説明

ニッケル水素二次電池

【課題】長期間放置しても、その作動電圧の低下を抑制することができるニッケル水素二次電池を提供する。
【解決手段】ニッケル水素二次電池は正極24及び負極26を備え、正極24はマグネシウムを固溶した水酸化ニッケル粒子36からなる正極活物質を含み、負極26は、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金の粉末44を含み、更に、負極26及び正極24のうちの少なくとも一方は、添加材38,46として亜鉛及び亜鉛化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含み、添加材38,46の含有量は、負極26においては、水素吸蔵合金100重量部に対して0.2〜1.5重量部の範囲にあり、正極24においては、正極活物質100重量部に対して0.3〜1.5重量部の範囲にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル水素二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金は、水素ガスを多量に吸蔵できる特徴を有し、ニッケル水素二次電池に適用された場合、ニッケル水素二次電池の高容量化に寄与する。
しかしながら、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を適用した従来のニッケル水素二次電池は、高い容量を発揮するものの自己放電が大きいことから、放置期間が長いと残存容量が減少し、使用する直前に充電する必要が屡々生じていた。そこで、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を負極に用いて高容量化された電池に対しては、自己放電特性の改良をすべく数多くの研究がなされ、その結果、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いた自己放電抑制型のニッケル水素二次電池が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような自己放電抑制型の電池は、ユーザーが予め充電をしておけば、放置しても残存容量の減少量が少ないので、使用直前に再充電が必要となる状況の発生頻度を低減できるというメリットがある。このようなメリットを活かすことで、負極に希土類−Mg−Ni系合金を用いた自己放電抑制型のニッケル水素電池は、あたかも乾電池のような使い勝手の良さと、乾電池以上の高い容量を併せ持つ、非常に優れた電池となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−149646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、本発明者は、上記したような希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いた自己放電抑制型のニッケル水素二次電池について、従来想定されていた放置期間よりも長い期間放置した場合の電池の状態を検証した結果、容量が十分残っているにも拘わらず作動電圧が著しく低下する現象を確認した。このように、作動電圧が低下した電池は、比較的高い作動電圧が要求される機器に用いられると、電池の容量が残っているにも拘わらず機器を駆動できないという不具合を起こしてしまう。
【0006】
本発明は、上記の事情に基づいてなされたものであり、その目的とするところは、長期間放置した場合でも、その作動電圧の低下を抑制することができる希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いたニッケル水素二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明者は、希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を用いた自己放電抑制型のニッケル水素二次電池の長期放置後の作動電圧の低下を抑制する手段を鋭意検討した。本発明者は、この検討過程で、負極中の希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金から溶出したマグネシウムがアルカリ電解液と反応して水素吸蔵合金の表面近傍で水酸化マグネシウムを形成し、この水酸化マグネシウムが水素吸蔵合金の表面での充放電反応を阻害することを見出した。ここで、マグネシウムの電解液への溶解度は非常に低いので、マグネシウムの溶出は従来問題視されていなかった。しかし、マグネシウムは長期間に亘り徐々に溶出するため、水素吸蔵合金からのマグネシウムの溶出に起因する作動電圧の低下といった弊害は長期間の放置により初めて表面化した。
