では、モーター16aが、分級ローター駆動部16bを介して分級ローター16cを回転させる。より具体的には、分級ローター駆動部16bは、モーター16aの回転力を分級ローター16cに伝える公知の駆動用ベルトを介して分級ローター16cに回転を伝えるものである。
【0026】
一方、図1及び図3に示すように、本実施形態の分散装置30は、攪拌機30aと湿式粉砕機30bとを備える。
【0027】
ここで、攪拌機30aにおいては、攪拌ローター駆動部32aが、攪拌ローター32bの少なくとも一部を攪拌槽31内で回転させる。また、湿式粉砕機30bにおいては、粉砕ローター軸36bに接合し、粉砕ローター駆動部36aによって回転力が与えられる粉砕ディスク36cが、粉砕室34内の多数のビーズ37を強力に攪拌させることにより、ビーズ37同士の衝突や擦れ合いが発生し、その状況下でナノ粒子の粉末は粉砕作用および解砕作用を受けて分散される。なお、本実施形態のビーズ37はジルコニア製であり、そのビーズ径は30μmであった。また、ビーズ37は、特にジルコニア製に限定されることはない。例えば、アルミナ製やセラミックス製のビーズが本実施形態に適用され得る。加えて、湿式粉砕機30bの代表的な装置は、湿式ビーズミルである。
【0028】
次に、本実施形態の前工程及び後工程で行われる具体的な処理を説明する。
【0029】
最初に、本実施形態では、前工程が行われる前の準備工程として、以下の処理が行われる。まず、1%酢酸水溶液中にカップリング剤であるフェニルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、型番KBE−103)が滴下されることによって加水分解反応が進められた。その後、その酢酸水溶液中に、濃度が2wt%となるようにカーボンブラックが導入されることにより出発剤としての分散液が製造された。なお、本実施形態では、フェニルトリエトキシシランの添加量は、粒子表面積基準で3.3μmol/mであった。
【0030】
ここで、上述の酢酸水溶液にアルコール類、例えば、イソプロピルアルコールが添加されることも加水分解反応の速度を調整する観点から好ましい一態様である。加えて、水を溶媒とする代わりに、有機溶媒(以下、これを第1有機溶媒という。)が採用されても、本実施形態とほぼ同様の効果が奏され得る。代表的な第1有機溶媒としては、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコール等のアルコール類が挙げられる。また、水溶液の他の例としては、塩酸水溶液や硝酸水溶液等の酸性水溶液、又はアルカリ性水溶液が挙げられる。
【0031】
本実施形態の前工程では、まず、図示しない分散液送給装置により、上述の分散液が乾燥装置10の分散液供給口12aから送給された。また、本実施形態では、ナノ粒子としては、平均粒子径が28nmであり、窒素吸着1点式BET法で求めた比表面積が220m/gのカーボンブラック(東海カーボン株式会社製,型番2150)が採用された。なお、前述の分散液送給装置は、公知の液体供給装置が適用され得る。
【0032】
次に、分散液供給口12aからの上述の分散液に加えて、分散液供給口12aより下方に位置する加熱気体供給口12bから250℃〜400℃に加熱された気体が乾燥装置10に公知の送給手段によって送給される。図1及び図2に示すように、この加熱気体は、乾燥部11内で加熱気流として媒体ボール13および分散液と接触した後、分級部16を経由して排出部17から排出される。この加熱気流によって加熱された媒体ボール13が、乾燥部11内で分散液と接触することにより、分散液を乾燥させるとともに、乾燥部11内での攪拌に伴う媒体ボール13同士の衝突や擦れ合いを生じさせる。その結果、分散液の乾燥、換言すれば、ナノ粒子としてのカーボンブラックの粉末化が促進する。このときの乾燥部11内に送給された分散液が乾燥するとともに、ナノ粒子が粉末化する過程が、図4に示される。
【0033】
