説明

ナノ粒子組成物における結晶成長および粒子凝集を防止するための方法

【課題】加熱または保存中のナノ粒子組成物における結晶成長および粒子凝集を防止するための方法を提供する。
【解決手段】ナノ粒子組成物を最適有効平均粒径約150nmから約350nmとし、薬物の表面に吸着させた一つまたは複数の非架橋表面安定剤を有する難溶性薬物のナノ粒子組成物を形成する方法であり、ここで使用する一つまたは複数の表面安定剤の少なくとも一つがポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はナノ粒子組成物における結晶成長および粒子凝集を防止するための方法を目的とする。この方法は、ナノ粒子組成物を最適有効平均粒径に縮小することを含む。得られたナノ粒子組成物は、長期間保存および/または高温曝露後にも、粒径の安定性および最小の結晶成長を示す。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
ナノ粒子組成物は米国特許第5,145,684号(特許文献1)(「684特許」)に初めて記載され、難溶性の結晶薬物および薬物の表面に吸着された非架橋表面安定剤を含む。ナノ粒子製剤は低毒性および高い有効性(米国特許第5,399,363号(特許文献2))、高いバイオアベイラビリティ(米国特許第5,662,883号(特許文献3))、ならびに高い安定性(米国特許第5,665,331号(特許文献4))を示しうるため、ナノ粒子組成物は大サイズの粒子製剤よりも優れている。
【0003】
しかし、ナノ粒子組成物が直面する可能性がある問題の一つは、成分である結晶薬物粒子の可溶化と、その後の再結晶である。このプロセスはナノ粒子組成物において時間経過に伴い大きな結晶形成を引き起こす。加えて、ナノ粒子製剤の中には時間経過に伴い粒子凝集を示すものもある。そのような結晶成長および粒子凝集は通常の状態では微々たるものであることが多いが、特定の状況ではかなりの結晶成長および粒子凝集が起こることもある。これは特定の薬物と表面安定剤との組み合わせで見られ、ナノ粒子組成物が熱滅菌のため高温に曝露される場合により多く見られる。
【0004】
ナノ粒子調製物における結晶成長および粒子凝集はいくつかの理由により非常に望ましくない。ナノ粒子組成物中の結晶は、特に調製物が注射製剤である場合に、活性成分の毒性作用を増大させることがある。注射製剤は250nm以下の有効平均粒径を有することが好ましいため、このことは粒子凝集についてもあてはまる。
【0005】
加えて、経口製剤では、小さい粒子は大きい凝集物または大きい結晶粒子よりも速く溶解するため、結晶および/または粒子凝集物の存在、したがって粒径のばらつきにより、バイオアベイラビリティ特性のばらつきが大きくなる。バイオアベイラビリティが溶解速度によって制限される薬物では、溶解速度が速いほどバイオアベイラビリティは大きくなり、溶解速度が遅くなるとバイオアベイラビリティが低くなる。これは、バイオアベイラビリティが投与薬物の表面積に比例し、したがって分散物質の粒径が小さくなるほどバイオアベイラビリティが増大するからである(米国特許第5,662,833号(特許文献5))。粒径のばらつきが大きい組成物では、バイオアベイラビリティのばらつきが大きく、一貫性のないものとなり、用量決定が困難になる。さらに、そのような結晶成長および粒子凝集は制御不可能かつ予測不能であるため、ナノ粒子組成物の品質は一貫性がない。最後に、結晶成長が単に起こるだけでも、ナノ粒子製剤が「安定」な医薬品製剤ではないことを示している。なぜなら、そのような結晶成長はナノ粒子薬物粒子が絶えず可溶化および再結晶を繰り返していることを示しているからである。これは次に、多数の望ましくない分岐を伴う活性成分の分解を引き起こすと考えられる。
【0006】
医薬品を滅菌するための2つの認められた方法(他にも、例えばガンマ線照射などもある)は、熱滅菌および滅菌濾過である。滅菌濾過は、ほとんどの細菌を除去するのに0.22ミクロンのメッシュサイズのフィルターで十分であるため、0.22ミクロン(220nm)未満の粒径を有する溶液を滅菌するには有効な方法である。しかし、ナノ粒子組成物にはサイズの範囲があるため、有効平均粒径220nmの典型的なナノ粒子組成物の粒子の多くは粒径が220nmよりも大きいと考えられ、かつ/またはその形状によって、通常のフィルターでは有効に滅菌することができない。そのような大きく硬い結晶粒子は滅菌フィルターの目詰まりを起こしやすい。したがって、非常に小さい有効平均粒径を有するナノ粒子組成物しか滅菌濾過することができない。
【0007】
滅菌濾過は通常の121℃でのオートクレーブ(蒸気加熱)よりも望ましくない。なぜなら、熱滅菌ではナノ粒子組成物を最終保存容器内に入れる(1段階プロセス)からである。製品は次いで熱滅菌された容器に入った状態で市販することができる。それに対し、滅菌濾過ではフィルター滅菌段階の後に包装段階が続く(2段階プロセス)。滅菌濾過の第二の包装段階は通常のオートクレーブに比べて汚染のリスクをかなり高める。これらの理由により、米国食品医薬品局は一般に、滅菌製品の滅菌法として滅菌濾過を認可する前に、製剤がオートクレーブできないことを示すデータの提出を必要としている。
【0008】
ナノ粒子組成物における結晶成長および粒子凝集は長期間の保存中に起こりうるが、そのような現象は組成物の熱滅菌後により多く見られる。加熱によるナノ粒子組成物の凝集は、表面安定剤の曇点よりも高い温度での表面安定剤の沈殿に直接関係している。この点で、結合した表面安定剤分子はナノ粒子から解離して沈殿し、ナノ粒子を未保護で遊離すると考えられる。未保護のナノ粒子は次いで凝集して粒子群となる。冷却により、表面安定剤は溶液中に再度溶解し、次いで凝集粒子をコーティングし、これらが小さい粒子へと解離することを妨げる。
【0009】
熱滅菌後の結晶成長および粒子凝集を防止するために、ナノ粒子組成物に曇点調節剤または結晶成長調節剤を加えることと、表面安定剤を精製することとを含むいくつかの方法が、先行技術において示唆されている。例えば、米国特許第5,298,262号(特許文献6)にはナノ粒子組成物におけるアニオン性またはカチオン性曇点調節剤の使用が記載されており、米国特許第5,346,702号(特許文献7)には非イオン性表面安定剤および非イオン性曇点調節剤を有するナノ粒子組成物が記載されている。曇点調節剤はナノ粒子組成物の粒子凝集を低く抑えた熱滅菌を可能にする。米国特許第5,470,583号(特許文献8)には、非イオン性表面安定剤と、曇点調節剤としての荷電リン脂質とを有するナノ粒子組成物が記載されている。
【0010】
