説明

ニゲロース含蜜結晶およびその製造方法、結晶ニゲロースおよびその製造方法、ならびに粉末ニゲロース

【課題】結晶ニゲロースおよびそれを含有する含蜜結晶、ならびに吸湿性の低い粉末ニゲロースを提供すること。
【解決手段】ニゲロースを含む糖溶液から結晶ニゲロースを析出させるニゲロース含蜜結晶の製造方法。前記糖溶液は、固形分当たり85質量%以上のニゲロースを含み、かつ、ニゲロース以外の二糖類を固形分当たり10質量%以下含む。純度85%以上の結晶ニゲロース。純度85%以上の結晶ニゲロースを含むニゲロース含蜜結晶。結晶ニゲロースを80質量%以上含有する粉末ニゲロース。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶ニゲロースおよびそれを含有する含蜜結晶の製造方法、吸湿性の低い粉末ニゲロースに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ニゲロースは、1950年代にアスペルギルス・ニガー由来の微生物多糖であるニゲランの酸加水分解物中よりその構成単位の一つとして見出された、グルコースを構成糖とするα−1,3−グルコシド結合を有する二糖類であり、天然にはほとんど存在しない[非特許文献1]。
【0003】
ニゲロースは、日本では清酒や麹汁中から単離され、非発酵性糖のサケビオースとして呼ばれていた[非特許文献2]。この名称が指し示すように、ニゲロースは、清酒、みりん、味噌、ビールそして麹汁のような醗酵食品に含まれている。その他にハチミツなどわれわれが日常的に摂取してきた飲料や食物中にその存在が確認され、これらの芳醇なコク味を形成する重要な糖質として知られている。
【0004】
ニゲロースを含むニゲロオリゴ糖は、食品の二次機能改善効果として、低塩下での旨味保持や高甘味度甘味料の異味改善などの味質改善機能[特許文献1、特許文献2]、そしてアントシアニン系色素の退色抑制効果を持つことが知られている[特許文献3]。すなわち、ニゲロースを含むニゲロオリゴ糖は、特有の味質のため塩なれ効果を有すると同時に、低塩下での旨味保持さらには旨味増強をも可能とするほか、保存中の温度や光の影響により退色しやすいアントシアニン系色素が紫外線や太陽光、そして温度による退色を抑制する効果を持つ。
【0005】
ニゲロースを含むニゲロオリゴ糖の三次機能としては、抗う蝕性[非特許文献3]および免疫賦活・調節作用の生理活性が報告されている[特許文献3]。このような有用な機能を持つニゲロースの製法は、これまでに有機合成法[非特許文献4]、微生物多糖のエルシナンやニゲランの分解、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼによる糖転移反応、あるいはグルコアミラーゼによる縮合反応、α−1,3−およびα−1,6−グルコシド結合からなる環状四糖に酢酸を作用させ得る方法[非特許文献5]などを用いた方法が報告されている。現在までに最も経済性に優れた方法としては、デンプンを原料として酵素的に糖転移反応・縮合反応を利用する方法が開示されている[特許文献4、特許文献5]。
【0006】
しかしながら、これらに記載された方法によって得られるニゲロースは、液状または非晶質の粉末である。この非晶質の粉末は、吸湿性が高く粉末状態を維持することが極めて困難であり、容易にベタ付いてしまい、いわゆる泣き現象を起こしてしまうため、粉末としての安定性に欠けるものであった。そのため、このような非晶質ニゲロースを使用する場合には、乾燥剤の併用や凍結保存の必要があった。
【0007】
一方、ロイコノストック・メセンテロイデスB株由来のデキストランを酢酸分解し、活性炭カラムでニゲロースを分離後、80%メタノール中で保存することにより結晶ニゲロースが生成したと報告がある[非特許文献6]。
しかしながら、この報告には、ニゲロースの純度や濃度などの結晶化条件の記載が一切ない。さらに、この報告後、結晶ニゲロースまたはそれを含有する含蜜結晶を生成した報告はなく、K.Takeo and S.Matsuzakiらの報告では、ニゲロースは非晶質の粉末として得られ、結晶化することができなかったと記載されている[非特許文献7]。
【0008】
このように、結晶ニゲロースまたはそれを含有する含蜜結晶を得る方法は全く確立されておらず、工業的生産は不可能であった。また、粉末ニゲロースの吸湿性を改善し、安定化する方法は知られていなかった。
【非特許文献1】S.A.Barker,E.J.Bourne,M.Stacey,Studies of Aspergillus niger.Part I.The structure of the polyglucosan synthesized by Aspergillus niger 152,J.Chem.Soc.,(1953)3084−3090.
【非特許文献2】松田和雄,麻生清,非醗酵性糖に関する研究(第4報)清酒並びに米麹汁中のunfermentable disaccharideについて,醗工,31(1953)211−213.,松田和雄,廣島吾郎,柴崎一雄,麻生清,非醗酵性糖に関する研究(第11報)清酒及び米麹汁中のunfermentable disaccharideについて(III),sakebioseとnigerose及びy−sugarの同定,醗工,32(1954)498−501.
【非特許文献3】S.Imai,K.Takeuchi,K.Shibata,S.Yoshikawa,S.Kitahata,S.Okada,S.Araya,T.Nishizawa,Screening of sugers inhibitory against sucrose−dependent synthesis and adherence of insoluble glucan and acid production by Streptococcus mutans,J.Dent.Res.,63 (1984)1293−1297.
【非特許文献4】K.Takeo,S.Kitamura,Y.Murata,Synyhesis of nigero−oligosacharides,Crabohydr.Res.,224(1992)111−122.
【非特許文献5】日本農芸化学会2003年度大会講演要旨集 p68
【非特許文献6】F.Yamauchi,K.Matsuda,Crystalline・−Nigerose,Nature,204(1964)1088.
【非特許文献7】Crabohydr.Res.,113(1983)281−289.
