ナノ表面
本発明は、生体適合性部材の改質方法であって、以下の工程:a)少なくとも部分的に金属酸化物で被覆された生体適合性部材を備えること;及びb)該部材の部分が該金属酸化物で被覆された、その部材の少なくとも一部を、シュウ酸を含む水性組成物で処理すること;を含み、そのことによって改質された金属酸化物が得られる、方法に関する。本発明はまた、生体適合性部材であって:a)プラトー及び/又はリッジによって分離されたピットを含む微細構造;及びb)該微細構造の上に重なっている一次ナノ構造、ここで該一次ナノ構造は波状の形に配置された窪みを含む;を含む表面を有する基体を含む生体適合性部材に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨組織内への埋め込みのための改善された特性を有する生体適合性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
概して金属製のインプラントである、整形外科用又は歯科用インプラントの骨組織内への埋め込みのためには、今日では、一段階手順がしばしば使用される。この一段階手順においては、一般に歯科用固定具のような第一インプラント部分が骨組織内に外科的に置かれ、そして次に、ヒーリングキャップ(healing cap)又は橋脚歯のような第二インプラント部分が、外科手術後、第一インプラント部分に直接取り付けられる。次に、軟組織がヒーリングキャップ又は第二インプラント部分の周りの治癒を可能にする。ヒーリングキャップが使用される場合、数週間後又は数ヶ月後に、外科的手順を全く用いないでキャップが取り外され、そして橋脚歯及び暫定的歯冠のような第二インプラント部分が第一インプラント部分に取り付けられる。この一段階手順は、例えば非特許文献1に記載されている。
【0003】
一部の歯科症例においてはまだ好ましい二段階手順は、一般に歯科用固定具のような第一インプラント部分を骨組織内に第一段階で外科的に置くことを含み、ここで、骨組織をインプラント表面上に成長させて、インプラントが骨組織に良く付着されるように、しばしば3ヶ月又はそれより長い治癒期間、負荷をかけず動かさない状態でそれを休ませ、インプラント部位を覆う軟組織の切開部をインプラント上で治癒させる。第二段階において、インプラントを覆う軟組織が開かれ、そして歯科用橋脚歯及び/又は修復歯のような第二インプラント部分が前記固定具のような第一インプラント部分に取り付けられて最終的なインプラント構造を形成する。この手順は、例えば、非特許文献2に記載されている。
【0004】
しかしながら、治癒期間中、インプラントに負荷をかけるべきではないという事実は、第二インプラント部分を第一インプラント部分に取り付けできないこと、及び/又は治癒期間中第二インプラント部分を使用できないことを意味する。これに伴う不快さの観点から、上記第一段階に要する期間を最短化すること、又は全体の埋め込み手順を1つの操作で実行すること、つまり一段階手順を使用することさえ望ましい。
【0005】
患者によっては、一段階及び二段階手順の両方について、インプラントに機能的に負荷をかける前に、少なくとも三ヶ月待つことがより好ましいと考えられることもあり得る。しかしながら、一段階手順を使用する代替法は、埋め込み直後にインプラントを機能させること(即座に負荷をかける)又は埋め込みの数週間後にインプラントを機能させること(早めに負荷をかける)である。これらの手順は、例えば、非特許文献3に記載されている。
【0006】
上に開示されたインプラントに即座に又は早めに負荷をかけることを可能ならしめるためには、インプラントが、インプラント及び骨組織の間の十分な安定性及び結合を確立することが重要である。また、インプラントに即座に又は早めに負荷をかけることは骨の形成のために有益な場合であることに気づくであろう。
【0007】
骨のインプラントのために使用される、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ニオブ又はそれらの合金のような一部の金属又は合金は、骨組織との比較的強い結合、つまり、骨組織自体と同じ強度の、そして時にはそれよりも強い結合でさえも形成することができる。この種の金属製インプラント材料の最も注目すべき例は、この点に関するその性質が1950年頃以来知られている、チタン及びチタン合金である。金属及び骨組織の間の結合は、「オッセオインテグレーション」と名付けられている(非特許文献4)。
【0008】
尚、酸素と接触すると、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ニオブ又はそれらの合金は瞬間的に自然酸化物で覆われることに注目され得る。チタン・インプラント上のこの自然酸化物は、少量のTi2O3、TiO及びTi3O4を有する、主として二酸化チタン(IV)(TiO2)から成る。
【0009】
(酸化された)金属、例えばチタン及び骨組織の間の結合は比較的に強いものの、この結合を向上させることが望ましい。
【0010】
今日まで、インプラントのより良い付着、従って改質されたオッセオインテグレーションを得るために、金属製インプラントを処理する幾つかの方法がある。これらの幾つかには、例えば、未処理の表面と比較して表面の粗さを増すために、インプラント表面上に凹凸を作出することによってインプラントの形態を変えることが含まれる。表面の粗さを増すことによって、インプラント及び骨組織の間の接触及び付着面積がより大きくなり、インプラント及び骨組織の間のより良い機械的保持と強度が与えられるものと考えられている。表面の粗さを、例えばプラズマ溶射、ブラスチング又は酸エッチングによって備えつけ得ることは、当該技術の範囲内でよく知られていることである。
【0011】
更に、骨芽細胞、つまり骨形成細胞が、下に横たわる表面の多様な化学的及び物理的特徴に感じて反応することが知られている。例えば、非特許文献5に述べられている通り、インプラント表面での骨形成には、石灰化されていない細胞外マトリックス(ECM)を作り出し、そして引続いてこのマトリックスを石灰化するために、前駆体細胞を分泌骨芽細胞に分化させることが必要である。
【0012】
インプラントの骨組織へのより良い付着を達成するために、インプラント表面の化学的性質を変えることがしばしば使用されてきた。幾つかの方法には、ヒドロキシアパタイトが骨と化学的に関連がある故に、インプラントの骨への結合を改善するために、ヒドロキシアパタイトのようなセラミック材料の層をインプラント表面上に塗布することが挙げられる。特許文献1には、実質的に一様な表面の粗さを作り出し、そしてその上にヒドロキシアパタイト、骨ミネラル及び骨形態形成蛋白質のような骨成長増強物質の分離された粒子を沈着する(deposit)ための、インプラント表面からの自然酸化物の除去、酸エッチング、又はその他として得られたインプラント表面の処理を含む、骨インプラントの表面調製方法が開示されている。エッチング及び沈着工程は、好ましくは、不活性雰囲気を用いることによって、未反応酸素が存在しないところで実行される。
【0013】
しかしながらヒドロキシアパタイトを含む被覆に伴う共通の不利な点は、被覆及びインプラントの間よりも骨及び被覆の間に形成されるより強い結合故に、被覆が脆弱で、そしてインプラント表面から、剥がれ落ちるかぷっつり切れるかもしれず、それによってインプラントの究極的失敗につながるかもしれない。蛋白質被覆の使用に関して、考慮すべき追加の観点がある。蛋白質の化学的性質故に、その生物活性を保持するためには、蛋白質被覆を有する表面は特定の滅菌及び貯蔵条件を必要とするかもしれない。また、蛋白質のような生体分子に対する宿主組織の応答(例えば、免疫応答)は予測不可能かもしれない。特許文献2の方法のもう1つの不利な点は、不活性雰囲気中での作業が不便でありかつ特別な装置を必要とすることを考慮すると、酸素が存在しない表面が必要なことである。
【0014】
特許文献3、及び関連出願4及び5は、インプラントに対してセラミック被覆が接着性に劣る問題を解決することを目的とし、そしてインプラント表面を2−メトキシエタノール溶媒及びヒドロキシアパタイト(HA)ナノ結晶を含む溶液に、例えばコロイドの形態で、暴露させる方法を通して、粗くしたインプラント表面上に分離されたナノ粒子を沈着する方法を開示している。HAナノ結晶は沈着して、インプラントのオッセオインテグレーションを促進することを目的とするナノ構造を形成する。しかしながら、この方法の1つのマイナス要素は、表面の有機物汚染のリスク故に望ましくないかもしれない有機溶媒を必要とするナノ結晶含有組成物の配合、及び先端機器を使用する幾つかの処理工程である。沈着は室温で実施されるため、1から4時間のインキュベーション時間が必要になる。
【0015】
インプラント表面の粗さは、細胞増殖、そしてまた、インプラントの回りの細胞による、成長因子の局所産生にも影響することが示されてきた。ヒトの骨芽細胞のインビトロ研究において、より平滑な表面と比べて、ミクロ規模の粗さが増大した表面が、細胞数の減少、より低い細胞増殖、及びマトリックス産生の増大をもたらすことが示されている(非特許文献6)。また別の研究によって、表面の粗さが細胞分化を増進させ、一方で細胞増殖を低下させることが示されている(非特許文献7)。細胞分化の増大は、潜在的に改善された骨形成速度を示唆する。
【0016】
最近、細胞の接着能力の調節が、ミクロからナノパターニング技術へと進展してきた。足場依存性の細胞機能において、インテグリン仲介焦点接着及び細胞内シグナリングを刺激することによるナノ構造的な物理的シグナルによって細胞機能が調節できると考えられている(非特許文献8)。
【0017】
特許文献6及び関連する特許文献7には、インプラントを細胞領域中に固定するための微細構造を含むように作り変えられる表面を有する骨インプラントが開示されている。事前に粗くされた表面上に塗布される被覆層の形で供される微細構造は、丸くなった小窩によって分離された、高密度で充填された丸くなったドームの配列を含み、そして微細構造の寸法は、細胞の寸法とほぼ等しい大きさのオーダーである。微細構造的な被覆層は、例えばスパッタリングによって塗布され得る。更に、同様にスパッタリングによって得られ、丸くなった小窩によって分離された丸くなったドームで構成されるナノ構造が、微細構造の上に供され、ここでナノ構造の寸法は、微細構造の対応する寸法より小さくほぼ10分の1のオーダーである。しかしながら、この場合もまた、被覆層の安定性、並びに被覆層及びインプラント体間の付着の完全性で潜在的問題がある。μm又はnm規模の表面の粗さを有する金属製の整形外科用インプラントを提供し、一方では、インプラントの構造的完全性を保持している方法を提供する、望ましい表面の粗さを作出するための別の技術が特許文献8に開示されている。この方法においては、インプラント表面に接着された金属要素を有し、その結果、多孔性表面幾何形状を画成しているインプラントがエッチングされて、μm又なnm規模の表面の粗さを生成する。例えば、金属要素は、約40μmから数ミリメーターのサイズを有する金属ビーズである。しかしながら、この方法はかなり骨の折れるものであり、そして金属要素が、被覆技術によって、続いてこれらの要素を融解するための焼結によって、インプラントの表面に、そして互いに、塗布される故に、先端機器の使用を必要とする。従って、この方法も高価なものである。
【0018】
要するに今日では、インプラントのオッセオインテグレーションを改質するための多くの技術が存在するものの、これらの方法は概して処理性、コスト効率及び生物学的作用、及び埋め込み後の安定性に関して欠点を有する。従って、オッセオインテグレーションを更に促進する性質を有するインプラント製造における改善のための技術分野において、ニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第7,169,317号公報(Beaty)
【特許文献2】米国特許第7,169,317号公報
【特許文献3】米国出願2007/01100890号公報
【特許文献4】米国出願2007/0112353号公報
【特許文献5】WO 2007/050938 (Berckmans III ら)
【特許文献6】欧州特許第1440669B1号公報
【特許文献7】米国公開特許第2004/0153154 A1号公報(Dinkelacker)
【特許文献8】欧州公開第1449544A1号公報(Wen ら)
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】L Cooperら:「A multicenter 12-month evaluation of single-tooth implants restored 3 weeks after 1-stage surgery」、The International Journal of Oral & Maxillofacial Implants, Vol 16, No 2 (2001)
【非特許文献2】Branemark ら:「Osseointegrated Implants in the Treatment of the Edentulous Jaw, Experience from a 10-year period」、Almquist & Wiksell International, ストックホルム, スウェーデン
【非特許文献3】D M Esposito, pp 836-837,「Titanium in Medicine, Material Science, Surface Science, Engineering, Biological Responses and Medical Application」, Springer-Verlag (2001)
【非特許文献4】(Albrektsson T, Branemark P I, Hansson H A, Lindstrom J,「Osseointegrated titanium implants. Requirements for ensuring a long-lasting, direct bone anchorage in man」、Acta Orthop Scand, 52:155-170 (1981))
【非特許文献5】Anselme K,「Osteoblast adhesion on biomaterials」、Biomaterials 21, 667-681 (2000)
【非特許文献6】Martin JYら、「Proliferation, differentiation, and protein synthesis of human osteoblast-like cells (MG63) cultured on previously used titanium surfaces」、Clin Oral Implants Res, Mar 7(1), 27-37, 1996
【非特許文献7】Kieswetter K, Schwartz Z, Hummert TW, Cochran DL, Simpson J, Dean DD, Boyan BD、「Surface roughness modulates the local production of growth factors and cytokines by osteoblast-like MG-63 cells」、J Biomed Mater Res, Sep., 32(1), 55-63, 1996)
【非特許文献8】Bershadsky A, Kozlov M及びGeigerB、「Adhesion-mediated mechanosensitivity: a time to experiment, and a time to theorize」、Curr Opin Cell Biol, 18(5), 472-81, 2006
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の目的は、骨組織に埋め込む際の骨組織と部材間の付着の所望の速度を有し、そして該骨組織と機械的に強い結合を形成する生体適合性部材を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、そのような生体適合性部材の製造方法を供することである。
【0023】
通常、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ニオブ及びそれらの合金をかなりの程度まで被覆する不動態化酸化物(passivating oxide)は、金属と生体組織間の如何なる化学的相互作用をも防ぐことによって、これらの金属に生体適合性を与える。けれども、酸化物構造に小さな欠陥を引き起こすことによって、金属部材の生体適合性は、実際には、更に増大され得る。本発明者らは、金属酸化物表面を有する部材をシュウ酸で処理することによって、生きた骨内への埋め込みのための改善された性質を有する、部材の改質表面構造が得られることを見出した。
【0024】
このように、1つの側面において、本発明は生体適合性部材の改質方法であって、以下の工程:
a)少なくとも部分的に金属酸化物で被覆された生体適合性部材を備えること;及び
b)該部材の部分が該金属酸化物で被覆された、その部材の少なくとも一部を、シュウ酸を含む水性組成物で処理すること;
を含み、そのことによって改質された金属酸化物が得られる、方法に関する。
【0025】
本発明の方法によって得られる部材は、微細構造、及び該微細構造上に重なる一次ナノ構造を含む階層的表面トポグラフィーを有し、それが、そこに接着された骨形成細胞の活性を増大させることを発見した。
【0026】
審美性がインプラント学の増々重要な側面となってきたため、従来のチタン歯科用インプラントは、従来の酸化チタン表面の金属的な灰色光沢が患者の歯肉を通して見え得る故に、完全な審美性の解決策に対する障害になっている。有利なことに、本発明の方法によって得られる改質された酸化物表面は白っぽい色を有し、本発明による処理される前の成分の表面の金属的な灰色よりもより明るくより無光沢である。この白っぽい色は、自然に見えるインプラントが得られるため、歯科用部材にとって非常に望ましい。この白っぽい色は、ブラスチングされた部材において最もよく見られる。部材の変色は、工程bが完了したことの指標としても使用できる。
【0027】
工程bの組成物におけるシュウ酸濃度は、0.001から5Mの範囲内の、好ましくは約1Mであってよく;工程bの処理時間は、10から60分の範囲内の、そして好ましくは20から40分の範囲内である。工程bの処理時間は20から30分の範囲内、そしてより好ましくは約25分であり、工程bの組成物の温度は、一般的には約20℃から約100℃の範囲内の;好ましくは60℃から90℃の範囲内の;そしてより好ましくは約80℃の温度である。
【0028】
場合により、上記方法は
c)i)イオン化されたフッ素及びイオン化された塩素を含むグループから選ばれる少なくとも1つの物質;及び
ii)少なくとも1つの酸;
を含む第二の水性組成物で、前記改質された酸化物の少なくとも部分を処理する工程を更に含む。
【0029】
特に、前記改質された金属酸化物上に不動態化酸化物が形成される前に、工程cが実行されるべきである。工程bにおいて得られた改質された酸化物が不動態化酸化物によって被覆される前に、工程cを行うことによって、一様に分布した二次ナノ構造を有する表面が得られ、それによって、部材のオッセオインテグレーションが促進される。このようにして、本部材が、通常の大気圧で、酸素含有大気において0℃又はそれより高い温度例えば室温に保持される場合、工程b及び工程cの間の間隔は、成分表面上での不動態化酸化物の形成を避けるために、できるだけ短い方が好ましい。そのような条件下、工程cは工程bの完了後、180時間又はそれより短い時間、例えば72時間、36時間、24時間、又は1時間以内で実行され得る。好ましくは、工程cは工程bの完了後、30分又はそれより短い時間以内で実行され、そしてより好ましくは、工程bの完了後、10分又はそれより短い時間以内で実行される。
【0030】
第二の水性組成物は、0.5から5の範囲内、好ましくは1から3の範囲内、そしてより好ましくは約2のpH;及び0.05から0.5Mの範囲内、そしてより好ましくは約0.1Mの、イオン化されたフッ素及び/又は塩素の濃度を有してよい。工程cの活性化処理時間は10秒から60分の範囲内、好ましくは10秒から3分の範囲内、そしてより好ましくは10秒から50秒の範囲内である。工程cの組成物の温度は一般的には15℃から25℃の範囲内;そして好ましくは18℃から23℃の範囲内である。
【0031】
本発明の方法では、水溶液のみが使用されるため、成分表面上に残る有機残留物のような、有機溶媒に関係する問題が避けられる。工程cにおいて使用される水溶液は好ましくはフッ化水素酸を含む。
【0032】
簡単な装置を使用する本方法はまた、容易に実行されそして堅固である。従って、本発明の方法はコスト効率に優れそして産業上の適用可能性に適している。更に、有利なことに処理時間が短い。
【0033】
更に、部材の表面に骨成長増強物質を含有させることによって、部材のオッセオインテグレーションを増強し得る。この表面は、例えば、金属イオン又はその塩を、工程b及び/又は工程cの水性組成物中に含有させることによって達成でき、ここで金属イオンは、チタンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、ストロンチウムイオン、又はそれらの任意の組合せから成るグループから選ばれ得る。特に、本発明者らは、骨組織中に局所的に投与されたリチウムイオン又はストロンチウムイオンが該骨組織における骨成長及び骨量に対する局所的効果を有することを見出した。更に、見出されたことは、イオン化されたリチウム又はストロンチウムを含有し及び/又は放出する表面酸化物を含むインプラントが、例えばイオン化されたカルシウム又はマグネシウムを含有する表面酸化物層を含むインプラントと比べて、改善された骨形成速度を与えることである。従って、工程bの組成物及び/又は工程cの組成物は、リチウム及び/又はストロンチウム又はそれらの塩を含み得る。オッセオインテグレーションのための好ましい基体を提供するために、生体適合性部材は少なくとも部分的にチタン又はチタン合金から成る。従って、該金属酸化物は好ましくは酸化チタンを含む。該金属酸化物は本質的に酸化チタン又は酸化チタンの組合せから成ってよい。金属酸化物が不動態化酸化チタンであってよい。
【0034】
望ましい初期表面の粗さ又は望ましい化学的特性を有する部材を提供するために、生体適合性部材は工程bの前に機械的な及び/又は化学的な表面処理にかけられ得る。化学的処理は例えば本発明の方法の結果又は成分の生体適合性に悪影響を及ぼし得る望ましくない物質を除くための洗浄プロセスを含む。ブラスチングのような粗くする処理によって、成分のオッセオインテグレーションを更に向上でき、そしてその生体力学的性質が改善し得る。
【0035】
別の側面において、本発明は、上記のような方法によって得られる部材に関する。
【0036】
本発明者らは、微細構造、及び該微細構造上に重なる一次ナノ構造を含む階層的表面トポグラフィー(組織分布)を有する表面が、オッセオインテグレーションと骨組織との生体力学的相互作用に関して改善されたインプラント表面を提供することを見出した。従って、別の側面において、本発明は生体適合性部材であって:
a)プラトー及び/又はリッジによって分離された微細ピットを含む微細構造;及び
b)該微細構造の上に重なっている一次ナノ構造、ここで該一次ナノ構造は波状の形に配置された窪みを含む;
を含む表面を有する基体を含む生体適合性部材に関する。
【0037】
本発明者らは、上記表面が骨芽細胞分化及び骨前駆体物質の分泌を促進することを見出した。微細構造は、細胞培養皿に似た孔状のピットを含む下に横たわる微細粗さを与え、そのピットは増殖したり分化したりする細胞を刺激する。おそらく、微細構造及び一次ナノ構造を含む表面トポグラフィーは、骨吸収が起こっている生体骨における部位のトポグラフィーに類似している。本発明の部材の表面トポグラフィーは、インプラント部位の周りに存在する前骨芽細胞の期待に合い、そして骨の再モデリングに対する破骨細胞によって作成された自然の骨の表面を模倣することによって、骨芽細胞活性が本発明に記載の部材によって迅速にかつ強力に誘導され得ると考えられる。微細構造は、0.5から15μmの範囲内の、好ましくは1から10μmの範囲内のピット直径;0.1から2.5μmの範囲内の、そして好ましくは0.1から1μmの範囲内の深さを有してよい。隣接する微細ピットの間の距離は最大で10μmまであり得る。一次ナノ構造の窪みは10nmから1μmの範囲内の、好ましくは10nmから600nmの範囲内の、そしてより好ましくは10nmから500nmの範囲内の直径を有する。深さは10nmから300nm、そして一般的には30から150nmであり得る。更に、一次ナノ構造の個々の窪みの直径は、一般的には同じ個々の窪みの深さを超える。
【0038】
上記の如く、一次ナノ構造は一次微細構造上に重なる。更に、一次ナノ構造の直径及び深さは、各々、微細構造上の個々のピットの対応する寸法よりも小さい。このように、微細構造の個々のピットは一般的には一次ナノ構造の多数の窪みを含む。更に、一次ナノ構造の窪みの境界は、一般的には一次ナノ構造の他の窪みの境界の部分を構成する。
【0039】
