説明

ナフトピジルを含有する医薬

【課題】 セロトニン2A受容体及び/又はセロトニン2B受容体機能が亢進している疾患の治療に有効性を有する医薬を提供する。
【解決手段】 セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患を治療するためのナフトピジルを含有する医薬。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナフトピジルを有効成分として含む、セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進されている疾患を治療するための医薬に関する。
【背景技術】
【0002】
セロトニン(5−hydroxytryptamine;5−HT)は、生体内伝達物質として機能することが知られている生体内モノアミンであり、腸管に最も豊富に存在し、腸管の運動、血管の緊張、血小板の機能及び神経機能の調節、睡眠や気分障害などの中枢作用など、様々な生理作用に関わっている(非特許文献1)。
【0003】
セロトニンが作用する受容体は7種類のサブタイプに分類されており、これらのサブタイプのうち、セロトニン2受容体はさらにセロトニン2A受容体、セロトニン2B受容体及びセロトニン2C受容体の3つのサブタイプに分かれている(非特許文献2)。
【0004】
セロトニン2A受容体に結合して遮断作用を示す化合物が、過敏性腸症候群、末梢循環障害、血小板凝集、肺高血圧症、ホットフラッシュ、胃食道逆流症、痛覚過敏、膵炎、喘息、睡眠障害、又はうつ病などの疾患の症状を軽減することから、これらはセロトニン2A受容体の機能亢進に関係する疾患として考えられている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、非特許文献3、非特許文献4、非特許文献5)。また、セロトニン2A受容体の遮断薬であるケタンセリン(ketanserin)が、セロトニン2A受容体の作動薬で上昇した尿管内の内圧を低下させる作用を示すことが知られている(非特許文献6)。さらに、セロトニン2A受容体の遮断薬であるサルポルレラートが、糖尿病患者の頻尿症状に関して、頻尿の治療薬として用いられる抗コリン薬が効かなかった症例に対しても効果を示したとの報告(非特許文献7)がある。
【0005】
セロトニン2B受容体についても、その遮断作用を示す薬剤が効果を示すことから、過敏性腸症候群、消化不良、逆流性食道炎(GERD)、片頭痛、疼痛、線維症などがセロトニン2B受容体の機能亢進に関連する疾患として挙げられている(特許文献5)。
【0006】
一方、ナフトピジル(Naftopidil:(±)−1−[4−(2−メトキシフェニル)ピペラジニル]−3−(1−ナフチロキシ)プロパン−2−オール)は特許文献6に開示された物質であり、同公報には、ナフトピジル又はその塩が前立腺肥大における排尿困難治療に有用であることが開示されている。ナフトピジルは多数の臨床的研究において前立腺肥大に伴う排尿障害に対して改善作用を示すことが証明されており、すでに経口用錠剤(「フリバス錠」、「フリバスOD錠」;製造販売元:旭化成ファーマ株式会社)として発売されている。フリバス錠又はフリバスOD錠は前立腺肥大症に伴う排尿障害の成人に対してナフトピジルとして1日1回25mgより投与を始め、効果が不十分な場合は1ないし2週間の間隔をおいて50〜75mgに漸増し、1日1回服用することが臨床的試験結果から設定されている。ナフトピジル製剤の処方及び成分分量の事例としては、特許文献6や特許文献7の実施例12に記載されている。
【0007】
ナフトピジルは、α1Aアドレナリン受容体とα1Dアドレナリン受容体に対する遮断作用を有し、ノルアドレナリンによる前立腺組織あるいは前立腺部の尿道の平滑筋組織の収縮を抑制する作用を有することが知られている(非特許文献8)。また、ナフトピジルは、前立腺肥大に伴う排尿障害だけでなく、前立腺肥大症患者での頻尿や夜間頻尿といった蓄尿症状にも有効であることが示されている(非特許文献9)。しかしながら、糖尿病などに起因する頻尿などの下部尿路症状にナフトピジルが有効という報告はない。
【0008】
α1受容体以外に対してもナフトピジルが作用を有することは幾つか知られており、例えば、セロトニン1A受容体に対して作用するという報告がある(非特許文献10)が、この報告では、ナフトピジルはむしろセロトニン1A受容体に対し作動薬として作用する可能性が示唆されている。また、ナフトピジルは、モルモットから摘出した回腸のセロトニン収縮に対して抑制効果を示すという報告がある(非特許文献11)。
【0009】
しかし、ナフトピジルが、尿管、血管、回腸以外の腸管あるいは膀胱といった組織のセロトニンによる収縮を抑制するという報告はない。さらに、ナフトピジルは、アドレナリン作用がセロトニンによって増強された場合のヒト血小板凝集を抑制するという報告がある(非特許文献12)。この報告は、ナフトピジルによる血小板凝集阻害作用とセロトニン2受容体の関連性を考察しているものの、具体的にナフトピジルの作用する受容体を特定するものではなく、また、血小板の凝集作用以外の作用については触れられていない。従って、ナフトピジルがセロトニン2A受容体あるいはセロトニン2B受容体に対して直接結合、あるいは作用するという報告はない。つまり、ナフトピジルが、上記のセロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体が亢進することによって生じると考えられる疾患の治療薬としての可能性はこれまで示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000−239163号公報