先行技術では、結晶成長調節剤を加えることによるナノ粒子組成物の結晶成長を制限する方法も記載されている(米国特許第5,662,883号(特許文献3)および第5,665,331号(特許文献4)参照)。加えて、米国特許第5,302,401号(特許文献9)では、表面安定剤としてポリビニルピロリドン(PVP)および凍結保護剤としてショ糖を有する(ナノ粒子を凍結乾燥できるようにする)ナノ粒子組成物が記載されている。組成物は凍結乾燥後に最小の粒子凝集を示す。
【0011】
これらの様々な先行技術による方法はすべて、一つの共通する特徴を有している。すなわち、ナノ粒子組成物の結晶成長および粒子凝集を阻害または防止するために、ナノ粒子製剤に追加の物質を加える必要があるということである。そのような物質を加えることは、特に注射製剤にとっては、有害作用を導くことがあるため、不都合となりうる。さらに、曇点および結晶成長調節剤は毒性が高いことが多い。したがって、これにより薬学的組成物中のそのような物質の有用性が非常に小さいものとなる。加えて、安定な組成物を得るために追加物質を必要とすることで製品コストが高くなる。
【0012】
本発明に先行して知られている、滅菌中にナノ粒子組成物の粒子凝集または結晶成長を制限するもう一つの方法は、精製された表面安定剤を用いることであった。米国特許第5,352,459号(特許文献10)には、精製された表面安定剤(不純物15%未満)および曇点調節剤を有するナノ粒子組成物が記載されている。表面安定剤の精製は高価で時間がかかることがあり、したがって安定なナノ粒子組成物を製造するためにそのような安定剤を必要とする組成物は製造コストが著しく高くなっている。
【0013】
当技術分野において、長期間保存および/または高温曝露後にも最小の粒子凝集および結晶成長を示す、難溶性薬物のナノ粒子組成物、ならびにそのような組成物を製造する方法が必要とされている。本発明はこれらの必要性を満たすものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】米国特許第5,145,684号
【特許文献2】米国特許第5,399,363号
【特許文献3】米国特許第5,662,883号
【特許文献4】米国特許第5,665,331号
【特許文献5】米国特許第5,662,833号
【特許文献6】米国特許第5,298,262号
【特許文献7】米国特許第5,346,702号
【特許文献8】米国特許第5,470,583号
【特許文献9】米国特許第5,302,401号
【特許文献10】米国特許第5,352,459号
【発明の概要】
【0015】
本発明は、最適有効平均粒径を有するナノ粒子組成物が長期間保存または高温曝露後にも最小の粒子凝集および結晶成長を示すという驚くべき発見を目的とする。
【0016】
本発明の一つの局面は、難溶性の結晶または無定形薬物と、薬物の表面に吸着された一つまたは複数の非架橋表面安定剤とを含み、約150nmから約350nm、より好ましくは約150nmから約300nm、さらにより好ましくは約150nmから約250nm、最も好ましくは約150nmから約200nmの最適有効平均粒径を有するナノ粒子組成物を目的とする。この組成物は長期間保存および/または高温曝露後に最小の粒子凝集および結晶成長を示す。
【0017】
本発明のもう一つの局面は、長期間保存および/または熱滅菌後に最小の粒子凝集および結晶成長を示すナノ粒子組成物を製造する方法を目的とする。この方法は、ナノ粒子組成物の有効平均粒径を約150nmから約350nm、より好ましくは約150nmから約300nm、さらにより好ましくは約150nmから約250nm、最も好ましくは約150nmから約200nmの最適有効平均粒径に縮小することを含む。そのような組成物は長期間保存後および/または熱滅菌後に最小の粒子凝集および結晶成長を示す。
【0018】
本発明は本発明のナノ粒子組成物を含む薬学的組成物をさらに目的とする。薬学的組成物は、好ましくは薬学的に許容される担体ならびに任意の望ましい賦形剤を含む。
【0019】
本発明のさらにもう一つの局面は、それを必要とする哺乳動物を治療する方法であって、本発明に係る治療上有効な量のナノ粒子組成物を投与することを含む方法を含む。
【0020】
前述の一般的説明および下記の詳細な説明はいずれも例示および説明のためのもので、本発明の詳細な説明を提供するためのものである。その他の目的、利点、および新規な特徴は、当業者であれば下記の発明の詳細な説明を読めば容易に明らかになると思われる。
【0021】
発明の詳細な説明
本発明は、最適粒径を有するナノ粒子組成物が、長期間保存後および/または高温曝露後に最小の粒子凝集および結晶成長を示すという驚くべき発見を目的とする。
【0022】
本発明以前に、ナノ粒子組成物を長期間保存後に、結晶成長および粒子凝集が起こることがあり、この現象は高温に曝露されたナノ粒子組成物でより多く見られることが知られている。驚いたことに、そのような粒子凝集および結晶成長の速度はナノ粒子分散物の出発粒径に応じて異なることが見いだされた。非常に小さいナノ粒子サイズ、すなわち約100nm未満の粒径を有する組成物、および比較的大きい粒径、すなわち約400nmよりも大きい粒径を有する組成物は、最適有効平均粒径、すなわち約150nmから約350nmに製粉されたナノ粒子組成物に比べてより速い結晶成長および粒子凝集を示す。
【0023】
出願人らはいかなる理論にも束縛されたくはないが、観察されたこの現象に対する一つの可能性は、非常に小さい有効平均粒径、すなわち約150nm未満に製粉されたナノ粒子組成物はオストワルト成長が起こりやすいということである。オストワルト成長は、大きい結晶よりも溶解性の高い小さい結晶が溶解し、次いで再結晶して大きい結晶および粒子凝集物を形成する場合に起こる。このことから、非常に小さい粒径に製粉されたナノ粒子組成物が長期間保存または高温曝露後に、著しい結晶成長および粒子凝集を示す理由が説明できると考えられる。
【0024】
より大きい有効平均粒径、すなわち約400nmよりも大きい粒径を有するナノ粒子組成物も、長期間保存後に著しい結晶成長および粒子凝集を示すことがある。驚いたことに、ナノ粒子組成物が400nmよりも大きい有効平均粒径を有する場合、熱滅菌後に得られる粒径分布は、最適有効平均粒径を有するナノ粒子組成物が熱滅菌される場合に比べてはるかに広いことも見いだされた。広い粒径分布は、そのような組成物ではバイオアベイラビリティ特性に一貫性がなく、製剤が困難になることがあるため、望ましくない。
【0025】
A.高温曝露されたナノ粒子組成物の安定性
本発明以前には、通常の121℃でのオートクレーブによるナノ粒子組成物の滅菌は、熱への曝露が結晶成長および粒子凝集を刺激することがあるため、無効であることが多かった。そのような結晶成長および粒子凝集の結果、ナノ粒子組成物の有効平均粒径の実質的増大が起こり、したがってナノ粒子組成物のバイオアベイラビリティ、低毒性、および高い有効性といった利点が減少する。
