説明

ニッケル系触媒、その前駆体およびそれらの製造方法

【課題】水素化活性がより優れるニッケル系触媒の提供。
【解決手段】酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムを主成分とする担体の表面に、ニッケルを主成分とする活性金属が担持しているニッケル系触媒であって、TEM−EDX分析を30箇所について行って得た各箇所についてのAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni)が90%以上の確率で1.0〜1.2で、平均値も1.0〜1.2である、ニッケル系触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はニッケル系触媒、その前駆体およびそれらの製造方法に関する。本発明のニッケル系触媒は、オレフィン系炭化水素類や芳香族類などの炭化水素を水素化するための水素化触媒として好ましく用いることができる。
【背景技術】
【0002】
一般的に、原油/ナフサ等の熱分解工程から誘導される各種オレフィン系炭化水素類、特に芳香族類やオレフィン性高分子類(石油樹脂類)を高付加価値の化合物にするための水素化プロセスには、汎用性の高いニッケル系触媒が使用されている。
【0003】
ニッケル系触媒として、従来、例えば特許文献1〜3に記載のものが提案されている。
特許文献1には、マグネシウムとアルミニウムとニッケルとを含み、該ニッケルはマグネシウムとアルミニウムとを含む多孔性複合酸化物担体にニッケル金属が微粒子状で担持されている構造を有している構造を有している比表面積、マグネシウム量、アルミニウム量、ニッケル量およびニッケル微粒子の平均粒径が特定範囲内であることを特徴とする炭化水素と水蒸気とを反応させるための触媒が記載されている。
特許文献2には、マグネシウムとアルミニウムとを含み、平均長さが0.05〜50nmである多孔性複合酸化物成形体であって該成形体の周縁部分に平均粒子径が5〜20nmnのニッケル金属粒子が担持されている炭化水素分解用触媒が記載されている。
特許文献3には、酸素の存在下、アルコール等を反応させてカルボン酸エステルを製造する際に用いられる触媒であって、酸化状態のニッケルと、X(Xはニッケル、パラジウム、白金、ルテニウム、金、銀及び銅からなる群から選択される少なくとも1種の元素を示す)とが、シリカ、アルミナおよびマグネシアを特定量含む担体に特定量担持されたカルボン酸エステル製造用触媒が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−135967号公報
【特許文献2】特開2003−225566号公報
【特許文献3】国際公開第2009/022544号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3に記載のような従来のニッケル系触媒は、オレフィン系炭化水素類や芳香族類などの炭化水素を水素化する性能、すなわち、水素化活性が不十分であった。
【0006】
本発明の目的は、水素化活性がより優れるニッケル系触媒、その前駆体およびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は上記課題を解決するため鋭意検討し、本発明を完成させた。
本発明は以下の(1)〜(7)である。
(1)酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムを主成分とする担体の表面に、ニッケルを主成分とする活性金属が担持しているニッケル系触媒であって、
TEM−EDX分析を30箇所について行って得た各箇所についてのAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni)が90%以上の確率で1.0〜1.2で、平均値も1.0〜1.2である、ニッケル系触媒。
(2)TEM−EDX分析を30箇所について行って得た各箇所についてのMgとNiとのピーク強度の比(Mg/Ni)が60%以上の確率で0.3以下で、平均値も0.3以下である、上記(1)に記載のニッケル系触媒。
(3)ニッケル含有率が7.5〜15質量%であり、
酸化アルミニウムの含有率が60〜90質量%であり、
酸化マグネシウムの含有率が5〜15質量%である、上記(1)または(2)に記載のニッケル系触媒。
(4)酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムを主成分とする担体の表面に、酸化ニッケルを主成分とする金属酸化物が担持している、還元するとニッケル系触媒が得られるニッケル系触媒前駆体であって、
TEM−EDX分析を30箇所について行って得た各箇所についてのAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni)が90%以上の確率で1.0〜1.2で、平均値も1.0〜1.2である、ニッケル系触媒前駆体。
(5)上記(4)に記載のニッケル系触媒前駆体を還元して得られるニッケル系触媒。
(6)ニッケル原料およびアルミニウム原料を合わせて湿式粉砕してスラリーAを得る工程と、
マグネシム原料を含むスラリーBを得る工程と、
前記スラリーAと前記スラリーBとを混合して混合スラリーを得る工程と、
前記混合スラリーを乾燥し、その後、焼成する工程と
を備える、上記(4)に記載のニッケル系触媒前駆体が得られる、ニッケル系触媒前駆体の製造方法。
(7)上記(6)に記載のニッケル系触媒前駆体の製造方法に、さらに前記ニッケル系触媒前駆体を還元する工程を備え、上記(1)、(2)、(3)または(5)に記載のニッケル系触媒が得られる、ニッケル系触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水素化活性がより優れるニッケル系触媒、その前駆体およびそれらの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】TEM−EDX分析によって得られるチャートの例示である。
