説明

ニッケル合金

【課題】700℃以上で、そして800℃のピーク温度まで、長期間にわたって機能しうるニッケル基合金を提供する。
【解決手段】(特に示さない限り重量パーセントで)Cr13.7〜17.5;Co2.5〜5.6;Fe8.0〜9.3;Si0〜0.6;Mn0〜0.95;Mo0.5〜2.3;W2.7〜3.0;Al2.2〜3.5;Nb2.7〜7.2;Ti0〜0.85;Ta0〜3.25;Hf0.0〜0.5;C0.01〜0.05;B 0.02〜0.04;Zr0.04〜0.06;Mg0.015〜0.025;S<50ppm;P<50ppm;および残部のNiと不可避不純物;の組成を有するニッケル基合金。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニッケル基合金に関し、特に(限定するものではないが)ガスタービンエンジンの圧縮機やタービンディスクにおいて用いるのに適した合金に関する。そのようなディスクはガスタービンエンジンの重要な構成要素であり、運転中のそのような要素の破損は通常大惨事を招く。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンにおける円板羽根車(例えば高圧(HP)圧縮機やタービンにおけるもの)をより高い圧縮機出口温度やより速い回転軸速度において作動させることを可能にするために、改良された合金に対する継続した必要性がある。加えて、航空機をより速く高所へ移動させることによって燃料の燃焼を低減するとともに空港周辺の混みあった空域を安全に通過するために、上昇速度を速くすることが民間航空会社によってますます必要とされていて、このことはエンジンを最大出力において使用しなければならない時間が著しく増大していることを意味する。これらの運転条件は高温における長い停止時間を伴う疲労周期を生じさせ、この場合、酸化と時間依存性の変形が低周期疲労に対する耐性にかなりの影響を及ぼす。その結果、合金の他の機械的および物理的性質を犠牲にすることなく、あるいは合金の比重を増大させることなく、表面環境損傷と停止疲労(dwell fatigue)亀裂成長に対する合金の耐性を改善するとともに、耐力(保証強さ)を向上させる必要がある。
【0003】
公知の合金は、そのような運転条件に対して必要な性質のバランス、特に600℃〜800℃の範囲の温度における保持サイクルの下での損傷許容性、環境損傷に対する耐性、ミクロ組織の安定性および高いレベルの耐力のバランスを与えることができない。従って、部品の寿命が許容できないほど短いために、それらは750℃〜800℃のピーク温度におけるディスクの用途のための望ましい候補ではない。
【0004】
幾つかの公知のニッケル基合金は、改善された高温強度とクリープひずみの蓄積に対する耐性を得るために、そして安定した塊状材料のミクロ組織を得るために(これにより有害な位相的最密相の析出を防ぐために)、表面の環境劣化(酸化とタイプIIの高温腐食)に対する折衷された耐性を有する。
【0005】
タービンディスクは一般に650℃以上の温度に晒され、そして将来のエンジン設計においては700℃以上の温度に晒されるだろう。ディスクの温度が上昇し続けるとき、酸化と高温腐食損傷がディスクの寿命を限定し始めるだろう。従って、将来のディスク用合金の設計においては、他の性質よりも酸化と高温腐食に対する耐性を優先させる必要がある。
【0006】
適当な合金が無い場合は、ディスクに環境保護性を付与する必要があるが、それは望ましいことではなく、また技術的に非常に困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、700℃以上で、そして800℃のピーク温度まで、長期間にわたって機能しうるニッケル基合金を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は特許請求の範囲に提示されたニッケル基合金を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
単に例示する目的で添付図面を参照することによって、本発明をさらに十分に説明する。
【図1】図1は実施例の合金であるV207Kについてのガンマプライム相における予測される元素含有量を示す。
【図2】図2は鍛造したV207Mの二次電子顕微鏡写真を示す。
【図3】図3は合金V207Kについてのガンマ相における予測される元素含有量を示す。
