説明

ナノ複合体熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法

【課題】機械的物性に優れたナノ複合体熱可塑性樹脂組成物を製造する。
【解決手段】本発明は、ナノ複合体熱可塑性樹脂組成物及びその製造方法に関し、ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体10〜80重量%、及びスチレン含有共重合体20〜90重量%から構成された基礎樹脂100重量部;層状シリケート0.01〜10重量部;を含み、前記層状シリケートはアルコール類、ケトン類、及び糖類からなる群より選択された水溶性インターカラントによりインターカレーションされた本発明のナノ複合体熱可塑性樹脂組成物は、前記基礎樹脂との親和力の優れた水溶性インターカラントを用いて層状シリケートを前記基礎樹脂内に分散させたものであるので、機械的物性が非常に優れている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体及びスチレン含有共重合体から構成された基礎樹脂との親和力の優れた水溶性インターカラントを用い、層状シリケートを前記基礎樹脂内に分散させたナノ複合体熱可塑性樹脂組成物 及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クレイの各層を分散させたナノ複合体の製造技術は、層状構造のシリケート粘土鉱物をナノメートル単位で測定できる寸法の板状基本単位に剥離し、高分子樹脂(ポリマー)に分散させて、汎用性高分子に認められる低い機械的物性の限界を、エンジニアリングプラスチック水準まで改善しようとするものである。
【0003】
一般的に、クレイの基本単位である板状シリケートは、ファン・デル・ワールス引力が強いため、剥離して高分子樹脂に分散させることは難しく、アルキルアンモニウムのような低分子量のインターカラント(intercalant:層状物質の層間に侵入する能力を有する物質)をシリケート層状構造に挿入させて、高分子樹脂の浸透を容易にして剥離、分散させる方法が広く用いられてきたが、ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体及びスチレン含有共重合体から構成された基礎樹脂の場合は、基礎樹脂と前記インターカラントとの親和力が不足しているので板状シリケートを分散させるには困難があった。特に、シリケートを変性させるために導入されたアルキルアンモニウムは、最終複合体の熱的及び機械的特性に悪影響を与えるため、各種物性の改善範囲が、インターカレーションされたシリケートの使用比率が低くく制限された範囲でしか行えず、一方、アルキルアンモニウムを過剰に使用すると、熱安定性の不良に起因した変色、機械的物性の弱化などを招く虞があった。
【0004】
本発明の発明者等は、以上のような従来技術の問題点を克服するため、機械的物性に優れたナノ複合体熱可塑性樹脂組成物を研究し、従来からインターカラントとして用いられたアルキルアンモニウムの代わりに、ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体及びスチレン含有共重合体から構成された基礎樹脂との親和力が優れたポリビニルアルコールのような水溶性インターカラントを用いて層状シリケートを樹脂内で剥離、分散させることにより、機械的物性に優れたナノ複合体熱可塑性樹脂組成物を製造して本発明を完成した。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体及びスチレン含有共重合体から構成された基礎樹脂内での剥離、分散が容易な水溶性インターカラントによりインターカレーションされた層状シリケートを用いて、機械的物性に優れたナノ複合体熱可塑性樹脂組成物を製造することにその目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体10〜80重量%、及びスチレン含有共重合体20〜90重量%から構成された基礎樹脂100重量部;層状シリケート0.01〜10重量部;を含み、前記層状シリケートはアルコール類、ケトン類、及び糖類からなる群より選択された水溶性インターカラントによりインターカレーションされたことを特徴とするナノ複合体熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【0007】
また、本発明は、ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体及びスチレン含有共重合体を混合して基礎樹脂を製造する段階(第1段階);層状シリケートを水に分散させて層状シリケート分散水溶液を製造し、アルコール類、ケトン類、及び糖類からなる群より選択された水溶性インターカラントを水に溶解して水溶性インターカラント溶液を製造した後、前記層状シリケート分散水溶液に前記水溶性インターカラント溶液を添加して、水溶性インターカラントによりインターカレーションされた層状シリケートを製造する段階(第2段階);及び前記第1段階で製造された基礎樹脂100重量部に、前記第2段階で製造された水溶性インターカラントによりインターカレーションされた層状シリケート0.01〜10重量部を剥離、分散する段階(第3段階);からなるナノ複合体熱可塑性樹脂組成物の製造方法を提供する。
