説明

ニッケル合金粉末の製造方法

【課題】合金組成が高度に制御され、粒径が0.1μm未満であり、空気中での取り扱いが容易で、分散性が高く、さらには、MLCCとした際、デラミネーション発生がしにくいニッケル合金粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】塩化ニッケルガスと、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタルから選ばれる少なくとも一種類の金属塩化物ガスとの混合ガスを、980℃以上1150℃以下で気相水素還元することにより、平均粒径が10nm以上100nm未満のニッケル合金粉末を得ることを特徴とするニッケル合金粉末の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平均粒径が100nm未満の金属粉末の製造方法に関する。特に、積層セラミックスコンデンサ(以下、MLCC:Multilayer Ceramic Capacitor)の内部電極用材料、電子機器部品の導電ペースト用のフィラー、磁気記録媒体用粉末、粉末冶金用粉末として適用可能なニッケル合金粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銀、パラジウム、白金または金などの貴金属粉末、あるいはニッケル、コバルト、鉄、モリブデン、またはタングステンなどの卑金属粉末は、電子材料用の導電ペーストとして、特に積層セラミックコンデンサの内部電極用として用いられている。一般に、積層セラミックコンデンサは、誘電体セラミック層と内部電極として使用される金属層とを交互に積層し、誘電体セラミック層の両端に、内部電極の金属層に接続される外部電極が接続された構成となっている。ここで、誘電体層として使用されるセラミックとしては、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、酸化イットリウムなどの誘電率の高い材料を主成分とするものが用いられている。
【0003】
一方、内部電極を構成する金属としては、前述の貴金属粉末あるいは卑金属粉末が使用されるが、最近はより安価な電子材料が要求されるため、卑金属を利用した積層セラミックコンデンサの開発が盛んに行われており、特にニッケル粉末が代表的なものである。
上記積層セラミックコンデンサの製造工程においては、誘電体グリーンシートに金属ペーストを印刷し、積層および圧着を行った後、加熱処理にて有機成分を蒸発除去するが、この加熱処理は通常大気中で250〜400℃で行われる。このように、酸化雰囲気中で加熱処理が行われると、金属粉末は酸化し、それにより金属粉末の体積が膨張する。また、上記加熱処理による有機成分蒸発除去は還元雰囲気中で行われる場合もあり、この場合は、金属粉末は還元されて収縮する。さらにこの有機成分除去のための加熱処理の後、さらに高温に加熱し焼結するが、この焼結は水素ガス雰囲気等の還元性雰囲気で行う。これにより、金属粉末は体積の収縮が起きる。
【0004】
このように、積層セラミックコンデンサを製造する工程においては、酸化還元反応により金属粉末に膨張・収縮が起こって体積変化が生じる。一方、誘電体自身も焼結により体積変化が生じるが、誘電体と金属粉末という異なった物質を同時に焼結するため、焼結過程でのそれぞれの物質の膨張・収縮の体積変化などの焼結挙動が異なる。このため、金属ペースト層に歪みが生じ、結果としてクラックまたは剥離などデラミネーションといわれる層状構造の破壊が起きるという問題があった。
【0005】
具体的には、例えばチタン酸バリウムを主成分とする誘電体は、1000℃以上、通常1200〜1300℃で焼結が始まるのに対し、内部電極に用いられる金属粉末の焼結は、それよりも低い温度、例えばニッケル粉末の場合、通常400〜500℃で焼結が始まる。このような焼結挙動(焼結開始温度)の違いがデラミネーション発生の一つの大きな要因となっている。
【0006】