【特許文献1】特開平10−210949号公報
【特許文献2】特開平10−234331号
【特許文献3】特許第3364442号明細書
【特許文献4】特開平9−299095号公報
【特許文献5】特開2003−169665号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、結晶ニゲロースおよびそれを含有する含蜜結晶、ならびに吸湿性の低い粉末ニゲロースを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、高純度化されて夾雑二糖類含有量が低減されたニゲロースを用いて結晶化を行うことにより、従来結晶化が不可能と考えられていたニゲロースを結晶化させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、上記目的を達成する手段は、以下の通りである。
[請求項1]ニゲロースを含む糖溶液から結晶ニゲロースを析出させるニゲロース含蜜結晶の製造方法であって、
前記糖溶液は、固形分当たり85質量%以上のニゲロースを含み、かつ、ニゲロース以外の二糖類を固形分当たり10質量%以下含むことを特徴とする、前記方法。
[請求項2]前記糖溶液の固形分濃度が55質量%以上である請求項1に記載の方法。
[請求項3]前記糖溶液の溶媒は、水、エタノール、およびメタノールからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1または2に記載の方法。
[請求項4]前記糖溶液の溶媒は、80容量%未満のメタノールを含むメタノール水溶液である請求項3に記載の方法。
[請求項5]前記結晶の析出は、種結晶存在下で行われる請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
[請求項6]起晶および/または育晶のための冷却工程を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
[請求項7]前記ニゲロース含蜜結晶を粉末化することを含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
[請求項8]請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により得られたニゲロース含蜜結晶から分蜜することにより結晶ニゲロースを得ることを特徴とする結晶ニゲロースの製造方法。
[請求項9]前記結晶ニゲロースを粉末化することを含む請求項8に記載の方法。
[請求項10]純度85%以上の結晶ニゲロース。
[請求項11]食品、飼料、餌料、化粧品、または医薬品に使用するための請求項10に記載の結晶ニゲロース。
[請求項12]純度85%以上の結晶ニゲロースを含むニゲロース含蜜結晶。
[請求項13]食品、飼料、餌料、化粧品または医薬品に使用するための請求項12に記載のニゲロース含蜜結晶。
[請求項14]結晶ニゲロースを80質量%以上含有する粉末ニゲロース。
[請求項15]前記結晶ニゲロースの純度は85%以上である、請求項14に記載の粉末ニゲロース。
[請求項16]分蜜液および/またはニゲロース以外の糖類を1種以上含有する請求項14または15に記載の粉末ニゲロース。
[請求項17]前記分蜜液および/またはニゲロース以外の糖類が、ブドウ糖、果糖、トレハロース、コージビオース、マルトース、イソマルトース、乳糖、水あめ、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、デキストリン、および糖アルコールからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項16に記載の粉末ニゲロース。
[請求項18]食品、飼料、餌料、化粧品または医薬品に使用するための請求項14〜17のいずれか1項に記載の粉末ニゲロース。
【発明の効果】
【0011】
本発明の方法によれば、結晶性ニゲロースおよびそれを含有するニゲロース含蜜結晶を得ることができる。
更に、本発明によれば、結晶ニゲロースを含有するきわめて吸湿性の低い粉末ニゲロースを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。

本発明のニゲロース含蜜結晶の製造方法は、ニゲロースを含む糖溶液から結晶ニゲロースを析出させるニゲロース含蜜結晶の製造方法であって、前記糖溶液は、固形分当たり85質量%以上のニゲロースを含み、かつ、ニゲロース以外の二糖類を固形分当たり10質量%以下含むことを特徴とする。ここで、「ニゲロース含蜜結晶」とは、結晶ニゲロースを含む含蜜結晶をいうものとする。
【0013】
本発明において使用される原料ニゲロースは、特に限定されず、公知の方法によって得られたものであることができる。具体的には、例えば、経済性に優れたデンプンを原料として酵素的に糖転移反応・縮合反応を利用する方法(特開平9−299095号公報、特許第3364442号明細書参照)、α−1,3−およびα−1,6−グルコシド結合からなる環状四糖に酢酸を作用させ得る方法(日本農芸化学会2003年度大会講演要旨集p.68参照)によって得られたニゲロースを用いることができる。また、試薬として市販されているニゲロースを必要に応じて精製して用いることができる。
【0014】
本発明では、原料ニゲロースを適当な溶媒に溶解して糖溶液を調製する。前記糖溶液は、固形分当たり85質量%以上のニゲロースを含み、かつ、ニゲロース以外の二糖類含有量が固形分当たり10質量%以下である。前述の方法によって調製されたニゲロースまたは市販のニゲロースが所望の純度を有する場合には、そのまま糖溶液の調製に用いることができる。また、ニゲロース以外の夾雑糖類、特に夾雑二糖類を、イオン交換樹脂、シリカゲルや活性炭を用いたカラムクロマトグラフィーによる分画、アルコールやアセトンなどの有機溶媒による分別、適度な分離性能を有する膜による分離により除去して原料ニゲロースを高純度化することができる。また、ニゲロースを利用せず夾雑糖類を資化または分解する微生物、例えば乳酸菌、酢酸菌、酵母などによる発酵処理、ニゲロースを分解せず夾雑糖類を分解する酵素、例えばグルコアミラーゼなどによる酵素処理の1種または2種以上の方法により夾雑糖類、特に夾雑二糖類を除去することにより、原料ニゲロースを高純度化することもできる。なお、糖組成は、例えば高速液体クロマトグラフィー等の公知の方法で求めることができる。
【0015】
