説明

ナフトヒドロキノン化合物の水溶液の製造方法およびラジカル捕捉剤水溶液

【課題】着色成分の含有量が僅少であり、保存による着色劣化が軽減されたナフトヒドロキノン化合物の水溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】ナフトキノンを溶解し且つ水に実質的に不溶である有機溶媒にナフトキノンを溶解して得た溶液(A)と亜硫酸水素塩または炭酸水素塩の水溶液(B)とを混合する付加反応工程、ナフトヒドロキノン化合物含有水相を有機溶媒相から分離する分離工程、分離回収されたナフトヒドロキノン化合物の水溶液中に存在する溶剤を除去する脱溶剤工程を順次に含み、更に、付加反応工程より後の任意の位置においてナフトヒドロキノン化合物の水溶液を吸着剤で処理する脱色工程を含み、そして、付加反応工程、分離工程および脱溶剤工程における各溶液および水溶液における溶存酸素濃度を5ppm以下に維持し、且つ、前記の何れかの工程にて安定剤として酸化防止剤または還元剤を添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナフトヒドロキノン化合物の水溶液の製造方法およびラジカル捕捉剤水溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
重合性を有するモノマーの製造時、精製時、変性時、保存時、懸濁重合などの分散重合時の分散媒でのスケール防止など油水二相共存で処理する際、水相に溶解する、すなわち水溶性の重合禁止剤が使用される。
【0003】
本出願人は、先に、下記一般式(1)で表されるナフタレン誘導体(ナフトヒドロキノン化合物)を有効成分とするラジカル捕捉剤を提案した(特許文献1)。
【0004】
【化1】

(一般式(1)中、Xはスルホナート基またはカルボキシラート基を示し、Yは、水素原子、アルカリ金属または下記一般式(2)で表されるアンモニウム基を表す。)
【0005】
【化2】

(一般式(2)中、R、R、Rは、それぞれ、独立に、水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す。)
【0006】
上記のラジカル捕捉剤は、水溶性の重合禁止剤として好適であるが、改良すべき点として、ラジカル捕捉剤自身(ナフトヒドロキノン化合物自身)或いは使用対象物質が着色するという問題がある。
【0007】
ナフトヒドロキノン化合物、例えば、1,4−ナフトヒドロキノン−2−スルホン酸塩類水溶液の製造方法として、ナフトキノンを溶解し且つ水に実質的に不溶である有機溶媒にナフトキノンを溶解して得た溶液(A)と亜硫酸水素塩または炭酸水素塩の水溶液(B)とを混合することにより付加反応を行う方法がある(特許文献2)。
【0008】
しかしながら、上記の製造方法では、前記のラジカル捕捉剤自身(ナフトヒドロキノン化合物自身)或いは使用対象物質が着色するという問題を十分に解決することが出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2008−239599号公報
【特許文献2】特開昭52−68162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、着色成分の含有量が僅少であり、保存による着色劣化が軽減されたナフトヒドロキノン化合物の水溶液の製造方法を提供することにある。更に、本発明の他の目的は、新規なラジカル捕捉剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意検討を重ねた結果、次のような知見を得た。すなわち、前記の先行技術のラジカル捕捉剤自身(ナフトヒドロキノン化合物自身)或いは使用対象物質の着色は、製造時あるいは保管時に副生する微量の着色不純物によるものであり、この微量の着色不純物は、系内に存在する酸素の影響を受けて副生する。
【0012】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、その第1の要旨は、ナフトキノンを溶解し且つ水に実質的に不溶である有機溶媒にナフトキノンを溶解して得た溶液(A)と亜硫酸水素塩または炭酸水素塩の水溶液(B)とを混合する付加反応工程、ナフトヒドロキノン化合物含有水相を有機溶媒相から分離する分離工程、分離回収されたナフトヒドロキノン化合物の水溶液中に存在する溶剤を除去する脱溶剤工程を順次に含み、更に、付加反応工程より後の任意の位置においてナフトヒドロキノン化合物の水溶液を吸着剤で処理する脱色工程を含み、そして、付加反応工程、分離工程および脱溶剤工程における各溶液および水溶液における溶存酸素濃度を5ppm以下に維持し、且つ、前記の何れかの工程にて安定剤として酸化防止剤または還元剤を添加することを特徴とする、以下の一般式(1)で表されるナフトヒドロキノン化合物の水溶液の製造方法に存する。
【0013】
【化3】

(一般式(1)中、Xはスルホナート基またはカルボキシラート基を示し、Yは、水素原子、アルカリ金属または下記一般式(2)で表されるアンモニウム基を表す。)
【0014】
【化4】

(一般式(2)中、R、R、Rは、それぞれ、独立に、水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す。)
【0015】
本発明の第2の要旨は、前記の一般式(1)で表されるナフトヒドロキノン化合物を有効成分として含有するラジカル捕捉剤水溶液であって、その3000ppm水溶液における波長450〜700nmの間の光路長1cm当りの最大吸光度が0.10以下であることを特徴とするラジカル捕捉剤水溶液に存する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、着色の少ない、ナフトヒドロキノン化合物の水溶液の製造方法およびラジカル捕捉剤水溶液が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<ナフトヒドロキノン化合物の水溶液の製造方法>
先ず、本発明に係るナフトヒドロキノン化合物の水溶液の製造方法について説明する。
【0018】
本発明の製造方法は、ナフトキノンに亜硫酸水素塩または炭酸水素塩を付加反応させて以下の一般式(1)で表されるナフトヒドロキノン化合物を製造する方法である。
