説明

ニコチンハプテン、免疫抱合体およびその使用

本発明は、特異的にニコチンに結合する抗体のインビボでの産生に使用することができる新規ニコチンハプテン化合物およびニコチン免疫抱合体を提供する。本発明はまた、能動免疫化または受動免疫化プロトコルにおけるニコチン免疫抱合体を含むワクチンを使用する方法も提供する。本発明の組成物および方法はニコチン中毒の予防および治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
37C.F.R.§1.71(e)に基づき、出願人は、本情報開示の一部が著作権保護を受ける資料を含むことに特に言及する。本著作権者は、何人による本特許書類又は本特許の情報開示の複写複製に対しても、それが特許商標局の特許ファイル又は記録中に出現する場合には異議を唱えないが、その他の場合には全ての著作権を留保する。
【関連出願の相互参照】
【0002】
本特許出願は、米国仮出願第61/276,679号(出願日2009年9月14日)による優先権の利益を主張する。優先権基礎出願の全ての情報開示は、参照することにより、そっくりそのまま、すべての目的のために本明細書に援用される。
【背景技術】
【0003】
ニコチン、(S)−(−)−1−メチル−2−(3−ピリジル)ピロリジンは、紙巻きタバコ、葉巻、パイプタバコおよび噛みタバコに豊富に含まれる依存性物質である。紙巻きタバコ、葉巻およびパイプタバコの喫煙は、米国内および世界的に蔓延している問題である。ニコチンは、中脳辺縁系ドーパミン経路を標的にし、ニコチン様アセチルコリン受容体に結合し生理的な依存を引き起こす。依存性喫煙者におけるニコチンの精神薬理作用には、精神安定、体重減少、易刺激性の低減、喫煙欲求の減少、覚醒亢進および認知動作の改善が含まれる。ニコチン欠乏は禁断症状およびニコチン探索行動の活発化を引き起こす。
【0004】
現在、いくつかの治療法がニコチン中毒を治療及び予防するために利用可能である。これらの治療法は、通常、援助の無い喫煙制御またはリハビリテーションのためのニコチン自体の投与にもっぱら頼っているが、大部分が効果がない。例えば、最も汎用される2つの治療法、即ち、ニコチン経皮パッチおよびニコチンチューインガムによる長期間の成功率は、20%未満の不十分なものでしかなかった。また他の問題または副作用がこれらの治療法に付随することも知られている。特に、ニコチンの血流への浸透が低く、そのために喫煙の欲求が高まる。例えば、口内炎、顎の不快感、悪心、等の問題がニコチンガムの使用に付随してきた。例えば、皮膚炎、睡眠障害および神経過敏等の問題がニコチンパッチの使用に付随してきた。
【0005】
ニコチン中毒を治療するためのより良い方法が当該技術分野において必要とされる。本発明は、当該方法および当該技術分野で実現されていない他のニーズを扱う。
【発明の概要】
【0006】
一態様において本発明は式(I):
【化1】

のハプテン化合物を提供し、式中、Xはチオール基を含まないリンカー部分である。
【0007】
他の態様において本発明は式(II):
【化2】

の免疫抱合体を提供し、式中、Wはキャリア部分Rに共有結合的に結合したリンカー部分であり、ここで当該共有結合はチオエーテル結合でない。また本発明において提供されるのは、免疫学的に有効な量の免疫抱合体および生理学的に許容可能なベヒクルを含む医薬組成物でもある。医薬組成物は適当なアジュバントをさらに含むことができる。
【0008】
関連した態様において本発明は、対象における抗ニコチン免疫応答を誘導する方法を提供する。当該方法では、本明細書で開示する免疫学的に有効な量の免疫抱合体または医薬組成物により対象を免疫することを伴う。
【0009】
他の態様において本発明は、式III:
【化3】

の免疫抱合体を調製する方法を提供し、式中、Yはキャリア部分への結合を促進する官能基であり、Rはキャリア部分であり並びにnは約3から約8の整数である。当該方法は、化合物A:
【化4】

の化合物B:
【化5】

への最初の変換を含む。
【0010】
その後、化合物Bは式IIIの免疫抱合体へ引き続き変換される。
【0011】
さらに他の態様において本発明は、本明細書に開示する免疫抱合体に結合する抗体を提供する。さらに提供されるのは、抗体および生理学的に許容可能なキャリアまたはベヒクルを含む医薬組成物である。
【0012】
明細書の以下の部分および特許請求の範囲を参照することによって、本発明の本質および優位性に関しさらに理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1は、ニコチンハプテンAM1の合成および適当なハプテン−タンパク質抱合体の産生のスキームを示す。
【図2】図2は、自己投与期間に誘発されたラット(n=5)の平均NIC−BSA力価を示す。p<0.05。
【図3】図3は、ワクチン接種強化群および対照群に関するFR1−TO−20sスケジュール下で行われた平均注入回数を示す。#p≦0.10;p<0.05。
【発明の詳細な説明】
【0014】
I.概要
【0015】
本発明は、発明者らによって作製されニコチン中毒の治療用の免疫薬理療法に有用な、新規クラスのニコチンハプテンおよびハプテン−キャリア免疫抱合体に一部を基づいている。免疫薬理療法は、高度に特異的な抗体を使用し、脳中への薬の通過を鈍らせ、従って中枢神経系の報酬経路への強化効果を最小化することを目標としている。ニコチンおよびその代謝物コチニンは、低分子量の分子であり、免疫応答を誘発するためには高分子に付加される必要がある。これらの構造の双方とも付加のための適当な官能基を有さないので、適当なリンカーを用いて標的スカフォールドに官能性を付与しなければならない。リンカー−ニコチンの位置化学的付加は、誘発される抗体量並びに望ましい抗体特異性を獲得することの双方の観点から適切な免疫刺激にとってきわめて重要であることが証明された。ニコチンについては、数種のリンカー付加部位が研究されてきたが、特記すべきはLangoneらのものである(Biochemistry 12:5025−5030、1973)。原報においては、トランス−3‘−スクシニルメチルニコチンが作製され、他の高分子とカップリングされた。アルビノのウサギへの完全フロイントアジュバントとの製剤によるこれら抱合体のワクチン接種は、コチニンの存在下でさえも抗体の検知可能な交差反応性を有さない、種々の組織および生物体液におけるピコモルレベルのニコチン検出を可能とする、抗体を産生した。Langoneの原報以来、同じ一般構造の、すなわち3’位置に官能性をもたせる構造の多くのハプテンが、全てのニコチンハプテンの中で最も広く調製され研究された分子となった(例えば、Hiedaら、Int J Immunopharmacol 22:809−819、2000)。しかしながら、ニコチンハプテンに付随する種々の問題が当該技術分野で報告されてきた。例えば、ハプテンの低い安定性、ニコチンの標的構造以外の追加の免疫原の部分および抗体力価の高変動、等である。例えば、Hiedaら(Int J Immunopharmacol 22:809−819、2000)によって獲得された抗体力価の範囲は、少なくとも10倍までの範囲で大きくばらつく。ニコチン断ちの成功は、体内循環する抗体量と直接関係していることから、力価が大きくばらつくことによって、禁煙率が大きくばらつく原因となっている。このため、力価の大きなばらつきは重要な因子である。
【0016】
発明者らは、当該技術分野において既知のニコチンハプテンより優れた性質を有するニコチン誘導化合物を設計し合成した。本発明のハプテン化合物に基づくハプテン−タンパク質免疫抱合体は、ハプテンに安定性を与え、またニコチンに対する良好な力価並びに親和性および特異性を有する抗体を動物中で産生するのに有効である。さらに、ニコチン依存症の動物の免疫抱合体によるワクチン接種は、禁ニコチンを援助する免疫抱合体の有効性を示唆する特定の行動変化を首尾よく誘発することができる。具体的にいうと、以下の実施例で詳述する通り、本発明の免疫抱合体は、マウスおよびラット双方の齧歯類のモデルにおいて高レベルの抗ニコチン抗体を誘発することができた。ハプテンの未変性の抗原性は、非免疫ニコチンアナログ(NIC)との交差反応性をチェックするときに、キャリアタンパク質に関係なく高抗体力価レベルが得られたという事実によって脚光をあびている。さらに、免疫抱合体によるワクチン接種が、ラットにおいて高用量の未処理薬剤の自己投与を同時併用しても、ニコチン特異的抗体の産生を可能とすることが証明された。この結果は、ヘビースモカーにおいてさえ、ワクチンの免疫原性に影響を与えることなしに、禁煙を始める前にワクチン接種を開始することができることを示唆する。さらに、これら抗ニコチン抗体が存在することにより、ワクチン接種を受けた対象における静脈内自己投与パターンが大きく変化しており、ワクチン接種による防御効果が薬剤摂取量の増加に反映されている。
【0017】
これらの発見に従って本発明は、新規ニコチンハプテン化合物および当該ハプテンを含む免疫抱合体を提供する。本発明はまた、当該免疫抱合体を産生する方法およびニコチン依存症又は中毒の対象を治療するために当該免疫抱合体を使用する治療方法を提供する。
【0018】
以下の節で本発明を実施するためのより詳細なガイダンスを提供する。
II.定義
【0019】
特に定義しない限り、本明細書で使用する全ての技術および科学用語は、本発明が関連する当該技術分野における当業者によって普通に理解されるのと同じ意味を有する。以下の参考文献は、技術者に本発明で使用する多数の用語の一般的な定義を供給する。Academic Press Dictionary of Science and Technology、Morris(編)、Academic Press(第1版、1992);Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology、Smith、(編)、Oxford University Press(改訂版、2000);Encyclopaedic Dictionary of Chemistry、Kumar(編)、Anmol Publications Pvt.Ltd.(2002);Dictionary of Microbiology and Molecular Biology、Singletonら、(編)、John Wiley & Sons(第3版、2002);Dictionary of Chemistry、Hunt(編)、Routledge(第1版、1999);Dictionary of Pharmaceutical Medicine、Nahler(編)、Springer−Verlag Telos(1994);Dictionary of Organic Chemistry、Kumar and Anandand(編)、Anmol Publications Pvt.Ltd.(2002);およびA Dictionary of Biology(Oxford Paperback Reference)、Martin and Hine(編)、Oxford University Press(第4版、2000)。さらに、読者の本発明の実施を助けるために以下の定義を提供する。
【0020】
本明細書で使用する用語「アジュバント」とは、それ自体はいかなる特異的な抗原効果を有せずに、対象の免疫系を刺激しワクチンへの応答を増強することのできる免疫学的薬剤をいう。アジュバントには、特異的なワクチン抗原と組み合されて使用されたときに抗原特異的な免疫応答を促進、延長又は亢進するように作用するいかなる物質も含まれる。従って、本発明に適したアジュバントは、本明細書に記載の免疫抱合体に対する免疫応答を亢進することができる。
【0021】
本明細書および当該技術分野で使用する用語「ハプテン」とは、キャリア部分に結合すると検出可能な免疫応答を誘発する小分子をいう。免疫抱合体として構築されるとき、ハプテンは免疫抱合体の特異性決定部として特徴づけられる。本発明の免疫抱合体によるワクチン接種に応答して産生された抗体は、また遊離状態のハプテンまたはニコチンと反応することもでき、従って種々のアッセイに有用である。
【0022】
「能動免疫」とは、抗原、例えば、免疫抱合体を与えることによる対象における免疫応答の誘導をいう。免疫抱合体は、免疫学的に有効な量の免疫抱合体を対象にデリバーすることのできるように、生理学的に許容可能なベヒクル又はキャリアを含有する医薬組成物に適切に含まれる。
【0023】
本明細書で使用する「キャリア部分」とは、ハプテンの免疫原性を亢進することのできる抱合パートナーをいう。キャリア部分は当該技術分野で周知であり、一般的にはタンパク質である。
【0024】
「免疫学的に有効な量」とは、免疫原に対する免疫応答を誘導することのできるおよび/または対象とする免疫原、例えば、ニコチンの免疫学的特徴を共有する免疫原又は他の薬剤に特異的な抗体を産生することのできる免疫原(例えば、本明細書に記載の免疫抱合体)の量を意味する。
【0025】
「受動免疫」とは、対象へ抗体を移入することによって短期間に達成される免疫をいう。
【0026】
「生理学的に許容可能な」ベヒクルとは、インビボでの投与(例えば、経口、経皮、筋肉内または腸管外投与)またはインビトロでの使用、即ち細胞培養に適した任意のベヒクル又はキャリアである。
【0027】
用語「対象」とは、脊椎動物、適切には哺乳動物、より適切にはヒトをいう。
【0028】
ワクチンとは、対象に投与されたときに、作動物質(例えば、ニコチン)に対し免疫応答(特異抗体の産生を含む)を誘発するまたは特定の疾病に対する免疫を改善する生物学的製剤をいう。ワクチンは典型的には、対象の作動物質または微生物に免疫学的に類似する少量の免疫原(例えば、ニコチン誘導体)を含有する。免疫原は、体の免疫系を刺激して当該作動物質を異物として認識させ、当該作動物質を破壊させ、さらに「記憶」させるため、その結果免疫系は、後に遭遇すると当該作動物質をより容易に認識し破壊することができる。
III.ニコチンハプテンおよび免疫抱合体の設計および合成
【0029】
ニコチンは本質的に非免疫原性であるために、発明者らは、これらの化合物に対する抗体がニコチンと交差反応するように、ニコチンの構造的および立体化学的な特徴を有する化合物を設計した。本発明に従ってハプテンは、原料から新規にまたはニコチン関連化合物から合成することができる。いくつかの実施態様において、ニコチンまたはニコチン誘導化合物がハプテン合成の出発原料として用いられる。他の実施態様においてニコチンハプテンは、当該技術分野で周知の標準的な化学的方法に従ってデノボ合成によって産生することができる。本発明のハプテンは、対象における免疫応答の亢進を誘発することができるようにキャリアタンパク質とカップルすることができる。免疫応答には、ニコチンと交差反応することができるハプテン特異的な抗体の産生が含まれる。
【0030】
本発明に従って、いくつかのハプテンは式(I):
【化6】