更に、上記表面は一様に分布したパターンで該一次ナノ構造の上に重なっている分離したナノ要素を含み、そして丸みのある突起の形状を有する第二ナノ要素を含み得る。第二ナノ要素は、下に横たわる表面への細胞の接着性を改善し、そしてさらに細胞活性を刺激すると考えられる。
【0040】
本発明の生体適合性部材の二次ナノ構造は、20から550nm、好ましくは20から150nmの範囲内のピーク直径;及び5から200nm、好ましくは5から100nmの範囲内の平均ピーク高さを有し得る。ピーク間距離は一般的には10から450nmの範囲内、好ましくは40から200nmの範囲内である。ピーク密度は一般的には、15から150ピーク/平方μmの範囲内の、そして好ましくは50から130ピーク/平方μmの範囲内である。
【0041】
一般に、骨組織−骨インプラントの界面で、コラーゲン及びミネラルの含有量が低下した組織層が形成されるため、正常で健康な骨と比べて低下した強度しか有しない結果となる。この組織層の厚みが、骨−インプラント界面の機械的強度を決定する(Albrektsson,
T ら、「Ultrastructural analysis of the interface zone of titanium and gold implants」、Advances in Biomaterials 4, 167-177, 1982; Albrektsson, Tら,「Interface analysis of titanium and zirconium bone implants」、Biomaterials 6, 97-101, 1985; Albrektsson T, Hansson, H-A,「An ultrastructural characterization of the interface between bone and sputtered titanium or stainless steel surfaces」、Biomaterials 7, 201-205, 1986; Hansson, H-A ら、「Structural aspects of the interface between tissue and titanium implants」、Journal of Prosthetic Dentistry 50, 108-113, 1983; Johansson, C ら、「Ultrastructural differences of the interface zone between bone and Ti6A14V or commercially pure titanium」、Journal of Biomedical Engineering 11, 3-8, 1989; Johansson, C. ら、「Qualitative, interfacial study between bone and tantalum, niobium or commercially pure titanium」、Biomaterials 11, 277-280, 1990; Sennerby, L ら、「Structure of the bone-titanium interface in retrieved clinical oral implants」、Clinical Oral Implants Research 2, 103-111, 1991; Sennerby, L ら、「Ultrastructure of the bone-titanium interface in rabits」、Journal of Materials Science: Material in Medicine 3, 262-271, 1992; Sennerby,
L ら、「Early tissue response to titanium implants inserted in rabit cortical bone, Part II: Ultrastructural observations」、Journal of Materials Science: Material in Medicine 4, 494-502, 1993)。微細構造及び一次ナノ構造を含む階層的表面トポグラフィーによって、部材と引続いて形成される骨組織との間の改善された機械的相互作用が与えられ、その結果、強度が低下したより薄い組織層が形成されると考えられる。二次ナノ構造によって、埋め込み後の生体適合性部材と周囲の骨組織間の機械的相互作用が更に改善される。従って、本発明の生体適合性部材によって、改善されたせん断強さ及び引張り強さを有する骨組織−インプラント界面が供される。
【0042】
更に、望ましい初期表面の粗さ又は望ましい化学的特性を有する部材を提供するために、基体が機械的及び/又は化学的表面処理にかけられる。化学的処理は例えば洗浄処理を含み得る。ブラスチングのような粗くする処理によって、引続いて形成される微細構造の直径及び深さが、及び一次ナノ構造の直径の変動が、より少ない(つまり、より小さな標準偏差値を有する)表面構造が与えられ得る。本発明の部材の表面の等質性(homogeneousness)の増加によって、成分のオッセオインテグレーションが更に向上し、そしてその生体力学的性質が改善する。
【0043】
生体適合性部材基体は一般的には少なくとも部分的にチタン又はチタン合金から成る。好ましくは、基体はチタンから成る。更に、二次ナノ構造は金属酸化物、好ましくは酸化チタンを含み得る。金属酸化物のみから成り得る部材表面の等質性は、埋め込み後の部材の長期安定性及び完全性に関して非常に有利である。加えるに、部材の表面構造は、滅菌手順及び貯蔵保管に関して安定である。
【0044】
更に、部材表面に骨成長増強物質を含有させることによって本発明の成分のオッセオインテグレーションを増強し得る。そのような表面は、例えば、金属イオン例えばチタンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、ストロンチウムイオン、又はそれらの任意の組合せから成るグループから選ばれるものをその表面に含有させることによって達成され得る。特に、本発明者らは、骨組織中に局所的に投与されたリチウムイオン又はストロンチウムイオンが該骨組織における骨成長及び骨量に対する局所的効果を有し得ることを見出した。従って、本発明の部材の表面はリチウム及び/又はストロンチウム又はその塩を含み得る。
【0045】
本発明の生体適合性部材は歯科用部材、例えば、インプラント、固定具、橋脚歯、又はワンピースインプラントのようなそれらの組合せであり得る。本発明の生体適合性部材は、患者の大腿骨の頸部内への埋め込みを目的とする股関節部材のような整形外科用成分でもあり得る。
【0046】
別の側面において、本発明は生体適合性部材をヒト又は動物の体内にインプラントする方法であって、以下の工程:
i)上記記載の生体適合性部材を備えること;及び
ii)該生体適合性部材をヒト又は動物の体にインプラントすること;
を含むインプラント方法に関する。
【0047】
例えば、部材は前記ヒト又は動物の体の歯周領域内にインプラントされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】微細構造に関して使用されるパラメーターを定義している模式図である。
【図2】一次ナノ構造に関して使用されるパラメーターを定義している模式図である。
【図3】二次ナノ構造に関して使用されるパラメーターを定義している模式図である。
【図4】微細構造及び一次ナノ構造の各々に関して使用される角度を定義している模式図である。
【図5a】本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図5b】本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像であり、ここで微細構造の直径に印が付けられている。
【図6a】本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像であり、ここで一次ナノ構造の窪みに印が付けられている。
【図6b】本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像であり、ここで一次ナノ構造の直径に印が付けられている。
【図7】従来のブラスチング技法にかけられたチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図8】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図9】本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図10】本発明のチタンサンプルの原子間力顕微鏡の3D画像である。
【図11】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像であり、ここで微細構造の要素に印が付けられている。
【図12a】フッ化水素酸及びシュウ酸の混合物中で処理されたチタン参照サンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図12b】フッ化水素酸及びシュウ酸の混合物中で処理されたチタン参照サンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図12c】フッ化水素酸中で処理され、引続いてシュウ酸中で処理されたチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図13a】本発明のチタンサンプルにおける微細構造ピットの直径、深さ、及び隣接ピット間の距離の分布を各々示すグラフである。
【図13b】本発明のチタンサンプルにおける微細構造ピットの直径、深さ、及び隣接ピット間の距離の分布を各々示すグラフである。
【図13c】本発明のチタンサンプルにおける微細構造ピットの直径、深さ、及び隣接ピット間の距離の分布を各々示すグラフである。
【図14a】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルにおける微細構造ピットの直径、深さ、及び隣接ピット間の距離の分布を各々示すグラフである。
【図14b】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルにおける微細構造ピットの直径、深さ、及び隣接ピット間の距離の分布を各々示すグラフである。
【図14c】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルにおける微細構造ピットの直径、深さ、及び隣接ピット間の距離の分布を各々示すグラフである。
【図15a】本発明のチタンサンプルにおける一次ナノ構造の窪みの直径及び深さの分布を各々示すグラフである。
【図15b】本発明のチタンサンプルにおける一次ナノ構造の窪みの直径及び深さの分布を各々示すグラフである。
【図16a】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルにおける一次ナノ構造の窪みの直径及び深さの分布を各々示すグラフである。
【図16b】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルにおける一次ナノ構造の窪みの直径及び深さの分布を各々示すグラフである。
【図17a】本発明のチタンサンプルにおける二次ナノ構造のピークの直径、高さ及びピーク間距離の分布を各々示すグラフである。
【図17b】本発明のチタンサンプルにおける二次ナノ構造のピークの直径、高さ及びピーク間距離の分布を各々示すグラフである。
【図17c】本発明のチタンサンプルにおける二次ナノ構造のピークの直径、高さ及びピーク間距離の分布を各々示すグラフである。
【図18】市販のチタン・インプラント表面上での及び本発明の表面上での、7日間成長させた細胞の増殖を各々示すグラフである。
【図19】市販のチタン・インプラント表面上での及び本発明の表面上での、細胞培養7日後のアルカリホスファターゼの産生を各々示すグラフである。
【図20a】市販のインプラント表面上の中央での30時間生長させた細胞の走査型電子顕微鏡の画像である。
【図20b】本発明の部材の表面上での36時間生長させた細胞の走査型電子顕微鏡の画像である。
【図20c】本発明の部材の表面上での36時間生長させた細胞の走査型電子顕微鏡の画像である。
【図21】市販のチタン・インプラント表面上での及び本発明の表面上での、培養7日後及び14日後のプロスタグラジンE2の産生を各々示すグラフである。
【図22】ウサギモデルにおける、本発明のインプラント及び市販のチタンインプラントに対する除去トルク試験結果を示すグラフである。
【図23a】埋め込み後6週間のウサギモデルにおける、本発明のインプラント及び市販のチタン・インプラントの各々の組織学的断面の画像である。
【図23b】埋め込み後6週間のウサギモデルにおける、本発明のインプラント及び市販のチタン・インプラントの各々の組織学的断面の画像である。
【図24a】埋め込み後6週間のウサギモデルにおける、本発明のインプラント及び市販のチタン・インプラントの各々の組織学的断面のセクション画像である。
【図24b】埋め込み後6週間のウサギモデルにおける、本発明のインプラント及び市販のチタン・インプラントの各々の組織学的断面のセクション画像である。
【図25a】市販のチタンインプラント表面を表す参照チタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図25b】疑似体液(SBF)中に浸漬後の図25aに示されるサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図26a】本発明の工程bに従って処理されたチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図26b】疑似体液(SBF)中に浸漬後の図26aに示されるサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図27a】本発明の工程b及び工程cに従って処理されたチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図27b】疑似体液(SBF)中に浸漬後の図27aに示されるサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図28】参照サンプル及び本発明に従って処理されたサンプルの、エネルギー分散分光法で測定された、アパタイト形成後の残留チタンシグナルを示すグラフである。
【図29】参照サンプル及び本発明に従って処理されたサンプルの、アパタイト形成後の計算されたCa/P比を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本明細書で使用されるように、用語「生体適合性部材」は、生きた組織に長期間又は短期間接触することが意図され、そして該接触の際に、組織の有意な有害生体反応を引き起さない、任意の成分を、その範囲内に含む。生体適合性部材の一例は歯科用のインプラントのようなインプラントである。
【0050】
本明細書で使用されるように、用語「インプラント」は、その少なくともその一部が脊椎動物、特にヒトのような哺乳類の体内にインプラントされることが意図された、任意デバイスを、その範囲内に含む。インプラントは、体の解剖学的構造を代替するために及び/又は体の任意の機能を修復するために使用され得る。
【0051】
一般に、インプラントは1つ又は幾つかのインプラント部分から構成される。例えば、歯科用インプラントは通常、橋脚歯及び/又は修復歯のような二次的インプラント部分と結合している歯科用固定具を含む。しかしながら、埋め込みを目的とする歯科用固定具のような任意のデバイスは、他の部分がそこに結合されることになる場合であっても、単独でインプラントという場合がある。
【0052】
本明細書で使用されるように、用語「不動態化(金属)酸化物」は、自然酸化物ともいわれる、自然に形成された酸化物のことをいい、これは時間が経っても安定で実質的により厚く成長しない、そして下に横たわる基体の、外部試薬との如何なる実質的な化学反応をも防ぐ。大気中の酸素と接触してチタン上で形成される不動態化酸化チタンは一般に2〜5nmの厚みを有する。
【0053】
本明細書で使用されるように、用語「骨成長増強物質」は、単独で又は他の物質との組合せで骨形成を促進できる(例えば、骨芽細胞又は前骨芽細胞の接着、増殖及び分化を促進できる;骨マトリックス成分の生成、骨マトリックス成分の分泌、骨マトリックスの石灰化を促進できる;そして破骨細胞活性を抑制できる)如何なる物質も、その範囲内に含む。
【0054】
本明細書で使用されるように、用語「微細構造」は、一般に0.5μmから100μmの範囲に及ぶ寸法の物理的構造を称し、そして用語「ナノ構造」は、一般に0.1nmから500nmの範囲に及ぶ寸法の物理的構造を称する。
【0055】
本発明の生体適合性部材は、歯科用成分、例えば、インプラント、固定具、橋脚歯、又はワンピースインプラントのようなそれらの組合せであってよい。生体適合性部材は、患者の大腿骨の頸部内への埋め込みを目的とする股関節部材のような整形外科部材であってもよい。
【0056】
本発明の生体適合性部材は、金属、例えば、チタン又はその合金、ジルコニウム又はその合金、ハフニウム又はその合金、ニオブ又はその合金、タンタル又はその合金、クロム−バナジウム合金、又はこれらの材料の如何なる組合せの金属、又は非金属体のような如何なる適切な材料から成り得る。生体適合性部材は、金属層、例えば非金属体または部分的に非金属材料から成る物体を被覆する塗布された金属表面層を備えていてもよい。非金属材料の例にはセラミック、プラスチック及び複合材料が挙げられる。
【0057】
金属酸化物は自然に空気で形成された酸化物であってもよく、又はそれは本発明の方法の前に如何なる種類の処理において形成されてもよい。
【0058】
生体適合性部材は、本発明の方法の更なる改質のための所望の基体表面を作出するために、如何なる種類の前処理にかけられてもよい。例えば、所望の初期表面組成又は粗さを得るために、本部材は機械的、化学的又は熱的処理、又はそれらの任意の組合せによって前処理されてもよい。機械的処理は、例えば、ブラスチング処理を含む。化学的処理は、例えば、洗浄又は脱脂処理を含む。
【0059】
1つの側面において、本発明は生体適合性部材の改質方法に関する。
【0060】
本発明の方法に従えば、生体適合性部材の少なくとも一部が、シュウ酸を含む水性組成物での処理にかけられ、そのことによって改質された金属酸化物が得られる(工程bと称される)。この処理において、改質された金属酸化物が溶かされ、そして下に横たわる基体がエッチングされ、一方で新しい酸化物が生体適合性部材上に形成される。酸化物の溶解及再酸化プロセスは同時に起こる。
【0061】
処理される生体適合性部材の部分は、前記金属酸化物によって少なくとも部分的に被覆される。本発明の実施態様において、工程bは、高温で、一定時間激しく撹拌しながら、シュウ酸の水溶液中に部材を置くことによって実行される。
【0062】
あるいは、部材の一部のみをこの組成物中に浸漬、例えば、ディッピングしてもよい。処理されることを意図しない成分の一部は処理の間マスキングされてもよい。
【0063】
工程bの組成物のpHは、pH5又はそれより下、pH2又はそれより下、又はpH0.7又はそれより下のような酸性であるべきである。処理の便利さの観点から、pHはできるだけ低いことが好ましい。
【0064】
シュウ酸を含む水性組成物は、約0.001から約5Mの範囲内の濃度でシュウ酸を含む水溶液、例えば、該範囲内の濃度でのシュウ酸の溶液であってよい。好ましくは、組成物中のシュウ酸の濃度は、0.01から2Mの範囲内、より好ましくは0.1から2Mの範囲内、そして最も好ましくは約1Mである。
【0065】
工程bの目的のために、生体適合性部材の少なくとも一部を、シュウ酸を含む組成物中に約5から約60分の範囲内で、例えば20から40分の一定時間、浸漬させてもよい。一般的には、工程bの処理時間は約25分から約30分である。工程bの処理は、シュウ酸を含む水性組成物から部材が取り出された時点で完了したものとされる。
【0066】
水性組成物の温度は、約20℃から約100℃の範囲内であってもよい。一般的には、シュウ酸を含む水性組成物の温度は、60℃から90℃の範囲内、例えば約80℃であってもよい。
【0067】
例として、工程bの処理は80℃の温度で30分間、約1Mのシュウ酸濃度を用いて行われてよい。
【0068】
チタン部材が使用される場合、工程bで得られた改質された酸化物は、空気中で形成された不動態化酸化チタンよりもより反応性があり、そしてそれは空気中で形成された不動態化酸化チタンよりもより高い水分含量を有する。おそらく、本発明の改質された酸化チタンは、空気中で形成された又は化学的洗浄前処理において形成された不動態化酸化チタンよりもより非晶質である。工程bで得られた改質された酸化物の表面構造は微細構造及び一次ナノ構造を含み、その例が図5及び6に示されており、そしてそれについて以下により詳細に述べる。
【0069】
工程bで得られた生体適合性部材の表面は、本発明の方法に記載の処理前の部材の表面の金属的な灰色よりもより明るく光沢が少ない色を有する。
【0070】
しかしながら、ブラスチングによって前処理された本発明の部材、及び単純に機械加工された本発明の部材の間には色の違いがあり、ブラスチングされた部材は、機械加工された部材よりも白っぽい色を有する。この変色は、工程bが完了した指標として使用され得る。しかしながら、この変色は、超音波浴中での洗浄の2分後により明瞭に見られる。
【0071】
工程bに続いて、改質された酸化物の少なくとも一部分が、イオン化されたフッ素及びイオン化された塩素及び少なくとも1つの酸から成るグループから選ばれた少なくとも1つの物質を含む第二の水性組成物を用いた処理にかけられ得る(「工程c」と称する)。工程cによって、工程bにおいて形成された改質された金属酸化物の部分が溶け、そして引続いて沈殿して、該微細構造及び一次ナノ構造の上に重なっている均一に分布した金属酸化物の丸みのある突起を含む二次ナノ構造が形成される。代替として、溶けている金属酸化物の金属と複合体を形成する任意の他の化合物を使用し得る。フッ素と塩素はチタン錯化剤と知られている。
【0072】
部材が通常の大気圧で、そして空気のような酸素含有大気中、少なくとも0℃の温度に保持される場合、工程cは、工程bの完了後、比較的に短期間内で実行されるべきである。工程bは、工程bの水性組成物から部材が取り出されるや否や完了したものとされる。より詳しくは、工程cは、工程bにおいて得られる改質された金属酸化物が、その上に形成される不動態化酸化物によって覆われる前に実行されるべきである。不動態化酸化物は、それが、下に横たわる材料と、外部試薬との如何なる実質的な化学反応をも防ぐときに形成されるものとされる。工程bにおいて得られる改質された酸化物の反応性は、二次ナノ構造の丸みのあるピークの均一な分布を達成するために極めて重要である。工程cの処理の間、多数の活性部位で改質された酸化物を酸が攻撃し、酸化物を溶解すると考えられる。このプロセスにおいて発生した水素ガスによって、各活性部位で局所的にpHが高くなる。水性組成物が十分に高い濃度の金属材料を有していることを条件として、局所的に上昇したpHによって金属酸化物の活性部位での沈殿が引き起こされる。工程bにおいて得られる改質された酸化チタンの溶解によって酸化チタンが沈殿するのに十分に高いチタン濃度が得られ得る。酸素の存在下で時間とともに次第に不動態化酸化物が形成するので、部材が通常の大気圧で、そして酸素含有大気中少なくとも0℃の温度、例えば室温(15から25℃)に保持される場合、工程b及び工程cの間のより短い時間間隔で工程cの最終結果が改善されるであろう。このように、そのような条件下で、工程b及び工程cの間の間隔は、好ましくは出来るだけ短く保持される。工程cは工程bの完了後、180時間以内までに、例えば工程bの後72時間、36時間、24時間、又は1時間以内に実行され得る。好ましくは、工程cは工程bの完了後、30分又はそれより短い時間以内で、より好ましくは、10分又はそれより短い時間以内で実行され、そして最も好ましくは工程bの完了後、3分又はそれより短い時間以内で実行される。しかしながら、もし部材が不活性雰囲気に保持されるならば、又はさもなければ不動態化酸化物表面の形成が防がれるならば、工程b及び工程cの間の時間間隔はかなり長くてもよい。不動態化酸化物の形成を避けるために、通常の空気に比べて反応性酸素の量が低下した如何なる雰囲気も使用し得る。例えば、工程bに続いて、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン又はラドンのような不活性ガス中に部材を置いてもよい。あるいは、部材を減圧下の雰囲気中に又は真空中においてもよい。あるいは、部材を冷却又は冷凍してもよい。不動態化酸化物の形成を部分的に又は完全に抑制するための上記戦略の如何なる組合せもまた使用し得る。例えば、部材を工程bにかけ、引続いて冷凍し又は不活性ガス中に長時間置き、そして次に酸素含有雰囲気における通常の条件(通常の大気圧下で少なくとも0℃の温度)に戻してもよい。そのような場合、酸素含有雰囲気における該通常条件下に部材が過ごした、工程b及び工程cの間の時間は、180時間又はそれより少なく、例えば、72時間又はそれより少なく、36時間又はそれより少なく、24時間又はそれより少なく、1時間又はそれより少なく、30分又はそれより少なく、10分又はそれより少なく、又は3分又はそれより少なくすべきである。
