説明

ナノ粒子製造装置及びナノ粒子製造方法

【課題】原料金属粉末から製造されるナノ粒子の粒径制御や、ナノ粒子同士の数珠つなぎ・ネッキング発生状況の制御を行うことが可能なナノ粒子製造装置を提供する。
【解決手段】本発明のナノ粒子製造装置1は、原料金属粉末とキャリアガスの混合物を、加熱空間での加熱・溶融、冷却空間Yでの冷却ならびに捕集空間Zでの捕集処理を行い、ナノ粒子を製造するナノ粒子製造装置であって、前記加熱空間X、冷却空間Yならびに捕集空間Zが連続した逆流のない流路を形成し、かつ、前記加熱空間Xならびに前記冷却空間Yの断面積に対して、捕集空間の断面積Zを大きく設定し、また、前記加熱空間Xの加熱・溶融温度は、前記原料金属粉末の融点以上の第1温度に保たれ、前記冷却空間Yは、前記原料金属粉末の融点より低い第2温度に保たれ、前記捕集空間Zは、前記冷却空間の第2温度より低い第3温度に保たれていることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単一金属、合金などのナノ粒子の製造に好適なナノ粒子製造装置及びナノ粒子製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルオーダーのサイズの微粒子、いわゆるナノ粒子は、サイズ効果によって現れる特異な性質、或いは、大きな比表面積を持つことから、近年、多くの分野で応用を目指した研究が盛んに行われている。
【0003】
上記のようなナノ粒子の製造方法としては種々のものが提案されているが、例えば、特許文献1(特開2007−84849号公報)には、減圧された不活性ガス中で、原料金属粉末を加熱制御されている蒸発面へ上方から落下させ、該原料金属粉末を瞬時に蒸発させ超微粒子化、凝縮し、上方の捕集面に付着させることを特徴とする金属超微粒子の製造方法が開示されている。
【特許文献1】特開2007−84849号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の製造方法では、原料金属粉末を蒸発させる加熱空間と、蒸発した原料金属粉末を冷却し粒子化する冷却空間と、冷却された原料金属粉末を捕集する空間とが同一空間として構成されているために、前記冷却空間で蒸発した原料金属粉末を冷却して粒子化する過程で、液体粒子あるいは固体粒子として加熱空間に混在し、その混在した液体粒子あるいは固体粒子が核となって加熱空間で新たに蒸発した原料金属粉末と凝集あるいは数珠つなぎ・ネッキングが発生し粗大粒子が生成される、また、前記冷却空間で蒸発した原料金属粉末を冷却して粒子化する過程で、液体粒子として加熱空間に混在し、この液体粒子同士が凝集を起こし、数珠つなぎとなって粗大粒子が生成される、さらには、捕集空間にある冷却された原料金属粉末が、前記と同様に加熱空間に混在し、その混在した固体の原料金属粉末が核となって加熱空間で新たに蒸発した原料金属粉末と凝集あるいは数珠つなぎとなって粗大粒子が生成される、等の現象(これらの現象を、以下「再凝集現象」と称す。)が発生することで、粒径20nm以上の粗大粒子が製造されてしまう割合が非常に多く問題となっていた。なお、数珠つなぎは、単純に粒子同士が凝集する現象を示しており、ネッキングは、粒子同士が溶着する現象として定義される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記のような問題点を解決するために、請求項1に係る発明は、原料金属粉末とキャリアガスの混合物を、加熱空間での加熱・溶融、冷却空間での冷却ならびに捕集空間での捕集処理を行い、ナノ粒子を製造するナノ粒子製造装置であって、
前記加熱空間、冷却空間ならびに捕集空間が連続した逆流のない流路を形成し、かつ、前記加熱空間ならびに前記冷却空間の断面積に対して、捕集空間の断面積を大きく設定したことを特徴とするナノ粒子製造装置である。
【0006】
また、請求項2に係る発明は、請求項1に記載のナノ粒子製造装置において、前記加熱空間の加熱・溶融温度は、前記原料金属粉末の融点以上の第1温度に保たれ、前記冷却空間は、前記原料金属粉末の融点より低い第2温度に保たれ、前記捕集空間は、前記冷却空間の第2温度より低い第3温度に保たれていることを特徴とする。
【0007】
また、請求項3に係る発明は、原料金属粉末とキャリアガスの混合物を、加熱空間での
