説明

ナポリ風ピッツァクラストの焼成方法と焼成装置

【課題】ナポリ風のピッツァクラストを効率良く大量且つ安価に製造することができるナポリ風ピッツァクラストの焼成方法と焼成装置を提供する。
【解決手段】生地をプレート6に載せてオーブン2内を通過させながら焼成するナポリ風ピッツァクラストの焼成方法であって、前記生地を載せたプレートがオーブン内に入った直後に前記生地の上面に過熱水蒸気を吹き付ける工程9、及び/又は、前記生地を載せたプレートがオーブン内に入る直前に前記生地を載せたプレートを予熱する工程8を含むナポリ風ピッツァクラストの焼成方法並びに焼成装置1を提供することによって解決する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナポリ風ピッツァクラストの焼成方法と焼成装置に関し、詳細には、連続式のオーブンを用いてナポリ風のピッツァクラストを容易に且つ効率良く焼成するナポリ風ピッツァクラストの焼成方法と焼成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ピッツァ(ピザ)は、現在、ファーストフードの代表的な存在として広く普及している。宅配ピッツァが代表的であるが、食品スーパー等で販売されているパンピザなども良く知られている。しかし、近年、消費者の嗜好が本格化し、従来のパンピザでは飽き足らない消費者の間では、ピッツァの故郷であるナポリの石窯で焼かれた本格的なナポリピッツァが好まれる傾向にある。
【0003】
ナポリピッツァは、「額縁」と呼ばれる中央部よりも盛り上がった周縁部を有し、外皮が薄くサクッとして、内層がふんわりとモチモチした食感を有することを特徴とするピッツァである。ナポリピッツァは、原則として、薪を燃料とする窯で焼成される。窯は、石で造られたドーム型で、窯の床は石板、天井は煉瓦や石で組み上げられており、その窯の片隅で薪を焚いて、窯内の温度を400℃から500℃程度にまで上昇させる。高温状態となった窯の石床の上に、十分に発酵したピッツァの生地を薄く延ばして置き、1〜2分の短時間で焼き上げる。生地は、窯の石床に置かれた瞬間に400℃以上の高温に曝され、発酵によって発生し生地に含まれている炭酸ガスの気泡が一瞬にして膨張し、生地がふっくらと立ち上がり、焼き上がったときの生地表面の皮は薄く仕上がり、表面はサックリ、中はモチモチの独特の食感が醸し出される。
【0004】
このようにナポリピッツァは、薪を燃料とする石窯で一枚一枚焼成されることによって表面はサックリ、中はモチモチという独特の食感が醸成されるものであり、このため、ナポリピッツァを大量且つ安価に焼成することは困難であるとされていた。例えば、従来から、発酵したピッツァクラストの生地を成形してバンドオーブン等の連続式のオーブンで2〜10分間焼成することによってピッツァクラストを製造することが行われているが、この方法で焼成されたピッツァクラストは、オーブンの温度が400℃以上と高いと釜伸びが悪く、周縁部ばかりでなく中央部においても生地の盛り上がりに欠けるという欠点があった。しかし、このような欠点を避けるためにオーブンの温度を200〜300℃と比較的低温にすると、焼き上がったピッツァクラストはキメの細かい気泡を含み、全体がいわゆるパン様の食感となり、ナポリピッツァの食感とはほど遠いものとなってしまうという問題点がある。
【0005】
また、特許文献1においては、成形したピッツァ生地の上面周縁部を残して中央部を天板で覆ってトンネルオーブン等で焼成するナポリタイプピッツァクラストの製造方法が提案されている。しかし、この製造方法の主眼は、ピッツァクラスト中央部の火膨れを防止することにあり、外皮が薄くサクッとして、内層がふんわりとモチモチというナポリピッツァ独特の食感に焼き上げる点では十分なものとはいえない。また、特許文献1に開示されている製造方法においては、生地の一枚一枚に天板を載せたり、焼成後にはピッツァクラストから天板を取り除いたりする作業が必要で、作業効率の悪化は避けられない。