に示す構造を有し、式中、Xはリンカー部分である。式Iのハプテンは、ニコチンの分子的特徴を模倣するように合成的に誘導することができる。上記の通りハプテンは、合成経路において反応物としてニコチンまたはニコチン誘導体を使用して、又は使用せずに合成することができる。式(I)のハプテンを産生する代表的な方法は、下記の実施例に記載する。当該ハプテン構造の重要な側面は、ニコチンハプテンの設計において一般に使用されるアミド部分とは対照的に単純エーテル結合を使用することである。本明細書の実施例において証明するとおり、エーテル付加物は、ハプテンの安定性を提供するだけでなく、免疫応答を望ましいニコチン標的に集中させる「マスクされた」付加部位を提供する。このような構造設計を有するハプテンは、インビボで有効な抗ニコチン抗体を産生することができる。AM1と命名した、本発明のニコチンハプテンの具体的な例を図1に示す。
【0031】
本発明のハプテンは、上記の通りニコチン免疫抱合体を産生するためにキャリア部分と結合することができる。免疫抱合体は、当該技術分野で既知の標準的な方法を使用して容易に産生することができる。免疫抱合体を産生するために、ニコチンハプテンは共有結合的または非共有結合的にキャリア部分に抱合することができる。いくつかの実施態様においてニコチンハプテンは、チオエーテル結合でない結合によってキャリア部分に抱合する。いくつかの実施態様においてリンカー部分Xは、共有結合によってキャリア部分に抱合する。リンカー部分Xおよびキャリア部分の官能基に依存して、ニコチンハプテンをキャリア部分に抱合するために種々の共有結合を使用することができる。いくつかの実施態様においてリンカー部分は、共有結合を形成するためにキャリア部分のアミノ酸残基と容易に反応することができる官能基を作成するために最初に活性化される。このように作成した免疫抱合体の具体例は、下記の実施例で例証する。いくつかの実施態様においてキャリア部分は、ニコチンハプテンと反応するための官能基を作成するために誘導体化分子またはスペーサ―分子によって修飾することができる。本発明を実施するために適した誘導体化分子は、当該技術分野で周知である。
【0032】
種々のキャリア部分を本発明の免疫抱合体を産生するために用いることができる。いくつかの好ましい実施態様においてキャリア部分はタンパク質である。例えば、細菌またはウイルス由来のタンパク質、例えば、破傷風トキソイド(TT)、ジフテリアトキソイドまたは関連タンパク質、例えば、ジフテリアトキシン交差反応変異体197(CRM)、コレラトキソイド、細菌毒素のLTBファミリー構成員、レトロウイルス核タンパク質(レトロNP)、狂犬病リボ核タンパク質(狂犬病RNP),水泡性口内炎ウイルスヌクレオカプシドタンパク質(VSV−N)、組換ポックスウイルスサブユニット、等々を使用することができる。他の適したキャリア部分には、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、エデスチン、チログロブリン、ウシ血清アルブミン、ヒト血清アルブミン、ヒツジ赤血球(SRBC)等の赤血球、並びにポリアミノ酸、例えば、ポリ(D)リジン、ポリ(D)グルタミン酸等が含まれる。ポリマー、例えば、デキストラン、マンノース又はマンナン等の炭水化物も使用することができる。
【0033】
ハプテンをキャリア部分に結合するために利用可能な方法は広範囲にわたって存在し、その任意のものが本発明の使用に好適に用いられる。上記の通り、本発明のいくつかのニコチンハプテンは、リンカー部分Xに連結する単純エーテル基を含有する。リンカー部分は、キャリア部分がリンカー部分に共有結合的に結合しているかどうかに依存して1価または2価であることができる。いくつかの実施態様においてリンカー部分は、チオ基を含有しない。いくつかの実施態様においてリンカー部分は、活性型アシルである。リンカー部分の長さおよび性質は、ハプテンがインビボでハプテンに対する適した抗体応答を誘発するためにキャリア部分から十分な距離ずれるようにする。適したリンカー部分には:
【化7】


