ナフトキノン系化合物を含む難聴の治療又は予防のための組成物
本発明は、ナフトキノン系化合物を含む、難聴の治療又は予防のための組成物に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナフトキノン系化合物を含む難聴の治療又は予防のための組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内耳の蝸牛管の基底膜上に配列された聴覚上皮群であるコルチ器官は、あらゆる感覚の組織のうち最も少ない数の感覚受容細胞である聴覚有毛細胞により機能をする。人間の蝸牛殻は、137,000,000個の視力感覚受容細胞を持つ網膜に比べ、わずか20,000個の感覚受容細胞のみを持っている。哺乳類において、聴覚有毛細胞は、単に胚発生の間にのみ作られ、出生後に消失すると再び作られない。したがって、有毛細胞の損失は明白かつ不可逆的な聴力損傷を引き起こす。
【0003】
聴力損傷は、外傷、老化、過度な騒音及び公害、抗生物質(たとえば、ゲンタマイシン)、ループ利尿剤及び白金系抗癌剤(たとえば、シスプラチン)等の耳毒性薬物、感染、自己免疫疾患及び遺伝性疾患といった多様な原因によって誘発された聴覚有毛細胞の細胞死が主な原因として明らかにされている。
【0004】
最近、難聴の予防及び治療に効果的な物質を見出すための様々な研究が進められ、抗酸化剤、N‐メチル‐D‐アスパルテート(NMDA)拮抗剤、細胞死滅抑制剤等についての研究が報告されたが、今までのところ難聴の予防及び治療と関連して承認された薬物はない。
【0005】
一方、ナフトキノン系化合物は、一部薬剤学的組成物の有効成分として知られている。そのうち、β‐ラパコン(β‐lapachone)は、南米において自生するラパコ(laphacho)の木(Tabebuia avellanedae)から、デュニオン(dunnione)とα‐デュニオン(alpha‐dunnione)は、南米に自生するストレプトカルプスデュニー(Streptocarpus dunnii)の葉から得られる。このような天然の三環式(tricyclic)ナフトキノン(naphthoquinone)誘導体は、南米地域では古くから抗癌剤をはじめ、南米地域の代表的な風土病であるシャーガス病(Chagas disease)を治療するための薬として広く使用され、その効果もまた優れているものと知られている。特に、これらの抗癌剤としての薬理作用が西洋世界に知られ始めるとともに、人々の注目を受け始め、米国特許第5,969,163号に開示されているように、これら三環式ナフトキノン誘導体は、実際に多様な研究グループにより各種抗癌剤として開発されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、老化、耳毒性薬物等による聴力損傷を治療又は予防することができる薬物を開発するために鋭意研究検討した結果、ナフトキノン系化合物が、聴覚損傷の治療又は予防に効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
したがって、本発明の目的は、ナフトキノン系化合物を含む難聴の治療又は予防のための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記化学式1又は2で示される化合物、その薬剤学的に許容される塩、プロドラッグ(prodrug)、溶媒化物又は異性体を含む、難聴の治療又は予防のための組成物に関する。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
前記式において、
R1〜R6は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10ジアルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルキニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アシル、置換若しくは非置換されたC3‐C8シクロアルキル、置換若しくは非置換されたC3‐C8ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換されたC4‐C10アリール、置換若しくは非置換されたC4‐C10ヘテロアリール、及び置換若しくは非置換された‐(CH2)n‐アリールからなる群より選択され、若しくはこれらのうち2つの置換基が相互連結されてなる二重結合、又は置換若しくは非置換されたC3‐C6の環構造であってよく、前記環構造は、飽和構造又は部分的若しくは全体的不飽和構造であってよく、ここで、置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールからなる群より選択された一つ以上であってよく;
R7〜R10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10ジアルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルキニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アシル、置換若しくは非置換されたC3‐C8シクロアルキル、置換若しくは非置換されたC3‐C8ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換されたC4‐C10アリール、置換若しくは非置換されたC4‐C10ヘテロアリール、及び置換若しくは非置換された‐(CH2)n‐アリールからなる群より選択され、若しくはこれらのうち2つの置換基が相互連結されて置換若しくは非置換されたC3‐C6の環構造であってよく、前記環構造は、飽和構造又は部分的若しくは全体的不飽和構造であってよく、ここで、置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールからなる群より選択された一つ以上であってよく;
Xは、O、S又はNR’であり、ここで、R’は、水素又はC1‐C6アルキルであり;
Yは、C、S、N又はOであり、ここで、YがS又はOである場合、R5及びR6はいかなる置換基でもなく、YがNである場合、R5は、水素又はC1‐C6アルキルであり、R6は、いかなる置換基でもなく;
mは、0又は1であり、mが0である場合、その隣接炭素原子は、直接結合により環状形構造を成し、
nは、0〜10の整数である。
【0012】
好ましくは、前記Xは、O又はSであり、Yは、C又はOであってよい。
【0013】
一の好ましい例において、前記R1〜R6は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、及び‐(CH2)n‐フェニルからなる群より選択され、若しくはR1及びR4若しくはR2及びR3が相互連結されてなる二重結合又はC4‐C6の環構造であってよく、ここで、置換基は、C1‐C10アルキルであってよい。
【0014】
他の好ましい例において、前記R7〜R10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、及び置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシからなる群より選択されてよい。
【0015】
前記化学式1又は2で示される化合物のうち好ましい例としては、XがOであり、YがCである下記化学式1‐1若しくは2‐1で示される化合物、又はXがSである下記化学式1‐2又は2‐2で示される化合物を挙げることができる。
【0016】
【化3】
【0017】
【化4】
【0018】
【化5】
【0019】
【化6】
【0020】
前記式において、R1〜R10、Y、及びmは、前記化学式1において定義されたとおりである。
【0021】
他の好ましい例において、前記化学式1又は2で示される化合物は、mが0であるとともに隣接炭素原子が直接結合により環状構造(furan環)を形成する下記化学式1‐3又は2‐3で示される化合物であってよい。以下においては、時に「フラン化合物」又は「フラノ‐o‐ナフトキノン(furano‐o‐naphthoquinone)誘導体」と称したりもする。
【0022】
【化7】
【0023】
【化8】
【0024】
前記式において、R1〜R10、及びXは、前記化学式1において定義されたとおりである。
【0025】
また、前記化学式1又は2で示される化合物は、mが1である下記化学式1‐4又は2‐4で示される化合物であってよい。以下では、時に、「ピラン(pyran)化合物」又は「ピラノ‐o‐ナフトキノン(pyrano‐o‐naphthoquinone)誘導体」と称したりもする。
【0026】
【化9】
【0027】
【化10】
【0028】
前記式において、R1〜R10、X、及びYは、前記化学式1において定義されたとおりである。
【0029】
他の好ましい例において、前記化学式1又は2で示される化合物は、R7及びR8が相互接続されて環構造を形成した下記化学式1‐5若しくは1‐6で示される化合物又は下記化学式2‐5若しくは2‐6で示される化合物であってよい。
【0030】
【化11】
【0031】
【化12】
【0032】
【化13】
【0033】
【化14】
【0034】
前記式において、
R1〜R10、X、Y、及びmは、前記化学式1において定義されたとおりであり、
R11〜R18は、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、又はC4‐C10ヘテロアリールである。
【0035】
好ましくは、R11〜R18は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C3‐C8シクロアルキル、又はフェニルであってよい。
【0036】
本発明において使用される用語「薬剤学的に許容される塩」とは、化合物が投与される有機体に深刻な刺激を引き起こさず、かつ化合物の生物学的活性と物性を損傷させない、化合物の剤形を意味する。前記薬剤学的に許容される塩は、薬剤学的に許容される陰イオンを含有する無毒性酸付加塩を形成する酸、たとえば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等の無機酸、酒石酸、蟻酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、サリシン酸といった有機カルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p‐トルエンスルホン酸といったスルホン酸等により形成された酸付加塩が含まれる。一方、塩基付加塩には、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等により形成されたアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、リシン、アルギニン、グアニジン等のアミノ酸塩、ジシクロヘキシルアミン、N‐メチル‐D‐グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジエタノールアミン、コリン及びトリエチルアミンといった有機塩等が含まれる。本発明に係る化学式1又は2で示される化合物は、通常的な方法によりその塩に転換されてよい。
【0037】
用語「プロドラッグ」とは、生体内において親薬剤(parent drug)に変換される物質を意味する。プロドラッグは、親薬剤よりも投与しやすいため、しばしば使用される。たとえば、これらは、口腔投与により生理活性を得てよいのに対し、親薬剤はそうでなくてよい。プロドラッグはまた、親薬剤よりも薬剤組成物において向上した溶解度を有していてもよい。たとえば、プロドラッグは、水溶解度が移動性に害となるが一旦水溶解度が有利な細胞では物質代謝により活性体であるカルボン酸に加水分解される、細胞膜の通過を容易にするエステルとして投与される化合物であってよい。プロドラッグの他の例は、ペプチドが活性部位を明らかにするように物質代謝により変換される酸基に結合されている短いペプチド(ポリアミノ酸)であってよい。本発明のプロドラッグは、国際特許公開WO06/020719号に記載されている化合物が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0038】
本発明において使用される用語「溶媒化物(solvate)」とは、非共有的な分子間力(non‐covalent intermolecular force)により結合された化学量論的(stoichiometric)又は非化学量論的(non‐stoichiometric)な量の溶媒を含んでいる本発明の化合物又はその塩を意味する。好ましい溶媒としては、揮発性、非毒性、及び/又は人間への投与に適した溶媒があり、前記溶媒が水である場合、水和物(hydrate)を意味する。
【0039】
用語「異性体(isomer)」とは、同一の化学式又は分子式を有するが、光学的又は立体的に異なる本発明の化合物又はその塩を意味する。
【0040】
以下において、別途の説明がない限り、用語「化学式1又は2で示される化合物」又は「ナフトキノン系化合物」は、化合物それ自体、その薬剤学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒化物及び異性体をすべて含む概念として使用される。
【0041】
用語「アルキル」は、不飽和基がなく、炭素及び水素を含有するラジカルを意味する。アルキルラジカルは、直鎖(線形)又は分枝鎖(枝形)であってよい。例示的なアルキルとしては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t‐ブチル、sec‐ブチル等が含まれるが、これに限定されない。