加熱・溶融処理と、冷却空間での冷却処理ならびに捕集空間での捕集処理を行い、ナノ粒子を製造するナノ粒子製造方法であって、前記加熱空間での加熱・溶融処理、冷却空間での冷却処理ならびに捕集空間での捕集処理が連続した逆流のない流路を形成し、かつ、前記加熱空間ならびに前記冷却空間の断面積に対して、捕集空間の断面積を大きく設定することによってナノ粒子の製造が行われることを特徴とする。
【0008】
また、請求項4に係る発明は、請求項3に記載のナノ粒子製造方法において、前記加熱空間の加熱・溶融処理の処理温度は、前記原料金属粉末の融点以上の第1温度に保たれ、
前記冷却空間の冷却処理の温度は、前記原料金属粉末の融点より低い第2温度に保たれ、
前記捕集空間の捕集処理の温度は、前記冷却空間の第2温度より低い第3温度に保たれてナノ粒子の製造が行われることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
従来の製造方法においては、「発明が解決しようとする課題」に記載のように、「再凝集現象」の発生によって、粒径20nm以上の粗大粒子が製造されてしまう割合が非常に多く問題となっていた。本発明のナノ粒子製造装置及びナノ粒子製造方法によれば、加熱空間、冷却空間ならびに捕集空間が連続した逆流のない流路を形成し、かつ、前記加熱空間ならびに前記冷却空間の断面積に対して、捕集空間の断面積を大きく設定したことによって、前記「再凝集現象」が起こる可能性を大幅に低減することができ、粒径5nm〜10nm程度の単一金属からなるナノ粒子の製造ができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係るナノ粒子製造装置1の概略を示す図である。
【図2】本発明の実施形態に係るナノ粒子製造装置1におけるナノ粒子製造原理を説明する図である。
【図3】本発明の実施形態に係るナノ粒子製造装置における原料供給部10の構成例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るナノ粒子製造装置における冷却空間の構成例を示す図である。
【図5】本発明の他の実施形態に係るナノ粒子製造装置における冷却空間の構成例を示す図である。
【図6】本発明の他の実施形態に係るナノ粒子製造装置1の概略を示す図である。
【図7】本発明の実施形態に係るナノ粒子製造装置1の一例を示す図である。
【図8】実施例に係るナノ粒子製造装置1によって製造されたナノ粒子の透過型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本発明の実施形態に係るナノ粒子製造装置の概略を示す図である。図1において、1はナノ粒子製造装置、3は入力部、4はメインコントローラー、5はポンプコントローラー、6はバルブコントローラー、7はキャリアガス調整バルブ、8は流量計、9はキャリアガス導入管、10は原料供給部、15は原料供給導管、20は加熱部、21は第1導通管部、22は第2導通管部、41は第3導通管部、23は保護層部、24は熱源部、40は冷却部、50は捕集部、51は外囲部、52は内囲部、53は内壁面、55は排気管、58は圧力計、59は真空ポンプ、60は冷媒路、61は冷媒導入管、62は冷媒排出管をそれぞれ示している。
【0012】
ナノ粒子製造装置1は、概略、キャリアガスと共に原料金属粉末を処理工程に供給する原料供給部10と、この原料供給部10によって供給された原料金属粉末を通過させ気化させる加熱部20と、加熱部20において気化された原料金属粉末を通過させ冷却する冷
却部40と、冷却部40を通過した原料金属粉末を捕集する捕集部50とを有している。
【0013】
原料供給部10は、キャリアガス導入管9から導入されるArやHe、N2などの不活
性ガスに、粉末状の原料金属粉末をのせて第1の処理工程である加熱工程へと供給するものである。本発明に係るナノ粒子製造装置1によってナノ粒子を製造可能な原料金属粉末は、単一金属、合金、金属間化合物であり、原料供給部10は、単一金属、合金、金属間化合物いずれかの粉末状の原料金属粉末を微量ずつ落下させることができるような構成となっている。本発明の実施形態に係るナノ粒子製造装置1において、原料供給部10によって供給する原料金属粉末の平均粒子径は500μm以下、より好ましくは100μm以下である。
【0014】
ここで、原料供給部10内の構造について説明する。図3は本発明の実施形態に係るナノ粒子製造装置における原料供給部10の構成例を示す図である。図3(A)は低周波式フィード法を採用した原料供給部10の構成概略であり、図3(B)は打振式フィード法を採用した原料供給部10の構成概略である。
