説明

ナノ結晶状合金の合成法

【課題】リチウムイオン電池用の代替アノード用材料として期待される、合金ナノ粒子、例えば、Ni3Sn2やNi3Sn4、そしてCoSb3など、また、優れた熱電材料であることが注目されるCoSb3合金ナノ粒子を、効率よく、経済的にも優れた手法で製造する技術、特に、低コスト、環境に配慮した簡単な高速合成プロセスで、上記合金ナノ粒子を合成することができる、新しい合成方法を開発する。
【解決手段】高温高圧状態の、亜臨界ないし超臨界流体、特には亜臨界ないし超臨界エタノールを反応溶媒として、合金前駆体からニッケルとスズからなる合金及び/又はコバルトとアンチモンからなる合金のナノ粒子(ナノ結晶合金、ナノ結晶状合金ナノ粒子)を合成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温高圧状態の、亜臨界ないし超臨界流体、例えば、亜臨界ないし超臨界エタノールを反応溶媒として使用して、合金前駆体からナノ結晶合金を合成する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン電池用の代替アノード用材料として、例えば、Ni3Sn2やNi3Sn4、そしてCoSb3のような合金ナノ粒子は、最近注目を集めるようになってきた(非特許文献1及び
2)。さらにその上、CoSb3が優れた熱電材料(熱電材: thermoelectric material)であることが見出され、そして、CoSb3の粒子サイズが小さくなるに従って、その熱電材料と
しての性状が高められることが観察されてきている。
【0003】
通常のその合成方法は、ボールミル法又は数時間といったオーダーの長時間の反応時間を使用したソルボサーマル反応(solvethermal reaction)をすることを含むものである

【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Dong, Q. F. et al., Solid State Ionics, 167, pp.49-54 (2004)
【非特許文献2】Xie, J. et al., J. Electrochem. Soc., 152, 3, A601-A606 (2005)
【非特許文献3】Clemens Schmetterer et al., Intermetallics, 15, pp.869-884 (2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン電池用の代替アノード用材料として期待される、合金ナノ粒子、例えば、Ni3Sn2やNi3Sn4、そしてCoSb3など、また、優れた熱電材料であることが注目されるCoSb3合金ナノ粒子を、効率よく、経済的にも優れた手法で製造する技術の開発が求められている。特に、低コスト、環境に配慮した簡単な高速合成プロセスで、上記合金ナノ粒子を合成することができる、新しい合成方法を開発することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題解決を目標として鋭意研究を積み重ねた結果、超臨界エタノールを反応溶媒とした合成プロセスに着目した。超臨界エタノールは、他の有機溶媒と比較すると、環境に対してやさしい溶媒とみなされている。そして、超臨界エタノールは、超臨界水と異なって、その超臨界温度や超臨界圧が比較して低いもので、還元性の反応雰囲気を提供するものである。
こうした特性に着目して、本発明において、Ni3Sn2、Ni3Sn4そして CoSb3のナノ粒子を超臨界エタノール中で合成することに成功することができた。そして、これらの合金ナノ粒子を形成するに当ってのパラメーターについて、その効果を実験によって詳しく解析すること、並びに、至適合金条件を決定することに成功した。
本発明は、高温高圧状態のエチルアルコール又はそれらの含水混合溶媒を反応溶媒とし、無触媒で、合金前駆体から、合金ナノ粒子を合成する方法及びその生産物に関する。
本発明では、次のものを提供している。
〔1〕高温高圧状態の、亜臨界ないし超臨界流体、特には亜臨界ないし超臨界エタノールを反応溶媒として、合金前駆体からニッケルとスズからなる合金及び/又はコバルトと
