説明

ニットウエアのV首部編成方法

【課題】ニットウエアのV首部を編成する際、衿幅に対して剣先丈の割合が高くなり、V首中央部先端18がより突出した形となってV首部尖端22の衿部と身頃の境界ライン23が歪み、目立ってしまう場合がある。本発明では、衿部の組織に関わらず、V首部尖端22の衿部と身頃の境界ライン23を崩れないようにする編成方法を提供する。
【解決手段】ニットウエアのV首部を編成する方法において、V首中央部の両端の編目と繋がる右衿部と左衿部を編成しながら外側に向けて移動し、その外側に位置する右側前身頃と左側前身頃に重ね目してV首部を形成する際、割り増やし編成やミス編成を行い、剣先丈を減らし、衿幅に対する剣先丈の比率を下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、横編機によるニットウエアのV首部の編成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
横編機で、セーター等のニットウエアを形成する場合、前身頃と後身頃をその両端で連続する筒状編地として裾から肩に向けて編成し、身頃の左右で編まれる袖を筒状に編成して、身頃側に移動させながら接合し、更に前身頃と後身頃を肩部分で接合する編成方法がある。またその際、衿首用開口を形成するとともに衿を身頃に一体に編成することも可能である。
【0003】
セーターとベストでは袖部の編成が異なるが、V首部の形成は、基本的には同じ編成方法が適用できる。また衿部の編成に関しては、身頃と衿部を並行して形成する方法(たとえば、特許文献1参照)や、身頃を形成した後に衿部を形成する方法(たとえば、特許文献2参照)がある。図4では、前者の方法で編成する従来のV首部を有するセーター10を示す。前身頃1が途中で分岐してV首部を形成するが、V首部尖端22におけるV首中央部先端18が特に突出した形となっている。両袖と身頃の裾から編み出し、それぞれ筒状に編成した後、身頃と両袖を接合して衿部を形成し、肩部2を接合する方法は、公知な方法で行う。
【0004】
図5は、図4で示すセーター10のV首部尖端22の拡大図である。後述する図1も含め、図上に示すFは表目を、Bは裏目を、矢印Cは編目のウェール方向を示す。左右の肩部に繋がる右衿部16と左衿部17は、リブ組織であり、V首中央部21には天竺の2目がV首中央部先端18からV首中央部終端20に向けて6コース分、編目がウェール方向に繋がっている。そのV首中央部先端18からV首中央部終端20までの長さを剣先丈とする。また衿部の形成時には、2コースに1回、衿部の移動を外側に向けて行い、衿部の端部に白丸Dで示す孔が開き、前身頃に二重丸Eで示す重ね目ができるとともに、V首中央部21の剣先丈が衿部の衿幅に対して長くなり、衿部と身頃の境界ライン23が歪み、V首中央部先端18が特に突出した形となっている。また、そのことは、太い実線で示す直角三角形で、辺Z′と辺Y′の差が図1の辺Zと辺Yの差よりも小さい結果が、後述するその理由となる。
【0005】
図6は、図4で示すセーター10のX−Xの位置で切断した図である。前身頃1に右衿部16−右前身頃11−右袖12−後身頃13−左袖14−左前身頃15−左衿部17を折り返し編成している。図5に示すように衿部は外側に移動しながら形成するため、編目のウェール方向は斜めに向いている。
【0006】
ここで、右衿部16と左衿部17の編目はウェール方向が斜めの為、前身頃の縦方向の編目との関係で長さ比率が同じではない。言い換えると図1に太い実線で示す直角三角形の辺Yと辺Zのような関係となる。辺Yと辺Zの長さ比率では、辺Zが図のように辺Yよりも長ければ、きちんとその形に収まるが、一旦形成された時点で同じ長さの辺Yと辺Zとなる編目ではそのようにはならず、実際には、辺Yにあたる編目が短くはならずに伸びた状態となり、図5で示すY′のように長くなってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3071147号公報