【0042】
C1‐C10アルキルは、直鎖又は分枝鎖アルキル主鎖に、1〜10個の炭素原子を有するアルキル基である。アルキル基は、任意に置換されてよい。置換される場合、アルキル基は、任意の特定の結合点において(任意の所定炭素原子において)置換基が4個以下で置換されてよい。
【0043】
一方、アルキル基がアルキル基に置換される場合、これは「分枝鎖型アルキル基」と同じ意味で使用される。
【0044】
用語「アルケニル」は、前述したアルキルと長さ及び置換可能性において類似するが、一つ以上の炭素‐炭素二重結合を含有する不飽和脂肪族基を意味する。たとえば、「アルケニル」は、直鎖アルケニル基(たとえば、エテニル、プロフェニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル)、分枝鎖アルケニル基、及びシクロアルケニル基(たとえば、シクロプロフェニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル)が含まれる。また、「アルケニル」は、一つ以上の炭化水素主鎖炭素を代替する酸素、窒素、硫黄又はリン原子を含むアルケニル基をさらに含んでいてもよい。具体的な例において、直鎖又は分枝鎖アルケニル基は、主鎖に6個以下の炭素原子を持っていてよく(たとえば、直鎖の場合C2‐C6、分枝鎖の場合C3‐C6)。同様に、シクロアルケニル基は、環構造に3〜8個の炭素原子を持っていてよく、さらに好ましくは5〜6個の炭素原子を持っていてよい。
【0045】
用語「アルキニル」は、前述したアルキルと長さ及び置換可能性において類似するが、一つ以上の炭素‐炭素三重結合を含有する不飽和脂肪族基を意味する。たとえば、「アルキニル」は、直鎖アルキニル基(たとえば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル)、及び分枝鎖アルキニル基(アルキル又はアルケニル置換されたアルキニル基を含む)を含む。また、「アルキニル」は、一つ以上の炭化水素主鎖炭素を代替する酸素、窒素、硫黄又はリン原子を含むアルキニル基をさらに含んでいてもよい。具体的な例において、直鎖又は分枝鎖アルキニル基は、主鎖に6個以下の炭素原子を持つ(たとえば、直鎖の場合C2‐C6、分枝鎖の場合C3‐C6)。
【0046】
前記アルキル、アルキニル及びアルケニルがそれぞれ置換された場合、置換基は、たとえば、ヒドロキシ、カルボキシレート、オキソ、ハロゲン(たとえば、F、Cl、Br、I)、C1‐C6ハロアルキル(たとえば、CCl3又はCF3)、カルバモイル(‐NHCOOR又は‐OCONHR)、ウレア(‐NHCONHR)、チオール、シアノ、ニトロ、アミノ、アシルアミノ、C1‐C10アルキルチオ、C4‐C10アリールチオ、C1‐C10アルキル、C1‐C10アルコキシ、C4‐C10アリールオキシ、C1‐C10アルキルカルボニルオキシ、C4‐C10アリールカルボニルオキシ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8シクロアルキルオキシ、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C4‐C10アリール、アミノカルボニル、C1‐C10アルキルカルボニル、C3‐C8シクロアルキルカルボニル、C3‐C8ヘテロシクロアルキルカルボニル、C4‐C10アリールカルボニル、C4‐C10アリールオキシカルボニル、C1‐C10アルコキシカルボニル、C3‐C8シクロアルキルオキシカルボニル、C3‐C8ヘテロシクロアルキルオキシカルボニル、C1‐C10アルキルスルホニル、C4‐C10アリールスルホニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10ヘテロアリール等であってよい。
【0047】
好ましくは、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールから選択された一つ以上であってよい。
【0048】
用語「シクロアルキル」は、炭素原子間での交番や共鳴二重結合なく、3〜15個の炭素原子、好ましくは、3〜8個の炭素原子を含有するアルキル種である。シクロアルキルは、1〜4個の環を含んでいてよい。例示的なシクロアルキルには、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アダマンチル等が含まれる。シクロアルキルの例示的な置換基としては、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C1‐C10アルコキシ、アミノ、ニトロ、シアノ、チオール、C1‐C10アルキルチオ等を挙げることができる。
【0049】
用語「ヘテロシクロアルキル」は、環炭素が窒素、硫黄、酸素等のヘテロ原子で置換されている置換体であって、飽和又は不飽和7〜11員二環式複素環式環、又は安定した非芳香族3〜8員単環式複素環式環を意味し、融合、スピロ又は架橋されて追加の環を形成していてよい。各々の複素環は、1個以上の炭素原子と1〜4個のヘテロ原子からなる。ヘテロシクロアルキル基は、安定した構造を創出する任意の環内に結合されてよい。好ましい例としては、フラン、チオフェン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、イソチアゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラン、ピリジン、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジン、トリアジン等を挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0050】
用語「アリール」は、共役π電子系を持っている少なくとも一つの環を有しているカルボサイクリックアリール(たとえば、フェニル)とヘテロサイクリックアリール(たとえば、ピリジン)を含む芳香族置換体を意味する。前記用語は、モノサイクリック又は融合環ポリサイクリック(すなわち、炭素原子の隣接した対を分けて持つ環)のグループを含む。アリール基は、炭素環式であってよく、または芳香族環内に任意に1〜4個のヘテロ原子(たとえば、窒素、硫黄又は酸素)を含有していてよく、これを「ヘテロアリール」ともいう。
【0051】
前記アリール又はヘテロアリールの例としては、フェニル、ナフチル、ピリジル、ピリミジル、ピロリル、イソチアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、ピラジニル、ピリダジニル、トリアジニル、キナゾリニル、チアゾリル、ベンゾチオフェニル、フラニル、イミダゾリル、チオフェニル等を挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0052】
前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリールは、任意に置換されていてよく、置換基の例としては、ヒドロキシ、ハロゲン、チオール、シアノ、ニトロ、アミノ、アシルアミノ、C1‐C10アルキルチオ、C4‐C10アリールチオ、C1‐C10アルキル、C1‐C10アルコキシ、C4‐C10アリールオキシ、C1‐C10アルキルカルボニルオキシ、C4‐C10アリールカルボニルオキシ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8シクロアルキルオキシ、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C4‐C10アリール、カルボキシレート、アミノカルボニル、C1‐C10アルキルカルボニル、C3‐C8シクロアルキルカルボニル、C3‐C8ヘテロシクロアルキルカルボニル、C4‐C10アリールカルボニル、C4‐C10アリールオキシカルボニル、C1‐C10アルコキシカルボニル、C3‐C8シクロアルキルオキシカルボニル、C3‐C8ヘテロシクロアルキルオキシカルボニル、C4‐C10アリールオキシカルボニル、C1‐C10アルキルスルホニル、C1‐C10アルキルアミノ、C4‐C10アリールスルホニル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10ヘテロアリール等を挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0053】
本発明に係る化合物のうち特に好ましい例としては、下記表1のものを挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0054】
【表1】
【0055】
本発明に係る組成物に使用される前記ナフトキノン系化合物は、国際特許公開WO06/088315号及びWO06/020719号に開示された方法で製造していてよく、その他公知の方法及び/又は有機合成の分野の技術を根幹とした多様な方法により製造されてよい。前記方法を基に、置換基の種類に応じて適切な合成方法を使用して、多様な誘導体を合成してよい。
【0056】
本明細書において、「難聴」は、伝音性難聴と感覚神経性難聴を含んでいてよく、好ましくは、蝸牛管の音を感知する機能に異常が生じ、又は音による刺激を脳へ伝達する聴神経又は中枢神経系の異常により発生する感覚神経性難聴を含み、特に、老化による老人性難聴及び耳毒性薬物による難聴を含む。
【0057】
本発明に係る組成物に使用される前記ナフトキノン系化合物は、老人性難聴及び耳毒性薬物による難聴動物モデルにおいて聴性脳幹反応閾値の回復効果を示し、聴覚有毛細胞の細胞枯死を抑制し、HMGB1(high‐mobility group box‐1)の発現増加を抑制して、老化又は耳毒性薬物による聴力損傷を保護するのに効果を示した。
【0058】
したがって、本発明による組成物は、難聴の治療又は予防のための薬剤学的組成物として使用されてよい。
【0059】
本発明に係る薬剤学的組成物は、経口的に(たとえば、服用若しくは吸引)又は非経口的に(たとえば、注射、経皮吸収、直腸投与)投与されてよく、注射は、たとえば、静脈注射、皮下注射、筋肉内注射又は腹腔内注射であってよい。本発明に係る薬剤学的組成物は、投与経路に応じて、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ファインサブティレ(fine subtilae)、粉剤、舌下錠剤、坐剤、軟膏、注射剤、乳濁液剤、懸濁液剤、シロップ剤、噴霧剤等に剤形化されてよい。前記様々な形態の本発明に係る薬剤学的組成物は、各剤形に通常的に使用される薬剤学的に許容される担体(carrier)を使用する公知技術によって製造されてよい。薬剤学的に許容される担体の例は、賦形剤、結合剤、崩解剤(disintegrating agent)、潤滑剤、防腐剤、抗酸化剤、等張化剤(isotonic agent)、緩衝剤、被膜剤、甘味剤、溶解剤、基剤(base)、分散剤、湿潤剤、懸濁化剤、安定剤、着色剤等を含む。
【0060】
本発明に係る薬剤学的組成物は、薬剤の形態に応じて異なるが、前記ナフトキノン系化合物を約0.01〜100重量%含む。
【0061】
本発明の薬剤学的組成物の具体的な投与量は、治療されるヒトを含む哺乳動物の種類、体重、性別、疾患の程度、医師の判断等に応じて異なってよい。好ましくは、経口投与の場合には、一日に体重1kgあたり有効成分0.001〜500mgが投与され、非経口投与の場合には、一日に体重1kgあたり有効成分0.001〜1000mgが投与される。前記総一日投与量は、疾患の程度、医師の判断等に応じて、一回で又は数回に分けて投与されてよい。
【0062】
他の態様により、本発明に係る組成物は、難聴の改善又は予防のための健康機能食品として使用されてよい。
【0063】
本発明に係る健康機能食品の種類には特別な制限がなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液剤、エマルジョン、シロップ剤等の経口型製剤形態であってもよく、またキャンディー、菓子、ガム、アイスクリーム、麺類、パン、飲料等、一般的な食品に添加されてもよい。
【0064】
本発明の健康機能食品は、形態に応じて、通常的な方法で、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、甘味剤、芳香剤、保存剤、界面活性剤、潤滑剤、賦形剤等、食品学的に許容される担体を適切に使用して製造されてよい。
【0065】
前記健康機能食品の製造において、前記ナフトキノン系化合物の含量は、健康機能食品の形態に応じて異なるが、約0.01〜100重量%の濃度である。
【発明の効果】
【0066】
本発明に係るナフトキノン系化合物を含む組成物は、多様な原因による難聴、特に老化による老人性難聴及び耳毒性薬物による難聴の治療又は予防に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】2ヶ月と12ヶ月の実験動物の聴性脳幹反応閾値を示したグラフである。
【図2】15ヶ月の実験動物における実験群間の聴性脳幹反応閾値の変化を測定したグラフである。
【図3】18ヶ月の実験動物における実験群間の聴性脳幹反応閾値の変化を測定したグラフである。
【図4】21ヶ月の実験動物における実験群間の聴性脳幹反応閾値の変化を測定したグラフである。
【図5】24ヶ月の実験動物における実験群間の聴性脳幹反応閾値の変化を測定したグラフである。