【0073】
本発明の実施態様において、フッ化水素酸を含む水溶液中に成分を浸漬することによって工程cが実行される。あるいは、成分の一部のみをこの組成物中に浸漬、例えば、ディッピングしてもよい。処理されることを意図しない成分の一部は処理の間マスキングされてもよい。
【0074】
水性組成物は、イオン化されたフッ素及びイオン化された塩素及び少なくとも1つの酸を含むグループから選ばれる少なくとも1つの物質を含む。水性組成物は、0.5から5の範囲内の、好ましくは1から3の範囲内の、より好ましくは約2のpHを有する水溶液であってよい。イオン化されたフッ素及び塩素の濃度は約0.05から0.5Mの範囲内であってよい。例えば、組成物は該範囲内の濃度を有するフッ化水素酸(HF)の溶液であってよい。好ましくは、約0.1から0.3Mの範囲内、そしてより好ましくは0.1Mのフッ化水素酸の濃度が使用される。
【0075】
工程cの処理は、酸が基体表面上で作用するのが観察された時に開始されるものとされる。この作用は成分表面での水素ガスの形成によって検出でき、それは通常、室温で約20〜30秒後に起こる。このように、用語「積極的処理」は、水素ガスの最初の気泡の形成で開始され、実行される処理を意味する。工程cの積極的処理時間は、10秒から3分まで、10秒から2分まで、10から60秒まで、10から50秒まで、10から40秒まで、そして10から30秒までのような、10秒から60分までの範囲内である。
【0076】
工程cは周囲温度で実行され得る。一般的には、工程cの水性組成物は15から25℃の範囲内の温度、例えば18から23℃の範囲内の温度を有する。
【0077】
例として、工程cの処理は、室温で約0.1Mの濃度のフッ化水素酸を用いて40秒の積極的処理時間で実行され得る。
【0078】
許容できる結果を得るために、処理時間、温度、pH及び濃度のパラメーターの任意の1つの調整に、該パラメーターの任意の他の1つの上述の範囲で適切な調整を必要とすることが正しく理解されるであろう。
【0079】
工程cによって、工程bにおいて得られる階層的表面構造は、そのより細かな構造は部分的に溶解され得るものの、一般に保持される。工程cの後に得られる表面構造が図8及び9に示されており、そして以下により詳細に述べられる。本発明の実施態様において、工程bによって得られる改質された金属酸化物の溶解に由来する金属酸化物は、沈殿して、微細構造及び一次ナノ構造の頂部上に一様に分布した丸みのあるピークを含む二次ナノ構造を形成する。本発明の実施態様において、二次ナノ構造のピークはこのように金属酸化物から成る。工程cの組成物の金属濃度を増加させるために、工程cの水性組成物に、可溶性の金属化合物が別途に添加されてもよい。
【0080】
場合により、工程b及び工程cにおいて使用される組成物は、骨成長増強物質を含んでもよい。骨成長増強物質はチタンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、及び/又はストロンチウムイオンのような金属イオン、又はそれらの塩を含んでもよい。これらのイオンは組成物に別々に添加されてもよい。例えば、工程bの組成物又は工程cの組成物のどちらかが如何なる上記金属イオンをも含んでもよい。あるいは、両方の組成物が金属イオンを含んでもよい。両方の組成物が金属イオンを含む時、それらは同じ種又は異なる種の金属イオンを含んでもよい。上記金属イオン又はそれらの如何なる組合せをも組込むことによって、化学的性質が変わった該イオン及び/又はそれらの塩を含む改質された表面が得られ得る。このように、部材の生体適合性が改善され得て、そして部材のオッセオインテグレーションが刺激され得る。
【0081】
特に、本発明者らは、骨組織中に局所的に投与されたリチウム又はストロンチウムイオンが、該骨組織における骨形成及び骨量に対する局所効果を有することを見出した。更に、見出されたことは、イオン化されたリチウム又はストロンチウムを含有し及び/又は放出する表面を含むインプラントが、例えばイオン化されたカルシウム又はマグネシウムを含有する表面酸化物を含むインプラントと比べて、改善された骨成長速度、そしてその結果、骨組織及びインプラントの間の改善された固着速度を与えることである。従って、本発明の実施態様において、工程b及び工程cの組成物の両者又は工程b組成物のみが、イオン化されたリチウム又はストロンチウム又はその組合せを含む。あるいは、工程c組成物のみがイオン化されたリチウム又はストロンチウム又はその組合せを含む。
【0082】
あるいは、イオン化されたリチウム又はストロンチウムのような骨成長増強物質が、本発明の工程b又は工程cの実行の後で部材の表面上に塗布され得る。
【0083】
別の側面において、本発明は上述の方法によって得ることができる生体適合性部材、及び生体適合性部材をヒト又は動物の体内にインプラントする方法に関する。例えば、生体適合性部材がヒト又は動物の該体の歯周領域内にインプラントされ得る。
【0084】
別の側面において、本発明は微細構造、該微細構造の上に重なる一次ナノ構造、及び場合により、該一次ナノ構造の上に重なる二次ナノ構造を含む階層的表面構造を有する生体適合性部材に関する。
【0085】
微細構造のプロファイルに関する用語「深さ」(h1)、「直径」(x1)及び「距離」(D1)は、図1に定義されている。ピットの深さ(h1)は、二つの隣接ピークの間に引かれた仮想直線、及びその最低点での中間表面の間の距離として定義される。もし、明確に定義されたピークが存在しない場合は、表面プロファイルが、本質的に平らな表面プロファイル(プラトー)からずれ始めるそれらの点の間に仮想直線が引かれる。ピットの直径(x1)及び隣接ピットの間の距離(D1)は、図1において定義された通りの前記隣接点の間の距離である。図1においては、重なった一次ナノ構造も微細構造上に模式的に与えられている。一次ナノ構造に関する用語「深さ」(h2)及び「直径」(x2)は、図2において対応して定義される。
【0086】
二次ナノ構造に関する用語「高さ」(h3)「直径」(x3)及び「ピーク−ピーク距離」は、図3に定義される。ピーク高さは、二つの隣接ピークの間に引かれた仮想直線、及びその最低点での中間表面の間の距離として定義される。ピーク直径(x3)は、表面プロファイルが、本質的に平らな表面プロファイルからずれ始めるピークのそれらの点の間で測定される。
【0087】
図4において、微細構造のプロファイルに関する角度α、及び一次ナノ構造のプロファイルに関する角度βが定義されている。角度αは二つの仮想直線の間の角度として定義され、その中の1つの線は、表面プロファイルが、本質的に平らな表面プロファイル(P1a)からずれ始める点での微細構造のピットの壁のスロープを表し、もう一方の線は、表面プロファイルが、本質的に平らな表面プロファイル(P1b)からずれ始める点での微細構造の隣接ピットの隣接壁のスロープを表す。互いに隣接する該ピットはこのようにプラトーによって分離され得る。従って、二つの隣接ピットがピークによって分離される場合、仮想直線は、該ピークでの壁の傾斜を表す。角度βは、一次ナノ構造上の窪みの壁のその変曲点(P2a)でのスロープ、及び一次ナノ構造の隣接窪みの隣接壁のその変曲点(P2b)でのスロープを各々表す二つの仮想直線の間の角度として定義される。二つのへこんだ窪みがピークによって分離されている場合、変曲点はこのように該ピークに位置する。
【0088】
本発明の部材の微細構造及び一次ナノ構造は、上述の方法の工程bにおいて本質的に得られる。上述の通り、工程bは厚くなった、反応性のそして白い又は白っぽい色を有する改質された酸化物表面を与える。図5aは、本発明の方法の工程bの後の成分のSEM画像であり、前記微細構造及び前記一次ナノ構造を示している。本部材はブラスチングによって前処理された。この画像において見られるように、微細構造は異なるサイズの孔状窪み又はピットを含む。図5bは本発明に記載の工程bの後の部材のSEM画像であり、ここで微細構造の幾つかのピットの直径に印が付けられている。
【0089】
図13及び14は微細構造のピットの直径、ピットの深さ及び互いに隣接するピットの間の距離の分布を示す。例えば、微細構造のピットは0.5から15μm、好ましくは1から10μm、そしてより好ましくは1から5μmの範囲内の直径x1;及び0.1から2.5μm、好ましくは0.1から1μm、そしてより好ましくは0.1から0.7μmの範囲内の深さh1を有し得る。隣接ピットは一般的に10μmまで、好ましくは5μmまでそしてより好ましくは3μmまでの直径を有し得るプラトー又はリッジによって分離される。このように、隣接ピット間の距離D1は、10μmまで、5μmまで又は3μmまでであり得る。しかしながら、分離するリッジを伴う場合にしばしば見られるように、二つの隣接ピットは、如何なる距離によっても全く分離されていないとされる場合がある。
【0090】
図5において見られるように、微細構造の個々のピットの略形状は大まかには円形又は楕円形であってよく、又はそれが不規則であってもよい。微細構造はアンダーカットも含み得る。更に、より大きな直径のピットは、より小さな直径の1つの又は幾つかのピットを含み得る。
【0091】
微細構造は、上記及び図4において定義されたように、20度から130度;好ましくは30度から120度、より好ましくは40度から110度、そして最も好ましくは50度から100度の範囲内の角度αを有し得る。
【0092】
上述の微細構造の上に、重なった一次ナノ構造が与えられる。一次ナノ構造は図5において見られ、そして図6において更に説明されており、ここで一次ナノ構造の要素に印が付けられている。一次ナノ構造は、波状の連続構造として記載され得る。一次ナノ構造は、微細構造のピットの壁及び底において、そして微細構造のピットを分離しているプラトー及び/又はリッジにおいて、多数の浅い窪みを含む。一次ナノ構造の窪みの直径X2は10nmから1μm、好ましくは10nmから600nm、そしてより好ましくは10nmから500nmの範囲内であってよく;一次ナノ構造の窪みの深さh2は10から300nm、好ましくは30から150nmの範囲内にあってよい。一般的には、窪みは浅く、それは窪みの直径が深さを超えていることを意味する。一次ナノ構造の窪みは本質的に円形又は楕円形を有する。図15及び16は一次ナノ構造の窪みの直径と深さの分布を示す。
【0093】
一次ナノ構造の窪みは明確な境界又はリッジを有し得る。しかしながら、一次ナノ構造の窪みは、該窪みの底から立ち上がり、そして次にそれらの間に明確な境界を形成することなく、次の窪み内へと柔らかく通過する壁を有してもよい。しかしながら、上述の両方の場合の何れかにおいて、一次ナノ構造のある窪みの境界を他の窪みの境界から分離する定義可能な距離は存在しない。むしろ、窪みは並列しており、極めて規則的な様相を有する波状パターンを形成する。一次ナノ構造は上述の及び図4において定義されたように80度から160度;好ましくは90度から150度;より好ましくは100度から140度;そして最も好ましくは110度から130度の範囲内の角度βを有してよい。
【0094】
上述の如く、一次ナノ構造は一次微細構造上に重なっている。更に、一次ナノ構造の直径及び深さは、微細構造の個々のピットの各々対応する寸法よりも小さい。このように、微細構造の個々のピットは一般的には一次ナノ構造の多くの窪みを含む。例えば、微細構造のピットは約5から約50個の該窪みを含んでもよい。更に、一次ナノ構造の窪みの境界の一部が、一般的には一次ナノ構造の他の窪みの境界の一部を構成する。
【0095】
図8及び図9は、本発明の改質された成分のSEM画像である。図8においては、サンプルがブラスチングによって前処理されたが、一方図9においては、サンプルが単純に機械加工された。これらの図において、上述の微細構造及び一次ナノ構造の上に重なった二次ナノ構造を見ることができる。図10は原子間力顕微鏡(AFM)によって撮られた画像であり、二次ナノ構造を更に示している。図10において見られる通り、二次ナノ構造は丸みのあるピークの形状を有する分離した突起要素を含む。ナノピークは下に横たわる表面構造上に密集して且つ一様に分布している。例えば、単位面積当りのピーク数は15から150ピーク/平方μm、そして好ましくは50から130ピーク/平方μmの範囲内であってよい。
【0096】
図17は二次ナノ構造ピークの直径、平均ピーク高さ及びピーク−ピーク距離の分布を示すグラフである。一般的には、二次ナノ構造の平均ピーク高さh3は5から200nm、好ましくは5から100nmの範囲内である。二次ナノ構造の個々のピークの直径×3は一般的には、20から550nmの、好ましくは20から150nmの範囲内である。ピーク−ピーク距離D3は一般的には、10から450nm、好ましくは40から200nmの範囲内である。図11は、微細構造、一次ナノ構造及び二次ナノ構造を含む成分のSEM画像を示し、ここでは微細構造のピットに印が付けられていている。
【0097】
本発明の部材がシュウ酸処理の前にブラスチングにかけられた本発明の実施態様においては、その上に微細構造が重ねられる優れた表面構造が存在する。ブラスチングによって前処理された本発明の部材の表面構造は、一般的には、10から70μmの範囲内の長さ及び3から20μmの範囲内の深さを有する大きなピットを含む。一般的には、これらの大きなピットは略楕円形を有する。隣接するピット間の距離は1から20μmの範囲内である。この大きなピット構造の上に重なって、上記の微細構造がある。このように、大きなピットの側部及び底部並びに大きなピットの間の表面は、ピット及び上述の微細構造の分離しているプラトー及び/又はリッジを含む。従来のブラスチングされた面のSEM画像が図7に示されている。ブラスチング前処理は、引続いて形成された微細構造、一次ナノ構造及び場合により二次ナノ構造の寸法に影響を及ぼす。ブラスチングにかけられた本発明に記載の部材において、引続いて形成された微細構造は、単純に機械加工された本発明に記載の部材の微細構造よりも幾分より大きな寸法を一般的に有しており、そして引続いて形成された一次ナノ構造は、単純に機械加工された本発明に記載の部材の一次ナノ構造よりも幾分より小さな寸法を一般的に有していた。加えて、微細構造及び一次ナノ構造の両者の直径、及び微細構造の深さは、表1に示された標準偏差値によって説明されている通り、機械加工された部材の対応する特性よりも、ブラスチングされた部材において、より一様であった。
【0098】
別の側面において、本発明は生体適合性部材をヒト又は動物の体内にインプラントする方法に関する。本方法は、i)上記に記載の生体適合性部材を供する;及びii)該生体適合性部材をヒト又は動物の体にインプラントする;工程を含む。例えば、生体適合性部材が前記ヒト又は動物の体の歯周領域内にインプラントされ得る。
【0099】
実施例
実施例 1−表面改質
(i)サンプル調製
コインの形状を有するチタンサンプル(各々機械加工されたものとブラスチングされたもの)、固定具(ブラスチングされたもの)及び橋脚歯(機械加工されたもの)を従来の化学的処理によって洗浄した。これらのサンプルを1Mのシュウ酸水溶液中に浸漬し、そして80℃で30分間、激しい撹拌下に置いた。30分後シュウ酸水溶液から、サンプルを取出して水中でゆすぎ、続いて超音波浴中の水中で2分間、ゆすいだ。ゆすぎの約10分後、サンプルを0.1Mのフッ化水素酸(HF)水溶液中に室温で浸漬し、活発な溶解が始まるまで撹拌し、引続いて追加の活性化処理を40秒間行った。次に、HF溶液からサンプルを取出して水中でゆすぎ、引き続いて超音波浴中の水中で5分間、ゆすいだ。これらのサンプルを、滅菌前に室温で空気中において約60分間、乾燥した。
【0100】
(ii)表面トポロジー測定
ESEM XL30(FEI)を用いて、工程bに続いてゆすいだ後のサンプル及び工程cに続いて乾燥した後のサンプルについて走査型電子顕微鏡(SEM)観察を実施した。500×及び15000×の間の倍率を用いて、立体画像を撮影し、そしてMeX 5.0 programme(Alicona)によって評価した。フィルターは使用しなかった。微細構造のピット及び一次ナノ構造の窪みの深さ及び直径、並びに及び微細構造の隣接ピットの間の距離を求めた。結果を一次微細構造に対して図13a−c(機械加工されたサンプル)、及び図14a−c(ブラスチングされたサンプル)、そして一次ナノ構造に対して図15a−b(機械加工されたサンプル)、及び図16a−b(ブラスチングされたサンプル)に提示する。滅菌後に撮られたSEM画像を図8、9及び11に提示する。
【0101】
Nanoscope IIIa instrument(Digital Instruments)を用いて、TappingMode(商標)原子間力顕微鏡(AFM)観察を実施した。本発明に記載の(機械加工された)三つのサンプルの二次ナノ構造を、一サンプルにつき二点で解析した:各点はサンプル端部から約1ミリメーターに位置していた。解析面積は2μm×2μmであった。ピーク高さ、ピーク直径、ピーク−ピーク距離及び平方μm当たりのピーク数を求めた。該寸法はミリメーターで測定し、そして得られたプロファイルプロット中に供されたスケールを用いてnmに変換した。ピーク高さ、ピーク直径、ピーク−ピーク距離の各々の分布を図17a−cに提示する。
【0102】
表1に、SEM/MeX5.0によって求めた、ブラスチングした成分及び機械加工した成分の各々の微細構造及び一次ナノ構造に対して求めた寸法の最大値、最小値及び平均値を纏めてある。機械加工された成分の二次ナノ構造に対して、AFMによって求めた最大値、最小値及び平均値も提示してある。
【0103】
【表1】
【0104】
比較例1a
(コインの形状をした)ブラスチング処理されたチタンサンプルを、0.1Mのフッ化水素酸及び1Mのシュウ酸を含む水溶液中に室温で浸漬し、そして各々、5、15、30及び42分間、撹拌した。溶液から、サンプルを取出して水中でゆすぎ、続いて超音波浴中の水中で2分間、ゆすいだ。サンプルを乾燥後、走査型電子顕微鏡(ESEM XL30、FEI)によって表面トポグラフィーを調べた。
【0105】
その結果、上記処理を5分間行った場合、部分的にエッチングされた領域、そして一様でなく分布した突起要素を有するサンプルが得られた。15分後に取出したサンプルは、まばらに突き出した要素を含む、比較的平らでエッチングされた表面構造を示した。30分後に取出したサンプルの表面は、筋状の外観を有しそして小さな突起要素及び幾つかの不定形の粒子も含んでいた。5分間、処理された乾燥サンプルのSEM画像を図12aに提示し、そして30分間、処理された乾燥サンプルのSEM画像を図12bに提示する。
【0106】
比較例1b
チタンサンプルを0.1MのHF水溶液中に室温で浸漬し、そして活発な溶解が始まるまで撹拌し、続いて40秒の追加の処理時間をかけた。次いでHF溶液から、サンプルを取出して水中でゆすぎ、続いて超音波浴中の水中で5分間、ゆすいだ。ゆすぎの約10分後、サンプルを1Mのシュウ酸水溶液中に浸漬し、80℃で30分間、激しく撹拌した。30分後、シュウ酸溶液からサンプルを取出して水中でゆすぎ、引き続いて超音波浴中の水中で2分間、ゆすいだ。これらのサンプルを、室温で1時間、乾燥させた。
【0107】
走査型電子顕微鏡ESEM XL30(FEI)によって、乾燥したサンプルの画像を撮った。結果を図12cに提示する。
【0108】
実施例2−細胞増殖及び活性
細胞増殖、及びアルカリホスファターゼ(ALP)及びプロスタグラジンE2(PGE2)各々の産生を、本発明に従ってチタン表面上でインビトロで成長させたヒト骨芽細胞に対して調べ、市販のインプラント表面(OsseoSpeed(商標);Asta Tech AB、スウェーデン)上で成長させた細胞と比較した。
【0109】
(i)細胞培養
MG−63は、骨芽細胞のインビトロの研究のために従来から使用されているヒト細胞株である。この研究においては、MG-63cells(MG-63、ATCC No CRL-1427、米国)を、300mLのFalcon細胞培養フラスコ(BD、WWR、スウェーデン)内の、5%のウシ胎児血清(FCS;Gibco、英国)及び1%のペニシリン−ストレプトマイシン(PEST;Gibco、英国)を含むダルベッコ最少必須培地(Dulbecco's Minimun Essential Medium(D-MEM))(Gibco、英国)中で、冷凍細胞の膨大部からの2回目の継代から、成長させた。 接着した細胞が密集度まで成長したら、0.05%トリプシン−EDTA(Gibco、英国)を用いて、それらを3継代の継代をさせた。光学顕微鏡を用いてカウントした細胞生存率は高かった(>98%)。
【0110】
(ii)細胞形態(SEM)
三つのコイン形状をした、β−滅菌されたチタン試験体;その中の1つは本発明の工程bにかけられたもの;その中の1つは本発明の工程b及び工程cにかけられたもの;そしてその中の1つは市販の表面(OsseoSpeed(商標);Asta Tech AB、スウェーデン)を有したもの;を各々別のFalcon24ウェルプレート(BD、WWR、スウェーデン)中に置いた。各々のウエルに、5%のFCS(Gibco、英国)及び1%のPEST(Gibco、英国)を含有し、20,000細胞/mLの細胞濃度を有する1mlのD−MEM(Gibco、英国)を添加した。これらのプレートを37℃、5%のCO2及び湿度100%で36時間、インキュベートした。従来のSEMサンプル調製手順に従って、サンプルを4℃でグルタルアルデヒドを用いて、続いて四酸化オスミウムによって固定し、脱水及び金スパッタリングした。細胞形態をSEM(ESEM XL30、FEI)によって調べた。細胞のSEM画像を図20a(従来の表面上で成長させた細胞)、図20b(本発明の工程bに従って処理された部材上で成長させた細胞)、図20c(本発明の工程b及び工程cに従って処理された部材上で成長させた細胞)に示す。
【0111】
(iii)細胞増殖、ALP活性及びPGE2活性の評価
三セット(n=6)のコイン形状をした、β−滅菌されたチタン試験体;一組は本発明の工程bにかけられたもの(「本発明の表面1」);一組は本発明の工程b及び工程cにかけられたもの(「本発明の表面2」);そして一組は市販の表面(OsseoSpeed(商標);Asta Tech AB、スウェーデン)を有するもの;を各々別のFalcon24ウェルプレート(BD、WWR、スウェーデン)中に置いた。各々のウエルに5%のFCS(Gibco、英国)及び1%のPEST(Gibco、英国)を含有し、そして20,000細胞/mLの細胞濃度を有する1mlのD−MEM(Gibco、英国)を添加した。これらのプレートを37℃、5%のCO2及び湿度100%で14日間インキュベートした。
【0112】
培養7日後に、各ウエルからのサンプル(50マイクロリッター)を外因的ALPに対して解析した。接着した細胞を解析して、細胞溶解によって内因的ALPを求め、続いて遠心分離し、そしてメーカーの取扱説明書に従って、SenzoLyte(商標)pNPP Alkaline Phosphatase Assay Kit Colorimetric(BioSite、スウェーデン)を用いて、上澄み液及び細胞内のALP含有量(ng/ml)を求めた。7日後に、本発明に記載の工程b及び工程cにかけられたサンプル(本発明の表面2)は、参照サンプル(OsseoSpeed(登録商標))よりも顕著に高い細胞当たりのALP産生を誘導した。結果を図19に示す。
【0113】
培養7日後及び14日後に各々、NucleoCassette、NucleoCounter(ChemoMetec A/S、デンマーク)を用いて、メーカーの取扱説明書に従って、ウエル当たりの合計細胞数を求めた。結果を図18に提示する。
【0114】
培養7日後及び14日後に各々、ELISA kit R&D Systems PGE2 Immunoassay(R&D Systems、英国)を用いて、メーカーの取扱説明書に従ってPGE2を求めるために各々のウエルから300マイクロリッターの上澄み液を使用した。培養7日後のPGE2の産生は、参照と比較して本発明に記載のサンプルにおいて若干少なかった。しかしながら、14日後では、本発明に記載のサンプルの両方のセットが、参照サンプルよりも著しく高い細胞当たりのPGE2の産生を誘導した。培養7日後及び14日後の結果を各々図21に提示する。
【0115】
要約すると、参照表面と比較して本発明のサンプルは、より低い細胞密度及びより低い接着細胞数しか誘導しなかったことが見出された。しかしながら、参照表面上で成長した細胞と比較して本発明の表面上で成長した細胞の中で、より高い細胞数が増殖性であった。本発明の表面上で成長した細胞はまた、図20a−cにおいて見られる通り、アポートシスをより起こし難く、より長いそして多くの小さな突起を有しており、活性があることを示した。
【0116】
本発明に記載の両方の表面上で成長した細胞は、培養14日後では、図20a−cにおいて見られる通り、従来の表面上で成長した細胞のそれと比較して、有意に増加したPGE2産生を示した。更に、二次ナノ構造を含む、本発明に記載の表面上で成長した細胞は、従来の表面上で成長した細胞よりも、有意に高いALP活性を有していた。ALP及び/又はPGE2活性の増加は、増大した骨芽細胞活性、低下した破骨細胞活性及び促進されたECMの石灰化に関係している。このように、結論として、本発明は、骨成長速度及びオッセオインテグレーションに関して改質された生体適合性部材を提供する。