アンチモンからなる合金の合金ナノ粒子を合成することを特徴とする合金ナノ粒子の合成方法。
〔2〕前記合金ナノ粒子は、Ni3Sn2、Ni3Sn4、NiSn、CoSb、CoSb2及びCoSb3のナノ粒子からなる群から選択されたものであることを特徴とする上記〔1〕記載の合金ナノ粒子の合成方法。
〔3〕上記〔1〕又は〔2〕で記載された合成方法で製造され、且つ3〜40 nmの粒子
径を個々の粒子が有しているもので、Ni3Sn2、Ni3Sn4、NiSn、CoSb、CoSb2及びCoSb3のナノ粒子からなる群から選択されたものであることを特徴とする合金ナノ粒子。
〔4〕上記〔1〕又は〔2〕で記載された合成方法で製造され、且つ5〜10 nmの粒子
径を個々の粒子が有しているもので、Ni3Sn2、Ni3Sn4、NiSn、CoSb、CoSb2及びCoSb3のナノ粒子からなる群から選択されたものであることを特徴とする合金ナノ粒子。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、リチウムイオン電池用の代替アノード用材料や熱電材料として有用なニッケルとスズからなる合金、例えば、Ni3Sn2やNi3Sn4など及び/又はコバルトとアンチモンからなる合金、例えば、CoSb3などのナノ粒子(ナノ結晶合金、ナノ結晶状合金ナノ粒子)
を1段階の反応プロセスで合成する方法を提供するものであり、例えば、高選択性水素生成用触媒、電子材料用素材、リチウムイオン電池用の代替アノード用材料、熱電材料、半導体材料、電子部品素子材料などとして有用な合金ナノ粒子を効率良く、短時間で、大量に生産を可能にする方法として有用である。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明により調製されたNi3Sn2、Ni3Sn4及びNiSnのナノ粒子のTEMイメージを示す。(a) Ni3Sn2、Ni:Sn=3:2 (b) Ni3Sn4、Ni:Sn=2:3 (c) NiSn、Ni:Sn=1:1ここで、=に続けて示した比率は、原料供給モル比を示す。
【図2】本発明により高温で合成されたCoSb3ナノ粒子のTEMイメージを示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明では、高温高圧状態の、亜臨界ないし超臨界流体、特には亜臨界ないし超臨界エタノールを反応溶媒として、合金前駆体からニッケルとスズからなる合金及び/又はコバルトとアンチモンからなる合金のナノ粒子(ナノ結晶合金、ナノ結晶状合金ナノ粒子)を1段階で合成する技術(製造方法及びその生産物)を提供する。本発明は、低コストで、環境に配慮した簡便な高速プロセスを提供できる
【0010】
本発明では、例えば、温度200℃以上、圧力4.0MPa以上のアルコール又はその含水混合
溶媒を反応溶媒として、合金ナノ粒子(金属間化合物ナノ粒子を包含する)を短時間で合成する方法及びそれにより得られる生成物ナノ粒子に関するものである。
本発明の方法では、反応溶媒として、上記の高温高圧状態にある亜臨界流体、又は超臨界流体が用いられる。エタノールの臨界温度は243℃、臨界圧力は6.38MPaであるので、これを参考に選択でき、具体的には、亜臨界エタノール(200℃以上、4.0MPa以上)、超臨
界エタノール(241℃以上、6.1MPa以上)、又は、亜臨界又は超臨界状態にある含水エタ
ノール溶媒が例示され、好適には、臨界点以上のエタノール(243℃以上、6.38MPa以上)
、超臨界含水エタノール溶媒(250℃以上、6.3MPa以上)が用いられる。含水エタノール
溶媒中の水分含量は、例えば、80容量%以下、ある場合には85容量%以下、好ましくは90容量%以下、さらに好ましくは93容量%以下、より好ましくは95容量%以下であるものが挙げられる。反応溶媒としては、水、上記以外の有機溶媒や無機溶媒を任意の割合で含むことができ、具体的には、有機溶媒として、メタノール、アセトン等、無機溶媒としてアンモニア、二酸化炭素等を含むこともできる。還元剤として、ギ酸、シュウ酸などが配合されていてもよく、特に好適にはギ酸が添加される。