【0006】
さらに、特許文献2においては、焼成工程前に過熱水蒸気を用いてピッツァ生地を処理することが提案されているが、過熱水蒸気処理の目的はクリスピーな食感のあるピッツァクラストを製造することにあり、製造されるピッツァクラストはナポリタイプのものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−141318号公報
【特許文献2】特開2007−29010号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みて為されたもので、ナポリ風のピッツァクラストを効率良く大量且つ安価に製造することができるナポリ風ピッツァクラストの焼成方法と焼成装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、外皮が薄くサクッとして、内層がふんわりとモチモチという食感を有するナポリ風のピッツァクラストを焼成する上で、薪を燃料とする石窯と通常の連続式オーブンとの違いは以下の2点であることを見出した。すなわち、第1の違いは、石窯においては、石窯の隅で薪を焚くので、窯内には薪からの水分が供給され、窯の中はいわゆる高温湿熱状態となっており、生地上面から生地に伝達される熱は水分を含んでいるのに対し、連続式オーブンにおいては、生地上面から生地に伝達される熱は、電気ヒータやガスバーナーによって発生される熱であり、比較的乾いた熱である点である。また、第2の違いは、石窯においては、生地は熱せられた石板の上に直接置かれるので、石板上に置かれた直後から生地にはその上下面から熱が伝達されて加熱されるのに対し、連続式オーブンにおいては、生地は、一般的には鉄、アルミ、銅などの金属板で形成されたプレートの上に載せられた状態でオーブン内に移送されるので、生地の上面はオーブン内に入ると同時に加熱されるものの、生地の下面は、プレートが熱遮断物として機能することにより、生地の上面よりも遅れて加熱される点である。
【0010】
この2つの違いのために、石窯を用いてピッツァクラストを焼成する場合には、生地は、窯の石床に置かれた瞬間に上面と下面から同時に加熱され、生地に含まれている炭酸ガスが一瞬にして膨張して生地がふっくらと立ち上がるとともに、上面からの熱には十分な水分が含まれているので、生地表面が乾燥することもなく、表面はサックリ、中はモチモチという独特の食感が醸成されるのに対し、連続式オーブンを用いて焼成する場合には、生地下面は生地上面よりも遅れて加熱され、しかも、生地上面の加熱は乾いた熱による加熱であるため、生地下面に熱が伝達される頃には、生地上面の表面は既に焼成と乾燥が進行して硬くなっており、この硬くなった表面が生地内部の炭酸ガスが膨張しようとすることに対する抵抗となり、生地が十分に伸び上がらないという結果になってしまうものと考えられる。
【0011】
そこで、本発明者はさらに研究と試行錯誤を重ね、生地を載せたプレートがオーブン内に入った直後に生地の上面に過熱水蒸気を吹き付けることによって、また、生地を載せたプレートがオーブン内に入る直前に、生地を載せたプレートを予熱することによって、通常のオーブンによる焼成を石窯による焼成に近づけることができ、ナポリピッツァに独特の外皮が薄くサクッとして、内層がふんわりとモチモチという食感を備えたピッツァクラストを焼成することができることを見出して本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明は、成形したピッツァクラストの生地をプレートに載せてオーブン内を通過させながら焼成するナポリ風ピッツァクラストの焼成方法であって、前記生地を載せたプレートをオーブン外からオーブン内へと移送する工程と、オーブン内で前記生地を焼成する工程とを含み、さらに、前記生地を載せたプレートがオーブン内に入った直後に前記生地の上面に過熱水蒸気を吹き付ける工程か、或いは、前記生地を載せたプレートがオーブン内に入る直前に前記生地を載せたプレートを予熱する工程か、又は、その両工程を含むことを特徴とするナポリ風ピッツァクラストの焼成方法を提供することによって、上記課題を解決するものである。
