説明

ニッケル基超合金及びその部品

【課題】クリープ及び保持時間疲労亀裂伝播挙動を含む優れた高温滞留能力を示す、γ′ニッケル基超合金及び超合金から形成した部品を提供する。
【解決手段】重量%表示で、16.0〜30.0%のコバルト、11.5〜15.0%のクロム、4.0〜6.0%のタンタル、2.0〜4.0%のアルミニウム、1.5〜6.0%のチタン、5.0%以下のタングステン、1.0〜7.0%のモリブデン、3.5%以下のニオブ、1.0%以下のハフニウム、0.02〜0.20%の炭素、0.01〜0.05%のホウ素、0.02〜0.10%のジルコニウム、残部のニッケル及び不可避不純物を含み、チタン:アルミニウムの重量比が0.5〜2.0であるγ′ニッケル基超合金

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、一般にニッケル基合金組成物に関し、特にガスタービンエンジンのタービンディスクのような、多結晶ミクロ組織及び高温滞留能力を必要とする部品に適当なニッケル基超合金に関する。
【背景技術】
【0002】
ガスタービンエンジンのタービンセクションは燃焼器セクションの下流に位置し、ロータシャフト及び1つ又は2つ以上のタービン段を含む。各タービン段は、シャフトに装着又は保持されたタービンディスク(ロータ)と、ディスクに装着されディスクの外周から半径方向に延在するタービンブレードとを有する。燃焼器及びタービンセクション内の部品は多くの場合、高温燃焼ガスからの高温にある時でも有効な機械的特性を得るために、超合金材料から形成される。最近の高圧力比ガスタービンエンジンで圧縮機出口温度が一層高くなっていることからも、圧縮機ディスク、ブリスクその他の部品に高性能ニッケル基超合金を使用することが必要になっている。ある部品に適当な合金組成及びミクロ組織は、その部品が受ける特定の温度、応力その他の条件に依存する。例えば、ブレードやベーンなどの翼形部品を形成する超合金は多くの場合、等軸、方向性凝固(DS)もしくは単結晶(SX)超合金であり、一方タービンディスクを形成する超合金は、精密に制御された鍛造加工、熱処理及び表面処理(ピーニング処理など)を施して制御された結晶粒組織と望ましい機械的特性を有する多結晶ミクロ組織を生成しなければならない。
【0003】
タービンディスクはしばしばガンマプライム析出強化ニッケル基超合金(以下γ′ニッケル基超合金という)から形成され、この超合金は、クロム、タングステン、モリブデン、レニウム及び/又はコバルトを主要元素として含有し、これらがニッケルと化合してγマトリックスを形成し、さらにアルミニウム、チタン、タンタル、ニオブ及び/又はバナジウムを主要元素として含有し、これらがニッケルと化合して所望のγ′析出強化相、主としてNi3(Al,Ti)を形成する。著名なγ′ニッケル基超合金には、Rene88DT(R88DT、米国特許第4957567号)及びRene104(R104、米国特許第6521175号)があり、また登録商標Inconel、Nimonic及びUdimetにて市販されているニッケル基超合金もある。R88DTの組成は、重量%表示で、約15.0〜17.0%のクロム、約12.0〜14.0%のコバルト、約3.5〜4.5%のモリブデン、約3.5〜4.5%のタングステン、約1.5〜2.5%のアルミニウム、約3.2〜4.2%のチタン、約0.5〜1.0%のニオブ、約0.010〜0.060%の炭素、約0.010〜0.060%のジルコニウム、約0.010〜0.040%のホウ素、約0.0〜0.3%のハフニウム、約0.0〜0.01%のバナジウム及び約0.0〜0.01%のイットリウム、残部のニッケル及び不可避的不純物である。R104の公称組成は、重量%表示で、約16.0〜22.4%のコバルト、約6.6〜14.3%のクロム、約2.6〜4.8%のアルミニウム、約2.4〜4.6%のチタン、約1.4〜3.5%のタンタル、約0.9〜3.0%のニオブ、約1.9〜4.0%のタングステン、約1.9〜3.9%のモリブデン、約0.0〜2.5%のレニウム、約0.02〜0.10%の炭素、約0.02〜0.10%のホウ素、約0.03〜0.10%のジルコニウム、残部のニッケル及び不可避的不純物である。
【0004】
