説明

ナノ粒子形態の磁鉄鉱

本発明は、Fe及びFeIIIの混合物から開始する鉱酸の存在下でのナノ粒子磁鉄鉱のポリオール型合成の方法に関する。該方法から得られる磁鉄鉱粒子は、均一のサイズ特性を有し、更にマグネトソームのものより高いSAR(非吸収率)値が示された。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、ナノ粒子形態の磁鉄鉱の調製方法の分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
(当該技術の状況)
磁鉄鉱は、強磁性を持つ鉱物であり、その化学式は、Feである。また、その磁鉄鉱の式をFeO・Feと書くこともできる。
【0003】
ナノ粒子形態での、即ち数ナノメートルから数十ナノメートルに及ぶ大きさの磁鉄鉱は、電波範囲における磁場に埋められた場合、加熱し、次いで、その周囲に熱エネルギーを放出し、それ故に、温熱効果又は磁気体温上昇(ハイパーサーミア)として知られるものを生じさせることが知られている。
【0004】
腫瘍学では、温熱療法(ハイパーサーミア)が、化学療法又は放射線治療の有効性を改善するために利用され、この点において、固形腫瘍の温度を41〜45℃の間まで上昇させることは、癌細胞のアポトーシスを誘発する。この目的を達成するため、磁気ナノ粒子は、腫瘍と接触させてそれらの温熱効果を利用することによって採用できる。
【0005】
それ故に、例えば、ナノ粒子磁鉄鉱のコアと、ポリマー又はタンパク質の被膜とを備え、場合により薬剤が詰め込まれ、適切な標的剤で装飾された、生体適合性ナノ混成物は、EM場効果(温熱効果)の下で熱を発生させる能力、薬物送達、及びその作用時に画像技術(MRI)により検出される能力が相乗的に組み合わされるセラノスティック剤(theranostic agents)の可能性がある。
【0006】
通常、体温上昇の値は、SAR(比吸収率)として表現され、それは、下記式:
SAR=Kf(d)f(H
[ここで、
K=定数
F=場反転周波数
f(d)=微結晶サイズに関係した可変関数
f(H)=印加磁場の強度に関係した可変関数(一部の著者によれば、およそH−H)]に従い、印加した磁場の強度とその磁場反転周波数の両方によって決まる値である。
【0007】
腫瘍学で有効な温熱効果を発揮するため、生体適合性ナノ粒子は、SARレベルが高い必要がある:生体適合性ナノ粒子は、初めに腫瘍内に置かれ、次いで100〜400kHzの範囲内の周波数Fでの中程度の振幅H(12〜25mT)の交番磁界によって励起される[非特許文献1]。
【0008】
非特許文献2は、1kW/gを超えるSARを持つ生体適合性ナノ粒子が直径3mmの腫瘍を効果的に治療できたことを推定している。
【0009】
これまで、磁気体温上昇について最も広く研究された材料は、その全面的な生体適合性とその合成の相対的な単純さのため、酸化鉄であった。文献では、合成により得られた最も有効な磁鉄鉱は、400kHzでのSAR値が最高で0.6w/gであることが示されている(非特許文献3)。
【0010】
現在、マグネトソーム(特定の動物細胞に存在する磁鉄鉱結晶)は、生物医学的応用のための体温上昇の観点から、最も有効な磁気構造であると考えられている(非特許文献4)。
【0011】
ナノ粒子形態での磁鉄鉱の合成は、文献及び多くの特許において広く記載されている。
【0012】
その使用される方法は、3つの主要なグループ、即ち
1)FeIIとFeIIIを化学量論比1:2で含有する溶液(水溶液又は多価アルコール溶液)のアルカリ化;
2)FeII及びFeIII混合物を再び化学量論比1:2で用いるポリオール型合成;
3)還元剤及び安定剤の両方として作用する薬剤(オレイン酸等)の存在下での鉄化合物(無機又は有機)の分解
に分類できる。
【0013】
記載されている全ての合成は、その実際の適用を評価する場合、かなりの欠点を示す。
【0014】
1)アルキル化法は、サイズの制御が不十分で体温上昇が低い凝集した粒子を生じさせ、それは容易に沈殿物を形成する。