【0117】
実施例3−埋め込み
本発明に記載のインプラントの完全性をウサギモデルにおいて試験した。その目的は、市販の参照インプラントに対する応答と比較して、本発明に記載の二つのインプラント表面改質に対するインビボの骨組織応答を定性的に及び定量的に調べることであった。
【0118】
(i)除去トルク試験用インプラント
シュウ酸中に、そして引き続きHF中に浸漬することによって、実施例1において述べられた通りに(つまり工程b及びcを含んで)、調製したチタントルク固定具(四角形の頭をした除去トルク設計、3.5×8.2ミリメーター)を使用した(試験インプラント2と称する)。また、シュウ酸中に浸漬することによって、実施例1において述べられた通りに(つまり工程cが省略されて)、調製したトルク固定具(3.5×8.2ミリメーター)(試験インプラント1と称する)も使用した。更に、市販のOsseoSpeed(商標)口腔インプラントを代表するトルク固定具(3.5×8.2ミリメーター)を参照固定具として使用した。
【0119】
(ii)組織学及び組織学形態計測研究用のインプラント
上記実施例1において述べられた通りに調製した口腔インプラント(3.5×8ミリメーター)のヒト設計の固定具を使用した(試験インプラント2)。また、HF処理(つまり工程c)を省略した以外は、実施例1において述べられた通りに調製した固定具(3.5×8ミリメーター)も使用した(試験インプラント1)。更に、市販のOsseoSpeed(商標)口腔インプラントを代表する固定具(3.5×8ミリメーター)を参照固定具として使用した。
【0120】
(iii)インプラント挿入
12把の成体の雄のニュージーランド白ウサギを手術用として予定した。一把のウサギは初期の麻酔で死んだ(#8)。手術は平穏に進んだ。連続食塩冷却を用いて、低速穴開け(穴開けのために1500rpg、そしてインプラント挿入のために20rpm)を行った。
【0121】
1つのインプラント(口腔インプラントのヒト設計;3.5×8ミリメーター)を各々大腿軟骨領域中に挿入し、そして三つのインプラント(四角形の頭をした除去トルク設計、3.5×8.2ミリメーター)を各々脛骨粗面中に挿入した。大腿骨インプラントを組織学形態計測解析用に、そして脛骨インプラントを除去トルク試験用に予定した。
【0122】
(iv)除去トルク試験
6週間後に、試験を終了し、そしてウサギを犠牲にした。インプラント及び周囲の組織を調べた。脛骨インプラントは容易に位置が分かり、それらの全てで、骨膜骨組織成長の兆候が見られた。除去トルク試験(RTQ)を用いて、インプラント−骨界面の生体力学的試験を実施した。RTQ装置(Detektor AB、Goteborg、スウェーデン)は、骨層におけるインプラントの安定性(Ncmを単位とするピークゆるみトルク)を試験するために使用される歪ゲージトランスジューサーを含む電子機器であり、従って、骨組織及びインプラントの間の界面せん断力を大まかに反映する三次元試験と見なすことができる(Johansson C. B.,Albrektsson T.,Clin Oral implants Res 1991;2:24-9)。直線的に増大するトルクがインプラントの同じ軸上に、一体化が破壊されるまでかけられ、そしてピーク値が記録された。大腿骨中に挿入されたインプラントは、よりしばしば骨組織によるインプラント頭部の「完全な被覆」を示した。大腿骨インプラントを固定液中に浸漬し、そして組織学及び組織学形態計測研究のために更に処理した。
【0123】
除去トルク試験用の試験インプラント1、試験インプラント2及び参照インプラントの平均値を図22に提示する。全ての試験インプラント1、試験インプラント2及び参照インプラントの比較から、参照インプラントと比較して、試験インプラント2に対する除去トルク値において25%の改善が見られた。この差異は統計的に有意であった(p<0.05; Student T−test)。更に、これらの結果は、試験インプラント1の除去トルク値が、参照インプラントのそれらと同等以上であることを示唆した。
【0124】
(v)組織学的評価
6週間後に、試験を終了し、そしてウサギを犠牲にした。ウサギ#1及び#5からの骨組織及びインプラントを含む大腿骨インプラント部位の選択サンプルを、骨−インプラント接触(BIC)及び内側のネジ山(thread)内の骨領域(内部領域、ia)及び大腿骨から回収されたインプラント周辺の種々の領域における対応する鏡像(mi)に関して組織学形態計測的に評価した。
【0125】
インプラントの異なる領域のBIC及び骨領域に対する平均値、並びに各インプラントに対するBIC及び骨領域の総平均値を下表2及び3に報告する。下記のインプラント領域が評価された:
(a)ミクロ−ネジ山;
(b)マクロ−ネジ山;
(c)骨髄空洞における先端側(ネジ山がない)に沿った領域;及び
(d)インプラントの先端底部中(この領域は、骨インプラント接触についてのみ報告される)
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【0128】
参照インプラントであるウサギ#5に対しては、全てのインプラントにおいて存在する切開部を通して断面(section)が偶然に得られた。このサンプルについて、計算された底部接触距離は、試験インプラント1であるウサギ#3のそれの合計距離の近似に基づくものであった(図24a)。
【0129】
表2及び3において見ることができる通り、試験インプラント2は、参照表面と比較してより高い骨インプラント接触及びネジ山におけるより大きな骨領域を示した。試験インプラント1は、参照表面と比較してほとんど同等の骨インプラント接触を示した。また、参照インプラントのそれと比較して、ネジ山におけるより大きな内部骨領域が観察された(表2)。
【0130】
骨形成を定性的に示す組織学的断面画像を図23〜24に提示するが、ここで;
図23aはウサギ#1、試験インプラント2を示す;
図23bはウサギ#1、参照インプラントを示す;
図24aはウサギ#5、試験インプラント1を示す;及び
図24bはウサギ#5、参照インプラントを示す;
【0131】
ほぼ全てのサンプルが、上部ミクロネジ山領域におけるインプラントに密接に関係して、古い骨よりもより新しく形成された骨を示した。骨髄空洞中及び先端底層中のインプラントのネジ山がない側におけるマクロネジ山において観察された骨組織も新しく形成された。
【0132】
ウサギ#1において、試験インプラント2の周囲に、参照インプラントと比較して大量の進行中の骨形成が観察された。骨芽細胞の種々の形状の骨芽細胞縁を有する骨様の継ぎ目がしばしば観察された(図23a、b)。
【0133】
ウサギ#5において、試験インプラント1の周囲に、参照インプラントと比較して大量の進行中の骨形成が観察された。骨芽細胞がしばしば観察されたが、ウサギ#1の試験インプラント2の周囲ほど顕著ではなかった(図24a、b)。
【0134】
インプラント表面は、インプラント表面とは無関係に、骨髄空洞の脂肪細胞と密接に関連しており、感受性の骨髄細胞を有する全ての表面の高度な生体適合性を示した。
【0135】
実施例4−インビトロのアパタイト形成
骨形成を調べるための1つの従来からのインビトロのモデルは、疑似体液(SBFs)中への生体材料の浸漬である。SBFsはヒトの血漿のそれにほぼ等しいイオン濃度を有する溶液である(Kokubo T.,Kushitani H.,Sakka S.,Kitsugi T.,Yamamuro T.,J Biomed Mater Res 1990;24:721-734;Oyane A.,Kim H. K.,Furuya T.,Kokubo T.,Miyazaki T., Nakamura T.,J Biomed Mater Res 2003;65A、188-195)。生体材料の核形成能力に依存して、骨状のリン酸カルシウムがその表面上に沈殿することになる。インビボの骨生理活性を有するSBF中でのアパタイト形成の定量的相関が報告されている(Kokubo T.,Takadama H.,Biomaterials 2006;27:2907-2915)。今日では、SBFのインビトロモデルはしばしば使用され、そして国際標準、ISO 23317:2007Eによって記載されている。
【0136】
(i)SBF浸漬
ヒトの血漿の電解質濃度に類似した電解質濃度を有する修正SBF(Oyane A.ら、J Biomed Mater Res 2003;65A、188-195)が選択された(Vander A.J., Sherman J.H., Luciano D.S.,「Human physiology The mechanisms of body function)」、5th ed. McGraw-Hill Publishing Company、ニューヨーク、1990:349-400)。SBFは10.806gのNaCl、1.480gのNaHCO3、4.092gのNa2CO3、0.450gのKCl、0.460gのK2HPO4・3H2O、0.622gのMgCl2・6H2O、23.856gの2−(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル)エタンスルホン酸(HEPES)、0.776gのCaCl2及び0.144gのNa2SO4を、2000ミリリッターの脱イオン水中に溶解させることによって調製した。HEPESは溶液に添加する前に、200ミリリッターの脱イオン水中に溶解させた。最終的なpHは1.0MのNaOHを用いて37℃で7.40に調節された。全ての試薬は、NaCl及びNa2SO4 (これらはFluka(スウェーデン)から得られた)を除いて、Merck(スウェーデン)から得られた。
【0137】
三組のコイン形状をした、β−滅菌されたチタンサンプル;一組は本発明の工程bにかけられたもの(「本発明の表面1」);一組は本発明の工程b及び工程cにかけられたもの(「本発明の表面2」);そして一組は市販の表面(OsseoSpeed(商標);Asta Tech AB、スウェーデン)を代表する参照;を別々のそして密閉された50ミリリッターのポリスチレンバイアル(VER、スウェーデン)中の37ミリリッターのSBF中に浸漬した。サンプルを、バイアルの蓋に吊り下げて搭載し、解析されるべきコインの側が、他の如何なる物体によっても接触されないで、下向きになるようにした。三日後、SBF浸漬を中断し、サンプルを脱イオン水で完全にゆすぎ、如何なるゆるく接着したリン酸カルシウム材料をも除去した。次いでサンプルを室温にて、層流空気ベンチ中で乾燥した。各組の三つのサンプルをSBF中に浸漬しないでコントロール用として役立てた。
【0138】
(ii)形成されたアパタイトの形態(SEM)
可能なアパタイトの形成の解析を、環境走査型電子顕微鏡(ESEM、XL 30、FEI)を用いて実施した。SBF浸漬前の表面構造のSEM画像を、図25a(参照)、26a(本発明の表面1)、及び27a(本発明の表面2)に提示する。SBF浸漬後の表面構造を調べたとき、サンプルの全ての組上でリン酸カルシウムの薄い層が形成されたと結論付けられた;参照(図25b)、本発明の表面1(図26b)、及び本発明の表面2(図27b)。
【0139】
(iii)形成されたアパタイトの化学的評価(EDS)
アパタイト形成前後のサンプルの化学的解析のためにエネルギー分散分光法(EDS,Apollo 40,EDAX)を使用した。チタンシグナルを解析することによって、リン酸カルシウムによるサンプルの被覆度が間接的に評価できた。本発明表面2は、SBF浸漬後のチタンシグナルにおいて最大の低下を示し(図28)、調査した資料の組の中で最も広範囲なアパタイト形成を示した。
【0140】
非晶質及び結晶性のリン酸カルシウム相対的存在量を推定するためにCa/P比の計算にEDSがやはり使用された。Ca/P比を図29に提示する。得られたCa/P比は、参照表面上よりも、本発明の表面1の上及び本発明の表面2の上に形成されたアパタイトの方のより高度の結晶性を示した。リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)及びヒドロキシアパタイト(Ca5(PO4)3OH)の化学量論的Ca/P原子比は、各々1.5及び1.67であった。
【0141】
要約として、サンプルの全ての組で初期にアパタイト形成が見出され、本発明の表面2は、チタンシグナルによって結論付けられる通り(図28)、最高度のアパタイト被覆を示した。
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨組織内への埋め込みのための改善された特性を有する生体適合性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
概して金属製のインプラントである、整形外科用又は歯科用インプラントの骨組織内への埋め込みのためには、今日では、一段階手順がしばしば使用される。この一段階手順においては、一般に歯科用固定具のような第一インプラント部分が骨組織内に外科的に置かれ、そして次に、ヒーリングキャップ(healing cap)又は橋脚歯のような第二インプラント部分が、外科手術後、第一インプラント部分に直接取り付けられる。次に、軟組織がヒーリングキャップ又は第二インプラント部分の周りの治癒を可能にする。ヒーリングキャップが使用される場合、数週間後又は数ヶ月後に、外科的手順を全く用いないでキャップが取り外され、そして橋脚歯及び暫定的歯冠のような第二インプラント部分が第一インプラント部分に取り付けられる。この一段階手順は、例えば非特許文献1に記載されている。
【0003】
一部の歯科症例においてはまだ好ましい二段階手順は、一般に歯科用固定具のような第一インプラント部分を骨組織内に第一段階で外科的に置くことを含み、ここで、骨組織をインプラント表面上に成長させて、インプラントが骨組織に良く付着されるように、しばしば3ヶ月又はそれより長い治癒期間、負荷をかけず動かさない状態でそれを休ませ、インプラント部位を覆う軟組織の切開部をインプラント上で治癒させる。第二段階において、インプラントを覆う軟組織が開かれ、そして歯科用橋脚歯及び/又は修復歯のような第二インプラント部分が前記固定具のような第一インプラント部分に取り付けられて最終的なインプラント構造を形成する。この手順は、例えば、非特許文献2に記載されている。
【0004】
しかしながら、治癒期間中、インプラントに負荷をかけるべきではないという事実は、第二インプラント部分を第一インプラント部分に取り付けできないこと、及び/又は治癒期間中第二インプラント部分を使用できないことを意味する。これに伴う不快さの観点から、上記第一段階に要する期間を最短化すること、又は全体の埋め込み手順を1つの操作で実行すること、つまり一段階手順を使用することさえ望ましい。
【0005】
患者によっては、一段階及び二段階手順の両方について、インプラントに機能的に負荷をかける前に、少なくとも三ヶ月待つことがより好ましいと考えられることもあり得る。しかしながら、一段階手順を使用する代替法は、埋め込み直後にインプラントを機能させること(即座に負荷をかける)又は埋め込みの数週間後にインプラントを機能させること(早めに負荷をかける)である。これらの手順は、例えば、非特許文献3に記載されている。
【0006】
上に開示されたインプラントに即座に又は早めに負荷をかけることを可能ならしめるためには、インプラントが、インプラント及び骨組織の間の十分な安定性及び結合を確立することが重要である。また、インプラントに即座に又は早めに負荷をかけることは骨の形成のために有益な場合であることに気づくであろう。
【0007】
骨のインプラントのために使用される、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ニオブ又はそれらの合金のような一部の金属又は合金は、骨組織との比較的強い結合、つまり、骨組織自体と同じ強度の、そして時にはそれよりも強い結合でさえも形成することができる。この種の金属製インプラント材料の最も注目すべき例は、この点に関するその性質が1950年頃以来知られている、チタン及びチタン合金である。金属及び骨組織の間の結合は、「オッセオインテグレーション」と名付けられている(非特許文献4)。
【0008】
尚、酸素と接触すると、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ニオブ又はそれらの合金は瞬間的に自然酸化物で覆われることに注目され得る。チタン・インプラント上のこの自然酸化物は、少量のTi2O3、TiO及びTi3O4を有する、主として二酸化チタン(IV)(TiO2)から成る。
【0009】
(酸化された)金属、例えばチタン及び骨組織の間の結合は比較的に強いものの、この結合を向上させることが望ましい。
【0010】
今日まで、インプラントのより良い付着、従って改質されたオッセオインテグレーションを得るために、金属製インプラントを処理する幾つかの方法がある。これらの幾つかには、例えば、未処理の表面と比較して表面の粗さを増すために、インプラント表面上に凹凸を作出することによってインプラントの形態を変えることが含まれる。表面の粗さを増すことによって、インプラント及び骨組織の間の接触及び付着面積がより大きくなり、インプラント及び骨組織の間のより良い機械的保持と強度が与えられるものと考えられている。表面の粗さを、例えばプラズマ溶射、ブラスチング又は酸エッチングによって備えつけ得ることは、当該技術の範囲内でよく知られていることである。
【0011】
更に、骨芽細胞、つまり骨形成細胞が、下に横たわる表面の多様な化学的及び物理的特徴に感じて反応することが知られている。例えば、非特許文献5に述べられている通り、インプラント表面での骨形成には、石灰化されていない細胞外マトリックス(ECM)を作り出し、そして引続いてこのマトリックスを石灰化するために、前駆体細胞を分泌骨芽細胞に分化させることが必要である。
【0012】
インプラントの骨組織へのより良い付着を達成するために、インプラント表面の化学的性質を変えることがしばしば使用されてきた。幾つかの方法には、ヒドロキシアパタイトが骨と化学的に関連がある故に、インプラントの骨への結合を改善するために、ヒドロキシアパタイトのようなセラミック材料の層をインプラント表面上に塗布することが挙げられる。特許文献1には、実質的に一様な表面の粗さを作り出し、そしてその上にヒドロキシアパタイト、骨ミネラル及び骨形態形成蛋白質のような骨成長増強物質の分離された粒子を沈着する(deposit)ための、インプラント表面からの自然酸化物の除去、酸エッチング、又はその他として得られたインプラント表面の処理を含む、骨インプラントの表面調製方法が開示されている。エッチング及び沈着工程は、好ましくは、不活性雰囲気を用いることによって、未反応酸素が存在しないところで実行される。
【0013】
しかしながらヒドロキシアパタイトを含む被覆に伴う共通の不利な点は、被覆及びインプラントの間よりも骨及び被覆の間に形成されるより強い結合故に、被覆が脆弱で、そしてインプラント表面から、剥がれ落ちるかぷっつり切れるかもしれず、それによってインプラントの究極的失敗につながるかもしれない。蛋白質被覆の使用に関して、考慮すべき追加の観点がある。蛋白質の化学的性質故に、その生物活性を保持するためには、蛋白質被覆を有する表面は特定の滅菌及び貯蔵条件を必要とするかもしれない。また、蛋白質のような生体分子に対する宿主組織の応答(例えば、免疫応答)は予測不可能かもしれない。特許文献2の方法のもう1つの不利な点は、不活性雰囲気中での作業が不便でありかつ特別な装置を必要とすることを考慮すると、酸素が存在しない表面が必要なことである。
【0014】
特許文献3、及び関連出願4及び5は、インプラントに対してセラミック被覆が接着性に劣る問題を解決することを目的とし、そしてインプラント表面を2−メトキシエタノール溶媒及びヒドロキシアパタイト(HA)ナノ結晶を含む溶液に、例えばコロイドの形態で、暴露させる方法を通して、粗くしたインプラント表面上に分離されたナノ粒子を沈着する方法を開示している。HAナノ結晶は沈着して、インプラントのオッセオインテグレーションを促進することを目的とするナノ構造を形成する。しかしながら、この方法の1つのマイナス要素は、表面の有機物汚染のリスク故に望ましくないかもしれない有機溶媒を必要とするナノ結晶含有組成物の配合、及び先端機器を使用する幾つかの処理工程である。沈着は室温で実施されるため、1から4時間のインキュベーション時間が必要になる。
【0015】
インプラント表面の粗さは、細胞増殖、そしてまた、インプラントの回りの細胞による、成長因子の局所産生にも影響することが示されてきた。ヒトの骨芽細胞のインビトロ研究において、より平滑な表面と比べて、ミクロ規模の粗さが増大した表面が、細胞数の減少、より低い細胞増殖、及びマトリックス産生の増大をもたらすことが示されている(非特許文献6)。また別の研究によって、表面の粗さが細胞分化を増進させ、一方で細胞増殖を低下させることが示されている(非特許文献7)。細胞分化の増大は、潜在的に改善された骨形成速度を示唆する。
【0016】
最近、細胞の接着能力の調節が、ミクロからナノパターニング技術へと進展してきた。足場依存性の細胞機能において、インテグリン仲介焦点接着及び細胞内シグナリングを刺激することによるナノ構造的な物理的シグナルによって細胞機能が調節できると考えられている(非特許文献8)。
【0017】
特許文献6及び関連する特許文献7には、インプラントを細胞領域中に固定するための微細構造を含むように作り変えられる表面を有する骨インプラントが開示されている。事前に粗くされた表面上に塗布される被覆層の形で供される微細構造は、丸くなった小窩によって分離された、高密度で充填された丸くなったドームの配列を含み、そして微細構造の寸法は、細胞の寸法とほぼ等しい大きさのオーダーである。微細構造的な被覆層は、例えばスパッタリングによって塗布され得る。更に、同様にスパッタリングによって得られ、丸くなった小窩によって分離された丸くなったドームで構成されるナノ構造が、微細構造の上に供され、ここでナノ構造の寸法は、微細構造の対応する寸法より小さくほぼ10分の1のオーダーである。しかしながら、この場合もまた、被覆層の安定性、並びに被覆層及びインプラント体間の付着の完全性で潜在的問題がある。μm又はnm規模の表面の粗さを有する金属製の整形外科用インプラントを提供し、一方では、インプラントの構造的完全性を保持している方法を提供する、望ましい表面の粗さを作出するための別の技術が特許文献8に開示されている。この方法においては、インプラント表面に接着された金属要素を有し、その結果、多孔性表面幾何形状を画成しているインプラントがエッチングされて、μm又なnm規模の表面の粗さを生成する。例えば、金属要素は、約40μmから数ミリメーターのサイズを有する金属ビーズである。しかしながら、この方法はかなり骨の折れるものであり、そして金属要素が、被覆技術によって、続いてこれらの要素を融解するための焼結によって、インプラントの表面に、そして互いに、塗布される故に、先端機器の使用を必要とする。従って、この方法も高価なものである。
【0018】
要するに今日では、インプラントのオッセオインテグレーションを改質するための多くの技術が存在するものの、これらの方法は概して処理性、コスト効率及び生物学的作用、及び埋め込み後の安定性に関して欠点を有する。従って、オッセオインテグレーションを更に促進する性質を有するインプラント製造における改善のための技術分野において、ニーズが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】米国特許第7,169,317号公報(Beaty)
【特許文献2】米国特許第7,169,317号公報
【特許文献3】米国出願2007/01100890号公報
【特許文献4】米国出願2007/0112353号公報
【特許文献5】WO 2007/050938 (Berckmans III ら)
【特許文献6】欧州特許第1440669B1号公報
【特許文献7】米国公開特許第2004/0153154 A1号公報(Dinkelacker)
【特許文献8】欧州公開第1449544A1号公報(Wen ら)
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】L Cooperら:「A multicenter 12-month evaluation of single-tooth implants restored 3 weeks after 1-stage surgery」、The International Journal of Oral & Maxillofacial Implants, Vol 16, No 2 (2001)
【非特許文献2】Branemark ら:「Osseointegrated Implants in the Treatment of the Edentulous Jaw, Experience from a 10-year period」、Almquist & Wiksell International, ストックホルム, スウェーデン
【非特許文献3】D M Esposito, pp 836-837,「Titanium in Medicine, Material Science, Surface Science, Engineering, Biological Responses and Medical Application」, Springer-Verlag (2001)
