説明

ナノ結晶材料のストリップを製造する方法および前記ストリップから巻き付けコアを製造するための装置

本発明は、アモルファス状態の成形品である巻きリボンから得られて、原子組成[Fe1−a−bCoNi100−x−y−z−α−β−γCuSiNbαM’βM”γ(式中、M’は元素V、Cr、Al、およびZnのうちの少なくとも1つであり、M”は元素C、Ge、P、Ga、Sb、In、およびBeのうちの少なくとも1つであり、a≦0.07およびb≦0.1、0.5≦x≦1.5および2≦α≦5、10≦y≦16.9および5≦z≦8、β≦2およびγ≦2である)を有するナノ結晶材料のストリップを作製する方法、および特にこれまで知られているよりもはるかに小さい巻き付け半径を伴った、先行技術のものよりも小型の磁気回路幾何学構造のために取り扱いおよび使用されることが可能なナノ結晶製品を提供することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はナノ結晶材料でできたストリップを製造するための方法、このストリップから開始する巻き付けコアの製造のための装置、および当該コアとこれらを組み入れる部品に関する。
【背景技術】
【0002】
アニーリングによって変換されるFeCuNbSiBタイプのアモルファスリボンから低透磁率(μ≦1000)のナノ結晶材料でできたコアを製造することは、特に仏国特許第2823507号明細書に開示されている。
【0003】
この文献は、特にこれらのアモルファスリボンの応力アニーリングのための方法を述べており、この方法は、以前、ナノ結晶化後にコア形態で取り扱われることができなかったナノ結晶材料の極端な脆性を大幅に減少させる。この応力アニーリング処理は破断の危険性を伴わずにストリップの巻き付けを実施することができるように、および同じ巻き付け軸に保持しながら巻きを解くことおよび巻き直すこともやはりできるように機械的特性を得ることを可能にする。
【0004】
これらの向上した機械的特性はΩ形状のナノ結晶化ストリップの断面の作製に起因し、これは幅の1%を上回る撓みと共に少なくとも複数の変曲点を示す。この構造は従来型のナノ結晶材料よりも小さい脆性状態に相当し、特に巻きを解くこと、次いで同じ軸に結晶化リボンを巻き直すことを可能にするが、しかし著しいΩプロファイルを伴うこの状態は、一層小さい直径を備えた軸上で、特に10mm以下の直径を備えたコアを得るに至るように取り扱われ、かつ巻きを解かれ/巻き直されるには依然として脆過ぎる。
【0005】
さらに、Ωプロファイルにより、磁気性能および巻き直し時の破断の割合いはコアの外側に向けて曲げられるストリップの面と無関係ではない。Ωの隆起がコアの外側に向けて方向付けられるとき、性能はさらに良好であり、巻き直し時の破断のレベルは低く、コアの内側に向けて方向付けられたΩ隆起については逆である。したがって生産時には、追加的な制御と一層複雑な処理が採用されることを必要とする、リボンがコアの外側上のΩの隆起と系統立てて製造されることを可能にする必要があり、あるいは生産高が損なわれて性能が複合される。
【0006】
さらに、自動的巻き付けでコアを生じさせる際に、リボンの先端は巻き込んで巻き付け軸に貼り付けることは極めて困難になる可能性がある。なぜならば、Ωプロファイルは、この部分的真空現象により、リボンの先端が十分に巻き込まれて貼り付けられることを妨げるからである。
【0007】
さらに、ストリップの透磁率が増大するほど最終状態での脆性が増し、その破断のレベルが大きくなることが判明している。したがってこの処理は、特にその透磁率が1000を超えるときに工業的にナノ結晶のストリップを製造することを可能にしない。
【0008】
最後に、先行技術により得られるストリップの減少はしているがそれでもまだ高い脆性は3cm/sを超えない前進速度を達成することを可能にする。
【0009】
実際では、1秒当たり、および炉の作業区域(500℃以上の温度を有する領域)1mあたり10cm以上の前進速度で、また10℃を超えるアニール温度を調節するための範囲(ストリップの性能、特にその脆性を大幅に変えることなくアニール温度を変えることが可能な範囲)で、1km当たり10破断未満のアモルファスリボンの破断のレベルを達成することを可能にすればナノ結晶化のアニール処理は工業的処理であると考えられる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって本発明の目的は、工業的規模で使用されることが可能なナノ結晶ストリップを製造するための方法、および特にこれまで知られているよりもはるかに小さい巻き付け半径を伴った、先行技術のものよりも小型の磁気回路幾何学構造のために取り扱いおよび使用されることが可能なナノ結晶製品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この目的のために、本発明の第1の主題事項はアモルファスリボンを結晶化アニーリングにかけることによる、アモルファス状態のリボン成形品から得られる以下の原子組成
[Fe1−a−bCoNi100−x−y−z−α−β−γCuSiNbαM’βM”γ
(式中、M’は元素V、Cr、Al、およびZnのうちの少なくとも1つであり、M”は元素C、Ge、P、Ga、Sb、In、およびBeのうちの少なくとも1つであり、
a≦0.07およびb≦0.1
0.5≦x≦1.5および2≦α≦5
10≦y≦16.9および5≦z≦8
β≦2およびγ≦2である)
を備えたナノ結晶材料でできているストリップを製造するための方法であって、リボンが少なくとも2つのS字型ユニットを通って前進時に、実質的にリボンの縦軸方向の張力下で、巻き付けられていない状態でアニーリングにかけられ、それにより、リボンは2MPaと1000MPaとの間の軸方向引っ張り応力下で5秒と120秒との間の時間の間、530℃と700℃との間のアニーリング温度に維持され、前記アモルファスリボンが受ける引っ張り応力、前記アニーリング中の前進の速度、アニーリング時間およびアニーリング温度はストリップの断面プロファイルがΩ形状にならず、かつストリップの幅の3%未満、好ましくは幅の1%未満のストリップの横軸断面の最大撓みを示すように選択される。
【0012】
全く予想されなかったが、本発明者らは、Ωプロファイルを示さない平面的な断面を付与することによってナノ結晶ストリップの脆性を大幅に減少させることが可能であることを観察した。脆性のこの減少は1km当たりの破断のレベルを大幅に減らすこと、およびストリップの前進速度を上げることを可能にする。
【0013】
理論に委ねられることを望むことなく、実際に本発明者らは、所与の前進速度および所与の引っ張り応力で応力アニーリング温度または時間が増すにつれて、臨界結晶化画分fが達成されるまで結晶化画分fが増加し、この画分が応力のレベルによって決まることを見出した。fがこの臨界画分fよりも大きくなれば、Ωプロファイルが現れ始めて材料が著しく脆くなる。
【0014】
アニーリング条件(引っ張り応力、前進速度、アニーリング時間、およびアニーリング温度)の適切な調節を含めたこの新規の処理によって、Ωストリップ断面プロファイルを回避するように臨界再結晶化画分よりも下の結晶化画分で製造を安定させることが可能である。このようにして得られるストリップは巻き付けの開始時に容易に巻き込まれること、真円を逸脱することなく大きい直径の支持体上でコイルに巻かれること、および効率的にかつ差異を伴わずにどちらかの面をコアの外側に向けて曲げられて巻き付けられることが可能である。