【0008】
前記アルコール類は、1価アルコール、2価アルコール、3価アルコール、多価アルコール又はポリビニルアルコールより一つ以上選択され、前記ケトン類は、飽和ケトン、不飽和ケトン、環状ケトン、芳香族ケトン、ジケトン又はポリビニルケトンより選択され、前記糖類は、単糖類、少糖類、多糖類又は複合多糖類より選択される。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体及びスチレン含有共重合体から構成された基礎樹脂内での剥離、分散が容易なポリビニルアルコールのような水溶性インターカラントによりインターカレーションされた層状シリケートを用いることにより、機械的物性が向上したナノ複合体熱可塑性樹脂組成物を製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体
本発明で用いられるゴム変性スチレン含有グラフト共重合体は、スチレン、α−メチルスチレン、及び核置換スチレンからなる群より選択された一つ以上のスチレン系樹脂30〜65重量%、並びに、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、及びブチルアクリレートからなる群より選択された一つ以上のアクリル系樹脂10〜30重量%から構成された化合物を、ブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、イソプレン、及びブタジエン−イソプレン共重合体からなる群より選択された一つ以上のゴム10〜60重量%にグラフトさせた樹脂である。
【0011】
前記グラフト共重合体樹脂は通常の重合方法で製造が可能であるが、塊状重合と乳化重合で合成するのが好ましい。特に、ブタジエンゴムにアクリロニトリルとスチレンをグラフトさせたアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)樹脂が広く用いられる。
【0012】
ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体はスチレン含有共重合体と共に基礎樹脂を構成し、ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体は基礎樹脂総量に対して10〜80重量%の範囲で用いられる。ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体の使用量が10重量%未満であると耐衝撃性が弱いという問題があり、80重量%を超えると機械的剛性が不足するという問題がある。
【0013】
(B)スチレン含有共重合体
本発明で用いられるスチレン含有共重合体は、スチレン、α−メチルスチレン、及び核置換スチレンからなる群より一つ以上選択されたスチレン系樹脂50〜80重量%、並びに、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、及びブチルアクリレートからなる群より一つ以上選択されたアクリル系樹脂20〜50重量%から構成される。
【0014】
前記共重合体樹脂は通常の重合方法で製造が可能であるが、塊状重合と乳化重合で合成するのが好ましい。
スチレン含有共重合体はゴム変性スチレン含有グラフト共重合体と共に基礎樹脂を構成し、スチレン含有共重合体は基礎樹脂総量に対して20〜90重量%の範囲で用いられる。スチレン含有共重合体の使用量が20重量%未満であると機械的剛性が不足になり、寸法安定性が不足になる問題があり、90重量%を超えると耐衝撃性が弱くなる問題がある。
【0015】
(C)水溶性インターカラントによりインターカレーションされた層状シリケート(Water soluble Polymer modified Layered Silicate;以下、“WPLS”に略称する)
本発明で用いられるWPLSは、モンモリロナイト(montmorillonite)、ヘクトライト(hectorite)、バーミキュライト(vermiculite)、及びサポナイト(saponite)からなる群より選択され、水溶性インターカラントは、重合度5〜1000のアルコール類、ケトン類、及び糖類からなる群より選択して用いることができ、好ましくはアルコール類、より好ましくは重合度5〜1000のポリビニルアルコールを用いる。
【0016】
WPLSは、基礎樹脂100重量%に対して0.01〜10重量%の範囲で用いられる。WPLSの使用量が0.01重量%未満であると機械的性質の改善効果が微々たるものとなり、10重量%を超えると樹脂内分散の限界により、投入量に比べて引張強度、屈曲強度などの改善効果が少なく、効率性が低くなる。