積層セラミックスコンデンサは、電子機器の高性能化、小型化、大容量化、高周波化に伴い、小型化、多層化、薄層化が急激に進んでいる。この動向に伴い、積層セラミックスコンデンサの内部電極の厚みも薄層化が進み、例えば、1μmを切る厚さまで進んでいる。その結果、金属粉末ペースト用のニッケル粉末の粒径の要求は、より細かくなり、0.4μm以下、さらには0.2μm以下、0.1μmとなりつつある。しかしながら、金属粉末の粒径が細かくなると、以下の問題が発生する。
(1)粉末表面の活性が向上する。このため、粒径が細かくなると空気中の酸素と反応しやすくなり、ハンドリング等に問題が生じる。また、凝集も発生しやすくなり、ペーストとする際の分散性が悪くなる。
(2)気相還元法で作製する際、粒子同士の連結が発生しやすくなる。
(3)焼結性が良くなる。従って、焼結開始温度がより低くなり、MLCCとした際、デラミネーション発生がしやすくなる。
【0007】
焼結開始温度を上昇させる一つの手段として、ニッケルと異種元素との合金化が知られており、Ni:70〜99.9質量%及びV,Cr,Zr,Nb,Mo,Ta,Wから成る群から選ばれた1又は2以上の元素0.1〜30質量%から成り、平均粒径が0.1〜1μmであることを特徴とする導電ペースト用Ni合金粉が開示されている(例えば、特許文献1参照)。また、塩化タングステンガスと塩化ニッケルガスとの混合ガスを気相水素還元することによって得られ、平均粒径が50乃至150nm、タングステン濃度が0.3乃至25質量%のNi−W固溶体粉末であることを特徴とする金属粉末が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0008】
特許文献2に記載の製造方法は、塩化ニッケルと塩化タングステン原料を別々の容器で加熱により気化させ、これらの混合ガスをキャリアガスにより還元性雰囲気に供給して気相水素還元することによりNi−W固溶体粉末を製造することを特徴とするものである(特許文献1、段落0012参照)。ガスの組成は、塩化ニッケルと塩化タングステン原の加熱温度を調整することにより制御する(同、段落0018参照)。しかしながら、この方法は、キャリアガスを用いるため反応量に限界がある。また、塩化タングステンまたは塩化ニッケルとキャリアガスとの混合ガスを用いるため、ニッケルとタングステンの組成の制御が行いにくいという欠点がある。
【特許文献1】特開2002−60877公報(請求項1)
【特許文献2】特開2005−281712公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、粒径が0.1μm未満であり、空気中での取り扱いが容易で、分散性の高いニッケル合金粉の製造方法を提供することにある。さらには、MLCCとした際、デラミネーション発生がしにくい、ニッケル合金粉末の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、塩化ニッケルガスと、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタルから選ばれる少なくとも一種類の金属塩化物ガスとの混合ガスを、980℃以上1150℃以下で気相水素還元により、平均粒径が10nm以上100nm未満のニッケル合金粉末を得ることを特徴とするニッケル合金粉末の製造方法である。
【0011】
また、本発明は、金属ニッケルと塩素ガスを接触させて得られた塩化ニッケルガスと、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタルから選ばれる少なくとも一種類の金属と塩素ガスを接触させて得られた金属塩化物ガスとの混合ガスを気相水素還元することを特徴とするニッケル合金粉末の製造方法である。
【0012】
本発明のニッケル合金粉末の製造方法においては、塩素流量によって合金粉末の粒径を制御できるのみならず、原料として、金属ニッケルおよびタングステン、モリブデン、ニオブ、タンタルから選ばれる少なくとも一種類の金属を用いるため、塩素流量の制御により合金組成が制御でき、従来の方法と比較し、精密な合金組成制御が可能である。
【0013】