【特許文献2】特開2006−111996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、衿部にリブなどの組織を形成すると、もともと縦と斜めの関係で比率が異なる条件に加え、衿幅方向に編地が縮む条件が加わる。衿幅に対して剣先丈の割合がより高くなり、V首中央部先端18がより突出した形となってV首部尖端22の衿部と身頃の境界ライン23が歪み、目立ってしまう場合がある。本発明では、衿部の組織に関わらず、V首部尖端22の衿部と身頃の境界ライン23を崩れないようにする編成方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の編成方法は、少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用い、ニットウエアのV首部を編成する方法において、V首中央部の両端の編目と繋がる右衿部と左衿部を編成しながら外側に向けて移動し、その外側に位置する右側前身頃と左側前身頃に重ね目してV首部を形成する際、V首中央部の剣先丈の減少で、衿幅に対する剣先丈の比率を下げることを特徴とする。
【0010】
また、前記剣先丈の減少は、剣先丈を構成するV首中央部の任意の編目列の両端部の編目を、割り増やし編成することを特徴とする。
【0011】
更には、前記割り増やし編成にて形成された編目の一方は、右衿部と左衿部を外側に向けて移動して空針となった編針に、移動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明の編成方法によれば、剣先丈の減少で、衿幅に対する剣先丈の比率を下げることで、V首中央部先端の位置を変更して、V首部尖端の衿部と身頃の境界ラインを変更できる。
【0013】
本発明の編成方法によれば、V首中央部の任意の編目列の両端部の編目を割り増やし編成することで、その割り増やし編成を行った編目の剣先丈を減らすことができる。
【0014】
本発明の編成方法によれば、割り増やし編成することで得られた編目を利用し、空針の孔埋めを行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例であるセーターV首部の拡大図である。
【図2】本発明の実施例のV首部の前半の編成図である。
【図3】本発明の実施例のV首部の後半の編成図である。
【図4】従来の編成方法で形成されたV首セーターの図である。
【図5】図4で示すセーター10のV首部尖端22の拡大図である。
【図6】図4で示すセーター10のX−Xの位置で切断した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて詳細を説明する。この実施形態では、割り増やしが可能で、後針床が左右にラッキング可能な2枚ベッドと、目移しの為のトランスファージャック(特許第3408735号公報参照)と、フックを有する針本体とフックを開閉するスライダーとを有する複合針(特許第2917146号公報参照)を備える横編機(例えば、株式会社島精機製作所製コンピュータ横編機:製品名FIRST)を用いて説明する。また、前記複合針を有した前後二対の針床を有する4枚ベッド機(例えば、株式会社島精機製作所製コンピュータ横編機:製品名MACH2X)であっても良い。それらの横編機に搭載された前記複合針を使用することで、べら針に設けられた羽根がない為に編針が溝の中心に位置し、割り増やし時には、べら針で生じた編目の捻れは生じずに、左右均一で綺麗な編目を形成することができる。また編目の形成においても、左右均一で綺麗な編目が形成できる。
【実施例】
【0017】
図1は、本発明の実施例であるリブを衿組織としたニットウエアのV首部の拡大図である。表目が2目と裏目が2目を基本パターンとした6目で右衿部16、左衿部17を形成しており、V首中央部先端18からV首中央部終端20の間に、V首中央部21が天竺で存在する。図5に示す従来のV首部と構成は同じであるが、剣先丈を減らして衿幅に対する比率を下げたことで衿部と身頃の境界ライン23は崩れていない。
【0018】
