説明

ニッケルめっき液及びニッケルめっき方法

【課題】ホウ酸やカルボン酸を使用せず、弱酸性から中性領域の溶液pHを備え、従来通りの生産性が得られるニッケルめっき液、及び、そのニッケルめっき液を用いたニッケルめっき方法を提供する。
【解決手段】上記課題を解決するために、ニッケルイオンの供給源である1種以上のニッケル塩とpH緩衝剤とを含む電気めっき用のニッケルめっき液であって、pH緩衝剤がアミノアルカンスルホン酸又はその誘導体であり、且つ溶液pHが4.0〜6.5であることを特徴とするニッケルめっき液を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件発明は、ニッケルめっき液、及びそのニッケルめっき液を用いたニッケルめっき方法に関する。特に、ホウ酸とカルボン酸系強有機酸とを含まず、弱酸性から中性領域の溶液pHを有するニッケルめっき液に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルめっき皮膜は、装飾性を要求される日用品の分野、さび防止や光沢性の機能を要求される工業製品の分野や、導電性や半田濡れ性などの機能を要求される電子部品の分野など、広い分野で活用されている。
【0003】
このニッケルめっき皮膜の形成には、主にワット浴やスルファミン酸浴等の酸性ニッケルめっき液が用いられている。ここで、当該酸性ニッケルめっき液は、被めっき物の浸食を抑制して安定しためっき皮膜を形成すべく、pH変動を抑制するためのpH緩衝剤としてホウ酸が用いられてきた。ところが、ホウ酸は、2001年7月1日施行の改正水質汚濁防止法において規制対象物質とされた。そのため、ホウ酸の代替物質として、有機酸類を用いる技術が開発されている。
【0004】
例えば、特許文献1には、排水処理が困難なホウ酸を含まず、作業環境に悪影響を及ぼさないニッケルめっき浴を提供することを目的として、ホウ酸の代わりに0.01mol/L〜0.5mol/Lの脂肪族ジカルボン酸を添加したニッケルめっき浴が開示されている。そして、脂肪族ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸が好ましく、脂肪族ジカルボン酸は、予めニッケル塩水溶液と混合しておくことが好ましいとしている。
【0005】
この特許文献1の実施例1では、硫酸ニッケル280g/L、塩化ニッケル50g/L、マロン酸5.0g/Lと、炭酸ニッケル2.0g/Lを含む溶液pH4.8のニッケルめっき浴を調製し、これに被めっき物として70×100mmの真鍮板を陰極とし、陽極にニッケル板を用いるハルセル槽で温度50℃、電流2Aで10分間ニッケルめっきを行った結果、被めっき物には、光沢のある平滑なニッケルめっき皮膜が得られ、めっき浴のpH変動もほとんどなかったと記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、均一電着性に優れ、ホウ素を用いることがなく、めっきコストも低廉なニッケルめっき浴を提供することを目的として、ニッケルイオン源としての塩化ニッケル及び/又は硫酸ニッケルをニッケルイオン濃度換算で1g/L〜20g/L含み、クエン酸をクエン酸・1水和物換算で50g/L〜300g/L含み、溶液pHがアンモニアによって6.5〜10に調節されていることを特徴とするニッケルめっき浴を用いる技術が開示されている。
【0007】
この特許文献2の実施例では、水にクエン酸・1水和物を200g/L、塩化ニッケル・6水和物を10g/L、20g/L、40g/L、60g/L、80g/L、100g/L、のそれぞれの量を添加して加温溶解し、放冷する。その後、pHメータで溶液pHを測定しながら濃アンモニア水を加え、溶液pHを8.0となるように調節したニッケルめっき液を用いてハルセル試験を実施し、蛍光X線膜厚計によって3箇所のめっき皮膜の膜厚を測定している。その結果、特許文献2の実施例の方が、溶液pH4.0のホウ酸を含むワット浴を用いたニッケルめっきに比べ、均一電着性に優れていると記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2001−107284号公報
【特許文献2】特開2009−62577号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、市場では、特許文献1及び特許文献2に開示されているようなマロン酸、クエン酸等のカルボン酸系強有機酸を含むニッケルめっき液は、得られるめっき皮膜の品質バラツキが大きいと言われている。即ち、特許文献1及び特許文献2が開示するニッケルめっき液のように、pH緩衝剤としてマロン酸やクエン酸等のカルボン酸系強有機酸を含有させたとしても、長時間安定してめっき液のpHの変動を抑制することができず、結果として安定しためっき皮膜を形成することが困難となっていた。
【0010】
一方では、特許文献1及び特許文献2に開示されているようなカルボン酸系強有機酸を含むニッケルめっき液の場合には、調製したニッケルめっき液の溶液pHによっては、被めっき物、特にセラミックス素材の場合には、その表面を浸食して損傷を発生させる場合もあった。
【0011】
以上のことから、市場では、長時間安定してめっき液の溶液pHの変動を抑制することが可能で、従来通りの生産性と、従来と同等の外観や特性を備えたニッケルめっき皮膜が得られ、且つ、水質汚濁防止法での規制物質を含まないニッケルめっき液、及び、そのニッケルめっき液を用いたニッケルめっき方法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0012】
