説明

ナノ粒子

【課題】糖質媒介性相互作用は弱くて多価であり、そのため検出するのが困難である。しかし、当技術分野においては相互作用を検出するための満足のいく道具は存在しない。
【解決手段】糖質含有成分の他の化学種との相互作用を研究および変調するための材料および方法、特に、小粒子、例えば糖質原子団を含む複数個のリガンドを固定化する基材として用いることができる金属または半導体原子のクラスターについて記載する。次いで、これらの「ナノ粒子」を用い、糖質媒介性相互作用、例えば他の糖質またはタンパク質との相互作用、および治療剤および診断試薬として研究することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ粒子、および特に糖質原子団を含む固定化リガンドを有するナノ粒子ならびに、それらのリガンドと他の化学種との相互作用を研究する際のナノ粒子の使用に関する。さらに、本発明は、ナノ粒子の用途、例えばスクリーニング、診断および治療法としての用途に関する。
【背景技術】
【0002】
生体高分子には、核酸、タンパク質および糖質と主に3種類ある。タンパク質および核酸の構造および相互作用は当技術分野で広範囲に研究されており、タンパク質および核酸合成のテンプレート駆動性(template-driven nature)ならびにそれらのポリマーが直鎖状であるという事実は、それらを製造および研究するための技法が今やほとんど自動化されていることを意味している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】EP 0 120 694 A
【特許文献2】EP 0 125 023 A
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Goding、Monoclonal Antibodies: Principles and Practice、pp.59〜103(Academic Press、1986
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、糖質およびそれらの他の化学種との相互作用も生物学的に極めて重要であるが、協奏研究の対象になることはなかった。糖質およびそれらの相互作用を研究する際の困難さは、糖質結合の多様性の点、およびクローニングに類似した糖質を増幅および修飾するための技法が存在しないという理由から生じている。それどころか反対に、細胞中で糖質が組み立てられる複雑で多段階の方法は、糖質ならびに糖タンパク質および糖脂質などの関連する複合糖質(glycoconjugate)には高度の可変性という特徴があり、それらを合成または研究することは容易ではないことを意味する。さらに、糖質媒介性相互作用はどちらかといえば弱くて多価であり、そのため検出するのが困難である。このように、当技術分野においては相互作用を検出するための満足のいく道具は存在しない。
【0006】
しかしながら、これらの特徴にもかかわらず、糖質媒介性相互作用は生物学的に重要である。ほとんどのタイプの細胞表面は、いわゆる糖衣(glycocalix)を生む複合糖質の高密度の被膜で覆われている。この糖衣は、細胞の非特異的接着を防ぐ斥力を担っていると考えられている。しかしながら、細胞配置によっては、引力を介する細胞-細胞接触の形成によって反発障壁が相殺されている[1]。現在、よく知られている糖質-タンパク質相互作用[2]に加え、細胞は、細胞接着および細胞認識のための新規な機序として表面糖質間の引力相互作用を用いているという証拠がある[3]。これらの相互作用の特性は、細胞表面におけるリガンドおよび受容体の多価発現により補償されている低親和性である[4]
【0007】
多価糖質-タンパク質相互作用に対する検討は、様々な多価糖質モデル系を用いて取り組まれてきた[5]。従来技術によるアプローチの例には、金表面上における複合糖質の二次元アレイの使用[6a]、糖質を提示するためのリポソームの使用、デンドリマー技術、ならびに直線状および球状糖質アレイを提供するためのポリマーの使用[5a、5b]が含まれる。しかしながら、糖質が関わる相互作用を研究するという問題が解決されるにはほど遠く、相互作用を研究するための新たな方法および道具に対しては当技術分野において引き続き必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
大まかに言えば、本発明は、糖質含有成分の他の化学種との相互作用を研究および調整するための材料および方法を提供する。特に、本発明は、小粒子、例えば金属または半導体原子のクラスターであって、複数個のリガンド(リガンドは糖質原子団を含む)を固定化するための基材として用いることができる小粒子を提供する。次いで、それらの「ナノ粒子」を用い、糖質媒介性相互作用、例えば他の糖質またはタンパク質との相互作用、ならびに治療剤および診断試薬として研究することができる。すなわち、本発明は、検出可能な粒子上に固定化されたリガンドの球状アレイを提供する方法を提供する。実施形態によっては、粒子は、例えば水および様々な有機溶媒に可溶であるという利点をさらに有し、様々な均一の応用形式で使用することができる。
【0009】
したがって、第一の態様では、本発明は、複数個のリガンドに連結する金属コアなどのコアを備え、リガンドが糖質原子団を含む粒子を提供する。リガンドは、糖質原子団のみ、またはペプチド、タンパク質ドメイン、核酸セグメントもしくは蛍光原子団と組み合わされた糖質原子団を含むことができる。
【0010】
他の態様では、本発明は、1つまたは複数の上記で定義した粒子の集団を含む組成物を提供する。実施形態によっては、ナノ粒子の集団は、コアに接続する様々な密度の同一または異なるリガンドを有することができる。
【0011】
他の態様では、本発明は、治療方法において使用するための上記で定義した粒子を提供する。
【0012】
他の態様では、本発明は、リガンドの投与により改善される状態の治療のための医薬を調製するための、上記で定義した粒子の使用法を提供する。例えば、リガンドが糖質媒介性相互作用を遮断すると前記状態の改善が生じうるが、別の方法では病変につながる傾向がある。
【0013】
この実施態様では、本発明は、糖質媒介性相互作用が関わる状態を治療するための従来技術の手法を上回る利点を有する。前述のように、典型的には相互作用は多価であり、これらの相互作用を処置するのに用いられる薬剤は、これらの相互作用のうち1種類または数種類を変調できるに過ぎないことが多い。このことは、所望の治療効果のために相互作用を確実に変調することができる薬剤を相互作用の部位に送達することが困難であるという結果を生む。この問題点とは対照的に、本発明は、糖質媒介性相互作用を変調するための複数個のリガンドを有し、多価相互作用を変調する困難さを克服することができる薬剤を提供する。