が含まれ、式中、nは約0〜約20、又はいくつかの実施態様において約1から約12、約2から約10、または約3〜約6の整数であり;mは約0から約6の整数であり;kは約0から約20の整数であり;pは約0から約6の整数であり;rは約1から約20の整数であり;Zは−O−、−CH−および−NH−から成る群より選択され;RおよびRは−NHCO−、−CONH−、−CONHNH−、−NHNHCO−、−NHCONH−、−CONHNHCO−および−S−S−から成る群より独立して選択され;Yは−H、−OH、=CH、−CH、−OCH、−COOH、ハロゲン、アシル、活性型アシル、2−ニトロ−4−スルホベンゾエートおよびN−オキシスクシンイミデート等、アルキル、N−マレイミド、イミノアシレート、イソシアネート、イソチオシアネート、ハロホルメート、ビニルスルホン、イミドエステル、フェニルグリオキサレート、ヒドラジド、アルキニル、アジド、アミノ、N−ヒドロキシスクシンイミデート、−O−、−(CH−、−C(O)−、−S−S−、−NH−、−C(O)O−、−C(O)NH−、−N=N−、−N=N=N−、−CH=CH−および−C≡C−から成る群より選択される。本発明について十分な長さおよび柔軟性を有する適切な他のリンカーも使用することができる。広範囲の試薬および/または活性基をキャリア部分へのハプテンの架橋結合を促進するために使用することができる。
【0034】
ハプテンへの抱合を促進するために、キャリア部分を当業者に既知の方法、例えばサクシニル化によって修飾することができる。約1ないし約100のハプテンをキャリア部分に抱合することができ、より好ましくは1〜70、1〜50または1〜25のハプテンをキャリア部分にカップルすることができる。
【0035】
関連する態様において本発明は式(II):
【化8】

の免疫抱合体を提供し、式中、Wはキャリア部分への結合を促進する官能基またはリンカー部分であり並びにRはキャリア部分である。Wは、−H、−OH、=CH、−CH、−OCH、−COOH、ハロゲン、アシル、活性型アシル、2−ニトロ−4−スルホベンゾエートおよびN−オキシスクシンイミデート等、アルキル、N−マレイミド、イミノアシレート、イソシアネート、イソチオシアネート、ハロホルメート、ビニルスルホン、イミドエステル、フェニルグリオキサレート、ヒドラジド、アルキニル、アジド、アミノ、N−ヒドロキシスクシンイミデート、−O−、−(CH−(ここで、mは約1から約20の整数)、−C(O)−、−S−S−、−NH−、−C(O)O−、−C(O)NH−、−N=N−、−N=N=N−、−CH=CH−および−C≡C−から成る群より選択することができる。また他の十分な長さと柔軟性を有する適切なリンカーも本発明に使用することができる。広範囲の試薬および/または活性基をキャリア部分へのハプテンの架橋結合を促進するために使用することができる。
【0036】
いくつかの好ましい実施態様においてリンカー基Wは、共有結合によってキャリア部分Rに結合している。いくつかのこれらの実施態様において共有結合は、チオエーテル結合ではない。リンカー部分とキャリア部分の間で共有結合が形成されるとき、式(II)の免疫抱合体に含まれるリンカー部分Wは、上記のリンカー部分Xに対応する活性化された部分である。従って、免疫抱合体のリンカー部分Wは、
【化9】


であることができ、式中、nは約0〜約20の整数であり;mは約0から約6の整数であり;kは約0から約20の整数であり;pは約0から約6の整数であり;rは約1から約20の整数であり;Zは−O−、−CH−および−NH−から成る群より選択され;RおよびRは−NHCO−、−CONH−、−CONHNH−、−NHNHCO−、−NHCONH−、−CONHNHCO−および−S−S−から成る群より独立して選択され;Yは−O−、=CH−、−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−OCH−、−C(O)−、−C(O)O−、−NH−、−C(O)NH−、−N=N−、−N=N=N−、−S−S−、ハロゲン、アシル、2−ニトロ−4−スルホベンゾエート、N−オキシスクシンイミデート、N−マレイミド、イミノアシレート、イソシアネート、イソチオシアネート、ハロホルメート、ビニルスルホン、イミドエステル、フェニルグリオキサレート、ヒドラジド、アジド、アミノおよびN−ヒドロキシスクシンイミデートから成る群より選択される。
【0037】
本発明のいくつかの免疫抱合体は、下記の式III:
【化10】

に示す構造を有し、式中、Yはキャリア部分への結合を促進する官能基であり、Rはキャリア部分であり並びにnは約1から20、好ましくは約3から約8の整数である。上記または当該分野においてハプテンに免疫原性を与えるものとして既知のいかなるキャリア部分も、これらの免疫抱合体に使用することができる。ニコチンハプテンとキャリア部分の間の結合は、共有結合的でも非共有結合的であってもよい。いくつかの好ましい実施態様において官能基Yとキャリア部分Rの間の結合は、共有結合である。いくつかのこれらの実施態様において、共有結合はチオエーテル結合ではない。
【0038】
いくつかの好ましい実施態様において、本発明の免疫抱合体は、下記の式IV:
【化11】

に示す構造を有し、式中、nは約1から約20、好ましくは約3から約8の整数であり並びにRはキャリアタンパク質である。これらの実施態様においてニコチンハプテンは、キャリアタンパク質にアミド結合によって共有結合している。いくつかのより好ましい実施態様において、式IV中のnは5であり並びにキャリアタンパク質はTT、CRMまたはKLHである。
【0039】
本明細書に記載する免疫抱合体の産生方法もまた本発明に包含される。上記の通り、特定のニコチンハプテンおよびキャリア部分に依存して、本発明の免疫抱合体を合成するために種々の方法を用いることができる。いくつかの好ましい実施態様において、本発明は式IIIの免疫抱合体を調剤する方法を提供する。典型的には、当該方法は、下記に示す式Aの化合物の式Bの化合物への最初の変換:
【化12】