【0015】
2)「ポリオール合成」は、化学量論比の慎重な制御と、FeII酢酸塩、得ることが困難で、費用がかかり、保存も困難な原料(それは吸湿性が強く、酸化に対して極めて敏感である)の使用とを必要とする。
【0016】
3)オレイン酸等を用いた還元的合成は、その表面が親液性基で官能基化され、水性環境に不溶性である粒子の形成をもたらす。
【0017】
しかしながら、事例2及び3において得られる粒子はまた、マグネトソームによって示される値と比較して、SAR値が低い。
【0018】
従って、磁鉄鉱をナノ粒子形態で得ることのできる方法であって、それが生物医学分野における磁気温熱療法に使用できるほど十分に高いSAR値を有する方法を提供する必要があることは明らかである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】P. Wust, U. Gneveckow, M. Johannsen, D. Boehmer, T. Henkel, F. Kahmann, J. Sehouli, R. Felix, J. Ricke, A. Jordan, Int. J. Hyperthermia 22, 673 (2006)
【非特許文献2】R. Hergt and S. Dutz in J. Magn. Magn. Mater. 311, 187 (2007)
【非特許文献3】R. Hergt, R. Hiergeist, I. Hilger, W. A. Kaiser, Y. Lapatnikov, S. Margel and U. Richter, J. Magn. Magn. Mater. 270, 345 (2004)
【非特許文献4】R. Hergt, R. Hiergeist, M. Zeisberger, D. Schueler, U. Heyen, I. Hilger, W. A. Kaiser, J. Magn. Magn. Mater., 2005, 293, 80
【発明の概要】
【0020】
(定義及び略語)
SAR=比吸収率
SARN=場反転の周波数に対する正規化SAR
【0021】
「ナノ粒子」の語は、大きさが1〜100nmの間の粒子を意味する。
【0022】
多価アルコール溶媒は、グリセロール等の、2つ以上のアルコール官能基を含有し、沸点が250℃を超え、融点が0℃を超えるアルコールである。
【0023】
(発明の概要)
本発明は、磁鉄鉱ナノ粒子を得るポリオール型の方法によって上述の課題を解決するものであるが、前述の方法は、前述のナノ粒子が、金属鉄及びFeIIIから開始して、触媒及び適当量の水の存在下、多価アルコール溶媒中で調製される工程(ii)を含む。
【0024】
本発明の方法は、制御された均一の大きさの磁鉄鉱ナノ粒子を可能にし、それ故に、高い温熱効率を示す。本発明に従う方法は、容易で且つ効率的であり、上述の欠点を示すFeII塩の使用を回避することを可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】表1〜5に関するグラフを示し、ここで、y軸は、SARN値を示し、x軸は、印加磁場振幅の値を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(発明の詳細な説明)
本発明の方法は、Feから開始して、以下に示す工程によって行われることが好ましい:
i)Feから開始するFeIIIの多価アルコール溶液の調製;
ii)工程(i)から得られた溶液をFeIII源として使用する上述の本発明の方法による、磁鉄鉱ナノ粒子のポリオール型調製。
【0027】
上記工程(i)は、下記式:
Fe+2H→Fe2++2H↑ (1)
に従い、周知でよく記載されている鉄に対する酸攻撃(酢酸等の弱酸でさえも)の反応にほかならない。
【0028】
文献では、その反応は、通常、水性環境において説明されているが、今回、酸化剤(大気中酸素等)が欠けている環境を維持しながら、それを「ポリオール合成」条件下で行うことができることを見出した。