【図6】老化による聴覚有毛細胞の細胞枯死に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示した図である。
【図7】老化によるHMGB1の発現増加に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示した図である。
【図8】6週齢の実験動物における実験群間の聴性脳幹反応閾値の変化を測定したグラフである。
【図9】シスプラチン(CDDP)による聴覚有毛細胞の細胞枯死に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示したグラフである。
【図10】シスプラチン(CDDP)による炎症媒介分子の発現増加に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示した図である。
【図11】マウスにおけるシスプラチン(CDDP)によるHSP60の放出増加に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示したグラフである。
【図12】HEI‐OC1細胞におけるシスプラチン(CDDP)によるHSP60の放出増加に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示したグラフである。
【図13】シスプラチン(CDDP)による聴覚有毛細胞の細胞枯死におけるHSP60の役割を示したグラフである。
【図14】シスプラチン(CDDP)によるHMGB1の放出増加に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下、実施例により、本発明についてより具体的に説明することとする。これらの実施例は、単に本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例に限定されないということは、当業者にとって自明である。
【0069】
<実験例1:老人性難聴動物モデル実験>
〔実験例1‐1:実験動物の準備〕
本実験には、年齢に伴う聴力損傷モデルとしてよく知られているC57BL/6マウスを使用した。12ヶ月のC57BL/6マウスを中央実験動物社(韓国)から直接購入して24ヶ月まで飼育しつつ、3ヶ月ごとに聴力を測定した。実験に使用したすべてのマウスは、恒温(22〜26℃)及び恒湿(55〜60%)となる無菌動物室で飼育した。
【0070】
実験群は、正常的な飼料を自由に与えられた群(対照群)、食餌を70%に制限した群(カロリー制限群(caloric restriction):CR群)と、0.06%のβ‐ラパコン(化合物1)を含む飼料を与えられた群(βL群)とに分けてすべての実験を行った。
【0071】
〔実験例1‐2:聴性脳幹反応(Auditory Brainstem Response:ABR)の閾値変化〕
本実験では、聴性脳幹反応検査のために、すべての実験動物をキシラジン(xylazine)(5mg/kg)とケタミン(30mg/kg)の混合液で筋肉麻酔を施行し、防音室でTDTシステム(Tucker‐Davis Technologies、FL、USA)を使用して聴性脳幹反応閾値の変化を測定した。
【0072】
挿入型イヤーチップ(ear tip)(3.5mm, Nicolet Biomedical, Inc.)を外耳道に位置させ、電極は、活動電極を頭頂部に、基準電極は測定する耳の後外部に、接地電極は反対側の耳の後外部に位置させた後、4、8、16及び32kHzで、90dB HLの強さから10dBずつ下げながら閾値を測定した。
【0073】
ABR検査中、覚醒所見を見せたり、呼吸抑制で死亡したりしたケースはなく、グループ間のABR閾値の比較は、一元配置分散分析(one‐way analysis of variance)(ANOVA)検定を施行し、P値0.05以下を有意なものとして受け入れた。
【0074】
図1に示したところのように、12ヶ月の実験動物の基準聴力は、2ヶ月の実験動物の聴力に比べて、前半部において聴性脳幹反応閾値が平均10dB SPL以上、統計的に有意に上昇した。
【0075】
その後、15ヶ月の実験動物において、3つの実験群ごとに聴性脳幹反応閾値の変化を測定した。その結果、図2に示したところのように、4、8、16及び32kHzにおいて測定した聴性脳幹反応閾値が、対照群ではそれぞれ70±10、33.33±5.77、40±10及び50±10dB SPL、βL郡ではそれぞれ63.33±11.55、33.33±15.28、46.67±5.77及び53.33±5.77dB SPL、CR群ではそれぞれ53.33±11.55、33.33±5.77、26.67±11.55及び36.67±5.77dB SPLで、対照群に比べて32kHzのみにおいて統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せた(p<0.05)。
【0076】
18ヶ月の実験動物において、3つの実験群ごとに聴性脳幹反応閾値の変化を測定した結果、図3に示したところのように、4、8、16及び32kHzにおいて測定した聴性脳幹反応閾値が、対照群ではそれぞれ80±10、63.33±5.77、76.67±5.77及び80±10dB SPL、βL群ではそれぞれ80±0、46.67±11.55、56.67±11.55及び66.67±11.55dB SPL、CR群ではそれぞれ73.33±5.77、43.33±5.77、43.33±5.77及び56.67±5.77dB SPLで、対照群に比べて8〜32kHzにおいて統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せた(p<0.05)。
【0077】
その後、21ヶ月の実験動物において、3つの実験群ごとに聴性脳幹反応閾値の変化を測定した結果、図4に示したところのように、4、8、16及び32kHzにおいて測定した聴性脳幹反応閾値が、対照群ではそれぞれ86.67±5.77、73.33±5.77、73.33±5.77及び80±0dB SPL、βL群ではそれぞれ56.67±5.77、46.67±5.77、53.33±15.28及び46.67±5.77dB SPLで、対照群に比べて16kHzを除いた残りの領域において統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せ(p<0.05)、CR群ではそれぞれ73.33±5.77、56.67±5.77、56.67±5.77及び73.33±11.55dB SPLで、対照群に比べて32kHzを除いた残りの領域において統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せた(p<0.05)。
【0078】
24ヶ月の実験動物において、3つの実験群ごとに聴性脳幹反応閾値の変化を測定した結果、図5に示したところのように、4、8、16及び32kHzにおいて測定した聴性脳幹反応閾値が、対照群ではそれぞれ86.67±5.77、83.33±5.77、83.33±5.77及び90±0dB SPL、βL群ではそれぞれ73.33±5.77、43.33±5.77、53.33±5.77及び53.33±11.55dB SPLで、対照群に比べてすべての領域において統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せ(p<0.05)、4kHzを除く8〜32kHzにおいては対照群に比べて30dB SPL以上聴性脳幹反応閾値が回復した。一方、CR群ではそれぞれ83.33±5.77、63.33±5.77、83.33±5.77及び83.33±11.55dB SPLで、対照群に比べてただ8kHzの領域のみにおいて統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せた(p<0.05)。
【0079】
〔実験例1‐3:有毛細胞及びミトコンドリアの損傷確認〕
有毛細胞の損傷を確認するために実験動物の内耳を摘出した後、蝸牛の尖部から中間回転部分を対象に、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)‐媒介dUTPニック末端標識(terminal deoxynucleotidyl transferase‐mediated dUTP nick end‐labeling)(TUNEL)染色を行った後、蛍光顕微鏡でTUNEL陽性細胞を分析した。
【0080】
その結果、図6に示したところのように、24ヶ月になった実験動物の対照群では、外有毛細胞と内有毛細胞をはじめとする周辺細胞の細胞枯死が観測されたのに対し、βL群では、内耳前半部において老化に伴う細胞枯死が大幅に抑制されることを観察することができた。
【0081】
また、β‐ラパコンにより老化に伴うミトコンドリアの損失が抑制されるかを確認するために、24ヶ月になった実験動物の3つの実験群において、透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope:TEM)を通じてミトコンドリアの形態的変形検査を施行した。
【0082】
その結果、24ヶ月になった実験動物の対照群とCR群では2ヶ月になった実験動物と比較して確然と多くの数のミトコンドリアが消失又は破損したのに対し、24ヶ月になったβL群では、他の実験群と異なり、2ヶ月になった実験動物と類似した数と形態のミトコンドリアを観察することができた。
【0083】
こうした結果は、β‐ラパコンが老化に伴う有毛細胞及びミトコンドリアの損傷を抑制することを明確に示している。
【0084】
〔実験例1‐4:HMGB1の発現分析〕
ミトコンドリアの損傷及び形態変換に重要であると知られているHMGB1の発現に及ぼすβ‐ラパコンの効果を調べるために、組織染色を行った。
【0085】
その結果、図7に示したところのように、21ヶ月になった実験動物の対照群とCR群では、2ヶ月になった実験動物と比較してHMGB1の発現が内耳前半部にかけて確然と増加した一方、21ヶ月になったβL群では、他の実験群よりもHMGB1の発現が顕著に減少していることを観察することができた。
【0086】
したがって、β‐ラパコンは、老化に伴うHMGB1の発現増加を抑制することにより、内耳組織にある細胞の細胞枯死とミトコンドリアの数及び形態変形を抑制して、老化に伴う聴力損傷を保護するのに優れた効果があることを確認することができた。
【0087】
<実験例2:耳毒性薬物(シスプラチン)による難聴動物モデル実験>
〔実験例2‐1:実験動物の準備〕
本実験には、6週齢のC57BL/6マウスを使用した。実験に使用したすべてのマウスは、恒温(22〜26℃)及び恒湿(55〜60%)となる無菌動物室で飼育した。
【0088】
実験群は、PBSのみを注射した群(対照群)、シスプラチン(4mg/kg/日)を4日間腹腔に注射した群(CDDP群)、β‐ラパコン(10mg/kg、20mg/kg及び40mg/kg)とシスプラチンを4日間注射した群、並びにβ‐ラパコン(40mg/kg)のみを注射した群(βL群)に分けて実験を行った。
【0089】
〔実験例2‐2:聴性脳幹反応の閾値変化〕
ABR検査は、実験例1‐2と同一の方法ですべての薬物を注射する前と薬物を与えた後の閾値の変化量を測定し、グループ間のABR閾値変化の比較は、一元配置分散分析(one‐way analysis of variance)(ANOVA)検定を実施し、P値0.05以下を有意なものとして受け入れた。
【0090】
図8に示したところのように、シスプラチンのみを投与した群(CDDP群)では、すべての領域において聴性脳幹反応閾値が平均30dB SPL以上上昇したのに対し、β‐ラパコンとシスプラチンをともに与えた実験群では、すべての領域においてCDDP群に比べて統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せた(p<0.05)。また、対照群では、すべての領域においてはっきりとした聴性脳幹反応閾値の変化が見られず、βL群でも、対照群と同様、すべての領域において微々たる聴性脳幹反応閾値の変化のみが観察された。
【0091】
〔実験例2‐3:聴覚有毛細胞の損傷確認〕
β‐ラパコンのシスプラチンによる聴力損傷保護効果が直接的に聴覚有毛細胞の細胞死を抑制するのかを確認するために、聴覚有毛細胞株であるHEI‐OC1細胞に、多様な濃度のβ‐ラパコンを30分前に処理した後、シスプラチンに対する細胞生存率をMTT方法により測定した。
【0092】
その結果、図9に示したところのように、β‐ラパコンの単独処理は、2μM濃度までHEI‐OC1細胞の生存率に影響を及ぼさず、β‐ラパコンがシスプラチン処理による細胞死を濃度依存的に保護することを確認することができた(p<0.05)。
【0093】
また、コルチ器官の体外移植片(explant)においてもシスプラチン処理時に外有毛細胞と内有毛細胞の形態と配列の変化が発見されたのに対し、β‐ラパコンをシスプラチンとともに処理した実験群では、聴覚有毛細胞の形態と配列が、対照群と類似に維持されることを確認した。
【0094】
〔実験例2‐4:炎症媒介分子の発現分析〕
シスプラチンによる聴力損傷に重要な因子として知られている炎症媒介分子の発現をPCR方法により確認してみた。多様な濃度のβ‐ラパコンを30分前に処理した後、シスプラチンによる炎症媒介分子の発現をPCR方法により測定した。
【0095】
その結果、図10に示したところのように、シスプラチンを処理したHEI‐OC1細胞では、TNF‐α、IL‐6及びHSP60といった炎症を誘発するサイトカインと、TLR2及びTLR4といった炎症媒介受容体の発現が増加すること確認し、これらもまたβ‐ラパコンの濃度依存的に抑制されることを確認した。
