説明

ナビゲーション装置、方法及びプログラム

【課題】GPSやマップマッチングの精度が悪くても、境界線通過の検出を、少ない計算量で正確に行う。
【解決手段】地図データを記憶する地図情報記憶部1と、境界線を記憶する境界線記憶部2を備える。GPSや車速センサなどのデータを取得する位置情報取得部4の情報に基づいて、移動体位置検出部4が移動体の現在位置を検出する。移動体の位置情報Mと、境界線上に設けた始点Pと終点Qから境界線ベクトルAと移動体位置ベクトルBを得る。これらベクトルA,Bの外積を外積演算部5で計算する。境界線通過検出部6は、2つのベクトルA,Bの外積の符号の変化により、移動体が境界線を越えたかどうかを検出する。境界線通過の検出結果は、報知制御部7が制御する通信機器9により移動体外部に、報知部10により移動体Mに報知する。報知情報記憶部8に記憶した、通過した境界線に関する報知情報も、報知する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などの移動体が境界線を横切ったか否かを判定するナビゲーション装置、方法及びプログラムに関するもので、特に、実際の移動体の位置とナビゲーション装置で検出した移動体の位置との間に境界線の長さ方向にずれがある場合でも、移動体が境界線を横切ったことを容易かつ正確に判定することのできる技術に係る。
【背景技術】
【0002】
近年、GPSや無線通信などを利用して移動体の位置情報を収集することにより、停留所や携帯電話、インターネットを使用して、移動体がどこにいるかなどの情報を提供するナビゲーションシステムが普及している。
【0003】
例えば、移動体である路線バスの位置情報を停留所に設けたディスプレイや音声案内装置に出力することで、バスを待っている利用者に待ち時間やバスの位置を案内することが行われている。同様に、路線バスに設けられた表示装置や案内放送により、バスが停留所に近付いているとの案内や、バス周辺の商用施設、文化施設、観光施設などを案内することも行われている。
【0004】
このようなナビゲーションシステムとして従来から提案されてきたものは、予め、地点検知エリアの中心となる座標を緯度経度で指定し、その座標から所定の距離を閾値として設定する。ナビゲーション装置は、移動体の進行に伴い、移動体の位置と検出エリアの座標間の距離を計算し、この距離が設定した閾値より小さくなった場合、移動体が地点エリアに進入したことを検知していた。つまり、ある点を中心とし半径を閾値とした円内を検知エリアとして計算を行っていた。
【0005】
また、検知エリアの形状を円とする代わりに、移動体が進行するであろう道路沿いに多角形を形成し、その多角形の各頂点座標を記憶しておき、この多角形で囲まれた範囲を検知エリアとして、移動体がその多角形に進入したことを検出する方法も提案されている。
【0006】
ところで、このようなナビゲーションシステムにおいて、移動体位置の取得方法には、GPSにより取得した情報のみを使う場合や、GPS情報に車速や加速度センサ等の移動体側の情報を付加する場合、さらには、これらの情報で得られた移動体位置をさらに電子地図データの道路データに合わせこむマップマッチングを行う方法などがある。
【0007】
しかし、GPSの情報が取れない場合や、マップマッチングの精度が悪く、実際の位置とは異なる位置に移動体位置があると計算される場合がある。例えば、図11に示すように、現実に移動体が進行している道路R1と平行に他の道路R2が設けられている場合に、ナビゲーション装置が移動体Mが他の道路R2上にあると判断する可能性がある。すると、実際の移動体Mは、検知エリアE内に進入しているにもかかわらず、ナビゲーション装置上では、検知エリア外の道路R2上にあるとして、検知エリアEに進入していないと判断される。その結果、地点検出をトリガーとしていた放送指示や位置情報送信等が行われず、サービスの低下が生じたり、移動体の正確な状況把握ができなくなってしまう。
【0008】
この問題を回避するためには、移動体位置の検出精度を上げるか、地点検出エリアの拡大を行うしかない。しかし、地点検出エリアの大きさや位置の調整を、地点検出に失敗したポイント全てに対して行っていくことは大きな労力となるため、迅速な対応の障害となってしまう可能性が高い。また、GPSやマッチングのミスは常に一定ではなく、同じ地点検出エリアでも、何度も調整をしなければいけない可能性がある。
【0009】
また、路線バスの案内のような場合には、進行する道路を横切る境界線が停留所ごとに複数設けられており、これらの複数の境界線を通過したか否かを順次判断する必要がある。しかし、前記のような従来技術は、いずれも、円や多角形で囲まれた検知エリアに移動体が進入したか否かを判定するため、検知エリアを多数設けると判定に当たっての計算量が多くなり、判定結果を得るまでに時間が掛かかり、高速で走行する移動体に対して適切なタイミングでナビゲーションを実施できない可能性がある。