【非特許文献4】(Albrektsson T, Branemark P I, Hansson H A, Lindstrom J,「Osseointegrated titanium implants. Requirements for ensuring a long-lasting, direct bone anchorage in man」、Acta Orthop Scand, 52:155-170 (1981))
【非特許文献5】Anselme K,「Osteoblast adhesion on biomaterials」、Biomaterials 21, 667-681 (2000)
【非特許文献6】Martin JYら、「Proliferation, differentiation, and protein synthesis of human osteoblast-like cells (MG63) cultured on previously used titanium surfaces」、Clin Oral Implants Res, Mar 7(1), 27-37, 1996
【非特許文献7】Kieswetter K, Schwartz Z, Hummert TW, Cochran DL, Simpson J, Dean DD, Boyan BD、「Surface roughness modulates the local production of growth factors and cytokines by osteoblast-like MG-63 cells」、J Biomed Mater Res, Sep., 32(1), 55-63, 1996)
【非特許文献8】Bershadsky A, Kozlov M及びGeigerB、「Adhesion-mediated mechanosensitivity: a time to experiment, and a time to theorize」、Curr Opin Cell Biol, 18(5), 472-81, 2006
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の目的は、骨組織に埋め込む際の骨組織と部材間の付着の所望の速度を有し、そして該骨組織と機械的に強い結合を形成する生体適合性部材を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、そのような生体適合性部材の製造方法を供することである。
【0023】
通常、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ニオブ及びそれらの合金をかなりの程度まで被覆する不動態化酸化物(passivating oxide)は、金属と生体組織間の如何なる化学的相互作用をも防ぐことによって、これらの金属に生体適合性を与える。けれども、酸化物構造に小さな欠陥を引き起こすことによって、金属部材の生体適合性は、実際には、更に増大され得る。本発明者らは、金属酸化物表面を有する部材をシュウ酸で処理することによって、生きた骨内への埋め込みのための改善された性質を有する、部材の改質表面構造が得られることを見出した。
【0024】
このように、1つの側面において、本発明は生体適合性部材の改質方法であって、以下の工程:
a)少なくとも部分的に金属酸化物で被覆された生体適合性部材を備えること;及び
b)該部材の部分が該金属酸化物で被覆された、その部材の少なくとも一部を、シュウ酸を含む水性組成物で処理すること;
を含み、そのことによって改質された金属酸化物が得られる、方法に関する。
【0025】
本発明の方法によって得られる部材は、微細構造、及び該微細構造上に重なる一次ナノ構造を含む階層的表面トポグラフィーを有し、それが、そこに接着された骨形成細胞の活性を増大させることを発見した。
【0026】
審美性がインプラント学の増々重要な側面となってきたため、従来のチタン歯科用インプラントは、従来の酸化チタン表面の金属的な灰色光沢が患者の歯肉を通して見え得る故に、完全な審美性の解決策に対する障害になっている。有利なことに、本発明の方法によって得られる改質された酸化物表面は白っぽい色を有し、本発明による処理される前の成分の表面の金属的な灰色よりもより明るくより無光沢である。この白っぽい色は、自然に見えるインプラントが得られるため、歯科用部材にとって非常に望ましい。この白っぽい色は、ブラスチングされた部材において最もよく見られる。部材の変色は、工程bが完了したことの指標としても使用できる。
【0027】
工程bの組成物におけるシュウ酸濃度は、0.001から5Mの範囲内の、好ましくは約1Mであってよく;工程bの処理時間は、10から60分の範囲内の、そして好ましくは20から40分の範囲内である。工程bの処理時間は20から30分の範囲内、そしてより好ましくは約25分であり、工程bの組成物の温度は、一般的には約20℃から約100℃の範囲内の;好ましくは60℃から90℃の範囲内の;そしてより好ましくは約80℃の温度である。
【0028】
場合により、上記方法は
c)i)イオン化されたフッ素及びイオン化された塩素を含むグループから選ばれる少なくとも1つの物質;及び
ii)少なくとも1つの酸;
を含む第二の水性組成物で、前記改質された酸化物の少なくとも部分を処理する工程を更に含む。
【0029】
特に、前記改質された金属酸化物上に不動態化酸化物が形成される前に、工程cが実行されるべきである。工程bにおいて得られた改質された酸化物が不動態化酸化物によって被覆される前に、工程cを行うことによって、一様に分布した二次ナノ構造を有する表面が得られ、それによって、部材のオッセオインテグレーションが促進される。このようにして、本部材が、通常の大気圧で、酸素含有大気において0℃又はそれより高い温度例えば室温に保持される場合、工程b及び工程cの間の間隔は、成分表面上での不動態化酸化物の形成を避けるために、できるだけ短い方が好ましい。そのような条件下、工程cは工程bの完了後、180時間又はそれより短い時間、例えば72時間、36時間、24時間、又は1時間以内で実行され得る。好ましくは、工程cは工程bの完了後、30分又はそれより短い時間以内で実行され、そしてより好ましくは、工程bの完了後、10分又はそれより短い時間以内で実行される。
【0030】
第二の水性組成物は、0.5から5の範囲内、好ましくは1から3の範囲内、そしてより好ましくは約2のpH;及び0.05から0.5Mの範囲内、そしてより好ましくは約0.1Mの、イオン化されたフッ素及び/又は塩素の濃度を有してよい。工程cの活性化処理時間は10秒から60分の範囲内、好ましくは10秒から3分の範囲内、そしてより好ましくは10秒から50秒の範囲内である。工程cの組成物の温度は一般的には15℃から25℃の範囲内;そして好ましくは18℃から23℃の範囲内である。
【0031】
本発明の方法では、水溶液のみが使用されるため、成分表面上に残る有機残留物のような、有機溶媒に関係する問題が避けられる。工程cにおいて使用される水溶液は好ましくはフッ化水素酸を含む。
【0032】
簡単な装置を使用する本方法はまた、容易に実行されそして堅固である。従って、本発明の方法はコスト効率に優れそして産業上の適用可能性に適している。更に、有利なことに処理時間が短い。
【0033】
更に、部材の表面に骨成長増強物質を含有させることによって、部材のオッセオインテグレーションを増強し得る。この表面は、例えば、金属イオン又はその塩を、工程b及び/又は工程cの水性組成物中に含有させることによって達成でき、ここで金属イオンは、チタンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、ストロンチウムイオン、又はそれらの任意の組合せから成るグループから選ばれ得る。特に、本発明者らは、骨組織中に局所的に投与されたリチウムイオン又はストロンチウムイオンが該骨組織における骨成長及び骨量に対する局所的効果を有することを見出した。更に、見出されたことは、イオン化されたリチウム又はストロンチウムを含有し及び/又は放出する表面酸化物を含むインプラントが、例えばイオン化されたカルシウム又はマグネシウムを含有する表面酸化物層を含むインプラントと比べて、改善された骨形成速度を与えることである。従って、工程bの組成物及び/又は工程cの組成物は、リチウム及び/又はストロンチウム又はそれらの塩を含み得る。オッセオインテグレーションのための好ましい基体を提供するために、生体適合性部材は少なくとも部分的にチタン又はチタン合金から成る。従って、該金属酸化物は好ましくは酸化チタンを含む。該金属酸化物は本質的に酸化チタン又は酸化チタンの組合せから成ってよい。金属酸化物が不動態化酸化チタンであってよい。
【0034】
望ましい初期表面の粗さ又は望ましい化学的特性を有する部材を提供するために、生体適合性部材は工程bの前に機械的な及び/又は化学的な表面処理にかけられ得る。化学的処理は例えば本発明の方法の結果又は成分の生体適合性に悪影響を及ぼし得る望ましくない物質を除くための洗浄プロセスを含む。ブラスチングのような粗くする処理によって、成分のオッセオインテグレーションを更に向上でき、そしてその生体力学的性質が改善し得る。
【0035】
別の側面において、本発明は、上記のような方法によって得られる部材に関する。
【0036】
本発明者らは、微細構造、及び該微細構造上に重なる一次ナノ構造を含む階層的表面トポグラフィー(組織分布)を有する表面が、オッセオインテグレーションと骨組織との生体力学的相互作用に関して改善されたインプラント表面を提供することを見出した。従って、別の側面において、本発明は生体適合性部材であって:
a)プラトー及び/又はリッジによって分離された微細ピットを含む微細構造;及び
b)該微細構造の上に重なっている一次ナノ構造、ここで該一次ナノ構造は波状の形に配置された窪みを含む;
を含む表面を有する基体を含む生体適合性部材に関する。
【0037】
本発明者らは、上記表面が骨芽細胞分化及び骨前駆体物質の分泌を促進することを見出した。微細構造は、細胞培養皿に似た孔状のピットを含む下に横たわる微細粗さを与え、そのピットは増殖したり分化したりする細胞を刺激する。おそらく、微細構造及び一次ナノ構造を含む表面トポグラフィーは、骨吸収が起こっている生体骨における部位のトポグラフィーに類似している。本発明の部材の表面トポグラフィーは、インプラント部位の周りに存在する前骨芽細胞の期待に合い、そして骨の再モデリングに対する破骨細胞によって作成された自然の骨の表面を模倣することによって、骨芽細胞活性が本発明に記載の部材によって迅速にかつ強力に誘導され得ると考えられる。微細構造は、0.5から15μmの範囲内の、好ましくは1から10μmの範囲内のピット直径;0.1から2.5μmの範囲内の、そして好ましくは0.1から1μmの範囲内の深さを有してよい。隣接する微細ピットの間の距離は最大で10μmまであり得る。一次ナノ構造の窪みは10nmから1μmの範囲内の、好ましくは10nmから600nmの範囲内の、そしてより好ましくは10nmから500nmの範囲内の直径を有する。深さは10nmから300nm、そして一般的には30から150nmであり得る。更に、一次ナノ構造の個々の窪みの直径は、一般的には同じ個々の窪みの深さを超える。
【0038】
上記の如く、一次ナノ構造は一次微細構造上に重なる。更に、一次ナノ構造の直径及び深さは、各々、微細構造上の個々のピットの対応する寸法よりも小さい。このように、微細構造の個々のピットは一般的には一次ナノ構造の多数の窪みを含む。更に、一次ナノ構造の窪みの境界は、一般的には一次ナノ構造の他の窪みの境界の部分を構成する。
【0039】
更に、上記表面は一様に分布したパターンで該一次ナノ構造の上に重なっている分離したナノ要素を含み、そして丸みのある突起の形状を有する第二ナノ要素を含み得る。第二ナノ要素は、下に横たわる表面への細胞の接着性を改善し、そしてさらに細胞活性を刺激すると考えられる。
【0040】
本発明の生体適合性部材の二次ナノ構造は、20から550nm、好ましくは20から150nmの範囲内のピーク直径;及び5から200nm、好ましくは5から100nmの範囲内の平均ピーク高さを有し得る。ピーク間距離は一般的には10から450nmの範囲内、好ましくは40から200nmの範囲内である。ピーク密度は一般的には、15から150ピーク/平方μmの範囲内の、そして好ましくは50から130ピーク/平方μmの範囲内である。
【0041】
一般に、骨組織−骨インプラントの界面で、コラーゲン及びミネラルの含有量が低下した組織層が形成されるため、正常で健康な骨と比べて低下した強度しか有しない結果となる。この組織層の厚みが、骨−インプラント界面の機械的強度を決定する(Albrektsson,
T ら、「Ultrastructural analysis of the interface zone of titanium and gold implants」、Advances in Biomaterials 4, 167-177, 1982; Albrektsson, Tら,「Interface analysis of titanium and zirconium bone implants」、Biomaterials 6, 97-101, 1985; Albrektsson T, Hansson, H-A,「An ultrastructural characterization of the interface between bone and sputtered titanium or stainless steel surfaces」、Biomaterials 7, 201-205, 1986; Hansson, H-A ら、「Structural aspects of the interface between tissue and titanium implants」、Journal of Prosthetic Dentistry 50, 108-113, 1983; Johansson, C ら、「Ultrastructural differences of the interface zone between bone and Ti6A14V or commercially pure titanium」、Journal of Biomedical Engineering 11, 3-8, 1989; Johansson, C. ら、「Qualitative, interfacial study between bone and tantalum, niobium or commercially pure titanium」、Biomaterials 11, 277-280, 1990; Sennerby, L ら、「Structure of the bone-titanium interface in retrieved clinical oral implants」、Clinical Oral Implants Research 2, 103-111, 1991; Sennerby, L ら、「Ultrastructure of the bone-titanium interface in rabits」、Journal of Materials Science: Material in Medicine 3, 262-271, 1992; Sennerby,
L ら、「Early tissue response to titanium implants inserted in rabit cortical bone, Part II: Ultrastructural observations」、Journal of Materials Science: Material in Medicine 4, 494-502, 1993)。微細構造及び一次ナノ構造を含む階層的表面トポグラフィーによって、部材と引続いて形成される骨組織との間の改善された機械的相互作用が与えられ、その結果、強度が低下したより薄い組織層が形成されると考えられる。二次ナノ構造によって、埋め込み後の生体適合性部材と周囲の骨組織間の機械的相互作用が更に改善される。従って、本発明の生体適合性部材によって、改善されたせん断強さ及び引張り強さを有する骨組織−インプラント界面が供される。
【0042】
更に、望ましい初期表面の粗さ又は望ましい化学的特性を有する部材を提供するために、基体が機械的及び/又は化学的表面処理にかけられる。化学的処理は例えば洗浄処理を含み得る。ブラスチングのような粗くする処理によって、引続いて形成される微細構造の直径及び深さが、及び一次ナノ構造の直径の変動が、より少ない(つまり、より小さな標準偏差値を有する)表面構造が与えられ得る。本発明の部材の表面の等質性(homogeneousness)の増加によって、成分のオッセオインテグレーションが更に向上し、そしてその生体力学的性質が改善する。
【0043】
生体適合性部材基体は一般的には少なくとも部分的にチタン又はチタン合金から成る。好ましくは、基体はチタンから成る。更に、二次ナノ構造は金属酸化物、好ましくは酸化チタンを含み得る。金属酸化物のみから成り得る部材表面の等質性は、埋め込み後の部材の長期安定性及び完全性に関して非常に有利である。加えるに、部材の表面構造は、滅菌手順及び貯蔵保管に関して安定である。
【0044】
更に、部材表面に骨成長増強物質を含有させることによって本発明の成分のオッセオインテグレーションを増強し得る。そのような表面は、例えば、金属イオン例えばチタンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、ストロンチウムイオン、又はそれらの任意の組合せから成るグループから選ばれるものをその表面に含有させることによって達成され得る。特に、本発明者らは、骨組織中に局所的に投与されたリチウムイオン又はストロンチウムイオンが該骨組織における骨成長及び骨量に対する局所的効果を有し得ることを見出した。従って、本発明の部材の表面はリチウム及び/又はストロンチウム又はその塩を含み得る。
【0045】
本発明の生体適合性部材は歯科用部材、例えば、インプラント、固定具、橋脚歯、又はワンピースインプラントのようなそれらの組合せであり得る。本発明の生体適合性部材は、患者の大腿骨の頸部内への埋め込みを目的とする股関節部材のような整形外科用成分でもあり得る。
【0046】
別の側面において、本発明は生体適合性部材をヒト又は動物の体内にインプラントする方法であって、以下の工程:
i)上記記載の生体適合性部材を備えること;及び
ii)該生体適合性部材をヒト又は動物の体にインプラントすること;
を含むインプラント方法に関する。
【0047】
例えば、部材は前記ヒト又は動物の体の歯周領域内にインプラントされ得る。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】微細構造に関して使用されるパラメーターを定義している模式図である。
【図2】一次ナノ構造に関して使用されるパラメーターを定義している模式図である。
【図3】二次ナノ構造に関して使用されるパラメーターを定義している模式図である。
【図4】微細構造及び一次ナノ構造の各々に関して使用される角度を定義している模式図である。
【図5a】本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図5b】本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像であり、ここで微細構造の直径に印が付けられている。
【図6a】本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像であり、ここで一次ナノ構造の窪みに印が付けられている。
【図6b】本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像であり、ここで一次ナノ構造の直径に印が付けられている。
【図7】従来のブラスチング技法にかけられたチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図8】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図9】本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図10】本発明のチタンサンプルの原子間力顕微鏡の3D画像である。
【図11】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像であり、ここで微細構造の要素に印が付けられている。
【図12a】フッ化水素酸及びシュウ酸の混合物中で処理されたチタン参照サンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図12b】フッ化水素酸及びシュウ酸の混合物中で処理されたチタン参照サンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図12c】フッ化水素酸中で処理され、引続いてシュウ酸中で処理されたチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図13a】本発明のチタンサンプルにおける微細構造ピットの直径、深さ、及び隣接ピット間の距離の分布を各々示すグラフである。
【図13b】本発明のチタンサンプルにおける微細構造ピットの直径、深さ、及び隣接ピット間の距離の分布を各々示すグラフである。
【図13c】本発明のチタンサンプルにおける微細構造ピットの直径、深さ、及び隣接ピット間の距離の分布を各々示すグラフである。
【図14a】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルにおける微細構造ピットの直径、深さ、及び隣接ピット間の距離の分布を各々示すグラフである。
【図14b】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルにおける微細構造ピットの直径、深さ、及び隣接ピット間の距離の分布を各々示すグラフである。
【図14c】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルにおける微細構造ピットの直径、深さ、及び隣接ピット間の距離の分布を各々示すグラフである。
【図15a】本発明のチタンサンプルにおける一次ナノ構造の窪みの直径及び深さの分布を各々示すグラフである。
【図15b】本発明のチタンサンプルにおける一次ナノ構造の窪みの直径及び深さの分布を各々示すグラフである。
【図16a】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルにおける一次ナノ構造の窪みの直径及び深さの分布を各々示すグラフである。
【図16b】ブラスチングされた本発明のチタンサンプルにおける一次ナノ構造の窪みの直径及び深さの分布を各々示すグラフである。
【図17a】本発明のチタンサンプルにおける二次ナノ構造のピークの直径、高さ及びピーク間距離の分布を各々示すグラフである。
【図17b】本発明のチタンサンプルにおける二次ナノ構造のピークの直径、高さ及びピーク間距離の分布を各々示すグラフである。
【図17c】本発明のチタンサンプルにおける二次ナノ構造のピークの直径、高さ及びピーク間距離の分布を各々示すグラフである。
【図18】市販のチタン・インプラント表面上での及び本発明の表面上での、7日間成長させた細胞の増殖を各々示すグラフである。
【図19】市販のチタン・インプラント表面上での及び本発明の表面上での、細胞培養7日後のアルカリホスファターゼの産生を各々示すグラフである。
【図20a】市販のインプラント表面上の中央での30時間生長させた細胞の走査型電子顕微鏡の画像である。
【図20b】本発明の部材の表面上での36時間生長させた細胞の走査型電子顕微鏡の画像である。
【図20c】本発明の部材の表面上での36時間生長させた細胞の走査型電子顕微鏡の画像である。
【図21】市販のチタン・インプラント表面上での及び本発明の表面上での、培養7日後及び14日後のプロスタグラジンE2の産生を各々示すグラフである。
【図22】ウサギモデルにおける、本発明のインプラント及び市販のチタンインプラントに対する除去トルク試験結果を示すグラフである。
【図23a】埋め込み後6週間のウサギモデルにおける、本発明のインプラント及び市販のチタン・インプラントの各々の組織学的断面の画像である。
【図23b】埋め込み後6週間のウサギモデルにおける、本発明のインプラント及び市販のチタン・インプラントの各々の組織学的断面の画像である。
【図24a】埋め込み後6週間のウサギモデルにおける、本発明のインプラント及び市販のチタン・インプラントの各々の組織学的断面のセクション画像である。
【図24b】埋め込み後6週間のウサギモデルにおける、本発明のインプラント及び市販のチタン・インプラントの各々の組織学的断面のセクション画像である。
【図25a】市販のチタンインプラント表面を表す参照チタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図25b】疑似体液(SBF)中に浸漬後の図25aに示されるサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図26a】本発明の工程bに従って処理されたチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図26b】疑似体液(SBF)中に浸漬後の図26aに示されるサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図27a】本発明の工程b及び工程cに従って処理されたチタンサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図27b】疑似体液(SBF)中に浸漬後の図27aに示されるサンプルの走査型電子顕微鏡の画像である。