【0019】
【化5】

(一般式(1)中、Xはスルホナート基またはカルボキシラート基を示し、Yは、水素原子、アルカリ金属または以下の一般式(2)で表されるアンモニウム基を表す。)
【0020】
【化6】

(一般式(2)中、R、R、Rは、それぞれ、独立に、水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す。)
【0021】
一般式(1)において、OH基の置換位置は、1〜8位の何れか二つの位置が挙げられる。OH基の置換位置は、1位および4位の組み合わせが好ましい。一般式(1)において、XY基の置換位置は、1〜8位のうち、OH基の置換位置を除いた残余の位置から選ばれる。XY基の置換位置としては、2位が好ましい。
【0022】
一般式(2)のR、R、Rは、水素原子またはメチル基が好ましい。アンモニウム基における水素原子の合計は、2以上が好ましく、3が更に好ましい。また、アルカリ金属としては、カリウム又はナトリウムが好ましい。
【0023】
一般式(1)で表されるナフトヒドロキノン化合物のうち、特に好ましくは、下記一般式(3)で表されるナフトヒドロキノンスルホン酸およびその塩である。
【0024】
【化7】

【0025】
本発明の製造方法は、ナフトキノンを溶解し且つ水に実質的に不溶である有機溶媒にナフトキノンを溶解して得た溶液(A)と亜硫酸水素塩または炭酸水素塩の水溶液(B)とを混合することにより付加反応を行う付加反応工程、ナフトヒドロキノン化合物含有水相を有機溶媒相から分離する分離工程、分離されたナフトヒドロキノン化合物含有水相中に存在する溶剤を除去する脱溶剤工程を順次に含み、更に、付加反応工程より後の任意の位置に吸着剤で処理する脱色工程を含む。以下、各工程毎に説明する。
【0026】
(1)付加反応工程:
付加反応工程においては、ナフトキノンへのスルホナート基またはカルボキシラート基の付加反応を行う。基質としてナフトキノン、付加反応試薬として亜硫酸水素塩または炭酸水素塩を使用する。そして、有機溶媒と水の2液分散系で付加反応を行う。すなわち、ナフトキノンを溶解し且つ水に実質的に不溶である有機溶媒にナフトキノンを溶解して得た溶液(A)と亜硫酸水素塩または炭酸水素塩の水溶液(B)とを混合することにより付加反応を行う。
【0027】
ナフトキノンとしては、1,2−ナフトキノン、1,4−ナフトキノン、2,6−ナフトキノンが挙げられるが、ラジカル捕捉剤としての性能から1,4−ナフトキノンが好ましい。ナフトキノンの固形分純度は、通常90重量%以上、好ましくは95重量%以上、更に好ましくは97重量%以上である。純度がこの範囲未満だと着色の少ない目的物質は得られない。目的物質の着色(着色不純物の副生)を一層確実に防止するため、原料のナフトキノンの脱色・精製を行うことが出来る。脱色・精製には、後述する吸着剤などが使用される。
【0028】
亜硫酸水素塩としては、亜硫酸水素アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム等、炭酸水素塩としては、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等が挙げられる。これらの中では、亜硫酸水素塩が好ましく、亜硫酸水素アンモニウムが特に好ましい。
【0029】
前記の溶液(A)を調製する有機溶媒としては、反応に不活性でなければならないが、更に、1,4−ナフトキノンの50℃での溶解度が15g/100g溶剤以上であり、水への溶解度1g/100g水以下である溶剤が好ましい。斯かる観点から、芳香族系、脂肪族炭化水素系、高級アルコール系、エーテル系の溶媒が好適に使用される。水相にハロゲン化物を持ち込まず且つ反応に不活性という観点から、芳香族系溶媒が特に好ましい。芳香族系溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等が挙げられ、特にトルエン又はキシレンが好ましい。前記の溶液(A)中のナフトキノンの濃度は、使用する溶剤によっても異なるが、通常5〜55重量%、好ましくは10〜30重量%、更に好ましくは12〜25重量%である。
【0030】
前記の水溶液(B)を調製する水としては、着色原因となり得る遷移金属、ハロゲン等を含まないものが好ましく、特に脱イオン水が好ましい。ここで使用する水の量によりナフトヒドロキノン化合物の水溶液の濃度が決定されるが、ナフトヒドロキノン化合物の濃度が25〜35重量%の範囲になるように水の量を調節するのが好ましい。
【0031】
上記の有機溶媒/水の重量比は、通常0.5〜3、好ましくは0.8〜2.5、更に好ましくは1.5〜2である。また、ナフトキノンに対する亜硫酸水素塩または炭酸水素塩のモル比は、特に制限されず、通常1でよいが、ナフトヒドロキノン化合物の収率を高める観点から、1.0モル倍以上にすることが出来る。この場合、過剰の亜硫酸水素塩は後述する安定剤として作用する。なお、ナフトヒドロキノン化合物の収率を高める観点から過剰に使用されるナフトキノンに対する亜硫酸水素塩または炭酸水素塩のモル比の上限は2.0倍モルである。
【0032】
一般に、有機溶剤の使用量が少ない程、反応効率は上がり、溶剤の廃棄量は少なくなるが、製造工程での原料の析出によるロスを防ぐために高温で反応が必要となり、目的物の着色が強くなる可能性がある。一方、有機溶剤の使用量が多い程、反応効率が低下し、副反応が進行、廃溶剤量が増える等の弊害がある。
【0033】
また、水溶液(B)(水相)のpHは、生成した目的物の分解を抑制する観点から、通常7〜3、好ましくは6〜4、更に好ましくは5〜4とされる。なお、pHの下限は、取り扱いの観点から決定されたものである。
【0034】
反応の際、溶液(A)及び水溶液(B)の混合は、適当な攪拌機を使用して行われる。反応温度は、通常40〜90℃、好ましくは50℃〜80℃、更に好ましくは60〜80である。反応温度が40℃未満の場合は、副成した不溶成分が多く含まれる2液分散系となり、目的物の濃度が低くなる恐れがある。反応温度が90℃を超える場合は、ナフトキノンが熱変異し、着色不純物が副生する恐れがある。
【0035】