【0015】
図3(A)の低周波式フィード法においては、ノズル12を有し略注射器型をしたホッパー11は、振動子13と連結されている。この振動子13は圧電素子によって低周波振動をするものである。また、ノズル12の先端部が原料供給導管15に挿通されるようになっている。このような構造をした原料供給部10において、ホッパー11に原料金属粉末を充填し、振動子13で発生する低周波振動によりホッパー11を振動させると、これに伴い、ノズル12から原料供給導管15に投入させるようになっている。このような低周波式フィード法による原料供給部10によれば、非常に安定した良好な原料供給を実現することができる。
【0016】
また、図3(B)の打振式フィード法においては、不図示のスリットが設けられているスリット入りホッパー16に原料金属粉末を充填し、ステンレス製の打振棒17によってスリット入りホッパー16を周期的に打ちつけて、その衝撃によりスリット入りホッパー16のスリットから原料金属粉末を原料供給導管15に供給するようになっている。このような打振式フィード法によっても、良好な原料供給を実現することができる。
【0017】
キャリアガス導入管9における、キャリアガス源(不図示)と原料供給部10との間には、原料供給部10に供給されるキャリアガスの流量を調整するキャリアガス調整バルブ7と、原料供給部10に供給されるキャリアガスの流量を計測する流量計8とが設けられている。
【0018】
キャリアガス調整バルブ7はバルブコントローラー6によってバルブの開閉量がコントロールされ、原料供給部10に供給するキャリアガスの流量を調整することができるようになっている。また、バルブコントローラー6は、これより上位のメインコントローラー4から命令を受けて、キャリアガス調整バルブ7の開閉量を制御するようになっている。また、流量計8によって取得されたキャリアガスの流量データは、上位のメインコントローラー4に対して送信されるようになっている。
【0019】
原料供給部10から、キャリアガスと原料金属粉末を鉛直下方に導くように原料供給導管15が設けられており、この原料供給導管15から落下する原料金属粉末は、捕集部50の内囲部52へと連通する第1導通管部21、第2導通管部22及び第3導通管部41からなる管状部へと導かれる。
【0020】
この管状部における第2導通管部22の周囲には熱源部24が配されており、この熱源部24を加熱させることで、第2導通管部22内のスペースを原料金属粉末の融点以上の
第1温度に保つようにしている。すなわち、第2導通管部22内の空間は、原料供給導管15から落下した原料金属粉末が通過すると原料金属粉末が気化する加熱空間Xとして機能する。
【0021】
熱源部24には、カーボンヒータ、タングステンヒータなどの抵抗加熱方式のもの(数100℃〜2000℃に加熱可)、プラズマによる加熱方式のもの(数1000℃〜数10000℃に加熱可)、誘導加熱方式(数100℃〜1500℃に加熱可)のものなど種々の加熱方式のものから適宜選択して用いることができる。いずれの加熱方式を採用する場合にも、熱源部24と熱源部保持構造(明示せず)の間には絶縁あるいは断熱構造とすることで、安定した熱源部24を構成することもがきる。
【0022】
第2導通管部22の内側の面には、耐食性の良好なセラミックス材料(例えばP−BN等)からなる保護層部23が施されており、熱源部24による加熱によって第2導通管部22内面の表層が溶融、気化し、原料金属粉末に混入することがないように保護する機能を持っている。なお、第2導通管部22内面には温度制御のための熱電対(不図示)を取り付けることが好ましい。
【0023】
また、管状部における第3導通管部41の内側の空間は、原料金属粉末の融点より低い第2温度に保たれ、第2導通管部22内の加熱空間Xにおいて気化された原料金属粉末を通過させ冷却する冷却空間Yとして機能するものである。本発明のナノ粒子製造装置1においては、冷却空間Yを構成する第3導通管部41が、加熱空間Xを構成する第2導通管部22の鉛直下方に位置するレイアウトとなっているので、従来の製造方法のように、いったん蒸発面で蒸発した原料金属粉末が、冷却空間を通過した後に捕集面に到達するまでの間で、滞留等によって「再凝集現象」を発生させることがない。このため、粒径20nm以上の粗大粒子が製造されてしまう割合を抑制することが可能となる。
