説明

ナノ結晶性セルロース(NCC)とポリ乳酸(PLA)とのナノ複合体バイオマテリアル

ナノ結晶性セルロース(NCC)とポリ乳酸(PLA)とのナノ複合体を含む持続可能なバイオマテリアルを開発するための新規な方法が、考案される。本発明は、NCC−PLA超分子ナノ複合体材料を形成するための、NCC粒子の存在下でのL−ラクチドのインサイチュでの開環重合をベースにした方法を提案することに関する。この材料は、疎水性であり、且つ広範な範囲の合成及び天然ポリマーと相容性である。NCC−PLAナノ複合体は、PLAに比較して、高い機能性(例えば気体の遮蔽)、レオロジー及び機械的性能、並びに寸法安定性(すなわち、より小さな吸湿膨張係数)を有する。NCC−PLAナノ複合体は、完全に再生可能な資源から調製され、且つ潜在的に生体適合性であり、且つリサイクル可能である。NCC−PLA超分子ナノ複合体は、ほとんどの有機溶媒中に懸濁可能であり、或いは乾燥して固体物質を形成することができる。NCC−PLA超分子ナノ複合体を、通常のポリマー加工技術を使用して加工し、3次元構造体を開発することができ、或いは繊維、織り糸又はフィラメントに紡糸することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ結晶性セルロース(NNC)とポリ乳酸(PLA)とからなるナノ複合体、並びにこのようなナノ複合体の製造方法に関する。該ナノ複合体は、疎水性であり、且つ広範な範囲の合成及び天然ポリマーと相容性のある、持続可能で熱的に安定なバイオマテリアルである。NCC−PLAナノ複合体は、PLAに比較して高い機械的性能及び寸法安定性(すなわち、より小さい吸湿膨張係数)を有し、潜在的に生体適合性でリサイクル可能であり、完全に再生可能な資源から作られる。NCC−PLAナノ複合体を、多くの有機溶媒中に懸濁させることができ、或いは乾燥させて固形物質を形成することができる。この固形物質を、通常のポリマー加工技術を使用して加工し、3次元構造体を開発することができる。
【背景技術】
【0002】
20世紀は、多くの事柄の中でも、プラスチックの世紀として特徴付けられている。現代社会をプラスチックなしで想像することは不可能である。製品は、哺乳瓶から包装材、航空機の構成部品までの範囲に及ぶ。ポリオレフィンが、ほとんどすべての市販プラスチックの開発の基礎であるが、リサイクル、健康及び環境への責任、例えばポリカーボネートプラスチック及びエポキシ樹脂の製造におけるビスフェノールA(BPA)などの化学基本単位を使用する必要性に関する懸念による、それらの長期的使用についての問題が持ち上がっている。
【0003】
それに応じて、再生可能な資源から作られるバイオプラスチック及びバイオマテリアルを開発するための真剣な努力がなされてきた。ナノ結晶性セルロース(NCC)は、木質系又は非木質系バイオマスから抽出される高結晶性セルロースである。ポリ乳酸(PLA)は、乳酸(2−ヒドロキシプロピオン酸)基本単位から構成される熱可塑性脂肪族ポリエステルである。PLAは、デンプン及び糖などの再生可能な植物源に由来し、医学、工学、並びに食物及び飲料の包装材において潜在的応用分野を有する。PLAの分解は、酵素処理を必要としない、エステル結合の加水分解によって達成することができる。しかし、PLAは、ポリオレフィンと比較して、とりわけ加工中にその使用を大きく制約するいくつかの制約がある。PLAは、本質的に吸湿性であり、且つ低い熱抵抗性を所持する。ナノスケールでの強化を利用して、ポリマーのレオロジー、機械及び物理的特性を増強し、それによってそれらの加工性、機能性及び最終使用性能を改善することができる。NCCは、その大きな比表面積、高い強度、高い表面反応性のため、高性能補強材として機能することができる。このことを達成するためには、2つの決定的に重要な条件:(i)ポリマーマトリックス内でのNCCの優れた分散、及び(ii)種々の環境中での優れた界面力学をもたらすための2つの間の相容性が要求される。
【0004】