【0026】
下記の実施例に記載のとおり、ナノ粒子組成物の3つのサイズ範囲、すなわち約100nm、約200nm、および約400〜500nmが試験された。より小さい有効平均粒径、すなわち約100nmの粒径を有するナノ粒子分散物は、熱滅菌後に著しい粒子凝集および結晶成長を示した。出発粒径が約400〜500nmの場合、かなりの数の粒子の熱滅菌後の最終有効平均粒径は約700nm以上であった。この粒径は注射製剤の好ましい粒径を超えている。さらに、約100nmおよび約400〜500nmの有効平均粒径を有するナノ粒子組成物は、熱滅菌後に広い粒径分布を示した。これに対し、最適有効平均粒径を有するナノ粒子組成物を熱滅菌した場合、注射製剤にとって安全な、許容される狭い粒径分布を有する組成物となった。
【0027】
B.長期間保存後のナノ粒子組成物の安定性
同様に、ナノ粒子組成物を約150nmから約350nm、より好ましくは約150nmから約300nm、さらにより好ましくは約150nmから約250nm、最も好ましくは約150nmから約200nmの最適有効平均粒径に縮小することにより、保存中のナノ粒子組成物における粒子凝集および結晶形成を防止または最小化できることが意外にも見いだされた。
【0028】
下記の実施例に記載のとおり、150nmよりも大きい最適粒径に製粉した結果、少なくとも7ヶ月まで粒子凝集または結晶成長が最小に抑えられるか、または全く起こらなかった。滅菌製品の最長保存期間は約2年間である。
【0029】
C.ナノ粒子組成物
本発明の組成物はナノ粒子薬物と、薬物の表面に吸着された一つまたは複数の表面安定剤とを含む。本明細書において有用な表面安定剤は、ナノ粒子薬物の表面に物理的に付着しているが、薬物と、またはそれ自体で化学反応はしていない。表面安定剤の個別に吸着された分子は本質的に分子間架橋はしていない。
【0030】
本発明は、その表面に吸着された一つまたは複数の表面安定剤であって、非経口注入のため、固体または液体の形での経口投与のため、直腸または局所投与などのための一つまたは複数の非毒性で生理学的に許容される担体、アジュバント、または媒体、すなわち包括的に担体と呼ばれるものと共に組成物に調合される表面安定剤を有するナノ粒子組成物も含む。
【0031】
1. 薬物粒子
本発明のナノ粒子は、集合的に「薬物」と呼ばれる治療薬または診断薬を含む。治療剤は、タンパク質およびペプチドなどの生物薬物を含む医薬であってもよく、診断薬は、典型的には、x線造影剤または任意の他の種類の診断材料などの造影剤である。薬物は別個の結晶相として、または非晶質相として存在する。結晶相は、欧州特許第275,796号に記載されているものなどの、沈殿技法によって生ずる非結晶または非晶質相とは異なる。
【0032】
本発明は多種多様の薬物を用いて実施することができる。薬物は、好ましくは、本質的に純粋な形態で、難溶性であって、少なくとも1種の液体媒体に分散可能である。「難溶性」とは、薬物が液体分散媒体に約10mg/mL未満の溶解度を有し、好ましくは約1mg/mL未満の溶解度を有することを意味する。
【0033】
薬物は、例えば、タンパク質、ペプチド、コルチコステロイド、エステラーゼ阻害剤、 鎮痛剤、抗真菌剤、癌治療剤、制吐剤、鎮痛剤、循環器剤、抗炎症剤、駆虫剤、抗不整脈剤、抗生物質(ペニシリンを含む)、抗凝固剤、抗抑鬱剤、抗糖尿病剤、抗癲癇剤、抗ヒスタミン剤、抗高血圧剤、抗ムスカリン剤、抗マイコバクテリア剤、抗悪性腫瘍剤、免疫抑制剤、抗甲状腺剤、抗ウィルス剤、抗不安鎮静剤(催眠剤および神経弛緩剤)、収斂剤、βアドレナリン受容体遮断剤、血液製剤および代用剤、強心薬、造影剤、コルチコステロイド、鎮咳剤(去痰剤および粘液溶解剤)、診断剤、診断用造影剤、利尿剤、ドーパミン作動剤(抗パーキンソン病剤)、止血剤、免疫剤、脂質調節剤、筋弛緩剤、副交感神経様剤、副甲状腺カルシトニンおよび炭酸水素塩、プロスタグランジン、放射性医薬品、性ホルモン(ステロイドを含む)、抗アレルギー剤、刺激剤および食欲低下剤、交感神経様剤、甲状腺剤、血管拡張剤、ならびにキサンチンを含む、種々の既知のクラスの薬物から選択することができる。
【0034】
これらのクラスの薬物の記載および各クラス内の種の掲載は、参照として組み入れられている、Martindale, The Extra Pharmacopoeia, 第29版(The Pharmaceutical Press, London, 1989)に見いだすことができる。薬物は市販品を購入可能で、および/または当技術分野において周知の技法によって製造することができる。
【0035】
2. 表面安定剤
有用な表面安定剤には、種々のポリマー、低分子量オリゴマー、天然産物、および界面活性剤が含まれる。好ましい表面安定剤には、非イオン性およびイオン性界面活性剤が含まれる。2種以上の表面安定助剤を併用して使用してもよい。表面安定剤の代表的な例には、塩化セチルピリジニウム、ゼラチン、カゼイン、レシチン(ホスファチド)、デキストラン、グリセロール、アカシアゴム、コレステロール、トラガカント、ステアリン酸、塩化ベンザルコニウム、ステアリン酸カルシウム、モノステアリン酸グリセロール、セトステアリルアルコール、セトマクロゴール乳化ワックス、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(例えば、セトマクロゴール1000などのマクロゴールエーテル)、ポリオキシエチレンひまし油誘導体、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル(例えば、Tween 20(登録商標)およびTween 80(登録商標)などの市販のTween(登録商標)(ICI Specialty Chemicals));ポリオキシエチレングリコール(例えば、Carbowax3350(登録商標)およびCarbowax1450(登録商標)、およびCarbopol934(登録商標)(Union