【0010】
そこで、GPSやマッチングのミスや調整の回数を減らす技術として、特許文献1のように、外積による計算結果によって、移動体がどの領域に属するのかを検索する方法や、特許文献2のように、あらかじめ設定した距離を通過するごとに現在位置の県名データを取込んで、今まで取込んでいたデータと内容が異なる場合、県境を横切ったと判断する方法を応用することが考えられる。
【0011】
また、特許文献3のように、現在地から県境までの離間距離と移動体の平均速度から移動体が県境に近付いたと判断する方法や、特許文献4のように、境界線の直前のノードと、直後のノードを記憶し、前記2つのノードを移動体が通った場合に境界線を横切ったと判断する方法を応用することが考えられる。
【0012】
【特許文献1】特開2000−161980号公報
【特許文献2】特開平8−145704号公報
【特許文献3】特開平10−4366号公報
【特許文献4】特許第3274982号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところが、特許文献1の発明は、移動体の位置がどの領域にあるのかを判断するのが目的のため、境界線を越えたか否かを判断することはできない。また、GPSの情報が取れない場合や、マップマッチングの精度が悪く、実際の位置とは異なる位置に移動体位置があると計算される場合や、所定間隔毎に設けられた境界線を通過したか否かを判断する場合については、何ら考慮されていない。
【0014】
特許文献2〜4の発明は、現在位置をGPSの情報や、方位センサ及び車速センサなどを利用して検出し、さらに電子地図データの道路データに合わせたデータを用いて判定する。しかし、GPSの情報が取れない場合や、マップマッチングの精度が悪く、実際の位置とは異なる位置に移動体位置があると計算される場合については、前記図11のような問題点がある。また、所定間隔毎に設けられた境界線に対する場合については、考慮されていない。
【0015】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するために提案されたものであって、その目的は、GPSの情報が取れない場合やマップマッチングの精度が悪く、実際の位置とは異なる位置に移動体位置があると計算される場合であっても、境界線を通過したか否かを正確に判定することができ、しかも、円や多角形の検知エリアを使用した従来技術に比較して、少ない計算量で境界線の通過を判定することを可能としたナビゲーション装置、方法及びプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記の目的を達成するため、本発明のナビゲーション装置は、移動体位置を検出する移動体位置検出手段と、移動体の進行方向と交差する境界線上に設けられた始点と終点を記憶する記憶手段と、境界線上にある始点と終点とを結ぶ境界線ベクトルと、始点から移動体位置を結ぶ移動体位置ベクトルとの外積を計算する外積計算手段と、前記外積計算手段によって、計算して得た外積の符号の変化に基づいて、前記移動体が前記境界線を横切ったか否かを検出する境界線通過検出手段を有することを特徴とする。
【0017】
この場合、前記記憶手段は、移動体の進行方向に対して左側に存在する座標を始点座標、右側に存在する座標を終点座標として、前記境界線を、前記始点座標と前記終点座標とを結ぶ直線として記憶することができる。また、前記境界線通過検出手段は、前記外積符号が、「負から0」もしくは「負から正」に変化したことによって、前記移動体が境界線を通過したことを検出することができる。
【0018】
上記のような構成を有する本発明においては、境界線を越えたことを判断するのに、移動体の現在位置が境界線を越えたと判断するのではなく、境界線の始点から終点を結ぶ境界線ベクトルと、始点から移動体位置を結ぶ移動体位置ベクトルとの外積の計算結果を利用する。この外積の符号は、移動体位置ベクトルの方向が境界線ベクトルの方向のいずれの側を向いているかによって異なるので、移動体が境界線ベクトルの方向、すなわち境界線をどの部分で横切っても、外積の符号が変化することになる。
【0019】
その結果、GPSやマップマッチングの結果得られた移動体の位置と、実際の移動体の位置とが異なっていた場合でも、移動体が境界線ベクトルの延長上である境界線のいずれかの箇所を通過した場合には、外積の符号の変化が発生し、これにより移動体の境界線通過の判定ができる。
【0020】
特に、境界線ベクトルの始点と終点は所定の距離を離れたところに存在するが、外積の計算の性質上、境界線ベクトル上だけでなく、この2点を通る直線全てが境界線とみなされるため、2点の間の線分以外の部分を移動体が通過した場合でも、同様に通過検出を行うことができる。これによって、GPSやマッチングの情報が実際の車両の走行軌跡とずれていた場合でも、境界線の通過を検出し、検出ミスを防ぐことができる。
