説明

ニットドレスシャツ

【課題】柔軟で通気性が良い編地の長所を維持しつつ、優れたW&W性を併せ持つニットドレスシャツを提供すること。
【解決手段】セルロース繊維を50質量%以上含み、英式綿番手が20〜100番手であるセルロース系繊維を編成した編地からなるニットドレスシャツであって、該編地の目付量が110〜230g/mであり、コース密度が35〜65/2.54cmであり、ウェール密度が25〜65/2.54cmであり、該編地のコース方向が、前身頃部、後身頃部、袖部、ポケット部、上前立て部、および下前立て部の縦方向となるように形成されている、ニットドレスシャツ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、編地からなるドレスシャツ(以下、「ニットドレスシャツ」という)に関する。
【背景技術】
【0002】
ドレスシャツは、生地に適度な張りや腰が求められるので、通常、織目が緻密で腰がある織地を用いて製造される。また、近年は、ドレスシャツとしての風合いに加えて、防しわ性、防縮性等を有することや、洗濯および乾燥によるしわが少なく、アイロン掛けをせずに着用可能な特性(「ウォッシュアンドウエアー性(W&W性)」ともいう)に優れることも強く求められている。
【0003】
ところで、吸湿性および吸水性に優れていること、肌触りが良いこと、静電気が発生し難いこと、熱伝導性が高いこと、天然由来であること等の多くの利点を有することから、セルロース系繊維を含む布帛が衣料用途に幅広く利用されている。しかしながら、セルロース系繊維を含む布帛には、着用によってしわが出来やすい、洗濯してもしわが残りやすく、かつ、収縮するといった欠点がある。そのため、グリオキザール樹脂、ホルムアルデヒド等の繊維素反応型樹脂をセルロース系繊維と化学架橋させることで、当該布帛に防しわ性、防縮性等の形態安定性を付与する試みがなされてきた(非特許文献1)。
【0004】
上記のような架橋セルロース系繊維を含む織地からドレスシャツを製造すると、織組織の密度が高いために通気性が悪いという織地固有の問題に加えて、繊維素反応型樹脂と化学架橋することでセルロース本来の吸湿性および吸水性が低下する傾向にある。そのため、夏場を中心として蒸し暑く、快適性に劣るという問題がある。また、織地の素材は伸縮性が乏しいので、体の動きに追随しにくく窮屈な点においても快適性に劣るという問題がある。
【0005】
これに対して、柔軟で通気性の良い編地の素材でビジネスシャツを製造することが提案されている(特許文献1)。しかしながら、このような編地で製造されたドレスシャツであって、優れたW&W性を有するシャツは未だに実現されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−303301号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】架橋剤ハンドブック、初版、山下晋三、金子東助編、(株)大成社発行、昭和56年10月20日発行
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、柔軟で通気性が良い編地の長所を維持しつつ、優れたW&W性を併せ持つニットドレスシャツを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、ニットドレスシャツが提供される。当該ニットドレスシャツは、セルロース繊維を50質量%以上含み、英式綿番手が20〜100番手であるセルロース系繊維を編成した編地からなり、該編地の目付量が110〜230g/mであり、コース密度が35〜65/2.54cmであり、ウェール密度が25〜65/2.54cmであり、該編地のコース方向が、前身頃部、後身頃部、袖部、ポケット部、上前立て部、および下前立て部の縦方向となるように形成されている。
好ましい実施形態においては、上記編地の編組織が、鹿の子編またはスムース編である。
好ましい実施形態においては、上記セルロース系繊維が、架橋剤によって架橋されている。
好ましい実施形態においては、上記セルロース系繊維が、綿を100質量%含む。
好ましい実施形態においては、上記ニットドレスシャツのサイドシーム部およびアームホール部が、芯地を含まない。
好ましい実施形態においては、上記ニットドレスシャツの下前立て部が、芯地を含まない。
好ましい実施形態においては、上記ポケット部を形成する編地の裏面側の非縫合部に、目付量が20〜100g/mである接着芯が固着されている。
本発明の別の局面によれば、ニットドレスシャツの製造方法が提供され得る。当該製造方法は、セルロース繊維を50質量%以上含み、英式綿番手が20〜100番手であるセルロース系繊維で編成され、目付量が110〜230g/mであり、コース密度が35〜65/2.54cmであり、ウェール密度が25〜65/2.54cmである編地に該セルロース系繊維を架橋するための処理を施す工程、および当該処理後の編地を、そのコース方向が、前身頃部、後身頃部、袖部、ポケット部、上前立て部、および下前立て部の縦方向となるように縫い合わせる工程を含む。
【発明の効果】
【0010】
本発明においては、特定の編地を選択し、かつ、当該編地をそのコース方向がシャツの前身頃部、後身頃部、袖部、ポケット部、上前立て部、および下前立て部の縦方向となるように使用する。これにより、柔軟で通気性が良く、かつ、優れたW&W性を有するニットドレスシャツが提供され得る。さらには、シャツがズボンからはみだし難くなる、織地で製造されたシャツと同様のシルエットを得ることができる等の効果も奏され得る。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の好ましい実施形態によるニットドレスシャツの概略正面図である。
【図2】本発明の好ましい実施形態によるニットドレスシャツの概略背面図である。
【図3】サイドシーム部およびアームホール部を説明する図である。
【図4】サイドシーム部の縫合状態の一例を説明する概略断面図である。
【図5】アームホール部の縫合状態の一例を説明する概略断面図である。
【図6】アームホール部の縫合状態の別の一例を説明する概略断面図である。
【図7】下前立て部の縫合状態の一例を説明する概略断面図である。
【図8】下前立て部の縫合状態の別の一例を説明する概略断面図である。
【図9】ポケット部の縫合状態の一例を説明する概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好ましい実施形態によるニットドレスシャツの概略正面図および概略背面図をそれぞれ、図1および図2に示す。本発明のニットドレスシャツ100は、セルロース繊維を50質量%以上含み、英式綿番手が20〜100番手であるセルロース系繊維を編成した編地からなる。当該編地の目付量は、110〜230g/mであり、編密度は、コース密度が35〜65/2.54cmであり、ウェール密度が25〜65/2.54cmである。本発明のニットドレスシャツ100は、当該編地のコース方向が、前身頃部10、後身頃部20、袖部30、ポケット部40、上前立て部50、および下前立て部51の縦方向となるように形成されている(図1および図2において、シャツのストライプの延びる方向は、編地のコース方向に対応している)。肩ヨーク部60、襟部70、およびカフス部80については、編地のコース方向をこれらの縦方向としてもよく、横方向としてもよい(図1および2では、横方向とされている)。ここで、「前身頃部10、後身頃部20、ポケット部40、上前立て部50、および下前立て部51の縦方向」とは、シャツの上下方向を意味し、本発明においては、当該上下方向と−20°〜20°、好ましくは−5°〜5°の角度をなす方向を含むものとする。また、「袖部30の縦方向」とは、袖幅線と直交する方向を意味し、本発明においては、当該直交する方向と−20°〜20°、好ましくは−5°〜5°の角度をなす方向を含むものとする。なお、各部の「横方向」とは、各部の縦方向と直交する方向を意味し、当該直交する方向と−20°〜20°、好ましくは−5°〜5°の角度をなす方向を含むものとする。なお、本明細書において、「ドレスシャツ」は、ワイシャツおよびカッターシャツを含む意味であり、長袖であっても半袖であってもよい。また、「上前立て部」とは、シャツを着用しボタンをつけた状態で表側になる部分をいい、「下前立て部」とは、裏側(肌側)になる部分をいう。