【0029】
その後、多価アルコール中におけるFeII溶液は、100℃未満の温度にて反応媒体中に空気を泡立てることによって、FeIII(例えば酢酸塩)に完全に酸化できる。
【0030】
それ故、好ましい形態において、本発明の方法は、工程(i)で、以下に示す工程によるFeIIIの多価アルコール溶液の調製を含む:
a)Feから開始し、有機酸の存在下、多価アルコール溶媒中においてFeII溶液を調製する工程;
b)工程a)から得られた溶液を空気で泡立てることによって、FeIII溶液を調製し、次いであらゆる残留金属鉄をろ過する工程。
【0031】
好ましくは、工程a)が、130〜200℃の間の温度にて行われ、工程b)が、100℃未満の温度にて行われる。
【0032】
前述の有機酸は、多価アルコール溶媒に可溶なFeII化合物を形成する酸、特には酢酸、プロピオン酸、乳酸、グリコール酸から選択されるのが好ましい。
【0033】
好ましくは、工程a)において、上記酸が、金属Feのモルの4〜5倍に等しいモル量で使用される。
【0034】
好ましくは、工程a)について、金属Feを、Fe重量の80〜120倍に等しい重量の多価アルコール中に懸濁させる。
【0035】
上述の工程(ii)は、多価アルコール溶媒中におけるFeとFeIIIイオンの混合物を適切な量の水と酸触媒の存在下において加熱する工程である。
【0036】
「ポリオール合成」条件下(溶媒が、グリセリン又はプロピレングリコール又はジエチレングリコール等の多価アルコールであり、温度が、好ましくは130〜200℃の間に含まれる)、適当な触媒が存在すると、以下式:
2Fe3++Fe→3Fe2+ (2)
に従い、金属鉄によって鉄(III)を還元させることを見出した。
【0037】
FeII形成反応は、酸性環境によって触媒される。特に、塩酸若しくは硫酸等の鉱酸、又は塩化鉄(FeCl)等の酸加水分解を示す塩を触媒として用いることができる。
【0038】
酸化還元反応(2)の反応速度論は比較的遅いものの、選択した温度条件下でのFeII及びFeIIIからの磁鉄鉱の形成は急速であるため、生じる鉄(II)は、過剰に存在するFe(III)と完全に反応し、下記式:
2Fe3++Fe2++4HO→Fe+8H (3)
に従い、磁鉄鉱を形成する。
【0039】
従って、磁鉄鉱形成の完全な反応を、以下のように記載することができる。
8Fe3++Fe+12HO→3Fe+24H (4)
【0040】
本発明によれば、ナノ粒子磁鉄鉱は、グリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール及び類似した全多価アルコール等の溶媒中において、便宜上130〜200℃の間の温度にて調製できることが好ましい。溶媒中の水の量は、得られる磁鉄鉱ナノ粒子のDLS(動的光散乱)によって測定される流体力学半径の大きさを制御する際の主要な要因である;磁鉄鉱微結晶の大きさは、実際のところ、操作濃度及び反応環境内に存在する水の濃度から決定される。
【0041】
好ましくは、上記水が、工程(ii)で使用されるFeIII塩のモルの1.5〜5倍に等しいモル量で存在する。
【0042】
好ましくは、上記Feが、工程(ii)で使用されるFeIII塩のモルの0.2〜1倍に等しいモル量で存在する。
【0043】
好ましくは、工程(ii)について、金属Feを、FeIII溶液の重量の0.5〜4倍に等しい重量の多価アルコール中に懸濁させる。
【0044】
また、FeIII溶液(或いは、FeIII酢酸塩又はグリコール溶媒に可溶な他の塩)の連続した添加を行うことによる半連続的な方法で、即ち、磁鉄鉱形成反応が連続的な段階で起こるように、操作することによって、温熱効率のより高い値が達成できることにも注目した(例B3〜B6参照:温熱効果を測定するための方法を実験パートにおいて与える)。同様に簡便な方法は、FeIII溶液の添加速度を、その添加中に温度が相当な変化を受けない(即ち、ΔT<10℃の安定した状態を保つ)ように制御することである(例B−5及びB−6参照)。