諸研究は、NCCを使用して、マトリックスのガラス転移温度以上で、一部のナノ複合体の貯蔵弾性率を大きく増大させることができることを示している[1〜3]。NCCをPLAと配合することによって、完全に再生可能な資源から作られ、満足できる特性を備えたバイオマテリアルを作ることが可能である。しかし、NCCは親水性でありPLAは疎水性であるので、相容性が決定的に重要で困難な問題になる。公表された結果は、PLAと未改変又は単に物理的に改変されたNCCとを、界面活性剤又はポリマー相容化剤を使用して直接的に配合することによってNCC−PLAナノ複合体を調製することは実用的に不可能であることを指摘している[4〜8]。より最近の研究は、PLAマトリックス中でのNCCの分散を、NCCをポリカプロラクトン(PCL)でグラフトすることによって改善できることを立証した。しかし、ナノ粒子の凝集が、このような系でやはり観察され、生じるナノ複合体の機械的特性の改善が制約された。
【0005】
本発明の開示
本発明は、ナノ結晶性セルロース(NCC)とポリ乳酸(PLA)とのナノ複合体を提供することを探求する。
【0006】
本発明は、また、ナノ結晶性セルロース(NCC)とポリ乳酸(PLA)とのナノ複合体を製造する方法を提供することを探究する。
【0007】
さらに本発明は、高分子量PLAと配合又はブレンドされた、本発明のナノ複合体を含む組成物を提供することを探索する。
【0008】
本発明の一側面では、ナノ結晶性セルロース(NCC)とポリ乳酸(PLA)とのナノ複合体であって、前記PLAが、前記NCC上にグラフトされている前記ナノ複合体が提供される。
【0009】
本発明の別の側面では、ナノ結晶性セルロース(NCC)とポリ乳酸(PLA)とのナノ複合体の製造方法であって、非水性媒質中、NCC粒子の存在下でのL−ラクチドの開環重合を含む前記製造方法が提供される。
【0010】
本発明のさらに別の側面では、PLA、ポリ(ヒドロキシブチレート)(PHB)又はポリ(ヒドロキシアルカノエート)(PHA)から選択されるポリマー、例えば高分子量PLAと配合又はブレンドされた、本発明のナノ複合体を含む組成物が提供される。
【0011】
後者の配合又はブレンドは、例えば、共押出し、射出成型、又はその他のポリマー加工技術の方法によって実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】L−ラクチドのNCCとのインサイチュでのグラフト共重合のための手順に関するフローチャートを示す図である。
【図2】NCC、PLA、及びNCC−PLAナノ複合体の固体13C核磁気共鳴(NMR)スペクトルを示す図である。ナノ複合体サンプルのピークは、NCC及びPLAの個々のピークに符合し、NCCの存在下でのL−ラクチドのインサイチュでの開環重合を利用する合成が成功していることを示す。
【図3】PLA及びNCC−PLAナノ複合体フィルムの示差走査熱量法での応答をプロットした図である。ナノ複合体フィルムは、PLAに比較して相当に改善された結晶化を示し、高められた構造の完全性、熱及び寸法安定性を示している。実際、NCCは、PLAの加工及び変換に伴う問題を克服するのを助けることができる。(T=ガラス転移温度;T=結晶化温度;T=融点)。
【図4】種々の重量比の相容化NCCを用いたフィルムキャストと比較して、PLAのキャストフィルムの動的機械的応答を示す貯蔵弾性率を温度に対してプロットした図である。NCC装填量を増加すると、最終製品の軟化が改善され、より高い結晶化度を示す。本発明により調製される相容化NCC、又はNCC−PLA超分子材料を、フィルムキャスティングによって市販グレードのPLAとブレンドした。
【図5】図4に示したものとは異なる方法で調製されたPLA及びNCC−PLAナノ複合体フィルムの動的機械的応答を示す貯蔵弾性率を温度に対してプロットした図である。これらのサンプルは、共押出しで配合し、次いで圧縮成型してフィルムを形成した。急速冷却が、この方法の特徴であり、PLAは完全に非晶性である。NCC装量の増加は、最終製品の結晶化度を改善し、それゆえ機械的応答を改善する能力を証明する。
【0013】
発明の詳細な説明