【0014】
好ましい実施形態では、コア、好ましくは金属コアの平均直径は、0.5から100nmであり、より好ましくは1から50nmであり、さらにより好ましくは1から20nmである。平均直径は、透過型電子顕微鏡などの当技術分野でよく知られた技法を用いて測定することができる。
【0015】
コア材料は、金属または半導体でもよく、2種類以上のタイプの原子で作成することができる。コア材料は、Au、AgまたはCuから選択される金属であることが好ましい。また、Au/Ag、Au/Cu、Au/Ag/Cu、Au/Pt、Au/PdおよびAu/Ag/Cu/Pdを含む合金から作成されたナノ粒子コアが報告されており、本発明で使用することができる。好ましいコア材料はAuおよびAgであり、最も好ましい材料はAuである。金クラスターを使用する場合には、ナノメートル範囲のコア直径を得るために約100から500個の金原子を有することが好ましい。その他の特に有用なコア材料は、NMR活性な1種類または複数の原子であるか、それらによってドープされ、試験管内でも生体内でもNMRによってナノ粒子を検出することが可能となる。NMR活性な原子の例には、ガドリニウムおよびユーロピウムが含まれる。
【0016】
ナノメートル・スケールの半導体結晶は量子ドットの役割を果たすことができるため、半導体原子を含むナノ粒子コアを検出することができる。すなわち半導体原子は光を吸収し、それによって材料中の電子をより高いエネルギー準位に励起し、その結果、材料に特徴的な周波数の光量子を放出することができる。半導体コア材料の例は、セレン化カドミウムである。
【0017】
ナノ粒子およびそれらの相互作用の結果は、当技術分野でよく知られている多くの技法を用いて検出することができる。それらの技法は、ナノ粒子が別の化学種と結合した時に生じる凝集を、例えば簡単な目視検査により、または光散乱(ナノ粒子を含有する溶液の透過率)を用いることにより検出することから、透過型電子顕微鏡(TEM)または原子間力顕微鏡(AFM)などのナノ粒子を可視化するための高度な技法を用いることまで及ぶ。金属粒子を検出する別の方法は、通常光学的放射によって引き起こされるプラズモン共鳴、すなわち金属の表面における電子の励起を用いるものである。表面プラズモン共鳴(SPR)の現象は、金属(AgまたはAuなど)と空気または水などの誘電性材料との境界面に存在する。SPRの変化は、ナノ粒子の表面上に固定化されたリガンドに分析物が結合すると起こり、境界面の屈折率が変化する。SPRの他の利点は、SPRを用いて実時間の相互作用をモニターできることである。前述のように、ナノ粒子にNMR活性な原子が含まれているかそのような原子でドープされている場合には、当技術分野でよく知られている技法を用い、試験管内でも生体内でも粒子を検出することができる。また、ナノ粒子は、銀(I)のナノ粒子促進(nanoparticle-promoted)還元を用いる定量的シグナル増幅に基づくシステムおよび読取機としてフラットベッド・スキャナを用い、[18]に記載のように検出することができる。ナノ粒子に糖質原子団と蛍光プローブを組み合わせたリガンドが含まれる場合には、蛍光分光法を使用することができる。また、糖質の同位体標識を用い、糖質の検出を容易にすることができる。
【0018】
コアに連結するリガンドは、1種類または複数の糖質(糖類)原子団、例えば多糖、オリゴ糖または単糖原子団を含む。また、リガンドは、糖脂質または糖タンパク質などの複合多糖であってもよい。糖質原子団に加え、リガンドは、さらに1種類または複数のペプチド・原子団、タンパク質ドメイン、核酸分子(例えば、DNAセグメント)および/または蛍光プローブを含むことができる。
【0019】
粒子は、粒子上に固定化された2種類以上の化学種のリガンド、例えば、2、3、4、5、10、20または100個の異なるリガンドを有することができる。あるいは、またはさらに、複数個の異なるタイプの粒子を一緒に用いることができる。
【0020】
好ましい実施形態では、粒子の各金属コアに連結する平均リガンド数は、少なくとも20個のリガンドであり、より好ましくは少なくとも50個のリガンドであり、最も好ましくは少なくとも100個のリガンドである。リガンドの好ましい密度は、元素分析により測定したときに、200個の金原子当たり70〜100個のリガンドの範囲である。
【0021】
リガンドは、粒子のコアと共有結合で接続していることが好ましい。これを行うためのプロトコルは当技術分野で知られているが、本明細書に記載の研究は、糖質リガンドを粒子のコアに共有結合させるために用いられた反応に関する初めての報告である。この反応は、還元性末端基を有するリガンドを還元条件下で金と反応させることによって行うことができる。粒子を製造するための好ましい方法は、リガンドを粒子とカップリングするためのチオール誘導糖質成分を用いている。すなわち、一態様では、本発明は、上記で定義した粒子を調製する方法であって、
リガンドのスルフィド誘導体を合成する工程、
スルフィド誘導リガンドと四塩化金酸を還元剤の存在下に反応させ、粒子を製造する工程を含む方法を提供する。
【0022】
好ましい実施形態では、リガンドは、保護ジスルフィドとして誘導される。好都合には、メタノール中のジスルフィド保護リガンドを四塩化金酸の水溶液に加えることができる。好ましい還元剤は、水素化ホウ素ナトリウムである。この方法の他の好ましい特徴は以下の実施例に記載する。
【0023】
本発明は、従来技術で提案された他のタイプのアレイを上回る利点を有する糖質含有リガンドの球状アレイを提示する方法を提供する。特に、ナノ粒子は、ほとんどの有機溶媒および特に水に可溶である。粒子の精製に水を用いることができ、重要なことに、粒子の表面上に固定化されたリガンドを提示するためにマクロアレイとして粒子を溶液中で使用できることを意味する。ナノ粒子が可溶性であるという事実は、自然の立体配座で糖質を提示するという利点を有している。治療のための応用のためには、ナノ粒子は、無毒性で可溶性であり、尿中に排泄される。
【0024】
当技術分野では様々な異なる糖質媒介性相互作用が知られており、本明細書に開示するナノ粒子を用いて研究または変調できるであろう。それらの相互作用には、白血球-内皮細胞接着、糖質-抗体相互作用、糖質-タンパク質細菌またはウイルス感染、腫瘍細胞、腫瘍細胞-内皮細胞(例えば、転移を研究するため)および異種組織の免疫学的認識ならびに細胞認識が含まれる。ナノ粒子の用途について以下の実施例を提供するのは、例示のためであって限定のためではなく、本明細書に記載の技術の広範囲な適用性を裏付けるためである。
【0025】