【0021】
さらに、境界線ベクトルと移動体位置ベクトルの外積を計算する方法は、円や多角形の検知エリアの座標から境界線の通過を判定する方法に比較して、計算量が少なく、判定結果を迅速に得られる。
【0022】
本発明において、前記境界線は、前記移動体が順番に通過していく、施設またはその手前ごとに設定することができる。このようにすることで、移動体が個々の施設に接近あるいは通過する都度、境界線の通過を検出して、施設に関する情報を提供したり、移動体と施設の位置関係を報知することができる。
【0023】
本発明において、前記境界線通過検出手段によって前記移動体が前記境界線を通過したことを検出した場合に、移動体外部に設けられた情報端末に対して、無線通信を介して、前記境界線を通過した旨の情報を通知する情報通知手段を有することもできる。この場合、移動体内部だけでなく、移動体を管理するセンタや、移動体の現在位置を表示する情報掲示板、携帯電話、パソコンなどに送ることで、移動体外部からも移動体の境界線通過に関する情報を得ることができる。
【0024】
例えば、移動体として路線バスを使用した場合、バスが境界線を通過した際に、バス停で待っている乗客に運行情報(現在のバスの位置やバスの停留所への到着予測時間など)を携帯電話などで知らせることができる。また、情報センタで複数台のバスの運行状況が集まるために、より詳細な道路交通状況の把握が可能になり、運行状況のデータを蓄積・統計処理することが、容易となる。
【0025】
本発明において、境界線に関連する報知情報を記憶する報知情報記憶部を備え、前記境界線通過検出手段によって前記移動体が前記境界線を通過したことを検出した場合に、通過した境界線に関連する前記報知情報記憶部に記憶されている報知情報を、音声及び/または映像で、移動体及び/または前記情報端末に報知する報知手段を有することもできる。この場合、移動体が境界線を通過したという情報に限らず、移動体が通過した境界線の近傍にある施設などに関する種々の情報を移動体内部あるいは移動体外部に報知することができ、観光、施設、その他の案内を境界線の通過に伴ってタイミング良く行うことができる。
【0026】
例えば、施設として路線バスの停留所などを選定した場合には、境界線通過したことをトリガーとして、バスの乗客に運行情報(現在のバスの位置だけでなく、バスの停留所への到着予測時間など)を音や映像で知らせることができる。
【0027】
本発明において、前記情報掲示板は、バスの進行経路をドットの集合によって表現し、現在のバスの走行位置に対応した前記ドットを点灯することによって、前記バスの走行位置を報知するものであり、前記境界線は、この情報掲示板に表示されたバスの位置を示す前記ドットに対応した位置に存在することも可能である。
【0028】
この場合、境界線と情報掲示板上のドットとが対応しているため、境界線をバスが通過する都度、ドット表示を更新させることになり、表示のタイミングに遅延がなく、しかも、表示と境界線との関係が一目瞭然に判別できる。その結果、リアルタイムでバスの運行情報(現在のバスの位置やバスの停留所への到着予測時間など)を表示することが可能になり、バス利用者の利便性の向上を図ることができる。
【0029】
更に、前記のような構成を有するナビゲーション装置を実現する方法及びナビゲーション装置用プログラムも、本発明の一態様である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、GPSやマッチングの精度が悪くても、移動体が境界線を通過したことを正確に検出することができ、また、検知エリアが円や多角形の場合に比べて少ない計算量で境界線の通過を判定することを可能としたナビゲーション装置、方法及びプログラムを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
[1.構成]
本実施形態のナビゲーション装置の構成を、図1のブロック図に示す。本実施形態のナビゲーション装置は移動体に搭載されるものであり、本実施形態では移動体として、路線バスを選定する。このナビゲーション装置は、ナビゲーションに必要な地図データを記憶する地図情報記憶部1と、この地図情報記憶部1内に設けられ、境界線を記憶する境界線記憶部2とを備える。この境界線記憶部2は、必ずしも地図情報記憶部1内に設ける必要はないが、境界線は、ナビゲーション用の地図データに含まれる施設の位置情報などと同様に、境界線ベクトルの始点と終点の座標によって定義される(始点と終点を結ぶ直線とその延長上にある直線を境界線と呼ぶ)ものであるから、地図情報記憶部1内に設けることが簡便である。
【0032】