【0015】
本発明による方法は単独または組合せで以下の特性を追加的に示すことが可能である。
・ストリップの前進速度が1秒当たり、および炉の作業区域1mあたり10cm以上であり、
・軸方向引っ張り応力が500MPaよりも大きく、
・前進時のアモルファスリボンの破断のレベルがリボン1km当たり10破断よりも少なく、
・yが12以上である。
【0016】
好ましい実施形態では、アモルファスリボンの組成は
a≦0.04およびb≦0.07
0.5≦x≦1.5および2≦α≦5
13≦y≦16.6および5.8≦z≦8
β≦2およびγ≦2
になるように選択される。
【0017】
他の好ましい実施形態では、アモルファスリボンの組成は
a≦0.02およびb≦0.05
0.5≦x≦1.5および2.5≦α≦4
14.5≦y≦16.5および5.8≦z≦7.5
β≦1およびγ≦1
になるように選択される。
【0018】
特定の組成範囲を使用する後者の2つの実施形態は、1段式または2段式の電力計(energy meter)に使用されることができる、強い連続成分を含む電流を測定することが可能な電流センサであって、前記ナノ結晶材料でできている少なくとも1つのコアを含むセンサの製造において、また重畳される連続成分のレベルに無関係であり、かつ電力計に使用されることが可能であり、前記ナノ結晶材料でできている少なくとも1つのコアを含む貯蔵用またはフィルタ用インダクタの製造において、さらに特に役立つ。
【0019】
本発明の第2の主題事項は、本発明による方法の実施によって得られることが可能なナノ結晶材料でできているストリップであり、破断または亀裂を伴うことなくこのストリップのいずれのポイントでも最大3mmの湾曲の直径で屈曲を受けることが可能である。
【0020】
本発明によるストリップは単独または組合せで以下の特性を追加的に示すことが可能である。
・本発明による方法の実施によって得られるストリップはアモルファスリボンから開始し、前記ストリップの厚さは前記アモルファスリボンの厚さに対して少なくとも10%削減され、
・ストリップが7A/m以下、好ましくは5A/m以下の保磁力(coercive field)を有し、
・ストリップが200Oeで12kG以上の誘導を有する。
【0021】
本発明の第3の主題事項は、本発明による方法の実施によって得られることが可能なナノ結晶材料でできているコアであって、その最後に、前記ナノ結晶ストリップが巻き付けられ、その透磁率は50以上で200未満であり、そのカットオフ周波数は30MHzと200MHzの間であり、コアは10mm以下の直径を有する。
【0022】
好ましい実施形態では、本発明によるコアは応力発生の無い結晶化アニーリングを受けた同じ組成のストリップを巻き付けることによって得られる膨張度と比較して最大3%の膨張度の劣化を示し、これは開始時のアモルファスリボンの厚さに対して10%までの範囲に及ぶナノ結晶化ストリップの厚さの減少に関するケースである。
【0023】
他の好ましい実施形態では、本発明によるコアは本発明による方法の実施によって得られ、その最後に、前記ナノ結晶ストリップが最初に第1の軸上に巻かれ、次いで、巻きを解いて引き続いて巻くことによって第2の軸上に巻き付けられ、第2の軸の直径は第1の軸の直径よりも小さい。
【0024】
本発明の第4の主題事項はアモルファス状態のアモルファスリボン(R)成形品から、前記アモルファスリボン(R)をアニールすることによって磁気コアを製造するための装置(1)であり、
・アモルファス状態のリボン(R)のコイルを受けるためのシャフト(2)と、
・温度調節されたトンネル炉(3)と、
・炉(3)内へのリボン(R)用の入り口の前段に置かれてブレーキモータ(5)に接続された少なくとも1つのS字型ユニット(4)と、
・前記アモルファスリボン(R)およびナノ結晶材料でできているストリップ(N)の軸方向の引っ張り応力を調節するための装置(6)であって、炉(3)内へのリボン(R)用の入り口の前段に置かれた前記S字型ユニット(4)のブレーキモータ(5)を制御するためのモジュールに接続された力測定用装置を含む装置(6)と、
・トンネル炉(3)からのストリップ(N)用の出口の後段に置かれてモータに接続された少なくとも1つのS字型ユニット(7)と、
・アニーリング後に得られるストリップ(N)をナノ結晶材料でできたコアの形に巻き付けるための少なくとも1つの巻き付け軸(8)と
を含み、アモルファスリボン(R)が前記受けシャフト(2)に取り付けられたアモルファスリボン(R)用の保管コイルから炉(3)内へのリボン(R)用の入り口の前段に置かれたS字型ユニット(4)を通り、次いで力測定用装置(6)を通り、次いで炉(3)を通り、次いで炉(3)からのストリップ(N)用の出口の後段に置かれたS字型ユニット(7)を通ってナノ結晶材料でできたストリップ(N)用のコイルへと連続的に通過する。
【0025】
本発明による装置は以下の特性を単独または組合せで追加的に示すことが可能である。
・この装置はストリップのための第1の巻き付け軸およびストリップのための第2の巻き付け軸を含み、それにより、第1の軸上に第1のコアを巻き付けた後に製造工程を中断することなく第2のコアの巻き付けを実施するためにストリップ(N)を切断してストリップ(N)の先端部分を第2の軸に取り付けることが可能であり、
・この装置は炉(3)の前記出口のS字型(7)の下流にストリップ(N)のための単一の巻き付け軸(8)およびストリップ保管装置(9)を含み、製造工程を中断することなく巻き付けコイルを交換することを可能にし、
・この装置はアニールされたストリップ(N)がトンネル炉(3)からのストリップ(N)用の出口の後段に置かれたS字型ユニット(7)を通過するときにこれを圧縮する少なくとも1つの圧力ローラ(10)を追加的に含み、
・この装置はアモルファスリボン(R)が炉(3)内への前記リボン(R)用の入り口の前段に置かれたS字型ユニット(4)を通過するときにこれを圧縮する少なくとも1つのキャンバを付けたローラを追加的に含む。
【0026】
この装置は本発明による所望の通りの平面状の断面を得ることを可能にする。ナノ結晶ストリップが強く付加される引っ張り応力を伴ってS字型ユニットの強くかつ交互の湾曲に追従し得ること、および1キロメートル、実に数キロメートルのリボンであっても破断を伴わずにこれを為し得ることを当業者が予測し得なかったことに留意すべきである。
【0027】
ここで添付の図面を参照して本発明が述べられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
本発明によるナノ結晶ストリップの製造に使用されるアロイは以下の原子組成を有する。
[Fe1−a−bCoNi100−x−y−z−α−β−γCuSiNbαM’βM”γ
式中、M’は元素V、Cr、Al、およびZnのうちの少なくとも1つであり、M”は元素C、Ge、P、Ga、Sb、In、およびBeのうちの少なくとも1つであり、
a≦0.07およびb≦0.1
0.5≦x≦1.5および2≦α≦5
10≦y≦16.9および5≦z≦8
β≦2およびγ≦2である。
【0029】
本特許出願では、別途述べられない限り組成に関連するパーセンテージはすべて原子のパーセンテージである。