Carbide))、ドデシルトリメチル臭化アンモニウム、ポリオキシエチレンステアレート、コロイド状二酸化ケイ素、リン酸塩、ドデシル硫酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、ヒドロキシプロピルセルロース(例えば、HPC、HPC-SLおよびHPC-L)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロースナトリウム、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチル-セルロースフタレート、非結晶セルロース、ケイ酸アルミニウムマグネシウム、トリエタノールアミン、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリビニルピロリドン(PVP)、エチレンオキサイドとホルムアルデヒドとの4-(1,1,3,3-テトラメチルブチル)-フェノールポリマー(チロキサポール(tyloxapol)、スペリオン(superione)およびトリトン(triton)としても周知)、ポロキサマー(poloxamers)(例えば、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロックコポリマーである、PluronicF68(登録商標)およびPluronicF108(登録商標));プロキサミン(プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドをエチレンジアミンに逐次的に付加することによって誘導される四官能性ブロックコポリマーである、Poloxamine908(登録商標)としても周知のTetronic908(登録商標)(BASF Wyandotte Corporation、ニュージャージー州パーシパニー));ジミリストイルホスファチジルグリセロール、ジオクチルスルホスクシネート(DOSS)などの荷電リン脂質;Tetronin1508(登録商標)(T-1508)(BASF Wyandotte Corporation)、スルホスクシン酸のジアルキルエステル(例えば、スルホスクシン酸ナトリウムのジオクチルエステルである、Aerosol OT(登録商標)(American Cyanamid));ラウリル硫酸ナトリウムである、Duponol P(登録商標)(DuPont);アルキルアリールポリエーテルスルホネートである、Tritons X-200(登録商標)(Rohm and Haas);ステアリン酸スクロースとジステアリン酸スクロースの混合物である、CrodestasF-110(登録商標)(Croda Inc.);Olin-IOG(登録商標)またはSurfactant 10-G(登録商標)としても周知のp-イソノニルフェノキシポリ-(グリシドール)(Olin Chemicals、コネチカット州スタンフォード);CrodestasSL-40(登録商標)(Croda, Inc.);およびC18H37CH2(CON(CH3)-CH2(CHOH)4(CH2OH)2である、SA9OHCO(Eastman Kodak Co.)、デカノイル-N-メチルグルカミド;n-デシルβ-D-グルコピラノシド;n-デシルβ-D-マルトピラノシド;n-ドデシルβ-D-グルコピラノシド;n-ドデシルβ-D-マルトシド;ヘプタノイル-N-メチルグルカミド;n-ヘプチル-β-D-グルコピラノシド;n-ヘプチルβ-D-チオグルコシド;n-ヘキシルβ-D-グルコピラノシド;ノナノイル-N-メチルグルカミド;n-ノイルβ-D-グルコピラノシド;オクタノイル-N-メチルグルカミド;n-オクチル-β-D-グルコピラノシド;オクチルβ-D-チオグルコピラノシド等が含まれる。
【0036】
これらの表面安定剤のほとんどは既知の薬学的賦形剤で、参照として組み込まれている、「薬学的賦形剤ハンドブック(the Handbook of Pharmaceutical Excipients)」, the American Pharmaceutical AssociationとThe Pharmaceutical Society of Great Britainの共同出版(The Pharmaceutical Press, 1986)に詳細に記載されている。表面安定剤は市販品を購入することができ、および/または当技術分野において周知の技法によって製造することができる。
【0037】
3. ナノ粒子薬物/表面安定剤の粒子サイズ
本発明の組成物は、光散乱法で測定したとき、約150nm〜約350nm、さらに好ましくは約150nm〜約300nm、よりさらに好ましくは約150nm〜約250nm、最も好ましくは約150〜約200nmの有効平均粒子サイズを有するナノ粒子を含有する。「約150nm〜約350nmの有効平均粒子サイズ」は、光散乱技法で測定したとき、薬物粒子の少なくとも50%が約150nm〜約350nmの重量平均粒子サイズを有することを意味する。好ましくは、薬物粒子の少なくとも70%が約150nm〜約350nmの平均粒子サイズを有し、さらに好ましくは薬物粒子の少なくとも90%が約150nm〜約350nmの平均粒子サイズを有し、よりさらに好ましくは、粒子の少なくとも約95%が約150nm〜約350nmの重量平均粒子サイズを有する。
【0038】
4. ナノ粒子薬物および安定剤の濃度
薬物および1種以上の表面安定剤の相対量は広範に変わってもよい。1種以上の表面安定剤の最適量は、例えば、選択した特定の作用剤、親水性親油性バランス(HLB)、融点、および表面安定剤の水に対する溶解度、並びに表面安定剤の水溶液の表面張力等に依存することがある。
【0039】
驚くべきことに、溶解度の低い表面安定剤を少量使用しても、予測されたように、結晶成長または粒子凝集を低下させないことが発見された。これは、おそらく、表面安定剤の量の低下により製粉効率が増加し、従って得られる粒子サイズが小さくなることによると考えられる。このような得られるより小さい粒子サイズは結晶成長および粒子凝集を刺激する。
【0040】
1種以上の表面安定剤の濃度は、薬剤物質と表面安定剤をあわせた総重量に対して、約0.1〜約90重量%であり、好ましくは約1〜約75重量%であり、さらに好ましくは約10〜約60重量%であり、最も好ましくは約10〜約30重量%まで変化してもよい。
【0041】
薬物の濃度は、薬剤物質と表面安定剤をあわせた総重量に対して、約99.9重量%〜約10重量%であり、好ましくは約99重量%〜約25重量%であり、さらに好ましくは約90重量%〜約40重量%であり、最も好ましくは約90重量%〜約70重量%まで変化してもよい。
【0042】
D. ナノ粒子製剤を製造する方法
ナノ粒子薬物組成物は、例えば、製粉または沈殿によって製造することができる。ナノ粒子組成物を製造する例示的な方法は'684号特許に記載されている。本発明の最適な有効平均粒子サイズは、製粉時間および添加する表面安定剤の量を制御するなど、粒子サイズ低下工程を制御することによって得ることができる。結晶成長および粒子サイズ凝集も、より低温下で組成物を製粉または沈殿することによって、およびより低温下で最終組成物を保存することによって最小にすることができる。
【0043】
1. ナノ粒子薬物分散液を得るための水性製粉法