反応時間は、通常2〜8時間、好ましくは3〜6時間、更に好ましくは3〜4時間である。反応時間が短すぎる場合は、十分な転換率に達しきれずに不溶分が多く、目的物の少ない水溶液となり、反応時間が長すぎる場合は、熱履歴の影響により着色不純物が副生する恐れがある。反応は一般に常圧で行われるが、加圧、減圧でも差し支えない。
【0036】
付加反応工程の雰囲気は、酸素濃度の低い不活性ガス雰囲気が好ましい。斯かる不活性ガスとしては、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオン、二酸化炭素が挙げられ、特に窒素が好ましい。
【0037】
(2)分離工程:
分離工程においては、ナフトヒドロキノン化合物含有水相を有機溶媒相から分離する。分離手段としては、既存の回分式の分液漏斗や連続液−液抽出装置(ミキサセトラ、パルスカラム、遠心抽出器など)一般の液液分離装置を使用することが出来る。分離工程の雰囲気は、付加反応工程と同様の雰囲気が好ましい。
【0038】
(3)脱溶剤工程:
脱溶剤工程においては、分離回収されたナフトヒドロキノン化合物の水溶液中に存在する溶剤を除去する。溶剤の除去は、共沸による減圧溜去や常圧溜去の他、活性炭などによる吸着除去が挙げられる。
【0039】
共沸による溶剤の除去の場合、処理温度は溶剤と水の共沸が起きる範囲であることが条件であり、溶剤の種類と減圧度によってその範囲は異なるが、通常50〜100℃、好ましくは50〜80℃、更に好ましくは約60℃である。上記の範囲未満の温度では共沸が起きず、上記の範囲超の温度では熱履歴の影響により着色不純物が副生する恐れがある。また、この場合、処理時間は、通常2時間以下、好ましくは1時間以下である。この範囲以上の時間では熱履歴の影響により着色不純物が副生する恐れがある。なお、吸着剤による溶剤の除去の場合は室温で行うことが出来る。脱溶剤工程の雰囲気は、付加反応工程と同様の雰囲気が好ましい。
【0040】
(4)脱色工程:
脱色工程においては、ナフトヒドロキノン化合物の水溶液を吸着剤で処理する。脱色工程は、付加反応工程より後の任意の位置に設けることが出来るが、通常は分離工程の前後に設けられる。また、他の工程、例えば、分離工程と併せて行うことも出来る。
【0041】
吸着剤としては固体の多孔質吸着剤が好ましい。斯かる吸着剤としては、二酸化珪素、活性炭、活性炭素繊維などの炭素製品、アルミナ、有機質系合成ポリマー粒子、例えば、いわゆる有機合成吸着剤であるスチレン−ジビニルベンゼン共重合体などが挙げられる。その他、ポリテトラフルオロエチレンの水性エマルジョン加工品(特開昭53−92981号公報参照)が挙げられる。
【0042】
多孔質吸着剤の細孔径は、通常5オングストローム以上、好ましくは10オングストローム以上であり、1グラム当たりの比表面積は、二酸化珪素および合成ポリマーの粒子では50〜1000平方メートル、炭素製品では1000〜2000平方メートルである。多孔質吸着剤の形状は、任意であり、ペレット状、球状などが挙げられる。破砕品、造粒品、顆粒品、粉体品の何れも適用できる。特に、活性炭は、安価で工業的に安定して入手し易く、その脱色効果も他の吸着剤に比べ高い。
【0043】
活性炭の種類としては、その原料から、石炭系(泥炭、亜炭、かつ炭、瀝青炭など)、木質炭(ヤシ殻、木材、おが屑)、その他(石油ピッチ、合成樹脂、各種有機灰など)に大別される。目的とするナフトヒドロキノン化合物の水溶液中に金属イオン(例えばFe、Zn等)が溶出しない活性炭が好ましく、特に、植物由来原料のもので水蒸気賦活された活性炭が好ましい。
【0044】
吸着剤で処理する際、ナフトヒドロキノン化合物の水溶液のpHは、微量の着色不純物の副生反応を抑制する観点から、通常7〜3、好ましくは6〜4、更に好ましくは5〜4とされる。なお、pHの下限は、取り扱いの観点から決定されたものである。なお、斯かるpH調節は例えば希硫酸の添加によって容易に行うことが出来る。また、処理温度は、通常10〜50℃、好ましくは20〜40℃、更に好ましくは20℃〜30℃である。この範囲未満の温度では吸着効果が低く、この範囲超の温度では熱履歴の影響により着色不純物が副生する恐れがある。処理時間は、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上である。この範囲未満の処理時間では着色成分の吸着が十分に行われないことがある。
【0045】
本発明の製造方法においては、前記の付加反応工程、分離工程および脱溶剤工程における各溶液および水溶液における溶存酸素濃度を5ppm以下に維持することが重要である。すなわち、付加反応工程および分離工程における有機溶媒相と水相ならびに脱溶剤工程における水相(ナフトヒドロキノン化合物の水溶液)の溶存酸素濃度を5ppm以下に維持する。維持する溶存酸素濃度は、好ましくは3ppm以下、更に好ましくは1ppm以下である。斯かる溶存酸素濃度は、各工程における前述の雰囲気条件によって調節することが出来る。溶存酸素濃度の測定は、例えば、飯島電子工業株式会社製「DOメーターB-506」を使用して容易に行うことが出来る。なお、前記の各工程における存酸素素濃度を実質的にゼロとすることは困難であるが、斯かる不可避的に存在する極微量の溶存酸素による影響(微量の着色不純物の副生)は、前述のように脱色工程においてpH調節を行うことにより、すなわち、加反応工程以降の工程における液性を酸性サイドに維持することにより、効果的に抑制することが出来る。
【0046】
また、本発明の製造方法においては、前記の何れかの工程にて安定剤として酸化防止剤または還元剤を添加することが重要である。酸化防止剤または還元剤は、着色不純物の副生を抑制して着色を防止する作用を有する。
【0047】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)、アミン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、リン系酸化防止剤などが挙げられる。
【0048】