上記のように必要に応じて高純度化した原料ニゲロースを用いて調製された糖溶液は、固形分当たりのニゲロース含有量が85質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは91〜99質量%である。また、原料ニゲロースのニゲロース以外の二糖類の含有量は、10質量%以下であり、好ましくは8質量%以下、より好ましくは0.5〜6質量%である。原料ニゲロース中のニゲロース含有量が85質量未満、ニゲロース以外の二糖類の含有量が10質量%を越えると、結晶を析出させることが困難となる。
【0016】
結晶析出のために使用する糖溶液は、原料ニゲロースを適当な溶媒に溶解することによって調製することができる。原料ニゲロース溶解時には、溶液を加温することが好ましい。溶液の加温温度は適宜設定することができる。
【0017】
結晶化を容易に行うためには、糖溶液は、ニゲロースの過飽和溶液であることが好ましい。具体的には、固形分濃度が55質量%以上のニゲロース過飽和溶液であることが好ましく、固形分濃度75質量%以上のニゲロース過飽和溶液であることが更に好ましく、固形分濃度75〜90質量%のニゲロース過飽和溶液であることがより一層好ましい。
【0018】
糖溶液の溶媒としては、水、エタノール、およびメタノールからなる群から選ばれる少なくとも一種を用いることができ、エタノール水溶液またはメタノール水溶液を用いることが好ましい。エタノール水溶液およびメタノール水溶液の濃度は、適宜設定することができる。本発明では、例えば、2容量%以上、好ましくは5〜99容量%のエタノールを含むエタノール水溶液、80容量%未満、好ましくは2〜79容量%のメタノールを含むメタノール水溶液を用いることができる。
【0019】
本発明では、前記糖溶液を、例えば室温(例えば10〜40℃程度)において、静置下で放置することにより、糖溶液から結晶ニゲロースを析出させることができる。また、糖溶液を助晶缶にとり、必要に応じて温度制御を行いながら徐冷することにより、結晶ニゲロースを含む含蜜結晶(ニゲロース含蜜結晶)をマセキットとして得ることができる。
【0020】
結晶の析出は、結晶ニゲロースまたはニゲロース含蜜結晶を種結晶として含む糖溶液を用いて行うことが好ましい。種結晶の量は、適宜調整することができる。また、糖溶液からの起晶および/または育晶を容易に行うためには、糖溶液を冷却することが好ましい。冷却温度は、適宜設定することができる。
【0021】
得られる結晶の大きさは、静置時間等によって調整することができる。本発明によれば、例えば、長さおよび幅がそれぞれ100μm以上になるまで結晶ニゲロース(ニゲロース単結晶)を成長させることができる。分蜜等の後工程の容易さを考慮すると、長さ1〜100μm、幅1〜50μm、更には長さ10〜50μm、幅1〜30μmの範囲まで起晶および/または育晶させることが好ましい。
【0022】
得られたマセキットは、分蜜方法、ブロック粉砕方法、流動造粒方法、噴霧乾燥方法等の公知の方法で処理することができる。マセキットを分蜜工程に付してニゲロース以外の糖成分を除去(分蜜)することにより、結晶ニゲロースを得ることができる。分蜜は公知の方法で行うことができる。例えばマセキットを遠心分離して得られた結晶成分を洗浄、乾燥することにより、ニゲロース含蜜結晶から結晶ニゲロースを精製することができる。こうして得られた結晶ニゲロースは、更に例えば前述の公知の方法によって粉末化することもできる。また、分蜜方法を行わずにマセキットを粉末化することにより、粉末ニゲロース、即ち、結晶ニゲロースと分蜜液とを含有するニゲロース含蜜結晶粉末を得ることができる。また、マセキットに他の糖類を添加した後に粉末化することも可能である。また、マセキットを分蜜工程に付した後に他の糖類を添加して粉末化することもできる。こうして得られた粉末ニゲロースは、結晶ニゲロースを80質量%以上含有するものであることができ、結晶ニゲロース以外の成分として、分蜜液および/またはニゲロース以外の糖類を含有するものであることができる。分蜜液および/または他の糖類は、ブドウ糖、果糖、トレハロース、コージビオース、マルトース、イソマルトース、乳糖、水あめ、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、デキストリン、および糖アルコールからなる群から選ばれる少なくとも一種を含むものであることができる。
【0023】
本発明の方法により、純度85%以上、好ましくは純度90〜99.9%の結晶ニゲロースおよびそれを含むニゲロース含蜜結晶を得ることができる。なお、ここで純度とは、質量%をいうものとする。結晶ニゲロースおよびそれを含むニゲロース含蜜結晶の粉末は、非晶質のニゲロース粉末と比べて吸湿性が低く取り扱いが容易である。吸湿性が低いとは、空調された通常の室内にて粉末ニゲロースを取り扱った場合、容易にべた付かず泣きや潮解が起こらないことをいう。より具体的には、例えば25℃、相対湿度65%の環境に放置した場合、7%以上の重量変化や潮解を起こさないことを意味する。
【0024】
結晶ニゲロースおよびそれを含有する含蜜結晶は、他の甘味成分と混合して使用することもできる。例えば、ショ糖、水飴、粉飴、ブドウ糖、果糖、マルトース、異性化糖、乳糖、蜂蜜、カップリングシュガー、フラクトシルオリゴ糖等の各種糖類、エリスリトール、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、マンニトール、ラクチトール、還元キシロオリゴ糖、還元グルコースシラップ等の糖アルコール、アスパルテーム、アリテーム、サッカリン、グリチルリチン、ステビオシド、レバウディオシド、スクラロース、アセスルファムK等の高甘味度甘味、グリシン、アラニンなどの甘味料から選ばれた1種又は2種以上と組み合わせて用いることができる。また、必要ならば、デキストリン、澱粉などのような増量剤と混合して使用することもできる。
【0025】
結晶ニゲロースおよびそれを含有する含蜜結晶は、無毒、無害の甘味料で、芳醇で深み・コク味を有する独特の甘味を呈する白色の粉末または固形物である。耐熱性、耐酸性にも優れた安定な糖質であり、加熱により適度に着色し、他の素材と混合し加工しても異臭などを発生することはなく、混合した他の素材を損なうこともほとんどない。また、浸透圧調節性、賦形性、照り付与性、保湿性、粘性、離水防止性、固結防止性、保香性、変色防止性、安定性、他の糖の晶出防止性、難醗酵性、デンプン老化防止性、蛋白質変性防止性、脂質劣化防止性など種々の性質をも具備している。したがって、結晶ニゲロースおよびそれを含有するニゲロース含蜜結晶は、そのままで、または他の甘味成分と混合して、甘味料、難醗酵性食品素材、呈味改良剤、風味改良剤、品質改良剤、離水防止剤、保香剤、変色防止剤、脂質劣化防止剤、安定剤、賦形剤、粉末化基材などとして好適に用いることができる。さらに結晶ニゲロースおよびそれを含有するニゲロース含蜜結晶は吸湿性が低く粉末状でも付着・固結防止性を有していることから、プルラン、ヒドロキシエチルスターチおよびポリビニルピロリドンなどの1種または2種以上の結合剤と併用して錠剤や糖衣錠として利用することもできる。このため、そのまま、または必要に応じて公知材料と適宜併用して、各種飲食物、嗜好物、飼料、餌料、化粧品、医薬品等の各種組成物に有利に利用できる。公知の材料としては、例えば、呈味料、着色料、着香料、強化剤、乳化剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、または薬効成分など適宜利用できる。
