説明

ニコチンアミド誘導体

【課題】 一酸化窒素産生促進剤及び/又は内皮性一酸化窒素合成酵素活性化剤として有用な化合物を提供する。
【解決手段】 本発明医薬の有効成分であるニコチンアミド誘導体は、優れた血管内皮性一酸化窒素産生促進作用及び/又は内皮性一酸化窒素合成酵素活性化作用に基づく血流循環改善作用を有する。本発明医薬は、血管内皮機能不全が病因である疾患又は病理学的状態の改善、殊に、末梢動脈閉塞症、動脈硬化、虚血性心疾患などの治療剤として有用である。更に、痴呆の予防又は治療剤、並びに、脳卒中、脳外傷、脊髄損傷等の中枢神経変性疾患による運動機能障害を含めた機能障害の回復促進作用又は機能回復訓練効果の増強及び/又は促進剤としても有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管内皮細胞由来の一酸化窒素(NO)産生促進剤及び/又は内皮性一酸化窒素合成酵素(eNOS)活性化作用を有するニコチンアミド誘導体及びその製薬学的に許容される塩を有効成分とする医薬に関する。殊に、血管内皮性NO産生促進作用及び/又はeNOS活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
NO(一酸化窒素)はL-アルギニンが酸化されL-シトルリンになる際に産生され、その反応はNO合成酵素(NO Synthase:NOS)によって触媒される。NO産生は生体内の様々な組織、細胞種で観察されるが、恒常的にNOを産生、放出する代表的な細胞種が血管内皮細胞である。血管内皮細胞で産生されるNO(血管内皮性NO)が内皮由来血管弛緩因子(EDRF:endothelium-derived relaxing factor)であることが報告されている(Nature, 1987,327,524-526 ; Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1987, 84, 9265-9269)。
高脂血症・動脈硬化などの動脈硬化性疾患や糖尿病にみられる血管内皮の機能障害は、eNOSにより産生されるNOの低下による内皮依存性血管弛緩・拡張反応(EDR)の減弱がその大きな原因であると言われている。
またeNOSにより産生される血管内皮性NOは、血管弛緩作用だけでなく、血小板凝集抑制・抗血栓作用、抗増殖作用、抗炎症作用などを有する(医学のあゆみ, 2003, 204(4), 621-625)。
NOがEDRFの本体であることが判明し、更にNOが全身の循環調節において重要な役割を果たすことが明らかになったことから、循環不全治療薬としてニトログリセリン製剤をはじめとするNO供与製剤(硝酸剤)が臨床的に頻用されるようになった。しかし、NO供与製剤は作用持続時間が短く、長期服用した際に耐性が生じやすい。また対象臓器特異性に乏しいことから副作用として全身血圧低下、血圧下降による頻脈、頭痛、めまいが出現する。また、過度のNO産生は細胞毒性を生じることが知られている。
また、NOSの基質であるL-アルギニンの効果がNOに関連する疾患で検討されてきたが、L-アルギニン長期投与の効果は微弱で部分的であると報告されている(Hypertension, 1994, 23, 752-756 ; Hypertension, 1996, 25, 898-902)。
【0003】
一方、血管拡張剤としては、一般に、カリウムチャンネル開口作用剤が血管拡張作用を有することが知られているが、血圧低下作用も併せ持つため、血流循環改善のためには血圧低下を起こす量以上の投与が必要であることが報告されている(Eur. J. Pharmacol., 1994, 264, 285-293; Gen. Pharmacol., 1998, 31, 59-62)。そのため、血圧への影響の少ない血流循環改善剤の開発が切望されている。
これらの知見より、血管内皮細胞での自発的かつ十分量のNO産生を促進する化合物、及び/又はeNOS活性化作用を有する化合物は、血管内皮性NOが関与する機序と血流循環改善による機序を有することから、血管内皮機能を改善し、血流障害、動脈硬化、高脂血症、糖尿病性合併症、虚血性心疾患や各種臓器での循環不全等の血管内皮機能低下に起因する疾患等の疾患に対して優れた治療剤になると考えられる。
【0004】
また、脳循環、特に脳微小循環は、他の組織にはない脳血流の自動調節能(autoregulation)によってほぼ一定に保持されているが、その調節には、脳組織へのエネルギー供給を制御している血液脳関門が深く関与していることが知られている。血管内皮細胞は血液脳関門の主体であり、血管内皮細胞でeNOSにより産生されるNOは血管透過性亢進作用を調節するとともに、脳血流の自動調節能の保持に非常に重要な役割を演じていると考えられている(日薬理誌, 1999, 113, 203-210; J.Creb.Blood.Flow.Metab., 1984, 4, 574-585)。
eNOSは脳内においても広範に分布していることが報告されており、殊に、大脳皮質、海馬等の神経細胞に発現が認められる(Neuroscience 2003, 119, 979-990)。記憶・学習の神経細胞レベルのモデルと考えられる長期増強(LTP:Long-term potentiation)の形成にeNOSの活性化が関与していることや、NOS阻害剤の投与により動物において学習障害が惹起され、NO供与製剤によって学習障害が回避されることが報告されていることから、eNOSにより産生されるNOは記憶、学習において非常に重要な役割を果たしていると考えられている(Brain res., 2003, 964, 159-163; Prog. Neurobiol., 2001, 64, 51-68; Cell, 1996, 87, 1015-1023)。
更に、学習障害が認められる老齢動物の大脳皮質、海馬においてeNOS活性が低下していることが報告されており(Neurosci. letters, 2004, 370, 175-179)、一方、ヒトにおいてもアルツハイマー病患者の神経細胞においてeNOS発現の異常が報告されている(Neurobiol. Aging, 2000, 21, 309-319)。これらの知見より、血管内皮細胞及び/又は神経細胞での自発的かつ十分量のNO産生を促進する化合物、及び/又はeNOS活性化作用を有する化合物が、痴呆、その他の認知障害に対して優れた治療剤になると考えられる。
【0005】
また、血管内皮性NO産生促進又はeNOS活性化作用と、脳卒中、脳外傷、脊髄損傷等の中枢神経変性疾患による運動機能障害を含めた機能障害の回復促進作用、又は機能回復訓練(リハビリテーション医療)効果の増強及び/又は促進作用との関連が示唆されている。動物において、脳損傷後の機能障害の回復がNO供与製剤によって促進・増強されることが報告されており(Ann. Nueol., 2001, 50, 602-611)、その背景として、損傷部位周辺組織におけるeNOSの活性化による血管新生が深く関与していることが報告されている(Stroke, 2005, 36, 847-852; Circ. Res., 2003, 92, 308-313)。
【0006】
これまで知られている血管内皮性NO産生促進又はeNOSに関する作用を有する化合物は、主に、eNOS量を増加させることをその機序としている。例えば、HMG-CoA還元酵素阻害剤(コレステロール合成阻害剤)が、血管内皮細胞においてeNOSのmRNA量を増加させることにより、NO産生を促進することが報告されている。また、4-フルオロ-N-インダン-2-イルベンズアミド(特許文献1)、ヘテロ環-CONH-又はアリール-CONH-で置換されたインダン誘導体(特許文献2)、ヘテロ環-CONH-又はアリール-CONH-で置換された6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾシクロヘプテン誘導体(特許文献3)、及びヘテロ環-CONH-等で置換された1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン(特許文献4)がeNOS発現亢進作用を有することが開示されている。また、ソイステロール、ピリドキシン類、リボフラビン類、タウリン、イノシトールヘキサニコチネート及びパンテチンも血管内皮性一酸化窒素の合成促進及び/又は内皮性酸化窒素血中濃度の維持・向上作用を有することが知られている(特許文献5)。しかしながら、eNOS発現のみを増強させると、その程度によっては、コファクターがアンカップリングなeNOSが増加する。そのアンカップリングなeNOSは、NOではなく活性酸素を産生し、かえってNOバイオアベイラビリティを低下させ、動脈硬化等の循環器疾患を悪化させる可能性があることが報告されている(J. Clin. Invest., 2002, 110, 331-340)。
【0007】
また、ニコチンアミド誘導体としては、以下の化合物が知られている。
【表3】

