説明

ニコチン中毒の治療及び予防のためのハプテン−キャリア複合体

【課題】ニコチン中毒を予防したり治療したりするのに用いられる能動免疫および受動免疫のためのワクチンと抗体の提供。
【解決手段】免疫原性のキャリアタンパク質に複合化した、もともと(S)-(-)状態にあるニコチンのキラリティーを保存しており、さらに安定性が良好である新規なニコチンハプテン-キャリア複合体と応答して生じる抗体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明はニコチン中毒の治療及び予防に関する。特に本発明は、抗体の生産を誘導する能力のある新規のハプテン-キャリア複合体に関する。このような抗体はニコチンに特異的に結合する能力がある。さらに本発明は、薬学的に許容される製剤でニコチン-キャリア複合体を投与することによる、ニコチン中毒の予防または治療を構想している。また本発明は、ニコチン中毒の予防及び治療を行うためのハプテン-キャリア複合体に応答して生じる抗体の使用も企図している。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
紙巻タバコ、葉巻、及びパイプの喫煙は米国及び世界中で広まっている問題である。有煙タバコも無煙タバコも、既知の中毒性物質のニコチンが多い。ニコチンはタバコ植物から誘導されるアルカロイドであって、それが喫煙の精神活性と中毒作用の原因である。ニコチンは一重結合によって一体に結合した二個の環、即ち芳香族の6員環(ピリジン)と脂肪族の5員環(ピロリジン)とから構成されている。ピロリジンはN-メチル化されていて、その2位炭素からピリジンの3位炭素に結合している。したがって2位の炭素はキラルであり、二個の環を結合する一重結合の周りで事実上自由に回転する。2位の炭素の絶対的な配置はSであると立証されている。しがたって天然のニコチンの配置は(S)-(-)-ニコチンである。
【0003】
ニコチンの利用は、紙巻タバコ、葉巻、パイプ及び無煙タバコがたやすく入手できるため広範に広まっている。米国保健社会福祉省(U.S. Department of Health and Human Services)によると紙巻タバコの喫煙は、米国内の予防可能な死の単独首位の原因である。MacGinnisら、J. Am. Med. Assoc., 270, 2207-2211 (1993)(非特許文献1)も参照のこと。間接的に煙に暴露されることにより、喘息の悪化を含む健康への深刻な悪影響があることが報告されている。
【0004】
ニコチンの中毒性が周知であっても、紙巻タバコの喫煙は普及している。血液中のニコチンレベルのピークは約25〜50ナノグラム/mlであり、紙巻タバコを喫煙して10〜15分以内に達する。ヒトでは紙巻タバコを喫煙することによって肺から心臓に急速にニコチンが送達されるため、静脈内のニコチン濃度よりも10倍も高い濃度に動脈内では至る(Henningfield (1993) Drug Alcohol Depend. 33: 23-29(非特許文献2)参照)。これによって結果的に、高濃度の動脈内のニコチンが脳に急速に送達される。一旦ニコチンが血液-脳関門を通過すると、呼吸、心拍数の維持、記憶、覚醒及び筋肉動作に関与する神経伝達物質のアセチルコリンにより通常は活性化されるコリン作動性受容体にニコチンが結合することを示唆している。ニコチンがこれらの受容体に結合すると、ドーパミンのような他の神経伝達物質の放出を誘起することによって正常な脳機能に影響が与えられる場合がある。ドーパミンは、脳の情緒、やる気、及び喜びの感情に関連する領域で見られる。ニコチンに対する、またはニコチンの他の取り込みに対するタバコ常用者の中毒に応答する神経伝達物質、特にドーパミンの放出である。
【0005】
健康に対する喫煙の悪影響が深刻であるため、喫煙者はやめようとすることがよくある。しかしながらニコチンの中毒性の特性と紙巻タバコの入手容易性のため、ニコチンに対する持続的な依存性とやめようとする人の失敗率の高さとが増大する。離脱症状は不快で、喫煙によって開放される。
【0006】
ニコチン中毒に対しては多くの治療法が開発されているが、大部分は効果的でない。二つの最も一般的な治療法は、ニコチンの経皮貼着剤とニコチン入りのチューインガムが残っている。これらの治療法は「ニコチン置換法」(NRT)と言われ、利用者が喫煙から以前に受け入れたニコチンの量を置き換え、ニコチンから利用者を引き離すように作用する。しかしながらある程度の引き戻しがこのタイプの治療法には見られる。特に、血流へのニコチンの透過性が低く、そのため喫煙の要求が大きくなる。このような口のヒリヒリ感、顎の苦痛、むかつきなどの問題はニコチンチューインガムの使用と関連していた。皮膚の刺激、睡眠障害、及びいらいら感などの問題はニコチンの経皮貼着剤の使用と関連していた。
【0007】
したがってニコチン中毒を治療する別の方法が必要とされている。文献はこの必要性を認識していて、ニコチン中毒を治療するための方法を提供しようとする試みがいくつかあった。その方法の一つは、ニコチンに応答して生じる抗体の投与を含むものである。しかしながらハプテンといわれる低分子量の物質は、宿主動物において免疫応答を誘発できないことがわかっている。ニコチンも例外ではなく、小さな分子であるため免疫原性はない。ハプテンに対する抗体応答性を誘導するために、それは通常キャリアタンパク質に共有結合しており、その複合体はハプテンを認識する抗体の生産を誘導できる。
【0008】
例えばコチニン4'-カルボン酸はキーホール・リンペット・ヘモシアニン(KLH)に共有結合している場合、ニコチン代謝物のコチニンに対する抗体を生じさせるために用いられた。これらの抗体は、生理液中のコチニンの存在を検出するために用いられた。Bjerkeら、J. Immunol. Methods, 96, 239-246 (1987)(非特許文献3)参照。
【0009】
他のニコチン抗体は、カストロら(Castroら)(Eur. J. Biochem., 104, 331-340 (1980)(非特許文献4))によって調製された。カストロらは、ニコチンの6位でリンカーを介して複合化させたキャリアタンパク質を持つ、ウシ血清アルブミン(BSA)に複合化させたニコチンハプテンを調製した。カストロらは別のBSAのニコチン複合体を調製し、抗体を生じさせるため哺乳動物に注入した。別の刊行物、Castroら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 67, 583-589 (1975)(非特許文献5)では二種のニコチン-アルブミン複合体、即ちN-サクシニル-6-アミノ-(±)-ニコチン-BSAと6-(σ-アミノカプラミド)-(±)-ニコチン-BSAとを開示している。この1975年の刊行物においてはまた、カストロらはニコチンキャリア複合体である6-(σ-アミノカプラミド)-(±)-ニコチン-BSAに対する抗体を用い、それによって血液と尿に含まれるニコチンのレベルを検出した。Res. Commun Chem. Path. Pharm. 51, 393-404 (1986)(非特許文献6)参照。
【0010】
スバインら(Swainら)(WO 98/14216)(特許文献1)は、ハプテンがニコチンの1,2,4,5,6または1'位で複合化しているニコチンキャリア複合体を開示している。ヒエダら(Hieda)は、キーホール・リンペット・ヘモシアニンに結合させた6-(カルボキシメチルウレイド)-(±)-ニコチンを用いて動物を免疫して、ニコチンに特異的な抗体を産生させたことを示した。J. Pharm. and Exper. Thera. 283, 1076-1081 (1997)(非特許文献7)。ランゴーンら(Langoneら)は、Biochemistry, 12, 5025-5030(非特許文献8)に参照されるようにハプテン誘導体のO-サクシニル-3'-ヒドロキシメチル-ニコチンを調製し、ラジオイムノアッセイ法でこのハプテン-キャリア複合体に対する抗体を用いた。Methods in Enzymology, 84, 628-635 (1982)(非特許文献9)参照。ランゴーン(Langone)によって合成された複合体は加水分解されやすい。さらにアバドら(Abadら)はAnal. Chem., 65, 3227-3231 (1993)(非特許文献10)において、3'-(ヒドロキシメチル)ニコチンヘミサクシネートをウシ血清アルブミンに複合化させ、ELISAアッセイ法において紙巻きタバコの濃縮煙におけるニコチン含量を測定できるよう、ニコチンに対する抗体を生産することについて記載している。
【0011】
したがって従来技術は、ニコチンハプテンのキラル中心を保存していて、かつニコチンエピトープの性質を保存する様式でキャリアにそのハプテンを結合させる安定なニコチン-キャリア複合体を開示していない。さらにこの技術は、そのような複合体を用いることによってニコチン中毒を予防する方法及び治療する方法について開示も示唆もしていない。シーマン(Seeman)はHeterocycles, 22, 165-193 (1984)(非特許文献11)において、配座の解析及びニコチンの化学反応性の研究の結果を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】WO 98/14216
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】MacGinnisら、J. Am. Med. Assoc., 270, 2207-2211 (1993)
【非特許文献2】Henningfield (1993) Drug Alcohol Depend. 33: 23-29
【非特許文献3】Bjerkeら、J. Immunol. Methods, 96, 239-246 (1987)
【非特許文献4】Castroら、Eur. J. Biochem., 104, 331-340 (1980)
【非特許文献5】Castroら、Biochem. Biophys. Res. Commun. 67, 583-589 (1975)
【非特許文献6】Castroら、Res. Commun Chem. Path. Pharm. 51, 393-404 (1986)
【非特許文献7】Hiedaら、J. Pharm. and Exper. Thera. 283, 1076-1081 (1997)
【非特許文献8】Langoneら、Biochemistry, 12, 5025-5030
【非特許文献9】Methods in Enzymology, 84, 628-635 (1982)
【非特許文献10】Abadら、Anal. Chem., 65, 3227-3231 (1993)
【非特許文献11】Seemanら、Heterocycles, 22, 165-193 (1984)
【発明の概要】
【0014】
ニコチン中毒を治療するためのより効果的な方法に対する要求に応じて本発明の一目的は、安定で天然の(S)-(-)配座をとったニコチンを含み、ニコチンエピトープの性質とニコチン分子の二個の環の相対的な方向とを保存するニコチン-キャリア結合を用いた新規なニコチン-キャリア複合体を提供することである。ニコチンの二つの環とそれらの相対的な方向が、溶液中でニコチンの抗体に認識されるために必須であると考えられている。このような複合体は、ニコチンに特異的に結合できる抗体を産生させるのを刺激する能力がある。本発明の複合体を用いて本発明者らは、哺乳動物における血清中のニコチンレベルを高めるとともに脳のニコチンレベルを減少させた。さらに本発明の複合体を用いて本発明者らは、ニコチンが誘導する血圧の変化及び運動の影響も抑制した。
【0015】
本発明の別の目的では、ニコチンに対する中毒性を示す患者に本発明の複合体を投与することにより、その患者で抗-ニコチン抗体を生じさせてニコチン中毒を治療する方法を提供する。こうしてその患者が喫煙する(または噛みタバコを飲む)場合、これらの製品からのニコチンが血液中で抗-ニコチン抗体と結合してニコチンが血液-脳関門を通過するのを抑制し、したがってニコチン-中毒の原因となるニコチンが誘導する脳内化学物質の変化を減少させる。これに関して、ニコチン-キャリア複合体が天然のニコチン分子を認識できる抗体の生産を誘導することが重要である。上記に記載したように本発明の新規なニコチン-キャリア複合体は、天然に発生するニコチンのキラリティーとエピトープを保存している。
【0016】
ニコチン複合体および該複合体に応答して産生される抗体が、哺乳動物によって摂取されたニコチンの効果をどのようにして阻害するかに関する任意の理論に本発明者らは拘束されるものではない。ニコチンが血液脳関門を通過するのを阻止することに加えてこの抗体は、簡単な立体妨害によりニコチンが末梢神経系の他の受容体に結合するのも阻止できる。
【0017】
これらの目的は、次の化学式のハプテン-キャリア複合体を提供することによって達成できる:
【化3】