図4は、本実施形態の乾燥工程での分散液の乾燥とナノ粒子の粉末化の過程を示す模式図である。まず、送給された分散液が媒体ボール13と接触することにより、媒体ボール13の表面に分散液膜41が形成される(図4における(1)から(2)への変化)。ここで、乾燥装置10の下方から上方に向けて送られた加熱気流により、分散液膜41が形成される前に媒体ボール13が加熱されるとともに、その分散液膜41も加熱される。従って、この加熱気流は、媒体ボール13の表面上に付着した分散液膜41を、内側からも外側からも乾燥させることになる。加えて、乾燥部11内の攪拌ローター(図示せず)によって、乾燥部11内の多数の媒体ボール13同士の衝突や擦れ合い等を含む攪拌運動が生じる。この攪拌運動によって分散液膜41が乾燥するとともに粉砕されて、ナノ粒子粉末42が形成される(図4における(2)から(3)への変化)。その後、媒体ボール13は、再び、分散液膜41又はナノ粒子粉末42が離脱した状態に戻る(図4における(3)から(1)への変化)。他方、媒体ボール13から離脱したナノ粒子粉末42は、乾燥装置10の下方から上方に向けて送られた加熱気流に乗って分級部16に送られる(図4における(3)から(4)への変化)。ここで、ナノ粒子粉末42が、分級部16に送られる段階では、この分級部16の分級ローター16cが乾燥部11内(例えば、図2に示すように、乾燥部11から排出部17に至るまでの間)に備えられているため、ナノ粒子粉末42の更なる解砕作用が生じる。具体的には、まず、分級ローター16cによって形成される旋回気流によるナノ粒子粉末42の旋回運動が、ナノ粒子粉末42同士の衝突を生じさせてナノ粒子粉末42を解砕する。加えて、分級ローター16cによる分級過程において、ナノ粒子粉末42は分級ローター16cの備える分級羽根との衝突による解砕作用も受けるため、ナノ粒子の粉末化が一段と促進されることになる。なお、媒体ボール13から離脱した直後の剥離片や凝集塊ともいえるナノ粒子粉末42の中には、その表面が乾燥していても、その内部は十分に乾燥されていないものも生じ得る。従って、分級ローター16cが乾燥部11内に配置されていることにより、前述の解砕作用が生じている間も継続的にナノ粒子粉末42が乾燥されることは、本実施形態における乾燥工程の特長の1つである。
【0034】
上述の(1)から(4)のプロセスを経ることにより、最終的に、乾燥装置10に送給された分散液のすべてがナノ粒子粉末42に変換される。なお、この乾燥工程の結果、本実施形態のカーボンブラックは、フェニルトリエトキシシランと結合、化学吸着、又は物理吸着により、カーボンブラックの粒子表面をカップリング剤のフェニルトリエトキシシランで覆われることになると考えられる。
【0035】
乾燥部11内で形成されたナノ粒子粉末42、すなわち、粉末状のカーボンブラックは、上述のとおり、乾燥装置10内の加熱気流に乗って分級部16に送られる。分級部16では、分級ローター16cの外周に沿って設けられた多数の羽根の回転により遠心力が形成される。その結果、多数のナノ粒子粉末42のうち、所定の粒径よりも大きい粒子はその遠心力によって外周方向に飛ばされる一方、所定の粒径よりも小さい粒子は加熱気流とともにその羽根の間の隙間を通過して、分級ローター16c内に流入する。なお、本実施形態では、前述の所定の粒径を、2μmに設定した。
【0036】
分級ローター16cを通過した一定の粒径範囲のナノ粒子粉末42は、排出部17から加熱気流とともに排出される。ここで、本実施形態の乾燥装置10は、排出部17の一部と加熱気体供給口12b近傍に設けられた温度制御部18a,18bを備えている。温度制御部18a,18bの働きの一例では、まず、排出部17の一部に設けられた公知の温度センサー(温度制御部18aに該当)によって、排出される気流の温度が検出される。その検出値は、電気信号又は光信号に変換されて発信され、分散液供給制御部14によって分散液送給装置からの分散液の流量が調整される。本実施形態では、前述の所定の温度範囲を100℃以上200℃以下に設定したが、ナノ粒子の粉末化の効率向上の観点で言えば、より好ましい温度範囲は、120℃以上180℃以下である。なお、加熱気流の温度の上限値は特に限定されるものではないが、生産効率の観点及び生産コストの観点から、現在はこの上限値が200℃に設定されている。
【0037】
本実施形態では、乾燥装置10から排出されたナノ粒子粉末42は、バグフィルタやサイクロン等の公知の捕集機20の導入口24に送られ、捕集される。この捕集機20によって、ナノ粒子粉末42は一旦集められて回収され、後工程を担う分散装置30に送られる。ナノ粒子粉末42とともに送られた加熱気体は、前述のフィルターを通過し、捕集機排出口27及びブロワー28を経由して外に排出される。
【0038】
なお、上述のナノ粒子粉末42の捕集工程に加えて、例えば、比較的温度の高いナノ粒子粉末を除冷又は急冷する工程、より粒径の揃ったナノ粒子粉末42を得るための追加的なふるい(スクリーニング)工程、又はナノ粒子粉末42の秤量工程に代表される種々の工程が後工程に送られるまでに行われることを妨げない。但し、ナノ粒子粉末が、外気の水分との接触などによって適度な分散状態が失われてしまうまでに後工程に送られることが好ましい。したがって、本実施形態では、捕集機20によって捕集されてから後工程に送られるまでの時間を、3時間以内に留めるようにした。