【0013】
また、本発明は、入口と出口を有し加熱手段を備えたオーブンと、その上に生地が載せられるプレートを前記オーブン内を入口から出口へと向かって通過させる移送手段と、前記プレートに載せられた生地の上面に向かって過熱水蒸気を吹き付ける過熱水蒸気の吹付手段であって前記オーブン内の入口近傍に設けられた吹付手段及び/又は前記プレートを予熱する予熱手段であって前記オーブン外で前記オーブンの入口近傍に設けられた予熱手段とを備えているナポリ風ピッツァクラストの焼成装置を提供することによって、上記課題を解決するものである。
【0014】
本発明のナポリ風ピッツァクラストの焼成方法においては、前記生地を載せたプレートがオーブン内に入った直後に前記生地の上面に過熱水蒸気を吹き付ける工程と、前記生地を載せたプレートがオーブン内に入る直前に前記生地を載せたプレートを予熱する工程とは、そのいずれか一方だけでも外皮が薄くサクッとして、内層がふんわりとモチモチという食感を備えたピッツァクラストを焼成する上で効果的であるが、これら2つの工程が共に含まれている方がより効果的であり、より好ましい。
【0015】
また、本発明のナポリ風ピッツァクラストの焼成装置においては、前記プレートに載せられた生地の上面に向かって加熱水蒸気を吹き付ける過熱水蒸気の吹付手段と、前記プレートを予熱する予熱手段とは、そのいずれか一方だけでも外皮が薄くサクッとして、内層がふんわりとモチモチという食感を備えたピッツァクラストを焼成する上で効果的であるが、これら2つの手段が共に備えられている方がより効果的であり、より好ましい。
【0016】
生地上面に吹き付ける過熱水蒸気の温度は、オーブンによる加熱の障害とならない程度の温度にするのが好ましく、通常は200〜600℃の範囲の温度が良く、より好ましくは400〜500℃の範囲の温度である。また、過熱水蒸気を吹き付ける時間は、焼き上がったピッツァクラストの状態をみて適宜調整すれば良いが、通常は、1〜10秒程度、好ましくは3〜7秒が良い。過熱水蒸気を発生させる手段には特段の制限はなく、例えばボイラーや電磁誘導加熱装置で発生される水蒸気をそのまま、若しくは適宜の加熱手段でさらに加熱して、過熱水蒸気として使用すれば良い。生地上面に吹き付ける過熱水蒸気の圧力は、通常は、1〜1.5kg/cm程度であるのが好ましい。
【0017】
また、生地を載せたプレートの予熱温度や予熱時間は、焼き上がったピッツァクラストの状態をみて適宜調整すれば良いが、予熱温度や予熱時間が余りに低いか短いと、生地を載せたプレートがオーブン内に入ってから生地下面に熱が伝達されるまでに遅れが生じるので好ましくなく、また、予熱温度や予熱時間が余りに高いか長いと、オーブンに入る前から生地下面の焼成が始まってしまうので好ましくない。プレートの予熱温度は、通常、過熱水蒸気とほぼ同程度の温度とするのが良く、また予熱時間は、予熱手段が発生する熱量の多寡やプレートを構成する材料の種類や厚さにも依存するが、プレートが、鉄、ステンレス、アルミ、銅などの金属で構成される金属板である場合には、通常、3〜15秒程度、好ましくは4〜10秒程度とするのが良い。生地を載せたプレートを予熱する予熱手段には特段の制限はなく、電気ヒータやガスバーナーなどの通常汎用されている加熱手段を用いることができ、プレートを構成する材料の種類にも依るが、電磁誘導加熱であっても良い。
【0018】