ナノ粒子分散液を得るための薬物水溶液の製粉化は、液体分散媒体中に薬物粒子を分散する段階、次に薬物の粒子サイズを、約150nm〜約350nm、さらに好ましくは約150nm〜約300nm、よりさらに好ましくは約150nm〜約250nm、最も好ましくは約150nm〜約200nmの望ましい有効平均粒子サイズに低下するための粉砕媒体の存在下において機械的手段を適用する段階とを含む。粒子は、1種以上の表面安定剤の存在下においてサイズを低下することができる。または、粒子は、摩滅後に1種以上の表面安定剤と接触させてもよい。希釈剤などの他の化合物を、サイズ低下工程中に薬物/表面安定剤組成物に添加してもよい。分酸液は連続的またはバッチモードで製造することができる。得られるナノ粒子薬物分散液は固形または液体投与製剤形態で利用することができる。
【0044】
例示的な有用な製粉には、ローラーまたはボールミルなどの低エネルギーミルおよびDynoミル、Netzschミル、DCミルおよびPlanetaryミルなどの高エネルギーミルが挙げられる。
【0045】
2. ナノ粒子薬物組成物を得るための沈殿法
望ましいナノ粒子分散液を形成する別の方法は微小沈殿法による。これは、いかなる微量の毒性溶媒および可溶性重金属不純物を含有しない、1種以上の表面安定剤と1種以上のコロイド安定性増強表面作用剤の存在下において薬物の安定な分散液を製造する方法である。このような方法は、例えば、(1)薬物を好適な溶媒に溶解する段階と、(2)段階(1)の製剤を、少なくとも1種の表面安定剤を含む溶液に添加して、透明な溶液を形成する段階と、(3)適当な非溶媒を使用して、段階(2)の製剤を沈殿する段階とを含む。この方法の次に、従来の手段による分散液の透析またはダイアフィルトレーションおよび濃縮によって、存在する場合には、任意の形成された塩を除去することができる。得られるナノ粒子薬物分散液は固形または液体投与製剤形態で利用することができる。
【0046】
E. ナノ粒子薬剤を使用する方法
本発明のナノ粒子組成物は、経口、経直腸、非経口(静脈内、筋肉内、または皮下)、嚢内、経膣内、腹腔内、局所(粉末、軟膏またはドロップ)または口腔もしくは鼻腔スプレーとしてヒトおよび動物に投与することができる。
【0047】
非経口注射に好適な組成物は、生理学的に許容されうる滅菌水溶液または非水溶液、分散液、懸濁液、または乳剤並びに注射用滅菌溶液または分散液に再構成するための滅菌粉末を含んでもよい。好適な水性および非水性担体、希釈剤、溶媒または基剤の例には、水、エタノール、ポリオール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセロール等)、それらの好適な混合物、植物油(オリーブオイルなど)およびオレイン酸エチルなどの注射用有機エステルが挙げられる。
【0048】
適切な流動性は、例えば、レシチンなどのコーティングを使用することによって、分散液の場合には必要な粒子サイズを維持することによっておよび界面活性剤を使用することによって維持することができる。ナノ粒子組成物はまた保存剤、湿潤剤、乳化剤、および分散剤などの補助剤を含有してもよい。微生物増殖阻止は、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸などの種々の抗菌および抗真菌剤によって確実にすることができる。糖、塩化ナトリウムなどの等張剤を含むことが望ましい場合もある。注射用薬学的形態の持続的吸収は、モノステアリン酸アルミニウムおよびゼラチンなどの吸収遅延剤を使用することによって生ずることができる。
【0049】
経口投与のための固形剤形にはカプセル、錠剤、ピル、粉末および顆粒が含まれる。このような固形剤形では、活性な化合物は以下の少なくとも以下の1種と混合される:(a)クエン酸ナトリウムまたはリン酸二カルシウムなどの1種以上の不活性な賦形剤(または、担体);(b)デンプン、乳糖、ショ糖、ブドウ糖、マンニトールおよびケイ酸などのフィラーまたは増量剤;(c)カルボキシメチルセルロース、アルギネート、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、ショ糖およびアカシアなどの結合剤;(d)グリセロールなどの保湿剤;(e)寒天-寒天、炭酸カルシウム、ジャガイモデンプンまたはタピオカデンプン、アルギン酸、ある種のケイ酸塩複合体、および炭酸ナトリウムなどの崩壊剤;(f)パラフィンなどの溶液凝固遅延剤;(g)四級アンモニウム化合物などの吸収促進剤;(h)セチルアルコールおよびモノステアリン酸グリセロールなどの湿潤剤;(i)カオリンおよびベントナイトなどの吸着剤;並びに(j)タルク、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、固形ポリエチレングリコール、ラウリル硫酸ナトリウム、またはそれらの混合物などの潤滑剤。カプセル、錠剤、およびピルでは、剤形は緩衝剤を含んでもよい。
【0050】
経口投与のための液体の剤形は薬学的に許容されうる乳剤、溶液、懸濁液、シロップ、およびエリキシルが挙げられる。作用化合物以外に、液体の剤形は、水または他の溶媒、溶解剤、および乳化剤などの当技術分野において普通に使用される不活性な希釈剤を含んでもよい。例示的な乳化剤は、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、炭酸エチル、酢酸エチル、ベンジルアルコール、安息香酸ベンジル、プロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジメチルホルムアミド、綿実油、落花生油、トウモロコシ胚眼油、オリーブオイル、ひまし油およびゴマ油などのオイル、グリセロール、テトラヒドロフルフリルアルコール、ポリエチレングリコール、ソルビタンの脂肪酸エステル、ならびにこれらの物質の混合物等である。
【0051】
本発明のナノ粒子組成物中の作用成分の実際の投与量は、特定の組成物および投与方法に対して望ましい治療応答を得るのに効果的である作用成分の量を得るために変化させても良い。従って、選択した用量は、望ましい治療効果、投与経路、投与される薬物の効力、望ましい治療期間、および他の因子に依存する。
【0052】
宿主に単回投与または分割投与で投与される本発明の化合物の1日の総用量は、例えば、体重1キログラムあたり約1ナノモル〜約5マイクロモルの量であってもよい。用量単位組成物は、1日用量を製造するために使用されるような回数分の分量を含有してもよい。しかし、任意の特定の患者のための特定の投与量は、体重、全身の健康状態、性別、食事、投与時間、投与経路、投与する薬物の効力、吸収および排泄経路、他剤との併用、並びに治療対象の特定の疾患の重症度を含む種々の因子に依存することが理解される。
【0053】