【0096】
一般的に、ミトコンドリアに存在しているHSP60は、細胞外部へ放出されると、TLR2やTLR4と結合しつつ強力な炎症反応を誘発するものと知られている。したがって、マウスやHEI‐OC1細胞におけるHSP60の量をELISA方法を通じて確認した結果、それぞれ図11及び図12に示したところのように、シスプラチンを処理したマウスやHEI‐OC1細胞では、HSP60の放出が顕著に増加した(p<0.05)。しかし、β‐ラパコンをともに処理してやったマウスやHEI‐OC1細胞では、β‐ラパコンの濃度依存的にHSP60の放出が減少した。
【0097】
また、細胞染色を通じてHSP60の位置変化を確認してみた結果、正常細胞(対照群)では、HSP60がほぼすべてミトコンドリアにおいて発現するのに対し、シスプラチンを処理した細胞では、HSP60が大部分細胞質において発現することを確認することができ、β‐ラパコンとシスプラチンをともに処理した細胞では、HSP60が正常細胞と同様にミトコンドリアのみにおいて発現することを確認することができた。
【0098】
次に、かかるHSP60が直接的にシスプラチンによる聴覚細胞の死に影響を及ぼすかを確認するために、HSP60抗体をシスプラチンとともに処理し、細胞生存率をMTT方法により測定した結果、図13に示したところのように、シスプラチンによるHEI‐OC1細胞の死がHSP60抗体の処理により抑制されることを確認した(p<0.05)。
【0099】
HMGB1は、HSP60とともに、TLRの活性とそれによる炎症反応に重要な媒介体として知られている。したがって、HMGB1の細胞外放出をELISA方法により確認してみた結果、図14に示したところのように、シスプラチンを処理したHEI‐OC1細胞では、過量のHMGB1が細胞外へ放出されることを確認することができ、これもまたβ‐ラパコンの濃度依存的に減少することを確認することができた(p<0.05)。
【0100】
したがって、β‐ラパコンは、様々な炎症反応媒体の発現を抑制することにより、シスプラチンによる聴覚有毛細胞の死や聴力損傷を保護するのに優れた効果があることを確認することができた。
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナフトキノン系化合物を含む難聴の治療又は予防のための組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内耳の蝸牛管の基底膜上に配列された聴覚上皮群であるコルチ器官は、あらゆる感覚の組織のうち最も少ない数の感覚受容細胞である聴覚有毛細胞により機能をする。人間の蝸牛殻は、137,000,000個の視力感覚受容細胞を持つ網膜に比べ、わずか20,000個の感覚受容細胞のみを持っている。哺乳類において、聴覚有毛細胞は、単に胚発生の間にのみ作られ、出生後に消失すると再び作られない。したがって、有毛細胞の損失は明白かつ不可逆的な聴力損傷を引き起こす。
【0003】
聴力損傷は、外傷、老化、過度な騒音及び公害、抗生物質(たとえば、ゲンタマイシン)、ループ利尿剤及び白金系抗癌剤(たとえば、シスプラチン)等の耳毒性薬物、感染、自己免疫疾患及び遺伝性疾患といった多様な原因によって誘発された聴覚有毛細胞の細胞死が主な原因として明らかにされている。
【0004】
最近、難聴の予防及び治療に効果的な物質を見出すための様々な研究が進められ、抗酸化剤、N‐メチル‐D‐アスパルテート(NMDA)拮抗剤、細胞死滅抑制剤等についての研究が報告されたが、今までのところ難聴の予防及び治療と関連して承認された薬物はない。
【0005】
一方、ナフトキノン系化合物は、一部薬剤学的組成物の有効成分として知られている。そのうち、β‐ラパコン(β‐lapachone)は、南米において自生するラパコ(laphacho)の木(Tabebuia avellanedae)から、デュニオン(dunnione)とα‐デュニオン(alpha‐dunnione)は、南米に自生するストレプトカルプスデュニー(Streptocarpus dunnii)の葉から得られる。このような天然の三環式(tricyclic)ナフトキノン(naphthoquinone)誘導体は、南米地域では古くから抗癌剤をはじめ、南米地域の代表的な風土病であるシャーガス病(Chagas disease)を治療するための薬として広く使用され、その効果もまた優れているものと知られている。特に、これらの抗癌剤としての薬理作用が西洋世界に知られ始めるとともに、人々の注目を受け始め、米国特許第5,969,163号に開示されているように、これら三環式ナフトキノン誘導体は、実際に多様な研究グループにより各種抗癌剤として開発されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、老化、耳毒性薬物等による聴力損傷を治療又は予防することができる薬物を開発するために鋭意研究検討した結果、ナフトキノン系化合物が、聴覚損傷の治療又は予防に効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
したがって、本発明の目的は、ナフトキノン系化合物を含む難聴の治療又は予防のための組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記化学式1又は2で示される化合物、その薬剤学的に許容される塩、プロドラッグ(prodrug)、溶媒化物又は異性体を含む、難聴の治療又は予防のための組成物に関する。
【0009】
【化1】
【0010】
【化2】
【0011】
前記式において、
R1〜R6は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10ジアルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルキニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アシル、置換若しくは非置換されたC3‐C8シクロアルキル、置換若しくは非置換されたC3‐C8ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換されたC4‐C10アリール、置換若しくは非置換されたC4‐C10ヘテロアリール、及び置換若しくは非置換された‐(CH2)n‐アリールからなる群より選択され、若しくはこれらのうち2つの置換基が相互連結されてなる二重結合、又は置換若しくは非置換されたC3‐C6の環構造であってよく、前記環構造は、飽和構造又は部分的若しくは全体的不飽和構造であってよく、ここで、置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールからなる群より選択された一つ以上であってよく;
R7〜R10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10ジアルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルキニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アシル、置換若しくは非置換されたC3‐C8シクロアルキル、置換若しくは非置換されたC3‐C8ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換されたC4‐C10アリール、置換若しくは非置換されたC4‐C10ヘテロアリール、及び置換若しくは非置換された‐(CH2)n‐アリールからなる群より選択され、若しくはこれらのうち2つの置換基が相互連結されて置換若しくは非置換されたC3‐C6の環構造であってよく、前記環構造は、飽和構造又は部分的若しくは全体的不飽和構造であってよく、ここで、置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールからなる群より選択された一つ以上であってよく;
Xは、O、S又はNR’であり、ここで、R’は、水素又はC1‐C6アルキルであり;
Yは、C、S、N又はOであり、ここで、YがS又はOである場合、R5及びR6はいかなる置換基でもなく、YがNである場合、R5は、水素又はC1‐C6アルキルであり、R6は、いかなる置換基でもなく;
mは、0又は1であり、mが0である場合、その隣接炭素原子は、直接結合により環状形構造を成し、
nは、0〜10の整数である。
【0012】
好ましくは、前記Xは、O又はSであり、Yは、C又はOであってよい。
【0013】
一の好ましい例において、前記R1〜R6は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、及び‐(CH2)n‐フェニルからなる群より選択され、若しくはR1及びR4若しくはR2及びR3が相互連結されてなる二重結合又はC4‐C6の環構造であってよく、ここで、置換基は、C1‐C10アルキルであってよい。
【0014】
他の好ましい例において、前記R7〜R10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、及び置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシからなる群より選択されてよい。
【0015】
前記化学式1又は2で示される化合物のうち好ましい例としては、XがOであり、YがCである下記化学式1‐1若しくは2‐1で示される化合物、又はXがSである下記化学式1‐2又は2‐2で示される化合物を挙げることができる。
【0016】
【化3】
【0017】
【化4】
【0018】
【化5】
【0019】
【化6】
【0020】
前記式において、R1〜R10、Y、及びmは、前記化学式1において定義されたとおりである。
【0021】
他の好ましい例において、前記化学式1又は2で示される化合物は、mが0であるとともに隣接炭素原子が直接結合により環状構造(furan環)を形成する下記化学式1‐3又は2‐3で示される化合物であってよい。以下においては、時に「フラン化合物」又は「フラノ‐o‐ナフトキノン(furano‐o‐naphthoquinone)誘導体」と称したりもする。
【0022】
【化7】
【0023】
【化8】
【0024】
前記式において、R1〜R10、及びXは、前記化学式1において定義されたとおりである。
【0025】
また、前記化学式1又は2で示される化合物は、mが1である下記化学式1‐4又は2‐4で示される化合物であってよい。以下では、時に、「ピラン(pyran)化合物」又は「ピラノ‐o‐ナフトキノン(pyrano‐o‐naphthoquinone)誘導体」と称したりもする。
【0026】
【化9】
【0027】
【化10】
【0028】
前記式において、R1〜R10、X、及びYは、前記化学式1において定義されたとおりである。
【0029】
他の好ましい例において、前記化学式1又は2で示される化合物は、R7及びR8が相互接続されて環構造を形成した下記化学式1‐5若しくは1‐6で示される化合物又は下記化学式2‐5若しくは2‐6で示される化合物であってよい。
【0030】
【化11】
【0031】
【化12】
【0032】
【化13】
【0033】
【化14】
【0034】
前記式において、
R1〜R10、X、Y、及びmは、前記化学式1において定義されたとおりであり、
R11〜R18は、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、又はC4‐C10ヘテロアリールである。
【0035】
好ましくは、R11〜R18は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C3‐C8シクロアルキル、又はフェニルであってよい。
【0036】
本発明において使用される用語「薬剤学的に許容される塩」とは、化合物が投与される有機体に深刻な刺激を引き起こさず、かつ化合物の生物学的活性と物性を損傷させない、化合物の剤形を意味する。前記薬剤学的に許容される塩は、薬剤学的に許容される陰イオンを含有する無毒性酸付加塩を形成する酸、たとえば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸等の無機酸、酒石酸、蟻酸、クエン酸、酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、グルコン酸、安息香酸、乳酸、フマル酸、マレイン酸、サリシン酸といった有機カルボン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p‐トルエンスルホン酸といったスルホン酸等により形成された酸付加塩が含まれる。一方、塩基付加塩には、リチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム等により形成されたアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、リシン、アルギニン、グアニジン等のアミノ酸塩、ジシクロヘキシルアミン、N‐メチル‐D‐グルカミン、トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミン、ジエタノールアミン、コリン及びトリエチルアミンといった有機塩等が含まれる。本発明に係る化学式1又は2で示される化合物は、通常的な方法によりその塩に転換されてよい。
【0037】