ガスタービンエンジンのディスク及び他の重要な部品はしばしば、粉末冶金(PM)、普通の鋳造及び鍛錬加工、及びスプレイキャスト又は核生成鋳造成形技術により製造したビレットから鍛造される。粉末冶金法により形成されたγ′ニッケル基超合金は特に、ガスタービンエンジンのタービンディスクや他の部品の性能要求を満足する良好なバランスのクリープ特性、引張特性及び疲労亀裂伝播特性を与えることができる。代表的な粉末冶金プロセスでは、所望の超合金の粉末に、例えば高温静水圧圧縮(HIP)及び/又は押出圧密化による圧密化(consolidation)を施す。得られたビレットを次に、超塑性加工条件に近い合金のγ′ソルバス温度より僅かに低い温度で等温鍛造し、これにより有意な金属学的歪みの累積なしに、高い幾何学的歪みの累積を通してダイキャビティを充填することができる。これらの加工工程はビレット内の微細結晶粒径を元のままに保持し(例えばASTM10〜13以下)、高い可塑性を実現してニアネットシェイプ(できるだけ完成品に近い形状)鍛造ダイを充填し、鍛造中の破断を回避し、比較的低い鍛造及びダイ応力を維持するように設計されている。高温での耐疲労亀裂伝播性及び機械的特性を向上するために、これらの合金は次に、γ′ソルバス温度より高い温度で熱処理し(一般に超ソルバス熱処理という)、結晶粒の有意な均一な粗大化を図る。
【0005】
R88DTやR104などの合金は超合金の高温性能を大幅に前進させているが、さらなる改良がいつも求められている。例えば、高温滞留能力が、最新の軍用及び商用エンジン用途と関連した高温及び高応力にとって重要な因子として浮上している。より高温の、より進歩したエンジンが開発されるにつれて、現在の合金のクリープ及び亀裂伝播特性は、最新のディスク用途の任務と寿命の目標や要求をみたすのに必要な能力に対して不足勝ちになっている。このような難問に対処する一つの観点は、1200°F(約650℃)以上の温度でのクリープ及び保持時間(滞留)疲労亀裂伝播速度特性の望ましいバランスのよい改良を示し、しかも良好な生産性と熱安定性を有する組成物を開発することであることが、明らかである。しかし、クリープ及び亀裂伝播特性は同時に改良するのが難しく、特定の合金化成分の存在又は不在により、また超合金中に存在する合金化成分のレベルの比較的小さな変化により大きく影響されるという事実が、この問題をさらに複雑にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6521175号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、クリープ及び保持時間疲労亀裂伝播挙動を含む優れた高温滞留能力を示す、γ′ニッケル基超合金及び超合金から形成した部品を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点によるγ′ニッケル基超合金は、重量%表示で、16.0〜30.0%のコバルト、11.5〜15.0%のクロム、4.0〜6.0%のタンタル、2.0〜4.0%のアルミニウム、1.5〜6.0%のチタン、1.0〜5.0%のタングステン、1.0〜5.0%のモリブデン、3.5%以下のニオブ、1.0%以下のハフニウム、0.02〜0.20%の炭素、0.01〜0.05%のホウ素、0.02〜0.10%のジルコニウム、残部のニッケル及び不可避不純物を含み、チタン:アルミニウムの重量比が0.5〜2.0である。
【0009】
本発明の別の観点によれば、上記の合金から形成された部品が提供され、部品の具体例にはガスタービンエンジンのタービンディスク、圧縮機ディスク及び圧縮機ブリスクがある。
【発明の効果】
【0010】
本発明の顕著な利点として、上述したニッケル基超合金は、高温滞留特性のバランスのよい改良、具体的には、1200°F(約650℃)以上の温度でのクリープ及び保持時間疲労亀裂伝播速度(HTFCGR:hold time fatigue crack growth rate)特性両方の改良を実現する可能性をもち、しかも良好な生産性と良好な熱安定性を有する。特に粉末冶金、熱間加工、及び熱処理技術を用いて適切に加工すれば、他の特性の改良も可能であると考えられる。
【0011】
本発明の他の観点及び効果は以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】ガスタービンエンジンに用いる形式のタービンディスクの斜視図である。
【図2】タービンディスク合金として使用可能な組成物として本発明による第1系列のニッケル基超合金組成物を列挙する表である。
【図3】図2のニッケル基超合金組成物についての種々の予測特性を列挙する表である。
