説明

ニッケルるつぼ

【課題】高純度の材料を、迅速にかつ正確に測定することが要求されている最近の分析技術に鑑み、純度の高いるつぼを使用してるつぼからの不純物の混入を抑制すると共に、高価なるつぼ材料である高純度ニッケルの耐久性を高め、ニッケルるつぼの使用回数を増加させることができる分析試料の融解用ニッケルるつぼを提供することを課題とする。
【解決手段】分析試料の前処理に用いる融解用ニッケルるつぼであって、ガス成分を除く純度が4N以上であり、かつガス成分である炭素が100質量ppm以下であることを特徴とする前記ニッケルるつぼ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、るつぼからの不純物の混入を抑制すると共に、るつぼの使用回数を増加させることができる分析試料の融解用ニッケルるつぼに関する。
【背景技術】
【0002】
最近、より高純度の材料を、迅速にかつ正確に測定することが要求されている。特に近年、難分解性の試料が増えてきているため、より酸化力の強い融解剤が求められている。
難分解性の試料は、一般にフラックスで試料を融解して作製する。フラックスによる融解は、通常炭酸塩(アルカリ)融解、水酸化アルカリ融解、過酸化ナトリウム融解、硫酸水素ナトリウム融解などの融解法などが使用される。しかし、酸化力の強い融解剤を使用すると、るつぼ自体が磨耗し易くなり、その結果、るつぼ中の不純物が溶出するという問題が生じていた。
すなわち、上記のような要求が増えるにしたがって、使用する器具からの汚染の影響により測定値に違いが出るという問題があり、信頼性確認のために再分析を行うということがしばしば行われている。
【0003】
上記のように、従来の試料融解用のニッケルるつぼは、純度99wt%(2N)レベルであるため、るつぼからの不純物混入により定量下限値が高くなり、最近の高純度試料の分析には適用できないと言う問題を生じている。しかしながら、従来は特にるつぼの純度に注意を払われておらず、測定の回数を増やしたり、前処理の工夫をする程度に終わっているのが現状であった。
このような高純度材料に対応する分析手段の特許文献は少ないが、それらの中で参考となる資料を紹介すると、例えば試料を定性、定量分析するための試料の調整方法に関するもので、試料を金属箔に載せて金属箔とともに加熱分解し、さらに溶液化するという技術がある(特許文献1参照)が、これは極めて特殊な手法であり、汎用性のあるものではない。
【0004】
また、アルカリ融剤を用いて鉱石の化学分析を行うるつぼが、PtにPdを5〜90wt%添加したPt合金又はPd合金からなる化学分析用るつぼ(特許文献2参照)が開示されている。しかし、これはいずれも高価なるつぼ材料を使用することが前提となっており、試料元素によっては合金生成が起こることから実用的でないという問題がある。
さらに、ニッケルるつぼ中で、ロジウム−ルテニウム合金めっき皮膜を過酸化ナトリウム又は過酸化カリウムで加熱融解し、皮膜中のロジウム量を分析する方法が開示されている(特許文献3参照)。しかし、この特許文献3では、るつぼの純度については、一切開示はない。したがって、従来レベルの純度(2Nレベル)のるつぼであることが強く推定される。そのため、不純物混入により定量下限値が高く、精度の高い分析は得られていない問題がある。
【非特許文献1】「ぶんせき」入門講座、1979年10月発行、「溶解に用いられる試薬」頁648〜655
【特許文献1】特開平10−38773号公報
【特許文献2】特開平2−172540号公報
【特許文献3】特開昭58−48854号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高純度の材料を、迅速にかつ正確に測定することが要求されている最近の分析技術に鑑み、純度の高いるつぼを使用してるつぼからの不純物の混入を抑制すると共に、高価なるつぼ材料である高純度ニッケルの耐久性を高め、ニッケルるつぼの使用回数を増加させることができる分析試料の融解用ニッケルるつぼを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題に鑑み、本発明は以下の発明を提供するものである。
1.分析試料の前処理に用いる融解用ニッケルるつぼであって、ガス成分を除く純度が4N(99.99%)以上であり、かつガス成分である炭素が100質量ppm以下であることを特徴とする前記ニッケルるつぼ。