そこで、鋭意研究の結果、本件発明者等は、以下のニッケルめっき液を用いることにより、ホウ酸のみならずカルボン酸系強有機酸を含有することなく、長時間安定して弱酸性から中性領域の間で溶液pHの変動を抑制した状態でニッケルめっきの形成が可能になることに想到した。
【0013】
本件発明に係るニッケルめっき液: 本件発明に係るニッケルめっき液は、ニッケルイオンの供給源である1種以上のニッケル塩とpH緩衝剤とを含む電気めっき用のニッケルめっき液であって、当該pH緩衝剤がアミノアルカンスルホン酸又はその誘導体であり、且つ、溶液pHが4.0〜6.5であることを特徴としている。
【0014】
そして、本件発明に係るニッケルめっき液は、前記ニッケル塩が硫酸ニッケルと塩化ニッケルであり、当該ニッケル塩とアミノアルカンスルホン酸又はその誘導体の含有量が以下に示す範囲であることが好ましい。
【0015】
硫酸ニッケル・6水和物 : 120g/L〜480g/L
塩化ニッケル・6水和物 : 15g/L〜70g/L
アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体 : 30g/L〜100g/L
【0016】
また、本件発明に係るニッケルめっき液は、前記ニッケル塩がスルファミン酸ニッケルと塩化ニッケルであり、当該ニッケル塩とアミノアルカンスルホン酸又はその誘導体の含有量が以下に示す範囲であることが好ましい。
【0017】
スルファミン酸ニッケル・4水和物 : 200g/L〜600g/L
塩化ニッケル・6水和物 : 1g/L〜6g/L
アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体 : 30g/L〜100g/L
【0018】
また、本件発明に係るニッケルめっき液は、前記アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体がタウリンであることが好ましい。
【0019】
また、本件発明に係るニッケルめっき液は、応力調整剤を含むことも好ましい。
【0020】
そして、本件発明に係るニッケルめっき液は、前記応力調整剤がo−スルホ安息香酸イミドであり、o−スルホ安息香酸イミドの濃度が0.1g/L〜5g/Lであることも好ましい。
【0021】
本件発明に係るニッケルめっき方法: 本件発明に係るニッケルめっき方法は、上述したいずれかのニッケルめっき液を用い、液温を40℃〜60℃とし、陰極電流密度0.05A/dm〜10A/dmで電解して、被めっき物の表面にニッケルめっき皮膜を形成することを特徴としている。
【0022】
本件発明に係るめっき製品: 本件発明に係るめっき製品は、上述したニッケルめっき方法を用いて、ニッケルめっき皮膜を形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本件発明に係るニッケルめっき液は、水質汚濁防止法での規制物質を含まないものである。しかも、本件発明に係るニッケルめっき液は、長時間安定してめっき液の溶液pHの変動を抑制することが可能で、従来のニッケルめっき液に劣らぬ生産性、めっき外観、諸特性を備えたニッケルめっき皮膜を形成することができる。
【0024】
また、本件発明に係るニッケルめっき液は、溶液pHが弱酸性から中性領域であり、且つ、ホウ酸やカルボン酸系強有機酸を含まない。このため、チップ部品にニッケルめっき皮膜を形成する際に、チップ部品のセラミックス部位の浸食も抑制でき、セラミックスで構成された保護コート層を備えるチップ部品に対しても、直接ニッケルめっきを施すことも可能である。
【0025】
更に、本件発明に係るニッケルめっき方法は、従来のニッケルめっき方法と比べ、電流密度を低下させて操作する必要がない。よって、めっき皮膜の生産性も良好になる。従って、本件発明に係るニッケルめっき液を用いるニッケルめっき方法は、チップ部品の他、耐食性に不安がある被めっき物全般へのニッケルめっきに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1及び比較例1で得られたニッケルめっき皮膜の走査型電子顕微鏡による観察像(×10、000)である。
【図2】実施例2及び比較例2で得られたニッケルめっき皮膜の走査型電子顕微鏡による観察像(×10、000)である。
【図3】実施例3及び比較例3で得られたニッケルめっき皮膜の走査型電子顕微鏡による観察像(×10、000)である。
【図4】実施例4及び比較例4で得られたニッケルめっき皮膜の走査型電子顕微鏡による観察像(×10、000)である。
【図5】実施例5及び比較例5で得られたニッケルめっき皮膜の走査型電子顕微鏡による観察像(×10、000)である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.本件発明に係るニッケルめっき液の形態
1−1.本件発明に係るニッケルめっき液に関する技術思想
本件発明に係るニッケルめっき液は、ニッケルイオンの供給源である1種以上のニッケル塩とpH緩衝剤とを含む電気めっき用のニッケルめっき液であって、当該pH緩衝剤がアミノアルカンスルホン酸又はその誘導体であり、且つ、溶液pHが4.0〜6.5であることを特徴としている。
【0028】