ここで、境界線上に設ける始点Pと終点Qは、図4に示すように、移動体が進行する道路R1を横切るように、しかも、道路R1の幅よりもやや大きな間隔を保って配置する。すなわち、バス路線などのように移動体が走行する道路が特定されている場合、境界線はその道路R1を横切る長さがあれば十分であるため、道路幅よりも大きく始点Pと終点Qの間隔を設定する。また、一例として、移動体Mの進行方向に対して左側に存在する座標を始点Pの座標、右側に存在する座標を終点Qの座標として、前記境界線Lを、前記始点Pの座標と前記終点Qの座標とを結ぶ直線とする。
【0033】
前記ナビゲーション装置は、移動体の現在位置を計算するのに必要な情報を取得するための位置情報取得部3と移動体位置検出部4を有する。この位置情報取得部3としては、GPS、車速、加速度センサなどの手段を適宜利用することが可能であり、その手段は限定されない。移動体位置検出部4は、この位置情報取得部3からの座標データ、あるいは位置情報取得部3からの座標データと前記地図情報記憶部3の地図データとを利用したマップマッチングなどの手法により、移動体位置を検出するものである。
【0034】
前記ナビゲーション装置は、前記境界線上の始点Pと終点Qの座標から境界線ベクトルを得ると共に、境界線上の始点Pを始点とし移動体位置検出部4で取得した移動体の現在位置Mを終点とした移動体位置ベクトルを得て、更にこれらの境界線ベクトルAと移動体位置ベクトルBの外積を計算する外積演算部5を備える。すなわち、この外積演算部5は、境界線ベクトルをA=(A、A)、移動体ベクトルをB=(B、B)とした場合に、2つのベクトルの外積である、A−Aを演算するものである。
【0035】
この外積演算部5には、外積演算部5の演算結果を基に、移動体Mが境界線Lを越えたかどうかを検出する境界線通過検出部6を備える。例えば、前記境界線通過検出部6は、外積演算部5によって得られた境界線ベクトルAと位置ベクトルBの外積の符号が、「負から0」もしくは「負から正」に変化したことによって、前記移動体Mが境界線Lを通過したことを検出する。
【0036】
この境界線通過検出部6の出力側は報知制御部7に接続され、移動体が境界線を通過したことを報知制御部7に出力する。この報知制御部7の入力側には、各境界線に関連する報知情報を記憶した報知情報記憶部8が接続されている。この報知情報記憶部8は、境界線ごとに異なる報知情報を記憶するものであって、移動体が境界線を越えた場合に、移動体内部あるいは移動体外部に報知するための情報を記憶する。
【0037】
例えば、境界線がバス停に近付いたことを示すものである場合には、案内すべきバス停の名称、バス停周辺の施設名やそれに関連する広告、乗り換えの案内などである。また、境界線を通過する予定時刻などを記憶しておき、実際の通過時間との差からバスの遅れの程度を計算して報知したり、バス停に到着する予測時間を報知することもできる。
【0038】
前記報知制御部7の出力側は、無線を利用した通信機器9、及び移動体内部に設けられたディスプレイや音声出力装置などの報知装置10が接続されている。前記通信機器9は、無線通信を利用して移動体外部の交通管制センタのサーバ11、移動体が路線バスの場合にはバスの停留所に設けられた情報掲示板12、さらには、他の車両やバスの利用者の持つ携帯電話などの移動端末13に対して、報知制御部7からの出力情報を伝達する。また、移動体内部に設けられた報知装置10は、液晶ディスプレイなどの表示装置や音声再生装置によって構成され、報知制御部7からの出力情報を移動体に乗車中の利用者に対して報知する。
【0039】
なお、図2は、バスの停留所に設けられた情報掲示板12の一例であって、この情報掲示板12には、バスの進行経路が、LEDによって構成された複数のドット12a,12b,…,12nの集合によって表現されている。このドット12a,12b,…,12nは、現在のバスの走行位置に対応して点灯するものであって、各ドット12a,12b,…,12nが、バスの走行する路線(道路)に所定の間隔、例えば、各停留所ごとや一定距離ごとに設けられた境界線と対応付けられている。
【0040】
更に、本実施形態では、境界線選択部14が設けられている。この境界線選択部14は、移動体の運転者やセンタからの指令、あるいは予め移動体の走行経路に合わせて移動体が通過する境界線の順番がプログラミングされており、前記指令またはプログラムによって、通過の判定の対象となる境界線を選択するものである。この境界線選択部14には、境界線通過検出部7からの通過情報が入力されるようになっており、通過を判定する境界線の選択に当たって、既に通過した境界線に関する情報を参照できるようになっている。
【0041】
[2.作用]
次に、本実施形態の動作を、図3のフローチャート及び図4以下の説明図によって、具体的に説明する。
【0042】
