説明

ナノ複合体およびそれを含む分散液

【課題】高温下においても水系溶媒中での分散性に優れるナノ複合体、およびそれを含む分散液を提供する。
【解決手段】ナノ構造体と、下記式(1):


(式(1)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基を表し、Yはカルボニル基またはアリーレン基を表す。)で表される双性イオンモノマー単位およびカチオン性モノマー単位からなる群から選択させる少なくとも1種のイオン性モノマー単位と前記イオン性モノマー単位以外のその他のモノマー単位とを含有し且つ前記ナノ構造体に吸着している共重合体と、を備えることを特徴とするナノ複合体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ複合体に関し、より詳しくは、ナノ構造体とこれに吸着した重合体とを備えるナノ複合体に関する。また、本発明はこのナノ複合体を含有する分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノチューブ(CNT)に代表されるカーボン系ナノフィラーは、熱伝導性、電気伝導性、機械的特性などに優れることから、カーボン系ナノフィラーを溶媒、樹脂、金属およびセラミックス中に添加して、これらに前記特性を付与する検討が盛んに行なわれている。また、カーボンナノチューブの一部の炭素原子を窒素原子やホウ素原子で置換したBCNナノチューブや窒化ホウ素ナノチューブに代表される窒化ホウ素系ナノフィラーについても、熱伝導性などに優れるとともに、カーボン系ナノフィラーと異なり、電気絶縁性に優れる点で、機能性付与材料として注目されている。しかしながら、これらのナノフィラーは、ファンデルワールス力により凝集しやすく、溶媒や樹脂中での分散性が極めて低いため、前記特性を十分に発揮できないという課題があった。
【0003】
そこで、カーボンナノチューブの溶媒中での分散性を向上させるため、種々の方法が提案されている。例えば、国際公開第2002/016257号(特許文献1)には、少なくとも1つのポリマーで少なくとも部分的にコーティングされたカーボンナノチューブを含む組成物が開示されており、前記ポリマーとしてポリビニルピロリドン、ポリスチレンスルホネート、ポリエチレングリコールなどの親水性ポリマーが例示されている。また、国際公開第2002/076888号(特許文献2)には、親水性ポリマーがカーボンナノチューブ上に吸着した粉末が開示されており、前記ポリマーとして、アラビアゴム、カラゲナン、ペクチンなどが例示されている。さらに、Valerie C.Mooreら、Nano Lett.,2003年、第3巻、1379−1382頁(非特許文献1)には、種々の界面活性剤を用いて水系媒体中に分散させた単層カーボンナノチューブが開示されており、イオン性界面活性剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムといったアニオン性界面活性剤やセチルトリメチルアンモニウムブロミドといったカチオン性界面活性剤などが開示されている。このように、カーボンナノチューブとともに親水性ポリマーやイオン性界面活性剤を用いることによって、カーボンナノチューブの水中での分散性は改善される傾向にある。しかしながら、このような親水性ポリマーやイオン性界面活性剤を用いても、より高濃度で且つ分散安定性に優れたカーボンナノチューブ分散液を得ることは困難であった。
【0004】
また、Petar Petrovら、Chem.Commun.,2003年、2904−2905頁(非特許文献2)には、カーボンナノチューブに対して物理吸着可能なピレニル基を含有するポリマーとカーボンナノチューブからなる複合体が開示されている。このポリマーをカーボンナノチューブに吸着させることによってカーボンナノチューブの有機溶媒中での分散性が向上する傾向にある。しかしながら、この複合体の水系溶媒中での分散性は十分なものではなかった。
【0005】
特開2010−37537号公報(特許文献3)には、ピレニル基を有する側鎖とポリエチレングリコール側鎖を備えるビニル系重合体がカーボンナノ構造体に吸着したカーボンナノ複合体が開示されており、このカーボンナノ複合体がクロロホルムなどの有機溶媒だけでなく、水に対しても優れた分散性を示すことが開示されている。しかしながら、このカーボンナノ複合体は、高温水中での分散性が十分なものではなかった。
【0006】
また、Xinlu Liら、Carbon、2006年、第44巻、1334−1336頁(非特許文献3)には、電池正極材の電子伝導性向上を目的として、電池正極材にカーボンナノチューブなどのカーボン系ナノフィラーを添加することが有効であると開示されている。しかしながら、優れた電池特性を発現させるためには、カーボン系ナノフィラーの正極活物質中での分散性の向上が必要であるが、従来の乾式法によるカーボン系ナノフィラーの添加・混合には限界があった。
【0007】
そこで、Jiajun Chenら、Electrochemistry Communications、2006年、第8巻、855〜858頁(非特許文献4)には、カーボン系ナノフィラーと水系溶媒からなる分散液に、例えば、Li、Co、Ni、Mn、Fe、およびPなどを含む活物質の原料化合物を溶解させ、150〜200℃での温度で水熱反応をさせて、その後、不活性ガス中で加熱処理(例えば、500℃以上)を行うことにより、カーボン系ナノフィラーが活物質中に分散した複合体を作製する方法が開示されている。しかしながら、この方法を用いても、カーボン系ナノフィラーの活物質中での分散性は十分なものではなく、水熱反応時の高温の水系溶媒中でのカーボン系ナノフィラーの分散性をさらに向上させることが求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2002/016257号
【特許文献2】国際公開第2002/076888号
【特許文献3】特開2010−37537号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Valerie C.Mooreら、Nano Lett.,2003年、第3巻、1379−1382頁
【非特許文献2】Petar Petrovら、Chem.Commun.,2003年、2904−2905頁
【非特許文献3】Xinlu Liら、Carbon、2006年、第44巻、1334−1336頁
【非特許文献4】Jiajun Chenら、Electrochemistry Communications、2006年、第8巻、855〜858頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、高温下においても水系溶媒中での分散性に優れるナノ複合体、およびそれを含む分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の双性イオンモノマー単位および特定のカチオン性モノマー単位のうちの少なくとも1種のイオン性モノマー単位とこのイオン性モノマー単位以外のモノマー単位とを含有する共重合体をナノ構造体に吸着させることによって、これらを備えるナノ複合体が、高温下、水系溶媒中において高い分散性を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のナノ複合体は、ナノ構造体と、下記式(1):
【0013】
【化1】

【0014】
(式(1)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基を表し、Yはカルボニル基またはアリーレン基を表し、Yは−O−または−NH−を表し、nは0または1であり、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を表し、Xは双性イオン基またはカチオン基を表す。)
で表される双性イオンモノマー単位およびカチオン性モノマー単位からなる群から選択させる少なくとも1種のイオン性モノマー単位と前記イオン性モノマー単位以外のその他のモノマー単位とを含有し且つ前記ナノ構造体に吸着している共重合体と、
を備えることを特徴とするものである。また、本発明の分散液は、このようなナノ複合体と溶媒とを含有することを特徴とするものである。
【0015】
さらに、本発明のナノ複合体の製造方法は、ナノ構造体と、下記式(1):
【0016】
【化2】