さらに、加熱空間Xと冷却空間Yとは、断面積および断面形状が略同一であることが好適である。
【0024】
第3導通管部41を原料金属粉末の融点より低い第2温度に保つための態様としては、種々のものを採用することができる。
【0025】
図4は本発明の実施形態に係るナノ粒子製造装置における冷却空間Yの構成例を示す図である。図4(A)に示す冷却空間を構成する第3導通管部41においては、冷媒路44に冷媒を流入させる冷媒導入管42と、冷媒路44から冷媒を流出させる冷媒排出管43とが設けられており、これらの構成により水などを流通させることで、冷却空間Yの温度を安定的に保つようにするものである。
【0026】
また、図4(B)は上記冷却空間における温度勾配を積極的に形成させるようにすることを示している。冷媒路44の構成や、冷媒路44中を流通させる冷媒の種類を設定することで、例えば、温度勾配(a)、或いは温度勾配(b)などの種々の態様の温度勾配を冷却空間中に構成することができる。本発明の実施形態に係るナノ粒子製造装置1においては、このような冷却空間における温度勾配を積極的に形成させるようにすることで、ナノ粒子の特性の制御を種々行い得るものである。
【0027】
その他、自然冷却させる方法や、放熱フィンを第3導通管部41外周囲に設けることによって冷却させる方法等を採用することもできる。
【0028】
今回、加熱空間Xで気化された原料金属粉末が、第3導通管部41内の冷却空間Yを通過するときにおける通過速度が、製造されるナノ粒子の粒径制御、粒径分布幅の制御や、ナノ粒子同士の数珠つなぎ・ネッキング発生状況の制御に大きな影響を与える、という知
見を得ることができた。そこで、本発明のナノ粒子製造装置1においては、原料金属粉末が冷却空間Yを通過する速度を制御する制御手段を設けるようにして、捕集部50で捕集される原料金属粉末からなるナノ粒子の特性を制御することを特徴としている。
【0029】
また、ナノ粒子製造装置においては、加熱空間X、冷却空間Yの断面積に対して捕集空間Zの断面積を、5倍以上と急激に大きくしているため、原料金属粉末が冷却空間Yから捕集空間Zへ入り込んだ時に、原料金属粉末の流速が急速に降下することで、加熱空間Xから捕集空間Zとの間で原料金属粉末の逆流が発生しないように構成している。
【0030】
第3導通管部41の鉛直下方には、第3導通管部41と連通した捕集部50が設けられている。この捕集部50は、冷却空間Yにおける前記の第2温度より低い第3温度に保たれ、冷却空間Yを通過した原料金属粉末をナノ粒子として捕集する。捕集部50は、大気側に接する外囲部51と、気圧がコントロールされた空間を包囲する内囲部52とからなる2重構造をなしており、内囲部52の内壁面53によって、第3導通管部41(冷却空間Y)を経たナノ粒子が捕集されるようになっている。ここで、内囲部52で囲まれた空間を捕集空間Zとする。
【0031】
捕集部50における外囲部51と内囲部52との間には、冷媒路60が形成されている。また、捕集部50には、この冷媒路60に冷媒を流入させる冷媒導入管61と、冷媒路60から冷媒を流出させる冷媒排出管62とが設けられている。捕集部50内に形成されたこのような冷媒路60に流す冷媒としては、温度コントロールされた水や液体窒素などを挙げることができる。このような内囲部52と内壁面53との間の冷媒路60を流通する冷媒によって内囲部52の内壁面53の温度が保たれるようになっている。
【0032】
捕集部50における内囲部52内の捕集空間Zからは排気管55が配管されており、内囲部52内の気体を真空ポンプ59によって排気することができるようになっている。真空ポンプ59としては任意のものを用い得るが、例えば、ロータリーポンプとターボ分子ポンプとからなる真空ポンプシステム構成を用いることができる。
【0033】
なお、本実施形態に係るナノ粒子製造装置1では、上記のような捕集部50の構成としたが、ナノ粒子を捕集する方法としては、バグフィルターを用いる方式、慣性力方式、電気集塵方式などを採用することもできる。
【0034】
本発明のナノ粒子製造装置1においては、このような真空ポンプ59によって、加熱空間Xで原料金属粉末が気化する真空度を維持するようにしている。すなわち、原料供給導管15から落下した原料金属粉末が、加熱空間X(第2導通管部22内空間)を通過する際には、原料金属粉末が溶融状態となるのみでなく、さらに一歩進んでガス化した状態となる。