【図2】実施例1および比較例1で得たTEM−EDX分析結果(チャート)である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明について説明する。
本発明は、酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムを主成分とする担体の表面に、ニッケルを主成分とする活性金属が担持しているニッケル系触媒であって、TEM−EDX分析を30箇所について行って得た各箇所についてのAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni)が90%以上の確率で1.0〜1.2で、平均値も1.0〜1.2である、ニッケル系触媒である。
このようなニッケル系触媒を、以下では「本発明の触媒」ともいう。
【0011】
また、本発明は、酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムを主成分とする担体の表面に、酸化ニッケルを主成分とする金属酸化物が担持している、還元するとニッケル系触媒が得られるニッケル系触媒前駆体であって、TEM−EDX分析を30箇所について行って得た各箇所についてのAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni)が90%以上の確率で1.0〜1.2で(すなわち、30個のデータの27個以上が1.0〜1.2の範囲内の値であり)、平均値も1.0〜1.2である、ニッケル系触媒前駆体である。
このようなニッケル系触媒前駆体を、以下では「本発明の前駆体」ともいう。
【0012】
本発明の触媒と本発明の前駆体との異なる点は、前者はニッケルが担体に担持しているのに対して、後者は酸化ニッケルが担体に担持している点である。その他、例えば担体の組成、粒子径、担持している活性金属または金属の粒子径や分布状態、比表面積等は差異がない。本発明の前駆体を還元すると、担持している酸化ニッケルがニッケルとなり、本発明の触媒を得ることができる。
以下では、本発明の触媒について説明するが、特に断りがない限り、本発明の前駆体においても同様である。
【0013】
本発明の触媒について説明する。
本発明の触媒は、後に詳細に説明するように、担体の表面に活性金属が担持しているニッケル系触媒である。そして、TEM−EDX分析を30箇所について行って得た各箇所についてのAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni)が90%以上の確率で1.0〜1.2であり、その平均値も1.0〜1.2となるものである。また、各箇所についてのMgとNiとのピーク強度の比(Mg/Ni)が60%以上の確率で0.3以下であり、その平均値も0.3以下となるものが好ましい。
【0014】
本発明者は鋭意検討し、特定組成のニッケル系触媒における30箇所についてTEM−EDX分析を行い、得られる30個のAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni)のデータのバラツキが少なく特定の範囲内となる場合に、ニッケル系触媒の水素化活性がより優れることを見出した。この条件を満たす場合にニッケル系触媒の水素化活性が特に優れる理由は明らかではないが、ニッケル系触媒におけるAl原子、Ni原子およびMg原子の分布状態が水素化活性に影響しているものと、本発明者は推定している。具体的には、Mg原子とNi原子とが偏りなく離れた位置に分布している場合に、特に水素化活性が優れると、本発明者は推定している。
【0015】
TEM−EDX分析について説明する。
本発明においてTEM−EDX分析とは、エネルギー分散型X線分析装置を設けた透過電子顕微鏡を用いたEDX線分析を意味する。本発明では1以上のニッケル系触媒の粒子における任意の30箇所についてTEM−EDX分析を行う。測定箇所は1つのニッケル系触媒の粒子について1箇所の測定を行ってもよいし、2箇所以上の測定を行ってもよい。1以上のニッケル系触媒の粒子において、任意の30箇所についてTEM−EDX分析を行えばよい。
【0016】
TEM−EDX分析を行うと、1箇所の測定点につき、図1に示すようなチャートが1つ得られる。すなわち、電子ビームを照射した際に発生する特性X線のエネルギー(eV)を横軸、そのエネルギーの特性X線の強度を縦軸とし、特性X線が853eV、1252eVおよび1485eVの場合に、Ni元素、Mg元素およびAl元素が存在していることを示すピークが示されているチャートである(図1では特性X線が524eVの場合にO元素が存在していることを示すピークも示されている)。
このようなチャートにおいて、Alのピーク強度はベースライン(BL)からピークまでの長さであり、図1においてβで表されるものである。また、Niのピーク強度も同様に、ベースライン(BL)からピークまでの長さであり、図1においてαで表されるものである。また、Mgのピーク強度も同様に、ベースライン(BL)からピークまでの長さであり、図1においてγで表されるものである。
そして、このようなチャートから得たαおよびβの比を、1箇所の測定点におけるAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni=β/α)とする。また、このようなチャートから得たγおよびαの比を、1箇所の測定点におけるMgとNiとのピーク強度の比(Mg/Ni=γ/α)とする。