【0045】
好ましくは、上記FeIIIが、濃度が2〜5wt%の多価アルコール溶液の形態で加えられる。
【0046】
好ましくは、上記酸触媒が、工程(ii)で使用されるFeIII塩のモルの0.01〜0.1倍に等しいモル量で使用される。
【0047】
工程(ii)の終わりで、固体残留物(金属鉄)をろ過により液相から分離し、著しい磁気特性を示す暗褐色で透明な生成物(ナノ粒子形態の磁鉄鉱を含む)を得る。
【0048】
本発明の方法によって得られたナノ粒子について分かったSAR値は、同一の周波数及び印加磁場強度に対して、マグネトソームについて文献で報告された既知の値と同程度であるか又はそれより高かった(表1〜5及び図1参照)。
【0049】
合成的に得られた磁鉄鉱ナノ粒子であって、前述の磁気体温上昇特性を備えたものは、文献において前例がない;その観察される温熱効果は、本発明の方法によって得られる磁鉄鉱の構造における特有で高度の結晶化度によるものである。
【0050】
上述の方法によって得られる磁鉄鉱は、腫瘍の温熱及び/又は(MRIによる)診断治療用のセラノスティック組成物を調製するのに有用である可能性がある。
【0051】
生物医学的応用のため、磁鉄鉱ナノ粒子は、生理環境中、即ち、水性環境中、比較的高い塩分濃度の存在下において、安定であることが、特に重要である。本発明に従って得られるナノ粒子磁鉄鉱は、反応生成物(4)をリン酸により処理することによって、水中で容易に安定して分散させることができる。このように、固体沈殿物を遠心分離により得、(水を用いて洗浄し、過剰のリン酸を除去した後)希釈アンモニア溶液中で容易に可溶化させることができ、わずかにアルカリ性の最終pHの分散体が得られる。
【0052】
以下に示す実施例を考慮して、本発明を更に理解することができる。
【実施例】
【0053】
(実験パート)
A)酢酸鉄III溶液の調製
例A−1
滴下漏斗、温度計、冷却器及び気体をフラッシするためのシステムを備えた500mlフラスコ中に、下記の物を導入する。
試薬 量(g) 含有量
DEG 150.00 >99%
金属Fe 1.50 99%
酢酸 8.00 99%
【0054】
上記システムは、初めに窒素を流し、次いで(不活性気体下のままで)温度を150℃に設定し、加熱を開始する。12時間後、金属ベース鉄のほぼ完全な消失と、溶液の色変化に気付くことができる。
【0055】
上記システムを窒素下で維持しながら、その温度を85℃まで下げ、その後、空気バブリングを開始する。すぐに溶液の色変化に気付き、その色が暗赤色になる。空気バブリングを2時間維持し、次いでそのシステムを周囲温度まで冷却する。
【0056】
その溶液をブフナー漏斗を通してろ過し、微量の残留鉄を除去し、その後、その溶液は、次の工程において使用できる。
【0057】
B)磁鉄鉱の調製
例B−1
滴下漏斗、温度計、冷却器及び窒素不活性化システムを備えた500mlフラスコ中に、下記の物を導入する。
試薬 量(g) 含有量
DEG 150.00 >99%
O 1.50 100%
【0058】
下記の物を150℃の温度にて加える:
Fe金属 1.50 99%
【0059】
その後、すぐに、
DEG中でのFe(CHCOO)3 溶液 30.00 4.34%
が続く。
【0060】
温度が140℃未満(138℃)まで下がり、その後、150℃に戻され、その温度を25分間維持する。次いで、下記の物を加える:
32%HCl 0.10 32.00%
【0061】
温度を160℃にし、その温度を3時間維持する。この時間の終わりに、液相を金属鉄残留物から分離する。著しい磁気特性を備えた暗茶色の溶液が得られる。
【0062】
DLS(動的光散乱)を用いたサイズ分析:PDI:0.230;平均Z:15.86nm;平均体積11.43nm;ピーク百分率99.9%。
磁鉄鉱含有量(ICP): 2650ppm
理論的磁鉄鉱含有量: 0.26%
30秒体温上昇: 0.6℃
特定体温上昇1%: 2.4℃
【0063】
例B−2