【0008】
以上のような知見から、本発明者は、上記した水酸化マグネシウムによる水素吸蔵合金表面での充放電反応の阻害が作動電圧の低下の原因と考え、水酸化マグネシウムの形成を抑えることにより、長期間放置後の電池の作動電圧低下を抑制すべく本発明に想到した。
【0009】
すなわち、本発明によれば、容器内に電極群がアルカリ電解液とともに密閉状態で収容され、前記電極群がセパレータ、負極及び正極からなるニッケル水素二次電池において、前記負極は、一般式:Ln1−wMgNiAl(ただし、式中、Lnは、ランタノイド元素、Ca、Sr、Sc、Y、Ti、ZrおよびHfから選ばれる少なくとも一つの元素、Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、PおよびBから選ばれる少なくとも一つの元素、添字w、x、y、zは、それぞれ0<w≦1、2.80≦x≦3.50、0.10≦y≦0.25、0≦z≦0.5を示す)で表される組成を有する水素吸蔵合金を含み、前記正極は、マグネシウムを固溶した水酸化ニッケルからなる正極活物質を含み、前記負極及び前記正極のうちの少なくとも一方は、添加材として亜鉛及び亜鉛化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種を更に含み、前記添加材の含有量は、前記負極においては、前記水素吸蔵合金100重量部に対して0.2〜1.5重量部の範囲にあり、前記正極においては、前記正極活物質100重量部に対して0.3〜1.5重量部の範囲にあることを特徴とするニッケル水素二次電池が提供される(請求項1)。
【0010】
また、前記水酸化ニッケルは、コバルト及び亜鉛のうちの少なくとも一方を更に固溶している構成とすることが好ましい(請求項2)。
【0011】
より好ましくは、前記亜鉛化合物は、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛から選ばれる一種以上を含む構成とする(請求項3)。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るニッケル水素二次電池は、負極に希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金を含み、正極活物質である水酸化ニッケルにマグネシウムが固溶されており、更に、正極及び負極のどちらか一方あるいは両方に亜鉛及び亜鉛化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種が添加材として含まれている。正極中の水酸化ニッケルにマグネシウムを固溶させると、負極の水素吸蔵合金からマグネシウムが溶出してくることを抑制することができる。このため、水素吸蔵合金の表面にて水酸化マグネシウムが形成されることを抑えることができる。そして、正極及び負極のどちらかに亜鉛又は亜鉛化合物が添加材として存在すると、これら亜鉛又は亜鉛化合物が電解液中に僅かながら溶出したマグネシウムを捕捉し、電池反応を阻害しない亜鉛−マグネシウム化合物を形成する。これにより、溶出したマグネシウムが水酸化マグネシウムとなることをより確実に抑えることができる。よって、水酸化マグネシウムにより水素吸蔵合金表面での充放電反応が阻害されることは有効に防止され、長期間の放置後においても作動電圧の高いニッケル水素二次電池を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態に係るニッケル水素二次電池を部分的に破断して示した斜視図である。
【図2】正極への酸化亜鉛の添加量と放置後の作動電圧低下量との関係を示したグラフである。
【図3】負極への酸化亜鉛の添加量と放置後の作動電圧低下量との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るニッケル水素二次電池(以下、単に電池と称する)を、図面を参照して説明する。
本発明が適用される電池としては特に限定されないが、例えば、図1に示すAAサイズの円筒型電池2に本発明を適用した場合を例に説明する。
【0015】
図1に示すように、電池2は、上端が開口した有底円筒形状をなす外装缶10を備えている。外装缶10の底壁4は導電性を有し、負極端子として機能する。外装缶10の開口内には、導電性を有する円板形状の蓋板14及びこの蓋板14を囲むリング形状の絶縁パッキン12が配置され、絶縁パッキン12は外装缶10の開口縁をかしめ加工することにより外装缶10の開口縁に固定されている。即ち、蓋板14及び絶縁パッキン12は互いに協働して外装缶10の開口を気密に閉塞している。