【0030】
ホウ素などのアモルファス化元素の使用は、高速冷却を伴って成形することによって概して薄いリボンの形態でアモルファス材料を得ることを可能にし、これが引き続いてアニールされることでナノ結晶タイプの材料、すなわち材料の体積の釣り合いを構成するアモルファス相の中で体積で50%を超える100nm未満のサイズを示す結晶を含む材料を作製することを可能にする。
【0031】
本発明の文脈では、ホウ素の原子パーセンテージは5%と8%の間である。なぜならば他のアモルファス化物質による部分的置換を伴わずにホウ素の含有量が低過ぎる場合、リボンはホイール上での急冷による従来の作製方法によってアモルファスを提供することが極めて困難になるからである。実際では、5%未満のホウ素を有することはあり得ず、6%を超えるホウ素を有することが好ましい。
【0032】
反対に、ホウ素のパーセンテージが上がると応力下での前進中の結晶化が困難にされ、これは前進の速度Rを下げることを必要にし、したがって利用可能な透磁率の範囲(μmin≧300)を制限し、特に保磁力Hcを極めて大幅に損ない、これが13A/mよりも大きい値に達する。したがって、ホウ素の最大含有量は8%に制限されなければならない。
【0033】
文字M”で集約される元素、すなわちC、Ge、P、Ga、Sb、In、およびBeもやはりアモルファス化元素である。これらの元素のうちの1つまたは複数によるホウ素の部分的置換は、張力下での結晶化アニーリングの前に100%のアモルファス状態を得るために必要とされるホイール上での急冷の速度に関してホウ素が最も効果的なアモルファス化促進剤であるので限られた置換のレベルで可能である。他のアモルファス化元素のこの置換の程度はしたがって2%に限られる。
【0034】
本発明によるストリップのコバルト含有量は最大で約5.75at%である(a≦0.07およびb、x、y、z、α、β、およびγは最小値)。なぜならば、この値を超えれば磁気損失と同様にHcが損なわれ、これはこのストリップから製造される部品の小型化に有害であるからである。これらの欠点により、aの値を0.04に制限することが好ましく、実に0.02であってもよく、さらに0にすることが特に好ましい。
【0035】
本発明によるストリップのニッケル含有量は最大で約8.25at%である(b≦0.1およびa、x、y、z、α、β、およびγは最小値)。なぜならば、この値を超えれば材料の飽和が1.2Tよりも下に大幅に損なわれ、ならびに例えばコバルトをベースにしたアモルファス材料でできている代替品と比較して磁気回路の体積を大幅に削減するその能力が損なわれる。これらの欠点により、bの値を0.07に制限することが好ましく、実に0.05であってもよく、さらに0にすることが特に好ましい。
【0036】
さらに、コバルトとニッケルの含有量の合計は約8.25at%(a+b≦0.1)に制限することが好ましい。
【0037】
本発明による組成における銅の原子パーセンテージは0.5%と1.5%の間である。銅のパーセンテージは0.5%よりも上に保たれるべきであり、なぜならばこの値を下回ると、サイズの小さい結晶を有するにはナノ結晶の核形成がもはや十分ではなくなり、Hcが不釣り合いに増大するからである。一方、銅のパーセンテージが1.5%よりも大きければ、多くの結晶が形成されるがこれは性能の向上を生じさせず、その一方で飽和磁化が減少する。
【0038】
本発明による組成におけるニオブの原子パーセンテージは2%と5%の間である。この元素は成長阻害物質であり、その役割は結晶の成長中に結晶の小さいサイズを維持することである。2%を下回るニオブでは阻害が不十分であり、張力下でナノ結晶化によって作製されるものを含めたナノ結晶リボンのタイプ全体にわたってHcが増大する。
【0039】
ニオブのパーセンテージが6%に上げられると、飽和誘導B(20Oe)が大幅に下降し、特にリボンの脆化が観察され、これは頻繁な破断の危険性を伴わずに工業的に取り扱うことを極めて困難にする。したがってニオブの最大パーセンテージは5%以下に保たれなければならない。
【0040】
本発明による組成におけるケイ素の原子パーセンテージは10%と16.9%の間である。この半金属はナノ結晶化リボンの磁気歪みを極めてゼロに近い値に調節することを可能にする。
【0041】
好ましい実施形態では、本発明によるストリップのケイ素含有量は12%以上である。なぜならば、この値を下回るとHcが下降して8A/m程度の値に達し、受容可能であるが比較的高い磁気損失を引き起こすからである。
【0042】
M’の文字で集約される元素、すなわちV、Cr、Al、およびZnは或る一定の限度以内でケイ素に置き換わることが可能な半金属である。なぜならば、2%を超える置換はこれらの磁気歪み値から大幅に逸脱し、最終製品を、例えばリボン全体にわたるリボンの巻き付け(ストリップの湾曲の応力)およびパッケージングなどの外部応力に敏感になりやすくするからである。
【0043】
さらに、エネルギー貯蔵、電流高調波の平滑化、またはやはり高周波数用のコモンモードの自己誘導コイルの用途についても、高いB−H直線性は厳密に必要または有用または有利ではなく、10〜15%のBr/Bm比(Br:残留誘導、Bm:「飽和誘導へのアプローチ」として知られている20Oeでの誘導)が完全に十分であると見込まれる。
【0044】
一方、重畳される連続成分が何であれ同じ方式で減衰させることが要求されるフィルタ用インダクタ、重畳される連続成分が何であれ同じエネルギーを電気回路から貯蔵および電気回路に移送することが要求される貯蔵用インダクタ、重畳される連続成分が何であれ同じ精度で電流を測定および/または変換することを要求される電流センサなどの或る種の部品のケースでは、高いB−H直線性が必要である。これは前進の張力下にあるナノ結晶化アロイについては、これらの用途が3%以下、好ましくは1%以下のBr/Bm比を必要とすると述べるほどの量に上がる。本発明者らは意外にも、そのような値を達成するために、まさに述べられてきた組成範囲が小さくされなければならないことを見出した。
【0045】
したがって、Br/Bm比が20℃で3%以下になるような、上記に既に提示された本発明のすべての利点および改善されたB−H直線性も以下の追加的な条件
a≦0.04およびb≦0.07
0.5≦x≦1.5および2≦α≦5
13≦y≦16.6および5.8≦z≦8
β≦2およびγ≦2
で観察することによって得られる。
【0046】
さらに、この組成範囲では、0℃と400℃の間のBr/Bm比が6%以下であることおよび0℃と300℃の間のBr/Bm比が3%以下であることが観察される。
【0047】
さらに、Br/Bm比が20℃で1%以下、好ましくは20℃で0.7%になるような最適のB−H直線性は以下の追加的な条件
a≦0.02およびb≦0.05
0.5≦x≦1.5および2.5≦α≦4
14.5≦y≦16.5および5.8≦z≦7.5
β≦1およびγ≦1
で観察することによって得られる。
【0048】
さらに、この組成範囲では、0℃と400℃の間のBr/Bm比が1.5%以下であることおよび0℃と300℃の間のBr/Bm比が0.8%以下であることが観察される。
【0049】
この材料は液体の形で作製され、次いで従来型のアモルファスリボンの冷却ロールキャスティング用のプラント内で高い冷却速度で成形され、それにより、成形プラントの出口で連続巻き取りによるコイルの形で巻き付けられたアモルファスのストリップが得られる。