本発明は、ナノ結晶性セルロース(NCC)とポリ乳酸(PLA)とのナノ複合体を含む持続可能で熱安定性のあるバイオマテリアルを開発するための新たな方法に関する。この新規な方法は、NCC粒子のL−ラクチドとのインサイチュでの開環重合を使用して、NCC−PLAナノ複合体材料を形成する。生じる材料は、疎水性であり、且つ広範な範囲の合成及び天然ポリマーと相容性がある。NCC−PLAナノ複合体は、PLAに比較して、高い機械的性能及び寸法安定性(すなわち、より小さ吸湿膨張係数)を有する。それらは、潜在的に生体適合性であり、リサイクル可能であり、完全に再生可能な資源から作られる。それらを、ほとんどの有機溶媒中に懸濁させることができ、或いは乾燥させて、通常的なポリマー加工技術を使用して加工して3次元構造体を開発することのできる固体物質を形成することができる。
【0014】
ナノ結晶性セルロース(NCC)は、典型的には化学木材パルプの酸加水分解によってコロイド状懸濁液として抽出すことができるが、細菌、セルロース含有海洋動物(例えば、被嚢類)又はワタなどのその他のセルロース系材料も使用することができる。NCCは、β(1→4)で連結されたD−グルコース単位の線状ポリマーであるセルロースから構成され、その鎖は、それら自身を配列して、結晶性及び非晶性領域を形成する。
【0015】
加水分解による抽出を介して得られるNCCは、90≦DP≦110の範囲の重合度(DP)、及び100個の無水グルコース単位につき3.7〜6.7個のサルフェート基を有する。NCCは、抽出で使用される原料に応じて、その物理的寸法が、断面が5〜10nmの、長さが20〜100nmの範囲に及ぶクリスタリットを含む。これらの帯電したクリスタリットは、水、又は適切に誘導体化されているならその他の溶媒中に懸濁され、或いは自己会合して、空気、噴霧又は凍結乾燥により固体材料を形成することができる。乾燥されると、NCCは、ナノメートル範囲(5〜20nm)の断面を所持するが、それらの長さは、より大きな桁(100〜1000nm)であり、高いアスペクト比をもたらす、平行六面体のロッド様構造の凝集体を形成する。NCCは、また、セルロース鎖の理論限界にほぼ近い高い結晶化度(>80%、多くは85〜97%)によって特徴付けられる。セルロース鎖間の水素結合は、NCC中の局所構造を安定化させ、結晶性領域の形成で鍵となる役割を演じる。サンプルの結晶性分率として定義される結晶化度は、NCCの物理的及び化学的挙動に強力な影響を及ぼす。例えば、NCCの結晶化度は、化学的誘導体化への接近可能性、膨潤、及び水結合特性に直接的に影響を及ぼす。
【0016】
本発明のナノ複合体は、疎水性であり、NCCの不在下でのL−ラクチドの開環重合によって形成されるPLAと比較して、改善された成型特性、熱−機械的特性、及び気体遮蔽特性を有する。
【0017】
該方法において、NCC上へのPLAのグラフトを形成するインサイチュでの重合は、NCC上のヒドロキシル基によって開始されるか、或いはNCC上のヒドロキシル基によって部分的に、及び重合のためのヒドロキシルの供給源を提供する開始剤、例えば、アルコールによって部分的に開始され、重合系のための適切なアルコールとしては、ベンジルアルコール及び1−ドデカノールが挙げられる。
【0018】
ナノ複合体中のNCCは、グラフト化前の元々のNCCの結晶特性を維持している。しかし、PLAの結晶特性は、NCC−PLAナノ複合体材料(すなわち、NCC上にグラフトされたPLA)と配合又はブレンドされると、NCCによって改質され、PLAナノ複合体は、NCCの不在下でのL−ラクチドの開環重合によって形成されるPLA(すなわち、親PLA)に比べてより高い結晶化度を獲得する。グラフトされたPLA、及び続いて配合又はブレンドされた材料のPLAの結晶状態は、親PLAのそれに比べてより安定である。
【0019】