【図4】図4は実施例の合金であるV207Hについての温度の関数としてのガンマ相とガンマプライム相におけるSiの予測される分配を示す。
【図5】図5は合金V207Jについての温度の関数としてのガンマ相とガンマプライム相におけるMnの予測される分配を示す。
【図6】図6は鍛造したV207Mの別の二次電子顕微鏡写真を示す。
【図7】図7は合金V207Kについての予測される相平衡を示す。
【0010】
図2と図6はP.M.Mignanelli((2012)、Ph.D.Project、ケンブリッジ大学)から借用した。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係る合金の組成を明確にするにあたって、その目的は、不規則化面心立方ガンマ(γ)相が規則化L1ガンマプライム(γ’)相によって析出強化される合金を製造することであった。
【0012】
発明者は、以下の組成についての方策によって、高温耐力、疲労損傷とクリープひずみの蓄積に対する耐性、損傷許容度および酸化・高温腐食損傷の間の必要なバランスがもたらされることを明らかにした。
【0013】
本発明に従う12の例の合金を製造したが、これらについては後に詳細に説明する。それらの組成の細目を表2(i)において原子パーセント(at.%)で挙げていて、また表2(ii)において重量パーセント(wt.%)で挙げている。
【0014】
【表1】

【0015】
【表2】

【0016】
これら12の例の合金は便宜上6のグループに分けることができるが、ここで組成は重量パーセントで示される。
グループ1、公称として5.5Nb、14Cr、0.55Si(合金GおよびH)
グループ2、公称として5.5Nb、14Cr、0.9Mn(合金IおよびJ)
グループ3、公称として5.5Nb、14Cr(合金K)
グループ4、公称として7.1Nb、14Cr(合金L)
グループ5、公称として5.5Nb、16.7Cr(合金M、OおよびP)
グループ6、公称として2.8Nb、17.2Cr(合金N、QおよびR)。
【0017】
必要な耐力とクリープひずみの蓄積に対する耐性を達成するために、少なくとも40モル%の微細な(約50nmの平均サイズの)γ’粒子(NiX、ここでXはAl、Nb、TiまたはTa)が800℃において析出するべきである。図1は合金V207Kについてのガンマプライム相における予測される元素含有量を示す。高い体積分率の小さなガンマプライム析出物が転位の移動を効果的に妨げ、そして良好な高温耐力を生じさせるだろう。理想的には、合金を溶体化熱処理温度から急冷し、そして析出(時効)熱処理を行った後に、約50nmの平均のガンマプライム粒子サイズを生じさせるべきである。
【0018】
固相線とガンマプライムの固溶線温度は、高いレベルのNb、CrおよびFeを添加し、そしてAlとTiのレベルを制限することによって低下した。Siもガンマプライムの固溶線温度を低下させると考えられる。低いガンマプライムの固溶線温度は、そのガンマプライムの固溶線温度よりも高い温度から急冷した後のガンマプライムのサイズを極小にする。表3は、本発明に係る例の合金についての800℃におけるガンマプライムのモル%レベルとガンマプライムの固溶線温度の予測される値を示し、二つの公知の合金である720LiおよびRR1000と比較している。実験に基づく研究により、ガンマプライムの実際の割合はこれらの予測値よりも室温においておそらく50%ほども高いかもしれない、ということが示されている。これを例証するものとして、図2は鍛造したV207Mの溶体化熱処理と析出熱処理の後の二次電子顕微鏡写真を示す。準安定なエータ(η)様の相を避けるために、溶体化熱処理温度は十分に高かった。ガンマ相を除去するために、試料は10%のリン酸を用いて電解エッチングされた。
【0019】
【表3】

【0020】
i)720LiとRR1000の合金が固溶線よりも低い熱処理を受けるとき、一次ガンマはRR1000においてはガンマプライムの10〜15%の割合を占め、720Liにおいてはガンマプライムの15〜20%の割合を占めること、およびii)一次ガンマプライム粒子は耐力とクリープひずみに対する耐性にはあまり寄与しないこと;結晶粒内の二次および三次ガンマプライムのサイズと体積分率が主にこれらの性質を決定づけるが、結晶粒のサイズも耐力にかなりの影響を及ぼすこと、に留意されたい。これらの合金において、二次および三次ガンマプライム粒子の平均のサイズはそれぞれ典型的に、720Liについては100nmおよび10〜20nmであり、RR1000については200nmおよび10〜20nmである。