フェノール系酸化防止剤(ヒンダードフェノール系酸化防止剤を含む)としては、例えば、ブチル化ヒドロキシアニソール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノール、ステアリル−β−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[1,1−ジメチル−2−[β−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]エチル]2,4,8,10−テトライキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、テトラキス[メチレン−3−(3’,5’−ジ−tert−ブチル−4’−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン等が挙げられる。
【0049】
アミン系酸化防止剤としては、例えば、フェニル−β−ナフチルアミン、α−ナフチルアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、フェノチアジン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、2,6−ジ−tert−ブチルフェノール、2,4−ジメチル−6−tert−ブチル−フェノール、ブチルヒドロキシアニソール、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ブチリデンビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、テトラキス[メチレン−3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ジヒドロキフェニル)プロピオネート]メタン、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン等が挙げられる。
【0050】
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、ジラウリル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネート、ラウリルステアリルチオジプロピオネート、ジミリスチル3,3’−チオジプロピオネート、ジステアリルβ,β’−チオジプロピオネート、2−メルカプトベンゾイミダゾール、ジラウリルサルファイド等が挙げられる。
【0051】
リン系酸化防止剤としては、トリフェニルフォスファイト、オクタデシルフォスファイト、トリイソデシルフォスファイト、トリラウリルトリチオフォスファイト、トリノニルフェニルフォスファイト等が挙げられる。
【0052】
また、還元剤としては、還元性無機酸塩、還元性有機化合物、還元金属、ヒトラジン化合物などが挙げられる。還元性無機酸塩としては、亜ジチオン酸塩、亜硫酸水素塩、亜硫酸塩が挙げられ、亜ジチオン酸塩としては、亜ジチオン酸ナトリウム(次亜硫酸ナトリウムあるいはハイドロサルファイトとも称す)、亜硫酸水素塩としては、亜硫酸水素アンモニウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸水素カリウム等が挙げられ、亜硫酸塩としては、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム等が挙げられ、還元性有機化合物としては、アスコルビン酸類、多価フェノール類、カテキン類などが挙げられる。アスコルビン酸類としては、アスコルビン酸、アラボアスコルビン酸及びそれらの塩類(ナトリウム塩、カリウム塩など)等が挙げられ、それらの混合物も使用することが出来る。多価フェノール類としては、ピロガロール、カテコール、沒食子酸、レゾルシン、ヒドロキノン等が挙げられ、それらの混合物も使用できる。カテキン類としては、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、エピガロカテキンガレート等が挙げられ、それらの混合物も使用し得る。これらの還元性有機化合物の中でも、アスコルビン酸類及びカテキン類、特にアスコルビン酸及びアラボアスコルビン酸が好ましい。また、還元金属としては還元鉄が挙げられる。
【0053】
上記の安定剤の中では、還元剤が好ましく、特に還元性無機酸塩が好ましく、亜ジチオン酸塩および亜硫酸水素塩が最も好ましい。
【0054】
安定剤の添加量は、本発明のナフトヒドロキノン化合物1モルに対し、通常0.005〜0.20モル、好ましくは0.07〜0.15モル、更に好ましくは0.01〜0.12モルである。この範囲未満では着色防止効果が不十分であり、この範囲を超えて添加しても更なる効果は得られない。
【0055】
添加時期は、問題となる程の着色が生じる工程以前であれば、任意の工程を選択し得るが、通常は、最初の工程である付加反応工程である。すなわち、付加反応に影響を与えない安定剤の存在下に付加反応工程を行うのが好ましい。この場合、付加反応試薬として使用する亜硫酸水素塩を安定剤として使用することが出来る。すなわち、付加反応において過剰に使用した硫酸水素塩は安定剤として作用する。
【0056】
上記の製造方法で得られたナフトヒドロキノン化合物の水溶液は、使用するまでは所定の容器に充填して保存される。保存容器としては、空気を遮断し得る限り、その種類は制限されず、例えば、ポリエチレン製の容器などを使用し得る。また、ガラス、ステンレススチール製の容器も好適である。充填に際しては、予め、容器の内部を不活性ガスで置換するのが好ましい。充填操作は不活性ガス雰囲気で行うのが好ましい。更に、充填後、容器の空隙部(ヘッドスペース)の脱気または不活性ガス置換を行うのが好ましい。
【0057】
<ラジカル捕捉剤水溶液>
次に、本発明のラジカル捕捉剤水溶液について説明する。
【0058】
本発明のラジカル捕捉剤水溶液は、前記の一般式(1)で表されるナフトヒドロキノン化合物を有効成分として含有するラジカル捕捉剤水溶液であって、その3000ppm(重量基準)水溶液における波長450〜700nmの間の光路長1cm当りの最大吸光度が0.10以下であることを特徴とする。最大吸光度は、好ましくは0.08以下、更に好ましくは0.06以下である。本発明のラジカル捕捉剤水溶液は、前述の製造方法によって得られたナフトヒドロキノン化合物の水溶液を利用したものである。
【0059】