【0035】
装置における内囲部52からの排気を行う真空ポンプ59は、ポンプコントローラー5から命令を受けて排気量をコントロールすることが可能とされている。メインコントローラー4は、ポンプコントローラー5に対して指令を発し、ポンプコントローラー5はこれを受けて、真空ポンプ59の排気量を調整する。また、装置内の圧力は圧力計58によって計測され、その計測値は、上位のメインコントローラー4に対して送信される。
【0036】
メインコントローラー4は、マイクロコンピュータとこのマイクロコンピュータ上で動作するプログラムを保持するROMとマイクロコンピュータのワークエリアであるRAMなどからなる汎用の情報処理機構であり、所定のデータ処理を行うことが可能なものである。また、メインコントローラー4は、装置のユーザーからの指示を入力することが可能な入力部3を有しており、この入力部3から、原料金属粉末が冷却空間Yを通過する速度
を指定することができるようになっている。
【0037】
メインコントローラー4は、冷却空間Yにおける原料金属粉末の通過速度が、入力部3から指示されると、流量計8から取得される流量データと、圧力計58から取得される内囲部52内の圧力データとに基づいて演算を行い、入力部3から入力された目標の通過速度となるように、バルブコントローラー6及びポンプコントローラー5を制御する。すなわち、冷却空間Yにおける原料金属粉末の通過速度が、入力部3から指示された目標値となるように、バルブコントローラー6に対してキャリアガス調整バルブ7の開閉量を調整するように命令を発すると共に、ポンプコントローラー5に対しても真空ポンプ59の排気量を調整するように命令を発する。
【0038】
以上のように構成される本発明のナノ粒子製造装置1による金属ナノ粒子の製造手順について説明する。最初に原料供給部10に原料金属粉末を装填する。原料金属粉末は、加熱空間X(第2導通管部22内空間)において、瞬間蒸発をさせるために、体積を小さくして受熱表面積を大きくする必要がある。具体的には、粒子径を500μm以下に、特に100μm程度というように小さくすることが好ましい。
【0039】
ナノ粒子の捕集部50には、冷媒導入管61から冷却水を供給し、内部を冷却水が循環して流冷媒排出管62から排出させる。これによって、運転時、内囲部52の内壁面53を低温に保つことができる。内囲部52の内部を、真空ポンプ59によって真空引きし、その後、真空引きしながら、キャリアガス導入管9から不活性ガス(通常アルゴンガス)を導入し、雰囲気圧力が製造時の所定の圧力(例えば、3Torr)に設定されるように内囲部52の内部を不活性ガスで置換する。この時点でキャリアガスは、上部のキャリアガス導入管9より導入され、排気管55から排気されるという流れになっている。
【0040】
内囲部52の内部圧力が安定したところで、熱源部24の電源を入れ、第2導通管部22内空間を加熱する。第2導通管部22内空間が設定温度に達したところで、原料供給部10から微量ずつ原料金属粉末を落下させる。原料金属粉末は、第2導通管部22内の加熱空間Xに、連続的に、または断続的に落下させる。
【0041】
以下、落下した原料金属粉末が加熱空間X、冷却空間Y、捕集空間Zを経て、どのようにナノ粒子へと変化するかについて説明する。図2は本発明の実施形態に係るナノ粒子製造装置1におけるナノ粒子製造原理を説明する図であり、ナノ粒子の製造過程を模式的に示す図である。図2において、(1)乃至(4)は、装置内の位置に応じた原料金属粉末の様子を模式的に示している。以下、説明する。
(1)原料金属粉末が第2導通管部22内の加熱空間Xを落下しながら通過すると、原料金属粉末は瞬時に蒸発する。
(2)気化した原料金属粉末は、加熱空間Xを通過後、徐々に凝縮し、核が生成される。(3)第3導通管部41内の冷却空間Yにおいては、(2)で生成された核がより集まり粒子へと成長する。
(4)成長したナノ粒子は捕集空間Zへ移動し、不活性ガス中を浮遊し、捕集部50の捕集空間Zの内壁面53で捕集される。ナノ粒子同士が凝集することはなく、個々ばらばらの状態で付着し凝縮する。
【0042】
(4)の捕集部50の捕集空間Zにおけるナノ粒子の捕集は熱泳動という現象が大きく影響している。気体中に粒子が浮遊している状況下で、気体分子はその熱運動により粒子と常に衝突することとなる。その気体中に大きな温度勾配があるとき、粒子に衝突する気体分子の運動量は、粒子の高温側と低温側とを比較すると高温側の方が大きくなる結果、粒子は低温側へ向かう力を受ける。この力を熱泳動力と呼び、それによって粒子が低温側へ移動する現象を熱泳動(thermophoresis)と呼ぶ。この現象により高温ガス中の微粒子