【0050】
このアニール用プラントは主に、対流と輻射によってストリップを加熱する抵抗炉、純粋の輻射炉、またはストリップが炉を通過するときにジュール効果によってこれを加熱するためのプラントであってもよいトンネル炉(3)を含む。
【0051】
ストリップのアニーリングは固体もしくは液体の粒子から成る流動床によって、またはキャリヤガス中のゾルゲルおよび懸濁液のエアロゾルである形態のうちの1つで実施されることもやはり可能であり、ストリップを加熱するための媒質はそれ自体、従来型の炉、例えば抵抗炉によって加熱されたチャンバと接触することによって加熱される。
【0052】
炉(3)は、温度が均一であって本発明による前進の張力下にあるストリップの再結晶化を実施するために必要な範囲内にある中央区域を含み、この温度は530℃と700℃の間、好ましくは540℃と690℃の間である。この範囲内で、温度Tは選択された製造速度Rおよび選択された引っ張り応力σ(すなわち、選択された透磁率μでもある)に実質的に従って変えられるが、なぜならばRを上げることまたはσを下げることは最適アニーリング温度Tを上げるからである。ストリップを脆くして磁気特性を低下させるホウ化物から成る相の形成を阻止するために700℃のストリップの上限温度がかけられる。
【0053】
装置の生産性をさらに上げるために、ストリップの巻き付けおよび巻き解きのための軸(8)はモータまたはブレーキの(例えば巻き解き装置上のパウダーブレーキブレーキを使用する)制御下にあることが好ましい。トンネル炉(3)の入り口のS字型ユニット(4)および出口のS字型ユニット(7)は両方共にモータの制御下にあり、入り口のS字型ユニット(4)は処理全体を通じてアモルファスリボン(R)に対するブレーキングおよび抑止トルクを示すブレーキモータ(5)に接続される。炉(3)の出口のS字型ユニット(7)は減速ギヤと連動してモータによって駆動され、ストリップ(N)を駆動することでこれを炉の中で、完全に調節された引っ張り応力で、かつ10cm/sを超えることが可能な一様な速度で前進させるために役立つ。アニーリング炉(3)の長さは結晶化が正しく実施されることが可能になるようにリボン(R)の前進速度に合わせられるべきであり、この前進速度が上がるにつれて炉(3)の長さが大きくされなければならないことは知られている。
【0054】
これら2つのS字型ユニット(4、7)の組合せはストリップの幅全体にわたって完全に均一な方式で完全に調節された張力を加えることを可能にし、アニーリング炉(3)内での処理の過程の中でリボン(R)の縦軸方向の引っ張り応力は2MPaと1000MPaの間である。
【0055】
入り口のS字型ユニット(4)を通過する前のリボン(R)に対する、および/または出口のS字型ユニット(7)を通過した後のストリップ(N)に対する低い振幅の(数MPa程度の)調節された張力を保証するために、モータの制御下にあるストリップ(N)の巻き付け軸(8)とアモルファスリボン(R)の巻き解き軸(2)を提供することもやはり可能であり、かつ好ましい。
【0056】
アニーリング処理中に前進方向でストリップ(N)に対して行使される引っ張り応力は力測定用および力調節用装置(6)を使用して調節される。
【0057】
この装置(6)は第1の静止プーリと第2の静止プーリを含んでもよく、この上をストリップが力調節装置の入り口および出口で連続的に通過する。これら2つのプーリの間で、リボン(R)は可動軸を有するプーリの上を通過し、この軸は2つの静止プーリの軸と平行である。可動軸のプーリは支持体に取り付けられた力センサへと接続ロッドを介して接続される。このロッドはリボン(R)に行使される張力(F)を連続的に測定することを可能にし、これに対応する測定信号は炉(3)のモータの制御下にある入り口のS字型ユニット(4)のブレーキモータ(5)を制御するためのモジュールへと伝えられる。
【0058】
このブレーキモータ(5)は、リボン(R)に対して調節パラメータの構成要素である力Fに等しい縦軸方向の抑止力および張力を行使するために力信号から調節される。炉(3)のモータの制御下にある出口のS字型ユニット(7)のモータによって行使される張力および駆動力はブレーキモータ(5)によってかけられる力Fの値に自動的に調節される。
【0059】
さらに、本発明による装置(1)は、第1の軸の上に第1のコアを巻き付けた後に製造工程を中断することなく第2のコアの巻き付けを実施するためにストリップ(N)を切断してストリップ(N)の先端部分を第2の軸上に取り付けることが可能になるようにストリップ用の第1の巻き付け軸とストリップ用の第2の巻き付け軸とを含むこともあり得る。仕上がった製品のコイルのこの交換は、2つのS字型ユニット(4、7)の間に含まれる高い張力の区域の、これらのユニット(4、7)の前段および後段の弱い張力の区域からの完全な分断で特に好ましく、この分断はあり得る突然の応力の変動を取り除くことを可能にする。「コア」という用語は本願明細書では、磁石部品のサイズの要求条件に従って永久的に巻かれたコアと、後になって(巻き解く動作、ストリップの長さを測定する動作、コアを巻き付ける動作、長さに切る動作、外側の一巻きを接着して軸から外す動作を含む)手動式または自動式のコア巻き付け装置に設置されるように意図された半製品のコイルの両方を意味すると理解される。
【0060】
アニールされたストリップ(N)がトンネル炉(3)からのストリップ(N)用の出口の後段に置かれたS字型ユニット(7)を通過するときにこれを圧縮する少なくとも1つの圧力ローラ(10)をS字型ユニット(7)の出口に追加することもやはり可能である。S字型ユニットのこの追加のローラ(10)はキャンバを付けられていてもよい。S字型ユニット(4、7)にキャンバを付けたローラを配置することは、これらがしたがって、アモルファスリボン(R)またはナノ結晶ストリップ(N)がS字型ユニット(4、7)を通過するときにこれを圧縮するのみでなく、さらにリボン(R)またはストリップ(N)を自動的に中心に据えることが可能となるので好ましくかつ有利であり、経路から逸脱しない前進を可能にし、その幅全体にわたって、およびS字型ユニット(4、7)のローラの接触面積の全体にわたって一様に配分された同等の引っ張り応力を受けることが可能である。
【0061】
他のS字型ユニットを処理過程にインラインで挿入することによってストリップの密着性、安定性、およびロールの横断軸に沿った心出し精度を高めることもやはり可能である。これは高い張力の区域(S字型ユニットの間)と下がった張力の上流および下流区域との間の応力の比に加えて、局在応力の分布もやはり調節することが可能となり、結果として1km当たりの破断のレベルを最終的に下げることも可能にする。
【0062】
本発明による方法は、後になって張力下でのアニーリングのために製造場所から切り離された巻き付け場所で円形または長円形の形状の高速での巻き付けコアを作製することも可能にする。このケースでは巻き付けは本発明による張力下でのアニーリングによって作製されたストリップのコイルから実施される。長円形コアの製造については、張力下でのアニーリングのための処理から結果として得られるストリップの巻き付けの時間に非磁性体の巻き付け支持体が追加されなければならず、その後、コアのコーティングまたは含浸処理の後に取り外されてもよく、またはそれ以外で保持されてもよい。