本実施形態のナビゲーション装置において、移動体が境界線を通過したか否かを判定する場合、まず、境界線記憶部2に記憶されている複数の境界線の中から、移動体が最初に通過する境界線を選択する(図3のステップ1)。
【0043】
この境界線の選択は、境界線選択部14によって行われるもので、例えば、予め移動体の現在位置と目的地とに基づいてナビゲーション装置で移動体の経路が計算されている場合に、その経路上に存在する1つあるいは複数の境界線の中から、移動体が最初に通過する境界線を移動体の通過を検出する境界線として選択しても良い。また、境界線選択部14によって、前記境界線記憶部2に記憶されている複数の境界線をナビゲーション装置のディスプレイ上に表示させ、これらの境界線の中から移動体の運転者が手動で選択しても良い。
【0044】
境界線が選択された後は、移動体の現在位置を取得する。この現在位置の取得は、位置情報取得部3からのGPSデータ、車速などのデータ、あるいはこれらのデータと地図情報記憶部1に記憶されている地図データとをマッチングさせることにより、移動体の現在位置の座標(A、A)を取得することで行われる(ステップ2)。
【0045】
移動体の現在位置と、通過対象となる境界線が決定すると、外積演算部5は、境界線記憶部2から選択された境界線上にある始点Pの座標(B、B)と、境界線の終点Qの座標(C、C)を取得し、境界線ベクトルAを計算する。また、境界線上にある始点Pの座標(B、B)と、移動体の現在位置Mの座標(A、A)から、移動体位置ベクトルBを計算する(ステップ3)。
【0046】
前記のように、境界線ベクトルをA=(A、A)、移動体ベクトルをB=(B、B)とすると、2つのベクトルの外積は、A−Aで表される。そこで、外積演算部5では、前記始点P、終点Q及び移動体Mの現在位置の座標値から、前記2つのベクトルA,Bの外積を次のようにして計算する(ステップ4)。
【数1】

【0047】
外積演算部5による外積の演算結果は、境界線通過検出部7に送られる。この境界線通過検出部7においては、外積の演算結果の中から、その符号が「負から0」もしくは「負から正」に変化したことを検出する。すなわち、境界線通過検出部7は、受信した外積の符号が「負」の場合には、符号が「負」である事実のみを記録し、前記ステップ2に戻って、移動体が別の位置に移動することにより得られる新たな移動体位置ベクトルと境界線ベクトルとの外積の演算結果が入力されるのを待機する。(ステップ5のYes)。
【0048】
一方、受信した外積の符号が「0」または「負」の場合には(ステップ5のNo)、前回受信して記録しておいた外積の符号が「負」であるか否かをチェックする(ステップ6)。ここで、前回記録した外積の符号が「負」でない場合には(ステップ6のNo)、外積の符号の変化がなかったことを意味するので、前記ステップ2に戻って、再び次の外積の演算結果が入力されるのを待つ。
【0049】
前回記録しておいた外積の部号が「負」の場合には(ステップ6のYes)、今回の外積の符号が「負から0」もしくは「負から正」に変化したことを意味するから、境界線を通過したと判定する(ステップ7)。現在選択された境界線について、その通過が判定された後は、再びステップ1に戻って次の境界線が選択され、前記と同様にして、境界線の通過の有無が判定される。
【0050】
前記のフローチャートに示すようにして、移動体が境界線を通過したことが判明した場合は、この通過の情報は、境界線通過検出部6から報知制御部7に出力される。報知制御部7は、この境界線通過の情報を受けて、通信機器9を介して移動体外部のサーバ11、情報掲示板12あるいは移動端末13などにその旨の通知を行う。また、移動体内部に設けられたディスプレイや音声出力装置などの報知装置10を利用して、移動体内部にその旨の案内を行う。
【0051】
例えば、図2に示したバスの停留所の情報掲示板12に対しては、無線による通信機器9を使用して、境界線の通過情報が送信される。情報掲示板12では、その通過情報を受信して、通過した境界線に対応するドット12a,12b,…,12nのいずれかを点灯することで、停留所でバスを待つ人に対して、バスがどの地点まで来ているかを知らせることができる。
【0052】
この報知制御部7は、前記のような通過の情報を報知装置10などに案内するだけでなく、通過した境界線に関連する報知情報を報知情報記憶部8から取得して、これらの情報についても、移動体外部の情報掲示板12などや、移動体内部の報知装置10に出力することもできる。例えば、境界線近傍にある施設の情報や広告、乗り換えの案内、停留所までの距離や時間、運賃、運行状況の遅れなど、通過した境界線自体やその境界線と対応付けられているバス停などの施設に関する種々の報知情報を報知情報記憶部8から取り出して、報知することができる。
【0053】
[3.効果]
以上のような構成並びに作用を有する本実施形態の効果は次の通りである。