を必要とする。
この段階において化合物Aは、キャリア部分Rと反応することのできる官能基Yにより誘導体化される。免疫抱合体を合成するために、次に化合物B中の官能基Yが活性化される。ハプテン化合物はその後、活性化された官能基Yをキャリア部分と反応させることによって、式IIIの免疫抱合体へさらに変換することができる。上記の通り、本発明の免疫抱合体を産生するために種々のリンカー基を使用することができる。従って、化合物Aを活性化するために使用される官能基Yは、本明細書に開示するリンカー部分に含まれる任意の反応基であることができる。
【0040】
官能基を含むリンカーによる化合物Aの誘導体化およびそのキャリア部分へのさらなる抱合は、標準的な化学反応または本明細書に開示する合成方法によって実施することができる。例えば、下記の実施例において証明する通り化合物Aは、カルボン酸基を提供するためのブロム化リンカーの付着によって誘導体化することができる。化合物B中のカルボン酸基は、例えば、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)およびスルホ−N−ヒドロキシスクシンイミド(S−NHS)により、次に活性化される。活性化されたハプテン化合物はその後、キャリア部分(例えば、キャリアタンパク質)とさらに反応し、免疫抱合体を産生することができる。
IV.ニコチン免疫抱合体を含むワクチンおよび免疫療法のためのその使用
【0041】
本発明の免疫抱合体は、能動免疫プロトコルに適したワクチンを調製するために使用することができる。本発明の免疫抱合体を含有する組成物は、インビボでの使用、例えば、対象への治療的または予防的投与のために製剤することができる。いくつかの特別な実施態様において免疫抱合体は、ワクチン組成物として製剤される。
【0042】
有効成分として免疫抱合体を含有するワクチンの調製は、一般的に当該技術分野において十分に理解されている。典型的には、当該ワクチンは注射可能な液体溶液かまたは懸濁液として調製される。また注射に先立つ溶液または懸濁液への製剤に適した固形剤も調製することができる。また調剤薬は乳化されてもよい。免疫抱合体は、薬学的に許容可能で有効成分と適合性のある賦形剤と混合することができる。適した賦形剤は、例えば、水、生理食塩水、ブドウ糖、グリセリン、エタノール等、およびその組合せである。さらにもし望むならばワクチンは、少量の補助剤、例えば、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝剤、または下記に記載する通りワクチンの効力を増強するアジュバントを含んでもよい。本発明の免疫抱合体を含有するいくつかの医薬組成物(例えば、ワクチン)において所期の免疫応答は、アジュバント物質を含むことによって増強される。アジュバントおよびその使用は当該技術分野で周知である。アジュバントの例には、アルミニウム塩(例えば、リン酸アルミニウムおよび水酸化アルミニウム)等の無機アジュバント、スクアレン、油を含むアジュバント、および膜結合型血球凝集素およびインフルエンザウイルス由来のノイラミニダーゼを含有するビロソーム等の有機アジュバントが含まれる。アジュバント効果を達成する種々の方法も既知である。一般的な原理および方法は、「The Theory and Practical Application of Adjuvants」、1995、Duncan E.S.Stewart−Tull(編)、John Wiley & Sons Ltd、ISBN 0−471−95170−6、および「Vaccines:New Generation Immunological Adjuvants」、1995,Gregoriadis Gら、(編)、Plenum Press、New York、ISBN 0−306−45283−9に詳述されており、双方とも参照して本明細書の一部を構成するものとして援用する。
【0043】
ワクチンは従来法で対象に投与することができる。好ましくは、それらは注射により非経口的に、例えば、皮下(subcutaneously)、皮内(intracutaneously)、皮内(intradermally)、皮下(subdermally)もしくは筋肉内、または本発明に適した任意の他の経路により投与される。他の投与方法に適した別の製剤には、坐剤および場合によっては、経口剤、頬側剤、舌下剤、腹腔内剤、膣内剤、硬膜外剤、脊髄剤、および頭蓋内剤が含まれる。
【0044】
理解される通り本発明の組成物は、剤型に適合した方法で投与すべきであり、並びに予防的にまたは治療的に有効および免疫原性である量で投与すべきである。投与すべき分量は、例えば、免疫応答を開始するための個体の免疫系の能力、並びに望ましい保護程度を含んで、治療すべき対象に依存する。適切な服用量の範囲は、約0.1μg/kg体重から約10mg/kg体重であり、例えば、約500μg/kg体重から約1000μg/kg体重の範囲である。例えば、服用量の範囲は、約0.1mg/kg体重、約0.25mg/kg体重、約0.5mg/kg体重、約0.75mg/kg体重、約1mg/kg体重または約2mg/kg体重から約20mg/kg体重、約15mg/kg体重、約10mg/kg体重、約7.5mg/kg体重、または約5mg/kg体重であってもよい。初期投与および追加免疫のための好適な投与スケジュールも意図し、それは後の接種又は他の投与を伴う初期投与によって典型的に表される。
【0045】
本発明のいくかの実施態様は、対象において抗ニコチン免疫応答を誘導する方法を提供する。対象は、ヒトまたは非ヒト動物、すなわち動物モデルのマウスもしくはラットであることができる。抗ニコチン免疫応答とは、具体的には対象の免疫系によって媒介される治療的または予防的なニコチン封鎖効果の誘導をいう。当該免疫応答は、対象におけるニコチンまたはニコチン誘導体の排除又は免疫制御を適切に促進する。いくつかの実施態様において、抗ニコチン免疫応答は抗体応答である。抗体応答は、IgG、IgA、IgMまたはIgE抗体の適切な産生であってよい。抗ニコチン免疫応答は、当該技術分野で既知の方法、例えば、抗ニコチン抗体用ELISAによって適切に評価される。本発明に従った対象における抗ニコチン免疫応答の誘導は、上記の免疫抱合体組成物を対象に投与することによって達成してもよい。
【0046】
いくつかの実施態様において本発明の方法は、対象における免疫系全体に対する効果を提供する抗ニコチン免疫応答を誘導することに向けられている。当該免疫系全体に対する効果には、制限されるものではないが、例えば喫煙欲求、易刺激性、不安、情動不安、抑うつ気分、嗜眠状態、集中力欠如、不眠、身体病訴、食欲亢進および体重増加を含む、ニコチン禁断症状の減少が含まれ得る。
V.ニコチンハプテン特異抗体
【0047】
本発明はまた、本発明のハプテンと免疫反応する抗体も提供する。いくつかの実施態様において本発明の抗体は、ニコチンとも交差反応する。特別な実施態様において当該抗体は、R−(+)ニコチンとではなくS−(−)ニコチンと交差反応する。抗体は免疫グロブリンのサブタイプであるIgA、IgD、IgG、IgEまたはIgMのいずれであってもよい。抗体は当該技術分野で既知の任意の方法によって産生され、例えば、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、ファージディスプレイ抗体および/またはヒト組換抗体であり得る。組換抗体は、例えばニコチンハプテンまたはニコチン等の抗原に対するその親和性または結合活性を改良するために操作又は変異することができる。当該操作方法は、当該技術分野で周知である。
【0048】
いくつかの実施態様において、ヒト抗体またはヒト化抗体を受動免疫プロトコルにおいて使用してもよい。数種の技法によってマウスモノクローナル抗体をヒト化する方法を使用することができ、当該技術分野で周知である。さらにコンビナトリアルライブラリーから望みの特異性を有する抗体を選択する方法論がヒトモノクローナル抗体を直接利用可能とする。必要に応じて、タンパク質工学を用いて、対象者の受動免疫等の臨床応用のためのヒトIgG構築物を調製してもよい。受動免疫において、短期の免疫化が対象への抗体の移入によって達成される。抗体は任意の適した経路、例えば静脈内(IV)または筋肉内(IM)経路によって投与することのできる生理学的に許容可能なベヒクルで投与することができる。本明細書に記載する本発明の任意の抗体、例えばモノクローナル抗体(mAb)は適切に使用することができる。
【0049】
抗ニコチン抗体の受動投与は、血清レベルを減少し「毒性」(心血管性、代謝性、内分泌性)効果を減弱するために有益であることが判明するであろう。受動投与はまた、禁煙プログラムの間に薬物療法で毎週又は隔週使用することもできる。薬物療法では、抗体の高循環濃度を維持するためにmAbの自己注射を含むことができる。意義深いことに、ユーザーにとってより快適な方法においては、エアロゾル化した免疫グロブリンの使用によって呼吸器におけるニコチンに対する受動粘膜保護を確立することが可能である(例えば、Crowe ら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:1386−1390、1994を参照)。大多数のユーザーは喫煙によってニコチンを摂取しているので、本法はとりわけニコチン依存の問題に適用できるであろう。
【0050】
いくつかの実施態様において能動免疫(免疫抱合体ワクチン)および受動免疫(抗体)は、対象において併用して使用してもよい。免疫抱合体ワクチンまたは抗体のいずれかの有効な用量は、単独で投与されたときのいずれかの有効な用量であり得る。いくつかの実施態様において、他方との併用における一方の有効な用量は、当該一方を単独で使用した場合に治療的に有効である量より少ないかもしれない。
【0051】
本発明のいくつかの実施態様は、対象におけるニコチンの禁断症状を減少する方法を提供する。ニコチンの禁断症状の減少には、限定されるものではないが、対象における喫煙欲求、易刺激性、不安、情動不安、抑うつ気分、嗜眠状態、集中力欠如、不眠、身体病訴、食欲亢進または体重増加に対する減少が含まれ得る。禁断症状の減少方法は、受動免疫または禁煙で使用される他の補助治療と併用して上記の免疫抱合体組成物を対象に投与することによって達成してもよい。