【0039】
捕集機20によって捕集されたナノ粒子粉末42は、分散工程を担う分散装置30に送られる。
【0040】
後工程である分散工程では、まず、攪拌機30aの攪拌槽31内に貯留されている第2有機溶媒中にナノ粒子粉末42が導入される。攪拌ローター32bの回転によって、攪拌槽31内の第2有機溶媒とナノ粒子粉末42が混合される。なお、本実施形態では、第2有機溶媒は、N−メチル−2−ピロリドン(関東化学株式会社製、以下、単にNMPともいう。)が採用された。また、本実施形態では、ナノ粒子粉末42の濃度は、約5wt%以上となるように調整された。
【0041】
攪拌槽31内で十分に攪拌させた後、ポンプ33により、攪拌槽排出口31aから排出されるNMPとナノ粒子粉末42との混合物が、配管33aを経由して粉砕室導入口35aから粉砕室34に送られる。なお、本実施形態のポンプによる循環速度は、200mL(ミリリットル)/分であった。
【0042】
粉砕室34内では、回転可能な粉砕ローター軸36b上に回転するように取付けられた粉砕ディスク36c、多数のビーズ37同士を強力に攪拌させる。その結果、粉砕室34内のナノ粒子粉末42もそれらの衝突や擦れ合い等によってさらに細かく解砕または粉砕される。その結果、分散液中にナノ粒子が均一分散され、本実施形態のナノ粒子分散液が製造される。なお、本実施形態では、分散装置30の湿式粉砕機30bとして、ホソカワアルピネ社製、「ハイドロミル」(TM)(型式90AHM)が採用された。また、本実施形態では、粉砕ローター軸36bの周速度は10m/秒であり、ビーズ37の充てん率は、粉砕室34の容積に対して約70%であった。
【0043】
その後、粉砕室排出口35bから排出されたナノ粒子分散液は、配管33bを経由して、再度、攪拌機30aの攪拌槽31内に送給される。その後、ナノ粒子分散液は、攪拌機30aと湿式粉砕機30bとの間を循環することにより、第2有機溶媒であるNMP中のナノ粒子の分散状態がさらに高められることになる。本実施形態では、上述の分散工程が60分間行われた。
【0044】
本実施形態の各工程における処理が行われたことにより、以下の結果が得られた。
【0045】
図5は、第1の実施形態の各工程の処理によって得られたナノ粒子分散液中のナノ粒子の電界放射型透過電子顕微鏡(TEM)(日本電子株式会社社製、型式JEM−2010)による観察結果を示す写真である。図5に示すように、ナノ粒子(カーボンブラック)43が殆ど凝集しておらず、高い分散状態を保って第2有機溶媒中に存在していることが確認された。本実施形態のナノ粒子43の平均凝集粒子径(Average aggregate size)は、81nmであった。また、この高い分散状態は、ナノ粒子分散液の製造から2ヶ月経過した後も、安定的に維持されることも確認された。一例では、ナノ粒子分散液の製造から2ヶ月経過した後も、その平均凝集粒子径が86nmであり、凝集が殆ど進んでいないことが確認できた。
【0046】
ところで、上述のナノ粒子分散液の製造システム100が備える各装置、各機器、各制御部は、図1に示すようにコンピュータ60に接続している。コンピュータ60は、上述の各プロセスを実行するためのナノ粒子分散液の製造プログラムにより、第1の実施形態の各工程を監視し、又は統合的に制御する。以下に、具体的な製造フローチャートを示しながら、ナノ粒子分散液の製造プログラムを説明する。ところで、本実施形態では、前述の製造プログラムがコンピュータ60内のハードディスクドライブ、又はコンピュータ60に備え付けられた磁気ディスクドライブ等に挿入される公知の記録媒体に保存されているが、この製造プログラムの保存先はこれに限定されない。例えば、この製造プログラムの一部又は全部は、本実施形態における各装置、各機器、又は各制御部内に保存されていてもよい。また、この製造プログラムは、ローカルエリアネットワーク、ワイドエリアネットワーク、又はインターネット回線、あるいは公知の通信網等の公知の技術を介して遠隔の場所から上述の各プロセスを監視し、又は制御することもできる。
【0047】
図6は、本実施形態のナノ粒子分散液の製造フローチャートである。
【0048】