本件発明に係るニッケルめっき液では、pH緩衝剤として「アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体」を用いることが共通の特徴である。アミノアルカンスルホン酸やその誘導体は、分子内にカチオン中心とアニオン中心をもつアミノスルホン酸類であり、溶液pHが中性の領域では双性イオンの状態で存在する化合物である。そして、双性イオンは、含まれる溶液が酸性になるとアニオンになり、溶液がアルカリ性になるとカチオンになることによって、自身が含まれる溶液のpHを緩衝する効果を発揮する。
【0029】
ここで、本件発明に係るニッケルめっき液における、pH緩衝剤としての「アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体」の含有量に関して、最初に述べておく。本件発明に係るニッケルめっき液においては、アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体の含有量は30g/L〜100g/Lとすることが好ましい。アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体の含有量が30g/L未満では、ニッケルめっき液の溶液pHを6.0付近に設定するとpH緩衝効果を十分に発揮できない場合があるため好ましくない。一方、アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体を100g/Lを超えて含有しても、溶液pHの緩衝効果はすでに飽和に達しており、それ以上の効果が認められず、資源の無駄遣いとなるため好ましくない。以上のことから、pH緩衝剤としての「アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体」の含有量を定めている。
【0030】
更に、本件発明に係るニッケルめっき液は、「アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体」の中でもタウリンを用いることが好ましい。このタウリンは、「アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体」の中でも、ニッケルめっき液の中での安定性に優れ、長期に亘る溶液品質の安定化能力に優れ、めっき操業中における溶液pHの変化も少なく、良好なニッケルめっき被膜を得るのに適した添加剤である。また、タウリンは、人体の経口投与薬剤として使用されるものであり毒性はなく、市場での調達が容易で、且つ、排水処理の負荷を上昇させない化合物であるという利点がある。
【0031】
そして、本件発明に係るニッケルめっき液において、ニッケルイオンの供給源として用いるニッケル塩は、特に限定する必要はなく、電気めっきで形成するニッケルめっき皮膜が、要求特性を満足できるように、スルファミン酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル等から選択し、単一で、又は混合して用いることができる。
【0032】
更に、本件発明に係るニッケルめっき液は、溶液pHが4.0〜6.5であることが好ましい。ニッケルめっき液の溶液pHが4.0未満の強酸領域になると、セラミックスが浸食される場合があるため、チップ部品めっきに使用できず好ましくない。一方、ニッケルめっき液の溶液pHが6.5を超え、アルカリ側になると、水酸化ニッケルが生じる場合があり、溶液安定性に優れたニッケルめっき液を得ることが困難になるため好ましくない。
【0033】
1−2.本件発明に係るニッケルめっき液の具体的組成
上述のように、本件発明に係るニッケルめっき液は、アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体をpH緩衝剤として含み、「ニッケル塩として硫酸ニッケルと塩化ニッケルとを含むワット浴系ニッケルめっき液」と、「ニッケル塩としてスルファミン酸ニッケルと塩化ニッケルとを含むスルファミン酸浴系のニッケルめっき液」とに大別できる。以下、それぞれのニッケルめっき液について詳細に説明する。なお、pH緩衝剤としての「アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体」の含有量に関しては、いずれのニッケルめっき液においても、上述の概念の適用が可能である。
【0034】
1−2−1.ワット浴系のニッケルめっき液
ワット浴系のニッケルめっき液は、硫酸ニッケル・6水和物を120g/L〜480g/L、塩化ニッケル・6水和物を15g/L〜70g/L含有することが好ましい。この範囲内でのワット浴系のニッケルめっき液として用いることが、電流効率、皮膜の性状、長期保存に対する溶液安定性、スラッジが容易に発生しなくなる等の観点から好ましい。硫酸ニッケル・6水和物と塩化ニッケル・6水和物との配合バランスに関して言えば、上記範囲であれば特段の問題はない。以下、硫酸ニッケル・6水和物と塩化ニッケル・6水和物との含有量の限定を行った理由を示す。
【0035】
当該ワット浴系のニッケルめっき液において、硫酸ニッケル・6水和物の含有量が120g/L未満の場合には、めっき液として適正なニッケル濃度を確保するには、塩化ニッケル・6水和物の含有比率が多くなり、塩素イオン濃度が過剰になるため、内部応力が高く、格子歪みの大きく脆いニッケルめっき皮膜が得られる傾向が顕著になり好ましくない。一方、硫酸ニッケル・6水和物が480g/Lを超える場合には、溶液pHが6.5付近で、水酸化ニッケルが析出しやすくなるため、溶液安定性に欠けるようになり好ましくない。
【0036】