一般に、糖質のタンパク質または他の糖質などの他種との結合は極めて弱く、多価である傾向があるため、糖質媒介性相互作用を検出または変調することは当技術分野においては困難な問題であった。すなわち、弱い結合を検出し相互作用を変調する場合、一価の薬剤では、多価の糖質ベースの相互作用を破壊する際に限られた成功を収めるに過ぎなかった。
【0026】
糖質媒介性相互作用に関する本発明の実施形態では、2種類のタイプの相互作用を識別することができる。同種親和性の相互作用では、同一の糖質が、互いに相互作用し、その表面上に固定化された単一種のリガンドを有する粒子の濃度が、凝集が起きるまで徐々に増加することによって検出できるであろう。これは、光散乱または電子効果により検出できる。異種親和性相互作用は、2種類以上の異なるナノ粒子を一緒に混ぜ、粒子の凝集状態を測定することにより検出することができる。
【0027】
すなわち、本発明は、糖質媒介性相互作用を検出および変調するための多用途なプラットフォームを提供する。例えば、粒子を用い、抗糖質抗体を検出し、粒子の凝集を捕捉するための光散乱、または表面プラズモン共鳴などの、粒子中の金属原子がクラスター形成する場合に変化すると考えられる電界効果により、抗体の粒子上のリガンドとの結合を検出することができる。
【0028】
本発明のこの態様の一例では、ナノ粒子を用い、輸血のために適合するドナーとレシピエントを選ぶため医学で一般的に行われるように、血液型を判定することができる。血液型は、一般的な腸バクテリアが、赤血球の表面上に存在する血液型抗原と類似した、または同一の糖質抗原を有するために生じ、これらの細菌性抗原は、自身の赤血球上に対応する抗原を有していない個体において抗体の産生を刺激する。したがって、ある個体から得た血清を、ドナーの赤血球を凝集させる抗体について試験し、交差試験では逆に、レシピエントにおける有害と思われる抗体を検出する。今のところ、血液型判定は、不便でかつ自動化または高速大量処理には容易になじまないこれらの凝集試験を用いて行われている。
【0029】
血液型抗原は糖質であり、例えば共通抗原については以下の通りである。
O型 R-GlcNAc-Gal(Fuc)
A型 R-GlcNAc-Gal(Fuc)-GalNAc
B型 R-GlcNAc-Gal(Fuc)-Gal
AB型 A型およびB型抗原
【0030】
したがって、表面上に固定化された血液型抗原を有するナノ粒子の集団を製造することができる。したがって、あるサンプルが、血液型抗原と結合することができる血清を含有していた場合には、患者から得たサンプルにナノ粒子を加えることによりドナーおよびレシピエントの血液型を決定できることになる。
【0031】
ナノ粒子の別の用途は、炎症を変調することである。特に、セレクチン・ファミリーのメンバーは、炎症性組織への白血球動員の過程で、白血球の内皮細胞との初期の付着に関与している。L-セレクチンは、白血球上に発現され、P-セレクチンは血小板上に発現され、E-セレクチンは内皮細胞上に発現される。E-セレクチンおよびP-セレクチンは、前炎症性サイトカインに応答して内皮細胞上で誘導され、内皮細胞の表面上でELAM受容体と結合する。L-セレクチンは、循環する白血球上で恒常的に発現され、活性化内皮細胞上で独自に発現された糖タンパク質と結合する。すなわち、これらの相互作用はすべて、炎症を変調するため、特に異常な炎症を軽減するための治療標的として用いることができるであろう。
【0032】
治療標的としてセレクチンを用いるための従来技術の手法は、セレクチンが、糖質ベースのリガンドが標的としうる共通のカルシウム依存性レクチン・ドメインを共有しているという事実に基づいていた。従来技術のスクリーニングは、3種類すべてのセレクチンが、シアリル化およびフコシル化四糖類のシアリル・ルイスX(sLeX)と結合し、その分子およびその類縁体が弱いながらもセレクチンと結合できることを見いだした。従来技術の手法は、sLeXとセレクチンの相互作用が弱く、セレクチンを発現する細胞の相互作用が多価であるという問題に悩まされている。したがって、その態様の1つでは、本発明は、その上に固定化された1個または複数個のセレクチン・リガンドを有するナノ粒子を用いる炎症の治療を提案する。セレクチン媒介性炎症および相互作用を変調するために使用することができる化合物についての論議は[5b]に提供されている。
【0033】
他の態様では、糖質(糖類)原子団が抗原であるナノ粒子をワクチンとして、例えば弾道学的に、表皮の外層をナノ粒子が経皮的に通過するのを加速するための送達銃(delivery gun)を用いて投与することができる。次いで、ナノ粒子は、例えば樹状細胞に取り込まれ、樹状細胞はリンパ系を移動しながら成熟し、[19]に記載のように免疫応答の変調および糖類抗原に対するワクチン接種をもたらす。
【0034】
他の用途では、細胞表面の糖質がウイルスまたは細菌受容体のリガンド(アドヘシンと呼ばれる)として機能すること、および糖質の受容体との結合が感染中に必要な事象であることが知られている。これらの相互作用を変調することができる合成糖質、例えば複合糖質を、本発明のナノ粒子中に固定化し、それらの相互作用を研究するために試薬として、およびウイルスまたは細菌感染を防ぐための治療剤として使用することができる。
【0035】
糖質リガンドが媒介する細菌感染の一例は、ヒトにおいて慢性活動性胃炎、胃潰瘍および十二指腸潰瘍、胃腺癌ならびに粘膜付属リンパ組織リンパ腫を引き起こすHelicobacter pyloriである。H. pyloriの細胞特異的付着はルイスb抗原、シアリル化オリゴ糖および硫酸化ムチン糖タンパク質を含む複数の糖質を介して起きることから、様々なアドへシン相互作用を変調する(すなわち、遮断する)ことができるナノ粒子を上記の状態の治療法として使用できるであろう。
【0036】
糖質によって媒介されるウイルス感染の例には、ウイルス外被上の赤血球凝集素分子がシアル酸を末端に持つ宿主の複合糖質と多価結合することにより細胞に感染するインフルエンザ・ウイルスが含まれる。したがって、この事象を妨害することにより感染を阻止することができる。
【0037】
また、HIV-1は、細胞表面の糖質構造を認識することによって細胞に感染し、HIV-1受容体gp120のリガンドとして糖脂質であるガラクトシルセラミド(GalCer)が同定されている。したがって、GalCerまたはその類縁体をナノ粒子の表面上に固定化し、細胞のGalCerとHIV-1との相互作用を阻害するために使用できるであろう。
【0038】