【0017】
(式(1)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基を表し、Yはカルボニル基またはアリーレン基を表し、Yは−O−または−NH−を表し、nは0または1であり、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を表し、Xは双性イオン基またはカチオン基を表す。)
で表される双性イオンモノマー単位およびカチオン性モノマー単位からなる群から選択させる少なくとも1種のイオン性モノマー単位と前記イオン性モノマー単位以外のその他のモノマー単位とを含有する共重合体と、
を溶媒中で混合して前記ナノ構造体に前記共重合体を吸着させることを特徴とするものである。
【0018】
本発明のナノ複合体およびその製造方法において、前記イオン性モノマー単位は、前記双性イオンモノマー単位および前記カチオン性モノマーのうちのいずれか一方であることが好ましく、また、前記その他のモノマー単位としては、多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位、イミド環含有ビニル系モノマー単位、オレフィン系モノマー単位、チオフェン単位、ピロール単位、アニリン単位、アセチレン単位、アリーレン単位、アリーレンエチニレン単位およびアリーレンビニレン単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むものが好ましく、多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位がより好ましい。
【0019】
なお、本発明にかかる共重合体をナノ構造体に吸着させるによって、高温下における水系溶媒中でのナノ複合体の分散性が向上する理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明にかかる共重合体は、前記式(1)で表される双性イオンモノマー単位および/またはカチオン性モノマー単位を含有するものである。このような双性イオンモノマー単位およびカチオン性モノマー単位は、非イオン性モノマー単位やアニオン性モノマー単位と比較して、高温下における水系溶媒との親和性に優れていると推察される。その結果、高温下、水系溶媒中でのナノ複合体同士の凝集を抑制することが可能となり、高温下の水系溶媒中においてもナノ複合体の優れた分散性を維持することができると推察される。一方、例えば、非イオン性モノマー単位は、通常、水素結合により水系溶媒との親和性を示すものであるが、高温下(例えば、150℃以上)では、この水素結合が解離して水系溶媒との親和性が低下し、ナノ複合体同士が凝集すると推察される。
【0020】
また、本発明にかかる共重合体は、前記イオン性モノマー単位以外のその他のモノマー単位を含有するものである。本発明のナノ複合体においては、前記その他のモノマー単位がナノ構造体の表面に吸着するため、前記共重合体のナノ構造体への吸着性が向上すると推察される。その結果、本発明にかかる共重合体は、前記その他のモノマーを含まない単独重合体と比較して、高温下でのナノ構造体への吸着性が向上し、ナノ複合体同士の凝集が抑制されると推察される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、高温下においても水系溶媒中での分散性に優れるナノ複合体、およびそれを含む分散液を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0023】
本発明のナノ複合体は、ナノ構造体と、特定の双性イオンモノマー単位および特定のカチオン性モノマー単位からなる群から選択させる少なくとも1種のイオン性モノマー単位と前記イオン性モノマー単位以外のその他のモノマー単位とを含有し且つ前記ナノ構造体に吸着している共重合体と、を備えるものである。
【0024】
(ナノ構造体)
本発明に用いられるナノ構造体としては特に制限はないは、例えば、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンマイクロコイル、カーボンナノウォール、カーボンナノチャプレット、フラーレン、グラファイト、グラフェン、グラフェンナノリボン、ナノグラフェン、ナノグラファイト、カーボンブラック、カーボンナノフレークといったカーボン系ナノフィラー;カーボンナノチューブの一部の炭素原子を窒素原子やホウ素原子で置換したBCNナノチューブや窒化ホウ素(BN)ナノチューブといった窒化ホウ素系ナノフィラーなどのナノフィラーが挙げられる。これらのナノ構造体は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0025】
これらのナノ構造体の中でも、得られる分散液の熱伝導性が向上するという観点から、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンマイクロコイル、カーボンナノウォール、カーボンナノチャプレット、グラファイト、グラフェンといった異方性カーボン系ナノフィラー;BCNナノチューブ、BNナノチューブといった異方性窒化ホウ素系ナノフィラーなどの異方性ナノフィラーが好ましく、熱伝導性および電気伝導性がさらに向上するという観点から、前記異方性カーボン系ナノフィラーがより好ましく、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイル、カーボンナノウォール、カーボンナノチャプレットがさらに好ましく、カーボンナノファイバー、カーボンナノホーン、カーボンナノチューブ、カーボンナノコイルが特に好ましい。
【0026】
このようなナノ構造体の平均直径としては特に制限はないが、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、300nm以下がさらに好ましく、200nm以下が特に好ましく、100nm以下が最も好ましい。ナノ構造体の平均直径が前記上限を超えると、本発明の分散液の熱伝導性や電気伝導性が十分に発現しなかったり、樹脂にナノ複合体を添加して樹脂複合材料として使用する場合に、少量の添加では曲げ弾性率などの機械強度や熱伝導性が十分に発現しない傾向にある。また、ナノ構造体の平均直径の下限としては特に制限はないが、0.4nm以上が好ましく、0.5nm以上がより好ましい。
【0027】
また、ナノ構造体が異方性ナノフィラーである場合、そのアスペクト比としては特に制限はないが、本発明の分散液の熱伝導性や電気伝導性が向上するという観点、ならびに、樹脂にナノ複合体を添加して樹脂複合材料として使用する場合に、少量添加で引張強度や衝撃強度などの機械強度および熱伝導性が向上するという観点から、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、10以上がさらに好ましく、40以上が特に好ましく、80以上が最も好ましい。
【0028】
本発明に用いられるナノ構造体の形状としては、1本の幹状でも多数のナノ構造体が枝のように外方に成長している樹枝状であってもよいが、樹脂にナノ複合体を添加して樹脂複合材料として使用する場合に、熱伝導性、機械強度などが向上するという観点から、1本の幹状であることが好ましい。また、前記ナノ構造体の構造中にカルボキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキル基、有機シリル基などの置換基、ポリ(メタ)アクリル酸エステルなどの高分子、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリチオフェンまたはポリフェニレンビニレンといった導電性高分子などが化学結合により導入されたもの、ナノ構造体を他のナノ構造体で被覆したものも、ナノ構造体として用いることができる。
【0029】
本発明においてナノ構造体としてカーボン系ナノフィラーを使用する場合、カーボン系ナノフィラーには炭素以外の原子、分子などが含まれていてもよく、必要に応じて金属や他のナノ構造体を内包させてもよい。さらに、本発明においてナノ構造体としてカーボンナノチューブまたはカーボンナノファイバーを使用する場合、単層、多層(2層以上)のいずれのものも用いることができ、用途に応じて使い分けたり、併用したりすることができる。
【0030】
本発明において、ナノ構造体としてカーボン系ナノフィラーを使用する場合、カーボン系ナノフィラーについてラマン分光光度計で測定して得られるラマンスペクトルのピークのうち、グラフェン構造での炭素原子のずれ振動に起因する約1585cm−1付近に観察されるGバンドと、グラフェン構造にダングリングボンドのような欠陥があると観測される約1350cm−1付近に観察されるDバンドの比(G/D)は特に制限されないが、高熱伝導性が要求される用途においては、0.1以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、3.0以上であることがさらに好ましく、5.0以上であることが特に好ましく、10.0以上であることが最も好ましい。G/Dが前記下限未満になると、熱伝導性が十分に付与されない傾向にある。
【0031】
このようなナノ構造体の製造方法としては特に制限はなく、例えば、カーボン系ナノフィラーは、レーザーアブレーション法、アーク合成法、HiPcoプロセスなどの化学気相成長法(CVD法)、直噴熱分解合成法(DIPS法)、溶融紡糸法などの従来公知の製造方法を用途に応じて適宜選択することにより製造できるが、これらの方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0032】
(共重合体)
本発明に用いられる共重合体は、下記式(1):
【0033】
【化3】

