説明

ナノ粒子分散高性能液状流体、該流体の製造方法および装置、該流体の漏洩検出方法

【課題】各種産業に利用されている液状流体において、その構成物質が有する諸特性の内より増強したい特性とより抑制したい特性とを希望通りに増強もしくは抑制する技術を提供する。
【解決手段】液状流体に分散させるナノ粒子の表面に酸化膜が存在しない状態とすることによりナノ粒子の均一分散度を向上させ、それにより液状流体の諸特性の抑制もしくは増強を図る。炎色反応を有する物質を含む液状流体にナノ粒子を均一に分散させて前記流体の発光を高輝度化させ、該流体の所在を容易に確認する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原子炉の冷却用液体ナトリウムなどの液状流体を母材としてこれにナノ粒子を均一に分散混合することにより液状流体を高性能化したナノ粒子分散高性能液状流体と、該液状流体の製造方法、該液状流体の製造装置、および液状流体の漏洩検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
各種産業において液状流体として使用されているものには、例えば、高速増殖炉の冷却材用液体ナトリウムや、各種設備に設置される熱交換器用の熱媒体や、油圧機械用の非圧縮流体を始めとして、多種多様な液状流体がある。これらの液状流体にはその物質固有の幾つかの特性があるが、その使用目的から判断した場合、より高めたい特性もあれば、より抑制したい特性もある。例えば、前記冷却用液体ナトリウムには空気や水と接触すると爆発にまで至る程の激しい反応性がある。
【0003】
かかる液状流体の固有の特性と使用目的から望まれる特性との関係について、冷却用液体ナトリウムを例にとって、以下にさらに詳しく検討する。
ナトリウムが高速増殖炉の冷却材として使用されている理由は、(i)ナトリウムの熱伝導度が水の約100倍もあり、熱を効率よく伝えることができること、(ii)中性子を減速しにくく、原子炉材料との共存性が良いこと、(iii)沸点が約880℃と高いので、熱搬送先で熱エネルギーを水蒸気に移した場合、約480℃の高い温度の蒸気を得ることができ、熱効率の良い発電が可能になること、(iv)高速増殖炉の運転温度である約500℃より沸点が高い(約880℃)ので、圧力を加えなくても液体のままにすることができ、原子炉や配管に強い圧力をかけないで済み、そのため万一ナトリウムの漏洩が生じても、急速に流出せず、原子炉の冷却能力を喪失するおそれがないこと、などの優れた特性を有している点にある(非特許文献1)。
【0004】
これに対して、ナトリウムは空気や水に接すると爆発にまで至るような激しい反応をする特性を有するが、この特性は、高速増殖炉の冷却材としての利用という目的から考えると、配管等から漏洩したときに空気や水に接触する可能性があるため、抑制すべき特性である。
【0005】
【非特許文献1】基礎高速炉工学編集委員会(編):基礎高速炉工学, 日刊工業新聞社(1993年10月)刊
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前述のように、高速増殖炉の冷却材用液体ナトリウムを始めとし、各種液状流体には、その構成物質が有する諸特性の内より増強したい特性とより抑制したい特性とが同居状態にあり、それらの特性の増強および抑制が希望通りに実現できれば、各種産業に大きな寄与ができると考えられる。しかしながら、そのような技術は、現在のところ、実現されていない。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、その課題は、各種産業に利用されている液状流体において、その構成物質が有する諸特性の内より用途に応じて増強したい特性とより抑制したい特性とを希望通りに増強もしくは抑制する(以下、高性能化と記す)技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を解決するために、鋭意実験検討を重ねたところ、以下のような知見を得るに至った。
すなわち、(1)液状流体、例えば液体ナトリウムに、ナノサイズの超微粒子物質(例えば、ニッケル超微粒子)を混合分散すると、そのナノ粒子分散液体ナトリウムは、空気や水に対する反応性を大幅に低減し、さらに配管のひび割れの割れ目などの狭隘な隙間を通過しにくくなるなど流動特性に変化が生じることが確認された。さらに他の液状流体においても毒性の低減、伝熱特性の向上などの変化が生じる。
なお、ここでいうナノ粒子の構成物質としては、金属および非金属から選ばれる少なくとも一種である。前記金属としては、銅(Cu)、ニッケル(Ni)、チタン(Ti)、コバルト(Co)等の単元素金属およびそれらの酸化物、窒化物、ケイ化物等の金属化合物、ステンレス鋼やクロムモリブデン鋼等の合金などが挙げられる。また、前記非金属としては、ケイ素や、炭素などが挙げられる。これら金属または非金属物質を粒径1000ナノメータ以下、好ましくは0.1から500ナノメータ、より好ましくは1〜100ナノメータに粉砕することでナノ粒子を得ることができる。また、ナノ粒子として現在市販されているものがあり、例えば、住友電工株式会社製の「ニッケル微粉末」、「銅微粉末」、「コバルト微粉末」;日本ナノテク株式会社製の「ニッケルメタルナノパウダー」、「銅メタルナノパウダー」、「コバルトメタルナノパウダー」等が入手可能である。
【0009】
(2)当初、これらの顕著な効果には幾分かのばらつきが認められたため、その効果を安定して繰り返し得られることを目標に、本発明者等は、さらに実験検討を重ねた。その結果、前記効果の信頼性を高めるためには、ナノ粒子が液状流体中に均一に分散している必要があることが判明した。そして、この均一分散を可能にするためには、ナノ粒子の表面に酸化膜が形成されていないことが重要な因子であることが判明した。ナノ粒子の表面に酸化膜があると、母材である液体ナトリウムとの親和性(親液性)が良くない。そのため、液体ナトリウムの撹拌を充分に行いながらナノ粒子を混合させても、ナノ粒子は液体ナトリウム中で部分的に凝集してしまい、均一に分散しない。これに対して、ナノ粒子の表面の酸化膜を除去もしくは還元して酸化膜が存在しない状態にすると、母材である液体ナトリウムとの親和性が良好となる。その結果、液体ナトリウムを撹拌しながらナノ粒子を混合すると、容易に分散し、かつ均一化する。
【0010】
(3)次に、前記ナノ粒子表面に酸化膜がない状態を実現するための具体的方法を検討した。まず、大きく分けて、(a)ナノ粒子を液体ナトリウムに混合する前に酸化膜を除去する方法と、(b)混合しながら酸化膜を除去する方法と、(c)ナノ粒子を製造する際にナトリウム原子で粒子の表面を覆ってしまう方法、換言すればナノ粒子の表面に酸化膜が形成される前に表面をナトリウム原子で覆ってしまう方法とが実現可能であることが判明した。