【表4】

【表5】

これらの化合物は、鎮痛剤・抗炎症剤(特許文献6:Lit. A;非特許文献1:Lit. B)、降圧剤(非特許文献2:Lit. C)、ストリキニーネ様作用剤(非特許文献3:Lit. D)、結核治療剤(非特許文献4:Lit. E)、抗真菌剤(特許文献7:Lit. F)、微生物の増殖剤(非特許文献5:Lit. G)、農薬・除草剤(特許文献8:Lit. H;非特許文献6:Lit. I)、ナメクジなどの駆除剤(特許文献9:Lit. J;非特許文献7:Lit. K)、α-ヘリックスとの相互作用解析(特許文献10:Lit. L;非特許文献8:Lit. M)、TLC解析(非特許文献9:Lit. N)又は一般合成(非特許文献10:Lit. O、11:Lit. P)等の文献で、或いは試薬カタログ上の公知化合物(Lit.: Cat)である。しかしながら、これらの化合物が血管内皮性NO産生促進作用及び/又はeNOS活性化作用を有することは、これらの文献には開示も示唆もない。
【0008】
【特許文献1】国際公開WO02/064146パンフレット
【特許文献2】国際公開WO02/64545パンフレット
【特許文献3】国際公開WO02/64546パンフレット
【特許文献4】国際公開WO02/64565パンフレット
【特許文献5】特開2004−115507
【特許文献6】米国特許第4361572号明細書
【特許文献7】特開昭53−72825
【特許文献8】米国特許第4128651号明細書
【特許文献9】米国特許第3462532号明細書
【特許文献10】国際公開WO02/89738パンフレット
【非特許文献1】Khimiko-Farmatsevticheskii Zhurnal (1997), 31(11), 30-32
【非特許文献2】Gazzetta Chimica Italiana (1950), 80, 456-70
【非特許文献3】Farmaco, Edizione Scientifica (1964), 19(1), 14-29
【非特許文献4】Journal of Organic Chemistry (1948), 13, 834-6
【非特許文献5】Journal of Bacteriology (1951), 61, 463-7
【非特許文献6】Chemical Abstract, Accession no. 1990: 586526
【非特許文献7】Pesticide Science (1980), 11(1), 53-60
【非特許文献8】Angewandte Chemie, International Edition (2003), 42(5), 535-539
【非特許文献9】Journal of Chromatography (1979), 171, 462-5
【非特許文献10】Heterocycles (1993), 35(2), 683-7
【非特許文献11】Helvetica Chimica Acta (1964), 47(1), 162-5
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の課題は、新規な血管内皮性NO産生促進剤及び/又はeNOS活性化剤を提供することである。また、ニコチンアミド誘導体を有効成分とする医薬、更に、血管内皮性NO産生促進作用及び/又はeNOS活性化作用を有する新規なニコチンアミド誘導体及びその塩を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、血管内皮性NO産生促進作用及び/又はeNOS活性化作用を有する化合物について鋭意検討した結果、少なくとも1個以上のハロゲン又はオキシ基で置換されたフェニル基を有するニコチンアミド誘導体が、優れた血管内皮性NO産生促進作用を有することを知見し、本発明を完成した。
即ち、本発明は、下記式(I)で示されるニコチンアミド誘導体又はその製薬学的に許容される塩と製薬学的に許容される担体とからなる血管内皮性NO産生促進及び/又はeNOS活性化剤、並びに、式(I)で示される化合物又はその製薬学的に許容される塩と、製薬学的に許容される担体とからなる末梢動脈閉塞症(PAOD)(間歇性跛行等)治療剤に関する。
【0011】
【化3】

(式中の記号は以下の意味を示す。
X1:N又はC-R1
X2:N又はC-R2
X3:N又はC-R3
X4:N又はC-R4
但し、X1、X2、X3及びX4のうち、Nは1個又は2個であり、当該Nはオキシド(N(O))を形成していてもよい、
R1、R2、R3、R4及びR5:同一又は互いに異なって、-H、-ハロゲン、-RA、-OH、-O-RA、-S-RA、-ハロゲノ低級アルキル、-N(R11)(R12)、-O-フェニル、-CO2H又は-CO2-R0、或いは、隣接する2個の基が一体となって、-NH-CH=N-、
RA:-OH、-O-R0、-CO2H及び-CO2-R0から選択される1個以上の基で置換されていてもよい低級アルキル、
R0:-低級アルキル、
R11及びR12:同一又は互いに異なって、-H、-R0又は-CO-R0
Y:O又はN(R6)、
R6:-H又は-R0
R7:-ハロゲン、-OH、-O-R0、-O-ハロゲノ低級アルキル、-O-(R21で置換されていてもよいフェニル)又は-O-CH2-(R21で置換されていてもよいフェニル)、
R8及びR9:同一又は互いに異なって、-H、-RA、-N(R13)(R14)、-CN、-NO2、-CO2H、-CO2-R0、-CO-N(R13)(R14)、-CO-(R21で置換されていてもよいフェニル)、又は、R7に記載の基、
或いは、R8が-N(R10)-(CH2)n-に対してオルト位に結合する場合、R6とR8が一体となって、単結合、メチレン又はカルボニルを形成してもよい、
R13及びR14:同一又は互いに異なって、-H、-RA、-CO-RA又はシクロアルキル、或いは、R13とR14が一体となって、-(CH2)m-、-(CH2)j-O-(CH2)k-、-(CH2)j-NH-(CH2)k-又は-(CH2)j-N(R0)-(CH2)k-、
m:3、4、5、6又は7、
j:1、2、3又は4、
k:1、2、3又は4、但し、j+kは3〜6の整数、
R21:-R0、-ハロゲン、-O-R0、-O-ハロゲノ低級アルキル又は-CN、
n:0又は1、
R10:-H又は-R0。以下同様。)
【0012】
また本発明は、下記式(I’)で示される新規化合物であるニコチンアミド誘導体又はその製薬学的に許容される塩、並びに、式(I’)の化合物又はその製薬学的に許容される塩と、製薬学的に許容される担体とからなる医薬組成物にも関する。
【化4】

(式中の記号は以下の意味を示す。
X1:N又はC-R1
X2:N又はC-R2
X3:N又はC-R3
X4:N又はC-R4
但し、X1、X2、X3及びX4のうち、Nは1個又は2個であり、当該Nはオキシド(N(O))を形成していてもよい、
R1、R2、R3、R4及びR5:同一又は互いに異なって、-H、-ハロゲン、-RA、-OH、-O-RA、-S-RA、-ハロゲノ低級アルキル、-N(R11)(R12)、-O-フェニル、-CO2H又は-CO2-R0、或いは、隣接する2個の基が一体となって、-NH-CH=N-、
RA:-OH、-O-R0、-CO2H及び-CO2-R0から選択される1個以上の基で置換されていてもよい低級アルキル、
R0:-低級アルキル、
R11及びR12:同一又は互いに異なって、-H、-R0又は-CO-R0
Y:O又はN(R6)、
R6:-H又は-R0
R7:-ハロゲン、-OH、-O-R0、-O-ハロゲノ低級アルキル、-O-(R21で置換されていてもよいフェニル)又は-O-CH2-(R21で置換されていてもよいフェニル)、
R8及びR9:同一又は互いに異なって、-H、-RA、-N(R13)(R14)、-CN、-NO2、-CO2H、-CO2-R0、-CO-N(R13)(R14)、-CO-(R21で置換されていてもよいフェニル)、又は、R7に記載の基、
或いは、R8が-N(R10)-(CH2)n-に対してオルト位に結合する場合、R6とR8が一体となって、単結合、メチレン又はカルボニルを形成してもよい、
R13及びR14:同一又は互いに異なって、-H、-RA、-CO-RA又はシクロアルキル、或いは、R13とR14が一体となって、-(CH2)m-、-(CH2)j-O-(CH2)k-、-(CH2)j-NH-(CH2)k-又は-(CH2)j-N(R0)-(CH2)k-、
m:3、4、5、6又は7、
j:1、2、3又は4、
k:1、2、3又は4、但し、j+kは3〜6の整数、
R21:-R0、-ハロゲン、-O-R0、-O-ハロゲノ低級アルキル又は-CN、
n:0又は1、
R10:-H又は-R0
但し、以下の化合物を除く:
(1)X1がN、X2がCH又はC-CO2H、X3及びX4がともにCH、R5、R9及びR10がH、YがO、nが0、R7がハロゲン、OMe又はOEt、かつ、R8がH、Me又はNO2である化合物;
(2)X2がNである下記表に示す化合物;
【表6】