【0017】
また、本発明のナノ複合体熱可塑性樹脂組成物は、更に滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、滴下防止剤、顔料、及び無機充填剤からなる群より選択された一つ以上を含むことができる。
【実施例】
【0018】
以下、本発明の理解のために好ましい実施例を示すが、下記の実施例は本発明を例示するものであり、本発明の範囲が下記の実施例に限られるわけではない。
【0019】
(実施例1)
1)ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体の製造
ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体は(株)LG化学の製品を使用した。つまり、ブタジエンゴムに、アクリロニトリルとスチレンをグラフトさせたアクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂として、アクリロニトリル14重量%、スチレン36重量%、及びブタジエンゴム50重量%から構成されており、大韓民国特許第0358231号で公開されたような乳化重合法で合成した。
【0020】
2)スチレン含有共重合体の製造
スチレン含有共重合体は(株)LG化学のSAN(登録商標)製品を使用した。
【0021】
3)WPLSの製造
モンモリロナイト10gを蒸溜水1000mlに加え、超音波処理器を用いて分散させて、重合度600程度のポリビニルアルコール10gを蒸溜水1000mlに完全に溶解させた。その後、前記モンモリロナイト分散水溶液1010mlにポリビニルアルコール溶液1000mlを添加して3時間充分に攪拌し、真空乾燥器で乾燥した。乾燥された反応物を粉砕して粉末を製造した。
【0022】
4)ナノ複合体熱可塑性樹脂組成物の製造
前記製造されたゴム変性スチレン含有グラフト共重合体25重量%、及び前記製造されたスチレン含有共重合体75重量%を混合して基礎樹脂を製造した後、前記基礎樹脂100重量%に対してWPLSを1重量%添加し、二軸押出器を用いて通常の配合方法で製造した。
【0023】
(実施例2)
WPLSを3重量%使用したことを除けば、実施例1と同じ方法でナノ複合体熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0024】
(実施例3)
WPLSを5重量%使用したことを除けば、実施例1と同じ方法でナノ複合体熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0025】
(比較例1)
実施例1で用いた層状シリケートを使用せず、その他は実施例1と同一に製造した。
【0026】
(比較例2)
アルキルアンモニウムインターカレーションされた層状シリケート(Cloisite 15A, Southern Clay社製)1重量%を使用したことを除けば、比較例1と同じ方法でナノ複合体熱可塑性樹脂組成物を製造した。この時に用いられたアルキルアンモニウムは、下記のような構造を示す。
【0027】
【化1】

【0028】
(比較例3)
インターカレーションしていないモンモリロナイト(Na MMT)1重量%を使用したことを除けば、比較例1と同じ方法でナノ複合体熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0029】
(比較例4)
WPLSを0.005重量%使用したことを除けば、実施例1と同じ方法でナノ複合体熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0030】
(比較例5)
WPLSを12重量%使用したことを除けば、実施例1と同じ方法でナノ複合体熱可塑性樹脂組成物を製造した。
【0031】
(実験例)
前記実施例1〜3及び比較例1〜5の組成とこれによって製造された試片に対し、引張強度、屈曲強度、衝撃強度、及び熱変形温度を測定した結果を表1に示した。
引張強度及び引張弾性率はASTM D638の条件で、屈曲強度及び屈曲弾性率はASTM D790の条件で、衝撃強度はASTM D−256の条件で、(1/8)の厚さで測定しており、熱変形温度はASTM D648の条件で測定した。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示されているように、WPLSを各々1、3、5重量%として用いた実施例1乃至3のナノ複合体熱可塑性樹脂組成物が、層状シリケートを使用しない比較例1に比べて引張強度、引張弾性率、屈曲強度、屈曲弾性率、衝撃強度、熱変形温度が改善されていることが確認できる。
【0034】
インターカレーションしていない層状シリケート(Na+ MMT)を使用した比較例3や、基礎樹脂との相溶性の低い物質(Cloisite 15A)でインターカレーションした比較例2の場合、引張弾性率、屈曲弾性率は多少上昇するが、層状シリケートの剥離、分散が良好でないために樹脂内欠点として作用し、結局は引張強度、屈曲強度、衝撃強度が低下することが確認できる。