【特許文献2】特表2007−510701号公報
【特許文献3】WO2006/118212号パンフレット
【特許文献4】特表2002−542287号公報
【特許文献5】特表2005−526720号公報
【特許文献6】特公昭60−29712号公報
【特許文献7】特開2001−288115号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Mohammad−Zadeh LF et al.、J.Vet.Pharmacol.Ther.、31:187−199(2008)
【非特許文献2】Nichols DE and Nichols CD、Chem.Rev.、108:1614−1641(2008)
【非特許文献3】アンプラーグ錠50mg、アンプラーグ錠100mg、アンプラーグ細粒10%、医薬品インタビューフォーム 2010年8月改訂(第14版)
【非特許文献4】Hironaka E et al.、Cardiovasc.Res.、60:692−699(2003)
【非特許文献5】佐藤 幸恵ら 日老医誌 43(4):492−497(2006)
【非特許文献6】Hauser DS et al.、Br.J.Pharmacol.、135:1026−1032(2002)
【非特許文献7】滝本 至得ら 日泌尿会誌 90(8):731−740(1999)
【非特許文献8】Takei R et al.、Jpn.J.Pharmacol.、79:447−454(1999)
【非特許文献9】Kakizaki H et al.、LUTS、1:35−39(2009)
【非特許文献10】Borbe HO et al.、Eur.J.Pharmacol.、205(1):105−107(1991)
【非特許文献11】山本 浩二ら、基礎と臨床 26(1):229−246(1992)
【非特許文献12】Alarayyed NA et al.、Br.J.Clin.Pharmac.、39:369−374(1995)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進されることにより生じる疾患の治療薬を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
ナフトピジルについて鋭意検討を重ねた結果、驚くべきことに、ナフトピジルがセロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体に対して結合し、かつこれらの受容体に対して遮断作用を有することが見出された。種々のα1ブロッカーについてはこれらの受容体に対する作用がないことも見出された。また、ラットにおいて尿道を部分閉塞させて膀胱に障害が肥厚する実験動物モデルにおいて、その膀胱を検討したところ、セロトニンに対する反応性が高まっており、かつセロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体が増えていることを見出した。そして、ナフトピジルはこの実験動物モデルにおいて、セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進されたことによる収縮反応を抑制することを見出した。
【0014】
本発明は、以上の知見により完成されたものである。すなわち、本発明は、
(1)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患を治療するためのナフトピジルを含有する医薬、に関する。
【0015】
さらには、1)糖尿病患者の頻尿症状に対して、頻尿の治療薬として用いられる抗コリン薬が効かなかった症例に対し、セロトニン2A受容体の遮断薬が効果を示したこと;2)過敏性腸症候群、末梢循環障害、肺高血圧症、ホットフラッシュ、胃食道逆流症、痛覚過敏、膵炎、喘息、睡眠障害、又はうつ病などが、セロトニン2A受容体の機能亢進に関係する疾患として考えられていること;3)セロトニン2A受容体の作動薬で上昇した尿管内の内圧をセロトニン2A受容体の遮断薬が低下させることから尿管結石の治療薬として有望であると考えられること;4)過敏性腸症候群、消化不良、逆流性食道炎(GERD)、片頭痛、疼痛、線維症などがセロトニン2B受容体の機能亢進に関連する疾患として考えられていること;5)上記(1)記載の本発明;及び6)ナフトピジルの現在の臨床適応症を鑑み、本発明はさらに以下に関する。
【0016】
(2)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、抗コリン薬抵抗性の過活動膀胱、糖尿病に伴う及び/又は糖尿病を併発している過活動膀胱又は頻尿、過敏性腸症候群、尿管結石、末梢循環障害、肺高血圧症、胃食道逆流症、痛覚過敏、膵炎、片頭痛、線維症、或いは疼痛である、ナフトピジルを含有する医薬;
(3)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、抗コリン薬抵抗性の過活動膀胱である、上記(2)記載の医薬;
(4)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、糖尿病に伴う過活動膀胱又は糖尿病を併発している過活動膀胱である、上記(2)記載の医薬;