【0063】
さらに、リボンの開始部分を軸上に固定するために磁性体の軸または吸引を伴う軸を使用することが有利になり得る。
【0064】
概して、張力下でのアニーリング炉(3)の内部のストリップの結晶化のための条件は、ストリップが2nmと20nmの間のサイズを有するナノ結晶を体積で少なくとも50%含むようにすることである。アモルファスで残されたアロイの画分から成るマトリックスによって様々な結晶が互いから分離される。
【0065】
本発明による方法の利点の1つは、2MPaから1000MPaの範囲にわたる極めて広範囲の引っ張り応力を使用することができるという利点である。これは50と5000の間の透磁率を達成することを可能にする。
【0066】
特に、250MPaを上回る、および500MPaを上回るさらに良い引っ張り応力を使用することによって50と200の間の透磁率を示すナノ結晶ストリップを製造することが可能であり、この範囲は今までは従来の方法(例えば、仏国特許第2823507号明細書)によって達成することが不可能であった。このようにして、400MPaの応力については90程度の透磁率、700MPaの応力については50の透磁率を得ることが可能であった。
【0067】
さらに、アモルファスリボンを高い引っ張り応力をかけることによってナノ結晶ストリップの厚さを3から10%、実にそれ以上でさえ削減することが可能である。このようにして、20μmの厚さを備えたリボンが18または19μmの厚さを備えたストリップへと変換されることが可能である。ナノ結晶ストリップの厚さのこの削減はストリップから製造される部品の磁気性能に関して重要性を有する。なぜならば、厚さのこの削減は金属の中に誘導される電流、したがって先行きの巻き付けコアの磁気損失を減らすことを可能にするからである。
【0068】
さらに、本発明者らはこのさらに優れた磁気性能がストリップの膨張度を損なうことなく得られることを見出したが、巻き付けられる金属シートの厚さが減少するにつれて巻き付け品の膨張度が増大することが知られているのでこれは意外である。
【0069】
コアの中に誘導される電流および磁気損失を削減するために、コアに関して意図される最終用途に応じてストリップ上に電気絶縁層を堆積させるかまたは形成することで連続する巻回を互いから絶縁することが必要であることもあり得る。例えば、アニーリングの後にストリップ上に0.1マイクロメートルから数マイクロメートルの厚さにわたって無機物質を連続的に堆積させることが可能である。
【0070】
巻回の間に堆積させられるそのような無機物質はマグネシア(MgO)乳で構成されてもよく、その水分が後に続く低温加熱作業で除去される。
【0071】
さらに概して述べると以下の従来式の構成で使用が為されてもよい。
・樹脂中の浸漬、スプレー法、電気泳動法、またはいずれかの他の堆積技術によって表面にSiO、MgO、Al粉末が堆積させられる。
・CVDもしくはPVDスプレー法または静電法による表面でのSiO、MgO、Alの精細な層の堆積。
・アルコール中のアルキルケイ酸塩溶液が酸と混合され、熱処理の後にフォルステライトMgSiOを形成する。
・SiOとTiOの部分的加水分解によって得られた溶液が様々なセラミック粉末と混合される。
・主にポリ炭酸チタンを含む溶液がリボンに塗布され、次いで加熱される。
・リン酸塩溶液が塗布されて加熱される。
・酸化剤の塗布によって絶縁溶液が形成され、これを加熱処理する。
【0072】
絶縁層はアニーリングの結果得られたコイルから巻き解かれて電磁気部品用の1つまたは複数のコアの形に巻き直す前のストリップ上に、またはコイルとして巻き付ける前段のモータS字型ユニットの出口でインラインで堆積させられることが好ましい。両方のケースで、重合または脱水を提供するためにこの堆積は概して低温アニーリングによって引き継がれる。
【0073】
絶縁特性を有するコーティングを結晶化アニーリングの前に使用することもやはり可能であり、このコーティングはアモルファスリボン上に0.1マイクロメートルから数十マイクロメートルの厚さにわたって堆積させられ、フラッシュアニーリングの温度およびアニーリングの高い張力に耐久性がある。例えばアモルファスストリップの予備コーティングとしてマグネシウムメトキシドを使用することが可能である。
【0074】
アニーリングに先行する絶縁のための、またはアニールされたストリップの電気絶縁のためのこのタイプのコーティングはいずれかの適切な手段によって、特に2つのロール間でのコーティング、またはCVDもしくはPVDタイプの蒸着、またはスプレー法、または流動床などによって作製されることが可能であり、とりわけ絶縁材料の性質、モノマーのタイプ、および溶剤の存在に応じて場合によって追加される乾燥および/または重合および/または架橋の段階を伴う。
【0075】
無機絶縁コーティング(温度耐久性)の使用が為されるとき、このコーティングはナノ結晶化アニーリングの前、特に好ましくは入り口のS字型ユニットの前段でアモルファスリボンに実施されることが好ましい。絶縁材料がアニーリング炉を通過するときに絶縁材料の一部がアモルファスリボンから引き離されるが、しかし特に、残りの絶縁材料がリボンの機械的特性を補強する一方で脆性を減少させることを可能にすることを本発明者らは見出した。
【0076】
さらに、このとき所定のレベルの透磁率を得るために必要な張力は削減されることが見出される。したがって、張力を高めることによってさらに低い透磁率でさえ達成することが可能である。
【0077】
巻回間の絶縁と全く異なるが補完的な方式で、例えば高温または低温条件下で塗布されることが可能であるエポキシ樹脂などのプラスティックで本発明による(本出願によって指示される幾何学的要求条件に従ってコアとして事前に巻き付けられた)コアを被覆することもやはり可能である。たとえ樹脂が200℃程度の温度で塗布されてもこのタイプのコーティングが決してコアの磁気性能を損なわないことは見出されている。このコーティングは巻回間に大幅に浸透せず、コアを強化して巻き付け応力から保護し、巻き線の電気絶縁材料を巻き付けストリップの切断エッジによる損傷から保護し、かつ巻き付けコアと巻き線との間の良好な誘電絶縁を提供する役割を有する。
【0078】
今述べられた巻回間の電気絶縁コーティングまたはコアとその巻き線の電気的および機械的保護のためのコアの外部コーティングに加えて、特定の流体を使用して本発明によるコアの巻回間にある間隙を含浸処理し、透磁率への大幅な損傷を伴うことなく樹脂を硬化させることもやはり可能である。この状況では、コアは極めて剛体で単一ブロックになり、したがって切断されることが可能である。
【0079】
このようにして作製された含浸コアは次いで保磁力Hcの増大が50%を超えずに2Cへと切断されることが可能であり、その一方で一緒にされた2Cで作製される磁気回路の透磁率μが切断面の適切な表面処理によってμに対して最大で50%のさらに低いレベルに調節されることが可能である。
【0080】
例えば、透磁率がμ=300になる本発明による含浸コアが作製されれば、150と300の間の透磁率μを得ることが可能であろう。この低減は切断から結果として生じる残存空隙に起因する。
【0081】