【0013】
上記のように、特定の編地を選択し、当該編地のコース方向が上記所定の部位の縦方向となるように使用することにより、優れたW&W性が得られ得る。このような効果が奏される理由は定かではないが、例えば、以下のように推測される。すなわち、吊り干しされたニットドレスシャツにおいては、洗濯による弛緩に起因して編地のコース方向に収縮する力が生じるとともに、残存する水分の重みでシャツの上下方向に伸長する力も生じる。また、編地は、コース方向への収縮に応じてウェール方向に広がる傾向にある。そのため、当該シャツは、あたかも縦・横に張られたような状態になり、洗濯しわを伸ばす効果が生じると推測される。さらには、編地をこのような方向に使用することにより、シャツのズボンへの収まりが良くなるので、ズボンからのはみだしを抑制することができる。また、シャツの横伸びが少なくなるので、フィット性が低減する。これにより、織地で製造されたシャツと同様のシルエットを得ることができ、フォーマル用途でも着用することが可能となる。
【0014】
上記編地の目付量は、110〜230g/mである。目付量が110g/m未満であると、着用時の透け感が大きくなる、洗濯による寸法変化が大きくなる、破裂強力や引裂強力が低くなり着用時に編地が破れる等の問題が生じる場合がある。一方、目付量が230g/mを超えると、編地が硬くなり過ぎたり、重たくなるので、着用時に体の動きに追随し難く、さらには、重量感や蒸れ感が強くなって、不快感が大きくなる場合がある。目付量の下限は、好ましくは120g/m以上、より好ましくは130g/m以上、さらに好ましくは140g/m以上、さらにより好ましくは150g/m以上、特に好ましくは156g/m以上であり、上限は、好ましくは225g/m以下である。目付量がこのような範囲内であれば、ニットドレスシャツとしての吸水性、柔らかさ、寸法安定性、伸長性、編地の強度、厚さ、および重さ、着心地(例えば、蒸れ感、通気性)、透け難さ、シルエット感等に優れた編地が得られ、かつ、本発明のW&W性向上効果が好適に発揮され得る。
【0015】
上記編地の編密度は、コース密度が35〜65/2.54cmであり、ウェール密度が25〜65/2.54cmである。編密度が当該範囲よりも低いと、着用時の透け感が大きくなる、洗濯による寸法変化が大きくなる、破裂強力や引裂強力が低くなり着用時に編地が破れる等の問題が生じる場合がある。一方、編密度が当該範囲よりも高いと、編地が硬くなり過ぎたり、重たくなるので、着用時に体の動きに追随し難く、さらには、重量感や蒸れ感が強くなって、不快感が大きくなる場合がある。ニットドレスシャツとしての吸水性、柔らかさ、伸長性、編地の強度、厚さ、および重さ、W&W性、着心地(例えば、蒸れ感、通気性)等の観点から、好ましい編密度は、コース密度が40〜60/2.54cmであり、ウェール密度が25〜60/2.54cmである。
【0016】
上記編地の編成に用いるセルロース系繊維は、セルロース繊維を50質量%以上含む。このようなセルロース系繊維を用いることにより、吸水性および風合いに優れたニットドレスシャツが得られ得る。当該セルロース系繊維は、セルロース繊維を好ましくは70質量%以上、より好ましくは85質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上、特に好ましくは100質量%含む。このような含有量であれば、吸水性および風合いに極めて優れ、さらに、セルロース系繊維を架橋させるための処理(詳細は後述する)を併用することによって、優れた防しわ効果が得られ得る。当該セルロース繊維の含有量は、JIS L 1030−2に準拠して求められる値である。
【0017】
上記セルロース繊維としては、目的等に応じて任意の適切なセルロース繊維が選択され得る。当該セルロース繊維の具体例としては、綿(例えば、短繊維綿、中繊維綿、長繊維綿、超長綿、超・超長綿)、麻、竹、こうぞ、みつまた、バナナ、被嚢類等の植物性および動物性の天然セルロース繊維;レーヨン繊維(例えば、ビスコースレーヨン、銅アンモニアレーヨン)等の再生セルロース繊維;アセテート繊維(例えば、ビスアセテート、トリアセテート)等の半合成セルロース繊維;等が挙げられる。なかでも、吸水性、風合い、および物性に優れた編地が得られ得ることから、綿、麻、およびレーヨンが好ましく用いられ得る。当該セルロース繊維は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0018】
上記セルロース系繊維において、上記セルロース繊維と組み合わせて用いられ得る他の繊維としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維、ポリエチレン繊維、ポリオレフィン繊維、ポリイミド繊維、ポリ乳酸繊維等が挙げられる。ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリウレタン繊維等を上記セルロース繊維と組み合わせて用いることにより、編地の破裂強力の向上や伸長性および伸長回復性の向上効果が得られ得る。当該他の繊維は、単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
1つの好ましい実施形態においては、上記セルロース系繊維は、綿を100質量%含む。綿100%の繊維を用いることにより、良好な吸水性および風合いを保ちつつ、後述の架橋剤を用いた架橋処理によって、一層優れた防しわ効果が得られ得るからである。
【0020】
上記セルロース系繊維は、目的に応じて任意の適切な形態であり得る。具体的には、原糸(未加工糸)、仮撚糸、染色糸等の形態が挙げられる。また、単糸、合撚糸、カバリング糸等の形態が挙げられる。また、当該セルロース系繊維が2種以上の繊維を含む場合、当該2種以上の繊維は、例えば、混紡糸、混撚糸等の形態であり得る。これらの形態は、単独でまたは2種以上組み合わせて採用され得る。
【0021】
上記セルロース系繊維の繊度は、英式綿番手で20〜100番手である。繊度が20番手未満であると、ニットドレスシャツとしての風合いが硬くなる場合がある。一方、100番手を超えると、編地の破裂強力および引裂強力が低くなる、製造コストが高くなる等の問題がある。ニットドレスシャツとしての吸水性、柔らかさ、伸長性、編地の強度、厚さ、および重さ、W&W性、着心地(例えば、蒸れ感、通気性)等の観点から、好ましい繊度は、25〜80番手である。例えば、繊度が40番手である糸としては、40番手の単糸、80番手の単糸からなる双糸等を用いることができる。
【0022】
上記編地は、シングルニットであってもよく、ダブルニットであってもよい。上記編地は、代表的には、緯編であり、平編、ゴム編、パール編の三原組織のなかでは、平編およびゴム編が好ましい。また、肌触りがよく、透けにくく、かつ、破裂強力、引裂強力等の物性に優れた編地が得られ得ること、および、本発明のW&W性向上効果が好適に発揮され得ることから、タック編、インターロック編等の応用組織が好ましく、平編にタック編を取り入れた表鹿の子、裏鹿の子、総鹿の子等の鹿の子編およびゴム編にインターロック編を取り入れたスムース編がより好ましく用いられ得る。
【0023】
上記のように、本発明のニットドレスシャツに用いる編地は、細い糸で、かつ、細かい編目で編成されており、これにより、軽量で透け難く、かつ、カジュアル向けや肌着用とは異なるドレスシャツとしてのフォーマルなシルエット、さらには、さらりとした肌触りの良さが実現され得る。このような編地においては、糸相互の結節点が増えるので、着用時や洗濯時に生じたしわの回復性が低下し、W&W性が低下する傾向にある。これに対し、本発明のドレスシャツは、当該編地のコース方向が所定の部位の縦方向となるように形成されているので、優れたしわの回復性およびW&W性を有し得る。さらに、タック編、インターロック編等の適切な編組織を選択することにより、さらに透け難く、肌触りがよく、後述の架橋剤を用いた架橋処理を施しても、シャツとしての物性と優れたW&W性との双方を備えるニットドレスシャツが得られ得る。
【0024】