(3)X1、X3及びX4がともにCH、X2がN(O)、R5、R8、R9及びR10がH、YがO、nが0、かつ、R7がOMeである化合物;
(4)X3がNである下記表に示す化合物;
【表7】

(5)X1、X2及びX4がともにCH、X3がN(O)、R5、R8、R9及びR10がH、YがO、nが0、かつ、R7がOMeである化合物。以下同様。)
【0013】
更に本発明は、上記式(I)又は(I’)で示されるニコチンアミド誘導体又はその製薬学的に許容される塩の、血管内皮性NO産生促進及び/又はeNOS活性化剤又はPAOD治療剤製造のための使用、血管内皮性NO産生促進及び/又はeNOS活性化方法、並びに、PAOD、痴呆の治療方法又は機能障害の回復促進作用又は機能回復訓練効果の増強及び/又は促進方法にも関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明医薬の有効成分であるニコチンアミド誘導体又はその塩は、優れた血管内皮性NO産生促進及び/又はeNOS活性化作用による血流循環改善作用を有する。即ち、本発明医薬は、血管内皮性NOが関与する機序と血流循環改善による機序を有し、その一方又は両方の作用により、血管内皮機能不全が病因である種々の疾患の治療に有用である。血管内皮機能不全が病因である疾患として、例えば、末梢動脈閉塞症(PAOD)が挙げられる。PAODは、その症状からI〜IV度に分類(Fontain分類、I度:しびれ・冷感、II度:間歇性跛行、III度:安静時疼痛、IV度:潰瘍・壊死)されるが、本発明医薬はこれらのいずれの症状にも有効性が期待され、殊に間歇性跛行に有効であると考えられる。また、本発明医薬は血圧や心拍に対する影響が少ないことも期待できる。
また、本発明医薬の有効成分であるニコチンアミド誘導体又はその塩は、脳卒中、脳外傷、脊髄損傷等の中枢神経変性疾患による運動機能障害を含めた機能障害の回復促進、又は機能回復訓練効果の増強及び/又は促進剤として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書中、「アルキル」とは、直鎖状又は分枝状の炭化水素鎖を意味する。「低級アルキル」は、好ましくは炭素数1〜6個(以下、C1-6と略す)のアルキル基であり、より好ましくはメチル、エチル、2-プロピル及びヘキシルである。
「ハロゲン」は、F、Cl、Br及びIを示す。「ハロゲノ低級アルキル」とは、好ましくは、1個以上のハロゲンで置換されたC1-6アルキルを意味し、より好ましくはハロゲノC1-3アルキルであり、更に好ましくはフルオロメチル、ジフルオロメチル、トリフルオロメチル及び2,2,2-トリフルオロエチル、より更に好ましくは、トリフルオロメチル及び2,2,2-トリフルオロエチルである。
【0016】
「シクロアルキル」は、好ましくはC3-10のシクロアルキルであり、架橋されていてもよい。より好ましくはシクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル及びアダマンチルである。
「置換されていてもよい」とは、「無置換」あるいは「同一又は異なる置換基を1〜5個有していること」を示す。
【0017】
本発明の式(I’)の化合物は新規であり、式(I)の化合物に包含される。したがって、以下説明において、単に「化合物(I)」と略記することがある。
本発明医薬の有効成分である化合物(I)の好ましい態様を以下に示す。
(1)X1がC-R1;X2がN;X3及びX4がともにCH;R7が-ハロゲン、-O R0、-O-(R21で置換されていてもよいフェニル)又は-O-CH2-(R21で置換されていてもよいフェニル)であり、かつ、nが0である化合物。
(2)X1及びX4がともにCH;X2がC-R2;X3がN;R7が-ハロゲン又は-OR0であり、かつ、nが0である化合物。
(3)X1及びX3ともにCH;X2がN;X4がC-R4;R7が-ハロゲンであり、かつ、nが1である化合物。
(4)X1及びX4がともにCH;X2及びX3がともにN;R7が-ハロゲンであり、かつ、nが1である化合物。
(5)X1及びX3がともにCH;X2及びX4がともにN;R7が-ハロゲンであり、かつ、nが1である化合物。
(6)X1及びX3がともにN;X2及びX4がともにCH;R7が-ハロゲンであり、かつ、nが1である化合物。
(7)上記(1)〜(6)において、R10がHである化合物。
(8)R8が-N(R10)-(CH2)n-に対してオルト位に結合し、R6とR8が一体となって、単結合、メチレン又はカルボニルを形成している化合物。
(9)上記(8)において、nが0である化合物。
(10)上記(1)〜(7)において、YがOである化合物。
特に好ましくは以下の化合物である:
N-(3-フェノキシフェニル)ニコチンアミド、N-(4-シアノ-2-メトキシフェニル)ニコチンアミド、N-(2-エトキシ-4-ニトロフェニル)ニコチンアミド、2-メトキシ-N-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)ニコチンアミド、N-(3-ブロモ-4-フルオロフェニル)ニコチンアミド、4-メトキシ-2-ピリジン-3-イル-1H-ベンズイミダゾール、N-(2-エトキシ-4-ニトロフェニル)イソニコチンアミド、2-クロロ-N-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)イソニコチンアミド、N-(2-エトキシベンジル)ニコチンアミド、N-(3-プロピルベンジル)ニコチンアミド、N-(3-フルオロ-2-メチルベンジル)ニコチンアミド、N-(2,3-ジフルオロベンジル)ニコチンアミド、N-(2-クロロ-6-メトキシベンジル)ニコチンアミド、N-(2,5-ジフルオロベンジル)ニコチンアミド、N-(5-クロロ-2-フルオロベンジル)ニコチンアミド、N-(2-クロロ-4-フルオロベンジル)ニコチンアミド、N-(2,4-ジメトキシベンジル)ニコチンアミド、N-[2-(ベンジルオキシ)-4-フルオロベンジル]ニコチンアミド、N-(3,5-ジフルオロベンジル)ニコチンアミド、N-(3-クロロ-5-フルオロベンジル)ニコチンアミド、N-(3-クロロ-2,4-ジフルオロベンジル)ニコチンアミド、N-(4-クロロ-2,5-ジフルオロベンジル)ニコチンアミド、N-(3-クロロ-4,5-ジフルオロベンジル)ニコチンアミド、N-(5-クロロ-2-フルオロベンジル)-4-メトキシニコチンアミド、N-(5-クロロ-2-フルオロベンジル)-5-ヒドロキシニコチンアミド、N-(2,3-ジフルオロベンジル)-5-ヒドロキシニコチンアミド、N-(5-クロロ-2-フルオロベンジル)-5-エトキシニコチンアミド、N-(2,3-ジフルオロベンジル)-5-エトキシニコチンアミド、N-(5-クロロ-2-フルオロベンジル)-5-メチルニコチンアミド、N-(2,3-ジフルオロベンジル)-5-メチルニコチンアミド、N-(2,3-ジフルオロベンジル)-5-エトキシニコチンアミド 1-オキシド、N-(5-クロロ-2-フルオロベンジル)-5-イソプロポキシニコチンアミド 1-オキシド、N-(5-クロロ-2-フルオロベンジル)-5-メチルニコチンアミド 1-オキシド、N-(2,3-ジフルオロベンジル)ピリダジン-4-カルボキサミド、N-(3-クロロ-4-フルオロベンジル)ピリダジン-4-カルボキサミド、N-(2,5-ジクロロベンジル)ピリダジン-4-カルボキサミド、N-(2,5-ジクロロベンジル)ピリミジン-5-カルボキサミド、N-(3-クロロ-4-フルオロベンジル)ピリミジン-5-カルボキサミド及びN-(5-クロロ-2-フルオロベンジル)ピリミジン-4-カルボキサミド。
【0018】
本発明医薬の有効成分である化合物(I)は置換基の種類によっては幾何異性体や互変異性体が存在する場合があるが、本発明にはこれらの異性体の分離したもの、あるいは混合物が包含される。
また、化合物(I)は不斉炭素原子を有する場合があり、これに基づく(R)-体、(S)-体等の光学異性体が存在しうる。本発明はこれらの光学異性体の混合物や単離されたものを全て包含する。
更に、化合物(I)には、薬理学的に許容されるプロドラッグも含まれる。薬理学的に許容されるプロドラッグとは、加溶媒分解により又は生理学的条件下で本発明のNH2、OH、CO2H等に変換できる基を有する化合物である。プロドラッグを形成する基としては、Prog. Med., 5, 2157-2161 (1985)や「医薬品の開発」(廣川書店、1990年)第7巻 分子設計163-198に記載の基が挙げられる。
【0019】
化合物(I)は、酸付加塩又は置換基の種類によっては塩基との塩を形成する場合もある。かかる塩としては、製薬学的に許容される塩であり、具体的には、塩酸、臭化水素酸、ヨウ化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、フマル酸、マイレン酸、乳酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、アスパラギン酸、グルタミン酸等の有機酸との酸付加塩、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、アルミニウム等の無機塩基、メチルアミン、エチルアミン、エタノールアミン、リジン、オルニチン等の有機塩基との塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
さらに、本発明は、化合物(I)及びその塩の各種の水和物や溶媒和物及び結晶多形の物質をも包含する。
【0020】
(製造法)
本発明の有効成分である化合物(I)及びその製薬学的に許容される塩は、その基本骨格あるいは置換基の種類に基づく特徴を利用し、種々の公知の合成法を適用して製造することができる。その際、官能基の種類によっては、当該官能基を原料乃至中間体の段階で適当な保護基で保護、又は当該官能基に容易に転化可能な基に置き換えておくことが製造技術上効果的な場合がある。このような官能基としては例えばアミノ基、水酸基、カルボキシル基等であり、それらの保護基としては例えばグリーン(T. W. Greene)及びウッツ(P. G. M. Wuts)著、「Protective Groups in Organic Synthesis(第3版、1999年)」に記載の保護基を挙げることができ、これらを反応条件に応じて適宜選択して用いればよい。このような方法では、当該保護基を導入して反応を行った後、必要に応じて保護基を除去、あるいは所望の基に転化することにより、所望の化合物を得ることができる。
また、化合物(I)のプロドラッグは上記保護基と同様、原料乃至中間体の段階で特定の基を導入、あるいは得られた化合物(I)を用い反応を行うことで製造できる。反応は通常のエステル化、アミド化、脱水等、当業者により公知の方法を適用することにより行うことができる。
以下、化合物(I)の代表的な製造法を説明する。なお、本発明の製造法は以下の例に限られるわけではない。
【0021】
第1製法(アミド化)
【化5】