【0026】
さらに、結晶ニゲロースおよびそれを含有するニゲロース含蜜結晶は、通常の飲食物の甘味付けや呈味改良、風味改良、品質改良等の効果の他、塩味や他の旨味をまろやかにしつつ引き立てる効果も有しているので、例えば、醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、各種ふりかけ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼肉等のタレ、カレールウ、シチューの素、だしの素、各種複合調味料、みりん、新みりん、テーブルトップシュガー、コーヒーシュガー、中華の素、天つゆ等の各種調味料、合成酒、造醸酒、清酒、果実酒、発泡酒、ビールなどの酒類、コーヒー、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳酸菌飲料などの清涼飲料などに有効に使用することができる。
【0027】
また、低甘味で非常に上品な甘味を有し、甘味付けとしてだけでなく、甘味質、味質の改善効果も有し、更に、艶出し効果や蛋白質変性防止効果、賦コク等の効果も有しているので、煎餅、あられ、かりん糖、おこし、餅類、饅頭、求肥、餡類、羊羮、ゼリー、カステラ、飴玉、パン、パイ、クラッカー、ビスケット、プリン、ワッフル、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、スポンジケーキ、ドーナツ、アイスクリーム、シャーベット等の各種飲食物や、フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト等のペースト類、ジャム、マーマレード等の各種ジャム類、福神漬、千枚漬、らっきょう漬等の漬物類、ハム、ソーセージ、蒲鉾、ちくわ等の畜産練製品、水産練製品及びその原材料のすり身、各種珍味類、佃煮等に用いることができる。上記のような飲食物等に含有させるには、その飲食物等の任意の製造工程において、例えば、混和、混捏、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、被覆、噴霧、注入、晶出、固化、造粒等の公知の方法を適宜選択して行うことができる。上記したような効果の他に、飲食品成分の結晶化防止、アミラーゼ、グリコシダーゼ、リパーゼ、プロテアーゼなどの酵素安定化等の効果も有している。
【0028】
結晶ニゲロースおよびそれを含有する含蜜結晶は、家畜、家禽、その他、ミツバチ、蚕、魚などの飼育動物ための飼料、餌料などの嗜好性向上のほか、免疫賦活能、ナチュラルキラー細胞活性化能、QOL(Quality of Life)向上能などの性質を有することから、感染症防止、滋養強壮、健康維持、ストレス低減などの目的にも使用できる。上記のような飼料、餌料などに使用する場合、トウモロコシ、マイロ、大麦などの穀類、グルコースやデンプンなどの他の糖質、植物や動物由来の蛋白質、リジン、スレオニンやトリプトファンのアミノ酸類、ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンB12、ビタミンEなどのビタミン類、ホルモン類、抗生物質などと混合して使用することができる。
【0029】
結晶ニゲロースおよびそれを含有する含蜜結晶は、他の天然糖質と同様に皮膚へ適用した場合、低刺激性かつ皮膚の水分保持にも奏功するので、皮膚外用組成物に配合して使用することができる。例えば、化粧品として、油脂、アルコール類、界面活性剤、色素、香料、ホルモン類、ビタミン類、動物エキス、植物エキス、微生物エキス、塩類、紫外線吸収剤、抗酸化剤、殺菌剤、制汗剤、消臭剤、清涼剤、糖類、キレート剤、増粘剤などから適宜選ばれる1種または2種以上とともに配合することができる。
【0030】
結晶ニゲロースおよびそれを含有する含蜜結晶は、輸液製剤、経腸栄養剤などの医薬品にも適用できる。結晶ニゲロースおよびそれを含有する含蜜結晶は、結晶グルコースや結晶マルトースと同様のカロリーを持つことや、免疫賦活能、ナチュラルキラー細胞活性化能、インターロイキン−12産生誘導能、QOL向上能などの性質を具備することから、栄養補給、栄養管理、感染症防止、体調維持などの目的に使用できる。上記のような輸液製剤に使用する場合、グルコース、フルクトース、ソルビトール、キシロースなどの他の糖質、リジン、バリン、イソロイシンなどの必須アミノ酸やアラニン、アルギニン、プロリンなどのアミノ酸類のほか、脂質、ミネラル、ビタミン、微量元素などと混合して使用することができる。
【0031】
前述のように、ニゲロースは、免疫賦活能、ナチュラルキラー細胞活性化能、インターロイキン−12産生誘導能、QOL向上能などの諸特性を有し、これらの特性を利用して、栄養補給、栄養管理、滋養強壮、健康維持、感染症防止、体調維持、ストレス低減などの目的で、食品、医薬品、飼料、餌料等に添加することができる。本発明の結晶ニゲロース、ニゲロース含蜜結晶および粉末ニゲロースは、吸湿性が低く取り扱いが容易であるため、食品、医薬品、飼料、餌料の調製に好適に用いることができる。更に、優れた保存性および安定性を有するため、例えば錠剤や粉末薬のように調製後も結晶性を維持した状態で使用、流通される用途に好適である。
【0032】
なお、上記目的でニゲロースを使用する場合の使用量およびその効果については、以下の文献を参照することができる。
特許3396129号明細書、特開平11−228425号公報、特開2001−064174号公報、特開2002−080364号公報、特開2002−265366号公報、特開2002−265385号公報、特開2002−325555号公報、Biosci Biotechnol Biochem 63: 373-8,1999)、Int Immunopharmacol 2: 151-9, 2002、薬理と治療 29: 815-26,2001、薬理と治療 30:81-90, 2002.