滴下漏斗、温度計、冷却器及び窒素不活性化システムを備えた500mlフラスコ中に、下記の物を導入する。
試薬 量(g) 含有量
DEG 150.00 >99%
O 1.50 100%
【0064】
Tを150℃に設定する。この温度に達したらすぐ、下記の物を加える:
Fe金属 1.50 99%
【0065】
その後、すぐに、温度が145℃未満に下がらないことを確保しながら、下記の物を滴下により緩徐に加える。
DEG中でのFe(CHCOO)3 溶液 120.00 4.34%
【0066】
温度を150℃まで戻し、その温度を25分間維持する。次いで、下記の物を加える:
32%HCl 0.10 32.00%
【0067】
温度を170℃にし、その温度を3時間維持する。
【0068】
この時間の終わりに、液相を金属鉄残留物から分離する。著しい磁気特性を備えた黒色の溶液が得られる。
【0069】
動的サイズ分析:PDI 0.130;Z 24.00;平均体積21.29nm;ピーク百分率100%。
磁鉄鉱含有量(I.C.P.):0.70%
理論的磁鉄鉱含有量:0.71%
30秒体温上昇:4.2℃
特定体温上昇1%:5.9℃
【0070】
例B−3
滴下漏斗、温度計、冷却器及び気体をフラッシするためのシステムを備えた500mlフラスコ中に、下記の物を導入する。
試薬 量(g) 含有量
DEG 150.00 >99%
O 1.50 100%
【0071】
温度を150℃に設定する。この温度に達したらすぐ、下記の物を加える:
Fe金属 1.50 99%
【0072】
その後、すぐに、
DEG中でのFe(CHCOO)3 溶液 30.00 4.34%
が続く。
【0073】
温度が138℃まで下がる。その温度を150℃に戻し、その温度を25分間維持する。次いで、下記の物を加える:
32%HCl 0.10 32.00%
【0074】
温度を160℃にし、その温度を30分間維持する。次いで、下記の物を加える:
DEG中でのFe(CHCOO)3 溶液 30.00 4.34%
【0075】
温度を160℃まで戻し、その温度を45分間維持する。溶液120グラムの合計添加に向かって、その手順を3回繰り返す。
【0076】
その懸濁液を160℃にて1時間維持し、その後、不活性気体下のまま、冷却させる。
【0077】
最後に、液相を金属鉄残留物から分離する。著しい磁気特性を備えた黒色の溶液が得られる。
【0078】
動的サイズ分析:PDI 0.074;Z 20.93;平均体積18.27nm;ピーク百分率100%。
磁鉄鉱含有量(I.C.P.):0.74%
理論的磁鉄鉱含有量:0.71%
30秒体温上昇:8.4℃
特定体温上昇1%:11.4℃
【0079】
例B−4
滴下漏斗、温度計、冷却器及び窒素不活性化システムを備えた500mlフラスコ中に、下記の物を導入する。
試薬 量(g) 含有量
DEG 150.00 >99%
O 1.50 100%
【0080】
温度を150℃に設定する。この温度に達したらすぐ、下記の物を加える:
Fe金属 1.50 99%
【0081】
その後、すぐに、
DEG中でのFe(CHCOO)3 溶液 30.00 4.34%
が続く。
【0082】
温度が138℃まで下がる。温度を150℃に戻し、その温度を25分間維持する。次いで、下記の物を加える:
32%HCl 0.10 32.00%
【0083】
温度を160℃にし、その温度を30分間維持する。次いで、温度を170℃まで上昇させ、この後の温度を30分間維持する。
【0084】
次いで、下記の物を加える:
DEG中でのFe(CHCOO)3 溶液 30.00 4.34%
【0085】
温度を170℃まで戻し、その温度を45分間維持する。溶液180グラムの合計添加に向かって、その手順を5回繰り返す。
【0086】
その懸濁液を170℃にて1時間維持し、その後、不活性気体下のまま、冷却させる。
【0087】
最後に、液相を金属鉄残留物から分離する。著しい磁気特性を備えた黒色の溶液が得られる。
【0088】
動的サイズ分析:PDI 0.051;Z 24.00;平均体積21.29nm;ピーク百分率100%。