このような測定を30箇所について行うと、図1に示したようなチャートが30個得られ、30個のAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni=β/α)のデータおよびMgとNiとのピーク強度の比(Mg/Ni=γ/α)のデータが得られる。
そして、30個のAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni=β/α)のデータは、その90%以上(すなわち27個以上)が1.0〜1.2となり、その平均値も1.0〜1.2となる。ここで30個のAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni=β/α)のデータは、その94%以上が1.05〜1.15となり、その平均値も1.05〜1.15となることが好ましい。また、30個のAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni=β/α)のデータは、その約96.5%が約1.1となり、その平均値も約1.1となることが好ましい。
また、MgとNiとのピーク強度の比(Mg/Ni=γ/α)のデータは、その60%以上が0.3以下となり、その平均値も0.3以下となることが好ましい。ここで30個のMgとNiとのピーク強度の比(Mg/Ni=γ/α)のデータは、その70%以上が0.25以下となり、その平均値も0.25以下となることがより好ましい。また、30個のMgとNiとのピーク強度の比(Mg/Ni=γ/α)のデータは、その約73.4%が約0.2となり、その平均値も約0.2となることがさらに好ましい。
【0017】
<担体>
次に、本発明の触媒の一部を構成する担体について説明する。
本発明の触媒の一部を構成する担体は、酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムを主成分とする。
ここで「主成分」とは、含有率が70質量%以上であることを意味する。すなわち、担体における酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムの合計含有率は70質量%以上である。この合計含有率は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがより好ましく、100質量%である、すなわち、担体が実質的に酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムからなることがさらに好ましい。ここで「実質的になる」とは、原料や製造過程から不可避的に含まれる不純物以外は含まないことを意味する。なお、以下に示す本発明の説明において「主成分」および「実質的になる」は、このような意味で用いる。
【0018】
また、担体が含有する酸化アルミニウムの態様は、概ねAl23と考えられるが、Al23・H2O、AlO(OH)、Al(OH)3等の水酸化物や水和物等であってもよい。すなわち、本発明において、酸化アルミニウムとは、アルミニウム原子が少なくとも1つの酸素と結合した化合物を意味するものとする。
【0019】
また、含有するアルミニウムが全てAl23の態様であると仮定して算出した場合に、本発明の触媒における含有率が60〜90質量%であることが好ましく、70〜87.5質量%であることがより好ましく、75〜85質量%であることがさらに好ましい。このような場合、本発明の触媒の水素化活性がより優れるからである。
【0020】
また、担体が含有する酸化マグネシウムの態様は、概ねMgOと考えられるが、Mg(OH)2等の水酸化物等であってもよい。すなわち、本発明において、酸化マグネシウムとは、マグネシウム原子が少なくとも1つの酸素と結合した化合物を意味するものとする。
【0021】
また、含有するマグネシウムが、全てMgOの態様であると仮定して算出した場合に、本発明の触媒における含有率が5〜20質量%であることが好ましく、5〜15質量%であることがより好ましく、8〜12質量%であることがさらに好ましい。このような場合、本発明の触媒の水素化活性がより優れるからである。
【0022】
担体の平均粒子径(メジアン径)および比表面積は特に限定されないものの、後述する本発明の触媒の平均粒子径および比表面積と同程度であってよい。
【0023】
<活性金属>
次に、本発明の触媒の一部を構成する活性金属について説明する。
前記担体は表面にニッケルを主成分とする活性金属に担持している。すなわち、活性金属におけるニッケルの含有率は70質量%以上である。
【0024】
また、本発明の触媒におけるニッケルの含有率が5〜20質量%であることが好ましく、7.5〜15質量%であることがより好ましく、8〜12質量%であることがより好ましく、10質量%程度であることがさらに好ましい。また、本発明の触媒において、担体に対するニッケルの質量比は4〜8であることが好ましく、5〜7であることがより好ましい。このような場合、本発明の触媒の水素化活性がより優れるからである。また、本発明の触媒におけるニッケル含有率が低すぎると十分な水素化活性が得られ難くなる傾向がある。
【0025】
活性金属の一次粒子の平均粒子径は特に限定されないが、1〜600nmであることが好ましく、10〜550nmであることがより好ましい。このような範囲であると容易に製造することができ、また、粒子径が大きすぎる場合と比較して水素化活性が高いからである。
なお、活性金属の平均粒子径は、EPMAを用いて拡大写真を得た後、不作為に選んだ数十個の活性金属の直径を測定し、これを単純平均することで得るものとする。
【0026】
<本発明の触媒>
本発明の触媒は、前記担体に前記活性金属が担持したものであり、前述のように、TEM−EDX分析を特定箇所について行って得た各箇所についてのAl/Niの値が、少ないバラツキで特定の範囲内となるニッケル系触媒である。