【0022】
YがOである化合物(Ia)は、対応するカルボン酸化合物(II)と式(III)で示されるフェネチルアミンとを公知の方法(例えばM. Bodanszky、Peptide Chemistry、p55-73 (1988);泉屋信夫ら、ペプチド合成の基礎と実験、p89-142 (1985)などが参照される)によりアミド化することにより製造できる。
好ましくは、カルボン酸化合物(II)を反応性誘導体(例えば酸クロリド、酸ブロミド等の酸ハライド;酸アジド;メタノール、エタノール、ベンジルアルコール、置換していてもよいフェノール、N-ヒドロキシスクシンイミド(HONSu)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)等を用いて調整できる活性エステル;対称酸無水物;アルキル炭酸、p-トルエンスルホン酸等との混合酸無水物等)に変換した後、化合物(III)と反応させることにより行うことができる。カルボン酸の反応性誘導体を用いる場合、塩基(水酸化ナトリウム等の無機塩基、又はトリエチルアミン(TEA)、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン等の有機塩基)を添加することが好ましい。或いは、カルボン酸を用い、縮合剤(例えば、ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(WSC)、1,1’-カルボニルビス-1H-イミダゾール(CDI)等)の存在下に反応させることによって行うこともできる。その際HOBtやHONSu等の添加剤を加えてもよい。
反応温度は、原料化合物に応じて適宜選択できる。溶媒は不活性溶媒、例えばベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素系溶媒、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン(THF)などのエーテル系の溶媒、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられ、原料化合物の種類等に従い適宜選択され、単独、或いは2種以上混合して用いられる。
【0023】
第2製法(酸化)
X1、X2、X3又はX4がNである本発明化合物を原料として、酸化反応に付すことによりN-オキシド化合物(N(O))を製造することができる。
反応は、原料である本発明化合物を適当な酸化剤(例えば、過酸化水素、m-クロロ過安息香酸、過酢酸等の過酸あるいは過酸化物)を反応対応量あるいは過剰量用い、必要により、炭酸水素ナトリウム等の無機塩基を加え、冷却下〜加熱下に実施することができる。溶媒は、例えばクロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン系溶媒、アセトン、アセトニトリル、酢酸、トリフルオロ酢酸等が挙げられ、原料化合物および酸化剤の種類等に従い適宜選択される。
【0024】
第3製法
式(I)における基R1、R2、R3、R4、R5、R7、R8又はR9上の種々の置換基は、本発明化合物(I)を原料として、当業者にとって自明である反応、又はこれらの変法を用いることにより、他の官能基へと容易に変換することができる。例えば以下の反応が適用できる。
(1)加水分解
カルボン酸エステル体を加水分解することによって、カルボキシル基を有する本発明化合物を製造できる。反応は加水分解の常法を用いることができ、例えば、前述の「Protective Groups in Organic Synthesis(第3版)」のカルボキシル基の脱保護反応等に記載の方法を適用することができる。
(2)アミド化
カルボキシル基を有する本発明化合物を原料とし、種々のアミド化合物が製造できる。反応は前記第1製法(アミド化)の方法が適用できる。
(3)アルキル化
OH基やNH基を有する本発明化合物を原料とし、O-アルキル化やN-アルキル化の常法に付すことにより、種々の化合物が製造できる。
【0025】
上記各製法により得られた反応生成物は、遊離化合物、その塩あるいは水和物など各種の溶媒和物として単離され、精製される。塩は通常の造塩処理に付すことにより製造できる。
単離、精製は、抽出、濃縮、留去、結晶化、濾過、再結晶、各種クロマトグラフィー等通常の化学操作を適用して行われる。
各種異性体は異性体間の物理化学的な性質の差を利用して常法により単離できる。例えば、光学異性体は一般的な光学分割法、例えば分別結晶化又はクロマトグラフィー等により分離できる。また、光学異性体は、適当な光学活性な原料化合物より製造することもできる。
【0026】
化合物(I)又はその塩の1種又は2種以上を有効成分として含有する製剤は通常製剤化に用いられる担体や賦形剤、その他の添加剤を用いて調製される。
投与は錠剤、丸剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤等による経口投与、あるいは関節内、静脈内、筋肉内等の注射剤、坐剤、点眼剤、眼軟膏、経皮用液剤、軟膏剤、経皮用貼付剤、経粘膜液剤、経粘膜貼付剤、経鼻剤あるいは吸入剤等による非経口投与のいずれの形態であってもよい。
投与量は症状、投与対象の年齢、性別等を考慮して個々の場合に応じて適宜決定されるが、通常、経口投与の場合、成人1日当たり0.001 mg/kg〜1000 mg/kg程度、好ましくは0.1〜300 mg/kg、更に好ましくは0.1〜100 mg/kgが適当であり、これを1回で、あるいは2〜4回に分けて投与する。また、症状によって静脈投与される場合は、通常、成人1日当たり0.0001 mg/kg〜500 mg/kgが適当であり1日に1回乃至複数回に分けて投与する。また、経鼻剤あるいは吸入剤等の経粘膜剤の場合は、通常、成人1日当たり0.001 mg/kg乃至500 mg/kgの範囲で1日に1回乃至複数回に分けて投与される。
本発明による経口投与のための固体組成物としては、錠剤、散剤、顆粒剤等が用いられる。このような固体組成物においては、一種又はそれ以上の有効成分を、少なくとも一種の不活性な賦形剤、例えば乳糖、マンニトール、ブドウ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、微結晶セルロース、デンプン、ポリビニルピロリドン、及び/又はメタケイ酸アルミン酸マグネシウム等と混合される。組成物は、常法に従って、不活性な添加剤、例えばステアリン酸マグネシウム等の滑沢剤やカルボキシメチルスターチナトリウム等の崩壊剤、溶解補助剤を含有していてもよい。錠剤又は丸剤は必要により糖衣又は胃溶性若しくは腸溶性コーティング剤で被膜してもよい。
【0027】
経口投与のための液体組成物は、薬剤的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤、エリキシル剤等を含み、一般的に用いられる不活性な溶剤、例えば精製水、エタノールを含む。この組成物は不活性な溶剤以外に可溶化剤、湿潤剤、懸濁化剤のような補助剤、甘味剤、矯味剤、芳香剤、防腐剤を含有していてもよい。
非経口投与のための注射剤としては、無菌の水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤を含む。水性の溶剤としては、例えば注射用蒸留水及び生理食塩水が含まれる。非水性の溶剤としては、例えばプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油のような植物油、エタノールのようなアルコール類、ポリソルベート80(局方名)等がある。このような組成物は、さらに等張化剤、防腐剤、湿潤剤、乳化剤、分散剤、安定化剤、溶解補助剤を含んでもよい。これらは例えばバクテリア保留フィルターを通す濾過、殺菌剤の配合又は照射によって無菌化される。また、これらは無菌の固体組成物を製造し、使用前に無菌水又は無菌の注射用溶媒に溶解、懸濁して使用することもできる。
吸入剤や経鼻剤等の経粘膜剤は固体、液体、半固体状のものが用いられ、従来公知の方法に従って製造することができる。例えば、ラクトースや澱粉のような賦形剤や、更に、pH調整剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、安定剤や増粘剤等が適宜添加されていてもよい。投与は、適当な吸入又は吹送のためのデバイスを使用することができる。例えば、計量投与吸入デバイス等の公知のデバイスや噴霧器を使用して、化合物を単独で又は処方された混合物の粉末として、もしくは医薬的に許容し得る担体と組み合わせて溶液又は懸濁液として投与することができる。乾燥粉末吸入器等は、単回又は多数回の投与用のものであってもよく、乾燥粉末又は粉末含有カプセルを利用することができる。あるいは、適当な駆出剤、例えば、クロロフルオロアルカン、ヒドロフルオロアルカン又は二酸化炭素等の好適な気体を使用した加圧エアゾールスプレー等の形態であってもよい。
外用剤としては、軟膏剤、硬膏剤、クリーム剤、ゼリー剤、パップ剤、噴霧剤、ローション剤、点眼剤、眼軟膏等を包含する。一般に用いられる軟膏基剤、ローション基剤、水性又は非水性の液剤、懸濁剤、乳剤等を含有する。例えば、軟膏又はローション基剤としては、ポリエチレングリコール、カルボキシビニルポリマー、白色ワセリン、サラシミツロウ、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸グリセリン、ステアリルアルコール、セチルアルコール、ラウロマクロゴール、セスキオレイン酸ソルビタン等が挙げられる。