また、本発明のニッケル合金粉末の製造方法は、積層セラミックスコンデンサの内部電極用であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法によれば、空気中での取り扱いが容易で、分散性の高い0.1μm未満の粒径のニッケル合金粉を提供することができる。さらには、MLCCとした際、デラミネーション発生がしにくい、ニッケル合金粉末を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
まず、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。図1は、本発明のニッケル合金粉末の製造装置を示す。図1において、符号1Aは金属ニッケルの塩化炉である。塩化炉1Aには、原料となるニッケルM1が保持されており、塩化炉1Aの上部には、塩素ガス供給ノズル12Aおよび窒素ガス供給ノズル13Aが設けられている。また、塩化炉1Aの周囲には、加熱手段11Aが設けられている。
【0016】
符号1Bは、ニッケルとともに合金をなす合金成分金属の塩化炉である。塩化炉1Aと同様に、塩化炉1Bには、原料となる合金成分の金属M2が保持されており、塩化炉1Bの上部には、塩素ガス供給ノズル12Bおよび窒素ガス供給ノズル13Bが設けられている。また、塩化炉1Bの周囲には、加熱手段11Bが設けられている。
【0017】
塩化炉1Aおよび1Bの底部にはそれぞれノズルが設けられており、これらノズルは塩化炉の下流で合流して、塩化物移送ノズル22を構成し、還元炉2の頂部に接続されている。還元炉2の上部には水素ガス供給ノズル23が、下部には窒素ガス供給ノズル24が設けられている。また、還元炉2の周囲には加熱手段21が設けられている。
【0018】
次に、この装置の動作を説明する。加熱手段11Aによって加熱を開始するとともに、塩素ガス供給ノズル12Aより塩素ガスを供給すると、塩化炉1A内でニッケルM1の塩化反応が生じる。この反応の結果生じた塩化ニッケルは気体状態に保たれ、窒素ガス供給ノズル13Aから供給される窒素ガスと混合される。
【0019】
上記塩化反応と同時に、加熱手段11Bによって加熱を開始するとともに、塩素ガス供給ノズル12Bより塩素ガスを供給すると、塩化炉1B内で合金成分の金属M2の塩化反応が生じる。この反応の結果生じた金属の塩化物は気体状態に保たれ、窒素ガス供給ノズル13Bから供給される窒素ガスと混合される。
【0020】
上記両塩素炉における塩化反応によって生じた塩化ニッケルガスおよび金属塩化物ガスは、塩化物移送ノズル22において混合され、下流側の還元炉2に供給される。ここでは、水素ガス供給ノズル23によって水素ガスが供給され、塩化ニッケルガスおよび金属塩化物ガスは還元され、ニッケルおよび合金成分金属の両者が化合した合金からなる粉末Pが生じる。ニッケル合金粉末Pは、窒素ガス供給ノズル24から供給される窒素ガス24によって冷却され、図示しない次工程に移送されて洗浄・回収される。
【0021】
上述した気相還元法においては、気化させた塩化ニッケルと金属塩化物の混合ガスと水素等の還元性ガスとを反応させる。気相還元反応によるニッケル粉末の製造過程では、塩化ニッケルと金属塩化物の混合ガスと還元性ガスとが接触した瞬間に各金属原子が生成し、金属原子同士が衝突・凝集することによって超微粒子が生成し、成長してゆく。そして、還元工程での塩化ニッケルガス、金属塩化物ガスの分圧や温度等の条件によって、生成されるニッケル合金粉末の粒径、組成が決まる。上記のようなニッケル合金粉末の製造方法によれば、塩素ガスの供給量に応じた量の塩化ニッケルガス、金属塩化物ガスが発生するから、塩素ガスの供給量を制御することで還元工程へ供給する塩化ニッケルガス、金属塩化物ガスの量を調整することができ、これによって生成するニッケル粉末の粒径、組成を制御することができる。さらに、塩化ニッケルガス、金属塩化物ガスは、塩素ガスと金属との反応で発生するから、固体金属塩化物の加熱蒸発により金属塩化物ガスを発生させる方法と異なり、キャリアガスの使用を少なくすることができるばかりでなく、製造条件によっては使用しないことも可能である。また、加熱温度に応じた価数の塩化物を生成させることができる。したがって、気相還元反応の方が、キャリアガスの使用量低減とそれに伴う加熱エネルギーの低減により、製造コストの低減を図ることができ、また合金の厳密な組成の制御が可能となる。