【0054】
[3−1.検出した移動体位置が実際の位置と異なる場合]
図4は、本実施形態における移動体と境界線の関係を示す模式図である。図4に示すように、移動体Mが通過する道路Rに対する期待される進行方向の左側に境界線Lの始点Pを設置し、右側に境界線Lの終点Qを設置するよう規定する。この始点Pと終点Qはある程度離れた位置に存在するが、外積の計算上この2点を通る全てが境界線Lとみなされるため、2点間の線分上以外の部分を通過した場合でも、同様に通過検出を行うことができる。これにより、GPSの情報が取れない場合や、マップマッチングの精度が悪く、実際の位置とは異なる位置に移動体位置があると計算される場合でも、境界線の通過を検出し、検出ミスを防ぐことができる。
【0055】
また、期待される進行方向に対して、境界線L上の進行方向の左側に境界線ベクトルAの始点Pを設置することにより、移動体位置が境界線Lの手前にある場合は、移動体の位置にかかわりなく、常に、境界線上にある始点Pと終点Qとを結ぶ境界線ベクトルAと、始点Pから移動体位置Mを結ぶ移動体位置ベクトルBとの外積計算結果は負になる。
【0056】
すなわち、図5及び図6は、移動体位置Mと境界線Lの位置関係を示した図である。まず、境界線Lの始点Pを始点とし境界線Lの終点Qを終点とする境界線ベクトルAと、境界線りの始点Pを始点とし、移動体位置Mの座標を終点とする移動体位置ベクトルBの外積を計算する。境界線ベクトルをA=(A、A)、移動体ベクトルをB=(B、B)とすると、2つのベクトルの外積は、A−Aで表される。この値が負の場合、移動体位置は、図4の場合のように、境界線の右側にあり、正の値の場合は、図5の場合のように、左側にあることを意味している。また、この値が0の場合は、移動体位置が境界線上にあることを意味している。
【0057】
従って、移動体位置が必ずしも道路R上にない場合、すなわち、移動体位置Mが境界線ベクトルの始点Pと終点Qの間を通過しない場合であっても、境界線ベクトルの方向の延長線上、すなわち境界線を移動体が通過することを判定できるので、実際の走行軌跡と自車位置検出部4で検出した走行軌跡とが異なっていても、境界線の通過を判定できる。
【0058】
図7は、実際の走行軌跡R1と自車位置検出部4で検出した走行軌跡R2が異なっていた場合の関係を示す図である。実際の走行軌跡R1と検出した車両走行軌跡R2が異なる場合でも、期待される進行方向から、境界線Lに近付くときは、境界線ベクトルAと移動体位置ベクトルBの外積の符号は負となる。また、取得した自車位置検出部4で検出した走行軌跡R2が境界線L上を通過することにより、境界線ベクトルAと移動体位置ベクトルBの外積の符号は正となる。よって、実際の走行軌跡R1と自車位置検出部4で検出した走行軌跡R2が異なっていた場合でも、外積の計算結果を比較した場合に「負から0」もしくは「負から正」に変わったことを検出する。同様に、外積の符号が「負から0」もしくは「負から正」になると、移動体や位置が境界線右側から左側に移動したことが判る。
【0059】
[3−2.同じルートを往復する場合]
図8及び図9は、移動体がロータリーR3などでUターンすることにより、同じルートを往復する場合について、それぞれのルートと境界線ベクトルの関係を示した図である。図8は、往路のルートと往路用の境界線ベクトルA1と復路用の境界線ベクトルA2の関係を示した図である。境界線ベクトルA1は往路の走行軌跡に対して、左側に存在する座標を始点座標P、右側に存在する座標を終点座標Qとする。また、境界線ベクトルA2は、復路の走行軌跡に対して左側に存在する座標を始点座標P、右側に存在する座標を終点座標Qとすると、境界線ベクトルA1とA2の向きが逆になる。
【0060】
この2つの境界線ベクトルA1,A2に対して、往路のルートを進んだ場合は、境界線ベクトルA1の手前では、境界線ベクトルA1と移動体位置ベクトルBの外積の符号は負となり、境界線ベクトルA1を超えると、境界線ベクトルA1と移動体位置ベクトルBの外積の符号は正となる。よって、境界通過検出部7により、通過検出が行われる。この間、境界線ベクトルA2と移動体位置ベクトルBの外積の符号は正のままである。そして、境界線ベクトルA2を超えると、境界線ベクトルA2と移動体位置ベクトルBの外積の符号は負となるが、外積の符号が「負から0」もしくは「負から正」に当てはまらないので、通過検出は行われない。
【0061】
図9は、復路のルートと往路用の境界線ベクトルA1と復路用の境界線ベクトルA2の関係を示した図である。この2つの境界線ベクトルA1,A2に対して、復路のルートを進んだ場合は、往路の場合とは逆に、境界線ベクトルA2の手前では、境界線ベクトルA2と移動体位置ベクトルBの外積の符号は負となり、境界線ベクトルA2を越えると、境界線ベクトルA2と移動体位置ベクトルBの外積の符号は正となる。よって、境界通過検出部7により、通過検出が行われる。この間、境界線ベクトルA1と移動体位置ベクトルBの外積の符号は正のままである。そして、境界線ベクトルA1を越えると、境界線ベクトルA1と移動体位置ベクトルBの外積の符号は負となるが、外積の符号が「負から0」もしくは「負から正」に当てはまらないので、通過検出は行われない。