【0021】
NbとTaの添加は重要である。というのは、これらの元素はゆっくりした速度の拡散を示すからであり、これは先行技術におけるAlとTiがガンマプライムから移動して酸化生成物を形成するのと同様に、合金を空気中に高温(650〜800℃)で晒す間に顕著である。
【0022】
高温腐食と酸化に対する耐性を最適にするために、保護性のクロミア(chromia)のスケール(酸化皮膜)を500℃以上の温度においてできるだけ速く形成するべきである。組成の次の三つの特徴がこのことを促進する。第一に、ガンマ相におけるCrのレベルを最大にすること、第二に、ガンマ相におけるCoとFeの含有量を最小にすること、そして第三に、Tiを少なくすることによってルチル(TiO)の発生を最少にすることである。安定したクロミア(Cr)のスケールの形成を促進するために、発明者は、500℃と800℃の間の温度においてガンマ相におけるCrのレベルを25原子%よりも大きくし、そしてCoとFeのレベルをそれぞれ17原子%未満にするべきであることを確定した。図3は合金V207Kについてのガンマ相における予測される元素含有量を示す。
【0023】
表2で定義する合金において、表面のスケールは主にCrとTiの酸化物からなり、そして少量のNi、FeおよびCoの酸化物を含むだろう。添加可能なCrのレベルは、高温に長時間曝露する間に位相的最密(TCP)シグマ(σ)相が形成される傾向があることによって制限される。合金V207M、N、OおよびPにおいて、合金のCr含有量は16原子%から19原子%に上げられた。これはMoの含有量を1.35原子%から0.35原子%に減少させることによって可能となり、これにより、ガンマプライム相がガンマ相よりも大きな格子パラメーターを有するために生じる整合ひずみが増大する。Crのレベルを19原子%よりもさらに増大させるには、Moの含有量をさらに減少させる必要があるだろう。しかし、ガンマ相とガンマプライム相の間の格子パラメーターの差が大きいほど、ガンマプライム相における((結晶粒の)不連続な粗大化のような)不安定さが大きくなるかもしれない。合金V207N、QおよびRに示されるように、ガンマプライムの格子パラメーターのサイズ、ひいては不適合さは、Nb含有量を減少させることによって低下させることができる(表4を参照されたい)。
【0024】
表4は、ガンマ相についての格子パラメーター(aγ)とガンマプライム相についての格子パラメーター(aγ’)の予測値から周囲条件において計算された、ガンマ相とガンマプライム相の間の最大の不適合度の予測値を示す。不適合度は(aγ’−aγ)/aγとして定義される。
【0025】
【表4】

【0026】
クロミアのスケールの下にシリカ(SiO)の膜を生成するか、あるいはスピネル(MnCr)の膜を生成するために、SiまたはMnのいずれかを十分な量添加し、それによりクロミアのスケールの形成をさらに促進することによって、酸化と高温腐食に対する耐性をさらに改善することができる。ガンマ相とガンマプライム相の間のSiとMnの分配は主として500℃以上のガンマ相にある、と予測される。このような温度において、ニッケル合金は酸化による損傷の兆候を示し始める。図4は合金V207Hについての温度の関数としてのガンマ相とガンマプライム相におけるSiの予測される分配を示し、そして図5は合金V207Jについての温度の関数としてのガンマ相とガンマプライム相におけるMnの予測される分配を示す。
【0027】
安定した一次MC炭化物を生じさせるために、十分な量のNbとTaが添加される(ここでMはTi、Ta、NbまたはWを表す)。Tiを主成分とする一次炭化物は安定ではなく、700℃以上の温度に長時間曝露する間にM23炭化物とMC炭化物に分解する。これらM23炭化物とMC炭化物は結晶粒界に膜として、あるいは細長い粒子として形成され、連続した炭化物の膜が形成された場合は、高温の停止疲労サイクルにより極めて高い速度の粒界亀裂成長を起こすことがある。粒界亀裂成長の機構は次の二つの効果の結果であると考えられる:i)応力によって促進される粒界に沿う酸化、およびii)すべりと粒界の移動。M23炭化物の形成によって粒界に隣接するガンマ相からCrが除去され、従って、この領域において酸化に対する耐性が低下する。条件により疲労亀裂が生じない場合は、表面に近いM23炭化物からのCrが粒界に沿って表面に向かって拡散し、空孔を残すことがある。これらの空孔は内部酸化損傷の一形態であり、亀裂の進展をもたらすことがある。