前記(a)の方法は具体的には酸化膜が形成されているナノ粒子を水素ガス雰囲気下に置くことで実現される。次に(b)の方法は液体ナトリウムにナノ粒子を混合する前または後に酸素除去剤を混入して撹拌することにより実現される。酸化膜は撹拌処理中に還元される。最後の(c)の方法は新規な装置により実現される。すなわち、不活性ガス雰囲気下で、ナトリウムと、前記ナノ粒子とする物質とを気化混合する蒸発チャンバーと、前記蒸発チャンバーに細孔を介して連結され、該細孔から噴出された前記蒸発チャンバー内の気化混合物を真空雰囲気下で受けて、該気化混合物中の、ナノ粒子の表面にナトリウム原子が吸着した形態のナノ粒子・ナトリウム複合体と、その他の原子状のナトリウムおよびナノ粒子とを質量差により分離する分子線チャンバーと、前記分子線チャンバーに連結され、前記分離されたナノ粒子・ナトリウム複合体を真空雰囲気下で捕集する捕集チャンバーとを少なくとも有する製造装置によって、ナトリウム原子で表面を覆われて表面酸化膜のないナノ粒子を得ることができる。
【0011】
(4)前記一連の実験検討を重ねる中で、液状流体が有する他の固有な特性を大きく増強する事実を確認するに至った。炎光や放電などの所定のエネルギーを印加されることによってその構成原子が輝線スペクトル光を発する物質があるが、かかる物質を少なくとも含有する液状流体にナノ粒子を添加すると、その輝線スペクトル光の輝度が大幅に増加することが確認された。例えば、不活性ガス雰囲気下で液体ナトリウム中にナノ粒子を均一に分散すると、そのナトリウムD線発光は、暗闇に置かれれば、肉眼でも確認できる程に高輝度化されることが確認された。
人間の肉眼で確認できる光、いわゆる可視光は波長域が約400nm〜800nmの光である。これに対して、ナトリウムD線発光の波長は589.6nmであり、充分な輝度があれば、黄色光として肉眼で確認することができる。しかし、ナトリウムD線発光は炎光や放電によって励起しない限り、極度に輝度が低く、肉眼はもとより光検出器によっても検知できない。図9に示すように、従来、高速増殖炉では配管や容器等の不透明壁1からの液体ナトリウムの漏洩の有無を検出するために検査箇所の発生ガス(ナトリウムガス)2に波長可変レーザ3からレーザ光を照射して漏洩ナトリウムガス2の微弱なナトリウムD線発光を励起増幅し、その励起した原子蛍光4をレンズ5により集光して光検出器6により検出していた。かかる従来の漏洩検出装置では、前記光検出器6は分光器6aとICCD(Image Intensified Charged Couple Device:イメージ・インテンシファイド電荷結合素子)検出器6bとから構成されている。前記波長可変レーザ3の照射タイミングと、前記ICCD検出器6bのシャッター開閉制御とは、制御装置7によって行われている。それは、波長可変レーザ3のレーザ照射によって検査箇所の不活性ガス雰囲気ガスも励起されて発光するためであり、この雰囲気ガスの発光寿命とナトリウムガス2の原子蛍光4の寿命とがずれているためである。すなわち、レーザ照射後、不活性ガス雰囲気ガスの発光が先に減衰し、ナトリウムガス2の原子蛍光4が遅れて減衰するため、雰囲気ガス発光の減衰後にICCD検出器6bのシャッターを開ける必要があるからである。
これに対して、前述のように液体ナトリウムにナノ粒子を均一分散させるのみで、ナトリウムD線発光が肉眼により検知可能なレベルにまで高輝度化されるのであれば、可変波長レーザを使用する必要がなく、不活性ガス雰囲気ガスの励起を伴うことがなくなり、それにより光検出器と光学系だけの簡易な構成の漏洩検出器で容易に漏洩ガスを検知できることになる。したがって、従来の液状流体の替わりに本発明のナノ粒子分散高性能液状流体を用いれば、漏洩検査のための設備コスト、ランニングコストの大幅な削減が可能になる。これは冷却用液体ナトリウムのみに限らず、従来の液状流体一般の漏洩や所在(例えば移動速度や拡散速度など)を簡易に確認できることになり、その特性を利用することに伴うコストの削減、利便性の獲得などの産業上の利益は計り知れない程大きなものとなる。
【0012】
本発明は前述の知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明の[請求項1]にかかるナノ粒子分散高性能液状流体は、液状流体を母材としてこれにナノ粒子が均一に分散混合されて高性能化されたナノ粒子分散高性能液状流体であって、前記液状流体母材中の前記ナノ粒子の表面には酸化膜が存在せず、該ナノ粒子が前記液状流体母材中に均一に分散していることを特徴とする。
【0013】
本発明の[請求項2]のナノ粒子分散高性能液状流体は、前記[請求項1]に記載のナノ粒子分散高性能液状流体において、前記ナノ粒子が、金属または非金属から選ばれる少なくとも一種の超微粒子体であることを特徴とする。
【0014】
本発明の[請求項3]のナノ粒子分散高性能液状流体は、前記[請求項1]または[請求項2]に記載のナノ粒子分散高性能液状流体において、前記ナノ粒子の粒径が直径で1000ナノメートル以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明の[請求項4]のナノ粒子分散高性能液状流体は、前記[請求項1]から[請求項3]のいずれか1項に記載のナノ粒子分散高性能液状流体において、前記高性能化が前記母材としての液状流体が有する固有の反応性の低減化であることを特徴とする。
【0016】
本発明の[請求項5]のナノ粒子分散高性能液状流体は、前記[請求項1]から[請求項4]のいずれか1項に記載のナノ粒子分散高性能液状流体において、前記母材である液状流体が液体ナトリウムであることを特徴とする。
【0017】
本発明の[請求項6]のナノ粒子分散高性能液状流体は、前記[請求項5]に記載のナノ粒子分散高性能液状流体において、前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムが有する空気や水に対する反応性の低減化であることを特徴とする。
【0018】
本発明の[請求項7]のナノ粒子分散高性能液状流体は、前記[請求項5]に記載のナノ粒子分散高性能液状流体において、前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムが有する狭隘路浸出性の低減化であることを特徴とする。
【0019】
本発明の[請求項8]のナノ粒子分散高性能液状流体は、前記[請求項5]に記載のナノ粒子分散高性能液状流体において、前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムに固有のD線発光の高輝度化であることを特徴とする。