(5)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、過敏性腸症候群である、上記(2)記載の医薬;
(6)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、尿管結石である、上記(2)記載の医薬;
(7)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、末梢循環障害である、上記(2)記載の医薬;
(8)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、肺高血圧症である、上記(2)記載の医薬;
(9)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、ホットフラッシュである、上記(2)記載の医薬;
(10)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、胃食道逆流症である、上記(2)記載の医薬;
(11)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、痛覚過敏である、上記(2)記載の医薬;
(12)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、膵炎である、上記(2)記載の医薬;
(13)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、片頭痛である、上記(2)記載の医薬;
(14)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、線維症である、上記(2)記載の医薬;
(15)セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患が、疼痛である、上記(2)記載の医薬;
(16)ナフトピジルと、ナフトピジル以外のセロトニン2A受容体の遮断薬及び/又はセロトニン2B受容体の遮断薬とを組み合わせてなる、セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患を治療するための医薬;
(17)ナフトピジル以外のセロトニン2A受容体の遮断薬及び/又はセロトニン2B受容体の遮断薬が、サルポグレラート、クロザピン、オランザピン、クエチアピン、リスペリドン、ミルタザピン、ジプラジドン、イロペリドン、アバペリドン、ルラシドン、アリピプラゾール、パリペリドン、アセナピン、ブロナンセリン、ジプラシドン、ジクロナピン、ITI−007,テルクリド、ピマバンセリン、テマノクレル、イフェランセリン、SB−742457、CYR−101、R−167154、TNX−102、TNX−105、YKP−1447,ACP−106、SEL−73、GSK−2054757、SB−742888、GSK−1742942、GSK−1606260、GSK−1645888、GSK−2080717、ER−21027、AR246686、MT−500、RQ−00310941、バビカゼリン、PRX−8066、BF−1、SB−206553、R−1、MDL−100,907、ケタンセリン、リタンセリン、及びシクロヘプタジンからなる群から選択される1種類又は2種類以上の遮断薬である上記(17)に記載の医薬;
(18)抗コリン薬抵抗性の過活動膀胱を治療するための、ナフトピジル以外のセロトニン2A受容体遮断薬及び/又はセロトニン2B受容体遮断薬を含有する医薬;
(19)糖尿病に伴う過活動膀胱もしくは頻尿又は糖尿病を併発している過活動膀胱もしくは頻尿を治療するための、ナフトピジル以外のセロトニン2A受容体遮断薬及び/又はセロトニン2B受容体遮断薬を含有する医薬。
【0017】
本発明の別の観点からは、セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患を治療するための上記医薬の製造のためのナフトピジルの使用が提供される。
【0018】
さらに本発明の別の観点からは、セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患を治療する方法であって、セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患を発症したヒトを含む哺乳類動物にナフトピジルの治療有効量を投与する工程を含む方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の医薬は、実施例1〜3に示されているように、尿道部分を閉塞させてセロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能を亢進させた膀胱に対してセロトニンによる収縮反応を抑制することができ、すでに臨床で利用されているとおり安全性も高いことから、セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患の治療のために極めて有効な医薬として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】正常ラット摘出膀胱におけるセロトニン誘発収縮に対するナフトピジルおよび種々のα1遮断薬の作用を示す。横軸はセロトニン濃度(M)を表す。縦軸(Developed tension)は、40mMのKClによる収縮反応を100%として換算したセロトニン誘発収縮反応の度合いを表す。データは、平均値±標準誤差(n=5〜6)。