【0016】
しかしながら、蓋板14は中央にガス抜き孔16を有し、そして、蓋板14の外面上にはガス抜き孔16を塞ぐゴム製の弁体18が配置されている。更に、蓋板14の外面上には、弁体18を覆うようにしてフランジ付き円筒形状の正極端子20が固定され、正極端子20は弁体18を蓋板14に向けて押圧している。従って、通常時、ガス抜き孔16は弁体18によって気密に閉じられている。一方、外装缶10内にガスが発生し、その内圧が高まれば、弁体18は内圧によって圧縮され、ガス抜き孔16を開き、この結果、外装缶10内からガス抜き孔16及び正極端子20を介してガスが放出される。つまり、ガス抜き孔16、弁体18及び正極端子20は電池のための安全弁を形成している。
【0017】
外装缶10には、電極群22が収容されている。この電極群22は、それぞれ帯状の正極24、負極26及びセパレータ28からなり、これらは正極24と負極26との間にセパレータ28が挟み込まれた状態で渦巻状に巻回されている。即ち、セパレータ28を介して正極24及び負極26が互い重ね合わされている。電極群22の最外周は負極26の一部(最外周部)により形成され、外装缶10の内周壁と接触している。即ち、負極26と外装缶10とは互いに電気的に接続されている。
【0018】
そして、外装缶10内には、電極群22の一端と蓋板14との間に正極リード30が配置され、正極リード30の両端は正極24の内端及び蓋板14にそれぞれ接続されている。従って、蓋板14の正極端子20と正極24とは、正極リード30及び蓋板14を介して互いに電気的に接続されている。なお、蓋板14と電極群22との間には円形の絶縁部材32が配置され、正極リード30は絶縁部材32に設けられたスリットを通して延びている。また、電極群22と外装缶10の底部との間にも円形の絶縁部材34が配置されている。
【0019】
更に、外装缶10内には、所定量のアルカリ電解液(図示せず)が注入されている。このアルカリ電解液は、電極群22に含浸され、正極24と負極26との間での充放電反応を進行させる。なお、アルカリ電解液の種類としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化リチウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、及びこれらのうち2つ以上を混合した水溶液等をあげることができ、またアルカリ電解液の濃度についても特には限定されず、例えば、8N(規定度)のものを用いることができる。
【0020】
セパレータ28の材料としては、例えば、ポリアミド繊維製不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのポリオレフィン繊維製不織布に親水性官能基を付与したものを用いることができる。
【0021】
正極24は、多孔質構造を有する導電性の正極基板と、正極基板の空孔内に保持された正極合剤とからなる。
このような正極基板としては、例えば、ニッケルめっきが施された網状、スポンジ状若しくは繊維状の金属体を用いることができる。
【0022】
正極合剤は、図1中円X内に概略的に示されているが、正極活物質粒子36と、正極添加材38と、結着剤42とを含む。なお、正極合剤は必要に応じて導電剤を含むことができる。結着剤42は、正極活物質粒子36、正極添加材38及び導電剤を互いに結着させると同時に正極合剤を正極基板に結着させる働きをなす。
【0023】
正極活物質粒子36は、水酸化ニッケル粒子又は高次の水酸化ニッケル粒子である。そして、これら水酸化ニッケル粒子は、マグネシウムを固溶している。このように、正極の水酸化ニッケル中にマグネシウムが固溶された状態で存在すると、負極の希土類−Mg−Ni系水素吸蔵合金から電解液中へのマグネシウムの溶出を抑制することができる。詳しくは、マグネシウムは、電解液に対して所定の溶解度を有しており、正極(水酸化ニッケル)から電解液中に所定量のマグネシウムが溶出すると、それ以上は、電解液中にマグネシウムは溶出しないので、負極の水素吸蔵合金からのマグネシウムの溶出は抑制されると考えられる。このため、水素吸蔵合金近傍での水酸化マグネシウムの形成は防止されると考えられる。また、正極側から負極側へマグネシウムが移動したとしても、後述する添加材によりマグネシウムは捕捉され、水素吸蔵合金表面で水酸化マグネシウムが形成されることは抑制されると考えられる。