【図4】図3のデータからクリープ及び保持時間疲労亀裂伝播速度(HTFCGR)をプロットしたグラフである。
【図5】タービンディスク合金として使用可能な組成物として本発明による第2系列のニッケル基超合金組成物を列挙する表である。
【図6】図5のニッケル基超合金組成物についての種々の予測特性を列挙する表である。
【図7】図6のデータからクリープ及び保持時間疲労亀裂伝播速度(HTFCGR)をプロットしたグラフである。
【図8】タービンディスク合金として使用可能な組成物として本発明による第3系列のニッケル基超合金組成物を列挙する表である。
【図9】図8のニッケル基超合金組成物について測定した種々の特性を列挙する表である。
【図10】図8のニッケル基超合金組成物についての破断データ及び保持時間疲労亀裂伝播速度(HTFCGR)をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、γ′ニッケル基超合金に関し、特に熱間加工(例えば鍛造)により多結晶ミクロ組織をもつように製造される部品に適当なγ′ニッケル基超合金に関する。図1に示す特定の部品例は、ガスタービンエンジン用の高圧タービンディスク10である。本発明をガスタービンエンジン用の高圧タービンディスクの加工について説明するが、本発明の構成及び効果は、ガスタービンエンジンの圧縮機ディスク及びブリスクにも、また高温で応力がかかる、したがって高温滞留能力を必要とする多数の他の部品にも適用できることが当業者に明らかである。
【0014】
図1に示す形式のディスクは、代表的には、粉末冶金(PM)、鋳造及び鍛錬加工、又はスプレイキャストもしくは核生成鋳造成形技術により製造した微細結晶粒ビレットを等温鍛造することにより製造される。粉末冶金法を用いる好適な実施形態では、超合金粉末を高温静水圧圧縮(HIP)もしくは押出圧密化などにより圧密化することによりビレットを形成することができる。ビレットを代表的には、合金の再結晶温度に等しいか近いが、合金のγ′ソルバス温度より低い温度及び超塑性加工条件下で鍛造する。鍛造後、超ソルバス(溶体化)熱処理を行い、その間に結晶粒子の成長が起こる。超ソルバス熱処理は超合金のγ′ソルバス温度より高いが、溶融開始温度より低い温度で行って、加工結晶粒構造を再結晶させるとともにγ′析出物を超合金中に溶解(溶体化)する。超ソルバス熱処理後、部品を、γ′をγマトリックス内にもしくは粒界に再析出させるのに適当な速度で冷却し、こうして所望の特定の機械的特性を得る。部品は既知の方法で時効処理してもよい。
【0015】
本発明の超合金組成物は、現存するニッケル基超合金より良好な高温滞留能力を発揮することができる合金化成分及びそのレベルを同定することを目的とする当社の解析的予測プロセスを用いることによって開発した。詳しくは、解析と予測には、上述した方法で製造されるタービンディスクにふさわしい引張、クリープ、保持時間(滞留)亀裂伝播速度、密度及び他の重要なもしくは望ましい機械的特性についての要素伝達関数の定義を含む当社の研究を利用した。これらの伝達関数を同時に解くことにより、組成物の評価を行って、最新のタービンエンジンニーズを満たす所望の機械的特性(クリープ及び保持時間疲労亀裂伝播速度(HTFCGR)など)をもつらしい組成物を同定する。解析的検討では、当社のデータベースとともに市販のソフトウェアパッケージも利用して、組成物に基づく相体積分率を予測し、こうして望ましくない平衡相安定境界に近づくか、場合によっては僅かに超過する組成物をさらに定義した。最後に、溶体温度並びにγ′及び炭化物の好適な量を規定して、(使用中の環境特性のため平衡相が十分に生成するならば、使用中の能力を低減するおそれのある)望ましくない相を回避しながら、機械的特性、相組成及びγ′体積分率の望ましい組合せをもつ組成物を同定した。これらの研究では、歴史的なディスク合金開発業績から得られる選択データに基づいて、回帰方程式又は伝達関数を開発した。研究は、上述したニッケル基超合金R88DT及びR104の定性及び定量的データにも依拠した。
【0016】