本発明のナポリ風ピッツァクラストの焼成方法又は焼成装置において用いられるオーブンは、ピッツァクラストを焼成することができる限り、どのようなオーブンであっても良く、連続式のトンネルオーブンやバンドオーブン、或いは、間欠的にショット運転するショット移動式のオーブン、さらには、家庭用のガスオーブンや電気オーブンを用いることもできる。ただし、ナポリ風のピッツァクラストを大量に連続製造するという観点からは、オーブン内を入口から出口に向かって生地を載せたプレートが移動する連続式のオーブンを用いるのが好ましく、特に予め定められた距離だけ間欠的に移動するショット移動式のオーブンを用いるのが好ましい。オーブン内の加熱温度は、ナポリ風のピッツァクラストを焼成することができる限り何度であっても良いが、400℃以上とするのが好ましい。
【0019】
なお、本明細書でいうナポリ風ピッツァクラストとは、外皮が薄くサクッとして、内層がふんわりとモチモチというナポリピッツァに独特の食感を有するピッツァクラストをいい、好ましくは、「額縁」と呼ばれる中央部よりも盛り上がった周縁部を有しているピッツァクラストを意味するものとする。
【発明の効果】
【0020】
本発明のナポリ風ピッツァクラストの焼成方法によれば、薪を燃料とする石窯でしか焼成することができなかったナポリ風のピッツァクラストを、連続式のオーブンなどを用いて大量且つ安価に製造することができるという利点が得られる。また、本発明のナポリ風ピッツァクラストの焼成装置によれば、適宜のオーブンに予熱用の加熱手段と、過熱水蒸気の吹付手段とを取り付けるだけで、薪を燃料とする石窯でしか焼成することができなかったナポリ風のピッツァクラストを、大量且つ安価に製造することができるという利点が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のナポリ風ピッツァクラスト焼成装置の一例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を用いて本発明を詳細に説明するが、本発明が図示のものに限られるものでないことはいうまでもない。
【0023】
図1は、本発明のナポリ風ピッツァクラスト焼成装置の一例を示す概略図である。図1において、1は本発明のナポリ風ピッツァクラスト焼成装置であり、2はオーブン、2aはオーブン2の入口、2bはオーブン2の出口である。3は耐熱性の無端ベルト、4は駆動ローラ、5は従動ローラ、6、6、6・・・はプレートであり、プレート6、6、6・・・の上には、例えば円形などの所定の形状に成形された生地7、7、7・・・が載置されている。8は、オーブン2の外であって、オーブン2の入口2aの近傍に設けられた予熱手段である。予熱手段8としては、プレート6を予熱することができる限り、どのような加熱原理に基づくものであっても良いが、ガスバーナー、電気ヒータ、電磁誘導加熱装置などの汎用されている加熱手段を予熱手段として用いるのが好ましい。
【0024】
9は過熱水蒸気吹付手段であり、オーブン2の内側であって、オーブン2の入口2aの近傍に設けられている。10は過熱水蒸気を発生させるボイラー、11はボイラーで発生した過熱水蒸気をさらに所定の温度まで加熱する加熱装置である。ボイラー10が発生する過熱水蒸気の温度が十分に高い場合には、加熱装置11は不要である。なお、過熱水蒸気の発生装置はボイラー10に限られない。過熱水蒸気を発生させることができる限り、どのようなものを用いても良く、例えば電磁誘導加熱装置を用いて過熱水蒸気を発生させても良い。
【0025】
上記のような本発明のナポリ風ピッツァクラストの焼成装置は以下のように動作する。すなわち、生地7を載せたプレート6を無端ベルト3上に載置して、駆動ローラ4を作動させると、無端ベルト3は図中右から左に向かって進行し、生地7を載せたプレート6をオーブン2の入口2aに向かって移送する。生地7を載せたプレート6が予熱手段8に対応する位置、すなわち、予熱手段8の直上の位置に来たときに駆動ローラ4は停止する。
【0026】