ここで、水酸化ニッケル粒子に固溶されるマグネシウムの含有量は、0.4〜0.6重量%とすることが好ましい。
【0024】
更に、水酸化ニッケルには、コバルト及び亜鉛のうちの少なくとも一方を固溶させることが好ましい。ここで、コバルトは正極活物質粒子間の導電性の向上に寄与し、亜鉛は、充放電サイクルの進行に伴う正極の膨化を抑制し、電池のサイクル寿命特性の向上に寄与する。
【0025】
ここで、水酸化ニッケル粒子に固溶される上記元素の含有量は、水酸化ニッケルに対して、コバルトが0.4〜0.9重量%、亜鉛が3.5〜4.5重量%とすることが好ましい。
【0026】
正極添加材38は、亜鉛及び亜鉛化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種を含んでいる。この正極添加材38は粒子状をなし、正極活物質粒子36間に分布している。ここで、亜鉛の化合物としては、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛等が挙げられる。この正極添加材38は、電解液中に僅かながら溶出したマグネシウムを補足して亜鉛−マグネシウムの化合物を形成する。これにより、電解液に溶出したマグネシウムが水酸化マグネシウムに変化することを抑制することができる。このため、正極添加材は、作動電圧の低下抑制に寄与すると考えられる。なお、この亜鉛−マグネシウム化合物は、電池反応を阻害しない物質であるので、電解液中に形成されても電池の特性に影響を与えない。
【0027】
ここで、正極合剤中の正極添加材の含有量は、正極活物質100重量部に対して0.3重量部より少ないと、長期放置後の作動電圧の低下を抑制する効果は認められない。一方、正極添加材の含有量が正極活物質100重量部に対して1.5重量部を超えると、長期放置後の作動電圧の低下量が増加してくる。よって、作動電圧の低下の抑制効果を発揮させるには,正極添加材の含有量を正極活物質100重量部に対して0.3〜1.5重量部の範囲に設定する。
【0028】
導電剤としては、例えば、コバルト酸化物(CoO)やコバルト水酸化物(Co(OH))などのコバルト化合物及びコバルト(Co)から選択された1種又は2種以上を用いることができる。また、これらコバルト化合物は、水酸化ニッケルの表面を被覆して存在させることもできる。
【0029】
正極合剤の結着剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)ディスパージョン、HPC(ヒドロキシプロピルセルロース)ディスパージョンなどを用いることができる。
【0030】
正極24は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水酸化ニッケル粒子36からなる正極活物質粉末、正極添加材38、水、そして、必要に応じて導電剤及び結着剤を含む正極合剤スラリーを調製する。正極合剤スラリーは例えばスポンジ状のニッケル製金属体に充填され、乾燥させられる。乾燥後、水酸化ニッケル粒子等が充填された金属体は、ロール圧延されてから裁断され、正極24が作製される。
【0031】
負極26は、帯状をなす導電性の負極基板(芯体)を有し、この負極基板に負極合剤が保持されている。
負極基板は、貫通孔が分布されたシート状の金属材からなり、例えば、パンチングメタルシートや、金属粉末を型成形して焼結した焼結基板を用いることができる。負極合剤は、負極基板の貫通孔内に充填されるばかりでなく、負極基板の両面上にも層状にして保持されている。
【0032】
負極合剤は、図1中円Z内に概略的に示されているが、負極活物質としての水素を吸蔵及び放出可能な水素吸蔵合金粒子44と、電池を長期放置した後の作動電圧の低下抑制に寄与する負極添加材46と、結着剤48とを含む。なお、負極合剤は必要に応じて導電助剤を更に含むことできる。結着剤48は、水素吸蔵合金粒子44、負極添加材46及び導電助剤を互いに結着させると同時に負極合剤を負極基板に結着させる働きをなす。ここで、結着剤としては親水性若しくは疎水性のポリマー等を用いることができ、導電助剤としては、カーボンブラックや黒鉛を用いることができる。
【0033】
水素吸蔵合金粒子44における水素吸蔵合金の組成は、一般式:
Ln1−wMgNiAl ・・・(I)
で表されるものが用いられる。
【0034】
ただし、一般式(I)中、Lnは、ランタノイド元素、Ca、Sr、Sc、Y、Ti、ZrおよびHfから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、PおよびBから選ばれる少なくとも一つの元素を表し、添字w、x、y、zは、それぞれ0<w≦1、2.80≦x≦3.50、0.10≦y≦0.25、0≦z≦0.5を満たす数を表す。