本発明のラジカル捕捉剤水溶液においては、例えば、紫外線などの光に対する安定性を改良するため、紫外線吸水剤や光安定剤を添加することも可能である。紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、サリチレート系紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0060】
ベンゾフェノン系紫外線吸収剤としては、例えば、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−ドデシルオキシベンゾフェノン、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0061】
ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤としては、例えば、2−(2’−ヒドロキシ−5−tert−オクチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−4’−オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−tert−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0062】
サリチレート系紫外線吸収剤としては、例えば、フェニルサリチレート、p−tert−ブチルフェニルサリチレート、p−オクチルフェニルサリチレート等が挙げられる。
【0063】
本発明のラジカル捕捉剤水溶液は、例えば、重合禁止剤として好適に使用することが出来る。適用し得るモノマーは、ラジカル重合性を有し、好ましくはエチレン性不飽和モノマーであり、分子内にラジカル重合性を有するエチレン性二重結合を有する化合物であれば特に限定されない。斯かるエチレン性不飽和モノマーとしては、アクリル酸、メタクリル酸などの不飽和カルボン酸;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、アクリル酸オクチル、アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸ブチル等の(メタ)アクリル酸エステルや酢酸ビニル等の不飽和カルボン酸エステル類;アクリロニトリル、アクリルアミドのようなアクリル化合物;スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルベンゼン等の芳香族ビニル化合物;塩化ビニル、塩化ビニリデンのような置換エチレン化合物などが挙げられる。
【0064】
本発明のラジカル捕捉剤水溶液は、他のラジカル捕捉剤あるいは重合禁止剤と併用することが出来る。他のラジカル捕捉剤あるいは重合禁止剤としては、例えば、チオエーテル系化合物、アミン系化合物、ニトロソ化合物の群から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。なお、窒素含有化合物は重合禁止剤として作用する。
【0065】
チオエーテル系化合物としては、例えば、フェノチアジン、ジステアリルチオジプロピオネート等が挙げられる。
【0066】
アミン系化合物としては、例えば、p−フェニレンジアミン、4−アミノジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N−i−プロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、ジフェニルアミン、N−フェニル−β−ナフチルアミン、4,4’−ジクミル−ジフェニルアミン、4,4’−ジオクチル−ジフェニルアミン等が挙げられる。
【0067】
ニトロソ化合物としては、例えば、N−ニトロソジフェニルアミン、N−ニトロソフェニルナフチルアミン、N−ニトロソジナフチルアミン、p−ニトロソフェノール、ニトロソベンゼン、p−ニトロソジフェニルアミン、α−ニトロソ−β−ナフトール等が挙げられる。
【0068】
さらに、前述した以外の窒素含有化合物としては、例えば、ピペリジン−1−オキシル、ピロリジン−1−オキシル,2,2,6,6−テトラメチル−4−オキソピペリジン−1−オキシル、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル等のニトロキシドが挙げられる。なお、これらの窒素含有化合物はラジカル捕捉剤として作用する。
【0069】
また、他の重合禁止剤としては、ヒドロキシ芳香族類、例えば、フェノール化合物、ヒドロキノン化合物、キノン化合物の群から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。このような化合物としては、例えば、ヒドロキノン、p−メトキシフェノール、クレゾール、t−ブチルカテコール、3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシトルエン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0070】
また、他の重合禁止剤としては、遷移金属塩、例えば、銅塩化合物、マンガン塩化合物が挙げられる。このような化合物としては、例えば、ジアルキルジチオカルバミン酸銅(アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基の何れかであり、同一であっても、異なっていてもよい)、酢酸銅、サリチル酸銅、チオシアン酸銅、硝酸銅、塩化銅、炭酸銅、水酸化銅、アクリル酸銅などの銅塩;ジアルキルジチオカルバミン酸マンガン(アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基の何れかであり、同一であっても、異なっていてもよい)、ジフェニルジチオカルバミン酸マンガン、蟻酸マンガン、酢酸マンガン、オクタン酸マンガン、ナフテン酸マンガン、過マンガン酸マンガン、エチレンジアミン四酢酸のマンガン塩などが挙げられる。
【0071】
本発明のラジカル捕捉剤水溶液の使用量(有効成分としての量)は、重合禁止剤として使用する場合、モノマーに対し、通常1〜5000重量ppm、好ましくは5〜1000重量ppm、更に好ましくは10〜500重量ppmである。