磁鉄鉱含有量(I.C.P.):0.86%
理論的磁鉄鉱含有量:0.88%
30秒体温上昇:25.8℃
特定体温上昇1%:29.3℃
【0089】
例B−5
滴下漏斗、温度計、冷却器及び窒素不活性化システムを備えた1000mlフラスコ中に、下記の物を導入する。
試薬 量(g) 含有量
DEG 300.00 >99%
O 1.50 100%
Fe金属 3.00 100%
【0090】
温度を170℃に設定する。この温度に達したらすぐ、下記の物を加える:
32%HCl 0.25 32.00%
【0091】
この温度を5分間維持し、その後、下記の物を加える:
Fe(CHCOO)3 溶液 60.00g
【0092】
この添加の結果、温度が下がり、その懸濁液を設定温度(170℃)まで戻し、次いで、一定温度にて攪拌しながら置いておく。
【0093】
40分後、以下の物を滴下により緩徐に加える(100g/h):
Fe(CHCOO)3 溶液 480.00g
【0094】
そして、温度が常に168〜172℃のままであることを確かにするため、その温度を監視する。添加が完了したとき、システムを再び170℃にて更に2時間維持し、次いで、周囲温度まで冷却し、その後、液相を金属鉄残留物から分離する。著しい磁気特性を備えた黒色の溶液が得られる。
【0095】
動的サイズ分析:PDI 0.030;Z 23.82;平均体積21.43nm;ピーク百分率100%。
磁鉄鉱含有量(I.C.P.):1.07%
理論的磁鉄鉱含有量:1.04%
30秒体温上昇:31.4℃
特定体温上昇1%:29.35℃
【0096】
例B−6
滴下漏斗、温度計、冷却器及び窒素不活性化システムを備えた1000mlフラスコ中に、下記の物を導入する。
試薬 量(g) 含有量
DEG 300.00 99%
O 1.50 100%
Fe金属 3.00 100%
【0097】
温度を170℃に設定する。この温度に達したらすぐ、下記の物を加える:
32%HCl 0.25 32.00%
【0098】
この温度を5分間維持し、その後、下記の物を加える:
Fe(CHCOO)3 溶液 60.00g
【0099】
この添加の結果、温度が下がり、その懸濁液を設定温度(170℃)まで戻し、次いで、一定温度にて攪拌しながら置いておく。
【0100】
40分後、以下の物を滴下により緩徐に加える(50g/h):
Fe(CHCOO)3 溶液 540.00g
【0101】
そして、温度が常に168〜172℃のままであることを確かにするため、その温度を監視する。添加が完了したとき、システムを再び170℃にて更に2時間維持し、次いで、周囲温度まで冷却し、その後、液相を金属鉄残留物から分離する。著しい磁気特性を備えた黒色の溶液が得られる。
【0102】
動的サイズ分析:PDI 0.144;Z 47.78;平均体積38.67nm;ピーク百分率100%。
磁鉄鉱含有量(I.C.P.):1.07%
理論的磁鉄鉱含有量:1.07%
30秒体温上昇:58.0℃
特定体温上昇1%:54.20℃
【0103】
C)水中での磁鉄鉱の可溶化
例C−1
2%リン酸水溶液300gを500mlエルレンマイヤーフラスコ中に導入し、次いで、例B−6の溶液100gを攪拌下で加える。
【0104】
その溶液を攪拌下で30分間維持し、形成された黒色の凝集塊がデカントされる。沈殿物を磁気的に分離し、脱塩水を用いて2回洗浄し、毎回、懸濁液を攪拌下で20分間維持し、次いでデカンテーションと磁気的分離を行う。
【0105】
このようにして得られた湿潤固体を0.05Mの水酸化アンモニウム200gで取り込み、攪拌下で20分間置いておく。透明な溶液が得られ、例B−6の生成物と同程度の動的サイズ分析を示す。
【0106】
その生成物をpH7.4〜7.8のリン酸塩−アンモニア緩衝液中に希釈することができる。
【0107】
D)30秒及び特定体温上昇の測定。SARの計算
体温上昇データの測定のため、我々は、Ameritherm社製固体状態誘導加熱装置を用いた。なお、磁場Hを21KA/m(キロアンペア/メートル)に設定し、周波数Fを17KHz(キロヘルツ)に設定した。