以下の実施例は本発明を例示するために示されている。しかし、本発明は、これらの実施例に記載されている特定の条件や詳細に限定されるべきではないことが理解されるべきである。明細書全体にわたって、米国特許を含む公共的に利用可能な文書への任意の言及および全ての言及は、参照として本願に組み入れられている。
【0054】
実施例1
本実施例の目的は、種々の保存期間の後に、約190nmおよび約125nmの出発時の粒子サイズを有する2つのナノ粒子組成物の粒子サイズを比較することであった。
【0055】
化合物A(中枢神経系(CNS)不安疾患を治療するために使用することが意図されている化合物)の2つの異なるナノ粒子分散液をローラー製粉法によって製造した。最初に、5%の化合物Aと2.5%のHPC-SL(表面安定剤)(Nisso Chemicals)の混合物を、U.S. Stonewareローラーミル上で7.5mlの0.8mmのYTZ Zirconia媒体(Tosoh Corp.)を充填した15mlの瓶の中で24時間製粉した。この分散液の最終的な有効平均粒子サイズは188nmであった(製剤A)。第二のナノ粒子分散液である、5%化合物A、2.5%HPC-SLおよび0.4%PVP C-15(結晶成長改良剤(LSP Fine Chemicals)の混合物も同じU.S. Stonewareローラーミル上で15mlの瓶中で24時間製粉した。この分散液の最終的なサイズは185nmであった(製剤B)。
【0056】
各分散液の少量の試料を瓶から取り出し、2〜8℃において安定した状態でおいた。2つの異なる分散液を含有する瓶をローラーミルに戻し、さらに24時間製粉した。合計48時間のローラーミル製粉後、化合物Aの2つの異なるナノ粒子分散液の最終的な粒子サイズを測定した。最初に、5%の化合物Aと2.5%のHPC-SLの混合物を粒子サイズ125nmまで製粉した(製剤C)。第二のナノ粒子分散液、5%化合物A、2.5%HPC-SL、および0.4%PVP C-15の混合物を粒子サイズ126nmまで製粉した(製剤D)。4つの製剤の粒子サイズおよび組成の要約を表1に示す。
【0057】
【表1】

【0058】
2〜8℃における製剤A、B、CおよびDの安定性を経時的にモニターした。188nmおよび185nmの粒子サイズまで製粉した、製剤AおよびBの顕微写真を5日目、2週間目および1ヶ月目に撮影した。また、製剤Aの顕微写真を4ヶ月目および7ヶ月目に撮影した。5日安定性(図1および図3)、2週間安定性(図5および図7)および1ヶ月目(図9および図11)の顕微写真は、結晶成長または粒子凝集を全くまたはほとんど示さない。また、4ヶ月および7ヶ月後(それぞれ、図13および図15)の製剤Aの顕微写真は結晶成長または粒子凝集をまったくまたはほとんど示さない。
【0059】
一方、125nmおよび126nmの粒子サイズまで製粉した、製剤CおよびDは、劇的な結晶成長(大きい針様粒子の形成)および粒子凝集を示した。5日安定では、わずかな結晶成長が製剤Cに見られる(図2)。2週間安定後では、劇的な結晶成長が製剤CおよびDの両方に観察される(それぞれ、図6および図7)。これは継続する傾向があり、製剤CおよびDでは1ヶ月の安定後によりさらに劇的な結晶成長が観察される(それぞれ、図10および12)。最後に、4ヶ月または7ヶ月安定後の製剤Cは、広範な結晶成長のために薬学的組成物として実質的に有用ではない(図14および図16)。
【0060】
製剤BおよびDは、結晶成長改良剤であるPVP C-15を含んでいたので、製剤BおよびDのこれらの観察は特に驚くべきものであった。結晶成長改良剤を添加しても、製剤Dは、わずか2週間の安定後に広範な結晶成長を示した。
【0061】
実施例2
本実施例の目的は、加熱メッキ後の組成物の最終粒子サイズに対する、ナノ粒子組成物の出発粒子サイズの影響を測定することであった。
【0062】
化合物B(免疫抑制剤または免疫抑制作用を有する抗生物質)と表面安定剤としてのPluronic F68(商標)(エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロックコポリマー;BASF Wyandotte Corporation、ニュージャージー州パーシパニー)の3つのナノ粒子製剤を製造した。3つの製剤は異なる粒子サイズ範囲を有した:(1)約110nmの平均粒子サイズを有する製剤S;(2)155〜220nmの平均粒子サイズを有する製剤M、および(3)約300nmの平均粒子サイズを有する製剤L。
【0063】
製剤Sは2段階製粉工程で製造した。最初の段階は、20グラムの化合物Bおよび10グラムのPluronic F68を55グラムの注射用水中に含有するスラリーを製造した。85グラムのスラリーと130mlの500μmポリマー媒体を150mlのチャンバーに入れ、Dynoミル(Glen Mills, Inc., ニュージャージー州クリフトン)で循環モードで3時間半製粉した。第二の製粉段階は、第一の段階から希釈した85グラムの分散液をバッチモードで、50μmのポリマー媒体とともに150mlのチャンバー内で1時間半製粉した。
【0064】
製剤MおよびLでは、ローラー製粉工程を使用した。10%化合物Bと2.5%Pluronic F68を含有するスラリーを製造した。250mlの0.8mm Yttria-Doped-Zirconia媒体を含有する500mlパイレックスガラス瓶に125mlのスラリーを添加し、U.S. Stonewareミルで製粉した。製粉工程は室温において実施した。製剤Mは48時間製粉した。製剤Lは、製剤Mを126℃において3分間オートクレーブすることによって製造した。
【0065】
次いで、3つの製剤の各々をオートクレーブし、次にHoriba LA-910粒子サイズ測定器で粒子サイズを分析した。
【0066】
驚くべきことに、結果は、約110nmの出発時の平均粒子サイズを有するS製剤の最終時のサイズは3つの試験した試料の中で最も大きいことを示した。S製剤は、オートクレーブ後に二峰性サイズ分布を有する唯一の製剤であった。一方、オートクレーブしたMおよびL製剤の最終的な粒子サイズはS製剤の最終的な粒子サイズより小さく、サイズ分布は単峰性であった。
【0067】
多種多様の粒子サイズを有する組成物(二峰性の粒子サイズ分布など)は吸収が一定せず、結果としてバイオアベイラビリティが一定しないので、単峰性の粒子サイズ分布が好ましい。さらに、このような組成物は、一定の薬物品質を提供する剤形に製剤化することが困難である。
【0068】
実施例3
本実施例の目的は、約108nmおよび約216nmの出発時の平均粒子サイズを有する化合物Bのオートクレーブしたナノ粒子組成物の粒子サイズに対する影響を比較することであった。
【0069】