2.炭素が50質量ppm以下である上記1記載のニッケルるつぼ。
3.炭素が10質量ppm以下である上記1記載のニッケルるつぼ。
4.るつぼ材料のニッケルの平均結晶粒径が0.1mm以上である上記1〜3のいずれかに記載のニッケルるつぼ。
5.るつぼ材料のニッケルの平均結晶粒径が1mm以上である上記1〜3のいずれかに記載のニッケルるつぼ。
6.るつぼ材料のニッケルの平均結晶粒径が10mm以上である上記1〜3のいずれかに記載のニッケルるつぼ。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、ガス成分を除く純度が4N以上であり、かつガス成分である炭素が100質量ppm以下であるニッケルるつぼを使用することによって、るつぼからの不純物の混入を抑制し、高純度の分析が可能となり、また作業時間の短縮化及び使用する試薬の量の軽減化となり、高純度の材料を迅速にかつ正確に測定することが要求されている最近の分析技術の要請に応えることができるという優れた効果を有する。さらに、るつぼ材料である高純度ニッケルの耐久性を高め、ニッケルるつぼの使用回数を増加させることができるという著しい効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に用いる分析試料の前処理に用いる融解用ニッケルるつぼとして、ガス成分を除く純度が4N以上のニッケルるつぼを使用する。分析の一般的な手順は、次の通りである。この分析手順の概要を図1に示す。
(1)試料をニッケルるつぼに入れる。
(2)るつぼにアルカリ融剤等の融剤を加える。
(3)バーナー又はマッフル炉でるつぼを加熱し前記融剤及び試料を融解させる。
(4)試料をPTFE製等のビーカーに移す。
(5)酸等を添加する。
(6)ビーカーを加熱し、溶解する。
(7)メスフラスコに移す。
(8)水を加え、液量を所定の値にする。
(9)これをICP−AES等による測定を行う。
【0009】
高精度分析を可能とするためには、るつぼからのコンタミネーション(汚染)を低減することが必要であり、例えば6N以上の高純度るつぼであれば確かに分析精度への問題は少ない。高純度Niるつぼについては、先に特許出願(特願2006−044717号参照)を行った。
ところが、たとえば高純度Niるつぼにおいても使用後のるつぼ重量減少にバラツキがあり、且つ減少量が大きい場合があることが分かった。この重量減少が大きくバラツクと測定精度に影響を与えると考えられるばかりでなく、重量減少が大きいことによって、るつぼ自体が脆くなるという問題を生じ、さらに使用回数が著しく減少するという問題が生じることが分かってきた。
【0010】
この原因を調査したところ、特にガス成分としてニッケル(Ni)中に固溶する炭素(C)により生じることが判明した。CはNiるつぼを作製する工程において、高温ではNi中にある程度固溶するが室温では特に粒界に析出すると考えられる。
特に、不純物が多い(純度の低い)Niるつぼでは、るつぼ中の不純物とCとが化合物を形成し、るつぼを使用して試料を融解する過程で、この化合物(不純物)がエッチピットのように作用して溶出し、それがるつぼの重量減少となっていると考えられる。
【0011】
しかも、不純物が少ない(高純度の)Niるつぼであっても、Cが多い場合は、同様に重量減少が大きくなることも分かった。ニッケルるつぼの高純度化は当然望まれることではあるが、この炭素量の制限が非常に重要であることが分かった。この炭素量を制限することにより、4Nレベルのるつぼでも、分析精度を向上させ、さらにるつぼの耐用回数を増加させることができるということが分かった。
【0012】
このような知見において、さらに他の要因として結晶粒界が多すぎる場合には、粒界腐食が多くなり、影響を与えることも分かった。これを低減するには結晶粒径が大きい方が良く、微細になるほど不純物が、結晶粒界に析出し易くなって、るつぼの脆化の原因になるためである。したがって、結晶粒は小さ過ぎないようにすることも大きな意味がある。
【0013】
以上のように、重量減少をもたらす要因としては、純度、C含有量、結晶粒径がある。第一義的には、ニッケルるつぼの純度と、ガス成分であるC量の制限であり、Niるつぼの純度として、ガス成分を除き4N以上であること、さらにCを100質量ppm以下、好ましくは50質量ppm以下、さらに好ましくはで10質量ppm以下とすることである。