当該ワット浴系のニッケルめっき液において、塩化ニッケル・6水和物が15g/L未満の場合には、復極剤としての機能を発揮できず、めっき操作中に、陽極からガスが発生し、溶液pHの変動が顕著になるため好ましくない。一方、塩化ニッケル・6水和物が70g/Lを超える場合には、塩素イオン濃度が過剰になり、内部応力が高く、格子歪みの大きく脆いニッケルめっき皮膜が得られる傾向が大きくなり好ましくない。
【0037】
1−2−2.スルファミン酸浴系のニッケルめっき液
スルファミン酸浴系のニッケルめっき液は、スルファミン酸ニッケル・4水和物を200g/L〜600g/L、塩化ニッケル・6水和物を1g/L〜6g/L含有することが好ましい。この範囲内のスルファミン酸浴系のニッケルめっき液であれば、上述のワット浴系のニッケルめっき液と同様に、電流効率、皮膜の性状、長期保存に対する溶液安定性、スラッジが容易に発生しなくなる等の観点から好ましい。また、スルファミン酸ニッケル・4水和物と塩化ニッケル・6水和物との配合バランスに関して言えば、上記範囲であれば特段の問題はない。以下、スルファミン酸ニッケル・4水和物と塩化ニッケル・6水和物との含有量の限定を行った理由を示す。
【0038】
スルファミン酸浴系のニッケルめっき液において、スルファミン酸ニッケル・4水和物の含有量が200g/L未満の場合には、電流効率の低下が著しくなり、安定したニッケルめっき皮膜の形成が困難になるため好ましくない。一方、スルファミン酸ニッケル・4水和物が600g/Lを超えた場合でも、電流効率の向上、めっき操作の安定性向上等の効果が得られない。むしろ、めっき液の溶液粘度が上昇し、被めっき物に付着しためっき液の持ち出し量が増え、ニッケルめっき液中のニッケル量の管理が煩雑となり、排水処理の負荷が増大するため好ましくない。
【0039】
スルファミン酸浴系のニッケルめっき液において、塩化ニッケル・6水和物の含有量が1g/L未満の場合には、復極剤としての機能を発揮できず、めっき操作中に陽極からガスが発生し、溶液pHの変動が見られるようになるため好ましくない。一方、塩化ニッケル・6水和物が6g/Lを超えた場合には、塩素イオン濃度が過剰になり、内部応力が高く、格子歪みの大きく脆いニッケルめっき皮膜が得られる傾向が大きくなり好ましくない。
【0040】
1−2−3.ニッケルめっき液のその他の添加剤
一般的に、電解めっき法で得られるめっき皮膜は、その析出結晶の格子内に内部応力を備えている。本件発明に言うニッケルめっき液を用いて、所定の電解条件で得られるニッケルめっき皮膜に関しても、その析出結晶の内部には内部歪みが生じており、結果として内部応力が発生している。この内部応力は、めっき液の構成成分、液温、電解条件等の影響を受け、引張応力又は圧縮応力となる。しかし、被めっき物に対するニッケルめっき皮膜の密着性を良好なものとするという観点からは、このニッケルめっき皮膜は、応力フリー〜圧縮応力の範囲の内部応力を備えることが好ましい。
【0041】
即ち、ニッケルめっき液の場合、溶液pH及び塩素イオン濃度が高くなると、ニッケルめっき皮膜の内部応力が引張応力側にシフトする傾向がある。このような場合には、本件発明に係るニッケルめっき液に対して、応力調整剤を添加して用いることが好ましい。この応力調整剤は、陰極表面に吸着し、電解によって析出するニッケルめっき皮膜に包含されるといわれている。特に、ワット浴系ニッケルめっき液の場合には、ニッケルめっき皮膜の引張応力が大きくなる傾向を有すると言われている。よって、ワット浴系ニッケルめっき液に対して、応力調整剤を添加し、形成されるニッケルめっき皮膜の内部応力調整行い、ニッケルめっき皮膜と被めっき物との密着性の向上を図ることが好ましい。
【0042】
このような応力調整剤としては、o−スルホ安息香酸イミド、パラトルエンスルホアミド、ベンゼンスルホン酸やナフタレントリスルホン酸等の硫黄含有有機化合物を用いることができる。中でも、本件発明に係るニッケルめっき液の場合には、応力調整剤にo−スルホ安息香酸イミドを用いることが好ましい。o−スルホ安息香酸イミドは、上述した硫黄含有有機化合物の中では、ナトリウム塩として入手が容易で、水への溶解性も良好であり、最も応力調整効果が大きな化合物だからである。
【0043】
このときのo−スルホ安息香酸イミドは、ニッケルめっき液中で、0.1g/L〜5g/Lの濃度範囲となるように添加する。このo−スルホ安息香酸イミドの濃度が0.1g/L未満の場合には、陰極への吸着量が少なく、応力調整剤としての効果を発揮できなくなるため好ましくない。一方、o−スルホ安息香酸イミドの濃度が5g/Lを超える場合には、ニッケルめっき皮膜が内蔵する圧縮応力は、徐々に大きくなるが、ニッケルめっき皮膜と被めっき物との密着性を改善する効果は飽和して向上しなくなる。
【0044】
そして、本件発明に係るニッケルめっき液では、浴組成がニッケルめっき皮膜の応力に与える影響を考慮すると、「ワット浴系ニッケルめっき液」と、「スルファミン酸浴系のニッケルめっき液」とで、当該応力調整剤の適正な添加量の範囲が異なる。即ち、ワット浴系ニッケルめっき液の場合には、応力調整剤の濃度を1g/L〜5g/Lの範囲とすることが好ましい。スルファミン酸浴系ニッケルめっき液の場合には、応力調整剤の濃度を0.1g/L〜5g/Lとするのがより好ましい。
【0045】