可能性のある合金組成物を同定するのにいくつかの基準を利用したが、その1つは、長期間にわたる1400°F(約760℃)以上の温度での強度を増加する意図で、γ′((Ni,Co)3(Al,Ti,Nb,Ta))の体積率(%)をR88DTのそれより大きくしたいということであった。2200°F(約1200℃)以下のγ′ソルバス温度も、熱処理及び急冷中の作業の容易なことから、望ましいと同定された。さらに、例えば高温強度のためのハフニウムの添加、耐食性のためのクロムレベル10重量%以上、γ′(Ni3(Al,Ti,Nb,Ta))安定性を維持するための公称R88DTレベルより高いアルミニウムレベル、そして積層欠陥エネルギーを最小限に抑える(良好なサイクル挙動に望ましい)とともにγ′ソルバス温度を制御するのに役立つ18重量%超えのコバルトレベルなど、いくつかの組成パラメータを組成物の出発点として同定した。回帰方程式及び従来の経験はさらに、比較的高レベルの高融点元素が高温特性を向上させるのに望ましいことを示唆していた。そして、チタン、タングステン、ニオブ及びモリブデンレベルを選択的にバランスさせることによりクリープ及び保持時間疲労亀裂伝播挙動を最適なものとした。最後に、特定の機械的特性に関する回帰因子を利用して、優れた高温保持時間(滞留)挙動を発揮することができる、そして他の手段では非常に多数の合金での膨大な実験なしでは同定できない、可能な合金組成物を狭義に同定した。このような特性とは、1200°F(約650℃)での極限引張強さ(UTS)、降伏強さ(YS)、伸び(EL)、断面縮小率(RA)、クリープ(1200°F及び115ksi(約650℃及び約790MPa)での0.2%クリープまでの時間)、1300°F(約700℃)及び最大応力強度25ksi√in(約27.5MPa√m)での保持時間(滞留)疲労亀裂伝播速度(HTFCGR、da/dt)、疲労亀裂伝播速度(FCGR)、γ′体積率(GAMMA′%)及びγ′ソルバス温度(SOLVUS)であり、これらはすべて回帰基準で評価した。本明細書で報告するこれらの特性の単位は、UTS及びYSについてはksi、EL、RA及びγ′体積率については%、クリープについては時間、亀裂伝播速度(HTFCGR及びFCGR)についてはin/sec、そしてγ′ソルバス温度については°Fである。また熱力学的計算を行って、γ′、炭化物、ホウ化物及びトポロジー最密充填(TCP=topologically close packed)相の相体積分率、安定性及びソルバスなどの合金特性を評価した。
【0017】
専門家の意見及び指針を用いて、上述したプロセスを繰り返し実施して、製造及び評価に好適な組成物を規定した。このプロセスから、第1系列の合金組成物(重量%)を図2の表に記載の通りに規定した。同表には、参考のためR88DTも含めた。図2の合金についての回帰基準の特性予測を図3の表に示す。図4は、図3からの保持時間疲労亀裂伝播速度(HTFCGR)及びクリープ(CREEP)データのグラフである。図4の視覚的表示から、合金ME42、ME43、ME44、ME46、ME48、ME49及びME492が、クリープが7000時間を超え、HTFCGRが約1x1017in/s(約1x1016mm/s)以下である、クリープ及び保持時間疲労亀裂伝播速度特性の最適な組合せを示す、したがって、図4にプロットしたR88DT、R104及び他の現行合金についての回帰基準の予測に対して顕著な向上を与える、と解析を通して予測された。Rene88DTより優れた滞留疲労及びクリープをもつと予測されたこれらの合金を、相体積分率、安定性、ソルバスなどの合金特性を査定する熱力学的計算により、さらに評価した。この分析から、合金ME43、ME44、ME48及びME492は、潜在的に望ましくないレベルの有害なトポロジー最密充填(TCP)相、具体的にはシグマ(σ)相(一般に(Fe,Mo)x(Ni,Co)y、式中のx及びyは1〜7)及び/又はイータ(η)相(Ni3Ti)を生じやすいと予測された。
【0018】
TCP相の熱力学的計算はある不確定性をもつと考えられたが、望ましくないレベルのTCP相の形成を回避したいという要望が第2系列の合金組成物を規定する基礎となった。合金HL−06〜HL−15と表示される第2系列の合金組成物の組成(重量%)を図5の表に示す。第2系列には、設計通りの実験的な系列の合金(HL−06、07、08、09及び10)とより調査的な系列の合金(HL−11、12、13、14及び15)がある。設計通りの実験的な系列は、Ti/Al及びMo/(W+Mo)比をバランスさせながら、比較的高いタンタル含量を与えるという目的に大きく依拠した。5つの調査的な合金のうち4つを処方して高タンタルレベルの影響を調べる一方、5番目の合金(HL−15)はより低いタンタルレベル、はるかに高いモリブデンレベルとなるよう処方し、タングステンをモリブデンで埋め合わせる影響を調べた。