【0035】
水素吸蔵合金粒子44は、例えば以下のようにして得られる。
まず、所定の組成となるよう金属原材料を秤量して混合し、この混合物を例えば誘導溶解炉で溶解してインゴットにする。得られたインゴットに、900〜1200℃の不活性ガス雰囲気下にて5〜24時間加熱する熱処理を施す。この後、インゴットを粉砕し、篩分けにより所望粒径に分級して、水素吸蔵合金粒子44が得られる。
【0036】
負極添加材46は、亜鉛及び亜鉛化合物よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでいる。この負極添加材46は粒子状をなし、水素吸蔵合金粒子44間に分布している。ここで、亜鉛化合物としては、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛等が挙げられる。なお、負極添加材46は、正極添加材38と同様に電解液中に僅かながら溶出したマグネシウムを補足して亜鉛−マグネシウムの化合物を形成し、電解液に溶出したマグネシウムが水酸化マグネシウムに変化することを抑制する働きをする。このため、負極添加材は、作動電圧の低下抑制に寄与すると考えられる。
【0037】
ここで、負極合剤中の負極添加材の含有量は、水素吸蔵合金100重量部に対して0.2重量部より少ないと、長期放置後の作動電圧の低下を抑制する効果は認められない。一方、負極添加材の含有量が水素吸蔵合金100重量部に対して1.5重量部を超えると、長期放置後の作動電圧の低下量が増加してくる。よって、作動電圧の低下の抑制効果を発揮させるには,負極添加材の含有量を水素吸蔵合金100重量部に対して0.2〜1.5重量部の範囲に設定する。
なお、本発明において、添加材としての亜鉛又は亜鉛化合物は、負極26及び正極24のうちの少なくとも一方に含まれていればよい。
【0038】
負極26は、例えば以下のようにして製造することができる。
まず、水素吸蔵合金粒子44からなる水素吸蔵合金粉末、負極添加材46、必要に応じて導電助剤、結着剤及び水を混練して負極合剤スラリーを調製する。得られた負極合剤スラリーは負極基板に塗着され、乾燥させられる。乾燥後、水素吸蔵合金粒子44等が付着した負極基板はロール圧延及び裁断され、これにより負極26が作製される。
【実施例】
【0039】
1.電池の製造
(実施例1)
(1)正極の作製
ニッケルに対して亜鉛3重量%、コバルト1重量%、マグネシウム0.4重量%となるように、硫酸ニッケル、硫酸亜鉛、硫酸コバルト及び硫酸マグネシウムの混合水溶液を攪拌しながら、この混合水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を徐々に添加して反応させ、ここでの反応中、pHを13〜14に安定させて、亜鉛、コバルト及びマグネシウムを固溶した水酸化ニッケルの複合粒子を析出させた。
得られた複合粒子を10倍の量の純水で3回洗浄した後、脱水、乾燥することにより、正極活物質36としての水酸化ニッケル粒子を作製した。
【0040】
次に、作成した水酸化ニッケル粒子100重量部に、10重量部の水酸化コバルト、40重量部のHPC(ヒドロキシプロピルセルロース)のディスバージョン液及び0.3重量部の酸化亜鉛(正極添加材38)を混合して正極合剤スラリーを調製し、この正極合剤スラリーを正極基板としての発泡ニッケルシートに塗着及び充填した。正極合剤スラリーが付着した発泡ニッケルシートを乾燥後、ロール圧延して裁断し、正極を得た。ここで、得られた正極中の正極合剤は、正極添加材と粉末状の導電剤とが正極活物質間に存在する態様をなしている。
【0041】
(2)水素吸蔵合金及び負極の作製
先ず、20重量%のランタン、40重量%のプラセオジム、40重量%のネオジムを含む希土類成分を調製した。得られた希土類成分、マグネシウム、ニッケル、アルミニウムを秤量して、これらがモル比で0.85:0.15:3.15:0.25の割合となる混合物を調製した。得られた混合物は、誘導溶解炉で溶解され、インゴットとされた。次いで、このインゴットに対し、温度1000℃のアルゴン雰囲気下にて10時間加熱する熱処理を施し、その組成が(La0.20Pr0.40Nd0.400.85Mg0.15Ni3.15Al0.25となる水素吸蔵合金のインゴットを得た。この後、このインゴットを不活性雰囲気中で機械的に粉砕して篩分けし、400メッシュ〜200メッシュの間に残る水素吸蔵合金粒子からなる粉末を選別した。得られた水素吸蔵合金の粉末に対しレーザー回折・散乱式粒度分布測定装置によりその粒度分布を測定した結果、水素吸蔵合金の粉末の重量積分50%にあたる粒子の平均粒径は45μmであった。