用語「プロドラッグ」とは、生体内において親薬剤(parent drug)に変換される物質を意味する。プロドラッグは、親薬剤よりも投与しやすいため、しばしば使用される。たとえば、これらは、口腔投与により生理活性を得てよいのに対し、親薬剤はそうでなくてよい。プロドラッグはまた、親薬剤よりも薬剤組成物において向上した溶解度を有していてもよい。たとえば、プロドラッグは、水溶解度が移動性に害となるが一旦水溶解度が有利な細胞では物質代謝により活性体であるカルボン酸に加水分解される、細胞膜の通過を容易にするエステルとして投与される化合物であってよい。プロドラッグの他の例は、ペプチドが活性部位を明らかにするように物質代謝により変換される酸基に結合されている短いペプチド(ポリアミノ酸)であってよい。本発明のプロドラッグは、国際特許公開WO06/020719号に記載されている化合物が含まれるが、これに限定されるものではない。
【0038】
本発明において使用される用語「溶媒化物(solvate)」とは、非共有的な分子間力(non‐covalent intermolecular force)により結合された化学量論的(stoichiometric)又は非化学量論的(non‐stoichiometric)な量の溶媒を含んでいる本発明の化合物又はその塩を意味する。好ましい溶媒としては、揮発性、非毒性、及び/又は人間への投与に適した溶媒があり、前記溶媒が水である場合、水和物(hydrate)を意味する。
【0039】
用語「異性体(isomer)」とは、同一の化学式又は分子式を有するが、光学的又は立体的に異なる本発明の化合物又はその塩を意味する。
【0040】
以下において、別途の説明がない限り、用語「化学式1又は2で示される化合物」又は「ナフトキノン系化合物」は、化合物それ自体、その薬剤学的に許容される塩、プロドラッグ、溶媒化物及び異性体をすべて含む概念として使用される。
【0041】
用語「アルキル」は、不飽和基がなく、炭素及び水素を含有するラジカルを意味する。アルキルラジカルは、直鎖(線形)又は分枝鎖(枝形)であってよい。例示的なアルキルとしては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、t‐ブチル、sec‐ブチル等が含まれるが、これに限定されない。
【0042】
C1‐C10アルキルは、直鎖又は分枝鎖アルキル主鎖に、1〜10個の炭素原子を有するアルキル基である。アルキル基は、任意に置換されてよい。置換される場合、アルキル基は、任意の特定の結合点において(任意の所定炭素原子において)置換基が4個以下で置換されてよい。
【0043】
一方、アルキル基がアルキル基に置換される場合、これは「分枝鎖型アルキル基」と同じ意味で使用される。
【0044】
用語「アルケニル」は、前述したアルキルと長さ及び置換可能性において類似するが、一つ以上の炭素‐炭素二重結合を含有する不飽和脂肪族基を意味する。たとえば、「アルケニル」は、直鎖アルケニル基(たとえば、エテニル、プロフェニル、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、ヘプテニル、オクテニル、ノネニル、デセニル)、分枝鎖アルケニル基、及びシクロアルケニル基(たとえば、シクロプロフェニル、シクロペンテニル、シクロヘキセニル、シクロヘプテニル、シクロオクテニル)が含まれる。また、「アルケニル」は、一つ以上の炭化水素主鎖炭素を代替する酸素、窒素、硫黄又はリン原子を含むアルケニル基をさらに含んでいてもよい。具体的な例において、直鎖又は分枝鎖アルケニル基は、主鎖に6個以下の炭素原子を持っていてよく(たとえば、直鎖の場合C2‐C6、分枝鎖の場合C3‐C6)。同様に、シクロアルケニル基は、環構造に3〜8個の炭素原子を持っていてよく、さらに好ましくは5〜6個の炭素原子を持っていてよい。
【0045】
用語「アルキニル」は、前述したアルキルと長さ及び置換可能性において類似するが、一つ以上の炭素‐炭素三重結合を含有する不飽和脂肪族基を意味する。たとえば、「アルキニル」は、直鎖アルキニル基(たとえば、エチニル、プロピニル、ブチニル、ペンチニル、ヘキシニル、ヘプチニル、オクチニル、ノニニル、デシニル)、及び分枝鎖アルキニル基(アルキル又はアルケニル置換されたアルキニル基を含む)を含む。また、「アルキニル」は、一つ以上の炭化水素主鎖炭素を代替する酸素、窒素、硫黄又はリン原子を含むアルキニル基をさらに含んでいてもよい。具体的な例において、直鎖又は分枝鎖アルキニル基は、主鎖に6個以下の炭素原子を持つ(たとえば、直鎖の場合C2‐C6、分枝鎖の場合C3‐C6)。
【0046】
前記アルキル、アルキニル及びアルケニルがそれぞれ置換された場合、置換基は、たとえば、ヒドロキシ、カルボキシレート、オキソ、ハロゲン(たとえば、F、Cl、Br、I)、C1‐C6ハロアルキル(たとえば、CCl3又はCF3)、カルバモイル(‐NHCOOR又は‐OCONHR)、ウレア(‐NHCONHR)、チオール、シアノ、ニトロ、アミノ、アシルアミノ、C1‐C10アルキルチオ、C4‐C10アリールチオ、C1‐C10アルキル、C1‐C10アルコキシ、C4‐C10アリールオキシ、C1‐C10アルキルカルボニルオキシ、C4‐C10アリールカルボニルオキシ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8シクロアルキルオキシ、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C4‐C10アリール、アミノカルボニル、C1‐C10アルキルカルボニル、C3‐C8シクロアルキルカルボニル、C3‐C8ヘテロシクロアルキルカルボニル、C4‐C10アリールカルボニル、C4‐C10アリールオキシカルボニル、C1‐C10アルコキシカルボニル、C3‐C8シクロアルキルオキシカルボニル、C3‐C8ヘテロシクロアルキルオキシカルボニル、C1‐C10アルキルスルホニル、C4‐C10アリールスルホニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10ヘテロアリール等であってよい。
【0047】
好ましくは、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールから選択された一つ以上であってよい。
【0048】
用語「シクロアルキル」は、炭素原子間での交番や共鳴二重結合なく、3〜15個の炭素原子、好ましくは、3〜8個の炭素原子を含有するアルキル種である。シクロアルキルは、1〜4個の環を含んでいてよい。例示的なシクロアルキルには、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、アダマンチル等が含まれる。シクロアルキルの例示的な置換基としては、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C1‐C10アルコキシ、アミノ、ニトロ、シアノ、チオール、C1‐C10アルキルチオ等を挙げることができる。
【0049】
用語「ヘテロシクロアルキル」は、環炭素が窒素、硫黄、酸素等のヘテロ原子で置換されている置換体であって、飽和又は不飽和7〜11員二環式複素環式環、又は安定した非芳香族3〜8員単環式複素環式環を意味し、融合、スピロ又は架橋されて追加の環を形成していてよい。各々の複素環は、1個以上の炭素原子と1〜4個のヘテロ原子からなる。ヘテロシクロアルキル基は、安定した構造を創出する任意の環内に結合されてよい。好ましい例としては、フラン、チオフェン、ピロール、ピロリン、ピロリジン、オキサゾール、チアゾール、イミダゾール、イミダゾリン、イミダゾリジン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラゾリジン、イソチアゾール、トリアゾール、チアジアゾール、ピラン、ピリジン、ピペリジン、モルホリン、チオモルホリン、ピリダジン、ピリミジン、ピラジン、ピペラジン、トリアジン等を挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0050】
用語「アリール」は、共役π電子系を持っている少なくとも一つの環を有しているカルボサイクリックアリール(たとえば、フェニル)とヘテロサイクリックアリール(たとえば、ピリジン)を含む芳香族置換体を意味する。前記用語は、モノサイクリック又は融合環ポリサイクリック(すなわち、炭素原子の隣接した対を分けて持つ環)のグループを含む。アリール基は、炭素環式であってよく、または芳香族環内に任意に1〜4個のヘテロ原子(たとえば、窒素、硫黄又は酸素)を含有していてよく、これを「ヘテロアリール」ともいう。
【0051】
前記アリール又はヘテロアリールの例としては、フェニル、ナフチル、ピリジル、ピリミジル、ピロリル、イソチアゾリル、トリアゾリル、テトラゾリル、ピラゾリル、オキサゾリル、イソオキサゾリル、ピラジニル、ピリダジニル、トリアジニル、キナゾリニル、チアゾリル、ベンゾチオフェニル、フラニル、イミダゾリル、チオフェニル等を挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0052】
前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール及びヘテロアリールは、任意に置換されていてよく、置換基の例としては、ヒドロキシ、ハロゲン、チオール、シアノ、ニトロ、アミノ、アシルアミノ、C1‐C10アルキルチオ、C4‐C10アリールチオ、C1‐C10アルキル、C1‐C10アルコキシ、C4‐C10アリールオキシ、C1‐C10アルキルカルボニルオキシ、C4‐C10アリールカルボニルオキシ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8シクロアルキルオキシ、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C4‐C10アリール、カルボキシレート、アミノカルボニル、C1‐C10アルキルカルボニル、C3‐C8シクロアルキルカルボニル、C3‐C8ヘテロシクロアルキルカルボニル、C4‐C10アリールカルボニル、C4‐C10アリールオキシカルボニル、C1‐C10アルコキシカルボニル、C3‐C8シクロアルキルオキシカルボニル、C3‐C8ヘテロシクロアルキルオキシカルボニル、C4‐C10アリールオキシカルボニル、C1‐C10アルキルスルホニル、C1‐C10アルキルアミノ、C4‐C10アリールスルホニル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10ヘテロアリール等を挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0053】
本発明に係る化合物のうち特に好ましい例としては、下記表1のものを挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。
【0054】
【表1】
【0055】
本発明に係る組成物に使用される前記ナフトキノン系化合物は、国際特許公開WO06/088315号及びWO06/020719号に開示された方法で製造していてよく、その他公知の方法及び/又は有機合成の分野の技術を根幹とした多様な方法により製造されてよい。前記方法を基に、置換基の種類に応じて適切な合成方法を使用して、多様な誘導体を合成してよい。
【0056】
本明細書において、「難聴」は、伝音性難聴と感覚神経性難聴を含んでいてよく、好ましくは、蝸牛管の音を感知する機能に異常が生じ、又は音による刺激を脳へ伝達する聴神経又は中枢神経系の異常により発生する感覚神経性難聴を含み、特に、老化による老人性難聴及び耳毒性薬物による難聴を含む。
【0057】
本発明に係る組成物に使用される前記ナフトキノン系化合物は、老人性難聴及び耳毒性薬物による難聴動物モデルにおいて聴性脳幹反応閾値の回復効果を示し、聴覚有毛細胞の細胞枯死を抑制し、HMGB1(high‐mobility group box‐1)の発現増加を抑制して、老化又は耳毒性薬物による聴力損傷を保護するのに効果を示した。
【0058】
したがって、本発明による組成物は、難聴の治療又は予防のための薬剤学的組成物として使用されてよい。
【0059】
本発明に係る薬剤学的組成物は、経口的に(たとえば、服用若しくは吸引)又は非経口的に(たとえば、注射、経皮吸収、直腸投与)投与されてよく、注射は、たとえば、静脈注射、皮下注射、筋肉内注射又は腹腔内注射であってよい。本発明に係る薬剤学的組成物は、投与経路に応じて、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、ファインサブティレ(fine subtilae)、粉剤、舌下錠剤、坐剤、軟膏、注射剤、乳濁液剤、懸濁液剤、シロップ剤、噴霧剤等に剤形化されてよい。前記様々な形態の本発明に係る薬剤学的組成物は、各剤形に通常的に使用される薬剤学的に許容される担体(carrier)を使用する公知技術によって製造されてよい。薬剤学的に許容される担体の例は、賦形剤、結合剤、崩解剤(disintegrating agent)、潤滑剤、防腐剤、抗酸化剤、等張化剤(isotonic agent)、緩衝剤、被膜剤、甘味剤、溶解剤、基剤(base)、分散剤、湿潤剤、懸濁化剤、安定剤、着色剤等を含む。
【0060】
本発明に係る薬剤学的組成物は、薬剤の形態に応じて異なるが、前記ナフトキノン系化合物を約0.01〜100重量%含む。
【0061】
本発明の薬剤学的組成物の具体的な投与量は、治療されるヒトを含む哺乳動物の種類、体重、性別、疾患の程度、医師の判断等に応じて異なってよい。好ましくは、経口投与の場合には、一日に体重1kgあたり有効成分0.001〜500mgが投与され、非経口投与の場合には、一日に体重1kgあたり有効成分0.001〜1000mgが投与される。前記総一日投与量は、疾患の程度、医師の判断等に応じて、一回で又は数回に分けて投与されてよい。