【図2】正常及びBOOラット摘出膀胱におけるセロトニンの収縮作用を示す。横軸はセロトニン濃度(M)を表す。縦軸(Developed tension)は、単位組織重量(100mg)あたりの収縮力(g/100mgtissue)に換算した収縮反応の度合いを表す。データは、平均値±標準誤差。
【図3】BOOラット摘出膀胱におけるセロトニン誘発収縮に対するナフトピジルの作用を示す。横軸はセロトニン濃度(M)を表す。縦軸(Developed tension)は、単位組織重量(100mg)あたりの収縮力(g/100mgtissue)に換算した収縮反応の度合いを表す。データは、平均値±標準誤差(n=9)。
【図4】正常及びBOOラット膀胱におけるセロトニン2A受容体(A)及びセロトニン2B受容体(B)mRNAの発現を示す。縦軸(Expression level)は、内部標準遺伝子としてribosomalprotein 19(RPL19)を用い、セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の発現量を補正し、コントロールの値の平均値を1として表した。データは、平均値±標準誤差。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の医薬における有効成分は、セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の受容体の遮断薬であり、好ましくはナフトピジル(Nafutopidil:(±)−1−[4−(2−メトキシフェニル)ピペラジニル]−3−(1−ナフチロキシ)プロパン−2−オール)が挙げられる。
【0022】
本発明の医薬は、有効成分としてナフトピジル又は生理学的に許容されるその塩と1以上の製剤用添加物とを含む医薬である。ナフトピジルは特公昭60−29712号公報に記載された物質であり、当業者が容易に入手できる物質である。本発明の医薬の有効成分としては、ナフトピジルの生理学的に許容される塩(例えば塩酸塩など)を用いてもよいが、好ましくは遊離形態の物質を用いることができる。
【0023】
本明細書において、製剤用添加物がナフトピジルと接触するとは、液状形態の医薬であれば、例えば、溶液状態又は懸濁状態で存在する製剤用添加物が溶解又は懸濁状態のナフトピジルの分子又は微粒子に接触することを意味しており、また、固体状態の医薬であれば、例えば、ナフトピジルと製剤用添加物とを含む混合物において、該混合物に含まれる上記製剤用添加物の粉末や造粒物がナフトピジルの粉末又は造粒物などに接触することを意味している。本発明の医薬では、医薬の調製に用いられる1又は2以上の製剤用添加物のうち、ナフトピジルと接触する製剤用添加物として乳糖を含有しないことが好ましい。そして、本発明の医薬は、製剤用添加物として乳糖を全く含まないことが大変好ましい。
【0024】
本明細書において、錠剤の硬度や製造時における圧縮の程度は、錠剤の形状等に応じて適宜決めることができる。本発明の医薬としては、特に錠剤が好ましい。錠剤は用途により分類することができるが、本明細書で用いられる「錠剤」の用語には、例えば、口中で溶かし口腔粘膜や咽頭粘膜に適用する口中錠(トローチ)、口中で溶かし口腔粘膜から薬物を吸収させる口腔錠(バッカル錠、舌下錠)、口中で錠剤を崩し、水あるいは唾液とともに嚥下させ消化器官から薬物を吸収させる口腔内崩壊錠、皮下に移植して使用される植込錠、錠剤を溶解した液を服用したり、あるいは外用に用いたりする溶解錠等も包含される。
【0025】
また、錠剤は構造上の観点から、例えば、素錠とコーティング錠に分類することができる。素錠は、圧縮成形して得られる錠剤の表面にコーティングが施されていない錠剤を意味しており、典型的には、錠剤全体がナフトピジルを含有する連続相からなる錠剤である。通常は、ある薬物を含有した粉末又は造粒物を打錠機により圧縮成形して得られる錠剤自体であると理解できる。コーティング錠は上記の素錠の表面に薬物を含まないコーティング層を形成した錠剤を意味している。コーティング錠としては、例えば、フィルムコーティング錠や糖衣錠、及び有核錠等が例示される。さらに、錠剤の一部に薬物を含まない層を形成する多層錠も例示される。本明細書で用いられる「錠剤」の用語にこれらの錠剤が包含されることは言うまでもない。
【0026】
口腔内崩壊錠は、例えば、成形された錠剤が口腔内で速やかに崩壊して細かな粒子状に懸濁分散し、あるいは錠剤の成分が一部又は全部溶解し、その後に嚥下されて有効成分が消化管から吸収される錠剤である。本発明により提供される口腔内崩壊錠の崩壊時間としては、例えば、口腔内で唾液による崩壊時間を測定することもできるが、より簡便な方法として、本明細書の実施例に記載したように日本薬局方の崩壊試験法に準じた測定方法(試験液として水を用いる)により測定することができる。崩壊時間は特に限定されないが、例えば、3分以内であり、通常は1分以内、好ましくは40秒以内、さらに好ましくは30秒以内、特に好ましくは20秒以内である。口腔内崩壊錠は製造方法から分類することもでき、より具体的には、懸濁分散した溶液を鋳型に充填した後、凍結乾燥法を用いて製造することができる非圧縮型の口腔内崩壊錠と、打錠機等を使用して粉末を圧縮して製造することができる圧縮型の口腔内崩壊錠とに分類することができる。本発明においては、圧縮型の口腔内崩壊錠が好ましい例として挙げられる。