図2は、本発明の実施例のV首部の前半の編成図である。また図3は、図2に続く本発明の実施例のV首部の後半の編成図である。ニットウェアとしてのセーター、ベストは、V首部で基本的には同じ編成を適用でき、また裾リブから編み始めて身頃に至る編成も公知であるため、ここでは前身頃1でのV首部の形成に対し、単層編地としての説明を行う。
【0019】
図中、FBは前針床を、BBは後針床を、a〜xは前針床の編針の位置を、A〜Xは後針床の編針の位置を、黒丸は新たに編成された編目を、白丸は編針に係止された旧編目を、二重丸は重ね目を、■は割り増やしの編目を示す。また矢印は、目移しでの編目の移動を示す。目移しは、図示はしていないが、FBの針床の上方に編針と同様に複数配置されるトランスファージャックに編目を預けて行う。説明の適宜上、編針の数を実際よりも少なくしている。
【0020】
図2のS1は、V首中央部先端18の編成コース状態を示している。FBの編針k〜編針nはV首中央部21を、編針a〜編針Jは右前身頃11を、編針o〜編針xは左前身頃15を示し、それらの編針a〜編針xに新たな編目を形成する。S2は、編針x〜編針aに新たな編目を形成するが、編針kと編針nで割り増やし編成を行っている。編針kと編針nに係止する編目をスライダーのタングに位置させてそれらの針のフックに新たな編糸を給糸し、その後、編針Kと編針Nの編針を上昇させ、編針kと編針nのスライダーの先端に係止している編目を、編針Kと編針Nのフック内に移動させる。
【0021】
S3では、FBの編針jと編針oの編目をBBの編針Jと編針Oにそれぞれ目移しする。S4では、BBの編針Jと編針Kの編目をFBの編針iと編針jにそれぞれ目移しし、編針iでは重ね目となる。同様に、BBの編針Nと編針Oの編目をFBの編針oと編針pに目移しし、編針pでは重ね目となる。S5では、再び編針a〜編針xに向けて新たな編目を形成する。そのなかで編針lと編針mではミス編成を行う。他の編針には新たな編目を形成するが、これらの編針には形成せず、S2で形成した編目が残る。
【0022】
S6では、S2と同じ割り増やし編成を行う。S7では、FBの編針i、j、o、pの編目を、それぞれBBの編針I、J、O、Pに目移しする。S8では、BBの編針I、J、Kのそれぞれの編目をFBの編針h、i、jに目移しする。編針hでは重ね目となる。同様に、BBの編針N、O、Pの編目をFBの編針o、p、qにそれぞれ目移しし、編針qでは重ね目となる。S9では、再び編針a〜編針xに向けて新たな編目を形成する。編針lと編針mではミス編成を行う。編針lと編針mについては、S6にて編成しているので、2コースに1回のミス編成となる。
【0023】
図3のS10は、S2と同じ割り増やし編成を行っている。S11では、FBの編針h、i、j、o、p、qの編目を、それぞれBBの編針H、I、J、O、P、Qに目移しする。S12では、BBの編針H、I、J、Kのそれぞれの編目をFBの編針g、h、i、jに目移しし、更に編針jの編目を編針Jに目移しする。同様に、BBの編針N、O、P、Qの編目をFBの編針o、p、q、rにそれぞれ目移しし、更に編針oの編目を、編針Oに目移しする。目移しが終わると、編針gと編針qでは重ね目となる。S13では、再び編針a〜編針xに向けて新たな編目を形成するが、編針lと編針mではミス編成を行い、編針jに代って編針Jで、編針oに代って編針Oで、それぞれ編成する。編針Jと編針Oで編成した編目は、衿部に展開するリブの裏目となる編目である。
【0024】
S14では、S10の状態から編針jに代って編針Jで、編針oに代って編針Oで編成を行う。ここでも編針kと編針nに対して割り増やし編成を行い、編針Kと編針NにS10で形成した編針kと編針nの編目を移動する。S15では、FBの編針g、h、i、p、q、rの編目を、それぞれBBの編針G、H、I、P、Q、Rに目移しする。S16では、BBの編針G、H、I、J、Kのそれぞれの編目をFBの編針f、g、h、i、jに目移しし、更に編針iと編針jの編目は、編針Iと編針Jに目移しする。同様に、BBの編針N、O、P、Q、Rの編目をFBの編針o、p、q、r、sにそれぞれ目移しし、更に編針oと編針pの編目は、編針Oと編針Pに目移しする。