開環したラクトンは、カルボン酸及びヒドロキシル基を有し、ポリマー鎖の形成では、1つの開環単位のヒドロキシルが、別の開環単位のカルボン酸とエステル連結を形成し、NCCを用いて、ポリマー鎖の末端カルボン酸基とNCCのヒドロキシルとの間で、化学的連結又は結合が形成され、それによってエステル連結を形成する。したがって、それぞれ個々のポリマー鎖とNCCとの間でただ1つの連結が形成される。換言すれば、グラグトされたPLA鎖の末端が、重合工程中に形成されるただ1つのエステル連結を介してNCCに結合される。NCC上のヒドロキシル基は、原理的には、ラクチドの重合開始剤として作用することができる。
【0020】
ナノ複合体は、各NCCナノ結晶に連結された、いくつかの又は多数のポリマー鎖を有する。すなわち、各NCC結晶は、それから放射状に広がるいくつかのポリマー又は多数の鎖を備えた中心結晶を含む構造を形成する。この方式で改変されたNCCは、PLAに対して良好な溶媒であるクロロホルム中で分散性になる。
【0021】
インサイチュでの重合反応中に生じる遊離PLAホモポリマーのモノマー転化率及び分子量は、反応条件、特に、使用されるモノマーの添加量、及び反応媒質中でのNCC濃度に依存する。一般に、グラフトされた及び遊離のPLAの全質量の、使用したL−ラクチドモノマーの全質量に対する比率として定義されるモノマーの転化度、並びに生じるNCC−PLAナノ複合体材料の分子量は、モノマー添加量及びNCC濃度の増大と共に、非線形的に増大する。
【0022】
例えば、モノマー:NCCの質量比が、30:1で一定に保持される、すなわち、L−ラクチドモノマーの質量がNCCの質量の30倍であるが、溶媒(例えば、DMSO)中のNCC濃度を1.5g/100mLから2.5g/100mLに増加させ、同時にすべてのその他の条件を同一に維持すると、NCC−PLAナノ複合体材料のモノマー転化率、数平均分子量(Mn)、及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、12.7%、1561、及び1989から44.8%、5532、及び19803に増加する。
【0023】
開環重合は、とりわけ、無水条件下で実施される。非水性反応媒質中のNCC濃度は、典型的には、1〜10g/100mL、好ましくは1.5〜5g/100mLの範囲、L−ラクチドの濃度は、出発NCCの質量の5〜50倍、好ましくは15〜30倍の範囲に及ぶことができる。
【0024】
典型的には、ナノ複合体は、遊離ホモポリマー及び未反応化学物質を除去するための徹底的な洗浄の後に、一般には30%から90%を超える範囲に及ぶ、より一般的には約85%の、グラフトされたPLAの質量のNCCの質量に対する比率として定義されるPLAグラフト率を有する。換言すれば、生じるナノ複合体中のPLAの質量は、出発NCCの質量×85%である。
【0025】
とりわけ、重合は、有機溶媒、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO)中で実施される。さらに、インサイチュでの重合のための媒質は、限定はされないが、アルコール(例えば、エタノール)、アミド(例えば、ジメチルホルムアミド)、アミン(例えば、ピリジン)、エステル(例えば、酢酸エチル)、エーテル(例えば、1,4−ジオキサン)、グリコールエーテル(例えば、2−ブトキシエタノール)、ハロゲン化溶媒(例えば、クロロホルム)、炭化水素溶媒(例えば、トルエン)、及びケトン(例えば、アセトン)でよい。
【0026】
NCCの存在下でのL−ラクチドのインサイチュでの重合は、種々の鎖長のPLAの形成につながる。このPLAの一部、すなわち前に示したように一般には30〜90%、典型的には85%が、NCC上にグラフトされる。残りは、遊離PLAホモポリマー及び未反応モノマーである。精製などにより、未反応PLAモノマーさらには遊離PLAホモポリマーを除去することができる。
【0027】