が温度の低い固体壁等へ向かって移動し、付着するケースが一般的で、例えば、煙突の内壁にすすが付着する現象などは、熱泳動現象に大きく起因している。
【0043】
原料金属粉末の供給を終了し、上記の(1)乃至(4)の一連のナノ粒子の製造過程がした後、熱源部24を降温し、常温まで下がったところで、捕集部50の内囲部52の内部圧力を常圧に戻す(雰囲気ガスを導入する)。内囲部52の内部が常圧に戻ったところで装置を分解し、ナノ粒子の内壁面53に付着したナノ粒子を収集する。
【0044】
以上のような、本発明のナノ粒子製造装置及びナノ粒子製造方法によれば、第2導通管部22内の加熱空間において気化された原料金属粉末が、第3導通管部41内の冷却空間Yを通過する速度を制御する制御手段を有しており、この制御手段によって適正に気化した原料金属粉末の冷却がコントロールされるので、原料金属粉末から製造されるナノ粒子の粒径制御、粒径分布幅の制御や、ナノ粒子同士の数珠つなぎ・ネッキング発生状況の制御を行うことが可能となり、粒径5nm〜10nm程度の単一金属からなるナノ粒子の製造ができるようになるのである。
【0045】
次に、本発明のナノ粒子製造装置1で、冷却空間Yにおける原料金属粉末の通過速度を調整する他の実施形態について説明する。図5は本発明の他の実施形態に係るナノ粒子製造装置における冷却空間Yの構成例を示す図である。図5(A)は冷却空間Yを構成する第3導通管部41として、内径r0のものが用いられている例を示しており、図5(B)
は冷却空間Yを構成する第3導通管部41として、内径r0と異なる内径r1のものが用いられている例を示している。冷却空間Yにおける原料金属粉末の通過速度を調整する一方法として、図5(A)に示す第3導通管部41と、図5(B)に示す第3導通管部41とを交換可能に構成する。
【0046】
キャリアガス導入管9から供給されるキャリアガスの量が一定であり、かつ、真空ポンプ59から排気されるガスの量が一定である場合には、第3導通管部41を図5に示すように変更可能とすることが可能となる。本実施形態においては、第3導通管部41を交換可能に構成することによって、冷却空間Yにおける原料金属粉末の通過速度を所望のものとし、もって、製造されるナノ粒子の粒径制御、粒径分布幅の制御や、ナノ粒子同士の数珠つなぎ・ネッキング発生状況の制御を行うことを可能とする。
【0047】
次に、本発明の他の実施形態について説明する。図6は本発明の他の実施形態に係るナノ粒子製造装置1の概略を示す図である。図6に示す実施形態が、図1に示す実施形態と相違する点は、捕集部50の一部に分級装置80が設けられている点である。本実施形態においては、捕集したナノ粒子を分級装置80によって分級する。また、分級装置80では、どの粒径の粒子がどの程度存在するかに係る分級データを取得し、これを上位のメインコントローラー4に送信する。メインコントローラー4は、分級データを取得すると、所望の粒径分布となるように、バルブコントローラー6及びポンプコントローラー5を制御し、冷却空間Yにおける原料金属粉末の通過速度を変化させる。
ここで、分級装置80は、粒子の分布を短時間に測定できる装置であればいずれの方法でも良いが、特許第4204045号「粒子分布測定装置」等を利用することができる。
【0048】
(実施例)
図7は、図1で示す実施例に対して、加熱空間Xと冷却空間Yとの間を気化した金属原料粉末を所定の速度で通過させることを基本にして展開した別の実施例の装置構成であり、これまでに説明した装置と同様の符号が付された構成については同様のものを示している。これまでに説明した装置と異なるのは、熱源部24が装置底面側に設けられており、加熱空間は熱源部24の直上方の領域に形成される。また、熱源部24から横方向にずれた空間が冷却空間Yとして機能する。
【0049】
原料供給導管15の先端部18は、上記のようにして形成された加熱空間X及び冷却空間Yを原料金属粉末が横切るような方向に、原料金属粉末を供給することが可能な角度に構成されている。上記のような原料供給導管15の先端部18から、キャリアガスにのって供給された原料金属粉末は、概略点線で示すような軌跡で流れ、加熱空間X及び冷却空間Yを通過する。冷却空間Yを経ることによって、原料金属粉末から生成されたナノ粒子は捕集部50左側の内壁面53に捕集される。