したがって、上記で述べられた応力アニールされたナノ結晶材料のすべての性能特性を有し、かつ残存空隙以外に外部磁場を混乱させて空隙区域周囲の局所的温度上昇を引き起こしかねない空隙を有しない小型の最終部品を得ることを可能にする2C幾何学形状もやはり有する低透磁率のコアを利用可能にすることができることは理解される。
【0082】
(試験)
冷却ホイール上での急冷の従来法によるアモルファスリボンを得るために、その組成が表1に照合される一連の成形品1から19が作製された。
【0083】
これらのリボンは引き続いて様々なアニーリング処理にかけられ、これらの処理の特徴は表2に照合される。
【0084】
応力アニーリングによっていったんナノ結晶ストリップへと変換されると、このストリップが或る一定数の特性試験にかけられ、その結果自体もやはり表2に照合される。
【0085】
これらの試験の文脈では以下の用語が使用される。
・RP:既に知られているナノ結晶材料の応力アニーリングのための処理であって、少なくとも挟みロールの1つまたは2つの対を使用する(仏国特許第2823507号明細書参照)。
・Direct:既に知られているナノ結晶材料の応力アニーリングのための処理であって、巻き付けコイルと巻き解きコイルを通じてリボンに対して直接の張力を使用する(仏国特許第2823507号明細書参照)。
・BS:本発明に述べられるようなナノ結晶材料の応力アニーリングのための処理であって、例えばアニーリング炉の入り口でS字型のユニットおよびこの炉の出口でS字型のユニットを使用する。
【0086】
以下の記号もやはり使用される。
MIN:ストリップの破壊限界における曲率半径、
TTH:ナノ結晶化アニーリング温度、
σ:アニーリング中の引っ張り応力、
μr:比透磁率、
ΔT:利用可能なμr範囲全体についてDMIN≦3mmを得ることを可能にするアニーリング温度の値の範囲、
Br:残留誘導、
Bm:20Oeにおける誘導、「飽和誘導へのアプローチ」、
B:(200):200Oeにおける飽和誘導、
Hc:保磁力。
【0087】
「μr範囲」という用語は、50から5000の最大μr範囲の中で所与の処理特性に関する所与の成形品における利用可能なμr値の範囲を意味すると理解される。
【0088】
(DMINの判定)
ストリップの破壊限界における曲率半径DMINは一連の半円球の段階的な形態であってストリップが破断するまでその直径が小さくなる形態の上にストリップを設置することによって測定される。5から2.5mmの直径が連続的に使用され、0.1mmの段階で減少する値である。
【0089】
(ΔTの判定)
ΔTは利用可能なμr範囲全体についてDMIN≦3mmを得ることを可能にするアニーリング温度の値の範囲である。なぜならば、ストリップの脆性はDMINが3mm未満であるときに工業的規模の処理に適合すると考えられるからである。
【0090】
ΔTの値を判定するために、アニーリング中の引っ張り応力を変えることによって得られた様々な透磁率のストリップについてDMINがこのようにして測定され、これは多様な値のアニーリング温度TTTHについて為される。
【0091】
このようにして、組成No.1の成形品(表2参照)に関して、以下の値がDMINについて得られた。
【表1】

【0092】
この例では、ΔTの値は560℃と595℃の間の30℃で算定される。
【0093】
透磁率が上がるにつれてDMINが増大してμ=1500〜2000で安定することが見出される。したがって最も小さい脆性のリボンは最も低い透磁率を有するリボンであり、これはエネルギー平滑化/貯蔵タイプの用途にとって小型化の追加的な利点である。
【0094】
張力下でのアニーリングに関してはDMINが極めて温度に敏感であることもやはり言及される。したがって、30℃の違いは500よりも大きい透磁率を有するすべてのストリップが570℃で得られるわずかな脆性の状態(DMIN≦3mm)から次第に脆い状態(DMINが3.6mmに達することもあり得る)へと変わる原因になる。
【表2】

【表3】

【実施例1】
【0095】
品質等級の組成の影響
(ホウ素含有量の影響)
ホウ素含有量が8.4%である実例V、WおよびXは正しいレベルの脆性を示し、5破断/km未満の破断のレベルである。
【0096】
しかしながら、ホウ素のこの高いパーセンテージでもって応力下での前進方向の結晶化は困難にされ、特に、例えばC、D、EおよびFなどの工業的に運営されることが可能なすべての試験よりも遅く、4cm/sec未満の前進速度に下げることを必要とし、利用可能な透磁率範囲を300を上回る透磁率に制限する。したがって、最大ホウ素含有量は8%に制限されなければならない。
【0097】
さらに、実例Nはホウ素と部分的に置換された1.22%の炭素が製品の性能に殆ど損害を生じさせないことを示している。
【0098】
(ニオブ含有量の影響)
実例Jは、3.9%程度のニオブのパーセンテージが使用されれば磁気性能は全体として維持されるが、しかし飽和誘導B(200Oe)で、例えばわずか2.96%のニオブのみを含む実例AからCで使用されるような組成に関する12.5kGではなく12kGへの低下を伴うことを示している。
【0099】
さらに、限界曲率(≦3mm)および利用可能な透磁率範囲の必要性能を備えた応力アニールされたリボンを得ることを可能にするために、前進速度は大幅に下げられなければならない。
【0100】
ニオブのパーセンテージが6%に上がれば(実例K)、温度調節範囲がさらに増大し(50℃)、利用可能な透磁率範囲は興味を引く状態(μmin=200)をなおも維持する。しかしながら、飽和誘導B(200Oe)は11.2KGへと大幅に下降し、望まれるであろう小型に部品を製造することを可能にしない。
【0101】
さらに、応力下でナノ結晶化したストリップから開始するコア形態の巻き付けに関する限界直径は3.8mmへと著しく増大し、これはストリップの脆化を立証し、頻繁な破断の危険性を伴わずに工業的に取り扱うことを極めて困難にする。
【0102】
(銅含有量の影響)
実例HおよびIは、1%の銅含有量からいくぶん逸脱すること、1.5または0.7%にそれぞれ達することが性能を大幅に損なわないことを示している。
【0103】
(ケイ素含有量の影響)
15.3%のケイ素を含む実例AからCのリボンに対して、ケイ素のパーセンテージが13.5%に下げられれば金属は工業的生産に適した状態(<5破断/km)を維持し、利用可能な透磁率範囲を大きく(μmin=100)保つが、しかし本発明によるBS処理の条件が保磁力Hcなどの磁気特性に関してさらに危機的になることが見出される(試験RからU)。
【0104】
このようにして、615および640℃のアニーリング温度についてはHcは7A/mを維持するが、650℃からHcは極めて有意に増大し(実例T)、これは応力アニーリング温度調節範囲ΔTが高い状態(〜30℃)を維持するので工業的生産を不可能にしない。しかしながら、ケイ素のパーセンテージが11.5に達する(実例U)までさらに下げられれば、脆性の最適条件が存在するときの保磁力は下降して8A/mに達し、巻き付けコアに関して過度に高い磁気損失という結果につながる。
【0105】
(M’タイプの元素の含有量の影響)
ケイ素に関するこれら置換半金属の可能とされる含有量を最大2%に制限することが必要である。なぜならば、ケイ素の代わりにされるときに1%のクロムまたは1.5%のアルミニウムの含有量が最終製品の利点に対して有害でないことを実例LとMが示しているからである。