本件発明に係るニッケルめっき形態: 本件発明に係るニッケルめっき方法では、上述したいずれかのニッケルめっき液を用い、液温を40℃〜60℃とし、陰極電流密度0.05A/dm〜10A/dmで電解して、被めっき物の表面にニッケルめっき皮膜を形成する。このニッケルめっき方法においては、スルファミン酸浴系ニッケルめっき液ではワット浴系ニッケルめっき液よりも高電流密度での電解が可能である。しかし、各ニッケルめっき液の特徴を十分に発揮させるためには、ワット浴系ニッケルめっき液では液温を40℃〜60℃として陰極電流密度0.05A/dm〜5A/dmで電解し、スルファミン酸浴系ニッケルめっき液では液温を40℃〜60℃として陰極電流密度0.05A/dm〜10A/dmで電解するのがより好ましい。
【0046】
2.本件発明に係るめっき製品の形態
本件発明に係るニッケルめっき液は、めっき対象となる被めっき物の種類を選ばない。よって、自動車部品に施される装飾用ニッケルめっき、プリント配線板の導体に抵抗回路を形成するためのニッケルめっき、電子部品であるチップ部品に施すニッケルめっき等の種々の電気ニッケルめっきの分野での使用が可能である。よって、本件発明に係るニッケルめっき製品とは、上述の本件発明に係るニッケルめっき液及びニッケルめっき方法を用いて、ニッケルめっき皮膜を形成した製品の全てを意味するものである。
【0047】
更に、本件発明に係るニッケルめっき液の場合、溶液pHが4.0〜6.5の中性領域にあるという特徴を備える。よって、被めっき物の表面の材質によらず、該表面に損傷を与えにくい。この点を考慮すると、本件発明に係るニッケルめっき液は、強酸性又は強アルカリ性のめっき液の場合、損傷を受けやすいセラミック材を含む電子部品への使用が好適である。即ち、電子部品の分野における強酸又は強アルカリの場合に損傷を受けやすいチップ部品にめっきを施した場合には、セラミックスやその保護コート層の損傷が少なく、導電性部分には良好なニッケルめっき皮膜の形成が可能になる。
【0048】
以下、上述の内容をより詳細に理解できるように、実施例と比較例とを示すが、実施例と比較例とを述べる前に、全てに共通する評価方法に関して述べておく。ニッケルめっき液の評価は、「電解前後の溶液pH変化」と、「電気めっきして得られるニッケルめっき皮膜の特性」とで評価することとした。具体的には、得られたニッケルめっき皮膜の応力、硬度、ピンホールと均一電着性を評価した。この時、皮膜応力は(株)山本鍍金試験器製のスパイラル応力計で測定し、皮膜硬度は(株)明石製作所製の微小硬度計(型式:MVK−E)で測定した。そして、ピンホールは、面積5cm×5cmサイズのニッケルめっき皮膜についてフェロキシル試験を行い、面積1cm×1cmに換算して評価し、均一電着性は、(株)山本鍍金試験器製のハーリングセルで評価した。更に、ニッケルめっき皮膜の表面を、走査型電子顕微鏡(以下、「SEM」と称する。)を用い、チルト角度0°、倍率10,000倍で観察した。
【実施例1】
【0049】
ニッケルめっき液の調製: 実施例1では、ワット浴系のニッケルめっき液(TW1浴)を調製した。このワット浴系のニッケルめっき液(TW1浴)は、ニッケル塩として、硫酸ニッケル・6水和物濃度が240g/L、塩化ニッケル・6水和物濃度が45g/L、pH緩衝剤としてのタウリン濃度が60g/Lとし、硫酸又は水酸化ナトリウム溶液を用いて溶液pHを4.50としたものである。従って、TW1浴は、応力調整剤を含まないワット浴系のニッケルめっき液である。TW1浴の組成を、他の実施例及び比較例で調製したニッケルめっき液の組成と併せて表1に示す。
【0050】
ニッケルめっき皮膜の作成と評価: TW1浴の液温を45℃とし、陽極に金属ニッケル板を、陰極には銅のハルセル板を用いて、陰極電流密度5A/cmで10分間電解し、厚さ2μmのニッケルめっき皮膜を形成した。10分間電解後のTW1浴の溶液pHは、4.52であった。また、得られたニッケルめっき皮膜の応力は119Pa、硬度はHv221、ピンホールは3.3個/cm、均一電着性は、1:3が3.5%、1:5が5.2%であった。電解後のTW1浴の溶液pHとニッケルめっき皮膜特性の評価結果を、実施例及び比較例と纏めて表2に示す。また、ニッケルめっき皮膜表面のSEM観察像を、比較例1で得られたニッケルめっき皮膜表面のSEM観察像と併せて図1(a)に示す。
【実施例2】
【0051】
ニッケルめっき液の調製: 実施例2では、実施例1で調製したTW1浴に対し、更に応力調整剤としてo−スルホ安息香酸イミドのナトリウム塩を1g/L含ませ、溶液pH4.50のワット浴系のニッケルめっき液(TW2浴)として調製した。TW2浴の組成を、他の実施例及び比較例で調製したニッケルめっき液の組成と併せて表1に示す。
【0052】
ニッケルめっき皮膜の作成と評価: TW2浴を用い、実施例1と同様にして電解し、厚さ2μmのニッケルめっき皮膜を形成した。10分間電解後のTW2浴の溶液pHは、4.53であった。また、得られたニッケルめっき皮膜の応力、硬度、ピンホールと均一電着性を実施例1と同様にして測定した。その結果、応力は−94Pa、硬度はHv451、ピンホールは1.9個/cm、均一電着性は、1:3が4.2%、1:5が5.5%であった。電解後のTW2浴の溶液pHとニッケルめっき皮膜特性の評価結果を纏めて表2に示す。更に、ニッケルめっき皮膜の表面を、実施例1と同様にして、SEMで観察した。このSEM観察像を、比較例2で得られたニッケルめっき皮膜表面のSEM観察像と併せて図2(a)に示す。
【実施例3】
【0053】
ニッケルめっき液の調製: 実施例3では、実施例2で調製したTW2浴で応力調整剤として用いたo−スルホ安息香酸イミドのナトリウム塩に替えてナフタレントリスルホン酸ナトリウムを含ませ、溶液pH4.50のワット浴系のニッケルめっき液(TW3浴)として調製した。TW3浴の組成を、他の実施例及び比較例で調製したニッケルめっき液の組成と併せて表1に示す。