【0042】
得られた水素吸蔵合金の粉末100重量部に対し、ポリアクリル酸ナトリウム0.4重量部、カルボキシメチルセルロース0.1重量部、スチレンブタジエンゴム(SBR)のディスバージョン(固形分50重量%)1.0重量部(固形分換算)、カーボンブラック1.0重量部、および水30重量部を添加して混練し、負極合剤スラリーを調製した。
【0043】
この負極合剤スラリーを負極基板としての鉄製の孔あき板の両面に均等、且つ、厚さが一定となるように塗布した。なお、この孔あき板は60μmの厚みを有し、その表面にはニッケルめっきが施されている。
スラリーの乾燥後、水素吸蔵合金の粉末が付着した孔あき板を更にロール圧延して裁断し、負極1枚あたりの水素吸蔵合金量が9.0gとなるAAサイズ用の負極26を作成した。
【0044】
(3)ニッケル水素二次電池の組み立て
得られた正極24及び負極26をこれらの間にセパレータ28を挟んだ状態で渦巻状に巻回し、電極群22を作製した。ここでの電極群22の作製に使用したセパレータ28はポリプロピレン繊維製不織布から成り、その厚みは0.1mm(目付量40g/m)であった。
【0045】
有底円筒形状の外装缶10内に上記電極群22を収納するとともに、リチウム、カリウムを含有した30重量%の水酸化ナトリウム水溶液から成る8N(規定度)のアルカリ電解液を注液した。この後、蓋板14等で外装缶10の開口を塞ぎ、公称容量が2000mAhのAAサイズのニッケル水素二次電池2を組み立てた。このニッケル水素二次電池を電池A1と称する。
【0046】
(実施例2〜4)
正極を作製する際に、正極合剤スラリーに混合する酸化亜鉛の量を表1に示すように0.5、1.0、1.5重量部としたこと以外は、実施例1の電池A1と同様なニッケル水素二次電池(電池B1、C1、D1)を組み立てた。
【0047】
(比較例1〜6)
正極を作製する際に、正極合剤スラリーに混合する酸化亜鉛の量を表1に示すように0、0.1、0.2、2.0、3.0、5.0重量部としたこと以外は、実施例1の電池A1と同様なニッケル水素二次電池(電池E1、F1、G1、H1、I1、J1)を組み立てた。
【0048】
(比較例7〜17)
正極を作製する際に、水酸化ニッケルにマグネシウムを固溶させずに正極活物質を作製し、且つ、正極合剤スラリーに混合する酸化亜鉛の量を表1に示すように0、0.1、0.2、0.3、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、5.0、9.0重量部としたこと以外は、実施例1の電池A1と同様なニッケル水素二次電池(電池K1、L1、M1、N1、O1、P1、Q1、R1、S1、T1、U1)を組み立てた。
【0049】
(実施例5〜9)
正極を作製する際に正極合剤スラリーに酸化亜鉛を混合させず、負極を作製する際に負極合剤スラリーに酸化亜鉛を混合し、当該負極合剤スラリーに混合する酸化亜鉛の量を水素吸蔵合金100重量部に対して表2に示すように0.2、0.3、0.5、1.0、1.5重量部としたこと以外は、実施例1の電池A1と同様なニッケル水素二次電池(電池A2、B2、C2、D2、E2)を組み立てた。
【0050】
(比較例18〜22)
負極を作製する際に、負極合剤スラリーに混合する酸化亜鉛の量を表2に示すように0、0.1、2.0、3.0、5.0重量部としたこと以外は、実施例5の電池A2と同様なニッケル水素二次電池(電池F2、G2、H2、I2、J2)を組み立てた。
【0051】
(比較例23〜33)
正極を作製する際に、水酸化ニッケルにマグネシウムを固溶させずに正極活物質を作製し、且つ、負極合剤スラリーに混合する酸化亜鉛の量を表2に示すように0、0.1、0.2、0.3、0.5、1.0、1.5、2.0、3.0、5.0、9.0重量部としたこと以外は、実施例5の電池A2と同様なニッケル水素二次電池(電池K2、L2、M2、N2、O2、P2、Q2、R2、S2、T2、U2)を組み立てた。
【0052】
2.ニッケル水素二次電池の評価
(1)初期活性化処理
電池A1〜U1及び電池A2〜U2に対し、温度25℃の下にて、0.1Cの充電電流で16時間の充電を行った後に、0.2Cの放電電流で電池電圧が0.5Vになるまで放電させる初期活性化処理を2回繰り返した。
【0053】
(2)放置後の作動電圧低下量