【0022】
また、塩化工程で発生した塩化ニッケルガス、金属塩化物ガスに不活性ガスを混合することにより、還元工程における塩化ニッケルガス、金属塩化物ガスの分圧を制御することができる。このように、塩素ガスの供給量もしくは還元工程に供給する塩化ニッケルガス、金属塩化物ガスの分圧を制御することにより、ニッケル合金粉末の粒径、合金組成を制御することができ、よって、ニッケル合金粉末の粒径を安定させることができるとともに、粒径を任意に設定することができる。
【0023】
気相還元法によるニッケル合金粉末の製造条件は、平均粒径10nm以上100nm未満になるように適宜設定される。この場合、例えば、出発原料である金属ニッケルM1、金属M2(タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタル)の粒径は約5〜20mmの粒状、塊状、板状等が好ましく、また、その純度は、慨して99.5%以上が好ましい。この各金属を、まず塩素ガスと反応させて金属塩化物ガスを生成させる。その際の温度は、ニッケルの場合、反応を十分進めるために800℃以上とし、かつニッケルの融点である1453℃以下とする。反応速度と塩化炉の耐久性を考慮すると、実用的には900℃〜1100℃の範囲が好ましい。タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタルの場合、塩素ガスとの反応で塩化物を生成する1200℃以下とする。ニッケルの場合と同じ温度とすれば、加熱炉を一体化でき、好ましい。
【0024】
次いで、この塩化ニッケルガスと金属塩化物ガス(タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタル)を還元工程に直接供給し、水素ガス等の還元性ガスと接触させ、同時に反応させる。この場合、窒素やアルゴン等の不活性ガスを塩化ニッケルガス、金属塩化物ガスに対し、1〜40モル%混合し、この混合ガスを還元工程に導入してもよい。不活性ガスを導入することで、単位時間の反応量は減少するが、安定して、連結粒の少ない100nm未満の合金粉をえることができる。また、塩化ニッケルガス、金属塩化物ガスと共にまたは独立に塩素ガスを還元工程に供給することもできる。このように塩素ガスを還元工程に供給することによって、塩化ニッケルガス、金属塩化物ガスの分圧が調整でき、生成するニッケル合金粉末の粒径を制御することが可能となる。
【0025】
還元反応の温度は、反応完結に十分な温度以上であればよい。また、粒径を100nm以下とするために、1150℃以下、好ましくは1100℃以下とする。ただし、固体状の粉末を生成する方が、取扱いが容易であるので、目的のニッケル合金の融点以下が好ましい。一方、温度が低すぎると、塩化ニッケルが析出するため、980℃以上とする。
【0026】
このように還元反応を行ってニッケル粉末を生成した後、生成ニッケル合金粉末を冷却する。冷却に際しては、還元反応を終えた1000℃付近のガス流に窒素ガス等の不活性ガスを吹き込むことにより、400〜800℃程度まで急速冷却することが望ましく、これにより、生成したニッケル合金の一次粒子同士の凝集による二次粒子の生成を防止して所望の粒径のニッケル合金粉末を得ることができる。その後、生成したニッケル粉末を、例えばバグフィルター等により分離、回収する。
【0027】
このようにして得られたニッケル合金粉末は、平均粒径10nm以上100nm未満と微粉であるにも係わらず、空気中でも安定であり、分散性も良好である。また、連結粒が少ない特徴を有している。
【0028】
また、得られたニッケル合金粉は、MLCCの内部電極用などに用いられる。従来と同様に、誘電体粉末のセラミックスグリーンシートの上に、内部電極用のペースト状のNi合金粉末を印刷し、それらを積層して圧着した後、焼結する。ペースト時の分散性が良好な粉末が得られる。
【0029】