【0027】
本発明の触媒の平均粒子径(メジアン径)は、1〜40μmであることが好ましく、5〜30μmであることがより好ましく、8〜17μmであることがさらに好ましい。また、1〜8μmであることが好ましく、2〜6μmであることがより好ましい。
なお、この平均粒子径は、測定対象物(ここでは本発明の触媒)をヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液へ添加し、超音波分散および攪拌によって分散させて、透過率が60〜80%となるように調節した後、従来公知のレーザ散乱式粒度分布測定装置(例えばHORIBA LA−950V2)を用いて粒度分布を測定し算出する。
本発明において、平均粒子径は、特に断りがない限り、このような方法で測定して得た値を意味するものとする。
【0028】
本発明の触媒の比表面積は、150〜300m2/gであることが好ましく、230〜280m2/gであることがより好ましい。
なお、比表面積は次に説明する窒素吸着法(BET法)によって測定した値を意味するものとする。窒素吸着法(BET法)では、初めに、測定対象を乾燥させたもの(0.2g)を試料として測定セルに入れ、窒素ガス気流中、250℃で40分間脱ガス処理を行い、その上で試料を窒素30体積%とヘリウム70体積%の混合ガス気流中で液体窒素温度に保ち、窒素を試料に平衡吸着させる。そして、上記混合ガスを流しながら試料の温度を徐々に室温まで上昇させ、その間に脱離した窒素の量を検出し、試料の比表面積を測定する。窒素吸着法(BET法)は、例えば従来公知の表面積測定装置を用いて行うことができる。
本発明において、比表面積は、特に断りがない限り、このような窒素吸着法(BET法)で測定して得た値を意味するものとする。
【0029】
なお、前述のように、本発明の前駆体における担体の組成、粒子径等の態様、および担体に担持している酸化ニッケルの粒径等は、本発明の触媒と同様である。また、本発明の前駆体の平均粒子径や比表面積等の態様も、本発明の触媒と同様である。また、本発明の前駆体についてTEM−EDX分析を行うと、前述の本発明の触媒と同様の結果が得られる。
【0030】
次に、本発明の触媒および本発明の前駆体の製造方法について説明する。
本発明の前駆体の製造方法は特に限定されないが、ニッケル原料およびアルミニウム原料を合わせて湿式粉砕してスラリーAを得る工程と、マグネシム原料を含むスラリーBを得る工程と、前記スラリーAと前記スラリーBとを混合して混合スラリーを得る工程と、前記混合スラリーを乾燥し、その後、焼成する工程とを備えるニッケル系触媒前駆体の製造方法によって製造することが好ましい。
このような製造方法は、以下では「本発明の前駆体の好適製造方法」ともいう。
【0031】
また、本発明の触媒の製造方法は特に限定されないが、本発明の前駆体の好適製造方法によって本発明の前駆体を得た後、さらに、本発明の前駆体を還元することで本発明の触媒を得る方法によって製造することが好ましい。
このような製造方法を、以下では「本発明の触媒の好適製造方法」ともいう。
【0032】
本発明の触媒の好適製造方法によると水素化活性がより優れるニッケル系触媒を得ることができる。この理由は明らかではないが、ニッケル原料およびアルミニウム原料の各々がスラリー中において異なる電荷(ゼータ電位)を有することで親和性が良好となり、相対的にマグネシウム原料との親和性が弱まることで、Mg原子とNi原子とが偏在せずに離れた位置に分布して存在することになることに起因していると、本発明者は推定している。
以下に、本発明の前駆体の好適製造方法および本発明の触媒の好適製造方法について説明する。
【0033】
<本発明の前駆体の好適製造方法>
本発明の前駆体の好適製造方法は、ニッケル原料およびアルミニウム原料を合わせて湿式粉砕してスラリーAを得る工程を備える。
ニッケル原料およびアルミニウム原料は、スラリー中においてその少なくとも一部が固体として存在し得るものであること以外は、特に限定されない。ニッケル原料およびアルミニウム原料の各々は粉末状のものであることが好ましい。すなわち、ニッケル原料およびアルミニウム原料として、各々、スラリー中において完全に溶解してしまうもの以外の原料を用いる。なお、ニッケル原料およびアルミニウム原料の一部が、スラリー中において溶解しても構わない。
ニッケル原料およびアルミニウム原料の各々は、酸化物、水酸化物、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、炭酸塩または錯塩の1種類以上を用いることができる。具体的にはニッケル原料として、塩基性炭酸ニッケルを用いることが好ましい。また、アルミニウム原料として、バーサルアルミナ(水酸化アルミニウム)を用いることが好ましい。
【0034】
ニッケル原料およびアルミニウム原料を分散させる溶媒としては、水、アルコール、ヘキサン、トルエン、塩化メチレン、シリコーン等が挙げられ、水を用いることが好ましい。溶媒して水を用いると、溶媒中においてニッケル原料およびアルミニウム原料は異なる電荷(ゼータ電位)を備え、親和力が高まるからである。
また、固形分の分散性を高めるために、溶媒に界面活性剤を含有させてもよい。
【0035】
ニッケル原料およびアルミニウム原料を溶媒に添加した際の固形分濃度は特に限定されないが、10〜30質量%であること好ましい。
【0036】