【0011】
本発明で基質である合金前駆体としては、目的合金(又は金属間化合物)を構成する元素を含有している金属塩、金属化合物、金属錯体などを挙げることができ、例えば、ニッケル()、スズ(Sn)、コバルト(Co)、アンチモン(Ab)を含有している金属塩、金属化合物、金属錯体などを挙げることができる。金属塩としては、塩酸などのハロゲン酸、硝酸、硫酸、リン酸などの無機酸、そしてギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、コハク酸などの有機酸との塩などが包含される。金属化合物としては、アセチルアセトンなどのジケトン、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、クラウンエーテルなどのエーテルなどとの化合物などが包含される。金属錯体としては、配位子として、ハロゲン、アミン(有機アミンを含む)、カルボニル、シアノ、ヒドロキシ、酸素、窒素、硫黄などを含有する有機配位子などを含有するものが包含される。
【0012】
該Ni含有合金前駆体としては、硝酸ニッケル、水酸化ニッケル、酢酸ニッケル、ニッケルアセチルアセトナート、炭酸ニッケル、オキシ水酸化ニッケル、塩化ニッケルなどが挙げられる。硝酸ニッケルのエタノール溶液をNi供与合金前駆体として好適に使用できる。該Sn含有合金前駆体としては、シュウ酸第一スズ、酢酸スズ、酒石酸スズ、塩化第一スズ(塩化スズ(II))などが挙げられる。塩化第一スズのエタノール溶液をSn供与合金前駆体として好適に使用できる。該Co含有合金前駆体としては、硝酸コバルト、水酸化コバルト、酢酸コバルト、シュウ酸コバルト、炭酸コバルト、塩化コバルト、コバルトアセチルアセトナートなどが挙げられる。硝酸コバルトのエタノール溶液をCo供与合金前駆体として好適に使用できる。該Sb含有合金前駆体としては、塩化アンチモン、トリエトキシアンチモン、トリ-i-プロポキシアンチモン、トリ-n-プロポキシアンチモン、トリ-i-ブトキシ
アンチモン、トリ-n-ブトキシアンチモン、三塩化アンチモン、五塩化アンチモン、酢酸
アンチモン、オキシ塩化アンチモンなどが挙げられる。塩化アンチモンのエタノール溶液をSb供与合金前駆体として好適に使用できる。
【0013】
本発明においては、上記基質及び反応溶媒を反応容器に導入して所定の反応時間で合成を実施する。この場合、上記反応器としては、例えば、バッチ式の高温高圧反応容器、及び連続式の流通式高温高圧反応装置が使用することができるが、本発明は、これらに特に制限されるものでない。
本発明では、合金前駆体の種類及びその使用量、合金前駆体の組成、上記亜臨界流体、超臨界流体の含水比、温度及び圧力条件、反応時間を最適化することにより、短時間で、効率良く、反応生成物を合成することができる。典型的な態様では、本発明では、例えば、基質である合金前駆体及び反応溶媒を密封可能な高温高圧反応器中に入れて密封し、該反応器を高温にできる振動式加熱装置に設置し、所定の温度に加熱し、それらの反応時間を変えることにより、所定の反応生成物を合成することができる。本発明の反応時間は、1分間〜6時間、例えば、好ましくは15分間〜4時間、さらには20分間〜3時間の範囲が好適である。上記反応条件は、使用する出発原料、目的とする反応生成物の種類等により適宜設定することができる。また、本発明では、例えば、基質である合金前駆体及び反応溶媒を流通式高温高圧装置に導入し、それらの反応時間を変えることにより、所定の反応生成物を合成することができる。
【0014】
本発明の方法では、従来のプロセスを、一段階のプロセスで、しかも、高速に、簡単な操作・装置で実施できるため、従来、長時間を要していた反応プロセスを効率化することができる。また、本発明の方法では、反応後の溶液無害化処理等の後処理の必要がなく、環境負荷を低減することが達成可能である。本発明の合成方法は、電池用電極材料、電子素子原料や半導体原料などの電気・電子材料となる高機能材料である合金ナノ粒子を効率良く、大量に高速で生産することを可能にするものとして有用である。