【0020】
本発明の[請求項9]は、ナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法にかかるものであり、この製造方法は、ナノ粒子を該微粒子の表面に酸化膜が存在しないように処理した後、液状流体に均一に分散させることにより前記液状流体を高性能化することを特徴とする。
【0021】
本発明の[請求項10]にかかるナノ粒子分散高機能液状流体の製造方法は、前記[請求項9]に記載の製造方法において、前記ナノ粒子の表面酸化膜の除去を該ナノ粒子を水素ガス雰囲気下に所定時間おくことによって実現することを特徴とする。
【0022】
本発明の[請求項11]にかかるナノ粒子分散高機能液状流体の製造方法は、ナノ粒子を液状流体に混合させると同時に前記ナノ粒子の表面酸化膜を還元して前記ナノ粒子を前記液状流体に均一に分散させることにより前記液状流体を高性能化することを特徴とする。
【0023】
本発明の[請求項12]にかかるナノ粒子分散高機能液状流体の製造方法は、前記[請求項11]に記載の製造方法において、前記ナノ粒子の表面酸化膜の還元を、前記液状流体に前記ナノ粒子を添加する前または添加後に前記液状流体中に酸素除去剤を投入することにより、実現することを特徴とする。
【0024】
本発明の[請求項13]にかかるナノ粒子分散高機能液状流体の製造方法は、前記[請求項12]に記載の製造方法において、酸化物とするときの標準生成自由エネルギー値が前記ナノ粒子および液状流体を構成する物質が酸化物となる場合の標準生成自由エネルギーより小さい物質を、前記酸素除去剤として用いることを特徴とする。
【0025】
本発明の[請求項14]にかかるナノ粒子分散高機能液状流体の製造方法は、前記液状流体とする物質と、前記ナノ粒子とする物質とを不活性ガス雰囲気下で気化混合し、この気化混合物を細孔から真空雰囲気下に噴出させることによって、前記気化混合により生成したナノ粒子の表面に液状流体とする物質の構成原子が吸着した形態のナノ粒子・流体原子複合体と、その他の原子状の液状流体構成物質およびナノ粒子とを質量差により分離し、分離した前記ナノ粒子・流体原子複合体を母材とする液状流体に分散させることを特徴とする。
【0026】
本発明の[請求項15]にかかるナノ粒子分散高機能液状流体の製造方法は、前記[請求項9]から[請求項14]のいずれか1項に記載の製造方法において、前記ナノ粒子が、金属または非金属から選ばれる少なくとも一種の超微粒子体であることを特徴とする。
【0027】
本発明の[請求項16]にかかるナノ粒子分散高機能液状流体の製造方法は、前記[請求項9]から[請求項15]のいずれか1項に記載の製造方法において、前記ナノ粒子の粒径が直径で1000ナノメートル以下であることを特徴とする。
【0028】
本発明の[請求項17]にかかるナノ粒子分散高機能液状流体の製造方法は、前記[請求項9]から[請求項16]のいずれか1項に記載の製造方法において、前記高性能化が前記母材としての液状流体が有する固有の反応性の低減化であることを特徴とする。
【0029】
本発明の[請求項18]にかかるナノ粒子分散高機能液状流体の製造方法は、前記[請求項9]から[請求項17]のいずれか1項に記載の製造方法において、前記母材である液状流体が液体ナトリウムであることを特徴とする。
【0030】
本発明の[請求項19]にかかるナノ粒子分散高機能液状流体の製造方法は、前記[請求項18]に記載の製造方法において、前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムが有する空気や水に対する反応性の低減化であることを特徴とする。
【0031】
本発明の[請求項20]にかかるナノ粒子分散高機能液状流体の製造方法は、前記[請求項18]に記載の製造方法において、前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムが有する狭隘路浸出性の低減化であることを特徴とする。
【0032】
本発明の[請求項21]にかかるナノ粒子分散高機能液状流体の製造方法は、前記[請求項18]に記載の製造方法において、前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムに固有のD線発光の高輝度化であることを特徴とする。
【0033】
本発明の[請求項22]はナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置にかかるもので、この製造装置は、液状流体を母材としてこれにナノ粒子が分散混合されて高性能化されたナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置であって、不活性ガス雰囲気下で、前記液状流体とする物質と、前記ナノ粒子とする物質とを気化混合する蒸発チャンバーと、前記蒸発チャンバーに細孔を介して連結され、該細孔から噴出された前記蒸発チャンバー内の気化混合物を真空雰囲気下で受けて、該気化混合物中に形成される「ナノ粒子の表面に液状流体物質の構成原子が吸着した形態のナノ粒子・液状流体構成原子複合体(以下、ナノ粒子・流体原子複合体と記す)」と、その他の原子状の液状流体構成物質およびナノ粒子とを質量差により分離する分子線チャンバーと、前記分子線チャンバーに連結され、前記分離されたナノ粒子・流体原子複合体を真空雰囲気下で捕集する捕集チャンバーとを少なくとも有することを特徴とする。
【0034】
本発明の[請求項23]にかかるナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置は、前記[請求項22]に記載の製造装置において、前記捕集チャンバーの下流に前記ナノ粒子・流体原子複合体を液状流体に混合分散させる均一混合手段が設けられていることを特徴とする。
【0035】
本発明の[請求項24]にかかるナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置は、前記[請求項22]または[請求項23]に記載の製造装置において、前記ナノ粒子が、金属または非金属から選ばれる少なくとも一種の超微粒子体であることを特徴とする。
【0036】
本発明の[請求項25]にかかるナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置は、前記[請求項22]または[請求項24]のいずれか1項に記載の製造装置において、前記ナノ粒子の粒径が直径で1000ナノメートル以下に形成されることを特徴とする。
【0037】