図6に示すとおり、本実施形態のナノ粒子分散液の製造プログラムが実行されると、まず、ステップS101において、分散液と加熱気体が乾燥装置10内に送られる。次に、ステップS102において、乾燥装置10内で、加熱気体と媒体ボール13との協働で分散液を乾燥させることによってナノ粒子粉末42が形成された後、分級部16においてナノ粒子粉末42が分級される。ここで、ステップ103において、分級部16を通過した加熱気体の温度が所定の温度範囲内であるか否かで、乾燥装置11内の温度の適性を判断する。その結果、所定温度範囲よりも加熱気体の温度が低い場合あるいは高い場合には、ステップS104において、排出される気体の温度制御が行われる。他方、排出される気体の温度が所定の範囲内であれば、その温度範囲を維持することとする。こうして乾燥された粉末は分級され、一定の粒子径の範囲に収まるナノ粒子粉末42は、加熱気流とともに、乾燥装置10の排出口17から排出される(ステップS105)。
【0049】
その後、排出されたナノ粒子粉末42は、捕集機20により捕集される(ステップS106)。続いて、捕集機20で捕集されたナノ粒子粉末42は、ステップS107において、捕集機排出口26から分散装置30へ送られる。
【0050】
分散装置30においては、ステップS108において、攪拌槽30a内で攪拌ローター32bによってナノ粒子粉末42を第2有機溶媒中に攪拌分散させる。その後、ステップS109において、ナノ粒子粉末42と第2有機溶媒との混合液が、ポンプ33によって湿式粉砕機30bの粉砕室34内に送られる。ナノ粒子粉末42は、ステップS110において、粉砕室34内でさらに微粉砕されて、第2有機溶媒中に均一に分散される。このステップS108〜ステップS110の各処理が、所定時間、繰り返し継続して行われる(ステップS111)。所定時間が経過した後、ステップS112において、ナノ粒子分散液が回収される。
【0051】
上述のように、本実施形態の製造プログラムが実行される結果、ナノ粒子の分散性が高められるとともに、そのナノ粒子の再凝集を抑えて分散状態を良好に維持するナノ粒子分散液が得られる。
【0052】
<比較例(1)>
上述の第1の実施形態と比較するために比較例1の処理が行われた。比較例1では、第1の実施形態の前工程が行われる前の準備工程における、カップリング剤としてのフェニルトリエトキシシランの添加量が0.8μmol/mであることを除き、第1の実施形態と同じ処理が行われた。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略されうる。
【0053】
図7は、比較例1の各工程の処理によって得られたナノ粒子分散液中のナノ粒子のTEM(透過電子顕微鏡)像を示す写真である。図7に示すように、ナノ粒子(カーボンブラック)が第1の実施形態のナノ粒子43よりも大きく、ナノ粒子同士がより凝集していることが確認された。また、比較例1のナノ粒子の平均凝集粒子径は、約180nmであった。
【0054】
<比較例(2)>
上述の第1の実施形態と比較するために比較例2の処理が行われた。比較例2では、第1の実施形態の前工程が行われる前の準備工程における、カップリング剤としてのフェニルトリエトキシシランの添加量が7.4μmol/mであることを除き、第1の実施形態と同じ処理が行われた。従って、第1の実施形態と重複する説明は省略されうる。
【0055】
図8は、比較例2の各工程の処理によって得られたナノ粒子分散液中のナノ粒子のTEM(透過電子顕微鏡)像を示す写真である。図8に示すように、ナノ粒子(カーボンブラック)が第1の実施形態のナノ粒子43よりも大きく、ナノ粒子同士がより凝集していることが確認された。また、比較例2のナノ粒子の平均凝集粒子径は、約180nmであった。
【0056】
なお、上述の各比較例に加えて幾つかの実験が発明者らによって行われた結果、0.9μmol/m以上7.8μmol/m未満のカップリング剤(フィニルトリエトキシシラン)が添加されたときは、第2有機溶媒中のナノ粒子の平均凝集粒子径は、120nm以下に抑えられることが確認され、良好な分散状態であることが分かる。特に、1.7μmol/m以上4.8μmol/m以下のカップリング剤が添加されたときに、第2有機溶媒中のナノ粒子の平均凝集粒子径は、85nm以下に抑えられた点は特筆に値する。加えて、1.7μmol/m以上4.8μmol/m以下のカップリング剤が添加されたときは、それらの高い分散状態が、長期間、安定的に維持されることも確認された。
【0057】