【0034】
(式(1)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基を表し、Yはカルボニル基またはアリーレン基を表し、Yは−O−または−NH−を表し、nは0または1であり、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を表し、Xは双性イオン基またはカチオン基を表す。)
で表される双性イオンモノマー単位およびカチオン性モノマー単位からなる群から選択される少なくとも1種のイオン性モノマー単位と、このようなイオン性モノマー単位以外のその他のモノマー単位とを含有するものである。このような双性イオンモノマー単位および/またはカチオン性モノマー単位を含有する共重合体は、非イオン性モノマー単位および/またはアニオン性モノマー単位を含有する共重合体と比較して、高温下において、水系溶媒との親和性に優れているため、ナノ複合体同士の凝集を抑制し、高温下の水系溶媒中においてもナノ複合体の優れた分散性を維持することができる。
【0035】
前記式(1)において、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基を表す。前記1価の有機基の炭素数としては1〜10が好ましく、1〜5がより好ましい。このような1価の有機基としては、水素原子、アルキル基、アルキルエステル基、カルボキシル基などが挙げられる。これらのうち、RおよびRとしては水素原子、アルキルエステル基およびカルボキシル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。また、Rとしては水素原子、メチル基、アルキルエステル基およびカルボキシル基が好ましく、水素原子およびメチル基が特に好ましい。
【0036】
前記式(1)中のYはカルボニル基またはアリーレン基を表し、アリーレン基としては特に制限はないが、フェニレン基、フェニレン基の少なくとも1つの水素原子が他の原子または置換基に置換された置換フェニレン基が好ましい。これらのうち、高温下における水系溶媒中でのナノ複合体の分散性が向上するという観点から、カルボニル基が好ましい。
【0037】
また、前記式(1)において、Yは−O−または−NH−を表す。nは0または1であるが、高温下における水系溶媒中でのナノ複合体の分散性が向上するという観点から、1であることが好ましい。Rは炭素数1〜20の2価の有機基を表し、その炭素数は1〜10が好ましく、1〜6がより好ましい。このような2価の有機基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、およびこれらの基の少なくとも1つの水素原子が他の原子または置換基に置換された置換体が好ましい。
【0038】
前記式(1)中のXは双性イオン基またはカチオン基を表す。したがって、本発明においては、前記式(1)中のXが双性イオン基であるイオン性モノマー単位を「双性イオンモノマー単位」といい、カチオン基であるものを「カチオン性モノマー単位」という。このようなイオン性モノマー単位のうち、高温下における水系溶媒中でのナノ複合体の分散性が向上するといった観点から、カチオン性モノマー単位が好ましい。
【0039】
前記双性イオン基としては特に制限はないが、ナノ複合体の分散性、特に、高温下における水系溶媒中でのナノ複合体の分散性が向上するという観点から、スルホネート基とアンモニウム基(例えば、トリメチルアンモニウム基)とを備えるスルホベタイン基、カルボキシル基とアンモニウム基とを備えるカルボキシベタイン基、ホスホリルコリン基が好ましく、ホスホリルコリン基がより好ましい。なお、ホスホリルコリン基は、細胞膜のリン脂質構造の極性部位と同じ構造であるため、生体親和性に優れる双性イオン基であり、ナノ構造体に高い生体親和性を付与したり、ナノ構造体へのタンパク質の吸着を抑制することが可能となるという点においても好ましい双性イオン基である。
【0040】
また、前記カチオン基としては特に制限はないが、前記カチオン基を構成するカチオンとしては第3級または第4級のアンモニウムイオンが挙げられ、カウンターアニオンとしては塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンなどのハロゲン化物イオン、硫酸イオン(カチオンが第4級アンモニウムイオンまたは第3級アミンの場合、モル数は1/2)などが挙げられる。中でも、ナノ複合体の分散性および原料コストの観点から、カチオンが第4級アンモニウムイオンであり、且つ、カウンターアニオンが塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオンまたは硫酸イオンであるカチオン基が好ましい。
【0041】
本発明にかかる双性イオンモノマー単位およびカチオン性モノマー単位は、通常、下記式(2):
【0042】
【化4】

【0043】
(式(2)中のR、R、R、Y、Y、n、RおよびXは前記式(1)中のR、R、R、Y、Y、n、RおよびXと同義である。)
で表される双性イオンモノマーまたはカチオン性モノマーから誘導されるモノマー単位であるが、前記式(1)で表されるモノマー単位であれば前記双性イオンモノマーから誘導されるものに限定されない。
【0044】
前記双性イオンモノマーとしては特に制限はないが、ホスホリルコリン基を備える双性イオンモノマーとしては、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチル−2’−(トリメチルアンモニオ)エチルホスフェート〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチルホスホリルコリン〕が好ましく、スルホベタイン基を含む双性イオンモノマーとしては、3−(メタ)アクリロイルアミノプロピルジメチル(3−スルホプロピル)アンモニウムハイドロオキシド、N−(3−スルホプロピル)−N−((メタ)アクリロイルオキシエチル)−N,N−ジメチルアンモニウムベタインが好ましく、カルボキシベタイン基を含む双性イオンモノマーとしては、N,N−ジメチル−N−(2−カルボキシエチル)−2’−(メタ)アクリロイルオキシエチルアンモニウムベタイン、2−カルボキシ−N,N−ジメチル−N−(2’−(メタ)アクリロイルオキシエチル)エタンアンモニウム塩(CMBA)が好ましい。
【0045】
前記カチオン性モノマーとしては特に制限はないが、例えば、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムクロリド〔(メタ)アクロイルコリンクロリド〕、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムブロミド〔(メタ)アクロイルコリンブロミド〕、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウムヨージド、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチルトリメチルアンモニウム硫酸塩、(2−(メタ)アクリルアミドエチル)トリメチルアンモニウムクロリド、(3−(メタ)アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド、(2−(メタ)アクリルアミドエチル)トリメチルアンモニウムブロミド(3−(メタ)アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムブロミドといった第4級アンモニウム塩;
2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチルジメチルアミンのメチルクロライド塩、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチルジメチルアミンのメチルブロマイド塩、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチルジメチルアミンのベンジルクロライド塩といった第3級アミンをハロゲン化炭化水素で4級化した塩;2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチルジメチルアミンの硫酸塩、2−((メタ)アクリロイルオキシ)エチルジメチルアミンの塩酸塩といった第3級アンモニウム塩が挙げられる。
【0046】
本発明にかかるその他のモノマー単位としては、前記イオン性モノマー単位として例示したもの以外のモノマー単位であれば特に制限はないが、高温下における水系溶媒中でのナノ複合体の分散性が向上するという観点から、多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位、イミド環含有ビニル系モノマー単位、オレフィン系モノマー単位、チオフェン単位、ピロール単位、アニリン単位、アセチレン単位、アリーレン単位、アリーレンエチニレン単位、アリーレンビニレン単位が好ましく、ナノ構造体への吸着性が向上し且つ高温下における水系溶媒中でのナノ複合体の分散性がさらに向上するという観点から、多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位、イミド環含有ビニル系モノマー単位がより好ましい。本発明に用いられる共重合体においては、これらのモノマー単位が1種のみ含まれていても2種以上含まれていてもよい。
【0047】
前記多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位としては特に制限はなく、芳香族ビニル系モノマー単位に多環芳香族基が直接または2価の有機基を介して結合したものや、アミド基含有ビニル系モノマー単位に多環芳香族基が直接または2価の有機基を介して結合したものなどが挙げられるが、下記式(3):
【0048】
【化5】

【0049】
で表されるものが好ましい。前記式(3)中、Rは、炭素数1〜20の2価の有機基を表し、Rは1価の多環芳香族含有基を表し、R、RおよびRはそれぞれ独立に水素または炭素数1〜20の1価の有機基を表す。
【0050】
としては、炭素数1〜20の2価の有機基が好ましく、メチレン、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンタメチレン、ヘキサメチレン、およびこれらの1つまたは2つ以上の水素原子が他の原子に置換された置換体がより好ましく、ナノ構造体に対する吸着性および吸着安定性の観点や前記イオン性モノマーとの共重合時の重合反応性の観点から、ブチレンが特に好ましい。Rとしては、ナフチル、ナフタレニル、アントラセニル、ピレニル、ターフェニル、ペリレン、フェナンスレン、テトラセン、ペンタセンおよびこれらの1つまたは2つ以上の水素原子が他の原子に置換された置換体が好ましく、ナノ構造体に対する吸着性および吸着安定性の観点からピレニルが特に好ましい。RおよびRとしては、水素原子、アルキルエステル基およびカルボキシル基が好ましく、水素原子が特に好ましい。Rとしては、水素原子、メチル基、アルキルエステル基およびカルボキシル基が好ましく、水素原子およびメチル基が特に好ましい。本発明に用いられる共重合体においては、このような多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位が1種のみ含まれていても2種以上含まれていてもよい。
【0051】
前記イミド環含有ビニル系モノマー単位としては、下記式(4):
【0052】
【化6】

【0053】
(式(4)中、R10およびR11はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、R12は水素原子、またはアルキル基、アルキニル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アミノ基などの1価の有機基を表す)
で表されるマレイミド系モノマー単位、下記式(5):
【0054】
【化7】