したがって、重合の後には、非水性媒質からナノ複合体を回収するステップが続く。とりわけ、この回収ステップは、非水性媒質からナノ複合体を沈殿させること、及び生じた沈殿物を透析及び/又は遠心分離によって精製することを含むことができる。反応中に生じる遊離PLAホモポリマーの質量は、典型的には、出発NCCの質量の2〜15倍の範囲に及ぶ。これは、重合反応の条件に強く依存する。しかし、後に続くナノ複合体の加工におけるナノ複合体の良好な分散を促進するのを援助するために、且つ良好な界面を(すなわち、良好な相容性)確保するために、若干の遊離PLAホモポリマーを保持することが有利であることが見出されている。この段階で、どれほどの遊離PLAが必要であるかを定量することはできない。こうして生じる遊離ホモポリマーは、(i)任意の加工された製品中での複合体の均一分散、及び(ii)後に続くポリマー加工中に使用される樹脂、典型的には、必ずしも限定はされないがPLAとの良好な界面、を確保するのに好都合であることが見出されている。
【0028】
開環重合は、高い温度、典型的には約100℃〜約150℃、とりわけ約130℃で、一般には1〜20時間、とりわけ約15〜20時間で実施される。
【0029】
好都合には、開環重合は、触媒、典型的には金属カルボキシレート触媒の存在下で実施され、その他の触媒としては、金属酸化物及び金属アルコキシド、例えば、錫、亜鉛及びアルミニウムのカルボキシレート、酸化物、及びアルコキシドが挙げられる。
【0030】
このようにして製造されたNCC−PLAナノ複合体は、適切な溶媒中に分散できるか、或いは乾燥することのできる疎水性超分子材料である。例えば、それは、薬物の送達及び放出のための賦形剤として使用するために、そのままで又はさらに誘導体化して使用できる可能性がある。NCC−PLAナノ複合体は、さらに、包装材及びその他の工業的応用のためのフィルム製品及び/又は3次元成型の可能な製品を製造するために、通常のポリマー加工技術、例えば、共押出し、吹込み、射出又は圧縮成型を使用して、PLA、及び/又はポリ(ヒドロキシブチレート)(PHB)、若しくはポリ(ヒドロキシアルカノエート)(PHA)のようなその他のバイオポリマーとブレンドされた組合せ中で使用することができる。NCC−PLAナノ複合体を、さらにまた、織物及び工学的応用のための、エマルジョン及び溶融又は電気紡糸された繊維及び/又は織り糸にすることができる。
【0031】
本発明のナノ複合体は、したがって、広範な種類の工業的及び医療的応用、例えば、限定はされないが、包装材、自動車、構造体、薬物の放出及び送達、再生医療、医療及び/又は工業的応用のための新規システムを開発するための足場で使用するための潜在能力を有する。
【0032】
本発明のNCC−PLAナノ複合体は、適切な溶媒中に懸濁させることができるか、或いは乾燥させ、そのまま又はさらに誘導体化して薬物の送達及び放出のための賦形剤として潜在的に使用することのできる超分子材料である。
【0033】
本発明のナノ複合体を、PLAなどのポリマー及び/又はポリ(ヒドロキシブチレート)(PHA)又はポリ(ヒドロキシアルカノエート)(PHB)のようなその他のバイオポリマーと、例えば、通常のポリマー加工技術、例えば、共押出し、吹込み、射出又は圧縮成型を使用して配合又はブレンドして含む本発明の組成物は、包装材及びその他の工業的応用のためのフィルム製品及び/又は3次元成型の可能な製品を作り出すことができる。
【0034】
後者の組成物を、さらには、織物及び工学的応用のために、エマルジョン及び溶融又は電気紡糸された繊維及び/又は織り糸にすることができる。
【0035】
本発明によるNCC−PLAナノ複合体の調製は、図1で手順的に説明される。主要なステップは、適切な有機媒質中でのナノ結晶性セルロース(NCC)の存在下でのL−ラクチドのインサイチュでの開環重合である。典型的な事例であるが、NCCが水中に懸濁されているなら、開環重合に先立って、分散媒質の交換を行うことが必須である。重合の後に、例えば、水に対する透析、並びにメタノール及び所望ならアセトンでの洗浄を利用して生成物を精製することが必須である。メタノールを使用して、未反応モノマー及び触媒を除去し、アセトンを使用して、系中の遊離PLAホモポリマー、すなわちNCC上にグラフトされていないPLAを溶解する。以下が、重合工程の詳細な説明である。
【0036】