上記編地は、上記セルロース系繊維を任意の適切な編機を用いて編成することによって得られ得る。編機のゲージ(1インチ間にある編針の本数)は、目的とする編地の目付量、編密度、使用する繊維の繊度等に応じて適切に設定され得る。当該ゲージは、好ましくは20〜40/2.54cm、より好ましくは22〜40/2.54cmである。また、編機の釜のサイズは、26〜38インチが好ましい。
【0025】
上記編地には、優れた防しわ性およびW&W性を付与する観点から、架橋剤を用いた架橋処理を施してセルロース系繊維を架橋させることが好ましい。必要に応じて、当該架橋処理の前に、毛焼、精練、漂白、シルケット加工等の公知の加工処理を施してもよい。また、当該編地には、染色またはプリント加工を施してもよい。
【0026】
上記架橋剤とは、セルロースの水酸基と反応し、セルロース系繊維間に架橋結合を形成させる化合物を意味し、本発明においては、セルロースの水酸基と反応し、セルロース系繊維間に架橋を生成するものであれば任意の化合物を使用することがきる。
【0027】
上記化合物としては、窒素原子、カルボキシル基、エポキシ基、オルガノオキシ基および水酸基のいずれかを含む化合物が挙げられる。具体的には、尿素・ホルムアルデヒド化合物(例えば、尿素・ホルムアルデヒド樹脂、尿素誘導体)、メラミン・ホルムアルデヒド化合物(例えば、メラミン・ホルムアルデヒド樹脂、メラミン誘導体)、環状尿素化合物(例えば、環状尿素型樹脂、エチレン尿素誘導体、ブチレン尿素誘導体)、アルキル・カーバメート化合物(例えば、アルキル・カーバメート樹脂)、アセタール化合物(例えば、アセタール樹脂)、エポキシ化合物(例えば、エポキシ樹脂)、オルガノオキシ基または水酸基含有シリコーン化合物(例えば、シリコーン樹脂、シリコーンゾル)、カルボン酸化合物、ポリカルボン酸、スルフォン化合物、第4級アンモニウム塩、1,3−ジクロロ−2−プロパノール誘導体、N−メチロールアクリルアミド等の化合物が挙げられる。これらは、1種単独でまたは2種以上を混合して用いられ得る。これらのなかでも、尿素誘導体、メラミン誘導体、環状尿素化合物、エポキシ化合物、オルガノオキシ基または水酸基含有シリコーン化合物、ポリカルボン酸が、効果、物性、反応性、経済性等の点で好ましい。さらにこれらの中でも、エチレン尿素型の環状尿素化合物がより好ましい。
【0028】
上記尿素誘導体としては、尿素、モノメチロール尿素、ジメチロール尿素等の公知のものを使用することができる。
【0029】
上記メラミン誘導体としては、メチロール基、アルコキシメチル基、アルコキシエチル基等を含むものが好ましく、その一例として、ジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−またはヘキサ−メチロールメラミン、ジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−またはヘキサ−メチル化メチロールメラミン、ジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−またはヘキサ−エチル化メチロールメラミン、ジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−またはヘキサ−メチル化エチロールメラミン等が挙げられる。これらの中で、ホルマリンの低減の為には、アルコキシメチル基、アルコキシエチル基を含むものやメラミンとジメトキシエタナールとの反応物等の使用が効果的である。
【0030】
上記環状尿素化合物としては、具体的にはジメチロールエチレン尿素、ジメチロールトリアゾン、ジメチロールウロン、ジメチロールグリオキザールモノウレイン、ジメチロールプロピレン尿素、これらのメチロール基の一部または全部をメトキシ化、エトキシ化したもの等があげられる。これらの中では、エチレン尿素タイプが反応性や価格の点で好ましく、ホルマリン低減の為には、メチロール基の一部または全部をメトキシ化、エトキシ化したもの、あるいは、低ホル型と呼ばれるジメチロールジヒドロキシエチレン尿素等の使用が有効である。
【0031】
上記オルガノオキシ基または水酸基含有シリコーン化合物としては、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラブトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリプロポキシシラン、エチルトリブトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリプロポキシシラン、プロピルトリブトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルトリプロポキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジメチルジプロポキシシラン、ジメチルジブトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジエチルジプロポキシシラン、ジエチルジブトキシシラン、ジプロピルジメトキシシラン、ジプロピルジエトキシシラン、ジプロピルジプロポキシシラン、ジプロピルジブトキシシラン、ジフェニルジヒドロキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリメチルブトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、トリエチルエトキシシラン、トリエチルプロポキシシラン、トリエチルブトキシシラン、トリプロピルメトキシシラン、トリプロピルエトキシシラン、トリプロピルプロポキシシラン、トリプロピルブトキシシラン、トリフェニルヒドロキシシラン等およびこれらの(部分)加水分解縮合物が挙げられ、上記オルガノオキシシラン化合物を1種単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。これらのなかでも特に架橋構造を形成する上でメチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のトリオルガノキシシランおよびテトラオルガノキシシランが好ましく用いられるが、一官能性や二官能性のシラン化合物もセルロース系繊維と反応させることができるため、本発明においては一乃至四官能性のシラン化合物のいずれも使用することができる。
【0032】
上記ポリカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシル酸、プロピルマロン酸、ブチルマロン酸、ヘプチルマロン酸、ジプロピルマロン酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸、グルタミン酸、イミノジ酢酸、チオジプロピオン酸、チオマレイン酸等の飽和脂肪族ジカルボン酸;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ヘキサジエン二酸(ムコン酸)、ドデカジエン二酸等の不飽和脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ホモフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、メチルフタル酸、ヒドロキシイソフタル酸、ヒドリンデンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ベンゾフェノンジカルボン酸、カルボキシメチル安息香酸、トリフルオロメチルフタル酸、アゾキシベンゼンジカルボン酸、ヒドラゾベンゼンジカルボン酸、スルホイソフタル酸、ジフェニルスルフォンジカルボン酸、ピリジンジカルボン酸、ケリダム酸、ピラジンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;ヘット酸、4−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、シクロプロパンジカルボン酸、シクロブタンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、ピペリジン−2,3−ジカルボン酸(ヘキサヒドロキノリン酸)、