【0055】
(式(5)中、R13およびR14はそれぞれ独立に水素原子またはアルキル基を表し、R15は水素原子、またはアルキル基、アルキニル基、アラルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アミノ基などの1価の有機基を表す)
で表されるグルタルイミド基含有構成単位、ならびに、
N−アルケニルイミド単位およびその誘導体単位等が挙げられる。
【0056】
このようなイミド基含有構成単位を形成するために用いられるマレイミド系モノマーとしては特に制限はないが、例えば、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−エチルマレイミド、N−n−プロピルマレイミド、N−イソプロピルマレイミド、N−n−ブチルマレイミド、N−イソブチルマレイミド、N−tert−ブチルマレイミド、N−n−ペンチルマレイミド、N−n−ヘキシルマレイミド、N−n−ヘプチルマレイミド、N−n−オクチルマレイミドおよびN−n−ドデシルマレイミドといったN−アルキルマレイミド;N−アセチレニルマレイミドおよびN−プロピニルマレイミドといったN−アルキニルマレイミド;N−ベンジルマレイミド、N−メチルベンジルマレイミド、N−フェニルエチルマレイミド、N−フェニルエチルマレイミド、N−ナフチルメチルマレイミド、N−ナフチルエチルマレイミドといったN−アラルキルマレイミド;N−シクロヘキシルマレイミドに代表されるN−無置換シクロアルキルマレイミド、N−メチルシクロヘキシルマレイミドに代表されるN−置換シクロアルキルマレイミドといったN−シクロアルキルマレイミド;N−フェニルマレイミド、N−ナフチルマレイミド、N−ナフタレニルマレイミド、N−ペリレニルマレイミド、N−ペンタセニルマレイミド、N−ターフェニルマレイミド、N−フェナンスレニルマレイミド、N−テトラセニルマレイミド、N−アントラセニルマレイミドおよびN−ピレニルマレイミドに代表されるN−無置換アリールマレイミド、N−トリルマレイミドおよびN−キシリルマレイミドに代表されるN−アルキル置換アリールマレイミド、N−(4−アミノフェニル)マレイミドに代表されるN−アミノ置換アリールマレイミド、N−アセチレニルフェニルマレイミドおよびN−プロピニルフェニルマレイミドに代表されるN−アルキニル置換アリールマレイミド、N−ビフェニルマレイミドに代表されるN−アリール置換アリールマレイミド、N−o−クロロフェニルマレイミド、N−(2,4,6−トリクロロフェニル)マレイミド、N−ペンタフルオロフェニルマレイミドおよびN−テトラフルオロフェニルマレイミドに代表されるN−ハロゲン置換アリールマレイミドといったN−アリールマレイミド;N−ピリジルマレイミド、N−3−(9−アルキルカルバゾイル)マレイミドおよびN−(9−アクリジニル)マレイミドといった複素環で置換されたマレイミド;N,N’−1,4−フェニレンジマレイミド、N,N’−1,3−フェニレンジマレイミドおよび4,4’−ビスマレイミドジフェニルメタンといったビスマレイミド;N−フルオロマレイミド、N−クロロマレイミド、N−ブロモマレイミド、およびN−ヨードマレイミドといったハロゲン化マレイミド;N−アミノマレイミド、N−アセチルマレイミド、N−ヒドロキシマレイミド、N−ヒドロキシフェニルマレイミド、p−カルボキシフェニルマレイミド、N−(2−カルボキシエチル)マレイミド、3−マレイミドプロピオン酸N−ヒドロキシスクシンイミド、6−マレイミドヘキサン酸N−ヒドロキシスクシンイミド、3−[2−(2−マレイミドエトキシ)エチルカルバモイル]−2,2,5,5−テトラメチル−1−ピロリジニロキシ、3−マレイミド安息香酸N−ヒドロキシスクシンイミドなどが挙げられる。これらのマレイミド系モノマーは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらのマレイミド系モノマーは、必要に応じてスルホン基やスルホンイミド基などの水溶性の置換基を有していてもよい。さらに、これらのマレイミド系モノマーの塩を使用することもできる。
【0057】
前記イミド基含有構成単位を形成するために用いられるグルタルイミドとしては特に制限はないが、例えば、グルタルイミド、N−メチルグルタルイミド、N−エチルグルタルイミド、N−n−プロピルグルタルイミド、N−イソプロピルグルタルイミド、N−n−ブチルグルタルイミド、N−イソブチルグルタルイミド、N−tert−ブチルグルタルイミド、N−n−ペンチルグルタルイミド、N−n−ヘキシルグルタルイミド、N−n−ヘプチルグルタルイミド、N−n−オクチルグルタルイミドおよびN−n−ドデシルグルタルイミドといったN−アルキルグルタルイミド;N−アセチレニルグルタルイミドおよびN−プロピニルグルタルイミドといったN−アルキニルグルタルイミド;N−ベンジルグルタルイミドおよびN−メチルベンジルグルタルイミドといったN−アラルキルグルタルイミド;N−シクロヘキシルグルタルイミドに代表されるN−無置換シクロアルキルグルタルイミド、N−メチルシクロヘキシルグルタルイミドに代表されるN−置換シクロアルキルグルタルイミドといったN−シクロアルキルグルタルイミド;N−フェニルグルタルイミド、N−ナフチルグルタルイミド、N−アントラセニルグルタルイミドおよびN−ピレニルグルタルイミドに代表されるN−無置換アリールグルタルイミド、N−トリルグルタルイミドおよびN−キシリルグルタルイミドに代表されるアルキル置換アリールグルタルイミド、N−(4−アミノフェニル)グルタルイミドに代表されるN−アミノ置換アリールグルタルイミド、N−アセチレニルフェニルグルタルイミドおよびN−プロピニルフェニルグルタルイミドに代表されるN−アルキニル置換アリールグルタルイミド、N−ビフェニルグルタルイミドに代表されるN−アリール置換アリールグルタルイミドといったN−アリールグルタルイミドなどが挙げられる。これらのグルタルイミドは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0058】
さらに、前記イミド基含有構成単位を形成するために用いられるN−アルケニルイミドおよびその誘導体としては特に制限はないが、例えば、N−ビニルコハク酸イミド、N−ビニルフタルイミド、1−ビニルイミダゾールおよびN−ビニルカルバゾールなどが挙げられる。これらは1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0059】
本発明に用いられる共重合体において、このようなイミド基含有構成単位が1種のみ含まれていても2種以上含まれていてもよい。また、これらのイミド基含有構成単位のうち、ナノ複合体の分散性の向上および耐熱性の向上という観点から、マレイミド系モノマー単位が好ましく、マレイミドモノマー単位、N−シクロアルキルマレイミドモノマー単位、N−アリールマレイミドモノマー単位およびN−アルキルマレイミドモノマー単位のうちの少なくとも1種がより好ましく、N−アリールマレイミドモノマー単位が特に好ましい。また、共重合体が他のビニル系モノマー単位として、剛直なイミド基含有構成単位を含有する場合、イミド基含有構成単位の含有量をより増加させることによって、剛直性がさらに強化される傾向にあり、これにより例えば平均直径が30nm以下のナノ複合体であっても分散性をより十分に向上させることができる傾向にある。
【0060】
前記オレフィン系モノマー単位としては、モノオレフィン系モノマー単位、ジエン系モノマー単位などが挙げられる。本発明に用いられる共重合体においては、これらのオレフィン系モノマー単位が1種のみ含まれていても2種以上含まれていてもよい。このようなモノマー単位を形成するために用いられるオレフィン系モノマーとしては、エチレン、プロピレン、1−ブテン、シス−2−ブテン、トランス−2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2,3−ジメチル−2−ブテン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンといったモノオレフィン系モノマー;アレン、メチルアレン、ブタジエン、2,3−ジメチルブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、クロロプレン、1,5−ヘキサジエンといったジエン系モノマーなどが挙げられる。
【0061】
前記チオフェン単位としては特に制限はないが、アルキルチオフェン単位、アルコキシチオフェン単位、アルコキシアルキルチオフェン単位などが挙げられ、中でも、アルキルチオフェン単位、アルコキシチオフェン単位が好ましい。本発明に用いられる共重合体においては、これらのチオフェン単位が1種のみ含まれていても2種以上含まれていてもよい。また、本発明に用いられる共重合体としては、このようなチオフェン単位がランダムに導入されたものより、ポリチオフェンブロック単位として導入されたものが好ましい。ポリチオフェンブロック単位が導入されることによって、高温下における水系溶媒中でのナノ複合体の分散性が向上する傾向にある。このようなブロック共重合体は、先ず、リビングラジカル重合やラジカル重合などのビニル重合可能な官能基を末端に有するポリチオフェンを合成し、このポリチオフェンの末端に前記式(2)で表される双性イオンモノマーおよびカチオン性モノマーのうちの少なくとも1種のイオン性モノマーを重合させることにより合成することができる。前記ポリチオフェンとしては、ポリ−3−アルキルチオフェン、ポリ−3−アルコキシチオフェン、ポリ−3−アルコキシ−4−アルキルチオフェンなどが挙げられる。このようなポリチオフェンのアルキル基および/またはアルコキシ基の炭素数としては特に制限はないが、1〜20が好ましく、1〜12がより好ましい。また、前記アルキル基および前記アルコキシ基は直鎖状、分岐状のいずれのものでもよい。このようなポリ−3−アルキルチオフェンとしては、例えば、ポリ−3−メチルチオフェン、ポリ−3−エチルチオフェン、ポリ−3−プロピルチオフェン、ポリ−3−ブチルチオフェン、ポリ−3−ヘキシルチオフェン、ポリ−3−オクチルチオフェン、ポリ−3−デシルチオフェン、ポリ−3−ドデシルチオフェン、ポリ−3−オクタデシルチオフェンなどが挙げられる。また、ポリ−3−アルコキシチオフェンとしては、例えば、ポリ−3−メトキシチオフェン、ポリ−3−エトキシチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシチオフェンなどが挙げられる。さらに、ポリ−3−アルコキシ−4−アルキルチオフェンとしては、例えば、ポリ−3−メトキシ−4−メチルチオフェン、ポリ−3−メトキシ−4−ヘキシルチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシ−4−ヘキシルチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシ−4−メチルチオフェンなどが挙げられる。
【0062】
前記アリーレンエチニレン単位としては特に制限はないが、ポリフェニレンエチニレン単位などが挙げられる。また、前記アリーレンビニレン単位としては特に制限はないが、ポリフェニレンビニレン単位、ポリチエニレンビニレン単位などが挙げられる。
【0063】
また、本発明に用いられる共重合体においては、必要に応じて、上述した好適なその他のモノマー単位以外のその他のモノマー単位がさらに含まれていてもよい。このようなモノマー単位としては、不飽和カルボン酸エステルモノマー単位、シアン化ビニル系モノマー単位、不飽和カルボン酸モノマー単位、その酸無水物単位またはその誘導体単位、エポキシ基含有ビニル系モノマー単位、オキサゾリン基含有ビニル系モノマー単位、アミノ基含有ビニル系モノマー単位、アミド基含有ビニル系モノマー単位、ヒドロキシル基含有ビニル系モノマー単位、ハロゲン化ビニル系モノマー単位、カルボン酸不飽和エステルモノマー単位、前記式(1)で表わされるカチオン性モノマー単位以外のその他のカチオン性モノマー単位、アニオン性モノマー単位、ポリオキシアルキレン基含有ビニル系モノマー単位、シリル基含有ビニル系モノマー単位、ポリシロキサン基含有ビニル系モノマー単位などが挙げられる。これらのモノマー単位は1種のみが含まれていても2種以上が含まれていてもよい。
【0064】
このような共重合体において、前記式(1)で表されるイオン性モノマー単位の含有率としては特に制限はないが、0.1モル%以上が好ましく、0.5モル%以上がより好ましく、1モル%以上がさらに好ましく、2モル%以上が特に好ましく、5モル%以上が最も好ましい。前記イオン性モノマー単位の含有率が前記下限未満になると、高温下における水系溶媒中でのナノ複合体の分散性が低下する傾向にある。また、前記イオン性モノマー単位の含有率の上限としては特に制限はないが、99.9モル%以下が好ましく、99.5モル%以下がより好ましく、99モル%以下がさらに好ましく、95モル%以下が特に好ましい。なお、共重合体中の前記式(1)で表されるイオン性モノマー単位の割合は、重水中、30℃、400MHzの条件でH−NMR測定を行い、各単位のプロトンの積分値の比から決定することができる。