また、発明者らにより、コーンプレート型粘度計(Anton Paar社製、型式MCR101)を用いて、第1の実施形態の各工程が行われたナノ粒子分散液の分散状態/凝集性が分析された。その結果、特に、1.7μmol/m以上4.8μmol/m以下のカップリング剤が添加されたときは、せん断速度に比例してせん断応力が直線的に上昇する傾向が確認された。また、見掛け粘度が、その他の添加量による結果と比較して著しく低いことが確認された。
【0058】
<第2の実施形態>
本実施形態におけるナノ粒子分散液の製造システム、製造方法、及び製造プログラムは、以下の(1)〜(3)の条件を除き、第1の実施形態と同じである。従って、第1の実施形態の重複する説明は省略されうる。
(1)第1の実施形態の前工程が行われる前の準備工程における、カップリング剤の添加量が、4.8μmol/mであること
(2)後工程(分散工程)における湿式粉砕機30bに使用されるビーズ37のビーズ径が100μmであること
(3)後工程(分散工程)の処理時間が40分間であること
【0059】
なお、本実施形態の結果と比較するために、比較例3乃至比較例5の処理がそれぞれ行われた。比較例3乃至比較例5の具体的な条件は以下のとおりである。
【0060】
<比較例3>
上述の第2の実施形態と比較するために比較例3の処理が行われた。比較例3では、第2の実施形態の前工程が行われる前の準備工程及び第2の実施形態の前工程を行うことなく、後工程のみが行われたことを除き、第2の実施形態と同じ処理が行われた。
【0061】
<比較例4>
上述の第2の実施形態と比較するために比較例4の処理が行われた。比較例4では、第2の実施形態の前工程を行うことなく、第2の実施形態の前工程が行われる前の準備工程及び後工程が行われたことを除き、第2の実施形態と同じ処理が行われた。
【0062】
<比較例5>
比較例5では、第2の実施形態の乾燥装置10による分散液の乾燥工程の代わりに、150℃に設定された恒温槽(ヤマト科学株式会社製、型式DX600)の中で静置させた状態で約24時間の熱処理を前工程として行われたことを除き、第2の実施形態と同じ処理が行われた。
【0063】
本実施形態、及び比較例3乃至比較例5の各工程における処理が行われたことにより、以下の結果が得られた。
【0064】
表1には、第2有機溶媒中のナノ粒子の分散状態を比較した結果が示されている。なお、表中の、d10、d50、及びd90は、それぞれ以下の意味である。
(1)d10は、大塚電子株式会社製のFPAR1000で測定し、解析条件は重量基準で行った結果に基づいて求められる凝集粒子の篩(ふるい)通過側累計10%粒子径(nm)を意味する。
(2)d50は、大塚電子株式会社製のFPAR1000で測定し、解析条件は重量基準で行った結果に基づいて求められる凝集粒子の篩(ふるい)通過側累計50%粒子径(nm)を意味する。
(3)d90は、大塚電子株式会社製のFPAR1000で測定し、解析条件は重量基準で行った結果に基づいて求められる凝集粒子の篩(ふるい)通過側累計90%粒子径(nm)を意味する。
【0065】
【表1】

【0066】
表1に示すように、比較例3及び比較例4では、第2有機溶媒中のナノ粒子同士の凝集が強く残留することが明らかとなった。従って、ナノ粒子の分散状態を良好に維持するためには、少なくとも、後工程である分散工程が行われる前に、前工程としてナノ粒子の粉末化が必要であることがわかる。参考までに、図9は、比較例3におけるナノ粒子分散液中のナノ粒子のTEM(透過電子顕微鏡)像を示す写真である。
【0067】
さらに、興味深いことに、第2の実施形態のナノ粒子分散液は、恒温槽内に静置させて乾燥させることによってナノ粒子粉末を得た比較例5の場合と比較して、その分散状態が向上することが明らかとなった。従って、分散液を、静置させた状態で乾燥させるよりも、乾燥装置10のような攪拌作用と協働させて乾燥させた方が好ましいことがわかる。なお、上述の各実施形態のように、加熱気体を用い、かつ攪拌作用を生じさせて乾燥する態様は、最終的なナノ粒子分散液中のナノ粒子の分散状態と凝集性の制御という観点で、最も好ましい。
【0068】
<その他の実施形態>
ところで、上述の各実施形態のカップリング剤が、フェニルトリエトキシシラン(PTES)であったが、上述の各実施形態で適用可能なカップリング剤は、それに限定されない。例えば、シラン系カップリング剤として、シランモノマー、ビニルシラン、アミノシラン、イソシアネートシラン、アルコキシシランが適用され得る。このうち、アミノシラン、アルコキシシランを利用することは、粒子の分散性を促進するとともに、分散状態を維持するという観点からも好適な一態様である。特に好適なアミノシラン系のカップリング剤は、3−(N−フェニル)アミノプロピルトリメトキシシランである。なお、前述の観点で言えば、最も好適なアルコキシシラン系のカップリング剤は、上述の各実施形態で採用されたフェニルトリエトキシシランである。また、チタネート系カップリング剤も適用し得る。代表的なチタネート系カップリング剤は、味の素ファインテクノ(株)製、品番「プレンアクトKR TTS」である。