初期活性化処理済みの電池A1〜U1及び電池A2〜U2に対し、25℃の雰囲気下にて、1.0Cの電流で1時間充電し、その後、同一の雰囲気下にて1.0Cの電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電させたときの電池の放電容量測定を行い、このときの全放電時間の中間時点での電池の電圧を初期作動電圧として求めた。
【0054】
更に、各電池について、25℃の雰囲気下にて、1.0Cの電流で1時間充電し、その後、60℃の雰囲気下にて1ヶ月間保存(室温で1年間保存した状態に相当)した後、当該電池を25℃の雰囲気下にて、1.0Cの電流で電池電圧が0.8Vになるまで放電する放電容量測定を行い、このときの全放電時間の中間時点での電池の電圧を放置後作動電圧として求めた。そして、(II)式で示される放置後作動電圧低下量(単位:mV)を求めた。
放置後作動電圧低下量=(放置後作動電圧)−(初期作動電圧)・・・(II)
得られた結果を放置後作動電圧低下量として表1及び表2に示した。
【0055】
また、正極にマグネシウムが固溶されている(水酸化ニッケル粒子にマグネシウムが固溶されている)電池A1〜J1と、正極にマグネシウムが固溶されていない(水酸化ニッケル粒子にマグネシウムが固溶されていない)電池K1〜U1とにおいて、正極添加剤としての酸化亜鉛の添加量と作動電圧低下量との関係を表1の結果を基にして求め、その結果を図2に示した。
【0056】
更に、正極にマグネシウムが固溶されている(水酸化ニッケル粒子にマグネシウムが固溶されている)電池A2〜J2と、正極にマグネシウムが固溶されていない(水酸化ニッケル粒子にマグネシウムが固溶されていない)電池K2〜U2とにおいて、負極添加剤としての酸化亜鉛の添加量と作動電圧低下量との関係を表2の結果を基にして求め、その結果を図3に示した。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
(3)表1及び図2の結果について
表1及び図2から以下のことが明らかである。即ち、正極(水酸化ニッケル)へのマグネシウムの固溶がある電池の場合、正極への酸化亜鉛の添加による放置後の作動電圧の低下抑制効果は、水酸化ニッケル100重量部に対する酸化亜鉛の添加量を0.3〜1.5重量部としたところで顕著に現れている。
【0060】
これは、正極の水酸化ニッケルにマグネシウムが固溶されていると、負極の水素吸蔵合金からのマグネシウムの溶出が抑制され、更に、正極へ添加された酸化亜鉛(正極添加材)との相乗効果で、水素吸蔵合金表面での水酸化マグネシウムの形成が抑制されているためであると考えられる。
【0061】
これに対し、正極(水酸化ニッケル)へのマグネシウムの固溶がない電池の場合、正極への酸化亜鉛の添加による放置後の作動電圧の低下抑制効果は、水酸化ニッケル100重量部に対する酸化亜鉛の添加量を2.0〜5.0重量部としたところでみられるが、十分なものではない。
【0062】
これは、正極の水酸化ニッケルにマグネシウムが固溶されていないと、水素吸蔵合金から電解液中にマグネシウムが優先的に溶出してしまう。そして、正極に酸化亜鉛(正極添加材)は添加されているものの、この添加材で電解液中に溶出したマグネシウムを捕捉しきれていないので、水素吸蔵合金の表面で水酸化マグネシウムが形成されていると考えられる。その結果、電池の作動電圧は低下してしまい、作動電圧の低下抑制効果はあまり発揮されていないものと考えられる。
【0063】
(4)表2及び図3の結果について
次に、表2及び図3から以下のことが明らかである。即ち、正極(水酸化ニッケル)へのマグネシウムの固溶がある電池の場合、負極への酸化亜鉛の添加による放置後の作動電圧の低下抑制効果は、水素吸蔵合金100重量部に対する酸化亜鉛の添加量を0.2〜1.5重量部としたところで顕著に現れている。
【0064】
これは、正極の水酸化ニッケルにマグネシウムが固溶されていると、負極の水素吸蔵合金からのマグネシウムの溶出が抑制され、更に、負極へ添加された酸化亜鉛(負極添加材)との相乗効果で、水素吸蔵合金の表面で水酸化マグネシウムの形成が抑制されているためであると考えられる。
【0065】
ここで、負極への酸化亜鉛の添加が効果を発揮する下限の量(0.2重量部)は、正極への酸化亜鉛の添加が効果を発揮する下限の量(0.3重量部)より少ないことがわかる。これは、通常ニッケル水素二次電池においては、負極の容量を正極より大きくする電池構成をとるために、負極の水素吸蔵合金量は正極の活物質量より多くなる。このため、正極及び負極に実際に添加される添加材の量が同じでも、極板に占める添加材の割合は負極の方が少なくなるためと考えられる。
【0066】