【0065】
本発明において、前記共重合体の数平均分子量としては特に制限はないが、0.1万以上が好ましく、ナノ構造体への吸着量が向上するという観点から、0.2万以上がより好ましく、0.3万以上が特に好ましい。また、このような共重合体の数平均分子量の上限としては特に制限はないが、500万以下が好ましく、100万以下がより好ましく、50万以下が特に好ましい。共重合体の数平均分子量が前記上限を超えると、共重合体の流動性が低下したり、ナノ複合体の分散性が低下したりする傾向にある。さらに、前記共重合体の分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は特に制限されず、単分散であっても多峰分散であってもよい。
【0066】
このような共重合体は、前記式(2)で表される双性イオンモノマーおよびカチオン性モノマーのうちの少なくとも1種のイオン性モノマーと、このイオン性モノマー以外のその他のモノマーとを共重合させることによって製造することができる。このような共重合反応における反応連鎖の伝達媒体としては特に制限はないが、ラジカルやイオンが挙げられる。このような共重合反応としては、ラジカル重合またはリビングラジカル重合が好ましく、工業性の観点からラジカル重合が特に好ましい。
【0067】
ラジカル重合やイオン重合における重合方法については特に制限はなく、例えば、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合、沈殿重合などの公知の重合方法を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができ、回分式、連続式のいずれの重合方法でもよい。また、予め、共重合体の前駆体を合成し、その後、この前駆体同士または前駆体と他のモノマーとを適切に反応させて目的とする共重合体を合成することもできる。なお、このような共重合体の製造方法においては、従来公知の重合開始剤、連鎖移動剤、触媒、分散安定剤および溶媒などを用いることができる。
【0068】
本発明にかかる共重合体のシーケンスとしては特に制限はなく、例えば、ランダム、ブロック、交互、グラフト、ハイパーブランチなどのデンドリティックおよびスターポリマーなどの分岐状のいずれのものでもよいが、高温下における水系溶媒中でのナノ複合体の分散性が向上するという観点から、ランダム、ブロック、交互、グラフトのうち少なくとも1種が好ましい。
【0069】
(ナノ複合体の特性)
本発明のナノ複合体は、前記ナノ構造体に前記共重合体が吸着したものである。従来、前記ナノ構造体は、溶媒中や樹脂中に分散させることは困難であったが、前記ナノ構造体に前記共重合体を吸着させることによって、樹脂中や溶媒中、特に高温下においても水系溶媒中に均一に分散させることが可能となる。
【0070】
本発明のナノ複合体においては、前記ナノ構造体に対する前記共重合体の吸着量は特に制限されないが、高温下における水系溶媒中でのナノ複合体の分散性が向上するという観点から、ナノ構造体100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましく、2.0質量部以上が特に好ましく、3.0質量部以上が最も好ましい。共重合体の吸着量が前記下限未満になるとナノ複合体の分散性が低下する傾向にある。また、前記共重合体の吸着量の上限としては、高温下における水系溶媒中でのナノ複合体の分散性が向上するという観点から、ナノ構造体100質量部に対して200質量部以下が好ましく、150質量部以下がより好ましい。
【0071】
本発明のナノ複合体は、樹脂、金属およびセラミックス中に添加して用いることもできる。ナノ複合体を樹脂に添加して樹脂組成物を調製する場合、ナノ複合体の添加量としては特に制限はないが、樹脂組成物全体(100容量%)に対して、0.1容量%以上が好ましく、0.3容量%以上がより好ましく、0.5容量%以上がさらに好ましく、0.7容量%以上が特に好ましく、1.0容量%以上が最も好ましい。また、ナノ複合体の添加量の上限としては、絶縁性を維持できる限り特に制限はないが、成形加工性の観点から、50容量%以下が好ましく、25容量%以下がより好ましく、20容量%以下がさらに好ましく、10容量%以下が特に好ましく、5容量%以下が最も好ましい。
【0072】
<ナノ複合体の製造方法>
本発明のナノ複合体の製造方法としては、前記ナノ構造体に前記共重合体を吸着させることが可能な方法であれば特に制限はないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
(i)前記ナノ構造体と前記共重合体とを溶媒中で混合する方法。
(ii)前記ナノ構造体と前記共重合体とを溶媒を使用せずに混合する方法。
(iii)前記ナノ構造体と溶融させた前記共重合体とを混合する方法。
(iv)前記ナノ構造体と前記共重合体とを溶媒を使用せずに混合した後、前記共重合体を溶融させる方法。
(v)前記ナノ構造体の存在下で、必要に応じて溶媒を用いて前記共重合体を重合により合成する方法。
【0073】
このような本発明のナノ複合体を製造するための方法は単独で実施しても2つ以上を組み合わせて実施してもよい。また、これらの製造方法においては、前記混合の際または前記重合後に、超音波処理、振動、攪拌、外場の印加(例えば、磁場印加、電場印加など)、溶融混錬などの処理を少なくとも1つ施すことが好ましく、中でも超音波処理を施すことがより好ましい。前記超音波処理としては特に制限はないが、例えば、超音波洗浄機を用いる方法や、超音波ホモジナイザーを用いる方法が挙げられる。なお、溶融混練処理を行う場合には、前記ナノ構造体、前記共重合体、必要に応じて樹脂および/または添加剤を、それぞれペレット状、粉末状または細片状にしたものを、攪拌機、ドライブレンダーまたは手混合などにより均一に混合した後、一軸または多軸のベントを有する押出機、ゴムロール機、またはバンバリーミキサーなどを用いて溶融混練することができる。
【0074】
このような本発明のナノ複合体を製造するための方法のうち、ナノ構造体への共重合体の吸着量が向上するという観点から、前記(i)の製造方法、すなわち、前記ナノ構造体と前記共重合体とを溶媒中で混合して前記ナノ構造体に前記共重合体を吸着させて本発明のナノ複合体を得る方法が好ましく、かかる製造方法を利用して混合する際に超音波処理を施すことがより好ましい。
【0075】
前記ナノ構造体と前記共重合体とを混合する方法については特に制限はなく、一括で混合しても分割して混合してもよい。また、その順序については、前記ナノ構造体に前記共重合体を添加してもよいし、前記共重合体に前記ナノ構造体を添加してもよいし、前記ナノ構造体と前記共重合体とを同時に添加してもよいし、交互に添加してもよい。また、前記ナノ構造体と前記共重合体とを混合する際に他の樹脂や添加剤を添加してもよい。この樹脂や添加剤も一括で混合しても分割して混合してもよい。また、その順序についても特に制限はない。
【0076】
前記ナノ構造体と前記共重合体との混合比率としては特に制限はないが、前記共重合体の添加量は、ナノ構造体100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上がさらに好ましく、2.0質量部以上が特に好ましく、3.0質量部以上が最も好ましい。前記共重合体の添加量が前記下限未満になるとナノ複合体の分散性および耐熱性が低下しやすい傾向にある。また、前記共重合体の添加量の上限としては、ナノ構造体100質量部に対して100000質量部以下が好ましく、ナノ複合体を含む樹脂組成物の熱伝導性が求められる用途における熱伝導性の向上の観点から、1000質量部以下がより好ましく、500質量部以下がさらに好ましい。
【0077】
前記(i)または(v)の製造方法において用いられる溶媒としては特に制限はないが、例えば、水、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸アミル、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロフェノール、ジクロロベンゼン、フェノール、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、N−ジメチルピロリドン、ペンタン、ヘキサン、ネオペンタン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、ジエチルエーテルなどが挙げられる。これらの溶媒のうち、水、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、アセトン、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、2−メトキシ−1−プロパノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、N−ジメチルピロリドンがより好ましい。また、これらの溶媒は1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。水としても特に制限はないが、硬水、軟水、イオン交換水などが好ましい。また、本発明にかかる共重合体が双性イオンモノマー単位を含む場合には、溶媒のpHの影響をほとんど受けることなく、ナノ構造体を良好に分散させることができる。なお、本発明においては、エポキシ樹脂などの硬化樹脂の主剤や架橋剤などの原料を溶媒として用いることもできる。
【0078】
また、溶媒中でナノ複合体を製造する前記(i)または(v)の製造方法においては、ナノ構造体の添加量としては特に制限はないが、溶媒100質量部に対して0.0001質量部以上が好ましく、0.001質量部以上がより好ましく、0.005質量部以上がさらに好ましく、0.01質量部以上が特に好ましい。また、ナノ構造体の添加量の上限としては特に制限はないが、溶媒100質量部に対して100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましく、20質量部以下が特に好ましい。ナノ構造体の添加量が前記下限未満になるとナノ複合体の生産性が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えるとナノ構造体の分散性が低下して凝集が起こりやすく、また、共重合体の吸着量が減少しやすい傾向にあるが、前記好適な上限を超えた場合でも、例えば、分散液中の凝集や沈殿がない部分(例えば、上澄み液など)を回収するなどによって良質な分散液を得ることができる。
【0079】
また、前記(i)または(v)の製造方法により前記ナノ構造体に前記共重合体を吸着させた後、濾過、遠心分離と濾過との組み合わせ、再沈殿、溶媒の除去(乾燥など)、溶媒を含んだままの溶融混練、ナノ複合体のサンプリングなどによりナノ複合体を得ることができる。
【0080】
さらに、前記(i)または(v)の製造方法により前記ナノ構造体に前記共重合体を吸着させた場合には、必要に応じて、混合後の分散液を濾過して溶媒および溶媒に溶解した未吸着の共重合体を除去し、ナノ複合体を回収することができる。除去した未吸着の共重合体は回収して再利用することもできる。また、前記共重合体に対する貧溶媒で再沈殿させることにより、カーボンナノ複合体を回収することもできる。
【0081】
<ナノ複合体を含む分散液>
本発明の分散液は、本発明のナノ複合体および溶媒を含むものである。前記溶媒としては前記混合方法において例示したものが挙げられる。本発明においては、カーボンナノ複合体を溶媒中で調製してそのまま分散液として使用することもできるが、本発明のカーボンナノ複合体が再分散性に優れているため、カーボンナノ複合体を溶媒に添加して超音波処理などを施すことにより分散液を製造することもできる。
【0082】
本発明の分散液において、前記ナノ複合体の含有量としては特に制限はないが、分散液全体(100質量%)に対して、0.0001質量%以上が好ましく、0.001質量%以上がより好ましく、0.005質量%以上がさらに好ましく、0.01質量%以上が特に好ましく、0.02質量%以上が最も好ましい。また、ナノ複合体の含有量の下限としてはナノ複合体の分散性を維持できる限り特に制限はないが、20質量%以下が好ましく、18質量%以下がより好ましく、15質量%以下がさらに好ましく、13質量%以下が特に好ましく、10質量%以下が最も好ましい。
【実施例】
【0083】
以下、実施例および比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、共重合体およびナノフィラー複合体の各種物性は以下の方法により測定した。
【0084】
(1)共重合体の組成分析方法
共重合体を重水に溶解し、30℃、400MHzの条件でH−NMR測定を実施した。そして、測定結果から、下記表1に記載した化学シフトに従って各構成単位のプロトンの積分値を求め、これらの比から共重合体における各構成単位のモル比を決定した。
【0085】
【表1】