【0106】
一方、2.4%のバナジウム含有量がリボンの脆性を著しく高め(>10破断/km)、この増大した脆性のせいで許容可能な前進速度の減少につながることを実例Oが示している。同時に、保磁力Hcが下降し、正しい性能が得られうる処理の温度範囲ΔTが過度に小さくなり(<10℃)、ストリップを工業的製造にとって不適切にする。さらに、利用可能なμr範囲がμr≧300に削減される。
【0107】
(M”タイプの元素の含有量の影響)
ケイ素が2.6%のゲルマニウムで置換されると保磁力Hcが大幅に下降し(≧8A/m)、アニーリング温度範囲が小さく、それに対して他の特性が完全に都合の良い状態を維持することを実例Pが示している。
【0108】
(コバルト含有量の影響)
1.7%および5%のレベルで鉄の部分置換としてコバルトの中程度の添加が「direct」処理によって利用可能な透磁率μの範囲を損ない、なぜならばμminがそれぞれ300から350、300から500へと変わるからであることを実例DとEが示している。
【0109】
本発明によるBS処理のケースでは、許容可能なコバルト含有量は0.05(実例F:μmin=300)であるように見え、それに対して10%のコバルトでは処理によって500未満の透磁率に近付けることが不可能である(実例G)。
【0110】
実例C、D’、E’、YおよびZに関連する追加的な試験は500kHzにおけるこれらの磁気損失の値(50mT、27℃)を判定すること、および25℃と150℃の間でのこれらの透磁率の温度安定性および見掛けの飽和磁気歪みλsを判定することを可能にした。
【表4】

【0111】
BS処理による試験に関して、コバルト含有量の増加が保磁力Hcおよび磁気損失のレベルもやはり追加的に損なうことが見出される。これら2つの点は、測定装置において弱い信号に極めて高感度であるかまたは低損失であるアロイを得ることを不可能にする。したがって、コバルトは最大で約5.75%に制限される(a≦0.07)。
【0112】
さらに、コバルトとニッケルの累積含有量の増大は見掛けの飽和磁気歪みλsを損ない、アロイを外部応力(接着、コーティング、含浸、切断、取り扱い)に対して弱くする。この増大は25℃と150℃の間での透磁率の温度安定性もやはり損なう。したがって、ニッケルは最大で約8.25at%に制限され(b≦0.1)、NiとCoの累積含有量が最大で8.25at%(a+b≦0.1)に制限されることが好ましい。
【実施例2】
【0113】
膨張度
ナノ結晶コアの膨張で(リボンに)加えられる応力の影響を調べるために一連のアモルファスリボンが調製された。これらの組成は表1の成形品1に従い、これらのアモルファスリボンには増大する引っ張り応力をかけた。試験の条件および厚さ(ΔEp/Ep)の減少と膨張度に関して得られた結果は表5に参照される。
【表5】

【0114】
本発明による方法が膨張度を大幅に損なうことなくナノ結晶ストリップの厚さを削減することを可能にし、これが全く予測できなかったことが見出される。
【0115】
本発明によるナノ結晶ストリップの見込まれる用途の観点から、指摘の方式でかつ言外の限定を伴うことなく以下の記述が為されることが可能である。
→特に電力計のいくつかのモデルに使用される強い重畳される連続成分を備えた電流センサ。
→例えばGTO、IGBTなどといったパワーエレクトロニクスの能動部品のリアルタイムの電流制御に用途を有する、シールドを伴うかまたは伴わない広周波数帯域の電流プローブ。
→PFC、プッシュプル、フライバック、フォワードなどといったいずれかのタイプのパワーエレクトロニクス用コンバータ構造のためのエネルギー貯蔵用または平滑用インダクタであって、
・強い重畳される連続的電流ストレスの下で削減された磁気損失と高い飽和磁化Jsを伴って、低い透磁率に近づくせいで部品の体積を削減すること、
・重畳される連続的電流によって大きく左右されず、かつ工業的生産において高度に再現性のある(≦10%、好ましくは≦5%)インダクタンスLを提供すること、
・磁気歪みに起因するどのような音響ノイズも阻止すること、
・電磁両立性に関連するどのような問題も阻止すること、
・磁気回路のどのような局所的温度上昇も阻止すること
を可能にするインダクタ。
→例えば共振型電源に使用するための本発明による非切断型コアを有する(数百kHzを超える)HF変圧器。ここでは本発明によるコアはその高いカットオフ周波数のために有利であり、50から300の透磁率に関して20から200MHzに達することが可能であり、低い磁気損失および高い利用可能動作誘導(Js>1T)を伴う。
→本発明による非切断型コアを含むHFフィルタ機能を備えたコモンモードの自己誘導コイルであって、高いJsと1から200MHzの範囲、好ましくは10MHzを超える高いカットオフ周波数の両方のせいで部品を小型化することができるという利点を提示するコイル。
【図面の簡単な説明】
【0116】
【図1】仏国特許第2823507号の装置を示す図である。
【図2】本発明による装置を示す線図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アモルファス状態のリボン成形品から得られるナノ結晶材料でできているストリップを製造するための方法であって、アモルファスリボンを結晶化アニーリングにかけることにより、
[Fe1−a−bCoNi100−x−y−z−α−β−γCuSiNbαM’βM”γ
式中、M’は元素V、Cr、Al、およびZnのうちの少なくとも1つであり、M”は元素C、Ge、P、Ga、Sb、In、およびBeのうちの少なくとも1つであり、
a≦0.07およびb≦0.1
0.5≦x≦1.5および2≦α≦5
10≦y≦16.9および5≦z≦8
β≦2およびγ≦2となる原子組成を備え、
ストリップリボンが少なくとも2つのS字型ユニットを通って前進時に、実質的にリボンの縦軸方向の張力下で、巻き付けられていない状態でアニーリングにかけられ、それにより、リボンが2MPaと1000MPaとの間の軸方向引っ張り応力下で5秒と120秒との間の時間の間、530℃と700℃との間のアニーリング温度に維持され、前記アモルファスリボンが受ける引っ張り応力、前記アニーリング中のリボンの前進の速度、アニーリング時間およびアニーリング温度が、ストリップの断面プロファイルがΩ形状にならず、かつストリップの幅の3%未満、好ましくは幅の1%未満のストリップの横軸断面の最大撓みを示すように選択される、方法。
【請求項2】
ストリップの前進の速度が1秒当たり、および炉の作業区域1m当たり10cm以上である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
軸方向の引っ張り応力が500MPaよりも大きい、請求項1および2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前進中のアモルファスリボンの破断のレベルがリボン1km当たり10破断未満である、請求項1から3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
さらにyが12以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
a≦0.04およびb≦0.07
0.5≦x≦1.5および2≦α≦5