本発明の[請求項26]にかかるナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置は、前記[請求項22]または[請求項25]のいずれか1項に記載の製造装置において、前記高性能化が前記母材としての液状流体が有する固有の反応性の低減化であることを特徴とする。
【0038】
本発明の[請求項27]にかかるナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置は、前記[請求項22]または[請求項26]のいずれか1項に記載の製造装置において、前記母材である液状流体が液体ナトリウムであることを特徴とする。
【0039】
本発明の[請求項28]にかかるナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置は、前記[請求項27]に記載の製造装置において、前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムが有する空気や水に対する反応性の低減化であることを特徴とする。
【0040】
本発明の[請求項29]にかかるナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置は、前記[請求項27]に記載の製造装置において、前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムが有する狭隘路浸出性の低減化であることを特徴とする。
【0041】
本発明の[請求項30]にかかるナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置は、前記[請求項27]に記載の製造装置において、前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムに固有のD線発光の高輝度化であることを特徴とする。
【0042】
本発明の[請求項31]は、液状流体の漏洩検出方法にかかるもので、この漏洩検出方法は、炎色反応を有する物質を少なくとも含む液状流体にナノ粒子を均一に分散させて前記液状流体の発光を高輝度化させ、該液状流体が不透明壁を介して漏洩した場合にその漏洩液状流体の高輝度化された発光を検知することによって、前記漏洩を簡易かつ迅速に検出することを特徴とする。
【0043】
本発明の[請求項32]にかかる液状流体の漏洩検出方法は、前記[請求項31]に記載の漏洩検出方法において、前記液状流体が液体ナトリウムであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0044】
本発明のナノ粒子分散液状流体は、液状流体を母材としてこれにナノ粒子が均一に分散混合されて高性能化されたナノ粒子分散高性能液状流体であって、前記液状流体母材中の前記ナノ粒子の表面には酸化膜が存在せず、該ナノ粒子が前記液状流体母材中に均一に分散していることを特徴とするものである。かかる構成によって、液状流体が有する固有の諸特性の内からその使用目的において増強したい特性とより抑制したい特性とを希望通りに増強もしくは抑制することが可能となる。したがって、本発明によれば、単に各種産業分野において従来使用されている液状流体にナノ粒子を表面に酸化膜が存在しない状態で混合して均一に分散させるだけで高性能な代替液状流体を安価に提供できるため、産業上の利用効果は絶大である。特に発光特性を有する液状流体に適用した場合、その発光の輝度を大幅に増加することができ、その液状流体の漏洩の検出や所在の確認(移動速度や拡散速度の測定など)などが容易になるという顕著な効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を好適に説明するための例示に過ぎず、なんら本発明を限定するものではない。
【0046】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明のナノ粒子分散高性能液状流体を構成する「表面酸化膜を持たないナノ粒子」を得るためのナノ粒子水素還元装置の概略構成図である。図中符号10はナノ粒子11を収納するガラス管であり、このガラス管10はゴールドファーネス12に固定されている。前記ガラス管10にはガス流入管13とガス流出管14とが接続されており、各管13,14にはそれぞれ開閉弁13a、14aが介装されている。前記ガス流入管13の上流には流量計15が介装され、さらにその上流にはガス混合器16が接続されている。前記混合器16には二つのガス配管が接続されており、両方のガス配管にはそれぞれマスフローコントローラ18,19が介装されている。前記配管の一方の先には水素ガスボンベ20が接続され、他方には窒素ガスボンベ21が接続されている。前記ガラス管10は不図示の閉栓手段により気密状態で流路から取り外すことができるようになっている。なお、図中符号22は分岐管であり、この分岐管22には開閉弁22aが介装されており、開閉弁22aを開くことにより配管系のガス抜きが可能になっている。
【0047】
前記水素還元装置によるナノ粒子の表面酸化膜の還元処理は、次にようにして実施される。まず、ガラス管10内に表面に酸化膜が形成されてしまっているナノ粒子を収納する。開閉弁13a、14aを開き、水素ボンベ20と窒素ボンベ21との閉止弁を開き、各マスフローコントローラ18,19を調整して所望の混合割合の水素−窒素混合ガスを混合器16において調製する。この混合ガスを所定の流量で流量計15にてモニターしながら前記ガラス管10内に供給する。ガラス管10内のナノ粒子11は所定流量の水素−窒素混合ガスにさらされて、その表面の酸化膜が還元され、表面酸化膜のないナノ粒子となる。経験的に設定した還元時間が経過したら、ガス抜き用の開閉弁22aを開くとともに開閉弁14aを閉じ、次に開閉弁13aを閉じる。その後、ガラス管10の不図示の閉栓手段により気密状態にして、ガス流路から取り外し、液体ナトリウムなどの液状流体への分散工程に搬送する。
上記水素還元装置による水素還元条件の具体的一例を挙げれば、水素濃度が100%の場合、ナノ粒子0.1gを還元処理するには、処理温度180℃で、ガス流量が100〜200mL/分、処理時間が6〜60秒である。
【0048】
液状流体への分散工程では、ルツボ等の容器に満たした液状流体に前記ガラス管10からナノ粒子を液状流体を撹拌しながら流し入れる。液状流体へのナノ粒子の混合量は少なくとも10ppmで所望の効果が得られる。望ましくは50ppmの混合が良いし、100ppm混合すれば、充分である。ナノ粒子は前述の水素還元処理によって、表面に酸化膜がない状態に処理されているので、液状流体への親和性が高く、容易に混合され、均一に分散する。この均一分散をより良好とするためには、ナノ粒子の粒度分布は可能な限り狭い方が望ましい。
【0049】
(第2の実施の形態)