【0028】
チタンは規則化L1ガンマプライム粒子におけるAlを補うので、ガンマプライムによって強化されるニッケル合金に有益である。しかし、不安定なMC炭化物を形成するのに加えて、Tiは、表面の酸化物のスケール中のCr(クロミア)ノジュール(結節状物)の上に形成するTiO(ルチル)ノジュールも生じさせる。表面のルチルノジュールのためのTiの供給源はガンマプライムであると考えられ、また表面下のアルミナの「フィンガー」のためにガンマプライムからAlが失われることも伴って、高温に長時間曝露する間にガンマプライムの無い領域が生成する。このガンマプライムの無い領域は、ベースの合金と比べて著しく低い耐力と一次クリープ耐性を示し、非弾性ひずみの蓄積をもたらす条件の下で割れやすいと考えられる。これらの影響を最少限にするために、ここで提案する合金においてTiのレベルを最少限にするか、あるいはTiを完全に除去した(V207HおよびI)。
【0029】
これらの合金は、800℃以下において1000時間後に位相的最密(TCP)シグマ(σ)相の析出量を1%未満とするべきである。粒界における(Cr、Mo、NiおよびCoを含む)このレベルのシグマ相はM23炭化物の上に析出して、ガンママトリックスからCrを除去し、そして停止亀裂成長に対する合金の耐性を低下させる。これらの合金について予測される等温変態曲線(TTT曲線)によれば、800℃以下の温度に1000時間曝露した後に1%のシグマを析出しないことが示される。ニッケル基合金であるRR1000についての実験に基づく研究によれば、予測されるTTT曲線と比べて、シグマ相を析出するのにはその温度においてかなり長い時間を要することが示されている。
【0030】
クリープひずみの蓄積に対する合金の耐性は、WとMoによるガンマ相の固溶強化によって最大限にされた。しかし、WとMoのレベルの合計は約5重量%に制限された。というのは、これらの元素はタイプIIの高温腐食損傷に対する合金の耐性に有害な酸性の酸化物を生成するからである。上で示したように、この制限を課することにより、ガンマ相よりも大きな格子パラメーターを有するガンマプライム相の結果として生じる整合ひずみの減少が防がれる。Wは特にガンマ相の格子パラメーターを増大させる。これらの引張りひずみは合金の強度に寄与するであろうが、しかし(例えばγ’の不連続なセル状の析出が生じることによる)合金のミクロ組織の安定性に影響を及ぼすほど十分に大きくはないと考えられる。
【0031】
合金V207G〜M、OおよびPにおいて、850〜1050℃の温度における熱処理の後に準安定なエータ様の相(NiAlNb)を析出させるという選択肢がある。この相は、おそらく不連続なセル状の析出の結果として、粒界に析出すると理解される(E.J.Pickering他、(2012)、「Allvac 718プラスにおける粒界析出」、Acta Materialia、60、pp.2757〜2769)。このことは図6において例証されていて、この図は鍛造したV207Mの溶体化熱処理と析出熱処理の後の二次電子顕微鏡写真を示す。この場合の溶体化熱処理温度は、準安定なエータ様の相が析出する範囲内であった。ガンマ相を除去するために、試料は10%のリン酸を用いて電解エッチングされた。現在はこの粒界析出を予測することはできず、特に鍛造による残留ひずみが挙動に強く影響するようである場合に、予測できない。しかし、粒界での酸素の拡散に対するバリヤーとして作用させるために、また粒界領域からγ’を減少させるために、鍛造と熱処理によってエータ様の相を粒界に析出させることができる。これにより、停止亀裂成長に対する改善された耐性を増進させることができる。熱処理の方策もこのことに寄与するが、これについては後に説明するであろう。エータ様の相の析出は1050℃以上の温度での溶体化熱処理と急冷、そしてそれに続く850℃以下での時効によって避けることができる、ということも理解される。合金V207N、QおよびRは、このエータ様の相とデルタ相を含まないように設計された。これを達成するために、Nbの含有量は1.75原子%まで下げられた。これらの組成物において、NbはMC炭化物を形成し、またガンマプライム相に分配される。合金V207Kについての予測される相平衡を図7に示す。
【0032】