13≦y≦16.6および5.8≦z≦8
β≦2およびγ≦2
である、請求項1から5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
a≦0.02およびb≦0.05
0.5≦x≦1.5および2.5≦α≦4
14.5≦y≦16.5および5.8≦z≦7.5
β≦1およびγ≦1
である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
a+b≦0.1
である、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
a=0
である、請求項1から8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
b=0
である、請求項1から9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法の実施によって得られることが可能であるナノ結晶材料でできているストリップであって、このストリップのいずれのポイントでも、破断または亀裂を伴うことなく最大で3mmの湾曲直径で屈曲を受けることが可能であるストリップ。
【請求項12】
アモルファスリボンから開始する請求項1から10のいずれか一項に記載の方法の実施によって得られ、前記アモルファスリボンの厚さに対して少なくとも10%のストリップ厚さが削減される、請求項11に記載のストリップ。
【請求項13】
保磁力が7A/m以下、好ましくは5A/m以下である、請求項11および12のいずれかに記載のストリップ。
【請求項14】
200Oeにおける誘導が12kG以上である、請求項11から13のいずれか一項に記載のストリップ。
【請求項15】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法の実施によって得られることが可能であるナノ結晶材料でできているコアであって、その最後に、前記ナノ結晶ストリップが巻き付けられ、透磁率が50以上で200未満になり、カットオフ周波数が30MHzと200MHzの間になるコア。
【請求項16】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法の実施によって得られることが可能であるナノ結晶材料でできているコアであって、その最後に、前記ナノ結晶ストリップが巻き付けられ、直径が10mm以下になるコア。
【請求項17】
応力の無い結晶化アニーリングを受けた同じ組成のストリップを巻き付けることによって得られる膨張度と比較して最大で3%の膨張度の低下を示し、これが開始時のアモルファスリボンの厚さに対して10%までの範囲に及ぶナノ結晶化ストリップの厚さの減少に関するケースである、請求項15および16のいずれか一項に記載のコア。
【請求項18】
請求項1から10のいずれか一項に記載の方法の実施によって得られ、その最後に、前記ナノ結晶ストリップが最初に第1の軸上に巻き付けられ、次いで巻き解きおよびこれに続く巻き付けによって第2の軸上に巻き付けられ、第2の軸の直径が第1の軸の直径よりも小さい、請求項15から17のいずれか一項に記載のコア。
【請求項19】
1段式または2段式の電力計に使用されることが可能である、強い連続成分を有する電流を測定することが可能な電流センサであって、請求項6から10のいずれか一項に記載の方法によって得られるナノ結晶材料でできている少なくとも1つのコアを含む電流センサ。
【請求項20】
重畳される連続成分のレベルに無関係であり、かつ電力計に使用されることが可能である貯蔵用またはフィルタ用インダクタであって、請求項6から10のいずれか一項に記載の方法によって得られるナノ結晶材料でできている少なくとも1つのコアを含むインダクタ。
【請求項21】
アモルファス状態のリボン(R)成形品から、前記アモルファスリボン(R)をアニールすることによって磁気コアを製造するための装置(1)であって、
アモルファス状態のリボン(R)のコイルを受けるためのシャフト(2)と、
温度調節されたトンネル炉(3)と、
炉(3)内へのリボン(R)用の入り口の前段に置かれてブレーキモータ(5)に接続された少なくとも1つのS字型ユニット(4)と、
前記アモルファスリボン(R)およびナノ結晶材料でできているストリップ(N)の軸方向の引っ張り応力を調節するための装置(6)であって、炉(3)内へのリボン(R)用の入り口の前段に置かれた前記S字型ユニット(4)のブレーキモータ(5)を制御するためのモジュールに接続された力測定用装置を含む装置(6)と、
トンネル炉(3)からのストリップ(N)用の出口の後段に置かれてモータに接続された少なくとも1つのS字型ユニット(7)と、
アニーリング後に得られるストリップ(N)をナノ結晶材料でできたコアの形に巻き付けるための少なくとも1つの巻き付け軸(8)と
を含み、アモルファスリボン(R)が前記受けシャフト(2)に取り付けられたアモルファスリボン(R)用の保管コイルから炉(3)内へのリボン(R)用の入り口の前段に置かれたS字型ユニット(4)を通り、次いで力測定用装置(6)を通り、次いで炉(3)を通り、次いで炉(3)からのストリップ(N)用の出口の後段に置かれたS字型ユニット(7)を通ってナノ結晶材料でできたストリップ(N)用のコイルへと連続的に通過することを特徴とする、装置。
【請求項22】
ストリップのための第1の巻き付け軸およびストリップのための第2の巻き付け軸を含み、それにより、第1の軸上に第1のコアを巻き付けた後に製造工程を中断することなく第2のコアの巻き付けを実施するためにストリップ(N)を切断してストリップ(N)の先端部分を第2の軸に取り付けることが可能である、請求項21に記載の装置(1)。
【請求項23】
炉(3)の前記出口のS字型ユニット(7)の下流にストリップ(N)のための単一の巻き付け軸(8)およびストリップ保管装置(9)を含み、製造工程を中断することなく巻き付けコイルを交換することを可能にする、請求項21に記載の装置(1)。
【請求項24】
アニールされたストリップ(N)がトンネル炉(3)からのストリップ(N)用の出口の後段に置かれたS字型ユニット(7)を通過するときにこれを圧縮する少なくとも1つの圧力ローラ(10)を追加的に含む、請求項21から23のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項25】
アモルファスリボン(R)が炉(3)内への前記リボン(R)用の入り口の前段に置かれたS字型ユニット(4)を通過するときにこれを圧縮する少なくとも1つのキャンバを付けたローラを追加的に含む、請求項21から24のいずれか一項に記載の装置(1)。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2009−501273(P2009−501273A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−511758(P2008−511758)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【国際出願番号】PCT/FR2006/001170
【国際公開番号】WO2006/123072
【国際公開日】平成18年11月23日(2006.11.23)
【出願人】(504206160)
【Fターム(参考)】