他の用途では、本発明は、例えば移植後に、免疫応答の変調に有用と思われる。組織の免疫学的認識は、移植組織上に存在する表面糖質と抗体などの宿主の免疫系の成分との間の糖質媒介性相互作用から始まるため、その相互作用による免疫反応を和らげるためにこの認識を標的とすることができる。例えば、糖質であるGalα1-3Galβ1-4GlnAc(「αGal」エピトープ)は、移植組織の拒絶反応に関与する重要な抗原性エピトープとして考えられてきた。したがって、αGalエピトープと免疫系との相互作用の変調は、本明細書に記載のナノ粒子にとって治療標的になると思われる。
【0039】
多くの腫瘍関連抗原または腫瘍自己分泌因子が糖質をベースとすることから、ガンの治療においても代替手法が有用であると思われる。この場合、ワクチンとして提供されるナノ粒子は免疫系を刺激し、表面上に糖質を提示する癌細胞を攻撃することができる抗体を産生する。この点について、多くの腫瘍細胞は、正常、健常細胞とは対照的に、腫瘍細胞を特異的に対象とするナノ粒子によって刺激される免疫応答を可能にする異常なグリコシル化パターンを有していることが知られている。また、ナノ粒子を用い、ガンにおける転移を、例えば内皮細胞への腫瘍細胞の移動を介して阻害することができる。
【0040】
他の態様では、ナノ粒子を担体として用い、リガンドと特異的に結合することができる抗体を産生することができる。このことが特に有利であるのは、糖質含有部分が小さいことが多く、強い免疫応答を引き起こさないため、当技術分野ではそのような部分に対する抗体を産生することは困難な問題となり得るためである。
【0041】
他の態様では、本発明は、糖質媒介性相互作用が生じているか否かを決定する方法であって、1種類または複数のナノ粒子を候補の結合相手と接触させることおよび結合が生じているか否かを決定する工程を含む方法を提供する。
【0042】
他の態様では、本発明は、糖質原子団を含むリガンドに結合することができる物質をスクリーニングする方法であって、
複数個のリガンドに連結する金属コアを含む粒子を1つまたは複数の候補化合物と接触させる工程、および
候補化合物がリガンドと結合するか否かを決定する工程を含む方法を提供する。
【0043】
他の態様では、本発明は、糖質リガンドを含むリガンドと結合することができる物質の、サンプル中における存在を測定する方法であって、サンプルをリガンドに連結するナノ粒子と接触させる工程、および結合が生じたか否かを決定する工程を含む方法を提供する。この方法を用い、サンプル中の1つまたは複数の分析物の存在または量を決定し、例えば、分析物の存在に関係する疾患状態の診断を支援する際に使用することができる。
【0044】
他の実施形態では、ナノ粒子を用い、固体表面上に固定化された化学種、例えば[6a]に記載の金表面上に固定化されたリガンドと連動して糖質媒介性相互作用を研究または検出することができる。これらの化学種は、他の糖質、候補の結合相手、または分析物のいずれであってもよい。
【0045】
他の態様では、糖質をセレン化カドミウムのナノ結晶に付着させて量子ドットを提供し、次いでそれらをナノ粒子により必要な細胞構造へ導くことができる。[20]で論じられたように、量子ドットは、生物学的イメージング、電子装置および光学装置、量子コンピュータならびに候補薬物のスクリーニングにも使用できる可能性がある。
【0046】
次に、添付の図を参照し、本発明の実施形態を一例として説明するが、限定ではない。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】ナノ粒子を合成するために使用する方法を図解的に示す図である。
【図2】ラクト2-Au(上)およびLeX 3-Au(下)糖ナノ粒子(glyconanoparticle)の透過型電子顕微鏡写真およびコア・サイズ分布ヒストグラム(差し込み図)を示す図である。
【図3】(A)D2O中の2-Au(a); D2O中の2(b)およびCD3OD中の2(c)ならびに(B)D2O中の3-Au(a); D2O中の3(b)および70%CD3OD/D2O中の3(c)の1H NMRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0048】
薬剤組成物
本明細書に記載のナノ粒子またはそれらの誘導体は、薬剤組成物として製剤化し、様々な形態で患者に投与し、特に、リガンドの投与によって改善される状態を治療することができる。例えば、別の方法では病変につながりうる糖質媒介性相互作用を、リガンドが遮断すると、状態が改善することがある。すなわち、白血球-内皮細胞接着、糖質-抗体相互作用、糖質-タンパク質細菌またはウイルス感染、腫瘍細胞の免疫学的認識、転移の阻害ならびに異種組織および細胞認識を変調するための医薬としてナノ粒子を使用することができる。
【0049】
経口投与のための薬剤組成物は、錠剤、カプセル、粉末または液体のいずれであってもよい。錠剤は、ゼラチンなどの固体担体またはアジュバントまたは不活性な希釈剤を含むことができる。一般に、液体薬剤組成物は、水、石油、動物油もしくは植物油、鉱油または合成油などの液体担体を含む。生理的食塩溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグリコールを含むことができる。一般に、このような組成物および調製物は、少なくとも0.1wt%の化合物を含有する。
【0050】
非経口投与には、以下の経路;静脈内、経皮もしくは皮下、経鼻、筋肉内、眼内、経上皮、腹腔内および局所(経皮、眼、直腸、経鼻、吸入およびエアゾル)、ならびに直腸全身経路による投与が含まれる。静脈内、経皮または皮下注射、または苦痛部位における注射の場合には、発熱物質を含まず、好適なpH、等張性および安定性を有する非経口的に許容される水溶液でなければならない。当技術分野における関連技術は、例えば、生理食塩水、グリセロール、液体ポリエチレングリコールまたは油類で調製した分散液に溶かした化合物またはその誘導体の溶液を用いて好適な溶液を調製することができる。
【0051】
1つまたは複数の化合物に加え、場合により他の活性成分と組み合わせ、組成物は、当業者によく知られている1つまたは複数の薬剤として許容される賦形剤、担体、緩衝液、安定化剤、等張化剤、保存剤または抗酸化剤を含むことができる。このような材料は、無毒性でなければならず、活性成分の有効性を妨害してはならない。担体または他の材料の詳細な性質は、投与の経路、例えば経口または非経口により左右される。
【0052】
通常、液体薬剤組成物は、約3.0から9.0、より好ましくは約4.5から8.5、さらにより好ましくは約5.0から8.0のpHを有するように製剤化される。組成物のpHは、酢酸塩、クエン酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、トリスまたはヒスチジンなどの緩衝液を使用することにより維持され、これらは通常約1mMから50mMの範囲で用いられる。さもなければ、生理学的に許容される酸または塩基を用いることにより組成物のpHを調整することができる。