【0052】
当業者に周知である通り、いかなる場合であっても投与される免疫抱合体または抗体の具体的な服用量が、対象の容態および免疫抱合体もしくは抗体の活性または対象の応答を変更する他の関連性のある医学的な要因に従って調節されることは、理解されることであろう。例えば個々の患者に対する具体的な服用量は、年齢、体重、健康状態、食事、投与時期および投与方法、排泄の割合および併用して使用する薬剤に依存する。所定の対象に対する服用量は、従来の検討を行って、例えば適当な従来法の薬学的プロトコルによって決定することができる。
【0053】
本発明のいかなる方法または組成物に関するいかなる実施態様も、本発明のいかなる他の方法又は組成物とともに使用され得ることを明確に意図している。本明細書及び添付の特許請求の範囲において使用する通り単数形「a」、「an」、及び「the」は、その内容について別段のはっきりした指示がない限り複数の指示対象を含む。従って例えば、「抗体(an antibody)」を含有する組成物への言及には、2以上の抗体の混合物が含まれる。なお用語「又は」は、一般的にその内容について別段のはっきりした指示がない限り、意味において「及び/又は」を含むことにも注意すべきである。また本明細書で列挙されたいかなる数値にも、より小さな値からより大きな値までの全ての値が含まれること、すなわち列挙された最小値と最大値の間の全ての可能な数値の組み合せが本出願で明確に主張されると考えなければならいことも明確に理解されるであろう。例えば範囲が1%から50%と記載された場合、2%から40%、10%から30%または1%から3%等々の値を本明細書において明確に列挙することを意図している。
[実施例]
【0054】
下記の実施例は本発明をさらに説明するために提供するものでありその範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0055】
実験材料、化合物合成およびプロトコル
実験材料。特に記述しない限りは、全ての反応は乾燥した試薬、溶媒および火炎乾燥したガラス器具を用い不活性雰囲気下で実施した。(−)−ニコチンおよび(−)−コチニンはSigma−Aldrich(St.Louis、MO)から購入した。トランス−3’−ヒドロキシメチルニコチンはToronto Reasearch Chemicals Inc.(North York、ON)から購入した。全て他の化学薬品は主要なサプライヤーから購入し、さらに精製せずに使用した。化合物は逆相分取高速液体クロマトグラフィー(HPLC)(Grace、Vydac 218TP C18 10〜15μm)によって精製した。全ての化合物はBruker 500 MHz NMR装置およびAgilent LC−MS(ESI)質量分析計を使用してキャラクタリゼーションを行った。
【0056】
ニコチンハプテン。ラセミ体NICニコチンハプテン(スキーム1)を、既に報告されている通り適当なリンカーとノルニコチンの反応によって調製した。AM1ニコチンハプテンをスキーム2に従って合成した。NaH(8mg、0.3mmol)を含有する冷却し撹拌する乾燥DMF(0.5mL)溶液に、市販のトランス3’−ヒドロキシメチルニコチン(20mg、0.1mmol)を添加した。30分後、6−(メチルスルホニルオキシ)ヘキサン酸エチルを水なしで添加し、混合液を室温で10時間撹拌した。次に混合液を0℃に冷却し、1M HCLの添加により反応を停止した。水層をジエチルエーテルで2回抽出し、HPLCによる精製[A(水相)=0.1%TFA HO、B(有機相)=0.1%TFA アセトニトリル;λ=254nm;溶媒グラジエントは15分間で1%Bから15%B、25分間で15%Bから95%B]の前に引き続きろ過した。興味のある2ピークを得た。1の主ピークは最終産物AM1−COOHに相当し、一方2番目のより小さいピークは保護エステルに相当した。減圧下でアセトニトリルを除去した後、純粋な画分を凍結乾燥し、淡黄色の油としてAM1−COOHを得た(17.42mg、収率54.7%)。H NMR(500 MHz、CDOD)δ 9.18(s、1H)、8.94(d、J=5.5、1H)、8.83(d、J=7.3、1H)、8.11(m、1H),4.61(d、J=9.7、1H)、3.96(d、J=18.4、1H)、3.53(m、2H)、3.42(m、1H)、3.35(m、3H)、3.07(s、1H)、2.85(s、2H)、2.47(m、1H)、2.27(dt、J=15.8、7.3、2H)、2.13(m、1H)、1.52(dd、J=15.3、7.6、2H)、1.40(m、2H)、1.19(dd、J=14.7、7.1、2H)。13C NMR(500 MHz、CDOD)δ 177.77、147.43、146.33、136.84、134.37、128.92、101.35、72.42、71.68、57.22、39.60、35.11、34.98、30.58、27.12、26.39、26.09。LC−MS(M+H):計算値C126=307.19;実測値307.2。
【0057】
ハプテン−タンパク質免疫抱合体。ELISAマイクロタイタープレートの被覆のみを目的として、ラセミ体NICをBSAに抱合した。AM1ハプテンに対しては、免疫性を与えるためにKLH、TTおよびCRM抱合体を調製した。DMF中で標準的なEDC/スルホ−NHS(各々1.3当量)カップリングプロシージャ―を使用して、AM1を室温で6時間活性化した。減圧下でDMFを除去した後、残渣をpH=7.2の0.1M MOPS生理食塩水に溶解し、相当する量のタンパク質(1mgハプテン:1mgタンパク質)を添加し4℃で12時間放置した。発明者らはMOPS緩衝液がPBSよりもタンパク質のアンフォールディングを防止することを見出した。直接分析することができないKLHを除いて、カップリング効率はMALDI−TOF MSを使用してモニターした。リジン残基数が直接カップリングに影響を与えるので、大体においてTTがその高分子量に即して多数のハプテンコピーを産出した。
【0058】
マウス研究用の能動免疫プロトコル。n=4の129GIマウス群(6〜8週令、23〜28g)を0、7および133日目に、AS−03アジュバント(GlaxoSmithKline(登録商標))と製剤したAM1−TT、AM1−KLHまたはAM1−CRM(0.1mg)のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)の懸濁液により腹腔内投与により免疫した。7、14および140日目に後眼窩穿刺によって血清(0.1mL)を採取し、ELISAによって力価を測定した。採取した全ての生体試料は、完全性を維持するために使用まで−80℃に保存した。
【0059】
自己投与のためのラットのワクチン接種。マウス実験における成績に基づいて、AM1−TTをラットの行動試験に進めた。ウィスター系雄性ラット(n=5〜6、250〜300g)をHarlan(Indiana、USA)から購入し、AM1−TTワクチン群かTT単独対照群に割り当てた。ラットにAS−03アジュバントと製剤した免疫抱合体0.1mgを3部位(皮下2;腹腔内1)で接種した。試験期間中に合計4回、0、14、28および53日目に接種を実施した。27、41および72日目にヘパリン処理したミクロ遠心チューブにおよそ0.05mLの血清を採取し、ELISAによって当日現在の免疫応答を測定した。
【0060】
イムノアッセイ。ニコチン特異的IgGの産生を、被覆抗原としてNIC−BSA抱合体を使用してELISAによって測定した。力価は、希釈が最大値の50%となる吸光度の読みに相当する、対数希釈に対する吸光度のプロットから計算した。NIC−BSAは、免疫化したハプテンについての力価測定の偏りを防止するための最上の抗原であった。発明者らは、力価測定およびニコチン結合定数の決定のためにNIC−BSAを使用することの適合性を以前証明した。NIC−BSAおよびタンパク質単独の対照をCOSTAR3690マイクロタイタープレートに加え37℃で一晩乾燥させた。メタノール固定に引き続いて、非特異的結合を37℃で0.5時間、5%脱脂粉乳添加のPBS溶液によりブロックした。次に、マウス血清を1%BSA溶液でプレートにまたがって連続的に希釈し、湿室中37℃で1〜2時間インキュベートした。その後プレートを脱イオン水で洗浄し、ヤギ抗マウスHRP抗体により37℃で0.5時間処理した。再度洗浄サイクルを経たのち、プレートをTMB2−step kit(Pierce;Rockford、IL)により展開した。自己投与ラット血清の場合、得られた絶対的な力価はニコチンの同時投与により「マスクされる」と思われる。
【0061】
ニコチンおよびコチニン、ニコチン主要代謝物に対する抗体親和性は、競合ELISA法によって測定した。プレートのインキュベーション前にマウス血清と共に望ましい競合物(ニコチンまたはコチニン)を同時に添加することを除いては、上記と同じプロシージャ―に従って行った。
【0062】
さらに抗体親和性およびニコチン結合能力の正確な値を、水溶性相ラジオイムノアッセイ(RIA)によって発明者らのラット行動試験サンプルに対し測定した。血清中の特的抗体の親和定数および濃度の双方の測定が可能であるので、修正マラー法(Mullerら、Meth. Enzymol. 92:589−601、1983)を引き続いて行った。結合したおよび遊離のL−[N−メチル−H]−ニコチントレーサー(比放射能=81.7Ci/mmol(PerkinElmer、Boston、MA))の容易な分離を可能とするために、RIAは96ウェル平衡透析装置MWCO5000Da(Harvard Apparatus、Holliston、MA)中で実施した。手短に言えば、約24000decys/minのH−ニコチントレーサーの40%に結合する濃度まで、ラット血清をRIA緩衝液(ろ過滅菌BSA2%添加一倍PBS(pH=7.4))で希釈した。血清の一部50μLを放射標識したトレーサー10μL(約24000decays/min)およびRIA緩衝液の種々の濃度の非標識(−)−ニコチン50μLと合併し、溶媒室にPBS(pH=7.4)110μLを添加し、プレート回転板(Harvard Apparatus、Holliston、MA)上室温で少なくとも22時間かけて、サンプルを平衡状態にした。各々のサンプル/溶媒室から一定分量の70μLをゆっくりと吸引し、5mLのシンチレーション液(Ecolite、ICN、Irvine、CA)に懸濁し、各サンプルの放射活性を液体シンチレーションカウンターによって測定した。これらのサンプルは、同時にラット血清サンプルの定量的ELISAで使用するための標準曲線を作成するために使用した。