生地7を載せたプレート6が予熱手段8の直上に来て停止すると、予熱手段8が作動して、予熱手段8の直上に位置するプレート6を予熱する。予熱温度及び時間は、ピッツァクラストの焼き上がり状態を見て適宜調節することができる。予熱温度は、通常は、200〜600℃、好ましくは400〜500℃の範囲とするのが良い。予熱時間は、予熱手段8が発生する熱量の多寡や、プレートを構成する材料の種類や厚さにも依存するが、通常、3〜15秒程度、好ましくは4〜10秒程度とするのが良い。なお、予熱時間は、予熱手段8の動作時間を調節することで調節するようにしても良いし、予熱手段8を常に作動させておいて、プレート6が予熱手段8の直上に位置する時間を調節することによって調節するようにしても良い。
【0027】
プレート6の予熱が完了すると、駆動ローラ4が作動して無端ベルト3を予め定められた一定距離だけ進行させ、予熱が完了したプレート6を入口2aからオーブン2内へと移送し、プレート6が過熱水蒸気吹付手段9に対応する位置、すなわち、過熱水蒸気吹付手段9の直下に来たときに無端ベルト3を停止させる。因みに、上記一定距離とは、予熱手段8と過熱水蒸気吹付手段9との間隔に対応しており、無端ベルト3上に載せるプレート6の間隔を、上記一定距離と同じにすることによって、予熱を完了した先行するプレート6が過熱水蒸気吹付手段9の直下の位置に停止したときには、生地7を載せた後続するプレート6は予熱手段8の直上に位置することになる。
【0028】
予熱が完了したプレート6が過熱水蒸気吹付手段9の直下に停止すると、過熱水蒸気吹付手段9が作動して、プレート6の上に載せられている生地7の上面に向かって過熱水蒸気を吹き付ける。過熱水蒸気は、対象物の生地7に衝突し、生地表面が100℃以上に達するまでは顕熱とともに潜熱を生地7に与え、同時に凝縮して水分を生地表面に与えて生地7の表面が乾くことを防止する。また、生地7を載せたプレート6は既に予熱されているので、プレート6がオーブン2内に入ると同時に、オーブン2の熱はプレート6を介して下面から生地7に伝えられ、焼成が始まるとともに、生地7に含まれている発酵によって生じた炭酸ガスは一気に気泡となって膨張し、生地7を持ち上げ、十分な釜伸びが達成される。
【0029】
生地7の表面に吹き付ける過熱水蒸気の温度は、通常は200〜600℃の範囲の温度が良く、400〜500℃の範囲がより好ましい。過熱水蒸気を吹き付ける時間は、焼き上がったピッツァクラストの状態をみて適宜調整すれば良いが、通常は、1〜10秒程度が好ましく、より好ましくは3〜7秒程度である。また、生地上面に吹き付ける過熱水蒸気の圧力は、1〜1.5kg/cm程度であるのが好ましい。
【0030】
なお、先行するプレート6上の生地7に過熱水蒸気が吹き付けられている間に、生地7を載せた後続するプレート6は、前述したとおり予熱手段8の直上に位置しており、予熱手段8による予熱を受けている。このように、本例のナポリ風ピッツァクラストの焼成装置1においては、予熱手段8によるプレート6の予熱と、過熱水蒸気吹付手段9による先行するプレート6上の生地7への過熱水蒸気の吹付とは、無端ベルト3の間欠動作と同期して行われることになる。
【0031】
以上のようにして過熱水蒸気の吹付が完了すると、駆動ローラ4が作動して、無端ベルト3をさらに一定距離だけオーブン2の出口2b方向へと移動させ、過熱水蒸気の吹き付けが完了した生地7を載せたプレート6をオーブン2内へと移送し、予熱が完了した後続するプレート6を過熱水蒸気吹付手段9の直下に位置させる。オーブン2内に移動したプレート6上の生地7には、オーブン2の熱がその上下面から伝達され、焼成が進行する。プレート6がオーブン2内を入口2aから出口2bに向かって間欠的に移送され、オーブン2内を通過する間に、生地7の焼成は完了し、ピッツァクラストが焼成される。焼成されたピッツァクラストは、一般的な量産型のピッツァクラストに比べて生地表層部が薄く、サクッとした食感になり、内層部はふっくらとモチモチしたいわゆるナポリピッツァに非常に近いものとなる。