本実施形態においては、NiにNiよりも融点が高い金属を添加し、その固溶体の融点をNiよりも融点が高い固溶体とすることにより、得られた金属粉末の焼結開始温度はニッケル単独の場合よりも上昇する。このため、金属微粉が100nm未満の微粉末であっても、誘電体セラミックス(BaTiO)との間の焼結開始温度の差が小さくなり、デラミネーション及びクラックの発生を抑制して信頼性の高い積層体を得ることができる。
また、本発明の製造方法によるニッケル合金粉末は、これを内部電極に用いた積層セラミックコンデンサの製造工程において、有機成分を除去するために酸化性雰囲気で加熱処理した際の重量変化が少ない。また、還元性雰囲気で加熱処理した際には、還元開始温度がより高温であり、加熱処理中における急激な重量減少が生じ難い、等の耐還元性に優れるものである。
【0030】
Ni合金粉末における合金濃度は、タングステンの場合は不可避的に含まれる量以上、モリブデンの場合55質量%以上、ニオブの場合70質量%以上、タンタルの場合45質量%以上55質量%以下または70質量%以上である。前記の範囲から外れると、焼結開始温度の高温側へのシフトが不十分となる。金属粉末の平均粒径は10nm以上100nm未満である。平均粒径が100nm以上であると、各層をさらに薄層化して積層数の多いMLCCを製造する際の内部電極用材料として使用することが困難となる。
【実施例】
【0031】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これは単に例示であって、本発明を制限するものではない。本明細書において、ニッケル粉末の平均粒径、還元挙動および焼結挙動は下記の方法で調べた。
【0032】
a.平均粒径
電子顕微鏡によりニッケル合金粉末の写真を撮影し、その写真から粒子200個の粒径を測定してその平均値を算出した。
【0033】
b.粒子形状(連結粒の割合)
電子顕微鏡によりニッケル合金粉末の写真を撮影し、その写真から粒子200個の形状を観察して、連結粒の割合(%)を算出した。
【0034】
c.X線回折
X線回折パターンにて、合金となっているか確認を行った。なお、X線回折測定条件は下記の通りである。
(X線回折測定条件)
回折装置 RAD−1C(株式会社リガク製)
X線管球 Cu
管電圧・管電流 40kV、30mA
スリット DS−SS:1度、RS:0.15mm
モノクロメータ グラファイト
測定間隔 0.002度
計数方法 定時計数法
【0035】
d.組成分析
合金元素の金属元素の分析は高周波誘導プラズマ(ICP)発光分光法にて行った。
【0036】
e.焼結挙動
ニッケル粉末1g、樟脳3重量%およびアセトン3重量%を混合し、この混合物を、内径5mm、高さ10mmの円柱状金属に充填し、面圧0.17トンの荷重をかけて試験ピースを作製した。この試験ピースの焼結開始温度を、熱膨張収縮挙動測定装置(TMA−8310:株式会社リガク社製)を用いて、弱還元性雰囲気(2%水素−98%窒素混合ガス)の下、昇温速度5℃/分の条件で測定した。
【0037】
[実施例1]
タングステン−ニッケル合金粉末の調製
図1に示すニッケル合金粉末製造装置の塩化炉1A内に、出発原料である平均粒径5mmの金属ニッケルショットM1を充填するとともに、加熱手段11Aで炉内雰囲気温度を1100℃とした。次いで、ノズル12Aから塩化炉1A内に塩素ガスを流速0.85Nl/分にて供給し、金属ニッケルショットM1を塩化して塩化ニッケルガスを発生させ、この後、ノズル13Aから供給した窒素ガスを塩化ニッケルガスに混合した。一方、塩化炉1B内に、出発原料である平均粒径5mmのタングステンショットM2を充填するとともに、加熱手段11Bで炉内雰囲気温度を1100℃とした。次いで、ノズル12Bから塩化炉1B内に塩素ガスを流速0.3Nl/分にて供給し、タングステンショットM2を塩化して塩化タングステンガスを発生させ、この後、ノズル13Bから供給した窒素ガスを塩化タングステンガスに混合した。塩素ガス量は、塩化ニッケルに対し20wt%の塩化タングステンが得られる量である。
【0038】
そして、塩化ニッケルガスと窒素ガスとの混合ガスと、塩化タングステンガスと窒素ガスとの混合ガスを還元炉2の直前で混合し、加熱手段21で1100℃の炉内雰囲気温度とした還元炉2内に、ノズル22から流速40m/秒(1100℃換算)で導入した。これと同時に、ノズル23から還元炉20内に水素ガスを流速20Nl/分で供給して塩化ニッケルガスと塩化タングステンガスとの混合ガスを還元し、ニッケル合金粉末Pを得た。