【0054】
ニッケルめっき皮膜の作成と評価: TW3浴を用い、実施例1と同様にして電解し、厚さ2μmのニッケルめっき皮膜を形成した。10分間電解後のTW3浴の溶液pHは、4.53であった。また、得られたニッケルめっき皮膜の応力、硬度、ピンホールと均一電着性を実施例1と同様にして測定した。その結果、応力は111Pa、硬度はHv452、ピンホールは2.2個/cm、均一電着性は、1:3が4.6%、1:5が6.3%であった。電解後のTW3浴の溶液pHとニッケルめっき皮膜特性の評価結果を表2に示す。更に、ニッケルめっき皮膜の表面を、実施例1と同様にして、SEMで観察した。このSEM観察像を、比較例3で得られたニッケルめっき皮膜表面のSEM観察像と併せて図3(a)に示す。
【実施例4】
【0055】
ニッケルめっき液の調製: 実施例4では、ニッケル塩としてスルファミン酸ニッケル4水和物が450g/L、塩化ニッケル6水和物が3g/L、pH緩衝剤としてタウリンが60g/Lとし、溶液pH4.50のスルファミン酸浴系のニッケルめっき液(TS4浴)として調製した。従って、TS4浴は、応力調整剤を含まないスルファミン酸浴系のニッケルめっき液である。溶液pHは、スルファミン酸溶液又は水酸化ナトリウム溶液を用いて調整した。TS4浴の組成を、他の実施例及び比較例で調製したニッケルめっき液の組成と併せて表1に示す。
【0056】
ニッケルめっき皮膜の作成と評価: TS4浴を用い、実施例1と同様にして電解し、厚さ2μmのニッケルめっき皮膜を形成した。10分間電解後のTS4浴の溶液pHは、4.53であった。また、得られたニッケルめっき皮膜の応力、硬度、ピンホールと均一電着性を実施例1と同様にして測定した。その結果、応力は31.8Pa、硬度はHv228、ピンホールは1.1個/cm、均一電着性は、1:3が4.4%、1:5が7.1%であった。電解後のTS4浴の溶液pHとニッケルめっき皮膜特性の評価結果を表2に示す。更に、ニッケルめっき皮膜の表面を、実施例1と同様にして、SEMで観察した。このSEM観察像を、比較例4で得られたニッケルめっき皮膜表面のSEM観察像と併せて図4(a)に示す。
【0057】
浸食性の評価: TS4浴ではチップ部品の浸食性を評価した。評価対象には、チップ部品のバリスタと低温同時焼成セラミックス(以下、「LTCC」と称する。)を用い、TS4浴に浸漬することによって浸食した量で評価した。
【0058】
チップ部品の浸食量は、45℃のTS4浴に5時間浸漬した前後の質量変化で測定した。具体的には、攪拌している液量100mlのTS4浴中に、約10gを秤量済みのバリスタとLTCCを別々に5時間浸漬処理した。5時間経過後、それぞれのチップ部品の全量をTS4浴から引き上げて水洗し、ペーパータオルで水切り後、循環式オーブンを用い、60℃で30分間乾燥した。乾燥したチップ部品の質量を測定した結果、バリスタの質量減少率は0.9%、LTCCの質量減少率は0.1%以下であった。チップ部品の浸食量について、比較例4における評価結果と併せて表2に示す。
【実施例5】
【0059】
ニッケルめっき液の調製: 実施例5では、実施例4で調製したTS4浴に対し、更に応力調整剤としてo−スルホ安息香酸イミドのナトリウム塩を1g/L含む、溶液pH4.50のスルファミン酸浴系のニッケルめっき液(TS5浴)を調製した。TS5浴の組成を、他の実施例及び比較例で調製したニッケルめっき液の組成と併せて表1に示す。
【0060】
ニッケルめっき皮膜の作成と評価: TS5浴を用い、実施例1と同様にして電解し、厚さ2μmのニッケルめっき皮膜を形成した。10分間電解後のTS5浴の溶液pHは、4.53であった。また、得られたニッケルめっき皮膜の応力、硬度、ピンホールと均一電着性を実施例1と同様にして測定した。その結果、応力は124Pa、硬度はHv492、ピンホールは1.1個/cm、均一電着性は、1:3が2.8%、1:5が3.7%であった。電解後のTW5浴の溶液pHとニッケルめっき皮膜特性の評価結果を表2に示す。更に、ニッケルめっき皮膜の表面を、実施例1と同様にして、SEMで観察した。このSEM観察像を、比較例5で得られたニッケルめっき皮膜表面のSEM観察像と併せて図5(a)に示す。
【比較例】
【0061】
<比較例1>
ニッケルめっき液の調製: 比較例1では、実施例1で調製したTW1浴が含むpH緩衝剤としてのタウリン60g/Lに替えて、ホウ酸が30g/Lとし、溶液pH4.50のワット浴系のニッケルめっき液(CW1浴)を調製した。従って、CW1浴は、応力調整剤を含まない従来のワット浴系ニッケルめっき液である。CW1浴の組成を、実施例及び他の比較例で調製したニッケルめっき液の組成と併せて表1に示す。
【0062】
ニッケルめっき皮膜の作成と評価: CW1浴を用い、実施例1と同様にして電解し、厚さ2μmのニッケルめっき皮膜を形成した。10分間電解後のCW1浴の溶液pHは、4.57であった。また、得られたニッケルめっき皮膜の応力、硬度、ピンホールと均一電着性を実施例1と同様にして測定した。その結果、応力は114Pa、硬度はHv227、ピンホールは2.7個/cm、均一電着性は、1:3が4.1%、1:5が4.5%であった。電解後のCW1浴の溶液pHとニッケルめっき皮膜特性の評価結果を表2に示す。更に、ニッケルめっき皮膜の表面を、実施例1と同様にして、SEMで観察した。このSEM観察像を、実施例1で得られたニッケルめっき皮膜表面のSEM観察像と併せて図1(b)に示す。
【0063】
<比較例2>