【0035】
また、比較例4の場合のようにWPLSの使用量が0.01重量%未満である場合、引張弾性率、屈曲弾性率のような機械的性質の改善効果が微々たるものとなり、比較例5のように10重量%を超える場合、樹脂内分散の限界により、投入量に比べて引張強度、屈曲強度などの改善効果が少なくなり、効率性が低くなる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体10〜80重量%、及びスチレン含有共重合体20〜90重量%から構成された基礎樹脂100重量部;
層状シリケート0.01〜10重量部;を含み、
前記層状シリケートはアルコール類、ケトン類、及び糖類からなる群より選択された水溶性インターカラントによりインターカレーションされたことを特徴とするナノ複合体熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
前記ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体が、スチレン、α−メチルスチレン、及び核置換スチレンからなる群より一つ以上選択されたスチレン系樹脂30〜65重量%;アクリロニトリル、メチルメタクリレート、及びブチルアクリレートからなる群より一つ以上選択されたアクリル系樹脂10〜30重量%;並びにブタジエン、スチレン−ブタジエン共重合体、イソプレン、及びブタジエン−イソプレン共重合体からなる群より一つ以上選択されたゴム10〜60重量%;からなる、請求項1に記載のナノ複合体熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記スチレン含有共重合体が、スチレン、α−メチルスチレン、及び核置換スチレンからなる群より一つ以上選択されたスチレン系樹脂50〜80重量%、並びにアクリロニトリル、メチルメタクリレート、及びブチルアクリレートからなる群より一つ以上選択されたアクリル系樹脂20〜50重量%からなる、請求項1に記載のナノ複合体熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
アルコール類が、1価アルコール、2価アルコール、3価アルコール、多価アルコール及びポリビニルアルコールからなる群より一つ以上選択される、請求項1に記載のナノ複合体熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
ケトン類が、飽和ケトン、不飽和ケトン、環状ケトン、芳香族ケトン、ジケトン及びポリビニルケトンからなる群より選択される、請求項1に記載のナノ複合体熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
糖類が、単糖類、少糖類、多糖類及び複合多糖類からなる群より選択される、請求項1に記載のナノ複合体熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
前記層状シリケートが、モンモリロナイト、ヘクトライト、 バーミキュライト 、及びサポナイトからなる群より選択される、請求項1に記載のナノ複合体熱可塑性樹脂組成物。
【請求項8】
前記熱可塑性樹脂組成物が、更に滑剤、熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、滴下防止剤、顔料、及び無機充填剤からなる群より選択された一つ以上を含む、請求項1に記載のナノ複合体熱可塑性樹脂組成物。
【請求項9】
ゴム変性スチレン含有グラフト共重合体及びスチレン含有共重合体を混合して基礎樹脂を製造する段階(第1段階);
層状シリケートを水に分散させて層状シリケート分散水溶液を製造し、アルコール類、ケトン類、及び糖類からなる群より選択された水溶性インターカラントを水に溶解して水溶性インターカラント溶液を製造した後、前記層状シリケート分散水溶液に前記水溶性インターカラント溶液を添加して、水溶性インターカラントがインターカレーションされた層状シリケートを製造する段階(第2段階);及び
前記第1段階で製造された基礎樹脂100重量部に、前記第2段階で製造された水溶性インターカラントがインターカレーションされた層状シリケート0.01〜10重量部を剥離、分散する段階(第3段階);
からなるナノ複合体熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2006−2135(P2006−2135A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−46470(P2005−46470)
【出願日】平成17年2月23日(2005.2.23)
【出願人】(502202007)エルジー・ケム・リミテッド (224)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【Fターム(参考)】