このようなニッケル原料およびアルミニウム原料を前記溶媒中において湿式粉砕する。湿式粉砕とは、ニッケル原料およびアルミニウム原料を前記溶媒に浸した状態で分散、粉砕、解砕または混合する方法である。例えばニッケル原料およびアルミニウム原料と水とをボールミルに入れて粉砕等する方法である。湿式粉砕に使用する装置としては、例えばバスケットミル等のバッチ式ビーズミル、横型・縦型・アニュラー型の連続式のビーズミル、サンドグラインダーミル、ボールミル等の湿式媒体攪拌式ミル(湿式粉砕機)が挙げられる。湿式媒体攪拌ミルに用いるビーズとしては、例えば、ガラス、アルミナ、ジルコニア、スチール、フリント石等を原料としたビーズが挙げられる。
【0037】
また、湿式粉砕では、ニッケル原料およびアルミニウム原料の平均粒子径が好ましくは0.6μm以下、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.4μm以下になるまで処理する。
【0038】
このようにしてニッケル原料およびアルミニウム原料を合わせて湿式粉砕することで、スラリーAを得る。
【0039】
本発明の前駆体の好適製造方法は、マグネシム原料を含むスラリーBを得る工程を備える。
マグネシウム原料は、スラリー中においてその少なくとも一部が固体として存在し得るものであること以外は、特に限定されない。マグネシウム原料は粉末状のものであることが好ましい。すなわち、マグネシウム原料として、スラリー中において完全に溶解してしまうもの以外の原料を用いる。なお、マグネシウム原料の一部が、スラリー中において溶解しても構わない。
マグネシウム原料は、酸化物、水酸化物、硝酸塩、塩化物、酢酸塩、炭酸塩または錯塩の1種類以上を用いることができる。具体的には酸化マグネシム用いることが好ましい。
【0040】
マグネシウム原料を分散させる溶媒として、上記のニッケル原料およびアルミニウム原料を湿式粉砕する際に用いる溶媒を用いることができ、水を用いることが好ましい。
また、固形分の分散性を高めるために、溶媒に界面活性剤を含有させてもよい。
【0041】
マグネシウム原料を溶媒に添加した際の固形分濃度は特に限定されないが、10〜30質量%であること好ましい。
【0042】
このようなマグネシウム原料を前記溶媒中に分散させてスラリーBを得る。
ここでマグネシウム原料を湿式粉砕してスラリーBを得ることが好ましい。湿式粉砕の方法や種類等は、上記のニッケル原料およびアルミニウム原料を湿式粉砕する場合と同様であってよい。また、湿式粉砕では、マグネシウム原料の平均粒子径が好ましくは0.6μm以下、より好ましくは0.5μm以下、さらに好ましくは0.4μm以下になるまで処理する。
【0043】
本発明の前駆体の好適製造方法は、上記のような2つの工程によって、スラリーAとスラリーBとを得た後、これらを混合して混合スラリーを得る工程を備える。
混合スラリーを得る方法は特に限定されず、例えば、2つのスラリーを1つのビーカー内へ入れる方法が挙げられる。
【0044】
本発明の前駆体の好適製造方法では、前記混合スラリーを得た後、これを乾燥し、さらに焼成して本発明の前駆体を得る工程を備える。
【0045】
混合スラリーの乾燥方法は特に限定されない。例えば従来公知の乾燥機を用いて、90〜130℃程度の温度の雰囲気内に、10〜20時間、混合スラリーを保持することで乾燥させることができる。
また、混合スラリーを噴霧乾燥することが好ましい。噴霧乾燥とは混合スラリーを噴霧し、霧状とした後または霧状としながら乾燥する方法である。具体的には、混合スラリーと気体とを流し込みノズル先端から乾燥雰囲気内へ混合スラリーの液滴を吐出させて、粉状の乾燥物を得る方法である。また、乾燥搭の上部から下部へ向うダウンフローの乾燥ガスを用いて噴霧乾燥することが好ましい。また、噴霧乾燥はスプレードライヤーを用いて行うことが好ましい。スプレードライヤーの乾燥用熱風の入口温度は150〜300℃であることが好ましく、180〜220℃であることがより好ましい。また、出口温度は90〜130℃であることが好ましく、100〜120℃であることがより好ましい。また、アトマイザー回転数は10,000〜35,000rpmであることが好ましく、28,000〜32,000であることがより好ましい。
【0046】
混合スラリーを乾燥した後、焼成する方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法で行うことができる。例えば従来公知の焼成炉(トンネル炉、マッフル炉、ロータリーキルン等)を用いて350〜400℃程度の温度の雰囲気内において1〜5時間程度、焼成して、本発明の前駆体を得ることができる。
【0047】
<本発明の触媒の好適製造方法>
本発明の触媒の好適製造方法は、さらに、本発明の前駆体の好適製造方法によって得られた本発明の前駆体を還元することで本発明の触媒を得る工程を備える。
本発明の前駆体を還元する方法は特に限定されず、例えば本発明の前駆体を水素に接触させて還元することができる。具体的には、例えば、本発明の前駆体を粒状または粉状とした後、反応管の中へ入れ、その反応管内に400〜440℃、好ましくは420℃程度の水素を流すことで本発明の前駆体を還元して本発明の触媒を得ることができる。
【0048】
本発明の触媒は、例えば、原油/ナフサ等の熱分解工程から誘導される各種オレフィン系炭化水素類、特に、芳香族類やオレフィン性高分子類(石油樹脂類)を高付加価値の化合物にするための水素化プロセスへ好ましく用いることができる。
【実施例】
【0049】
<実施例1>
15gの塩基性炭酸ニッケル(NiCO3・2Ni(OH)2・4H2O、昭和化学社製)と、49gのバーサルアルミナ(V250、平均粒子径(メジアン径)=50μm、コンデア社製)とを、450gのイオン交換水と共に循環式湿式粉砕機(スターミル LMZ015、アシザワ・ファインテック社製)が備えるミル内へ入れ、湿式粉砕した。ここで湿式粉砕は、ミル内へ484.5gのジルコニアビーズ(ビーズ径:0.5mm)を充填し、回転数:3237rpm、循環量:200ml/min、粉砕時間:0.5hの条件で行った。