【0027】
本発明の医薬の製造に用いられる製剤用添加物は、医薬を調製する際に、賦形効果、コーティング効果、結合化効果、崩壊化効果、滑沢化効果等の機能付与のために添加する物質であり、医薬に含まれる成分のうち有効成分を除いた全ての物質を包含している。製剤用添加物は使用目的により分類でき、例えば賦形効果を有する物質であれば賦形剤、コーティング効果を有する物質であればコーティング剤、結合化効果を有する物質であれば結合剤、崩壊化効果を有する物質であれば崩壊剤、滑沢化効果を有する物質であれば滑沢剤等に分類することができる。本明細書で用いられる製剤用添加物として、好ましくは「医薬品添加物辞典2000」(日本医薬品添加剤協会編集、薬事日報社)に収載されている物質を用いることができ、好ましくは乳糖以外の物質を用いることができる。
【0028】
例えば、製剤用添加物として糖アルコール類及び/又は乳糖以外の糖類を使用することができる。糖アルコール類は糖類がもつカルボニル基を還元して得られる多価アルコールであり、例えば、グリセリン、D−ソルビトール、D−マンニトール、エリスリトール、マルチトール、キシリトールが挙げられ、D−マンニトール、エリスリトール、マルチトール、キシリトールが好ましい例として挙げられる。糖アルコール類として、1種類又は2種類以上を選択してもよい。また、乳糖以外の糖類としては、例えば、ブドウ糖、白糖、果糖、マルトース、またデンプンを酵素により糖化したアメ粉等が挙げられ、ブドウ糖、白糖が好ましい例として挙げられる。
【0029】
本発明の医薬の調製には、水溶性高分子結合剤を用いることができる。水溶性高分子結合剤は、水に溶解することで粘性が得られ、糊のような接着性を示す水溶性高分子からなる製剤用添加物のことである。水溶性高分子結合剤は、この性質を利用して粉末混合物を造粒する際に用いられる。その添加方法は特に制限されないが、例えば、造粒時に溶液として添加するか、あるいは粉末で添加することができる。水溶性高分子結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポビドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、アルファー化デンプン、ゼラチン、プルラン、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アラビアゴム末等が例示される。水溶性高分子結合剤としては、1種類あるいは2種類以上を選択してもよい。これらのうち、ヒドロキシプロピルセルロース、ポビドン、ヒドロキシプロピルメチルセルロースが特に好ましい例として挙げられる。
【0030】
本発明の医薬の調製には、さらに水溶性高分子結合剤以外の結合剤も用いてもよい。このような結合剤としては、例えば、結晶セルロース、トウモロコシデンプン、無水沈降炭酸カルシウム、合成ケイ酸アルミニウム、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等が例示される。これらのうち、1種類あるいは2種類以上を選択してもよい。圧縮成形物が打錠部品に接着して容易に排出し難くなる現象(スティッキング:打錠の際に生じる)を回避するために用いられる滑沢剤としては、例えば、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸、L−ロイシン等が例示される。これらのうち、1種類あるいは2種類以上を選択してもよい。滑沢剤としては、ステアリン酸マグネシウム、フマル酸ステアリルナトリウムが特に好ましい。また、圧縮された錠剤を唾液中や胃液中で速やかに崩壊させるための崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、カルメロースカルシウム、クロスカルメロースカルシウム、部分アルファー化デンプン、軽質無水ケイ酸、炭酸マグネシウム、リン酸水素カルシウム、合成ヒドロタルサイト等が例示される。これらのうち、1種類あるいは2種類以上を選択してもよい。錠剤に甘味を付与して服用性を向上させるために甘味料を用いてもよい。甘味料としては、例えば、サッカリン、サッカリンナトリウム、アスパルテーム、グリチルリチン酸モノアンモニウム酸、還元麦芽糖水アメ、精製ハチミツ等が例示される。これらのうち、1種類あるいは2種類以上を選択してもよい。錠剤に官能的に良好な臭いを付与して服用性を向上させるために香料を用いてもよい。香料としては、例えば、L−メントール、バニリン、ハッカ油、レモン油、バニラフレーバー、フルーツフレーバー、ミントフレーバー等が例示される。
【0031】
錠剤の製造方法及び製造装置は特に限定されず、当業界で通常用いられる方法及び装置を使用することができる。より具体的には、混合工程では、V型混合機、クロスロータリー式混合機等が用いられる。造粒工程では、流動層造粒乾燥機、転動流動造粒コーティング装置、撹拌造粒機、円筒押出造粒機等が用いられる。圧縮成型(打錠)機は一般に錠剤の製造に用いられる装置であり、例えば、単発式打錠機等が挙げられる。
【0032】