【0019】
第2系列の合金についての回帰基準の特性予測を図6の表に列挙する。図7は図6からの保持時間疲労亀裂伝播速度(HTFCGR)及びクリープ(CREEP)データのグラフである。図7の視覚的表示から、合金HL−07、HL−08及びHL−09が、クリープが7000時間を超え、HTFCGRが約3x1017in/s(約7.6x1016mm/s)以下である、クリープ及び保持時間亀裂伝播速度特性の最適な組合せを示す、したがって、図7にプロットしたR88DT、R104及び他の現行合金についての回帰基準の予測に対して顕著な向上を与える、と解析を通して予測された。これらの合金も、相体積分率、安定性、ソルバスなどの合金特性について評価した。いずれの合金も、潜在的に望ましくないレベルのトポロジー最密充填(TCP)相を形成するとは予測されなかった。
【0020】
上述した予測に基づいて、9つの合金(合金A〜I)を第2系列の10合金に基づく組成にて製造した。製造した合金の実際の化学組成(重量%)を図8の表に列挙する。これらの合金から、部分的にはタンタル及びモリブデン含量の差異に基づいて、2つの区別できる合金タイプを同定した。合金A〜Hを含む第1の合金タイプは、下記の表2に示され、部分的には比較的高いタンタルレベルにより特徴付けられる。合金Iを含む第2の合金タイプは、下記の表3に示され、比較的高いモリブデン含量により特徴付けられる。表2には、合金A及びEの組成についての合金化範囲も示し、この範囲は、約1400°Fにて、保持時間(滞留)300秒及び最大応力強度20ksi√in(約22MPa√m)を用いて行ったTHFCGR(da/dt)試験における実際の性能に基づく特に有望な特性をもつと考えられる。合金A〜Iの亀裂伝播速度及びR104に対する相対的亀裂伝播速度を下記の表1に示す。図9の表に、合金A〜Iの他の特性をR104と比較して示す。極限引張強さ(UTS)、降伏強さ(0.02%YS及び0.2%YS)、伸び(EL)、及び断面縮小率(RA)を1400°F(約760℃)で評価し、0.2%クリープまでの時間(0.2%クリープ)及び破断(破断時間)を1400°F及び100ksi(約760℃及び約690MPa)で評価した。なお、合金A、E及びIのクリープ及び破断挙動は、極めて良好なクリープ及び破断挙動を示すと考えられるR104のそれより著しく高かった。図10は、図9の破断データを表1のHTFCGRデータに対してプロットしたグラフである。図10のの視覚的表示から、合金A、E及びIが保持時間亀裂伝播速度と破断との最適な組合せを示し、R104に対して顕著な向上を示唆することが分かる。
【0021】
【表1】

【0022】
高いアルミニウムレベルが高温での使用に必要な合金安定性を促進するが、通常高いチタンレベルがほとんどの機械的特性に有利であることに鑑みて、チタン:アルミニウム重量比は、表2及び表3の合金にとって重要であると考えられる。さらに、モリブデン:(モリブデン+タングステン)重量比は表2の合金にとって重要であると考えられる。この比が、高温応答にふさわしい高融点元素含量を示し、γ及びγ′相の高融点元素含量をバランスさせるからである。このような理由で、これらの比も適用可能なら表2及び表3に含めてある。表2及び3に列挙した元素のほかに、望ましくない特性をもたらすことなく、少量の他の合金化成分が存在しうる。このような成分とその量(重量)は、例えば2.5%以下のレニウム、2%以下のバナジウム、2%以下の鉄及び0.1%以下のマグネシウムである。
【0023】
【表2】

【0024】
【表3】

【0025】
図2、図5及び図8に同定した合金組成物及び表2及び表3に同定した合金及び合金化範囲は、当初、解析的予測に基づくものであったが、かかる予測をなしこれらの合金組成物を同定するのに依拠した広範な解析とすべての情報は、これらの合金、特に表2及び表3の合金組成物がガスタービンエンジンのタービンディスクに望ましいクリープ及び保持時間疲労亀裂伝播速度特性の有意な向上を達成する可能性を強く示唆している。
【0026】
以上、本発明をニッケル基超合金の特定の組成及び特性を含む特定の実施形態について説明したが、本発明の範囲はこれに限定されない。本発明の範囲を限定するのは特許請求の範囲だけである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%表示で、
16.0〜30.0%のコバルト、
11.5〜15.0%のクロム、