図2は実験室規模のナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置の一例を示すものである。この製造装置は、液状流体として液体ナトリウムを使用した場合の装置である。
図中符号30はマントルヒータ31内に設置されたセラミック製ルツボであり、内部には液体ナトリウム32が満たされており、250℃〜350℃に維持され、不活性ガス下に置かれている。このルツボ30のほぼ中央には撹拌装置33の撹拌プロペラ33aが挿入され、側壁近くには温度測定用の熱電対34が挿入されている。さらにルツボ30内には内壁に沿って螺旋をなすように成形されたアルミニウム線35が酸素除去剤として設置されている。
【0050】
前記構成のナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置によるナノ粒子の表面酸化膜の除去とナノ粒子分散高性能液状流体の同時製造は、次のようにして実施される。
例えば、ナノ粒子としてニッケル超微粒子を用いる。このニッケル超微粒子は通常製造直後に既に酸化膜が形成されるので、表面酸化膜が存在することは前提で使用される。このナノ粒子をルツボ30内の液体ナトリウム32にナトリウム全量の20から30質量%(過剰量であり、最終的均一分散濃度は10ppm〜100ppmに落ち着く。余剰分は沈殿する。)になるまで徐々に添加していく。この間、撹拌プロペラ33aを常時回転させて液体ナトリウム32を充分に撹拌する。アルミニウム線35を構成するアルミニウムは、その酸化物を生成する場合の標準生成自由エネルギーが図3のグラフに示すように、ナトリウムやニッケルより低いので、ニッケルに結合している酸素はニッケルから遊離してアルミニウムに結合することになる。その結果、ニッケル超微粒子の表面酸化膜が還元され、ニッケル超微粒子の表面には酸化膜が存在しない状態になる。表面に酸化膜を持たないニッケル超微粒子は液体ナトリウム32と親和性が良好であるので、容易に分散し、液体ナトリウム32中に均一に分布するようになる。正確には不図示のステンレス製のサンプリング管などを用いてサンプリングし、そのサンプルの温度を下げて固化させたブロックの断面を観察してニッケル微粒子の沈殿や凝集がないか否かを観察することにより確認できる。
【0051】
このように液状流体中に予め酸素除去剤を投入しておき、液状流体を撹拌しながらナノ粒子を混合することで、ナノ粒子の表面酸化膜を除去しつつナノ粒子の均一分散を図るので、効率的にナノ粒子分散高性能液状流体を製造できる利点がある。
なお、この第2の実施の形態では、アルミニウム線(酸素除去剤)を予めルツボに満たした液体ナトリウム中に設置しておいたが、ニッケル超微粒子を添加混合し始めた後からアルミニウム線を投入しても同様な効果を得ることができる。
【0052】
(第3の実施の形態)
図4および図5は、ナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置の他の形態を示すものである。この製造装置は、順次連結されてなる蒸発チャンバー40と、分子線チャンバー41と、捕集チャンバー42とからなる装置である。
前記蒸発チャンバー41は、不活性ガス雰囲気下で、液状流体とする物質(例えば、ナトリウム)と、ナノ粒子とする物質(例えば、ニッケル)とを気化混合するチャンバーである。
前記分子線チャンバー41は、前記蒸発チャンバー40に細孔43を介して連結され、前記細孔43から噴出された前記蒸発チャンバー40内の気化混合物44を真空雰囲気下で受けて、該気化混合物中に形成される「ナノ粒子の表面に液状流体物質の構成原子が吸着した形態のナノ粒子・液状流体構成原子複合体(以下、ナノ粒子・流体原子複合体と記す)」45と、その他の原子状の液状流体構成物質およびナノ粒子46とを質量差により分離するチャンバーである。
前記捕集チャンバー42は、前記分子線チャンバー41に連結され、前記分離されたナノ粒子・流体原子複合体45を真空雰囲気下で捕集するチャンバーである。
【0053】
前記蒸発チャンバー40のさらに詳しい構造を図5に示す。チャンバー40の前記細孔43の対向側に開閉手段47が設けられており、チャンバー40内にHe+Ar混合ガスなどの不活性ガスが導入されるようになっている。そして、チャンバー40内には、液体流体の構成物質のブロック、例えば金属ナトリウム棒48と、ナノ粒子構成物質のブロック、例えばニッケル棒49が回転自在に設置可能となっている。これら金属ナトリウム棒48およびニッケル棒49にはそれぞれ外部からパルスレーザ光50および51が照射可能となっている。
【0054】
前記構成のチャンバー40において、混合させたい2種類の金属ロッド(金属ナトリウム棒48およびニッケル棒49)にパルスレーザ光50,51を照射することで気化させる。He+Arの混合ガスをキャリアガスとして細孔43から隣接の分子チャンバー41の真空雰囲気中に噴出させ、分子ビーム52を形成させる。このようなレーザ蒸発法では、対象の金属がかなり高融点であっても気化可能であることが利点である。前記パルスレーザ光50,51としては、例えば、銅蒸気レーザなどのYAGレーザの2倍波(波長532nm、出力300mJ)を使用し、集光レンズでレーザ光が集光されるようにする。パルスレーザを使用して金属を気化させる場合、真空装置の排気装置の負担を軽減させるために、分子ビーム52もパルス状にすることが一般的である。この分子ビーム52中には、各金属が気化してなる原子状の金属46と、ナノ粒子(ニッケル超微粒子)の表面にナトリウム原子が吸着した状態(分子状態)の前記ナノ粒子・流体原子複合体45が混在している。
【0055】
前記真空チャンバー41内は、分子線ビーム52の流れ方向に沿って順次配置されたスキマー53と54とが設けられており、これらスキマー53と54によって二室に区画されている。区画された各室にはそれぞれ不図示の真空ポンプに連結した吸引管55,56が接続されている。これらスキマー53と54によって前記分子ビーム52中の原子状物質は各室内に捕獲され、吸引管から系外に取り出される。残りのナノ粒子・流体原子複合体45はスキマー53,53に捕獲されることなく隣接の捕集チャンバー42に流される。
【0056】
捕集チャンバー42は同様に不図示の真空ポンプに連結した吸引管57が接続されており、室内を真空雰囲気下に置くようになっている。この捕集チャンバー42内には前記分子線ビーム52を垂直に遮る捕集板58が設けられている。前記分子線ビーム52は、ここに至っては、実際にはほとんどがナノ粒子・流体原子複合体45からなっており、その高速流は前記捕集板58に衝突してチャンバー42内に堆積する。
【0057】