本発明の医薬において、有効成分であるナフトピジルの含有割合の下限値は特に限定されないが、例えば、医薬の全重量に対して3重量%以上であることが好ましく、4重量%以上であることがさらに好ましく、特に好ましくは5重量%以上である。上記含有割合の上限値も特に限定されないが、医薬の全重量に対して60重量%以下が好ましく、55重量%以下がさらに好ましく、特に好ましくは50重量%以下である。賦形剤の含有割合の下限値は、例えば、医薬の全重量に対して45重量%以上が好ましく、50重量%以上がさらに好ましく、特に好ましくは55重量%以上である。賦形剤の含有割合の上限値は、例えば、医薬の全重量に対して96重量%以下が好ましく、94重量%以下がさらに好ましく、特に好ましくは92重量%である。
【0033】
単位投与形態中のナフトピジルの含有量は特に限定されないが、例えば、臨床用量を反映した量にすることが好ましい。例えば、単位投与形態である錠剤一錠中の含有量の下限値は20mg以上が好ましく、22mg以上がさらに好ましく、特に好ましくは25mg以上である。錠剤1錠中のナフトピジル含量の上限値は100mg以下であることが好ましく、80mg以下がさらに好ましく、特に好ましくは75mg以下である。
【0034】
錠剤の形状は特に限定されず、服用し易い形状であればよい。例えば、円形、楕円形、多角形、カプレット(カプセルタイプ)の形状が例示される。また、サイズは指でつかみ易く、かつ口に含み易ければよく、長径(円形であれば直径)の上限値は25mm程度以下が好ましく、22mm程度以下がさらに好ましく、20mm程度以下が特に好ましい。また下限値は5mm程度以上が好ましく、6mm程度以上がさらに好ましく、7mm程度以上が特に好ましい。
【0035】
医薬を包装する場合の包装形態は特に限定されないが、例えば、遮光フィルム等を用いた遮光処理を行ってもよく、PTP(Press Through Package)包装、ストリップ包装、あるいはPTP包装にピロー包装を施した包装などを採用することができる。また包装材料としては、例えば、アルミ箔、ポリ塩化ビニール、環状ポリオレフィン、ポリ塩化ビニリデン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリエチレンが例示される。また、包装容器としては、遮光処理をしたポリエチレン瓶やガラス瓶が例示される。
【0036】
また、本発明の医薬に含有されるナフトピジルの1日当たりの投与量は、投与ルート、疾患、疾患の症状、投与対象の年齢、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定される。通常経口投与の場合成人1人当たりナフトピジルとして約10乃至100
mg/日、最も好ましくは25乃至75mg/日であり、これを1日1回乃至2回食後に経口投与する。
【0037】
本発明の医薬は、セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患を治療する目的に使用できる。そのような疾患の非限定的な例示は、抗コリン薬抵抗性の過活動膀胱、糖尿病に伴う及び/又は糖尿病を併発している過活動膀胱又は頻尿、過敏性腸症候群、尿管結石、末梢循環障害、肺高血圧症、胃食道逆流症、痛覚過敏、膵炎、片頭痛、線維症、並びに疼痛を含む。とりわけ、本発明の医薬は、他のα1Aアドレナリン受容体遮断薬及び/又はα1Dアドレナリン受容体に対する遮断薬が有効でない過活動膀胱や頻尿等を伴う疾病患者の治療のために有効に用いることができる。
【0038】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳しく説明するが、本発明が実施例に限定されるものではないことは言うまでもない。
【実施例】
【0039】
[試験例1]摘出膀胱のセロトニン誘発収縮に対するナフトピジル及び種々のα1ブロッカーの抑制効果
無処置の正常雌性CD(SD)ラットに、ペントバルビタールナトリウム40〜60mg/kgを腹腔内投与して麻酔し、麻酔下にて膀胱を摘出し、氷冷したKrebs−Henseleit液中で膀胱標本を作製し、膀胱標本を95%Oと5%COの混合ガスを通気した10mLのKrebs−Henseleit液で満たしたオルガンバス中に懸垂した。膀胱標本に1gの静止張力を負荷し、終濃度40mMのKClで膀胱標本を収縮させ、膀胱標本の状態を確認した後、washoutし、オルガンバス中に薬物(ナフトピジル、タムスロシン、シロドシンまたはプラゾシン)を加えて10分間前処理した後、セロトニンを累積的に添加して各膀胱標本の張力を記録した。張力は、FDピックアップ(日本光電社製)を用いて測定し、CARRIER
AMPLIFIER(日本光電社製)を介してLINEARCORDER (GRAPHTEC社製) により記録した。セロトニンによる収縮反応は40mMのKClの収縮反応を100%として換算し解析した。正常ラットの摘出膀胱をセロトニンで刺激すると10-8Mより濃度依存的な収縮反応が認められ、10-5Mで最大の収縮反応を示した。この正常ラット摘出膀胱のセロトニンによる収縮反応に対し、ナフトピジルはα1遮断薬として作用する濃度(0.3、1及び3μM)において、セロトニンによる濃度-反応曲線を濃度依存的に右方へ平行移動させ、セロトニンによる収縮反応を抑制した。一方、タムスロシン(0.1μM)、シロドシン(0.1μM)およびプラゾシン(1μM)はα1遮断薬として十分に高い濃度においてセロトニンによる収縮反応を抑制しなかった。セロトニン収縮の抑制作用は、α1遮断薬の中でナフトピジルに特異的に認められた作用であった。(図1を参照)
[試験例2]尿道部分閉塞ラットの膀胱を用いたセロトニン誘発収縮に対するナフトピジルの効果