【0063】
ニコチン自己投与。上記の通り、最も有望な免疫抱合体をラット行動モデルへと前進させた。ウィスター系雄性ラット(n=5〜6、250〜300g)をHarlan(Indiana、USA)から購入し、2個体の群で飼育し温調した環境下、12時間:12時間の照明サイクルに維持した。実験室に到着した際、動物は1週間の馴化期間中、食餌および水を自由に摂取させた。全ての動物飼育および動物実験はNIHガイドラインに従い、並びに動物実験委員会によって承認されたプロトコルを順守して実施した。食事トレーニングおよびニコチンの自己投与は、防音箱に収納した標準的なCoulbournのシングルレバーオペラントチャンバーで行った。ラットの各セットは、自己投与に先立つレバー押しを確立するために、5日間通して続く食事トレーニングセッションを受けた。初めのうちラットは、一日の食事を15g(自由摂取体重の約85%)に制限された。食事制限の二日目後に、1秒のタイムアウト(TO−1s)を有する固定比率1(FR1)の強化スケジュール(すなわちレバー押し当たり1食餌ペレット)下で食事を求めて応答するようにラットを訓練した。トレーニングセッションを一日に30分間続け、一旦安定したベースラインが確立したならば、頸静脈カテーテル挿入手術に備えてラットを自由摂食に戻した。
【0064】
手術を成功裡に完了するために、自己投与セッションを開始する前にラットを3〜5日間回復させた。回復期間中、ラットは食事に自由にアクセスさせ、血液凝固および感染を防止するためにカテーテル系統を毎日フラッシュした。静脈内注入液(0.1mL)は、1秒以上の間隔で注入ポンプ(Razel、CT)によってデリバーする。順調な回復に引き続き、ニコチン自己投与セッションに備えてラットを再び食事制限した。安定した応答が達成されるまで、FR1−TO−20sスケジュール下、5日/週の1時間の自己投与の間、対象を0.03mg/kg/注入の服用量でニコチンを静脈内に自己投与するように訓練した。安定した応答は、連続する3セッションにわたる20%未満の変動性と定義した。ベースラインの確立に引き続いて既述の通り試験ワクチンを投与した。
【0065】
ワクチン接種の間に、FR−1−TO−20sかまたは累進比率(PR)強化スケジュールにより3〜4日/週の1時間セッションでラットを試験した。ラットは、各セッションの開始前にカテーテルの開通性を保証するために生理食塩水でフラッシュし、各セッションの後に血液凝固および感染を防止するために再び生理食塩水およびチメンチンを受けた。カテーテルの開通性を失ったラットは、その後実験から除いた。データは、複数のオペラントチャンバーからオンラインで同時に収集した。オペラントプロシージャ―の結果は、ニコチンを求める平均バー押し積算回数として報告する。
【実施例2】
【0066】
ニコチンハプテンAM1および免疫抱合体の合成
AM1は図1に示す通り、3’−置換型の一般構造を伴う非拘束性のハプテンである。AM1は、LangoneおよびPentel(Langone ら、Biochemistry 12:5025−5030、1973;およびHieda ら、Int J Immunopharmacol 22:809−819、2000)によって発表されたものに優る有利なハプテン設計を有している。Langone設計中のフェノール性のエステル結合の存在は、結果的にキャリアタンパク質からの抗原の自発的な脱離となり、従って抗ニコチン免疫原性の損失となり、当該設計ではモノクローナル抗体の産生が不可能ではないものの、能動ワクチンの有効性に大きな影響を与え得るだろう。生理的条件下での自発的なエステル加水分解は既知の現象であり、エステル−アミド交換反応によるハプテン安定性の増強については、コカインの免疫薬理学的治療的な試みに対し以前成功裡に研究された(Carrera ら、Proc Natl Acad Sci 98;1988−1992、2001)。これによって、なぜPentelがLangoneの設計に前記修正をおこなったのかを説明することができた(Hieda ら、Int J Immunopharmacol 22:809−819、2000)。特異的なプロテアーゼが存在しなければアミド結合は加水分解に耐性であり、そのことが免疫化の間にハプテン部分(cargo)を失う可能性を顕著に最小化する。しかしながら、ペプチド結合はハプテンに安定性を与える一方で、またそれは標的構造に追加の免疫原性部分をも導入することとなる。
【0067】
ニコチンハプテン合成の詳しいステップは上記の通りである。AM1の場合において発明者らは、ハプテン安定性を提供するだけでなく、免疫応答を望ましいニコチン標的に集中させる「マスクされた」付加部位をも可能とする、単純エーテル付加物によりアミド部分を置換した。実際上、エーテル結合は脂質構造に似ているために、卓越した非免疫原性特質および低い細胞毒性を有している。従ってそれは、免疫学的観点から不活性な(muted)リンカー付着部位を可能とする。
【0068】
ハプテン設計の確認のために、発明者らは提案した構造の作製に着手した。AM1の最初の合成の試みは、市販の3’−ヒドロキシメチルニコチンをブロム化したリンカーと反応することから成ったが、AgO又はヨウ化テトラブチルアンモニウム(TBAI)の添加による条件を至適化するための複数の試みにも拘わらず、反応は低収率に進行した。より求電子性のメシレート脱離基による臭素部分の置換により、最終的に収率54%で望みの産物を得た(スキーム1)。
【0069】
免疫化のための最適なキャリアベヒクルを解明する試みにおいて、AMIを三つの異なるキャリアタンパク質、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)、破傷風オキソイド(TT)およびジフテリア毒素交差反応性変異株197(CRM)と抱合した。各タンパク質は、強力な免疫応答を解明するためのその能力に基づいて選択した。カップリングは、2ステップのヘテロライゲーション法を使用して行った。1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(EDC)およびスルホ−N−ヒドロキシスクシンイミド(S−NHS)によるハプテンの活性化とそれに続くキャリアタンパク質の付加は、リジン残基による活性化カルボン酸への攻撃を促進し、所望のハプテン−タンパク質抱合体を形成させた(スキーム1)。カップリング効率は、MSを使用しては直接分析することのできないKLHを除いては、MALDI質量分析法を使用してモニターした。各タンパク質上のリジン数が付着することのできるハプテンコピー数を直接決定することはあきらかであり、従ってTTがそのより高い分子量により、概してCRMよりも多数のハプテン分子を産出した。
【実施例3】
【0070】
ニコチンハプテンAM1を含む免疫抱合体の免疫原性
本実施例は、ニコチンハプテン免疫抱合体およびマウスで産生した抗体の免疫原性について記載する。免疫化のための最適のキャリアベヒクルを解明する試みにおいて、AM1ハプテンを三つの異なるキャリアタンパク質、すなわちKLH,TTおよびCRMと抱合した。全てのAM1ハプテン−タンパク質免疫抱合体の有効性は、標準的な免疫化プロトコルを使用し129GIマウスへのワクチン接種によって評価した。具体的には、ハプテン抱合体100μgを望ましいアジュバントと混合し、直ちにマウスに注射した(腹腔内投与、ハプテン抱合体群当たりn=4)。3試験群には、AM1−KLH、AM1−TTおよびAM1−CRMがふくまれ、加えて三つのキャリア単独の対照群が含まれた。全ての場合においてワクチンは、GlaxoSmithLline独自の乳液ベースのアジュバントであるAS−03を用いて調剤した。免疫スケジュールは以下の通りに定めた。注射は、t=0、t=14日およびt=133日に実施し瀉血は、各注射の1週間後すなわちt=7日、t=21日およびt=140日に行った。全てのケースにおいて免疫抱合体は、マウスにおいて毒性又は標準からの偏差を示さなかった。採取した全ての生体試料は、その完全性を維持するために使用まで−80℃で保存した。
【0071】
所定のハプテンの免疫原性を直接測定するものであるため、抗体力価は、ワクチン候補の前臨床の評価にとって重要である。ワクチン接種の間に産生された抗体の大きさ(力価)並びに平均親和力(K)および特異性を評価するために、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)を使用した。ELISAによるスクリーニングの間の力価測定結果の偏りを防止するために、非免疫性抗原すなわちNIC−BSAをマイクロタイタープレートの被覆に使用した。発明者らは、力価測定およびニコチン結合定数の測定のためにNIC−BSA免疫抱合体を使用することの適合性を以前に証明している(Meijler ら、J Am Chem Soc 125:7164−7165、2003)。本ハプテンは溶液中の遊離ニコチンに厳密に類似するという本明細書での発明者らの論拠は、その分子構造がピロリジンN−メチル基による結合を有する未変性のニコチン核の構造だからである。発明者らの以前の研究においては鏡像異性的に純粋なNIC−BSAを使用したが、しかし本ハプテンの産生が合成的に苛酷であり費用がかかるので、発明者らはノルニコチンおよび発明者らが以前報告したβ―アラニンリンカーから1段階で本ハプテンのラセミ体バージョンを調製した。ラセミ体のNIC−BSAがその鏡像異性的に純粋なカウンターパートと同等に有効であることが見出された(データ省略)。
【表1】