【0053】
一般に、保存剤は、細菌の成長を遅らせ、組成物の有効期限を延長し多目的包装を可能にするため、薬剤組成物中に含められる。保存剤の例には、フェノール、メタ-クレゾール、ベンジルアルコール、パラ-ヒドロキシ安息香酸およびそのエステル、メチルパラベン、プロピルパラベン、塩化ベンザルコニウムおよび塩化ベンゼトニウムが含まれる。通常、約0.1から1.0%(w/v)の範囲で保存剤を用いる。
【0054】
薬剤組成物は、「予防上有効な量」または「治療上有効な量」(場合によっては、予防が治療法と見なされるが)で個体に投与することが好ましく、個体に対する利益を示すには十分な量である。通常、この量は、個体に利益を提供する治療上有用な活性をもたらすはずである。投与される組成物の正確な量、ならびに投与の速度および時間経過は、治療される状態の性質および重症度によって異なる。治療の処方、例えば用量の決定などは、一般の開業医および他の医師の責任の範囲内にあり、通常は治療すべき障害、個々の患者の状態、送達の部位、投与の方法および開業医に知られている他の要素が考慮に入れられる。上述の技法およびプロトコルの例は、Remington's Pharmaceutical Sciences、16版、Osol、A.(編)、1980に見いだすことができる。例えば、体重1kg当たり約0.01から100mgの活性化合物の用量で組成物を患者に投与することが好ましく、体重1kg当たり約0.5から10mgであることがより好ましい。
【0055】
抗体
ナノ粒子は、コア粒子に連結する糖質含有リガンドに対する抗体応答を生み出すための担体として使用することができる。これらの抗体は、当技術分野で標準的な技法を用いて修飾することができる。また、本明細書に初めて例示した抗体に類似した抗体は、知られている方法と共に本明細書の教示を用い作成することができる。抗体を作成するそれらの方法には、哺乳類(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ウマ、ヤギ、ヒツジまたはサル)をナノ粒子で免疫化することが含まれる。抗体は、当技術分野で知られている様々な技法のいずれかを用いて免疫化動物から入手し、好ましくは当該抗原に対する抗体の結合を用いてスクリーニングすることができる。抗体および/または動物からの抗体産生細胞の単離は、動物を致死させるステップ後に行うことができる。
【0056】
哺乳類をナノ粒子で免疫化する代替法または補助法として、リガンドおよび/またはナノ粒子に特異的な抗体を、例えば表面上に機能性免疫グロブリン結合ドメインを提示するラムダ・バクテリオファージまたは糸状バクテリオファージを用い、発現した免疫グロブリン可変ドメインの組み換え産生ライブラリーから入手することができる。例えば、WO92/01047を参照。このライブラリーは、ナイーブ、すなわちいずれのナノ粒子によっても免疫化されていない生物より得られた配列から構築されるか、当該抗原に曝露された生物より得られた配列を用いて構築されたライブラリーのいずれであってもよい。
【0057】
本明細書で使用する用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一な抗体の集団から得られる抗体を指し、すなわち集団を含む個々の抗体は、少量存在することがある天然に存在する可能性のある突然変異を除いては同一である。モノクローナル抗体は、KohlerおよびMilstein、Nature、256:495、1975によって最初に記載された方法によって作成でき、または組み換え法(Cabilly他、US特許No.4,816,567またはMageおよびLamoyi、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、79〜97ページ、Marcel Dekker Inc、New York、1987を参照)によって製造することができる。
【0058】
ハイブリドーマ法では、マウスまたは他の適当な宿主動物を皮下、腹腔内、または筋肉内経路により抗原で免疫化し、免疫化に使用するナノ粒子と特異的に結合する抗体を産生または産生することができるリンパ球を誘発する。あるいは、リンパ球を試験管内で免疫化してもよい。次いで、ポリエチレングリコールなどの適当な融合剤を用い、リンパ球を黒色腫細胞と融合させ、ハイブリドーマ細胞を作成する(Goding、Monoclonal Antibodies: Principles and Practice、pp.59〜103(Academic Press、1986)を参照)。
【0059】
このように調製したハイブリドーマ細胞は、非融合の親黒色腫細胞の成長または生存を阻害する1つまたは複数の物質を含有することが好ましい好適な培地中に接種し、成長させることができる。例えば、親黒色腫細胞が酵素ヒポキサンチン・グアニン・ホスホリボシル・トランスフェラーゼ(HGPRTまたはHPRT)を欠く場合には、ハイブリドーマ用の培地に通常ヒポキサンチン、アミノプテリン、およびチミジンを含め(HAT培地)、これらの物質はHGPRT欠損細胞の成長を妨害する。
【0060】
好ましい黒色腫細胞は、効率よく融合し、選択した抗体産生細胞による抗体の安定かつ高レベルの発現を支え、HAT培地などの培地に感受性のある細胞である。
【0061】
ハイブリドーマ細胞が成長する培地を、ナノ粒子/リガンドを対象とするモノクローナル抗体の産生についてアッセイする。結合特異性は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)により決定することが好ましい。本発明のモノクローナル抗体は、ナノ粒子/リガンドと特異的に結合する抗体である。
【0062】
本発明の好ましい実施形態では、モノクローナル抗体は、例えばスキャッチャード解析(MunsonおよびPollard、Anal. Biochem.、107:220、1980を参照)により測定すると、マイクロモルを超える親和性(すなわち、10-6molを超える親和性)を有するはずである。
【0063】
所望の特異性および親和性の中和抗体を産生するハイブリドーマ細胞を同定した後、限界希釈手順によりクローンをサブクローニングし、標準的方法によって成長させることができる。この目的に適した培地には、ダルベッコ(Dulbecco)のModified Eagle’s培地またはRPM1-1640培地が含まれる。さらに、ハイブリドーマ細胞は、動物の腹水腫瘍として生体内において成長させることができる。
【0064】
サブクローンによって分泌されるモノクローナル抗体は、例えば、タンパク質A-セファロース、ヒドロキシアパタイト・クロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析法、またはアフィニティ・クロマトグラフィーなどの従来の免疫グロブリン精製手順により、培地、腹水、または血清から適切に分離される。