Bladder outlet obstruction(BOO)モデルを、下部尿路閉塞による排尿障害の動物モデルとして用いた。BOOラットの作製方法は以下の通りであった。雌性CD(SD)ラットに、ペントバルビタールナトリウム30
mg/kgを腹腔内投与して麻酔し、麻酔下にて以下の処置を行った。ラットの外尿道口より逆行性に22Gサーフロー(針なし)を膀胱内まで挿入、留置した後、下腹部を正中にて約1cm切開して尿道を露出した。縫合針に4−0ブレードシルクを付けて尿道のみを針ですくい、一箇所に糸をかけ、膀胱内に留置していたサーフローを取り除き、尿道の上に直径1.1mmのステンレス線をのせて尿道をステンレス線ごと4−0ブレードシルクで結紮した後ステンレス線を取り除き、尿道を狭窄した。その後、筋層と腹膜及び皮膚を縫合し傷口を塞いだ。偽手術群(control群)は、手術群と同様にして膀胱を露出させた後、尿道を結紮することなく傷口を縫合した。術後は抗生物質入りの飲料水を与えて1週間飼育した。通常、同週齢の正常なラットの膀胱重量は60mg程度であるが、BOO処置により膀胱は肥大し、重量は160〜350mgになった。なお、150mg以上の膀胱肥大が認められない動物は、手術不成功と判断し、実験に使用しなかった。
【0040】
BOO処置1週間後のラットに、ペントバルビタールナトリウム40〜60mg/kgを腹腔内投与して麻酔し、麻酔下にて膀胱を摘出し、氷冷したKrebs−Henseleit液中で膀胱標本を作製し、膀胱標本を95%Oと5%COの混合ガスを通気した10mLのKrebs−Henseleit液で満たしたオルガンバス中に懸垂した。膀胱標本に1gの静止張力を負荷し、終濃度40mMのKClで膀胱標本を収縮させ、膀胱標本の状態を確認した後、washoutし、オルガンバス中にセロトニンを累積的に添加して各膀胱標本の張力を記録した。セロトニン収縮に対するナフトピジルの作用を検討する場合は1μMのナフトピジルを添加し、10分間前処理を行った後、セロトニンを累積的に添加し、膀胱標本の張力を記録した。張力は、FDピックアップ(日本光電社製)を用いて測定し、CARRIER
AMPLIFIER(日本光電社製)を介してLINEARCORDER (GRAPHTEC社製) により記録した。BOOラットの膀胱は肥大していることから、正常動物との収縮反応を比較するため、セロトニンによる収縮反応は単位組織重量(100mg)あたりの収縮力(g/100mg
tissue)に換算して評価した。BOOラットの摘出膀胱をセロトニンで刺激すると10-8Mより濃度依存的な収縮反応が認められ、10-5Mで最大の収縮反応を示した。10-6、10-5及び10-4Mのセロトニンによる収縮反応はコントロールに比べて約2倍増強していた(図2を参照)。
【0041】
このBOOラット摘出膀胱のセロトニンによる収縮反応に対し、ナフトピジル(1μM)は、濃度-反応曲線を右方へ平行移動させ、セロトニンによる収縮反応を抑制した。pKB値は6.36と算出された(図3を参照)。
【0042】
[試験例3]セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体に対するナフトピジルの親和性
HEK293細胞にヒト・セロトニン2A受容体を発現させたリコンビナント細胞及びCHO細胞にヒト・セロトニン2B受容体を発現させたリコンビナント細胞を用いた。これらの細胞は、50mM Tris−HCl(pH7.4)バッファー中で、ホモジェナイズし、48,000gで15分間遠心し、その沈渣を再度、ホモジェナイズ、遠心操作を繰り返して膜標品を調製し、−70℃以下で試験まで保存した。
【0043】
セロトニン2A受容体に対する結合試験は、50mM Tris−HCl(pH7.4)バッファーを用いた。バッファーを反応用チューブに入れ、[H]−ketanserinを終濃度0.5nMとなるように加えた。また、非特異的結合を計測するチューブには、ketanserinを終濃度1μMとなるように加え、その他は、バッファー又は、ナフトピジルのDMSO溶解をナフトピジルの終濃度が10−8M〜10−5Mとなるよう加えた。解凍してバッファーで懸濁した膜標品をチューブ内に加えて、室温で60分間反応させ、0.3%polyethylenimine 処理したGF/B(Packard社製)グラスフィルターで吸引ろ過し、氷冷した50mM Tris−HClバッファーでフィルターを数回洗浄後、乾燥してシンチレーションカウンター(Topcount,Packard社製)で放射活性を測定した。
【0044】
セロトニン2B受容体に対する結合試験は、5mM MgCl,10μM pargyline及び5mM ascorbic acidを加えた50mM Tris−HCl(pH7.4)バッファーを用いた。バッファーを反応用チューブに入れ、[H]−mesulergineを終濃度2nMとなるように加えた。また、非特異的結合を計測するチューブには、mesulergineを終濃度10μMとなるように加え、その他は、バッファー又は、ナフトピジルのDMSO溶解をナフトピジルの終濃度が3×10−9M〜3×10−6Mとなるよう加えて行った。解凍してバッファーで懸濁した膜標品を、チューブ内に加えて室温で60分間反応させ、0.3%Polyethyleneimine処理したGF/B(Packard)グラスフィルターで吸引ろ過し、氷冷した50mM Tris−HClバッファーでフィルターを数回洗浄後、乾燥してシンチレーションカウンター(Topcount,Packard)で放射活性を測定した。
【0045】