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。
全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0015】
金属の塩、すなわち、SnCl2・H2O、Ni(NO3)2・6H2O, Co(NO3)2及びSbClをエタノール(99.5%)に溶解せしめて前躯体溶液を調整した。還元剤としては、ギ酸が分解して生ずるH2を利用した。典型的な実施例では、反応温度としては250〜450℃の範囲とし、反応時間としては5分間〜3時間とした。反応温度にされている振動式加熱器中で反応器を加熱した。所要の反応時間が経過した後に、該反応器を素早く取り出し、反応を停止するために氷水中に漬けた。遠心して生成物を集め、エタノール及び水で繰り返し洗浄処理した。合成された微粒子粉末をX線回折装置(XRD)及び透過型電子顕微鏡(TEM)で調べた。
【0016】
〔結果及び解析〕
〔1〕Ni3Sn2ナノ粒子及びNi3Sn4ナノ粒子の合成
実験の結果、Ni2+対 Sn2+の比率並びに反応温度が、当該合金ナノ粒子の形成を決定し
ていた。反応が進行するに従い又は温度を高くするに従い、Ni3Sn2やNi3Sn4は、それぞれ、NiSnやNi3Sn2へ変わった。実験による観察結果は、ナノ粒子であるNi3Sn2やNi3Sn4は安定な金属間化合物ではなくて、狭い温度領域の範囲でのみ存在するもので、それは広い温度範囲で安定に存在することのできるバルクの状態のもの(文献3)とは、異なったものであることを示唆していた。図1に、Ni3Sn2のナノ粒子、Ni3Sn4のナノ粒子、そしてNiSnのナノ粒子のTEM像を示す。単一の粒子のサイズ(すなわち、個々の粒子の粒径)は、5
〜10 nmの範囲の中にあった。
【0017】
〔2〕CoSb3ナノ粒子の合成
XRD分析の結果、CoSb3は400℃よりも高い温度で安定相であり、SbとSb2Coが400℃より
も低い温度では容易に合成せしめられた。図2には、合成されたCoSb3ナノ粒子のTEM像が示されている。CoSb3形成における反応温度と反応時間の影響を詳しく調べたところ、CoSb3
【0018】
CoSb2 + Sb → CoSb3
【0019】
の反応を経由して形成されるものであることが示唆された。
NixSnyと比べると、CoSb3の純相はそれを合成することがより困難であった。痕跡のSb
及び/又はSb2Coがあることが、通常、観察された。本発明の合成法は非常に効率的な手
法であり、合成時間を、既存の報告されているソルボサーマル法で必要とされる数時間というものから20〜30分間程度にまで短縮化を達成できるものである。
【産業上の利用可能性】
【0020】
本発明は、リチウムイオン電池用の代替アノード用材料や熱電材料として有用な合金ナ
ノ粒子を、効率良く、短時間で、大量に生産を可能にする。本発明で得られる合金ナノ粒子は、粒子の平均粒径が比較的狭い範囲内に収まるもの(ナノ粒子の粒径が比較的均一であるもの)であり、当該ナノ粒子生産物を使用すると、優れた物性の電子材料、半導体材料などが得られる。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温高圧状態の、亜臨界ないし超臨界流体、特には亜臨界ないし超臨界エタノールを反応溶媒として、合金前駆体からニッケルとスズからなる合金及び/又はコバルトとアンチモンからなる合金の合金ナノ粒子を合成することを特徴とする合金ナノ粒子の合成方法。
【請求項2】
前記合金ナノ粒子は、Ni3Sn2、Ni3Sn4、NiSn、CoSb、CoSb2及びCoSb3のナノ粒子からなる群から選択されたものであることを特徴とする請求項1に記載の合金ナノ粒子の合成方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−184723(P2011−184723A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−49385(P2010−49385)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】