このようにして調製され捕集されたナノ粒子・流体原子複合体45は、ナノ粒子(ニッケル超微粒子)の表面にナトリウム原子が吸着した状態の粒子もしくは凝集体(クラスター)となっており、表面部分はナトリウムが覆っているので、液状流体の母材である液体ナトリウムに添加して撹拌すれば、容易に混合し、即座に均一分散状態になる。この実施の形態の装置および製造方法によれば、ナノ粒子の作成と同時に表面が保護されるので、酸化膜が形成されることがなく、しかも表面を保護している原子が液状流体の構成物質の原子であるので、得られた複合粒子もしくはクラスターは母材である液状流体への親和性は非常に高いものとなる。したがって、良質なナノ粒子分散高性能液状流体を低コストに製造することができる。
【0058】
前述の三通りの表面酸化膜除去方法に従って作成したナノ粒子分散高性能液状流体の高性能化された特性の代表的なものについて、以下に簡単に説明する。これらの特性向上効果は、本発明に固有な酸化膜除去手段によって酸化膜が充分に除去され、ナノ粒子が液状流体に高度に均一分散した結果と判断される。
【0059】
まず、研究の当初から確認していた高性能化として、以下のような項目を挙げることができる。
(イ) 配管や容器内において使用していたナノ粒子分散高性能液状流体が漏洩した場合、漏洩量を同容積として、考察した場合、従来の液状流体に比べると、ナノ粒子が占める体積分だけ母材である液状流体の実質の漏洩量が少なくなるので、母材である液状流体自体が有する反応性または毒性が低減される。
(ロ) 前記配管や容器などに亀裂が生じた場合、均一分散しているナノ粒子が母材である液状流体の流動抵抗となり、漏洩量が従来の液状流体より大幅に低減される。
(ハ) ナノ粒子分散高性能液状流体に均一分散させたナノ粒子の外周面に母材である液状流体が層状にトラップされるため、母材である液状流体の反応性の発現をより遅らせることができる。
(ニ) ナノ粒子として適切な熱伝導率を有する金属超微粒子を選択し、これを従来の熱交換器用の熱媒体である液状流体に均一分散することにより、従来の熱媒体に比べて伝熱特性を格段に高めることができる。
【0060】
本発明者等は、本発明によって得た極めて均一分散度の高いナノ粒子分散高性能液状流体における特性についてさらに研究検討したところ、前述のような反応性の低減とは、一見、逆の特性変化が発生していることを驚きを持って知見するに至った。
具体的には、図6に示すようにルツボ30内に母材として液体ナトリウム32を満たし、この母材にナノ粒子としてニッケル超微粒子を均一分散すべく加熱下で撹拌操作している過程で、確認された。不活性ガス雰囲気下の加熱したルツボ30内でナノ粒子を均一に分散させた状態で、暗闇の環境とすると、ルツボ30中の液体ナトリウムが肉眼にて確認できる程の輝度で発光していることを確認した。ナノ粒子を混合しない液体ナトリウムは、先に図9にて説明したように肉眼にて確認できる程の輝度を持たないため、配管からの液体ナトリウムの漏洩は、メンテナンスが面倒で、占有スペースも大きい波長可変レーザ装置を用いてナトリウムD線発光を励起しなければ光検出器にても検出できなかった。それが、ナノ粒子を均一に分散させるだけで肉眼にて確認できる程に高輝度化されるのである。
【0061】
本発明者等は、前記ルツボ30を暗闇環境に置き、ルツボ30内のナノ粒子分散高性能液量流体からの炎形状の発光領域60およびその近傍をCCD撮像素子によって映像化した。その映像画像のピクセルの輝度を分析し、デジタル化することによって、炎形状の発光領域中心からの距離を横軸にとるとともに縦軸に発光輝度をとって、グラフ化した。そのグラフを図7に示した。このグラフは発光輝度の尺度としてピクセル数で表したものである。従来のナノ粒子を添加しない液体ナトリウムのみの場合を同様に映像化しても輝度ピクセルが生じないので、グラフ化することはできない。この図7に無理に表示するならば、グラフの基底線に重なることになる。図7のグラフによってナノ粒子分散ナトリウムでは発光領域の相対的輝度の上昇割合が極端に高いことが確認できる。
【0062】
(第4の実施の形態)
この第4の実施の形態は、前記液状流体の発光高輝度化現象を利用した実施の一形態を示すものである。この実施の形態は、高速増殖炉の冷却材として、液体ナトリウムにナノ粒子を均一分散させてなるナノ粒子分散高性能液体ナトリウムの漏洩を検出する装置および方法を実現するためのものである。
この実施の形態を図8を用いて説明する。図中、図9に示す構成要素と同一構成要素には同一符号を付して説明を簡略化する。配管または容器などの不透明壁1に亀裂が生じるなどして漏洩した場合、内部の冷却材が本発明にかかるナノ粒子分散高性能液体ナトリウムであれば、その漏洩したナノ粒子分散高性能液体ナトリウム70は暗闇下では肉眼にて確認できる程の輝度で発光しているので、その発光71を単に集光レンズ72にて集光して簡易な光検出器73にて測定するだけで、容易に検知することができる。
この場合、ナノ粒子分散高性能ナトリウム70はレーザ光などの外部からの励起エネルギーを印加することなく、高輝度化している。したがって、周囲の雰囲気は常態にあり、励起されていないので発光現象を生じることがない。すなわち、測定箇所に発光が確認できれば、その発光はナノ粒子分散高性能ナトリウム(蒸気)70の発光のみによるものである。したがって、シャッター機能付きのCCD撮像素子を用いて制御装置によりタイムラグを設定して測定する必要がなく、簡易な光検出器73により即時的に目的の箇所の光量を測定すれば、漏洩があるか否かをリアルタイムに知ることができる。
この場合の漏洩検出装置としては、集光レンズ72と簡易な光検出器73とを組み合わせた単純な光検出系により構成できるので、低コストかつ省スペースにて漏洩の監視を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
以上説明したように、本発明のナノ粒子分散液状流体は、液状流体母材中のナノ粒子の表面には酸化膜が存在せず、該ナノ粒子が前記液状流体母材中に均一に分散していることを特徴とするものである。かかる構成によって、液状流体が有する固有の諸特性のなかからその使用目的において増強したい特性とより抑制したい特性とを希望通りに増強もしくは抑制することが可能となる。したがって、本発明によれば、単に各種産業分野において従来使用されている液状流体にナノ粒子を表面に酸化膜が存在しない状態で混合して均一に分散させるだけで高性能な代替液状流体を安価に提供できるため、産業上の利用効果は絶大である。特に発光特性を有する液状流体に適用した場合、その発光の輝度を大幅に増加することができ、その液状流体の漏洩の検出や所在の確認(移動速度や拡散速度の測定など)などが容易になるという顕著な効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施の形態を説明するためのもので、ナノ粒子の表面酸化膜を還元するための水素還元装置の概略構成図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態を説明するためのもので、ナノ粒子の表面酸化膜の還元と該ナノ粒子の液状流体への均一分散とを同時に行うナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置の概略構成図である。