【実施例】
【0033】
以下に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりなんら限定されるものではない。

[参考例1]
ニゲロースの調製(1)
ニゲロオリゴ糖を固形分あたり40%以上含有する市販ニゲロオリゴ糖含有シラップ(日食テイストオリゴ、日本食品化工(株)製)を原料に、以下のようにニゲロースを調製した。固形分が7%になるようにテイストオリゴを水で溶解した液にパン酵母を接種し、室温にて24時間醗酵させテイストオリゴ中に含まれるグルコース、マルトースそしてマルトトリオースを資化後、グルコアミラーゼを添加し糖化液中のデキストリンやマルトオリゴ糖をグルコースにまで分解させ共存する酵母により随時醗酵させ、ニゲロオリゴ糖を固形分当たり95%含有する水溶液を得た。この水溶液を活性炭による脱色、イオン交換樹脂による精製を行った後、固形分濃度50%まで濃縮し、ニゲロオリゴ糖を95%含有するシラップを得た。このシラップをあらかじめ水で平衡化された活性炭カラムに供し、グルコースを除去後2%エタノール溶液によりニゲロースを溶出させた後(画分A)、5%エタノール溶液によりニゲロースと他の糖を溶出させた(画分B)。溶出した画分AとBを回収し、それぞれろ過、濃縮操作によるエタノールを除去、イオン交換樹脂による精製後、凍結乾燥し非結晶状の粉末を画分A 200g、画分B 300gを得た。それぞれの糖組成は、画分A(グルコース 2%、ニゲロース 91%、3糖類 7%)、画分B(グルコース 2%、ニゲロース 72%、3糖類 26%)であった。画分Aの粉末を粉末X線回析法により回析X線を測定したところ、図1に示されるように回折を示さなかった。糖組成の分析方法は、高速液体クロマトグラフィーを用い、分析条件は以下の通りである。

カラム : Shodex Asahipak NH2P−50 4E(4.6mmID×250mm)
溶離液 : アセトニトリル/水=75/25
流速 : 0.9 ml/min
検出器 : 示差屈折計
カラム温度 : 30℃
【0034】
[参考例2]
ニゲロースの調製(2)
ニゲロオリゴ糖を固形分あたり40質量%以上含有する市販ニゲロオリゴ糖含有シラップ(日食テイストオリゴ、日本食品化工(株)製)を原料に、以下のようにニゲロースを調製した。固形分が7質量%になるようにテイストオリゴを水で溶解した液にパン酵母を接種し、室温にて24時間醗酵させテイストオリゴ中に含まれるグルコース、マルトースそしてマルトトリオースを資化後、グルコアミラーゼを添加し糖化液中のデキストリンやマルトオリゴ糖をグルコースにまで分解させ共存する酵母により随時醗酵させ、ニゲロオリゴ糖を固形分当たり95質量%含有する水溶液を得た。この水溶液を活性炭による脱色、イオン交換樹脂による精製を行った後、固形分濃度50質量%まで濃縮し、ニゲロオリゴ糖を95質量%含有するシラップを得た。このシラップをあらかじめ水で平行化したイオン交換カラム(樹脂,XFS−43278)に供し、2糖類画分(単糖類 11質量%、2糖類 36質量%、3糖類 53質量%)を回収した。これを固形分濃度 50質量%まで濃縮し、あらかじめ水で平衡化された活性炭カラムに供し、グルコースを除去後5容量%エタノール溶液によりニゲロースを溶出させた(画分C)。溶出した画分Cを回収し、ろ過、濃縮操作によるエタノールを除去、イオン交換樹脂による精製後、凍結乾燥し非結晶状の粉末を300g得た。その糖組成は、画分C(グルコース 1質量%、ニゲロース 86質量%、3糖類 13質量%)であった。糖組成の分析方法は、参考例1と同様に行った。
【0035】
[参考例3]
ニゲロースの調製(3)
参考例1および2で得られた画分Bと画分Cを15:85の重量比で混合した非結晶状の粉末100gを画分Dとして調製した。その糖組成は、グルコース 1質量%、ニゲロース 84質量%、3糖類 15質量%であった。糖組成の分析方法は、参考例1と同様に行った。
【0036】
[実施例1]
市販の試薬ニゲロース(粉末状)250mg(和光純薬工業(株)製(糖組成
:グルコース 0.5質量%、ニゲロース 98.7質量%、三糖類 0.2質量%、四糖類以上 0.6質量%)、シグマアルドリッチ製(糖組成:グルコース 0.8質量%、ニゲロース 96.2質量%、三糖類 0.3質量%、四糖類以上 2.7質量%))を200μlのメタノール中に加温しながら溶解した。
このニゲロース溶液を室温にて数ヶ月間放置しながら溶媒を蒸発させたところ白色の沈殿物を確認した。この沈殿物を偏光顕微鏡にて観察したところ偏光像が得られたため結晶性物質であることを確認した。また、その沈殿物を水に再溶解し、液体クロマトグラフィーにて分析したところ、試薬ニゲロースと保持時間が完全に一致したため、結晶性物質である沈殿物を結晶ニゲロースと断定した。なお、高速液体クロマトグラフィーによる分析は、参考例1と同条件で行った。
【0037】
[実施例2]
参考例1で得た粉末ニゲロース(画分A)5.1gを75容量%メタノール溶液に加温しながら溶解し固形分濃度55質量%の結晶母液を調製した。この母液に実施例1で得た結晶ニゲロースを9mg加え、室温にて放置した。放置後一晩で母液の白濁がわずかに認められ、1週間で完全に白濁したマセキットを得た。マセキットから遠心分離により分蜜を行い、結晶を洗浄後乾燥し、800mgの白色粉末を得た。この粉末は、偏光顕微鏡にて観察したところ偏光像が得られ、参考例1と同様の条件で分析したところ、その糖組成は、グルコース 0.3質量%、ニゲロース 99.7質量%であった。得られたニゲロースの融点をDSC測定によって求めたところ、154〜157℃であり、水中の旋光度は
【数1】

であった。さらに、粉末X線回析法により回析X線を測定したところ、図2に示されるような回析を示した。以上の結果から、白色粉末を結晶ニゲロースと同定した。
【0038】
[比較例1]