【0069】
さらに、前工程に導入するためのナノ粒子の表面処理方法として、上述のカップリング剤を適用する代わりに、界面活性剤を用いることも他の一態様である。上述の各実施形態に適用しうる界面活性剤は、代表的には、イオン系(陰イオン系/脂肪酸系、リン酸系、陽イオン系/アンモニア系、両性イオン系/カルボン酸系・リン酸エステル系)の界面活性剤、及び非イオン系(カルボン酸系、リン酸エステル系)の界面活性剤である。なお、本実施形態においては、粒子との結合力および安定性の観点から、界面活性剤よりもカップリング剤を用いる方が好ましい。
【0070】
また、上述の各実施形態では、第2有機溶媒としてN−メチルー2−ピロリドン(NMP)が採用されたが、第2有機溶媒はNMPに限定されない。すなわち、極性の大小を問わず、多様な有機溶媒が上述の各実施形態に適用され得る。例えば、ぺンタン、ヘキサン、オクタデカンに代表される脂肪族飽和炭化水素、ドデセン、トリデセン、ヘプタデセンに代表される脂肪族不飽和炭化水素、トルエン、キシレン、ベンゼンに代表される芳香族炭化水素、及びこれらのハロゲン化物(例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、又は四塩化炭素など)が適用され得る。また、エタノール、メタノ―ル、ブタノールに代表されるアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンに代表されるケトン、メタクリル酸メチル、サリチル酸メチル、酢酸エチンに代表されるエステル、テトラヒドロフランやジエチルエーテルに代表されるエーテル類、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)に代表されるアミド類も適用可能な第2有機溶媒として挙げられる。なお、アミド系有機溶媒の中では、溶媒の安定性、引火点の高さ、人体への影響が少ない等の観点から、N−メチルー2−ピロリドン(NMP)が採用されることが最も好ましい。
【0071】
また、上述の各実施形態では、第1有機溶媒として酢酸水溶液が用いられたが、上述の各実施形態の第1有機溶媒は、これに限定されない。例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、及びイソプロピルアルコール)が用いられても第1の実施形態とほぼ同様の効果が奏され得る。加えて、有機溶媒の代わりに、水が溶媒として用いられても良い。但し、工業的な観点から、水単独よりも水とアルコール系との水溶液が用いられることが好ましい。
【0072】
また、上述の各実施形態では、ナノ粒子としてカーボンブラックが用いられたが、本実施形態のナノ粒子は、これに限定されない。例えば、カーボンブラック以外の炭素系ナノ粒子や酸化物ナノ粒子のほか、多組成ナノ粒子であっても本実施形態とほぼ同様の効果が奏され得る。
【0073】
例えば、酸化物ナノ粒子の一例として、二酸化チタン(TiO)と二酸化ケイ素(SiO)とが2対8の比率で複合された複合酸化物ナノ粒子が挙げられる。具体的には、BET比表面積が100.7m/gであり、BET換算径が22nmである前述の複合酸化物ナノ粒子が採用された点、及び前工程が行われる前の準備工程におけるカップリング剤の添加量が2.2μmol/m〜38.4μmol/mである点を除いて、第2の実施形態と同じ処理が行われた。その結果を表2に示す。
【0074】
【表2】

【0075】
表2に示すように、カップリング剤の添加量が4.6μmol/m以上32μmol/m以下であれば、平均凝集粒子径が150nm以下に抑えられることが分かった。従って、上述の複合酸化物ナノ粒子についても、平均凝集粒子径が70nm以上150nm以下のナノ粒子が分散されているナノ粒子分散液を得ることができる。なお、二酸化チタン(TiO)と二酸化ケイ素(SiO)との複合酸化物ナノ粒子においては、それらの複合比が、TiOについて10%以上30%以下であり、SiOについて70%以上90%以下の範囲であれば、上述の実施形態と同様の効果が奏され得る。
【0076】