【実施例】
【0028】
以下、実施例に基づき本発明化合物(I)の製法を更に詳細に説明する。また原料化合物の製法を参考例に示す。
また、実施例、参考例及び後記表中以下の略号を用いる。Ex:実施例番号、REx:参考例番号、Str:構造式、Dat:物理化学的データ(FAB:FAB-MS(M+H)+、FAB-N:FAB-MS(M-H)-、ESI:ESI-MS(M+H)+、ESI-N:ESI-MS(M-H)-、EI:EI-MS(M+)、NMR:DMSO-d6中の1H NMRにおける特徴的なピークのδ(ppm)、Sal:塩(HCl:塩酸塩、2HCl:2塩酸塩、−又は無記載:フリー体)、Me:メチル、Et:エチル、Pr:1-プロピル、iPr:2-プロピル、Pen:1-ペンチル、cHex:シクロヘキシル、Ac:アセチル、Ph:フェニル、Bn:ベンジル。置換基の前の数字は置換位置を示し、例えば2-OMeは2-メトキシを示す。
【0029】
参考例1
3-メトキシ-4-ニトロ安息香酸15.0 gのDMF 300 ml溶液に、室温下HOBt 12.3 g及びWSC塩酸塩29.2 gを順次加えた。10分後、炭酸アンモニウム15.0 gを加え、さらに3時間撹拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え析出した結晶をろ取し、3-メトキシ-4-ニトロベンズアミド10.2 gを淡黄色固体として得た。ESI: 167。
参考例2
3-メトキシ-4-ニトロベンズアミド3.0 gのエタノール60 ml及び水6 mlの混液に、10%パラジウム-カーボン粉末0.3 gを加え、水素雰囲気下、室温で5 時間攪拌した。セライトを用いてろ過後、溶媒を減圧留去し、4-アミノ-3-メトキシベンズアミド2.45 gを白色固体として得た。ESI: 197。
【0030】
参考例3
5-クロロ-2-ニトロベンジルアルコール1.13 gのアセトン12 ml溶液に、炭酸カリウム1.66 g及び硫酸ジメチル0.63 mlを順次加え、室温で一晩攪拌した。反応液に水を加え酢酸エチルで抽出後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル:n-ヘキサン)で精製し、4-クロロ-2-(メトキシメチル)-1-ニトロベンゼン357 mgを得た。得られた化合物のメタノール15 ml及び水1.5 mlの混液に、鉄2 g及び塩化アンモニウム1.9 gを加え、1時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却し、セライトを用いてろ過した。ろ液に水を加え酢酸エチルで抽出後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、4-クロロ-2-(メトキシメチル)アニリン296 mgを得た。EI: 171, 173。
参考例4
2-ヒドロキシ-4-ニトロ安息香酸5.12 gのDMF 50 ml溶液に、炭酸カリウム11.6 g及びヨウ化エチル6.71 mlを順次加え、50℃で一晩攪拌した。反応液を室温まで冷却し、水を加えトルエンで抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、エチル 2-エトキシ-4-ニトロベンゾエート6.81 gを黄色固体として得た。得られた化合物のメタノール60 ml溶液に、1M水酸化ナトリウム水溶液30 mlを加え、70℃で一晩攪拌した。反応液を室温まで冷却後、1M塩酸を加え中和し酢酸エチルで抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、2-エトキシ-4-ニトロ安息香酸2.18 gを白色固体として得た。得られた化合物1.44 g、トルエン20 ml及びtert-ブタノール20 ml混合物に、ジフェニルホスホリルアジド1.62 ml及びN,N-ジイソプロピルエチルアミン1.43 mlを加え、80℃で一晩攪拌した。反応液を室温まで冷却後、溶媒をある程度まで減圧留去し、水を加え酢酸エチルで抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、tert-ブチル (2-エトキシ-4-ニトロフェニル)カルバメートを含む化合物2.3 gを得た。得られた化合物2.3 gの酢酸エチル40 ml溶液に、4M塩化水素-酢酸エチル溶液10 mlを加え、室温で一晩攪拌した。溶媒をある程度まで減圧留去後、析出した結晶をろ取し、2-エトキシ-4-ニトロアニリン塩酸塩128 mgを白色固体として得た。FAB: 183。
【0031】
参考例5
2-(ベンジルオキシ)ベンゾニトリル8.36 gのTHF 80 ml溶液に、ボラン-ジメチルスルフィド錯体22.8 mlを加え70℃で6時間撹拌した。室温まで冷却後、反応液にメタノールを加え、溶媒を減圧留去した。得られた淡黄色油状物を4M塩化水素-酢酸エチル溶液を用いて塩酸塩とした後、酢酸エチルより析出した結晶をろ取し、1-[2-(ベンジルオキシ)フェニル]メタンアミン塩酸塩8.12 gを白色固体として得た。FAB: 214。
参考例6
4-フルオロサリチル酸1.17 gのDMF 72 ml溶液に、氷冷撹拌下60%油性水素化ナトリウム696 mgを徐々に加えた。10分後、臭化ベンジル2.06 mlを加え、室温にて一晩攪拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加え酢酸エチルで抽出後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、ベンジル 2-(ベンジルオキシ)-4-フルオロベンゾエートを含む淡褐色油状の化合物を得た。本化合物はこれ以上の精製操作を行うことなく、次反応に用いた。ベンジル 2-(ベンジルオキシ)-4-フルオロベンゾエートを含む淡褐色油状の化合物を原料として用い、参考例4に記載の加水分解反応を行い、2-(ベンジルオキシ)-4-フルオロ安息香酸1.23 gを淡褐色固体として得た。FAB: 247。
【0032】
参考例7
2-メトキシ-4-ニトロアニリン5.0 gの1,4-ジオキサン50 ml溶液に、氷冷撹拌下ジ-tert-ブチル ジカルボネート6.5 g及び4-ジメチルアミノピリジン1.8 gを加え、室温にて3時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル:n-ヘキサン)で精製し、tert-ブチル (2-メトキシ-4-ニトロフェニル)カルバメート2.6 gを淡黄色固体として得た。得られた化合物1.5 gのDMF 15 ml溶液に、氷冷撹拌下60%油性水素化ナトリウム330 mgを徐々に加えた。10分後、ヨウ化メチル0.7 mlを加え、室温にて2時間攪拌した。反応液に飽和塩化アンモニウム水溶液を加えトルエンで抽出後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、tert-ブチル (2-メトキシ-4-ニトロフェニル)メチルカルバメート1.6 gを淡黄色固体として得た。得られた化合物818 mgを4M塩化水素-酢酸エチル溶液で処理して、2-メトキシ-N-メチル-4-ニトロアニリン塩酸塩554 mgを黄色固体として得た。ESI: 183。
参考例8
3-メトキシ-4-ニトロ安息香酸を原料として用い、参考例4と同様に、3-メトキシ-4-ニトロアニリン塩酸塩を得た。FAB: 169。
【0033】
参考例9〜14
参考例5と同様にして、以下の化合物を得た。
参考例9
1-(2-クロロ-3-フルオロフェニル)メタンアミン塩酸塩。FAB: 160。
参考例10
1-(3-ブロモ-2-メチルフェニル)メタンアミン塩酸塩。FAB: 200, 202。
参考例11
1-[(2-ベンジルオキシ)-3-クロロフェニル]メタンアミン塩酸塩。FAB: 248, 250。
参考例12
1-(2-メトキシ-5-ニトロフェニル)メタンアミン塩酸塩。EI: 182。
参考例13
1-[2-(ベンジルオキシ)-4-フルオロフェニル]メタンアミン塩酸塩。FAB: 232。
参考例14
1-(2-クロロ-2,5-ジフルオロフェニル)メタンアミン塩酸塩。FAB: 178。
参考例15〜21
後記実施例5と同様にして、以下の化合物を得た。
参考例15
4-アミノ-3-クロロベンズアミド。ESI: 171。
参考例16
4-アミノ-3-クロロ-N, N-ジエチルベンズアミド。ESI: 227。
参考例17
4-クロロ-3-フルオロベンズアミド。FAB: 174。
参考例18
2-(ベンジルオキシ)-3-クロロベンズアミド。FAB: 262, 264。
参考例19
2-メトキシ-5-ニトロベンズアミド。FAB-N: 195。
参考例20
2-(ベンジルオキシ)-4-フルオロベンズアミド。FAB: 246。
参考例21
4-クロロ-2,5-ジフルオロベンズアミド。FAB: 192。
【0034】
実施例1