【図28】参照サンプル及び本発明に従って処理されたサンプルの、エネルギー分散分光法で測定された、アパタイト形成後の残留チタンシグナルを示すグラフである。
【図29】参照サンプル及び本発明に従って処理されたサンプルの、アパタイト形成後の計算されたCa/P比を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0049】
本明細書で使用されるように、用語「生体適合性部材」は、生きた組織に長期間又は短期間接触することが意図され、そして該接触の際に、組織の有意な有害生体反応を引き起さない、任意の成分を、その範囲内に含む。生体適合性部材の一例は歯科用のインプラントのようなインプラントである。
【0050】
本明細書で使用されるように、用語「インプラント」は、その少なくともその一部が脊椎動物、特にヒトのような哺乳類の体内にインプラントされることが意図された、任意デバイスを、その範囲内に含む。インプラントは、体の解剖学的構造を代替するために及び/又は体の任意の機能を修復するために使用され得る。
【0051】
一般に、インプラントは1つ又は幾つかのインプラント部分から構成される。例えば、歯科用インプラントは通常、橋脚歯及び/又は修復歯のような二次的インプラント部分と結合している歯科用固定具を含む。しかしながら、埋め込みを目的とする歯科用固定具のような任意のデバイスは、他の部分がそこに結合されることになる場合であっても、単独でインプラントという場合がある。
【0052】
本明細書で使用されるように、用語「不動態化(金属)酸化物」は、自然酸化物ともいわれる、自然に形成された酸化物のことをいい、これは時間が経っても安定で実質的により厚く成長しない、そして下に横たわる基体の、外部試薬との如何なる実質的な化学反応をも防ぐ。大気中の酸素と接触してチタン上で形成される不動態化酸化チタンは一般に2〜5nmの厚みを有する。
【0053】
本明細書で使用されるように、用語「骨成長増強物質」は、単独で又は他の物質との組合せで骨形成を促進できる(例えば、骨芽細胞又は前骨芽細胞の接着、増殖及び分化を促進できる;骨マトリックス成分の生成、骨マトリックス成分の分泌、骨マトリックスの石灰化を促進できる;そして破骨細胞活性を抑制できる)如何なる物質も、その範囲内に含む。
【0054】
本明細書で使用されるように、用語「微細構造」は、一般に0.5μmから100μmの範囲に及ぶ寸法の物理的構造を称し、そして用語「ナノ構造」は、一般に0.1nmから500nmの範囲に及ぶ寸法の物理的構造を称する。
【0055】
本発明の生体適合性部材は、歯科用成分、例えば、インプラント、固定具、橋脚歯、又はワンピースインプラントのようなそれらの組合せであってよい。生体適合性部材は、患者の大腿骨の頸部内への埋め込みを目的とする股関節部材のような整形外科部材であってもよい。
【0056】
本発明の生体適合性部材は、金属、例えば、チタン又はその合金、ジルコニウム又はその合金、ハフニウム又はその合金、ニオブ又はその合金、タンタル又はその合金、クロム−バナジウム合金、又はこれらの材料の如何なる組合せの金属、又は非金属体のような如何なる適切な材料から成り得る。生体適合性部材は、金属層、例えば非金属体または部分的に非金属材料から成る物体を被覆する塗布された金属表面層を備えていてもよい。非金属材料の例にはセラミック、プラスチック及び複合材料が挙げられる。
【0057】
金属酸化物は自然に空気で形成された酸化物であってもよく、又はそれは本発明の方法の前に如何なる種類の処理において形成されてもよい。
【0058】
生体適合性部材は、本発明の方法の更なる改質のための所望の基体表面を作出するために、如何なる種類の前処理にかけられてもよい。例えば、所望の初期表面組成又は粗さを得るために、本部材は機械的、化学的又は熱的処理、又はそれらの任意の組合せによって前処理されてもよい。機械的処理は、例えば、ブラスチング処理を含む。化学的処理は、例えば、洗浄又は脱脂処理を含む。
【0059】
1つの側面において、本発明は生体適合性部材の改質方法に関する。
【0060】
本発明の方法に従えば、生体適合性部材の少なくとも一部が、シュウ酸を含む水性組成物での処理にかけられ、そのことによって改質された金属酸化物が得られる(工程bと称される)。この処理において、改質された金属酸化物が溶かされ、そして下に横たわる基体がエッチングされ、一方で新しい酸化物が生体適合性部材上に形成される。酸化物の溶解及再酸化プロセスは同時に起こる。
【0061】
処理される生体適合性部材の部分は、前記金属酸化物によって少なくとも部分的に被覆される。本発明の実施態様において、工程bは、高温で、一定時間激しく撹拌しながら、シュウ酸の水溶液中に部材を置くことによって実行される。
【0062】
あるいは、部材の一部のみをこの組成物中に浸漬、例えば、ディッピングしてもよい。処理されることを意図しない成分の一部は処理の間マスキングされてもよい。
【0063】
工程bの組成物のpHは、pH5又はそれより下、pH2又はそれより下、又はpH0.7又はそれより下のような酸性であるべきである。処理の便利さの観点から、pHはできるだけ低いことが好ましい。
【0064】
シュウ酸を含む水性組成物は、約0.001から約5Mの範囲内の濃度でシュウ酸を含む水溶液、例えば、該範囲内の濃度でのシュウ酸の溶液であってよい。好ましくは、組成物中のシュウ酸の濃度は、0.01から2Mの範囲内、より好ましくは0.1から2Mの範囲内、そして最も好ましくは約1Mである。
【0065】
工程bの目的のために、生体適合性部材の少なくとも一部を、シュウ酸を含む組成物中に約5から約60分の範囲内で、例えば20から40分の一定時間、浸漬させてもよい。一般的には、工程bの処理時間は約25分から約30分である。工程bの処理は、シュウ酸を含む水性組成物から部材が取り出された時点で完了したものとされる。
【0066】
水性組成物の温度は、約20℃から約100℃の範囲内であってもよい。一般的には、シュウ酸を含む水性組成物の温度は、60℃から90℃の範囲内、例えば約80℃であってもよい。
【0067】
例として、工程bの処理は80℃の温度で30分間、約1Mのシュウ酸濃度を用いて行われてよい。
【0068】
チタン部材が使用される場合、工程bで得られた改質された酸化物は、空気中で形成された不動態化酸化チタンよりもより反応性があり、そしてそれは空気中で形成された不動態化酸化チタンよりもより高い水分含量を有する。おそらく、本発明の改質された酸化チタンは、空気中で形成された又は化学的洗浄前処理において形成された不動態化酸化チタンよりもより非晶質である。工程bで得られた改質された酸化物の表面構造は微細構造及び一次ナノ構造を含み、その例が図5及び6に示されており、そしてそれについて以下により詳細に述べる。
【0069】
工程bで得られた生体適合性部材の表面は、本発明の方法に記載の処理前の部材の表面の金属的な灰色よりもより明るく光沢が少ない色を有する。
【0070】
しかしながら、ブラスチングによって前処理された本発明の部材、及び単純に機械加工された本発明の部材の間には色の違いがあり、ブラスチングされた部材は、機械加工された部材よりも白っぽい色を有する。この変色は、工程bが完了した指標として使用され得る。しかしながら、この変色は、超音波浴中での洗浄の2分後により明瞭に見られる。
【0071】
工程bに続いて、改質された酸化物の少なくとも一部分が、イオン化されたフッ素及びイオン化された塩素及び少なくとも1つの酸から成るグループから選ばれた少なくとも1つの物質を含む第二の水性組成物を用いた処理にかけられ得る(「工程c」と称する)。工程cによって、工程bにおいて形成された改質された金属酸化物の部分が溶け、そして引続いて沈殿して、該微細構造及び一次ナノ構造の上に重なっている均一に分布した金属酸化物の丸みのある突起を含む二次ナノ構造が形成される。代替として、溶けている金属酸化物の金属と複合体を形成する任意の他の化合物を使用し得る。フッ素と塩素はチタン錯化剤と知られている。
【0072】
部材が通常の大気圧で、そして空気のような酸素含有大気中、少なくとも0℃の温度に保持される場合、工程cは、工程bの完了後、比較的に短期間内で実行されるべきである。工程bは、工程bの水性組成物から部材が取り出されるや否や完了したものとされる。より詳しくは、工程cは、工程bにおいて得られる改質された金属酸化物が、その上に形成される不動態化酸化物によって覆われる前に実行されるべきである。不動態化酸化物は、それが、下に横たわる材料と、外部試薬との如何なる実質的な化学反応をも防ぐときに形成されるものとされる。工程bにおいて得られる改質された酸化物の反応性は、二次ナノ構造の丸みのあるピークの均一な分布を達成するために極めて重要である。工程cの処理の間、多数の活性部位で改質された酸化物を酸が攻撃し、酸化物を溶解すると考えられる。このプロセスにおいて発生した水素ガスによって、各活性部位で局所的にpHが高くなる。水性組成物が十分に高い濃度の金属材料を有していることを条件として、局所的に上昇したpHによって金属酸化物の活性部位での沈殿が引き起こされる。工程bにおいて得られる改質された酸化チタンの溶解によって酸化チタンが沈殿するのに十分に高いチタン濃度が得られ得る。酸素の存在下で時間とともに次第に不動態化酸化物が形成するので、部材が通常の大気圧で、そして酸素含有大気中少なくとも0℃の温度、例えば室温(15から25℃)に保持される場合、工程b及び工程cの間のより短い時間間隔で工程cの最終結果が改善されるであろう。このように、そのような条件下で、工程b及び工程cの間の間隔は、好ましくは出来るだけ短く保持される。工程cは工程bの完了後、180時間以内までに、例えば工程bの後72時間、36時間、24時間、又は1時間以内に実行され得る。好ましくは、工程cは工程bの完了後、30分又はそれより短い時間以内で、より好ましくは、10分又はそれより短い時間以内で実行され、そして最も好ましくは工程bの完了後、3分又はそれより短い時間以内で実行される。しかしながら、もし部材が不活性雰囲気に保持されるならば、又はさもなければ不動態化酸化物表面の形成が防がれるならば、工程b及び工程cの間の時間間隔はかなり長くてもよい。不動態化酸化物の形成を避けるために、通常の空気に比べて反応性酸素の量が低下した如何なる雰囲気も使用し得る。例えば、工程bに続いて、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン又はラドンのような不活性ガス中に部材を置いてもよい。あるいは、部材を減圧下の雰囲気中に又は真空中においてもよい。あるいは、部材を冷却又は冷凍してもよい。不動態化酸化物の形成を部分的に又は完全に抑制するための上記戦略の如何なる組合せもまた使用し得る。例えば、部材を工程bにかけ、引続いて冷凍し又は不活性ガス中に長時間置き、そして次に酸素含有雰囲気における通常の条件(通常の大気圧下で少なくとも0℃の温度)に戻してもよい。そのような場合、酸素含有雰囲気における該通常条件下に部材が過ごした、工程b及び工程cの間の時間は、180時間又はそれより少なく、例えば、72時間又はそれより少なく、36時間又はそれより少なく、24時間又はそれより少なく、1時間又はそれより少なく、30分又はそれより少なく、10分又はそれより少なく、又は3分又はそれより少なくすべきである。
【0073】
本発明の実施態様において、フッ化水素酸を含む水溶液中に成分を浸漬することによって工程cが実行される。あるいは、成分の一部のみをこの組成物中に浸漬、例えば、ディッピングしてもよい。処理されることを意図しない成分の一部は処理の間マスキングされてもよい。
【0074】
水性組成物は、イオン化されたフッ素及びイオン化された塩素及び少なくとも1つの酸を含むグループから選ばれる少なくとも1つの物質を含む。水性組成物は、0.5から5の範囲内の、好ましくは1から3の範囲内の、より好ましくは約2のpHを有する水溶液であってよい。イオン化されたフッ素及び塩素の濃度は約0.05から0.5Mの範囲内であってよい。例えば、組成物は該範囲内の濃度を有するフッ化水素酸(HF)の溶液であってよい。好ましくは、約0.1から0.3Mの範囲内、そしてより好ましくは0.1Mのフッ化水素酸の濃度が使用される。
【0075】
工程cの処理は、酸が基体表面上で作用するのが観察された時に開始されるものとされる。この作用は成分表面での水素ガスの形成によって検出でき、それは通常、室温で約20〜30秒後に起こる。このように、用語「積極的処理」は、水素ガスの最初の気泡の形成で開始され、実行される処理を意味する。工程cの積極的処理時間は、10秒から3分まで、10秒から2分まで、10から60秒まで、10から50秒まで、10から40秒まで、そして10から30秒までのような、10秒から60分までの範囲内である。
【0076】
工程cは周囲温度で実行され得る。一般的には、工程cの水性組成物は15から25℃の範囲内の温度、例えば18から23℃の範囲内の温度を有する。
【0077】
例として、工程cの処理は、室温で約0.1Mの濃度のフッ化水素酸を用いて40秒の積極的処理時間で実行され得る。
【0078】
許容できる結果を得るために、処理時間、温度、pH及び濃度のパラメーターの任意の1つの調整に、該パラメーターの任意の他の1つの上述の範囲で適切な調整を必要とすることが正しく理解されるであろう。
【0079】
工程cによって、工程bにおいて得られる階層的表面構造は、そのより細かな構造は部分的に溶解され得るものの、一般に保持される。工程cの後に得られる表面構造が図8及び9に示されており、そして以下により詳細に述べられる。本発明の実施態様において、工程bによって得られる改質された金属酸化物の溶解に由来する金属酸化物は、沈殿して、微細構造及び一次ナノ構造の頂部上に一様に分布した丸みのあるピークを含む二次ナノ構造を形成する。本発明の実施態様において、二次ナノ構造のピークはこのように金属酸化物から成る。工程cの組成物の金属濃度を増加させるために、工程cの水性組成物に、可溶性の金属化合物が別途に添加されてもよい。
【0080】
場合により、工程b及び工程cにおいて使用される組成物は、骨成長増強物質を含んでもよい。骨成長増強物質はチタンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、及び/又はストロンチウムイオンのような金属イオン、又はそれらの塩を含んでもよい。これらのイオンは組成物に別々に添加されてもよい。例えば、工程bの組成物又は工程cの組成物のどちらかが如何なる上記金属イオンをも含んでもよい。あるいは、両方の組成物が金属イオンを含んでもよい。両方の組成物が金属イオンを含む時、それらは同じ種又は異なる種の金属イオンを含んでもよい。上記金属イオン又はそれらの如何なる組合せをも組込むことによって、化学的性質が変わった該イオン及び/又はそれらの塩を含む改質された表面が得られ得る。このように、部材の生体適合性が改善され得て、そして部材のオッセオインテグレーションが刺激され得る。
【0081】
特に、本発明者らは、骨組織中に局所的に投与されたリチウム又はストロンチウムイオンが、該骨組織における骨形成及び骨量に対する局所効果を有することを見出した。更に、見出されたことは、イオン化されたリチウム又はストロンチウムを含有し及び/又は放出する表面を含むインプラントが、例えばイオン化されたカルシウム又はマグネシウムを含有する表面酸化物を含むインプラントと比べて、改善された骨成長速度、そしてその結果、骨組織及びインプラントの間の改善された固着速度を与えることである。従って、本発明の実施態様において、工程b及び工程cの組成物の両者又は工程b組成物のみが、イオン化されたリチウム又はストロンチウム又はその組合せを含む。あるいは、工程c組成物のみがイオン化されたリチウム又はストロンチウム又はその組合せを含む。
【0082】
あるいは、イオン化されたリチウム又はストロンチウムのような骨成長増強物質が、本発明の工程b又は工程cの実行の後で部材の表面上に塗布され得る。
【0083】
別の側面において、本発明は上述の方法によって得ることができる生体適合性部材、及び生体適合性部材をヒト又は動物の体内にインプラントする方法に関する。例えば、生体適合性部材がヒト又は動物の該体の歯周領域内にインプラントされ得る。
【0084】
別の側面において、本発明は微細構造、該微細構造の上に重なる一次ナノ構造、及び場合により、該一次ナノ構造の上に重なる二次ナノ構造を含む階層的表面構造を有する生体適合性部材に関する。
【0085】
微細構造のプロファイルに関する用語「深さ」(h1)、「直径」(x1)及び「距離」(D1)は、図1に定義されている。ピットの深さ(h1)は、二つの隣接ピークの間に引かれた仮想直線、及びその最低点での中間表面の間の距離として定義される。もし、明確に定義されたピークが存在しない場合は、表面プロファイルが、本質的に平らな表面プロファイル(プラトー)からずれ始めるそれらの点の間に仮想直線が引かれる。ピットの直径(x1)及び隣接ピットの間の距離(D1)は、図1において定義された通りの前記隣接点の間の距離である。図1においては、重なった一次ナノ構造も微細構造上に模式的に与えられている。一次ナノ構造に関する用語「深さ」(h2)及び「直径」(x2)は、図2において対応して定義される。
【0086】
二次ナノ構造に関する用語「高さ」(h3)「直径」(x3)及び「ピーク−ピーク距離」は、図3に定義される。ピーク高さは、二つの隣接ピークの間に引かれた仮想直線、及びその最低点での中間表面の間の距離として定義される。ピーク直径(x3)は、表面プロファイルが、本質的に平らな表面プロファイルからずれ始めるピークのそれらの点の間で測定される。
【0087】
図4において、微細構造のプロファイルに関する角度α、及び一次ナノ構造のプロファイルに関する角度βが定義されている。角度αは二つの仮想直線の間の角度として定義され、その中の1つの線は、表面プロファイルが、本質的に平らな表面プロファイル(P1a)からずれ始める点での微細構造のピットの壁のスロープを表し、もう一方の線は、表面プロファイルが、本質的に平らな表面プロファイル(P1b)からずれ始める点での微細構造の隣接ピットの隣接壁のスロープを表す。互いに隣接する該ピットはこのようにプラトーによって分離され得る。従って、二つの隣接ピットがピークによって分離される場合、仮想直線は、該ピークでの壁の傾斜を表す。角度βは、一次ナノ構造上の窪みの壁のその変曲点(P2a)でのスロープ、及び一次ナノ構造の隣接窪みの隣接壁のその変曲点(P2b)でのスロープを各々表す二つの仮想直線の間の角度として定義される。二つのへこんだ窪みがピークによって分離されている場合、変曲点はこのように該ピークに位置する。
【0088】
本発明の部材の微細構造及び一次ナノ構造は、上述の方法の工程bにおいて本質的に得られる。上述の通り、工程bは厚くなった、反応性のそして白い又は白っぽい色を有する改質された酸化物表面を与える。図5aは、本発明の方法の工程bの後の成分のSEM画像であり、前記微細構造及び前記一次ナノ構造を示している。本部材はブラスチングによって前処理された。この画像において見られるように、微細構造は異なるサイズの孔状窪み又はピットを含む。図5bは本発明に記載の工程bの後の部材のSEM画像であり、ここで微細構造の幾つかのピットの直径に印が付けられている。
【0089】
図13及び14は微細構造のピットの直径、ピットの深さ及び互いに隣接するピットの間の距離の分布を示す。例えば、微細構造のピットは0.5から15μm、好ましくは1から10μm、そしてより好ましくは1から5μmの範囲内の直径x1;及び0.1から2.5μm、好ましくは0.1から1μm、そしてより好ましくは0.1から0.7μmの範囲内の深さh1を有し得る。隣接ピットは一般的に10μmまで、好ましくは5μmまでそしてより好ましくは3μmまでの直径を有し得るプラトー又はリッジによって分離される。このように、隣接ピット間の距離D1は、10μmまで、5μmまで又は3μmまでであり得る。しかしながら、分離するリッジを伴う場合にしばしば見られるように、二つの隣接ピットは、如何なる距離によっても全く分離されていないとされる場合がある。
【0090】
図5において見られるように、微細構造の個々のピットの略形状は大まかには円形又は楕円形であってよく、又はそれが不規則であってもよい。微細構造はアンダーカットも含み得る。更に、より大きな直径のピットは、より小さな直径の1つの又は幾つかのピットを含み得る。
【0091】
微細構造は、上記及び図4において定義されたように、20度から130度;好ましくは30度から120度、より好ましくは40度から110度、そして最も好ましくは50度から100度の範囲内の角度αを有し得る。
【0092】
上述の微細構造の上に、重なった一次ナノ構造が与えられる。一次ナノ構造は図5において見られ、そして図6において更に説明されており、ここで一次ナノ構造の要素に印が付けられている。一次ナノ構造は、波状の連続構造として記載され得る。一次ナノ構造は、微細構造のピットの壁及び底において、そして微細構造のピットを分離しているプラトー及び/又はリッジにおいて、多数の浅い窪みを含む。一次ナノ構造の窪みの直径X2は10nmから1μm、好ましくは10nmから600nm、そしてより好ましくは10nmから500nmの範囲内であってよく;一次ナノ構造の窪みの深さh2は10から300nm、好ましくは30から150nmの範囲内にあってよい。一般的には、窪みは浅く、それは窪みの直径が深さを超えていることを意味する。一次ナノ構造の窪みは本質的に円形又は楕円形を有する。図15及び16は一次ナノ構造の窪みの直径と深さの分布を示す。
【0093】
一次ナノ構造の窪みは明確な境界又はリッジを有し得る。しかしながら、一次ナノ構造の窪みは、該窪みの底から立ち上がり、そして次にそれらの間に明確な境界を形成することなく、次の窪み内へと柔らかく通過する壁を有してもよい。しかしながら、上述の両方の場合の何れかにおいて、一次ナノ構造のある窪みの境界を他の窪みの境界から分離する定義可能な距離は存在しない。むしろ、窪みは並列しており、極めて規則的な様相を有する波状パターンを形成する。一次ナノ構造は上述の及び図4において定義されたように80度から160度;好ましくは90度から150度;より好ましくは100度から140度;そして最も好ましくは110度から130度の範囲内の角度βを有してよい。
【0094】
上述の如く、一次ナノ構造は一次微細構造上に重なっている。更に、一次ナノ構造の直径及び深さは、微細構造の個々のピットの各々対応する寸法よりも小さい。このように、微細構造の個々のピットは一般的には一次ナノ構造の多くの窪みを含む。例えば、微細構造のピットは約5から約50個の該窪みを含んでもよい。更に、一次ナノ構造の窪みの境界の一部が、一般的には一次ナノ構造の他の窪みの境界の一部を構成する。
【0095】
図8及び図9は、本発明の改質された成分のSEM画像である。図8においては、サンプルがブラスチングによって前処理されたが、一方図9においては、サンプルが単純に機械加工された。これらの図において、上述の微細構造及び一次ナノ構造の上に重なった二次ナノ構造を見ることができる。図10は原子間力顕微鏡(AFM)によって撮られた画像であり、二次ナノ構造を更に示している。図10において見られる通り、二次ナノ構造は丸みのあるピークの形状を有する分離した突起要素を含む。ナノピークは下に横たわる表面構造上に密集して且つ一様に分布している。例えば、単位面積当りのピーク数は15から150ピーク/平方μm、そして好ましくは50から130ピーク/平方μmの範囲内であってよい。
【0096】
図17は二次ナノ構造ピークの直径、平均ピーク高さ及びピーク−ピーク距離の分布を示すグラフである。一般的には、二次ナノ構造の平均ピーク高さh3は5から200nm、好ましくは5から100nmの範囲内である。二次ナノ構造の個々のピークの直径×3は一般的には、20から550nmの、好ましくは20から150nmの範囲内である。ピーク−ピーク距離D3は一般的には、10から450nm、好ましくは40から200nmの範囲内である。図11は、微細構造、一次ナノ構造及び二次ナノ構造を含む成分のSEM画像を示し、ここでは微細構造のピットに印が付けられていている。
【0097】
本発明の部材がシュウ酸処理の前にブラスチングにかけられた本発明の実施態様においては、その上に微細構造が重ねられる優れた表面構造が存在する。ブラスチングによって前処理された本発明の部材の表面構造は、一般的には、10から70μmの範囲内の長さ及び3から20μmの範囲内の深さを有する大きなピットを含む。一般的には、これらの大きなピットは略楕円形を有する。隣接するピット間の距離は1から20μmの範囲内である。この大きなピット構造の上に重なって、上記の微細構造がある。このように、大きなピットの側部及び底部並びに大きなピットの間の表面は、ピット及び上述の微細構造の分離しているプラトー及び/又はリッジを含む。従来のブラスチングされた面のSEM画像が図7に示されている。ブラスチング前処理は、引続いて形成された微細構造、一次ナノ構造及び場合により二次ナノ構造の寸法に影響を及ぼす。ブラスチングにかけられた本発明に記載の部材において、引続いて形成された微細構造は、単純に機械加工された本発明に記載の部材の微細構造よりも幾分より大きな寸法を一般的に有しており、そして引続いて形成された一次ナノ構造は、単純に機械加工された本発明に記載の部材の一次ナノ構造よりも幾分より小さな寸法を一般的に有していた。加えて、微細構造及び一次ナノ構造の両者の直径、及び微細構造の深さは、表1に示された標準偏差値によって説明されている通り、機械加工された部材の対応する特性よりも、ブラスチングされた部材において、より一様であった。