【0086】
(2)共重合体の吸着量の測定方法
先ず、ナノフィラーおよび共重合体をそれぞれ真空乾燥して残留溶媒などの揮発分を除去した後、それぞれについて熱重量分析装置(理学電機(株)製「Thermo plus TG8120」)を用いて窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で室温から600℃まで加熱して熱重量分析(TGA)を実施し、ナノフィラーおよび共重合体の熱分解開始温度および熱分解終了温度を測定した。なお、通常、質量減少が開始した時点の温度を熱分解開始温度とし、質量減少が終了した時点の温度を熱分解終了温度としたが、600℃の時点で質量減少が終了していない場合には質量減少が終了するまでさらに昇温して熱分解終了温度を測定した。
【0087】
次に、各実施例で得られたナノフィラー複合体を含有する分散液について、分散液の作製に使用した量の3倍量のイオン交換水を用いて洗浄しながら吸引濾過を行なった。得られた濾滓を80℃で12時間真空乾燥してイオン交換水を留去し、ナノフィラー複合体を回収した。このナノフィラー複合体について、熱重量分析装置(理学電機(株)製「Thermo plus TG8120」)を用いて窒素雰囲気下、昇温速度20℃/分で室温から600℃まで(ナノフィラー複合体に含まれる共重合体の熱分解終了温度が600℃以上の場合には熱分解終了温度まで)加熱して熱重量分析を実施した。ナノフィラー複合体の質量減少のうちの共重合体に由来するものをナノフィラーへの共重合体の吸着量とし、ナノフィラー100質量部に対する量[質量部]で表した。
【0088】
(3)室温下での分散性
各実施例で得られたナノフィラー複合体を含有する分散液に、室温で遠心分離(相対遠心加速度1220Gで1時間)を施し、その上澄み液についてUV−可視光吸収スペクトルを室温で測定し、600nmの吸光度により分散性を評価した。この吸光度の値が高いものほど、分散液に遠心分離を施しても、ナノフィラー複合体は、沈降しにくく、室温での分散性に優れたものであることを意味する。
【0089】
(4)高温下での分散性
各実施例で得られたナノフィラー複合体を含有する分散液を容量50mLのオートクレーブに入れ、160℃の温度に保持した熱風乾燥機で1時間熱処理(160℃)を施した。この分散液を室温まで冷却した後、得られた分散液に室温で遠心分離(相対遠心加速度1220Gで1時間)を施し、その上澄み液についてUV−可視光吸収スペクトルを室温で測定し、600nmの吸光度により分散性を評価した。この吸光度の値が高いものほど、ナノフィラー複合体は、高温処理による凝集が起こりにくく、高温下での分散性に優れたものであることを意味する。
【0090】
また、実施例および比較例で用いたナノフィラーを以下に示す。なお、カーボン系ナノフィラーのG/D値は、レーザーラマン分光システム(日本分光(株)製「NRS−3300」)を用い、励起レーザー波長532nmにおいて測定を行い、約1585cm−1付近に観察されるGバンドと約1350cm−1付近に観察されるDバンドのラマンスペクトルのピーク強度から求めた。
カーボン系ナノフィラー(a−1):
単層カーボンナノチューブ(CNI社製「HiPco−SWNT」、平均直径1.0nm、アスペクト比100超過、G/D値:16.0、窒素雰囲気下での熱分解温度は600℃超過)。
カーボン系ナノフィラー(a−2):
多層カーボンナノチューブ(ナノシル社製「Nanocyl7000」、平均直径9.5nm、アスペクト比100超過、G/D値:0.7、窒素雰囲気下での熱分解温度は600℃超過)。
【0091】
さらに、実施例および比較例で用いた共重合体の調製方法を以下に示す。
【0092】
(調製例1)
メタクリル酸1−ピレニルブチルの調製:
1−ピレンブタノール5.0gおよびトリエチルアミン3.68gをテトラヒドロフラン100mlに溶解し、0℃で塩化メタクリロイル1.90gを滴下した後、室温で1時間撹拌した。析出物を酢酸エチルで洗浄しながら濾過し、濾液と洗浄液とを混合してこれを硫酸マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去した。残渣をカラムクロマトグラフ(シリカゲル、ヘキサン:酢酸エチル=10:1)で精製し、真空乾燥してメタクリル酸1−ピレニルブチルを得た。
【0093】
(調製例2)
共重合体(b−1)の調製:
撹拌機を備えた反応缶中において、下記式(6):
【0094】
【化8】