【0072】
特に、本発明のラジカル捕捉剤水溶液は実質的に酸素不存在下でも効果を発揮する。ここで、実質的に酸素不存在下とは、窒素、ヘリウム、アルゴン、炭酸ガス等の不活性ガスで反応系内や容器内を置換することにより、反応系内や容器の空間部の酸素濃度が充分に低下した条件をいい、例えば、反応系内や容器の空間部の酸素濃度が通常1vol%以下、好ましくは0.1vol%以下のような条件をいう。より具体的には、エチレン性不飽和モノマー中の溶存酸素濃度が通常1ppm以下、好ましくは0.5ppm以下、更に好ましくは0.1ppm以下の条件をいう。
【0073】
本発明のラジカル捕捉剤水溶液を重合禁止剤として使用した際の作用機構は、重合開始反応あるいは成長反応の際、生成するラジカルを消去、安定化することにより重合反応を防止、抑制するものと考えられる。ラジカルはフリーラジカル又は遊離基とも呼ばれ、本発明で捕捉対象とするラジカルは、電気的に中性、陰性、陽性の何れであってもよい。
【0074】
ところで、代表的な重合禁止剤である、ヒドロキノン、p−メトキシフェノール等のヒドロキノン化合物は分子状酸素の存在下でのみの重合禁止効果を発現することはよく知れており、重合禁止機構も詳しく検討されており、以下の3点が判明している(J.J.Kurland,JournalofPolymerScience,PolymerChemistry,18,1139-1145(1980)あるいは、L.B.Levy,Plant/OperationsProgress,6,4,188-189(1987))。
【0075】
(1)分子状酸素が活性ラジカルに直接反応する重合禁止剤である。
(2)ヒドロキノン化合物は活性ラジカルに直接反応しない。
(3)ヒドロキノン化合物は酸素の重合禁止作用を補助している。
【0076】
一方、本発明のラジカル捕捉剤は、ヒドロキノン化合物とは作用機構が全く異なり、酸素不在下で且つ少量で十分な効果を発現することから以下2点が考えられる。
【0077】
(1)本発明のラジカル捕捉剤は活性ラジカルに直接反応している。
(2)本発明のラジカル捕捉剤はリサイクル的、触媒的に作用する。
【0078】
このような作用を有する本発明のラジカル捕捉剤は、上記の通り重合禁止剤として使用される他、使用する場面ごとに、重合防止剤、重合抑制剤、重合遅延剤、連鎖移動剤、スケール防止剤、汚れ防止剤などとも呼ばれ、これら用途ごとの名称に拘わらず、ラジカルを補足したり、特にモノマーの重合を禁止したり、抑止したり、遅延したりする等、ラジカル反応、特に重合を抑制的に制御する薬剤と定義することが出来る。
【0079】
本発明のラジカル捕捉剤が使用される用途に関しては、具体的には、例えば、モノマーの合成、変成、精製、蒸留、貯蔵、保管、移送、噴霧、塗布、重合、廃棄などのモノマーの製造、取り扱いに関わるすべてのプロセスに使用することが出来る。また何らかの原因で暴走的に発生した異常重合など、緊急時の暴走反応防止のための薬剤いわゆるショートストッパーとして使用することも出来る。
【0080】
更に、モノマーの製造、取り扱いに関わる全てのプロセスにて生じる、装置への付着物、析出物、所謂スケールを防止するために本発明の重合禁止剤を単独または、他の薬剤と混合、あるいは変性したものを装置へ塗布することにより供することも可能である。斯かる用途に関する詳細は、例えば、「水溶性高分子の新展開」((株)シーエムシー出版、2004年5月)を参照することが出来る。
【0081】
また、本発明のラジカル捕捉剤をポリマーにグラフトさせ、ポリマー自体を重合禁止剤に変性させ、塗布したり、成型加工し、利用することも可能である。斯かる用途に関する詳細は、例えば、「P.Yang,JournalofPolymerSciencePartA,42.4047(2004)」を参照することが出来る。
【0082】
また、上記のラジカルを消去したり、安定化する作用機構を利用することにより、重合に際し、重合開始剤、光開始剤、増感剤、連鎖移動剤と共に利用でき、これらの薬剤と組み合わせることにより、合成するポリマーの分子量を制御したり、共重合の際のシークエンスを制御したり、ブロックポリマー、グラフトポリマー、デンドリマーを合成することも可能である。
【0083】
その際の重合様態としては、塊状、溶液、乳化(コロイド、エマルション、ラテックスとも呼ばれる)、分散、懸濁、気相、固相の状態の何れであってもよい。また、特に、接着剤、粘着剤、塗料、コーティング材などの用途では、様態として、一液型だけでなく多液型で硬化や重合して使用される態様もあり、それらの液に添加して使用することも出来る。重合に際し、熱分解型、光分解型などの開始剤を添加するか又は添加せずに、熱、紫外線、電子線、マイクロ波などの電離線照射、機械的エネルギーを与えて重合させることが一般的である。これらの重合様態において重合用の重合性モノマー組成物の保存安定性を改良する目的で本発明のラジカル捕捉剤を使用することも出来る。
【0084】
上記のすべて使用様態において本発明の添加対象物として以下を挙げることが出来る。
【0085】
モノマー組成物として、接着剤、粘着剤、レジスト、封止材、塗料、コーティング、歯科材料、医用材料などに使用されるモノマー組成物が挙げられる。ポリマー組成物として、ポリマー同士やポリマーとオリゴマーとのポリマーアロイ、ポリマーブレンド、ポリマーとモノマーのシラップ、ポリマーを水、有機溶媒などに溶解、分散させたポリマー溶液、ポリマー分散液、ポリマー乳化液などが挙げられる。複合体(コンポジット)として、ポリマーと無機物質(セラミックス、ガラス等)、金属、あるいは有機物質との複合体が挙げられる。更に、他の物質と反応させて、それら化合物にラジカル捕捉剤能を付与することが出来る。対象物質として、金属、ポリマー、オリゴマー、モノマー等有機物質、セラミックス、紙、布、毛皮などの天然物などが挙げられる。
【0086】