また、上述の各実施形態では、前工程としての乾燥工程において、乾燥装置10が採用されたが、この乾燥工程として適用され得る装置は、これに限定されない。例えば、特開平8−71441号公報に開示されている、懸濁液を乾燥するための装置も適用され得る。但し、乾燥装置10の場合、乾燥部11内に分級ローターを有することにより、所定の粒径範囲に達した粉末のみが回収されるとともに、凝集または乾燥途中である等の理由で所定の粒径に達していないものは更に乾燥と粉末化処理が継続される。従って、所望の良好な、換言すれば、望ましい粒径の粉末のみを得ることが出来るという観点から、乾燥装置10の基本的構成を備える装置を採用することは好ましい一態様である。
【0077】
また、上述の各実施形態では、乾燥装置10が温度制御部18a,18bを備えていたが、上述の各実施形態の構成はそのような構成に限定されない。但し、ナノ粒子の粉末化の効率向上の観点から、前述の所定の温度範囲が120℃以上180℃以下とすることが好ましい。なお、自動で前述の加熱気流の温度調整を行う場合は、公知のフィードバック制御方法により、分散液又は加熱気体の送給手段に対して電気信号や光信号等の公知の伝達手段によって指示が送られる。そのフィードバック制御をコンピュータ60が担っても良いが、その他のコンピュータがその制御及び管理を行ってもよい。
【0078】
加えて、上述の各実施形態では、分散工程を最終工程としてナノ粒子分散液を製造していたが、分散工程の後に、製造工程における何らかの理由でその分散液中に残留し得る、ナノ粒子同士が凝集し合ってできた粗大な凝集粒子や凝集塊、ビーズ37、又はその他の破砕片などを除去する工程が追加されても良い。例えば、巴工業株式会社製のASM円筒型超遠心分離機を用いて粗大粒子のみを捕獲することにより、第1の実施形態で得られる粒度分布よりも粒度の揃ったナノ粒子分散液を得ることも、他の好ましい一態様である。
【0079】
さらに、上述の各実施形態では、後工程(分散工程)における湿式粉砕機30bに使用されるビーズ37のビーズ径が30μm又は100μmであったが、上述の各実施形態で適用可能なビーズ径は、それらに限定されない。例えば、そのビーズ径が、15μm以上300μm以下の粒径のビーズが採用されれば、上述の実施形態の効果の少なくとも一部の効果が奏され得る。
【0080】
例えば、第2の実施形態の後工程(分散工程)における湿式粉砕機30bに使用されるビーズ37のビーズ径が300μmであることを除いて第2の実施形態と同じ処理が行われたとき、d10は、71nmであり、d50は、100nmであり、d90は、186であった。
【0081】
以上、述べたとおり、各実施形態の他の組合せを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
【産業上の利用可能性】
【0082】
本発明は、素材技術分野、情報機器分野、電子機器分野、医療機器分野、及び環境技術分野など、各種の製品の一部として広範に適用され得る。
【符号の説明】
【0083】
10 乾燥装置
11 乾燥部
12a 分散液供給口
12b 加熱気体供給口
13 媒体ボール
14 分散液供給制御部
16 分級部
16a モーター
16b 分級ローター駆動部
16c 分級ローター
17 排出部
18a,18b 温度制御部
19 攪拌ローター駆動部
20 捕集機
24 導入口
26 捕集物排出口
27 気体排出口
28 ブロワー
30 分散装置
30a 攪拌機
30b 湿式粉砕機
31 攪拌槽
31a 攪拌槽排出口
32a 攪拌ローター駆動部
32b 攪拌ローター
33 ポンプ
33a,33b 配管
34 粉砕室
35a 粉砕室導入口
35b 粉砕室排出口
36a 粉砕ローター駆動部
36b 粉砕ローター軸
36c 粉砕ディスク
37 ビーズ
41 分散液膜
42 ナノ粒子粉末
43 ナノ粒子
100 ナノ粒子分散液の製造システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カップリング剤とナノ粒子とを水又は第1有機溶媒中に分散させた分散液を、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とにより前記分散液を乾燥して前記ナノ粒子を粉末化する乾燥装置と、
湿式粉砕機と攪拌機との間を循環させることにより、前記乾燥装置によって粉末化された前記ナノ粒子を第2有機溶媒中に分散させる分散装置と、を備える
ナノ粒子分散液の製造システム。
【請求項2】
前記乾燥装置が、前記加熱気流とともに前記ナノ粒子を排出する排出部を備え、かつ
前記排出部における前記加熱気流の排出温度を感知する温度感知装置をさらに備える