【0072】
t=7日に1回のみ注射した後に試験群から得られた瀉血は、有意な力価を示さなかったのでそれ以上の分析に不適当であるとみなした。対照のタンパク質単独群からの全ての瀉血について同様な結果が得られた。文献においては、最も成功したワクチンでさえ、十分な刺激のためには複数回の接種が必要であることがよく確立されている(Lu、Curr Op Immunol 21:346−351、2009)。抗原と免疫系との間の相互作用時間が増加するので、余分の注射による追加の誘発がより強い応答を与えることが期待される。従って二つの注射後に有意な応答が観察されたと同時に、約4か月「休止」後の3回目の注射の効果も評価した。得られた結果を表1に要約する。三つの試験群全てに関し力価の増強が観察されたと同時に、免疫原性における最も顕著な改善がAM1−TTに関し認められ、ここで力価の測定値は3回目の注射後に約1:100、000の力価レベルに達するまで、3倍以上に増加した。
【0073】
抗体力価のデータがきわめて有望でありワクチン候補の総体的な免疫原性を明らかにすることができるとしても、有効性を予測するうえで同等に重要なパラメータは、その望ましい抗原、本ケースではニコチンに結合するポリクローナル抗体レスポンスの能力である。競合ELISAによって測定される結合定数が本質的に平均した定数であり、従って他のより正確な方法、例えば放射性標識した薬剤による平衡透析(Meijler ら、J Am Chem Soc 125:7164−7165、2003)により観測されるだろう定数よりも高いということに注意することが重要である。分析の簡便性より、発明者らは我々の目的のために分析の最初の手段として競合ELISAを使用した。発明者らは、モノクローナル抗体に関し典型的に観察される10μM対サブμMないしnMオードの結合定数を示す生存可能な活性ワクチン候補を期待している。発明者らの分析にとって、NIC−BSAに対する測定可能な力価は、これこそが発明者らが測定しようとする関連する競合であるので(すなわちNIC−BSA対溶液中の遊離ニコチン)、ニコチン結合定数を測定するために存在しなければならない。既述の通り、最初の瀉血並びに対照群に対するいかなる競合データも入手できな。2回目の瀉血データはニコチンに対する幾分かの親和性を示すが、しかし3回目の注射まで容認できるレベルは達成されなかった。特にTTおよびCRM群において、ニコチンに対する親和性が二つのデータ地点の間で少なくとも10倍増加するので、追加の接種から大きな利益を得るように思われる。重要なことに、Hiedaら、Int J Immunopharmacol 22:809−819、2000によって類似するハプテンに関し報告されたことと一致して、ニコチンの主要代謝物であるコチニンに対する結合定数が無視できるままであったように、これは特異性を失うことなく達成された。
【実施例4】
【0074】
ニコチンハプテンAM1を含む免疫抱合体の行動的影響
本実施例は、ニコチンを静脈内に自己投与する訓練を受けたラットにAM1を含む免疫抱合体の免疫化によって誘導される行動変化の評価を記載する。マウス実験の成績に基づいて、AM1−TTハプテン−タンパク質抱合体を当該行動的研究に進めた。ラットは、その神経化学的な経路、特に脳の辺縁系および動機づけの部分が定性的にヒトのそれに相当する、特徴のはっきりした中枢神経系を有する。その行動的範囲は十分に特徴づけられており、長期投与の間に特徴的な依存症候群を示す。
【0075】
ラットを1時間のセッションの間に0.03mg/kg/注入の服用量でニコチンを静脈内に自己投与するように訓練した。自己投与実験の目的は、ラットへのワクチン接種によって誘導される行動変化を評価することであった。この服用量は、時間当たり0.03mg/kgがおよそヒトにおける2本の紙巻きタバコのニコチン注入に等しいので(Hiedaら、2000)、ヘビースモカーの摂取量を模倣するために使用した。試験には2群、TT−タンパク質単独の対照群(n=6)およびAM1−TT群(n=5)を含んだ。n=5〜6のセルサイズは薬物効果の信頼できる推定値を提供するのに十分であると考えた。ウィスター系雄性ラット(250〜300g)を2グループに分けて飼育し、12時間:12時間の照明サイクルの温度調節環境下に維持した。実験室に到着すると動物は、1週間の馴化期間のあいだ食事及び水に自由にアクセスさせた。本研究において使用する動物は、実験動物の実験と飼育に関する現行のNIHガイドライン、および適用できる全ての地方、州および連邦政府の規則およびガイドラインに従って取扱い、飼育しおよび屠殺した。
【0076】
食事トレーニングおよびニコチン自己投与は防音箱に収納した標準的なCoulbournのオペラントチャンバーで行った。オペラントチャンバーは、チャンバーの後壁上に、床上2cmに据え付けられたシングルレバーおよびレバー上2cmに据え付けられたきっかけ表示灯を備え付けている。食事トレーニングのために、フードホッパーをレバーの左、後壁の中央に設置した。ラットは実験試験前の数日間、ハンドリングストレスに対し脱感作するために、毎日操作した。ラットの各セットは、薬剤自己投与に先立つレバー押しを確立するために、その後5日間通して続く食事トレーニングセッションを受けた。初めのうちラットを一日当たり15グラムの食事(自由摂取体重の約85%と同等)に制限した。食事制限の二日目後に、1秒間のタイムアウトを(TO−1s)を有する固定比率1(FR1)の強化スケジュール(すなわちレバー押し当たり1食餌ペレット)下で食事を求めて応答するようにラットを訓練した。トレーニングセッションを一日に30分間続け、一旦ラットがFR1−TO−20sスケジュールに応答する安定したベースラインを獲得したならば、頸静脈カテーテル挿入手術に備えてラットを自由摂食に戻した。
【0077】
手術を成功裡に完了するために、自己投与セッションを開始する前にラットを3〜5日間回復させた。回復期間中、ラットは食事に自由にアクセスさせ、血液凝固および感染を防止するためにカテーテル系統を毎日フラッシュした。静脈内注入液を、輸液ポンプ(Razel,CT)によって1秒以上の間隔で容量0.1mLをデリバーする。順調な回復に引き続き、ラットを自由摂取体重の85%に再び食事制限した。いったん自己投与セッションを始めると、安定した応答が達成されるまで、FR1−TO−20s強化スケジュール下、5日/週の1時間の自己投与セッションの間、対象を0.03mg/kg/注入の服用量でニコチンを静脈内に自己投与するように訓練した。安定した応答は、連続する3セッションにわたる20%未満の変動性と定義した。安定した応答が達成された後、標準的な免疫化プロシージャ―に従って試験ワクチンを投与した。すなわち、免疫抱合体100μgをAS−03アジュバントを含む乳化液と混合し、3部位に投与した(皮下投与2および腹腔内投与1)。AM1−TT免疫抱合体を上記の通り産生し、21から22のハプテンコピーを備えた良好なカップリング効率を見出した。合計4注射を以下の通り投与した。t=0、t=14日、t=28日およびt=53日。ラットを、各注射のおよそ2週間後、t=27日、t=41日およびt=72日に、ヘパリン処理したミクロ遠心チューブに瀉血させた。
【0078】
自己投与の過程の間に採取した血清は、NIC−BSA被覆マイクロタイタープレート上でニコチン特異的抗体の存否を試験した。重要なことであり予期されたことであるが、TT単独免疫化の対照由来の全てのサンプルはNIC−BSAに関する力価を示さなかった。AM1−TTワクチン接種群から採取したサンプルでは、各追加免疫後に時間とともに安定した力価の増加を示し、達成された最大平均レベルは最後の瀉血による1:30、000であった(図2)。最後の瀉血の時点で、ニコチンに対するKdは、水溶性RIAによる計算で5.68±0.80nMであった。これらのデータから計算されたニコチン結合能力は、5.36±1.20x10−7Mであったが、これはニコチン特異的IgGの40.26±8.97μg/mLと同等である。IgGは、150kDaの分子量および分子当たり2個のニコチン結合部位を有すると想定された。このニコチン特異的なIgGの血清中の濃度は、血清中のニコチン結合能力87.10±19.40ng/mLに相当する。
【0079】
重要なことには、3回目の瀉血の時点で発明者らは、力価の激しい変化を見出していない。例えば、Hiedaら、Int J Immunopharmacol 22:809−819、2000で報告された10倍と対照的に、高レスポンダーおよび低レスポンダー間の差異は4倍であった(最小力価の値1:12、800;最大力価の値1:51、200)。力価の中央値は1:25、600であった。優位差を両側ステューデントt−検定を使用して決定した。これらのデータは発明者らの有利なハプテン設計に関する仮説を支持している。
【0080】
測定された結合定数は、マウスにおいて観察されたよりもやや高いニコチンに対する中位の親和性を示した。3回目の瀉血に対する平均ニコチン結合定数は、66.04±34.19μMであった(対してマウス中では約15μM)。にもかかわらず、解明された抗体はニコチンに対する良好な特異性を保持し、ニコチンの主要な代謝物であるコチニンには結合することができなかった。
【0081】
発明者らは次に、ラットにおけるニコチン自己投与の行動的影響を試験した。ワクチン接種の間に、FR−1−TO−20sかまたは累進比率(PR)強化スケジュールにより3〜4日/週の1時間セッションでラットを試験した。ラットは、各セッションの開始前にカテーテルの開通性を保証するために生理食塩水でフラッシュし、各セッションの後にカテーテルの中の血液凝固および感染を防止するために再び生理食塩水およびチメンチンを受けた。もはや開通性のないカテーテルを有するラットは、その後実験から除いた。データは、複数のオペラントチャンバーからオンラインで同時に収集した。オペラントプロシージャ―の結果は、ニコチンを求める平均バー押し積算回数として報告する。TT免疫化ラットは低ないし無NCI−BSA力価群を代表し、一方、AM1−TTラットは中位ないし高力価対象に相当する。
【0082】
高力価でないとき、ワクチン接種の保護効果が行動変化に反映されないことは十分に実証されている(Carreraら、Proc Natl Acad Sci 97:6202−6206,2000)。マウスで見出されたのと同程度高い力価または親和性を獲得し損なったにもかかわらず、AM1−TT免疫抱合体によるラット対象のワクチン接種は、群の間に観察される自己投与パターンが分離する結果となった(図3)。後期の自己投与セッションでは、AM1−TT免疫群は二コチンレバー押し回数に中位の穏やかな増加が見られた。力価の情報に基づいて発明者らは、二つの群の間の変化を予測し、この変化の優位差を計算するためには片側スチューデントt検定が適当であるとみなした。図3に示す結果は、観察された行動的影響が中程度に優位差のあることを表す(セッション22〜25の平均p値=0.09)。発明者らは、この分離が追加抗原注射に伴うNIC−BSA力価の安定した増加の結果であると考えている。また、より大規模なサンプルセットを使用しまたはより長期のワクチン接種スケジュールを使用するならば、この分離に対する高レベルの有意差(p<0.05)を達成することができるであろう。
【0083】
これらの結果のありそうな一つの解釈は、ラットがそのSA行動を修正することによって応答し、より高い薬物摂取量によってこれらの保護効果を克服しようとしたというものである。AM1−TT免疫動物は、報酬効果に誘導されてニコチンを得るために効率的に「より勤勉に働く」ようになった。薬剤の競合的拮抗の間の逆U字型の機能シフトを明らかにしたコカイン自己投与実験の間に、同様の結果が得られている(Carreraら、Proc Natl Acad Sci 97:6202−6206、2000)。すなわち、コカインのより低い服用量は生理食塩水(非強化子)濃度までは同様に自己投与され、より高い服用量はより短い注射間隔によってさらに自己投与されるだろう。自己投与用のコカインの単位服用量が減少するときに動物がFRスケジュール下で応答率を増すことが通常観察されるが、このことは動物が注射当たりのコカイン単位量の減少を注入率の増加によって償うことを示唆する。それ故に、免疫化によるFRスケジュール下でのコカインを求める応答の増加は、ラットがCNSへのコカインデリバリーの部分的な遮断を抗体の存在下にコカイン自己投与率を増加することによって償うことを示唆するのかもしれない。ヒトのニコチン中毒に言い換えると、免疫された対象は喫煙の費用が非常に増したことに気づくであろう(紙巻きタバコ箱の価格があたかも2倍になったかのように)。
【0084】
最後に、本研究はハプテン−タンパク質抱合体の耐容性を誘発することを試みたわけではなかったが、発明者らは全ての動物が免疫化において生存し、どれも実験期間中の注射由来の副作用を引き起こさなかったことに気づいた。対象の総合的な健康を評価するために、全動物の体重を研究期間中モニターした。発明者らは、AM1−TT免疫動物が対照よりもやや低い体重であることを見出した。t=72日に、AM1−TT免疫動物はTT単独対照群の体重よりも平均10%体重が少なかった(データ省略)。
【0085】
上記の発明は理解を明瞭にする目的で説明および実施例を通して詳細に記載してきたが、特許請求の範囲の趣旨および範囲から逸脱することなく、本発明に一定の変更および修正を成し得るということは、本発明の教示に照らして当業者にとって容易に明らかであろう。
【0086】
本明細書で引用した、全ての刊行物、データベース、ジェンバンク配列、特許および特許出願は、各々が具体的および個別的に参照することにより援用されることを示すかのように、参照することにより本明細書に援用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化13】