【図3】図2に示した製造装置に必須に用いられる酸素除去剤を選択する場合の基準となる酸化物生成の標準生成自由エネルギー・温度図である。
【図4】本発明の第3の実施の形態を説明するためのもので、ナノ粒子を製造すると同時に生成したナノ粒子の表面に母材とする液状流体を構成する物質の原子を結合させることを特徴とするナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置の概略構成図である。
【図5】図4に示した製造装置の一部を構成している蒸発チャンバーの詳細構成図である。
【図6】本発明のナノ粒子分散高性能液状流体における発光特性の高輝度化を説明するためのもので、ルツボ内のナノ粒子分散高性能液状流体が発光している状態を示す斜視図である。
【図7】図6に示した発光領域を映像化し、その映像から求めた発光輝度をグラフ化して示した図である。
【図8】本発明の第4の実施の形態を説明するためのもので、本発明にかかる液状流体の漏洩検出方法を示す概略構成図である。
【図9】従来の液状流体の漏洩検出方法を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0065】
1 不透明壁
2 漏洩液体ナトリウム
3 波長可変レーザ
4 光検出装置
10 ガラス管
11 ナノ粒子
12 ゴールドファーネス
13 ガス流入管
13a 開閉弁
14 ガス流出管
14a 開閉弁
15 流量計
16 混合器
18,19 マスフローコントローラ
20 水素ボンベ
21 窒素ボンベ
22 分岐管
22a 開閉弁
30 ルツボ
31 マントルヒータ
32 液体ナトリウム
33 撹拌装置
33a 撹拌プロペラ
34 熱電対
35 アルミニウム線(酸素除去剤)
40 蒸発チャンバー
41 分子線チャンバー
42 捕集チャンバー
43 細孔
44 気化混合物
45 ナノ粒子・流体原子複合体
46 原子状物質
47 開閉手段
48 金属ナトリウム棒
49 ニッケル棒
50、51 パルスレーザ光
52 分子ビーム
53,54 スキマー
55,56,57 吸引管
58 捕集板
60 発光領域
70 ナノ粒子分散高性能液体ナトリウム
71 発光
72 集光レンズ
73 簡易な光検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状流体を母材としてこれにナノ粒子が均一に分散混合されて高性能化されたナノ粒子分散高性能液状流体であって、
前記液状流体母材中の前記ナノ粒子の表面には酸化膜が存在せず、該ナノ粒子が前記液状流体母材中に均一に分散していることを特徴とするナノ粒子分散高性能液状流体。
【請求項2】
前記ナノ粒子が、金属または非金属から選ばれる少なくとも一種の超微粒子体であることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子分散高性能液状流体。
【請求項3】
前記ナノ粒子の粒径が直径で1000ナノメートル以下であることを特徴とする請求項1または2に記載のナノ粒子分散高性能液状流体。
【請求項4】
前記高性能化が前記母材としての液状流体が有する固有の反応性の低減化であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のナノ粒子分散高性能液状流体。
【請求項5】
前記母材である液状流体が液体ナトリウムであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載のナノ粒子分散高性能液状流体。
【請求項6】
前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムが有する空気や水に対する反応性の低減化であることを特徴とする請求項5に記載のナノ粒子分散高性能液状流体。
【請求項7】
前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムが有する狭隘路浸出性の低減化であることを特徴とする請求項5に記載のナノ粒子分散高性能液状流体。
【請求項8】
前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムに固有のD線発光の高輝度化であることを特徴とする請求項5に記載のナノ粒子分散高性能液状流体。
【請求項9】
ナノ粒子を該微粒子の表面に酸化膜が存在しないように処理した後、液状流体に均一に分散させることにより前記液状流体を高性能化することを特徴とするナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法。
【請求項10】
前記ナノ粒子の表面酸化膜の除去を該ナノ粒子を水素ガス雰囲気下に所定時間おくことによって実現することを特徴とする請求項9に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法。
【請求項11】
ナノ粒子を液状流体に混合させると同時に前記ナノ粒子の表面酸化膜を還元して前記ナノ粒子を前記液状流体に均一に分散させることにより前記液状流体を高性能化することを特徴とするナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法。
【請求項12】
前記ナノ粒子の表面酸化膜の還元を、前記液状流体に前記ナノ粒子を添加する前または添加後に前記液状流体中に酸素除去剤を投入することにより、実現することを特徴とする請求項11に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法。
【請求項13】
酸化物とするときの標準生成自由エネルギー値が前記ナノ粒子および液状流体を構成する物質が酸化物となる場合の標準生成自由エネルギーより小さい物質を、前記酸素除去剤として用いることを特徴とする請求項12に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法。
【請求項14】
前記液状流体とする物質と、前記ナノ粒子とする物質とを不活性ガス雰囲気下で気化混合し、この気化混合物を細孔から真空雰囲気下に噴出させることによって、前記気化混合により生成したナノ粒子の表面に液状流体とする物質の構成原子が吸着した形態のナノ粒子・流体原子複合体と、その他の原子状の液状流体構成物質およびナノ粒子とを質量差により分離し、分離した前記ナノ粒子・流体原子複合体を母材とする液状流体に分散させることを特徴とするナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法。