【0025】
目移しが終わると、編針fと編針sでは重ね目となる。右衿部16と左衿部17に対し、V首中央部21から見て、裏目2目、表目4目となっている。S17は、S13〜S16と同じ工程の内容を2回繰り返し、表目2目、裏目2目、表目2目としてV首中央部終端20の編成コース状態を示す。FBの編針k〜編針nはV首中央部21を、編針a〜編針dは右前身頃11を、編針e〜編針jは右衿部16を、編針o〜編針tは左衿部17を、編針u〜編針xは左前身頃15を示す。
【0026】
S17の後は、図示はしていないがV首の開口部となり、セーターの場合は、図6で示した折り返しの編成と、右衿部16と左衿部17をV首中央部21から外側向きに、目移しを行いながら移動して、図1に示すV首部の編成が完成する。本実施例では、S2、S6、S10、S14で割り増やし編成を行っているが、それぞれの編針kと編針nに係止する編目は割り増やしを行うことで、剣先丈は他の編目に比べて低くなる。つまり、FBからBBに目移しをした編目が別の位置に移動して使用されるため、本来の位置にある編目が無くなり、その分編目数が少なくなり低くなる。
【0027】
また、S5、S9、S13で2コースに1回行っているミス編成とあわせて、剣先丈を減らすことで、衿幅に対する比率を下げることができ、V首部尖端22の衿部と身頃の境界ライン23が崩れず見栄えを損なわない。合わせて、S4、S8、S12、S16で割り増やし編成を行ったBBの編目をFBに目移しすることで、編目が移動して出来た空針(編針j、o)の孔埋めを行うことができ、見栄えも向上する。
【0028】
本実施例では、2コースに1回の割合で割り増やし編成とミス編成を行って、剣先丈を減らすようにしているが、3コースや4コースに1回の割合でも良く、不規則なコースに対して行っても良い。糸の太さやループの詰み具合により調整ができる。さらに、割り増やし編成とミス編成については単独で行っても良い。また、V首中央部21のみ、複数コースを使って1コースを編成する編成を行っても良い。いずれの編成方法も剣先丈を減らすことができる。
【0029】
また、本実施例では、衿部に、リブを形成したが、ガーター組織などの他の組織を形成しても良い。割り増やし編成やミス編成を行い、剣先丈と衿幅の比率を適宜調整すればよい。さらにまた、本実施例では、編針kから編針nの4目をV首中央部21の編幅としているが、2目以上であれば目数を変更しても良く、その目数は奇数でも良い。
【符号の説明】
【0030】
1 前身頃
2 肩部
10 セーター
16 右衿部
17 左衿部
21 V首中央部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも前後一対の針床を有する横編機を用い、ニットウエアのV首部を編成する方法において、V首中央部の両端の編目と繋がる右衿部と左衿部を編成しながら外側に向けて移動し、その外側に位置する右側前身頃と左側前身頃に重ね目してV首部を形成する際、V首中央部の剣先丈の減少で、衿幅に対する剣先丈の比率を下げることを特徴とするニットウエアのV首部編成方法。
【請求項2】
前記剣先丈の減少は、剣先丈を構成するV首中央部の任意の編目列の両端部の編目を、割り増やし編成することを特徴とする請求項1記載のニットウエアのV首部編成方法。
【請求項3】
前記割り増やし編成にて形成された編目の一方は、右衿部と左衿部を外側に向けて移動して空針となった編針に、移動することを特徴とする請求項2記載のニットウエアのV首部編成方法。















【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−281010(P2010−281010A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135615(P2009−135615)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000151221)株式会社島精機製作所 (357)
【Fターム(参考)】