【0062】
他の態様により、本発明に係る組成物は、難聴の改善又は予防のための健康機能食品として使用されてよい。
【0063】
本発明に係る健康機能食品の種類には特別な制限がなく、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、懸濁液剤、エマルジョン、シロップ剤等の経口型製剤形態であってもよく、またキャンディー、菓子、ガム、アイスクリーム、麺類、パン、飲料等、一般的な食品に添加されてもよい。
【0064】
本発明の健康機能食品は、形態に応じて、通常的な方法で、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩解剤、甘味剤、芳香剤、保存剤、界面活性剤、潤滑剤、賦形剤等、食品学的に許容される担体を適切に使用して製造されてよい。
【0065】
前記健康機能食品の製造において、前記ナフトキノン系化合物の含量は、健康機能食品の形態に応じて異なるが、約0.01〜100重量%の濃度である。
【発明の効果】
【0066】
本発明に係るナフトキノン系化合物を含む組成物は、多様な原因による難聴、特に老化による老人性難聴及び耳毒性薬物による難聴の治療又は予防に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】2ヶ月と12ヶ月の実験動物の聴性脳幹反応閾値を示したグラフである。
【図2】15ヶ月の実験動物における実験群間の聴性脳幹反応閾値の変化を測定したグラフである。
【図3】18ヶ月の実験動物における実験群間の聴性脳幹反応閾値の変化を測定したグラフである。
【図4】21ヶ月の実験動物における実験群間の聴性脳幹反応閾値の変化を測定したグラフである。
【図5】24ヶ月の実験動物における実験群間の聴性脳幹反応閾値の変化を測定したグラフである。
【図6】老化による聴覚有毛細胞の細胞枯死に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示した図である。
【図7】老化によるHMGB1の発現増加に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示した図である。
【図8】6週齢の実験動物における実験群間の聴性脳幹反応閾値の変化を測定したグラフである。
【図9】シスプラチン(CDDP)による聴覚有毛細胞の細胞枯死に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示したグラフである。
【図10】シスプラチン(CDDP)による炎症媒介分子の発現増加に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示した図である。
【図11】マウスにおけるシスプラチン(CDDP)によるHSP60の放出増加に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示したグラフである。
【図12】HEI‐OC1細胞におけるシスプラチン(CDDP)によるHSP60の放出増加に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示したグラフである。
【図13】シスプラチン(CDDP)による聴覚有毛細胞の細胞枯死におけるHSP60の役割を示したグラフである。
【図14】シスプラチン(CDDP)によるHMGB1の放出増加に対するβ‐ラパコン(βL)の抑制効果を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0068】
以下、実施例により、本発明についてより具体的に説明することとする。これらの実施例は、単に本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲がこれら実施例に限定されないということは、当業者にとって自明である。
【0069】
<実験例1:老人性難聴動物モデル実験>
〔実験例1‐1:実験動物の準備〕
本実験には、年齢に伴う聴力損傷モデルとしてよく知られているC57BL/6マウスを使用した。12ヶ月のC57BL/6マウスを中央実験動物社(韓国)から直接購入して24ヶ月まで飼育しつつ、3ヶ月ごとに聴力を測定した。実験に使用したすべてのマウスは、恒温(22〜26℃)及び恒湿(55〜60%)となる無菌動物室で飼育した。
【0070】
実験群は、正常的な飼料を自由に与えられた群(対照群)、食餌を70%に制限した群(カロリー制限群(caloric restriction):CR群)と、0.06%のβ‐ラパコン(化合物1)を含む飼料を与えられた群(βL群)とに分けてすべての実験を行った。
【0071】
〔実験例1‐2:聴性脳幹反応(Auditory Brainstem Response:ABR)の閾値変化〕
本実験では、聴性脳幹反応検査のために、すべての実験動物をキシラジン(xylazine)(5mg/kg)とケタミン(30mg/kg)の混合液で筋肉麻酔を施行し、防音室でTDTシステム(Tucker‐Davis Technologies、FL、USA)を使用して聴性脳幹反応閾値の変化を測定した。
【0072】
挿入型イヤーチップ(ear tip)(3.5mm, Nicolet Biomedical, Inc.)を外耳道に位置させ、電極は、活動電極を頭頂部に、基準電極は測定する耳の後外部に、接地電極は反対側の耳の後外部に位置させた後、4、8、16及び32kHzで、90dB HLの強さから10dBずつ下げながら閾値を測定した。
【0073】
ABR検査中、覚醒所見を見せたり、呼吸抑制で死亡したりしたケースはなく、グループ間のABR閾値の比較は、一元配置分散分析(one‐way analysis of variance)(ANOVA)検定を施行し、P値0.05以下を有意なものとして受け入れた。
【0074】
図1に示したところのように、12ヶ月の実験動物の基準聴力は、2ヶ月の実験動物の聴力に比べて、前半部において聴性脳幹反応閾値が平均10dB SPL以上、統計的に有意に上昇した。
【0075】
その後、15ヶ月の実験動物において、3つの実験群ごとに聴性脳幹反応閾値の変化を測定した。その結果、図2に示したところのように、4、8、16及び32kHzにおいて測定した聴性脳幹反応閾値が、対照群ではそれぞれ70±10、33.33±5.77、40±10及び50±10dB SPL、βL郡ではそれぞれ63.33±11.55、33.33±15.28、46.67±5.77及び53.33±5.77dB SPL、CR群ではそれぞれ53.33±11.55、33.33±5.77、26.67±11.55及び36.67±5.77dB SPLで、対照群に比べて32kHzのみにおいて統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せた(p<0.05)。
【0076】
18ヶ月の実験動物において、3つの実験群ごとに聴性脳幹反応閾値の変化を測定した結果、図3に示したところのように、4、8、16及び32kHzにおいて測定した聴性脳幹反応閾値が、対照群ではそれぞれ80±10、63.33±5.77、76.67±5.77及び80±10dB SPL、βL群ではそれぞれ80±0、46.67±11.55、56.67±11.55及び66.67±11.55dB SPL、CR群ではそれぞれ73.33±5.77、43.33±5.77、43.33±5.77及び56.67±5.77dB SPLで、対照群に比べて8〜32kHzにおいて統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せた(p<0.05)。
【0077】
その後、21ヶ月の実験動物において、3つの実験群ごとに聴性脳幹反応閾値の変化を測定した結果、図4に示したところのように、4、8、16及び32kHzにおいて測定した聴性脳幹反応閾値が、対照群ではそれぞれ86.67±5.77、73.33±5.77、73.33±5.77及び80±0dB SPL、βL群ではそれぞれ56.67±5.77、46.67±5.77、53.33±15.28及び46.67±5.77dB SPLで、対照群に比べて16kHzを除いた残りの領域において統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せ(p<0.05)、CR群ではそれぞれ73.33±5.77、56.67±5.77、56.67±5.77及び73.33±11.55dB SPLで、対照群に比べて32kHzを除いた残りの領域において統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せた(p<0.05)。
【0078】
24ヶ月の実験動物において、3つの実験群ごとに聴性脳幹反応閾値の変化を測定した結果、図5に示したところのように、4、8、16及び32kHzにおいて測定した聴性脳幹反応閾値が、対照群ではそれぞれ86.67±5.77、83.33±5.77、83.33±5.77及び90±0dB SPL、βL群ではそれぞれ73.33±5.77、43.33±5.77、53.33±5.77及び53.33±11.55dB SPLで、対照群に比べてすべての領域において統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せ(p<0.05)、4kHzを除く8〜32kHzにおいては対照群に比べて30dB SPL以上聴性脳幹反応閾値が回復した。一方、CR群ではそれぞれ83.33±5.77、63.33±5.77、83.33±5.77及び83.33±11.55dB SPLで、対照群に比べてただ8kHzの領域のみにおいて統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せた(p<0.05)。
【0079】
〔実験例1‐3:有毛細胞及びミトコンドリアの損傷確認〕
有毛細胞の損傷を確認するために実験動物の内耳を摘出した後、蝸牛の尖部から中間回転部分を対象に、ターミナルデオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)‐媒介dUTPニック末端標識(terminal deoxynucleotidyl transferase‐mediated dUTP nick end‐labeling)(TUNEL)染色を行った後、蛍光顕微鏡でTUNEL陽性細胞を分析した。
【0080】
その結果、図6に示したところのように、24ヶ月になった実験動物の対照群では、外有毛細胞と内有毛細胞をはじめとする周辺細胞の細胞枯死が観測されたのに対し、βL群では、内耳前半部において老化に伴う細胞枯死が大幅に抑制されることを観察することができた。
【0081】
また、β‐ラパコンにより老化に伴うミトコンドリアの損失が抑制されるかを確認するために、24ヶ月になった実験動物の3つの実験群において、透過型電子顕微鏡(transmission electron microscope:TEM)を通じてミトコンドリアの形態的変形検査を施行した。
【0082】
その結果、24ヶ月になった実験動物の対照群とCR群では2ヶ月になった実験動物と比較して確然と多くの数のミトコンドリアが消失又は破損したのに対し、24ヶ月になったβL群では、他の実験群と異なり、2ヶ月になった実験動物と類似した数と形態のミトコンドリアを観察することができた。
【0083】
こうした結果は、β‐ラパコンが老化に伴う有毛細胞及びミトコンドリアの損傷を抑制することを明確に示している。
【0084】
〔実験例1‐4:HMGB1の発現分析〕
ミトコンドリアの損傷及び形態変換に重要であると知られているHMGB1の発現に及ぼすβ‐ラパコンの効果を調べるために、組織染色を行った。
【0085】
その結果、図7に示したところのように、21ヶ月になった実験動物の対照群とCR群では、2ヶ月になった実験動物と比較してHMGB1の発現が内耳前半部にかけて確然と増加した一方、21ヶ月になったβL群では、他の実験群よりもHMGB1の発現が顕著に減少していることを観察することができた。
【0086】
したがって、β‐ラパコンは、老化に伴うHMGB1の発現増加を抑制することにより、内耳組織にある細胞の細胞枯死とミトコンドリアの数及び形態変形を抑制して、老化に伴う聴力損傷を保護するのに優れた効果があることを確認することができた。
【0087】
<実験例2:耳毒性薬物(シスプラチン)による難聴動物モデル実験>
〔実験例2‐1:実験動物の準備〕
本実験には、6週齢のC57BL/6マウスを使用した。実験に使用したすべてのマウスは、恒温(22〜26℃)及び恒湿(55〜60%)となる無菌動物室で飼育した。
【0088】
実験群は、PBSのみを注射した群(対照群)、シスプラチン(4mg/kg/日)を4日間腹腔に注射した群(CDDP群)、β‐ラパコン(10mg/kg、20mg/kg及び40mg/kg)とシスプラチンを4日間注射した群、並びにβ‐ラパコン(40mg/kg)のみを注射した群(βL群)に分けて実験を行った。
【0089】
〔実験例2‐2:聴性脳幹反応の閾値変化〕
ABR検査は、実験例1‐2と同一の方法ですべての薬物を注射する前と薬物を与えた後の閾値の変化量を測定し、グループ間のABR閾値変化の比較は、一元配置分散分析(one‐way analysis of variance)(ANOVA)検定を実施し、P値0.05以下を有意なものとして受け入れた。
【0090】