このような湿式粉砕を行うことでスラリーAを得た。
【0050】
次に、6gの酸化マグネシウム(協和化学社製)をイオン交換水と共に循環式湿式粉砕機(スターミル LMZ015、アシザワ・ファインテック社製)が備えるミル内へ入れ、湿式粉砕した。ここで湿式粉砕は、ミル内へ484.5gのジルコニアビーズ(ビーズ径:0.5mm)を充填し、回転数:3237rpm、循環量:200ml/min、粉砕時間:0.5hの条件で行った。
このような湿式粉砕を行うことでスラリーBを得た。
【0051】
次に、得られた450mlのスラリーA(固形分濃度:20質量%)と、50mlのスラリーB(固形分濃度:20質量%)とを1つのビーカー内へ注ぎ、スターラーを用いて25rpmで20分間攪拌して混合スラリーを得た後、スプレードライヤーの1つである噴霧造粒乾燥装置(BUCHI Mini Spray Dryer、商品名:B−290)に供して乾燥し、粉状の乾燥体を得た。ここで、乾燥装置の入口温度を210℃、出口温度を100℃、アトマイザー回転数を26,000rpmとした。
そして、得られた乾燥体を、マッフル炉を用いて、大気雰囲気下、380℃で3時間かけて焼成し、ニッケル系触媒前駆体(以下では単に「前駆体」ともいう)を得た。
【0052】
なお、前駆体においてNi、AlおよびMgの各々は、概ね、NiO、Al23およびMgOの態様で存在していると考えられる。Ni、AlおよびMgの全てがこのような態様で存在しているとして、原料組成から算出すると、前駆体の組成はNiO=10質量%、Al23=80質量%およびMgO=10質量%となる。ニッケル系触媒を得るために前駆体を還元すると、NiOがNiへ変化するが、Al23およびMgOはほぼ変化しない。したがって、後述するニッケル系触媒の組成は、Ni=8質量部、Al23=80質量部およびMgO=10質量部となる。
【0053】
このようにして得た前駆体を、次の方法によって還元してニッケル系触媒を得た後、ニッケル系触媒の水素吸着量を測定した。
初めに、ガラス製U字管(外径:6mm、内径:4mm、長さ:70mm)に0.25gの前駆体を入れ、ガラス製U字管の曲部に前駆体を保持した。そして、その曲部を小型電気炉で覆い、小型電気炉内を420℃に調整した後、ガラス製U字管に水素を50cc/minで30min導入して前駆体を水素還元し、ニッケル系触媒を得た。次にニッケル系触媒をガラス製U字管内に保持したまま、小型電気炉内を420℃に保持し、ガラス製U字管にArガスを50cc/minで30min導入した後、小型電気炉内をガラス製U字管から取り外し、室温まで放冷した。そして、ガラス製U字管の曲部を氷水に付けて0℃まで冷却した。次に、ニッケル系触媒をガラス製U字管内に保持したまま、ガラス製U字管内へ水素ガスを、一回当たり0.5ccを5分間隔で順次パルスしていき、ニッケル系触媒と接触した後の、排出されたガスの水素濃度をガスクロマトグラフィー(TCD付き)を用いて測定した。具体的にはGCに直結したインテグレータによって触媒層の入口及び出口面積の増減がなくなるまでパルスをおこない、その不可逆吸着量(mol)を触媒重量(g)から割って求めた。
測定結果を第2表に示す。
【0054】
次に前駆体について、TEM−EDX分析(エネルギー分散型X線分析装置(Titan80−300、FEI社製)を設けた透過電子顕微鏡を用いたEDX線分析)を行った。
具体的には前駆体の任意の30箇所についてTEM−EDX分析(加速電圧:80kV)を行い、各々の箇所についてNi、Mg、Alのピークを示すチャートを得た。図2(a)にチャートの具体例を示す。図2(a)は任意の3箇所(各測定箇所をP−1、P−2、P−3とした)におけるNi、Mg、Al、O元素のピーク強度を示すチャートである。なお、図2(b)は、後述する比較例1の場合のチャートである。
このようなチャートからNi、Mg、Alのピーク強度(ベースラインからのピークの強度)を測定し、AlとNiのピーク強度の比(Al/Ni)およびMgとNiのピーク強度の比(Mg/Ni)を求めた。そして、Al/Niの30個のデータの各々が、1.0〜1.2の間である確率(データの個数の比率)および1.05〜1.15の間である確率(データの個数の比率)と、各データの平均値(単純平均値)を求めた。さらに、Mg/Niの30個のデータの各々が、0.3以下である確率と、各データの平均値(単純平均値)を求めた。また、0.25以下である確率と、各データの平均値(単純平均値)を求めた。
測定結果を第1表に示す。
なお、実施例1では前駆体についてTEM−EDX分析を行ったが、この前駆体を還元して得られるニッケル系触媒についてTEM−EDX分析を行った場合、実施例1と同様のAlとNiのピーク強度の比(Al/Ni)およびMgとNiのピーク強度の比(Mg/Ni)のデータが得られる。
【0055】
次に前駆体の平均粒子径(メジアン径)を測定した。測定方法は前述の通りであり、レーザ散乱式粒度分布測定装置として、HORIBA LA−950V2を用いた。
また、前駆体の比表面積を測定した。測定方法は前述の窒素吸着法(BET法)であり、表面積測定装置として、ユアサアイオニクス社製、マルチソーブ12を用いた。
測定結果を第2表に示す。
【0056】
<比較例1>
15gの塩基性炭酸ニッケル(昭和化学社製)と、49gのバーサルアルミナ(V250、D50=50μm、コンデア社製)と、6gの酸化マグネシウム(協和化学社製)とを、330gのイオン交換水と共に循環式湿式粉砕機(スターミル LMZ015、アシザワ・ファインテック社製)のミル内へ入れ、湿式粉砕した。ここで湿式粉砕は484.5gのジルコニアビーズ(ビーズ径:0.5mm)を充填し、回転数:3237rpm、循環量:200ml/min、粉砕時間:0.5hの条件で行った。
このような湿式粉砕を行うことでスラリーCを得た。