【0095】
で表される2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC、東京化成工業(株)製)90モル%およびメタクリル酸1−ピレニルブチル10モル%からなる混合物100質量部と、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.5質量部と、n−ドデシルメルカプタン0.5質量部とをクロロホルム750質量部に溶解させて溶液を得た。次に、前記溶液を、窒素気流下、室温で15分間攪拌した後、窒素雰囲気下、200rpmで攪拌しながら55℃まで昇温し、55℃で6時間保つことによりモノマーを重合させた。次いで、モノマーを重合させた後の前記溶液を30℃まで冷却した後、メタノールを投入して共重合体を溶解させ、この溶液を10倍当量のアセトン/ヘキサン(50質量%/50質量%)混合溶媒に注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、80℃で12時間真空乾燥を行って共重合体(b−1)を得た。
【0096】
このような共重合体(b−1)の組成を、前記(1)に記載の方法に従って求めたところ、前記共重合体(b−1)は、MPC単位を90モル%およびメタクリル酸1−ピレニルブチル単位を10モル%含有するものであることが確認された。したがって、前記共重合体(b−1)は下記式(7):
【0097】
【化9】

【0098】
(式(7)中、a:b=10:90(%)である。)
で表される、本発明にかかる双性イオンモノマー単位を含有するものであることがわかった。
【0099】
(調製例3)
共重合体(b−2)の調製:
撹拌機を備えた反応缶中において、下記式(8):
【0100】
【化10】

【0101】
で表されるメタクロイルコリンクロリド90モル%(メタクロイルコリンクロリドの80%水溶液を用いて調製)およびメタクリル酸1−ピレニルブチル10モル%からなる混合物100質量部と、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.5質量部と、tert−ドデシルメルカプタン0.5質量部とをジメチルホルムアミド507質量部に溶解させて溶液を得た。次に、前記溶液を、窒素気流下、200rpmで攪拌しながら80℃まで昇温し、80℃で4時間保つことによりモノマーを重合させた。次いで、モノマーを重合させた後の前記溶液を30℃まで冷却した後、メタノールで希釈し、この溶液を10倍当量のアセトン/ヘキサン(50質量%/50質量%)混合溶媒に注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、乾燥により溶媒を完全に留去して共重合体(b−2)を得た。
【0102】
このような共重合体(b−2)の組成を、前記(1)に記載の方法に従って求めたところ、前記共重合体(b−2)は、メタクロイルコリンクロリド単位を90モル%およびメタクリル酸1−ピレニルブチル単位を10モル%含有するものであることが確認された。したがって、前記共重合体(b−2)は下記式(9):
【0103】
【化11】

【0104】
(式(9)中、a:b=10:90(%)である。)
で表される、本発明にかかるカチオン性モノマー単位を含有するものであることがわかった。
【0105】
(調製例4)
共重合体(p−1)の調製:
攪拌機を備えた反応缶中において、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート(新中村化学工業(株)製「NKエステルM230G」、ラジカル重合性基がメタクリロキシ基であり、高分子鎖部分の高分子鎖がポリエチレングリコールであるもの、数平均分子量1100)40モル%、メタクリル酸1−ピレニルブチル25モル%およびメタクリル酸メチル35モル%からなる混合物100質量部と、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル1.0質量部とを無水トルエン250質量部に溶解させて溶液を得た。次に、前記溶液を、窒素気流下、200rpmで攪拌しながら75℃まで昇温し、75℃で4時間保つことによりモノマーを重合させた。次いで、モノマーを重合させた後の前記溶液を30℃まで冷却した後、5倍当量のヘキサンに注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、乾燥により溶媒を完全に留去して共重合体(p−1)を得た。
【0106】
このような共重合体(p−1)の組成を前記(1)に記載の方法に従って組成を求めたところ、前記共重合体(p−1)は、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート単位を55モル%、メタクリル酸1−ピレニルブチル単位を16モル%およびメタクリル酸メチル単位を29モル%含有するものであることが確認された。したがって、前記共重合体(p−1)は下記式(10):
【0107】
【化12】

【0108】
(式(10)中、mはカッコ内の単位の繰り返し数を示し、c:d:e=16:55:29(%)である。)
で表されるものであることがわかった。
【0109】
(調製例5)
単独重合体(p−2)の調製:
撹拌機を備えた反応缶中において、2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)100質量部と、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル0.5質量部と、n−ドデシルメルカプタン0.5質量部とをクロロホルム750質量部に溶解させて溶液を得た。次に、前記溶液を、窒素気流下、室温で15分間攪拌した後、窒素雰囲気下、200rpmで攪拌しながら55℃まで昇温し、55℃で6時間保つことによりモノマーを重合させた。次いで、モノマーを重合させた後の前記溶液を室温まで冷却した後、メタノールを投入して重合体を溶解させ、この溶液をテトラヒドロフランに注ぎ込み、再沈殿により精製を行い、80℃で12時間真空乾燥を行って単独重合体(p−2)を得た。
【0110】
(調製例6)
共重合体(p−3)の調製:
撹拌機を備えた反応缶中において、60質量%のジアリルジメチルアンモニウムクロリド水溶液97質量部および蒸留水80質量部を仕込み、塩酸でpH3〜4に調整した。次に、この溶液に、メタクリル酸1−ピレニルブチル13.68質量部をジメチルホルムアミド600質量部に溶解させた溶液と、次亜リン酸ナトリウム0.72質量部とを加えて、50℃で攪拌して溶解させて溶液を得た。次いで、前記溶液を60℃まで昇温した後、28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液1.24質量部を添加した。溶液の温度を60〜65℃に4時間保持した後、28.5質量%の過硫酸アンモニウム水溶液2.48質量部をさらに添加した。その後、60℃で24時間保温した後、室温まで冷却して共重合体(p−3)を得た。
【0111】
このような共重合体(p−3)の組成を、前記(1)に記載の方法に従って求めたところ、前記共重合体(p−3)は、ジアリルジメチルアンモニウムクロリド単位を93モル%およびメタクリル酸1−ピレニルブチル単位を7モル%含有するものであることが確認された。したがって、前記共重合体(p−3)は下記式(11):
【0112】
【化13】