【0065】
本発明のモノクローナル抗体をコードする核酸は、容易に単離され、当業者によく知られている手順を用い、例えば、マウス抗体の重鎖および軽鎖をコードする遺伝子と特異的に結合することができるオリゴ糖プローブを用いることにより配列決定される。本発明のハイブリドーマ細胞は、抗体またはそのフラグメントをコードする核酸の好ましい供給源である。単離したら、核酸を発現ベクターまたはクローニング・ベクター中にライゲーションし、次いでこれを宿主細胞内に形質移入し、組み換え宿主細胞培養でモノクローナル抗体が産生されるように培養することができる。
【0066】
所望の結合特性を持つ抗体を産生することができるハイブリドーマは、本発明の範囲内に含まれ、抗体(抗体フラグメントを含む)をコードする核酸を含有しそれを発現できる宿主細胞も本発明の範囲内に含まれる。また、本発明は、抗体が産生される、好ましくは分泌される条件下で抗体を産生することができる細胞を成長させることを含む抗体を製造する方法を提供する。
【0067】
本発明による抗体は、多くの方法で修飾することができる。実際、用語「抗体」は、所望の特異性を持つ結合ドメインを有するいかなる結合物質も包含すると解釈するべきである。したがって、本発明は、抗体フラグメント、誘導体、抗体の等価体および相同体を包含し、抗原またはエピトープ、この場合には本明細書で定義した糖質リガンドとの結合を可能にする抗体の形を模倣した合成分子および分子が含まれる。
【0068】
抗原または他の結合相手と結合することができる抗体フラグメントの例は、VL、VH、C1およびCH1ドメインからなるFabフラグメント;VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;抗体の単腕のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント;VHドメインからなるdAbフラグメント;単離CDR領域およびF(ab')2フラグメントであり、二価フラグメントには、ヒンジ領域においてジスルフィド架橋により連結した2つのFabフラグメントが含まれる。単鎖Fvフラグメントも含まれる。
【0069】
本発明によるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、遺伝子突然変異またはその他の変化を受けやすいことがある。さらに、当業者には理解されているように、モノクローナル抗体は、組み換えDNA技術の技法を対象とし、原抗体の特異性を保持する他の抗体、ヒト化抗体またはキメラ分子を作成することができる。このような技法は、抗体の免疫グロブリン可変領域、または相補性決定領域(CDR)をコードするDNAを、異なる免疫グロブリンの定常領域、または定常領域とフレームワーク領域に導入するものである。例えば、EP 0 184 187A、GB 2 188 638 AまたはEP 0 239 400 Aを参照されたい。キメラ抗体のクローニングおよび発現は、EP 0 120 694 AおよびEP 0 125 023 Aに記載されている。
【実施例】
【0070】
溶液中で糖質間認識を検討するため、球状の形をした多価糖質表面を作る戦略として、金のナノ粒子に糖質を連結することによる手法を考案した[7]。一例として、糖官能基付き単層の調製、特徴付けおよび予備的相互作用研究ならびに水溶性金ナノクラスターを以下に開示する。2つの生物学的に意味のあるオリゴ糖、ラクトース二糖(Galβ(1→4)Glcβ1-OR) 1および2ならびに三糖LeX抗原:
(Galβ(1→4){Fucα(1→3)}GlcNAcβ1-OR) 3
のチオール誘導ネオ複合糖質を調製し、それらを金ナノ粒子に取り付けた。三糖LeX抗原および二糖ラクトースをスフィンゴ糖脂質(GSL)LeX抗原:
(Galβ1→4[Fuc1→3]GlcNAcβ1-3Galβ1→4Glcβ1-OCer)
に組み上げたが、これは、ホモタイプな糖質間相互作用を介し、それぞれ健常マウス細胞および癌マウス細胞における桑実胚コンパクションおよび転移を媒介すると考えられてきた[8]
【0071】
ラクトおよびLeX保護糖ナノ粒子は、化学的に明確な合成マトリックスおよび球形を有する糖衣様表面を提供する。さらに、この手法は、様々な糖質リガンドおよび異なる面密度を含む糖ナノ粒子を作り、構造-機能研究のため、ならびに糖質のクラスター形成[9]および表面における配向効果[10]を検討するための制御下モデルを提供する道を開いた。ラクト-およびLeX官能基付きナノ粒子は、原形質膜においてGSLクラスター形成を模倣するため[11]、および糖質間相互作用を介する細胞凝集に関与する引力および斥力を溶液中で検討するための多価モデル系となるはずである。合成受容体を用いた以前の研究は、親油性糖質表面間の相互作用の安定化が水の中でも存在するという動かぬ証拠を初めて提供した[12]
【0072】
ジスルフィド1、2および3の合成は、好都合に保護したラクトースおよびLeX誘導体を、11-チオアセテート-3,6,9-トリオキサ-ウンデカノール(1の場合)および11-チオアセテート-ウンデカノール(2および3の場合)によりトリクロロアセトイミデート法を用いてグリコシド化することにより行った、図1を参照[13]。化合物1、2および3をジスルフィド体として単離し、金保護糖ナノ粒子の作成にはこの形態で使用した。水溶性糖ナノ粒子1-Au、2-Auおよび3-Auは、単層保護金ナノクラスターの合成に関するBrust他の手順[7a]に従い、メタノール中で得た。一連の金保護ナノ粒子は、すべて有機溶媒に可溶であり、今日様々な目的のために調製されている[14]。ラクト-AuおよびLeX-Au糖ナノ粒子は、水溶性かつ安定であり、水溶性の生物学的巨大分子として操作することができる。それらを透析法により精製し、1H-NMR、UVおよび透過型電子顕微鏡(TEM)により特徴が明らかにされている。
【0073】
糖ナノ粒子の合成:ジスルフィド1、2または3(0.012M、5.5eq)のメタノール溶液を、四塩化金酸(0.025M、1eq)の水溶液に加えた。激しく撹拌しながら、水に溶かしたNaBH4(1M、22eq)を少量ずつ加えた。生成した黒色の懸濁液をさらに2時間撹拌し、次いで溶媒を真空中で除去した。反応粗製物をMeOHで洗浄し、10分遠心分離した。メタノールを除去し、TLCで出発材料が検出されなくなるまでこのプロセスを数回繰り返した。糖ナノ粒子はMeOHには完全に不溶であるが、水には可溶であった。