【0057】
次に、得られた400gのスラリーCを、実施例1と同じスプレードライヤー(噴霧造粒乾燥装置)を用いて乾燥し、粉状の乾燥体を得た後、焼成して前駆体を得た。乾燥条件および焼成条件は実施例1と同様とした。
そして、得られた前駆体を、実施例1と同様の方法によって還元してニッケル系触媒を得た後、ニッケル系触媒の水素吸着量を測定し、水素化活性を評価した。測定結果を第2表に示す。
また、得られた前駆体について、実施例1と同様の方法によってTEM−EDX分析を行い、図2(b)に示したようなチャートを得て、AlとNiのピーク強度の比(Al/Ni)およびMgとNiのピーク強度の比(Mg/Ni)を求めた。そして、Al/NiおよびMg/Niについて、実施例1と同様のデータを求めた。なお、図2(b)は図2(a)と同様に、任意の3箇所(各測定箇所をP−1´、P−2´、P−3´とした)におけるチャートである。測定結果を第1表に示す。
また、得られた前駆体について、実施例1と同様の方法で平均粒子径(メジアン径)および比表面積を測定した。
測定結果を第2表に示す。
なお、比較例1で得られた前駆体およびニッケル系触媒の組成は、実施例1と同様である。
【0058】
<比較例2>
6gの酸化マグネシウム(協和化学社製)と49gのバーサルアルミナ(V250、平均粒子径(メジアン径)=50μm、コンデア社製)とを、450gのイオン交換水と共に循環式湿式粉砕機(スターミル LMZ015、アシザワ・ファインテック社製)が備えるミル内へ入れ、湿式粉砕した。ここで湿式粉砕は、ミル内へ484.5gのジルコニアビーズ(ビーズ径:0.5mm)を充填し、回転数:3237rpm、循環量:200ml/min、粉砕時間:0.5hの条件で行った。
このような湿式粉砕を行うことでスラリーDを得た。
【0059】
次に、15gの塩基性炭酸ニッケル(NiCO3・2Ni(OH)2・4H2O、昭和化学社製)をイオン交換水と共に循環式湿式粉砕機(スターミル LMZ015、アシザワ・ファインテック社製)が備えるミル内へ入れ、湿式粉砕した。ここで湿式粉砕は、ミル内へ484.5gのジルコニアビーズ(ビーズ径:0.5mm)を充填し、回転数:3237rpm、循環量:200ml/min、粉砕時間:0.5hの条件で行った。
このような湿式粉砕を行うことでスラリーEを得た。
【0060】
次に、得られた450mlのスラリーD(固形分濃度:20質量%)と、50mlのスラリーE(固形分濃度:20質量%)とを1つのビーカー内へ注ぎ、スターラーを用いて25rpmで20分間攪拌して混合スラリーを得た後、実施例1と同じスプレードライヤー(噴霧造粒乾燥装置)を用いて乾燥し、粉状の乾燥体を得た後、焼成して前駆体を得た。乾燥条件および焼成条件は実施例1と同様とした。
そして、得られた前駆体を、実施例1と同様の方法によって還元してニッケル系触媒を得た後、ニッケル系触媒の水素吸着量を測定し、水素化活性を評価した。測定結果を第2表に示す。
また、得られた前駆体について、実施例1と同様の方法によってTEM−EDX分析を行い、図2(b)に示したようなチャートを得て、AlとNiのピーク強度の比(Al/Ni)およびMgとNiのピーク強度の比(Mg/Ni)を求めた。そして、Al/NiおよびMg/Niについて、実施例1と同様のデータを求めた。測定結果を第1表に示す。
また、得られた前駆体について、実施例1と同様の方法で平均粒子径(メジアン径)および比表面積を測定した。
測定結果を第2表に示す。
なお、比較例2で得られた前駆体およびニッケル系触媒の組成は、実施例1と同様である。
【0061】
<比較例3>
6gの酸化マグネシウム(協和化学社製)と15gの塩基性炭酸ニッケル(NiCO3・2Ni(OH)2・4H2O、昭和化学社製)を、450gのイオン交換水と共に循環式湿式粉砕機(スターミル LMZ015、アシザワ・ファインテック社製)が備えるミル内へ入れ、湿式粉砕した。ここで湿式粉砕は、ミル内へ484.5gのジルコニアビーズ(ビーズ径:0.5mm)を充填し、回転数:3237rpm、循環量:200ml/min、粉砕時間:0.5hの条件で行った。
このような湿式粉砕を行うことでスラリーFを得た。
【0062】
次に、49gのバーサルアルミナ(V250、平均粒子径(メジアン径)=50μm、コンデア社製)をイオン交換水と共に循環式湿式粉砕機(スターミル LMZ015、アシザワ・ファインテック社製)が備えるミル内へ入れ、湿式粉砕した。ここで湿式粉砕は、ミル内へ484.5gのジルコニアビーズ(ビーズ径:0.5mm)を充填し、回転数:3237rpm、循環量:200ml/min、粉砕時間:0.5hの条件で行った。
このような湿式粉砕を行うことでスラリーGを得た。
【0063】
次に、得られた450mlのスラリーF(固形分濃度:20質量%)と、50mlのスラリーG(固形分濃度:20質量%)とを1つのビーカー内へ注ぎ、スターラーを用いて25rpmで20分間攪拌して混合スラリーを得た後、実施例1と同じスプレードライヤー(噴霧造粒乾燥装置)を用いて乾燥し、粉状の乾燥体を得た後、焼成して前駆体を得た。乾燥条件および焼成条件は実施例1と同様とした。
そして、得られた前駆体を、実施例1と同様の方法によって還元してニッケル系触媒を得た後、ニッケル系触媒の水素吸着量を測定し、水素化活性を評価した。測定結果を第2表に示す。
また、得られた前駆体について、実施例1と同様の方法によってTEM−EDX分析を行い、図2(b)に示したようなチャートを得て、AlとNiのピーク強度の比(Al/Ni)およびMgとNiのピーク強度の比(Mg/Ni)を求めた。そして、Al/NiおよびMg/Niについて、実施例1と同様のデータを求めた。測定結果を第1表に示す。
また、得られた前駆体について、実施例1と同様の方法で平均粒子径(メジアン径)および比表面積を測定した。