図8に示したところのように、シスプラチンのみを投与した群(CDDP群)では、すべての領域において聴性脳幹反応閾値が平均30dB SPL以上上昇したのに対し、β‐ラパコンとシスプラチンをともに与えた実験群では、すべての領域においてCDDP群に比べて統計的に有意に聴性脳幹反応閾値の回復を見せた(p<0.05)。また、対照群では、すべての領域においてはっきりとした聴性脳幹反応閾値の変化が見られず、βL群でも、対照群と同様、すべての領域において微々たる聴性脳幹反応閾値の変化のみが観察された。
【0091】
〔実験例2‐3:聴覚有毛細胞の損傷確認〕
β‐ラパコンのシスプラチンによる聴力損傷保護効果が直接的に聴覚有毛細胞の細胞死を抑制するのかを確認するために、聴覚有毛細胞株であるHEI‐OC1細胞に、多様な濃度のβ‐ラパコンを30分前に処理した後、シスプラチンに対する細胞生存率をMTT方法により測定した。
【0092】
その結果、図9に示したところのように、β‐ラパコンの単独処理は、2μM濃度までHEI‐OC1細胞の生存率に影響を及ぼさず、β‐ラパコンがシスプラチン処理による細胞死を濃度依存的に保護することを確認することができた(p<0.05)。
【0093】
また、コルチ器官の体外移植片(explant)においてもシスプラチン処理時に外有毛細胞と内有毛細胞の形態と配列の変化が発見されたのに対し、β‐ラパコンをシスプラチンとともに処理した実験群では、聴覚有毛細胞の形態と配列が、対照群と類似に維持されることを確認した。
【0094】
〔実験例2‐4:炎症媒介分子の発現分析〕
シスプラチンによる聴力損傷に重要な因子として知られている炎症媒介分子の発現をPCR方法により確認してみた。多様な濃度のβ‐ラパコンを30分前に処理した後、シスプラチンによる炎症媒介分子の発現をPCR方法により測定した。
【0095】
その結果、図10に示したところのように、シスプラチンを処理したHEI‐OC1細胞では、TNF‐α、IL‐6及びHSP60といった炎症を誘発するサイトカインと、TLR2及びTLR4といった炎症媒介受容体の発現が増加すること確認し、これらもまたβ‐ラパコンの濃度依存的に抑制されることを確認した。
【0096】
一般的に、ミトコンドリアに存在しているHSP60は、細胞外部へ放出されると、TLR2やTLR4と結合しつつ強力な炎症反応を誘発するものと知られている。したがって、マウスやHEI‐OC1細胞におけるHSP60の量をELISA方法を通じて確認した結果、それぞれ図11及び図12に示したところのように、シスプラチンを処理したマウスやHEI‐OC1細胞では、HSP60の放出が顕著に増加した(p<0.05)。しかし、β‐ラパコンをともに処理してやったマウスやHEI‐OC1細胞では、β‐ラパコンの濃度依存的にHSP60の放出が減少した。
【0097】
また、細胞染色を通じてHSP60の位置変化を確認してみた結果、正常細胞(対照群)では、HSP60がほぼすべてミトコンドリアにおいて発現するのに対し、シスプラチンを処理した細胞では、HSP60が大部分細胞質において発現することを確認することができ、β‐ラパコンとシスプラチンをともに処理した細胞では、HSP60が正常細胞と同様にミトコンドリアのみにおいて発現することを確認することができた。
【0098】
次に、かかるHSP60が直接的にシスプラチンによる聴覚細胞の死に影響を及ぼすかを確認するために、HSP60抗体をシスプラチンとともに処理し、細胞生存率をMTT方法により測定した結果、図13に示したところのように、シスプラチンによるHEI‐OC1細胞の死がHSP60抗体の処理により抑制されることを確認した(p<0.05)。
【0099】
HMGB1は、HSP60とともに、TLRの活性とそれによる炎症反応に重要な媒介体として知られている。したがって、HMGB1の細胞外放出をELISA方法により確認してみた結果、図14に示したところのように、シスプラチンを処理したHEI‐OC1細胞では、過量のHMGB1が細胞外へ放出されることを確認することができ、これもまたβ‐ラパコンの濃度依存的に減少することを確認することができた(p<0.05)。
【0100】
したがって、β‐ラパコンは、様々な炎症反応媒体の発現を抑制することにより、シスプラチンによる聴覚有毛細胞の死や聴力損傷を保護するのに優れた効果があることを確認することができた。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1又は2で示される化合物、その薬剤学的に許容される塩、プロドラッグ(prodrug)、溶媒化物又は異性体を含む、難聴の治療又は予防のための組成物:
【化1】
【化2】
前記式において、
R1〜R6は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10ジアルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルキニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アシル、置換若しくは非置換されたC3‐C8シクロアルキル、置換若しくは非置換されたC3‐C8ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換されたC4‐C10アリール、置換若しくは非置換されたC4‐C10ヘテロアリール、及び置換若しくは非置換された‐(CH2)n‐アリールからなる群より選択され、若しくはこれらのうち2つの置換基が相互連結されてなる二重結合、又は置換若しくは非置換されたC3‐C6の環構造であってよく、前記環構造は、飽和構造又は部分的若しくは全体的不飽和構造であってよく、ここで、置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールからなる群より選択された一つ以上であってよく;
R7〜R10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10ジアルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルキニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アシル、置換若しくは非置換されたC3‐C8シクロアルキル、置換若しくは非置換されたC3‐C8ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換されたC4‐C10アリール、置換若しくは非置換されたC4‐C10ヘテロアリール、及び置換若しくは非置換された‐(CH2)n‐アリールからなる群より選択され、若しくはこれらのうち2つの置換基が相互連結されて置換若しくは非置換されたC3‐C6の環構造であってよく、前記環構造は、飽和構造又は部分的若しくは全体的不飽和構造であってよく、ここで、置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールからなる群より選択された一つ以上であってよく;
Xは、O、S又はNR’であり、ここで、R’は、水素又はC1‐C6アルキルであり;
Yは、C、S、N又はOであり、ここで、YがS又はOである場合、R5及びR6はいかなる置換基でもなく、YがNである場合、R5は、水素又はC1‐C6アルキルであり、R6は、いかなる置換基でもなく、
mは、0又は1であり、mが0である場合、その隣接炭素原子は、直接結合により環状構造を成し、
nは、0〜10の整数である。
【請求項2】
Xは、O又はSであり、
Yは、C又はOであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
R1〜R6は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、及び‐(CH2)n‐フェニルからなる群より選択され、若しくはR1及びR4若しくはR2及びR3が相互連結されてなる二重結合又はC4‐C6の環構造であってよく、ここで、置換基は、C1‐C10アルキルであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
R7〜R10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、及び置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
化合物が下記化学式1‐1若しくは2‐1で示される化合物、又は下記化学式1‐2若しくは2‐2で示される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物:
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
前記式において、R1〜R10、Y、及びmは、請求項1において定義されたとおりである。
【請求項6】
化合物が下記化学式1‐3又は2‐3で示される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物:
【化7】
【化8】
前記式において、R1〜R10、及びXは、請求項1において定義されたとおりである。
【請求項7】
化合物が下記化学式1‐4又は2‐4で示される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物:
【化9】
【化10】
前記式において、R1〜R10、X、及びYは、請求項1において定義されたとおりである。
【請求項8】
化合物が下記化学式1‐5若しくは1‐6で示される化合物、又は下記化学式2‐5若しくは2‐6で示される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物:
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
前記式において、
R1〜R10、X、Y、及びmは、請求項1において定義されたとおりであり、
R11〜R18は、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、又はC4‐C10ヘテロアリールである。
【請求項9】
R11〜R18は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C3‐C8シクロアルキル、又はフェニルであることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
R1及びR2は、C1‐C10アルキルであり、
R3〜R10は、水素であり、
Xは、Oであり、
Yは、Cであることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
難聴が老化による老人性難聴であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
難聴が耳毒性薬物による難聴であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
組成物が薬剤学的に許容される担体をともに含む薬剤学的組成物であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
組成物が食品学的に許容される担体をともに含む健康機能食品であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
下記化学式1又は2で示される化合物、その薬剤学的に許容される塩、プロドラッグ(prodrug)、溶媒化物又は異性体の、難聴の治療又は予防のための使用:
【化15】
【化16】
前記式において、
R1〜R6は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10ジアルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルキニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アシル、置換若しくは非置換されたC3‐C8シクロアルキル、置換若しくは非置換されたC3‐C8ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換されたC4‐C10アリール、置換若しくは非置換されたC4‐C10ヘテロアリール、及び置換若しくは非置換された‐(CH2)n‐アリールからなる群より選択され、若しくはこれらのうち2つの置換基が相互連結されてなる二重結合、又は置換若しくは非置換されたC3‐C6の環構造であってよく、前記環構造は、飽和構造又は部分的若しくは全体的不飽和構造であってよく、ここで、置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールからなる群より選択された一つ以上であってよく;
R7〜R10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10ジアルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルキニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アシル、置換若しくは非置換されたC3‐C8シクロアルキル、置換若しくは非置換されたC3‐C8ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換されたC4‐C10アリール、置換若しくは非置換されたC4‐C10ヘテロアリール、及び置換若しくは非置換された‐(CH2)n‐アリールからなる群より選択され、若しくはこれらのうち2つの置換基が相互連結されて置換若しくは非置換されたC3‐C6の環構造であってよく、前記環構造は、飽和構造又は部分的若しくは全体的不飽和構造であってよく、ここで、置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールからなる群より選択された一つ以上であってよく;