その結果、表1に示すように、ナフトピジルはセロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体に対し、結合することが示された。
【表1】

[試験例4]尿道部分閉塞ラット膀胱でのセロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体
mRNAの発現量の解析
BOOモデル作製1週間後のラットにペントバルビタールナトリウム
40〜60mg/kgを腹腔内投与して麻酔し、開胸して心臓からの全採血及び大動脈切断による放血で安楽死させた後、直ちに腹部を切開して膀胱を摘出した。摘出した膀胱は余分な組織を取り除いた後、生理食塩水にて洗浄し、RNaseによるRNA分解を防ぐためRNAlater(Qiagen社製)に浸して保存した。膀胱からのRNA抽出はRNeasy fibrous tissue kit(Qiagen社製)を用い、キットの手順書に従って、DNase処理を行い、RNA affinityカラムによりRNAを抽出した。抽出したRNA量はND−1000分光光度計(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定し、RNA 0.5μgを用いて、SuperScript VILO cDNA Synthesis kit(Invitrogen社製)によりcDNAを作製した。5倍希釈したcDNA 2μLに25μLのPlatinum Quantitative PCR SuperMix−UDG withROX(Invitrogen社製)と表2に示したセロトニン2A受容体あるいはセロトニン2B受容体のプライマーペア(10μM、1μL)及びプローブ(10μM、0.5μL)を加え、DEPC−treated
water(Invitrogen社製)を加えて全量を50μLとして反応させた。プライマー及びプローブのデザインはPrimer Express version 2.0(Applied
Biosystems社製)にて行い、BLAST software(National Center for Biotechnology Information提供)によりデザインした配列の目的遺伝子に対する特異性を確認した。反応及び検出はABI7000(Applied
Biosystems社製)にて行った。反応条件は50°Cで2分間、95°Cで2分間処理した後、95°Cで15秒、60°Cで30秒間処理するサイクルを40サイクル行った。内部標準遺伝子としてribosomal
protein 19(RPL19)を用い、セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の発現量を補正し、コントロールの値の平均値を1として示した。その結果、BOOラット膀胱ではセロトニン2A受容体およびセロトニン2B受容体のmRNAの発現がそれぞれコントロールの3.2倍及び3.9倍に増加した(図4を参照)。この結果より、下部尿路閉塞による排尿障害時の過活動膀胱の発症にセロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の発現増加によるセロトニン誘発膀胱収縮の増加が関与していることが明らかとなった。
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の医薬は、セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体を遮断する顕著な効果を有することから、セロトニン2A受容体及び/又はセロトニン2B受容体機能が亢進している疾患の治療のために、臨床上安全に利用できる。従って、本発明は、医薬品製造業等において利用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セロトニン2A受容体及びセロトニン2B受容体の少なくとも一方の機能が亢進している疾患を治療するためのナフトピジルを含有する医薬。
【請求項2】
疾患が、抗コリン薬抵抗性の過活動膀胱、糖尿病に伴う及び/又は糖尿病を併発している過活動膀胱又は頻尿、過敏性腸症候群、尿管結石、末梢循環障害、或いは肺高血圧症である、請求項1に記載の医薬。
【請求項3】
疾患が、抗コリン薬抵抗性の過活動膀胱である請求項2に記載の医薬。
【請求項4】
疾患が、糖尿病に伴う及び/又は糖尿病を併発している過活動膀胱又は頻尿である請求項2に記載の医薬。
【請求項5】
疾患が、過敏性腸症候群である請求項2に記載の医薬。
【請求項6】
疾患が、尿管結石である請求項2に記載の医薬。
【請求項7】
疾患が、末梢循環障害である請求項2に記載の医薬。
【請求項8】
疾患が、肺高血圧症である請求項2に記載の医薬。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−219075(P2012−219075A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−88156(P2011−88156)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)発行者名:社団法人日本泌尿器科学会 刊行物名:日本泌尿器科学会雑誌 巻数:102 号数:2 発行年月日:平成23年3月20日
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【Fターム(参考)】