1.典型的には、NCCは、可変濃度、例えば、4.39%w/wの水中ナノ粒子懸濁液として本発明の目的のために製造され、NCC懸濁液は、NaOH溶液を用いて中性pHに滴定される。水から適切な有機溶媒、例えば、ジメチルスルホキシド(DMSO、典型的には≧99.6%)への懸濁媒質の交換は、所望量のDMSO(例えば、110mL)を所要質量のNCC(例えば、水懸濁液中の30gのNCC)中に徐々に注ぎ、撹拌することによって実施される。次いで、混合物を妥当な期間、例えば、5分間さらに撹拌して、水とDMSOとの完全混合を可能にする。系中の水を、ロータリーエバポレーター(例えば、BUCHI、Rotavapor R−200)による2ステップでの蒸留によって除去する。最初のステップでは、蒸留温度を83℃であるように選択し、真空を720トルに設定する。最初のステップの終末に向けて、捕集器中の凝縮液体の体積を一定に維持する。次のステップでは、真空を740トルに高めて約20mLのDMSOを留出させる。
2.前記の分散媒質の交換のステップは、凍結乾燥又は噴霧乾燥された分散性NCC(中性pH)をDMSOに直接的に溶解することによって代替することができる。溶解工程は、超音波処理を利用して促進することができる。次いで、DMSOが水分を吸収するのを防止するために容器を密閉し、内容物を好ましくは一夜、又は必要ならさらに長く撹拌する。
3.密閉されたフラスコ中のNCC/DMSO懸濁液中に、次のもの、(i)適切な質量、例えば39.5gのL−ラクチド(典型的には、純度≧98%)、(ii)0.4gの適切な触媒、例えば、錫(II)エチルヘキサノエート(Sn(oct)、約95%)、及び(iii)とりわけ高いラクチド添加量でNCCの分散を改善するのに有用である0.2gのベンジルアルコール(無水、99.8%)を添加する。妥当な期間、例えば、5分間撹拌した後、懸濁液を、プローブ型超音波発生器(例えば、Fisher Sonic Dismembrator、Model300)を使用して2分間超音波処理する。系中の痕跡量の残留水は、懸濁液を、前もって320℃で少なくとも3時間活性化した60gのモレキュラーシーブ(3Å、8〜12メッシュ)を充填した250mLの分液ロートを通して最終的に除去される。乾燥されたNCC/DMSOの懸濁液を、次いで、機械式撹拌機を具備しオーブン中で乾燥された500mL3つ口フラスコ中にロートから直接的に滴下する。DMSOが水分を吸収するのを防ぐために、分液ロート及びフラスコの双方を重合工程の間中、窒素雰囲気中に保持する。
4.開環重合は、密閉されたフラスコを130℃の湯浴中に17時間浸漬することによって実施される。反応中、懸濁液は、磁気又は機械式撹拌機を使用して200〜500rpmで撹拌される。反応後、生じる生成物は、明褐色の澄明懸濁液である。
5.急速撹拌しながら生成物を水中に3:1(水/生成物)の比率で徐々に注ぐことによって、DMSOからNCC−PLAナノ複合体を沈殿させる。続いて、生成物を、例えば透析チューブ(示唆されたカットオフ分子量、MWCO=12,000〜14,000)中で流動水に対して少なくとも4時間透析する、及び/又は適切な遠心分離装置(例えば、IEC Centra(登録商標)MP4、Rotor224)を使用して、白色沈殿物を4,400rpmで妥当な時間遠心分離する、精製が後に続く。デカンテーションの後、生成物を、メタノール(≧99.8%)中に振盪により再分散させ、再び遠心分離する。この遠心分離−デカンテーションのサイクルを、妥当な反復回数、例えば3回繰り返し、不純物を洗い流す、最後に、洗浄された生成物を、真空下で妥当な期間、例えば一夜乾燥する。
6.元のNCCとNCC−PLA超分子ナノ複合体材料とのクロロホルム懸濁液の視覚による比較は、適切な有機溶媒中での後者の完全な分散性を示し、さらにNCC−PLAナノ複合体の疎水性を示している。
【0037】
(例1)
本発明に記載のインサイチュでの重合法を利用して調製されたNCC−PLAナノ複合体材料は、60.2±0.9nm(Zetasizerで測定した場合)に等しい等価球の典型的な流体力学的直径(DMSO中に分散させて)を有する粒子をもたらす。該ナノ複合体材料は、典型的な有機溶媒中に完全に分散し、優れた疎水性を示す。グラフトされたポリマーのNCC対する質量比は、典型的には80%超である。固体13C核磁気共鳴(NMR)は、図2に記載のように、合成の成功を確証している。