【0050】
いったん加熱空間Xを経た原料金属粉末が、再度加熱空間X及び冷却空間Yに進入することを防ぐために遮蔽板19が設けられている。したがって、図7に示す本実施例に係るナノ粒子製造装置1の構成のレイアウトは、従来の製造方法のように、いったん蒸発面で蒸発した原料金属粉末が、冷却空間Yを通過した後に捕集面に到達するまでに、再気化してしまうような状況を発生させることがない。このため、本実施例に係るナノ粒子製造装置1によれば、粒径20nm以上の粗大粒子が製造されてしまう割合を抑制することが可能となるのである。
【0051】
以上のように構成されたナノ粒子製造装置1において、原料金属粉末として粒径45μm以下で平均粒径20μmのTi粉末((株)高純度化学研究所製チタン粉末(99.9%))を用いた。また、キャリアガスにはアルゴンガスを用い内囲部52の圧力が3Torrとなるように調整した。熱源部24にはカーボヒーター(抵抗加熱)を用い、熱源部24の温度が2000℃となるように電流を流した。
【0052】
原料供給部10としては低周波式フィード法を採用し、この原料供給部10によりTi粉末を、3g/hourの割合で供給した。
【0053】
原料Ti粉末を所定量落下させた後、熱源部24の加熱を終了し、熱源部24を常温まで降下させ捕集部50を開放した。開放後、内壁面53からナノ粒子を収集した。
【0054】
キャリアガス調整バルブ7によるアルゴンガスの供給量の調整、及び真空ポンプ59による排気量の調整によって、原料金属粉末が冷却空間Yを通過する速度をV0、2V0、4V0と変更して、ナノ粒子を製造し、製造したそれぞれのナノ粒子について、透過型電子
顕微鏡で観察した。図8が透過型電子顕微鏡写真であり、図8(A)は冷却空間通過速度V0で生成されたナノ粒子の写真であり、図8(B)は冷却空間通過速度2V0で生成されたナノ粒子の写真であり、図8(C)は冷却空間通過速度4V0で生成されたナノ粒子の
写真である。
【0055】
ここで、V0とは、「金属原料粉末が、加熱空間で、適正に蒸発する時のキャリアガス
の流速」を示し、金属原料粉末毎に、予め、実験等によって適宜定められるものである。
【0056】
図8に示すように、冷却空間通過速度が速くなるほどTiナノ粒子の粒径が大きくなり、数珠つなぎ・ネッキングも増えることがわかる。また、冷却空間通過速度V0で生成さ
れたナノ粒子については、5〜10nm程度の粒径が極めて小さいナノ粒子も製造することができた。
【0057】
以上まとめると、従来の製造方法においては、いったん蒸発面で蒸発した原料金属粉末が、冷却空間を通過した後に捕集面に到達するまでに、再気化してしまうような状況を発生させる構成となっていたが、本発明のナノ粒子製造装置及びナノ粒子製造方法によれば、加熱空間において気化された原料金属粉末が冷却空間を通過する速度を制御する制御手段を有しており、この制御手段によって適正に気化した原料金属粉末の冷却がコントロールされるので、原料金属粉末から製造されるナノ粒子の粒径制御、粒径分布幅の制御や、
ナノ粒子同士の数珠つなぎ・ネッキング発生状況の制御を行うことが可能となり、粒径5nm〜10nm程度の単一金属からなるナノ粒子の製造ができるようになる。
上記では、メインコントローラ4による制御を前提として説明を行ったが、メインコントローラ4によらずにナノ粒子製造を行うことができる。
【0058】
図1において、ナノ粒子製造の対象となる原料金属粉末に対して、予め、キャリアガス調整バルブ7におけるキャリアガスの流量の調整量、原料補給部10における原料補給量、加熱部20の熱源部での加熱温度、冷却部40の冷却温度に対する冷却量、および、捕集部50における冷却温度と真空度とを設定し、それらの設定条件においてナノ粒子製造装置の運転を行うことによって、メインコントローラ4を用いずに、所望のナノ粒子の製造を実現することができる。
【0059】