糖ナノ粒子を透析法により精製した:粗生成物50mgを水(NANOpure)10mLに溶かした。この溶液を、セルロースエステル透析膜(SIGMA、MWCO=12400)の10cmの区分に充填し、水(NANOpure)4L中に置いた。黒色の糖ナノ粒子溶液を透析区分から集め、凍結乾燥した。得られた生成物は、塩および出発材料を含んでいなかった(NMRにおいてジスルフィドおよびNa+によるシグナルが存在しない)。
【0074】
サンプルの透過型電子顕微鏡(TEM)検査を200kVで動作するPhilips CM200顕微鏡で行った。金糖ナノ粒子の0.1mg/mL水溶液を一滴、炭素膜でコーティングされた銅グリッド上に置いた。グリッドを室温で数時間、空気中で乾燥させた。自動画像解析装置を用い、Auクラスターの粒径分布をいくつかの顕微鏡写真から評価した。検討材料として選択した粒子数は約400個で、安定したサイズ分布統計量が得られた。
【0075】
図2は、2-Auおよび3-Auの金糖ナノ粒子についてのコア・サイズ分布ヒストグラムを示している。ラクトースで安定化された金粒子は、LeX複合体で安定化された粒子に比べ、より狭く、より均一な粒径分布を示している。官能基付きナノ粒子の金コアについて両サンプルで見いだされた平均直径は1.8nmであった。このような平均粒径は、以前の研究[15]によれば、アルカンチオレート複合糖質を保護する約200および70個の粒子当たりの金原子の平均数に対応している。ナノ粒子の水溶液は数カ月間安定であり、TEMによる凝集は一切検出されなかった。
【0076】
次いで、ナノ粒子表面における糖質分子の提示を検討した。ネオ複合糖質1、2および3の分子特性は、それらが金表面に取り付けられた後で差次的変化を受ける。例えば、メタノールに可溶で水に不溶であるラクト誘導体2からは、メタノールに不溶であるが水に良好な溶解性を有する糖ナノ粒子2-Auが得られる。LeX誘導体3は、メタノールおよび水に可溶であるが、そのナノ粒子3-Auは、メタノールに不溶で水には極めて可溶である。これらの溶解性の違いを用い、メタノールでそれらを洗浄することにより未反応のジスルフィドから糖ナノ粒子を精製することができる。しかしながら、それらの変化の最も意味のある事実は、それらが、周囲に対する糖質提示に対し表面におけるクラスター形成の影響を示すことである。
【0077】
糖ナノ粒子の1H-NMRスペクトルは、それらの相違を明らかに示している(図3)。D2O中のラクト-ナノ粒子1-Auおよび2-Auのスペクトルは、ラクト-ジスルフィド1および2のスペクトルと極めて異なり(図3Aの1のスペクトルは図示せず)、溶液中でゆっくりと回転する巨大分子の線広がりを示している。チオレート/Au境界面に最も近いメチレンのシグナルは完全に消失し、アルカンチオール単層保護金ナノクラスターには存在する。対照的に、これらの相違は3-Auナノ粒子の場合には認められない。3および3-Au双方のD2O中の1H-NMRスペクトルは、すべてのシグナルに関して同様の広幅化を示し(図3B、a、b)、LeXジスルフィド3にはすでに分子内凝集が存在していることを示している。この自己相互作用は、極めて希釈した水溶液であっても持続し、CD3ODの量を増やして3のD2O溶液に加えることにより消失した。CD3OD/D2O(1:1)溶液および70%CD3OD/D2O溶液ではいくつかの十分に分かれたシグナルが現れ、すべてのシグナルはスペクトルで十分に分かれている(図3B、c)。水の中で自己集合するLeXジスルフィド3の傾向は、もっぱら脂肪族鎖の疎水性によるものではなく、むしろこの凝集における糖質成分の特異的関与によるものであり、ラクト-ジスルフィド1および2の1H-NMRでは水の中の凝集がないことが観察される(図3A)。自己集合能は、一部の著者が主張するように[16]、LeX含有GSLの組織化およびクラスター形成の結果であり、原形質膜における糖脂質に富んだ微小ドメインの形成において糖質ヘッド・原子団が重要でない役割を果たしているという他の著者の提案に反している[17]
【0078】
また、ナノ粒子表面における糖質成分の立体的密集(crowding)も、1および2ならびにそれらに対応するナノクラスター1-Auおよび2-Auのβ-グリコシダーゼについての異なる挙動によって示される。大腸菌のβ-ガラクトシダーゼは、ラクトース自体に匹敵するレベルで1および2を処理するが(GONPの比活性に比べ5-10%)、同一条件下における1-Auおよび2-Auナノ粒子の酵素による加水分解はほとんど検出されない(遊離リガンド1および2による酵素活性に対し3%未満)。
【0079】
これらの実験は、ナノ粒子を用い、原形質膜におけるGSLクラスターを模倣する注文通りの球状糖質モデルを作成し、糖質間相互作用を介する細胞接着の新規な機序に関する溶液中で行われる初めての検討を可能にする。本明細書に記載の糖ナノ粒子手法は、他の球状(デンドリマー、リポソーム)または直鎖状糖質提示と有利に競争することができる多種多様な球状糖質アレイを簡単に調製する戦略を提供する。ラクト-およびLeX-ナノ粒子は、細胞間接着および認識プロセスに介在するための適切なモデルと考えられる。
【0080】
ここに挙げた参考文献は、いずれも参考のために、確かに取り込むこととする。
[参考文献]




【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数個のリガンドに連結する金属または半導体原子のコアを含み、前記リガンドが糖質原子団を含むナノ粒子。
【請求項2】
前記コアが金属コアである、請求項1に記載のナノ粒子。
【請求項3】
前記ナノ粒子の金属コアが0.5から100nmの平均直径を有する、請求項2に記載のナノ粒子。
【請求項4】
前記金属コアがAu、AgまたはCuを含む、請求項2または請求項3に記載のナノ粒子。
【請求項5】
前記コアがNMR活性な原子を含む、請求項1から4のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項6】
前記NMR活性原子がガドリニウムおよびユーロピウムである、請求項5に記載のナノ粒子。
【請求項7】
前記コアが、表面プラズモン共鳴を用いて検出することができる原子を含む、請求項1から6のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項8】
前記ナノ粒子が標識を含む、請求項1から7のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項9】
前記標識が蛍光原子団または放射性同位元素である、請求項8に記載のナノ粒子。
【請求項10】
金属コアが、Au/Ag、Au/Cu、Au/Ag/Cu、Au/Pt、Au/PdまたはAu/Ag/Cu/Pdから選択される合金である、請求項2から9のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項11】