Xは、O、S又はNR’であり、ここで、R’は、水素又はC1‐C6アルキルであり;
Yは、C、S、N又はOであり、ここで、YがS又はOである場合、R5及びR6はいかなる置換基でもなく、YがNである場合、R5は、水素又はC1‐C6アルキルであり、R6は、いかなる置換基でもなく、
mは、0又は1であり、mが0である場合、その隣接炭素原子は、直接結合により環状構造を成し、
nは、0〜10の整数である。
【請求項1】
下記化学式1又は2で示される化合物、その薬剤学的に許容される塩、プロドラッグ(prodrug)、溶媒化物又は異性体を含む、難聴の治療又は予防のための組成物:
【化1】
【化2】
前記式において、
R1〜R6は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10ジアルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルキニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アシル、置換若しくは非置換されたC3‐C8シクロアルキル、置換若しくは非置換されたC3‐C8ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換されたC4‐C10アリール、置換若しくは非置換されたC4‐C10ヘテロアリール、及び置換若しくは非置換された‐(CH2)n‐アリールからなる群より選択され、若しくはこれらのうち2つの置換基が相互連結されてなる二重結合、又は置換若しくは非置換されたC3‐C6の環構造であってよく、前記環構造は、飽和構造又は部分的若しくは全体的不飽和構造であってよく、ここで、置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールからなる群より選択された一つ以上であってよく;
R7〜R10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10ジアルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルキニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アシル、置換若しくは非置換されたC3‐C8シクロアルキル、置換若しくは非置換されたC3‐C8ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換されたC4‐C10アリール、置換若しくは非置換されたC4‐C10ヘテロアリール、及び置換若しくは非置換された‐(CH2)n‐アリールからなる群より選択され、若しくはこれらのうち2つの置換基が相互連結されて置換若しくは非置換されたC3‐C6の環構造であってよく、前記環構造は、飽和構造又は部分的若しくは全体的不飽和構造であってよく、ここで、置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールからなる群より選択された一つ以上であってよく;
Xは、O、S又はNR’であり、ここで、R’は、水素又はC1‐C6アルキルであり;
Yは、C、S、N又はOであり、ここで、YがS又はOである場合、R5及びR6はいかなる置換基でもなく、YがNである場合、R5は、水素又はC1‐C6アルキルであり、R6は、いかなる置換基でもなく、
mは、0又は1であり、mが0である場合、その隣接炭素原子は、直接結合により環状構造を成し、
nは、0〜10の整数である。
【請求項2】
Xは、O又はSであり、
Yは、C又はOであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
R1〜R6は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、及び‐(CH2)n‐フェニルからなる群より選択され、若しくはR1及びR4若しくはR2及びR3が相互連結されてなる二重結合又はC4‐C6の環構造であってよく、ここで、置換基は、C1‐C10アルキルであることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
R7〜R10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、及び置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシからなる群より選択されることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
化合物が下記化学式1‐1若しくは2‐1で示される化合物、又は下記化学式1‐2若しくは2‐2で示される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物:
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
前記式において、R1〜R10、Y、及びmは、請求項1において定義されたとおりである。
【請求項6】
化合物が下記化学式1‐3又は2‐3で示される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物:
【化7】
【化8】
前記式において、R1〜R10、及びXは、請求項1において定義されたとおりである。
【請求項7】
化合物が下記化学式1‐4又は2‐4で示される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物:
【化9】
【化10】
前記式において、R1〜R10、X、及びYは、請求項1において定義されたとおりである。
【請求項8】
化合物が下記化学式1‐5若しくは1‐6で示される化合物、又は下記化学式2‐5若しくは2‐6で示される化合物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物:
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
前記式において、
R1〜R10、X、Y、及びmは、請求項1において定義されたとおりであり、
R11〜R18は、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、又はC4‐C10ヘテロアリールである。
【請求項9】
R11〜R18は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C3‐C8シクロアルキル、又はフェニルであることを特徴とする、請求項8に記載の組成物。
【請求項10】
R1及びR2は、C1‐C10アルキルであり、
R3〜R10は、水素であり、
Xは、Oであり、
Yは、Cであることを特徴とする、請求項7に記載の組成物。
【請求項11】
難聴が老化による老人性難聴であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項12】
難聴が耳毒性薬物による難聴であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項13】
組成物が薬剤学的に許容される担体をともに含む薬剤学的組成物であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
組成物が食品学的に許容される担体をともに含む健康機能食品であることを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
下記化学式1又は2で示される化合物、その薬剤学的に許容される塩、プロドラッグ(prodrug)、溶媒化物又は異性体の、難聴の治療又は予防のための使用:
【化15】
【化16】
前記式において、
R1〜R6は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10ジアルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルキニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アシル、置換若しくは非置換されたC3‐C8シクロアルキル、置換若しくは非置換されたC3‐C8ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換されたC4‐C10アリール、置換若しくは非置換されたC4‐C10ヘテロアリール、及び置換若しくは非置換された‐(CH2)n‐アリールからなる群より選択され、若しくはこれらのうち2つの置換基が相互連結されてなる二重結合、又は置換若しくは非置換されたC3‐C6の環構造であってよく、前記環構造は、飽和構造又は部分的若しくは全体的不飽和構造であってよく、ここで、置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールからなる群より選択された一つ以上であってよく;
R7〜R10は、それぞれ独立して、水素、ヒドロキシ、ハロゲン、アミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10ジアルキルアミノ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルキル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルケニル、置換若しくは非置換されたC2‐C10アルキニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシ、置換若しくは非置換されたC1‐C10アルコキシカルボニル、置換若しくは非置換されたC1‐C10アシル、置換若しくは非置換されたC3‐C8シクロアルキル、置換若しくは非置換されたC3‐C8ヘテロシクロアルキル、置換若しくは非置換されたC4‐C10アリール、置換若しくは非置換されたC4‐C10ヘテロアリール、及び置換若しくは非置換された‐(CH2)n‐アリールからなる群より選択され、若しくはこれらのうち2つの置換基が相互連結されて置換若しくは非置換されたC3‐C6の環構造であってよく、前記環構造は、飽和構造又は部分的若しくは全体的不飽和構造であってよく、ここで、置換基は、ヒドロキシ、ハロゲン、C1‐C10アルキル、C2‐C10アルケニル、C2‐C10アルキニル、C1‐C10アルコキシ、C1‐C10アルコキシカルボニル、C1‐C10アルキルアミノ、C3‐C8シクロアルキル、C3‐C8ヘテロシクロアルキル、C4‐C10アリール、及びC4‐C10ヘテロアリールからなる群より選択された一つ以上であってよく;
Xは、O、S又はNR’であり、ここで、R’は、水素又はC1‐C6アルキルであり;
Yは、C、S、N又はOであり、ここで、YがS又はOである場合、R5及びR6はいかなる置換基でもなく、YがNである場合、R5は、水素又はC1‐C6アルキルであり、R6は、いかなる置換基でもなく、
mは、0又は1であり、mが0である場合、その隣接炭素原子は、直接結合により環状構造を成し、
nは、0〜10の整数である。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2013−515765(P2013−515765A)
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−547005(P2012−547005)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【国際出願番号】PCT/KR2010/009369
【国際公開番号】WO2011/081383
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(512169855)ケイティー アンド ジー ライフ サイエンシズ コーポレイション (1)
【氏名又は名称原語表記】KT & G LIFE SCIENCES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】71,Beotkkot−gil,Daedeok−gu,Daejeon 306−712,Republic of Korea
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【国際出願番号】PCT/KR2010/009369
【国際公開番号】WO2011/081383
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(512169855)ケイティー アンド ジー ライフ サイエンシズ コーポレイション (1)
【氏名又は名称原語表記】KT & G LIFE SCIENCES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】71,Beotkkot−gil,Daedeok−gu,Daejeon 306−712,Republic of Korea
【Fターム(参考)】
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