【0062】
図10は、検知エリアEが円または多角形の場合に同じルートを往復する場合の検知エリアと、走行軌跡の関係を示した図である。検知エリアEが、円または多角形の場合は、図8及び図9の場合とは異なり、往路及び復路の場合にも、同じ検知エリアEによって通過検出が行われる。バスがロータリーR3などでUターンして、同じ道を逆方向に進む場合に、円や多角形などの検知エリアであると、方向まで検出することができない。よって、復路でも往路のアナウンスを行ってしまうことが考えられる。しかし、本実施形態の場合は、図9に示すように、進入方向を予め予想することができ、その方向からの進入に対してのみトリガーとすることができる。これにより、特別な調節を行わないでも往路と復路で、異なった情報案内などをすることができるようになる。
【0063】
[3−3.計算量の低減について]
本実施形態によれば、境界線のどちら側にいるかを外積によって求めることにより、検出エリアが円や多角形に比べて少ない計算量で通過検出が可能である。検出エリアが円の場合、移動体位置座標を(A、A)、境界線の始点を(B、B)、境界線の終点を(C、C)、検出エリアの中心座標を(D、D)、検出エリアの半径をR、緯度経度1秒あたりの距離をそれぞれ、M、M[m]とする。各座標は全て秒単位で表されるとする。従来の2点間の距離を用いた場合、(2)のような式で表される。
【数2】

【0064】
この不等式の成立不成立を計算して地点検知したかどうかを判断する。この式では、足算が1回、引算が2回、掛算が5回用いられている。一方、本実施形態のように境界線の通過検出に外積を使用した場合は、前述の(1)式により求められる。
【0065】
この計算では、引算が5回、掛算が2回用いられている。(1)式と(2)式の計算量を比較してみる。計算機上では1回の掛算は、複数回の足算として処理されるので、掛算は足算に比べて計算量が多くなるために、計算量のオーダは掛算の回数で表現される。(1)式と(2)式の掛算の数を比べてみると、(1)式は(2)式よりも掛算の回数は、半分以下であるので、計算量を削減できたことがわかる。
【0066】
さらに、地点検知エリアが円のような場合、経度緯度の度数単位(時分秒)を円の中心からのメートル単位に変換して計算する必要がある。緯度経度は、単純に1度といっても、場所により1度が何kmになるかは異なってくる。そのため、度数単位からメートル単位への変換に使用する値によっては誤差が大きくなってしまう場合がある。これに対して、本実施形態によるベクトルの計算の場合、全て座標情報の度数単位で計算を行えるため、単位変換による誤差が生じなくなる。
【0067】
[4.他の実施形態]
本発明は前記の実施形態に限定されるものではなく、路線バスの案内以外にも、セールスや商品配送のルートなどの、移動体が順番に複数の場所や施設を巡回するような場合のように、複数の境界線が移動体の進行方向に沿って設けられている場合に有効である。また、移動体としては、バスなどの車両以外に、携帯電話に組み込んだナビゲーション装置のように、移動する人間を対象とすることもできる。更に、境界線が1つの場合も包含するものであり、例えば、チェーン規制のような交通規制を行う場合に、交通情報と共に境界線の情報を移動体に配信して、配信された境界線を通過判定用の境界線として選択することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明の一実施形態の構成を示すブロック図
【図2】図1の実施形態における情報掲示板の一例を示す正面図
【図3】図1の実施形態における各部の動作を示すフローチャート
【図4】図1の実施形態における境界線ベクトル設定時の前提条件を示した図
【図5】図1の実施形態における通過検出前の移動体位置と境界線の位置関係を示した図
【図6】図1の実施形態における通過検出後の移動体位置と境界線の位置関係を示した図
【図7】図1の実施形態における実際の走行軌跡と移動体位置検出部により検出した走行軌跡が異なっていた場合の関係を示す図
【図8】図1の実施形態における往路のルートと境界線ベクトルの関係を示した図
【図9】図1の実施形態における復路のルートと境界線ベクトルの関係を示した図
【図10】図1の実施形態における検知エリアが円または多角形の場合に同じルートを往復する場合の検知エリアと、走行軌跡の関係を示した図
【図11】従来技術において、検出エリアが円の場合の検知ミスの発生例を示した図
【符号の説明】