化合物BおよびPluronic F68(商標)の3つの異なるナノ粒子製剤を製造した。製剤IおよびIIは、それぞれ、227および224nmの平均粒子サイズを有し、製剤IIIは108nmの平均粒子サイズを有した。
【0070】
約600グラムの4%のPluronic F68(商標)溶液と100グラムの化合物Bを、4キログラムの0.8mm Yttria-Doped-Zirconia媒体を含有する2Lのパイレックスガラス瓶に添加することによって製剤IおよびIIを製造した。混合物は、U.S.Stonewareローラーミルで室温において72時間ローラーミル製粉した。
【0071】
製剤IIIは、2段階製粉工程を使用して製造した。第一の段階では、約700グラムの9%のPluronic F68(商標)溶液と約130グラムの化合物Bを混合してスラリーを形成した。次に、800グラムのスラリーを1000mlの容器に入れて、Dyno Mill(Glen Mills Inc.,ニュージャージー州クリフトン)で、500μmポリマー媒体と共に300mlのチャンバー内で14時間製粉した。第二の製粉段階はバッチモードで実施し、第一の製粉段階の85グラムの分散液を150mlのチャンバー内で50μmのポリマー媒体と共に6時間処理した。
【0072】
製剤IおよびIIは、注射用水(WFI)(Pharmaceutical Engineering, 11:15-23(1991)に記載されている)または表面安定剤粉末(すなわち、Pluronic F68(商標)粉末)を添加して、最終濃度および薬物:表面安定剤の比を調節することによって製造した。製剤IおよびIIは、薬物:界面活性剤の比がそれぞれ2:1.2および2:1であった。製剤IIIは、WFIを添加して試料を30倍に希釈することによって製造した。全ての試験製剤は激しく撹拌して、Pluronic F68(商標)粉末を確実に溶解した。
【0073】
製剤IおよびIIでは、1mlの製剤を10mlのガラス製のクリンプトップバイアルに添加し、密封してから、121℃において25分間オートクレーブした。各製剤の3つの試料をオートクレーブした(製剤Iでは、試料##1、2および3、製剤IIでは、試料##4、5および6)。製剤IIIでは、5mlの製剤を4本の20mlのクリンプトップバイアルに添加し、密封した。2つのバイアルを121℃において10分間オートクレーブし(試料##7および8)、2つのバイアルを121℃において20分間オートクレーブした(試料##9および10)。
【0074】
オートクレーブ後、各試料の粒子サイズ分布をHoriba LA-90粒子サイズ計で分析した。結果を以下の表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
結果は、約220nmの平均粒子サイズを有するナノ粒子組成物(製剤IおよびII)は、加熱滅菌後中程度の成長を示し、組成物は400nm未満の平均粒子サイズを有し、粒子の90%は約650nmまたは700nm未満のサイズを有することを示している。一方、約108nmの平均粒子サイズを有するナノ粒子組成物(製剤III)は、加熱滅菌後、劇的な成長を示し、組成物は約650nm〜約780nmの平均粒子サイズを有し、製剤IおよびIIのほぼ2倍であった。また、製剤IIIの粒子の90%は約1250nm〜約1500nmの粒子サイズを有し、これは製剤IおよびIIの2倍以上であった。
【0077】
顕微写真は、Horibaサイズ測定器による粒子サイズの読みを確認している。製剤IおよびIIのオートクレーブ試料はどれも顕微鏡下で凝集または固まりが観察されなかった。
【0078】
製剤III(108nmの平均出発時の粒子サイズを有する)の4つの試料のクロマトグラムには二重線が観察されたが、製剤IまたはII(それぞれ、227nmおよび224nmの平均出発時粒子サイズを有する)の試料では観察されなかった。二重線は、製剤が幅のひろい粒子サイズ分布を有することを示しており、これは薬学的組成物には望ましくない。
【0079】
結果は、より小さい平均出発時粒子サイズが、小さい平均粒子サイズを有するオートクレーブ後の製剤を生じないことを示唆している。むしろ、大きな粒子の凝集を生ずることなく、ナノ粒子組成物をオートクレーブすることができる最適な粒子サイズが存在する。
【0080】
本発明の精神または範囲から逸脱することなく、種々の改良および変更を本発明の方法および組成物に加えることができることは当業者に明らかである。従って、本発明は、本発明の改良および変更が添付の特許請求の範囲およびその等価物の範囲内にある場合には、本発明はそれらを含むことが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0081】
【図1】5%化合物Aおよび2.5% HPC-SLを24時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、5日後の冷所安定性を示す図である。
【図2】5%化合物Aおよび2.5% HPC-SLを48時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、5日後の冷所安定性を示す図である。
【図3】5%化合物A、2.5% HPC-SL、および0.4%ポリビニルピロリドン(PVP)を24時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、5日後の冷所安定性を示す図である。
【図4】5%化合物A、2.5% HPC-SL、および0.4%を48時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、5日後の冷所安定性を示す図である。
【図5】5%化合物Aおよび2.5% HPC-SLを24時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、2週間後の冷所安定性を示す図である。
【図6】5%化合物Aおよび2.5% HPC-SLを48時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、2週間後の冷所安定性を示す図である。
【図7】5% L-807,067、2.5% HPC-SL、および0.4% PVPを24時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、2週間後の冷所安定性を示す図である。
【図8】5%化合物A、2.5% HPC-SL、および0.4% PVPを48時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、2週間後の冷所安定性を示す図である。