金属コアが、約100から500個のAu原子を含む、請求項3から10のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項12】
前記リガンドが、多糖、オリゴ糖または単糖原子団を含む、請求項1から11のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項13】
前記リガンドが、複合糖質を含む、請求項1から12のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項14】
前記複合糖質が、糖脂質または糖タンパク質である、請求項13に記載のナノ粒子。
【請求項15】
前記リガンドが、スルフィド基を介して金属コアに連結している、請求項2から14のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項16】
前記ナノ粒子が水溶性である、請求項1から15のいずれか一項に記載のナノ粒子。
【請求項17】
請求項1から16のいずれか一項に記載の1つまたは複数のナノ粒子の集団を含む組成物。
【請求項18】
異なるリガンド原子団を有する複数のナノ粒子を含む、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
治療方法における使用のための、請求項1から16のいずれか一項に記載の1つまたは複数のナノ粒子の集団を含む組成物。
【請求項20】
前記リガンドの投与により改善される状態の治療薬の調製のための、請求項1から16のいずれか一項に記載のナノ粒子の使用。
【請求項21】
前記リガンドが、阻害しなければ病変を起こしうる糖質媒介性相互作用を阻害する、請求項20に記載の使用。
【請求項22】
前記相互作用が、白血球-内皮細胞接着、糖質-抗体相互作用、細菌またはウイルス感染につながる、糖質-タンパク質相互作用、腫瘍細胞の認識につながる相互作用、転移の阻害または異種組織拒絶反応もしくは細胞認識につながる相互作用である、請求項20または請求項21に記載の使用。
【請求項23】
多価糖質媒介性相互作用を阻害することができるように、前記ナノ粒子が、これに結合した複数個のリガンドを有する、請求項20から22のいずれか一項に記載の使用。
【請求項24】
前記状態が、セレクチン媒介性炎症またはHelicobactor pylori感染である、請求項20から23のいずれか一項に記載の使用。
【請求項25】
抗原で患者にワクチン接種するための医薬を調製するための、請求項1から16のいずれか一項に記載のナノ粒子の使用であって、ナノ粒子のコアに連結するリガンドが、抗原を含む使用。
【請求項26】
複数個のリガンドに連結する金属コアを含むナノ粒子の調製方法であって、前記金属コアが金原子を含み、前記リガンドが糖質原子団を含み、
前記リガンドのスルフィド誘導体を合成する工程、
前記スルフィド誘導リガンドと四塩化金酸を還元剤の存在下に反応させてナノ粒子を生成させる工程を含む方法。
【請求項27】
前記リガンドが保護ジスルフィドとして誘導される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
糖質と結合相手との相互作用を破壊する方法であって、前記糖質および結合相手をナノ粒子と接触させる工程を含み、ここで前記ナノ粒子は複数個のリガンドに連結するコアを含み、前記リガンドは、糖質と結合相手との相互作用を破壊することができる糖質原子団を含む方法。
【請求項29】
糖質原子団を含むリガンドと結合することができる物質をスクリーニングする方法であって、(a)請求項1から16のいずれか一項に記載のナノ粒子を1つまたは複数の候補化合物と接触させる工程、および(b)候補化合物がリガンドと結合するか否かを決定する工程を含む方法。
【請求項30】
糖質原子団を含むリガンドと結合することができる物質の、サンプル中における存在を測定する方法であって、(a)該物質がナノ粒子の糖質原子団と結合するように、サンプルを請求項1から16のいずれか一項に記載のナノ粒子と接触させる工程、および(b)結合が生じるか否かを決定する工程を含む方法。
【請求項31】
結合の有無を前記物質の存在に関係する疾患状態の診断と相関させる工程をさらに含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記物質が、糖質原子団と結合することができる抗体である、請求項30または請求項31に記載の方法。
【請求項33】
糖質媒介性相互作用が生じているか否かを決定する方法であって、(a)糖質媒介性相互作用を介する相互作用が疑われる1つまたは複数の化学種を請求項1から16のいずれか一項に記載のナノ粒子と接触させる工程、および(b)ナノ粒子が糖質媒介性相互作用を調整するか否かを決定する工程を含む方法。
【請求項34】
核磁気共鳴(NMR)、凝集、透過型電子顕微鏡(TEM)、原子間力顕微鏡(AFM)、表面プラズモン共鳴(SPR)により、または銀原子を含むナノ粒子に関しては、銀(I)のナノ粒子促進還元を用いるシグナル増幅によりナノ粒子を検出する、請求項29から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項35】
前記ナノ粒子が、蛍光標識、同位体標識、NMR活性原子、または量子ドットを含む、請求項29から33のいずれか一項に記載の方法。
【請求項36】
複数個のリガンドに連結するコアを含むナノ粒子であって、前記リガンドが、血液型抗原である糖質原子団を含むナノ粒子。
【請求項37】
血液型を判定するための請求項36に記載の1種または複数種のナノ粒子の使用であって、異種のナノ粒子が異なる血液型抗原と連結している使用。
【請求項38】
血液型を判定するためのキットであって、請求項36に記載の1種または複数種のナノ粒子を含むキット。
【請求項39】
リガンドと特異的に結合することができる抗体を産生するための、請求項1から16のいずれか一項に記載のナノ粒子の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−242418(P2009−242418A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−150219(P2009−150219)
【出願日】平成21年6月24日(2009.6.24)
【分割の表示】特願2002−535642(P2002−535642)の分割
【原出願日】平成13年10月16日(2001.10.16)
【出願人】(303042729)
【出願人】(503414038)ミーダテック・リミテッド (1)
【Fターム(参考)】