【0038】
(例2)
ポリマー又はポリマー複合体の物理的、機械的、及び遮蔽特性は、材料の固体形態及び結晶化度に依存し、これらの複合体材料の加工は、これらの特性に相当の影響を与えることがある。本発明中に記載のNCC−PLAナノ複合体材料を、ポリマー加工技術(例えば、フィルムキャスティング、押出し/吹込み成型、射出又は圧縮成型、繊維紡糸など)を使用して加工し、フィルム、繊維、フィラメント、及び一般にはいかなる3次元物体も製造することができる。図3は、5.3%w/wのNCCを含むNCC−PLAナノ複合体フィルムの示差走査熱量法の応答を示す。これらのナノ複合体フィルムは、未処理のPLAフィルムに比較して、相当に改善された構造的及び熱的安定性、並びにより低い吸湿膨張率を示す。この独特の挙動は、NCCがNCCの構造を非摂動状態で維持しながら、非晶性PLA中で制御可能な結晶化を開始する能力に由来する。小さく不完全なPLA結晶は、続いて、溶融及び再結晶を介してより安定な結晶に変化する(図3のNCC−PLAナノ複合体に関する2つの溶融ピークによって示されるように)。このことは、図4で提供される動的機械的分析データによってさらに証明され、それによって、本発明により調製されたNCC−PLA超分子材料すなわち相容化されたNCCが、NCC装填量を増加するにつれてPLAの軟化挙動を改善するようにどれほど機能するかが示される。例えば貯蔵弾性率によって測定した場合、50℃で、未処理PLAの41MPaから5%w/wのNCC装填量での480MPaまでの機械的応答の大きな桁の増加が存在する。材料の加工を、結晶化度をより大きな大きさに増大させることを可能にする徐冷却(図4)から急速冷却(図5)に変更すると、たとえより遅い速度でも、この場合のPLAは完全に非晶性であるので、NCCは、生じる複合体生成物の結晶化度を改善するようにいっそう機能する。改善の大きさの相違は、主として、異なる加工技術による。図4及び図5の双方の例は、やはり、NCCが、使用される加工技術とは関係なく、最終生成物の結晶化度を増強することにおいて役割を演じることを明瞭に示している。
【0039】
増加した結晶化度は、熱安定性が重要である成型品にとって望ましい。さらに、NCC−PLAナノ複合体は、加工及び機能性に対して肯定的影響を有する特徴的な粘弾性挙動を示す。これらの能力は、NCC−PLAナノ複合体材料を含有する得られる物体の改善された加工性、改造、及び機械的性能につながる。
【0040】
本発明のナノ複合体は、高分子量PLAポリマー、例えば、20,000〜1,000,000のMWを有するPLAポリマーと、共押出し、キャスティング又はその他の通常的なブレンド又は配合技術によって、ブレンド又は配合することができ、ナノ複合体の存在は、相当に強化されたPLAをもたらす。
【0041】
グラフトされたPLAの分子量は、この個々の事例において2つの間接的方法で測定した。(1)NCC−PLAナノ複合体を調製するための正確な方法を、NCCを含めないで使用してラクチドをPLAに重合するための対照実験を実施した。得られたポリマーを、GPCを使用して分析した。(2)第2の方法には、NCC−PLA調製工程からの遊離PLAホモポリマーを集めること、次いでH NMRを使用して該ホモポリマーを特性決定することを含めた。分子量は、末端基の骨格中の反復単位に対する比率により計算した。具体例における数平均分子量(Mn)は、重合反応の条件に応じて890〜6000の範囲に存在し、グラフトされたPLAが、典型的には、短い鎖長を有することを示している。反応条件のバランスと取ることによって、より長いPLA鎖を成長させることを可能にし、かくしてNCC上に高分子量のグラフトされたPLAを生じさせることが理論的に可能である。
【0042】
参考文献


【特許請求の範囲】
【請求項1】
非水性媒質中、NCC粒子の存在下でのL−ラクチドの開環重合を含む、ナノ結晶性セルロース(NCC)とポリ乳酸(PLA)とのナノ複合体の製造方法。
【請求項2】