ピペリジン−2,6−ジカルボン酸(ヘキサヒドロジピコリン酸)、ピペリジン−3,4−ジカルボン酸(ヘキサヒドロシンコメロン酸)等の脂環式ジカルボン酸;トリカルバリル酸、アコニチン酸、メチルシクロヘキセントリカルボン酸、クエン酸、1,2,3−ブタントリカルボン酸等の脂肪族トリカルボン酸;ブタンテトラカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、テトラヒドロフランテトラカルボン酸、メチルテトラヒドロフタル酸とマレイン酸のエン付加物、エチレンジアミン四酢酸、トランス−1,2−ジアミノシクロヘキサン四酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、ジフタル酸、エポキシ化コハク酸二量化物等の脂肪族テトラカルボン酸;ジエチレントリアミン五酢酸等の脂肪族ペンタカルボン酸;トリエチレンテトラミン六酢酸等の脂肪族ヘキサカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ジフェニルスルホンテトラカルボン酸等の芳香族ポリカルボン酸;アクリル酸重合物、クロトン酸重合物、マレイン酸重合物、イタコン酸(または無水イタコン酸)重合物、アクリル酸・メタアクリル酸共重合物、アクリル酸・(無水)マレイン酸共重合物、メタアクリル酸・(無水)マレイン酸共重合物、アクリル酸・イタコン酸共重合物、アクリル酸・3−ブテン−1,2,3−トリカルボン酸共重合物、(無水)マレイン酸・α−メチルスチレン共重合物、(無水)マレイン酸・スチレン共重合物(スチレンと無水マレイン酸よりディールス・アルダー反応とエン反応によって生じたテトラカルボン酸を含む)、(無水)マレイン酸・アクリル酸アルキル共重合物、アクリル酸・3−ブテン−1,2,3−トリカルボン酸・アクリル酸アルキル共重合物、メタアクリル酸・(無水)マレイン酸・メタアクリル酸アルキル共重合物、(無水)マレイン酸・アクリル酸アルキル・メタアクリル酸アルキル共重合物、(無水)マレイン酸・アクリル酸アルキル・スチレン共重合物、アクリル酸・(無水)マレイン酸・アクリル酸アルキル・スチレン共重合物、メタアクリル酸・(無水)マレイン酸・アクリル酸2−エチルヘキシル・メタアクリル酸メチル・メタアクリル酸2−ヒドロキシエチル・スチレン共重合物等のカルボン酸ポリマーが挙げられる。なかでも、トリカルボン酸、テトラカルボン酸等の水溶性のポリカルボン酸が、均一に処理しやすく、作業もしやすいので、好ましく使用され得る。
【0033】
上記エポキシ化合物としては、分子中に2個以上の反応性官能基を有するものが好ましく、当該反応性官能基はグリシジルエーテル基またはクロルヒドリン基であることが好ましい。具体的には、例えば、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル等のエチレングリコール系や、プロピレングリコールジグリシジルエーテル,ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル等のプロピレングリコール系の分子中に2個の官能基を有するもの、グリセロールグリシジルエーテル等の3個以上の官能基を持つエポキシ系架橋剤等が挙げられる。また、エポキシ変性シリコーンとして、セルロースの水酸基と直接反応するエポキシ基を持つシリコーン誘導体も使用することができる。エポキシ基にはグリシジルタイプのものと脂環式タイプのものとがあるが、いずれのタイプでも構わない。これらは単独でも混合系で使用しても構わない。
【0034】
上記架橋剤のなかでも、メラミン誘導体、エチレン尿素型の環状尿素化合物、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のトリオルガノキシシランおよびテトラオルガノキシシラン、3個以上のカルボキシル基を有するポリカルボン酸、ならびにセルロースの水酸基と直接反応するエポキシ基を持つ化合物を好適に用いることができる。
【0035】
上記架橋処理においては、上記架橋剤を水等に溶解または分散させた架橋処理液として用いることが好ましい。当該架橋処理液中の架橋剤の濃度は、好ましくは0.5〜80質量%、より好ましくは0.5〜50質量%である。
【0036】
上記架橋処理液には、上記架橋剤とセルロースとの反応性を高め、架橋処理を迅速に行うために触媒を添加することができる。当該触媒としては、通常、セルロース系繊維の樹脂加工に用いられる触媒であれば特に限定されず、尿素誘導体;メラミン誘導体;環状尿素化合物;エポキシ化合物;シリコーン化合物;アルキルカーバメート樹脂;ホウ弗化アンモニウム、ホウ弗化ナトリウム、ホウ弗化カリウム、ホウ弗化亜鉛等のホウ弗化化合物;塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、硝酸マグネシウム等の中性金属塩触媒;燐酸、塩酸、硫酸、亜硫酸、次亜硫酸、ホウ酸等の無機酸;等が挙げられる。これらの触媒には、必要に応じて、助触媒としてクエン酸、酒石酸、林檎酸、マレイン酸等の有機酸等を併用することもできる。
【0037】
上記触媒の使用量は、上記架橋剤に対して0.01〜400質量%が好ましく、より好ましくは0.01〜300質量%である。触媒の使用量が0.01質量%未満であると、反応収率が低下して架橋量が少なくなり、効果が不足する場合がある。一方、触媒の使用量が400質量%を超えると、セルロース系繊維の酸分解等により繊維の強度が低下したり、変色の原因になる場合がある。
【0038】
上記架橋処理液には、必要に応じて、セルロースと架橋剤との反応を円滑に進めるための助剤を添加することができる。助剤は、架橋剤とセルロースの反応を促進させたり、架橋生成反応においても反応を均一に進めるといった反応溶媒としての作用、更にはセルロースを膨潤させる作用等を有するものである。当該助剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等の多価アルコール類、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテルアルコール類、ジメチルホルムアミド、モルホリン、2−ピロリドン、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の含窒素溶媒類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、酢酸エチレングリコールモノメチルエーテル、酢酸エチレングリコールモノエチルエーテル、γ−ブチロラクトン等のエステル類等が挙げられる。これらは1種単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0039】
上記助剤の使用量は、架橋剤に対して1〜400質量%が好ましく、より好ましくは5〜300質量%である。助剤の使用量が1質量%未満であると、反応を円滑にする効果が不十分となる場合がある。一方、助剤の使用量が400質量%を超えると、セルロースの脆化を招いたり、架橋処理後に編地から助剤を除去することが煩雑になる場合がある。
【0040】
上記架橋処理液には、上述の成分の他に、必要に応じて、風合い調整用の柔軟剤や、遊離ホルマリン濃度低減のためのホルマリンキャッチャー、浸透剤としての界面活性剤等を添加することもできる。メラミン誘導体や環状尿素型樹脂等のホルマリンを発生するおそれのあるものはホルマリンキャッチャー剤との併用が、架橋セルロースが硬くなることで引裂強力や引張強度が低下する場合は柔軟剤の併用が、架橋処理液の編地への浸透性が低い場合は浸透剤の併用が好ましい。
【0041】
上記架橋処理液のpHは、通常1〜6、好ましくは2〜5の範囲内に調整され得る。このような範囲内であれば、セルロースの加水分解による繊維強度の低下や変色を防止することができる。pHは、任意の適切なpH調整剤によって調整され得る。
【0042】