4.0〜6.0%のタンタル、
2.0〜4.0%のアルミニウム、
1.5〜6.0%のチタン、
5.0%以下のタングステン、
1.0〜7.0%のモリブデン、
3.5%以下のニオブ、
1.0%以下のハフニウム、
0.02〜0.20%の炭素、
0.01〜0.05%のホウ素、
0.02〜0.10%のジルコニウム、
残部のニッケル及び不可避不純物を含み、チタン:アルミニウム重量比が0.5〜2.0である、γ′ニッケル基超合金。
【請求項2】
タンタル含量が4.4%以上である、請求項1記載のγ′ニッケル基超合金。
【請求項3】
ハフニウム含量が0.1%以上である、請求項1又は請求項2記載のγ′ニッケル基超合金。
【請求項4】
γ′ニッケル基超合金が、重量%表示で、17.1〜20.9%のコバルト、11.5〜14.3%のクロム、4.4〜5.6%のタンタル、2.1〜3.7%のアルミニウム、1.7〜5.0%のチタン、1.0〜5.0%のタングステン、1.3〜4.9%のモリブデン、0.9〜2.5%のニオブ、0.6%以下のハフニウム、0.02〜0.10%の炭素、0.01〜0.05%のホウ素、0.02〜0.08%のジルコニウム、残部のニッケル及び不可避不純物からなり、チタン:アルミニウムの重量比が0.54〜1.83である、請求項1記載のγ′ニッケル基超合金。
【請求項5】
γ′ニッケル基超合金が、重量%表示で、17.1〜20.7%のコバルト、11.5〜13.9%のクロム、4.5〜5.6%のタンタル、2.1〜3.5%のアルミニウム、2.8〜4.0%のチタン、1.3〜3.1%のタングステン、2.6〜4.9%のモリブデン、0.9〜2.0%のニオブ、0.1〜0.59%のハフニウム、0.03〜0.10%の炭素、0.01〜0.05%のホウ素、0.02〜0.08%のジルコニウム、残部のニッケル及び不可避不純物からなり、チタン:アルミニウムの重量比が0.98〜1.45である、請求項1記載のγ′ニッケル基超合金。
【請求項6】
γ′ニッケル基超合金が、重量%表示で、18.8〜20.7%のコバルト、12.6〜13.9%のクロム、4.5〜5.5%のタンタル、2.1〜2.6%のアルミニウム、3.1〜3.8%のチタン、1.3〜1.6%のタングステン、4.0〜4.9%のモリブデン、0.9〜1.1%のニオブ、0.13〜0.38%のハフニウム、0.03〜0.10%の炭素、0.02〜0.05%のホウ素、0.02〜0.07%のジルコニウム、残部のニッケル及び不可避不純物からなり、チタン:アルミニウムの重量比が1.18〜1.45である、請求項1記載のγ′ニッケル基超合金。
【請求項7】
γ′ニッケル基超合金が、重量%表示で、17.1〜18.9%のコバルト、11.5〜12.7%のクロム、4.6〜5.6%のタンタル、2.9〜3.5%のアルミニウム、2.8〜3.4%のチタン、2.5〜3.1%のタングステン、2.6〜3.2%のモリブデン、1.3〜1.6%のニオブ、0.20〜0.59%のハフニウム、0.03〜0.08%の炭素、0.01〜0.04%のホウ素、0.03〜0.08%のジルコニウム、残部のニッケル及び不可避不純物からなり、チタン:アルミニウムの重量比が0.98〜1.18である、請求項1記載のγ′ニッケル基超合金。
【請求項8】
モリブデン:(モリブデン+タングステン)の重量比が0.24〜0.76である、請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載のγ′ニッケル基超合金。
【請求項9】
γ′ニッケル基超合金がγ′ソルバス温度1200℃以下である、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載のγ′ニッケル基超合金。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載のγ′ニッケル基超合金から形成された部品であって、ガスタービンエンジンのタービンディスク、圧縮機ディスク及び圧縮機ブリスクから選択される粉末冶金部品である、部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−275636(P2010−275636A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121132(P2010−121132)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】