これによってニッケルるつぼの重量減少が少なく、脆くなることを効果的に抑制できる。なお、ニッケルるつぼ材料に混入する、その他のガス成分として、酸素、窒素などがあるが、それらは重量減少には影響を及ぼさないことが分かった。
【0014】
さらに第二義的なものとして、好ましくは、結晶粒を制御することである。また、結晶粒径は0.1mm以上、好ましくは1mm以上、より好ましくは10mm以上とするのが良い。この場合、C量が高くなるにつれて、結晶粒径を大きくすることが困難になることも分かった。
この微細な結晶粒は、炭素量ほどの悪影響をるつぼに与えるものではないが、この結晶粒径の調整を前記炭素量の制限と併用することにより、さらにるつぼの脆化を抑制し、分析用のるつぼの使用回数を増加させることが可能となる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例及び比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例のみに制限されるものではない。すなわち、本発明に含まれる他の態様または変形を包含するものである。
【0016】
(実施例1)
99.995%の純度、ガス性分であるC含有量:20質量ppmの高純度ニッケルルツボを用いて、SnO中の不純物Zr,Si,Fe,Alなどの定量を行った。試料であるSnOを0.5gとり、これを上記高純度ニッケルるつぼに入れ3gの過酸化ナトリウムの融剤を使用し、これをバーナーで加熱し、試料を溶解した。
この操作を行なうことにより、ルツボの重量が約1%減少した。粒界の腐食もなく、この結果、分析用ルツボとして、10回以上の使用が可能であった。
使用後のルツボ中の酸素含有量、窒素含有量が使用前は、それぞれ30質量ppmと<10質量ppmであったが、使用後も変化が見られなかった。なお、この場合の平均結晶粒径は約10mmであった。この実施例1に示すニッケルるつぼは、本願発明の標準的なるつぼである。
【0017】
(実施例2−実施例3)
次に、(実施例2)純度99.999%であり、ガス性分であるC含有量:20質量ppmのニッケルるつぼを使用、(実施例3)純度99.9999%であり、ガス性分であるC含有量:20質量ppm(実施例3)のニッケルるつぼを使用して、実施例1と同一の条件で、試料を溶解した。
この結果、前者(実施例2)は、ルツボの重量が約0.4%減少したが、粒界の腐食もなく、この分析用に15回以上の使用可能であった。また、後者(実施例3)は、ルツボの重量が約0.2%減少したが、粒界の腐食もなく、この分析用に20回以上使用可能であった。なお、この場合の平均結晶粒径は約10mmであった。
【0018】
(比較例1)
純度99.9%、ガス性分であるC含有量20ppmのニッケルるつぼを用いて実施例1と同様の操作を行なった。その結果、ルツボの重量減少率が約3%であった。また、この3Nレベルの純度のニッケルるつぼを使用した場合では、純度が低いので、ニッケルるつぼからAl,Si,Feなどが溶出する現象が見られた。
しかし、分析の使用回数は約4回程度と、予定した10回の使用回数は不能であった。また、若干であるが粒界が腐食され、ルツボが脆くなっていた。なお、この場合の平均結晶粒径は約10mmであった。
【0019】
(実施例4−実施例8)
次に、実施例1と同等の99.995%の純度の高純度ニッケルルツボを用い、ガス性分であるC含有量を100質量ppm、80質量ppm、50質量ppm、30質量ppm、10質量ppm以下に、それぞれ変化させた場合のニッケルるつぼを用いて、実施例1と同様に、試料を0.5gとり、これを上記高純度ニッケルるつぼに入れ3gの過酸化ナトリウムの融剤を使用し、これをバーナーで加熱し、試料を溶解した。
この操作を行なうことにより、ルツボの重量が、それぞれ約0.5〜2.0%減少した。粒界の腐食もなく、この分析用に、7回以上の使用が可能であった。なお、この場合の平均結晶粒径は約5〜10mmであった。
【0020】
(比較例2−4)
次に、実施例1と同等の99.995%の純度の高純度ニッケルルツボを用い、ガス性分であるC含有量を約200質量ppm、約300質量ppm、約500質量ppm、と変化させた場合のニッケルるつぼを用いて、実施例1と同様の条件で、試料を溶解した。これによって、ルツボの重量が、それぞれ約4%以上減少した。粒界の腐食があり、この分析の回数は5以下となり、使用回数が減少した。なお、この場合の平均結晶粒径は約10mmであった。