上記架橋処理は、代表的には、上記架橋剤等を含む架橋処理液を編地に付着させ、次いで、熱処理することによって行われ得る。編地に架橋処理液を付着させる方法としては、通常のパッド・ドライ法、浸漬法、含浸法、印捺法、インクジェット印刷法、レーザープリンター印刷法、塗布法、噴霧法等の公知の方法を採用することができる。例えば、編地全体を処理する場合は、パッド・ドライ法が効率的で好ましい。製品全域を処理する場合は、浸漬法や噴霧法によって手軽に実施できる。製品の一部を処理する場合は、噴霧法が効率的である。例えば、架橋処理しない部分を所望の形状をしたマスキング等で覆い、その上から生地全体に架橋処理液を噴霧することで、マスキングした部分以外に処理液を付着させることができる。また、所望の形状に型抜きしたシート等を生地の上にセットし、型抜きされた部分だけに処理液を噴霧して付着させることもできる。インクジェット印刷方式等で精巧な柄を形成する場合、液の滲み、濃度むら等のない鮮明な図柄を得る目的で、上記処理液に、公知の増粘剤、浸透剤、粘着剤、カチオン処理剤等を添加することができる。
【0043】
上記編地に対する架橋剤の付着量は、編地の質量に対して、0.3〜25質量%が好ましい。付着量が0.3質量%未満であると、十分な防しわ性およびW&W性が得られない場合がある。また、付着量が25質量%を超えると、架橋セルロース繊維の破断強度および引裂強力が大きく低下する場合がある。ただし、セルロース系繊維の種類等を選択することにより物性(引張強度、引裂強力、破裂強力等)を高めることができる場合は、架橋剤の付着量を多くすることもできる。例えば、中繊維綿からなる綿糸に代えて、長繊維綿、超長綿または超・超長綿を含む綿糸を一部あるいは全部使用すると破裂強力、引張強度および引裂強力の向上に効果がある。
【0044】
上記熱処理は、ピンテンター、オーブン、ベーキング機等の加熱手段を用いて、好ましくは70〜220℃、より好ましくは80〜180℃で、好ましくは0.5〜60分間、より好ましくは1〜40分間の熱処理条件で行われ得る。このような条件であれば、セルロース繊維や架橋セルロース繊維を脆化させることなく、十分な架橋量が得られ得る。
【0045】
本発明のニットドレスシャツは、代表的には、上記編地を所定の寸法に片取りし、これにより得られた各部材を任意の適切な方法で縫い合わせることによって得られる。具体的には、本発明のニットドレスシャツは、上記編地、すなわち、セルロース繊維を50質量%以上含み、英式綿番手が20〜100番手であるセルロース系繊維で編成され、目付量が110〜230g/mであり、コース密度が35〜65/2.54cmであり、ウェール密度が25〜65/2.54cmである編地を、そのコース方向が、前身頃部、後身頃部、袖部、ポケット部、上前立て部、および下前立て部の縦方向となるように縫い合わせる工程(縫合工程)を含む製造方法によって得られ得る。好ましくは、当該製造方法は、上記編地にセルロース系繊維を架橋するための処理を施す工程(架橋処理工程)、および、当該処理後の編地を、そのコース方向が、前身頃部、後身頃部、袖部、ポケット部、上前立て部、および下前立て部の縦方向となるように縫い合わせる工程(縫合工程)を含む。なお、架橋処理工程については、上述した通りである。
【0046】
上記縫合工程における縫合は、ミシンによる機械縫いまたは手縫いで行われ得、好ましくはミシンを用いて行われる。ミシン針としては、編組織中の地糸が針先で切断されること(以下、「地糸切れ」という)を防ぐために、針先の丸いボールポイント針を使用することが好ましい。さらに、ファインゲージ(例えば、26〜30ゲージ)または超ファインゲージ(例えば、32ゲージ以上)の編地については、地糸切れ防止の観点から、ファインゲージまたは超ファインゲージ用の針の使用が好ましい。
【0047】
上記縫合に用いる糸としては、目的に応じて任意の適切な糸が選択され得る。好ましい糸としては、綿糸、ポリエステル糸、ナイロン糸、ポリエステルフィラメントを芯にした綿のカバリング糸、ポリエステルフィラメントを芯、綿を鞘にしたコアスパン糸等の複合糸が挙げられる。綿100%の編地を使用する場合、風合い等の点から、綿糸、ポリエステル糸、および綿系複合糸(例えば、ポリエステルフィラメントを芯にした綿のカバリング糸、ポリエステルフィラメントを芯、綿を鞘にしたコアスパン糸)が好ましく使用され得る。
【0048】
上記縫合における縫い目としては、目的に応じて任意の適切な縫い目が選択され得る。好ましい縫い目としては、本縫い、環縫い(例えば、チェーンステッチ)、割縫い、オーバーロック縫い、インターロック縫い、巻き縫い、平縫い等が挙げられる。これらの縫い目は、単独でまたは2種以上組み合わせて用いられ得る。
【0049】
本縫いによる縫合における運針数(30mmあたりのステッチ数)は、好ましくは12〜30/30mmでありより好ましくは14〜24/30mmである。運針数が12/30mm未満であると、ドレスシャツとしての見栄えが不満足となる場合がある。一方、30/30mmを超えると、地糸切れが生じ易くなる場合がある。
【0050】
好ましい実施形態においては、前身頃部10と後身頃部20との縫合部であるサイドシーム部(図3の太点線で示される部分)、前身頃部10、後身頃部20および肩ヨーク部60と袖部30との縫合部であるアームホール部(図3の太実線で示される部分)、および下前立て部51の縫合部は、縦方向の伸縮性を有する。縦方向の伸縮性を有することにより、縫合部が洗濯乾燥等による身生地の伸縮に追随し得るので、W&W性を向上させ、かつ、シームパッカリングの発生を低減することができる。さらに、着用時の動きやすさも向上され得る。1つの好ましい実施形態において、当該各縫合部は、JIS L−1096法の伸長率(定荷重14.7N)の測定において、縫製前の編地のコース方向の伸長率に対して好ましくは30%以上、より好ましくは35%以上、さらに好ましくは40%以上の縦方向の伸長率を有し得る。また、別の好ましい実施形態において、当該各縫合部は、JIS L−1905法によるパッカリング評価で3.8級以上であり得る。なお、当該各縫合部の縦方向とは、縫い目線の延びる方向を意味する。
【0051】
図4は、サイドシーム部の好ましい縫合状態の一例を説明する概略断面図である。当該縫合部は、編地と糸とから形成されており、芯地を含まない。このような縫合部は、例えば、次のようにして形成され得る。すなわち、前身頃部10と後身頃部20とを中表で、かつ、縫い合わせる側の端部を揃えた状態で重ね合わせること、当該端部に沿って1本針3本糸オーバーロック縫いA1および1本針2本糸チェーンステッチB1を施して縫い合わせること、当該チェーンステッチB1に沿って後身頃部20を折り返すこと、および、当該折り返し部(編地が3重になっている部分)に本縫いC1を施して、当該端部を固定することによって形成され得る。このように縫い合わせることにより、肌への刺激を低減し、かつ、ドレスシャツとしての見栄えおよび風合いを向上させることができる。なお、オーバーロック縫いA1とチェーンステッチB1とは、インターロックミシンを用いることによって同時に施すことができる。
【0052】
上記折り返し部の幅は、例えば2〜20mmであり得る。また、本縫いC1は、上記縫い合わされた端部を固定する観点から、当該端部の近傍に施されることが好ましい。
【0053】
別の好ましい実施形態においては、サイドシーム部は、本縫い巻き伏せ縫製を施すことによって形成され得る。このような縫製によれば、二度縫いをすることなく、一度の縫製でサイドシーム部を形成し得る。このように形成されたサイドシーム部もまた、芯地を含まない形態であり得る。
【0054】
図5は、アームホール部の好ましい縫合状態の一例を説明する概略断面図である。当該縫合部は、編地と糸とから形成されており、芯地を含まない。このような縫合部は、例えば、次のようにして形成され得る。すなわち、予め縫い合わせておいた前身頃部10、後身頃部20、および肩ヨーク部60と袖部30とを中表で、かつ、縫い合わせる側の端部を揃えた状態で重ね合わせること、当該端部に沿って1本針3本糸オーバーロック縫いA2および1本針2本糸チェーンステッチB2を施して縫い合わせること、当該チェーンステッチB2に沿って前身頃部10(後身頃部20、肩ヨーク部60)を折り返すこと、および、当該折り返し部(編地が3重になっている部分)に本縫いC2を施して、当該端部を固定することによって形成され得る。このように縫い合わせることにより、肌への刺激を低減し、かつ、ドレスシャツとしての見栄えおよび風合いを向上させることができる。折り返し部の幅および本縫いC2を施す部位は、サイドシーム部について記載した通りである。