3-フェノキシアニリン926 mg、ピリジン2 ml及び1,4-ジオキサン4 ml混合物に、ニコチン酸クロリド塩酸塩890 mgを徐々に加え60℃で1時間撹拌した。室温まで冷却後、反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出液:酢酸エチル:n-ヘキサン)で精製した。得られた個体を4M塩化水素-酢酸エチル溶液を用いて塩酸塩とした後、エタノール-酢酸エチルより析出した結晶をろ取し、N-(3-フェノキシフェニル)ニコチンアミド塩酸塩1.55 gを白色固体として得た。
実施例2
N-(3-ヒドロキシフェニル)ニコチンアミド200 mgのDMF 4 ml溶液に、炭酸カリウム243 mg及び1-(ブロモメチル)-4-フルオロベンゼン176 mgを順次加え、室温で 2日間攪拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え酢酸エチルで抽出後、有機層を飽和食塩水で洗浄した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた油状物を飽和炭酸水素ナトリウム水溶液にて固体とし、N-{3-[(4-フルオロベンジル)オキシ]フェニル}ニコチンアミド202 mgを褐色固体として得た。
【0035】
実施例3
N-(4-アミノ-2-メトキシフェニル)ニコチンアミド300 mgのクロロホルム5 ml及びピリジン0.3 ml混液に、無水酢酸0.14 ml及び触媒量の4-ジメチルアミノピリジンを順次加え、室温で5時間攪拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えクロロホルムで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、残留物をシリカゲルクロマトグラフィー(溶出液:メタノール:クロロホルム)で精製した。得られた個体を4M塩化水素-酢酸エチル溶液を用いて塩酸塩とした後、エタノール-酢酸エチルより析出した結晶をろ取し、N-[4-(アセチルアミノ)-2-メトキシフェニル]ニコチンアミド塩酸塩260 mgを白色固体として得た。
実施例4
メチル 3-メトキシ-4-[(ピリジン-3-イルカルボニル)アミノ]ベンゾエート5.76 gのTHF 110 ml溶液に、1M水酸化ナトリウム溶液60 mlを加え、室温で3時間攪拌した。反応液に1M塩酸を加え中和した後、析出した固体をろ取し、3-メトキシ-4-[(ピリジン-3-イルカルボニル)アミノ]安息香酸4.10 gを白色固体として得た。
【0036】
実施例5
3-メトキシ-4-[(ピリジン-3-イルカルボニル)アミノ]安息香酸200 mgのDMF 7 ml溶液に、室温下HOBt 164 mg及びWSC塩酸塩390 mgを順次加えた。30分後、モルホリン0.18 mlを加え、さらに2時間撹拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去した。得られた個体を4M塩化水素-酢酸エチル溶液を用いて塩酸塩とした後、ジエチルエーテルより析出した結晶をろ取し、N-[2-メトキシ-4-(モルホリン-4-イルカルボニル)フェニル]ニコチンアミド塩酸塩198 mgを白色固体として得た。
実施例6
1,2-ジフルオロ-4-ニトロベンゼン1.59 g、THF 15 ml及びエタノール 15 ml混合物に、アンモニア水10 mlを加え、封管中80℃で一晩攪拌した。反応液を室温まで冷却し、水を加え酢酸エチルで抽出した。無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、2-フルオロ-4-ニトロアニリン1.54 gを得た。得られた化合物の326 mgを原料として用い、以下実施例1と同様にして、N-(2-フルオロ-4-ニトロフェニル)ニコチンアミド塩酸塩483 mgを淡黄色固体として得た。
【0037】
実施例7
2-メチルニコチン酸685 mg及び2-メトキシ-4-ニトロアニリン841 mgのピリジン5 ml溶液に、-5℃でオキシ塩化リン0.56 mlを加え30分間攪拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え、析出した固体をろ取した。得られた個体を4M塩化水素-酢酸エチル溶液を用いて塩酸塩とし、N-(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)-2-メチルニコチンアミド塩酸塩909 mgを白色固体として得た。
実施例8
3-プロポキシベンゾニトリルを用い、参考例5と同様にして、粗製の1-(3-プロポキシフェニル)メタンアミンを得、次いで実施例1と同様にして、N-(3-プロポキシベンジル)ニコチンアミド塩酸塩578 mgを白色固体として得た。
実施例9
1-[(2-ベンジルオキシ)-3-クロロフェニル]メタンアミン塩酸塩323 mgを原料として用い、実施例1と同様にて、N-[2-(ベンジルオキシ)-3-クロロベンジル]ニコチンアミドを含む淡黄色アモルファス状の化合物を得た。得られた化合物のメタノール3 ml溶液に、4M塩化水素-酢酸エチル溶液2 mlを加え、室温で2時間攪拌した。溶媒を減圧留去し、得られた個体を酢酸エチルより結晶化して、N-[3-クロロ-2-ヒドロキシベンジル]ニコチンアミド塩酸塩54 mgを白色固体として得た。
【0038】
実施例10A及び10B
2-クロロ-6-メトキシベンゾニトリル 1.0 gを原料として用い、参考例5と同様にして、1-(2-クロロ-6-メトキシフェニル)メタンアミン塩酸塩716 mgを得た。本化合物はこれ以上の精製操作を行うことなく、次反応に用いた。得られた化合物の416 mgを原料として用い、実施例1と同様にして、N-(2-クロロ-6-メトキシベンジル)ニコチンアミドを得た。得られた化合物のメタノール3 ml溶液に、4M塩化水素-酢酸エチル溶液2 mlを加え、室温で2時間攪拌した。溶媒を減圧留去後、得られた固体を酢酸エチル-メタノールより再結晶して、N-(2-クロロ-6-メトキシベンジル)ニコチンアミド塩酸塩221 mgを白色固体として得た(実施例10A)。一方、ろ液を減圧留去後、得られた固体をメタノールより結晶化し、N-(2-クロロ-6-ヒドロキシベンジル)ニコチンアミド塩酸塩 181 mgを白色固体として得た(実施例10B)。
実施例11
N-(5-クロロ-2-フルオロベンジル)-4-メトキシニコチンアミド137 mgのクロロホルム5 ml溶液に、室温でm-クロロ過安息香酸160 mgを加え、同温にて4時間攪拌した。反応液に飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えクロロホルムで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液;メタノール:クロロホルム)で精製し、酢酸エチルより析出した結晶をろ取し、N-(5-クロロ-2-フルオロベンジル)-4-メトキシニコチンアミド 1-オキシド117 mgを白色固体として得た。
【0039】
実施例12
N-[2-(アミノカルボニル)-4-クロロフェニル]ニコチンアミド137 mgのメタノール5 ml溶液に、1M水酸化ナトリウム水1 mlを加え、3時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却後、酢酸を加え中和し、析出した固体をろ取して、6-クロロ-2-ピリジン-3-イルキナゾリン-4(3H)-オン483 mgを白色固体として得た。
実施例13
2-メトキシ-6-ニトロアニリン300 mgを用い実施例1と同様にしてN-(2-メトキシ-6-ニトロフェニル)ニコチンアミドを得、得られた化合物のエタノール 5 ml溶液に、10%パラジウム-カーボン粉末50 mgを加え、水素雰囲気下、室温で3時間攪拌した。セライトを用いてろ過後、溶媒を減圧留去し、粗製のN-(2-アミノ-6-メトキシフェニル)ニコチンアミドを得た。得られた化合物の酢酸10 ml溶液を4時間加熱還流した。反応液を室温まで冷却後、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加えクロロホルムで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥後、溶媒を減圧留去し、残留物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(溶出液;メタノール:クロロホルム)で精製した。得られた化合物をエタノール-酢酸エチルより結晶化し、4-メトキシ-2-ピリジン-3-イル-1H-ベンズイミダゾール 2塩酸塩181 mgを白色固体として得た。
【0040】
実施例1と同様にして実施例14〜35、56〜116及び146〜149の化合物を、実施例2と同様にして実施例36の化合物を、実施例4と同様にして実施例37の化合物を、実施例5と同様にして実施例38〜43、118〜125、131〜145及び151の化合物を、実施例6と同様にして実施例55の化合物を、実施例7と同様にして実施例44〜54の化合物を、実施例8と同様にして実施例117の化合物を、実施例11と同様にして実施例126〜130の化合物を、並びに、実施例12と同様にして実施例150の化合物を、それぞれ製造した。実施例化合物の構造及び物理化学的データを表8〜17にそれぞれ示す。
【0041】
【表8】