【0108】
記載された各種例において得られる懸濁液の(周囲温度、約22℃での)サンプル上で、直径50mmコイルの中心での温度上昇測定を始めた。
【0109】
試験直前に、サンプルの温度を測定し、次いで、装置を30秒間作動させ、同一サンプルの最終温度を測定した(30秒体温上昇)。
【0110】
上記測定を既知のサンプル体積(0.5ml)に関して始めた;異なるサンプルにおける磁気ナノ粒子の濃度は同様で、温熱効果と濃度の間に線形の依存性が推測されるため、同程度の値を得るために1%濃度で得られる値(特定体温上昇)を標準化することが可能であった。
【0111】
材料の温熱効率(比吸収率−SAR)は、サンプルによって放散された総熱量を吸収剤相の総質量と照射時間とで割ったものとして定義される:
【数1】


ここで、iは、熱交換にかかわる全ての種を表し、moxは、吸収剤質量(我々の場合、磁鉄鉱)の総質量を表す。Q=m・Cpi・ΔT(m=グラム[g]で表される種の質量;C=ジュール/グラム度[J/gK]で表される比熱)であるため、以下の物が得られる:
【数2】

【0112】
(我々は、温度制御のない環境において操作したので)環境との熱交換の寄与を最小限にするため、2つの戦略を用いた:照射開始時でのあらゆる熱交換を回避するため、サンプルを周囲温度にて慎重に調整し、(時間に応じたサンプルの加熱曲線を決定することによって)ゼロ点での曲線の傾きを外挿した。
【0113】
各サンプルについて、我々は、磁鉄鉱ナノ粒子と、母材(本質的にはジエチレングリコールからなる)の貢献を別々に検討した。なお、それらの質量及び比熱容量の両方は、知られていた(磁鉄鉱は0.67J/gKであり、ジエチレングリコールが2.4J/gKである)。
【0114】
上記方法は、良好な再現性を示し、推定誤差は約5%であった。
【0115】
一例として、例B−4のサンプルは、以下に示すパラメータを示す。
サンプル質量: 0.30g
磁鉄鉱濃度: 0.86%
ジエチレングリコールの総質量: 0.29742g
磁鉄鉱の総質量: 0.00258g
0点での加熱曲線の傾き(dT/dt):1.293K/s
【0116】
それらから、以下の物が得られる。
ジエチレングリコール:質量比熱=0.297422.4=0.713808
磁鉄鉱:質量比熱=0.002580.67=0.001729
総熱容量=0.713808+0.001729=0.715537
吸収熱量=総熱容量dT/dt=0.7155371.293
SAR=吸収熱量/磁鉄鉱の総質量
SAR=0.7155371.293/0.00258
SAR=358.6
【0117】
E)マグネトソーム及び当該技術の状況において知られている方法によって得られる磁鉄鉱との比較
温熱効果を持つ材料に関して行われるSAR測定を異なる磁場及び周波数値にて報告したが、f(H)値は可変であり完全には計算できないので、異なる生成物のSARを文献に記載された温熱効果と比較するため、我々は、対照としてマグネトソームの実験を用いた。
【0118】
これらは温熱療法の観点から最も効率的な磁気構造体であると考えられ(R. Hergt, R. Hiergeist, M. Zeisberger, D. Schueler, U. Heyen, I. Hilger, W. A. Kaiser, J. Magn. Magn. Mater., 2005, 293, 80)、非常に広い磁場範囲においてSAR測定を行った。
【0119】
(SARが適用された周波数に正比例するので)使用された周波数の効果を標準化するため、我々は、SAR/Fと定義される新しいSARNパラメータを定義した。
【0120】
付随の表において、我々は、マグネトソーム、文献に記載の磁鉄鉱、及び我々によって合成された磁鉄鉱のSARN値を報告する。
【0121】
【表1】

【0122】
【表2】

【0123】
【表3】

【0124】