以上、原料金属粉末がTi粉末の場合を説明したが、本発明では、原料金属粉末を酸化、還元、あるいは、その他化学反応によってナノ粒子を製造するものではなく、溶融・気化と冷却によってナノ粒子を製造するものであるため、元素周期律表の3d元素(Ca、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Ge、As、Se、Br、Kr)、4d元素(Sr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、Cd、In、Sn、Sb、Te、I、Xe)、5d元素(Ba、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au)等を原料金属として利用し、ナノ粒子を製造することができる。好ましくは、元素周期律表の3d元素のCa、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、4d元素のSr、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Pd、Ag、5d元素のBa、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Auであり、さらに好ましくは、3d元素のTi、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、4d元素のZr、Nb、Mo、Pd、Ag、5d元素のPt、Auである。
【符号の説明】
【0060】
1 ナノ粒子製造装置
3 入力部
4 メインコントローラー
5 ポンプコントローラー
6 バルブコントローラー
7 キャリアガス調整バルブ
8 流量計
9 キャリアガス導入管
10 原料供給部
11 ホッパー
12 ノズル
13 振動子
15 原料供給導管
16 スリット入りホッパー
17 打振棒
18 先端部
19 遮蔽板
20 加熱部
21 第1導通管部
22 第2導通管部
23 保護層部
24 熱源部
40 冷却部
41 第3導通管部
42 冷媒導入管
43 冷媒排出管
44 冷媒路
50 捕集部
51 外囲部
52 内囲部
53 内壁面
55 排気管
58 圧力計
59 真空ポンプ
60 冷媒路
61 冷媒導入管
62 冷媒排出管
80 分級装置
X 加熱空間
Y 冷却空間
Z 捕集空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原料金属粉末とキャリアガスの混合物を、加熱空間での加熱・溶融、冷却空間での冷却ならびに捕集空間での捕集処理を行い、ナノ粒子を製造するナノ粒子製造装置であって、前記加熱空間、冷却空間ならびに捕集空間が連続した逆流のない流路を形成し、かつ、前記加熱空間ならびに前記冷却空間の断面積に対して、捕集空間の断面積を大きく設定したことを特徴とするナノ粒子製造装置。
【請求項2】
前記加熱空間の加熱・溶融温度は、前記原料金属粉末の融点以上の第1温度に保たれ、
前記冷却空間は、前記原料金属粉末の融点より低い第2温度に保たれ、
前記捕集空間は、前記冷却空間の第2温度より低い第3温度に保たれていることを特徴とする請求項1に記載のナノ粒子製造装置。
【請求項3】
原料金属粉末とキャリアガスの混合物を、加熱空間での加熱・溶融処理と、冷却空間での冷却処理ならびに捕集空間での捕集処理を行い、ナノ粒子を製造するナノ粒子製造方法であって、
前記加熱空間での加熱・溶融処理、冷却空間での冷却処理ならびに捕集空間での捕集処理が連続した逆流のない流路を形成し、かつ、前記加熱空間ならびに前記冷却空間の断面積に対して、捕集空間の断面積を大きく設定することによってナノ粒子の製造が行われることを特徴とするナノ粒子製造方法。
【請求項4】
前記加熱空間の加熱・溶融処理の処理温度は、前記原料金属粉末の融点以上の第1温度に保たれ、
前記冷却空間の冷却処理の温度は、前記原料金属粉末の融点より低い第2温度に保たれ、
前記捕集空間の捕集処理の温度は、前記冷却空間の第2温度より低い第3温度に保たれてナノ粒子の製造が行われることを特徴とする請求項3に記載のナノ粒子製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−179023(P2011−179023A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−41414(P2010−41414)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度、文部科学省、エネルギー対策特別会計委託事業、ナノテクノロジによるナトリウムの化学的活性度抑制技術の開発(委託業務)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】