開環重合が、無水条件下で実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
非水性媒質からナノ複合体を回収するステップをさらに含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
開環重合が、有機溶媒中で実施される、請求項1〜3いずれかに記載の方法。
【請求項5】
有機溶媒が、ジメチルスルホキシドである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
回収が、非水性媒質からナノ複合体を沈殿させること、及び生じる沈殿物を透析によって精製することを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項7】
開環重合が、触媒の存在下で、高い温度で実施される、請求項1から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
高い温度が、約100℃〜約150℃である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
開環重合が、高い温度で1〜20時間実施される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
時間が、15〜20時間である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
開環重合が、前記開環重合のための開始剤の存在下で実施され、前記開始剤がアルコール基を有する、請求項1〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
開環重合中に生じる遊離PLAホモポリマーの少なくとも一部が、回収されるナノ複合体と共に加工助剤として保持される、請求項3に記載の方法。
【請求項13】
ナノ結晶性セルロース(NCC)とポリ乳酸(PLA)とのナノ複合体であって、前記PLAが前記NCC上にグラフトされている、上記ナノ複合体。
【請求項14】
ナノ複合体のNCCナノ結晶が、前記ナノ結晶に独立に連結され、且つ前記ナノ結晶から放射状に広がるいくつかの又は多数のポリマー鎖を有する、請求項13に記載のナノ複合体。
【請求項15】
30%から90%を超えるPLAのグラフト率を有する、請求項13又は14に記載のナノ複合体。
【請求項16】
グラフト率が、約85%である、請求項15に記載のナノ複合体。
【請求項17】
押出し、射出又は圧縮成型を使用して、PLA、ポリ(ヒドロキシブチレート)(PHB)、又はポリ(ヒドロキシアルカノエート)(PHA)から選択されるポリマーと配合又はブレンドされた、請求項13〜16のいずれかに記載のナノ複合体を含む組成物。
【請求項18】
ポリマーが、高分子量PLAである、請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
PLAが、20,000〜1,000,000の分子量を有する、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
包装及びその他の工業的応用のための、フィルム形態又は3次元成型が可能な製品の形態の、請求項17〜19のいずれかに記載の組成物。
【請求項21】
織物及び工学的応用のための、エマルジョン、溶融又は電気紡糸された繊維又は織り糸の形態の、請求項17〜19のいずれかに記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−519736(P2013−519736A)
【公表日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−552213(P2012−552213)
【出願日】平成23年1月26日(2011.1.26)
【国際出願番号】PCT/CA2011/000096
【国際公開番号】WO2011/097700
【国際公開日】平成23年8月18日(2011.8.18)
【出願人】(507171683)
【Fターム(参考)】