のハプテンであって、式中、Xがチオール基を含まないリンカー部分である前記ハプテン。
【請求項2】
Xが:
【化14】


からなる群より選択される請求項1記載のハプテンであって、式中、nが約1〜約20の整数であり;mが約0から約6の整数であり;kが約0から約20の整数であり;pが約0から約6の整数であり;rが約1から約20の整数であり;Zが−O−、−CH−および−NH−から成る群より選択され;RおよびRが−NHCO−、−CONH−、−CONHNH−、−NHNHCO−、−NHCONH−、−CONHNHCO−および−S−S−から成る群より独立して選択され;Yが−H、−OH、=CH、−CH、−OCH、−COOH、ハロゲン、アシル、2−ニトロ−4−スルホベンゾエート、N−オキシスクシンイミデート、N−マレイミド、イミノアシレート、イソシアネート、イソチオシアネート、ハロホルメート、ビニルスルホン、イミドエステル、フェニルグリオキサレート、ヒドラジド、アジド、アミノおよびN−ヒドロキシスクシンイミデートから成る群より選択される前記ハプテン。
【請求項3】
請求項1記載のハプテンであって、式中、Rが−Z(CHYであり、ここでnが約1から約20の整数であり、Zが−N−、−CH−および−O−から成る群より選択され、およびYが−OH、−OCH、−COOH、アシル、アリール、アルキル、N−マレイミド、イミノアシレート、イソシアネート、イソチオシアネート、ハロホメート、ビニルスルホン、イミドアシレート、フェニルグリオキサレート、ヒドラジド、アルキニル、アジド、アミノおよびN−ヒドロキシスクシンイミデートから成る群より選択される前記ハプテン。
【請求項4】
Zが−CH−であり、およびnが3である請求項3記載のハプテン。
【請求項5】
Yが−COOHである請求項3記載のハプテン。
【請求項6】
式(II):
【化14】

の免疫抱合体であって、式中、Wがキャリア部分Rに共有結合しているリンカー部分であり、ここで当該共有結合がチオエーテル結合でない前記免疫抱合体。
【請求項7】
Wが次の群:
【化15】


より選択される請求項6記載の免疫抱合体であって、式中、nが約1〜約20の整数であり;mが約0から約6の整数であり;kが約0から約20の整数であり;pが約0から約6の整数であり;rが約1から約20の整数であり;Zが−O−、−CH−および−NH−から成る群より選択され;RおよびRが−NHCO−、−CONH−、−CONHNH−、−NHNHCO−、−NHCONH−、−CONHNHCO−および−S−S−から成る群より独立して選択され;Yが−O−、=CH−、−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−OCH−、−C(O)−、−C(O)O−、−NH−、−C(O)NH−、−N=N−、−N=N=N−、−S−S−、ハロゲン、アシル、2−ニトロ−4−スルホベンゾエート、N−オキシスクシンイミデート、N−マレイミド、イミノアシレート、イソシアネート、イソチオシアネート、ハロホメート、ビニルスルホン、イミドエステル、フェニルグリオキサレート、ヒドラジド、アジド、アミノおよびN−ヒドロキシスクシンイミデートから成る群より選択される前記免疫抱合体。
【請求項8】
請求項6記載の免疫抱合体であって、式中、Wが−Z(CHYであり、ここでnが約1から約20の整数であり、Zが−NH−、−O−および−CH−から成る群より選択され、およびYが−O−、=CH−、−CH−、−CH=CH−、−C≡C−、−OCH−、−C(O)−、−C(O)O−、−NH−、−C(O)NH−、−N=N−、−N=N=N−、−S−S−から成る群より選択される前記免疫抱合体。
【請求項9】
Zが−CH−であり、並びにnが3である請求項8記載の免疫抱合体。
【請求項10】
Yが−C(O)O−である請求項8記載の免疫抱合体。
【請求項11】
請求項6記載の免疫抱合体であって、式中、Rがキーホールリンペットヘモシアニン(KLH),エデスチン、チログロブリン、ヒト血清アルブミン、ヒツジ赤血球、破傷風トキソイド(TT)、ジフテリアトキソイド、コレラトキソイド、ポリアミン酸、D−リジン、D−グルタミン酸、細菌毒素のLTBファミリー構成員、レトロウイルス核タンパク質(レトロNP)、狂犬病リボ核タンパク質(狂犬病RNP)、水泡性口内炎ウイルスヌクレオカプシドタンパク質(VSV−N)、組換ポックスウイルスサブユニットおよびウシ血清アルブミン(BSA)から成る群より選択される前記免疫抱合体。
【請求項12】
請求項6記載の免疫抱合体であって、式中、キャリア部分が破傷風トキソイド(TT)、ジフテリア毒素交差反応性変異体197(CRM)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)またはBSAである前記免疫抱合体。
【請求項13】
免疫学的に有効な量の請求項6記載の免疫抱合体および生理学的に許容可能なベヒクルを含む組成物。
【請求項14】
アジュバントをさらに含む請求項13記載の組成物。
【請求項15】
免疫学的に有効な量の請求項13記載の組成物により対象を免疫することを含む対象において抗ニコチン免疫応答を誘導する方法。
【請求項16】
請求項15記載の方法であって、式中、Xが−(CH−C(O)O−であり、およびキャリア部分が破傷風トキソイド(TT)、ジフテリア毒素交差反応性変異体197(CRM)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)またはBSAである前記方法。
【請求項17】
式III:
【化16】

の免疫抱合体の調製方法であって、式中、Yがキャリア部分への結合を促進する官能基であり、Rがキャリア部分であり並びにnが約3から約8の整数であり、当該方法が
(a)化合物A:
【化17】

を化合物B:
【化18】

へ変換すること、並びに
(b)化合物Bを式IIIの免疫抱合体へ変換すること
を含む前記調製方法。
【請求項18】
nが5であり、並びにYが−C(O)O−である請求項17記載の方法。
【請求項19】
請求項17記載の方法であって、ここでキャリア部分が破傷風トキソイド(TT)、ジフテリア毒素交差反応性変異体197(CRM)、キーホールリンペットヘモシアニン(KLH)またはBSAである前記方法。
【請求項20】
請求項6記載の免疫抱合体に結合する抗体。
【請求項21】
ニコチンに結合する請求項20記載の抗体。
【請求項22】
約150μMないし約10μMの解離定数でニコチンに結合する請求項20記載の抗体。
【請求項23】
請求項20記載の抗体および生理学的に許容可能なベヒクルを含む組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2013−504618(P2013−504618A)
【公表日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−529735(P2012−529735)
【出願日】平成22年9月14日(2010.9.14)
【国際出願番号】PCT/US2010/002489
【国際公開番号】WO2011/031327
【国際公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(399038620)ザ スクリプス リサーチ インスティチュート (51)
【Fターム(参考)】