ここに開示される例の組成物のいずれにも含まれないが、場合によっては、本発明に係る合金の組成物中に0.5重量%までのHfを含有させるのが望ましいかもしれない。ハフニウムはニッケル基のディスク用合金の粒界強度と停止亀裂成長に対する耐性を改善するものとして知られている。しかし、Hfを含む溶融合金においては融解異常(melt anomalies)が生成する。これらの異常は処理する必要はなく、それらの発生は特定の合金についてのありそうな利益と比較して考える必要があるだろう。
【0033】
微量元素であるSおよびPのレベルは、酸化物のスケールの良好な機械的結合性を促進するために、最小限にされた。このことにより、酸化と高温腐食損傷に対する耐性が向上すると期待される。表2に明示されているよりも低いレベルは、大きな製造サイズの材料のバッチにおいて達成できると期待される。Sのレベルが50ppm未満で、Pのレベルが50ppm未満であっても本発明の利益は達成できると予想されるが、これらの場合においては、酸化と腐食損傷に対する合金の耐性は低くなるだろう。表2に明示されたSおよびPのレベルにより、酸化と腐食損傷に対する耐性は最適になるだろう。
【0034】
Coの含有量を低くし、そしてCoをFeで置き換えることによって、原材料コストは最小限にされた。
【0035】
【表5】

【0036】
【表6】

【0037】
合金の性質に及ぼす様々な元素の添加の効果を表5に要約する。提示された合金の組成は、元素の添加の効果についてのこの理解に基づいて確定された。
本発明に係る合金は粉末冶金技術を用いて製造されると考えられ、例えば、不活性ガス噴霧により得られた小さな粉末粒子(53μm未満のサイズ)がステンレス鋼の容器の中で熱間等方圧プレスを用いて団結され、次いで押出すことによって、微細な結晶粒サイズのビレットが製造される。これらのビレットから増加分が切断され、そして鍛造されるが、これは好ましくは等温条件の下で低いひずみ速度において行われる。ガンマプライムの固溶線温度よりも高温での溶体化熱処理の後に好ましい平均の結晶粒サイズであるASTM9〜7(16〜32μm)を達成するために、適当な鍛造温度、ひずみ、およびひずみ速度が用いられるだろう。
【0038】
円板羽根車のための原材料を製造するために、他のビレットと鍛造技術を代わりに用いることができると認められる。鋳造や鍛錬のプロセスのような代替技術、すなわち、三段溶融した(triple melted)インゴットの転換および慣用のプレス鍛造の適否は、(i)許容できる量の融解異常を伴う一貫して均一なインゴットの化学的性質、(ii)十分に大きな鍛造加工窓(forging window)と亀裂の無い鍛造品、および(iii)熱処理された鍛造品において狭い結晶粒サイズの分布をもたらすための結晶粒成長の制御、を達成することの成功率のレベルに依存するであろう。
【0039】
本発明に係る合金において特性の必要なバランスを生み出すために、以下の熱処理工程を行う必要もある。
1.好ましい手段は、鍛造品をガンマプライムの固溶線温度よりも高温で十分な時間にわたって溶体化熱処理し、それにより結晶粒サイズを全体にわたって必要な平均の結晶粒サイズであるASTM9〜7(16〜32μm)まで成長させることである。結晶粒の成長を制御するために、特に遊離した結晶粒がASTM2(180μm)よりも大きなサイズまで成長するのを防ぐために、適切な鍛造条件と変形のレベルが用いられるだろう。
【0040】
2.合金G〜K、M、OおよびPについて、1050℃未満の温度において第二の熱処理を行うことによって、結晶粒界にエータ様の相を析出させるという選択肢がある。
3.強制的な空冷または送風機による空冷やポリマーまたは油による急冷を用いて、鍛造品を溶体化熱処理温度から室温まで急冷する。
【0041】
4.析出および応力除去熱処理を830℃〜850℃の温度において4〜16時間行い、次いで空冷する。この熱処理は、i)急冷による残留応力を除去し、そしてii)ガンマプライム粒子を成長させるために必要である。
【0042】
析出と応力除去熱処理は結晶粒界の領域に隣接する三次ガンマプライムの量を減少させることによって停止サイクルからの低速度の亀裂成長を促進し、これにより局部的なクリープひずみの耐性を低下させ、また疲労亀裂の前方の材料における応力を緩和させると考えられる。この熱処理はまた、三次ガンマプライムを粗大化させ、これにより使用による曝露の間のさらなる粗大化は少なくなり、機械的性質は低下しないであろう。
【0043】
ここで提案される合金は、現行のニッケル合金であるRR1000と比較して、また比重の差(周囲温度において、RR1000について8.21g・cm−3、V207G〜M、OおよびPについて8.34〜8.46g・cm−3、そしてV207N、QおよびRについて8.22〜8.25g・cm−3)を考慮にいれて、下記の材料特性を示すことが期待される。