[参考文献1]R. Hergt, R. Hiergeist, M. Zeisberger, D. Schueler, U. Heyen, I. Hilger, W. A. Kaiser, J. Magn. Magn. Mater., 2005, 293, 80.
[参考文献2]R. Hiergeist, W. Andrae, N. Buske, R. Hergt, I. Hilger, U. Richter, W. Kaiser, J. Magn. Magn. Mater., 1999, 201, 420-422.
[参考文献3]R. Hergt, R. Hiergeist, M. Zeisberger, G. Gloeckl, W. Weitschies, L. P. Ramirez, I. Hilger, W. A. Kaiser, J. Magn. Magn. Mater., 2004, 280, 358-368.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁鉄鉱のナノ粒子を調製するためのポリオール型の方法であって、前記ナノ粒子が、金属鉄及びFeIIIから開始して、触媒及び適当量の水の存在下、多価アルコール溶媒中で調製される工程(ii)を含む方法。
【請求項2】
前記水が、使用されるFeIII塩のモルの1.5〜5倍に等しいモル量で存在する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記多価アルコール溶媒が、グリセリン、プロピレングリコール及びエチレングリコールの群から選択される、請求項1〜2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記触媒が、鉱酸から選択される、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記FeIIIの先駆物質が、多価アルコール溶媒に可溶な塩である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
前記FeIIIが、多価アルコール溶液としての反応混合物に加えられる、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記FeIIIが、反応混合物に、連続して又は該反応混合物が添加中に相当な温度変化を受けないように制御された速度で加えられる、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記方法は、Feから開始するFeIIIの多価アルコール溶液の調製工程(i)が先行し、ここで、前記工程(i)が、
(a)Feから開始して、有機酸の存在下、多価アルコール溶媒中においてFeII溶液を調製する工程と、
(b)工程(a)から得られた溶液中に空気を泡立てることによりFeIII溶液を調製する工程と
を含み、ここで、工程(b)から得られたFeIII溶液が工程(ii)において使用される、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載の方法によって得られるナノ粒子磁鉄鉱。
【請求項10】
腫瘍の温熱及び/又は(MRIを用いた)診断治療用のセラノスティック組成物を調製するための、請求項9に記載の磁鉄鉱の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2013−513543(P2013−513543A)
【公表日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543977(P2012−543977)
【出願日】平成22年12月15日(2010.12.15)
【国際出願番号】PCT/IB2010/055836
【国際公開番号】WO2011/073922
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(507185118)コロロッビア イタリア ソシエタ ペル アチオニ (7)
【Fターム(参考)】