【0032】
なお、上記の例では、オーブン2として、オーブン2内を生地7を載せたプレート6を間欠的にショット移動させるショット移動式のオーブンを用いているが、オーブン2としては、生地7を載せたプレート6がオーブン2内を連続的に移動する連続移動式のオーブンを用いても良いことは勿論である。
【実施例1】
【0033】
図1に示したナポリ風ピッツァクラスト焼成装置において、予熱手段として電気ヒータ(50kw)を用い、過熱水蒸気吹付手段9は作動させずに、オーブン内を流れる生地量を1時間あたり90kg(一枚あたり150g×600枚)、プレートはステンレス製プレート、電気ヒータによる予熱時間は7秒、オーブン内温度350℃、オーブン通過時間2分30秒で、ナポリ風ピッツァクラストを焼成した。
【実施例2】
【0034】
予熱手段としての電気ヒータを作動させる代わりに、過熱水蒸気吹付手段を作動させた以外は、実施例1と同様にしてナポリ風ピッツァクラストを焼成した。なお、過熱水蒸気の温度は500℃、吹付時間は7秒であった。
【実施例3】
【0035】
電気ヒータによる予熱に加えて、実施例2で用いた過熱水蒸気吹付手段を作動させた以外は、実施例1と同様にしてナポリ風ピッツァクラストを焼成した。
【比較例】
【0036】
電気ヒータを作動させず、プレートの予熱を行わないこと以外は実施例1と同様にしてナポリ風ピッツァクラストを焼成した。
【0037】
実施例1〜3及び比較例で焼成されたピッツァクラストを各10枚無作為に選択し、ピッツァクラストの下面、上面、及び内層の状態を目視観察するとともに、喫食してその食感を調べた。なお、目視観察及び食感の評価結果は各実施例及び比較例において調査した10枚全てにおいて一致した結果となった。結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に示すとおり、プレートの予熱だけを行った実施例1のピッツァクラストにおいては、クラスト下面の焼け具合は良好であったものの、過熱水蒸気を生地上面に吹き付けなかったために、生地表面が乾燥し、焼きが浅く、やや固い結果になった。また、生地表面が乾燥し固くなったために、釜伸びがそれほどでもなく、内層の膨らみ具合は普通であった。また、その食感は、サクッとはしているものの、やや内層部のモチモチ感に欠ける結果となった。
【0040】
一方、プレートの予熱は行わず、過熱水蒸気の吹付だけを行った実施例2のピッツァクラストにおいては、過熱水蒸気が吹き付けられ、乾燥が免れたために、生地上面の焼け具合は良好であったものの、プレートを予熱していないので、下面の焼け具合がやや浅く、内層の膨らみ具合は普通であった。また、その食感は、実施例1におけるピッツァクラストと同様に、サクッとはしているものの、やや内層部のモチモチ感に欠ける結果となった。
【0041】
これに対して、プレートの予熱と過熱水蒸気の吹付の両方を行った実施例3のピッツァクラストにおいては、下面、上面ともにクラストの焼け具合は良好で、内層の膨らみ具合も良好であった。また、その食感は、サクッとしており、且つ、内層部はふんわりとモチモチしており、薪を燃料とする石窯で焼成されたナポリピッツァに劣らないものであった。
【0042】
また、プレートの予熱も過熱水蒸気の吹付も行わない比較例のピッツァクラストにおいては、下面、上面ともにクラストの焼け具合は浅く、特に上面は固く乾燥しており、内層の膨らみ具合も不良であった。また、その食感は、サクッと感も、内層部のモチモチ感もなく、薪を燃料とする石窯で焼成されたナポリピッツァとは比べものにならないものであった。
【0043】