【0044】
650〜800℃の温度における酸化と高温腐食損傷に対する改善された耐性;ASTM9〜7(16〜32μm)の平均の結晶粒サイズを有する合金について20〜800℃の温度における改善された引張り耐力;650〜800℃の温度におけるクリープひずみの蓄積に対する改善された耐性;600℃を超える温度において粗大な結晶粒のRR1000と同等の停止亀裂成長に対する耐性;600℃を超える温度における改善された停止疲労耐久挙動;ASTM9〜7(16〜32μm)の平均の結晶粒サイズを有する合金について600℃未満の温度における同等であるかまたは改善された疲労耐久挙動;高温に曝露する(例えば800℃において1000時間)間の改善されたミクロ組織安定性;熱処理後の鍛造品における低いレベルの残留応力(これにより部品を製造する間のゆがみが最小限となるだろう);低いビレットのコスト(すなわち、原材料コスト)。
【0045】
寿命を短くする高温腐食の深さと酸化損傷が生じる時間は、650℃〜800℃の温度において720LiおよびRR1000のような現行の合金のものよりも二倍になることが期待される。
【0046】
従って、本発明は円板羽根車の用途のための鍛造品を製造するのに特に適した一連のニッケル基合金を提供する。これらの合金から製造された構成部品は、かなり高い温度において用いることを可能にするバランスのとれた材料特性を有するであろう。公知の合金と比べて、本発明に係る合金は、環境劣化に対する耐性と高温での機械的性質(例えば耐力、クリープひずみの蓄積や停止疲労に対する耐性および損傷許容性)との間の良好なバランスを達成する。これにより本発明に係る合金は、700〜750℃の温度に制限されている公知の合金と比べて、800℃までの温度で作動する部品のために用いることが可能になる。
【0047】
これらの改善された性質は、i)組成の確定、ii)ビレットと鍛造品のための加工処理ルート、およびiii)鍛造品の熱処理、によって達成される。組成に関して、特に払われた配慮は、i)高温に曝露する間にクロミアのスケールの可能な限り速い形成が促進されるようにCrの含有量を最大限にすること、ii)酸化と耐高温腐食性に対して有害であると考えられる元素を最小限にすること、およびiii)結晶粒界の酸化に対する拡散バリヤーの生成、である。そのようなバリヤーには、結晶粒界でのエータ様の相の析出と、SiO膜とMnCr膜の形成による安定したCrのスケールの促進が含まれる。
【0048】
本発明に係る合金はガスタービンエンジンにおける円板羽根車の用途に特に適しているが、それらは他の用途に用いてもよいと考えられる。例えば、ガスタービンの分野においては、それらは燃焼器またはタービンケーシングに用いるのに特に適していると考えられるが、これらは材料の性質の期待される改善、特に耐力とクリープひずみの蓄積に対する耐性の改善から利益を得るだろう。圧縮機の吐出温度とタービンの入口温度は次第に上昇するので、熱効率ひいては燃料の消費の改善を促進するために、燃焼器とタービンの静止した構成部品の温度も必然的に上昇する。そのような構成部品は従来の鋳造プロセスや鍛錬のプロセス(すなわち鍛造からのプロセス)によって、あるいは粉末冶金法によって製造することができる。高度に合金化された組成物であって、構成部品の形状に近い圧縮粉を製造することができて、従って必要な材料の量と部品を切削加工するのに要する時間が低減される場合は、後者の方法が好ましい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(特に示さない限り重量パーセントで)Cr 13.7〜17.5;Co 2.5〜5.6;Fe 8.0〜9.3;Si 0.0〜0.6;Mn 0.0〜0.95;Mo 0.5〜2.3;W 2.7〜3.0;Al 2.2〜3.5;Nb 2.7〜7.2;Ti 0.0〜0.85;Ta 0.0〜3.25;Hf 0.0〜0.5;C 0.01〜0.05;B 0.02〜0.04;Zr0.04〜0.06;Mg 0.015〜0.025;S<50ppm;P<50ppm;および残部のNiと不可避不純物;の組成を有するニッケル基合金。
【請求項2】