【0042】
【表9】

【0043】
【表10】

【0044】
【表11】

【0045】
【表12】

【0046】
【表13】

【0047】
【表14】

【0048】
【表15】

【0049】
【表16】

【0050】
【表17】

【0051】
本発明化合物のNO産生促進活性、eNOS活性化活性及び血流増加作用は以下の試験法により確認した。
試験例1 培養上清NOx量測定
ヒト大動脈由来血管内皮細胞(HAEC、Clonetics社製)をコラーゲンタイプIV処理24wellプレート(イワキ(株)社製)にコンフルエントまで培養した後、培地を無血清培地に変え、16時間培養を続けた。培地の除去後、被験化合物10μMを含む無血清培地にて細胞を30分間処理した。細胞から放出されたNO量は培養上清中のNOx(NO2-及びNO3-)量を測定することで算出した。NO2-及びNO3-量は酸化窒素分析システム(Eicom社)を用い、添付の方法に従って測定した。
培養上清中NOx増加率を溶媒添加(0.1% DMSO)群に対する相対比で下記表に示す。
【0052】
【表18】

表に示すように、これらの化合物はNO産生促進活性を有することが確認された。
【0053】
試験例2 ラット摘出血管における血管弛緩反応
Wistar系雄性ラットをペントバルビタールにより麻酔し、頸動脈切断により放血致死させた。その後、胸部大動脈を摘出しリング標本を作製した。作製した標本は、Krebs-Hanseleit buffer (pH 7.4, 95%O2, 5%CO2, 37℃)を満たしたorgan bath (10 mL)中に静止張力1 g下で懸垂し、10-6 M塩酸フェニレフリン (PE)により収縮を惹起させた。PE刺激条件下における標本の等尺性収縮は、張力トランスデューサーを用いて測定した。摘出血管標本は、PE刺激条件下で30〜60分間の安定期間を置いた後に、被験化合物を累積的に添加した。PEによる収縮を50%弛緩する被験化合物の濃度をIC50値としてlogistic法により算出し、被験化合物の活性の指標とした。更に、bath内を新しいbufferで洗浄後、eNOSの阻害剤であるNG-ニトロ-L-アルギニンメチルエステル塩酸塩 (L-NAME:10-5 M)存在下[L-NAME (+)]で、再びPEによる収縮及び被験化合物による弛緩を上記L-NAME非存在下[L-NAME (-)]と同様に測定し、被験化合物による弛緩反応のNO依存性を確認した。例えば、実施例95の化合物はL-NAME存在下で100μMでも抑制率が50%に至らなかったことから、その作用はeNOSを介していることが確認された。
L-NAME非存在下での測定結果を下記表に示す。
【表19】