【0055】
別の好ましい実施形態においては、アームホール部は、図6に示すように、予め縫い合わせておいた前身頃部10、後身頃部20、および肩ヨーク部60と袖部30とを、本縫いC3とこれに続く伏せ縫い(C4は本縫い)で縫い合わせることによって形成され得る。このように形成されたサイドシーム部もまた、芯地を含まない形態であり得る。
【0056】
上記のように、本発明のニットドレスシャツにおいては、編地をそのコース方向が身頃等の縦方向となるように、かつ、縫製前の編地のコース方向への伸縮性を減殺しないように縫い合わせているので、上記各縫合部は、二度縫いを施した場合でも、縦方向への伸縮性を十分に維持し得る。具体的には、各縫合部は、縫製前の編地のコース方向への伸長率に対して好ましくは30%以上の縦方向への伸長率を有し得、また、縫製前の編地のウェール方向への伸長率に対して好ましくは80%以上、より好ましくは100%以上の縦方向への伸長率を有し得る。その結果、着心地に優れるとともに、吊り干し乾燥時に、各縫合部にも身生地と同様に適度なテンションが生じて、しわが取れやすくなるという効果が奏され得る。よって、上記のように縫い合わされた本発明のニットドレスシャツは、織地のシャツのように高いW&W性を付与するためにサイドシーム部およびアームホール部を芯地等で固定せずともよいので、当該縫合部のごろつき感が少ない、体の動きに追随しやすい、軽い、縫合が容易である等の利点を有し得る。さらに、上記のように縫い合わせることにより、縫合部が着用時に身生地に追随して適度に伸長し得、吊り干し乾燥時においても身生地に追随して収縮し得るので、シームパッカリングの発生を低減することができる。
【0057】
図7は、下前立て部の縫合部の好ましい縫合状態の一例を説明する概略断面図である。当該縫合部は、編地と糸とから形成されており、芯地を含まない。このような縫合部は、例えば、次のようにして形成され得る。すなわち、前身頃部10の下前立て部側の端部を裏面側に所定の幅ずつ2度折り返すこと、および、当該折り返し部(編地が3重になっている部分)に本縫いC5を施すことによって形成され得る。このようにして形成された下前立て部は、縦方向への十分な伸縮性を維持し得る。その結果、着心地に優れるとともに、芯地を用いることなく、高いW&W性を実現でき、また、シームパッカリングの発生を低減することができる。当該折り返し幅は、例えば、5〜40mmであり得る。
【0058】
図8は、下前立て部の縫合部の別の好ましい縫合状態の一例を説明する概略断面図である。このような縫合部は、例えば、次のようにして形成され得る。すなわち、前身頃部10の端部の裏面側に芯地90を重ねること、当該芯地90を包むように前身頃部10を裏面側に2度折り返すこと、当該折り返し部(芯地を含み、編地が3重になっている部分)に本縫いC6を施すこと、次いで、必要に応じて、芯地を編地に接着させることによって形成され得る。このようにして形成された下前立て部は、芯地を含むので、ボタンとボタン穴の位置のずれを防止することができる。当該折り返し幅は、芯地の幅に対応し、例えば、5〜40mmであり得る。
【0059】
上記芯地としては、フラシ芯、仮接着芯、および永久接着芯が挙げられ、これらの中から目的に応じて適切に選択して用いることができる。なかでも、フラシ芯または仮接着芯が好ましく用いられ得る。縦方向への十分な伸縮性を有する下前立て部を形成でき、その結果、着心地に優れるとともに、高いW&W性を実現でき、また、シームパッカリングの発生を低減することができるからである。
【0060】
一方、襟部、上前立て部、カフス部、およびポケット部は、保形性、審美性等の点から、芯地を併用して縫い合わせることが好ましい。芯地は、例えば、フラシ芯、仮接着芯および永久接着芯から目的に応じて適切に選択して使用することができる。具体的には、襟部に関しては、保形性をより向上させる観点からは、接着芯を選択することが好ましく、身生地の動きに追随させて着心地を向上させる観点からは、フラシ芯を選択することが好ましい。
【0061】
図9は、ポケット部の好ましい縫合状態の一例を説明する概略断面図である。当該ポケットにおいては、ポケット部の裏面側の非縫合部に接着芯が固着されている。当該ポケット部は、例えば、ポケット用の編地40の裏面側の全域に接着芯90を固着させた後、周縁部を裏面側に折り返して縫うことによりポケット部材を得ること、接着芯90が前身頃部10側になるように当該ポケット部材を前身頃部10の表面上に重ねること、および、当該ポケット部材の周縁部(ポケット開口部を除く)に本縫いC7を施すことによって形成され得る。このように、ポケット部の縫合部だけでなく、非縫合部にも接着芯を固着させることにより、洗濯後の保形性や物を入れた状態でのポケットの形状保持性をさらに向上させ得る。ポケット部材を形成する際の折り返し幅は、例えば、2〜20mmであり得る。
【0062】
上記ポケット部材に固着される接着芯としては、目的等に応じて任意の適切な接着芯が選択され得、永久接着芯が好ましく用いられ得る。当該接着芯の目付量は、好ましくは20〜100g/mである。目付量が20g/m未満であると、保形性が不十分となる場合がある。一方、目付量が100g/mを超えると、薄地のニットドレスシャツのポケットとしては硬くなり、厚みが増す等の問題が生じる場合がある。また、当該接着芯の基布は、好ましくは織地である。
【実施例】
【0063】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。実施例で用いられる測定方法および評価方法は以下の通りである。
【0064】
[ウォッシュアンドウエアー性の評価]
JIS L―1096 洗濯後のしわ A法に準じて、洗濯を実施した。脱水後の吊り干しは、ハンガーにシャツを1枚ずつ吊り下げることによって行った。シャツの大きさはLサイズとした。また、試験点数は1点とした。W&W性の判定者は1名として、シャツの後身頃をレプリカ(AATCC TEST METHOD 124にて規定)と比較して判定した。判定標準間は0.1級刻みで評価した。例えば、等級3.0から等級3.5の場合、3.1級と3.2級、3.3級、3.4級、3.5級とした。なお、一般的に、W&W性が3.5級以上であれば、アイロン掛けをせずに着用可能なレベルである。
【0065】
[破裂強力の測定]
JIS L−1018 破裂強さ A法に準じて実施した。3点の試料について測定を行い、その平均値を用いた。なお、ドレスシャツ用の生地には、一般的に350KPa以上、好ましくは400KPa以上の破裂強力を有することが求められる。シャツの身生地の破裂強力が350KPa未満であると、着用中に肘の部分に生じた圧力に耐え切れず生地が破裂したり、着用中に生地が破れる場合がある。
【0066】
[寸法変化率の測定]
JIS L−1909法に準じて実施した。具体的には、洗濯処理は、JIS L−0217の表1「洗い方(水洗い)」に規定する103法にて実施した。乾燥処理は、脱水後にシャツをハンガーに掛けた状態で吊干し乾燥を実施した。また、試験点数は1点とした。
【0067】
[伸長率の測定]
JIS L−1096法に準じて実施した。具体的には、試料の寸法を幅5cm、長さ30cmとし、試料の長さ方向の伸びを定量するために、長さ方向に15cmの直線を引いた後、定荷重14.7Nで60秒伸長させ、次いで直線の長さを計測し、計算より伸長率(直線の長さの増分(cm)/15cm×100)を求めた。伸長率測定時の温湿度は、温度22℃、湿度63RH%とした。なお、サイドシーム部およびアームホール部に関しては、2枚のシャツ用の生地を仕様通りに縫い合わせ、次いで、当該縫合部が幅方向の中心となり、縫い目線の延びる方向が長さ方向となるように幅5cm、長さ30cmの寸法で切り出したものを測定試料とした。下前立て部に関しては、シャツ用の生地を仕様通りに縫い合わせ、次いで、縫い目線が延びる方向が長さ方向になるように、当該生地の縫い合わせた側の端部から幅5cm、長さ30cmの寸法で切り出したものを測定試料とした。
【0068】
[パッカリングの評価]