【請求項15】
前記ナノ粒子が、金属または非金属から選ばれる少なくとも一種の超微粒子体であることを特徴とする請求項9から14に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法。
【請求項16】
前記ナノ粒子の粒径が直径で1000ナノメートル以下であることを特徴とする請求項9から15のいずれか1項に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法。
【請求項17】
前記高性能化が前記母材としての液状流体が有する固有の反応性の低減化であることを特徴とする請求項9から16のいずれか1項に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法。
【請求項18】
前記母材である液状流体が液体ナトリウムであることを特徴とする請求項9から17のいずれか1項に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法。
【請求項19】
前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムが有する空気や水に対する反応性の低減化であることを特徴とする請求項18に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法。
【請求項20】
前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムが有する狭隘路浸出性の低減化であることを特徴とする請求項18に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法。
【請求項21】
前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムに固有のD線発光の高輝度化であることを特徴とする請求項18に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造方法。
【請求項22】
液状流体を母材としてこれにナノ粒子が分散混合されて高性能化されたナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置であって、
不活性ガス雰囲気下で、前記液状流体とする物質と、前記ナノ粒子とする物質とを気化混合する蒸発チャンバーと、
前記蒸発チャンバーに細孔を介して連結され、該細孔から噴出された前記蒸発チャンバー内の気化混合物を真空雰囲気下で受けて、該気化混合物中の、ナノ粒子の表面に液状流体とする物質の構成原子が吸着した形態のナノ粒子・流体原子複合体と、その他の原子状の液状流体構成物質およびナノ粒子とを質量差により分離する分子線チャンバーと、
前記分子線チャンバーに連結され、前記分離されたナノ粒子・流体原子複合体を真空雰囲気下で捕集する捕集チャンバーとを少なくとも有することを特徴とするナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置。
【請求項23】
前記捕集チャンバーの下流に前記ナノ粒子・流体原子複合体を液状流体に混合分散させる均一混合手段が設けられていることを特徴とする請求項22に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置。
【請求項24】
前記ナノ粒子が、金属または非金属から選ばれる少なくとも一種の超微粒子体であることを特徴とする請求項22または23に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置。
【請求項25】
前記ナノ粒子の粒径が直径で1000ナノメートル以下に形成されることを特徴とする請求項22から24のいずれか1項に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置。
【請求項26】
前記高性能化が前記母材としての液状流体が有する固有の反応性の低減化であることを特徴とする請求項22から25のいずれか1項に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置。
【請求項27】
前記母材である液状流体が液体ナトリウムであることを特徴とする請求項22から26のいずれか1項に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置。
【請求項28】
前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムが有する空気や水に対する反応性の低減化であることを特徴とする請求項27に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置。
【請求項29】
前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムが有する狭隘路浸出性の低減化であることを特徴とする請求項27に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置。
【請求項30】
前記高性能化が前記母材である液体ナトリウムに固有のD線発光の高輝度化であることを特徴とする請求項27に記載のナノ粒子分散高性能液状流体の製造装置。
【請求項31】
炎色反応を有する物質を少なくとも含む液状流体にナノ粒子を均一に分散させて前記液状流体の発光を高輝度化させ、該液状流体が不透明壁を介して漏洩した場合にその漏洩液状流体の高輝度化された発光を検知することによって、前記漏洩を簡易かつ迅速に検出することを特徴とする液状流体の漏洩検出方法。
【請求項32】
前記液状流体が液体ナトリウムであることを特徴とする請求項31に記載の液状流体の漏洩検出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2006−3176(P2006−3176A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−178900(P2004−178900)
【出願日】平成16年6月16日(2004.6.16)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【出願人】(000224754)核燃料サイクル開発機構 (51)
【Fターム(参考)】