【0069】
1…地図情報記憶部
2…境界線記憶部
3…位置情報取得部
4…移動体位置検出部
5…外積演算部
6…境界線通過検出部
7…報知制御部
8…報知情報記憶部
9…通信機器
10…報知装置
11…センタのサーバ
12…情報掲示板
13…移動端末
14…境界線選択部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体位置を検出する移動体位置検出手段と、
移動体の進行方向と交差する境界線上に設けられた始点と終点を記憶する記憶手段と、
境界線上にある始点と終点とを結ぶ境界線ベクトルと、始点から移動体位置を結ぶ移動体位置ベクトルとの外積を計算する外積計算手段と、
前記外積計算手段によって、計算して得た外積の符号の変化に基づいて、前記移動体が前記境界線を横切ったか否かを検出する境界線通過検出手段を有することを特徴とするナビゲーション装置。
【請求項2】
前記記憶手段は、移動体の進行方向に対して左側に存在する座標を始点座標、右側に存在する座標を終点座標として、前記境界線を、前記始点座標と前記終点座標とを結ぶ直線として記憶することを特徴とする請求項1に記載のナビゲーション装置。
【請求項3】
前記境界線通過検出手段は、前記外積符号が、「負から0」もしくは「負から正」に変化したことによって、前記移動体が境界線を通過したことを検出することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のナビゲーション装置。
【請求項4】
前記境界線は、前記移動体が順番に通過していく、施設またはその手前ごとに存在することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のナビゲーション装置。
【請求項5】
前記境界線通過検出手段によって前記移動体が前記境界線を通過したことを検出した場合に、移動体外部に設けられた情報端末に対して、無線通信を介して、前記境界線を通過した旨の情報を報知する報知手段を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載のナビゲーション装置。
【請求項6】
前記境界線に関連する報知情報を記憶する報知情報記憶部を備え、
前記境界線通過検出手段によって前記移動体が前記境界線を通過したことを検出した場合に、通過した境界線に関連する前記報知情報記憶部に記憶されている情報を、音声及び/または映像で、移動体及び/または前記情報端末に報知する報知手段を有することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のナビゲーション装置。
【請求項7】
前記移動体が路線バスであり、
前記情報端末は、情報センタまたはバスの停留所に設置された情報掲示板であることを特徴とする請求項6に記載のナビゲーション装置。
【請求項8】
前記情報掲示板は、バスの進行経路をドットの集合によって表現し、現在のバスの走行位置に対応した前記ドットを点灯することによって、前記バスの走行位置を報知するものであり、
前記境界線は、この情報掲示板に表示されたバスの位置を示す前記ドットに対応した位置に存在することを特徴とする請求項7に記載のナビゲーション装置。
【請求項9】
移動体の進行方向と交差する境界線上に設けられた始点と終点を記憶する記憶手段を用いて、移動体位置を検出する移動体位置検出ステップと、
境界線上にある始点と終点とを結ぶ境界線ベクトルと、始点から移動体位置を結ぶ移動体位置ベクトルとの外積を計算する外積計算ステップと、
前記外積計算ステップによって、計算して得た外積の符号の変化に基づいて、前記移動体が前記境界線を横切ったか否かを検出する境界線通過検出ステップを有することを特徴とするナビゲーション方法。
【請求項10】
移動体の進行方向と交差する境界線上に設けられた始点と終点を記憶する記憶手段を用いて、移動体位置を検出する移動体位置検出ステップと、
境界線上にある始点と終点とを結ぶ境界線ベクトルと、始点から移動体位置を結ぶ移動体位置ベクトルとの外積を計算する外積計算ステップと、
前記外積計算ステップによって、計算して得た外積の符号の変化に基づいて、前記移動体が前記境界線を横切ったか否かを検出する境界線通過検出ステップを、
ナビゲーション装置上で実行させることを特徴とするナビゲーション装置用プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−38727(P2010−38727A)
【公開日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−201936(P2008−201936)
【出願日】平成20年8月5日(2008.8.5)
【出願人】(000001487)クラリオン株式会社 (1,722)
【Fターム(参考)】