ニッケルめっき液の調製: 比較例2では、比較例1で調製したCW1浴に対し、更に応力調整剤としてo−スルホ安息香酸イミドのナトリウム塩を1g/L含む、溶液pH4.50のワット浴系のニッケルめっき液(CW2浴)を調製した。CW2浴の組成を、実施例及び他の比較例で調製したニッケルめっき液の組成と併せて表1に示す。
【0064】
ニッケルめっき皮膜の作成と評価: CW2浴を用い、実施例1と同様にして電解し、厚さ2μmのニッケルめっき皮膜を形成した。10分間電解後のCW2浴の溶液pHは、4.55であった。また、得られたニッケルめっき皮膜の応力、硬度、ピンホールと均一電着性を実施例1と同様にして測定した。その結果、応力は−92Pa、硬度はHv453、ピンホールは2.4個/cm、均一電着性は、1:3が4.4%、1:5が7.1%であった。電解後のCW2浴の溶液pHとニッケルめっき皮膜特性の評価結果を表2に示す。更に、ニッケルめっき皮膜の表面を、実施例1と同様にして、SEMで観察した。このSEM観察像を、実施例2で得られたニッケルめっき皮膜表面のSEM観察像と併せて図2(b)に示す。
【0065】
<比較例3>
ニッケルめっき液の調製: 比較例3では、比較例2で調製したCW2浴のo−スルホ安息香酸イミドのナトリウム塩に替えてナフタレントリスルホン酸ナトリウムを1g/L含む、溶液pH4.50のワット浴系のニッケルめっき液(CW3浴)を調製した。CW3浴の組成を、実施例及び他の比較例で調製したニッケルめっき液の組成と併せて表1に示す。
【0066】
ニッケルめっき皮膜の作成と評価: CW3浴を用い、実施例1と同様にして電解し、厚さ2μmのニッケルめっき皮膜を形成した。10分間電解後のCW3浴の溶液pHは、4.55であった。また、得られたニッケルめっき皮膜の応力、硬度、ピンホールと均一電着性を実施例1と同様にして測定した。その結果、応力は110Pa、硬度はHv455、ピンホールは2.7個/cm、均一電着性は、1:3が3.8%、1:5が6.2%であった。電解後のCW3浴の溶液pHとニッケルめっき皮膜特性の評価結果を表2に示す。更に、ニッケルめっき皮膜の表面を、実施例1と同様にして、SEMで観察した。このSEM観察像を、実施例3で得られたニッケルめっき皮膜表面のSEM観察像と併せて図3(b)に示す。
【0067】
<比較例4>
ニッケルめっき液の調製: 比較例4では実施例4で調製したTW4浴が含むpH緩衝剤としてのタウリン60g/Lに替えて、ホウ酸が30g/Lとなるように、溶液pH4.50のスルファミン酸浴系のニッケルめっき液(CS4浴)を調製した。CS4浴の組成を、実施例及び他の比較例で調製したニッケルめっき液の組成と併せて表1に示す。
【0068】
ニッケルめっき皮膜の作成と評価: CS4浴を用い、実施例1と同様にして電解し、厚さ2μmのニッケルめっき皮膜を形成した。10分間電解後のCS4浴の溶液pHは、4.55であった。また、得られたニッケルめっき皮膜の応力、硬度、ピンホールと均一電着性を実施例1と同様にして測定した。その結果、応力は30.0Pa、硬度はHv210、ピンホールは1.3個/cm、均一電着性は、1:3が3.9%、1:5が7.2%であった。電解後のCW4浴の溶液pHとニッケルめっき皮膜特性の評価結果を表2に示す。更に、ニッケルめっき皮膜の表面を、実施例1と同様にして、SEMで観察した。このSEM観察像を、実施例4で得られたニッケルめっき皮膜表面のSEM観察像と併せて図4(b)に示す。
【0069】
浸食性の評価: 実施例4と同様にして、TS4浴によるチップ部品の浸食性を評価した。その結果、バリスタの質量減少率は6.6%、LTCCの質量減少率は0.2%であった。チップ部品の浸食量を、実施例4における評価結果と併せて表2に示す。
【0070】
<比較例5>
ニッケルめっき液の調製: 比較例5では実施例5で調製したTS5浴の組成が含むpH緩衝剤としてのタウリン60g/Lに替えて、ホウ酸が30g/Lとなるように、溶液pH4.50のスルファミン酸浴系のニッケルめっき液(CS5浴)を調製した。CS5浴の組成を、実施例及び他の比較例で調製したニッケルめっき液の組成と併せて表1に示す。
【0071】
【表1】

【0072】
ニッケルめっき皮膜の作成と評価: CS5浴を用い、実施例1と同様にして電解し、厚さ2μmのニッケルめっき皮膜を形成した。10分間電解後のCS5浴の溶液pHは、4.54であった。また、得られたニッケルめっき皮膜の応力、硬度、ピンホールと均一電着性を実施例1と同様にして測定した。その結果、応力は99.2Pa、硬度はHv432、ピンホールは0.9個/cm、均一電着性は、1:3が2.9%、1:5が3.2%であった。電解後のCW5浴の溶液pHとニッケルめっき皮膜特性の評価結果を表2に示す。更に、ニッケルめっき皮膜の表面を、実施例1と同様にして、SEMで観察した。このSEM観察像を、実施例5で得られたニッケルめっき皮膜表面のSEM観察像と併せて図5(b)に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
<実施例と比較例との対比1:電解前後の溶液pH変化>
表2に示すように、電解後のニッケルめっき液の溶液pHは、実施例では0.02〜0.03上昇し、比較例では0.04〜0.07上昇している。また、同様の浴組成間で溶液pHの上昇度合いを対比すると、実施例に対して比較例は、0.01〜0.05高くなっている。従って、アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体をpH緩衝剤として含むニッケルめっき液は、同一の電解条件を採用した場合、従来のニッケルめっき液を用いた場合と比べて溶液pH変化が小さくなる。即ち、アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体をpH緩衝剤として含むニッケルめっき液は、長期間に亘って安定したニッケルめっきが可能なニッケルめっき液であると判断できる。