この式中、mは1〜2500であり、nは0〜12であり、yは1〜12であり、XはNH-CO、CO-NH、CO-NH-NH、NH-NH-CO、NH-CO-NH、CO-NH-NH-CO、及びS-Sからなる群より選択され、YはNH-CO、CO-NH、CO-NH-NH、NH-NH-CO、NH-CO-NH、CO-NH-NH-CO、及びS-Sからなる群より選択され、且つ-(CH2)n-X-(CH2)y-Y-部分は3'、4'または5'位に結合している。このハプテン-キャリア複合体の好ましい態様ではmが11〜17であり、nが1であり、yが2であり、XがNH-COであり、YがCO-NHであって、キャリアタンパク質がエキソプロテインAであり、且つ-(CH2)n-X-(CH2)y-Y-部分が3'位に結合している。ハプテン-キャリア複合体の別の好ましい態様では、mが11〜17であり、nが1であり、yが2であり、XがNH-COであり、YがCO-NHであって、キャリアタンパク質がエキソプロテインAであり、且つ前記-(CH2)n-X-(CH2)y-Y-部分が4'位に結合している。ハプテン-キャリア複合体のさらに好ましい態様では、mが11〜17であり、nが1であり、yが2であり、XがNH-COであり、YがCO-NHであって、キャリアタンパク質がエキソプロテインAであり、且つ-(CH2)n-X-(CH2)y-Y-が5'位に結合している。さらに好ましい態様においてmは1〜20及び1〜200からなる群より選択される。
【0018】
上記の目的は、次の化学式(III)のハプテン-キャリア複合体を提供することによっても達成できる:
【化4】


この式中、nは0〜12であり、jは1〜1000であり、kは1〜20であり、且つEはアミノ酸-含有マトリックスである。好ましい態様においてそのマトリックスはポリ-L-グルタミン酸である。
【0019】
この目的は、化学式(I)のハプテン-キャリア複合体に応答して産生される抗体を提供することによっても達成できる。さらに別の態様においてこの抗体は機能的断片である。好ましい態様では、その抗体はモノクローナル抗体である。本発明のさらに別の態様ではその抗体はポリクローナル抗体である。
【0020】
この目的は、化学式(III)のハプテン-キャリア複合体に応答して産生される抗体を提供することによっても達成できる。付加的な態様においてこの抗体は機能的断片である。好ましい態様において、その抗体はモノクローナル抗体である。本発明のさらに別の態様ではその抗体はポリクローナル抗体である。
【0021】
この目的は、ニコチン中毒の治療を必要としている患者において、化学式(I)または(III)のハプテン-キャリア複合体の治療的に有効な量を投与することを含む、ニコチン中毒を治療または予防する方法を提供することによって達成できる。またはこの目的は、ニコチン中毒の治療を必要としている患者において、化学式(I)または(III)のハプテン-キャリア複合体に応答して生じた抗体の治療的に有効な量を投与することを含む、ニコチン中毒を治療または予防する方法を提供することによって達成できる。
【0022】
さらにこの目的は、化学式(I)または化学式(III)のハプテンキャリア複合体を含むワクチン組成物を提供することによって達成できる。そのうえこのワクチンは、ニコチン中毒を治療するためのさらに別の治療用化合物をさらに含んでいてもよい。
【0023】
またこの目的は、化学式(I)または(III)のハプテン-キャリア複合体を用いて宿主哺乳動物を免疫することを含む、抗体を生産する方法を提供することによっても達成できる。好ましい態様において、生産された抗体はモノクローナル抗体である。別の態様ではその抗体はポリクローナル抗体である。
【0024】
さらなる目的は、化学式(I)または化学式(III)のハプテン-キャリア複合体に応答して生じる抗体を含む、試料中のニコチンの存在を検出するためのキットを提供することによって達成できる。
【0025】
これらの目的及び当業者に明かな他の目的は、詳細な説明として下記に記載された発明及び添付の特許請求の範囲によって達成された。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】図1は、後で一回のニコチン注入を行うラットのニコチン血清レベルについて、3'AMNic-Suc-rEPA複合体ワクチンを用いて能動免疫した影響を示すチャートである。ニコチン注入の3分及び10分後のニコチン血清レベルが示されている。
【図2】図2は、ラットの血清及び脳におけるニコチンレベルについて、3'AMNic-Suc-rEPAに対する抗体を用いて受動免疫した影響を示す。ラットは12.5、25及び50mgの抗体を用いて処置した。
【図3】図3は、ラットの血清及び脳におけるニコチンレベルについて、3'AMNic-Suc-rEPAに対する抗体を用いて受動免疫した影響を示す。ニコチンレベルは、抗体投与の後30分後と1日後で、ニコチン注入した3分後に測定した。
【図4】図4は、多数回のニコチンの投与を受けたラットのニコチン血清レベルについて、3'AMNic-Suc-rEPAに対する抗体を用いて受動免疫した影響を示す。
【図5】図5は、多数回のニコチンの投与を受けたラットの脳におけるニコチンレベルについて、3'AMNic-Suc-rEPAに対する抗体を用いて受動免疫した影響を示す。
【図6】図6は、ラットのニコチン-誘導性の運動作用について、3'AMNic-Suc-rEPAに対する抗体を用いて受動免疫を行った影響を示す。
【図7】図7は、ニコチンが誘導する収縮期血圧の上昇について、3'AMNic-Suc-rEPAに対する抗体を用いて受動免疫を行った影響を示す。この図は、抗体の量を多くすると、ニコチンによる血圧の上昇を減少させる点で抗体の効力が高まることを示している。
【発明を実施するための形態】
【0027】
好ましい態様の詳細な説明
本発明は、ニコチンに対する中毒を治療するためのニコチンハプテン-キャリア複合体を提供する。このニコチンハプテン-キャリア複合体は化学式(I)で表される:
【化5】


この式中、mは1〜2500であり、nは0〜12であり、yは1〜12であり、XはNH-CO、CO-NH、CO-NH-NH、NH-NH-CO、NH-CO-NH、CO-NH-NH-CO、及びS-Sからなる群より選択され、YはNH-CO、CO-NH、CO-NH-NH、NH-NH-CO、NH-CO-NH、CO-NH-NH-CO、及びS-Sからなる群より選択され、キャリアタンパク質は任意の適当な免疫原性のタンパク質またはポリペプチドである。好ましくはキャリアタンパク質はT-細胞のエピトープを含んでいてもよく、且つ-(CH2)n-X-(CH2)y-Y-部分はニコチン分子の3'、4'または5'位に結合している。
【0028】
化学式(I)においてmは好ましくは1〜200である。別の好ましい態様ではmは1〜20である。特に好ましい態様ではmは11〜17である。別の好ましい態様ではXはNH-CO、CO-NH、CO-NH-NH、NH-NH-CO、NH-CO-NH、及びCO-NH-NH-COからなる群より選択される。
【0029】
mが1以上である場合、括弧内の部分はキャリアタンパク質の付着部の異なるポイントにm回付着する。例えばm=2である場合、化学式(I)は次のようになると考えられる。
【化6】

【0030】
抗体はニコチン自体に応答して形成できないため、本発明の発明者らは、ニコチンの3'、4'または5'位で誘導されるニコチンハプテンを開発した。この部分がキャリアタンパク質に結合することでハプテンキャリア複合体が得られ、それが適当な宿主哺乳動物に注入されるとニコチン部分に対する抗体を生じさせる。これに関連して、哺乳動物に投与された場合に抗体の生産を誘導できるハプテンキャリア複合体を含む薬学的組成物であるためには、キャリアタンパク質が免疫原性でなくてはならない。好ましくはそれはT-細胞-エピトープを含むと考えられる。したがってキャリアタンパク質がニコチンハプテンに複合化して続いて哺乳動物に投与されると、該哺乳動物はニコチンハプテンに応答して抗体を産生、即ち「生成」する。
【0031】
ハプテン及び誘導
本発明で用いられる「ハプテン」という用語は、それ自体では免疫応答を誘発する能力はないが、キャリア分子に一旦結合すると免疫応答を誘発できる低分子量の有機化合物を意味する。好ましい態様においてこのハプテンはリンカーを介してキャリアに結合する。本発明のハプテンはニコチン誘導体である。このニコチンハプテンは反応性の官能基を含んでいて、それにキャリアが直接結合してもよいし、リンカーを介して、マトリックスを介して、またはリンカーとマトリックスとを介して結合してもよい。好ましくはニコチンハプテンは、アミド結合またはジスルフィド結合を介してキャリアタンパク質に結合する。アミド及びジスルフィド結合は、望ましい安定性を備えている。本発明のハプテン-キャリア複合体はワクチンとして用いられると考えられるため、ワクチンの保存寿命を延長させるためにその複合体が安定であることが重要である。
【0032】
本発明の好ましい態様ではこのニコチンハプテンは次の化学式(II)によって表される:
【化7】


この式中、nは0〜12であり、ZはNH2、COOH、CHOまたはSHであり、且つ-(CH2)n-Zは3'、4'または5'位に結合できる。Z部分はキャリアに直接的かまたはリンカーを介して結合できる。このキャリア-ハプテン複合体は、患者または動物の体内に導入されると抗体の産生を誘導すると考えられる。
【0033】
特に好ましい態様において、ニコチンハプテンは次の化学式(3'-アミノメチルニコチン)である。
【化8】

【0034】
1.直接的複合体
「直接的複合体」を作成するためには、一個のニコチンハプテンをリンカーを用いて、またはリンカーを用いないでキャリアに直接的に結合させる。例えば一個のニコチンハプテンは、キャリアの持つそれぞれ利用可能なアミノ基に結合できる。ホモ二官能基性のクロスリンカーまたはヘテロ二官能基性のクロスリンカーを用いてキャリアタンパク質にハプテンを直接的に複合化する一般的な方法は、例えばG. T. HermansonによってBioconjugate Techniques, Academic Press (1996)において、またDickとBeurretによってConjugate Vaccines. Contribu. Microbiol. Immunol., Karger, Basal (1989) vol. 10, 48-114において記載されている。二官能基性のクロスリンカーを用いて直接的に複合化する場合、タンパク質に対するハプテンのモル比は、特殊な複合化化学があるためタンパク質上の利用可能な官能基の数によって制限を受ける。例えばリジン部分をn数所有するキャリアタンパク質を用いると、リンカーのカルボキシル基と反応するのに利用できる一級アミン(末端アミノ基を含む)は立体的にn+1個であると考えられる。このようにこの直接的複合化法を利用するとその生成物は、形成されたn+1個のアミド結合を持つ、即ち最大n+1個のハプテンが結合されると限定される。
【0035】
当業者は、ニコチンハプテンをキャリアタンパク質に複合化させるために用いられる反応体の濃度とキャリアタンパク質の特性に依存して、キャリアに対するハプテンの比率が変化しうることを認識していると思われる。またニコチン-キャリア複合体の得られる調製物の範囲で、それぞれ個々の複合体のハプテン/キャリアの比率は変化しうる。例えばエキソプロテインAは、理論的にはハプテンと複合化するのに利用できる15個のアミンを持っている。しかしながら本発明者らは、3'アミノメチルサクシニル-ニコチンがこのタンパク質に複合化する場合、一個の複合体調製物において11〜17個の範囲のニコチンハプテンがそれぞれエキソプロテインAキャリアに結合されていると決定した。この範囲は、ガス濾過クロマトグラフィーを用い、260nmでのUV吸収の増加を測定することにより実験的に決定した。ニコチンハプテンがキャリア上の非-アミン部分に結合できるため、17個のニコチンがいくつかのキャリアに結合していた。ハプテンが結合できる非-アミン部分の例には-SH及び-OH部分が挙げられるが、これらに限定するわけではない。しかしながらこれらの副反応の発生率は低い。
【0036】
2.マトリックス複合体
直接的複合化を利用してキャリアに結合できるハプテンの数の制限を回避するために、アミノ酸「マトリックス」を用いることができる。「マトリックス」という用語は、アミノ酸、ペプチド、ジペプチド、またはオリゴマーのポリペプチドやポリマーのポリペプチドを含むポリペプチドを意味する。マトリックスはまた、線状または分枝状のポリペプチドであってもよい。マトリックスを形成するために利用できるアミノ酸の例には、アスパラギン酸、リジン、システイン、及びL-グルタミン酸が含まれるが、これらに限定するわけではない。このようなマトリックス材料は、ポリ-L-グルタミン酸のようなポリペプチドに配合するとよい。システインのようなアミノ酸を用いる場合、チオール基を保護することでハプテンがアミノ酸のカルボキシル基に結合することが可能になる。当業者は、保護基の種類、及びアミノ酸官能基に保護基を結合する手段について熟知している。論文についてはGreen、有機化学における保護基(PROTECTIVE GROUPS IN ORGANIC CHEMISTRY)、John Wiley & Sons, New York, 1991を参照のこと。
【0037】
ふさわしいマトリックスは適当な官能基を持っていて、二個またはそれ以上のハプテンをロードしている。従って本発明の別の好ましい態様では、ニコチン-置換されたマトリックスはキャリアタンパク質に複合化し、そのハプテン-キャリア複合体におけるキャリア分子に対するハプテンの比率を増加させる。このマトリックスは二つの役割を果たしており、一番目は多数のハプテンの支持体としての役割であって、また二番目はクロスリンカーとしての役割である。キャリアタンパク質に複合化させたニコチン置換のマトリックスは次の化学式(III)によって表される:
【化9】


この式中nは0〜12であり、jは1〜1000であり、kは1〜20であり、Eはハプテンが結合できるアミノ酸含有マトリックスであり、キャリアタンパク質はT-細胞エピトープを含む任意の適当なタンパク質またはポリペプチドである。アミノ酸含有マトリックスEは、アミノ酸、ペプチド、ジペプチド、またはポリマーのポリペプチドだけでなくオリゴマーのポリペプチドを含むポリペプチドでありうる。このマトリックスは一個または複数のアミノ酸を含み、それにはアスパラギン酸、リジン、システイン、及びポリ-L-グルタミン酸が含まれるが、これらに限定するわけではない。好ましい態様ではjは1〜200であり、別の好ましい態様ではjは1〜4である。
【0038】
マトリックス-キャリア複合体は、多重結合の「格子体」を形成する能力がある。このような格子体は下記の図で表される。「格子体」という用語は共有結合した複合体を示すために用いられ、それには多数のマトリックス、ハプテン、リンカー及びキャリアタンパク質が含まれ、その全ては共に共有結合している。ニコチン-置換されたマトリックスがキャリアと複合化するのに利用可能な多数のニコチン部分を含んでいるため、多数のキャリアを含む格子体、及び多数のニコチン-置換されたマトリックスが形成できる。このような格子体の部分の簡単な表示は次のように表される。
【化10】

【0039】
当業者は、本発明に係る格子体は化学式(III)のハプテンキャリア複合体を含むことを認識していると思われる。
【0040】
マトリックスを用いるこの複合化法は、タンパク質が持つ複合化に利用できる官能基の数にかかわらず、タンパク質に対するハプテンのモル比について自由度と調節を提供する。このことは、特定のキャリアタンパク質を用いた場合、また複合体の高い免疫原性を達成するために適切な比を得る必要がある場合に特に有用である。マトリックスを用いる場合には利用する必要はないが、そのようなリンカーを用いるとよい。この態様でリンカーを用いるためには、ニコチン置換されたマトリックスを活性なリンカー化合物と反応させる。例えば、ADH、即ちアジピン酸ジヒドラジドがマトリックス複合体とのリンカーとして利用できる。
【0041】
キャリアタンパク質
一旦ニコチンハプテンが調製されたら、それを、ニコチンキャリア複合体に対する抗体を生じさせるべく用いられるキャリアタンパク質に複合化させる。本発明のニコチンキャリア複合体で用いられるキャリアタンパク質は化学式(I)及び(III)における次の記号で表され、任意の適当な免疫原性のタンパク質またはポリペプチドを包含している。
【化11】


「免疫原性」分子とは免疫応答を誘導する能力のある分子である。好ましくはキャリアタンパク質は、T-細胞エピトープを含む。また分枝したペプチドであるMAP、即ち多価-抗原性ペプチドも、「キャリアタンパク質」の表示に包含される。MAPを用いることによって、多数の分岐したアミノ酸残基があるため、ハプテンの密度と結合価が最大になる。MAPを形成するのに利用できるアミノ酸の例にはリジンが挙げられるが、これに限定するわけではない。
【0042】
本発明のキャリアタンパク質は、患者のT細胞を刺激する能力のある少なくとも一つのT細胞エピトープを備えた分子を含み、それは続いてB細胞を誘導することで完全なハプテン-キャリア複合体分子に対する抗体を産生する。記載されている本発明で用いられるような「エピトープ」という用語には、抗体分子と特異的に相互作用するために応答できる抗原が持つ任意の決定基が含まれる。エピトープの決定基は通常、アミノ酸や糖の側鎖のような分子の化学的に活性な表面配置からなり、特殊な電荷特性はもちろん、特殊な三次元構造の特徴も備えている。免疫原性の性質を備えるためには、タンパク質またはポリペプチドはT-細胞を刺激する能力を持つ必要があると考えられている。しかしながらT-細胞のエピトープを欠如するキャリアタンパク質も免疫原性を持つことがありうる。
【0043】
免疫原性の応答を強く誘導することがわかっているキャリアタンパク質を選択することによって、種々の患者の集団が本発明のハプテン-キャリア複合体によって治療することが可能になる。キャリアタンパク質は、ワクチンに対する免疫応答を強く誘導できるように充分に異質でなくてならない。通常用いられるキャリアタンパク質は好ましくは、共有結合で結合したハプテンに免疫原性を付与することができる大きな分子である。特に好ましいキャリアタンパク質は、本質的に高い免疫原性を持つタンパク質である。したがって、免疫原性の程度が高く、かつハプテンに対する抗体産生を最大にできるキャリアタンパク質が非常に望ましい。
【0044】
ウシ血清アルブミン(BSA)もキーホール・リンペット・ヘモシアニン(KLH)も、動物を用いた実験で複合体ワクチンを開発する際にキャリアとして一般的に用いられてきた。しかしながらこれらのタンパク質はヒトに利用するにはふさわしくないと考えられる。治療用複合体ワクチンの調製で用いられてきたタンパク質としては、多くの病原性の細菌の毒素やそれらのトキソイドが挙げられるがこれらに限定されるわけではない。例としては、ジフテリアおよび破傷風毒素ならびに医学的に許容される相当するトキソイドが含まれる。他の候補も交差反応物質(CRM)といわれる細菌の毒素と抗原原性が類似したタンパク質である。
【0045】
ニコチン複合体の薬学的組成物を調製する場合には、組換えシュードモナス・アエルギノーザ(Pseudomonas aeruginosa)のエキソプロテインA(rEPA)がその構造及び生物学的作用について十分に特徴が明らかにされているため、それをキャリアタンパク質として用いることができる。さらにこの組換えタンパク質は、米国国立衛生研究所(National Institute of Health)及び本発明の発明者らによってスタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)のカプセル化多糖複合体ワクチンとしてヒトにうまくまた安全に利用されてきた。Fattonら、Infect Immun. 61 1023-1032 (1993)。このタンパク質は、天然の外毒素の内因性の酵素活性が553位のアミノ酸の欠失により減じられるために、適当なタンパク質キャリアとして同定されてきた。結果的にrEPAは、天然の外毒素A(ETA)と同じ免疫学的プロフィールを呈するが、天然のETAの肝臓毒性の特徴は持っていない。この適用で用いられるように「エキソプロテインA」とは、変形した非肝臓毒性のETAを指す。このようなエキソプロテインAの一例は、553位にアミノ酸の欠失がある。
【0046】
ハプテンのキャリアタンパク質への複合化
ハプテンのような小さな分子にキャリアが結合、即ち複合化するのを容易化するために利用できる非常にたくさんの官能基がある。これらには、カルボン酸類、無水物類、混成無水物類、アシルハライド類、アシルアジド類、アルキルハライド類、N-マレイミド類、イミノエステル類、イソシアネート類、アミン類、チオール類、及びイソチオシアネート類、並びに他の当業者に既知の部分のような機能的な部分が含まれる。これらの部分は、タンパク質分子の反応基と共有結合を形成できる。用いた機能的部分に応じて反応基は、反応して結果的にアミド、アミン、チオエーテル、アミジンウレアまたはチオウレア結合を形成する、キャリアタンパク質または修飾したキャリアタンパク質分子上に存在するリジン残基のεアミノ基またはチオール基であってもよい。当業者は、他の適当な活性基及び複合化法も利用できることを認識していると思われる。例えば、Wong、タンパク質結合およびクロスリンクの化学(Chemistry of Protein Conjugation and Cross-Linking)、CRC Press, Inc. (1991)参照。また、Hermanson、バイオ複合化技術(BIOCONJUGATE TECHNIQUES)、Academic Press: 1996、ならびにDickおよびBeurret、複合化ワクチン(Conjugate Vaccines.)、Cintrubu. Microbiol. Immunol., Karger, Bassal (1989) vol. 10, 48-114も参照のこと。
【0047】
線状のリンカー部分は、ハプテンをキャリアタンパク質に複合化させるには、環状または分枝したリンカーよりも好ましい。好ましいリンカーはサクシニル部分である。しかしながらリンカーは、線状部分はもちろん、環状構造であってもよい。別の例のリンカーはADHである。
【0048】
しがたって本発明のニコチンハプテン-キャリア複合体は、T細胞を刺激する能力があってT細胞の増殖を誘導し、かつ特定のB細胞を活性化するメディエーターを放出して免疫原性のハプテン-キャリア複合体に応答する抗体の生産を刺激できるハプテンキャリア複合体を得るために、一種または複数のハプテンをキャリアタンパク質と反応させることによって調製される。ハプテンキャリア複合体に応答して生じるある種の抗体は、ハプテン-キャリア複合体のハプテン部分に特異的であると考えられる。本発明は、ニコチン中毒を治療する際に用いられるハプテンとキャリアタンパク質とのさまざまな適当な組合せの使用を企図している。
【0049】
モノクローナル抗体及びポリクローナル抗体
モノクローナル抗体を作成する方法は当技術分野で周知である。モノクローナル抗体は、ニコチンハプテン-キャリア複合体を含む組成物をマウスに注入する段階、続いて血清の試料を除去することによって抗体産生の存在を証明する段階、B-リンパ球を入手するために脾臓を除去する段階、B-リンパ球を骨髄腫細胞と融合してハイブリドーマを形成する段階、該ハイブリドーマをクローニングする段階、ハプテン-キャリア複合体に対する抗体を生産する陽性クローンを選択する段階、抗原に対する抗体を生産するクローンを培養する段階、及びハイブリドーマ培養物から抗体を単離する段階により得られる。
【0050】
モノクローナル抗体は、種々の充分に確立された方法によってハイブリドーマ培養物から単離して精製できる。このような単離法には、プロテインAセファロースを用いる親和性クロマトグラフィー、サイズ-排除クロマトグラフィー、及びイオン交換クロマトグラフィーが含まれる。例えば、Coliganの2.7.1〜2.7.12頁及び2.9.1〜2.9.3頁参照。また、Bainesら、「イムノグロブリンG(IgG)の精製(Purification of Immunoglobulin G (IgG))」METHODS IN MOKECULAR BIOLOGY, VOL. 10, 79〜104頁 (The Humana Press, Inc. 1992)も参照のこと。
【0051】
またポリクローナル抗体を調製する方法も当技術分野で周知である。ポリクローナル抗体は当技術分野で標準的な方法によって調製される。ポリクローナル抗体を調製するためには、動物に免疫原性の物質を注入し、注入した免疫原の非常に多くのエピトープに対して誘導される抗体の混合物を含む抗体が富化した血清を集める。抗体を産生させるのに適切な宿主の哺乳動物には、限定するわけではないがヒト、ラット、マウス、ウサギ及びヤギが含まれる。
【0052】
本発明によると、機能的な抗体断片も利用できる。この断片は、ペプシンまたはパパインのような酵素を用いた消化及び/または化学的還元によるジスルフィド結合の開裂を含む方法によって作成される。または本発明に含まれる抗体断片は、アプライド・バイオシステムズ社(Applied Biosystems)、マルチプル・ペプチド・システムズ社(Multiple Peptide Systems)及び他社によって市販されている合成装置のような自動化ペプチド合成装置を用いて合成できるし、またそれらは当技術分野で周知の方法を用いて手作業で合成することも可能である。Geysenら、J. Immunol. Methods 102: 259 (1978)参照。本発明に係るモノクローナル抗体の重鎖及び軽鎖にある可変領域のアミノ酸配列の直接決定は、簡便な方法を用いて行うことができる。
【0053】
本発明に係る断片はFv断片であることができる。抗体のFv断片は、抗体の重鎖の可変領域(Vh)と抗体の軽鎖の可変領域(Vl)から形成されている。抗体のタンパク質分解によって、VhとVl領域が非-共有結合したままであり、抗原結合能を保持している二重鎖のFv断片を生産できる。またFv断片は、重鎖と軽鎖の可変領域がペプチドリンカーによって接続されている一本鎖の組換え抗体分子も含んでいる。Skerraら、 Science, 240, 1038-41 (1988)参照。また本発明に係る抗体断片は、無傷の抗体のFc断片を欠如したFab、Fab'、F(ab)2、及びF(ab')2も含んでいる。
【0054】
治療方法
ニコチンは血液脳関門を通過した後で多くの重要な効果を発揮するため、本発明はニコチンが血液脳関門を通過するのを阻止する治療方法を含む。特定すると、患者にニコチンハプテン-キャリア複合体を投与することによって、患者の血流中にニコチンに対する抗体を生じさせることができる。または、治療を行うべき患者の身体の外部で、即ち適切な宿主哺乳動物において生じさせた抗-ニコチン抗体を患者に投与することもできる。患者が喫煙するのであれば、該患者の血液中のニコチンは循環する抗-ニコチン抗体に結合されてニコチンが脳に到達するのを抑制する。したがってその抗体は、脳内に生じたニコチンの肉体的及び精神的作用を抑制できる。喫煙者はこれらの作用の減少または中断を実感できるため、彼/彼女は喫煙の欲望を喪失すると考えられる。患者が無煙タバコを常用している場合も、本発明のニコチンハプテン-キャリア複合体を用いて免疫した後で同じ治療効果が期待される。さらに本発明の複合体及び抗体は、末梢神経系を刺激するニコチンの能力に影響を及ぼすことでその作用を発揮できる。
【0055】
上記に記載したように、本発明の新規なニコチン-キャリア複合体はニコチン分子のもともとのキラリティーと構造を保存している。特定するとこれらの複合体のニコチン部分は、(S)-(-)型の立体配置をとっている。したがってこのような複合体に応答して生産される抗体はもともとのニコチンの形態に特異的であって、喫煙から吸入されたり無煙タバコから吸収されるニコチンに特異的に結合する場合、またこの吸い込んだニコチンの作用を阻害する場合に最も効果的であると考えられる。さらに本発明の複合体は化学的に安定であり、安定性は保存寿命の長いワクチンを製造するのに重要である。
【0056】
本発明のワクチン組成物は、中毒の治療に有用な化合物または他の治療法と組み合わせて利用するとよい。これには、限定するわけではないがZyban及びProzacのような抗-抑制薬などの化合物の投与が含まれる。
【0057】
1.ニコチンハプテン-キャリア複合体の投与
本発明の複合体は、ニコチン中毒を治療したり予防したりするのに適切である。ニコチン中毒を治療するためには、本発明のニコチン-キャリア複合体がニコチン中毒に罹っている患者に投与される。ニコチン中毒を予防するためには、ニコチン中毒に進行する危険性のある10代の若者のような患者が本発明に係る複合体で処置される。この複合体を患者に直接投与することは、「能動免疫」と言われる。
【0058】
本発明のワクチン組成物は、免疫応答を誘発するのに充分な量の少なくとも一種のニコチンハプテン-キャリア複合体を含んでいる。ニコチンハプテンキャリア複合体は、続いて起こるニコチンの取り込みに対して活動できる充分な濃度でインビボに残存する能力がある。
【0059】
本発明のニコチンハプテンキャリア複合体を用いて最初のワクチン接種を行うと、ニコチンに特異的な抗体を高い力価で生じる。ニコチン中毒の治療を必要としている患者に投与される複合体の治療的に有効な量は、当業者により容易に決定される。適切な用量範囲は1〜1000μg/用量である。外来抗原に対する抗体を生じさせるためには、一般的に一週間から数週間かかる。患者の血液中の抗体の生産は、ELISA、ラジオイムノアッセイ法、及びウエスタンブロッティング分析のような当業者に周知の技術を用いてモニターできる。また治療効果も、血圧のようなニコチンの種々の肉体的作用を評価することによってモニターできる。
【0060】
下記に詳細に説明したように本発明のニコチンハプテン-キャリア複合体は、患者に容易に投与できる組成物を提供するように処理することができる。投与の好ましい態様は、鼻腔内、気管内、経口、経皮、経粘膜、皮下注入及び静脈内注入が含まれるが、これらに限定されるわけではない。当業者は、最初の注入を行った後に複合体の一回または複数回の「追加抗原刺激」という続いての投与を行うとよいことを認識していると思われる。このような追加抗原刺激は、本発明のニコチンハプテン-キャリア複合体に対する抗体の産生を増加させると考えられる。
【0061】
本発明のワクチン組成物は、少なくとも一つのアジュバントを含むとよい。本発明で用いられるアジュバントは、キャリアタンパク質の効果が阻害されないように選択される。本発明で用いられるアジュバントはヒトに生理的に許容されるアジュバントであり、それらには、ミョウバン、QS-21、サポニン及びMPLA(モノホスホリルリピドA)が含まれるがこれらに限定するわけではない。
【0062】
本発明のワクチン組成物は、一種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を任意で含むことができる。本発明で有用な賦形剤としては滅菌水、食塩水のような塩溶液、燐酸ナトリウム、塩化ナトリウム、アルコール、アラビアガム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、マンニトール、炭水化物、ステアリン酸マグネシウム、粘性パラフィン、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース及び緩衝液が挙げられる。当然のことながら当業者に既知の別の賦形剤も本発明において有用である。
【0063】
本発明のハプテン-キャリア複合体は、ニコチン中毒を治療したり予防したりすることが必要な患者に投与するために薬学的組成物に組み入れられる。ハプテン-キャリア複合体を含む組成物が注入用に利用されるべきときは、薬学的に許容されるpHで水性の塩溶液中にハプテン-キャリア複合体を溶解することが好ましい。しかしながら、ハプテン-キャリア複合体の注入用懸濁液を使用することも可能である。通常の薬学的に許容される賦形剤を利用するだけでなく、この組成物には純度を保証したり、生物学的利用性を高めたり及び/または透過性を増したりする任意の成分が含まれうる。
【0064】
さらにこのワクチン組成物には、分散媒、被膜、ミクロスフェア、リポソーム、マイクロカプセル、脂質、界面活性剤、潤滑剤、保存剤及び安定化剤といった少なくとも一つの補助剤を任意で含ませることも可能である。当然のことながら当業者に既知の任意の別の補助剤も本発明において有用である。また本発明のワクチン組成物の効果を助けて補強するように作用する何らかの薬剤も本明細書において有用である。
【0065】
本発明の薬学的組成物は滅菌性であり、保存、分散、及び使用に耐えられるように充分に安定である。さらにこの組成物は、微生物の感染、及び微生物の増殖からその組成物が保護されるように、追加の成分を含んでいてもよい。この組成物は、投与する直前に薬学的に許容される希釈剤によって再生できる凍結乾燥した粉末の形態として製造されていると好ましい。滅菌性の注入可能な溶液を調製する方法は当業者には周知であり、それには真空乾燥、凍結-乾燥、及び回転式脱水乾燥が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらの方法で、混合前に導入された任意の追加の賦形剤を伴う活性な成分からなる粉末が得られる。
【0066】
2.ニコチン-キャリア複合体に応答して産生された抗体の投与
受動免疫では、本発明のニコチンハプテン-キャリア複合体に応答して生じたポリクローナル抗体またはモノクローナル抗体の投与、即ちそれらの抗体への暴露が含まれる。このような抗体は動物またはヒトで生じさせることが可能である。本発明のニコチン複合体に応答して生じた抗体は、ニコチンに対する中毒を予防するために投与することができる。例えばこのような抗体は、10代の若者のようなニコチンに対する中毒に進行する危険があると思われる人に投与することができる。また抗体は、ニコチンに対する中毒になっている患者を治療するためにも適切である。上述したように、抗体は血液中のニコチンに結合して血液脳関門をニコチンが通過するのを阻止すると考えられる。本発明のハプテン-キャリア複合体の投与によって生じた抗体は、約150kDaから約1,000kDaの範囲の分子量を有する。
【0067】
ニコチン中毒の治療を必要としている患者に投与される本発明の治療用抗体の治療的に有効な量は、当業者によって容易に決定される。適切な用量範囲は1〜1000μg/投薬である。
【0068】
本発明の治療用組成物は少なくとも、本発明のニコチン-キャリア複合体に応答して産生された抗体を含む。本発明のこれらの組成物は、一種または複数種の薬学的に許容される賦形剤を任意で含むことができる。本発明で有用な賦形剤には、滅菌水、食塩水のような塩溶液、燐酸ナトリウム、塩化ナトリウム、アルコール、アラビアガム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレングリコール、ゼラチン、マンニトール、炭水化物、ステアリン酸マグネシウム、粘性パラフィン、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース及び緩衝液が挙げられる。当然のことながら当業者に既知の任意の別の賦形剤も本発明において有用である。
【0069】
本発明の抗体は、ニコチン中毒を治療したり予防したりすることが必要な患者に投与するために薬学的組成物に組み入れられる。抗体を含む組成物が注入用に利用されるべきときは、薬学的に許容されるpHで水性の塩溶液中に抗体をおくことが好ましい。しかしながら、抗体の注入用懸濁液を利用することも可能である。通常の薬学的に許容される賦形剤だけでなく、この組成物には純度を保証したり、生物学的利用性を高めたり及び/または透過性を増したりする任意の成分が含まれうる。
【0070】
本発明の抗体を含む薬学的組成物は滅菌性であり、保存、分散、及び使用に耐えられるように充分に安定である。さらにこの組成物は、微生物の感染、及び微生物の増殖からその組成物が保護されるように、追加の成分を含んでいてもよい。滅菌性の注入可能な溶液を調製する方法は当業者には周知であり、それには真空乾燥、凍結-乾燥、及び回転式脱水乾燥が挙げられるが、これらに限定されるわけではない。これらの方法で、混合前に導入された任意の追加の賦形剤を伴う活性な成分からなる粉末が得られる。
【0071】
本発明の抗体を含むキット
本発明の抗体はまた、試料中のニコチンレベルを検出して測量するために用いることのできるキットを調製する場合にも役立つ。本発明に係るキットは、適当な容器に入れた本発明に係るニコチン-特異性抗体を含んでいる。ラジオイムノアッセイ法を行うためにはそのキットは、標識をつけたニコチンも含んでいるとよい。試料中のニコチンは、標識をつけたニコチンを抗体に結合させ、続いて抗体由来の標識をつけたニコチンをテストすべき試料と競合させることによって検出される。またELISAキットも本発明に係る抗体を含んでいる。ELISAでは、既知量のニコチンを用いた抗体結合の阻害とニコチンを含むことが疑われる試料を用いた阻害との比較が含まれると考えられる。これにより、既知のニコチン濃度の標準的な阻害曲線と試料を比較することによって、試料中の未知のニコチンを測定することが可能となる。別のタイプのELISAでは、ニコチンを含むことが疑われる試料を、ニコチンに結合する物質で被覆したミクロタイタープレートとともにインキュベートする。本発明の抗体を加え、酵素-結合した抗-抗体性の抗体をそのプレートに添加するとよい。基質を添加することにより、プレートに結合するニコチンの量を定量できる。
【0072】
以下の実施例は、本発明の調製法及び使用をさらに例示するためにのみ提示されている。本発明の範囲は以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例】
【0073】
実施例1-誘導されたニコチンハプテン(3'位が置換されている)の合成
ハプテンを合成するための出発物質は、商業的な供給元から入手可能なtrans-4'-カルボキシ(-)-コチニンである。CushmanおよびCastagnoli, Jr. (1972) J. Org. Chem. 37 (8): 1268-1271に記載されている方法を変形して、その酸のメチルエステル化を行い、続いてそのエステルを還元することによって、アルコールであるtrans-3'-ヒドロキシメチル-(-)-ニコチンが得られる。このアルコールを続いてスルホン化し、そのスルホン酸を、最終的にアミンに還元されるアジド基と置換する。
【0074】
4gのtrans-4'-カルボキシ-(-)-コチニンを乾燥メタノールに2Nの硫酸を入れた溶液50mLに溶解し、室温で一晩攪拌する。得られた懸濁液をワットマン(Whatman)No.1濾過紙を通して濾過し、100mLの炭酸水素ナトリウム飽和溶液にゆっくりと添加する。そのエステルをジクロロメタンで抽出して溶媒をエバポレートすると、4.2gのピンク色のオイルが得られる。
【0075】
乾燥テトラヒドロフラン(100mL)に3.9gのそのエステルを入れた溶液を、乾燥テトラヒドロフラン(70mL)に4等量のリチウムアルミニウムハイドライドを懸濁した溶液に、乾燥アルゴン気流下、滴下して添加する。その懸濁液を二時間、室温にて攪拌する。過剰のハイドライドを、氷浴中で冷却しつつ水を注意深く調節しながら添加することにより分解する。得られた白色沈澱物を濾過して除去し、濾過液を硫酸ナトリウム上で乾燥してから減圧下で濃縮することによって2.7gのアルコールが黄色のオイルとして得られる。
【0076】
このアルコール(1.9g)を20mLのジクロロメタンに溶解する。次にトリエチルアミン(0.75mL)とp-トルエンスルホニルクロライド(1g)を連続的にその溶液に添加する。そのオレンジ色の溶液を24時間、室温にて攪拌する。沈澱させたトリエチルアミン塩酸塩をセライト(Celite)ベット上で濾過して除去し、濾液を減圧下で濃縮することによって茶色のオイルが得られる。スルホン酸塩は、シリカフラッシュクロマトグラフィーカラムで5%のメタノールを入れたジクロロメタンを用いて溶出して精製することにより、2.1gの黄色のオイルが得られる。
【0077】
このスルホン酸塩(1.8g)は、50mLのジメチルホルムアミドに入れたアジ化ナトリウム(0.8g)を用いて80℃で1時間かけて置換する。高度の真空下でジメチルホルムアミドをエバポレートした後、その残渣をジクロロメタン中に溶解し、水と塩水で洗浄してから硫酸ナトリウム上で乾燥する。溶媒をエバポレートするとアジド(1.1g)が茶色がかったオイルとして得られる。
【0078】
乾燥テトラヒドロフラン(20mL)に入れたアジドを乾燥テトラヒドロフラン(50mL)に入れたリチウムアルミニウムハイドライドの懸濁液に添加して薄層クロマトグラフィーによってモニターすると、所望のアミンが容易に得られた。精製したアミンのプロトン核磁気共鳴及びカーボン核磁気共鳴のスペクトルは、予測した構造に対応していた。
【0079】
実施例2-誘導されたニコチンハプテン(4'位が置換されている)の合成
ニコチンの4'位に官能基を結合したアームを導入するには、コチニンのエノレートをアルキル化し、続いてそのアルキル化生成物を還元することによって行うことができる。適当に保護した3-ブロモ-プロピルアミンに似たさまざまなアルキル化試薬を利用できる。例として3-ブロモ-N-カルボベンジルオキシ-プロピルアミンまたはN-(3-ブロモプロピル)-フタルアミドを利用することが可能である。このアミンの保護基は、アルキル化と還元を行った後で、キャリアタンパク質に複合化させる前に除去する必要があると考えられる。環状ラクタム(ピロリジノン環を含む)のエノレートアルキル化は、文献(一般的な論評としては、G. Helmchenら、(1995) Stereoselective Synthesis in Houben-Weyl-Methods of Organic Chemistry, Vol. E21a, 762-881, Thieme, Stuttgart, Germany、そして反応の立体的な考察としては、A. J. Meyersら、(1997) J. Am. Chem. Soc., 119, 4564-4566を参照のこと。)に充分に論じられている。またコチニン自体のエノレートアルキル化のいくつかの例もある(N.-H. Linら、(1994) J. Med. Chem., 37, 3542-3553)。二つのエピマーの1:1の混合物である4'-アセチル-ニコチンの関心がもたれている調製は、ケトン(またはアルデヒド)と2-アルコキシ-3-アルケンアミンから出発して一列につながったカチオン性のアザ-コープ再配列-マンニッヒ環化反応(tandem cationic aza-Cope rearrangement-Mannich cyclization reaction)を用いて達成された(L. E. Overman (1983) J. Am. Chem. Soc., 105, 6622-6629)。この反応は、複合体にとって適切な4'-アルデヒド-ニコチンを合成するためにも拡張できる。
【0080】
3-ブロモ-プロピルアミン臭酸塩(4.2g)を50mLのジクロロメタンに懸濁し、トリエチルアミン(約7mL)を透明な溶液が得られるまで添加した。この溶液を0℃に冷却し、ベンジルクロロホルメート(2.5mL)を滴下して添加した。この反応は16時間、室温にて攪拌しながら進行させた。沈澱した塩を濾過して除去し、透明の有機層を冷水、冷却した1NのHCl、及び冷水を用いて洗浄してから硫酸ナトリウム上で乾燥を行い、続いて減圧下でエバポレートすることによって黄色のオイル(2.93gの粗精製物質)が得られた。
【0081】
コチニン(62mg)と3-ブロモ-N-カルボベンジルオキシ-プロピルアミン(100mg)を、乾燥トルエンと別々に共同エバポレートした。コチニンを5mLの新しく蒸留した無水のテトラヒドロフランに溶解し、60μLのN,N,N',N'-テトラメチレンジアミン(TMEDA)を添加してからその溶液をエタノール-ドライ氷浴に浸漬して-78℃に冷却した。このコチニン溶液を、予め-78℃に冷却したテトラヒドロフランにリチウムジイソプロピルアミドを入れた溶液(LDA、2Mのヘプタン-テトラヒドロフラン溶液、200μL)に、滴下して加えた。このオレンジ色の混合液を-78℃で15分間攪拌し、その後氷浴中で温まるように(2〜6℃)放置した。次にその反応を再び-78℃に冷却し、無水のテトラヒドロフランに溶解した3-ブロモ-N-カルボベンジルオキシ-プロピルアミンを15分間かけて滴下して添加した。この反応混合物を-10℃に温まるまで放置し、その後メタノールを用いてクエンチした。その反応生成物をシリカゲルカラム上のフラッシュクロマトグラフィーにより精製した。このコチニン誘導体のアミドの還元はボラン(borane)を用い、続いて熱エタノール中でフッ化セシウムを用いることで達成された。最終的なアミンは、酸性条件でカルボベンジルオキシ基を除去して得られた。
【0082】
実施例3-誘導されたニコチンハプテン(5'位が置換されている)の合成
ニコチンの5'位に官能基を結合したアームを導入するには、Shibagakiら、(1986) Heterocycles, 24, 423-428 及びN. -H. Linら、(1994) 前記に記載されたのと同様の方法で、コチニンと適当に保護したアルキルリチウム化合物とを反応させ、続いてナトリウムシアノボロハイドライドを用いて還元することで達成できる。
【0083】
実施例4-誘導されたニコチンハプテンのキャリアタンパク質への複合化
組換えエキソプロテインA(rEPA)は誘導したニコチンハプテンに、コハク酸アームを介して結合する。rEPAの15個のリジンはコハク酸無水物を用いて容易にサクシニル化された。続いて一般的な複合化反応において、pH6.0で0.15MのNaClを含む2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液0.05Mに、そのサクシニル化した組換えエキソプロテインA(Suc-rEPA)を入れた溶液、5〜10mg/mLを調製した。蒸留した水の最小量に溶解した等量の3'-アミノメチル-(-)-ニコチン(3'AMNic)ハプテンをそのタンパク質溶液に添加した。そのハプテン溶液のpHは添加を行う前に0.1NのHClを用いて6.0に調節した。最後に等量の1-エチル-3-(3-ジエチルアミノ)プロピルカルボジイミド・ハイドロクロライド(EDC)をそのハプテンタンパク質混合物に添加して、攪拌しながら室温で30分間その反応を進行させた。こうして得られたニコチン複合体は、セファデックスG-25カラムにおいて、燐酸緩衝塩溶液(PBS)、pH7.4を用いて溶出させた。複合体の回収は80〜90%の範囲であった。
【0084】
実施例5-ニコチンをロードしたマトリックスの複合化
この実施例は、誘導されたハプテンとしての3'-アミノメチル-(-)-ニコチンと、キャリアタンパク質としての組換えエキソプロテインA(rEPA)と、リンカーとしてのアジピン酸ジヒドラジド(ADH)と、「マトリックス」としてのポリ-L-グルタミン酸またはハプテンのためのポリマー支持体とを含むハプテン-キャリア複合体の合成について記載している。
【0085】
平均分子量が39,900で、多分散性(polydispersity)が1.15そして重合化の程度が264であるポリ-L-グルタミン酸をこの実施例では用いた。ハプテンとポリマーの反応量は、ターゲットの置換割合が約80%であるように算出した。即ち置換が80%に達する場合には、グルタミン酸ポリマーの平均的な分子における全体で264の繰り返しユニットのうち、約208ハプテンユニットが複合化していた。
【0086】
ニコチンをロードしたこのポリ-L-グルタミン酸は次の化学式を有する。
【化12】

【0087】
図に示されたようにポリグルタミン酸ポリマーは、約52個のグルタミン残基を含んでいる。この数は、マトリックス用に選択したポリアミノ酸残基のバッチと起源に依存して変わる。またこの図は、それぞれの繰り返しユニットに4個のニコチンハプテンがあることを示している。この数は、マトリックス及びニコチンハプテンが複合化される場合に用いられる反応物の比率に応じて異なると考えられる。
【0088】
誘導されたニコチンを用いて複合化させるのに続いて、非反応性のカルボキシル基(約20%)をADHを用いて誘導した。実施例6に記載したようにこのマトリックスをキャリアに複合化させる場合には、タンパク質に対するニコチン-ロードマトリックスのモル比は1:1であった。しがたってこの複合体では、タンパク質に対する理論的なニコチンハプテンのモル比は複合化反応が完遂すると200:1であった。
【0089】
ポリグルタミン酸におけるニコチン置換の実際の比率は、その生成物のNMR分析を利用して推定した。ニコチンのピリジン環の4個の水素に比較したグルタミン酸のα-水素のピーク強度によって、導入したニコチンの比率が与えられる。推定された平均的な比率は143:1(ニコチン/キャリアタンパク質)であった。
【0090】
実施例6-ニコチンをロードしたマトリックスを用いるニコチン複合体ワクチンの調製
A.マトリックス上にニコチンハプテンをロードする
10mgのポリ-L-グルタミン酸塩(Sigma, Cat #P-4761)を、pH6.0で0.15MのNaClを含む0.05Mの2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)緩衝液、2mLに溶解した。10mgの3'-アミノメチル-(-)-ニコチンを蒸留した水の最小量に溶解し、その溶液のpHを0.1NのHClを用いて6.0に調整した。そのニコチンハプテン溶液を攪拌しながらポリペプチド溶液に滴下して添加し、続いてpHを6.0に調整した。次に20mgの固体状1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド・ハイドロクロライド(EDC)を三つの部分でそのハプテンポリペプチド混合物に20分間かけて添加した。その反応は、室温で1時間進行させた。その反応生成物(ニコチン-置換されたマトリックス)を水を三回変えて透析し、凍結乾燥した。12mgのニコチン-置換されたポリグルタミン酸は、白色のふわふわした物質として得られた。
【0091】
B.ニコチン-置換されたマトリックスへのリンカーの結合
10mgのニコチン-置換されたポリグルタミン酸を、pH6.0で2mLのMES緩衝液に溶解した。8mgのアジピン酸ジヒドラジド(ADH)、続いて10mgのEDCを攪拌しながらその溶液に添加した。その反応は、室温で1時間進行させた。得られた溶液を最終的にはpH6.0でMES緩衝駅を三回変えて透析した。
【0092】
C.キャリアタンパク質への複合化
10mgの組換えエキソプロテインA(rEPA)を、pH5.6で0.15NaClを含む0.05MのMES緩衝液、2mL中に溶解した。7.5mgのこの誘導された物質を含むと推定されているADH-結合したニコチン-置換のポリグルタミン酸溶液の容量を、タンパク質溶液に添加した。固体状のEDCを、室温で攪拌しながら20分間かけて三つの部分に分けてこの混合液に添加した。その反応は室温で一晩進行させた。得られた複合体は最終的にセファデックスG-25カラムで精製し、pH7.4で燐酸緩衝塩溶液(PBS)で溶出した。これによって精製された複合体の調製物を作成でき、その複合体にはニコチンの(S)-(-)型のみが含まれている。
【0093】
実施例7-実施例4のニコチンキャリア複合体の特徴付け
実施例4の精製複合体のワクチンを、スーパーローズ(Superose)12サイズ排除クロマトグラフィーカラム上で分析し、pH7.4のPBSを用いて溶出した。タンパク質に対するハプテンのモル比は17に対して11であり、ニコチンを導入した後の260nmにおけるUV吸収の増加を、280nmにおける吸収に比較して検出することによって算出した。この範囲は、ハプテン-キャリア複合体からなる6個の別個に調製したロットのハプテン/キャリアタンパク質の比率(ロット1:17.2、ロット2:16.2、ロット3:13.2、ロット4:12.0、ロット5:11.0、ロット6:17.2)を計算することによって検出した。さらにMALDI-TOFマススペクトロメトリーを用いてこの比を決定しようとする分析によっても、UV吸収の差によって得られるのと同じ数字が本質的に得られる。複合体ワクチンのタンパク質濃度はBCA分析を用いて測定した。実施例4のニコチン-キャリア複合体の安定性試験を行った。この研究では、1mLのガラス瓶に0.5mg/mLの濃度で入れたワクチンを用い、その瓶に入れたワクチンの安定性を三つの異なる温度、即ち-70℃、2〜8℃及び室温で試験した。
【0094】
実施例8-実施例4のニコチンキャリア複合体の安定性
エステル結合ではなくハプテン-リンカー-キャリアの間のアミド結合の形成に基づいた複合化方法によれば、-70℃、2〜8℃及び室温程度での6カ月間の複合体の安定性を観察した場合に利点があることが明らかとなった。この安定性試験は、以下の工程を用いて複合化ワクチンをモニターしアッセイ法を行うことより成っていた:
1.)形成された何らかの粒子(濁り、沈澱)を探すための視覚的観察。
2.)何らかの有意なpH変化のチェック。
3.)ニコチンの導入の比率が変化したかどうかを検出するために、260nmと280nmでのUV吸収と組み合わせてサイズ排除クロマトグラフィーのデータを明らかにする。
4.)何らかのキャリアタンパク質の減成をチェックするための逆相クロマトグラフィー。
5.)複合化タンパク質の何らかのタンパク質分解を調べる銀染色を利用したSDS PAGE。
【0095】
リンカーとキャリアとの間だけでなく、ハプテンとリンカーとの間のアミド結合の形成に基づいた複合化方法も、-70℃及び2〜8℃での6カ月間の複合体の安定性を観察した場合に利点があることが明らかとなった。
【0096】
実施例9-実施例4及び6のキャリア複合体の免疫原性の立証
二種のニコチンハプテン-キャリア複合体ワクチンをマウス、ラット及びウサギを免疫するために用いた。
【0097】
A.動物試験-ポリクローナル抗体
動物を標準的なプロトコールを用いて免疫した。マウスではワクチンを2週間の間隔をあけて三回皮下注入することで投与し、一回目と二回目の注入を行った一週間後にテスト採血を行い、三回目の注入を行った一週間後には全採血を行った。血清試料を実施例10に記載されたELISAアッセイ法で評価した。ELISAアッセイ法では、ミクロタイタープレートに結合した3'AMNic-pGluを用いた。
【0098】
ラットは、ワクチンを三回腹腔内注入して免疫した。注入は、一回目と二回目の注入の一週間後にテスト採血をしながら二週間の間隔をあけて行った。続いてそのラットに、三回目の注入の一週間後に全採血を行った。フロイント(Freund)の完全アジュバントを最初の注入の際に用い、続く注入では不完全フロイントアジュバントを用いた。血清試料は、ELISAアッセイ法で評価した。
【0099】
ウサギには、100μgのワクチンを用いて三週間の間隔をあけて三回、筋肉内に注入して免疫した。最初の注入はフロイントアジュバンドを含んでいて、続く注入は不完全フロイントアジュバントを含んでいた。ウサギは、二回目と三回目の注入の一週間後にテスト採血したところ、採血の結果として充分な力価を確保できた。ELISAによって測定して充分な力価が得られたら、ウサギを一週間毎の研究結果採血スケジュール(ウサギ一匹あたり20〜40mLの血清)に従わせた。抗体力価は時間経過と共にモニターし、抗体レベルを回復させる必要があれば動物に追加抗原刺激した。
【0100】
これらの免疫原性試験の結果は表1〜5に示されている。表1及び2は、マウスにおける免疫原性試験の結果を示している。表1において用いた複合体は3'アミノメチル-(-)-ニコチン-サクシニル-rEPA(実施例4)であった。表2において用いた複合体は、3-アミノメチル-(-)-ニコチン-ポリグルタミン酸-ADH-rEPA(実施例6)であった。これらの表は、ニコチンに特異的に結合する抗体が高い力価で産生することを示している。そのうえこれらの複合体は、追加抗原刺激の応答を誘導する能力も示した。
【0101】
表3及び4は、ラットにおける免疫原性試験の結果を示している。表3において、用いた複合体は3'アミノメチル-(-)-ニコチン-サクシニル-rEPA(実施例4)であった。表4において用いた複合体は、3-アミノメチル-(-)-ニコチン-ポリグルタミン酸-ADH-rEPA(実施例6)であった。
【0102】
これらの表は、ニコチンに特異的に結合する抗体が高い力価で産生されることを示している。そのうえこれらの複合体は、追加抗原刺激の応答を誘導する能力も示した。
【0103】
表5は、ウサギにおける免疫原性試験の結果を示している。3'アミノメチル-サクシニル-rEPA(実施例4)または3-アミノメチル-ポリグルタミン酸-ADH-rEPA(実施例6)のいずれを用いても、この二つの複合体に対して高い力価の抗体が産生された。これらの力価は、6カ月以上もの間高いままであった。
【0104】
(表1) 3'AMNic-Suc-rEPAを用いたマウスの処理



用量はタンパク質アッセイ法に基づく。
力価は対応する注入を行った1週間後の相加平均である。
【0105】
(表2) 3'AMNic-pGlu-ADH-rEPAを用いたマウスの処理



用量は凍結乾燥した複合体の乾燥重量に基づく。
力価は対応する注入を行った1週間後の相加平均である。
【0106】
(表3) 3'AMNic-Suc-rEPAを用いたラットの処理



用量はタンパク質アッセイ法に基づく。
力価は対応する注入を行った1週間後の相加平均である。
【0107】
(表4) 3'AMNic-pGlu-ADH-rEPAを用いたラットの処理



用量は凍結乾燥した複合体の乾燥重量に基づく。
対応する注入を行った1週間後の相加平均。
【0108】
(表5) 3'AMNic-Suc-rEPA及び3'AMNic-pGlu-ADH-rEPAを用いたウサギの処理



用量は、3'AMNic-Suc-rEPAについてはタンパク質アッセイ法に基づき、また3'AMNic-pGlu-rEPAについては乾燥重量に基づく。
力価は、3回目の注入を行った6週間から7週間後の相加平均である。
【0109】
実施例10-ELISAアッセイ法および抗体特異性
ニコチン分子自体はELISAプレートを被膜するのに適当ではなく、よりうまく接着性の性質を備えた大きな分子に結合させる必要がある。ポリ-L-リジンまたはポリ-L-グルタミン酸はこの目的のために一般的に用いられる。誘導したニコチンハプテン3'-アミノメチル-(-)-ニコチン(3'AMNic)をポリ-L-グルタミン酸に複合化し、得られた3'-アミノメチル-(-)-ニコチン-ポリ-L-グルタミン酸複合体(3'AMNic-pGlu)をELISAプレートを被覆するために用いた。
【0110】
3'AMNicワクチンに対して生じた抗体を、以下のように3'AMNic-pGlu ELISAを用いて評価した。即ち、ダイナテックイムロン(Dynatech Immulon)4ミクロタイタープレート(Chantilly, VA)をpH9.6の0.1M重炭酸塩緩衝液中に入れた10ng/mLの3'AMNic-pGluを用いて100μL/ウェルで被覆し、それを室温(RT)で一晩(ON)インキュベートした。続いてこのプレートをアスピレートし、RTで1時間、1%BSAを含むPBS溶液でブロックした。試料と参照の血清をPBB(1%のBSA、0.3%のBRIJを含むPBS溶液、pH7.2)で希釈することによって、450nmにおけるおおよその吸光度(OD)が2.0となるように希釈できる。このプレートを5回洗浄(9%のNaCl、0.1%のBRIJ)し、希釈された試料および参照血清をロードした。この参照および試料の最終用量が100μL/ウェルになるようにそのプレートを2倍希釈して薄めてから、1時間37℃でインキュベートした。続いてそのプレートを再び洗浄し、PBBで希釈されたペルオキシダーゼが複合化した抗-種のFc特異性のIgG(Jackson, West Grove, PA)を100μL/ウェルでロードし、37℃で1時間インキュベートした。そのプレートを洗浄し、H2O2(TMB試薬キットとともに提供されている)で1:1に希釈した3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)基質(KPL, Gaithersburg, MD)、100μl/ウェルを用いてRTで10分間インキュベートした。この反応は、1Mの燐酸、100μL/ウェルを添加して停止させ、MR4000ミクロタイタープレート読み取り器(Dynatech)を用いて450nmで読み取った。試料を平行ライン分析法を用いて参照と関連させて定量する。参照は、450nmにおけるODが約2.0となる希釈物に対応する絶対値(U/mL)が割り当てられる。
【0111】
抗体の特異性は、阻害ELISAアッセイ法を用いて評価した。それぞれの抗-[3'AMNic-Suc-rEPA]血清は、450nmにおける吸光度が結果的に約2.0になるように2分の1の濃度に希釈した。上記に記載した3'AMNic-pGlu ELISAを用いる場合、テストできるように希釈した抗血清は、37℃で3時間、量の多い被験抗原(インヒビター)とともに1:1(v/v)で吸収され、その吸収された試料は参照としての吸収されなかった血清を用いるELISAにおいて試験した。吸収されなかった試料に関する吸収のパーセントを、それぞれの試料について測定した。
【0112】
3'AMNic-Suc-rEPAに応答して生じた抗体を含むラットの血清の特異性は、インヒビターとしてニコチン酒石酸を用いる阻害ELISAを利用して算出した。この抗体についてのIC50は3.5×10-6Mであった。3'AMNic-Suc-rEPAに応答して生じた抗体を含むウサギ血清の特異性は、インヒビターとしてニコチン酒石酸を用いる阻害ELISAを利用して算出した。この抗体についてのIC50は2.3×10-5Mであった。
【0113】
実施例11-抗体親和性及び結合能力
抗体結合能力は、0.7mLの血漿、テフロン製のセミ-ミクロセル、12〜14kDの分子量を除去するスペクトラポール(Spectrapor)2メンブラン、及びソレンソン(Sorenson)緩衝液(0.13ホスフェート、pH7.4)を用いる平衡透析法を、37℃で4時間行って測定した。Pentelら、J. Pharmacol. Exp. Ther. 246, 1061-1066 (1987)参照。血漿のpHは、平衡透析法の進行が終わりに到達した時に測定し、試料は最終のpHが7.30〜7.45である場合のみ用いた。
【0114】
ニコチンに対する抗体親和性は、Mueller, Meth. Enzymol., 92, 589-601 (1983)を参照して可溶性のラジオイムノアッセイ法を用いて算出した。IgGの分子量は、150kDであると測定された。
【0115】
ラジオイムノアッセイ法を用いて得られた結合定数と親和性は次のとおりであった。抗-[3'AMNic-Suc-rEPA]ラット血清については、IC50(モル)は1.36×10-7であった。Ka(モル-1)は2.57×107であった。結合部位の濃度は2.61×10-6結合部位/Lであり、ニコチン-特異性IgGの濃度は0.2mg/mLであった。
【0116】
実施例12-動物モデルの血漿及び脳におけるニコチン分布の評価
本発明のワクチンは、さまざまな動物モデルで評価されている。ラットモデルを用いて、血漿及び脳におけるニコチン分布についての能動免疫または受動免疫の効果を調べた。ある研究では、ニコチンの持つ中枢神経系(CNS)作用であるニコチンの運動作用の減少ついて、受動免疫の効果を調べた。別の実験では、心臓血管系に対するニコチンの作用、即ち最高血圧の上昇について、受動免疫の効果を評価した。
【0117】
本発明の免疫治療法を評価するために、ヒトにおいて二本の紙巻タバコからのニコチンの急速な吸収を誘導できるよう動物モデルが開発されている。この動物モデルは、Hieda (1997) J. Pharmacol. Exp. Ther. 283 (3): 1076-1081に記載されている。このモデルではラットに、ヒトの喫煙者の肺からのニコチンの急速な吸収が誘導されるよう、10秒間かけて0.03mg/kgのニコチンを静脈内注入して投与した。血漿中のニコチンを測定するために、血液試料をニコチンの注入を行ってから3分後と10分後に採取した。脳のニコチン濃度を測定すべき場合には、ニコチンを注入してから3分後に動物を殺してその脳をすばやく取り出した。実施例4のワクチンは、血漿と脳におけるニコチンの分布に対するそのワクチンの影響を調べるためにラットで評価した。
【0118】
A.能動免疫
ラットに、二週間の間隔をあけてワクチン(3'AMNic-Suc-rEPA)の一回注入に対して全部で25μgの腹腔内注入を3回行ってニコチンワクチンで免疫感作した。これらの動物では、免疫していない対照のレベルに比較して、10秒間かけて0.03mg/kgのニコチンの注入を行った3分後と10分後の血漿中のニコチンレベルが増加した。図1参照。したがって能動免疫は、血漿においてニコチン結合を増大させるのに有効であった。脳に到達するニコチンの量が適度に減少して、ニコチンの行動の影響を劇的に変化させうることがわかる。
【0119】
B.受動免疫
受動免疫を用いて、血漿のニコチンレベルの増加と脳のニコチンレベルの減少における免疫IgGの用量応答性の効果を調べることができた。ラットには、注入あたりの抗-(3'AMNic-Suc-rEPA)IgGの全体量を12.5〜50mgに変えた量を投与した。図2に示されているように、血清中のニコチンレベルを増加させ脳のニコチンレベルを減少させるIgGの用量の増加につれて、明らかな用量応答効果があった。
【0120】
図3は、注入によって全部の抗体(50mg)を投与した30分後と1日後のラットの血清において、抗-ニコチン抗体(抗-3'AMNic-Suc-rEPA)が存在すること、及び活性であることを示している。図3は、続いてニコチンで攻撃する(10秒間かけて0.03mg/kgを注入する)と、抗体を投与した30分後及び1日後でこれらの抗体が脳のニコチン濃度を減少させ、かつ血漿のニコチンレベルを増加させるのに有効であったことを示している。
【0121】
本発明のニコチンワクチンを用いて受動免疫した効果の別の証拠は、続いて行ったニコチンの注入に対抗する能力である。ラットにおける別個の受動免疫実験では、ニコチンを多数回投与しても抗体の存在が涸渇せず、即ち新しく注入したニコチンに結合する能力を有意に減少させなかった。図4においては、50mgの抗-[3'AMNic-Suc-rEPA]を0時点で注入した。24時間後、5回のニコチン注入を行った。即ち0.03mg/kgのニコチンを10秒間かけて、20分毎に80分間、右の頚部静脈から注入した。全部で5回のニコチンの注入を行った。ニコチンの5回目の注入は、3H-ニコチンを用いて刺激した。全部の血液と脳を、5回目の注入を行ってから1分後に収集した。その結果が下記に示されていて、図4及び5においてグラフ化して表されている。
【0122】
(表)


【0123】
これらの結果は、ニコチンの5回目の投与を行った後でさえその抗体が血清中のニコチンレベルを増加させ、かつ脳のニコチンレベルを減少させるのに有効であることを示している。3H-ニコチンを用いた結果は、抗体が5回目の投与で注入されたニコチンに対しても有効であることを証明している。
【0124】
実施例13-ニコチンの運動作用についての評価
用いたこの実験は、受動免疫によって直接CNSが仲介するニコチンの作用を抑制できるかどうかについて調べられるように設計した。この実験で用いたラットモデルはDavid Malin博士によって開発され、それは、第五回 ニコチンおよびタバコに関する調査団体の年次会合(the Fifth Annual Meeting of the Society for Research on Nicotine and Tobacco)、San Diego, CA、1999年3月5〜7日に要約されているMalinら、ラットにおいてニコチン特異的IgGは脳への関与を減少し、その行動および心筋作用を減衰させる(Nicotine-specific IgG reduced distribution to brain and attenuates its behavioral and cardiovascular effects in rats)に記載されている。ベースラインを確立するために、0.8mg/kg用量のニコチン酒石酸塩を皮下注入したラットの、運動活動レベルについての効果を測定した。0.8mg/kgのニコチン酒石酸塩は、運動の異常性を誘導することなく用いることが可能な最大の用量である。
【0125】
抗-[3'AMNic-Suc-rEPA]を用いて予め処理されていないラット、及び50mgの正常のウサギ血清IgGを用いて予め処理したラットにニコチンを注入した後では活動レベルが向上した。図6Aの右側のバーと図6Bの左側のバーを参照されたい。この効果は、50mgの抗-[3'AMNic-Suc-rEPA]免疫IgG(図6Bの右側のバー)を用いて動物を前処理することによって抑制された。このことは、抗-ニコチン抗血清が、インビボにおいてニコチンの興奮作用を弱めることを示している。
【0126】
実施例14-最高血圧に対するニコチンの評価
この実験では、ニコチンの行動作用の別の指標を測定した。即ち収縮期血圧の変化である。ラットは抗-[3'AMNic-Suc-rEPA]IgG、または対照のIgGを用いて前処理した。ラットに0.1mg/kgのニコチン酒石酸塩を皮下注入して処理した。対照のラットは、ニコチンで処理すると収縮期血圧が42.6±3.2mmHgに増加したことを示した。ラットが抗-ニコチン抗血清IgGで前処理されている場合、ニコチンの攻撃の影響は小さかった。より多くの量の抗-ニコチン血清が投与されている場合、血圧を上昇させるニコチンの能力が減少した。図7に示されているように、IgGの投与量の関数として、血圧は右下がりに直線状に傾いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の化学式のハプテン-キャリア複合体:
【化1】


この式中、
mは1〜2500であり、
nは0〜12であり、
yは1〜12であり、
XはNH-CO、CO-NH、CO-NH-NH、NH-NH-CO、NH-CO-NH、CO-NH-NH-CO、及びS-Sからなる群より選択され、
YはNH-CO、CO-NH、CO-NH-NH、NH-NH-CO、NH-CO-NH、CO-NH-NH-CO、及びS-Sからなる群より選択され、
且つ-(CH2)n-X-(CH2)y-Y-部分は3'、4'または5'位に結合している。
【請求項2】
前記mが11〜17であり、nが1であり、yが2であり、XがNH-COであり、YがCO-NHであって、前記キャリアタンパク質がエキソプロテインAであり、且つ前記-(CH2)n-X-(CH2)y-Y-が3'位に結合している請求項1記載の複合体。
【請求項3】
前記mが11〜17であり、nが1であり、yが2であり、XがNH-COであり、YがCO-NHであって、前記キャリアタンパク質がエキソプロテインAであり、且つ前記-(CH2)n-X-(CH2)y-Y-が4'位に結合している請求項1記載の複合体。
【請求項4】
前記mが11〜17であり、nが1であり、yが2であり、XがNH-COであり、YがCO-NHであって、前記キャリアタンパク質がエキソプロテインAであり、且つ前記-(CH2)n-X-(CH2)y-Y-が5'位に結合している請求項1記載の複合体。
【請求項5】
前記mが1〜20及び1〜200からなる群より選択される請求項1記載の複合体。
【請求項6】
次の化学式のハプテン-キャリア複合体:
【化2】


この式中、nは0〜12であり、jは1〜1000であり、kは1〜20であり、且つEはアミノ酸-含有マトリックスである。
【請求項7】
前記マトリックスがポリ-L-グルタミン酸である請求項6記載のハプテン-キャリア複合体。
【請求項8】
請求項1記載のハプテン-キャリア複合体に応答して産生される抗体。
【請求項9】
請求項8記載の抗体の機能的断片。
【請求項10】
モノクローナル抗体である請求項8記載の抗体。
【請求項11】
ポリクローナル抗体である請求項8記載の抗体。
【請求項12】
請求項6記載のハプテン-キャリア複合体に応答して産生される抗体。
【請求項13】
請求項12記載の抗体の機能的断片。
【請求項14】
モノクローナル抗体である請求項12記載の抗体。
【請求項15】
ポリクローナル抗体である請求項12記載の抗体。
【請求項16】
ニコチン中毒の治療を必要とする患者において、請求項1記載のハプテン-キャリア複合体の治療的に有効な量を投与することを含む、ニコチン中毒を治療する方法。
【請求項17】
ニコチン中毒の治療を必要とする患者において、請求項8記載の抗体の治療的に有効な量を投与することを含む、ニコチン中毒を治療する方法。
【請求項18】
ニコチン中毒の予防を必要とする患者において、請求項1記載のハプテン-キャリア複合体の治療的に有効な量を投与することを含む、ニコチン中毒を予防する方法。
【請求項19】
ニコチン中毒の治療を必要とする患者において、請求項8記載の抗体の治療的に有効な量を投与することを含む、ニコチン中毒を予防する方法。
【請求項20】
中毒の治療に有用な化合物を投与することをさらに含む、請求項16記載の方法。
【請求項21】
ニコチン中毒の治療を必要とする患者において、請求項6記載のハプテン-キャリア複合体の治療的に有効な量を投与することを含む、ニコチン中毒を治療する方法。
【請求項22】
中毒の治療に有用な化合物を投与することをさらに含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
ニコチン中毒の治療を必要とする患者において、請求項12記載の抗体の治療的に有効な量を投与することを含む、ニコチン中毒を治療する方法。
【請求項24】
ニコチン中毒の予防を必要とする患者において、請求項6記載のハプテン-キャリア複合体の治療的に有効な量を投与することを含む、ニコチン中毒を予防する方法。
【請求項25】
ニコチン中毒の治療を必要とする患者において、請求項12記載の抗体の治療的に有効な量を投与することを含む、ニコチン中毒を予防する方法。
【請求項26】
請求項1記載のハプテン-キャリア複合体を用いて宿主哺乳動物を免疫することを含む、抗体を生産する方法。
【請求項27】
前記抗体がモノクローナル抗体である請求項26記載の方法。
【請求項28】
前記抗体がポリクローナル抗体である請求項26記載の方法。
【請求項29】
請求項6記載のハプテン-キャリア複合体を用いて宿主哺乳動物を免疫することを含む、抗体を生産する方法。
【請求項30】
前記抗体がモノクローナル抗体である請求項29記載の方法。
【請求項31】
前記抗体がポリクローナル抗体である請求項29記載の方法。
【請求項32】
請求項1記載の少なくとも一つの複合体を含むワクチン組成物。
【請求項33】
請求項6記載の少なくとも一つの複合体を含むワクチン組成物。
【請求項34】
請求項8記載の抗体を含む、試料中のニコチンの存在を検出するためのキット。
【請求項35】
請求項12記載の抗体を含む、試料中のニコチンの存在を検出するためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−79849(P2011−79849A)
【公開日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−264835(P2010−264835)
【出願日】平成22年11月29日(2010.11.29)
【分割の表示】特願2000−584928(P2000−584928)の分割
【原出願日】平成11年12月1日(1999.12.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(500175130)ナビ バイオファーマシューティカルズ (7)
【Fターム(参考)】