【0021】
(比較例5)
純度99.9%、ガス成分であるC含有量が約300質量ppm のニッケルルツボを用いて実施例1と同様の操作を行なった。その結果、1回の分析後のルツボの重量減少率が約8%であった。また、特に粒界が特に腐食され、ルツボが非常に脆くなり粒界割れが生じていたため、1回しか使用できなかった。
このように、るつぼ材料の純度が低く、C含有量も多いものは、るつぼとして適していなかった。なお、この場合の平均結晶粒径は約10mmであった。また、この3Nレベルの純度のニッケルるつぼを使用した場合では、純度が低いので、ニッケルるつぼからAl,Si,Feなどが溶出する現象が見られた。
【0022】
(実施例9−実施例14)
次に、本願発明の標準的な実施例である実施例1と同等の純度(99.995%)及びガス成分であるC量(20質量ppm)を持つニッケルるつぼにおいて、結晶粒径を変化させた場合について、るつぼの状況を調べた。
実施例9は平均結晶粒径が約0.1mm、実施例10は平均結晶粒径が約0.5mm、実施例11は平均結晶粒径が約2mm、実施例12は平均結晶粒径が約7mm、実施例13は平均結晶粒径が約10mm、実施例14は平均結晶粒径が約30mmのものである。
実施例1と同様に、試料を0.5gとり、これをニッケルるつぼに入れ3gの過酸化ナトリウムの融剤を使用し、これをバーナーで加熱し、試料を溶解した。
この操作を行なうことにより、ルツボの重量は、それぞれ約0.5〜1.5%減少した。平均結晶粒が0.1mmのものは、粒界腐食が若干見られたが、他の実施例では粒界の腐食もなく、この分析用るつぼとして、10回以上の使用が可能であった。
【0023】
(比較例6)
実施例1と同等の純度(99.995%)をもつニッケルるつぼの平均結晶粒径を0.01mmとしたニッケルルツボを用いて実施例1と同様の操作を行なった。この場合、平均結晶粒径が小さいので、ガス成分であるC含有量が300質量ppmと増加した。
その結果、1回の分析後のルツボの重量減少率が約6%となった。また、特に粒界が特に腐食され、ルツボが非常に脆くなり粒界割れが生じていたため、1回しか使用できなかった。
このように、平均結晶粒径が細か過ぎるのは、必然的にC含有量も多くなり、るつぼとして適していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、ガス成分を除く純度が4N以上であり、かつガス成分である炭素が100質量ppm以下であるニッケルるつぼを使用することによって、るつぼからの不純物の混入を抑制し、高純度の分析が可能となり、また作業時間の短縮化及び使用する試薬の量の軽減化となり、高純度の材料を迅速にかつ正確に測定することが要求されている最近の分析技術の要請に応えることができるという優れた効果を有する。さらに、るつぼ材料である高純度ニッケルの耐久性を高め、ニッケルるつぼの使用回数を増加させることができるという著しい効果を有する。
これによって、るつぼからの不純物の混入を抑制し、高純度の分析が可能となり、さらに作業時間の短縮化及び使用する試薬の量の軽減化となり、高純度の材料を迅速にかつ正確に測定するという最近の分析技術の要請に応えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】分析の工程を説明する概略説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分析試料の前処理に用いる融解用ニッケルるつぼであって、ガス成分を除く純度が4N以上であり、かつガス成分である炭素が100質量ppm以下であることを特徴とする前記ニッケルるつぼ。
【請求項2】
炭素が50質量ppm以下である請求項1記載のニッケルるつぼ。
【請求項3】
炭素が10質量ppm以下である請求項1記載のニッケルるつぼ。
【請求項4】
るつぼ材料のニッケルの平均結晶粒径が0.1mm以上である請求項1〜3のいずれかに記載のニッケルるつぼ。
【請求項5】
るつぼ材料のニッケルの平均結晶粒径が1mm以上である請求項1〜3のいずれかに記載のニッケルるつぼ。
【請求項6】
るつぼ材料のニッケルの平均結晶粒径が10mm以上である請求項1〜3のいずれかに記載のニッケルるつぼ。

【図1】
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