【0075】
<実施例と比較例との対比2:皮膜特性>
まず、図1〜図5において、実施例で得られたニッケルめっき皮膜表面のSEM写真(a)と比較例で得られたニッケルめっき皮膜表面のSEM写真(b)とを対比する。図1〜図5を見ると、pH緩衝剤としてタウリンを用いた場合とホウ酸を用いた場合との間に大きな外観上の違いは見られない。また、表2に示すように、皮膜特性や均一電着性についても大きな違いは見られない。一方で、皮膜特性は、ワット浴系、スルファミン酸浴系のいずれにおいても応力調整剤の影響を大きく受けている。従って、pH緩衝剤として、アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体をホウ酸に替えて用いたとしても、従来のニッケルめっき液を用いた場合と同等の皮膜特性を有するニッケルめっき皮膜を得ることができると判断できる。
【0076】
<実施例と比較例との対比3:浸食性>
ニッケルめっき液のチップ部品に対する浸食性は、実施例4及び比較例4のスルファミン酸浴で比較している。しかし、pH緩衝剤としてホウ酸を含む比較例4ではバリスタが6.6%、LTCCが0.2%浸食されているのに対し、pH緩衝剤としてタウリンを含む実施例4の浸食量は、バリスタが0.9%、LTCCが0.1%以下である。従って、カルボン酸系の浸食力がホウ酸よりも強いことを考えると、アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体をpH緩衝剤として含む実施例のニッケルめっき液は、ホウ素フリーであると同時に、チップ部品の浸食防止に対しても大きな効果を発揮するニッケルめっき液であると判断できる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本件発明に係るニッケルめっき液は、水質汚濁防止法での規制物質を含まないものである。従って、環境負荷・排水負荷の極めて少ないめっき液である。しかも、本件発明に係るニッケルめっき液は、長時間安定してめっき液の溶液pHの変動を抑制することが可能であるため、長期間の使用が可能であり、コストパフォーマンスに優れるものである。
【0078】
このニッケルめっき液は、ニッケルめっきを必要とするあらゆる技術分野での使用が可能である。そして、本件発明に係るニッケルめっき液は、溶液pHが弱酸性から中性領域であるため、セラミックス部位を備えるチップ部品のニッケルめっき皮膜形成に用いても、チップ部品のセラミックス部位の浸食も抑制できる。
【0079】
また、本件発明に係るニッケルめっき方法は、従来からある既存の設備を用いて実施することの出来るものであり、新たな設備投資を要さないため、既存設備の有効利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケルイオンの供給源である1種以上のニッケル塩とpH緩衝剤とを含むニッケルめっき液であって、
当該pH緩衝剤がアミノアルカンスルホン酸又はその誘導体であり、且つ、溶液pHが4.0〜6.5であることを特徴とするニッケルめっき液。
【請求項2】
前記ニッケル塩が硫酸ニッケルと塩化ニッケルであり、当該ニッケル塩とアミノアルカンスルホン酸又はその誘導体の含有量が以下に示す範囲である請求項1に記載のニッケルめっき液。
硫酸ニッケル・6水和物 : 120g/L〜480g/L
塩化ニッケル・6水和物 : 15g/L〜70g/L
アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体 : 30g/L〜100g/L
【請求項3】
前記ニッケル塩がスルファミン酸ニッケルと塩化ニッケルであり、当該ニッケル塩とアミノアルカンスルホン酸又はその誘導体の含有量が以下に示す範囲である請求項1に記載のニッケルめっき液。
スルファミン酸ニッケル・4水和物 : 200g/L〜600g/L
塩化ニッケル・6水和物 : 1g/L〜6g/L
アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体 : 30g/L〜100g/L
【請求項4】
前記アミノアルカンスルホン酸又はその誘導体がタウリンである請求項1〜請求項3のいずれかに記載のニッケルめっき液。
【請求項5】
応力調整剤を含む請求項1〜請求項4のいずれかに記載のニッケルめっき液。
【請求項6】
前記応力調整剤がo−スルホ安息香酸イミドであり、当該o−スルホ安息香酸イミドの濃度が0.1g/L〜5g/Lである請求項5に記載のニッケルめっき液。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれかに記載のニッケルめっき液を用い、液温を40℃〜60℃とし、陰極電流密度0.05A/dm〜10A/dmで電解して、被めっき物の表面にニッケルめっき皮膜を形成することを特徴とするニッケルめっき方法。
【請求項8】
請求項7に記載のニッケルめっき方法を用いてニッケルめっき皮膜を形成したことを特徴とするめっき製品。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate