説明

ナノ金属微粒子分散炭素化物の製造方法

【課題】炭素化物の表面にナノ金属微粒子を均一に分散させて担持させることができるナノ金属微粒子分散炭素化物の製造方法を提供する。
【解決手段】木質バイオマスを400〜500℃で加熱処理して加熱処理物を得る第1工程と、前記加熱処理物を金属水溶液に含浸させて含浸処理物を得る第2工程と、前記含浸処理物を600〜800℃で加熱して炭素化する第3工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノオーダーの金属微粒子が分散して担持された炭素化物を製造するナノ金属微粒子分散炭素化物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、金属微粒子が分散して担持された炭素化物は様々な方法で製造されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の多孔性炭素物は、金属酸化物を有機物質に混合した後、この混合物を加熱乾留し、有機物質を炭素化すると共に、金属酸化物を金属に還元することによって製造されている。
【0004】
また特許文献2に記載の触媒は、金属イオンを含む水溶液を木材等天然炭化水素高分子化合物に加圧含浸させ、金属が分散された前駆体と成し、その後これら木材に空気を制御した状態で熱を加えて炭素化する過程を経て多孔質炭素体として製造されている。
【0005】
また特許文献3に記載の多孔質炭素材料は、金属塩等と、界面活性剤と、熱硬化性樹脂等と、溶媒とを混合して混合体を得る工程、混合体を加熱して硬化させ、熱硬化性樹脂成形体を得る工程、熱硬化性樹脂成形体を焼成して炭素化する工程を経て製造されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−6308号公報
【特許文献2】特開2004−113848号公報
【特許文献3】特開2005−314223号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1〜3に記載されている方法では、炭素化前の原料に金属粒子を分散させた後に加熱して炭素化しているので、この炭素化時に原料が収縮し、この収縮に伴って金属粒子が凝集しやすくなる。逆に、炭素化物に金属粒子を分散させようとすると、この金属粒子は、物理吸着により炭素化物の細孔(ミクロ孔やメソ孔)の周辺に凝集して担持されやすくなる。
【0008】
このように、従来考えられている方法では、金属粒子がナノオーダー(平均粒子径100nm以下)の大きさになるとさらに凝集しやすくなり、炭素化物の表面に均一に分散させて担持させることができなくなるという問題がある。
【0009】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、炭素化物の表面にナノ金属微粒子を均一に分散させて担持させることができるナノ金属微粒子分散炭素化物の製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るナノ金属微粒子分散炭素化物の製造方法は、木質バイオマスを400〜500℃で加熱処理して加熱処理物を得る第1工程と、前記加熱処理物を金属水溶液に含浸させて含浸処理物を得る第2工程と、前記含浸処理物を600〜800℃で加熱して炭素化する第3工程とを有することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係るナノ金属微粒子分散炭素化物の製造方法によれば、炭素化物の表面にナノ金属微粒子を均一に分散させて担持させることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1のナノ金属微粒子分散炭素化物の表面の電子顕微鏡(SEM)画像を示すものであり、(a)は倍率が5,000倍、(b)は倍率が100,000倍である。
【図2】実施例1のナノ金属微粒子分散炭素化物の表面のEDXマッピング画像を示す。
【図3】比較例1の金属粒子分散炭素化物の表面の電子顕微鏡(SEM)画像を示すものであり、(a)は倍率が1,000倍、(b)は倍率が5,000倍である。
【図4】比較例2の金属粒子分散炭素化物の表面の電子顕微鏡(SEM)画像を示すものであり、倍率は5,000倍である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0014】
本発明に係るナノ金属微粒子分散炭素化物の製造方法は、以下に説明する第1工程と、第2工程と、第3工程とを有する。
【0015】
まず第1工程では、炭素化物原料である木質バイオマスを400〜500℃で加熱処理して加熱処理物を得る。
【0016】
ここで、木質バイオマスとは、再生可能な生物由来の有機性資源(化石燃料は除く)であって木材からなるものをいう。木質バイオマスの具体例としては、樹木の伐採や造材のときに発生した枝、葉などの林地残材、製材工場などから発生する樹皮やのこ屑などのほか、住宅の解体材や街路樹の剪定枝などを挙げることができる。このような木質バイオマスは、あらかじめ100〜120℃で8〜48時間乾燥させることによって水分を除去しておくことが好ましい。
【0017】
また、第1工程における加熱処理は、例えば、電気炉内で木質バイオマスを加熱することによって行うことができる。しかし、加熱処理の温度が400〜500℃の範囲を逸脱すると、後の工程で十分な量のナノ金属微粒子を炭素化物(担体)に担持させることができなくなったり、ナノ金属微粒子を均一に分散させて担持させることができなくなったりする。また加熱処理の時間は0.5〜3時間であることが好ましい。そして、木質バイオマスを加熱処理して得られた加熱処理物は、放冷後、ふるいにかけるなどして所定の大きさに整えるようにしてもよい。また加熱処理物は、第2工程の前に100〜120℃で8〜48時間乾燥させることによって水分を除去しておくことが好ましい。
【0018】
第1工程で得られた加熱処理物は、無数の細孔により多孔質状に形成されている。この加熱処理物のBET比表面積は50〜500m/gであり、全細孔容積は0.03〜0.25mL/gである。なお、BET比表面積及び全細孔容積は、窒素吸着法により求めることができる。
【0019】
次に第2工程では、加熱処理物を金属水溶液に含浸させて含浸処理物を得る。
【0020】
ここで、金属水溶液は、金属塩を水に溶解させて調製されたものである。金属塩としては、特に限定されるものではないが、例えば、銅、銀、鉄、亜鉛、ニッケル、マンガン等の塩化物、硫酸塩、硝酸塩等を用いることができる。金属水溶液のモル濃度は0.01〜1mol/Lであることが好ましい。
【0021】
また、第2工程における含浸処理は、例えば、10〜1000mLの金属水溶液に0.1〜10gの加熱処理物を浸漬させると共に、2〜48時間、5〜30℃の恒温槽中で撹拌することによって行うことができる。その後、ろ過することによって含浸処理物を得ることができる。この含浸処理物は、第3工程の前に100〜120℃で8〜48時間乾燥させることによって水分を除去しておくことが好ましい。
【0022】
第1工程により得られた加熱処理物は、従来の炭素化物に比べて表面に存在するカルボキシル基やフェノール性水酸基の量が多いので、第2工程において金属イオンがこれらの官能基にイオン交換により担持されることになる。このように、金属イオンの吸着サイトはほぼ決まっており、吸着サイトである官能基は均一に分散して存在しているので、ナノ金属微粒子も均一に分散して担持されやすくなる。
【0023】
次に第3工程では、含浸処理物を600〜800℃で加熱してさらに炭素化する。これにより含浸処理物の多孔質化を進めてBET比表面積及び全細孔容積を増加させることができるものである。第2工程により得られた含浸処理物は、既に第1工程で400〜500℃の低温で加熱処理されて熱分解し、ある程度収縮している。そのため、この含浸処理物を第3工程で600〜800℃で炭素化しても、従来のように一段階で一気に炭素化する場合に比べて、大きな収縮が起こりにくく、ナノ金属微粒子の凝集も少ない。
【0024】
第3工程における加熱処理は、例えば、電気炉内に含浸処理物を設置し、窒素雰囲気下で再炭素化することによって行うことができる。このとき昇温速度1〜20℃/minで600〜800℃まで昇温し、この温度で0.5〜3時間保持することが好ましい。しかし、加熱処理の温度が600℃未満であると、炭素化物のBET比表面積を300m/g以上の大きさにすることができなくなるおそれがある。逆に加熱処理の温度が800℃を超えると、含浸処理物の熱収縮が大きくなり、この収縮に伴ってナノ金属微粒子が凝集して粒子サイズが大きくなりやすい。そうすると、ナノ金属微粒子を炭素化物の表面に均一に分散させることができなくなるおそれがある。
【0025】
そして、第3工程が終了すると、第1工程終了時よりもさらに多孔質化が進んだ炭素化物にナノオーダーの金属微粒子が均一に分散して担持されたナノ金属微粒子分散炭素化物を得ることができる。具体的には、このナノ金属微粒子分散炭素化物においては、平均粒子径が10〜100nmであるナノ金属微粒子が、BET比表面積が300〜800m/gであり、かつ全細孔容積が0.15〜0.35mL/gである炭素化物の表面に均一に分散して担持されている。また、ナノ金属微粒子分散炭素化物1g当たりのナノ金属微粒子の担持量は1〜50mg/gである。なお、ナノ金属微粒子の平均粒子径は、電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)の画面上で計測して平均値を算出したものである。
【0026】
上記のように、第1工程、第2工程及び第3工程を経ると、BET比表面積及び全細孔容積の大きい炭素化物の表面に、ナノオーダーの金属微粒子を凝集させることなく均一に分散させて担持させることができるものである。そして、このように簡便な方法により製造されたナノ金属微粒子分散炭素化物は、ナノ金属微粒子が均一に分散されていることによって高い触媒効率を得ることができるので、例えば、脱硝触媒、ダイオキシン分解触媒、脱臭触媒など各種の環境触媒として用いたり、排ガス・排水処理等に用いたりすることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。
【0028】
(実施例1)
115℃で24時間乾燥したスギのおが屑を木質バイオマスとしてるつぼに入れ、電気炉(株式会社いすず製作所、EPDS−7.2R)内で加熱処理した。400℃で1時間加熱処理した後、炉内放冷した(第1工程)。得られた加熱処理物は、ふるいにかけて粒径106〜1000μmにした。
【0029】
次に、金属水溶液である0.1mol/L硫酸銅水溶液100mlに、115℃で24時間乾燥した上記の加熱処理物1gを浸漬し、6時間、25℃の恒温槽中で撹拌した(第2工程)。6時間後にろ過し、115℃で24時間乾燥して含浸処理物を得た。
【0030】
次に、上記の含浸処理物を灰分測定用灰皿に入れ、これを管状電気炉(アズワン株式会社、TMF−500)内の石英ガラス管中央部に設置し、窒素雰囲気下で再炭素化した(第3工程)。このとき窒素ガス10mL/min下、昇温速度5℃/minで600℃まで昇温し、この温度で1時間保持した後、炉内放冷することによって、ナノ金属微粒子分散炭素化物を得た。
【0031】
上記のようにして得られたナノ金属微粒子分散炭素化物のBET比表面積は557m/g、全細孔容積は0.26mL/g、ナノ金属微粒子(銅粒子)の平均粒子径は20nm、ナノ金属微粒子の担持量は17mg/gであった。なお、BET比表面積は、QUANTACHROME製AUTOSORB−1−Cを用いて吸着温度77.4K、相対圧力0.01〜1.0の範囲で窒素の吸着等温線を作成し、BETプロットから求めた。また全細孔容積は、相対圧力0.98における窒素吸着量から求めた。また、ナノ金属微粒子の担持量は、衛生試験法の食品汚染物試験法(乾式灰化法)により試料(ナノ金属微粒子分散炭素化物)を灰化し、これを硝酸で溶解した後に原子吸光光度計で測定した。
【0032】
また、ナノ金属微粒子分散炭素化物の表面を電子顕微鏡(SEM)により観察した。その結果を図1に示す。また、EDX(Energy dispersive X-ray spectrometry)によりナノ金属微粒子分散炭素化物の表面の元素分析を行った。その結果を図2に示す。図1及び図2から明らかなように、炭素化物2の表面(細孔3内も含む)にナノ金属微粒子1が凝集することなく均一に分散して担持されていることが確認された。
【0033】
(比較例1)
115℃で24時間乾燥したスギのおが屑をるつぼに入れ、電気炉(株式会社いすず製作所、EPDS−7.2R)内で炭素化した。1000℃で1時間炭素化した後、炉内放冷した。得られた炭素化物は、ふるいにかけて粒径106〜1000μmにした。
【0034】
次に、0.1mol/L硫酸銅水溶液100mlに、115℃で24時間乾燥した上記の炭素化物1gを浸漬し、6時間、25℃の恒温槽中で撹拌した。6時間後にろ過し、115℃で24時間乾燥することによって、金属粒子分散炭化物を得た。
【0035】
上記のようにして得られた金属粒子分散炭素化物の表面を電子顕微鏡(SEM)により観察した。その結果を図3に示す。図3から明らかなように、特に炭素化物5の細孔6(ミクロ孔やメソ孔)付近に金属粒子4が凝集して不均一に分散して担持されていることが確認された。これは、金属粒子4が炭素化物5の表面に物理吸着により担持されるからであると考えられる。
【0036】
また、同じ倍率(5,000倍)である図1(a)と図3(b)とを対比すると、実施例1のナノ金属微粒子1は、μmオーダーである比較例1の金属粒子4に比べて、著しく小さいことが確認された。
【0037】
(比較例2)
実施例1において、第3工程の加熱温度を1000℃に変更して、金属粒子分散炭素化物を得た。この金属粒子分散炭素化物のBET比表面積は705m/g、全細孔容積は0.30mL/gであった。図4はこの金属粒子分散炭素化物の表面を電子顕微鏡(SEM)により観察した結果を示すものである。図4から明らかなように、細孔6は発達しているものの、実施例1のナノ金属微粒子1に比べて、著しく大きいμmオーダーの金属粒子4が炭素化物5に担持されていることが確認された。
【0038】
(比較例3)
実施例1において、第2工程を終了させ、第3工程を省略して、金属粒子分散炭素化物を得た。この金属粒子分散炭素化物のBET比表面積は69m/g、全細孔容積は0.04mL/gであり、細孔は未発達であった。
【0039】
なお、実施例1において、第1工程の加熱温度が500℃を超えると、第2工程において図3と同様に炭素化物5の細孔6付近に金属粒子4が凝集して不均一に分散して担持されるものと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
木質バイオマスを400〜500℃で加熱処理して加熱処理物を得る第1工程と、
前記加熱処理物を金属水溶液に含浸させて含浸処理物を得る第2工程と、
前記含浸処理物を600〜800℃で加熱して炭素化する第3工程とを有することを特徴とするナノ金属微粒子分散炭素化物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−60311(P2013−60311A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−197922(P2011−197922)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(505089614)国立大学法人福島大学 (34)
【Fターム(参考)】