(特に示さない限り重量パーセントで)Cr 13.8〜14.7;Co 3.5〜4.6;Fe 8.0〜9.2;Si 0.5〜0.6;Mo 2.1〜2.3;W 2.7〜3.0;Al 2.2〜2.8;Nb 5.4〜5.7;Ti 0.00〜0.85;Ta 1.95〜3.25;C0.01〜0.05;B 0.02〜0.04;Zr0.04〜0.06;Mg 0.015〜0.025;S<50ppm;P<50ppm;および残部のNiと不可避不純物;の組成を有する、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項3】
(特に示さない限り重量パーセントで)Cr 13.7〜14.4;Co 3.5〜4.5;Fe 8.0〜9.0;Mn 0.85〜0.95;Mo 2.1〜2.3;W 2.7〜2.9;Al 2.4〜2.9;Nb 5.4〜5.6;Ti 0.00〜0.85;Ta 1.95〜3.15;C0.01〜0.05;B 0.02〜0.04;Zr0.04〜0.06;Mg 0.015〜0.025;S<50ppm;P<50ppm;および残部のNiと不可避不純物;の組成を有する、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項4】
(特に示さない限り重量パーセントで)Cr 13.8〜14.4;Co 4.5〜5.5;Fe 8.0〜9.0;Mo 2.1〜2.3;W 2.7〜2.9;Al2.4〜2.6;Nb 5.4〜5.6;Ti 0.75〜0.85;Ta 1.95〜2.25;C0.01〜0.05;B 0.02〜0.04;Zr0.04〜0.06;Mg 0.015〜0.025;S<50ppm;P<50ppm;および残部のNiと不可避不純物;の組成を有する、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項5】
(特に示さない限り重量パーセントで)Cr 13.9〜14.5;Co 3.5〜4.5;Fe 8.1〜9.1;Mo 2.1〜2.3;W 2.7〜2.9;Al2.4〜2.6;Nb 7.0〜7.2;Ti 0.75〜0.85;C 0.01〜0.05;B0.02〜0.04;Zr 0.04〜0.06;Mg0.015〜0.025;S<50ppm;P<50ppm;および残部のNiと不可避不純物;の組成を有する、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項6】
(特に示さない限り重量パーセントで)Cr 16.2〜17.2;Co 2.5〜4.5;Fe 8.1〜9.1;Si 0.0〜0.6;Mn 0.00〜0.95;Mo 0.5〜0.7;W 2.7〜2.9;Al 2.2〜2.6;Nb 5.4〜5.6;Ti 0.75〜0.85;Ta 2.05〜2.35;C 0.01〜0.05;B0.02〜0.04;Zr 0.04〜0.06;Mg0.015〜0.025;S<50ppm;P<50ppm;および残部のNiと不可避不純物;の組成を有する、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項7】
(特に示さない限り重量パーセントで)Cr 16.9〜17.5;Co 2.6〜5.6;Fe 8.3〜9.3;Si 0.0〜0.6;Mn 0.00〜0.95;Mo 0.5〜0.7;W 2.8〜3.0;Al 2.2〜3.5;Nb 2.7〜2.9;Ti 0.75〜0.85;Ta 2.05〜2.35;C 0.01〜0.05;B0.02〜0.04;Zr 0.04〜0.06;Mg0.015〜0.025;S<50ppm;P<50ppm;および残部のNiと不可避不純物;の組成を有する、請求項1に記載のニッケル基合金。
【請求項8】
Sの含有量が5ppm未満である、請求項1から7のいずれかに記載のニッケル基合金。
【請求項9】
Pの含有量が10ppm未満である、請求項1から8のいずれかに記載のニッケル基合金。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図2】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−57122(P2013−57122A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−184332(P2012−184332)
【出願日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【出願人】(591005785)ロールス・ロイス・ピーエルシー (88)
【氏名又は名称原語表記】ROLLS−ROYCE PUBLIC LIMITED COMPANY
【Fターム(参考)】