測定結果を第2表に示す。
なお、比較例3で得られた前駆体およびニッケル系触媒の組成は、実施例1と同様である。
【0064】
<比較例4>
6gの酸化マグネシウム(協和化学社製)をイオン交換水と共に循環式湿式粉砕機(スターミル LMZ015、アシザワ・ファインテック社製)が備えるミル内へ入れ、湿式粉砕した。ここで湿式粉砕は、ミル内へ484.5gのジルコニアビーズ(ビーズ径:0.5mm)を充填し、回転数:3237rpm、循環量:200ml/min、粉砕時間:0.5hの条件で行った。
このような湿式粉砕を行うことでスラリーHを得た。
【0065】
次に、49gのバーサルアルミナ(V250、平均粒子径(メジアン径)=50μm、コンデア社製)をイオン交換水と共に循環式湿式粉砕機(スターミル LMZ015、アシザワ・ファインテック社製)が備えるミル内へ入れ、湿式粉砕した。ここで湿式粉砕はスラリーHを得る場合と同様の条件で行った。
このような湿式粉砕を行うことでスラリーIを得た。
【0066】
次に、15gの塩基性炭酸ニッケル(NiCO3・2Ni(OH)2・4H2O、昭和化学社製)をイオン交換水と共に循環式湿式粉砕機(スターミル LMZ015、アシザワ・ファインテック社製)が備えるミル内へ入れ、湿式粉砕した。ここで湿式粉砕はスラリーHを得る場合と同様の条件で行った。
このような湿式粉砕を行うことでスラリーJを得た。
【0067】
次に、得られた50mlのスラリーH(固形分濃度:20質量%)と、50mlのスラリーI(固形分濃度:20質量%)と、50mlのスラリーJ(固形分濃度:20質量%)を1つのビーカー内へ注ぎ、スターラーを用いて25rpmで20分間攪拌して混合スラリーを得た後、実施例1と同じスプレードライヤー(噴霧造粒乾燥装置)を用いて乾燥し、粉状の乾燥体を得た後、焼成して前駆体を得た。乾燥条件および焼成条件は実施例1と同様とした。
そして、得られた前駆体を、実施例1と同様の方法によって還元してニッケル系触媒を得た後、ニッケル系触媒の水素吸着量を測定し、水素化活性を評価した。測定結果を第2表に示す。
また、得られた前駆体について、実施例1と同様の方法によってTEM−EDX分析を行い、図2(b)に示したようなチャートを得て、AlとNiのピーク強度の比(Al/Ni)およびMgとNiのピーク強度の比(Mg/Ni)を求めた。そして、Al/NiおよびMg/Niについて、実施例1と同様のデータを求めた。測定結果を第1表に示す。
また、得られた前駆体について、実施例1と同様の方法で平均粒子径(メジアン径)および比表面積を測定した。
測定結果を第2表に示す。
なお、比較例4で得られた前駆体およびニッケル系触媒の組成は、実施例1と同様である。
【0068】
【表1】

【0069】
【表2】

【0070】
実施例1と比較例1〜4とを対比すると、組成は等しいものの、実施例1において得られたニッケル系触媒が水素吸着量が高いことがわかる。したがって、実施例1は表面に多くのNiが存在しているため、水素化活性が高いと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムを主成分とする担体の表面に、ニッケルを主成分とする活性金属が担持しているニッケル系触媒であって、
TEM−EDX分析を30箇所について行って得た各箇所についてのAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni)が90%以上の確率で1.0〜1.2で、平均値も1.0〜1.2である、ニッケル系触媒。
【請求項2】
TEM−EDX分析を30箇所について行って得た各箇所についてのMgとNiとのピーク強度の比(Mg/Ni)が60%以上の確率で0.3以下で、平均値も0.3以下である、請求項1に記載のニッケル系触媒。
【請求項3】
ニッケル含有率が7.5〜15質量%であり、
酸化アルミニウムの含有率が60〜90質量%であり、
酸化マグネシウムの含有率が5〜15質量%である、請求項1または2に記載のニッケル系触媒。
【請求項4】
酸化アルミニウムおよび酸化マグネシウムを主成分とする担体の表面に、酸化ニッケルを主成分とする金属酸化物が担持している、還元するとニッケル系触媒が得られるニッケル系触媒前駆体であって、
TEM−EDX分析を30箇所について行って得た各箇所についてのAlとNiとのピーク強度の比(Al/Ni)が90%以上の確率で1.0〜1.2で、平均値も1.0〜1.2である、ニッケル系触媒前駆体。
【請求項5】
請求項4に記載のニッケル系触媒前駆体を還元して得られるニッケル系触媒。
【請求項6】
ニッケル原料およびアルミニウム原料を合わせて湿式粉砕してスラリーAを得る工程と、
マグネシム原料を含むスラリーBを得る工程と、
前記スラリーAと前記スラリーBとを混合して混合スラリーを得る工程と、
前記混合スラリーを乾燥し、その後、焼成する工程と
を備える、請求項4に記載のニッケル系触媒前駆体が得られる、ニッケル系触媒前駆体の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載のニッケル系触媒前駆体の製造方法に、さらに前記ニッケル系触媒前駆体を還元する工程を備え、請求項1、2、3または5に記載のニッケル系触媒が得られる、ニッケル系触媒の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−94709(P2013−94709A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238075(P2011−238075)
【出願日】平成23年10月30日(2011.10.30)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】