JIS L−1905法に準じて実施した。具体的には、洗濯処理は、JIS L−0217の表1「洗い方(水洗い)」に規定する103法にて実施した。乾燥処理は、脱水後にシャツをハンガーに掛けた状態で吊干し乾燥を実施した。パッカリングの判定は、判定用標準レプリカを標準とし、判定者1名で判定用標準間を4段階に分けて評価することによって行った。例えば、等級3.0から等級4.0の場合、3.0級と3.3級、3.5級、3.8級、4.0級とした。また、試験点数は1点とした。
【0069】
[着心地の評価]
被験者10名が各自の体型にあったシャツを1日着用し、動きやすさ(5点:非常に動きやすい、4点:動きやすい、3点:やや動きにくい、2点:動きにくい、1点:ドレスシャツとして着用が困難なほど動きにくい)、シャツのズボンからのはみだし難さ(5点:全くはみださなかった、4点:はみだし難かった、3点:少しはみだしが気になった、2点:はみだしやすい、1点:ドレスシャツとして着用が困難なほどはみだす)、および、シルエット感(5点:体型が全く気にならない、4点:体型が気にならない、3点:やや体型がシルエットに映る感じがする、2点:体型がシルエットに映り気になる、1点:ドレスシャツとして着用が困難なほど体型がシルエットに映った)を評価し、その平均値を求めた。
【0070】
[実施例1]
ハイゲージのシングル編機(30インチ(30×2.54cm)、32ゲージ)を用いて、英国式綿番手40番手(40番単糸)の綿糸を表鹿の子編で編成することによって編地を得た。当該編地をシルケット(生地の加工速度20m/分、水酸化ナトリウム濃度16質量%の水溶液に生地を浸漬しマングルで絞った後テンターで幅出しし、湯洗にて薬剤を除去した)、精練、漂白(2段で実施した。1段目は、亜塩素酸ソーダ0.2質量%で90℃で60分間処理した後、湯洗にて薬剤を除去した。2段目は、過酸化水素0.1質量%で90℃で60分間処理した。)、湯洗(薬剤の除去)、乾燥の順で処理した。
【0071】
水71質量部、架橋剤として下記式(1)のジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(固形分濃度60質量%)15質量部、触媒として固形分濃度20質量%の塩化マグネシウムの水溶液3質量部、ホルマリンキャッチャー剤として大日本インキ化学工業(株)製、製品名「ファインテックスFC−KP」3質量部、柔軟剤として大日本インキ化学工業(株)製、製品名「ファインテックスPE−140−E」3質量部、および日華化学(株)製、製品名「AMC−800E」5質量部を混合して架橋処理液を得た。上記処理後の編地に対して、当該架橋処理液をパッダーで付与し、マングルで絞った。パッドオン率(編地中に含まれる架橋処理液重量/架橋処理液付与前の編地の重量×100)は65%であった。次いで、当該編地を145℃に設定したピンテンターに2分間滞留させ、セルロースと架橋剤とを十分に反応させた。これにより、本発明のニットドレスシャツ用の仕上がり生地を得た。
【化1】

【0072】
上記仕上がり生地は、幅が174cm、目付け量が159g/m、コース密度が42/2.54cm、ウェール密度が39/2.54cmであった。また、破裂強力は431KPaであった。当該生地のコース方向の伸長率は65%であり、ウェール方向の伸長率は29%であった。
【0073】
上記仕上がり生地を所定の寸法に片取りし、糸で縫い合わせることによってニットドレスシャツを作製した。このとき、編地のコース方向が、シャツの前身頃部、後身頃部、袖部、ポケット部、上前立て部、および、下前立て部の縦方向となるように縫い合わせた。肩ヨーク部、襟部、およびカフス部については、生地のコース方向をこれらの横方向と一致させた。
【0074】
サイドシーム部については、図4に示すような縫合部を形成した。具体的には、前身頃部10と後身頃部20とを表面同士が対面するように、かつ、縫い合わせる側の端部を揃えて重ね合わせ、インターロックミシンを用いて当該端部に沿って1本針3本糸オーバーロック縫いA1および1本針2本糸チェーンステッチB1を施し、次いで、チェーンステッチB1に沿って後身頃部20を折り返し、当該折り返し部(編地が3重になっている部分)に本縫いC1(運針数15/30mm)を施した。このようにして形成したサイドシーム部の縦方向の伸長率は31%であった。また、本縫いC1を施す前の縫合部の伸長率は46%であった。
【0075】
アームホール部については、図5に示すような縫合部を形成した。具体的には、予め縫い合わせておいた前身頃部10、後身頃部20、および肩ヨーク部60と袖部30とを表面同士が対面するように、かつ、縫い合わせる側の端部を揃えて重ね合わせ、インターロックミシンを用いて当該端部に沿って1本針3本糸オーバーロック縫いA2および1本針2本糸チェーンステッチB2を施し、次いで、チェーンステッチB2に沿って前身頃部10(後身頃部20、肩ヨーク部60)を折り返し、当該折り返し部(編地が3重になっている部分)に本縫いC2(運針数15/30mm)を施した。なお、肩ヨーク部は、外面ヨーク部と肌側の内面ヨーク部の2枚の生地を重ね合わせた状態で使用した。このようにして形成したアームホール部の縦方向の伸長率は29%であった。また、本縫いC2を施す前の縫合部の伸長率は46%であった。
【0076】
下前立て部については、図7に示すような縫合部を形成した。具体的には、前身頃部10の下前立て部側の端部を折り返し幅25mmで裏面側に2回折り返すことにより、編地を3枚重ねた状態とし、当該折り返し部に本縫いC5(運針数15/30mm)を施した。このようにして形成した下前立て部の縦方向の伸長率は43%であった。
【0077】
ポケット部については、図9に示すような縫合部を形成した。具体的には、切り出したポケット用編地40の裏面側の全域に接着芯90(総目付け60g/m、平織組織、ポリエステル製)を固着させた後、ポケット状に周縁部を裏面側に折り返し、当該折り返し部に1本針で本縫い(運針15/3cm)を施してポケット部材とした。当該ポケット部材を前身頃部10の表面上に重ね合わせ、当該ポケット部材の周縁部(ポケット開口部を除く)に本縫いC7(運針数15/30mm)を施すことにより、ポケット部材と前身頃部とを縫い合わせた。
【0078】
襟部および上前立て部は、フラシ芯を用いて縫い合わせた。
【0079】
上記縫合において、インターロック縫い用のミシン針としては、地糸切れ防止の観点から、製品名「DC×1SF」(オルガン針(株)社製、超ファインゲージニット用)を使用した。本縫い用のミシン針としては、製品名「DA×1KN」(オルガン針(株)社製、ニット用)を用いた。ミシン糸としては、シャツステッチとしての見栄えを良くすること、縫合部の耐久性向上等を目的として、綿を鞘にしたコアスパン糸(グンゼ(株)製、製品名「LR50」)を用いた。
【0080】
上記のようにして縫製したニットドレスシャツの性能を、W&W性、パッカリング、および寸法変化について評価した。結果を表1に示す。
【0081】
[実施例2]
シャツのサイドシーム部を本縫い巻き伏せ(3つ巻き)で形成したこと、アームホール部を図6で示すような本縫いC3とこれに続く伏せ縫い(C4は本縫い)によって形成したこと、および、下前立て部を図8で示すように、仮接着芯(総目付け124g/m、平織組織、ポリエステル製)を挟んだ状態で25mmの折り幅で三つ巻き縫いし、その後、当該芯地を仮接着させて形成したこと以外は実施例1と同様にしてニットドレスシャツを得た。このようにして形成したサイドシーム部、アームホール部、および下前立て部の縦方向の伸長率はそれぞれ、36%、34%、および31%であった。
【0082】
得られたニットドレスシャツの性能を、W&W性、パッカリング、および寸法変化について評価した。結果を表1に示す。
【0083】
【表1】

【0084】
[実施例3]
架橋処理液中にジメチロールジヒドロキシエチレン尿素を加えなかったこと、および、仕上がり生地のコース密度を44/2.54cm、ウェール密度を29/2.54cmとしたこと以外は実施例1と同様にして、ニットドレスシャツを得た。なお、仕上がり生地の目付量は189g/mであり、破裂強力は745KPaであった。
【0085】
[実施例4]
ハイゲージのダブル編機(30インチ(30×2.54cm)、32ゲージ)を用いて、英国式綿番手60番手(60番単糸)の綿糸を両面編(スムース編)で編成することによって編地を得た。
【0086】