次いで、正極(水酸化ニッケル)へのマグネシウムの固溶がない電池の場合、負極への酸化亜鉛の添加による放置後の作動電圧の低下抑制効果は、水素吸蔵合金100重量部に対する酸化亜鉛の添加量を2.0〜5.0重量部としたところでみられるが、十分なものではない。
【0067】
これは、正極の水酸化ニッケルにマグネシウムが固溶されていないと、水素吸蔵合金から電解液中にマグネシウムが優先的に溶出してしまう。そして、負極に酸化亜鉛(負極添加材)は添加されているものの、この添加材で電解液中に溶出したマグネシウムを捕捉しきれていないので、水素吸蔵合金の表面で水酸化マグネシウムが形成されていると考えられる。その結果、作動電圧は低下してしまい、作動電圧の低下抑制効果はあまり発揮されていないものと考えられる。
【0068】
(5)以上のように、本発明のニッケル水素二次電池は、正極の水酸化ニッケルにマグネシウムを固溶させていることと、正極あるいは負極に添加材としての酸化亜鉛を添加していることとの相乗効果で、正極の水酸化ニッケルにマグネシウムが固溶していない電池に比べ、より少ない酸化亜鉛の添加量で大きな作動電圧低下抑制効果を得ることができ、その工業的価値は極めて高い。
【0069】
なお、本実施例では、正極及び負極のうちの一方に添加材としての酸化亜鉛を添加したが、正極及び負極の両方に酸化亜鉛を添加しても同様の効果が得られる。
【0070】
また、本実施例では、添加材として酸化亜鉛を用いたが、添加材としては、亜鉛(金属亜鉛)や炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、水酸化亜鉛を用いても同様の効果が得られる。これは、これら亜鉛や亜鉛化合物がアルカリ電解液中に溶解することで効果を発現するため、初期の添加形態には影響されないからである。
【0071】
また、本発明は、上記した実施形態及び実施例に限定されるものではなく、種々の変形が可能であり、例えば、ニッケル水素二次電池は、角形電池であってもよく、機械的な構造は格別限定されることはない。
【符号の説明】
【0072】
2 ニッケル水素二次電池
22 電極群
24 正極
26 負極
28 セパレータ
36 水酸化ニッケル粒子
38 正極添加材
44 水素吸蔵合金粒子
46 負極添加材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
容器内に電極群がアルカリ電解液とともに密閉状態で収容され、前記電極群がセパレータ、負極及び正極からなるニッケル水素二次電池において、
前記負極は、
一般式:Ln1−wMgNiAl(ただし、式中、Lnは、ランタノイド元素、Ca、Sr、Sc、Y、Ti、ZrおよびHfから選ばれる少なくとも一つの元素、Tは、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Mn、Fe、Co、Ga、Zn、Sn、In、Cu、Si、PおよびBから選ばれる少なくとも一つの元素、添字w、x、y、zは、それぞれ0<w≦1、2.80≦x≦3.50、0.10≦y≦0.25、0≦z≦0.5を示す)で表される組成を有する水素吸蔵合金を含み、
前記正極は、
マグネシウムを固溶した水酸化ニッケルからなる正極活物質を含み、
前記負極及び前記正極のうちの少なくとも一方は、添加材として亜鉛及び亜鉛化合物よりなる群から選ばれた少なくとも1種を更に含み、
前記添加材の含有量は、
前記負極においては、前記水素吸蔵合金100重量部に対して0.2〜1.5重量部の範囲にあり、
前記正極においては、前記正極活物質100重量部に対して0.3〜1.5重量部の範囲にある
ことを特徴とするニッケル水素二次電池。
【請求項2】
前記水酸化ニッケルは、コバルト及び亜鉛のうちの少なくとも一方を更に固溶していることを特徴とする請求項1に記載のニッケル水素二次電池。
【請求項3】
前記亜鉛化合物は、炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、水酸化亜鉛、酸化亜鉛から選ばれる一種以上を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載のニッケル水素二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−30345(P2013−30345A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165320(P2011−165320)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(510206213)FDKトワイセル株式会社 (36)
【Fターム(参考)】