【0098】
別の側面において、本発明は生体適合性部材をヒト又は動物の体内にインプラントする方法に関する。本方法は、i)上記に記載の生体適合性部材を供する;及びii)該生体適合性部材をヒト又は動物の体にインプラントする;工程を含む。例えば、生体適合性部材が前記ヒト又は動物の体の歯周領域内にインプラントされ得る。
【0099】
実施例
実施例 1−表面改質
(i)サンプル調製
コインの形状を有するチタンサンプル(各々機械加工されたものとブラスチングされたもの)、固定具(ブラスチングされたもの)及び橋脚歯(機械加工されたもの)を従来の化学的処理によって洗浄した。これらのサンプルを1Mのシュウ酸水溶液中に浸漬し、そして80℃で30分間、激しい撹拌下に置いた。30分後シュウ酸水溶液から、サンプルを取出して水中でゆすぎ、続いて超音波浴中の水中で2分間、ゆすいだ。ゆすぎの約10分後、サンプルを0.1Mのフッ化水素酸(HF)水溶液中に室温で浸漬し、活発な溶解が始まるまで撹拌し、引続いて追加の活性化処理を40秒間行った。次に、HF溶液からサンプルを取出して水中でゆすぎ、引き続いて超音波浴中の水中で5分間、ゆすいだ。これらのサンプルを、滅菌前に室温で空気中において約60分間、乾燥した。
【0100】
(ii)表面トポロジー測定
ESEM XL30(FEI)を用いて、工程bに続いてゆすいだ後のサンプル及び工程cに続いて乾燥した後のサンプルについて走査型電子顕微鏡(SEM)観察を実施した。500×及び15000×の間の倍率を用いて、立体画像を撮影し、そしてMeX 5.0 programme(Alicona)によって評価した。フィルターは使用しなかった。微細構造のピット及び一次ナノ構造の窪みの深さ及び直径、並びに及び微細構造の隣接ピットの間の距離を求めた。結果を一次微細構造に対して図13a−c(機械加工されたサンプル)、及び図14a−c(ブラスチングされたサンプル)、そして一次ナノ構造に対して図15a−b(機械加工されたサンプル)、及び図16a−b(ブラスチングされたサンプル)に提示する。滅菌後に撮られたSEM画像を図8、9及び11に提示する。
【0101】
Nanoscope IIIa instrument(Digital Instruments)を用いて、TappingMode(商標)原子間力顕微鏡(AFM)観察を実施した。本発明に記載の(機械加工された)三つのサンプルの二次ナノ構造を、一サンプルにつき二点で解析した:各点はサンプル端部から約1ミリメーターに位置していた。解析面積は2μm×2μmであった。ピーク高さ、ピーク直径、ピーク−ピーク距離及び平方μm当たりのピーク数を求めた。該寸法はミリメーターで測定し、そして得られたプロファイルプロット中に供されたスケールを用いてnmに変換した。ピーク高さ、ピーク直径、ピーク−ピーク距離の各々の分布を図17a−cに提示する。
【0102】
表1に、SEM/MeX5.0によって求めた、ブラスチングした成分及び機械加工した成分の各々の微細構造及び一次ナノ構造に対して求めた寸法の最大値、最小値及び平均値を纏めてある。機械加工された成分の二次ナノ構造に対して、AFMによって求めた最大値、最小値及び平均値も提示してある。
【0103】
【表1】
【0104】
比較例1a
(コインの形状をした)ブラスチング処理されたチタンサンプルを、0.1Mのフッ化水素酸及び1Mのシュウ酸を含む水溶液中に室温で浸漬し、そして各々、5、15、30及び42分間、撹拌した。溶液から、サンプルを取出して水中でゆすぎ、続いて超音波浴中の水中で2分間、ゆすいだ。サンプルを乾燥後、走査型電子顕微鏡(ESEM XL30、FEI)によって表面トポグラフィーを調べた。
【0105】
その結果、上記処理を5分間行った場合、部分的にエッチングされた領域、そして一様でなく分布した突起要素を有するサンプルが得られた。15分後に取出したサンプルは、まばらに突き出した要素を含む、比較的平らでエッチングされた表面構造を示した。30分後に取出したサンプルの表面は、筋状の外観を有しそして小さな突起要素及び幾つかの不定形の粒子も含んでいた。5分間、処理された乾燥サンプルのSEM画像を図12aに提示し、そして30分間、処理された乾燥サンプルのSEM画像を図12bに提示する。
【0106】
比較例1b
チタンサンプルを0.1MのHF水溶液中に室温で浸漬し、そして活発な溶解が始まるまで撹拌し、続いて40秒の追加の処理時間をかけた。次いでHF溶液から、サンプルを取出して水中でゆすぎ、続いて超音波浴中の水中で5分間、ゆすいだ。ゆすぎの約10分後、サンプルを1Mのシュウ酸水溶液中に浸漬し、80℃で30分間、激しく撹拌した。30分後、シュウ酸溶液からサンプルを取出して水中でゆすぎ、引き続いて超音波浴中の水中で2分間、ゆすいだ。これらのサンプルを、室温で1時間、乾燥させた。
【0107】
走査型電子顕微鏡ESEM XL30(FEI)によって、乾燥したサンプルの画像を撮った。結果を図12cに提示する。
【0108】
実施例2−細胞増殖及び活性
細胞増殖、及びアルカリホスファターゼ(ALP)及びプロスタグラジンE2(PGE2)各々の産生を、本発明に従ってチタン表面上でインビトロで成長させたヒト骨芽細胞に対して調べ、市販のインプラント表面(OsseoSpeed(商標);Asta Tech AB、スウェーデン)上で成長させた細胞と比較した。
【0109】
(i)細胞培養
MG−63は、骨芽細胞のインビトロの研究のために従来から使用されているヒト細胞株である。この研究においては、MG-63cells(MG-63、ATCC No CRL-1427、米国)を、300mLのFalcon細胞培養フラスコ(BD、WWR、スウェーデン)内の、5%のウシ胎児血清(FCS;Gibco、英国)及び1%のペニシリン−ストレプトマイシン(PEST;Gibco、英国)を含むダルベッコ最少必須培地(Dulbecco's Minimun Essential Medium(D-MEM))(Gibco、英国)中で、冷凍細胞の膨大部からの2回目の継代から、成長させた。 接着した細胞が密集度まで成長したら、0.05%トリプシン−EDTA(Gibco、英国)を用いて、それらを3継代の継代をさせた。光学顕微鏡を用いてカウントした細胞生存率は高かった(>98%)。
【0110】
(ii)細胞形態(SEM)
三つのコイン形状をした、β−滅菌されたチタン試験体;その中の1つは本発明の工程bにかけられたもの;その中の1つは本発明の工程b及び工程cにかけられたもの;そしてその中の1つは市販の表面(OsseoSpeed(商標);Asta Tech AB、スウェーデン)を有したもの;を各々別のFalcon24ウェルプレート(BD、WWR、スウェーデン)中に置いた。各々のウエルに、5%のFCS(Gibco、英国)及び1%のPEST(Gibco、英国)を含有し、20,000細胞/mLの細胞濃度を有する1mlのD−MEM(Gibco、英国)を添加した。これらのプレートを37℃、5%のCO2及び湿度100%で36時間、インキュベートした。従来のSEMサンプル調製手順に従って、サンプルを4℃でグルタルアルデヒドを用いて、続いて四酸化オスミウムによって固定し、脱水及び金スパッタリングした。細胞形態をSEM(ESEM XL30、FEI)によって調べた。細胞のSEM画像を図20a(従来の表面上で成長させた細胞)、図20b(本発明の工程bに従って処理された部材上で成長させた細胞)、図20c(本発明の工程b及び工程cに従って処理された部材上で成長させた細胞)に示す。
【0111】
(iii)細胞増殖、ALP活性及びPGE2活性の評価
三セット(n=6)のコイン形状をした、β−滅菌されたチタン試験体;一組は本発明の工程bにかけられたもの(「本発明の表面1」);一組は本発明の工程b及び工程cにかけられたもの(「本発明の表面2」);そして一組は市販の表面(OsseoSpeed(商標);Asta Tech AB、スウェーデン)を有するもの;を各々別のFalcon24ウェルプレート(BD、WWR、スウェーデン)中に置いた。各々のウエルに5%のFCS(Gibco、英国)及び1%のPEST(Gibco、英国)を含有し、そして20,000細胞/mLの細胞濃度を有する1mlのD−MEM(Gibco、英国)を添加した。これらのプレートを37℃、5%のCO2及び湿度100%で14日間インキュベートした。
【0112】
培養7日後に、各ウエルからのサンプル(50マイクロリッター)を外因的ALPに対して解析した。接着した細胞を解析して、細胞溶解によって内因的ALPを求め、続いて遠心分離し、そしてメーカーの取扱説明書に従って、SenzoLyte(商標)pNPP Alkaline Phosphatase Assay Kit Colorimetric(BioSite、スウェーデン)を用いて、上澄み液及び細胞内のALP含有量(ng/ml)を求めた。7日後に、本発明に記載の工程b及び工程cにかけられたサンプル(本発明の表面2)は、参照サンプル(OsseoSpeed(登録商標))よりも顕著に高い細胞当たりのALP産生を誘導した。結果を図19に示す。
【0113】
培養7日後及び14日後に各々、NucleoCassette、NucleoCounter(ChemoMetec A/S、デンマーク)を用いて、メーカーの取扱説明書に従って、ウエル当たりの合計細胞数を求めた。結果を図18に提示する。
【0114】
培養7日後及び14日後に各々、ELISA kit R&D Systems PGE2 Immunoassay(R&D Systems、英国)を用いて、メーカーの取扱説明書に従ってPGE2を求めるために各々のウエルから300マイクロリッターの上澄み液を使用した。培養7日後のPGE2の産生は、参照と比較して本発明に記載のサンプルにおいて若干少なかった。しかしながら、14日後では、本発明に記載のサンプルの両方のセットが、参照サンプルよりも著しく高い細胞当たりのPGE2の産生を誘導した。培養7日後及び14日後の結果を各々図21に提示する。
【0115】
要約すると、参照表面と比較して本発明のサンプルは、より低い細胞密度及びより低い接着細胞数しか誘導しなかったことが見出された。しかしながら、参照表面上で成長した細胞と比較して本発明の表面上で成長した細胞の中で、より高い細胞数が増殖性であった。本発明の表面上で成長した細胞はまた、図20a−cにおいて見られる通り、アポートシスをより起こし難く、より長いそして多くの小さな突起を有しており、活性があることを示した。
【0116】
本発明に記載の両方の表面上で成長した細胞は、培養14日後では、図20a−cにおいて見られる通り、従来の表面上で成長した細胞のそれと比較して、有意に増加したPGE2産生を示した。更に、二次ナノ構造を含む、本発明に記載の表面上で成長した細胞は、従来の表面上で成長した細胞よりも、有意に高いALP活性を有していた。ALP及び/又はPGE2活性の増加は、増大した骨芽細胞活性、低下した破骨細胞活性及び促進されたECMの石灰化に関係している。このように、結論として、本発明は、骨成長速度及びオッセオインテグレーションに関して改質された生体適合性部材を提供する。
【0117】
実施例3−埋め込み
本発明に記載のインプラントの完全性をウサギモデルにおいて試験した。その目的は、市販の参照インプラントに対する応答と比較して、本発明に記載の二つのインプラント表面改質に対するインビボの骨組織応答を定性的に及び定量的に調べることであった。
【0118】
(i)除去トルク試験用インプラント
シュウ酸中に、そして引き続きHF中に浸漬することによって、実施例1において述べられた通りに(つまり工程b及びcを含んで)、調製したチタントルク固定具(四角形の頭をした除去トルク設計、3.5×8.2ミリメーター)を使用した(試験インプラント2と称する)。また、シュウ酸中に浸漬することによって、実施例1において述べられた通りに(つまり工程cが省略されて)、調製したトルク固定具(3.5×8.2ミリメーター)(試験インプラント1と称する)も使用した。更に、市販のOsseoSpeed(商標)口腔インプラントを代表するトルク固定具(3.5×8.2ミリメーター)を参照固定具として使用した。
【0119】
(ii)組織学及び組織学形態計測研究用のインプラント
上記実施例1において述べられた通りに調製した口腔インプラント(3.5×8ミリメーター)のヒト設計の固定具を使用した(試験インプラント2)。また、HF処理(つまり工程c)を省略した以外は、実施例1において述べられた通りに調製した固定具(3.5×8ミリメーター)も使用した(試験インプラント1)。更に、市販のOsseoSpeed(商標)口腔インプラントを代表する固定具(3.5×8ミリメーター)を参照固定具として使用した。
【0120】
(iii)インプラント挿入
12把の成体の雄のニュージーランド白ウサギを手術用として予定した。一把のウサギは初期の麻酔で死んだ(#8)。手術は平穏に進んだ。連続食塩冷却を用いて、低速穴開け(穴開けのために1500rpg、そしてインプラント挿入のために20rpm)を行った。
【0121】
1つのインプラント(口腔インプラントのヒト設計;3.5×8ミリメーター)を各々大腿軟骨領域中に挿入し、そして三つのインプラント(四角形の頭をした除去トルク設計、3.5×8.2ミリメーター)を各々脛骨粗面中に挿入した。大腿骨インプラントを組織学形態計測解析用に、そして脛骨インプラントを除去トルク試験用に予定した。
【0122】
(iv)除去トルク試験
6週間後に、試験を終了し、そしてウサギを犠牲にした。インプラント及び周囲の組織を調べた。脛骨インプラントは容易に位置が分かり、それらの全てで、骨膜骨組織成長の兆候が見られた。除去トルク試験(RTQ)を用いて、インプラント−骨界面の生体力学的試験を実施した。RTQ装置(Detektor AB、Goteborg、スウェーデン)は、骨層におけるインプラントの安定性(Ncmを単位とするピークゆるみトルク)を試験するために使用される歪ゲージトランスジューサーを含む電子機器であり、従って、骨組織及びインプラントの間の界面せん断力を大まかに反映する三次元試験と見なすことができる(Johansson C. B.,Albrektsson T.,Clin Oral implants Res 1991;2:24-9)。直線的に増大するトルクがインプラントの同じ軸上に、一体化が破壊されるまでかけられ、そしてピーク値が記録された。大腿骨中に挿入されたインプラントは、よりしばしば骨組織によるインプラント頭部の「完全な被覆」を示した。大腿骨インプラントを固定液中に浸漬し、そして組織学及び組織学形態計測研究のために更に処理した。
【0123】
除去トルク試験用の試験インプラント1、試験インプラント2及び参照インプラントの平均値を図22に提示する。全ての試験インプラント1、試験インプラント2及び参照インプラントの比較から、参照インプラントと比較して、試験インプラント2に対する除去トルク値において25%の改善が見られた。この差異は統計的に有意であった(p<0.05; Student T−test)。更に、これらの結果は、試験インプラント1の除去トルク値が、参照インプラントのそれらと同等以上であることを示唆した。
【0124】
(v)組織学的評価
6週間後に、試験を終了し、そしてウサギを犠牲にした。ウサギ#1及び#5からの骨組織及びインプラントを含む大腿骨インプラント部位の選択サンプルを、骨−インプラント接触(BIC)及び内側のネジ山(thread)内の骨領域(内部領域、ia)及び大腿骨から回収されたインプラント周辺の種々の領域における対応する鏡像(mi)に関して組織学形態計測的に評価した。
【0125】
インプラントの異なる領域のBIC及び骨領域に対する平均値、並びに各インプラントに対するBIC及び骨領域の総平均値を下表2及び3に報告する。下記のインプラント領域が評価された:
(a)ミクロ−ネジ山;
(b)マクロ−ネジ山;
(c)骨髄空洞における先端側(ネジ山がない)に沿った領域;及び
(d)インプラントの先端底部中(この領域は、骨インプラント接触についてのみ報告される)
【0126】
【表2】
【0127】
【表3】
【0128】
参照インプラントであるウサギ#5に対しては、全てのインプラントにおいて存在する切開部を通して断面(section)が偶然に得られた。このサンプルについて、計算された底部接触距離は、試験インプラント1であるウサギ#3のそれの合計距離の近似に基づくものであった(図24a)。
【0129】
表2及び3において見ることができる通り、試験インプラント2は、参照表面と比較してより高い骨インプラント接触及びネジ山におけるより大きな骨領域を示した。試験インプラント1は、参照表面と比較してほとんど同等の骨インプラント接触を示した。また、参照インプラントのそれと比較して、ネジ山におけるより大きな内部骨領域が観察された(表2)。
【0130】
骨形成を定性的に示す組織学的断面画像を図23〜24に提示するが、ここで;
図23aはウサギ#1、試験インプラント2を示す;
図23bはウサギ#1、参照インプラントを示す;
図24aはウサギ#5、試験インプラント1を示す;及び
図24bはウサギ#5、参照インプラントを示す;
【0131】
ほぼ全てのサンプルが、上部ミクロネジ山領域におけるインプラントに密接に関係して、古い骨よりもより新しく形成された骨を示した。骨髄空洞中及び先端底層中のインプラントのネジ山がない側におけるマクロネジ山において観察された骨組織も新しく形成された。
【0132】
ウサギ#1において、試験インプラント2の周囲に、参照インプラントと比較して大量の進行中の骨形成が観察された。骨芽細胞の種々の形状の骨芽細胞縁を有する骨様の継ぎ目がしばしば観察された(図23a、b)。
【0133】
ウサギ#5において、試験インプラント1の周囲に、参照インプラントと比較して大量の進行中の骨形成が観察された。骨芽細胞がしばしば観察されたが、ウサギ#1の試験インプラント2の周囲ほど顕著ではなかった(図24a、b)。
【0134】
インプラント表面は、インプラント表面とは無関係に、骨髄空洞の脂肪細胞と密接に関連しており、感受性の骨髄細胞を有する全ての表面の高度な生体適合性を示した。
【0135】
実施例4−インビトロのアパタイト形成
骨形成を調べるための1つの従来からのインビトロのモデルは、疑似体液(SBFs)中への生体材料の浸漬である。SBFsはヒトの血漿のそれにほぼ等しいイオン濃度を有する溶液である(Kokubo T.,Kushitani H.,Sakka S.,Kitsugi T.,Yamamuro T.,J Biomed Mater Res 1990;24:721-734;Oyane A.,Kim H. K.,Furuya T.,Kokubo T.,Miyazaki T., Nakamura T.,J Biomed Mater Res 2003;65A、188-195)。生体材料の核形成能力に依存して、骨状のリン酸カルシウムがその表面上に沈殿することになる。インビボの骨生理活性を有するSBF中でのアパタイト形成の定量的相関が報告されている(Kokubo T.,Takadama H.,Biomaterials 2006;27:2907-2915)。今日では、SBFのインビトロモデルはしばしば使用され、そして国際標準、ISO 23317:2007Eによって記載されている。
【0136】
(i)SBF浸漬
ヒトの血漿の電解質濃度に類似した電解質濃度を有する修正SBF(Oyane A.ら、J Biomed Mater Res 2003;65A、188-195)が選択された(Vander A.J., Sherman J.H., Luciano D.S.,「Human physiology The mechanisms of body function)」、5th ed. McGraw-Hill Publishing Company、ニューヨーク、1990:349-400)。SBFは10.806gのNaCl、1.480gのNaHCO3、4.092gのNa2CO3、0.450gのKCl、0.460gのK2HPO4・3H2O、0.622gのMgCl2・6H2O、23.856gの2−(4−(2−ヒドロキシエチル)−1−ピペラジニル)エタンスルホン酸(HEPES)、0.776gのCaCl2及び0.144gのNa2SO4を、2000ミリリッターの脱イオン水中に溶解させることによって調製した。HEPESは溶液に添加する前に、200ミリリッターの脱イオン水中に溶解させた。最終的なpHは1.0MのNaOHを用いて37℃で7.40に調節された。全ての試薬は、NaCl及びNa2SO4 (これらはFluka(スウェーデン)から得られた)を除いて、Merck(スウェーデン)から得られた。
【0137】
三組のコイン形状をした、β−滅菌されたチタンサンプル;一組は本発明の工程bにかけられたもの(「本発明の表面1」);一組は本発明の工程b及び工程cにかけられたもの(「本発明の表面2」);そして一組は市販の表面(OsseoSpeed(商標);Asta Tech AB、スウェーデン)を代表する参照;を別々のそして密閉された50ミリリッターのポリスチレンバイアル(VER、スウェーデン)中の37ミリリッターのSBF中に浸漬した。サンプルを、バイアルの蓋に吊り下げて搭載し、解析されるべきコインの側が、他の如何なる物体によっても接触されないで、下向きになるようにした。三日後、SBF浸漬を中断し、サンプルを脱イオン水で完全にゆすぎ、如何なるゆるく接着したリン酸カルシウム材料をも除去した。次いでサンプルを室温にて、層流空気ベンチ中で乾燥した。各組の三つのサンプルをSBF中に浸漬しないでコントロール用として役立てた。
【0138】
(ii)形成されたアパタイトの形態(SEM)
可能なアパタイトの形成の解析を、環境走査型電子顕微鏡(ESEM、XL 30、FEI)を用いて実施した。SBF浸漬前の表面構造のSEM画像を、図25a(参照)、26a(本発明の表面1)、及び27a(本発明の表面2)に提示する。SBF浸漬後の表面構造を調べたとき、サンプルの全ての組上でリン酸カルシウムの薄い層が形成されたと結論付けられた;参照(図25b)、本発明の表面1(図26b)、及び本発明の表面2(図27b)。
【0139】
(iii)形成されたアパタイトの化学的評価(EDS)
アパタイト形成前後のサンプルの化学的解析のためにエネルギー分散分光法(EDS,Apollo 40,EDAX)を使用した。チタンシグナルを解析することによって、リン酸カルシウムによるサンプルの被覆度が間接的に評価できた。本発明表面2は、SBF浸漬後のチタンシグナルにおいて最大の低下を示し(図28)、調査した資料の組の中で最も広範囲なアパタイト形成を示した。
【0140】
非晶質及び結晶性のリン酸カルシウム相対的存在量を推定するためにCa/P比の計算にEDSがやはり使用された。Ca/P比を図29に提示する。得られたCa/P比は、参照表面上よりも、本発明の表面1の上及び本発明の表面2の上に形成されたアパタイトの方のより高度の結晶性を示した。リン酸三カルシウム(Ca3(PO4)2)及びヒドロキシアパタイト(Ca5(PO4)3OH)の化学量論的Ca/P原子比は、各々1.5及び1.67であった。
【0141】
要約として、サンプルの全ての組で初期にアパタイト形成が見出され、本発明の表面2は、チタンシグナルによって結論付けられる通り(図28)、最高度のアパタイト被覆を示した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体適合性部材の改質方法であって、以下の工程:
a)少なくとも部分的に金属酸化物で被覆された生体適合性部材を備えること;及び
b)該部材の部分が該金属酸化物で被覆された、その部材の少なくとも一部を、シュウ酸を含む水性組成物で処理すること;
を含み、そのことによって改質された金属酸化物が得られる、方法。
【請求項2】
工程bの組成物が、0.001から5Mの範囲内の、好ましくは約1Mのシュウ酸濃度を有し;工程bの処理が、10から60分の範囲内の、そして好ましくは20から40分の範囲内の処理時間で実行される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
処理時間が20から30分の範囲内、そしてより好ましくは約25分である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程bの組成物が、約20℃から約100℃の範囲内の;好ましくは60℃から90℃の範囲内の;そしてより好ましくは約80℃の温度を有する、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
c)i)イオン化されたフッ素及びイオン化された塩素を含むグループから選ばれる少なくとも1つの材料;及び
ii)少なくとも1つの酸;
を含む第二の水性組成物で、改質された金属酸化物の少なくとも部分を処理する工程を更に含む、請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