【0054】
【表20】

【0055】
試験例3 3H-アルギニンによる細胞内eNOS活性測定
3H-アルギニンによる細胞内eNOS活性測定はRajesh K.D.らの報告に従った(Rajesh K.D. et al., Hypertension, 1993, 21, 939-94)。ヒト大動脈由来血管内皮細胞(HAEC、Clonetics社製)をコラーゲンタイプIV処理24wellプレート(イワキ(株)社製)にコンフルエントまで培養後、培地をL-Arg無添加、無血清培地に変え、16時間培養を続けた。培地の除去後、3H-Arg(最終濃度1.5μCi/mL)、被験化合物を含むmodified HEPES溶液(25mM Hepes(pH7.4), 140 mM NaCl, 5.4 mM KCl, 1.8 mM CaCl2, 1.0 mM MgCl2, 5.0 mM glucose)にて細胞を処理した。氷冷した1.3 Mトリクロロ酢酸を400μL/well加え、反応を停止させた後、凍結融解で細胞を破砕した。細胞破砕液をエーテル処理後、Stop buffer(200 mM Hepes (pH5.5), 20 mM EDTA)、Dowex樹脂(Bio-Rad)を加え混合した後に、ろ過によりDowex樹脂を除き、3H-Citrullin量を液体シンチレーションカウンターにより測定した。
【0056】
試験例4 麻酔ラット後肢血流増加作用
本発明の化合物について、ウレタン麻酔ラットにおける後肢血流増加作用を以下の試験方法により確認した。
Wistar系雄性ラットにウレタン1 g/kgを腹腔内投与し麻酔を施した。開腹の後、十二指腸にカニューレを挿入した。切開部を縫合した後、被験化合物100 mg/5 ml/kg (0.5%メチルセルロース)を十二指腸内投与した。投与2時間後、後肢血流をレーザー血流画像化装置(PIM II; インテグラル)を用いて測定した。
本試験の結果、実施例20、33、58及び95の化合物は114〜140%の血流改善効果を示した。
上記の各試験の結果、本発明化合物はNO産生促進活性、eNOS活性化活性及び血流増加作用を有することが確認された。このことから、間歇性跛行を含むPAOD、動脈硬化、虚血性心疾患などの血管内皮機能不全が病因である種々の疾患の治療剤として有用であることは明らかである。
【0057】
また、血管抵抗を形成する細動脈径の調節は、EDRF(NO)よりも内皮由来過分極因子(EDHF:endothelium-derived hyperpolarizing factor)の関与が大きいとの報告(Am. J. Physiol., 1999, 277, H1252-H1259; Acta Physiol. Scand., 2000, 168, 505-510)もあることから、本発明医薬は、血圧や心拍に対する影響が少ないことも期待できる。更に、化合物(I)、特にkが1であるN-オキシド化合物は、薬物間相互作用や代謝酵素(特に、CYP3A4等のチトクロームP450系酵素)への影響が少なく、医薬として好ましいと考えられる。
【0058】
本発明医薬の有効成分であるフェネチルニコチンアミド化合物又はその塩は、優れた血管内皮性NO産生促進及び/又はeNOS活性化作用による血流循環改善作用を有することから、種々の、血管内皮機能不全が病因である疾患又は病理学的状態、或いは血管内皮機能不全又は低下を引き起こす疾患に有効である。殊に、心不全、心筋梗塞、狭心症等の心疾患;動脈硬化、高血圧、肺高血圧、閉塞性動脈硬化症、PAOD、閉塞性血栓血管炎、大動脈炎症候群等の末梢動脈疾患(PAD);再狭窄症等の血管性疾患;血栓症;脊椎間狭窄症;糖尿病;糖尿病性網膜症、糖尿病性神経症、糖尿病性血管障害、糖尿病性四肢病変、糖尿病性血管障害等の糖尿病性合併症;胃潰瘍、虚血性腸疾患等の消化管疾患;腎障害、腎不全、腎炎、腎硬化症等の腎疾患;並びに、勃起障害等の泌尿器疾患の治療剤として有用である。更に、痴呆(アルツハイマー型痴呆、脳血管性痴呆症(脳血管性認知症)等)の予防又は治療剤、並びに、脳卒中、脳外傷、脊髄損傷等の中枢神経変性疾患による運動機能障害を含めた機能障害の回復促進作用又は機能回復訓練(リハビリテーション医療)効果の増強及び/又は促進剤としても有用である。また、本発明医薬は血圧や心拍に対する影響が少ないことも期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)で示されるニコチンアミド誘導体又はその製薬学的に許容される塩と、製薬学的に許容される担体とからなる血管内皮性一酸化窒素産生促進及び/又は内皮性一酸化窒素合成酵素活性化剤。
【化1】

(式中の記号は以下の意味を示す。
X1:N又はC-R1
X2:N又はC-R2
X3:N又はC-R3
X4:N又はC-R4
但し、X1、X2、X3及びX4のうち、Nは1個又は2個であり、当該Nはオキシド(N(O))を形成していてもよい、
R1、R2、R3、R4及びR5:同一又は互いに異なって、-H、-ハロゲン、-RA、-OH、-O-RA、-S-RA、-ハロゲノ低級アルキル、-N(R11)(R12)、-O-フェニル、-CO2H又は-CO2-R0、或いは、隣接する2個の基が一体となって、-NH-CH=N-、
RA:-OH、-O-R0、-CO2H及び-CO2-R0から選択される1個以上の基で置換されていてもよい低級アルキル、
R0:-低級アルキル、
R11及びR12:同一又は互いに異なって、-H、-R0又は-CO-R0
Y:O又はN(R6)、
R6:-H又は-R0
R7:-ハロゲン、-OH、-O-R0、-O-ハロゲノ低級アルキル、-O-(R21で置換されていてもよいフェニル)又は-O-CH2-(R21で置換されていてもよいフェニル)、
R8及びR9:同一又は互いに異なって、-H、-RA、-N(R13)(R14)、-CN、-NO2、-CO2H、-CO2-R0、-CO-N(R13)(R14)、-CO-(R21で置換されていてもよいフェニル)、又は、R7に記載の基、
或いは、R8が-N(R10)-(CH2)n-に対してオルト位に結合する場合、R6とR8が一体となって、単結合、メチレン又はカルボニルを形成してもよい、
R13及びR14:同一又は互いに異なって、-H、-RA、-CO-RA又はシクロアルキル、或いは、R13とR14が一体となって、-(CH2)m-、-(CH2)j-O-(CH2)k-、-(CH2)j-NH-(CH2)k-又は-(CH2)j-N(R0)-(CH2)k-、
m:3、4、5、6又は7、
j:1、2、3又は4、
k:1、2、3又は4、但し、j+kは3〜6の整数、
R21:-R0、-ハロゲン、-O-R0、-O-ハロゲノ低級アルキル又は-CN、
n:0又は1、
R10:-H又は-R0。)
【請求項2】
請求項1記載の式(I)で示されるニコチンアミド誘導体又はその製薬学的に許容される塩と、製薬学的に許容される担体とからなる末梢動脈閉塞症治療剤。
【請求項3】
末梢動脈閉塞症が間歇性跛行である請求項2記載の治療剤。
【請求項4】
下記式(I’)で示されるニコチンアミド誘導体又はその製薬学的に許容される塩。
【化2】

(式中の記号は以下の意味を示す。
X1:N又はC-R1
X2:N又はC-R2
X3:N又はC-R3
X4:N又はC-R4
但し、X1、X2、X3及びX4のうち、Nは1個又は2個であり、当該Nはオキシド(N(O))を形成していてもよい、
R1、R2、R3、R4及びR5:同一又は互いに異なって、-H、-ハロゲン、-RA、-OH、-O-RA、-S-RA、-ハロゲノ低級アルキル、-N(R11)(R12)、-O-フェニル、-CO2H又は-CO2-R0、或いは、隣接する2個の基が一体となって、-NH-CH=N-、
RA:-OH、-O-R0、-CO2H及び-CO2-R0から選択される1個以上の基で置換されていてもよい低級アルキル、
R0:-低級アルキル、
R11及びR12:同一又は互いに異なって、-H、-R0又は-CO-R0
Y:O又はN(R6)、
R6:-H又は-R0
R7:-ハロゲン、-OH、-O-R0、-O-ハロゲノ低級アルキル、-O-(R21で置換されていてもよいフェニル)又は-O-CH2-(R21で置換されていてもよいフェニル)、
R8及びR9:同一又は互いに異なって、-H、-RA、-N(R13)(R14)、-CN、-NO2、-CO2H、-CO2-R0、-CO-N(R13)(R14)、-CO-(R21で置換されていてもよいフェニル)、又は、R7に記載の基、
或いは、R8が-N(R10)-(CH2)n-に対してオルト位に結合する場合、R6とR8が一体となって、単結合、メチレン又はカルボニルを形成してもよい、
R13及びR14:同一又は互いに異なって、-H、-RA、-CO-RA又はシクロアルキル、或いは、R13とR14が一体となって、-(CH2)m-、-(CH2)j-O-(CH2)k-、-(CH2)j-NH-(CH2)k-又は-(CH2)j-N(R0)-(CH2)k-、
m:3、4、5、6又は7、
j:1、2、3又は4、
k:1、2、3又は4、但し、j+kは3〜6の整数、
R21:-R0、-ハロゲン、-O-R0、-O-ハロゲノ低級アルキル又は-CN、
n:0又は1、
R10:-H又は-R0
但し、以下の化合物を除く:
(1)X1がN、X2がCH又はC-CO2H、X3及びX4がともにCH、R5、R9及びR10がH、YがO、nが0、R7がハロゲン、OMe又はOEt、かつ、R8がH、Me又はNO2である化合物;
(2)X2がNである下記表に示す化合物;
【表1】

(3)X1、X3及びX4がともにCH、X2がN(O)、R5、R8、R9及びR10がH、YがO、nが0、かつ、R7がOMeである化合物;
(4)X3がNである下記表に示す化合物;
【表2】

(5)X1、X2及びX4がともにCH、X3がN(O)、R5、R8、R9及びR10がH、YがO、nが0、かつ、R7がOMeである化合物。)
【請求項5】
請求項4に記載のニコチンアミド化合物又はその製薬学的に許容される塩と、製薬学的に許容される担体とからなる医薬組成物。

【公開番号】特開2007−186435(P2007−186435A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4305(P2006−4305)
【出願日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】