以上のとおり、プレートの予熱か、過熱水蒸気の吹付のいずれかを行うことによって、そこそこの焼け具合で、サクッと感と、ある程度のモチモチ感のあるナポリ風ピッツァクラストを大量且つ連続的に焼成することができる。また、プレートの予熱と過熱水蒸気の吹付の双方を行う場合には、クラストの焼け具合も良く、食感において薪を燃料とする石窯で焼成されたナポリピッツァに劣らないナポリ風ピッツァクラストを、効率良く、大量且つ連続的に安価に焼成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明のナポリ風ピッツァクラストの焼成方法及び焼成装置によれば、これまで石窯で一枚一枚焼成することによって得られていたナポリピッツァに劣らない食感を有するナポリ風ピッツァクラストを、効率良く、大量且つ連続的に安価に焼成することができる。本発明のナポリ風ピッツァクラストの焼成方法及び焼成装置は、本格化する消費者の嗜好を満足させるものであり、多大なる産業上の利用可能性を有するものである。
【符号の説明】
【0045】
1 ナポリ風ピッツァクラスト焼成装置
2 オーブン
3 無端ベルト
4 駆動ローラ
5 従動ローラ
6 プレート
7 生地
8 予熱手段
9 過熱水蒸気吹付手段
10 ボイラー
11 加熱手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成形したピッツァクラストの生地をプレートに載せてオーブン内を通過させながら焼成するナポリ風ピッツァクラストの焼成方法であって、前記生地を載せたプレートをオーブン外からオーブン内へと移送する工程と、前記生地を載せたプレートがオーブン内に入った直後に前記生地の上面に過熱水蒸気を吹き付ける工程と、オーブン内で前記生地を焼成する工程とを含むことを特徴とするナポリ風ピッツァクラストの焼成方法。
【請求項2】
過熱水蒸気の温度が200〜600℃である請求項1記載のナポリ風ピッツァクラストの焼成方法。
【請求項3】
成形したピッツァクラストの生地をプレートに載せてオーブン内を通過させながら焼成するナポリ風ピッツァクラストの焼成方法であって、前記生地を載せたプレートをオーブン外からオーブン内へと移送する工程と、前記生地を載せたプレートがオーブン内に入る直前に前記生地を載せたプレートを予熱する工程と、オーブン内で前記生地を焼成する工程とを含むことを特徴とするナポリ風ピッツァクラストの焼成方法。
【請求項4】
成形したピッツァクラストの生地をプレートに載せてオーブン内を通過させながら焼成するナポリ風ピッツァクラストの焼成方法であって、前記生地を載せたプレートをオーブン外からオーブン内へと移送する工程と、前記生地を載せたプレートがオーブン内に入る直前に前記生地を載せたプレートを予熱する工程と、前記生地を載せたプレートがオーブン内に入った直後に前記生地の上面に過熱水蒸気を吹き付ける工程と、オーブン内で前記生地を焼成する工程とを含むことを特徴とするナポリ風ピッツァクラストの焼成方法。
【請求項5】
過熱水蒸気の温度が200〜600℃である請求項4記載のナポリ風ピッツァクラストの焼成方法。
【請求項6】
入口と出口を有し加熱手段を備えたオーブンと、その上に生地が載せられるプレートを前記オーブン内を入口から出口へと向かって通過させる移送手段と、前記プレートに載せられた生地の上面に向かって過熱水蒸気を吹き付ける過熱水蒸気の吹付手段であって前記オーブン内の入口近傍に設けられた吹付手段及び/又は前記プレートを予熱する予熱手段であって前記オーブン外で前記オーブンの入口近傍に設けられた予熱手段とを備えているナポリ風ピッツァクラストの焼成装置。

【図1】
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【公開番号】特開2012−165687(P2012−165687A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29123(P2011−29123)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(506321436)株式会社三輪 (5)
【Fターム(参考)】