改質された金属酸化物上に不動態化酸化物が形成される前に、工程cが実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程bの完了後、0℃又はそれより高い温度で、そして酸素含有大気における通常の大気圧で、部材が保持される時間としてカウントされた、180時間又はそれより短い時間以内で、工程cが実行される、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
工程bの完了後、72時間又はそれより短い時間以内で、工程cが実行される、請求項5〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程bの完了後、24時間又はそれより短い時間以内で、工程cが実行される、請求項5〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程bの完了後、1時間又はそれより短い時間以内で、工程cが実行される、請求項5〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程bの完了後、10分又はそれより短い時間以内で、工程cが実行される、請求項5〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
第二の水性組成物がフッ化水素酸を含む、請求項5〜11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
第二の水性組成物が、0.5から5の範囲内、好ましくは1から3の範囲内、そしてより好ましくは約2のpH;0.02から0.5Mの範囲内、好ましくは0.05から0.3Mの範囲内、そしてより好ましくは約0.1Mの、イオン化されたフッ素及びイオン化された塩素を含むグループから選ばれる少なくとも1つの材料の濃度を有し;そして10秒から3分の範囲内、そしてより好ましくは10秒から50秒の範囲内の活性化処理時間で工程cの処理が実行される、請求項5〜12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
第二の水性組成物が15℃から25℃の範囲内の;そして好ましくは18℃から23℃の範囲内の温度を有する、請求項5〜13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
工程bの水性組成物が骨成長増強物質を含む、請求項1〜14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
水性組成物が骨成長増強物質を含む、請求項5〜15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
骨成長増強物質が金属イオン又はそれらの塩を含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
金属イオンが、チタンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、ストロンチウムイオン、又はそれらの如何なる組合せから成るグループから選ばれるイオンを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
金属イオンがリチウムイオンを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
金属イオンがストロンチウムイオンを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
部材が少なくとも部分的にチタン又はチタン合金から成る、請求項1〜20の何れか1項に記載の方法。
【請求項22】
金属酸化物が酸化チタンを含む、請求項1〜21の何れか1項に記載の方法。
【請求項23】
金属酸化物が本質的に酸化チタン又は酸化チタンの組合せから成る、請求項1〜22の何れか1項に記載の方法。
【請求項24】
金属酸化物が不動態化酸化チタンを含む、請求項1〜23の何れか1項に記載の方法。
【請求項25】
工程bの前の部材が機械的表面処理にかけられる、請求項1〜24の何れか1項に記載の方法。
【請求項26】
機械的表面処理がブラスチングを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
工程bの前の部材が化学的表面処理にかけられる、請求項1〜26の何れか1項に記載の方法。
【請求項28】
化学的処理が脱脂又は洗浄処理を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
生体適合性部材が、インプラント、固定具、橋脚歯、ワンピースインプラント又はそれらの組合せから成るグループから選ばれる歯科用部材である、請求項1〜28の何れか1項に記載の方法。
【請求項30】
生体適合性部材が整形外科用部材である、請求項1〜28の何れか1項に記載の方法。
【請求項31】
請求項1〜30の何れか1項に記載の方法によって得られ得る部材。
【請求項32】
生体適合性部材をヒト又は動物の体内にインプラントする方法であって、以下の工程:
i)請求項31記載の生体適合性部材を備えること;及び
ii)該生体適合性部材をヒト又は動物の体にインプラントすること;
を含む方法。
【請求項33】
部材がヒト又は動物の体の歯周領域内にインプラントされる、請求項32記載の方法。
【請求項34】
生体適合性部材であって:
a)プラトー及び/又はリッジによって分離されたピットを含む微細構造;及び
b)該微細構造の上に重なっている一次ナノ構造、ここで該一次ナノ構造は波状の形に配置された窪みを含む;
を含む表面を有する基体を含む生体適合性部材。
【請求項35】
微細構造が、0.5から15μmの範囲内の、好ましくは1から10μmの範囲内のピット直径;0.1から2.5μmの範囲内の、そして好ましくは0.1から1μmの範囲内の深さ;及び0から10μmの範囲内の互いに隣接するピット間の距離を有する、請求項34に記載の生体適合性部材。
【請求項36】
一次ナノ構造の窪みが10nmから1μmの範囲内の、好ましくは10nmから600nmの範囲内の、そしてより好ましくは10nmから500nmの範囲内の直径;及び10nmから300nmの範囲内の、好ましくは30から150nmの範囲内の深さを有する、請求項34又は35に記載の生体適合性部材。
【請求項37】
一次ナノ構造の個々の窪みの直径が、該個々の窪みの深さを超える、請求項34〜36の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項38】
一次ナノ構造の窪みの直径が、該窪みが重なる微細構造のピットの直径より小さく、そして該一次ナノ構造の窪みの深さが、該窪みが重なる上記微細構造のピットの深さより小さい、請求項34〜37の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項39】
一次ナノ構造の窪みの境界の少なくとも部分が、該一次ナノ構造の他の窪みの境界の少なくとも部分を構成する、請求項33〜38の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項40】
部材が機械的表面処理にかけられている、請求項33〜39の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項41】
機械的表面処理がブラスチングを含む、請求項40記載の方法。
【請求項42】
基体が少なくとも部分的にチタン又はチタン合金から成る、請求項34〜41の何れか1項に記載の生体適合性成分。
【請求項43】
基体がチタンから成る、請求項34〜41の何れか1項に記載の生体適合性成分。
【請求項44】
一様に分布したパターンで一次ナノ構造の上に重なっていて、丸みのあるピークの形状を有する分離した突起を含む、二次ナノ構造を更に含む、請求項34〜43の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項45】
二次ナノ構造が、20から550nmの範囲内の、好ましくは20から150nmの範囲内のピーク直径;5から200nmの範囲内の、好ましくは5から100nmの範囲内の平均ピーク高さ;そして10から450nmの範囲内の、好ましくは40から200nmの範囲内のピーク間距離を有する、請求項44に記載の生体適合性部材。
【請求項46】
二次ナノ構造が、15から150ピーク/平方μmの範囲内の、そして好ましくは50から130ピーク/平方μmの範囲内のピーク密度を含む、請求項44又は45に記載の生体適合性部材。
【請求項47】
ナノ要素が金属酸化物を含む、請求項44〜46の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項48】
ナノ要素が酸化チタンを含む、請求項47に記載の生体適合性部材。
【請求項49】
表面が骨成長増強物質を含む、請求項34〜48の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項50】
ナノ要素の少なくとも一部が骨成長増強物質を含む、請求項44〜49の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項51】
骨成長増強物質が、チタンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、ストロンチウムイオン、又はそれらの任意の組合せから成るグループから選ばれる金属イオン又はその塩を含む、請求項49又は50に記載の生体適合性部材。
【請求項52】
骨成長増強物質がリチウムイオンを含む、請求項49又は50に記載の生体適合性部材。
【請求項53】
骨成長増強物質がストロンチウムイオンを含む、請求項49、50及び52の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項54】
部材が、インプラント、固定具、橋脚歯、ワンピースインプラント又はそれらの組合せから成るグループから選ばれる歯科用部材である、請求項34〜53の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項55】
部材が整形外科用部材である、請求項34〜53の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項56】
生体適合性部材をヒト又は動物の体内にインプラントする方法であって、以下の工程:
i)請求項34〜55の何れか1項に記載の生体適合性部材を備えること;及び
ii)該生体適合性部材をヒト又は動物の体にインプラントすること;
を含むインプラント方法。
【請求項57】
部材がヒト又は動物の体の歯周領域内にインプラントされる、請求項56記載の方法。
【請求項1】
生体適合性部材の改質方法であって、以下の工程:
a)少なくとも部分的に金属酸化物で被覆された生体適合性部材を備えること;及び
b)該部材の部分が該金属酸化物で被覆された、その部材の少なくとも一部を、シュウ酸を含む水性組成物で処理すること;
を含み、そのことによって改質された金属酸化物が得られる、方法。
【請求項2】
工程bの組成物が、0.001から5Mの範囲内の、好ましくは約1Mのシュウ酸濃度を有し;工程bの処理が、10から60分の範囲内の、そして好ましくは20から40分の範囲内の処理時間で実行される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
処理時間が20から30分の範囲内、そしてより好ましくは約25分である、請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程bの組成物が、約20℃から約100℃の範囲内の;好ましくは60℃から90℃の範囲内の;そしてより好ましくは約80℃の温度を有する、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
c)i)イオン化されたフッ素及びイオン化された塩素を含むグループから選ばれる少なくとも1つの材料;及び
ii)少なくとも1つの酸;
を含む第二の水性組成物で、改質された金属酸化物の少なくとも部分を処理する工程を更に含む、請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
改質された金属酸化物上に不動態化酸化物が形成される前に、工程cが実行される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程bの完了後、0℃又はそれより高い温度で、そして酸素含有大気における通常の大気圧で、部材が保持される時間としてカウントされた、180時間又はそれより短い時間以内で、工程cが実行される、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
工程bの完了後、72時間又はそれより短い時間以内で、工程cが実行される、請求項5〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
工程bの完了後、24時間又はそれより短い時間以内で、工程cが実行される、請求項5〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程bの完了後、1時間又はそれより短い時間以内で、工程cが実行される、請求項5〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程bの完了後、10分又はそれより短い時間以内で、工程cが実行される、請求項5〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項12】
第二の水性組成物がフッ化水素酸を含む、請求項5〜11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
第二の水性組成物が、0.5から5の範囲内、好ましくは1から3の範囲内、そしてより好ましくは約2のpH;0.02から0.5Mの範囲内、好ましくは0.05から0.3Mの範囲内、そしてより好ましくは約0.1Mの、イオン化されたフッ素及びイオン化された塩素を含むグループから選ばれる少なくとも1つの材料の濃度を有し;そして10秒から3分の範囲内、そしてより好ましくは10秒から50秒の範囲内の活性化処理時間で工程cの処理が実行される、請求項5〜12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
第二の水性組成物が15℃から25℃の範囲内の;そして好ましくは18℃から23℃の範囲内の温度を有する、請求項5〜13の何れか1項に記載の方法。
【請求項15】
工程bの水性組成物が骨成長増強物質を含む、請求項1〜14の何れか1項に記載の方法。
【請求項16】
水性組成物が骨成長増強物質を含む、請求項5〜15の何れか1項に記載の方法。
【請求項17】
骨成長増強物質が金属イオン又はそれらの塩を含む、請求項15又は16に記載の方法。
【請求項18】
金属イオンが、チタンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、ストロンチウムイオン、又はそれらの如何なる組合せから成るグループから選ばれるイオンを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
金属イオンがリチウムイオンを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
金属イオンがストロンチウムイオンを含む、請求項17に記載の方法。
【請求項21】
部材が少なくとも部分的にチタン又はチタン合金から成る、請求項1〜20の何れか1項に記載の方法。
【請求項22】
金属酸化物が酸化チタンを含む、請求項1〜21の何れか1項に記載の方法。
【請求項23】
金属酸化物が本質的に酸化チタン又は酸化チタンの組合せから成る、請求項1〜22の何れか1項に記載の方法。
【請求項24】
金属酸化物が不動態化酸化チタンを含む、請求項1〜23の何れか1項に記載の方法。
【請求項25】
工程bの前の部材が機械的表面処理にかけられる、請求項1〜24の何れか1項に記載の方法。
【請求項26】
機械的表面処理がブラスチングを含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
工程bの前の部材が化学的表面処理にかけられる、請求項1〜26の何れか1項に記載の方法。
【請求項28】
化学的処理が脱脂又は洗浄処理を含む、請求項27記載の方法。
【請求項29】
生体適合性部材が、インプラント、固定具、橋脚歯、ワンピースインプラント又はそれらの組合せから成るグループから選ばれる歯科用部材である、請求項1〜28の何れか1項に記載の方法。
【請求項30】
生体適合性部材が整形外科用部材である、請求項1〜28の何れか1項に記載の方法。
【請求項31】
請求項1〜30の何れか1項に記載の方法によって得られ得る部材。
【請求項32】
生体適合性部材をヒト又は動物の体内にインプラントする方法であって、以下の工程:
i)請求項31記載の生体適合性部材を備えること;及び
ii)該生体適合性部材をヒト又は動物の体にインプラントすること;
を含む方法。
【請求項33】
部材がヒト又は動物の体の歯周領域内にインプラントされる、請求項32記載の方法。
【請求項34】
生体適合性部材であって:
a)プラトー及び/又はリッジによって分離されたピットを含む微細構造;及び
b)該微細構造の上に重なっている一次ナノ構造、ここで該一次ナノ構造は波状の形に配置された窪みを含む;
を含む表面を有する基体を含む生体適合性部材。
【請求項35】
微細構造が、0.5から15μmの範囲内の、好ましくは1から10μmの範囲内のピット直径;0.1から2.5μmの範囲内の、そして好ましくは0.1から1μmの範囲内の深さ;及び0から10μmの範囲内の互いに隣接するピット間の距離を有する、請求項34に記載の生体適合性部材。
【請求項36】
一次ナノ構造の窪みが10nmから1μmの範囲内の、好ましくは10nmから600nmの範囲内の、そしてより好ましくは10nmから500nmの範囲内の直径;及び10nmから300nmの範囲内の、好ましくは30から150nmの範囲内の深さを有する、請求項34又は35に記載の生体適合性部材。
【請求項37】
一次ナノ構造の個々の窪みの直径が、該個々の窪みの深さを超える、請求項34〜36の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項38】
一次ナノ構造の窪みの直径が、該窪みが重なる微細構造のピットの直径より小さく、そして該一次ナノ構造の窪みの深さが、該窪みが重なる上記微細構造のピットの深さより小さい、請求項34〜37の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項39】
一次ナノ構造の窪みの境界の少なくとも部分が、該一次ナノ構造の他の窪みの境界の少なくとも部分を構成する、請求項33〜38の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項40】
部材が機械的表面処理にかけられている、請求項33〜39の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項41】
機械的表面処理がブラスチングを含む、請求項40記載の方法。
【請求項42】
基体が少なくとも部分的にチタン又はチタン合金から成る、請求項34〜41の何れか1項に記載の生体適合性成分。
【請求項43】
基体がチタンから成る、請求項34〜41の何れか1項に記載の生体適合性成分。
【請求項44】
一様に分布したパターンで一次ナノ構造の上に重なっていて、丸みのあるピークの形状を有する分離した突起を含む、二次ナノ構造を更に含む、請求項34〜43の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項45】
二次ナノ構造が、20から550nmの範囲内の、好ましくは20から150nmの範囲内のピーク直径;5から200nmの範囲内の、好ましくは5から100nmの範囲内の平均ピーク高さ;そして10から450nmの範囲内の、好ましくは40から200nmの範囲内のピーク間距離を有する、請求項44に記載の生体適合性部材。
【請求項46】
二次ナノ構造が、15から150ピーク/平方μmの範囲内の、そして好ましくは50から130ピーク/平方μmの範囲内のピーク密度を含む、請求項44又は45に記載の生体適合性部材。
【請求項47】
ナノ要素が金属酸化物を含む、請求項44〜46の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項48】
ナノ要素が酸化チタンを含む、請求項47に記載の生体適合性部材。
【請求項49】
表面が骨成長増強物質を含む、請求項34〜48の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項50】
ナノ要素の少なくとも一部が骨成長増強物質を含む、請求項44〜49の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項51】
骨成長増強物質が、チタンイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、リチウムイオン、ストロンチウムイオン、又はそれらの任意の組合せから成るグループから選ばれる金属イオン又はその塩を含む、請求項49又は50に記載の生体適合性部材。
【請求項52】
骨成長増強物質がリチウムイオンを含む、請求項49又は50に記載の生体適合性部材。
【請求項53】
骨成長増強物質がストロンチウムイオンを含む、請求項49、50及び52の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項54】
部材が、インプラント、固定具、橋脚歯、ワンピースインプラント又はそれらの組合せから成るグループから選ばれる歯科用部材である、請求項34〜53の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項55】
部材が整形外科用部材である、請求項34〜53の何れか1項に記載の生体適合性部材。
【請求項56】
生体適合性部材をヒト又は動物の体内にインプラントする方法であって、以下の工程:
i)請求項34〜55の何れか1項に記載の生体適合性部材を備えること;及び
ii)該生体適合性部材をヒト又は動物の体にインプラントすること;
を含むインプラント方法。
【請求項57】
部材がヒト又は動物の体の歯周領域内にインプラントされる、請求項56記載の方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13a】
【図13b】
【図13c】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図15a】
【図15b】
【図16a】
【図16b】
【図17a】
【図17b】
【図17c】
【図18】
【図19】
【図20a】
【図20b】
【図20c】
【図21】
【図22】
【図23a】
【図23b】
【図24a】
【図24b】
【図25a】
【図25b】
【図26a】
【図26b】
【図27a】
【図27b】
【図28】
【図29】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5a】
【図5b】
【図6a】
【図6b】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12a】
【図12b】
【図12c】
【図13a】
【図13b】
【図13c】
【図14a】
【図14b】
【図14c】
【図15a】
【図15b】
【図16a】
【図16b】
【図17a】
【図17b】
【図17c】
【図18】
【図19】
【図20a】
【図20b】
【図20c】
【図21】
【図22】
【図23a】
【図23b】
【図24a】
【図24b】
【図25a】
【図25b】
【図26a】
【図26b】
【図27a】
【図27b】
【図28】
【図29】
【公表番号】特表2011−509098(P2011−509098A)
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−515496(P2010−515496)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058860
【国際公開番号】WO2009/007373
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(501249869)アストラ・テック・アクチエボラーグ (22)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【国際出願番号】PCT/EP2008/058860
【国際公開番号】WO2009/007373
【国際公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【出願人】(501249869)アストラ・テック・アクチエボラーグ (22)
【Fターム(参考)】
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