上記編地に対して、水69質量部、架橋剤として上記式(1)のジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(固形分濃度60質量%)17質量部、触媒として固形分濃度20質量%の塩化マグネシウムの水溶液3質量部、ホルマリンキャッチャー剤として大日本インキ化学工業(株)製、製品名「ファインテックスFC−KP」3質量部、柔軟剤として大日本インキ化学工業(株)製、製品名「ファインテックスPE−140−E」3質量部、および日華化学(株)製、製品名「AMC−800E」5質量部を混合して得た架橋処理液を用いたこと以外は実施例1と同様の処理を施して、ニットドレスシャツ用の仕上がり生地を得た。当該仕上がり生地は、目付け量が176g/m、コース密度が43/2.54cm、ウェール密度が58/2.54cmであった。また、破裂強力は676KPaであった。
【0087】
上記仕上がり生地を実施例1と同様に縫製して、ニットドレスシャツを得た。
【0088】
[比較例1]
市販ドレスシャツ(CHOYA(株)製、商品名SHIRT FACTORY)を用いた。当該ドレスシャツは、経糸として英国式綿番手40番手(40番単糸)の綿糸を、緯糸として英国式綿番手30番手(30番単糸)の綿糸を使用した平織組織の織地を形態安定加工した後に縫製されており、そのW&W性はタンブル乾燥で3.5級、吊り干し乾燥で3.0級である。
【0089】
[比較例2]
水61質量部、架橋剤として上記式(1)のジメチロールジヒドロキシエチレン尿素(固形分濃度60質量%)22質量部、触媒として固形分濃度20質量%の塩化マグネシウムの水溶液4.5質量部、ホルマリンキャッチャー剤として大日本インキ化学工業(株)製、製品名「ファインテックスFC−KP」4.5質量部、柔軟剤として大日本インキ化学工業(株)製、製品名「ファインテックスPE−140−E」3質量部、および日華化学(株)製、製品名「AMC−800E」5質量部を混合して得た架橋処理液を用いたこと以外は実施例1と同様にしてニットドレスシャツ用の仕上がり生地を得た。当該仕上がり生地の破裂強力は、320KPaであった。
【0090】
上記仕上がり生地を用いて、編地のウェール方向が、前身頃部、後身頃部、袖部、ポケット部、上前立て部、および下前立て部の縦方向となるように縫い合わせたこと以外は、実施例1と同様に縫製して、ニットドレスシャツを得た。
【0091】
[比較例3]
編地のウェール方向が、前身頃部、後身頃部、袖部、ポケット部、上前立て部、および下前立て部の縦方向となるように縫い合わせたこと以外は実施例3と同様にしてニットドレスシャツを得た。
【0092】
[W&W性の評価]
実施例1〜4および比較例2〜3のニットドレスシャツのW&W性を表2に示す。
【表2】

【0093】
上記表2において、実施例3と比較例3との比較から明らかなように、編地のコース方向が身頃部等の縦方向となるように縫製した本発明ニットドレスシャツは、編地のウェール方向が身頃部等の縦方向となるように縫製したシャツよりも優れたW&W性を有する。具体的には、綿100%の編地を用いた場合であっても、編地のコース方向が身頃部等の縦方向となるように縫製することにより、セルロース系繊維の架橋処理をすることなく、3.5級のW&W性を実現することができた。さらには、架橋処理を組み合わせることにより、4.0級という極めて優れたW&W性を実現することができた。一方、比較例2のニットドレスシャツでも、架橋処理によって4.0級のW&W性が得られたが、多量の架橋剤との反応が必要であったために、生地の破裂強力がドレスシャツとして不十分なレベルにまで低下していた。以上より、本発明によれば、架橋処理をしなくてもW&W性に優れたニットドレスシャツが得られること、および、架橋処理をする場合にも架橋剤との反応量を適量とすることができるので、シャツとしての物性を維持しつつ、W&W性に極めて優れたニットドレスシャツが得られることが分かる。このような本発明のニットドレスシャツによれば、しわ伸ばしのためのアイロン掛けが不要となるので、節電にも寄与し得る。
【0094】
[着心地の評価]
実施例1および比較例1〜2のドレスシャツの着心地の評価を表3に示す。
【表3】

【0095】
表3から分かる通り、実施例1のニットドレスシャツは、比較例1の織地のドレスシャツと同等のシルエット感でありながら、動きやすさおよびズボンからのはみ出し難さに優れるので、ドレスシャツとして快適に着用することができる。また、着用時の横方向のフィット性が適度であり、シャツ開口部および編地の編目からの通気性が高いので、盛夏でも織地のシャツに比べて涼しく過ごすことができる。よって、本発明のニットドレスシャツによれば、着用時にエアコンの設定温度を低めに設定でき、節電にも寄与し得る。一方、編地のウェール方向が身頃部等の縦方向となるように形成した比較例2のニットドレスシャツでは、横伸びが大きく、シルエット感の点で大きく劣ることが分かる。
【0096】
また、実施例1のニットドレスシャツのポケットに携帯電話を入れたところ、ポケットの形状保形性は良好であり、ドレスシャツとしての審美性は損なわれなかった。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明のニットドレスシャツは、特に、形態安定性を有する衣料に関連する分野で好適に利用され得る。
【符号の説明】
【0098】
100 ニットドレスシャツ
10 前身頃部
20 後身頃部
30 袖部
40 ポケット部
50 上前立て部
51 下前立て部
60 肩ヨーク部
70 襟部
80 カフス部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
セルロース繊維を50質量%以上含み、英式綿番手が20〜100番手であるセルロース系繊維を編成した編地からなるニットドレスシャツであって、
該編地の目付量が110〜230g/mであり、コース密度が35〜65/2.54cmであり、ウェール密度が25〜65/2.54cmであり、
該編地のコース方向が、前身頃部、後身頃部、袖部、ポケット部、上前立て部、および下前立て部の縦方向となるように形成されている、ニットドレスシャツ。
【請求項2】
前記編地の編組織が、鹿の子編またはスムース編である、請求項1に記載のニットドレスシャツ。
【請求項3】
前記セルロース系繊維が、架橋剤によって架橋されている、請求項1または2に記載のニットドレスシャツ。
【請求項4】
前記セルロース系繊維が、綿を100質量%含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のニットドレスシャツ。
【請求項5】
サイドシーム部およびアームホール部が、芯地を含まない、請求項1から4のいずれか一項に記載のニットドレスシャツ。
【請求項6】
下前立て部が、芯地を含まない、請求項1から5のいずれか一項に記載のニットドレスシャツ。
【請求項7】
前記ポケット部を形成する編地の裏面側の非縫合部に、目付量が20〜100g/mである接着芯が固着されている、請求項1から6のいずれか一項に記載のニットドレスシャツ。
【請求項8】
セルロース繊維を50質量%以上含み、英式綿番手が20〜100番手であるセルロース系繊維で編成され、目付量が110〜230g/mであり、コース密度が35〜65/2.54cmであり、ウェール密度が25〜65/2.54cmである編地に該セルロース系繊維を架橋するための処理を施す工程、および
当該処理後の編地を、そのコース方向が、前身頃部、後身頃部、袖部、ポケット部、上前立て部、および下前立て部の縦方向となるように縫い合わせる工程
を含む、ニットドレスシャツの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−96022(P2013−96022A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−238412(P2011−238412)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(309013336)日清紡テキスタイル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】