参考例1で得た粉末ニゲロース(画分B)6gと参考例3で得た粉末ニゲロース(画分D)5.9gを75容量%メタノール溶液に加温しながら溶解し固形分濃度82質量%の結晶母液を調製した。この母液に実施例1で得た結晶ニゲロースを12mg加え、室温にて放置した。数ヶ月間放置後、母液には白濁がわずかに認められたが、実質的に結晶を得ることはできなかった。上記母液を遠心分離により分蜜して得られた分蜜液の糖組成、固形分そして質量から、分蜜液中のニゲロース含量を求め、以下の式により結晶化率を算出したところ、結晶化率7%であった。なお、結晶化率10%以上であれば、結晶が得られたと判断することができる。
【数2】

【0039】
[実施例3]
参考例1と同様の方法を用いてニゲロース溶液を調製し、このシラップをあらかじめ水で平行化したイオン交換カラム(樹脂,XFS−43278)に供し、2糖類画分(単糖類 10質量%、2糖類 38質量%、3糖類 52質量%)を回収した。これを固形分濃度 50質量%まで濃縮し、あらかじめ2容量%エタノール溶液で平衡化された活性炭カラムに供し、グルコースを除去後2容量%エタノール溶液により緩やかにニゲロースを溶出させた(画分F)。溶出した画分Fを回収し、ろ過、濃縮操作によるエタノールを除去、イオン交換樹脂による精製後、凍結乾燥し非結晶状の粉末を230g得た。その糖組成は、画分F(グルコース 2質量%、ニゲロース 98質量%)であった。糖組成の分析は、参考例1と同様に行った。
次いで、画分Fにそれぞれ夾雑2糖類としてマルトースを6質量%、8質量%、10質量%、14質量%となるように混合したものを調製した。各マルトース混合ニゲロース5gに78容量%メタノール溶液を固形分濃度70質量%になるよう溶解した。これに実施例2にて得られた結晶ニゲロースをそれぞれ2.2mgを加え、4℃から室温で放置した。2週間放置後、遠心分離を行い分蜜して得られたニゲロース量を求め、比較例1と同様に結晶化率を求めた。
【0040】
【表1】

【0041】
[実施例4]
参考例1で得た粉末ニゲロース(画分A)5.1gを水に加温しながら溶解し固形分濃度85質量%の結晶母液を調製した。この母液に実施例2で得た結晶ニゲロースを20mg加え、室温にて放置した。放置後一晩で母液の白濁がわずかに認められ、2週間で完全に白濁したマセキットを得た(結晶化率90%)。マセキットを温度40℃で乾燥し、これを粉砕することにより4.7gの白色粉末を得た。この粉末を、偏光顕微鏡にて観察したところ偏光像が得られ、参考例1と同様の条件で分析したところ、その糖組成は、グルコース 2質量%、ニゲロース 91質量%、3糖類 7質量%であった。得られた粉末ニゲロースを粉末X線回析法により回析X線を測定したところ、図3に示されるような回析を示した。以上の結果から、白色粉末は結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末であることがわかる。
【0042】
[実施例5]
参考例2で得た粉末ニゲロース(画分C)8gを90容量%のエタノール溶液に加温しながら溶解し、固形分濃度80質量%の結晶母液を調製した。この母液に実施例2で得た結晶ニゲロースを15mg加え、室温にて放置した。放置後一晩で母液の白濁がわずかに認められ、10日間で完全に白濁したマセキットを得た。マセキットを温度40℃で乾燥し、これを粉砕することにより7.6gの結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末を得た。この粉末を、偏光顕微鏡にて観察したところ偏光像が得られ、参考例1と同様の条件で分析したところ、その糖組成は、グルコース 1質量%、ニゲロース 86質量%、3糖類 13質量%であった。
【0043】
[試験例1]
吸湿性試験1
参考例1で得られた画分Aの粉末ニゲロース、実施例2と同様に調製した結晶ニゲロース、実施例4で得た結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末、グラニュー糖そして上白糖を秤量ビンにとり、25℃、相対湿度65%の環境に放置し、経時的にそれぞれの質量を測定し、質量変化率を求めた。その結果を図4に示す。
また、参考例1で得られた画分Aの粉末ニゲロースは、開始後すぐにベタ付きが始まり、開始後1時間で粉末としての流動性を失った。これに対して、実施例2と同様に調製した結晶ニゲロースおよび実施例4で得た結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末は、開始後24時間を経てもべた付かず、流動性を保持していた。
【0044】
[試験例2]
吸湿性試験2
参考例1で得られた画分Aの粉末ニゲロース、実施例4と同様に調製した結晶ニゲロースの含有量の異なる含蜜結晶粉末(結晶ニゲロース含有量:80質量%、87質量%)、実施例2と同様に調製した結晶ニゲロース、実施例2と同様に調製した結晶ニゲロース(90質量%)に乳糖(7質量%)およびマルトオリゴ糖(3質量%、商品名「フジオリゴ#G67」、日本食品化工株式会社製)を混合した粉末そしてグラニュー糖を秤量ビンにとり、25℃、相対湿度65%の環境に放置し、経時的にそれぞれの質量を測定し、質量変化率を求めた。その結果を図5に示す。
また、参考例1で得られた画分Aの粉末ニゲロースは、開始後すぐにベタ付きが始まり、開始後2時間で潮解した。これに対して、実施例2と同様に調製した結晶ニゲロースおよび実施例4で得た結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末、乳糖およびマルトオリゴ糖混合結晶ニゲロースは、開始後24時間を経ても潮解しなかった。
【0045】
[実施例6]
粉末スポーツドリンク
実施例3と同様に調製した結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末 30質量部、ブドウ糖 9.3質量部、果糖 56.6質量部、クエン酸 2.00質量部、クエン酸ナトリウム 0.70質量部、塩化ナトリウム 0.48質量部、乳酸カルシウム 0.16質量部、テアニン 0.24質量部、バリン 0.12質量部、ロイシン 0.20質量部、イソロイシン 0.12質量部、ビタミンミックス 0.08質量部を混合し粉末スポーツドリンクを製造した。得られた粉末スポーツドリンク約50gを水1リットルに溶解し、飲用に供した。本品は、異味、異臭がなく、清涼感とコク味を兼ね備え優れたスポーツドリンクとして商品価値の高いものであった。