請求項1に記載のナノ粒子分散液の製造システム。
【請求項3】
前記乾燥装置が、前記加熱気流とともに前記ナノ粒子を排出する排出部を備え、かつ
前記排出部における前記加熱気流の排出温度を100℃以上200℃以下に制御する温度制御装置をさらに備える
請求項1に記載のナノ粒子分散液の製造システム。
【請求項4】
前記カップリング剤が、0.9μmol/m以上7.8μmol/m未満のフィニルトリエトキシシラン(PTES)であり、
前記ナノ粒子が、カーボン系粒子であり、かつ
前記第1有機溶媒及び前記第2有機溶媒が、N−メチルー2−ピロリドン(NMP)である
請求項1に記載のナノ粒子分散液の製造システム。
【請求項5】
前記カップリング剤が、4.6μmol/m以上32μmol/m未満のフィニルトリエトキシシラン(PTES)であり、
前記ナノ粒子が、酸化物ナノ粒子又は複合酸化物ナノ粒子であり、かつ
前記第1有機溶媒及び前記第2有機溶媒が、N−メチルー2−ピロリドン(NMP)である
請求項1に記載のナノ粒子分散液の製造システム。
【請求項6】
前記湿式粉砕機は、15μm以上300μm以下の粒径のビーズを用いる湿式ビーズミルである
請求項1乃至請求項5のいずれか1項に記載のナノ粒子分散液の製造システム。
【請求項7】
カップリング剤とナノ粒子とを水又は第1有機溶媒中に分散させた分散液を、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とにより前記分散液を乾燥して前記ナノ粒子を粉末化する乾燥工程と、
前記乾燥工程の後に、粉末化された前記ナノ粒子を第2有機溶媒中に導入し、湿式粉砕機と攪拌機の間を循環させることにより、前記第2有機溶媒中に前記ナノ粒子を分散させる分散工程と、を含む
ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
前記加熱気流は前記ナノ粒子とともに排出され、かつ
前記加熱気流の排出温度が100℃以上200℃以下である
請求項7に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項9】
前記湿式粉砕機は、15μm以上300μm以下の粒径のビーズを用いる湿式ビーズミルである
請求項7又は請求項8に記載のナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項10】
フィニルトリエトキシシラン(PTES)と結合、化学吸着、又は物理吸着する表面を有するとともに平均凝集粒子径が20nm以上150nm以下のカーボンブラックが、N−メチルー2−ピロリドン(NMP)中に分散されている
ナノ粒子分散液。
【請求項11】
フィニルトリエトキシシラン(PTES)と結合、化学吸着、又は物理吸着する表面を有するとともに平均凝集粒子径が70nm以上150nm以下の酸化物ナノ粒子又は複合酸化物ナノ粒子が、N−メチルー2−ピロリドン(NMP)中に分散されている
ナノ粒子分散液。
【請求項12】
カップリング剤とナノ粒子とを水又は第1有機溶媒中に分散させた分散液を、下方から上方に向けて送られる加熱気流と攪拌手段とにより前記分散液を乾燥して前記ナノ粒子を粉末化する乾燥ステップと、
前記乾燥ステップの後に、粉末化された前記ナノ粒子を第2有機溶媒中に導入し、湿式粉砕機と攪拌機の間を循環させることにより、前記2有機溶媒中に前記ナノ粒子を分散させる分散ステップと、を含む
ナノ粒子分散液の製造プログラム。
【請求項13】
前記加熱気流は前記ナノ粒子とともに排出され、かつ
前記排出部の前記加熱気流の排出温度を100℃以上200℃以下となるように制御する制御ステップをさらに含む
請求項12に記載のナノ粒子分散液の製造プログラム。
【請求項14】
請求項12又は請求項13に記載の製造プログラムを記録した記録媒体。
【請求項15】
請求項12又は請求項13に記載の製造プログラムにより制御される制御部を備えた
ナノ粒子分散液の製造システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−167578(P2011−167578A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−30791(P2010−30791)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(000113355)ホソカワミクロン株式会社 (43)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】