【0039】
さらに、還元工程にて生成したニッケル合金粉末Pに、ノズル24から供給した窒素ガスを接触させ、ニッケル合金粉末Pを冷却した。この後、ニッケル合金粉末Pを分離回収して湯洗洗浄した。その後、気流乾燥機で乾燥処理し、乾燥ニッケル合金粉末を得た。
【0040】
得られた乾燥ニッケル合金粉末は、XRDにて、ニッケル、タングステンのピークは観察されず、合金となっていることを確認した。粒径、合金組成、焼結開始温度を表1に示す。
【0041】
【表1】

【0042】
[実施例2]
モリブデン−ニッケル合金粉末の調製
タングステンをモリブデンに変更し、モリブデンショットへの塩素ガス流量を1.5Nl/分に変更した以外は、実施例1と同様に作製した。
得られた乾燥ニッケル合金粉末は、XRDにて、ニッケル、モリブデンのピークは観察されず、合金となっていることを確認した。粒径、合金組成、焼結開始温度を表1に示す。
【0043】
[実施例3]
ニオブ−ニッケル合金粉末の調製
タングステンをニオブに変更し、ニオブショットへの塩素ガス流量を1.88Nl/分に変更した以外は、実施例1と同様に作製した。
得られた乾燥ニッケル合金粉末は、XRDにて、ニッケル、ニオブのピークは観察されず、合金となっていることを確認した。粒径、合金組成、焼結開始温度を表1に示す。
【0044】
[実施例4]
タンタル−ニッケル合金粉末の調製
タングステンをタンタルに変更し、タンタルショットへの塩素ガス流量を1.25Nl/分に変更した以外は、実施例1と同様に作製した。
得られた乾燥ニッケル合金粉末はXRDにて、タンタル、ニッケルのピークは観察されず、合金となっていることを確認した。粒径、合金組成、焼結開始温度を表1に示す。
【産業上の利用可能性】
【0045】
粒径が高度に制御されたニッケル合金粉末を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の実施例で用いた金属粉末の製造装置の構成を示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0047】
1A,1B 塩化炉
11A,11B 加熱手段
12A,12B 塩素ガス供給ノズル
13A,13B 窒素ガス供給ノズル
2 還元炉
21 加熱手段
22 塩化ニッケル移送ノズル
23 水素ガス供給ノズル
24 ノズル
M1 原料のニッケル
M2 原料の金属
P ニッケル合金粉末

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化ニッケルガスと、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタルから選ばれる少なくとも一種類の金属塩化物ガスとの混合ガスを、980℃以上1150℃以下で気相水素還元することにより、平均粒径が10nm以上100nm未満のニッケル合金粉末を得ることを特徴とするニッケル合金粉末の製造方法。
【請求項2】
金属ニッケルと塩素ガスを接触させて得られた塩化ニッケルガスと、タングステン、モリブデン、ニオブ、タンタルから選ばれる少なくとも一種類の金属と塩素ガスを接触させて得られた金属塩化物ガスとの混合ガスを気相水素還元することを特徴とする請求項1に記載のニッケル合金粉末の製造方法。
【請求項3】
上記ニッケル合金粉末は、積層セラミックスコンデンサの内部電極用であることを特徴とする請求項1または2に記載のニッケル合金粉末の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−13456(P2009−13456A)
【公開日】平成21年1月22日(2009.1.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−175268(P2007−175268)
【出願日】平成19年7月3日(2007.7.3)
【出願人】(390007227)東邦チタニウム株式会社 (191)
【Fターム(参考)】