【0046】
[実施例7]
錠剤
実施例3と同様に調製した結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末 30g、乳糖 175g、結晶セルロース 1.2g、タルク 8gをよく混合し均一化した後、常法に従って打錠機に直接加圧することにより錠剤を製造した。得られた錠剤は、一錠(700mg)当たり、結晶ニゲロースを含む含蜜結晶を約98mg含有し、吸湿性がなく安定で物理的強度も充分にあった。これに対して、結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末を非晶質の粉末ニゲロースに置き換えた場合、保存中に吸湿をして錠剤に穴が生じてしまい製品価値が著しく低下した。
【0047】
[実施例8]
チューインガム
ガムベース 3質量部を柔らかくなる程度に加熱溶融し、これに無水結晶マルチトール 2質量部、キシリトール 3質量部および実施例3と同様に調製した結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末 2質量部を加え、これに適量の香料と着色料を混合し、常法に従ってロールにて練り合わせ、成型、包装して製品を得た。本品は、呈味、コク味、風味、テクスチャーが良好でチューインガムとして好適であった。
【0048】
[実施例9]
ハードキャンディー
砂糖60質量部、水飴(商品名「ハイマルトースシラップMC−55」、日本食品化工株式会社製)30質量部、実施例3と同様に調製した結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末10質量部を用い、副原料として香料を添加し、常法により加熱溶解し、155℃まで煮詰めた後、成形し、冷却固化させてハードキャンディーを得た。本品は、歯離れがよく、風味、コク味が良好で、吸湿性が少なく泣きを起こさない安定なキャンディーであった。
【0049】
[実施例10]
練りようかん
生あん 100質量部、グラニュー糖 100質量部、実施例3と同様に調製した結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末 46.25質量部、水飴(商品名「ハイマルトースシラップMC−55」、日本食品化工株式会社製)19.75質量部、粉末寒天 1.75質量部そして水 71.5質量部を用い、常法に従い加熱溶解した後、冷却固化して成形し、練りようかんを得た。本品は、口当たり、口どけに優れ、コク味のある練りようかんであった。
【0050】
[実施例11]
ウィンナソーセージ
牛肉 40質量部、豚肉 20質量部、ラード 40質量部、氷水 30質量部、デンプン 5質量部、塩 2.5質量部、実施例3と同様に調製した結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末 0.5質量部、粉砕ホワイトペッパー 0.25質量部、ナツメグ 0.06質量部、パプリカ 0.06質量部、アスコルビン酸 0.05質量部、亜硝酸ナトリウム 0.015質量部そしてリン酸塩 0.1質量部を加え、練り合わせ、ケーシングに充てんした後、燻煙・ボイルし、ウィンナソーセージを得た。本品は、コクがあり香り豊かなソーセージであった。
【0051】
[実施例12]
冷凍ハンバーグ
牛肉 30質量部、豚肉 17質量部、ソテーオニオン 20質量部、パン粉 5質量部、粒状植物タンパク 6質量部、デンプン(商品名「ねりこみ澱粉K−1」、日本食品化工株式会社製)0.8質量部、実施例3と同様に調製した結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末 2.5質量部、戻し水 12質量部、油脂 3.5質量部、濃口醤油 2質量部、ビーフエキス 1質量部、ベース調味料 1質量部、塩 0.2質量部、ブラックペッパー 0.2質量部、ナツメグ 0.05質量部、ガーリックパウダー 0.1質量部、カイエンペッパー 0.01質量部そして水 1.94質量部を混合練り合わせ、120gずつ成形した。これを230℃、9分間焼成し、冷却、包装し冷凍保存し冷凍ハンバーグを得た。本品を電子レンジにて解凍したところ、冷凍による離水が抑えられ、ジューシーでソフトな食感のハンバーグであった。
【0052】
[実施例13]
ペプチド飲料
コーンペプチド(商品名「ペプチーノ」、日本食品化工株式会社製)10質量部、実施例3と同様に調製した結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末 2.5質量部、ショ糖 6.5質量部、マルチトール 5質量部、W発酵液 5質量部、キルシュワッサー 2質量部、クエン酸 0.55質量部、アセロラ果汁 0.10質量部、香料 0.05質量部そして水 69.3質量部を混合し、ペプチド飲料を得た。本品は、ほのかな苦味と甘味が調和した飲料であった。
【0053】
[実施例14]
飼料
トウモロコシ 57.41質量部、マイロ 15.00質量部、実施例3と同様に調製した結晶ニゲロースを含む含蜜結晶粉末 5.00質量部、フスマ 5.00質量部、大豆粕 9.05質量部、ナタネ粕 3.00質量部、魚粉 2.00質量部、動物性油脂 1.65質量部、炭酸カルシウム 1.00質量部、リン酸二石灰 0.18質量部、食塩 0.20質量部、ビタミンB群 0.10質量部、ビタミンADE 0.10質量部、微量ミネラル 0.10質量部、塩酸L−リジン 0.17質量部、L−トリプトファン 0.01質量部そしてL−トレオニン 0.03質量部を混合し、飼料を得た。本品は、吸湿性も少なく安定で、子豚に与えた場合、食い付きがよく食べ残しも少ない飼料であった。
【0054】
[実施例15]
皮膚外用ローション
1% ヒアルロン酸ナトリウム水溶液 18質量部、実施例2と同様に調製した結晶ニゲロース 1質量部、グリセリン 2質量部、褐藻エキス 0.5質量部そして精製水 78.5質量部を混合し、ローションを得た。本品は、皮膚の保湿性に優れ、柔軟にするので基礎化粧料として有用なものであった。
【0055】
[実施例16]
浴用組成物
乾燥硫酸ナトリウム 45質量部、炭酸水素ナトリウム 40質量部、塩化ナトリウム 5質量部、デキストリン 4質量部、実施例2と同様に調製した結晶ニゲロース 5質量部、PEG6000 0.7質量部、香料および色素を適量加え、入浴剤を得た。本品は、浴湯100Lあたり20g程度溶解し使用する。本品は、皮膚の保湿性、はり、きめをよくする効果やよく温まるので、入浴剤として日常的に利用できるものであった。
【0056】
[実施例17]
輸液
実施例2と同様に調製した結晶ニゲロース 5質量部を精製水に溶解し輸液を得た。本品は、水分と糖質の補給に使用することができるものであった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
以上説明したように、本発明により、これまで不可能と信じられていた結晶ニゲロースおよびそれを含有する含蜜結晶ならびにそれらの製造方法の製造方法を提供することができる。更に、本発明により、吸湿性の低い粉末ニゲロースを提供することができる。本発明により、結晶ニゲロースおよびそれを含有する含蜜結晶を工業的に大量に製造することが可能となった。また、非晶質の粉末ニゲロースは、吸湿性が高く、保存性、安定性に欠けるものであるのに対し、本発明により得られる結晶ニゲロースおよびそれを含有する含蜜結晶から、吸湿性が低く、安定性に優れる粉末ニゲロースを得ることができる。結晶ニゲロースおよびそれを含有する含蜜結晶は、低甘味で芳醇なコク味、適度な粘性、賦形性を有し、甘味料、呈味改良剤、風味改良剤、品質改良剤、離水防止剤、安定剤、賦形剤、粉末化基材などとして、各種飲食物、化粧品、医薬品などの組成物に有効に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】凍結乾燥した粉末画分A(非晶質)の粉末X線回析ピークを示す
【図2】結晶ニゲロースの粉末X線回析ピークを示す
【図3】結晶ニゲロースを含む含蜜結晶の粉末X線回析ピークを示す
【図4】25℃、相対湿度65%の環境下での糖質の重量変化(1)
【図5】25℃、相対湿度65%の環境下での糖質の重量変化(2)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニゲロースを含む糖溶液から結晶ニゲロースを析出させるニゲロース含蜜結晶の製造方法であって、
前記糖溶液は、固形分当たり85質量%以上のニゲロースを含み、かつ、ニゲロース以外の二糖類を固形分当たり10質量%以下含むことを特徴とする、前記方法。
【請求項2】
前記糖溶液の固形分濃度が55質量%以上である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記糖溶液の溶媒は、水、エタノール、およびメタノールからなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記糖溶液の溶媒は、80容量%未満のメタノールを含むメタノール水溶液である請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記結晶の析出は、種結晶存在下で行われる請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
起晶および/または育晶のための冷却工程を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記ニゲロース含蜜結晶を粉末化することを含む請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法により得られたニゲロース含蜜結晶から分蜜することにより結晶ニゲロースを得ることを特徴とする結晶ニゲロースの製造方法。
【請求項9】
前記結晶ニゲロースを粉末化することを含む請求項8に記載の方法。
【請求項10】
純度85%以上の結晶ニゲロース。
【請求項11】
食品、飼料、餌料、化粧品、または医薬品に使用するための請求項10に記載の結晶ニゲロース。
【請求項12】
純度85%以上の結晶ニゲロースを含むニゲロース含蜜結晶。
【請求項13】
食品、飼料、餌料、化粧品または医薬品に使用するための請求項12に記載のニゲロース含蜜結晶。
【請求項14】
結晶ニゲロースを80質量%以上含有する粉末ニゲロース。
【請求項15】
前記結晶ニゲロースの純度は85%以上である、請求項14に記載の粉末ニゲロース。
【請求項16】
分蜜液および/またはニゲロース以外の糖類を1種以上含有する請求項14または15に記載の粉末ニゲロース。
【請求項17】
前記分蜜液および/またはニゲロース以外の糖類が、ブドウ糖、果糖、トレハロース、コージビオース、マルトース、イソマルトース、乳糖、水あめ、マルトオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、フラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、デキストリン、および糖アルコールからなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、請求項16に記載の粉末ニゲロース。
【請求項18】
食品、飼料、餌料、化粧品または医薬品に使用するための請求項14〜17のいずれか1項に記載の粉末ニゲロース。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−219416(P2006−219416A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33918(P2005−33918)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【Fターム(参考)】