【図9】5%化合物Aおよび2.5% HPC-SLを24時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、1ヶ月後の冷所安定性を示す図である。
【図10】5%化合物Aおよび2.5% HPC-SLを48時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、1ヶ月後の冷所安定性を示す図である。
【図11】5%化合物A、2.5% HPC-SL、および0.4% PVPを24時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、1ヶ月後の冷所安定性を示す図である。
【図12】5%化合物A、2.5% HPC-SL、および0.4% PVPを48時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、1ヶ月後の冷所安定性を示す図である。
【図13】5%化合物Aおよび2.5% HPC-SLを24時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、4ヶ月後の冷所安定性を示す図である。
【図14】5%化合物Aおよび2.5% HPC-SLを48時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、4ヶ月後の冷所安定性を示す図である。
【図15】5%化合物Aおよび2.5% HPC-SLを24時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、7ヶ月後の冷所安定性を示す図である。
【図16】5%化合物Aおよび2.5% HPC-SLを48時間製粉後に生成したナノ粒子組成物の顕微鏡写真であって、7ヶ月後の冷所安定性を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2週間以上の保存期間後または高温曝露後に、最小の粒子凝集または結晶成長を示すナノ粒子製剤であって、組成物が
(a)水不溶性薬物と、
(b)薬物の表面に吸着された一つまたは複数の表面安定剤とを含み、
ナノ粒子組成物が約150nmから約350nmの有効平均粒径を有する製剤。
【請求項2】
薬物が約99.9から約10重量%の量で存在する、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
一つまたは複数の表面安定剤が約0.1から約90重量%の量で存在する、請求項2記載の組成物。
【請求項4】
薬物が結晶相薬物および無定形相薬物からなる群より選択される、請求項1記載の組成物。
【請求項5】
約150nmから約300nm、約150nmから約250nm、および約150nmから約200nmからなる群より選択される有効平均粒径を有する、請求項1記載の組成物。
【請求項6】
注射製剤における請求項1記載の組成物。
【請求項7】
一つまたは複数の表面安定剤の少なくとも一つがポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである、請求項1記載の組成物。
【請求項8】
一つまたは複数の表面安定剤の少なくとも一つが界面活性剤である、請求項1記載の組成物。
【請求項9】
1ヶ月以上の保存期間後または高温曝露後に、最小の粒子凝集または結晶成長を示す、請求項1記載の組成物。
【請求項10】
4ヶ月以上の保存期間後または高温曝露後に、最小の粒子凝集または結晶成長を示す、請求項1記載の組成物。
【請求項11】
7ヶ月以上の保存期間後または高温曝露後に、最小の粒子凝集または結晶成長を示す、請求項1記載の組成物。
【請求項12】
加熱または保存中のナノ粒子組成物における結晶成長および粒子凝集を防止する方法であって、薬物の有効平均粒径が約150nmから約350nmである薬物の表面に吸着された一つまたは複数の非架橋表面安定剤を有する難溶性薬物のナノ粒子組成物を形成することを含む方法。
【請求項13】
ナノ粒子組成物が難溶性薬物を媒質存在下で粉砕することによって形成される、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ナノ粒子調製物を密封されたオートクレーブ可能な容器中で熱オートクレーブすることをさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項15】
薬物が約99.9から約10重量%の量で存在する、請求項12記載の方法。
【請求項16】
一つまたは複数の表面安定剤が約0.1から約90重量%の量で存在する、請求項12記載の方法。
【請求項17】
薬物が結晶相薬物および無定形相薬物からなる群より選択される、請求項12記載の方法。
【請求項18】
ナノ粒子組成物が約150nmから約300nm、約150nmから約250nm、および約150nmから約200nmからなる群より選択される有効平均粒径を有する、請求項12記載の方法。
【請求項19】
一つまたは複数の表面安定剤の少なくとも一つがポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステルである、請求項12記載の方法。
【請求項20】
一つまたは複数の表面安定剤の少なくとも一つが界面活性剤である、請求項12記載の方法。
【請求項21】
2週間以上の保存期間後または高温曝露後に、最小の粒子凝集または結晶成長を示すナノ粒子組成物を用いる方法であって、該組成物が
(a)水不溶性薬物と、
(b)薬物の表面に吸着された一つまたは複数の表面安定剤とを含み、
ナノ粒子組成物が約150nmから約350nmの有効平均粒径を有し、それを必要とする哺乳動物に治療上有効な量のナノ粒子組成物を投与することを含む方法。
【請求項22】
ナノ粒子組成物が約150nmから約300nm、約150nmから約250nm、および約150nmから約200nmからなる群より選択される有効平均粒径を有する、請求項21記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate


【公開番号】特開2010−31026(P2010−31026A)
【公開日】平成22年2月12日(2010.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−223800(P2009−223800)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【分割の表示】特願2000−603653(P2000−603653)の分割
【原出願日】平成12年2月14日(2000.2.14)
【出願人】(500370883)エラン ファーマ インターナショナル,リミティド (45)
【Fターム(参考)】