更に、本発明のラジカル捕捉剤は、上記のラジカルを消去したり、安定化する作用機構を利用することにより、制御できる重合以外の各種反応、すなわち、酸化、老化、腐敗、燃焼、生体反応など、ラジカルの関与する全ての反応にも使用することも出来る。例えば、ポリマーや他の化学薬剤などの酸化防止剤、保存安定剤、老化防止剤、増粘防止剤として使用することも出来る他、燃焼反応の抑制、防止、生体内で発生する有害ラジカルの捕捉、消去(例えば特開平5−213764公報)、ラジカルに起因する癌、梗塞などの疾病や老化(例えば“OxidativeStressinDermatology”、323ページ以降における論文“SkinDiseasesAssociatedwithOxidativeIrjury”(MarcelDeckerInc.、ニューヨーク、バーゼル、香港、発行者:JuergenFuchs、フランクフルトおよびLesterPacker、バークレー/カリフォルニア州))の予防効果も期待できる。
【0087】
本発明のラジカル捕捉剤は、水溶性で且つトルエン等の疎水性有機溶剤に事実上不溶であるという特徴も有する。ここで、水溶性とは常温の蒸留水に100gに対して10g以上溶解することを意味する。また、ここで、疎水性有機溶剤とは蒸留水への溶解度が1.0重量%以下の有機溶剤を示す。該当する疎水性有機溶剤は文献(「溶剤ハンドブック」講談社サイエンティフィック(1976)等)で容易に知ることが出来る。
【0088】
本発明のラジカル捕捉剤は、その水溶性である特徴を利用し、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸塩などの水溶性のモノマーや薬剤への利用に好都合である。一方、油溶性のモノマー薬剤の場合でも、乳化、分散、懸濁状態で水系連続相に使用することが出来る。また、本発明のラジカル捕捉剤は疎水性有機溶剤に事実上不溶であるため、組成物や複合体に添加した場合、疎水性有機溶剤によるブリードアウトし難いという特徴も有する。水溶性で且つトルエン等の疎水性有機溶剤に事実上不溶であるという特徴から、微量に疎水性有機溶剤に溶解した本発明のラジカル捕捉剤は、水により効率よく抽出できるという特徴も有する。
【実施例】
【0089】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の諸例で使用した測定方法および評価方法は次の通りである。
【0090】
<成分分析>
得られた、本発明のナフトヒドロキノン化合物を測定溶媒にて所定濃度に希釈し、以下の機器、条件にて成分分析を行った。
【0091】
[表1]
(イオンクロマトグラフ DIONEX製)
検出器・ポンプ:IC20
Eluent Genereator:EG40
Chromatography Oven:LC25
記録計:DELL Optiplex GX1
分離カラム:DIONEX製 IonPac AS15、4mmΦ×250mm
ガードカラム:DIONEX製 IonPac AG15、4mmΦ×50mm
サプレッサー:ASRS−ULTRA 4−mm 100mA
測定条件:測定溶媒43mmol/L水酸化カリウム水溶液、流速1.2L/min、 恒温槽35℃
【0092】
<pH測定>
横河電機株式会社製pHメーターを使用して行った。
【0093】
<溶存酸素濃度の測定>
飯島電子工業株式会社製「DOメーターB-506」を使用して行った。
【0094】
<色相試験>
脱イオン水を使用して本発明のラジカル補足剤の3000ppm水溶液を調製する。光路長1cmの石英ガラスセルを使用し、分光光度計UV−2200(島津製作所製)にて450〜700nmの吸光度を測定し、その間の最大の吸光度とその波長を求めた。
【0095】
<使用条件色相試験>
ラジカル捕捉剤あるいは重合禁止剤としての使用条件に準じた条件にて、履歴による着色の程度を評価する。すなわち、脱イオン水を使用して50mLの3000ppmラジカル補足剤水溶液を調製する。100mLガラス製のフラスコに仕込み、調製したラジカル補足剤水溶液を所定溶存酸素濃度、所定pHの下で所定の安定剤を加えて、攪拌しながら、70℃、3時間保持する。保持後の水溶液を光路長1cmの石英ガラスセルを使用して、分光光度計UV−2200(株式会社島津製作所製)にて450〜700nmの吸光度を測定し、その間の最大の吸光度とその波長を求める。なお、所定のpHに調節するために、酸性側へは希硫酸(和光純薬工業株式会社製の試薬特級硫酸をイオン交換水で10重量%に調節したもの)、塩基性側へはアンモニア水(和光純薬工業株式会社製の薬特級28〜30重量%)の適宜少量使用する。
【0096】
<保存試験>
ラジカル補足剤の30重量%水溶液5Lを5Lの低密度ポリエチレン製のびん(本体、ふた、中ふたとも低密度ポリエチレン製)に仕込み、密栓をして、6ヶ月間、25℃の恒温室に保管後、上記の色相試験を実施する。
【0097】
<誘導期間の測定>
200重量ppmp−メトキシフェノール含有の市販のアクリル酸(和光純薬工業株式会社製の試薬特級)を再結晶操作3回実施し、p−メトキシフェノールを除去した。このアクリル酸4gをガラス製の20mL試験管に入れ、さらに、アクリル酸に対して所定量のラジカル補足剤を添加し、熱電対を液中に挿入し、ガラス製のキャピラリー管にて1ppm以下の溶存酸素濃度になるまで窒素10mL/分の流量でバブリング通気し、密封した。107℃に加熱したオイルバスに試験管を浸漬させ、内温を100℃に制御して、重合発熱による発泡するまでの時間を測定した。ラジカル補足能、重合禁止能の評価する試験であり、この期間が長いほど重合禁止能が大きいといえる。
【0098】
実施例1:
[(1)付加反応工程]
基質の1,4−ナフトキノン(川崎化成工業株式会社製、純度95.5重量%)16.5g(0.10mol)に有機溶剤としてトルエン(和光純薬工業株式会社製:試薬特級)87gを加え、50℃に加熱・溶解し、植物系粉体活性炭(日本ノリット株式会社製「SAI−11」50重量%ウェット品)1gを添加し、30分撹拌後、窒素雰囲気下にて活性炭を濾過し、溶液(A)を調製した。
【0099】
一方、イオン交換水に亜硫酸水素アンモニウム水溶液(大東化学株式会社製メタ重亜硫酸アンモンを溶解し、NHHSO換算濃度70重量%の水溶液(B)を調製した。
【0100】
次いで、4つ口フラスコに、付加反応試薬として水溶液(B)14.6g(0.10mol)及び安定剤として水液(B)1.6g(0.011mol)をイオン交換水40gで希釈して加えた。そして、常温で窒素雰囲気下、500rpmで30分撹拌し、一旦、攪拌を止め、静置分離して水相と油相の溶存酸素濃度を溶存酸素濃度計(飯島電子工業株式会社製「DOメーターB−506」)で測定した。