【0113】
(式(11)中、f:g=7:93(%)である。)
で表されるものであることがわかった。
【0114】
また、比較例において、本発明にかかる共重合体の代わりに用いた単独重合体および化合物を以下に示す。
単独重合体(p−4):
ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロリド)(アルドリッチ社製、固形分濃度20質量%の水溶液、中分子量)。
単独重合体(p−5):
ポリ(4−スチレンスルホン酸ナトリウム)(アルドリッチ社製、固形分濃度30質量%の水溶液、分子量20万)。
化合物(c−1):
2−メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(東京化成工業(株)製)。
化合物(c−2):
セチルトリメチルアンモニウムブロミド(東京化成工業(株)製)。
【0115】
(実施例1)
調製例2で得られた本発明にかかる双性イオンモノマー単位を含有する共重合体(b−1)25mgをイオン交換水25mlに溶解させ、得られた溶液にカーボン系ナノフィラー(a−1)5mgを添加し、超音波処理(BRANSON社製卓上型超音波洗浄機「BRANSONIC B−220」を使用、発振周波数45kHz)を1時間施して分散液を調製した。この分散液に分散しているカーボンナノ複合体において、カーボン系ナノフィラー(a−1)への共重合体(b−1)の吸着量を前記(2)に記載の方法に従って測定したところ、34.8質量部であった。また、前記カーボンナノ複合体の分散性を前記(3)および(4)に記載の方法に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0116】
(実施例2)
共重合体(b−1)の代わりに調製例3で得られた本発明にかかるカチオン性モノマー単位を含有する共重合体(b−2)25mgを用いた以外は実施例1と同様にして分散液を調製した。この分散液に分散しているカーボンナノ複合体において、カーボン系ナノフィラー(a−1)への共重合体(b−2)の吸着量を前記(2)に記載の方法に従って測定したところ、36.5質量部であった。また、前記カーボンナノ複合体の分散性を前記(3)および(4)に記載の方法に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0117】
(実施例3)
カーボン系ナノフィラー(a−1)の代わりにカーボン系ナノフィラー(a−2)5mgを用いた以外は実施例1と同様にして分散液を調製した。この分散液に分散しているカーボンナノ複合体において、カーボン系ナノフィラー(a−2)への本発明にかかる双性イオンモノマー単位を含有する共重合体(b−1)の吸着量を前記(2)に記載の方法に従って測定したところ、33.0質量部であった。また、前記カーボンナノ複合体の分散性を前記(3)および(4)に記載の方法に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0118】
(実施例4)
共重合体(b−1)の代わりに調製例3で得られた本発明にかかるカチオン性モノマー単位を含有する共重合体(b−2)25mgを用いた以外は実施例3と同様にして分散液を調製した。この分散液に分散しているカーボンナノ複合体において、カーボン系ナノフィラー(a−2)への共重合体(b−2)の吸着量を前記(2)に記載の方法に従って測定したところ、32.6質量部であった。また、前記カーボンナノ複合体の分散性を前記(3)および(4)に記載の方法に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0119】
(比較例1〜5)
共重合体(b−1)の代わりに、調製例4で得られた共重合体(p−1)、単独重合体(p−4)、単独重合体(p−5)、化合物(c−1)または化合物(c−2)をそれぞれ25mg用いた以外は実施例1と同様にして分散液を調製した。この分散液に分散しているカーボンナノ複合体の分散性を前記(3)および(4)に記載の方法に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0120】
(比較例6〜9)
共重合体(b−1)の代わりに、調製例4で得られた共重合体(p−1)、調製例5で得られた単独重合体(p−2)、調製例6で得られた共重合体(p−3)、または化合物(c−2)をそれぞれ25mg用いた以外は実施例3と同様にして分散液を調製した。この分散液に分散しているカーボンナノ複合体の分散性を前記(3)および(4)に記載の方法に従って測定した。その結果を表2に示す。
【0121】
【表2】

【0122】
表2に示した結果から明らかなように、本発明にかかる双性イオンモノマー単位またはカチオン性モノマー単位と多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位とを含有する共重合体を用いてカーボン系ナノフィラー複合体を調製した場合(実施例1〜4)には、室温だけでなく、160℃の高温下においても高い分散性を有する分散液が得られることが確認された。特に、本発明にかかるカチオン性イオンモノマー単位を含有する共重合体を用いた場合(実施例2、4)には、本発明にかかる双性イオンモノマー単位を含有する共重合体を用いた場合(実施例1、3)に比べて高温下での分散性がさらに高い分散液が得られることがわかった。
【0123】
一方、本発明にかかる共重合体を用いなかった場合(比較例1〜9)には、得られた分散液は高温下での分散性が非常に低いものであった。特に、本発明にかかる双性イオンモノマー単位を含む重合体であっても共重合体でない場合(比較例7)や、カチオン性モノマー単位を含む共重合体であってもカチオン性モノマー単位が本発明にかかるものでない場合(比較例8)には、高温下での分散性が高い分散液を得ることが困難であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0124】
以上説明したように、本発明によれば、高温下においても水系溶媒中での分散性に優れるナノ複合体、およびそれを含む分散液を得ることが可能となる。このようなナノ複合体は、150〜200℃での水熱反応を行う場合にも、その優れた分散性が維持され、その結果、ナノ構造体が高分散化した正極材を作製することが可能となる。
【0125】
したがって、本発明のナノ複合体は、電池正極材の電気伝導性を向上させる際に特に有用な材料である。また、ナノ流体の熱伝導性や電気伝導性を向上させる場合などにも有用な材料である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ構造体と、
下記式(1):
【化1】

(式(1)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基を表し、Yはカルボニル基またはアリーレン基を表し、Yは−O−または−NH−を表し、nは0または1であり、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を表し、Xは双性イオン基またはカチオン基を表す。)
で表される双性イオンモノマー単位およびカチオン性モノマー単位からなる群から選択させる少なくとも1種のイオン性モノマー単位と前記イオン性モノマー単位以外のその他のモノマー単位とを含有し且つ前記ナノ構造体に吸着している共重合体と、
を備えることを特徴とするナノ複合体。
【請求項2】
前記イオン性モノマー単位が前記双性イオンモノマー単位であることを特徴とする請求項1に記載のナノ複合体。
【請求項3】
前記イオン性モノマー単位が前記カチオン性モノマー単位であることを特徴とする請求項1に記載のナノ複合体。
【請求項4】
前記その他のモノマー単位が、多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位、イミド環含有ビニル系モノマー単位、オレフィン系モノマー単位、チオフェン単位、ピロール単位、アニリン単位、アセチレン単位、アリーレン単位、アリーレンエチニレン単位およびアリーレンビニレン単位からなる群から選択される少なくとも1種を含むものであることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項に記載のナノ複合体。
【請求項5】
前記その他のモノマー単位が前記多環芳香族基含有ビニル系モノマー単位であることを特徴とする請求項4に記載のナノ複合体。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれか一項に記載のナノ複合体と溶媒とを含有することを特徴とする分散液。
【請求項7】
ナノ構造体と、
下記式(1):
【化2】

(式(1)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に水素原子または炭素数1〜20の1価の有機基を表し、Yはカルボニル基またはアリーレン基を表し、Yは−O−または−NH−を表し、nは0または1であり、Rは炭素数1〜20の2価の有機基を表し、Xは双性イオン基またはカチオン基を表す。)
で表される双性イオンモノマー単位およびカチオン性モノマー単位からなる群から選択させる少なくとも1種のイオン性モノマー単位と前記イオン性モノマー単位以外のその他のモノマー単位とを含有する共重合体と、
を溶媒中で混合して前記ナノ構造体に前記共重合体を吸着させることを特徴とするナノ複合体の製造方法。

【公開番号】特開2012−46582(P2012−46582A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−188097(P2010−188097)
【出願日】平成22年8月25日(2010.8.25)
【出願人】(000003609)株式会社豊田中央研究所 (4,200)
【Fターム(参考)】