【0101】
その後、上記の4つ口フラスコを60℃バスで加温しつつ、窒素雰囲気下、500rpmで撹拌しつつ、上記の溶液(A)200mlを10分掛けて添加し、全量添加後、4時間に亘って同一条件を保持し、反応を完結させた。その後、25℃まで放冷した。
【0102】
[(2)分離工程・(3)脱色工程]
窒素雰囲気下のまま、反応液にpH調節液として希硫酸(和光純薬工業株式会社製の試薬特級硫酸をイオン交換水で10重量%に調節したもの)1g添加後、植物系粉体活性炭(日本ノリット株式会社製「SAI−11」50重量%ウェット品)1gを添加し、室温にて1時間撹拌を行った。その後、静置分離して水相と油相の各相の溶存酸素濃度を前記の溶存酸素濃度計で測定した。その後、窒素雰囲気下のまま、吸引濾過し、活性炭を除去した。濾液を分液ロートに注ぎ、静置して水相のみを採取し、ナフトヒドロキノン化合物の水溶液67gが得られた。
【0103】
[(4)脱溶剤工程]
上記で得られた水溶液を窒素雰囲気下にて200mlのナス型フラスコに移し、水溶液中の溶存酸素濃度を前記の溶存酸素濃度計で測定した。その後、60℃のバスで加熱し、減圧下(10Torr)で脱溶剤処理し、約3g溜去させた。得られた水溶液の収量を測定すると共に、前記の各測定および評価を行い、その結果を表2に記載した。
【0104】
実施例2:
実施例1において、付加反応工程で安定剤としてNHHSO換算濃度70重量%の亜硫酸水素アンモニウム水溶液1.6g(0.011mol)の代わりに11g(0.078mol)添加した以外は、実施例1と同様に合成し、各測定および評価を行い、その結果を表2に記載した。
【0105】
実施例3:
実施例1において、付加反応工程で安定剤としてNHHSO換算濃度70重量%の亜硫酸水素アンモニウム水溶液1.6g(0.011mol)の代わりに0.28g(0.002mol)添加した以外は、実施例1と同様に合成し、各測定および評価を行い、その結果を表2に記載した。
【0106】
実施例4:
実施例1において、安定剤としてNHHSO換算濃度70重量%の亜硫酸水素アンモニウム水溶液1.6g(0.011mol)を付加反応工程で添加する代わりに脱溶剤処理後に添加した以外は、実施例1と同様に合成し、各測定および評価を行い、その結果を表2に記載した。
【0107】
実施例5:
実施例4において、脱溶剤処理後に安定剤としてNHHSO換算濃度70重量%の亜硫酸水素アンモニウム水溶液1.6g(0.011mol)を添加する代わりに亜ジチオン酸ナトリウム0.96g(0.056mol)を添加した以外は、実施例4と同様に合成し、各測定および評価を行い、その結果を表2に記載した。
【0108】
比較例1:
実施例1において、安定剤としてNHHSO換算濃度70重量%の亜硫酸水素アンモニウム水溶液1.6g(0.011mol)添加しなかった以外は、実施例1と同様に合成し、各測定および評価を行い、その結果を表2に記載した。
【0109】
比較例2:
開放系の装置を使用し、大気雰囲気で各操作を行うことにより、工程酸素濃度を表2に記載したように調節した以外は、実施例1と同様に操作した。分析試験結果、工程溶存酸素濃度を表2に記載した。
【0110】
試験例1〜11:
実施例1〜5で合成したラジカル捕捉剤水溶液について所定条件での使用条件着色試験を実施し、条件および結果を表3に記載した。
【0111】
比較例1〜2:
実施例1〜5で合成したラジカル捕捉剤水溶液について保存試験および誘導期間の測定を実施し、結果を表4に記載した。
【0112】
【表2】

【0113】
【表3】

【0114】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナフトキノンを溶解し且つ水に実質的に不溶である有機溶媒にナフトキノンを溶解して得た溶液(A)と亜硫酸水素塩または炭酸水素塩の水溶液(B)とを混合する付加反応工程、ナフトヒドロキノン化合物含有水相を有機溶媒相から分離する分離工程、分離回収されたナフトヒドロキノン化合物の水溶液中に存在する溶剤を除去する脱溶剤工程を順次に含み、更に、付加反応工程より後の任意の位置においてナフトヒドロキノン化合物の水溶液を吸着剤で処理する脱色工程を含み、そして、付加反応工程、分離工程および脱溶剤工程における各溶液および水溶液における溶存酸素濃度を5ppm以下に維持し、且つ、前記の何れかの工程にて安定剤として酸化防止剤または還元剤を添加することを特徴とする、以下の一般式(1)で表されるナフトヒドロキノン化合物の水溶液の製造方法。
【化1】

(一般式(1)中、Xはスルホナート基またはカルボキシラート基を示し、Yは、水素原子、アルカリ金属または以下の一般式(2)で表されるアンモニウム基を表す。)
【化2】

(一般式(2)中、R、R、Rは、それぞれ、独立に、水素原子、アルキル基またはヒドロキシアルキル基を表す。)
【請求項2】
安定剤として還元性無機酸塩の存在下に反応を行う請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
還元性無機酸塩が亜硫酸水素塩である請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
水溶液(BそのpHを7以下に維持する請求項1〜3の何れかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記の一般式(1)で表されるナフトヒドロキノン化合物を有効成分として含有するラジカル捕捉剤水溶液であって、その3000ppm水溶液における波長450〜700nmの間の光路長1cm当りの最大吸光度が0.10以下であることを特徴とするラジカル捕捉剤水溶液。

【公開番号】特開2011−42583(P2011−42583A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189810(P2009−189810)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(000199795)川崎化成工業株式会社 (133)
【Fターム(参考)】